(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042354
(43)【公開日】2025-03-27
(54)【発明の名称】評価方法、評価装置、評価システムおよび評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/107 20060101AFI20250319BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20250319BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
A61B5/107 800
G06T7/00 660A
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149313
(22)【出願日】2023-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二川 朝世
(72)【発明者】
【氏名】中原 千尋
(72)【発明者】
【氏名】三谷 信
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
5L096
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB03
4C038VC05
4C117XB01
4C117XB12
4C117XB13
4C117XB15
4C117XD05
4C117XE43
4C117XJ01
4C117XJ34
4C117XK02
5L096AA06
5L096CA02
5L096DA02
5L096FA33
5L096FA52
5L096FA64
5L096FA67
5L096JA11
(57)【要約】
【課題】明らかなシワが存在しない部位の肌画像に基づいて、顔の見た目印象又はシワ発生リスクを評価するための新規な技術を提供すること。
【解決手段】顔の見た目印象の評価装置であって、ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価手段と、を備え、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔の見た目印象の評価方法であって、
ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得工程と、
複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価工程と、を有し、
前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価方法。
【請求項2】
前記顔の見た目印象は、顔のしおれ感である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記肌画像は、前記ユーザの頬及び/又は口元の肌画像である、請求項1又は請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記取得工程では、頬及び口元の非シワ顕在部位の肌画像から算出された前記パラメータを取得し、
前記評価工程では、頬の前記肌画像から算出されるパラメータに基づく評価と、口元の前記肌画像から算出されるパラメータに基づく評価と、に基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記取得工程では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータを取得し、
前記評価工程では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、の優先順位で各パラメータに基づき前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項6】
前記皮溝の長さに関するパラメータは、長い皮溝の本数及び/又は短い皮溝の本数を含む、請求項1に記載の評価方法。
【請求項7】
前記評価工程では、前記ユーザの顔の見た目印象に基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを更に評価する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項8】
ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価方法であって、
前記ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得工程と、
複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、評価工程と、を有し、
前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価方法。
【請求項9】
前記肌画像は、前記ユーザの頬及び/又は口元の肌画像である、請求項8に記載の評価方法。
【請求項10】
前記取得工程では、前記非シワ顕在部位として頬及び口元の肌画像から算出された、複数の前記パラメータを取得し、
前記評価工程では、頬の前記肌画像から算出されるパラメータに基づく評価と、口元の前記肌画像から算出されるパラメータに基づく評価と、に基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、請求項9に記載の評価方法。
【請求項11】
前記評価工程では、前記ユーザの顔における、将来のシワ発生リスクを評価する、請求項8に記載の評価方法。
【請求項12】
前記取得工程では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータを取得し、
前記評価工程では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、の優先順位で各パラメータに基づき前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、請求項8に記載の評価方法。
【請求項13】
前記皮溝の長さに関するパラメータは、長い皮溝の本数及び/又は短い皮溝の本数を含む、請求項8に記載の評価方法。
【請求項14】
顔の見た目印象の評価装置であって、
ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、
複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価手段と、を備え、
前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価装置。
【請求項15】
ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価装置であって、
前記ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、
複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、評価手段と、を備え、
前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価装置。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載の評価装置と、端末装置と、を備える評価システムであって、
前記端末装置は、
ユーザの顔を撮影して前記肌画像を前記評価装置に送信する撮影手段と、
前記評価手段による評価結果を出力する出力手段と、を備える評価システム。
【請求項17】
顔の見た目印象の評価プログラムであって、
ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、
複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価手段と、としてコンピュータを機能させ、
前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価プログラム。
【請求項18】
ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価プログラムであって、
前記ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、
複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、評価手段と、としてコンピュータを機能させ、
前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む、評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔の見た目印象の評価方法、シワ発生リスクの評価方法、顔の見た目印象の評価装置、シワ発生リスクの評価装置、顔の見た目印象の評価システム、シワ発生リスクの評価システム、顔の見た目印象の評価プログラム及びシワ発生リスクの評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
肌の評価において、シワに関する指標を用いて各種の分析や評価を行う技術が従来から知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、肌表面の線形成分の方向性、長さ、深さ等を用いてシワ状態を分析する技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、シワの面積、本数、長さ、面積率、幅、深さ等を用いてシワの進行を評価する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-62569号公報
【特許文献2】特開2013-069122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の技術はいずれも評価時点で明らかに観測されるシワの評価を行うものであり、顔の全体的な印象や将来的なシワ発生リスクを評価することができなかった。
【0007】
以上のような現状に鑑みて、本発明は、明らかなシワが存在しない部位の肌画像に基づいて、顔の見た目印象又はシワ発生リスクを評価するための新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、顔の見た目印象の評価方法であって、ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得工程と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価工程と、を有し、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0009】
このような構成とすることで、明らかなシワが存在しない非シワ顕在部位の肌画像に基づいて、顔の見た目印象を評価することができる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価方法であって、前記ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得工程と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、評価工程と、を有し、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0011】
このような構成とすることで、非シワ顕在部位の肌画像に基づいて、将来的のシワ発生リスクを評価することができる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、顔の見た目印象の評価装置であって、ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価手段と、を備え、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価装置であって、前記ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、評価手段と、を備え、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、顔の見た目印象の評価プログラムであって、ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する、評価手段と、としてコンピュータを機能させ、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価プログラムであって、前記ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数のパラメータを取得する取得手段と、複数の前記パラメータに基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価する、評価手段と、としてコンピュータを機能させ、前記複数のパラメータは、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記顔の見た目印象は、顔のしおれ感である。
【0017】
このような構成とすることで、非シワ顕在部位の肌画像により、顔のしおれ感を評価することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記肌画像は、前記ユーザの頬及び/又は口元の肌画像である。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記取得工程では、頬及び口元の非シワ顕在部位の肌画像から算出された、複数の前記パラメータを取得し、前記評価工程では、頬の前記肌画像から算出されるパラメータに基づく評価と、口元の前記肌画像から算出されるパラメータに基づく評価と、に基づいて、前記ユーザの顔の見た目印象を評価する。
【0020】
このような構成とすることで、複数の部位の肌画像から評価を行うことができ、評価精度の向上効果が見込まれる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記取得工程では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータを取得し、前記評価工程では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、の優先順位で各パラメータに基づき前記ユーザの顔の見た目印象を評価する。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記皮溝の長さに関するパラメータは、長い皮溝の本数及び/又は短い皮溝の本数を含む。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程では、前記ユーザの顔の見た目印象に基づいて、前記ユーザの顔における将来のシワ発生リスクを更に評価する。
【0024】
本発明の好ましい形態では、評価装置と、端末装置と、を備える評価システムであって、前記端末装置は、ユーザの顔を撮影して前記肌画像を前記評価装置に送信する撮影手段と、前記評価手段による評価結果を出力する出力手段と、を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、明らかなシワが存在しない部位の肌画像に基づいて、顔の見た目印象又はシワ発生リスクを評価するための新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態における評価システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る評価方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態に係る評価工程におけるしおれ感の評価手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態に係る評価工程におけるシワ発生リスクの評価手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施形態1>
本発明は、顔の見た目印象又は顔における将来のシワ発生リスクを評価するための技術に関する。本発明における顔の見た目印象は、顔の見た目に関する全体的な印象であり、本実施形態では、顔のしおれ感である。「全体的な印象」とは、特定の部位に限定した印象ではなく、総合的な印象であることを意味する。ただし、しおれ感をはじめとする顔の見た目印象が、常に顔全体を視認して評価される印象であることを意味するものではなく、例えば横顔や顔の上半分又は下半分、額を除いた範囲等、顔における一定の範囲を見た時に受ける、顔全体に対する印象を含む。
【0028】
ここでしおれ感は顔の印象であり、しおれた印象、しぼんだ印象、又はしなびた印象を指す。本発明者らは、鋭意研究の結果、非シワ顕在部位における、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを用いてこのようなしおれ感をはじめとする顔の印象を評価可能であることを見出した。本発明は、このような新たな知見に基づきなされたものである。
【0029】
以下、図面を用いて、本発明の評価装置及び評価システムについて説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではなく、様々な構成を採用することもできる。
【0030】
例えば、本実施形態では評価装置及び評価システムの構成、動作等について説明するが、同様の構成の方法、コンピュータプログラム等も、同様の作用効果を奏することができる。また、プログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶させてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよい。例えばコンピュータにプログラムをインストールすることで、本発明に係る装置が実現され、本発明に係る方法をコンピュータによって実行できる。
【0031】
図1は、本実施形態に係るシステムの構成を表す図である。本実施形態に係るシステムは、評価装置1及び端末装置2がネットワークNWを介して通信可能に構成される。評価装置1は後述の各手段を備え、顔の見た目印象及び/又はシワ発生リスクの評価を行う。そして端末装置2は評価装置1による評価結果を取得し出力することで、ユーザに対して情報を提供する。
【0032】
ネットワークNWとしては、代表的にIP(Internet Protocol)ネットワークを利用できるが、通信プロトコルの種類に制限はなく、更に、ネットワークの種類、規模にも制限はない。
【0033】
評価装置1としては、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算装置、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、ネットワークNWへの接続手段を含む種々の入出力装置等を備えた、サーバ装置等の一般的なコンピュータ装置を利用することができる。
【0034】
端末装置2としては、演算装置、記憶装置、ネットワークNWへの接続手段を含む種々の入出力装置等を備えた、PC(Personal Computer)等の任意のコンピュータ装置を利用することができる。その他、スマートフォンやタブレット型端末を端末装置2として利用してもよい。評価装置1との間で各種情報の入力及び送受信を行うための専用のアプリケーションや、専用のウェブページにアクセスするためのブラウザアプリケーション等が記憶装置に記憶され、演算装置が各種の処理を実行することで、任意のコンピュータ装置が本発明の端末装置2として機能する。
【0035】
評価装置1は、算出手段11と、取得手段12と、評価手段13と、を備える。なおこれらの手段は必ずしも単一のコンピュータに備えられる必要はなく、複数のコンピュータが協働して本発明に係る評価装置1として機能する構成であってもよい。
【0036】
算出手段11は、ユーザの顔のうち、明らかなシワが存在しない部位である非シワ顕在部位の肌画像を取得する。肌画像は、例えば端末装置2から送信され、ネットワークNWを介して算出手段11が肌画像を取得する。
【0037】
本実施形態では、端末装置2が、ユーザの頬及び口元の非シワ顕在部位の画像を撮影し、算出手段11が当該画像を肌画像として取得する。このように複数の非シワ顕在部位の肌画像を取得することが好ましいが、例えば頬又は口元の何れかの肌画像を算出手段11が取得する構成であってもよい。
【0038】
そして算出手段11は、取得した肌画像から複数のパラメータを算出する。複数のパラメータは、皮溝に関するパラメータであることが好ましく、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つを含む。
【0039】
本実施形態の算出手段11は、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータの3つを算出する。
【0040】
取得手段12は、算出手段11が算出した複数のパラメータを取得する。ここで算出手段11は、評価装置1とは異なる外部のコンピュータに備えられてもよい。
【0041】
評価手段13は、取得手段12が取得した複数のパラメータに基づいて、評価を行う。本実施形態の評価手段13は、上述の3つのパラメータを用いて、ユーザの顔のしおれ感の評価を行う。評価の詳細は後述する。
【0042】
また端末装置2は、撮影手段21と、出力手段22と、を備える。なおこれらの手段は必ずしも単一のコンピュータに備えられる必要はなく、複数のコンピュータが協働して本発明に係る端末装置2として機能する構成であってもよい。
【0043】
撮影手段21は、ユーザからの操作を受け付けて、ユーザの顔における非シワ顕在部位の肌画像を撮影する。そしてユーザの指示に応じて肌画像を算出手段11に送信する。
【0044】
出力手段22は、評価装置1から受信した評価結果を出力する。出力の形式は特に限定されないが、例えば、ディスプレイ等に表示することにより、ユーザに評価結果を示すことができる。
【0045】
次に、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係る評価方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る評価方法の概要を示すフローチャートである。なお本実施形態では、各手順を評価装置1及び端末装置2が実行するが、コンピュータを利用せずに一部の手順を実行してもよい。
【0046】
まずステップS11では、算出手段11が、端末装置2から非シワ顕在部位の肌画像を取得する。本実施形態では、上述の通り頬及び口元の非シワ顕在部位の肌画像を取得する。更に顔の他の非シワ顕在部位の肌画像を追加で取得してもよい。
【0047】
次にステップS12では、算出手段11が、取得した肌画像の各々について各種のパラメータを算出する。パラメータの算出は公知の任意の手法で実施することができる。例えば肌画像の位置や大きさの正規化や二値化等の任意の画像処理を行った上でパラメータの算出を実行してもよい。
【0048】
本発明では皮溝に関するパラメータを算出するため、例えば線形成分を強調する画像処理を行い、皮溝を抽出すること等が想定される。そして抽出された皮溝に基づき、各種のパラメータを算出する。具体的には、複数の皮溝の向きから皮溝の異方性を表すパラメータを算出し、皮溝の長さ別に長い皮溝の本数及び短い皮溝の本数を皮溝の長さに関するパラメータとして算出し、また各皮溝の横幅からそのばらつきを表すパラメータを算出する。皮溝の長さについては、例えば所定の基準と比較して長いものと短いものを分けることが想定される。
【0049】
そしてステップS13で、評価手段13が、ユーザの顔のしおれ感を評価する。具体的には、上述の3つのパラメータに基づき、これらを総合して評価を行う。例えば、3つのパラメータのそれぞれについてランク付けを行い、その組み合わせにより総合評価を決定することが想定される。詳細は後述する。
【0050】
そしてユーザの顔のしおれ感の評価が決定されると、ステップS14に進み、その評価結果が出力される。具体的には、評価装置1の通信部がネットワークNWを介して評価結果を端末装置2に送信し、端末装置2の出力手段22がその評価結果に基づく出力を行う。出力は任意の方法で行われてよいが、例えば出力手段22としてディスプレイ等の表示部に後述の総合しおれスコアを表示することで出力することが想定される。これにより、ユーザが評価結果を確認することができる。
【0051】
次にステップS13における評価工程の詳細について説明する。
図3は、本実施形態におけるしおれ感の評価手順を示すフローチャートである。ここでステップS21及びステップS22は部位ごと(肌画像ごと)に実行され、ステップS23で全ての部位の肌画像についてスコアの決定が完了するまで繰り返すことにより、部位ごとに部位スコアを決定する。
【0052】
まずステップS21で、評価手段13は、上述の各パラメータについて、複数段階で表現されるスコアを決定する。例えばパラメータごとに複数の基準値を設定し、その値に基づいてスコアを決定することができる。本実施形態では、皮溝の異方性を表すパラメータから異方性スコアを、長い皮溝の本数及び短い皮溝の本数から長さスコアを、また皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータから幅のばらつきスコアを、それぞれ決定する。長さスコアについては、長い皮溝の本数及び短い皮溝の本数のそれぞれについてスコアを決定し、更にその組み合わせに基づいて長さスコアを決定することが好ましい。
【0053】
次にステップS22では、ステップS21で決定した3つのスコアに基づいて、顔の部位ごと(肌画像ごと)の部位スコアを決定する。部位スコアは、事前に設定された優先順位に基づき上述の3つのスコアを総合することにより決定される。本実施形態では、皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、の順で優先順位を設定する。
【0054】
そしてステップS23で、評価手段13が、各部位(肌画像)における部位スコアを総合することで、総合しおれスコアを決定する。各部位スコアに基づく総合スコアの算出においては、例えば各部位スコアの平均値や、最低値又は最高値等、複数の部位スコアを任意の方法で利用することができる。
【0055】
以上のように、複数の肌画像に基づいて、ユーザのしおれ感として総合しおれスコアを決定することでユーザの顔全体のしおれ感が評価できる。
【0056】
<実施形態2>
次に、別の実施形態について説明する。なお実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、以下では実施形態1と異なる部分について説明する。実施形態2においては、ユーザの顔における将来のシワ発生リスクについて評価を行う。
【0057】
既に述べたように、本発明者らによる研究の結果、顔のしおれ感は、顔の非シワ顕在部位における肌画像から得られる皮溝に関するパラメータ、特に皮溝の異方性を表すパラメータ、皮溝の長さに関するパラメータ、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータ、のうち少なくとも2つに基づいて評価可能であることがわかった。
【0058】
ここで上記パラメータに関係する皮溝の乱れは、皮膚の乾燥により引き起こされることは従来から知られている。例えば皮膚の乾燥により、皮溝に一定の方向性がみられることが知られている(皮膚の機能・特性と物理計測特集「美肌・化粧品のサイエンス」,高橋元次,表面科学Vol.35,No.1,pp.4-10,2014)。また経表皮水分蒸散量(TEWL)や計測時期との関係から、皮膚の乾燥と皮溝の太さの間の関係が示唆されている(参考:「ビデオマイクロスコープを用いた皮膚の表面形態解析法の開発とキメ・毛穴の実態調査」,荒川尚美、大西浩之、舛田勇二,J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn.,報文41(3),pp.173-180,2007)。またこの他にも、皮溝の乱れの要因として、真皮コラーゲン線維束構造の乱れによる肌の粘弾性の低下や、肌の柔軟性の低下が推測される。
【0059】
一方、肌のシワについても、角層の乾燥等により表皮の柔軟性が失われることが原因の一つであると知られている(「シワ形成メカニズムと抗シワ製品」,楊一幸,日本香粧品学会誌Vol.43,No.2,pp.113-118,2019)。また真皮コラーゲン線維束構造の乱れにより肌の粘弾性が低下し、シワの原因となることが知られている(「効能評価と皮膚測定」,高橋元次,出版じほう,2016)。
【0060】
上記のように、表皮の柔軟性の低下や、真皮コラーゲン繊維束構造の乱れによる粘弾性の低下は、シワは勿論のこと、皮溝を含めた肌表面形態にも大きく影響を及ぼしていると考えられる。このような関係から、しおれ感は、顕在化したシワとは無関係な印象である一方で、シワが発生する前段階の印象、即ち将来的なシワ発生リスクが表面化したものともとらえることができる。
【0061】
したがって、しおれ感から、将来的なシワ発生リスクを評価することが可能である。更に、しおれ感の評価に用いられる皮溝に関するパラメータにより、顔における将来のシワ発生リスクについて直接評価することもできる。したがって本発明は、顔の見た目印象の評価するための方法、装置、システム及びプログラムに関するともに、顔における将来のシワ発生リスクを評価するための方法、装置、システム及びプログラムにも関する。
【0062】
これにより、シワの一因となるユーザの置かれた環境の乾燥状態等を直接分析するのが難しい場合であっても、肌画像から得られるパラメータにより容易にシワ発生リスクを評価することが可能となる。
【0063】
実施形態2においては、評価手段13が、上述の3つのパラメータを用いて、ユーザの顔における将来のシワ発生リスクの評価を行う点において実施形態1と異なる。なお、ユーザの顔のしおれ感及びユーザの顔における将来のシワ発生リスクの両方について評価を行う構成としてもよい。
【0064】
評価については、実施形態1において説明した、
図2のしおれ感の評価と同様の手順で行うことができる。ステップS13の評価工程の詳細について、しおれ感の評価の手順と一部異なるため、以下本実施形態のステップS13の評価工程について説明する。
図4は、シワ発生リスクの評価手順を示すフローチャートである。
【0065】
ステップS31~ステップS32は、
図3に示したしおれ感の評価手順におけるステップS21~ステップS22と同様である。そしてステップS33において、評価手段13が、複数の部位スコアに基づいてシワ発生リスクを決定する。各部位スコアに基づくシワ発生リスクの決定においては、しおれ感の評価と同様に、例えば各部位スコアの平均値や、最低値又は最高値等、複数の部位スコアを任意の方法で利用することができる。
【0066】
なお総合しおれスコア及びシワ発生リスクは、ともに同様のパラメータに基づいて評価されるため、シワ発生リスクの評価においては、ステップS33において、上記の処理に代えて、総合しおれスコアに基づく評価を行ってもよい。ステップS23で算出された総合しおれスコア及びシワ発生リスクの関係を事前に評価装置1の記憶部に記憶しておくことで、これに基づいて総合しおれスコアからユーザのシワ発生リスクの評価を行うことができる。
【0067】
このようにしてユーザの顔における将来のシワ発生リスクを評価し、その評価結果を端末装置2において出力することで、ユーザに対して評価結果を示すことができる。なお、実施形態1と実施形態2を組み合わせ、しおれ感に代表されるユーザの顔の見た目印象及びユーザの顔における将来のシワ発生リスクの両方について評価を行い、双方の評価結果を出力してもよい。
【0068】
<実施例>
以下、本発明者らによって行われた、本発明の実施例に係るしおれ感の評価方法に関する精度確認実験について説明する。なお、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0069】
(1)被験者
83名の男女を被験者として、本発明の評価方法によるしおれ感の評価及び目視によるしおれ感の評価を行った。被験者は年代を限定せず幅広く設定した。
【0070】
(2)肌画像のパラメータに基づく評価
図2及び
図3(a)に示した手順により、しおれ感の評価を行った。肌画像としては、被験者の頬及び口元の非シワ顕在部位の肌画像を用いた。また肌画像の部位が各被験者で同じ範囲となるよう調整を行った。
【0071】
次に上述の方法で、各肌画像から、皮溝の異方性を表すパラメータ、長い皮溝の本数及び短い皮溝の本数、及び皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータを、それぞれ算出した。更に皮溝の異方性を表すパラメータから異方性スコアを、長い皮溝の本数及び短い皮溝の本数から長さスコアを、また皮溝の横幅のばらつきを表すパラメータから幅のばらつきスコアを、それぞれ決定した。長さスコアについては、長い皮溝の本数及び短い皮溝の本数のそれぞれについてスコアを決定し、更にその組み合わせに基づいて長さスコアを決定した。
【0072】
そして上記3つのスコアから部位ごとに部位スコアを決定し、頬及び口元の部位スコアに基づいて、総合しおれスコアを決定した。総合しおれスコアは、事前に設定された基準により1~5の5段階に分類した。
【0073】
(3)目視評価
(2)と同一の被験者について、しおれ感の目視評価を行った。目視評価は、被験者全員について、それぞれ専門評価者3名により行われた。目視評価は、被験者と被験者の頬左側を撮影した画像を専門評価者に対してディスプレイ上に表示することにより行われ、専門評価者は当該画像を確認してしおれ感を1~5の5段階で評価した。専門評価者は、事前に用意された基準画像と比較することによって、被験者の顔についてしおれ感を評価した。その後3名の専門評価者による評価結果について、被験者ごとに平均値を算出し、結果が整数になるよう1から5のうち最も近い値に変換した値を当該被験者のしおれ感とした。
【0074】
(4)結果
(2)による総合しおれスコアの5段階の分類と、(3)による5段階の評価と、を比較し、一致率を計算した。(3)の目視評価による5段階の評価ごとに被験者を分け、評価ごとの被験者群について(2)の評価方法による分類の(3)の目視評価による5段階の評価との一致率を計算したところ、1~5のいずれの評価においても65%以上の一致率であった。このことから、本発明に係る評価方法によって、非シワ顕在部位の肌画像から、目視により顔全体が与える印象に近い評価ができる可能性が示された。
【符号の説明】
【0075】
1 :評価装置
11 :算出手段
12 :取得手段
13 :評価手段
2 :端末装置
21 :撮影手段
22 :出力手段
NW :ネットワーク