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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042369
(43)【公開日】2025-03-27
(54)【発明の名称】LLC方式DC/DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20250319BHJP
   H02M 3/335 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
H02M3/28 H
H02M3/335 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149336
(22)【出願日】2023-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅史
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA15
5H730AS01
5H730AS04
5H730AS08
5H730AS17
5H730BB26
5H730BB27
5H730BB57
5H730BB66
5H730DD03
5H730DD16
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE13
5H730EE59
5H730FD01
5H730FG05
5H730FG07
(57)【要約】
【課題】昇圧比が大きい場合にブースト電流が増加するのを抑制可能なLLC方式DC/DCコンバータを提供する。
【解決手段】トランス回路Trと、1次側スイッチング回路1と、2次側スイッチング回路3と、共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCrを含む共振回路2と、制御部4とを備えるLLC方式DC/DCコンバータ10であって、制御部4は、主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御を行い、ブースト制御時の制御部4は、1次側スイッチング回路1から2次側スイッチング回路3への電力伝送を行わせる場合、1次側スイッチング素子Q1~Q4の駆動周波数を減少させるとともに、2次側スイッチング素子Q5~Q8のいずれかをオンさせて、2次側スイッチング回路3に短絡回路を形成させることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス回路と、前記トランス回路の1次側に設けられた1次側スイッチング素子を含む1次側スイッチング回路と、前記トランス回路の2次側に設けられた2次側スイッチング素子を含む2次側スイッチング回路と、共振インダクタンスおよび共振キャパシタンスを含む共振回路と、を備える主回路部と、
前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のオンオフ制御を行うための制御信号を生成する制御部と、
を備えたLLC方式DC/DCコンバータであって、
前記制御部は、前記主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御を行い、
前記ブースト制御時の前記制御部は、
前記主回路部に前記1次側スイッチング回路から前記2次側スイッチング回路への電力伝送を行わせる場合、
前記制御信号により、前記1次側スイッチング素子の駆動周波数を減少させるとともに、前記2次側スイッチング素子をオンさせて前記2次側スイッチング回路に短絡回路を形成する
ことを特徴とするLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項2】
前記ブースト制御時の前記制御部は、
前記主回路部に前記2次側スイッチング回路から前記1次側スイッチング回路への電力伝送を行わせる場合、
前記制御信号により、前記2次側スイッチング素子の駆動周波数を減少させるとともに、前記1次側スイッチング素子をオンさせて前記1次側スイッチング回路に短絡回路を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項3】
前記制御部は、
前記駆動周波数を前記共振回路の共振周波数以上の値で制御し、前記駆動周波数が予め定めたブースト開始周波数未満の場合、前記ブースト制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項4】
前記制御部は、
前記駆動周波数が前記ブースト開始周波数以上の場合、前記駆動周波数を変調させる周波数変調制御を行い、
前記ブースト制御を行う場合、前記駆動周波数を用いて前記制御信号のブーストパルス幅を算出し、前記ブーストパルス幅の期間に前記短絡回路を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項5】
前記制御部は、
前記昇圧動作を行う昇圧比が小さいほど前記ブースト開始周波数が低い値となり、前記昇圧比が大きいほど前記ブースト開始周波数が高い値となるように、前記ブースト開始周波数を可変させる
ことを特徴とする請求項3に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項6】
前記制御部は、
前記制御信号のブーストパルス幅をTb、前記駆動周波数をfs、前記昇圧動作を行う昇圧比のゲインをGとした場合、
第1式 (係数a/駆動周波数fs)-定数b
第2式 [(係数a/駆動周波数fs)-定数b]×ゲインG
第3式 (-係数a×駆動周波数fs)+定数b
第4式 [(-係数a×駆動周波数fs)+定数b]×ゲインG
のいずれか1つの式から前記ブーストパルス幅を算出し、前記ブーストパルス幅の期間に前記短絡回路を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項7】
前記ゲインGは、前記昇圧比が大きいほど大きい値となり、前記昇圧比が小さいほど小さい値となる
ことを特徴とする請求項6に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【請求項8】
前記1次側スイッチング回路および前記2次側スイッチング回路は、
ハーフブリッジ回路、フルブリッジ回路、または3相を含む多相ブリッジ回路であり、
前記2次側スイッチング回路の前記フルブリッジ回路および前記多相ブリッジ回路は、上アームの前記2次側スイッチング素子をダイオードに置き換えたブリッジレス回路を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のLLC方式DC/DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LLC方式DC/DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルの実現に向け、電気自動車のバッテリー電力を家庭の負荷に供給するV2H(Vehicle to Home)システムや、太陽光発電装置と蓄電池とを組み合わせた分散電源システムの開発が進んでおり、これらのシステムに含まれる電源の小型化、低コスト化、高効率化が求められている。そのため、電源に使用される双方向DC/DCコンバータとして、部品点数が少なく高効率化が可能な電流共振型のDC/DCコンバータであるCLLC方式DC/DCコンバータが採用されている。
【0003】
一方、電気自動車の充電規格であるCHAdeMO規格では、150[V]から450[V]と広範囲の電圧に対応することが要求されている。このため、V2Hシステムに含まれる電源は、DC/DCコンバータが出力する直流電圧を、電気自動車のバッテリー電圧に合わせて降圧するだけでなく昇圧する必要がある。しかしながら、CLLC方式DC/DCコンバータは、一般に周波数変調制御を行うことで出力電圧を制御するため、出力可能な電圧範囲が狭いという欠点がある。
【0004】
図16に、従来のCLLC方式DC/DCコンバータ10Cの主回路部を示す。CLLC方式DC/DCコンバータ10Cの主回路部は、双方向動作が可能な対称回路構成となっている。すなわち、主回路部は、トランスTrの1次側に1次側スイッチング回路1および1次側共振回路2cを備え、トランスTrの2次側に2次側共振回路5cおよび2次側スイッチング回路3を備える。1次側共振回路2cは、共振コイルLr11および共振コンデンサCr11を備え、2次側共振回路5cは、共振コイルLr21および共振コンデンサCr21を備える。
【0005】
CLLC方式DC/DCコンバータは、LLC方式DC/DCコンバータを双方向化した回路構成であるため、順方向動作時の駆動回路側および逆方向動作時の駆動回路側の双方に順方向動作時および逆方向動作時に必要な入出力比を得るための共振インダクタンス(共振コイル)および共振キャパシタンス(共振コンデンサ)を備える。例えば、図16のCLLC方式DC/DCコンバータ10Cは、1次側共振回路2cと2次側共振回路5cとを備える。これら共振回路2c、5cを構成する共振コイルは通常、コアと巻き線で構成されており、サイズ、重量が大きく、小型化と低コスト化に支障を来す。また、共振回路2c、5cを構成する共振コンデンサには、通常、フィルムコンデンサや積層セラミックコンデンサが用いられるが、フィルムコンデンサの場合はサイズが大きく、積層セラミックコンデンサの場合は実装面積を広くとる必要があり、いずれの場合も小型化に支障を来す。このため、CLLC方式DC/DCコンバータは、共振回路が駆動回路側にのみあるLLC方式DC/DCコンバータと比較すると、共振回路が1次側および2次側(駆動回路側および整流回路側)の両方にあることにより、部品点数の増加による主回路部の大型化および高コスト化、整流回路側の共振回路による損失増加(電力変換効率の低下)の問題がある。
【0006】
特許文献1には、双方向動作が可能なLLC方式DC/DCコンバータが開示されている。特許文献1に記載のLLC方式DC/DCコンバータでは、入力側のスイッチトランジスタを駆動周波数固定かつデューティ50%のモードで駆動させ、整流側の2つのハーフブリッジのスイッチトランジスタを位相シフト制御のモードで駆動させることで、ブースト動作を行わせている。特許文献1に記載のLLC方式DC/DCコンバータは、位相シフト量を調整することによってブースト動作による昇圧比を調整し、ゲインを1より大きくすることができる。
【0007】
特許文献1に記載のLLC方式DC/DCコンバータでは、共振回路が1つになるため、部品点数の削減による主回路部の小型化および低コスト化の利点があるが、主回路部のインダクタンス値が減少し、ブースト動作時に大きな短絡電流(ブースト電流)が短時間に流れるので、出力の制御が難しくなるという問題がある。さらに、主回路部の入出力電圧比(昇圧比)が大きくなると、ブースト比が大きくなり、より大きなブースト電流が流れるという問題がある。
【0008】
なお、LLC方式DC/DCコンバータは、短絡期間(ブースト期間)の長さが同じでも、LLC方式の駆動周波数に依存した入出力特性により駆動周波数や入力電圧が異なればブースト電流の大きさが異なるので、最適な動作パラメータ(例えば、どのような駆動周波数でブースト動作を行わせるか)を決めるのが難しいという問題がある。
【0009】
特許文献2にも、双方向動作が可能なLLC方式DC/DCコンバータが開示されている。特許文献2に記載のLLC方式DC/DCコンバータでは、1次側のスイッチング素子と同期して2次側のスイッチング素子(短絡スイッチ)をオンさせることで、ブースト動作を行わせている。特許文献2に記載のLLC方式DC/DCコンバータは、短絡スイッチのオンデューティを制御することで、ブースト動作による昇圧比を調整することができる。しかしながら、特許文献2に記載のLLC方式DC/DCコンバータには、特許文献1に記載のLLC方式DC/DCコンバータと同様の問題がある。
【0010】
非特許文献1には、LLC方式DC/DCコンバータにおけるブースト動作の制御方法が開示されている。非特許文献1に記載の制御方法は、入力電圧が低い領域において、入力電圧の低下に従い、ブースト角および駆動周波数を徐々に増加させる。しかしながら、入力電圧の低下に従い駆動周波数を増加させると、昇圧比が大きくなるに従い、ブースト比が大きくなり、より大きなブースト電流が流れるので、出力の制御が難しくなるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】中国特許第111030464号明細書
【特許文献2】特開2005-224012号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Chunyang Zhao, et al., "Design and Control of a High-Power Wide-Gain-Range LLC Resonant Converter", 20-24 March 2022, 2022 IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), pp.40-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、昇圧比が大きい場合にブースト電流が増加するのを抑制可能なLLC方式DC/DCコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係るLLC方式DC/DCコンバータは、
トランス回路と、前記トランス回路の1次側に設けられた1次側スイッチング素子を含む1次側スイッチング回路と、前記トランス回路の2次側に設けられた2次側スイッチング素子を含む2次側スイッチング回路と、共振インダクタンスおよび共振キャパシタンスを含む共振回路と、を備える主回路部と、
前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のオンオフ制御を行うための制御信号を生成する制御部と、
を備えたLLC方式DC/DCコンバータであって、
前記制御部は、前記主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御を行い、
前記ブースト制御時の前記制御部は、
前記主回路部に前記1次側スイッチング回路から前記2次側スイッチング回路への電力伝送を行わせる場合、
前記制御信号により、前記1次側スイッチング素子の駆動周波数を減少させるとともに、前記2次側スイッチング素子をオンさせて前記2次側スイッチング回路に短絡回路を形成することを特徴とする。
【0015】
この構成では、制御部は、ブースト制御時に2次側スイッチング素子を昇圧比に応じた時間オンさせるために、1次側スイッチング素子の駆動周波数を減少させるので、駆動周波数の減少に伴うLLC方式の出力特性により出力を上昇させることができる。したがって、この構成によれば、ブースト期間を短くすることができ、昇圧比が大きい場合にブースト電流が増加するのを抑制することができる。
【0016】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記ブースト制御時の前記制御部は、
前記主回路部に前記2次側スイッチング回路から前記1次側スイッチング回路への電力伝送を行わせる場合、
前記制御信号により、前記2次側スイッチング素子の駆動周波数を減少させるとともに、前記1次側スイッチング素子をオンさせて前記1次側スイッチング回路に短絡回路を形成するよう構成できる。
【0017】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記制御部は、
前記駆動周波数を前記共振回路の共振周波数以上の値で制御し、前記駆動周波数が予め定めたブースト開始周波数未満の場合、前記ブースト制御を行うよう構成できる。
【0018】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記制御部は、
前記駆動周波数が前記ブースト開始周波数以上の場合、前記駆動周波数を変調させる周波数変調制御を行い、
前記ブースト制御を行う場合、前記駆動周波数を用いて前記制御信号のブーストパルス幅を算出し、前記ブーストパルス幅の期間に前記短絡回路を形成するよう構成できる。
【0019】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記制御部は、
前記昇圧動作を行う昇圧比が小さいほど前記ブースト開始周波数が低い値となり、前記昇圧比が大きいほど前記ブースト開始周波数が高い値となるように、前記ブースト開始周波数を可変させるよう構成できる。
【0020】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記制御部は、
前記制御信号のブーストパルス幅をTb、前記駆動周波数をfs、前記昇圧動作を行う昇圧比のゲインをGとした場合、
第1式 (係数a/駆動周波数fs)-定数b
第2式 [(係数a/駆動周波数fs)-定数b]×ゲインG
第3式 (-係数a×駆動周波数fs)+定数b
第4式 [(-係数a×駆動周波数fs)+定数b]×ゲインG
のいずれか1つの式から前記ブーストパルス幅を算出し、前記ブーストパルス幅の期間に前記短絡回路を形成するよう構成できる。
【0021】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記ゲインGは、前記昇圧比が大きいほど大きい値となり、前記昇圧比が小さいほど小さい値となるよう構成できる。
【0022】
前記LLC方式DC/DCコンバータにおいて、
前記1次側スイッチング回路および前記2次側スイッチング回路は、
ハーフブリッジ回路、フルブリッジ回路、または3相を含む多相ブリッジ回路であり、
前記2次側スイッチング回路の前記フルブリッジ回路および前記多相ブリッジ回路は、上アームの前記2次側スイッチング素子をダイオードに置き換えたブリッジレス回路を含むよう構成できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、昇圧比が大きい場合にブースト電流が増加するのを抑制可能なLLC方式DC/DCコンバータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係るLLC方式DC/DCコンバータの回路図の例である。
図2】第1実施形態に係る各スイッチング素子の順方向動作時かつブースト制御時の制御タイミングを示す図の例である。
図3】第1実施形態における電流経路図であって、(A)は図2のモード1Bの期間の図、(B)は図2のモード1の期間の図、(C)は図2のモード2Bの期間の図、(D)は図2のモード2の期間の図である。
図4】第1実施形態に係る各スイッチング素子の逆方向動作時かつブースト制御時の制御タイミングを示す図の例である。
図5】第1実施形態における電流経路図であって、(A)は図4のモード1B’の期間の図、(B)は図4のモード1’の期間の図、(C)は図4のモード2B’の期間の図、(D)は図4のモード2’の期間の図である。
図6図4の制御タイミングで逆方向動作させた場合(V2=300Vの場合)の駆動周波数fsとブーストパルス幅Tbとの関係例を示す図である。
図7図2の制御タイミングで順方向動作させた場合の駆動周波数fsとブーストパルス幅Tbとの関係例を示す図であって、(A)はV2=350Vの場合、(B)はV2=450Vの場合の図である。
図8】第1実施形態に係るLLC方式DC/DCコンバータの逆方向動作時の電流制御フロー図の例である。
図9】第1実施形態に係るLLC方式DC/DCコンバータの順方向動作時の電流制御フロー図の例である。
図10】第1変形例に係るLLC方式DC/DCコンバータの回路図の例である。
図11】第1変形例に係る各スイッチング素子の順方向動作時かつブースト制御時の制御タイミングを示す図の例である。
図12】第1変形例における電流経路図であって、(A)は図11のモード1Bの期間の図、(B)は図11のモード1の期間の図、(C)は図11のモード2Bの期間の図、(D)は図11のモード2の期間の図である。
図13】第2変形例に係るLLC方式DC/DCコンバータの回路図の例である。
図14】第2変形例に係る各スイッチング素子の順方向動作時かつブースト制御時の制御タイミングを示す図の例である。
図15】第2変形例における電流経路図であって、(A)は図14のモード1Bの期間の図、(B)は図14のモード1の期間の図である。
図16】従来のCLLC方式DC/DCコンバータの主回路図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るLLC方式DC/DCコンバータの実施形態について説明する。
【0026】
図1に、本発明の一実施形態に係るLLC方式DC/DCコンバータ10を示す。LLC方式DC/DCコンバータ10は、双方向動作が可能な電流共振型のLLC方式DC/DCコンバータであって、一対の端子T1、T2と、コンデンサC11と、1次側スイッチング回路1と、共振回路2と、トランスTrと、2次側スイッチング回路3と、コンデンサC21と、一対の端子T3、T4と、制御部4とを備える。上記構成のうち制御部4を除く構成が、本発明の「主回路部」に相当する。
【0027】
端子T1、T2には、例えば、双方向インバータの直流側端子が接続され、端子T3、T4には、例えば、負荷であるバッテリー(例えば、電気自動車のバッテリー)が接続される。端子T1、T2側(1次側)から端子T3、T4側(2次側)への電力伝送を順方向電力伝送とすれば、順方向電力伝送時の動作(以下、順方向動作)は、端子T3、T4間に接続されたバッテリーへの充電動作となる。一方、端子T3、T4側(2次側)から端子T1、T2側(1次側)への電力伝送を逆方向電力伝送とすれば、逆方向電力伝送時の動作(以下、逆方向動作)は、端子T3、T4間に接続されたバッテリーからの放電動作となる。順方向動作時には、1次側スイッチング回路1が駆動回路となり、2次側スイッチング回路3が整流回路となる。一方、逆方向動作時には、2次側スイッチング回路3が駆動回路となり、1次側スイッチング回路1が整流回路となる。
【0028】
コンデンサC11は、端子T1、T2間に接続され、逆方向動作時の出力リップル低減用のコンデンサとして機能する。コンデンサC21は、端子T3、T4間に接続され、順方向動作時の出力リップル低減用のコンデンサとして機能する。
【0029】
1次側スイッチング回路1は、並列接続された第1レグおよび第2レグを含み、各レグが直列接続された上アームおよび下アームを含み、フルブリッジ回路を構成している。第1レグの上アームと第2レグの上アームとの接続点は、端子T1に接続される。第1レグの下アームと第2レグの下アームとの接続点は、端子T2に接続される。第1レグの上アームと第1レグの下アームとの接続点X1および第2レグの上アームと第2レグの下アームとの接続点X2は、共振回路2に接続される。
【0030】
第1レグの上アームはスイッチング素子Q1、ダイオードD1、コンデンサC1を含む。同様に、第1レグの下アームはスイッチング素子Q2、ダイオードD2、コンデンサC2を含み、第2レグの上アームはスイッチング素子Q3、ダイオードD3、コンデンサC3を含み、第2レグの下アームはスイッチング素子Q4、ダイオードD4、コンデンサC4を含む。スイッチング素子Q1~Q4は、本発明の「1次側スイッチング素子」に相当する。ダイオードD1~D4は、順方向動作時は還流用ダイオードとして機能し、逆方向動作時は整流用または逆流防止用ダイオードとして機能する。コンデンサC1~C4は、順方向動作時に部分共振用コンデンサとして機能する。
【0031】
スイッチング素子Q1は、例えば、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、Si(シリコン)、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使用したMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等の、高周波でスイッチングが可能な電力用半導体スイッチング素子を用いることができる。スイッチング素子Q2~Q4および後述するスイッチング素子Q5~Q8についても同様である。
【0032】
ダイオードD1は、スイッチング素子Q1の電流路に逆方向に並列接続される。ダイオードD1は、スイッチング素子Q1の寄生ダイオードでもよいし、スイッチング素子Q1とは独立した外付けダイオードでもよいし、その両方でもよい。ダイオードD2~D4および後述するダイオードD5~D8についても同様である。
【0033】
コンデンサC1は、スイッチング素子Q1の電流路およびダイオードD1に並列接続される。コンデンサC1は、スイッチング素子Q1の寄生コンデンサでもよいし、スイッチング素子Q1とは独立した外付けコンデンサでもよいし、その両方でもよい。コンデンサC2~C4および後述するコンデンサC5~C8についても同様である。
【0034】
共振回路2は、トランスTrの1次巻き線に直列接続された共振コイル(インダクタ)による共振インダクタンスLrおよび共振コンデンサによる共振キャパシタンスCrを含む。共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCrは、トランスTrの励磁インダクタンス(励磁コイル)とともに直列共振回路を構成する。動作上問題となるのは、共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCr(共振部品)で決まる共振周波数なので、これらの共振部品の回路定数(インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCr)を共振定数と呼んでいる。励磁インダクタンスは、トランスTrと別コイルで構成してもよいが、トランスTrに含まれるとして図示を省略している。共振インダクタンスLrは、トランスTrの漏れインダクタンスでもよく、個別のコアを有するコイルでもよく、その両方でもよい。共振キャパシタンスCrは、個別のコンデンサで構成してもよく、スイッチング素子Q1~Q4の寄生キャパシタンスでもよく、その両方でもよい。なお、共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCrは、トランスTrの1次巻き線に直列接続されて直列共振回路を構成するのであれば、その配置を適宜変更することができる。
【0035】
共振回路2の共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCrは、逆方向動作時の等価回路として、2次側からもトランスTrを介して直列共振回路を構成する。すなわち、共振回路2は、逆方向動作時もLLC共振動作を行うことができる。ただし、共振回路2の共振定数は、例えば順方向動作時用に最適化された値であれば、逆方向動作時には最適な値とはいえない場合がある値である。
【0036】
トランスTrは、本発明の「トランス回路」に相当し、1個または複数個の高周波絶縁トランスで構成される。トランスTrの1次巻き線は、共振回路2を介して1次側スイッチング回路1に接続される。トランスTrの2次巻き線は、2次側スイッチング回路3に接続される。トランスTrの1次巻き線と2次巻き線の巻き数比は入出力電圧比である昇圧比に関係しており、例えば順方向動作時用に最適化された値であれば、逆方向動作時には最適な値とはいえない場合がある値である。
【0037】
2次側スイッチング回路3は、並列接続された第3レグおよび第4レグを含み、各レグが直列接続された上アームおよび下アームを含み、フルブリッジ回路を構成している。第3レグの上アームと第4レグの上アームとの接続点は、端子T3に接続される。第3レグの下アームと第4レグの下アームとの接続点は、端子T4に接続される。第3レグの上アームと第3レグの下アームとの接続点X3は、トランスTrの2次巻き線の一端に接続され、第4レグの上アームと第4レグの下アームとの接続点X4は、トランスTrの2次巻き線の他端に接続される。
【0038】
第3レグの上アームはスイッチング素子Q5、ダイオードD5、コンデンサC5を含む。同様に、第3レグの下アームはスイッチング素子Q6、ダイオードD6、コンデンサC6を含み、第4レグの上アームはスイッチング素子Q7、ダイオードD7、コンデンサC7を含み、第4レグの下アームはスイッチング素子Q8、ダイオードD8、コンデンサC8を含む。スイッチング素子Q5~Q8は、本発明の「2次側スイッチング素子」に相当する。ダイオードD5~D8は、逆方向動作時は還流用ダイオードとして機能し、順方向動作時は整流用または逆流防止用ダイオードとして機能する。コンデンサC5~C8は、逆方向動作時に部分共振用コンデンサとして機能する。このように、2次側スイッチング回路3は、1次側スイッチング回路1と同様の構成である。
【0039】
制御部4は、スイッチング素子Q1~Q8のオンオフ制御を行うための制御信号を生成する処理部と、当該制御信号に基づいてスイッチング素子Q1~Q8をオンオフさせる駆動部とを含む。制御部4は、マイクロプロセッサやデジタルシグナルプロセッサ等のデジタル回路で構成されてもよいし、アナログ回路で構成されてもよいし、デジタル回路とアナログ回路とを組み合わせた回路で構成されてもよい。制御部4は、さらに検出部を含んでもよい。検出部は、例えば、制御部4の制御に必要な電流値および/または電圧値を検出する電流センサおよび/または電圧センサおよびその周辺回路を含む。
【0040】
順方向動作時の制御部4は、端子T1、T2側(1次側)への入力(入力電流、入力電圧または入力電力)および/または端子T3、T4側(2次側)からの出力(出力電流、出力電圧または出力電力)を監視し、出力が所望の値になるように、スイッチング素子Q1~Q8のオンオフ制御を行う。同様に、逆方向動作時の制御部4は、端子T3、T4側(2次側)への入力(入力電流、入力電圧または入力電力)および/または端子T1、T2側(1次側)からの出力(出力電流、出力電圧または出力電力)を監視し、出力が所望の値になるように、スイッチング素子Q1~Q8のオンオフ制御を行う。
【0041】
制御部4は、オンオフ制御として駆動回路のスイッチング素子の駆動周波数を変調させる周波数変調制御を行い、整流回路のスイッチング素子を駆動回路のスイッチング素子のオンタイミングに同期して制御することで同期整流制御を行う。周波数変調制御時の駆動周波数が予め設定されたブースト開始周波数未満の場合、制御部4は、整流回路を短絡させて主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御および同期整流制御を行う。
【0042】
詳細は後述するが、ブースト制御時の制御部4は、駆動回路のスイッチング素子の駆動周波数を減少させるとともに、整流回路のスイッチング素子(短絡させてブースト電流を流すための短絡用のスイッチング素子)をオンさせる。例えば、駆動周波数の減少に応じて短絡用のスイッチング素子のオン時間(ブースト期間)を増加させることで、所望の出力を得ることができる。
【0043】
図2に、順方向動作時かつブースト制御時におけるスイッチング素子Q1~Q8の制御タイミングの例を示す。スイッチング素子Q1~Q8は、図2に示す制御信号がハイレベルの時にオン状態となり、制御信号がローレベルの時にオフ状態となる(以下の制御タイミング図でも同様)。
【0044】
制御部4は、駆動回路である1次側スイッチング回路1のスイッチング素子Q1~Q4に対して、同一駆動周波数かつ同一オンデューティ(例えば、50%)で、第1レグの上アーム(スイッチング素子Q1)と第2レグの下アーム(スイッチング素子Q4)とを同一タイミングでオンオフさせ、第1レグの下アーム(スイッチング素子Q2)と第2レグの上アーム(スイッチング素子Q3)とを同一タイミングでオンオフさせる。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2はデッドタイムを除いて180°の位相差を有しており、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4もデッドタイムを除いて180°の位相差を有している。
【0045】
制御部4は、整流回路である2次側スイッチング回路3のスイッチング素子Q5~Q8に対して、スイッチング素子Q1~Q4と同一駆動周波数かつ同一オンデューティで、第3レグの上アーム(スイッチング素子Q5)と第4レグの下アーム(スイッチング素子Q8)とを同一タイミングでオンオフさせ、第3レグの下アーム(スイッチング素子Q6)と第4レグの上アーム(スイッチング素子Q7)とを同一タイミングでオンオフさせる。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6はデッドタイムを除いて180°の位相差を有しており、スイッチング素子Q7とスイッチング素子Q8もデッドタイムを除いて180°の位相差を有している。
【0046】
さらに、制御部4は、スイッチング素子Q5~Q8のオンオフタイミングを、スイッチング素子Q1~Q4のオンオフタイミングに対して位相差θ[°](位相シフト量θ)だけ位相シフトさせる。具体的には、制御部4は、スイッチング素子Q6、Q7のターンオフのタイミングをスイッチング素子Q1、Q4のターンオンのタイミングよりも位相差θだけ遅らせ、スイッチング素子Q5、Q8のターンオフのタイミングをスイッチング素子Q2、Q3のターンオンのタイミングよりも位相差θだけ遅らせる位相シフト制御を行う。位相差θは0°から180°の値をとる(デッドタイム分を含まず)。
【0047】
なお、説明を簡単にするために、図2ではデッドタイムの記載を省略している(以下の制御タイミング図でも同様)。すなわち、実際の制御では、駆動回路における同一レグの上下アームのオフからオン時(例えば、スイッチング素子Q2のターンオフからスイッチング素子Q1のターンオン時、またはスイッチング素子Q1のターンオフからスイッチング素子Q2のターンオン時)に、ソフトスイッチングを行うための時間と貫通防止時間(例えば、スイッチング素子Q1、Q2の貫通防止時間)とが存在する。同様に、整流回路における同一レグの上下アームのオフからオン時(例えば、スイッチング素子Q6のターンオフからスイッチング素子Q5のターンオン時、またはスイッチング素子Q5のターンオフからスイッチング素子Q6のターンオン時)にも、ソフトスイッチングを行うための時間と貫通防止時間(例えば、スイッチング素子Q5、Q6の貫通防止時間)とが存在する。スイッチング素子Q1~Q8のオンデューティは、例えば、50%からデッドタイム分減少し、または、スイッチング素子Q1~Q8のオフデューティは、例えば、50%からデッドタイム分増加する。
【0048】
図3に、図2の制御タイミング図における各モード(Mode)の電流経路を示す。図3において、(A)は図2のモード1Bの期間の図、(B)は図2のモード1の期間の図、(C)は図2のモード2Bの期間の図、(D)は図2のモード2の期間の図である。
【0049】
図3(A)に示すモード1Bでは、モード開始時にスイッチング素子Q2、Q3がターンオフし、スイッチング素子Q1、Q4がターンオンするので、共振回路2に共振電流が流れ、トランスTrの2次側に電流が流れる。2次側ではスイッチング素子Q6、Q7がオンしているので、スイッチング素子Q6とダイオードD8により短絡回路が形成され、スイッチング素子Q7とダイオードD5により短絡回路が形成される。2次側の電流はこれらの短絡回路を流れるため、短時間で2次側に大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振回路2に大きな共振電流が流れ、共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。モード1Bの期間はブースト期間となる。
【0050】
図3(B)に示すモード1では、モード開始時に2次側でスイッチング素子Q6、Q7がターンオフし、スイッチング素子Q5、Q8がターンオンするので、ブースト期間が終了し、スイッチング素子Q5、Q8による同期整流が行われ、共振インダクタンスLrに蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。モード1の期間は同期整流期間となる。
【0051】
図3(C)に示すモード2Bでは、モード開始時にスイッチング素子Q1、Q4がターンオフし、スイッチング素子Q2、Q3がターンオンするので、共振回路2に逆向きの共振電流が流れ、トランスTrの2次側に逆向きの電流が流れる。2次側ではスイッチング素子Q5、Q8がオンしているので、スイッチング素子Q5とダイオードD7により短絡回路が形成され、スイッチング素子Q8とダイオードD6により短絡回路が形成される。2次側の電流はこれらの短絡回路を流れるため、短時間で2次側に大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振回路2に大きな共振電流が流れ、共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。モード2Bの期間はブースト期間となる。
【0052】
図3(D)に示すモード2では、モード開始時に2次側でスイッチング素子Q5、Q8がターンオフし、スイッチング素子Q6、Q7がターンオンするので、ブースト期間が終了し、スイッチング素子Q6、Q7による同期整流が行われ、共振インダクタンスLrに蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。モード2の期間は同期整流期間となる。
【0053】
このように、モード1Bおよびモード2Bのブースト期間に、2次側では短絡回路が形成されて大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振回路2に大きな共振電流が流れ、共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。その後のモード1およびモード2の同期整流期間に、2次側で同期整流が行われ、端子T3、T4に大きな負荷電流が流れる。
【0054】
LLC方式DC/DCコンバータ10では、制御部4が、ブースト制御時に、スイッチング素子Q5~Q8のオンオフタイミングをスイッチング素子Q1~Q4のオンオフタイミングに対して位相差θ(位相シフト量θ)だけ位相シフトさせる位相シフト制御を行うことで、ブースト期間と同期整流期間とを交互に生じさせる。そして、LLC方式DC/DCコンバータ10では、ブースト期間に短絡回路を形成するブースト動作と、同期整流期間に負荷電流を出力する同期整流動作とが交互に行われることで、ブースト制御時の昇圧動作が行われる。
【0055】
なお、モード1Bおよびモード2Bのブースト期間に相当する位相シフト量θ[°]は、位相期間[時間]として表してもよいし、位相率[%](駆動周期1周期分に対する割合)として表してもよい。また、位相シフト量θは、後述する「ブーストパルス幅Tb」のブースト期間[時間]に相当するため、駆動周期1周期分に対するブースト期間の割合として、ブースト率[%]あるいはブースト比で表してもよい。
【0056】
本実施形態では、スイッチング素子Q5~Q8の制御タイミングは、スイッチング素子Q1~Q4の制御タイミングに対して位相シフトさせただけであり、スイッチング素子Q1~Q4と同一駆動周波数かつ同一オンデューティである。このため、スイッチング素子Q5~Q8の制御タイミングに関する制御信号を生成するのは比較的容易である。
【0057】
本実施形態では、ブースト動作の後に同期整流動作を行っているが、仮に、ブースト動作のみで同期整流動作を行わない場合、ブースト動作後の整流は、整流回路のダイオードによるダイオードブリッジ整流となる。一般に、ダイオードのオン抵抗に比べて、スイッチング素子のオン抵抗は低いため、本実施形態のように、ブースト動作後に同期整流動作を行う方が、ブースト動作後にダイオードブリッジ整流動作を行うよりも低損失になり整流時の効率が高くなる。
【0058】
図4に、逆方向動作時かつブースト制御時におけるスイッチング素子Q1~Q8の制御タイミングの例を示す。
【0059】
逆方向動作時には、2次側スイッチング回路3が駆動回路となり、1次側スイッチング回路1が整流回路となることを除き、制御タイミングは順方向動作時と同様である。すなわち、制御部4は、スイッチング素子Q1~Q4のオンオフタイミングをスイッチング素子Q5~Q8のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせる。これにより、制御部4は、ブースト期間(モード1B’およびモード2B’の期間)と同期整流期間(モード1’およびモード2’の期間)とを交互に生じさせて、主回路部に昇圧動作を行わせる。
【0060】
図5に、図4の制御タイミング図における各モードの電流経路を示す。図5において、(A)は図4のモード1B’の期間の図、(B)は図4のモード1’の期間の図、(C)は図4のモード2B’の期間の図、(D)は図4のモード2’の期間の図である。
【0061】
図5(A)に示すモード1B’では、モード開始時にスイッチング素子Q6、Q7がターンオフし、スイッチング素子Q5、Q8がターンオンするので、2次側に駆動電流が流れ、トランスTrを経由して1次側の共振回路2に共振電流が流れる。1次側ではスイッチング素子Q2、Q3がオンしているので、スイッチング素子Q2とダイオードD4により短絡回路が形成され、スイッチング素子Q3とダイオードD1により短絡回路が形成される。1次側の電流はこれらの短絡回路を流れるため、短時間で大きな共振電流が流れ、共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。モード1B’の期間はブースト期間となる。
【0062】
図5(B)に示すモード1’では、モード開始時に1次側でスイッチング素子Q2、Q3がターンオフし、スイッチング素子Q1、Q4がターンオンするので、ブースト期間が終了し、スイッチング素子Q1、Q4による同期整流が行われ、共振インダクタンスLrに蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T1、T2に流れる。モード1’の期間は同期整流期間となる。
【0063】
図5(C)に示すモード2B’では、モード開始時にスイッチング素子Q5、Q8がターンオフし、スイッチング素子Q6、Q7がターンオンするので、2次側に逆向きの駆動電流が流れ、トランスTrを経由して1次側の共振回路2に逆向きの共振電流が流れる。1次側ではスイッチング素子Q1、Q4がオンしているので、スイッチング素子Q1とダイオードD3により短絡回路が形成され、スイッチング素子Q4とダイオードD2により短絡回路が形成される。1次側の電流はこれらの短絡回路を流れるため、短時間で大きな共振電流が流れ、共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。モード2B’の期間はブースト期間となる。
【0064】
図5(D)に示すモード2’では、モード開始時に1次側でスイッチング素子Q1、Q4がターンオフし、スイッチング素子Q2、Q3がターンオンするので、ブースト期間が終了し、スイッチング素子Q2、Q3による同期整流が行われ、共振インダクタンスLrに蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T1、T2に流れる。モード2’の期間は同期整流期間となる。
【0065】
このように、モード1B’およびモード2B’のブースト期間に、1次側では短絡回路が形成されて大きな共振電流(ブースト電流)が流れ、共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。その後のモード1’およびモード2’の同期整流期間に、1次側で同期整流が行われ、端子T1、T2に大きな負荷電流が流れる。すなわち、LLC方式DC/DCコンバータ10では、ブースト期間に短絡回路を形成するブースト動作と、同期整流期間に負荷電流を出力する同期整流動作とが交互に行われることで、ブースト制御時の昇圧動作が行われる。
【0066】
図6に、図4の制御タイミングで逆方向動作させた場合における、スイッチング素子Q5~Q8の駆動周波数fs[kHz]とブーストパルス幅Tb[μs]との関係例を示す。ブーストパルス幅Tbは、図4の位相シフト量θに相当する。図中に示した電流値[A]は、端子T3、T4に入力される入力電圧V2がV2=300[V]の時に端子T1、T2から出力される負荷電流(出力電流)の電流値の例である。
【0067】
逆方向動作時のLLC方式DC/DCコンバータ10では、制御部4の制御下で、入力電圧V2が150[V]から450[V]の範囲で制御され、端子T1、T2から出力される出力電圧V1[V]が350[V]一定に制御される。共振回路2の共振周波数は80[kHz]とする。
【0068】
制御部4は、駆動周波数fsが200[kHz]以上の場合、周波数変調制御を行って出力を制御する一方、駆動周波数fsが200[kHz]未満の場合、ブースト制御を行って出力を制御する。ブースト制御時の制御部4は、駆動周波数fsの減少に伴い、ブーストパルス幅Tbを増加させる制御を行う。すなわち、駆動周波数fsが200[kHz]未満の場合でも、制御単位は駆動周波数fsであり、駆動周波数fsを下げることで、ブーストパルス幅Tbを増加させてブースト動作を行い、ブースト制御を行う。
【0069】
図6の例では、制御部4は、端子T1、T2から出力される出力電流の電流値が所定の目標値に近づくように駆動周波数fsを決定し、下記の式(1)で示す制御式に基づいて、ブーストパルス幅Tbを制御する。
【数1】
【0070】
駆動周波数fsは、共振周波数以上で、かつ上記制御式の値がゼロまたは正の値となる範囲で決定される。図6の例では、制御部4は、駆動周波数fsを共振周波数である80[kHz]以上、250[kHz]以下の範囲で決定する。駆動周波数fsを共振周波数の80[kHz]以上としているのは、駆動周波数fsが共振周波数以上であれば、LLC方式DC/DCコンバータ10では主回路部の入出力ゲインが1以下となり、昇圧動作がブースト動作のみになる(ブースト動作のみで必要な昇圧比を得ることができる)。その結果、周波数変化に対する入出力ゲインの変化すなわち昇圧比がなだらかとなり、直線(1次関数)的になり、制御が簡単になるからである。
【0071】
なお、駆動周波数fsが共振周波数未満の場合、LLC方式の出力特性から入出力ゲインは1超になり、かつ駆動周波数fsが共振周波数よりも大きい領域に比べて、周波数変化に対する入出力ゲインの変化の割合は大きく急峻となる。すなわち、駆動周波数fsの減少に従い、LLC方式の出力特性による入出力ゲインの変化が大きくなり、入出力ゲインの値も大きくなる。その結果、周波数変化に対する入出力ゲインの変化すなわち昇圧比が、直線(1次関数)的ではなくなり、制御が難しくなる。
【0072】
駆動周波数fsの上限を250[kHz]としているのは、駆動周波数fsをあまり高くすると(250[kHz]を超えると)、スイッチング素子Q1~Q8に加えてトランスTrおよび共振インダクタンスLrでの損失が大きくなり、発熱が大きくなるからである。
【0073】
LLC方式DC/DCコンバータ10では、駆動周波数fsが一定の範囲(80[kHz]以上、250[kHz]以下の範囲)内で、必要な昇圧比を得ることができる。図6の例では、V2=300[V]の場合、fs=180[kHz]でTb=0.28[μs]、fs=160[kHz]でTb=0.63[μs]、fs=140[kHz]でTb=1.07[μs]と、駆動周波数fsの減少に伴い一定のゲインでブーストパルス幅Tbが増加している。その結果、負荷電流は、3.0[A]、11.6[A]、20.9[A]と増加している。
【0074】
制御部4は、駆動周波数fsが200[kHz]未満で昇圧が必要になった場合、ブースト制御を開始して、駆動周波数fsを減少させ、ブーストパルス幅Tbを増加させる。制御部4は、ブースト制御時も周波数変調制御時と同様に駆動周波数fsを制御単位として出力制御を行うことができるので、ブースト制御時に駆動周波数を固定してブーストパルス幅のみで出力を制御する従来のLLC方式DC/DCコンバータに比べて、制御単位を切換える必要がなくなり、制御が簡単になる。
【0075】
また、駆動周波数fsの減少に伴うLLC方式の出力特性により出力が上昇するため、ブースト制御時に駆動周波数を固定してブーストパルス幅のみで出力を制御する従来のLLC方式DC/DCコンバータに比べて、LLC方式DC/DCコンバータ10は、ブースト電流を抑制することができる。すなわち、LLC方式DC/DCコンバータ10は、より少ないブーストパルス幅Tbで、より少ないブースト電流で、出力を増加(昇圧)させることができる利点がある。
【0076】
図7に、図2の制御タイミングで順方向動作させた場合における、スイッチング素子Q1~Q4の駆動周波数fs[kHz]とブーストパルス幅Tb[μs]との関係例を示す。ブーストパルス幅Tbは、図2の位相シフト量θに相当する。図7(A)中に示した電流値[A]は、端子T3、T4から出力される出力電圧V2がV2=350[V]の時に端子T3、T4から出力される負荷電流(出力電流)の電流値である。図7(B)中に示した電流値[A]は、V2=450[V]の時の負荷電流の電流値である。
【0077】
順方向動作時のLLC方式DC/DCコンバータ10では、制御部4の制御下で、端子T1、T2に入力される入力電圧V1が350[V]一定に制御され、出力電圧V2が150[V]から450[V]の範囲で制御される。共振回路2の共振周波数は80[kHz]とする。
【0078】
制御部4は、駆動周波数fsが200[kHz]以上の場合、周波数変調制御を行って出力を制御する一方、駆動周波数fsが200[kHz]未満の場合、ブースト制御を行って出力を制御する。ブースト制御時の制御部4は、駆動周波数fsの減少に伴い、ブーストパルス幅Tbを増加させる制御を行う。
【0079】
図7の例では、制御部4は、端子T3、T4から出力される出力電流の電流値が所定の目標値に近づくように駆動周波数fsを決定し、下記の式(2)で示す制御式に基づいて、ブーストパルス幅Tbを制御する。
【数2】
【0080】
駆動周波数fsは、共振周波数の80[kHz]以上、上記制御式の値が正の値となる200[kHz]未満の範囲で決定され、出力電圧V2は、300[V]超から450[V](バッテリー電圧の上限電圧に相当)の範囲で制御される。なお、出力電圧V2が300[V]以下150[V]以上の場合は、降圧動作となり、昇圧動作であるブースト制御を行う必要がないので、駆動周波数200[kHz]以上で周波数変調制御が行われる。
【0081】
図7(A)に示すように、V2=350[V]の場合、fs=180[kHz]でTb=0.11[μs]、fs=170[kHz]でTb=0.18[μs]、fs=160[kHz]でTb=0.25[μs]、fs=150[kHz]でTb=0.33[μs]、fs=140[kHz]でTb=0.43[μs]、fs=130[kHz]でTb=0.54[μs]と、駆動周波数fsの減少に伴い一定のゲインでブーストパルス幅Tbが増加している。その結果、負荷電流は、1.1[A]、1.6[A]、2.9[A]、5.2[A]、7.9[A]、11.9[A]と増加している。
【0082】
図7(B)に示すように、V2=450[V]の場合、fs=180[kHz]でTb=0.33[μs]、fs=170[kHz]でTb=0.53[μs]、fs=160[kHz]でTb=0.75[μs]、fs=150[kHz]でTb=1.0[μs]と、駆動周波数fsの減少に伴い一定のゲインでブーストパルス幅Tbが増加している。その結果、負荷電流は、1.3[A]、3.1[A]、6.2[A]、11.0[A]と、V2=350[V]の場合に比べて大きく増加している。すなわち、LLC方式DC/DCコンバータ10では、出力電圧V2(入出力電圧比あるいは昇圧比)の上昇に伴い、同じ駆動周波数fsに対してブーストパルス幅Tbが増加する。入出力電圧比(昇圧比)は、例えば、出力電圧/入力電圧で表すことができる。
【0083】
順方向動作時かつブースト制御時のLLC方式DC/DCコンバータ10では、上記逆方向動作時かつブースト制御時の利点に加え、次の利点がある。すなわち、LLC方式DC/DCコンバータ10では、順方向動作時かつブースト制御時において、出力電圧V2が高くなると、ブーストパルス幅Tbが増加し、出力電圧V2(入出力電圧比あるいは昇圧比)の値によってブースト制御のゲインが変わるので、出力電圧V2が高く、より大きな入出力電圧比(昇圧比)が必要な場合であっても、制御に適したブーストパルス幅Tbで、入出力電圧比(昇圧比)に見合った負荷電流を得ることができる。
【0084】
LLC方式DC/DCコンバータ10では、低い出力電圧V2を出力する場合であっても、高い出力電圧V2を出力する場合であっても、入出力電圧比に応じて、一定の駆動周波数範囲で、適切なブーストパルス幅Tbを得ることができる。すなわち、入出力電圧比(昇圧比)に応じて、ブースト制御のゲインを変えない場合にくらべて、より狭い駆動周波数範囲で、適切なブーストパルス幅Tbを得ることができる。よって、LLC方式DC/DCコンバータ10では入出力電圧比とブーストパルス幅Tbの最適な動作点を探す必要がなく、より広い範囲の入出力電圧比に対応することができる。
【0085】
図8に、LLC方式DC/DCコンバータ10の逆方向動作時の制御フローの例を示す。逆方向動作は、端子T3、T4に接続されたバッテリーの放電時の動作に相当する。
【0086】
制御を開始した制御部4は、端子T1、T2から出力される出力電流に関する出力情報と、当該出力電流の目標値(目標電流)に関する目標情報とを取得する(S101)。目標電流の目標値は、例えば、制御部4で予め設定した電流値でもよいし、制御部4が主回路部の入出力条件から算出する電流値でもよいし、外部の装置から制御部4に入力される電流値でもよい。出力電流の電流値は、例えば、端子T1または端子T2に設けた検出部で検出された電流値である。なお、目標情報は、目標電流の替わりに、または目標電流に加えて、目標電圧および/または目標電力に関する情報でもよい。出力情報は、出力電流の替わりに、または出力電流に加えて、出力電圧および/または出力電力に関する情報でもよい。
【0087】
制御部4は、目標電流と出力電流とを比較し、出力電流が目標電流に近づくように、スイッチング素子Q5~Q8の駆動周波数fsを決定して周波数変調制御を行う(S102)。周波数変調制御時の制御部4は、目標電流に比べて出力電流の方が小さい場合、出力電流を上昇させるために駆動周波数fsを減少させる一方で、目標電流に比べて出力電流の方が大きい場合、出力電流を低下させるために駆動周波数fsを増加させる。そのため、負荷が重く出力電流値が大きい場合は、駆動周波数fsは低く、負荷が軽く出力電流値が小さい場合は、駆動周波数fsは高くなる。
【0088】
制御部4は、現在の駆動周波数fs(ステップS102で決定した駆動周波数fs)が200[kHz]未満か否かを判定する(S103)。200[kHz]は、制御部4で予め設定されているブースト開始周波数である。駆動周波数fsが200[kHz]未満の場合(S103でYes)、制御部4は、駆動周波数fsと式(1)の制御式とに基づいて、ブーストパルス幅Tbを算出してブースト制御を行う(S104)。
【0089】
次いで、制御部4は、制御継続か否かを判定する(S105)。制御部4は、例えば、外部の装置から制御終了指令を受信したか否かに基づいて、ステップS105の判定を行う。制御部4は、制御終了指令を受信していない場合に制御を継続すると判定して(S105でYes)、ステップS101に戻り、ステップS101以下の処理を繰り返す。この結果、ブースト制御を行うと、出力電流が目標電流に一致するように、駆動周波数fsとともにブーストパルス幅Tbが制御される。制御終了指令を受信した制御部4は、制御を継続しないと判定して(S105でNo)、制御を終了させる。
【0090】
図9に、LLC方式DC/DCコンバータ10の順方向動作時の制御フローの例を示す。順方向動作は、端子T3、T4に接続されたバッテリーの充電時の動作に相当する。
【0091】
制御を開始した制御部4は、端子T3、T4から出力される出力電流および出力電圧V2に関する出力情報と、当該出力電流の目標値(目標電流)に関する目標情報とを取得する(S201)。
【0092】
目標情報および出力情報を取得した制御部4は、目標電流と出力電流とを比較し、出力電流が目標電流に近づくように、スイッチング素子Q1~Q4の駆動周波数fsを決定して周波数変調制御を行う(S202)。周波数変調制御時の制御部4は、目標電流に比べて出力電流の方が小さい場合、出力電流を上昇させるために駆動周波数fsを減少させる一方で、目標電流に比べて出力電流の方が大きい場合、出力電流を低下させるために駆動周波数fsを増加させる。そのため、負荷が重く出力電流値が大きい場合は、駆動周波数fsは低く、負荷が軽く出力電流値が小さい場合は、駆動周波数fsは高くなる。
【0093】
次いで、制御部4は、現在の出力電圧V2(ステップS201で取得した出力電圧V2)が予め設定された閾値(本実施形態では、300[V])を超えるか否かを判定する(S203)。出力電圧V2が300[V]を超える場合(S203でYes)、制御部4は、現在の駆動周波数fs(ステップS202で決定した駆動周波数fs)が200[kHz]未満か否かを判定する(S204)。駆動周波数fsが200[kHz]未満の場合(S204でYes)、制御部4は、駆動周波数fsと式(2)の制御式とに基づいて、ブーストパルス幅Tbを算出してブースト制御を行う(S205)。
【0094】
ステップS203で出力電圧V2が300[V]以下の場合(S203でNo)、ステップS204で駆動周波数fsが200[kHz]以上の場合(S204でNo)、およびステップS205のブースト制御を行った場合、制御部4は、逆方向動作時のステップS105と同様に、制御継続か否かを判定する(S206)。制御部4は、制御を継続すると判定した場合(S206でYes)、ステップS201以下の処理を繰り返し、制御を継続しないと判定した場合(S206でNo)、制御を終了させる。この結果、ブースト制御を行うと、出力電流が目標電流に一致するように、駆動周波数fsとともにブーストパルス幅Tbが制御される。
【0095】
LLC方式DC/DCコンバータ10では、ブースト制御時であっても出力の増加に伴って駆動周波数fsを減少させるので、駆動周波数fsの減少に伴うLLC方式の出力特性により出力が上昇する。このため、ブースト制御時の駆動周波数を固定してブーストパルス幅のみで出力を制御する従来のLLC方式DC/DCコンバータに比べて、LLC方式DC/DCコンバータ10は、ブースト電流を抑制することができる。すなわち、LLC方式DC/DCコンバータ10は、より少ないブーストパルス幅Tbで、より少ないブースト電流で、出力を増加(昇圧)させることができる。さらに、LLC方式DC/DCコンバータ10では、低い出力電圧V2を出力する場合であっても、高い出力電圧V2を出力する場合であっても、入出力電圧比(昇圧比)に応じて、一定の駆動周波数範囲で、適切なブーストパルス幅Tbを得ることができる。よって、LLC方式DC/DCコンバータ10では入出力電圧比とブーストパルス幅Tbの最適な動作点を探す必要がなく、より広い範囲の入出力電圧比に対応することができる。
【0096】
なお、本実施形態では、1次側に共振回路2を設けたが、1次側ではなく2次側に共振回路2を設けてもよい。また、共振インダクタンスLr、共振キャパシタンスCrは、そのいずれかあるいはその両方をそれぞれ分割して1次側と2次側に配置してもよい。例えば、共振回路2の共振インダクタンスLrを1次側と2次側とに分割して配置してもよいし、分割した1次側と2次側の共振インダクタンスLrをトランスTrにトランス結合させてもよい。ここで、共振回路2の共振インダクタンスLrを1次側と2次側とに分割して配置した場合のインダクタンス値と、図16に示すように1次側と2次側に共振回路2c、5cを備えるCLLC方式の場合のインダクタンス値とを比較すると、前者の場合の方が、インダクタンス値を小さくすることができる。共振インダクタンスLrを分割すると実装面積が増加するが、インダクタンス値が減るので、1つのコイルで実現するよりも小型のコイルで済むため調達性、コスト、サイズ、放熱等が容易になる利点がある。よって、共振回路2の共振インダクタンスLrを1次側と2次側とに分割して配置した場合であっても、部品点数の増加による主回路部の大型化および高コスト化、整流回路側の共振回路による損失増加(電力変換効率の低下)の問題は解消される。また、共振キャパシタンスCrを1次側と2次側に分割すると、実装面積が増加するが、直流分のカットが行えるのでトランスTrの偏磁防止用キャパシタと共用することができる。後述する第1変形例に係るLLC方式DC/DCコンバータ10Aの場合も、CLLC方式の場合と比較してインダクタンス値を小さくすることができる。
【0097】
本実施形態では、制御部4は、スイッチング素子Q5~Q8のオンオフタイミングを、スイッチング素子Q1~Q4のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせることで、位相差θの期間(ブースト期間)に2次側スイッチング回路3を短絡させてブースト電流を流しているが、ブースト期間を生じさせるスイッチング素子Q5~Q8のオンオフタイミングは適宜変更することができる。すなわち、制御部4は、ブースト期間のみ整流回路で短絡回路が形成されるように、整流回路のスイッチング素子を制御してもよい。
【0098】
例えば、図3(A)に示すモード1Bでは、スイッチング素子Q6をオフにして、上アームのスイッチング素子Q7とダイオードD5のみで短絡回路を形成してもよいし、スイッチング素子Q7をオフにして、下アームのスイッチング素子Q6とダイオードD8のみで短絡回路を形成してもよい。あるいは、スイッチング素子Q6をオフ、スイッチング素子Q5、Q7をオンにして、上アームのスイッチング素子Q5、Q7のみで短絡回路を形成して短絡回路の導通損を下げてもよいし、スイッチング素子Q7をオフ、スイッチング素子Q6、Q8をオンにして、下アームのスイッチング素子Q6、Q8のみで短絡回路を形成して短絡回路の導通損を下げてもよい。このようにすることで、短絡回路を構成するスイッチング素子が両方共オンすることにより、短絡回路に流れるブースト電流の導通損が低下し、効率が改善する。
【0099】
また、図3(B)に示すモード1で、例えば第3レグまたは第4レグに流れる電流を検出し、スイッチング素子Q5、Q8に流れる同期整流電流が正の期間のみスイッチング素子Q5、Q8をオンし、同期整流電流が一定値以下または0になった時点で、スイッチング素子Q5、Q8をオフしてもよい。なお、同期整流電流が正の期間の検出は、電流検出による方法以外に、スイッチング素子Q5、Q8の電圧を検出するなど他の方法でもよい。
【0100】
また、モード1でスイッチング素子Q5をオンしているが、スイッチング素子Q5をオフしてダイオードD5を導通することによって整流を行ってもよく、順方向動作のみであれば第3レグの上アームおよび第4レグの上アームをスイッチング素子Q5、Q7ではなく、ダイオードのみに置き換えた構成でもよい。
【0101】
図3(C)に示すモード2B、図3(D)に示すモード2についても、上記モード1B、モード1の説明と同様である。
【0102】
本実施形態では、逆方向動作時の制御部4は、式(1)で示す制御式に基づいて、ブーストパルス幅Tbを制御しているが、これに限るものではなく、以下の式(3)で示す制御式(本発明の「第1式」に相当)に基づき、ブーストパルス幅Tbを制御してもよい。式(3)で示す制御式を用いる場合、駆動周波数fsは、共振回路2の共振周波数以上で、かつ制御式の値がゼロまたは正の値となる範囲で決定される。
【数3】
【0103】
係数a、定数bは、共振回路2の定数や主回路部の入出力電圧比(昇圧比)によって、予め設定される。係数aは、駆動周波数fsに対する反比例の割合、すなわち、駆動周波数fsの低下に対するブーストパルス幅Tbの増加の割合(ゲイン)に相当する。定数bは、ブースト制御を開始する駆動周波数fsであるブースト開始周波数[kHz]と係数aから、以下の式(4)で得られる。
【数4】
【0104】
本実施形態では、順方向動作時の制御部4は、式(2)で示す制御式に基づいて、ブーストパルス幅Tbを制御しているが、これに限るものではなく、以下の式(5)で示す制御式(本発明の「第2式」に相当)に基づき、ブーストパルス幅Tbを制御してもよい。式(5)で示す制御式を用いる場合、駆動周波数fsは、共振回路2の共振周波数以上で、かつ制御式の値がゼロまたは正の値となる範囲で決定される。
【数5】
【0105】
係数a、定数bは、式(4)と同様に、共振回路2の定数や主回路部の入出力電圧比(昇圧比)によって、予め設定される。Gは、入出力電圧比(昇圧比)に関するゲインであって、例えば、式(2)に示すように、ブースト制御を開始する300[V]以上の出力電圧V2に対して、ブーストパルス幅Tbを比例して増加させる関数である。式(2)の場合は、出力電圧V2が最低電圧の150[V]に対する割合として増加するようにしている。
【0106】
また、式(1)および式(2)の制御式は駆動周波数fsに反比例する式で表現したが、駆動周波数fsに負比例する式で表現してもよい。式(3)および式(5)の制御式についても同様である。すなわち、式(3)の制御式の替わりに以下の式(6)の制御式(本発明の「第3式」に相当)を用いてもよいし、式(5)の制御式の替わりに以下の式(7)の制御式(本発明の「第4式」に相当)を用いてもよい。
【数6】
【数7】
【0107】
LLC方式DC/DCコンバータ10は、従来のLLC方式DC/DCコンバータに比べて、より少ないブーストパルス幅Tbで出力を増加(昇圧)させることができるため、ブーストパルス幅Tbに上限を設けていないが、ブーストパルス幅Tbに上限を設けて、駆動周波数fsが低下してもブーストパルス幅Tbが上限以上に大きくならないように制御を行い、ブースト電流を制限してもよい。
【0108】
図6の例では、逆方向動作時の出力電圧V1を350[V]一定として説明し、図7の例では、順方向動作時の入力電圧V1を350[V]一定として説明したが、これに限るものではない。制御部4は、電圧V2の変動に合わせて電圧V1を変動させるように、電圧V1と電圧V2との入出力電圧比(昇圧比)を制御してもよい。この場合、制御部4は、入出力電圧比に応じてブーストパルス幅Tbを変動させるようにブースト制御を行う。すなわち、例えば逆方向動作時に入力電圧V2が300[V]の時に、出力電圧V1を350[V]から320[V]にすれば、入力電圧が350[V]時に比べて入出力電圧比(昇圧比)が低下するので、ブーストパルス幅Tbを図6より少なくすることができる。また順方向動作に出力電圧V2が450[V]の時には、入力電圧V1を350[V]から380[V]にすれば、入力電圧が350[V]時に比べて入出力電圧比(昇圧比)が低下するので、ブーストパルス幅Tbを図7(B)より少なくすることができる。
【0109】
図6および図7の例では、逆方向動作時も順方向動作時も、駆動周波数fsが200[kHz]未満でブースト制御を行うようにしたが、異なる駆動周波数fsでブースト制御を開始させてもよい。さらに、図7の例では、出力電圧V2(バッテリー電圧)が350[V]の時も450[V]の時も、駆動周波数fsが200[kHz]未満でブースト制御を行うようにしたが、出力電圧V2(入出力電圧比あるいは昇圧比)によって、ブースト制御を開始する駆動周波数fsを変えてもよい。
【0110】
例えば、出力電圧V2が所定値(例えば、350[V])よりも低い場合は、駆動周波数fsが170[kHz]未満でブースト制御を開始してもよい。入出力電圧比(昇圧比)が低い場合、ブースト開始周波数を低くして周波数変調制御を行う周波数範囲を広げても(ブースト制御を行う周波数範囲を狭くしても)、駆動周波数fsの減少に対するブーストパルス幅Tbの増加割合を大きく変えずに制御できる。すなわち、ブースト開始周波数を低くしても、ブースト制御時のゲインを大きく変えずに制御できる。
【0111】
図6および図7の例では、駆動周波数fsが200[kHz]以上で周波数変調制御を行うようにしたが、周波数変調制御に限るものではなく、位相シフト制御、PWM制御、バースト(間欠)制御等の他の制御を行ってもよく、周波数変調制御および他の制御のいずれかを組み合わせた制御を行ってもよい。
【0112】
図9の例では、式(2)の制御式に基づき、駆動周波数fsと出力電圧V2(バッテリー電圧)とを用いてブーストパルス幅Tbを算出しているが、これに限るものではない。例えば、充電中のバッテリー電圧の変化は小さいので、出力電圧V2(バッテリー電圧)の所定の範囲毎に、予め入出力電圧比に関するゲインを決めておき、当該ゲインを予め制御部4に記憶させてもよい。制御部4は、記憶したゲインに基づきブーストパルス幅Tbを算出することができる。
【0113】
以上、本発明に係るLLC方式DC/DCコンバータの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0114】
[第1変形例]
図10に、第1変形例に係るハーフブリッジ回路構成のLLC方式DC/DCコンバータ10Aを示す。LLC方式DC/DCコンバータ10Aは、双方向動作が可能な電流共振型のLLC方式DC/DCコンバータであって、一対の端子T1、T2と、コンデンサC11と、1次側スイッチング回路1aと、共振回路2aと、トランスTrと、2次側スイッチング回路3aと、コンデンサC21と、一対の端子T3、T4と、制御部4aとを備える。上記構成のうち制御部4aを除く構成が、本発明の「主回路部」に相当する。端子T1~T4、コンデンサC11、C21およびトランスTrは、上記実施形態と共通する。
【0115】
1次側スイッチング回路1aおよび2次側スイッチング回路3aは、ハーフブリッジ回路の構成である点を除いて、上記実施形態と共通する。
【0116】
共振回路2aは、1次側に共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCr1、Cr2を含み、2次側に共振キャパシタンスCr3、Cr4を含む。なお、共振回路2aは、図示しないトランスTrの励磁インダクタンスも含むものとする。
【0117】
共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCr1は、トランスTrの1次巻き線と端子T1との間で直列共振回路を構成し、共振インダクタンスLrおよび共振キャパシタンスCr2は、トランスTrの1次巻き線と端子T2との間で直列共振回路を構成する。共振キャパシタンスCr1、Cr2は、電圧V1を分圧する。
【0118】
共振キャパシタンスCr3は、共振インダクタンスLrをトランスTrの巻き数比で2次側に変換したインダクタンスとともに直列共振回路を構成する。同様に、共振キャパシタンスCr4は、共振インダクタンスLrをトランスTrの巻き数比で2次側に変換したインダクタンスとともに直列共振回路を構成する。共振キャパシタンスCr3、Cr4は、電圧V2を分圧する。
【0119】
共振回路2aは、上記の構成により、1次側から2次側への順方向動作時に加え、2次側から1次側への逆方向動作時にも、LLC方式による電力伝送(LLC共振動作)を行うことができる。
【0120】
制御部4aは、スイッチング素子Q1~Q4のオンオフ制御を行うための制御信号を生成する処理部と、当該制御信号に基づいてスイッチング素子Q1~Q4をオンオフさせる駆動部とを含む。制御部4aは、さらに検出部を含んでもよい。処理部、駆動部および検出部の構成は、上記実施形態と共通する。
【0121】
制御部4aは、上記実施形態と同様に、オンオフ制御としてスイッチング素子Q1~Q4の駆動周波数fsを変調させる周波数変調制御を行う。周波数変調制御時の駆動周波数fsが予め設定されたブースト開始周波数未満の場合、制御部4aは、上記実施形態と同様に、整流回路を短絡させて主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御を行う。
【0122】
図11に、順方向動作時かつブースト制御時におけるスイッチング素子Q1~Q4の制御タイミングの例を示す。
【0123】
制御部4aは、駆動回路側の1次側スイッチング回路1aのスイッチング素子Q1、Q2に対して、同一駆動周波数、同一オンデューティ(例えば、50%)かつ位相差180°でオンオフさせる。また、制御部4aは、整流回路側の2次側スイッチング回路3aのスイッチング素子Q3、Q4に対して、スイッチング素子Q1、Q2と同一駆動周波数、同一オンデューティかつ位相差180°でオンオフさせる。さらに、制御部4aは、スイッチング素子Q3、Q4のオンオフタイミングを、スイッチング素子Q1、Q2のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせる。なお、デッドタイムは上記実施形態時と同様、説明を簡単にするために省略している。
【0124】
図12に、図11の制御タイミング図における各モード(Mode)の電流経路を示す。図12において、(A)は図11のモード1Bの期間の図、(B)は図11のモード1の期間の図、(C)は図11のモード2Bの期間の図、(D)は図11のモード2の期間の図である。
【0125】
図12(A)に示すモード1Bでは、モード開始時にスイッチング素子Q1がターンオンするので、共振インダクタンスLrと共振キャパシタンスCr2に共振電流が流れ、トランスTrの2次側に電流が流れる。2次側ではスイッチング素子Q4がオンしているので、スイッチング素子Q4と共振キャパシタンスCr4により短絡回路が形成される。これにより、短絡回路には大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。
【0126】
図12(B)に示すモード1では、モード開始時に2次側でスイッチング素子Q4がターンオフし、スイッチング素子Q3がターンオンするので、スイッチング素子Q3による同期整流が行われ、共振インダクタンスLrに蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。
【0127】
図12(C)に示すモード2Bでは、モード開始時にスイッチング素子Q2がターンオンするので、共振インダクタンスLrと共振キャパシタンスCr1に逆向きの共振電流が流れ、トランスTrの2次側に逆向き電流が流れる。2次側ではスイッチング素子Q3がオンしているので、スイッチング素子Q3と共振キャパシタンスCr3により短絡回路が形成される。これにより、短絡回路には大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。
【0128】
図12(D)に示すモード2では、モード開始時に2次側でスイッチング素子Q3がターンオフし、スイッチング素子Q4がターンオンするので、スイッチング素子Q4による同期整流が行われ、共振インダクタンスLrに蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。
【0129】
このように、モード1Bおよびモード2Bのブースト期間に、2次側では短絡回路が形成されて大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。その後のモード1およびモード2の同期整流期間に、2次側で同期整流が行われ、端子T3、T4に大きな電流が流れる。
【0130】
LLC方式DC/DCコンバータ10Aでは、制御部4aが、ブースト制御時に、スイッチング素子Q3、Q4のオンオフタイミングをスイッチング素子Q1、Q2のオンオフタイミングに対して位相差θ(位相シフト量θ)だけ位相シフトさせる位相シフト制御を行うことで、ブースト期間と同期整流期間とを交互に生じさせる。そして、LLC方式DC/DCコンバータ10Aでは、ブースト期間に短絡回路を形成するブースト動作と、同期整流期間に負荷電流を出力する同期整流動作とが交互に行われることで、ブースト制御時の昇圧動作が行われる。
【0131】
LLC方式DC/DCコンバータ10Aは、上記実施形態と同様にブースト制御を行うため、図8および図9に示す制御フローは、LLC方式DC/DCコンバータ10Aにも適用できる。
【0132】
LLC方式DC/DCコンバータ10Aでは、ブースト制御時であっても駆動周波数fsの低減に合わせてブーストパルス幅Tbが増加するように変化させるので、駆動周波数fsのみで制御を行うことができる。また、ブースト制御時であっても出力の増加に伴って駆動周波数fsを減少させるので、駆動周波数fsの減少に伴うLLC方式の出力特性により出力が上昇する。このため、ブースト制御時の駆動周波数を固定してブーストパルス幅のみで出力を制御する従来のLLC方式DC/DCコンバータに比べて、LLC方式DC/DCコンバータ10Aは、ブースト電流を抑制することができる。なお、2次側から1次側への逆方向動作時にも、LLC方式による電力伝送(LLC共振動作)を行うことができるので、1次側では短絡回路が形成されて大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、2次側に変換した共振インダクタンスLrに大きなエネルギーが蓄積される。その後の同期整流期間に、1次側で同期整流が行われ、端子T1、T2に大きな電流が流れることは同様である。
【0133】
[第2変形例]
図13に、第2変形例に係る3相ブリッジ回路構成のLLC方式DC/DCコンバータ10Bを示す。LLC方式DC/DCコンバータ10Bは、双方向動作が可能な電流共振型のLLC方式DC/DCコンバータであって、一対の端子T1、T2と、コンデンサC11と、1次側スイッチング回路1bと、共振回路2bと、トランス回路(トランスTr1~Tr3)と、2次側スイッチング回路3bと、コンデンサC21と、一対の端子T3、T4と、制御部4bとを備える。上記構成のうち制御部4bを除く構成が、本発明の「主回路部」に相当する。端子T1~T4およびコンデンサC11、C21は、上記実施形態と共通する。
【0134】
1次側スイッチング回路1bは、並列接続された第1相、第2相、第3相の各レグを含み、2次側スイッチング回路3bも、並列接続された第1相、第2相、第3相の各レグを含む。1次側スイッチング回路1bおよび2次側スイッチング回路3bは、3相ブリッジ回路の構成である点を除いて、上記実施形態と共通する。
【0135】
共振回路2bは、共振インダクタンスLr1および共振キャパシタンスCr1を含む第1相の共振回路と、共振インダクタンスLr2および共振キャパシタンスCr2を含む第2相の共振回路と、共振インダクタンスLr3および共振キャパシタンスCr3を含む第3相の共振回路とを備える。各相の共振回路の一端は、1次側スイッチング回路1bの各レグを構成する上下アームの接続点に接続され、各相の共振回路の他端は、相互に接続(平衡点接続)される。図13では、Y結線接続されているが、Δ結線接続等の他の平衡点接続でもよい。すなわち共振回路2bは、1次側スイッチング回路1bとトランス回路(トランスTr1~Tr3)間に接続されており、1次側スイッチング回路1bはトランス回路の1次側に設けられている。
【0136】
トランス回路は、第1相のトランスTr1と、第2相のトランスTr2と、第3相のトランスTr3とを含む。トランスTr1~Tr3の励磁インダクタンスは、トランスTr1~Tr3に含まれるとして図示を省略している。トランスTr1~Tr3の1次巻き線は、共振回路2bを介して1次側スイッチング回路1bに接続される。トランスTr1~Tr3の2次巻き線は、一端が2次側スイッチング回路3bの各レグを構成する上下アームの接続点に接続され、他端が相互に接続(平衡点接続)される。図13では、Y結線接続されているが、Δ結線接続等の他の平衡点接続でもよい。
【0137】
制御部4bは、スイッチング素子Q1~Q12のオンオフ制御を行うための制御信号を生成する処理部と、当該制御信号に基づいてスイッチング素子Q1~Q12をオンオフさせる駆動部とを含む。制御部4bは、さらに検出部を含んでもよい。処理部、駆動部および検出部の構成は、上記実施形態と共通する。
【0138】
制御部4bは、上記実施形態と同様に、オンオフ制御としてスイッチング素子Q1~Q12の駆動回路の駆動周波数fsを変調させる周波数変調制御を行う。周波数変調制御時の駆動周波数fsが予め設定されたブースト開始周波数未満の場合、制御部4bは、上記実施形態と同様に、整流回路を短絡させて主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御を行う。
【0139】
図14に、順方向動作時かつブースト制御時におけるスイッチング素子Q1~Q12の制御タイミングの例を示す。なお、デッドタイムを考慮しなければ、スイッチング素子Q2はスイッチング素子Q1に対して180°の位相差となり、スイッチング素子Q4はスイッチング素子Q3に対して180°の位相差となり、スイッチング素子Q6はスイッチング素子Q5に対して180°の位相差となるため、スイッチング素子Q2、Q4、Q6の制御タイミングの記載は省略している。
【0140】
制御部4bは、スイッチング素子Q1~Q6に対して、同一駆動周波数かつ同一オンデューティ(例えば、50%)でオンオフさせ、スイッチング素子Q1、Q2とスイッチング素子Q3、Q4との位相差を120°に固定し、スイッチング素子Q3、Q4とスイッチング素子Q5、Q6との位相差を120°に固定し、スイッチング素子Q5、Q6とスイッチング素子Q1、Q2との位相差を120°に固定する。
【0141】
また、制御部4bは、スイッチング素子Q7~Q12に対して、スイッチング素子Q1~Q6と同一駆動周波数、同一オンデューティかつ位相差θだけ位相シフトさせてオンオフさせる。図14では、制御部4bは、スイッチング素子Q7、Q8のオンオフタイミングをスイッチング素子Q1、Q2のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせ、スイッチング素子Q9、Q10のオンオフタイミングをスイッチング素子Q3、Q4のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせ、スイッチング素子Q11、Q12のオンオフタイミングをスイッチング素子Q5、Q6のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせる。
【0142】
図15に、図14の制御タイミング図における各モードの電流経路を示す。図15において、(A)は図14のモード1Bの期間の図、(B)は図14のモード1の期間の図である。
【0143】
図15(A)に示すモード1Bでは、モード開始時にスイッチング素子Q4がオンしている状態でスイッチング素子Q1がターンオンするので、1次側では第1相の共振回路(共振インダクタンスLr1、共振キャパシタンスCr1、トランスTr1の励磁インダクタンス)による共振電流が流れる。2次側ではスイッチング素子Q8、Q10がオンしているので、スイッチング素子Q8、Q10により短絡回路が形成される。これにより、短絡回路には大きな短絡電流(ブースト電流)が流れ、1次側では共振インダクタンスLr1に大きなエネルギーが蓄積される。
【0144】
図15(B)に示すモード1では、モード開始時にスイッチング素子Q8がターンオフしてスイッチング素子Q7がターンオンするので、スイッチング素子Q7、Q10、Q11による同期整流が行われ、共振インダクタンスLr1に蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。
【0145】
同様にモード3Bでは、2次側に形成された短絡回路に短絡電流(ブースト電流)が流れることにより、1次側の共振インダクタンスLr2に大きなエネルギーが蓄積される。モード3では、2次側で同期整流が行われ、共振インダクタンスLr2に蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。
【0146】
同様にモード5Bでは、2次側に形成された短絡回路に短絡電流(ブースト電流)が流れることにより、1次側の共振インダクタンスLr3に大きなエネルギーが蓄積される。モード5では、2次側で同期整流が行われ、共振インダクタンスLr3に蓄積された大きなエネルギーが負荷電流として端子T3、T4に流れる。
【0147】
LLC方式DC/DCコンバータ10Bでは、制御部4bが、ブースト制御時に、スイッチング素子Q7、Q8、スイッチング素子Q9、Q10、スイッチング素子Q11、Q12のオンオフタイミングをそれぞれスイッチング素子Q1、Q2、スイッチング素子Q3、Q4、スイッチング素子Q5、Q6のオンオフタイミングに対して位相差θだけ位相シフトさせる位相シフト制御を行うことで、ブースト期間および同期整流期間を生じさせる。そして、LLC方式DC/DCコンバータ10Bでは、ブースト期間に短絡回路を形成するブースト動作と、同期整流期間に負荷電流を出力する同期整流動作とが行われることで、ブースト制御時の昇圧動作が行われる。
【0148】
上記のとおり、LLC方式DC/DCコンバータ10Bは、上記実施形態と同様にブースト制御を行う。すなわち、図8および図9に示す制御フローは、LLC方式DC/DCコンバータ10Bにも適用できる。
【0149】
よって、LLC方式DC/DCコンバータ10Bでは、ブースト制御時であっても駆動周波数fsの低減に合わせてブーストパルス幅Tbが増加するように変化させるので、駆動周波数fsのみで制御を行うことができる。また、ブースト制御時であっても出力の増加に伴って駆動周波数fsを減少させるので、駆動周波数fsの減少に伴うLLC方式の出力特性により出力が上昇する。このため、ブースト制御時の駆動周波数を固定してブーストパルス幅のみで出力を制御する従来のLLC方式DC/DCコンバータに比べて、LLC方式DC/DCコンバータ10Bは、ブースト電流を抑制することができる。
【0150】
[その他の変形例]
本発明に係るLLC方式DC/DCコンバータは、トランス回路と、トランス回路の1次側に設けられた1次側スイッチング素子を含む1次側スイッチング回路と、トランス回路の2次側に設けられた2次側スイッチング素子を含む2次側スイッチング回路と、共振インダクタンスおよび共振キャパシタンスを含む共振回路と、を備える主回路部と、1次側スイッチング素子および2次側スイッチング素子のオンオフ制御を行うための制御信号を生成する制御部と、を備えるLLC方式DC/DCコンバータであって、制御部は、主回路部に昇圧動作を行わせるブースト制御を行い、ブースト制御時の制御部は、主回路部に1次側スイッチング回路から2次側スイッチング回路への電力伝送を行わせる場合、2次側スイッチング素子をオンさせて2次側スイッチング回路に短絡回路を形成するとともに、駆動周波数の低減に合わせてブーストパルス幅が増加するように変化させるのであれば、適宜構成を変更することができる。
【0151】
例えば、1次側スイッチング回路および/または2次側スイッチング回路は、3相以上の多相ブリッジ回路で構成することができる。また、1次側スイッチング回路および/または2次側スイッチング回路を構成するハーフブリッジ回路、フルブリッジ回路および多相ブリッジ回路は、各アームが複数のスイッチング素子を含むマルチレベル(例えば、3レベル)の構成であってもよい。また、整流回路(例えば、2次側スイッチング回路)は、整流回路の上アームを構成するスイッチング素子をダイオードに置き換えたブリッジレス構成の整流回路(ブリッジレス整流回路またはブリッジレス回路とも言う)でもよい。
【0152】
ブースト制御時の整流回路の短絡方法についても、ブリッジ整流回路の2つまたはブリッジレス整流回路の1つのスイッチング素子をオンさせて短絡回路を形成することで、ブースト電流の導通損を低減させることができる。
【0153】
上記実施形態では、整流回路の制御タイミングを位相差θだけ位相シフトさせる位相シフト制御信号による位相差θの期間をブースト期間としているが、制御部は、整流回路のスイッチング素子をオンオフさせる制御信号において、ブースト期間を生じさせる(短絡回路を形成する)ためのパルス幅(オンデューティ)制御信号と、ブースト期間後に同期整流を行わせるためのパルス幅(オンデューティ)制御信号とを、別々に生成してもよく、ブースト期間後整流回路のスイッチング素子をオフさせて、ダイオードブリッジ整流としてもよい。また、制御部は、位相シフト後に同期整流電流を測定し、同期整流電流が正方向の電流から一定値以下または0になった場合に、同期整流を行うスイッチング素子をオフしてもよい。同期整流電流の測定は、各レグに流れる電流を測定してもよいし、各スイッチング素子の電圧を測定してもよく、その他の方法でもよい。
【符号の説明】
【0154】
10、10A、10B LLC方式DC/DCコンバータ
1、1a、1b 1次側スイッチング回路
2、2a、2b 共振回路
3、3a、3b 2次側スイッチング回路
4、4a、4b 制御部
図1
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図3
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