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特開2025-4140ヒト誘導性制御性T細胞およびその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004140
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】ヒト誘導性制御性T細胞およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20250106BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20250106BHJP
   A61K 35/17 20250101ALI20250106BHJP
   C07K 14/55 20060101ALN20250106BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20250106BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250106BHJP
   C07K 14/495 20060101ALN20250106BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20250106BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N1/00 G
A61K35/17
C12N5/0783
C07K14/55
C07K14/705
C07K16/28
C07K14/495
A61P37/02
A61P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024175273
(22)【出願日】2024-10-04
(62)【分割の表示】P 2023528269の分割
【原出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021190127
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517001077
【氏名又は名称】レグセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】三上 統久
(72)【発明者】
【氏名】坂口 志文
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い機能性を有し、安定した免疫抑制機能をもつ誘導性制御性T細胞を提供する。
【解決手段】ヒト末梢T細胞から制御性T細胞を誘導する際に、ヒト末梢T細胞から抗CD3抗体を用いた刺激によって安定な誘導性T細胞を誘導した後に、休眠培養を施し、再度抗CD3抗体刺激を行って培養し、さらに休眠培養を施すことによって誘導した、FoxP3陽性、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高い機能性を持つヒト誘導性制御性T細胞とその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系に内在するCD25陽性CD4陽性制御性T細胞の重要な特徴として、転写因子FoxP3を特異的に発現しており、FoxP3の欠損あるいは突然変異によって、制御性T細胞の発生および分化、また抑制機能が障害されることがある。制御性T細胞はFoxP3の他、CTLA4、IL-10など多様な遺伝子の発現をもって免疫系を抑制する。FoxP3の安定な発現を始めとする制御性T細胞の包括的遺伝子発現制御にはDNA脱メチル化などエピジェネティクな状態が貢献していると考えられており、それらは機能的な制御性T細胞の表現型と相関がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、ヒト末梢T細胞から制御性T細胞を誘導する際に、ヒト末梢T細胞から抗CD3抗体を用いた刺激によって安定な誘導性T細胞を誘導した後に、休眠培養を施し、再度抗CD3抗体刺激を行って培養し、さらに休眠培養を施すことによって、高い抑制性分子の発現と高い抑制機能を有する制御性T細胞を誘導できることを初めて見出した。
【0004】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目X1)
FoxP3陽性、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1A)
NT5E陽性である誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1B)
ITGAE(CD103)陽性である誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1C)
AREG陽性である誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1D)
CD172g陽性である誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1E)
CD26陽性である誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1F)
CTLA4陽性である誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1G1)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも2つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1G2)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも3つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1G3)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも4つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1G4)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも5つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X1G5)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性のすべての特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X2)
少なくともCTLA4陽性およびFoxP3陽性である、上記項目のいずれか一項に請求項1に記載の誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X3)
少なくともCD172g陽性および/またはCD26陽性である、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X4)
FOXP3遺伝子のCNS2部位が脱メチル化されている、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X5)
CD4陽性またはCD8陽性である、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X6)
ヒトの末梢血T細胞、またはヒト組織由来T細胞から得られるか、または誘導される、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X7)
(a)ヒト末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、
(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、
(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と
を含む方法によって得られる誘導性制御性ヒトT細胞。
(項目X8)
上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、FoxP3陽性、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも1つの特徴の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8A)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、NT5E陽性の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8B)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、ITGAE(CD103)陽性の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8C)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、AREG陽性の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8D)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CD172g陽性の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8E)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CD26陽性の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8F)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性の割合が約50%以上である、細胞集団。
(項目X8G1)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも2つの特徴の割合がそれぞれ約50%以上である、細胞集団。
(項目X8G2)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも3つの特徴の割合がそれぞれ約50%以上である、細胞集団。
(項目X8G3)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも4つの特徴の割合がそれぞれ約50%以上である、細胞集団。
(項目X8G4)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも5つの特徴の割合がそれぞれ約50%以上である、細胞集団。
(項目X8G5)
誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性のすべての特徴の割合がそれぞれ約50%以上である、細胞集団。
(項目X9)
少なくとも前記CTLA4陽性およびFoxP3陽性の割合が、それぞれ約50%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目X10)
少なくとも前記CD172g陽性および/またはCD26陽性の割合が、それぞれ約50%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目X11)
前記細胞集団における前記少なくとも1つ特徴の割合が約60%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目X12)
前記細胞集団における前記少なくとも1つ特徴の割合が約80%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目X12a)
FoxP3強陽性の割合が、約50%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目X13)
前記細胞集団の約90%以上がT細胞である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目X14)
上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞または上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団を含む医薬組成物。
(項目X15)
上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性ヒトT細胞または上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団を含む再生医療用材料または製品。
(項目X16)
誘導性制御性ヒトT細胞を製造する方法であって、
(a)ヒト末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、
(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、
(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と
を含む、方法。
(項目X17)
前記第一の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、CDK8/19阻害剤、及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの因子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X18)
前記第一の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、CDK8/19阻害剤、及びアスコルビン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X19)
前記第二の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及びCDK8/19阻害剤からなる群から選択される少なくとも1つの因子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X20)
前記第二の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及びCDK8/19阻害剤を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X21)
工程(a)が、前記CD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、前記第一の基礎培地で約3日間刺激する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X22)
工程(b)が、工程(a)で得られた細胞を、前記IL-2を含む培地で少なくとも約2日間休眠培養する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X23)
工程(c)が、工程(b)で得られた細胞を、前記第二の基礎培地で約3日間刺激する、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目X24)
工程(d)が、工程(c)で得られた細胞を、前記IL-2を含む培地で少なくとも約2日間休眠培養する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X25)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって生成される、誘導性制御性ヒトT細胞または前記誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団。
【0005】
また本開示は以下も提供する。
(項目1)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、及びAREG陽性からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する誘導性制御性T細胞。
(項目2)
CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、及びAREG陽性からなる群より選択される少なくとも2つの特徴を有する、上記項目に記載の誘導性制御性T細胞。
(項目3)
少なくともCTLA4陽性である、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞。
(項目4)
FOXP3遺伝子のCNS2部位が脱メチル化されている、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞。
(項目5)
CD4陽性またはCD8陽性である、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞。
(項目6)
ヒトの末梢血T細胞、またはヒト組織由来T細胞から得られるか、または誘導される、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞。
(項目7)
(a)末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、
(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、
(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と
を含む方法によって得られる誘導性制御性T細胞。
(項目8)
T細胞を含む細胞集団であって、前記細胞集団のT細胞における約50%以上が、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞である、細胞集団。
(項目9)
前記細胞集団中のT細胞における約80%以上が、上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞である、請求項8に記載の細胞集団。
(項目10)
前記細胞集団におけるT細胞は、制御性T細胞である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目11)
前記細胞集団の約90%以上がT細胞である、上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団。
(項目12)
上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞または上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団を含む医薬組成物。
(項目13)
上記項目のいずれか一項に記載の誘導性制御性T細胞または上記項目のいずれか一項に記載の細胞集団を含む再生医療用材料または製品。
(項目A1)
誘導性制御性T細胞を製造する方法であって、
(a)末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、
(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、
(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と
を含む、方法。
(項目A2)
前記第一の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、CDK8/19阻害剤、及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの因子を含む、上記項目に記載の方法。
(項目A3)
前記第一の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、CDK8/19阻害剤、及びアスコルビン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記第二の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及びCDK8/19阻害剤からなる群から選択される少なくとも1つの因子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記第二の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及びCDK8/19阻害剤を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
工程(a)が、前記CD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、前記第一の基礎培地で約3日間刺激する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
工程(b)が、工程(a)で得られた細胞を、前記IL-2を含む培地で少なくとも約 2日間休眠培養する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
工程(c)が、工程(b)で得られた細胞を、前記第二の基礎培地で約3日間刺激する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
工程(d)が、工程(c)で得られた細胞を、前記IL-2を含む培地で少なくとも約2日間休眠培養する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって生成される、誘導性制御性T細胞または前記誘導性制御性T細胞を含む細胞集団。
【0006】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0007】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、ヒト末梢T細胞から高い機能性を有する制御性T細胞をインビトロで誘導する方法を提供することができる。本開示の方法によって誘導される制御性T細胞は、制御性T細胞に関連する遺伝子を高発現し、強い抑制能力を持つ。したがって、制御性T細胞として、様々な免疫疾患、自己免疫病などの炎症性疾患の治療や予防などに用い得る。
【0009】
本開示の方法によりヒト末梢T細胞から機能的な制御性T細胞をインビトロで誘導することができる。本開示の方法により得られる制御性T細胞は、機能性を有し(例えば、高い抑制機能を持ち)、制御性T細胞として安定である。すなわち、本開示の方法によって、ヒト末梢T細胞から制御性T細胞のマスター遺伝子であるFoxP3を安定に発現し、高い機能性を有する制御性T細胞を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の誘導性制御性T細胞(ヒト高機能安定型iTreg(HSF iTreg)細胞ともいう)の一実施形態の表現型解析(フローサイトメトリー)を示す図である。ヒトCD4陽性T細胞から本開示の誘導性制御性T細胞(図ではHSF-iTreg)を作製し、FOXP3、CTLA4、Heliosの発現をフローサイトメトリー法で解析した。通常のnTreg(CD4陽性CD25陽性T細胞)を刺激した細胞、および通常のiTreg(Conventional iTreg:CD4陽性T細胞をIL-2とTGF-β1の存在下で3日間CD3/CD28刺激した細胞)を比較した。
図2図2は、本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態のエピゲノム解析(バイサルファイト法)を示す図である。図1の各細胞についてFOXP3 CNS2領域の脱メチル化状態をバイサルファイト法で解析した。
図3図3は、本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態の抑制能解析(in vitro抑制アッセイ)を示す図である。図1の各細胞のin vitro抑制能を解析した。ヒトCD4陽性T細胞をCell Trace Violet試薬で染色し、図1の各細胞と一定の比率でTreg Suppression Inspector(Miltenyi Biotec)(5μL/well)存在下で3日間混合培養し、Cell Trace Violet強度をフローサイトメトリー法で解析した。
図4図4は、本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態の遺伝子発現パターン解析(RAN-seq法)を示す図である。図1の各細胞およびCD4陽性T細胞をIL-2存在下で刺激したFOXP3陰性細胞(Tconv)について網羅的遺伝子発現パターンをRNAシーケンス法で解析した。
図5図5は、本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態のCD103発現(フローサイトメトリー法)を示す図である。図1の各細胞についてFOXP3陽性細胞におけるCD103発現をフローサイトメトリー法で解析した。
図6図6は、ヒトCD8陽性T細胞から作製した本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態の表現型解析(フローサイトメトリー法)を示す図である。ヒトCD8陽性T細胞から本開示の制御性T細胞を作製し、FOXP3、CTLA4、Heliosの発現をフローサイトメトリー法で解析した。
図7図7は、本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態のCD25発現およびFOXP3発現(フローサイトメトリー法)を示す図である。CD25とFOXP3の発現強度をBD FACSLyric フローサイトメーターを用いたフローサイトメトリー法により解析した。
図8図8は、本開示のiTreg(HSF iTreg)細胞の一実施形態の表現型解析を示す図である。本開示の誘導性制御性T細胞(HSF-iTreg)を作製し、CD172gやCD26などの発現を解析した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0013】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。したがって、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0014】
本明細書において、遺伝子名およびその産物を表記する際には、通常の用法とは異なり、すべて大文字で表記する場合には、遺伝子とタンパク質の両方を指すことがある。例えば、FOXP3遺伝子、FOXP3タンパク質と使い分けすることもあり、FoxP3と表記する場合には、当該遺伝子またはタンパク質の概念と実体の両方(全体)を指す。
【0015】
本明細書において、「制御性T細胞(Regulatory T cell)」とは、FoxP3発現が陽性のT細胞である。本明細書において、「Treg」とも称される場合がある。Tregは内因性制御性T細胞(Naturally Occurring Regulatory T cell:nTreg)、誘導性制御性T細胞(Inducible Regulatory T cell:iTreg)などがある。制御性T細胞は、通常、種々の機能(例えば、免疫抑制機能)を有し得る。
【0016】
本明細書において、「誘導性制御性T細胞(Inducible Regulatory T cell、iTreg)」とは、制御性T細胞のうち、IKZF2(Helios)の発現が陰性であるものをいう。iTregは、通常、ナイーブCD4陽性T細胞等などから分化誘導することによって得られる。
【0017】
本明細書において、「内因性制御性T細胞(Naturally Occurring Regulatory T cell、nTreg)」とは、制御性T細胞のうち、IKZF2(Helios)、及びCTLA4の発現が陽性のものをいう。通常、生体内に存在する細胞である。
【0018】
本明細書において、「末梢T細胞」とは、胸腺外に存在するT細胞をいい、末梢血液、リンパ節、その他組織から取得することができる。本明細書において「末梢T細胞」というとき、細胞群に末梢T細胞が含まれていればよく、T細胞が単離されている必要はない。末梢血単核球(PBMC)などT細胞の他にも種々のリンパ球を含む細胞画分を用いてもよい。
【0019】
本明細書において「フローサイトメトリー」とは、液体中に懸濁する細胞,個体およびその他の生物粒子の粒子数,個々の物理的・化学的・生物学的性状を計測する技術をいう。この技術を用いた装置は、「フローサイトメーター」という。本開示において、細胞マーカー(例えば、FoxP3、CTLA4、Helios、CD103など)の「陽性」「陰性」は、当該分野において通常使用されるように、フローサイトメトリーによって定められる。より詳細には、フローサイトメトリーでは、細胞を一列に並べて流し、分光学的手法により細胞の数をカウントする。例えば、蛍光や発光酵素によって標識された細胞にレーザー光を照射し、これによって細胞から発せられる蛍光又は発光信号をフォトダイオード等の検出器で検出することで、標的細胞の数をカウントする。また、検出器での検出結果をコンピュータに取り込んで、二次元プロットを生成して表示することもできる。これにより、標的細胞の有無、及びその数等を容易に把握できる。
【0020】
本明細書において、「脱メチル化」とは、代表的にメチル化しているアデニン(例えば、6位;m6A、1位;m1A)やシトシン(例えば、5位;m5C、3位;m3C)のメチル化修飾が取り除かれることをいう。脱メチル化は、当該分野で公知の手法を用いて特定することができ、例えば、バイサルファイト法などを用いて測定することができる。
【0021】
本明細書において、「細胞集団」とは、2以上の細胞を含む集団であり、例えば、平面的に細胞同士が集まった状態のものであってもよく、3次元的に細胞同士が接着して構成された細胞塊であってもよい。また、「細胞集団」は、単一種の細胞により形成されていてもよいし、複数種の細胞が含まれていてもよい。
【0022】
本明細書において、「刺激」とは、TCRを介した刺激を意味する。例えば、T細胞の刺激とは、抗CD3抗体及びそれを含む複合体を用いた刺激、TCRに結合するペプチド及びペプチドを含む複合体を用いた刺激、抗原提示細胞を用いた刺激、抗CD3抗体と抗原提示細胞を同時に用いた刺激、ペプチドやタンパク質と抗原提示細胞を同時に用いた刺激などを含む。
【0023】
本明細書において、「休眠培養」とは、上記のような刺激がない状態で細胞を培養することをいう。
【0024】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0025】
(誘導性制御性T細胞)
本開示は、高機能安定型誘導性制御性T細胞(高機能安定型iTreg、HSF iTregともいう。)およびその利用に関する。
【0026】
本開示の一局面において、FoxP3陽性、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有する誘導性制御性ヒトT細胞が提供される。本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞は、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、及びAREG陽性からなる群より選択される少なくとも2つの特徴を有することもできる。また本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞は少なくともCTLA4陽性であってもよい。限定を意図するものではないが、本開示の誘導性制御性T細胞はCD4陽性またはCD8陽性であってもよい。
【0027】
本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞は、少なくともCTLA4陽性およびFoxP3陽性であってもよい。本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞は、少なくともCD172g陽性および/またはCD26陽性であってもよい。
【0028】
本開示は、CD172g陽性である誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。CD172gは、チロシンキナーゼ関連のタンパク質であり、ニューロン等の細胞接着に関与している(adhesion of cerebellar neurons, neurite outgrowth and glial cell attachment)ことから、CD172g陽性である誘導性制御性ヒトT細胞は、接着性などに関する機能が賦活化され、これに関連する種々の疾患に対する効果が高いことが期待される。
【0029】
本開示は、CD26陽性である誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。CD26はDPP4とも呼ばれる遺伝子であり、糖代謝やインスリン代謝、免疫機能(感染症においても顕著)に関連していることから、CD26陽性である誘導性制御性ヒトT細胞は、これに関連する種々の疾患に対する効果が高いことが期待される。
【0030】
本開示は、NT5E陽性である誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。NT5E(CD73)は細胞外のヌクレオチドを膜透過性のヌクレオシドに変換する触媒作用を持つ細胞膜タンパク質である。コードされたタンパク質は、リンパ球の分化の決定因子として使用される。この遺伝子に欠陥があると、関節や動脈の石灰化を引き起こす可能性があるため、NT5E陽性である誘導性制御性ヒトT細胞は、これに関連する種々の疾患に対する効果が高いことが期待される。
【0031】
本開示は、ITGAE(CD103)陽性である誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。ITGAE(CD103)は、Iドメインを持つαインテグリンをコードし、細胞外ドメインで翻訳後切断を受け、ジスルフィド結合した重鎖と軽鎖を生成する。このタンパク質は、β7インテグリンと結合して、ヒト粘膜リンパ球-1抗原として知られるE-カドヘリン結合インテグリンを形成する。このタンパク質は、ヒト腸管上皮内リンパ球(IEL)に優先的に発現しており、接着の役割に加えて、IEL活性化のためのアクセサリー分子として機能している可能性がある。そのため、ITGAE(CD103)陽性である誘導性制御性ヒトT細胞は、これに関連する種々の疾患に対する効果が高いことが期待される。
【0032】
本開示は、AREG陽性である誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。AREGは、上皮成長因子ファミリーの一員であり、上皮成長因子(EGF)およびトランスフォーミング成長因子α(TGF-α)に関連している。このタンパク質はEGF/TGF-α受容体と相互作用して正常な上皮細胞の成長を促進し、ある種の攻撃的な癌細胞株の成長を阻害する。また、乳腺、卵子、骨組織の発生にも機能する。この遺伝子は乾癬に似た皮膚表現型と関連しており、様々な種類の癌や炎症状態を含む他の病的疾患とも関連している。そのため、AREG陽性である誘導性制御性ヒトT細胞は、これに関連する種々の疾患に対する効果が高いことが期待される。
【0033】
本開示は、CTLA4陽性である誘導性制御性ヒトT細胞を提供する。CTLA4は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、T細胞に抑制的なシグナルを伝達するタンパク質である。膜結合型CTLA4はジスルフィド結合で結ばれたホモダイマーとして機能し、可溶型CTLA4はモノマーとして機能する。この遺伝子の変異は、インスリン依存性糖尿病、バセドウ病、橋本甲状腺炎、セリアック病、全身性エリテマトーデス、甲状腺関連眼窩病、その他の自己免疫疾患と関連しているといわれている。そのため、CTLA4陽性である誘導性制御性ヒトT細胞は、これに関連する種々の疾患に対する効果が高いことが期待される。
【0034】
制御性T細胞におけるFoxP3の発現については、CD4陽性T細胞をIL2とTGFβを含む培地中、抗CD3抗体と抗CD28抗体の存在下で培養し、その後IL2及び TGFβを含む培地にて培養することによって試験管内での誘導が可能である。また末梢T細胞から制御性T細胞を誘導する方法がいくつか知られているものの、誘導性制御性T細胞におけるFoxP3の発現は不安定であり、FoxP3以外の多くの機能的分子発現については確認されていない。
【0035】
近年、誘導性制御性T細胞においてアスコルビン酸を培地中に添加する手法(Kasahara et al. Int. Immunol. (2017) 29(10):457-469)、CD28抗体刺激を使用しない手法(Mikami et al. Proc Natl Acad Sci U S A. (2020)117(22):12258-12268.)によってDNA脱メチル化誘導を引き起こす培養方法が開発されている。しかしこの手法で作製された誘導性制御性T細胞においても機能的分子の発現は確認されておらず、十分な免疫抑制活性が得られていない。臨床においても誘導性制御性T細胞を使用した臨床試験が1件、GVHDを対象に実施されているが、使用された細胞の制御性T細胞の割合は低く、現時点でGVHDの予防など有効性は認められていない(MacMillan et al., Blood Adv. (2021) 5(5):1425-1436)。
【0036】
本開示においては、FoxP3の発現が安定であり、有利には、免疫抑制作用を安定的に保持する誘導性制御性T細胞を提供することができ、このような誘導性制御性T細胞は、例えば、本願明細書の他の箇所で説明する誘導性制御性T細胞を製造する方法によって製造することができる。例えば、本開示は、(a)末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程とを含む方法によって得られる誘導性制御性T細胞を提供することができる。
【0037】
本開示において作製される誘導性制御性T細胞は誘導性制御性T細胞特異的脱メチル化状態を有している。得られた制御性T細胞が、制御性T細胞特異的脱メチル化状態にあることは、例えばFoxP3の遺伝子(FOXP3(すべて斜体字))のCNS2部位が脱メチル化されていることにより確認することができる。このような脱メチル化状態は、安定型の指標となり得るため、本開示の誘導性制御性T細胞は、脱メチル化状態を確認することで安定型の誘導性制御性T細胞であることを示すことができる。
【0038】
本明細書において、本開示の誘導性制御性T細胞の免疫抑制活性または免疫抑制作用は、例えば、レスポンダーT細胞におけるCell Trace Violet強度を測定することによって確認することができる。本開示の誘導性制御性T細胞は免疫抑制活性または免疫抑制作用を安定的に提供することができ、例えば、本開示の誘導性制御性T細胞は少なくとも約2週間にわたって免疫抑制活性または免疫抑制作用を提供することができる。後述の実施例において示されるように、本開示の誘導性制御性T細胞は従来の制御性T細胞(誘導性および内因性を含む)よりも高い免疫抑制作用を有することができる。そのため、本開示の誘導性制御性T細胞は機能性あるいは高機能の誘導性制御性T細胞ということもできる。
【0039】
一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞はFoxP3を安定的に発現することができる。そのため、本開示の誘導性制御性T細胞は安定型誘導性制御性T細胞ということもできる。本開示の誘導性制御性T細胞は、一側面において、高機能で安定型であり、高機能安定型誘導性制御性T細胞(HSF iTreg)ということができる。
【0040】
本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞におけるマーカーが陽性か否かについては、フローサイトメトリーによる陽性率測定によって行うことができる。例えば、フローサイトメーターで解析し、基準以上の抗原発現量を示す細胞の割合から陽性か否かを判定することができる。細胞表面マーカーの発現強度に応じて、陰性、弱陽性、中陽性、強陽性(弱陽性、中陽性、および強陽性をまとめて「陽性」とする)などと区分することもできる。例えば、機器の設定に応じて、各マーカーの蛍光強度中央値/陰性対照の蛍光強度中央値(アイソタイプコントロール抗体による染色)の値が、5未満、5以上10未満、10以上30未満、30以上の場合に、それぞれ陰性、弱陽性、中陽性、強陽性とすることもできる。そのような判定は(フローサイトメトリーによる陽性率測定)で例示されるように判定することができるが、本開示はこれに限定されない。
【0041】
本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞における細胞表面マーカーの発現強度は、例えば、本願実施例に記載されるようにして準備したサンプルを用いて、BD FACSLyric フローサイトメーター(BD Biosciences社)によって解析した結果に基づき、その発現強度が、10以上が弱陽性、10以上が中陽性、10以上が強陽性としてもよく、または10以上を強陽性、それ以下を弱陽性としてもよく、または10以上を強陽性、それ以下を弱陽性としてもよい。このような判定は実験条件、実験目的、細胞の種類、機器の設定条件などによって適宜設定することができ、本開示はこれに限定されない。またBD FACSLyric フローサイトメーター以外のフローサイトメーター機器で解析した場合にも、BD FACSLyric フローサイトメーターで解析した場合の発現強度に対応する他の機器における発現強度を算出することができ、使用する機器に応じて発現強度を示す値を適宜見出すことができる。
【0042】
本開示の一実施形態において、本開示において作製される誘導性制御性T細胞は任意の細胞から誘導することができるが、好ましくはヒトの末梢血T細胞、またはヒト組織由来T細胞から誘導して得ることができる。
【0043】
本開示の一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞またはその細胞集団は、ヒト細胞を対象とすることができ、ヒトの末梢血から得られたT細胞を材料として、所定の手法によって誘導された誘導性制御性ヒトT細胞またはその細胞集団とすることができる。ヒト細胞とマウス細胞とではその性質は明確に異なり、仮に同じ細胞表面マーカーが存在していたとしても、細胞の性質が同一とみなすことはできない。例えば、誘導性制御性T細胞の分野では、マウスとヒトとでは適用し得る技術が異なり、マウスの場合、抗原未感作のリンパ球が大部分である一方で、ヒトの場合、末梢血中T細胞は抗原感作の程度や活性化の程度が多様なものとなる。そのため、マウスでは、マウスリンパ組織から採取したT細胞から高機能安定型誘導性制御性T細胞を直接作製することができるものの、ヒトではそのようなことが困難であり、単に細胞表面マーカーの存在のみをもって、同様の細胞とみなすことはできない。
【0044】
本開示の一局面において、上記のような誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団を含む細胞集団であって、該細胞集団は、FoxP3陽性、CTLA4陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性、AREG陽性、CD172g陽性、及びCD26陽性からなる群より選択される少なくとも1つの特徴の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。
【0045】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性およびFoxP3陽性の割合がそれぞれ約50%以上である、細胞集団が提供される。一実施形態において、本開示の細胞集団は、CTLA4陽性およびFoxP3陽性の割合が、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上とすることができる。
【0046】
本開示の一実施形態において、本開示の細胞集団において、少なくとも前記CD172g陽性および/またはCD26陽性の割合が、それぞれ約50%以上とすることができる。一実施形態において、本開示の細胞集団は、CD172g陽性および/またはCD26陽性の割合が、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上とすることができる。
【0047】
本開示の一実施形態において、本開示の細胞集団において、FoxP3強陽性の割合が、約50%以上とすることができる。一実施形態において、本開示の細胞集団は、FoxP3強陽性の割合が、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上とすることができる。限定を意図するものではないが、このような細胞集団において、細胞表面マーカーの発現強度の測定は、上述のようなフローサイトメトリーによる陽性率測定によって行うことができる。
【0048】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、FoxP3陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、FoxP3陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0049】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CTLA4陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、CTLA4陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0050】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、NT5E陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、NT5E陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0051】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、ITGAE(CD103)陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、ITGAE(CD103)陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0052】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、AREG陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、AREG陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0053】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CD172g陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、CD172g陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0054】
本開示の他の局面において、誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であって、該細胞集団は、CD26陽性の割合が約50%以上である、細胞集団が提供される。限定を意図するものではないが、一実施形態において、このような細胞集団は、CD26陽性の誘導性制御性ヒトT細胞を、細胞数基準で、約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上含むことができる。
【0055】
上記のとおり、ヒト細胞とマウス細胞とではその性質は明確に異なるため、誘導の条件が同じであっても、マウス細胞とヒト細胞とでは特定の細胞の誘導の割合は異なり、本開示では、所定の誘導方法で誘導した場合に、所定の細胞表面マーカーの陽性の割合が約50%以上となる細胞集団を得ることができ、好ましくは「CTLA4陽性およびFoxP3陽性の割合がそれぞれ約50%以上である」細胞集団を取得することができる。
【0056】
CTLA4は細胞内に局在する分子であり、少なくとも濃縮や精製の指標として使えるレベルではない。また、FoxP3は転写因子であり全て細胞内に存在する分子であるため、表面では全く検出できず、精製に使うことも不可能である。すなわち、CTLA4およびFoxP3はT細胞「内」に発現するマーカーとなるため、CTLA4および/またはFoxP3を指標としてソーティングして濃縮し、CTLA4陽性および/またはFoxP3陽性が約50%以上の細胞集団を得ることはできない。したがって、従来の方法に従ってCTLA4陽性およびFoxP3陽性の割合がそれぞれ約50%未満の細胞集団を得て、そのような細胞集団を原料として、CTLA4および/またはFoxP3を指標として濃縮し、当該細胞がそれぞれ約50%以上の細胞集団を得ることもできない。
【0057】
本開示の一実施形態において、本願発明の誘導性制御性ヒトT細胞は、Tregによる免疫抑制機能を主に担うものとなるところ、この細胞が、ある細胞集団において半数以上を占めることで、医学上有効な免疫抑制効果が安定的に達成できることとなり、技術的・医学的効果にも重要となる。すなわち、医学上有効な免疫抑制効果を奏するT細胞を50%以上含むことで、細胞製剤として安定なものを提供することができるため、この効果は、医学上は極めて重要なポイントであり、単に量や数値の違いにとどまらず、製剤として成立するかという品質の問題として重要な点となる。
【0058】
本開示の一実施形態において、本開示の細胞集団において、誘導性制御性ヒトT細胞は、さらにITGAE(CD103)陽性、NT5E陽性、および/またはAREG陽性の特徴を備えることができる。これらの細胞マーカーは、免疫抑制機能において重要な役割を果たす遺伝子であり、これらのマーカーが高発現していることにより、細胞の投与後、従来の誘導性制御性T細胞に比してより機能的安定性を保つことができる。例えば、CD103は炎症部位への制御性T細胞の遊走、NT5E(CD73)は免疫抑制能を持つadenosineの産生、またAREGは制御性T細胞による組織の再生に重要である。本開示の細胞集団は、これらのマーカーが高発現していることにより、機能的安定性を保つことができるという効果を達成することができる。
【0059】
本開示の一実施形態において、本開示の細胞集団におけるT細胞は、制御性T細胞とすることができる。この場合、本開示の細胞集団の制御性T細胞において、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上が、本願明細書の他の箇所に記載された誘導性制御性T細胞とすることができる。
【0060】
本開示の一実施形態において、本開示の細胞集団は、T細胞以外の細胞を含んでいてもよいが、好ましくは、本開示の細胞集団の約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上がT細胞であってもよく、好ましくは、約90%以上がT細胞であってもよい。
【0061】
本開示の一局面において、本開示の誘導性制御性T細胞または細胞集団を含む医薬組成物が提供される。また他の局面において、本開示の誘導性制御性T細胞または細胞集団を含む再生医療用材料または製品が提供される。この医薬組成物や再生医療用材料または製品は、免疫抑制作用によって処置することができる自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギーで使用されることができる。これらの医薬、再生医療用材料または製品は、培地、その他の当該分野で使用される任意の添加物質とともに使用されることができる。このような培地としては、細胞の培養に用いられる動物細胞培養用基礎培地へ必要な因子を添加した培地を用いることができる。このような培地の例は本明細書の他の個所に詳述されている。培地に添加される成分についても、その例は本明細書の他の個所に詳述されている。このような製品として提供される場合は、DMSOなどを含んでいてもよい。
【0062】
(製法)
本開示は、本開示の誘導性制御性T細胞を製造する方法を提供する。本開示の方法は、高機能で、安定型の誘導性制御性T細胞を製造することができる新規の方法であり、本明細書において以下に詳細に説明する。
【0063】
本開示の一局面において、誘導性制御性T細胞を製造する方法であって、(a)末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程とを含む、方法が提供される。本開示においては、CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞のいずれを原料として用いても本開示の誘導性制御性T細胞を製造することができ、一実施形態において、本開示の誘導性制御性T細胞は、CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の混合細胞を原料として製造することもできる。
【0064】
一実施形態において、本開示の方法は、ヒト末梢T細胞を、抗CD3抗体刺激の存在下でTGFβおよびIL-2を含む培地で培養する工程、抗CD3抗体非存在下でIL-2を含む培地で培養する工程、再度抗CD3抗体刺激の存在下でTGFβおよびIL-2を含む培地で培養する工程を含む、ヒト末梢T細胞(CD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を含む)から制御性T細胞を製造する方法とすることもできる。
【0065】
一実施形態において、T細胞の刺激とは、Tregを得る際の刺激であって、TCRを介した刺激であれば特に限られない。例えば、T細胞の刺激としては、抗CD3抗体及びそれを含む複合体を用いた刺激、TCRに結合するペプチド及びペプチドを含む複合体を用いた刺激、抗原提示細胞を用いた刺激、抗CD3抗体と抗原提示細胞を同時に用いた刺激、ペプチドやタンパク質と抗原提示細胞を同時に用いた刺激などを含むことができるが、Tregを得ることができるものであれば、その培地や条件は特に限定されない。
【0066】
一実施形態において、休眠培養としては、上記のような刺激がない状態で細胞を培養するものであれば、その培地や条件は特に限られない。
【0067】
本明細書において、「抗CD3抗体刺激」とは、細胞上のCD3受容体に特異的な刺激を与えることを意味する。CD3刺激としては、例えば抗CD3アゴニスト抗体が例示される。抗CD3アゴニスト抗体は、研究用試薬として市販されている製品を用いても、常套方法にて作成してもよい。抗CD3抗体は、例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウシなどの動物由来、及びヒト由来のものを使用できる。
【0068】
一実施形態において、本開示の方法では、一旦、iTregを誘導(脱メチル化誘導を引き起こすT細胞への刺激)した後(工程a)、培地交換して1~3日間休眠培養することで細胞を回復させ(工程b)、更にもう一度、脱メチル化誘導を引き起こすためにT細胞を刺激(工程c)することで、機能性を有し、かつ安定性のある誘導性制御性ヒトT細胞を得ることができる。通常は2回刺激とすると、T細胞はアポトーシスを示すことが技術常識であるところ、本開示の方法では、「休眠培養」と「2回目の刺激」を行うことで、アポトーシスを示すことなく、機能性を有し、かつ安定性のある誘導性制御性ヒトT細胞を得ることを見出している。
【0069】
すなわち、本開示の方法においては、T細胞刺激、休眠培養、その後の再度の刺激を行うことで、機能性を有し、かつ安定性のある誘導性制御性ヒトT細胞を得ることができるため、このようにして得られた誘導性制御性ヒトT細胞またはそのような誘導性制御性ヒトT細胞を含む細胞集団であれば、本開示の所望の効果を達成することができる。したがって、本開示の一実施形態において、培養のための培地や刺激の種類は特に限られず、任意の組成の培地及び任意の種類の刺激を用いることで、機能性を有し、かつ安定性のある誘導性制御性ヒトT細胞を得ることができる。
【0070】
一実施形態において、各工程で使用する培地にはさらにレチノイン酸および/またはアスコルビン酸を含んでいてもよい。好ましくは培地にはアスコルビン酸を含むことができる。一実施形態において、培地にはさらにCDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及び/またはCDK8/19阻害剤を含んでいてもよい。好ましくは培地にはCDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及び/またはCDK8/19阻害剤を含むことができる。
【0071】
本開示の一実施形態において、前記第一の基礎培地および前記第二の基礎培地は、それぞれ独立して、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、CDK8/19阻害剤、及びアスコルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは全部の因子を含むこともできる。また他の実施形態において、前記第一の基礎培地および前記第二の基礎培地は、それぞれ独立して、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、CDK8/19阻害剤、及びアスコルビン酸を含むこともできる。これらの各成分として含まれる濃度としては、当該分野で使用される通常の濃度であることができる。一実施形態において、使用され得るCDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及び/またはCDK8/19阻害剤の濃度は、当該分野で使用され得る任意の適切な濃度であってよく、例えばSenexinAを用いる場合には、約0.1μM以上、約0.5μM以上、約1μM以上、約2μM以上、約3μM以上、約4μM以上、約5μM以上、約6μM以上、約7μM以上、約8μM以上、約9μM以上、約10μM以上、約12μM以上、約14μM以上、約16μM以上、約18μM以上、約20μM以上などとすることができるが、これらの濃度に限られるものではなく、適宜当業者は他の培地組成に応じて変更することができる。
【0072】
一実施形態において、本開示の方法では、ヒトの末梢T細胞から制御性T細胞を製造する。末梢T細胞には、ナイーブ制御性T細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞などが含まれている。複数種類のT細胞を含む培養物から制御性T細胞を誘導しても、これらの細胞からCD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞など特定の細胞を単離した上で制御性T細胞を誘導してもよい。また、特定の抗原に特異的なT細胞を単離した上で制御性T細胞を誘導してもよい。したがって、本開示の誘導性制御性T細胞は、CD4陽性のもの、CD8陽性のものを包含する。なお、本明細書において「CD4陽性」あるいは「CD4+」という場合、特に断りがなければCD4陽性CD8陰性のシングルポジティブ細胞をいうものとする。また、本開示における製法においてはCD4陽性またはCD8陽性のいずれかのT細胞を原料として使用することができ、誘導性制御性T細胞が生成した後も、特別な操作をしない限り、CD4陽性またはCD8陽性の特徴が維持されることができる。
【0073】
一実施形態において、本開示の方法において抗体は、培地へ添加しても、培養容器の内壁や、不溶性担体表面に固定化したものを用いてもよい。不溶性担体は、抗CD3抗体を物理的又は化学的に結合できる部材であって、水溶液に対して不溶なものを用いることができる。抗CD3抗体を物理的に吸着可能な素材として、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどの合成樹脂やガラスなどがあげられる。不溶性担体の形状は特に限定されず、例えば、プレート形状やビーズ形状、容器形状などが採用できる。抗CD3抗体量は使用する抗体の力価や由来により変動するが、制御性T細胞の誘導のための十分な刺激を与えられるよう適宜設定すればよい。
【0074】
一実施形態において、本開示の方法では、細胞の培養には、動物細胞培養用基礎培地へ必要な因子を添加した培地を用いることができる。本開示の方法において用い得る動物細胞培養用基礎培地としては、例えば、Iscove's modified Eagle's Medium培地、Ham's F12培地、MEM Zinc Option培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地または一部組成を改変した培地などが包含される。
【0075】
基礎培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。無血清培地には必要に応じて、例えば、アルブミン、ウシ血清アルブミン(BSA)、トランスフェリン、アポトランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Thermo Fisher Scientific)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール、モノチオグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよい。基礎培地にはまた、脂質(例えば、chemically defined lipid concentrate)、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン類(例えば、ニコチンアミド、アスコルビン酸)、増殖因子、抗生物質(例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシン)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。
【0076】
1つの実施態様において、基礎培地としては血清およびHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を含むRPMI 1640培地が例示される。
【0077】
本開示の方法において、細胞の培養は一般的な動物細胞培養条件下で行えば良い。培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃である。培養は、好適にはCO含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO濃度は、好ましくは約2~5%である。
【0078】
本開示の方法において、抗CD3抗体は培地中にそのまま添加されても、あるいは培養容器の内壁や、不溶性担体表面に固定化したものを用いてもよい。抗CD3抗体量は使用する抗体の力価や由来により変動するが、制御性T細胞の誘導のための十分な刺激を与えられるよう適宜設定すればよい。
【0079】
使用されるTGFβとしては、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3が例示され、例えばTGFβ1である。TGFβの濃度は当業者が適宜定めれば良く特に限定されない。TGFβとしてTGFβ1またはTGFβ3を用いる場合、培地中の濃度は特に限定されないが0.25~25ng/mL、例えば約10ng/mLとすればよい。
【0080】
使用される培地中のIL-2の濃度は限定されないが、約5U/mL~約500U/mL、例えば約100U/mLとすることができる。
【0081】
本開示において使用される培地には、さらにレチノイン酸および/またはアスコルビン酸を添加してもよい。好ましくは培地にはアスコルビン酸を含む。アスコルビン酸の濃度は限定されないが、約1~約100μg/mL、例えば約10μg/mLである。
【0082】
本開示において使用される培地には、さらにCDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及び/またはCDK8/19阻害剤を添加してもよい。CDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及び/またはCDK8/19阻害剤としては任意のものを使用することができるが、例えば、4-[1-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル]-1,2,5-オキサジアゾール-3-アミン、3-{1-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-4-メチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル}ピラジン-2-アミン又はそれらの塩、水和物、溶媒和物等、または米国特許第8598344、WO2013/001310、WO2013/040153、WO2013/116786、WO2014/029726、WO2014/063778、WO2014/072435、WO2014/090692、WO2014/106606、WO2014/123900、WO2014/154723、WO2014/194245、WO2015/049325、WO2015/100420、WO2015/144290、WO2015/159937、WO2015/159938、WO2016/009076、またはWO2018/139660などに記載される化合物などが挙げられる。一つの例としては、SenexinAまたはAS2863619が例示されるが、本開示はこれに限定されない。使用され得るCDK8阻害剤、CDK19阻害剤、及び/またはCDK8/19阻害剤の濃度は、当該分野で使用され得る任意の適切な濃度であってよく、上記文献に記載される任意の適切な濃度であってもよく、適宜当業者は他の培地組成に応じて変更することができる。
【0083】
本開示の方法においては、ヒト末梢T細胞を、TGFβおよびIL-2を含む培地で抗CD3抗体刺激することによって、制御性T細胞を誘導し、また抗CD3抗体を含まないIL-2含有培地で休眠培養実施後に再度抗CD3抗体で刺激することで、高い免疫抑制機能を有する制御性T細胞を誘導することができる。得られた誘導性制御性T細胞が、高い免疫抑制機能を持つことは、例えばRNAシーケンス法による網羅的遺伝子発現解析、インビトロにおける細胞増殖抑制試験により確認することができる。
【0084】
本開示の一実施形態において、(a)末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程での培養日数は、当業者が適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば約3日とすることもできる。
【0085】
また一実施形態において、工程(b)の休眠培養工程での培養日数は、当業者が適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば約2日とすることもできる。
【0086】
また一実施形態において、工程(c)の第二の基礎培地における培養工程での培養日数は、当業者が適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば約3日とすることもできる。
【0087】
また一実施形態において、工程(d)の休眠培養工程での培養日数は、当業者が適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば約2日とすることもできる。一実施形態において、IL-2の存在下で、無刺激状態で培養することによって、誘導された制御性T細胞特異的脱メチル化状態を有する制御性T細胞を増殖させることができる。培地がアスコルビン酸をさらに含んでいてもよいこと、またさらにIL-2を含む培地で培養することによって誘導された制御性T細胞の安定した制御性T細胞培養物を得ることができる。
【0088】
得られた制御性T細胞を含む細胞培養物から制御性T細胞を単離するには、制御性T細胞に特有な細胞表面マーカーに基づいて常套方法により細胞を単離すればよく、例えばセルソーターによりFoxP3陽性分画を取り出せばよい。また、所望により特定の抗原特性を有する制御性T細胞を単離してもよい。
【0089】
本開示の方法によって得られる誘導性制御性T細胞は、ヒトの炎症性疾患、例えば自己免疫疾患やアレルギーの治療に用いることが期待される。
【0090】
(フローサイトメトリーによる陽性率測定)
一実施形態において、フローサイトメトリーによる陽性率測定は以下のようにして行うことができる。
【0091】
準備
・Fixation/Permeabilization Concentrate(以下、Buffer)(eBio Science、00-5123-43)
・Fixation/Permeabilization Diluent(以下、Diluent)(eBio Science、00-5223-56)
・Permeabilization Buffer(10×)(eBio Science、00-833-56)
・FOXP3 Monoclonal Antibody (236A/E7), PE(以下、抗FOXP3抗体)(eBio Science、12-4777-42)
・Mouse IgG1 kappa Isotype Control (P3.6.2.8.1), PE(以下、PEコントロール)(eBio Science)
・BV421,Mouse,Anti-Human,CD152(以下、抗CTLA4抗体)(BD)
・BV421 Mouse IgG2a, k Isotype Control(以下、BV421コントロール)(BD)
・CD4 Monoclonal Antibody (RPA-T4), APC (以下、抗CD4抗体)(eBio Science)
・Mouse IgG1 kappa Isotype Control (P3.6.2.8.1), APC(以下、APCコントロール)(eBio Science)
・D-PBS(ナカライテスク、14249-95)
・FBS(HyClone、SH30084.03)
・0.5 mol/l-EDTA溶液(pH 8.0)(ナカライテスク、06894-14)
・MilliQ水
・遠心機
・安全キャビネット
・マイクロピペット(P200、P1000)
・5mLポリスチレン ラウンド・チューブ(以下、専用チューブ)(Falcon、352008)
・ナイロンメッシュ(65μm)(共進理工、PP-65N)
【0092】
試薬調製
※Fixation Buffer(1サンプル当たり100μL使用)
BufferとDiluentを1:3の割合で混合する。
※Perm Buffer
Permeabilization Buffer(10×)をMilliQ水で10倍希釈する。
※FACS Bufer(500mL調製の場合)
D-PBS 489mL
FBS 10mL(終濃度2%)
0.5mol/l EDTA溶液 1mL(終濃度1mM)
以上の試薬は調製後、4℃または氷上で保管する。
【0093】
方法
(1)1.5mLチューブにFACS Buferを500μL添加する。
(2)(1)のチューブに1x106個の最終製品を添加し、マイクロピペットでやさしく懸濁する。
(3)遠心機で500×g、4℃、5分間遠心する。
(4)上清をアスピレーターで除去後、Fixation Bufferを100μL添加しやさしくピペッティングする。→泡立てないように注意する。
(5)氷上遮光で30分以上静置により固定する。→45分でもよい。
(6)固定後、チューブにPerm Bufferを1mL添加しやさしくピペッティングする。
(7)新しい1.5mLチューブをサンプル数分準備する。
(8)サンプルをコントロール用と抗体染色用に500μLずつ分注する。
(9)遠心機で500×g、4℃、5分間遠心する。
(10)遠心中に抗FOXP3抗体(原液濃度=0.05mg/ml)、抗CTLA4抗体(Lot:0030269原液濃度=0.2mg/ml)抗CD4抗体(原液濃度=0.1mg/ml)をPerm Bufferで100倍希釈で調製する(以下、抗体調製液)。コントロールサンプル用に、PEコントロール(原液濃度=0.1mg/ml)、BV421コントロール(原液濃度=0.2mg/ml)APCコントロール(原液濃度=0.1mg/ml)を対応する色素の抗体と同濃度で調整する(以下コントロール液)
*工程内管理試験においてはCTLA4の染色は実施しない。
(11)上清をアスピレーターで除去後、抗体染色サンプルに抗体調製液を、コントロールサンプルにコントロール液をそれぞれ100μL添加しやさしくピペッティングする。→泡立てないように注意する。
(12)氷上遮光で60分静置により固定する。
(13)染色中に測定機器の立ち上げを実施する。
(14)染色後、FACS Buferを1mL添加しやさしくピペッティングする。
(15)遠心機で500×g、4℃、5分間遠心する。→上清をアスピレーターで除去後、(14)及び(15)をもう一度繰り返して洗浄する。
(16)上清をアスピレーターで除去後、FACS Buferを500μL添加しやさしくピペッティングする。
(17)専用チューブにナイロンメッシュをピンセットで載せ、懸濁液をフィルトレーションする。
(18)任意のフローサイトメーター機器で解析する。データ回収細胞数は10000個以上とする。標的抗原陽性率算出においては、コントロールサンプルの陽性率が5%以下となるように基準線を引き、基準以上の抗原発現量を示す細胞の割合を陽性率とする。
【0094】
備考
・固定及び染色で使用する試薬類は「Foxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set」(Cat.:00-5523)として3本セットでの購入も可能である。
・機器の設定等は一般的・科学的見地から明確に正常な測定を実施できていないと判断できる程度に逸脱していない限りにおいて、任意の設定で問題無い。明確な逸脱とは対象となる細胞集団の各種シグナルが設定された蛍光threshold値を下回る場合、コントロールサンプルまたは測定対象サンプルの各種シグナル値が機器で正常に測定できる限界値を下回る、または上回る場合、などである。
【0095】
(免疫抑制活性測定)
本開示の細胞は、免疫抑制活性を有し得る。免疫抑制活性は、種々の手法で測定することができる。
【0096】
一実施形態において、実施例に記載されるように、レスポンダーT細胞が起こす免疫反応による細胞増殖を測定することで抑制されるかを判定することができる。このほか、種々のキットを用いることができ、Treg免疫抑制アッセイ(horizon discovery;https://www.horizondiscoverykk.com/products/research-services/immune-cell-based-assay/immune-suppression-assays/#Treg)などを用いることができるがこれに限定されない。本開示の細胞が有する免疫抑制活性は、従来のiTregよりも増強されていてもよい。
【0097】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0098】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えばGeneArt、GenScript、Integrated DNA Technologies(IDT)などの遺伝子合成やフラグメント合成サービスを用いることもでき、その他、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). T he Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0099】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0100】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0101】
以下の実施例において、グルタミン不含RPMI1640(10% FCS (v/v), 60 μg/mL penicillin G, 100 μg/mL streptomycin, 10 mM HEPESを含有)を基礎培地として用いた。必要に応じて30~300mg/LのL-グルタミンを培地に添加して使用した。
【0102】
バイサルファイトシーケンス
誘導された細胞よりゲノムDNAを取得し、MethylEasy Xceed Rapid DNA Bisulphite Modification Kit (Human Genetic Signatures)を用いて処理後、制御性T細胞に特徴的な遺伝子の脱メチル化について、調べた。各遺伝子の脱メチル化の解析は、既知の方法およびプライマーを用いた(Floess et al.(2007) PloS Biology Volume 5, Issue 2, e38、およびOhkura et al.(2012) Immunity 37(5) 785-799)。
【0103】
また、ヒトFoxp3 CNS2領域の解析においてはフォワード側に5'-TTGGGTTAAGTTTGTTGTAGGATAG-3'(配列番号1)、リバース側に5'-ATCTAAACCCTATTATCACAACCCC-3'(配列番号2)を用いた。
【0104】
各T細胞の画分の取得
ヒトCD4 +T細胞を健常人のPBMCより単離した。濃縮したPBMCから、CliniMACS CD4 GMP MicroBeadsを用いて製品プロトコルに従い精製した。
【0105】
(実施例1:CD4陽性ヒト末梢T細胞からの制御性T細胞の製造)
CD4陽性T細胞を、抗CD3抗体(10μg/ml濃度の抗体をウェル当たり100μL添加し、室温で60分間静置することで容器へ固相化)、hIL-2(100U/ml)、hTGFβ1(10ng/ml)、レチノイン酸(1μM)、SenexinA(5μM)を含む基礎培地で3日間刺激した。その後hIL-2(100U/ml)を含む基礎培地で2日間休眠培養した。2日後に同様に培地交換し、さらに2日間休眠培養した。2日後に再度抗CD3抗体(10μg/ml濃度の抗体をウェル当たり100μL添加し、室温で60分間静置することで容器へ固相化)、hIL-2(100U/ml)、h TGFβ1(10ng/ml)、レチノイン酸(1μM)、SenexinA(5μM)、アスコルビン酸(10μg/ml)を含む基礎培地で2日間刺激した。その後hIL-2(100U/ml)を含む基礎培地で2日間休眠培養した。2日後に同様に培地交換し、さらに2日間休眠培養した。2日後に得られた制御性T細胞のFoxP3、CTLA4、Heliosの発現をフローサイトメトリー法により解析した(図1)。
【0106】
従来の誘導性制御性T細胞(conventional iTreg)では機能的分子(例えば、この場合CTLA4)の発現が不十分であり、FoxP3誘導効率も低い。一方で内在性制御性T細胞(nTreg)ではCTLA4、FoxP3を発現しており、nTregマーカー分子として代表的なHeliosを発現している。本願の作成法で得られた高機能な誘導性制御性T細胞はHelios陰性であり、FoxP3およびCTLA4を発現する細胞を多く含む集団であることが確認できる。Heliosは体内に内在する制御性T細胞のマーカーであり、Heliosが陰性であることは、誘導性制御性T細胞であることを示す。従来の方法で得られた誘導性制御性T細胞は、一例としてCTLA4が陰性であることから、少なくともCTLA4が陽性である点で、得られた誘導性制御性T細胞はin vitroで新規に誘導された誘導性制御性T細胞であることが分かる。
【0107】
また、同じ実験系で培養した細胞の脱メチル化状態をバイサルファイトシーケンス法による確認した(図2)。本開示の作成法で得られた誘導性制御性T細胞はnTregと類似した脱メチル化状態を示している。
【0108】
以上の実施例より得られた誘導性制御性T細胞は内在性nTregとは異なりin vitroで新規に誘導された制御性T細胞でありながら、高い誘導効率、高いCTLA4発現、FOXP3 CNS2領域の脱メチル化を有する既存の誘導性制御性T細胞にない特徴を持つ細胞であることが示されている。
【0109】
(実施例2:制御性T細胞のIn vitro抑制活性)
実施例1と同じ実験系により制御性T細胞を得た。Cell Trace Violet標識したレスポンダーT細胞(5x10)、作製した制御性T細胞(5x10)を、Treg Suppression Inspector(Miltenyi Biotec)(5μL/well)存在下で3日間混合培養し、Cell Trace Violet強度をフローサイトメトリー法で解析した。レスポンダーT細胞が免疫反応を起こすと細胞増殖のためにCell Trace Violet強度は複数の弱いピークを示すが、この免疫反応が抑制されるとCell Trace Violet強度は単独の強いピークのまま保持される。本開示の作成法で得られた制御性T細胞は、レスポンダーT細胞の免疫反応を強く抑制することが確認された。したがって、得られた制御性T細胞は既存の制御性T細胞集団に比べて高い抑制機能を持つことが確認された(図3)。
【0110】
(実施例3:制御性T細胞の網羅的遺伝子発現解析)
実施例1の方法で作製した制御性T細胞の遺伝子発現パターンをRNAシーケンス法により確認した(図4)。RNAシーケンスは既知の方法を用いて行った(Kitagawa et al.(2017) Nat. Immunol. 18, 173-183)。FOXP3、IL-2RA(CD25)、およびTregの主要な抑制性分子(CTLA4など)の遺伝子は、既存の誘導性制御性T細胞および活性化Tconv細胞に比較して、本開示の作製法で得られた誘導性制御性T細胞およびnTreg細胞で高い発現が確認できた。また、誘導性制御性T細胞ではnTreg細胞のマーカーであるIKZF2の発現が低いことを確認した。本開示の作製法で得られた誘導性制御性T細胞は他の制御性T細胞集団と比較して、ENTPD1、NT5E、AREGなどいくつかの抑制性分子発現が高いことが確認できる。また、ITGAEなどの接着分子、CCR4などのケモカイン受容体発現が高いことが確認できる(図4)。
【0111】
例としてITGAEがコードするCD103分子の発現をフローサイトメトリー法で解析すると、本願の作製法で得られた誘導性制御性T細胞は他の制御性T細胞集団と比較して、CD103発現が高いことが確認できる(図5)。総合的な考察として、本願の作製法で得られた誘導性制御性T細胞は既存の制御性T細胞と比較して、高い抑制能を発揮することが期待できる。
【0112】
(実施例4:CD8陽性ヒト末梢T細胞からの制御性T細胞の製造)
CD8陽性T細胞を、抗CD3抗体(10μg/ml濃度の抗体をウェル当たり100μL添加し、室温で60分間静置することで容器へ固相化)、hIL-2(100U/ml)、hTGFβ1(10ng/ml)、レチノイン酸(1μM)、SenexinA(5μM)を含む基礎培地で3日間刺激した。その後hIL-2(100U/ml)を含む基礎培地で2日間休眠培養した。2日後に同様に培地交換し、さらに2日間休眠培養した。2日後に再度抗CD3抗体(10μg/ml濃度の抗体をウェル当たり100μL添加し、室温で60分間静置することで容器へ固相化)、hIL-2(100U/ml)、hTGFβ1(10ng/ml)、レチノイン酸(1μM)、SenexinA(5μM)、アスコルビン酸(10μg/ml)を含む基礎培地で2日間刺激した。その後hIL-2(100U/ml)を含む基礎培地で2日間休眠培養した。2日後に同様に培地交換し、さらに2日間休眠培養した。2日後に得られた制御性T細胞のFoxP3、CTLA4、Heliosの発現をフローサイトメトリー法により解析した(図6)。
【0113】
CD8陽性T細胞から作成した本開示の誘導性制御性T細胞についても、Helios陰性であり、FoxP3およびCTLA4を発現する細胞を多く含む集団であることが確認できた。
【0114】
(実施例5:ヒト末梢T細胞からの誘導性制御性T細胞の製造)
ヒト末梢T細胞を用いて、実施例1と同じようにして誘導性制御性T細胞またはその細胞集団を得る。この誘導性制御性T細胞またはその細胞集団と担体とを含む医薬を製造する。この医薬は誘導性制御性T細胞またはその細胞集団として約2x10個の細胞を含み、炎症疾患患者に投与してから1ヶ月後に回収した組織における炎症の程度から、有効性を確認することができる。
【0115】
(実施例6:製剤例)
実施例1と同じようにして誘導性制御性T細胞またはその細胞集団を得る。この誘導性制御性T細胞またはその細胞集団を担体とを含む医薬を製造する。
【0116】
(実施例7:発現強度解析)
実施例1で製造した誘導性制御性T細胞の細胞集団について、CD25とFOXP3の発現強度をBD FACSLyric フローサイトメーターを用いたフローサイトメトリー法により解析した。結果を図7に示す。
試験したすべての細胞において、FOXP3Hiの誘導性制御性T細胞の細胞集団が高い割合で存在していることが確認できた。
【0117】
(実施例8:誘導性制御性T細胞の抗体パネル解析)
実施例1で製造した誘導性制御性T細胞における細胞表面マーカーを網羅的に解析するため、抗体パネル解析を行った。BioLegendのLEGENDScreen Human PE Kitを用いて、実施例1で製造した誘導性制御性T細胞を染色し、本開示の誘導性制御性T細胞に反応する抗体をフローサイトメトリー法により解析した。結果の一部(明確かつ有意義な発現を確認できたもの)を表1~4に示す。
400種類弱を含む抗体パネルによって染色したところ、少なくとも185種類の表面マーカー分子によって本開示の誘導性制御性T細胞における細胞表面マーカーの陽性/陰性の特徴を確認することができた。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
(実施例9:誘導性制御性T細胞における細胞表面マーカー解析)
実施例8で実施した抗体スクリーニングの結果のうち特徴的なものを図8に示す。
本開示の誘導性制御性T細胞では、CD172g及びCD26など特有の細胞表面マーカーが陽性となっていることがわかった。
【0123】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2021年11月24日に出願された特願2021-190127に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本開示の誘導性制御性T細胞および/または細胞集団は様々な免疫疾患、自己免疫病などの炎症性疾患の治療や予防のために用いることができる。また本開示の誘導性制御性T細胞および/または細胞集団を作製する方法により末梢T細胞から高い機能性を持つ制御性T細胞を安定に誘導することが可能となり、医療分野への応用が期待できる。
【配列表フリーテキスト】
【0125】
配列番号1:実施例において用いたフォワードプライマー
配列番号2:実施例において用いたリバースプライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2024-12-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FoxP3陽性およびCTLA4陽性であって、Helios陰性である誘導性制御性ヒトT細胞が、その50%以上を占める、誘導性制御性ヒトT細胞の細胞集団
【請求項2】
前記誘導性制御性ヒトT細胞は、CD172g陽性、CD26陽性、NT5E陽性、ITGAE(CD103)陽性およびAREG陽性からなる群より選択される少なくとも1つ特徴を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
FOXP3遺伝子のCNS2部位が脱メチル化されている、請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項4】
前記誘導性制御性ヒトT細胞は、少なくとも約2週間にわたって免疫抑制活性または免疫抑制作用が維持される、請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項5】
前記誘導性制御性ヒトT細胞は、CD4陽性である、請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項6】
(a)ヒト末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程とを含む、方法であって、
前記第一の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β、IL-2、レチノイン酸、およびCDK8/19阻害剤を含み、
前記第二の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β、IL-2、レチノイン酸、アスコルビン酸、およびCDK8/19阻害剤を含む、方法によって生産される誘導性制御性ヒトT細胞の細胞集団。
【請求項7】
前記第一の基礎培地に含まれるCDK8/19阻害剤がSenexinAまたはAS2863619を含む、請求項6に記載の細胞集団。
【請求項8】
前記第一の基礎培地および前記第二の基礎培地に含まれるTGF-βが、TGF-β1を含む、請求項6に記載の細胞集団。
【請求項9】
前記第二の基礎培地に含まれるCDK8/19阻害剤がSenexin AまたはAS2863619を含む、請求項6に記載の細胞集団。
【請求項10】
(a)ヒト末梢血中のCD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、第一の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(b)工程(a)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程と、(c)工程(b)で得られた細胞を、第二の基礎培地で約1~約5日間刺激する工程と、(d)工程(c)で得られた細胞を、IL-2を含む培地で少なくとも約1~約3日間休眠培養する工程とを含む、方法であって、
前記第一の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、およびSelexinA、を含み、
前記第二の基礎培地が、抗CD3抗体、TGF-β1、IL-2、レチノイン酸、SelexinA、およびアスコルビン酸を含む、方法によって生産される誘導性制御性ヒトT細胞の細胞集団。
【請求項11】
工程(a)が、前記CD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞を、前記第一の基礎培地で約3日間刺激する、請求項6に記載の細胞集団。
【請求項12】
工程(b)が、工程(a)で得られた細胞を、前記IL-2を含む培地で少なくとも約2日間休眠培養する、請求項11に記載の細胞集団。
【請求項13】
工程(c)が、工程(b)で得られた細胞を、前記第二の基礎培地で約3日間刺激する、請求項12に細胞集団。
【請求項14】
工程(d)が、工程(c)で得られた細胞を、前記IL-2を含む培地で少なくとも約2日間休眠培養する、請求項13に記載の細胞集団。
【請求項15】
請求項1、6または10に記載の細胞集団を含む医薬。
【請求項16】
請求項1、6または10に記載の細胞集団を含む再生医療用材料または製品。