(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042197
(43)【公開日】2025-03-27
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置のモータおよびそれを備える冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20250319BHJP
【FI】
H02K3/50
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149058
(22)【出願日】2023-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩和
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC11
5H604DA13
5H604DA18
5H604DB02
5H604PB04
5H604PE06
5H604QB03
5H604QB04
(57)【要約】
【課題】モータ製造における樹脂成形時に配線基板に力が作用して不具合が生じることがある。
【解決手段】モータは、ロータと、コイルおよびコイルを保持するインシュレータを有するステータ中間組立品と、コイルに電気を流す配線基板425と、コイルと配線基板425とを接続する端子460と、配線基板425の周囲を埋める樹脂と、を備える。配線基板425には、スルーホール425bが形成されている。端子460は、スルーホール425bを介して配線基板425に固定される固定部465を有する。インシュレータの端子ボックス423と配線基板425との間には、端子460とは別に、スペーサ480が設けられている。
【選択図】
図18A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクル装置(100)において使用されるモータ(40)であって、
ロータ(46)と、
コイル(421)と、前記コイルを保持するコイル保持部(422)と、を有するステータ中間組立品(42)と、
前記コイルに電気を流すための配線基板(425)と、
前記コイルと前記配線基板とを接続する端子(460)と、
少なくとも前記配線基板の周囲を埋める樹脂(430)と、
を備え、
前記配線基板には、スルーホール(425b)が形成されており、
前記端子は、前記スルーホールを介して前記配線基板に固定される固定部(465)を有し、
前記コイル保持部と前記配線基板との間には、前記端子とは別に、スペーサ(480)が設けられている、
冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項2】
前記樹脂は、液体状又は射出成型時ゲル状になる樹脂を前記配線基板の周囲に流し固める成形方法によって、前記配線基板の周囲に成形されており、
前記スペーサは、前記樹脂の成形時における、前記固定部と前記スルーホールとの相対位置あるいは相対姿勢の変化を抑制する、
請求項1に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項3】
前記樹脂は、前記コイル保持部と前記配線基板との間の空間を少なくとも埋める、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項4】
前記スペーサは、前記ステータ中間組立品とは別の部材である、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項5】
前記スペーサ(424b)は、前記ステータ中間組立品の一部であって、前記コイル保持部から前記配線基板に向かって延びる、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項6】
前記固定部は、前記スルーホールに圧入されている、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項7】
前記固定部は、ハンダを介さずに前記配線基板に固定され、前記配線基板に電気的に接続される、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項8】
前記端子は、モータ回転方向に沿って並ぶ第1端子~第N端子(Nは、2以上の整数)を有し、
前記スペーサは、前記モータ回転方向に沿って並ぶ第1スペーサ~第Mスペーサ(Mは、2以上の整数)を有する、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項9】
前記端子は、モータ回転方向に沿って並ぶ第1端子~第N端子(Nは、2以上の整数)を有し、
前記スペーサは、少なくとも第1スペーサを有し、
前記第1スペーサは、前記第1端子~前記第P端子(Pは、2以上且つN以下の整数)の近傍に配置される、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項10】
前記樹脂は、金型を用いて、液体状又は射出成型時ゲル状になる樹脂を前記配線基板の周囲に流し固める成形方法によって、前記配線基板の周囲に成形されており、
前記配線基板の周囲に樹脂を成形する際に、前記配線基板の両面のうち前記スペーサが接する第1面(425c)とは反対側の第2面(425d)が、前記金型に設けられたピン(P)によって押さえられ、前記樹脂の成形後に前記樹脂に前記ピンの跡が残る、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項11】
前記樹脂は、金型を用いて、液体状又は射出成型時ゲル状になる樹脂を前記配線基板の周囲に流し固める成形方法によって、前記配線基板の周囲に成形されており、
前記配線基板の周囲に樹脂を成形する際に、前記金型の内部空間に液体状又はゲル状の樹脂が1.0MPa以上の圧力で射出され、液体状又はゲル状の樹脂の圧力が前記配線基板にかかる、
請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置のモータ。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のモータ(40)と、
前記モータによって回転させられるファン(14)と、
を備える冷凍サイクル装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
冷凍サイクル装置のモータおよびそれを備える冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平10-174338号公報)には、端子によってコイルと配線基板とが接続され、コイルを保持する絶縁枠および配線基板の周囲が樹脂で埋められたモータが開示されている。配線基板の穴には端子が挿入され、ハンダ付けされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のようなモータの製造を行う際、端子の配線基板への接続方法や樹脂成形の方法によっては、樹脂成形時に配線基板に力が作用して配線基板と端子との接続不良が生じる、あるいは、樹脂成形時の樹脂圧力に制約が生じる、といった不具合が想定される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点のモータは、冷凍サイクル装置において使用されるモータであって、ロータと、ステータ中間組立体と、配線基板と、端子と、樹脂とを備える。ステータ中間組立体は、コイルと、コイルを保持するコイル保持部と、を有する。配線基板は、コイルに電気を流す。端子は、コイルと配線基板とを接続する。樹脂は、少なくとも配線基板の周囲を埋める。配線基板には、スルーホールが形成されている。端子は、スルーホールを介して配線基板に固定される固定部を有する。コイル保持部と配線基板との間には、端子とは別に、スペーサが設けられている。
【0005】
このモータでは、端子とは別のスペーサが、コイル保持部と配線基板との間に存在しているため、樹脂を配線基板の周囲に成形する際の配線基板と端子の固定部との相対位置変化、あるいは、樹脂を配線基板の周囲に成形する際の配線基板と端子の固定部との相対姿勢変化、が抑制される。これにより、モータの配線基板と端子との接続不良が抑制される、あるいは、モータの製造時の樹脂成形における制約が少なくなる。
【0006】
第2観点のモータは、第1観点の冷凍サイクル装置のモータであって、液体状又は射出成型時ゲル状になる樹脂を配線基板の周囲に流し固める成形方法によって、樹脂が配線基板の周囲に成形されている。スペーサは、樹脂の成形時における、固定部とスルーホールとの相対位置、あるいは、固定部とスルーホールとの相対姿勢の変化、を抑制する。
【0007】
第3観点のモータは、第1観点又は第2観点の冷凍サイクル装置のモータであって、樹脂は、コイル保持部と配線基板との間の空間を少なくとも埋めている。
【0008】
このモータでは、コイル保持部と配線基板との間の空間が樹脂で埋められるため、完成品であるモータにおいてスペーサは不要なものである。しかし、上記の想定される不具合を抑制するため、ここではスペーサをコイル保持部と配線基板との間に設けている。
【0009】
第4観点のモータは、第1観点から第3観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、スペーサは、ステータ中間組立体とは別の部材である。
【0010】
第5観点のモータは、第1観点から第3観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、スペーサは、ステータ中間組立体の一部であって、コイル保持部から配線基板に向かって延びている。
【0011】
第6観点のモータは、第1観点から第5観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、固定部は、スルーホールに圧入されている。
【0012】
このモータでは、圧入によって固定部が配線基板に固定されているため、樹脂の成形時に配線基板に大きな力が作用すると、圧入による固定状態が損なわれる恐れがある。しかし、ここではスペーサをコイル保持部と配線基板との間に設けているので、固定状態が損なわれてしまうことが抑えられる。
【0013】
第7観点のモータは、第1観点から第6観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、固定部は、ハンダを介さずに配線基板に固定され、配線基板に電気的に接続されている。
【0014】
このモータでは、ハンダを介さずに端子の固定部が配線基板に固定されているため、樹脂の成形時に配線基板に大きな力が作用すると、端子の配線基板への電気的な接続が損なわれ、接続不良が生じる恐れがある。しかし、ここではスペーサをコイル保持部と配線基板との間に設けているので、接続不良の発生を抑えられる。
【0015】
第8観点のモータは、第1観点から第7観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、端子は、モータ回転方向に沿って並ぶ第1端子~第N端子(Nは、2以上の整数)を有する。スペーサは、モータ回転方向に沿って並ぶ第1スペーサ~第Mスペーサ(Mは、2以上の整数)を有する。
【0016】
このモータでは、複数の端子がモータ回転方向に沿って並んでいるが、モータ回転方向に沿って複数のスペーサが並んでいるため、複数の端子の固定部それぞれの配線基板に対する樹脂成形時の位置変化あるいは姿勢変化が抑えられる。
【0017】
第9観点のモータは、第1観点から第7観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、端子は、モータ回転方向に沿って並ぶ第1端子~第N端子(Nは、2以上の整数)を有する。スペーサは、少なくとも第1スペーサを有する。第1スペーサは、第1端子~第P端子(Pは、2以上且つN以下の整数)の近傍に配置される。
【0018】
このモータでは、複数の端子がモータ回転方向に沿って並んでいるが、複数の端子の近傍に第1スペーサが配置されており、1つの第1スペーサによって複数の端子の固定部それぞれの配線基板に対する樹脂成形時の位置変化あるいは姿勢変化を抑制することができる。これにより、少ない数のスペーサで多くの端子の固定部の配線基板への固定状態を安定化させることができる。
【0019】
第10観点のモータは、第1観点から第9観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、樹脂は、金型を用いて、液体状又は射出成型時ゲル状になる樹脂を配線基板の周囲に流し固める成形方法によって、配線基板の周囲に成形されている。配線基板の周囲に樹脂を成形する際に、第2面が、金型に設けられたピンによって押さえられ、樹脂の成形後に樹脂にピンの跡が残る。第2面は、配線基板の両面のうち、スペーサが接する第1面とは反対側の面である。
【0020】
このモータは、配線基板の周囲に樹脂を成形する際に、配線基板の第1面にはスペーサが接しており、配線基板の第2面には金型のピンが接している。これにより、樹脂成形時に樹脂の圧力が配線基板に作用しても、配線基板が変形することが抑えられる。
【0021】
第11観点のモータは、第1観点から第9観点のいずれかの冷凍サイクル装置のモータであって、樹脂は、金型を用いて、液体状又は射出成型時ゲル状になる樹脂を配線基板の周囲に流し固める成形方法によって、配線基板の周囲に成形されている。配線基板の周囲に樹脂を成形する際に、金型の内部空間に液体状又はゲル状の樹脂が1.0MPa以上の圧力で射出され、液体状又はゲル状の樹脂の圧力が配線基板にかかる。
【0022】
このモータは、樹脂成形時に、金型の内部空間に液体状又はゲル状の樹脂が1.0MPa以上の圧力で射出されるので、配線基板に大きな力が作用し、配線基板と端子の固定部との相対位置変化、あるいは、樹脂を配線基板の周囲に成形する際の配線基板と端子の固定部との相対姿勢変化が生じる恐れがある。しかし、このモータでは、端子とは別のスペーサが、コイル保持部と配線基板との間に存在しているため、上記の相対位置変化あるいは相対姿勢変化の発生が抑制される。
【0023】
第12観点の冷凍サイクル装置は、第1観点から第11観点のいずれかのモータと、モータによって回転させられるファンと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】冷凍サイクルを行う空気調和装置の冷媒回路およびファンを示す図である。
【
図4】空調室内機の支持体などを正面から見た図である。
【
図6】モータおよびモータを支持する支持体を示す断面図である。
【
図7】樹脂モールド成形前のモータのステータ中間組立体や配線基板の斜視図である。
【
図8】
図7の斜視図から配線基板、スペーサおよびハーネス接続部を外した図である。
【
図9】
図7に示すステータ中間組立体や配線基板を側方から見た、モータのステータ中間組立体の側面図である。
【
図11】
図10とは異なる方向から見た、端子の斜視図である。
【
図12】配線基板、スペーサおよびハーネス接続部の斜視図である。
【
図16】
図12とは異なる方向から見た、配線基板、スペーサおよびハーネス接続部の斜視図である。
【
図17】配線基板に圧入された状態の端子を示す断面図である
【
図18A】
図17とは異なる方向から見た、配線基板に圧入された状態の端子を示す断面図である。
【
図18B】スペーサが無かったと仮定した場合の、端子に対する配線基板の位置変化や姿勢変化を示す、
図18Aと同じ断面における配線基板および端子の断面図である。
【
図19】
図5とは異なる方向から見た、モータの外観図である。
【
図21】変形例Bのスペーサとしての端子ボックスの突起を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、空気調和装置および空気調和装置の一部品であるモータについて、図面に基づいて説明する。
【0026】
(1)空気調和装置の構成
図1は、空気調和装置100(冷凍サイクル装置)の概略構成図である。空気調和装置100は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルによって、建物等の室内の冷房および暖房を行う装置である。空気調和装置100は、室内ユニット1と、室外ユニット2とを備えている。室内ユニット1と室外ユニット2とは、液冷媒連絡管105およびガス冷媒連絡管106を介して接続されている。空気調和装置100の蒸気圧縮式の冷凍サイクルを成す冷媒回路は、室内ユニット1と室外ユニット2とが冷媒連絡管105、106を介して接続されることによって構成されている。そして、冷媒回路には冷媒が充填されている。
【0027】
室内ユニット1は、室内に設置されており、冷媒回路の一部を構成している。室内ユニット1は、主として、室内熱交換器12と室内ファン14とを備えている。
【0028】
室内熱交換器12は、冷房運転時に冷媒の蒸発器として機能して室内空気を冷却し、暖房運転時に冷媒の放熱器として機能して室内空気を加熱する。
【0029】
室内ファン14は、室内ユニット1内に室内空気を吸入して、室内熱交換器12において冷媒と熱交換させた後に、供給空気として室内に供給する。室内ファン14のモータ40は、インバータによって周波数(回転数)を変更可能である。
【0030】
室外ユニット2は、室外に設置されており、冷媒回路の一部を構成している。室外ユニット2は、圧縮機121と、四路切換弁122と、室外熱交換器123と、膨張弁124と、液側閉鎖弁126と、ガス側閉鎖弁127と、アキュムレータ128と、を有している。また、室外ユニット2は、室外ファン136を有している。室外ユニット2の各構成部品は、広く一般に普及しているルームエアコンの室外機の部品であるため、細かい説明は省略する。
【0031】
(2)空気調和装置の動作
空気調和装置100は、冷房運転および暖房運転を行う。
【0032】
冷房運転では、四路切換弁122が冷房サイクル状態(
図1の実線で示される状態)に切り換えられ、高圧のガス冷媒が、室外熱交換器123において室外空気と熱交換を行って放熱して、高圧の液冷媒になる。また、冷房運転では、膨張弁124によって減圧された冷媒が、室内熱交換器12において、室内空気と熱交換を行って蒸発する。これにより、室内空気は冷却され、その後に、室内に供給されることで室内の冷房が行われる。
【0033】
暖房運転では、四路切換弁122が暖房サイクル状態(
図1の破線で示される状態)に切り換えられ、高圧のガス冷媒が、室内熱交換器12において、室内空気と熱交換を行って放熱して、高圧の液冷媒になる。これにより、室内空気は加熱され、その後に、室内に供給されることで室内の暖房が行われる。室内熱交換器12を出た液冷媒は、膨張弁124によって減圧され、室外熱交換器123において室外空気と熱交換を行って蒸発し、圧縮機121に吸入される。
【0034】
(3)室内ユニットの詳細構成
室内ユニット1は、
図2~
図4に示すように、後面を室内の壁にかけて用いる壁掛け型のユニットである。室内ユニット1を壁にかけ、正面側から壁に向かって室内ユニット1を見たときの方向を、
図2~
図4において、前、後、上、下、右、左の矢印で示している。
【0035】
室内ユニット1は、支持体11、前面パネル11a、本体カバー11b、室内熱交換器12、室内ファン14、フラップ15などを備えている。室内熱交換器12や室内ファン14は、支持体11に支持され、前面パネル11aや本体カバー11bによって覆われる。
【0036】
本体カバー11bの上面には吸込口B2が形成され、本体カバー11bの下面には吹出口B1が形成されている。フラップ15は、吹出口B1に配置されている。
【0037】
室内熱交換器12の多数の伝熱管の内部を冷媒が流れ、その冷媒が、伝熱管の間を流れる空気と熱交換を行う。空気は、室内ファン14が回転することによって、吸込口B2から吸い込まれる。吸込口B2から室内熱交換器12へと流れた空気は、室内ファン14を通って吹出口B1から室内空間へと吹き出される。
【0038】
室内ファン14は、左右に長く延びる円筒状のクロスフローファンである。室内ファン14の右側には、室内ファン14を回転させるモータ40が配置される。室内ファン14は、
図4に示す支持体11のファン収容空間20Aに配置される。モータ40は、
図4に示す支持体11のモータ収容空間20Bに配置される。支持体11は、ドレンパンを兼ねる後面部21、室内ファン14の下方に位置するスクロール部22、モータ40を支持する第1モータ支持部23および第2モータ支持部材24、などを有する樹脂製の部材群である。
【0039】
(4)モータの構成
(4-1)モータの全体構成
モータ40は、
図5および
図6に示すように、ステータ45と、ロータ46とを有する。ステータ45は、ステータ中間組立体42と、電源供給用のハーネスと、ハーネス引き出し部材429と、配線基板425と、端子460と、樹脂430とを有する。ステータ45の各構成部材は、樹脂430によって一体となる。ステータ中間組立体42は、コイル421を有する。ロータ46は、コイル421の径方向外側に位置する磁石46b、を有する。ロータ46の円筒状の外周部に磁石46bが配置され、ロータ46の内周部にモータ回転軸49が固定されている。ステータ45のコイル421は、ロータ46の円筒状の外周部の内側に位置している。ステータ45のコイル421に電流が流れると、磁界が生じ、磁石46bを有するロータ46が回転する。これにより、モータ回転軸49が回転し、そのモータ回転軸49に固定される室内ファン14が回転する。ステータ45の内周部とモータ回転軸49との間には、ベアリング48が配置されている。これらのベアリング48を介して、モータ回転軸49およびロータ46はステータ45に支持されている。
【0040】
ステータ中間組立体42と一体になっている樹脂430の外周部430aは、シール部材50を介して、支持体11の第1モータ支持部23および第2モータ支持部材24に固定される。また、モータ40およびシール部材50は、押さえ部材60によって室内ファン14側に押し付けられている。押さえ部材60は、モータ40およびシール部材50を回転軸方向に押圧した状態で、支持体11にビスで固定される。これにより、モータ40が支持体11に固定される。
【0041】
(4-2)モータのステータ中間組立体およびその周辺の構成
図5~
図9に示すように、ステータ中間組立体42は、上記のコイル421と、コイル421を保持するコイル保持部として機能するインシュレータ422とを有している。そして、インシュレータ422の近傍には、コイル421に電気を流す配線基板425が配置されている。また、コイル421と配線基板425とは、端子460によって電気的に接続されている。配線基板425には、三相電源を供給するハーネスが接続されるハーネス引き出し部材429が固定されている。ハーネス引き出し部材429は、樹脂成形されたステータ45の樹脂430の外側にハーネスを出すための部材である。これらのコイル421、インシュレータ422、配線基板425、および端子460の周囲には、樹脂430が設けられている。樹脂430は、配線基板425の周囲を埋めている。また、樹脂430は、インシュレータ422と配線基板425との間の空間を埋めている。樹脂430で埋められてインシュレータ422や配線基板425は一体となっており、これらの一体化されたインシュレータ422、コイル421、配線基板425、樹脂430などがモータ40のステータ45を構成する。
【0042】
ハーネス引き出し部材429は、
図13に示すように、配線基板425に接続される第1部429aやハーネスが接続される第2部429bなどを有している。
【0043】
配線基板425には、
図14に示すように、中央円孔425aと、中央円孔425aの周囲に設けられる複数(ここでは12)のスルーホール425bとが形成されている。
【0044】
インシュレータ422は、12個のコイル421を保持する絶縁部材である。インシュレータ422の内周部には、
図8、
図17および
図18Aに示すように、端子ボックス423が設けられている。インシュレータ422の本体422aから回転軸方向に延びている。インシュレータ422の本体422a(コイル保持部)には、コイル421が巻回される。端子ボックス423は、12個のコイル421それぞれに対して設けられる第1端子ボックス~第12端子ボックスを有している。ここでは、端子ボックス423は、第1端子ボックス~第12端子ボックスの集合体であるが、1つ1つのスロットを端子ボックス423と呼ぶこともある。
【0045】
端子460は、12個のコイル421それぞれに対して1つ設けられている。具体的には、
図7および
図8に示すように、モータ回転方向に沿って、端子460として第1端子~第12端子の12個の端子が設けられている。言い換えると、端子460は、モータ回転方向に沿って並ぶ第1端子~第12端子を有する。但し、本実施形態では、1つ1つの端子を端子460と呼ぶこともある。
【0046】
それぞれの端子460は、
図10および
図11に示すように、中央部461、折り返し部462、配線基板425と電気的に接続される固定部465、先端部466などを有している。中央部461の下部には切り欠き461aが形成され、折り返し部462の下部には切り欠き462aが形成されている。これらの切り欠き461a,462aはつながっており、U字状の長孔を形成している。それぞれの端子460の中央部461および折り返し部462は、
図8、
図17および
図18Aに示すように、それぞれ対応する端子ボックス423に押し込まれている。その際、切り欠き461a,462aによって形成される長孔にコイル421の端部の電線が通され、コイル421の端部と端子460とが電気的に接続される。
図8に示す状態は、端子ボックス423に端子460が押し込まれてコイル421と端子460とが接続された状態である。
【0047】
図7、
図9、
図17および
図18Aは、
図8に示す状態の12個の端子460に配線基板425が被せられ、配線基板425のスルーホール425bを端子460の先端部466が貫通し、スルーホール425bに端子460の固定部465が圧入された状態を示している。この状態において、端子460の固定部465がスルーホール425bを介して配線基板425に固定され、また、インシュレータ422の端子ボックス423と配線基板425との回転軸方向の間には、スペーサ480が位置するようになる。言い換えると、インシュレータ422と配線基板425との間に、端子460とは別に、スペーサ480が設けられている。端子460の固定部465はバネ性を有していることが好ましく、
図10および
図11では図示を省略しているが、ここではマルチスプリング構造の固定部465が採用されている。
【0048】
スペーサ480は、
図15に示すように、環状部481と、3個の爪部482とを有している。スペーサ480の爪部482が
図12および
図16に示すように配線基板425の内周部分に引っ掛かり、配線基板425にスペーサ480が支持された状態となる。スペーサ480の環状部481は、配線基板425に接している。そして、
図7、
図9、
図17および
図18Aに示すように、配線基板425のスルーホール425bに端子460の固定部465が圧入された状態において、スペーサ480の環状部481の下面(配線基板425に接している面と反対側の面)481aが、インシュレータ422の端子ボックス423の上面423aに接する。スペーサ480は、
図18Aに示すように、端子460の固定部465の近傍に配置されている。具体的には、固定部465のモータ径方向の内側にスペーサ480が位置しており、端子460の一部を収容する端子ボックス423の上面423aにスペーサ480の一端が接している。これにより、スペーサ480は、配線基板425と端子ボックス423の上面423aとの間のスペースを維持する。また、これにより、スペーサ480は、配線基板425と、コイル421が巻回されるインシュレータ422の本体422aと、の間のスペースを維持する。
【0049】
なお、端子460の固定部465は、ハンダを介さずに配線基板425に固定され、配線基板425に電気的に接続されている。
【0050】
(4-3)モータのステータ中間組立体、配線基板および端子の周囲の樹脂モールド
12個の端子460の固定部465が配線基板425のスルーホール425bに圧入接続された状態のステータ組立体(
図7および
図9に示すもの)は、周囲が樹脂430によって埋められる。言い換えると、モータ40の製造過程において、ステータ中間組立体42、配線基板425および端子460の周囲が樹脂モールドされる。
【0051】
モータ40では、配線基板425のスルーホール425bに端子460の固定部465を圧入することで電気的に接続させているが、圧入・差し込み方向(
図10および
図11参照)の電気接続範囲の寸法が限られている。このため、モータ40の組立時、配線基板425の位置決めが大事になるが、接続箇所が12カ所と多くなっており、部品寸法公差や組立作業との兼ね合いで圧入の力が各所でばらつきやすい。
【0052】
また、
図7および
図9に示すステータ組立体を、電気絶縁性を有する樹脂430でモールドするときには、配線基板425と端子460の固定部465との電気接続位置にズレが生じる恐れがある。配線基板425のスルーホール425bの適正な接続位置から端子460の固定部465が外れてしまうと、電気接続不良が生じてしまう。モータ40では、樹脂430として、熱硬化性である不飽和ポリエステル樹脂BMC(Bulk Molding Compound)を使用しており、BMCモールド成形時の圧力(成形機における射出圧力)は1MPa~10MPaである。金型を使って、
図7および
図9に示すステータ組立体の周囲に液体状又はゲル状の樹脂430を射出し、熱硬化により固まる成形方法が、モータ40の製造において採用されている。したがって、モータ40の製造では、液体状又はゲル状の樹脂430から配線基板425に大きな圧力が作用することになる。仮に、上記のスペーサ480が無ければ、配線基板425と端子460の固定部465との電気接続位置にズレが生じる可能性が高い。
図18Bは、スペーサ480が無いと仮定した場合の、BMCモールド成形時の配線基板425の端子460に対する位置変化および姿勢変化の一例を示す。仮に上記のスペーサ480が無ければ、端子460に対して配線基板425の位置ズレや姿勢変化が生じ、例えば
図18Bにおいて破線で示す状態に配線基板425の位置および姿勢が変化する。配線基板425の位置や姿勢が
図18Bの破線で示す状態になってしまうと、配線基板425と端子460との電気接続不良が発生してしまう。
【0053】
このような樹脂モールド成形時における配線基板425と端子460との電気接続不良の発生を抑制するために、本実施形態に係るモータ40では、製造後のモータ40としては不要であるスペーサ480を設けている。スペーサ480は、配線基板425とインシュレータ422の端子ボックス423との間に配置され、樹脂モールド成形時に液体状又はゲル状の樹脂430から配線基板425をステータ中間組立体42側に押す圧力が作用したときに、配線基板425をステータ中間組立体42側から支持する。これにより、樹脂モールド成形時における、端子460の固定部465と配線基板425のスルーホール425bとの相対位置の変化や、端子460の固定部465と配線基板425のスルーホール425bとの相対姿勢の変化、が抑制される(
図18Aを参照)。
【0054】
また、樹脂モールド成形で使用する金型は、樹脂モールド成形時に配線基板425の第2面425dに当たるピンP(
図17を参照)を有している。第2面425dは、配線基板425の両面のうち、ステータ中間組立体42側の面とは反対側の面である(
図9、
図17および
図18Aを参照)。第2面425dと反対側の配線基板425の面は、第1面425cである。樹脂モールド成形時、配線基板425の第2面425dが、金型に設けられたピンPによって押さえられ、樹脂430の成形後に樹脂430にピンの跡430bが残る(
図19を参照)。他方の配線基板425の第1面425cは、樹脂モールド成形時、上記のとおりスペーサ480によって支持される(
図18A等を参照)。
【0055】
なお、樹脂モールド成形後、樹脂430の外周部430aは、シール部材50を介して、支持体11の第1モータ支持部23および第2モータ支持部材24に固定される。これにより、
図6に示すように、ステータ45のステータ中間組立体42や配線基板425が支持体11に支持された状態となる。
【0056】
(5)特徴
(5-1)
モータ40のステータ45では、端子460とは別のスペーサ480が、インシュレータ422の端子ボックス423と配線基板425との間に存在している。このため、樹脂430を配線基板425の周囲に成形する際の配線基板425と端子460の固定部465との相対位置変化や、樹脂460を配線基板425の周囲に成形する際の配線基板425と端子460の固定部465との相対姿勢変化が抑制される。これにより、配線基板425と端子460との接続不良が抑制される。
【0057】
また、スペーサ480が無ければ、配線基板425と端子460との接続不良を防止するために樹脂モールド成形時の成形機における射出圧力を小さく設定せざるを得ないが、スペーサ480を設けることによって、1MPaを超える大きな射出圧力で樹脂モールド成形を行うことが可能になっている。
【0058】
なお、モータ40のステータ45では、インシュレータ422と配線基板425との間の空間が樹脂430で埋められるため、完成品となった後のモータ40においてスペーサ480は不要なものである。しかし、配線基板425と端子460との接続不良などの不具合を抑制するため、本実施形態のモータ40のステータ45では、スペーサ480をインシュレータ422と配線基板425との間に設けている。
【0059】
(5-2)
モータ40のステータ45の製造過程では、端子460の固定部465が配線基板425のスルーホール425bに圧入接続された状態のステータ組立体を作り、その周囲に樹脂460がモールド成形される。圧入によって端子460の固定部465が配線基板425に固定されているため、モールド成形時に配線基板425に大きな力が作用すると、圧入による固定状態が損なわれる恐れがある。しかし、モータ40のステータ45ではスペーサ480を設けているため、端子460と配線基板425との固定状態が損なわれてしまうことが抑えられている。
【0060】
(5-3)
モータ40のステータ45では、端子460の固定部465が配線基板425のスルーホール425bに圧入接続されており、従来のようなハンダ接続を介した電気的な接続ではない。このようにハンダを介さずに端子460の固定部465が配線基板425に固定されているため、樹脂モールド成形時に配線基板425に大きな力が作用すると、端子460の配線基板425への電気的な接続が損なわれ、接続不良が生じる恐れがある。
【0061】
しかし、本実施形態のモータ40ではスペーサ480を設けているので、上述のとおり接続不良の発生が抑えられている。
【0062】
(5-4)
モータ40のステータ45では、12個の端子460がモータ回転方向に沿って並んでいるが、モータ回転方向に沿って延びる1つの環状のスペーサ480が設けられている。このため、スペーサ480の個数が1つで済んでいるとともに、製造も容易となっている。
【0063】
また、1つのスペーサ480の環状部481の各部が、12個の端子460それぞれの固定部465の近傍に位置しているため、12の固定部465それぞれの配線基板425への接続状態が樹脂モールド成形時、樹脂モールド成形後にも維持される。
【0064】
(5-5)
モータ40では、その製造過程において、上記の樹脂モールド成形時に、配線基板425の第1面425cにはスペーサ480が接しており、配線基板425の第2面425dには金型のピンが接している。これにより、樹脂成形時に液体状又はゲル状の樹脂430の圧力が配線基板425に何れの方向から作用しても、配線基板425が変形することが抑えられる。
【0065】
なお、モータ40のステータ45では、
図19に示すように、樹脂430の成形後に樹脂430にピンPの跡430bが残る。
【0066】
(5-6)
モータ40のステータ45では、その製造過程において、上記の樹脂モールド成形時に、金型の内部空間に液体状又はゲル状の樹脂430が1.0MPa以上の圧力で射出される。このため、配線基板425に大きな力が作用し、配線基板425と端子460の固定部465との相対位置変化、あるいは、樹脂460を配線基板425の周囲に成形する際の配線基板425と端子460の固定部465との相対姿勢変化が生じる恐れがある。しかし、このモータ40のステータ45では、端子460とは別のスペーサ480が、インシュレータ422の端子ボックス423と配線基板425との間に存在しているため、上記の相対位置変化あるいは相対姿勢変化の発生が抑制されている。これにより、接続不良を内包するモータ40が製造される確率は、非常に低い。
【0067】
(6)変形例
(6-1)変形例A
上記の実施形態では、
図15に示すスペーサ480を採用しているが、これに代えて、
図20に示すスペーサ490を採用してもよい。
図20は、スペーサ490の平面図であり、奥行き方向の寸法は、スペーサ480の高さ方向(
図15の上下方向;
図18Aの回転軸方向)の寸法と同じである。スペーサ490には、端子460の数と同じ12個のスロット490aが開けられている。各端子460の先端部466および固定部465は、スペーサ490のスロット490aを貫通する。
【0068】
このスペーサ490であれば、端子460の固定部465が圧入される配線基板425のスルーホール425bの周囲が、全体的にスペーサ490によって支持される。
【0069】
(6-2)変形例B
上記の実施形態では、
図15に示すスペーサ480を採用しているが、これに代えて、インシュレータと一体成形されるスペーサ部424b(
図21参照)を採用してもよい。
図21に示す端子ボックス424は、インシュレータに形成されるスロットであり且つ端子460の一部を収容するスロットであって、回転軸方向に沿って配線基板425に向かって突出するスペーサ部424bを有している。スペーサ部424bは、各端子460の周囲を囲うように形成されている円筒状の突出部である。
図21に示すように、スペーサ部424bの先端面424b1は、配線基板425の第1面425cに接している。
【0070】
(6-3)変形例C
上記の実施形態のスペーサ480や変形例Aのスペーサ490は、1つの環状の部材であるが、これに代えて、2分割のスペーサ、3分割のスペーサ、あるいは更に多くの分割が為されているスペーサを採用してもよい。例えば、3分割のスペーサを採用する場合、各スペーサは、12個のうち4個の端子460に対して設けられ、4個それぞれの端子460の近傍に位置する部位を含むものとなる。
【0071】
(6-4)変形例D
上記の実施形態では、端子460において、マルチスプリング構造の固定部465を採用し、ハンダを介さずに端子460の固定部465を配線基板425に固定しているが、これに代えて、端子を配線基板にハンダ付けによって電気的に接続させてもよい。この場合にも、樹脂を配線基板の周囲に成形する際の配線基板と端子との相対位置変化や、樹脂を配線基板の周囲に成形する際の配線基板と端子との相対姿勢変化が抑制される。これにより、配線基板と端子とを接続するハンダが剥がれたり割れたりすることが抑えられ、モータにおける接続不良が抑制される。
【0072】
(6-5)変形例E
上記の変形例Bでは、スペーサ部424bをインシュレータの端子ボックス424から配線基板425に向かって突出させているが、これに代えて、インシュレータの本体部から配線基板に向けてスペーサ部を突出させてもよい。
【0073】
(6-6)変形例F
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0074】
14 室内ファン
40 モータ
42 ステータ中間組立体
45 ステータ
46 ロータ
100 空気調和装置(冷凍サイクル装置)
421 コイル
422 インシュレータ(コイル保持部)
422a インシュレータの本体(コイル保持部)
423 端子ボックス
424 変形例Bの端子ボックス
424b 変形例Bの端子ボックスの突起部(スペーサ部)
425 配線基板
425b スルーホール
430 樹脂
460 端子
465 端子の固定部
480 スペーサ
490 変形例Aのスペーサ
P 金型のピン
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】