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  • 特開-ポリペプチド化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004189
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】ポリペプチド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/06 20060101AFI20250106BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20250106BHJP
   C07K 1/18 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C07K1/06
C07K1/02
C07K1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024177370
(22)【出願日】2024-10-09
(62)【分割の表示】P 2023574848の分割
【原出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2022073475
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】服部 倫弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長を連続的に実施し、所望のペプチド鎖を効率的に合成する方法を提供する。
【解決手段】電子求引性置換基を有する一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基TaによってC末端がエステル化されたN末端保護アミノ酸又はペプチドエステルを求電子性化合物として用い、これを求核性化合物であるアミノ酸若しくはペプチド又はそのエステルと混合してペプチド結合反応させた後、反応により得られたN末端保護アミノ酸又はペプチドのN末端を脱保護し、続いて脱保護されたアミノ酸又はペプチドを求核性化合物として再度、求電子性化合物とのペプチド結合反応に供することで、ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長を連続的に実施することができ、所望のペプチド鎖を効率的に合成することが可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド化合物を製造する方法であって、
(i)下記式(R1)で表されるN末端保護アミノ酸エステル又はペプチドエステル化合物の式中右側の置換カルボキシル基と、下記式(R2)で表されるアミノ酸若しくはペプチド又はアミノ酸エステル若しくはペプチドエステル化合物の式中左側のアミノ基との間にアミド結合を形成させることにより、下記式(S1)で表されるN末端保護ペプチド化合物を取得し、
(ii)工程(i)において得られた式(S1)の化合物のN末端を脱保護することにより、下記式(P1)で表されるペプチド化合物を取得し、
(iii)工程(ii)において得られた式(P1)の化合物を、工程(i)の式(R2)の化合物として用い、工程(i)及び(ii)を繰り返し実施することにより、アミド化によるペプチド鎖の伸長を行う
ことを含む製造方法。
【化1】
式(R1)中、
は、1又は2以上の電子求引性置換基を有する一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基を表し、
PGは、一価の保護基を表し、
11及びR12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
13は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R11とR13とが互いに結合して、R11が結合する炭素原子及びR13が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
11及びA12は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p11及びp12は、各々独立に、0又は1を表し、
は、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、nが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化2】
式(R2)中、
は、水素原子又は一価の置換基を表し、
21及びR22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
23は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R21とR23とが互いに結合して、R21が結合する炭素原子及びR23が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
21及びA22は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p21及びp22は、各々独立に、0又は1を表し、
は、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、nが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化3】
式(S1)中、
PG、R11、R12、R13、A11、A12、p11、p12、及びnは、前記式(R1)における定義と同じ基を表し、
21、R22、R23、A21、A22、p21、p22、n、及びTは、前記式(R2)における定義と同じ基を表す。
【化4】
式(P1)中、
11、R12、R13、A11、A12、p11、p12、及びnは、前記式(R1)における定義と同じ基を表し、
21、R22、R23、A21、A22、p21、p22、n、及びTは、前記式(R2)における定義と同じ基を表す。
【請求項2】
工程(i)及び工程(ii)がフロー反応として連続的に実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(i)の反応において、式(R1)の化合物と式(R2)の化合物とが略等モル比で使用される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(R1)の基Tが、ハロゲン原子、ハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アルコキシ基、ニトロ基、アセチル基、エステル基、スルホン酸エステル基、及びアミド基から選択される1又は2以上の置換基を有する芳香族炭化水素基から選択される基である、請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
式(R1)の保護基PGが、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基、アシル基、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素スルホニル基、及びアミド基から選択される基である、請求項1~4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(ii)における式(S1)のN末端保護基の脱保護が、塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムに式(S1)の化合物を通過させることにより実施される、請求項1~5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
塩基性イオン交換樹脂が、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)系樹脂、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(DBN)系樹脂、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)系樹脂、ピペラジン系樹脂、ジメチルアミノピリジン系樹脂、及びアンモニウム系樹脂から選択される樹脂である、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチド化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペプチドに代表されるアミド化合物は、医薬品、化粧品、機能性食品をはじめ、幅広い分野で利用されており、その合成法の開発は、合成化学における重要な研究課題として精力的に実施されてきた(非特許文献1~3)。しかし、そのペプチド合成に最も重要であるアミド化にはカルボン酸活性化剤の他には、真に有効な触媒や反応剤が殆ど存在していない。そのため、大量の副生成物を生ずる反応様式を用いざるを得ず、しかも多段階の反応を繰り返すペプチド合成はアトム・エコノミー(原子収率)の観点から極めて非効率な合成であり、副生成物は膨大な量となり、また、有効な精製手段も少ない。その結果、副生成物の廃棄と精製にかかるコストがペプチド合成の殆どの必要経費を占め、この分野の発展における最大障壁の一つとなっている。
【0003】
アミノ酸又はその誘導体を原料とするペプチド合成では、高立体選択的にアミド化を行うことが求められる。高立体選択的なアミド化としては、生体内での酵素反応が挙げられる。例えば、生体内では、酵素と水素結合を巧みに利用して、極めて高立体選択的にペプチドを合成している。しかしながら、酵素反応は、大量生産には不向きであり、合成化学に適用すると、膨大な金銭的・時間的なコストが必要となる。
【0004】
合成化学においても、触媒を用いたアミド化が検討されているが、従来の手法では、主にカルボン酸を活性化する手法によりアミド結合を形成しているため、ラセミ化の進行が早く、高立体選択的且つ効率的にアミド化合物を合成することは困難である。
【0005】
また、従来の方法では、複数のアミノ酸又はその誘導体が連結されてなるペプチドに、更にアミノ酸又はその誘導体をアミド結合によりライゲーション(Chemical Ligation)することや、二以上のペプチドをアミド結合によりライゲーションすることは、極めて困難である。斯かるペプチドに対するライゲーションのためのアミド化法としては、硫黄原子を有するアミノ酸を用い、硫黄原子の高い反応性を利用してライゲーションを行う方法(非特許文献4)や、アミノ酸のヒドロキシアミンを合成し、ヒドロキシアミンの高い反応性を利用してライゲーションを行う方法(非特許文献5)が知られているが、前者は硫黄原子を有するアミノ酸の合成が難しく、後者は数工程に亘るヒドロキシアミン合成が別途必要となるため、何れも時間・費用がかかり、効率性の面で難がある。
【0006】
本発明者等は、β位にヒドロキシ基を有するカルボン酸/エステル化合物を特定の金属触媒の存在下でアミド化する方法(特許文献1)、アミノ酸前駆体としてヒドロキシアミノ/イミノ化合物を用い、これを特定の金属触媒の存在下でアミド化した後、特定の金属触媒の存在下で還元する方法(特許文献2)、カルボン酸/エステル化合物を特定の金属触媒の存在下でアミド化する方法(特許文献3)等により、高化学選択的にアミド化合物を合成する技術を開発している。更には、N末端保護アミノ酸・ペプチドのカルボキシル基と、C末端保護アミノ酸・ペプチドのアミノ基を、特定のシリル化剤(及び任意により併用されるルイス酸触媒)の存在下でアミド反応させた後、脱保護することにより、種々のアミノ酸残基からなるペプチドを高効率・高選択的に合成する技術(特許文献4)や、、N末端保護若しくは無保護アミノ酸・ペプチドのカルボキシル基と、C末端保護若しくは無保護アミノ酸・ペプチドのアミノ基を、特定のシリル化剤の存在下でアミド反応させた後、脱保護することにより、種々のアミノ酸残基からなるペプチドを高効率・高選択的に合成する技術(特許文献5、6)、ブレンステッド酸を触媒として用いてアミド化反応を行う技術(特許文献7)、新規のシラン含有縮合環ジペプチド化合物と、それを用いたペプチドの新規な合成方法(特許文献8)、更にはラクタムの位置選択的C-N結合開裂による新規なペプチド合成法(非特許文献6)も開発している。
【0007】
今般、ペプチドを安価で効率的かつ速やかに合成する手法の確立がより一層求められている。特に、斯かるペプチド合成をフロー反応により連続的に実施できれば、反応過程の溶媒の処理や化合物の精製の段階を省略できるとともに、必要に応じて反応中間体をモニタリングすることもでき、更には全ての操作を自動で実施することも可能となる。
【0008】
しかし、ペプチド結合形成反応は、通常のアミド化反応と比較して反応性が低く、流路内で反応を完結することが困難である。また、従来のペプチド合成反応には不可欠であった縮合剤の使用は、フロー経路内での目詰まりの要因となる。更には、前段で混入した未反応のアミノ酸が、後段でのアミド化反応の対象となるアミノ酸と意図せず反応してしまう等、不所望の副反応が併発してしまう場合もある。このため、ペプチド合成反応をフロー反応により連続的に実施することは、従来は極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2017/204144号
【特許文献2】国際公開第2018/199146号
【特許文献3】国際公開第2018/199147号
【特許文献4】国際公開第2019/208731号
【特許文献5】国際公開第2021/085635号
【特許文献6】国際公開第2021/085636号
【特許文献7】国際公開第2021/149814号
【特許文献8】国際公開第2022/190486号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chem. Rev., 2011, Vol.111, p.6557-6602
【非特許文献2】Org. Process Res. Dev., 2016, Vol.20, No.2, p.140-177
【非特許文献3】Chem. Rev., 2016, Vol.116, p.12029-12122
【非特許文献4】Science, 1992, Vol.256, p.221-225
【非特許文献5】Angew. Chem. Int. Ed., 2006, Vol.45, p.1248-1252
【非特許文献6】Chem. Sci., (2022), Vol.13, pp.6309-6315
【非特許文献7】Chem. Eur. J., 2019, Vol.25, p.15759-15764
【非特許文献8】J. Med. Chem., 2001, Vol.44, p.3896-3903
【非特許文献9】Org. Biomol. Chem., 2003, Vol.1, p.965-972
【非特許文献10】J. Org. Chem., 1995, 60, 6, 1733-1740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上の背景から、ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長を連続的に実施し、所望のペプチド鎖を効率的に合成することが可能な方法が求められていた。本発明は、斯かる課題に鑑みなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、電子求引性置換基を有する一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基TによってC末端がエステル化されたN末端保護アミノ酸又はペプチドエステル(R1)を求電子性化合物として用い、これを求核性化合物であるアミノ酸若しくはペプチド又はそのエステル(R2)と混合してペプチド結合反応させた後、反応により得られたN末端保護アミノ酸又はペプチド(S1)のN末端を脱保護し、続いて脱保護されたアミノ酸又はペプチド(P1)を求核性化合物(R2)として再度、求電子性化合物(R1)とのペプチド結合反応に供することで、ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長を連続的に実施することができ、所望のペプチド鎖を効率的に合成することが可能となることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明の趣旨は、以下に存する。
[項1]ポリペプチド化合物を製造する方法であって、
(i)下記式(R1)で表されるN末端保護アミノ酸エステル又はペプチドエステル化合物の式中右側の置換カルボキシル基と、下記式(R2)で表されるアミノ酸若しくはペプチド又はアミノ酸エステル若しくはペプチドエステル化合物の式中左側のアミノ基アミノ基との間にアミド結合を形成させることにより、下記式(S1)で表されるN末端保護ペプチド化合物を取得し、
(ii)工程(i)において得られた式(S1)の化合物のN末端を脱保護することにより、下記式(P1)で表されるペプチド化合物を取得し、
(iii)工程(ii)において得られた式(P1)の化合物を、工程(i)の式(R2)の化合物として用い、工程(i)及び(ii)を繰り返し実施することにより、アミド化によるペプチド鎖の伸長を行う
ことを含む製造方法。
【化1】
式(R1)中、
は、1又は2以上の電子求引性置換基を有する一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基を表し、
PGは、一価の保護基を表し、
11及びR12は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
13は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R11とR13とが互いに結合して、R11が結合する炭素原子及びR13が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
11及びA12は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p11及びp12は、各々独立に、0又は1を表し、
は、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、nが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化2】
式(R2)中、
は、水素原子又は一価の置換基を表し、
21及びR22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、一価の芳香族炭化水素基、若しくは一価の複素環式基を表し、
23は、水素原子、カルボキシル基、水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、若しくは複素環式基を表し、ここで、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は複素環式基の場合は、連結基を介して窒素原子に結合していてもよく、
或いは、R21とR23とが互いに結合して、R21が結合する炭素原子及びR23が結合する窒素原子と共に、1又は2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、
21及びA22は、各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表し、
p21及びp22は、各々独立に、0又は1を表し、
は、1以上の整数であり、かつ、[ ]内の構造で表される構成単位の数を表す。但し、nが2以上である場合は、[ ]内の構造で表される複数の構成単位は各々同一でもよく、異なっていてもよい。
【化3】
式(S1)中、
PG、R11、R12、R13、A11、A12、p11、p12、及びnは、前記式(R1)における定義と同じ基を表し、
21、R22、R23、A21、A22、p21、p22、n、及びTは、前記式(R2)における定義と同じ基を表す。
【化4】
式(P1)中、
11、R12、R13、A11、A12、p11、p12、及びnは、前記式(R1)における定義と同じ基を表し、
21、R22、R23、A21、A22、p21、p22、n、及びTは、前記式(R2)における定義と同じ基を表す。
[項2]工程(i)及び工程(ii)がフロー反応として連続的に実施される、項1に記載の製造方法。
[項3]工程(i)の反応において、式(R1)の化合物と式(R2)の化合物とが略等モル比で使用される、項1又は2に記載の製造方法。
[項4]式(R1)の基Tが、ハロゲン原子、ハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アルコキシ基、ニトロ基、アセチル基、エステル基、スルホン酸エステル基、及びアミド基から選択される1又は2以上の置換基を有する芳香族炭化水素基から選択される基である、項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
[項5]式(R1)の保護基PGが、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基、アシル基、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素スルホニル基、及びアミド基から選択される基である、項1~4の何れか一項に記載の製造方法。
[項6]工程(ii)における式(S1)のN末端保護基の脱保護が、塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムに式(S1)の化合物を通過させることにより実施される、項1~5の何れか一項に記載の製造方法。
[項7]塩基性イオン交換樹脂が、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)系樹脂、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(DBN)系樹脂、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)系樹脂、ピペラジン系樹脂、ジメチルアミノピリジン系樹脂、及びアンモニウム系樹脂から選択される樹脂である、項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長を連続的に実施し、所望のペプチド鎖を効率的に合成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、フロー反応による本発明の製造方法の好適な態様を使用して、HN-AA-AAn-1-(・・・)-AA-AA-O-tBuというアミノ酸配列からなるポリペプチド(ここでAA、AA、・・・AAn-1、AAはそれぞれアミノ酸残基を表す。)を合成する場合の製造手順を模式的に示す図である。なお、式(R1)のT基としてはペンタフルオロフェニル(Pfp)基を、PG基としてはFmoc基を、式(R2)のT基としてはt-ブチル(tBu)基を用いている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0017】
なお、本開示で引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許文献は、何れもその全体が援用により、あらゆる目的において本開示に組み込まれるものとする。
【0018】
[I.用語の定義]
本開示において「アミノ酸」とは、カルボキシル基及びアミノ基を有する化合物を意味する。別途明示しない限り、アミノ酸の種類は特に限定されない。例えば、光学異性の観点からは、D体でもL体でもラセミ体でもよい。また、カルボキシル基とアミノ基との相対位置の観点からは、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸、ω-アミノ酸等の何れであってもよい。アミノ酸の例としては、これらに限定されるものではないが、タンパク質を構成する天然アミノ酸等が挙げられ、具体例としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン等が挙げられる。
【0019】
本開示において「ペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合を介して連結された化合物を意味する。別途明示しない限り、ペプチドを構成する複数のアミノ酸単位は、互いに同じ種類のアミノ酸単位であってもよく、二種類以上の異なるアミノ酸単位であってもよい。ペプチドを構成するアミノ酸の数は、2以上であれば特に制限されない。例としては、2(「ジペプチド」ともいう)、3(「トリペプチド」ともいう)、4(「テトラペプチド」ともいう)、5(「ペンタペプチド」ともいう)、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、100、又はそれ以上が挙げられる。また、トリペプチド以上のペプチドを指して「ポリペプチド」という場合もある。
【0020】
本開示において「アミノ基」とは、アンモニア、第一級アミン、又は第二級アミンから水素を除去して得られる、それぞれ式-NH、-NRH、又は-NRR’(但しR及びR’はそれぞれ置換基を意味する。)で表される官能基を意味する。
【0021】
本開示において、別途明示しない限り、炭化水素基は、脂肪族でも芳香族でもよい。脂肪族炭化水素基は鎖状でも環状でもよい。鎖状炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。環状炭化水素基は、単環式でも橋かけ環式でもスピロ環式でもよい。炭化水素基は、飽和でもよいが、不飽和でもよく、言い換えれば、一又は二以上の炭素-炭素二重結合及び/又は三重結合を含んでいてもよい。即ち、炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基等を含む概念である。なお、別途明示しない限り、炭化水素基の一又は二以上の水素原子が、任意の置換基で置換されていてもよく、炭化水素基の一又は二以上の炭素原子が、価数に応じた任意のヘテロ原子に置き換えられていてもよい。
【0022】
本開示において「炭化水素オキシ基」とは、前記定義の炭化水素基がオキシ基(-O-)の一方の結合手に連結された基を意味する。即ち、炭化水素オキシ基は、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基等を含む概念である。
【0023】
本開示において「炭化水素カルボニル基」とは、前記定義の炭化水素基がカルボニル基(-C(=O)-)の一方の結合手に連結された基を意味する。即ち、炭化水素カルボニル基は、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、シクロアルキルカルボニル基、シクロアルケニルカルボニル基、シクロアルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基等を含む概念である。
【0024】
本開示において「炭化水素スルホニル基」とは、前記定義の炭化水素基がスルホニル基(-S(=O)-)の一方の結合手に連結された基を意味する。即ち、炭化水素スルホニル基は、アルキルスルホニル基、アルケニルスルホニル基、アルキニルスルホニル基、シクロアルキルスルホニル基、シクロアルケニルスルホニル基、シクロアルキニルスルホニル基、アリールスルホニル基等を含む概念である。
【0025】
本開示において「複素環式基」は、飽和でもよいが、不飽和でもよく、言い換えれば、一又は二以上の炭素-炭素二重結合及び/又は三重結合を含んでいてもよい。また、複素環式基は単環式でも橋かけ環式でもスピロ環式でもよい。また、複素環式基の複素環構成原子に含まれるヘテロ原子は制限されないが、例としては窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素等が挙げられる。
【0026】
本開示において「複素環オキシ基」とは、前記定義の複素環式基がオキシ基(-O-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0027】
本開示において「複素環カルボニル基」とは、前記定義の複素環式基がカルボニル基(-C(=O)-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0028】
本開示において「複素環スルホニル基」とは、前記定義の複素環式基がスルホニル基(-S(=O)-)の一方の結合手に連結された基を意味する。
【0029】
本開示において(1又は2以上の置換基を有していてもよい)「メタロキシ基」とは、式(R)-M-O-で表される基を意味する。なお、式中、Mは、任意の金属元素を意味し、Rは、任意の置換基を意味し、nは、金属元素Mの配位数に応じて取り得る0以上8以下の整数を意味する。
【0030】
本開示において「置換基」とは、各々独立に、別途明示しない限り、本発明の製造方法におけるアミド化工程が進行すれば特に制限されず、任意の置換基を意味する。例としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、炭化水素基、複素環式基、炭化水素オキシ基、炭化水素カルボニル基(アシル基)、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素カルボニルオキシ基、炭化水素置換アミノ基、炭化水素置換アミノカルボニル基、炭化水素カルボニル置換アミノ基、炭化水素置換チオール基、炭化水素スルホニル基、炭化水素オキシスルホニル基、炭化水素スルホニルオキシ基、複素環オキシ基、複素環カルボニル基、複素環オキシカルボニル基、複素環カルボニルオキシ基、複素環アミノ基、複素環アミノカルボニル基、複素環カルボニル置換アミノ基、複素環置換チオール基、複素環スルホニル基、複素環オキシスルホニル基、複素環スルホニルオキシ基等が挙げられる。また、これらの官能基が、その価数及び物理化学的性質が許容する限りにおいて、更にこれらの官能基により置換された官能基も、本開示における「置換基」に含まれるものとする。なお、ある官能基が置換基を有する場合、その個数は、その価数及び物理化学的性質が許容する限りにおいて、特に限定されない。また、複数の置換基が存在する場合、これらの置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
本開示において使用する主な略語を以下の表1-1及び表1-2に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0032】
本開示において、アミノ酸及びその残基は、当業者に周知の三文字略称で表す場合がある。本開示において使用する主なアミノ酸の三文字略称を以下の表に示す。
【表2】
【0033】
本開示において、β-ホモアミノ酸及びその残基は、対応するα-アミノ酸の三文字略称の前に「Ho」を付して表す場合がある。
【0034】
[II.ポリペプチド化合物の製造方法]
・概要
本発明の一側面は、ポリペプチド化合物を製造する方法であって、少なくとも以下の工程(i)~(iii)を含む製造方法(以降適宜「本発明のペプチド化合物の製造方法」或いは単に「本発明の製造方法」と称する。)に関する。
(i)下記式(R1)で表されるN末端保護アミノ酸又はペプチド化合物の式中右側のT置換カルボニル基と、下記式(R2)で表されるアミノ酸若しくはペプチド又はアミノ酸エステル若しくはペプチドエステル化合物の式中左側のアミノ基アミノ基との間にアミド結合を形成させることにより、下記式(S1)で表されるN末端保護ペプチド化合物を取得する(アミド結合形成反応、縮合反応)。
(ii)工程(i)において得られた式(S1)の化合物のN末端を脱保護することにより、下記式(P1)で表されるペプチド化合物を取得する(脱保護反応)。
(iii)工程(ii)において得られた式(P1)の化合物を、工程(i)の式(R2)の化合物として用い、工程(i)及び(ii)を繰り返し実施することにより、アミド化によるペプチド鎖の伸長を行う。
【0035】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0036】
即ち、本発明の製造方法では、電子求引性置換基を有する芳香族炭化水素基又は複素環式基TによってC末端がエステル化されたN末端保護アミノ酸又はペプチドエステル(R1)を求電子性化合物として用い、これを求核性化合物であるアミノ酸若しくはペプチド又はそのエステル(R2)と混合してペプチド結合形成(縮合反応)させ(工程(i))、反応により得られたN末端保護アミノ酸又はペプチド(S1)のN末端を脱保護し(工程(ii))、続いて脱保護されたアミノ酸又はペプチド(P1)を求核性化合物(R2)として再度、求電子性化合物(R1)とのペプチド結合反応に供する(工程(iii))。以上を繰り返すことにより、ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長を連続的に実施することができ、所望のペプチド鎖を効率的に合成することが可能となる。
【0037】
特に、本発明の製造方法では、電子求引性置換基を有する芳香族炭化水素基又は複素環式基TによってC末端がエステル化されたN末端保護アミノ酸又はペプチドエステル(R1)を求電子種として用いることで、求電子種アミノ酸の反応性を飛躍的に向上させることができ、求電子種アミノ酸と求核種アミノ酸の使用モル比を1:1に近づけても反応を定量的に進行させることが可能となる。これにより、反応に関与しない余剰のアミノ酸の発生を防ぐことができ、未反応物による副反応を回避することが可能となる。
【0038】
また、本発明の製造方法の好適な態様によれば、求電子種のアミノ酸又はペプチドエステル(R1)のN末端保護基PGとして、塩基性イオン交換樹脂を通過させることにより脱保護可能な特定の保護基を使用することができる。これにより、求電子種であるN末端アミノ酸又はペプチドエステル(R1)と求核種であるアミノ酸又はペプチド(R2)との混合によるペプチド結合反応(工程(i))と、反応で得られたN末端保護アミノ酸又はペプチド(S1)の塩基性イオン交換樹脂による脱保護(工程(ii))を、一連の反応として連続的に実施することが可能となる。更に、脱保護されたアミノ酸又はペプチド(P1)を求核性化合物(R2)として再度、求電子性化合物(R1)とのペプチド結合反応に供し(工程(iii))、以上を繰り返すことにより、ペプチド結合反応によるペプチド鎖の伸長をフロー反応により連続的に実施することができ、所望のペプチド鎖を効率的に合成することが可能となる。
【0039】
なお、従来、アミノ酸のTエステルに該当する化合物を求電子種として用いるペプチド結合形成反応としては、アミノ酸のペンタフルオロフェニルエステル(以下適宜H-AA-O-Pfp)を使用した報告例があり(非特許文献7:J. Med. Chem., 2001, 44, 3896-3903;非特許文献8:Chem. Eur. J., 2019, 25, 15759-15764;非特許文献9:Org. Biomol. Chem., 2003, 1, 965-972;非特許文献10:J. Org. Chem., 1995, 60, 6, 1733-1740)、有用な方法として知られている。しかし、斯かる求電子種アミノ酸を求核種アミノ酸と使用モル比1:1で検討した例はなく、フロー反応への応用例も皆無である。
【0040】
・基質化合物
上記一般式(R1)及び(R2)において、各符号の定義は以下の通りである。
【0041】
11、R12、R21、及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはチオール基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基若しくは複素環式基を表す。なお、これらの基が置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0042】
また、R11、R12、R21、及び/又はR22が、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基又は複素環式基である場合は、斯かる炭化水素基又は複素環式基とそれが結合する炭素原子との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す構造から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0043】
【化9】
【0044】
炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0045】
複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、特に限定はされないが、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0046】
中でも、R11、R12、R21、及びR22としては、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、若しくはハロゲン原子、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アシル基、複素環式基、若しくは複素環オキシ基等であることが好ましい。
【0047】
11、R12、R21、及びR22の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0048】
・水素原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基;
・フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・フェニロキシ基、ベンジロキシ基、ナフチロキシ基等のアリーロキシ基;
・アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、パラメトキシベンゾイル基、シンナモイル基等のアシル基;
・無置換のアミノ基、及び、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、トリフェニルメチルアミノ基等の置換アミノ基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;
・フラニルオキシ基、ピロリルオキシ基、インドリルオキシ基、キノリルオキシ基等の複素環オキシ基;等。
【0049】
なお、上記の基のうち、カルボキシル基を有する基は、保護基を有していてもよいが、いなくてもよい。反応に用いる化合物(R1)と化合物(R2)との反応性により異なるが、上記の基のうち、カルボキシル基を有する基が保護基を有する場合には、通常は化合物(R2)の式中右側のカルボン酸エステル基との反応選択性が、その他の置換基に存在するカルボキシル基との反応選択性よりも向上する。
【0050】
13及びR23は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、若しくは水酸基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基若しくは複素環式基を表す。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0051】
また、R13及び/又はR23が、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基又は複素環式基である場合は、斯かる炭化水素基又は複素環式基とそれが結合する窒素原子との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す構造から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0052】
【化10】
【0053】
炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0054】
複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0055】
中でも、R13及びR23としては、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、若しくはカルボキシル基、又は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アシル基、複素環式基、若しくは複素環オキシ基等であることが好ましい。
【0056】
13及びR23の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0057】
・水素原子、水酸基、カルボキシル基;
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;等。
【0058】
なお、R11とR13とが互いに結合して、R11が結合する炭素原子及びR13が結合する窒素原子と共に、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよく、R21とR23とが互いに結合して、R21が結合する炭素原子及びR23が結合する窒素原子と共に、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい複素環を形成していてもよい。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0059】
複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0060】
斯かる複素環の具体例としては、これらに限定されるものではないが、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基等が挙げられる。
【0061】
11、A12、A21、及びA22は、それぞれ独立に、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい炭素数1~3の二価の脂肪族炭化水素基を表す。具体例としては、これらに限定されるものではないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、及びイソプロピレン基等、並びにこれらの基が1又は2以上の前記の置換基で置換された基が挙げられる。置換基の数の具体例は、例えば3、2、1、又は0である。
【0062】
p11、p12、p21、及びp22は、それぞれ独立に、0又は1を表す。
【0063】
は、一般式(R1)の[ ]内のアミノ酸単位の数を表す、1以上の整数である。nが1の場合、化合物(R1)はアミノ酸となり、nが2以上の場合、化合物(R1)はペプチドとなる。nの上限は、アミノ化工程が進行する限りにおいて特に制限されないが、例えば100以下、80以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、12以下、又は10以下等である。nの具体例は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100等である。
【0064】
は、一般式(R2)の[ ]内のアミノ酸単位の数を表す、1以上の整数である。nが1の場合、化合物(R2)はアミノ酸となり、nが2以上の場合、化合物(R2)はペプチドとなる。nの上限は、アミノ化工程が進行する限りにおいて特に制限されず、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10等が挙げられる。
【0065】
なお、言うまでもないことであるが、nが2以上である場合は、[ ]内の構造を規定するR11、R12、R13、A11、A12、p11、及びp12は、複数のアミノ酸単位の間で同一であってもよく、異なっていてもよい。同様に、nが2以上である場合は、[ ]内の構造を規定するR21、R22、R23、A21、A22、p21、及びp22は、複数のアミノ酸単位の間で同一であってもよく、異なっていてもよい。即ち、化合物(R1)及び/又は化合物(R2)がペプチドの場合には、当該ペプチドを構成する複数のアミノ酸単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0066】
化合物(R1)において、Tは、1又は2以上の電子求引性置換基を有する一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基を表す。Tの詳細は後述する。
【0067】
化合物(R2)において、Tは、水素原子又は一価の置換基を表す。一価の置換基の場合、その種類は特に制限されるものではないが、R13及びR23として上述した各基の他、カルボキシル基の保護基(これを以下適宜PGとする)が挙げられる。カルボキシル基の保護基PGとしては、アミド化反応において当該カルボキシル基が反応しないように保護することができ、反応後にこれを脱保護してカルボキシル基に変換可能なものであれば、特に制限されない。カルボキシル基の保護基PGの詳細は後述する。
【0068】
化合物(R2)において、式中左側のアミノ基は、他の酸と塩を形成していてもよい。この場合、他の酸としては、これらに限定されるものではないが、酢酸、プロピオン酸等の炭素数1~5の脂肪族カルボン酸;トリフルオロ酢酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、スルホン酸等が挙げられる。
【0069】
なお、上述の基質化合物(R1)及び(R2)は何れも、一種の化合物を単独で使用してもよく、二種以上の化合物を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0070】
また、上述の基質化合物(R1)又は(R2)の一部又は全部が、何れかの置換基において基板や樹脂等の担体に連結・固定化されていてもよい。この場合、基板や樹脂等の担体の種類は限定されない。本発明の製造方法におけるアミド結合反応を実質的に阻害することなく、且つ、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、従来公知の任意の基板や樹脂等の担体を使用することが可能である。基質化合物と基板や樹脂等の担体との連結・固定化の態様も何ら限定されるものではないが、基質化合物が有する何れかの置換基と、基板や樹脂等の担体上に存在する置換基との間に、共有結合を形成することが好ましい。各置換基の種類や共有結合の形成方法についても何ら限定されない。本発明の製造方法におけるアミド結合反応を実質的に阻害することなく、且つ、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、従来公知の任意の種類の置換基及び共有結合の形成方法を使用することが可能である。なお、基質化合物が有する(アミド結合反応の形成対象となるカルボン酸エステル基又はアミノ基以外の)カルボキシル基又はアミノ基を用いた共有結合により、基質化合物を基板や樹脂等の担体に連結・固定化してもよい。こうした態様は、基質化合物が有する(アミド結合反応の形成対象となるカルボン酸エステル基又はアミノ基以外の)カルボキシル基又はアミノ基を、保護基を導入することにより保護した態様と同様に捉えることが可能である。
【0071】
・求電子性基質化合物(R1)のC末端置換基T
化合物(R1)において、Tは、1又は2以上の電子求引性置換基を有する一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基を表を表す。
【0072】
一価の芳香族炭化水素基としては、制限されるものではないが、例えばフェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。その炭素数は制限されないが、通常は6以上、また、通常14以下、又は10以下である。
【0073】
一価の複素環式基としては、制限されるものではないが、例えばフラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。その環構成元素数は制限されないが、通常は5以上、また、通常14以下、又は10以下である。
【0074】
一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基が有する電子求引性置換基としては、制限されるものではないが、例えば以下を挙げることが出来る。
・ハロゲン原子(例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等、中でも好ましくはフッ素又は塩素等);
・ハロゲン置換アルキル基(前述の各種アルキル基が1又は2以上の前述のハロゲン原子で置換された基);
・ハロゲン置換アルコキシ基(前述の各種ハロゲン置換アルキル基がオキシ基(-O-)に連結された基);
・ニトロ基;
・アセチル基;
・カルボキシ基(-C(=O)-OH);
・カルボキシエステル基(前述の1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族又は芳香族炭化水素基(R)がカルボキシ基(-C(=O)-OH)に連結された基(-C(=O)-O-R));
・スルホキシ基(-S(=O)-OH);
・スルホキシエステル基(前述の1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族又は芳香族炭化水素基(R)がスルホキシ基(-S(=O)-OH)に連結された基(-S(=O)-O-R));
・アミド基(-C(=O)-NH);
置換アミド基(前述の1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の脂肪族又は芳香族炭化水素基(R)が1つ又は2つ、アミド基(-C(=O)-NH)に連結された基(-C(=O)-NRH又は-C(=O)-NR)等。
【0075】
の芳香族炭化水素基又は複素環式基が有する電子求引性置換基の個数は、1又は2以上である。その上限は特に制限されず、一価の芳香族炭化水素基又は複素環式基の種類に応じて決まる上限以下であればよいが、例えば5個以下とすることができる。
【0076】
・アミノ基の保護基:
アミノ基の保護基PGとしては、公知の多種多様のものが知られている。例としては、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の炭化水素基、又は、1若しくは2以上の置換基を有していてもよい一価の複素環式基等が挙げられる。中でも、1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の炭化水素基が好ましい。但し、斯かる炭化水素基又は複素環式基と、それが保護するアミノ基の窒素原子との間に、連結基が介在していてもよい。斯かる連結基は、限定されるものではないが、各々独立に、例えば以下に示す連結基から選択される(なお、下記化学式中、Aは各々独立に、1又は2以上の置換基を有していてもよい一価の炭化水素基又は複素環式基を表す。同一の基の中にAが二つ存在する場合、それらは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)。
【0077】
【化11】
【0078】
保護基の炭素数は、通常1以上、又は3以上、また、通常20以下、又は15以下が挙げられる。
【0079】
中でも、アミノ基の保護基は、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基、アシル基、炭化水素オキシカルボニル基、及び炭化水素スルホニル基、及びアミド基からなる群より選択される1種以上の基であることが好ましい。
【0080】
以下、アミノ基の保護基の具体例を列記する。なお、アミノ基の保護基の名称としては、アミノ基の窒素原子に結合している官能基の名称の他、窒素原子をも含めた名称も存在しており、以下の名称においても両者が含まれている。
【0081】
非置換又は置換の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;エテニル基、プロペニル基、アリル基、等のアルケニル基;プロパルギル基等のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ベンジル基、パラメトキシベンジル基、トリル基、トリフェニルメチル基(トロック基)等のアリール基;シアノメチル基等の置換炭化水素基等が挙げられる。炭素数は、通常1以上、又は3以上、また、通常20以下、又は15以下が挙げられる。
【0082】
非置換又は置換のアシル基の具体例としては、ベンゾイル基(Bz)、オルトメトキシベンゾイル基、2,6-ジメトキシベンゾイル基、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、シンナモイル基、フタロイル基(Phth)等が挙げられる。
【0083】
非置換又は置換の炭化水素オキシカルボニル基の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz又はZ)、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2-トリメチルシリルエトキシカルボニル基、2-フェニルエトキシカルボニル基、1-(1-アダマンチル)-1-メチルエトキシカルボニル基、1-(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-1-メチルエトキシカルボニル基、ビニロキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、N-ヒドロキシピペリジニルオキシカルボニル基、p-メトキシベンジルオキシカルボニル基、p-ニトロベンジルオキシカルボニル基、2-(1,3-ジチアニル)メトキシカルボニル、m-ニトロフェノキシカルボニル基、3,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、o-ニトロベンジルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。
【0084】
非置換又は置換の炭化水素スルホニル基の具体例としては、メタンスルホニル基(Ms)、トルエンスルホニル基(Ts)、2-又は4-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)基等が挙げられる。
【0085】
非置換又は置換のアミド基の具体例としては、アセトアミド、o-(ベンゾイロキシメチル)ベンズアミド、2-[(t-ブチルジフェニルシロキシ)メチル]ベンズアミド、2-トルエンスルホンアミド、4-トルエンスルホンアミド、2-ニトロベンゼンスルホンアミド、4-ニトロベンゼンスルホンアミド、tert-ブチルスルフィニルアミド、4-トルエンスルホンアミド、2-(トリメチルシリル)エタンスルホンアミド、ベンジルスルホンアミド等が挙げられる。
【0086】
また、脱保護の手法の観点からは、水素化による脱保護、弱酸による脱保護、フッ素イオンによる脱保護、一電子酸化剤による脱保護、ヒドラジンによる脱保護、酸素による脱保護等のうち、少なくとも1種の手法により脱保護可能な保護基も、アミノ基の保護基の例として挙げられる。特に、本発明の製造方法では、求電子種のアミノ酸又はペプチドエステル(R1)の末端アミノ基の保護基PGとして、塩基性イオン交換樹脂を通過させることにより脱保護可能な保護基を使用することが好ましい。
【0087】
アミノ基の保護基の好ましい具体例としては、メシル基(Ms)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジル基(Bn又はBzl)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、ベンゾイル基(Bz)、パラメトキシベンジル基(PMB)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、2,4-ジニトロフェニル基(2,4-DNP)、フタロイル基(Phth)、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、シンナモイル基、トルエンスルホニル基(Ts)、2又は4-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)、シアノメチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。これらの保護基は、前記の通り、容易にアミノ基を保護でき、かつ比較的温和な条件で除去することができるためである。
【0088】
アミノ基の保護基のより好ましい具体例としては、メシル基(Ms)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、ベンジル基(Bn)、パラメトキシベンジル基(PMB)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)、アリルオキシカルボニル基(Alloc)、パラメトキシベンゾイル基(PMPCO)、ベンゾイル基(Bz)、シアノメチル基、シンナモイル基、2又は4-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)、トルエンスルホニル基(Ts)、フタロイル基(Phth)、2,4-ジニトロフェニル基(2,4-DNP)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。
【0089】
特に、求電子種のアミノ酸又はペプチドエステル(R1)の末端アミノ基の保護基PGとしては、前述のように、塩基性イオン交換樹脂を通過させることにより脱保護可能な保護基が好ましい。その具体例としては、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、アリルオキシカルボニル基(Alloc基)、p-メトキシベンジル基(PMB基)等が挙げられる。中でもFmoc基等が特に好ましい。
【0090】
・カルボキシル基の保護基:
カルボキシル基の保護基PGとしては、種々のものが知られている。例としては、1又は2以上の置換基を有していてもよい、一価の炭化水素基又は複素環式基等が挙げられる。なお、置換基を有する場合、その種類については先に記載したとおりである。置換基の数の具体例は、例えば5、4、3、2、1、又は0である。
【0091】
炭化水素基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子数は、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は炭化水素基の種類によっても異なるが、アルキル基の場合は1以上、アルケニル基やアルキニル基の場合は2以上、シクロアルキル基の場合には3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0092】
複素環式基の(置換基を有する場合はその置換基も含めた)炭素原子及びヘテロ原子の合計数は、上限が例えば20以下、15以下、10以下、8以下、又は6以下等である。下限は複素環式構造の種類によっても異なるが、通常3以上、例えば4以上、又は5以上である。当該原子数の具体例は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20等である。
【0093】
カルボキシル基の保護基の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば以下が挙げられる。
【0094】
・メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ノニル基等のアルキル基;
・エテニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;
・プロパルギル基等のアルキニル基;
・シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、ビシクロオクチル基、スピロオクチル基等のシクロアルキル基;
・フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;
・フラニル基、チオフェニル基、ピラニル基、ピロリニル基、ピロリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロリル基、ピぺリジニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、ヘキサヒドロピリミジル基、ヘキサヒドロピリダジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリジル基、1,2,4,6-テトラヒドロピリダジル基、3,4-ジヒドロピリジル基、イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾリル基、ピラゾリル基、4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾリル基、オキサゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-オキサゾリル基、チアゾリル基、4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,3-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、2,5-ジヒドロ-1,3-チアゾリル基、カルバゾリル基等の複素環式基;
トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、トリtert-ブチルシリル(TBS)基、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基、トリス(トリアルキルシリル)シリル基等のケイ素系保護基;等。
【0095】
・シラン化合物:
本発明の製造方法では、反応系にシラン化合物を共存させてもよい。反応系にシラン化合物を共存させて反応を実施することにより、反応収率の向上や立体選択性の向上等、種々の利点が得られる場合がある。
【0096】
シラン化合物の例としては、HSi(OCH(CF、HSi(OCHCF、HSi(OCHCFCFH)、HSi(OCHCFCFCFCFH)等の各種のトリス{ハロ(好ましくはフッ素)置換アルキル}シランの他、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、1-(トリメチルシリル)イミダゾール(TMSIM)、ジメチルエチルシリルイミダゾール(DMESI)、ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール(DMIPSI)、1-(tert-ブチルジメチルシリル)イミダゾール(TBSIM)、1-(トリメチルシリル)トリアゾール、1-(tert-ブチルジメチルシリル)トリアゾール、ジメチルシリルイミダゾール、ジメチルシリル(2-メチル)イミダゾール、トリメチルブロモシラン(TMBS)、トリメチルクロロシラン(TMCS)、N-メチル-Nトリメチルシリルトリフルオロアセタミド(MSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセタミド(BSA)、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミン(TMSDMA)、N-(tert-ブチルジメチルシリル)-N-メチルトリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0097】
但し、本発明の製造方法をフロー反応で実施する場合は、反応後の不要成分の除去等の工程を省略し、効率化を図る観点から、斯かるシラン化合物は使用しない方が好ましい。
【0098】
・ルイス酸触媒:
本発明の製造方法では、反応系にルイス酸触媒を共存させてもよい。反応系にルイス酸触媒を共存させて反応を実施することにより、反応収率の向上や立体選択性の向上等、種々の利点が得られる場合がある。但し一方で、ルイス酸触媒を使用した場合、反応生成物からルイス酸触媒を分離除去する作業が必要となる場合もある。よって、ルイス酸触媒の使用如何は、本発明の製造方法を使用する目的等を考慮して適宜決定することが好ましい。
【0099】
本発明の製造方法にルイス酸触媒を使用する場合、その種類は制限されないが、ルイス酸として機能する金属化合物であることが好ましい。金属化合物を構成する金属元素としては、元素周期律表の第2族から第15族に属する種々の金属が挙げられる。金属元素の具体例としては、ホウ素、マグネシウム、ガリウム、インジウム、珪素、カルシウム、鉛、ビスマス、水銀、遷移金属、ランタノイ系元素等が挙げられる。遷移金属の具体例としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、スズ、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、タリウム等が挙げられる。ランタノイ系元素の具体例としては、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム等が挙げられる。これらの中でも、優れた反応促進効果を発揮し、高立体選択的にアミド化合物を製造する観点からは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ、ホウ素、バナジウム、タングステン、ネオジム、鉄、鉛、コバルト、銅、銀、パラジウム、スズ、タリウム等から選択される1種又は2種以上が好ましく、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ等から選択される1種又は2種以上が好ましい。なお、金属化合物に含まれる金属元素は1つでも2つ以上でもよい。金属化合物が2つ以上の金属元素を含む場合、これらはそれぞれ同じ種類の元素でもよく、2種類以上の異なる金属元素であってもよい。
【0100】
金属化合物を構成する配位子としては、金属の種類に応じて適宜選択される。配位子の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、トリフルオロエトキシ基、トリクロロエトキシ基等の、置換又は非置換の炭素数が1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1~10のアリロキシ基;アセチルアセトナート基(acac)、アセトキシ基(AcO)、トリフルオロメタンスルホナート基(TfO);置換又は非置換の炭素数が1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基;フェニル基、酸素原子、硫黄原子、基-SR(ここでRは置換基であり、置換基の例としては、置換又は非置換の炭素数が1~20程度の炭化水素基が挙げられる。)、基-NRR’(ここでR及びR’は、各々独立に、水素原子又は置換基であり、置換基の例としては、置換又は非置換の炭素数が1~20程度の炭化水素基が挙げられる。)、シクロペンタジエニル(Cp)基等が挙げられる。
【0101】
中でも、金属化合物としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、タンタル化合物、又はニオブ化合物が好ましい。以下、それぞれの具体例を挙げる。なお、これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0102】
チタン化合物の具体例としては、TiX (但し、4つのXは、各々独立に、前記で例示した配位子である。4つのXは同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるチタン化合物が挙げられる。Xがアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。Xがアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。Xがハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、例えばTi(OMe)、Ti(OEt)、Ti(OPr)、Ti(Oi-Pr)、Ti(OBu)、Ti(Ot-Bu)、Ti(OCHCH(Et)Bu)、CpTiCl、CpTiCl、CpTi(OTf)、(i-PrO)TiCl、(i-PrO)TiCl等が好ましい。
【0103】
ジルコニウム化合物の具体例としては、ZrX (但し、4つのXは、各々独立に、前記で例示した配位子である。4つのXは同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるジルコニウム化合物が挙げられる。Xがアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。Xがアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。Xがハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、例えばZr(OMe)、Zr(OEt)、Zr(OPr)、Zr(Oi-Pr)、Zr(OBu)、Zr(Ot-Bu)、Zr(OCHCH(Et)Bu)、CpZrCl、CpZrCl、CpZr(OTf)、(i-PrO)ZrCl、(i-PrO)ZrCl等が好ましい。
【0104】
ハフニウム化合物の具体例としては、HfX (但し、4つのXは、各々独立に、前記で例示した配位子である。4つのXは同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるハフニウム化合物が挙げられる。Xがアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。Xがアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。Xがハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、例えばHfCpCl、HfCpCl、HfCl等が好ましい。
【0105】
タンタル化合物の具体例としては、TaX (但し、5つのXは、各々独立に、前記で例示した配位子である。5つのXは同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるタンタル化合物が挙げられる。Xがアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~3の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。Xがアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。Xがハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、タンタルアルコキシド化合物(例えばXがアルコキシ基の化合物)等であることが好ましく、例えばTa(OMe)、Ta(OEt)、Ta(OBu)、Ta(NMe、Ta(acac)(OEt)、TaCl、TaCl(THF)、TaBr等が好ましい。また、Xが酸素である化合物、即ちTaも使用することができる。
【0106】
ニオブ化合物の具体例としては、NbX (但し、5つのXは、各々独立に、前記で例示した配位子である。5つのXは同一の配位子でもよく、互いに異なっていてもよい。)で表されるニオブ化合物が挙げられる。Xがアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、中でも炭素数1~5の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基、更には炭素数1~3の直鎖又は分枝鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。Xがアリロキシ基の場合、好ましくは炭素数1~20のアリロキシ基、中でも炭素数1~15のアリロキシ基、更には炭素数1~10のアリロキシ基等が挙げられる。これらの配位子は更に置換基を有していてもよい。Xがハロゲン原子の場合、好ましくは塩素原子、臭素原子等が挙げられる。これらの中でも、ニオブアルコキシド化合物(例えばXがアルコキシ基の化合物)であることが好ましく、例えばNbCl(THF)、NbCl、Nb(OMe)、Nb(OEt)等が好ましい。また、Xが酸素である化合物、即ちNbも使用することができる。
【0107】
なお、ルイス酸触媒は、担体に担持されていてもよい。ルイス酸触媒を担持する担体としては、特に制限されず、公知のものが使用できる。また、ルイス酸触媒を担体に担持させる方法としても、公知の方法が採用できる。
【0108】
但し、本発明の製造方法をフロー反応で実施する場合は、反応後の不要成分の除去等の工程を省略し、効率化を図る観点から、斯かるルイス酸触媒は使用しない方が好ましい。
【0109】
・その他の成分:
本発明の製造方法では、反応系に他の成分を共存させてもよい。斯かる他の成分の例としては、制限されるものではないが、アミド化反応に使用可能な(ルイス酸触媒以外の)従来の触媒や、塩基、リン化合物、溶媒等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0110】
(ルイス酸触媒以外の)触媒の例としては、メチルアルミニウムビス(4-ブロモ-2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシド)(MABR)、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(TMS-OTf)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシド)(MAD)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0111】
塩基の種類は制限されず、反応効率を向上させることが知られている公知の塩基を使用することができる。斯かる塩基の例としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、トリエチルアミン(EtN)、ジイソプロピルアミン(i-PrNH)、ジイソプロピルエチルアミン(i-PrEtN)等の、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基を1~4個有するアミンや、フッ化セシウム等の無機塩基などが挙げられる。挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0112】
リン化合物の例としては、ホスフィン化合物(例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリメチロキシホスフィン、トリエチロキシホスフィン、トリプロピロキシホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリフェニロキシホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(4-メチルフェニロキシ)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニロキシ)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニロキシ)ホスフィン等)、ホスフェート化合物(例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリメチロキシホスフェート、トリエチロキシホスフェート、トリプロピロキシホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリフェニロキシホスフェート、トリス(4-メチルフェニル)ホスフェート、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフェート、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフェート、トリス(4-メチルフェニロキシ)ホスフェート、トリス(4-メトキシフェニロキシ)ホスフェート、トリス(4-フルオロフェニロキシ)ホスフェート等)、多価ホスフィン化合物又は多価ホスフェート化合物(例えば、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)、5,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール(SEGPHOS)等)等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
但し、本発明の製造方法をフロー反応で実施する場合は、反応後の不要成分の除去等の工程を省略し、効率化を図る観点から、斯かる他の成分は使用しない方が好ましい。
【0114】
・反応溶媒:
反応効率を高める観点から、反応時に溶媒を用いてもよい。特に、本発明の製造方法をフロー反応で実施する場合は、溶媒を使用することになる。
【0115】
溶媒の例としては、特に制限されないが、例えば水性溶媒や有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、制限されるものではないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、石油エーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1-メチルテトラヒドロフラン(1-MeTHF)、ジイソプロピルエーテル(i-PrO)、ジエチルエーテル(EtO)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル類、アセトニトリル(MeCN)等の窒素系有機溶媒、ジクロロメタン(DCM)等の塩素系有機溶媒、酢酸エチル(AcOEt)等のエステル類、酢酸等の有機酸などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0116】
アミド結合形成反応(工程(i))で使用する溶媒と、脱保護(工程(ii))で使用する溶媒とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。異なる溶媒を使用する場合には、アミド結合形成反応(工程(i))の実施後、生成物の溶媒を交換した上で、脱保護(工程(ii)に供する必要がある。よって、本発明の製造方法をフロー反応で実施する場合は、効率の観点から、アミド結合形成反応(工程(i))で使用する溶媒と、脱保護(工程(ii))で使用する溶媒とは、同一の溶媒とすることが好ましい。アミド結合形成反応(工程(i))及び脱保護(工程(ii))の双方に好適に使用できる溶媒の例としては、THF、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、CPME等が挙げられる。中でもTHFが好ましい。
【0117】
・アミド結合形成反応:
本発明の製造方法では、前述の求電子性基質であるN末端保護アミノ酸又はペプチドエステル(R1)と求核性基質であるアミノ酸又はペプチド又はそのエステル(R2)との間にアミド結合を形成させ、N末端保護ペプチド(S1)を取得する(工程(i))。斯かる反応の手順及び条件は、限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0118】
求電子性基質化合物(R1)と求核性基質化合物(R2)との量比は、特に制限されないが、求電子性基質化合物(R1)1モルに対して、求核性基質化合物(R2)を例えば0.1モル以上、又は0.2モル以上、又は0.3モル以上、又は0.4モル以上、又は0.5モル以上、また、例えば20モル以下、又は10モル以下、又は5モル以下、又は4モル以下、又は3モル以下の範囲で用いることができる。なお、当然ながら、製造対象化合物(S1)の目標製造量に対し、基質化合物(R1)及び(R2)をそれぞれ1モル以上用いる必要がある。
【0119】
特に、本発明の製造方法をフロー反応で行う場合には、基質化合物(R1)及び(R2)を、できるだけ当量比に近い比率で用いることが好ましい。具体的に、基質化合物(R1)及び(R2)として共にアミノ酸を用いてジペプチドを合成する段階では、何れか一方の基質化合物1モルに対して、他方の基質化合物が例えば1.5モル以下、又は1.4モル以下、又は1.3モル以下、又は1.2モル以下、又は1.1モル以下、更には1.05モル以下の範囲に収まるように用いることが好ましい。一方、基質化合物(R1)としてアミノ酸を用い、基質化合物(R2)としてジペプチド以上のペプチドを用いて、トリペプチド以上のペプチドを合成する段階では、基質アミノ酸(R1)は全て求電子種アミノ酸になるため、未反応の求電子種アミノ酸は脱保護されても自己縮合による不活性なジケトピペラジンへと即座に変換されると考えられることから、多少過剰量添加しても今後の反応への悪影響は低いと考えられる。よってこの場合は、何れか一方の基質化合物1モルに対して、他方の基質化合物が例えば3モル以下、又は2.5モル以下、又は2.0モル以下、又は1.5モル以下の範囲に収まるように用いることができる。
【0120】
シラン化合物を使用する場合、その使用量は特に制限されるものではないないが、式(R1)の化合物の使用量を100mol%とした場合に、例えば0.1mol%以上、又は0.2mol%以上、又は0.3mol%以上、また、例えば50mol%以下、又は30mol%以下、又は20mol%以下、又は15mol%以下のシラン化合物を用いることができる。
【0121】
ルイス酸触媒を使用する場合、その使用量は特に制限されるものではないないが、式(R1)の化合物の使用量を100mol%とした場合に、例えば0.1mol%以上、又は0.2mol%以上、又は0.3mol%以上、また、例えば50mol%以下、又は30mol%以下、又は20mol%以下、又は15mol%以下のルイス酸触媒を用いることができる。
【0122】
その他の任意成分を使用する場合、その使用量は、例えば本発明者等の過去の特許文献(特許文献1~8)等の従来の知見等を参考に、適宜調整すればよい。
【0123】
なお、上記の何れの成分についても、全量を一度に纏めて系内に加えてもよく、複数回に分けて系内に加えてもよく、少量ずつ連続的に系内に加えてもよい。特に、フロー反応の場合には、反応溶媒中に基質化合物(R1)及び(R2)を各々含む溶液を、送液ポンプ等で連続的に供給して反応経路内を流通させながら接触させ、反応させればよい。
【0124】
反応温度は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0125】
反応圧力も、反応が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0126】
反応雰囲気も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、通常はアルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下に行うことができる。
【0127】
フロー反応の場合、基質化合物(R1)及び(R2)の各溶液の流速は、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば0.01mL/分以上、又は0.05mL/分以上、又は0.1mL/分以上、また、例えば100mL/分以下、又は50mL/分以下、又は20mL/分以下とすることができる。
【0128】
反応時間も、反応が進行する限りにおいて制限されないが、反応を十分に進行させる観点からは、例えば5分間以上、又は10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上とすることができる。上限は特に限定されるものではないが、効率の観点から、例えば50時間以内、又は20時間以内、又は5時間以内、又は1時間以内とすることができる。フロー反応の場合、反応が十分かつ効率的に進行するように、基質化合物(R1)及び(R2)の各溶液を反応経路内で接触させる時間を、前記範囲内に調整すればよい。
【0129】
・N末端保護ペプチドの脱保護:
本発明の製造方法では、前記反応により得られたN末端保護ペプチド(S1)について、そのN末端を脱保護することにより、下記式(P1)で表されるペプチド化合物を取得する(工程(ii))。脱保護の手法は特に制限されず、保護基PGの種類に応じて適切な手法を選択すればよい。脱保護の手法は前述したとおりである。
【0130】
特に本発明の製造方法では、この脱保護を、塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムに式(S1)の化合物を通過させることにより実施することが好ましい。この手法で脱保護を行うことにより、前記のアミド結合形成反応(工程(i))に続く脱保護(工程(ii))もフロー反応で実施することが可能となり、惹いては本発明の製造方法全体のフローによる実施が可能となる。
【0131】
式(S1)の化合物のN末端脱保護を、塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムを用いて行う場合、塩基性イオン交換樹脂の種類は特に制限されるものではなく、保護基PGの種類や製造時の条件等に応じて適宜選択すればよい。例としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)系樹脂、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(DBN)系樹脂、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)系樹脂、ピペラジン系樹脂、ジメチルアミノピリジン系樹脂、及びアンモニウム系樹脂等が挙げられる。
【0132】
脱保護の手順も特に制限されるものではなく、前記のアミド結合形成反応(工程(i))で得られた式(S1)の化合物を、塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムに流通させればよい。特に、フロー反応の場合には、前記のアミド結合形成反応(工程(i))で得られた式(S1)の化合物を含む反応液を、そのまま送液ポンプ等で連続的に送液して、塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムに流通させればよい。
【0133】
脱保護時のカラムの温度は、脱保護が進行する限りにおいて制限されないが、例えば0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上、また、例えば100℃以下、又は80℃以下、又は60℃以下とすることができる。
【0134】
脱保護時の圧力も、脱保護が進行する限りにおいて制限されず、減圧下、常圧下、加圧下の何れで行ってもよいが、通常は常圧で実施することができる。
【0135】
フロー反応の場合、式(S1)の化合物を含む反応液の流速は、脱保護が進行する限りにおいて制限されないが、脱保護を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば0.01mL/分以上、又は0.05mL/分以上、又は0.1mL/分以上、また、例えば100mL/分以下、又は50mL/分以下、又は20mL/分以下とすることができる。
【0136】
脱保護の時間も、脱保護が進行する限りにおいて制限されないが、脱保護を十分且つ効率的に進行させる観点からは、例えば10分間以上、又は20分間以上、又は30分間以上、また、例えば80時間以内、又は60時間以内、又は50時間以内とすることができる。フロー反応の場合、式(S1)の化合物を含む反応液の流速並びに塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムの長さを調整することにより、脱保護の時間を前記範囲に調節することができる。
【0137】
・反応及び脱保護の繰り返しによるペプチド鎖の伸長
本発明の製造方法では、前記脱保護(工程(ii))において得られた式(P1)の化合物を、前記の式(R2)の求核性基質化合物として用い、前記のアミド結合形成反応(工程(i))及び脱保護(工程(ii))を繰り返し実施する(工程(iii))。これにより、所望のアミノ酸を順次アミド結合で連結してペプチド鎖を伸長し、所望のペプチド化合物(P1)を製造することができる。特に、基質化合物(R1)及び(R2)として適切な化合物を選択しながら、こうした手順を逐次繰り返すことにより、原理的には任意のアミノ酸残基数及びアミノ酸配列のポリペプチドを合成することが可能となる。
【0138】
例えば、フロー反応による本発明の製造方法の好適な態様を使用して、HN-AA-AAn-1-(・・・)-AA-AA-O-tBuという配列からなるアミノ酸残基数nのポリペプチド(ここでAA、AA、・・・AAn-1、AAはそれぞれアミノ酸残基を表す)を合成する場合、以下の手順で方法を実施すればよい(図1の模式図を参照)。まず、求電子性基質化合物(R1)としてAAに対応する式(R1)のN末端保護アミノ酸エステル(例えばFmoc-AA-Ot-OPfp)を、求核性基質化合物(R2)としてAAに対応するアミノ酸エステル(HN-AA-O-tBu)を使用し、工程(i)のアミド結合形成反応を実施して式(S1)のN末端保護ジペプチド(Fmoc-AA-AA-O-tBu)を製造する。次いでこの式(S1)の化合物をイオン交換樹脂に通過させ、工程(ii)のN末端の脱保護を行うことにより、N末端が置換されていない式(P1)のジペプチド(HN-AA-AA-O-tBu)を取得する。次いでこの式(P1)のジペプチドを新たに求核性基質化合物(R2)として使用し、次のアミノ酸残基AAに対応する式(R1)のN末端保護アミノ酸エステルを用いて、工程(i)のアミド結合形成反応及び工程(ii)の脱保護を実施する。この手順を逐次実施して、ペプチド鎖のN末端側のアミノ酸残基を伸長することにより、最終的には所望のポリペプチドHN-AA-AAn-1-(・・・)-AA-AA-O-tBuを合成することができる。
【0139】
・後処理等(精製・回収等):
本発明の製造方法により得られたペプチド化合物(P1)に対して、更に種々の後処理を施してもよい。例えば、生成されたペプチド化合物(P1)を、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の常法に従って単離・精製することができる。また、生成されたペプチド化合物(P1)が、保護基等により保護されたアミノ基及び/又はカルボキシル基を有する場合には、後述する手法に従って脱保護を行うことができる。
【0140】
[III.その他]
本発明の製造方法は、逐次法(バッチ法)にて実施してもよく、連続法(フロー法)にて実施してもよい。具体的な逐次法(バッチ法)及び連続法(フロー法)の実施手順の詳細は、本技術分野では公知である。但し、先に詳述したように、本発明の製造方法は、連続法(フロー法)で実施することが可能であり、これにより種々の利点が得られることから好ましい。
【0141】
本発明の製造方法により得られたペプチド化合物(P1)に対して、更に種々の後処理を施してもよい。
例えば、上述の製造方法により得られたペプチド化合物(P1)を、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の常法に従って単離・精製することができる。
【0142】
また、上述の製造方法により得られたペプチド化合物(P1)において、保護基により保護されたアミノ基の脱保護を行うこともできる。保護アミノ基を脱保護する方法は特に制限されず、保護基の種類に応じて様々な方法を用いることができる。例としては、水素化による脱保護、弱酸による脱保護、フッ素イオンによる脱保護、一電子酸化剤による脱保護、ヒドラジンによる脱保護、酸素による脱保護などが挙げられる。水素化による脱保護の場合、(a)水素ガスの存在下に、還元触媒として、パラジウム、パラジウム-炭素、水酸化パラジウム、水酸化パラジウム-炭素等のなどの金属触媒を用いて還元して脱保護する方法、(b)パラジウム、パラジウム-炭素、水酸化パラジウム、水酸化パラジウム-炭素等のなどの金属触媒の存在下、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、ジボラン等の水素化還元剤を用いて還元して脱保護する方法等が挙げられる。
【0143】
また、上述の製造方法により得られたペプチド化合物(P1)において、保護基により保護されたカルボキシル基の脱保護を行うこともできる。保護カルボキシル基を脱保護する方法は特に制限されず、保護基の種類に応じて様々な方法を用いることができる。例としては、水素化による脱保護、塩基による脱保護、弱酸による脱保護などが挙げられる。塩基による脱保護の場合、塩基として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基を用いて脱保護する方法等が挙げられる。
【0144】
なお、本発明者等はアミノ酸又はペプチドを連結するためのアミド化反応やそれによるポリペプチドの製造方法に関し、以下の先行特許出願を行っているところ、本発明の種々のポリペプチドの製造方法を、これらの先行特許出願に記載のアミド化反応やポリペプチドの製造方法と適宜組み合わせて実施し、及び/又は、これらの先行特許出願に記載のアミド化反応やポリペプチドの製造方法の条件を考慮して適宜改変することも可能である。なお、これらの先行特許出願の記載は、その全体が援用により本明細書に組み込まれる。
(1)国際公開第2017/204144号(前記の特許文献1)
(2)国際公開第2018/199146号(前記の特許文献2)
(3)国際公開第2018/199147号(前記の特許文献3)
(4)国際公開第2019/208731号(前記の特許文献4)
(5)国際公開第2021/085635号(前記の特許文献5)
(6)国際公開第2021/085636号(前記の特許文献6)
(7)国際公開第2021/149814号(前記の特許文献7)
(8)国際公開第2022/190486号(前記の特許文献8)
(9)Chem. Sci., (2022), Vol.13, pp.6309-6315(前記の非特許文献6)
【実施例0145】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0146】
図1に示す構成の反応系を構築し、上記の合成手順に従い、トリペプチドHN-AA-AA-AA-OtBuの合成を行った(AA,AA,AAは各々アミノ酸残基を表す。)。なお、図1に示すとおり、本実施例では、式(R1)のT基としてペンタフルオロフェニル(Pfp)基を、PG基としてFmoc基を、式(R2)のT基としてt-ブチル(tBu)基を用いているが、本発明はなんらこの実施例及び図に示す態様に限定されるものではない。
【0147】
なお、反応系の構築には以下の各部品及び装置を用いた。
・経路:PTFEチューブ、口径0.1cm
・DBUポリマー:Sigma-Aldrich社製595128
・カートリッジ:東京理化器械社製278800、口径1.02cm、長さ10cm又は30cm
・ポンプ:東京理化器械社製TR-278550
・温度制御装置:東京理化器械社製MCR-1000、製品コード267950
【0148】
また、以下の記載中「反応時間」とは、工程(i)のアミド結合形成反応については、フロー機械に流入してから脱保護カートリッジに入る手前までの時間を指し、工程(ii)の脱保護反応については、脱保護カートリッジに流入から流出するまでの時間を指す。
【0149】
N末端がFmocで保護されたアミノ酸のペンタフルオロフェニルエステル(Fmoc-AA-OPfp)(0.125mmol)のテトラヒドロフラン(THF)中1.25mL溶液(濃度0.1M)と、アミノ酸tert-ブチルエステル(H-AA-OtBu)のTHF溶液(濃度0.1M)を、各々ポンプにより送液して(流速1.0mL/分)経路内部で合流させ、工程(i)のアミド結合形成反応を実施し(反応温度;室温、反応時間<5分間)、N末端保護ジペプチドエステル(Fmoc-AA-AA-OtBu)を得た。得られたN末端保護ジペプチドエステル(Fmoc-AA-AA-OtBu)をポンプにより送液して(流速2.0mL/分)、DBUポリマーが充填されたカートリッジ(長さ10cm)に流通させて工程(ii)の脱保護反応を実施し(反応温度50℃、反応時間<5分間)、N末端が脱保護されたジペプチドエステル(HN-AA-AA-OtBu)を得た。
【0150】
得られたジペプチドエステル(HN-AA-AA-OtBu)のTHF溶液(濃度0.05M)と、N末端がFmocで保護された別のアミノ酸のペンタフルオロフェニルエステル(Fmoc-AA-OPfp)のTHF溶液(濃度0.05M)を、各々ポンプにより送液して(流速1.0mL/分)経路内部で合流させ、工程(i)のアミド結合形成反応を実施し、N末端保護トリペプチドエステル(Fmoc-AA-AA-AA-OtBu)を得た。
【0151】
アミノ酸AA,AA,AAの種類を種々変更して、上記の合成手順に従い、N末端保護トリペプチドFmoc-HN-AA-AA-AA-OtBuの合成を行った。結果を下の表に示す。なお、表中「quant.」は実質当量(約100%)を意味する。
【0152】
【表3】
【0153】
【化12】
【0154】
これらのN末端保護トリペプチドFmoc-AA-AA-AA-OtBuを、前記と同様の手順により、DBUポリマーが充填されたカートリッジに流通させてポンプにより送液して(流速1.0mL/分)、DBUポリマーが充填されたカートリッジ(長さ30cm)に流通させて工程(ii)の脱保護反応を実施した。これにより、N末端が脱保護された対応するトリペプチドエステル(HN-AA-AA-AA-OtBu)を得ることができる。
【0155】
また、上記手順で合成されたトリペプチドエステルHN-AA-AA-AA-OtBuに、更にもう一つのアミノ酸残基AAとしてアラニンを連結したテトラペプチドを、以下の手順で合成した。即ち、前記手順で合成されたトリペプチドエステルHN-AA-AA-AA-OtBuのTHF溶液(濃度0.05M)と、N末端がFmocで保護された別のアミノ酸のペンタフルオロフェニルエステル(Fmoc-AA-OPfp)のTHF溶液(濃度0.05M)を、各々ポンプにより送液して(流速1.0mL/分)経路内部で合流させ、工程(i)のアミド結合形成反応を実施する。以上の手順により、N末端保護テトラペプチドエステルFmoc-L-Ala-L-Ala-L-Ala-L-Ala-OtBu(即ち、アミノ酸残基AA、AA、AA、及びAAが何れもL-アラニン)の合成にも成功した(収率92%)。
図1