(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042543
(43)【公開日】2025-03-27
(54)【発明の名称】PFAS吸着材及びPFAS吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/04 20060101AFI20250319BHJP
B01J 20/08 20060101ALI20250319BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
B01J20/04 C
B01J20/08 C
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149633
(22)【出願日】2023-09-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年1月30日に卒業研究発表会の要旨(「高比表面積マグネシアを用いた水中PFOS吸着技術の構築に向けた基礎検討」、発表者:名畑太陽)として学内に配布 令和5年2月10日に卒業研究発表会(「高比表面積マグネシアを用いた水中PFOS吸着技術の構築に向けた基礎検討」、発表者:名畑太陽)としてオンラインで発表
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187218
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 宏光
(72)【発明者】
【氏名】三島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】今野 大輝
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA16B
4G066AA20B
4G066BA09
4G066BA10
4G066BA20
4G066BA25
4G066CA33
4G066DA07
4G066EA13
4G066FA03
4G066FA21
4G066FA22
4G066FA26
4G066FA27
4G066FA38
(57)【要約】
【課題】活性炭のような炭素材料をあまり含まない新規なペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材を提供する。
【解決手段】ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体を有する。酸化マグネシウムの含有量が9質量%を超える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体を有し、酸化マグネシウムの含有量が9質量%を超える、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項2】
BJH法で算出した細孔容積Vp(BJH)と、MP法で算出した細孔容積Vp(MP)の合計値が、0.40mL/g以上、2.00mL/g以下であり、Vp(BJH)とVp(MP)の合計値中のVp(BJH)の割合が50%以上である、請求項1に記載のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項3】
酸化マグネシウムの含有量が15質量%以上である、請求項1又は2に記載のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項4】
酸化マグネシウム前駆体と、酸化アルミニウム前駆体と、水とを混合して造粒する工程と、造粒物を焼成する工程と、を含む、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PFAS吸着材及びPFAS吸着材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フッ素化合物であるPFAS(per- and polyfluoroalkyl substances:ペルフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物、それらの塩、及びそれらの誘導体)による環境汚染が問題視されている。特に、PFASのうちのペルフルオロオクタン酸(PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は、強い毒性を有している。これらの有機フッ素化合物は、難分解性の有機汚染物質として知られている。
【0003】
汚染水から難分解性の有機汚染物質を除去するために、安価な活性炭が用いられることが知られている。以下の特許文献1は、カルシウムやマグネシウムを含んだ活性炭のような炭素材料を有する吸着材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、先行技術文献に記載の吸着材では活性炭が主の材料であり、このように活性炭を含む吸着材は、PFASの吸着後に、廃棄処理のため高温で焼却される必要がある。そのため、廃棄時に大量の二酸化炭素が発生し得る。
【0006】
したがって、二酸化炭素を発生する活性炭を含まない新規な組成を有するペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に係るペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体を含有する。酸化マグネシウムの含有量は9質量%を超える。
【0008】
一態様に係るペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材の製造方法は、酸化マグネシウム前駆体と、酸化アルミニウム前駆体と、水とを混合する工程、混合物を造粒する工程、造粒物を焼成する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、新規な組成を有するペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、記載された特定の装置及び方法に限定されないことに留意されたい。本開示にて使用される用語は、特定の実施形態又は実施例を記述するためのものであり、請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0011】
一実施形態に係る吸着材は、有機フッ素化合物、好ましくはPFAS(ペルフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物、それらの塩、及びそれらの誘導体)を吸着するためのものである。本明細書において、PFASを吸着するための吸着材は、PFAS吸着材と称する。ただし、以下では、簡素化のため、PFAS吸着材を単に「吸着材」とも称する。
【0012】
PFASの例としては、ペルフルオロアルキルスルホン酸塩、ペルフルオロアルカンスルホン酸(PFSA)、N-ブチルペルフルオロアルカンスルホンアミド(BuFASA)、N-ブチルペルフルオロアルカンスルホンアミドエタノール(BuFASE)、N-ブチルペルフルオロアルカンスルホンアミド酢酸(BuFASAA)、N-エチルペルフルオロアルカンスルホンアミド(EtFASA)、N-エチルペルフルオロアルカンスルホンアミドエタノール(EtFASE)、N-エチルペルフルオロアルカンスルホンアミド酢酸(EtFASAA)、ペルフルオロアルカンスルホンアミド(FASA)、ペルフルオロアルカンスルホンアミドエタノール(FASE)、ペルフルオロアルカンスルホンアミド酢酸(FASAA)、N-メチルペルフルオロアルカンスルホンアミド(MeFASA)、N-メチルペルフルオロアルカンスルホンアミド酢酸(MeFASAA)、N-メチルペルフルオロアルカンスルホンアミドエタノール(MeFASE)、N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド(MeFOSA)、ペルフルオロアルカンスルホニルフッ化物(PASF)、4,8-ジオキサ-3H-ペルフルオロノナン酸、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)、フルオロタンパク質(FP)、フルオロテロマーカルボン酸(FTCA)、フルオロテロマーアルコール(FTOH)、フルオロテロマースルホン酸塩(FTS)、フルオロテロマースルホン酸(FTSA)、ペルフルオロアルキル酸(PFAA)、ペルフルオロアルキルスルホンアミドエタノール(PFOSE)、及びそれらの任意の誘導体を含む。これは、例えば、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸塩、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(ヘプタフルオロプロポキシ)プロパノエート、アンモニウム2,3,3,3-テトラフルオロエチル-2-(ヘプタフルオロプロポキシ)プロパノエート、1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、4:2-フルオロテロマースルホン酸(4:2 FtS)、6:2-フルオロテロマースルホン酸(6:2 FtS)、8:2-フルオロテロマースルホン酸(8:2 FtS)、ペルフルオロブタン酸(PFBA)、ペルフルオロブタンスルホン酸塩、ペルフルオロブタンスルホン酸(PFBS)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸塩、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロヘキサン酸塩、ペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)、4,8-ジオキサ-3H-ペルフルオロノナン酸、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)、N-エチルペルフルオロオクタンスルホンアミド(EtFOSA)、N-エチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエタノール(EtFOSE)、ペルフルオロオクタンスルホンアミド(PFOSA)、ペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(FOSAA)、ペルフルオロオクタンスルホンアミドエタノール(FOSE)、ペルフルオロブタノエート、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロブチレート、ペルフルオロブチリン酸、ペルフルオロアルキルカルボン酸塩、ペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)、ペルフルオロデカノエート、ペルフルオロデカン酸(PFDA)、ペルフルオロドデカノエート、ペルフルオロドデカン酸(PFDoA)、ペルフルオロドデカンスルホン酸塩(PFDoS)、ペルフルオロドデカンスルホン酸(PFDoSA)、ペルフルオロデカンスルホン酸塩、ペルフルオロデカンスルホン酸(PFDS)、ペルフルオロヘプタン酸塩、ペルフルオロヘプタン酸(PFHpA)、ペルフルオロヘプタンスルホン酸塩、ペルフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、ペルフルオロノナン酸塩、ペルフルオロノナン酸(PFNA)、ペルフルオロノナンスルホン酸塩、ペルフルオロノナンスルホン酸(PFNS)、ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロホスホン酸(PFPA)、ペルフルオロペンタン酸塩、ペルフルオロペンタン酸(PFPeA)、ペルフルオロペンタンスルホン酸塩、ペルフルオロペンタンスルホン酸(PFPeS)、ペルフルオロホスフィン酸(PFpiA)、ペルフルオロテトラデカン酸(PFTeDA)、ペルフルオロトリデカン酸(PFTrDA)、ペルフルオロウンデカノエート、ペルフルオロウンデカノイン酸(PFUnA)、ペルフルオロウンデカンスルホン酸塩(PFUnS)、ペルフルオロウンデカンスルホン酸(PFUnSA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又は8:2フルオロテロマーアルコール(8:2FTOH)が挙げられる。
【0013】
ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材は、上で列挙したPFASのうちの少なくとも1つを吸着するものであってよい。また、吸着材は、3~18、好ましくは4~14、より好ましくは6~10、よりいっそう好ましくは8の炭素数を有する組成のPFASを吸着するためのものであってよい。吸着材は、例えば炭素数が8であるPFOAとPFOSのうちの少なくとも一方を吸着するためのものであってよい。
【0014】
吸着材は、酸化マグネシウムを含む多孔質体を有する。多孔質体は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含むことが好ましく、又は酸化マグネシウムからなることが好ましい。
【0015】
吸着材全体に対する酸化マグネシウムの含有量は、9質量%以上、好ましくは9質量%を超え、より好ましくは15質量%以上、よりいっそう好ましくは20質量%以上であってよい。また、吸着材全体に対する酸化マグネシウムの含有量は、100質量%以下であってよい。
【0016】
BJH法で算出した吸着材(多孔質体)の細孔容積Vp(BJH)と、MP法で算出した吸着材(多孔質体)の細孔容積Vp(MP)の合計値は、0.40mL/g以上、2.00mL/g以下であってよい。Vp(BJH)とVp(MP)の合計値は、好ましくは0.50mL/g以上、1.40mL/g以下、より好ましくは0.60mL/g以上、1.00mL/g以下であり、よりいっそう好ましくは0.68mL/g以上、0.84mL/g以下である。
【0017】
本明細書において、BJH法で算出した吸着材の細孔容積Vp(BJH)とMP法で算出した吸着材(多孔質体)の細孔容積Vp(MP)は、窒素吸着等温線を解析することで算出される。
【0018】
PFAS吸着の観点から、吸着材(多孔質体)に関して、BJH法で算出した細孔容積Vp(BJH)とMP法で算出した細孔容積Vp(MP)の合計値に対するVp(BJH)の比率は、50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上であってよい。
【0019】
Vp(BJH)の下限は、0.20mL/g以上、好ましくは0.30mL/g以上、より好ましくは0.40mL/g以上であってよい。Vp(BJH)の上限は、特に制限されないが、1.80mL/g以下、1.60mL/g以下、1.10mL/g以下、又は0.60mL/g以下であってよい。ただし、Vp(BJH)は、上記の上限値と下限値を任意に組み合わせた範囲内であってもよい。
【0020】
吸着材のBET比表面積は、50m2/g以上、100m2/g以上、又は150m2/g以上であってよい。吸着材のBET比表面積が高くなるほど、吸着材によるPFASの吸着能力が高くなると考えられる。
【0021】
吸着材のBET比表面積の上限値は、800m2/g以下、500m2/g以下、400m2/g以下、375m2/g以下又は360m2/g以下であってよい。
【0022】
BET比表面積は、BET多点法により測定できる。
【0023】
前述した細孔容積(Vp(MP)及びVp(BJH))やBET比表面積は、酸化マグネシウムの含有量、後述する水和時間ないし焼成時間、水和時ないし焼成時の温度により変えることができる。
【0024】
吸着材は、前述したように酸化アルミニウムを含んでいてよい。好ましくは、酸化アルミニウムは、水硬性アルミナを水和して硬化させたものを焼成により形成されるものであってよい。このような酸化アルミニウムを用いることで、前述した細孔容積及びBET比表面積を有し、かつ酸化マグネシウムを含む多孔質体を容易に製造できる。
【0025】
吸着材は、多孔質成形体(ろ過材)の形態を有していてよい。多孔質成形体の形態を有する吸着材は、溶液中にてその形状を維持することができるため、容易に回収可能なろ過材として利用することができる。なお、吸着材は、多孔質の粉体の形態を有していてもよい。
【0026】
吸着材が、多孔質成形体(ろ過材)の形態を有する場合、吸着材は、水中で崩壊することなく形態を維持したまま使用可能である。一方、吸着材が粉体の形態を有する場合、吸着材は水に分散させて使用することができる。また、多孔質体は、活性炭素のような炭素材料を実質的に含まないことが好ましい。これにより、吸着材の廃棄時に焼却による大量の二酸化炭素が発生することを抑制することができる。
【0027】
吸着材が多孔質成形体の形態を有する場合、多孔質成形体の形状は特に制限されない。多孔質成形体の形状は、例えば、球状、楕円体状、円柱状、円筒状、角柱状、ハニカム状等であってよい。多孔質成形体のサイズ、具体的には多孔質成形体の最も長い部分における長さ(最大長)は、特に制限されないが、0.5mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、よりいっそう好ましくは5mm以上であってよい。
【0028】
[吸着材の製造方法]
まず、少なくとも酸化マグネシウム前駆体と水とを混合し造粒した造粒物を形成する工程を実施する(造粒工程)。酸化マグネシウム前駆体は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び塩基性炭酸マグネシウム、正炭酸マグネシウム、無水炭酸マグネシウム、並びにこれらの塩のうちの少なくとも1つを含んでいてよい。酸化アルミニウム前駆体は、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、並びにこれらの塩のうち少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0029】
製造すべき吸着材が酸化マグネシウム単体からなり、酸化アルミニウムを含まない場合、造粒工程において、造粒物は、酸化マグネシウム前駆体と水とを混合し造粒して形成される。この場合、酸化マグネシウム前駆体の純度は、95質量%以上であってよい。
【0030】
製造すべき吸着材が酸化アルミニウムを含む場合、造粒工程において、造粒物は、酸化マグネシウム前駆体と酸化アルミニウム前駆体と水とを混合し造粒して形成される。
【0031】
酸化アルミニウム前駆体としては、水硬性アルミナを使用することができる。水硬性アルミナである場合、水と混合すると水和により硬化できるため所望の形状の多孔質体を製造しやすい。
【0032】
造粒工程において、酸化マグネシウム前駆体は、後述の焼成後における酸化マグネシウムの含有量が、9質量%以上、好ましくは9質量%を超え、より好ましくは15質量%、よりいっそう好ましくは20質量%以上になるように混合される。酸化マグネシウムの含有量は、造粒物に含まれる水等の揮発成分を除いた値である。
【0033】
製造すべき吸着材が酸化マグネシウムからなる場合、造粒物は、酸化マグネシウム前駆体と水のみを混合し造粒して形成される。
【0034】
造粒工程において、水は滴下しながら混合されることが望ましい。造粒の方法は、特に限定されないが、押出造粒や転動造粒、その他任意の造粒方法を利用することができる。
【0035】
好ましくは、造粒工程で形成された造粒物を水蒸気に晒すことによって、造粒物をさらに水和して硬化させる(むらし工程)。造粒物は、水に浸からないように、水を張った密閉容器内に入れることによって、水蒸気に晒され得る。この場合、密閉容器内の温度は、25℃~150℃の範囲であってよい。密閉容器内で造粒物を水蒸気に晒す時間(水和時間)は、0.5時間~36時間の範囲であってよい。
【0036】
前述の造粒工程では、雰囲気の温度や湿度に応じて、形成された造粒物の物性、硬さ等にばらつきが生じることがある。前述したむらし工程を実施することによって、そのようなばらつきを解消することができる。むらし工程の後に、造粒物を乾燥する乾燥工程を実施してもよい。
【0037】
次に、造粒物を焼成する工程(焼成工程)を実施する。これにより、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体(吸着材)、又は酸化マグネシウム単体からなる多孔質体が形成される。焼成温度は、300℃~800℃の範囲であってよい。焼成時間は、0.5時間~18時間の範囲であってよい。焼成は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下又は真空にて焼成炉によって実施することができる。
【0038】
酸化マグネシウム単体からなる多孔質体は、焼成工程の後、パウダーの形態として製造される。酸化マグネシウム単体からなる多孔質体は、パウダーの形態のままであってもよく、任意のバインダーを用いてろ過材に成形しても良い。一方、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体は、焼成工程の後、造粒された形態を維持した状態で製造される。したがって、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体は、特定の形状を有するろ過材に成形し易い。
【0039】
以上の工程により、前述した吸着材を製造することができる。ここで、多孔質体(吸着材)の細孔容積(Vp(MP)及びVp(BJH))やBET比表面積は、酸化マグネシウムの含有量、上記の水和時間ないし焼成時間、水和時ないし焼成時の温度、及び酸化アルミニウム前駆体の物性等により調整することができる。
【0040】
[実施例]
以下、実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に記載された態様に制限されないことに留意されたい。
【0041】
[実施例1]
水硬性アルミナ(住友化学製:BK-112)50gと、水酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ製:UD-650)7.23gとを混合したものをSUSの容器内に入れて、当該容器を、ボールミル用の回転台にセットした。ボールミルを一定角度傾け、300rpmで回転させながら、水24gを滴下することによって造粒物を形成した(造粒工程)。次に、造粒物を密閉容器に入れ、造粒物が水に接触しないように密閉容器内に水を張り、80℃で16時間水和させながら造粒物を硬化させた(むらし工程)。硬化させた造粒物を100℃で3時間乾燥した後、造粒物を電気炉にて380℃で3時間焼成することによって多孔質体(吸着材)を製造した(焼成工程)。多孔質体における酸化マグネシウムの含有量は9.1質量%であった。
【0042】
[実施例2]
水酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ製:UD-650)を21.69g、水を28gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で多孔質体(吸着材)を製造した。多孔質体における酸化マグネシウムの含有量は23質量%であった。
【0043】
[実施例3]
水硬性アルミナ(住友化学製:BK-112)を25g、水酸化マグネシウムを36.15g、水を22gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で多孔質体(吸着材)を製造した。多孔質体における酸化マグネシウムの含有量は50質量%であった。
【0044】
[実施例4]
水酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ製:UD-650)50gをSUSの容器内に入れて、当該容器を、ボールミル用の回転台にセットした。ボールミルを一定角度傾け、300rpmで回転させながら、水19gを滴下し造粒することによって造粒物を形成した(造粒工程)。次に、造粒物を密閉容器に入れ、造粒物が水に接触しないように密閉容器内に水を張り、80℃で16時間水和させた(むらし工程)。造粒物を電気炉にて380℃で3時間焼成することによって多孔質体(吸着材)を製造した(焼成工程)。多孔質体は、酸化マグネシウム単体からなる。
【0045】
[参考例1]
吸着材として活性炭(UES社製、UCG-AG)を準備した。
【0046】
上記の実施例1~4及び参考例1について、BET比表面積(SBET)、Vp(MP)、Vp(BJH)、Vp(MP)とVp(BJH)の合計値、Vp(MP)とVp(BJH)の合計値に対するVp(BJH)の比率を測定した結果が、以下の表1に示されている。これらの測定は、以下のように実施できる。
【0047】
Vp(MP)及びVp(BJH)は、窒素吸着等温線を解析することによって算出した。具体的には、まず、精密天秤にて約30mgの吸着材のサンプルを測り取って、当該サンプルをガス吸着量測定装置(BELSORP-miniX:マイクロトラック・ベル製)内で200℃の窒素雰囲気下で10分間前処理した後に、当該ガス吸着量測定装置によって窒素吸着等温線を測定した。ここで、窒素ガスの純度は、99.999%以上であり、測定温度は77K(液体窒素温度)であり、測定圧力は0.0~101.3kPa(相対圧P/P0=0.0~1.0)であった。
【0048】
Vp(MP)は、得られた吸着等温線から、(BELMASTERTM7)を用いて、MP法により、サンプルの細孔分布の積算値によって算出された。
【0049】
Vp(BJH)は、得られた吸着等温線から、(BELMASTERTM7)を用いて、BJH法により、サンプルの細孔分布の積算値によって算出された。
【0050】
BET比表面積は、200℃で10分間前処理を行い、窒素ガス吸着法によりトライスターII3020(島津製作所製)を用いてBET多点法により測定した。
【0051】
実施例1~4に係る吸着材のBJH法で算出した細孔容積Vp(BJH)とMP法で算出した吸着材(多孔質体)の細孔容積Vp(MP)の合計値は、0.40mL/g以上である。特に、実施例2~3に係る吸着材のVp(BJH)とVp(MP)の合計値は、参考例1に係る吸着材のVp(BJH)とVp(MP)の合計値よりも大きい。
【0052】
また、実施例1~4では、Vp(MP)とVp(BJH)の合計値に対するVp(BJH)の比率(以下、単に「Vp(BJH)の比率」と称する。)は、50%以上である。実施例1~4に係るVp(BJH)の比率は、参考例1に係るVp(BJH)の比率よりも高い。
【0053】
【0054】
[吸着実験]
互いに濃度の異なるPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、富士フィルム社製、製品コード:009151)を含有する3種類の水溶液を準備した。各水溶液におけるPFOSの初期濃度は、それぞれ300mg/L、25μg/L及び100ng/Lであった。実施例1~4に係る吸着材の量がそれぞれ1000mg/Lとなるように吸着材を水溶液中に投入し、約25℃でミニローテーターで1時間攪拌した。実施例1~4及び参考例1において、吸着材はすべて乳鉢でパウダーにして使用された。それから、シリンジフィルターを用いて水溶液中から吸着材を取り除いた。吸着材が取り除かれた水溶液を液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)で分析することで、PFOSの濃度(X)を測定して、(1―(X/初期濃度測定))×100の計算式により除去率を算出した。PFOSの除去率の結果は、以下の表1に示されている。なお、参考例1において、活性炭の量が1000mg/LとなるようにPFOSを含有する水溶液中に活性炭を投入し、実施例1~4と同様に吸着実験を行った。
【0055】
高濃度のPFOSを含有する水溶液(初期濃度:300mg/L)を用いた吸着実験において、表1から、吸着材中の酸化マグネシウムの含有量が大きくなるほど、吸着材の吸着能が高くなる傾向がある。実施例1に係る吸着材は、高濃度のPFOSについて、参考例1の活性炭に近い除去率を有する。したがって、MgOの含有量が9質量%の吸着材は、活性炭と同様に、高濃度のPFOSの除去に利用できる。
【0056】
実施例2,4に係る吸着材は、高濃度のPFOSについて、参考例1の活性炭よりも高い除去率を有する。したがって、MgOの含有量が9質量%を超え、より好ましくは15質量%以上の吸着材は、高濃度のPFOSの除去に好適である。
【0057】
中濃度のPFOSを含有する水溶液(初期濃度:25μg/L)を用いた吸着実験において、表1から、実施例1及び実施例2に係る吸着材は、参考例1に係る吸着材よりも非常に高い吸着能を有することがわかる。したがって、酸化マグネシウムを含む多孔質体、より詳細には酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体からなる吸着材は、中濃度のPFOSを除去するために好適に利用できる。
【0058】
通常の環境下では、汚染された水中に含まれるPFOSの濃度は、25μg/Lよりも低い。したがって、実施例1,2における吸着材は、十分なPFOSの吸着効果を発揮し得ると考えられる。また、酸化マグネシウムの含有量が高いほどPFOSの吸着の効果も高くなると考えらえるため、9質量%以上の酸化マグネシウムを含む多孔質体は、PFOSの吸着材として好適に利用できることがわかる。
【0059】
低濃度のPFOSを含有する水溶液(初期濃度:100ng/L)を用いた吸着実験において、表1から、吸着材中の酸化マグネシウムの含有量がある程度大きくなると、吸着材の吸着能が高くなっていることがわかる。したがって、酸化マグネシウムを含む多孔質体からなる吸着材は、低濃度のPFOSを除去するために好適に利用できる。低濃度のPFOSを含む水溶液(初期濃度が100ng/L)は、現実の環境下で生じ得るものである。そのため、酸化マグネシウムを含む多孔質体からなる吸着材は、吸着材として現実的にも利用可能と考えられる。
【0060】
実施例1~4に係る吸着材は、PFOSと同じ系統の化合物であるPFASの吸着にも適用可能と考えられる。なお、実施例1~4に係る吸着材は、PFAS以外の物質を吸着するために使用することも可能である。
【0061】
前述した実施形態及び/又は実施例の記載から、少なくとも以下の付記として記載された発明が本明細書内に明示されていることに留意されたい。
【0062】
[付記1]
酸化マグネシウムを含む多孔質体を有する、吸着材。
[付記2]
酸化マグネシウムの含有量が、9質量%以上であり、好ましくは9質量%を超え、より好ましくは15質量%以上である、付記1に記載の吸着材。
[付記3]
BJH法で算出した細孔容積Vp(BJH)と、MP法で算出した細孔容積Vp(MP)の合計値が、0.40mL/g以上、2.00mL/g以下である、付記1又は2に記載の吸着材。
[付記4]
BJH法で算出した細孔容積Vp(BJH)とMP法で算出した細孔容積Vp(MP)の合計値に対するVp(BJH)の割合が50%以上である、付記1から3のいずれか1項に記載の吸着材。
[付記5]
前記多孔質体は、酸化マグネシウムからなる、付記3から4のいずれか1項に記載の吸着材。
[付記6]
前記多孔質体は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む、付記1から4のいずれか1項に記載の吸着材。
[付記7]
前記吸着材は、有機フッ素化合物、好ましくはPFASを吸着するためのものである、付記1から6のいずれか1項に記載の吸着材。
[付記8]
付記1から7のいずれか1項に記載の吸着材を用いて、有機フッ素化合物、好ましくはPFASを吸着することを含む、吸着方法。
[付記9]
少なくとも酸化マグネシウム前駆体と水とを混合し造粒して造粒物を形成する造粒工程と、前記造粒物を焼成する焼成工程と、を含む、吸着材の製造方法。
[付記10]
前記造粒工程において、酸化マグネシウム前駆体は、焼成後における酸化マグネシウムの含有量が、9質量%以上であり、好ましくは9質量%を超え、より好ましくは15質量%以上になるように混合される、付記9に記載の吸着材の製造方法。
[付記11]
前記造粒物は、酸化マグネシウム前駆体と酸化アルミニウム前駆体と水とを混合し造粒して形成される、付記9又は10に記載の吸着材の製造方法。
[付記12]
前記造粒物は、実質的に酸化マグネシウム前駆体と水のみを混合し造粒して形成される、付記9又は10に記載の吸着材の製造方法。
[付記13]
前記酸化マグネシウム前駆体は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び塩基性炭酸マグネシウム、正炭酸マグネシウム、無水炭酸マグネシウム、並びにそれらの塩のうちの少なくとも1つを含む、付記9から12のいずれか1項に記載の吸着材の製造方法。
[付記14]
前記酸化アルミニウム前駆体は、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、並びにこれらの塩のうち少なくとも一つを含み、好ましくは水硬性アルミナを含む、付記9から13のいずれか1項に記載の吸着材の製造方法。
【0063】
上述したように、実施形態及び/又は実施例を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び/又は運用技術が明らかとなる。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含む多孔質体(炭素材料の含有を除く)を有し、酸化マグネシウムの含有量が9質量%を超える、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項2】
少なくとも酸化マグネシウムからなる多孔質体(炭素材料の含有を除く)である、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項3】
BJH法で算出した細孔容積Vp(BJH)と、MP法で算出した細孔容積Vp(MP)の合計値が、0.40mL/g以上、2.00mL/g以下であり、Vp(BJH)とVp(MP)の合計値中のVp(BJH)の割合が50%以上である、請求項1又は2に記載のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項4】
前記多孔質体のBET比表面積は、50m
2
/g以上である、請求項1又は2に記載のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項5】
酸化マグネシウムの含有量が15質量%以上である、請求項1に記載のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材。
【請求項6】
酸化マグネシウム前駆体と、酸化アルミニウム前駆体と、水とを混合(炭素材料の混合を除く)して造粒する工程と、造粒物を焼成する工程と、を含む、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記造粒する工程では、前記造粒物の焼成後における酸化マグネシウムの含有量が9質量%以上になるように、酸化マグネシウム前駆体と酸化アルミニウム前駆体と水とを混合する、請求項6に記載のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材の製造方法。
【請求項8】
酸化マグネシウム前駆体と水を混合(炭素材料の混合を除く)して造粒する工程と、造粒物を焼成する工程と、を含む、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の吸着材の製造方法。