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特開2025-42638板厚変化計測方法及び板厚変化計測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042638
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】板厚変化計測方法及び板厚変化計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20250321BHJP
【FI】
G01N25/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149673
(22)【出願日】2023-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100200148
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100234305
【弁理士】
【氏名又は名称】合瀬 恵
(72)【発明者】
【氏名】中島 弘達
(72)【発明者】
【氏名】小林 徳康
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
(72)【発明者】
【氏名】辻 明宏
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB08
2G040BA08
2G040BA14
2G040BA27
2G040CA01
2G040CA17
2G040DA06
2G040EA04
2G040EA05
2G040EA06
2G040EA07
2G040EA08
2G040EA11
2G040EB02
2G040EC01
2G040EC06
2G040EC09
2G040GA03
2G040HA01
2G040HA16
2G040ZA01
(57)【要約】
【課題】被測定物における減肉や材質変化等の板厚変化を広範囲かつ短時間で計測する板厚変化計測方法を提案することである。
【解決手段】上記課題を達成するために、実施形態の板厚変化計測方法は、被測定物の表面温度を変化させる温度制御装置を前記被測定物に対して相対移動をさせる移動ステップと、前記被測定物の表面温度を変化させることで発生する前記被測定物の表面温度変化を、前記被測定物の表面温度を撮影する熱画像撮影装置で熱画像として撮影する撮影ステップと、前記熱画像において前記被測定物の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置として検知する検知ステップとを有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面温度を変化させる温度制御装置を前記被測定物に対して相対移動をさせる移動ステップと、
前記被測定物の表面温度を変化させることで発生する前記被測定物の表面温度変化を、前記被測定物の表面温度を撮影する熱画像撮影装置で熱画像として撮影する撮影ステップと、
前記熱画像において前記被測定物の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置として検知する検知ステップと、
を有することを特徴とする板厚変化計測方法。
【請求項2】
板厚を計測する板厚計測装置を更に用い、前記被測定物の前記板厚変化推定位置の板厚を計測する計測ステップを更に有することを特徴とする請求項1記載の板厚変化計測方法。
【請求項3】
前記板厚計測装置で計測した前記板厚変化推定位置の板厚計測値とこの板厚変化推定位置の板厚設計値とを対応付ける学習装置を更に用い、前記熱画像の前記板厚変化推定位置に板厚変化推定値を表示する学習ステップを更に有することを特徴とする請求項2記載の板厚変化計測方法。
【請求項4】
前記学習装置は、前記熱画像と前記板厚計測値とを対応付けた統合データを蓄積し、前記統合データを教師データとして用いて板厚解析を行い、前記熱画像において前記被測定物の板厚の値を推測することを特徴とする請求項3記載の板厚変化計測方法。
【請求項5】
前記被測定物に対して前記温度制御装置と対向する位置から広域温度制御装置で前記被測定物全体を温度変化させる全体温度制御ステップを更に有することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項記載の板厚変化計測方法。
【請求項6】
前記被測定物に対して前記温度制御装置と対向する位置から広域温度制御体で前記被測定物全体を温度変化させる全体温度制御ステップを更に有することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項記載の板厚変化計測方法。
【請求項7】
被測定物に対して相対移動して前記被測定物の表面温度を変化させる温度制御装置と、
前記温度制御装置を前記被測定物に対して相対移動させることで発生する前記被測定物の表面温度変化を、熱画像として撮影し、この熱画像において前記被測定物の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置として検知する熱画像撮影装置と、
を備えたことを特徴とする板厚変化計測システム。
【請求項8】
前記被測定物の前記板厚変化推定位置の板厚を計測する板厚計測装置を更に備えることを特徴とする請求項7記載の板厚変化計測システム。
【請求項9】
前記板厚計測装置で計測した前記板厚変化推定位置の板厚計測値とこの板厚変化推定位置の板厚設計値とを対応付け、前記熱画像撮影装置から受信した前記熱画像の前記板厚変化推定位置に板厚変化推定値を表示する学習装置を更に備えることを特徴とする請求項8記載の板厚変化計測システム。
【請求項10】
前記学習装置は、前記熱画像と前記板厚計測値とを対応付けた統合データを蓄積し、前記統合データを教師データとして用いて板厚解析を行い、前記熱画像において前記被測定物の板厚の値を推測することを特徴とする請求項9記載の板厚変化計測システム。
【請求項11】
前記被測定物に対して前記温度制御装置と対向する位置に配置される広域温度制御装置を更に備え、前記被測定物全体を温度変化させることを特徴とする請求項7から請求項10の何れか一項記載の板厚変化計測システム。
【請求項12】
前記被測定物に対して前記温度制御装置と対向する位置に配置される広域温度制御体を更に備え、前記被測定物全体を温度変化させることを特徴とする請求項7から請求項10の何れか一項記載の板厚変化計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、板厚変化計測方法及び板厚変化計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体廃棄物の1つである不燃性雑固体廃棄物等は例えば200リットルの鉄鋼製のドラム缶に詰めて固体廃棄物貯蔵庫に保管することが義務付けられている。この不燃性雑固体廃棄物等保管用のドラム缶は腐食する場合もあるため、検査員が個々のドラム缶の板厚の状態を目視検査している。
【0003】
この目視検査には、ドラム缶の表面に存在する腐食に類似した汚れや塗装浮きといった減肉や、錆といった材質変化を見つける為の詳細な知識が必要とされるが、これらの知識を有する検査員は減少傾向にある。一方で、不燃性雑個体廃棄物等は増加傾向にある。そこで、検査員による保管管理業務の負荷軽減に向けて、ドラム缶における減肉や材質変化等の板厚変化を自動で計測する技術の確立が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-58782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の目視点検以外でドラム缶等の被測定物の表面に存在する減肉や材質変化等を計測する方法として、超音波探傷(Ultrasonic Testing:UT)がある。これは、非破壊で被測定物表面及び内部の健全性を確認できる技術であり、被測定物内部を伝搬する超音波の伝搬時間を計測することで、既知の材質における板厚を算出できる。しかし、超音波探傷で用いるプローブは被測定物に対して非常に小さい為、一度の検査の計測範囲が狭く、被測定物全範囲を計測しようとすると多くの時間を要してしまう課題があった。
【0006】
また、従来の被測定物内部を検査する方法として、赤外線カメラを用いた熱画像取得による異常推定方法がある。これは、主にコンクリートを対象として、被測定物内部の断熱層として機能する空洞部を検知する方法であり、取得した熱画像により被測定物内部の評価を広い範囲で可能とする。しかし、被測定物の表面に存在する減肉や材質変化等の板厚変化を検査する技術としては未だ開発されていない。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、被測定物における減肉や材質変化等の板厚変化を広範囲かつ短時間で計測する板厚変化計測方法及び板厚変化計測システムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、実施形態の板厚変化計測方法は、被測定物の表面温度を変化させる温度制御装置を前記被測定物に対して相対移動をさせる移動ステップと、前記被測定物の表面温度を変化させることで発生する前記被測定物の表面温度変化を、前記被測定物の表面温度を撮影する熱画像撮影装置で熱画像として撮影する撮影ステップと、前記熱画像において前記被測定物の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置として検知する検知ステップとを有することを特徴とする。
【0009】
上記課題を達成するために、実施形態の板厚変化計測システムは、被測定物に対して相対移動して前記被測定物の表面温度を変化させる温度制御装置と、前記温度制御装置を前記被測定物に対して相対移動させることで発生する前記被測定物の表面温度変化を、熱画像として撮影し、この熱画像において前記被測定物の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置として検知する熱画像撮影装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、被測定物における板厚変化を広範囲かつ短時間で計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】板厚変化計測システムの一例を示す概略図であり、(a)は、板厚変化計測システムの一例を示す構成図、(b)は、板厚変化計測システムで撮影できる熱画像の一例を示す説明図、(c)は、板厚変化計測システムで撮影できる熱画像の推移による板厚変化計測方法の一例を示す工程説明図。
図2】板厚変化計測システムの一例を示す概略図であり、(a)は、板厚変化計測システムの一例を示す構成図であり、(b)は、板厚変化計測システムで撮影できる熱画像の一例を示す説明図であり、(c)は、板厚変化計測システムで撮影できる熱画像の推移による板厚変化計測方法の一例を示す工程説明図。
図3】板厚変化計測システムの一例を示す概略図であり、(a)は、板厚変化計測システムの一例を示す構成図であり、(b)は、板厚変化計測システムで撮影できる熱画像の一例を示す説明図であり、(c)は、板厚変化計測システムで撮影できる熱画像の推移による板厚変化計測方法の一例を示す工程説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る板厚変化計測システム及び板厚変化計測方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態を例示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様の機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、図面の寸法比率が実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0013】
(第一の実施形態)
図1を用いて、第一の実施形態に係る板厚変化計測システム1について説明をする。図1は、板厚変化計測システム1の一例を示す概略図であり、(a)は、板厚変化計測システム1の一例を示す構成図、(b)は、板厚変化計測システム1で撮影できる熱画像の一例を示す図、(c)は、板厚変化計測システム1で撮影できる熱画像の推移による板厚変化計測方法の一例を示す工程説明図である。
【0014】
図1(a)の板厚変化計測システム1は、被測定物2の板厚を計測することで、板厚変化部3を検知するシステムであり、温度制御装置4と、熱画像撮影装置5と、を用いている。
【0015】
被測定物2は、板厚変化計測システム1の測定対象物である。被測定物2は、少なくとも温度変化を示すものであれば良く、材質や厚さは問わない。被測定物2には、その内面または外面に板厚変化部3が生じることがある。ここでいう板厚変化部3とは、被測定物2の減肉又は材質変化等による板厚の変化部を指す。また、ここでいう減肉とは、被測定物2における板厚の物理的な減少を指し、例えば、流体による浸食、固体の衝突による削れ、腐食や侵食、稼働に伴う機械摩耗等が挙げられる。また、ここでいう材質変化とは、被測定物2の表面付近での化学変化や状態変化を指し、例えば、金属構造物における錆、不動態被膜の破壊後の再形成等が挙げられる。
【0016】
例えば、被測定物2は、不燃性雑固体廃棄物等保管用のドラム缶や、少なくとも板厚の状態を検査する必要がある発電プラント内の構造物や配管等であり、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、これらに限られるものではない。
【0017】
温度制御装置4は、被測定物2の周囲に配置され、被測定物2を温度変化させる装置又は物質である。ここでいう温度変化とは、加熱による温度上昇又は冷却による温度下降を指し、温度上昇又は温度下降には連続的なものも瞬間的なものも含まれる。温度制御装置4は、被測定物2に対して相対移動をして、温度制御装置4と被測定物2とが接触又は接近した箇所の温度変化を行わせ、被測定物2の温度を所望の値に制御させる。
【0018】
ここでいう相対移動とは、被測定物2に対する温度制御装置4の相対的な位置の移動を指し、例えば、被測定物2を固定させた場合における温度制御装置4の移動に伴う相対的な位置の移動、温度制御装置4を固定させた場合における被測定物2の移動に伴う相対的な位置の移動、被測定物2と温度制御装置4の両方の移動に伴う相対的な位置の移動である。
【0019】
例えば、温度制御装置4は、誘電加熱コイルである。誘電加熱コイルに電流が流されると、導電性の被測定物2に渦電流を発生させる。被測定物2に渦電流が発生すると、渦電流と被測定物2との電気抵抗によりジュール熱が発生し、被測定物2が加熱される。この誘電加熱コイルを被測定物2に対して相対移動させることで、この誘電加熱コイルが被測定物2に接近した箇所を加熱する。
【0020】
なお、本実施形態の板厚変化計測システム1では、温度制御装置4は誘電加熱コイルであるものとして例示をしているが、温度制御装置4は少なくとも被測定物2を温度変化させることができるものであれば良く、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、その他温度変化させることができる気体、液体、固体、プラズマ等であっても良い。
【0021】
例えば、温度制御装置4にレーザやフラッシュランプ等の光源を用いて、光源が被測定物2に光を照射した際の放射エネルギーにより被測定物2を加熱しても良い。
【0022】
また、例えば、温度制御装置4にペルチェ素子等の温度制御素子を用いて、電子的に温度制御された素子の冷却面又は発熱面を被測定物2に対して接触又は接近させることにより被測定物2を冷却又は加熱しても良い。
【0023】
さらに、例えば、温度制御装置4に冷却スプレー等の反応材料を用いて、化学反応や状態変化等で生じる発熱反応又は吸熱反応により被測定物2を加熱又は冷却しても良い。
【0024】
またさらに、例えば、温度制御装置4に水蒸気や水や氷、高温の金属固体等の相違温度体を用いて、被測定物2と異なる温度を持つ物質を被測定物2に接触又は接近させることで生じる熱移動により被測定物2を加熱又は冷却しても良い。
【0025】
なお、温度制御装置4は、制御装置(図示省略)による制御を受けて、被測定物2に対して相対移動をして、被測定物2を温度変化させるものとしても良い。
【0026】
熱画像撮影装置5は、被測定物2の周囲に離間して配置される。熱画像撮影装置5は、被測定物2から放射される赤外線エネルギーを赤外線検出素子に結像し、電気変換された値を演算処理して温度に変換することで、熱画像6を撮影する(図1(b)参照)。
【0027】
熱画像撮影装置5は、撮影した熱画像6に基づき、被測定物2の温度分布又は温度勾配の相違を計測する。なお、熱画像撮影装置5は、少なくとも熱画像6を撮影することができれば良く、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、熱画像撮影装置5の品質性能や本体性能等は問わない。
【0028】
なお、熱画像撮影装置5は、制御装置(図示省略)による制御を受けて、温度制御装置4により加熱された被測定物2を撮影するものとしても良く、また、撮影をするにあたり温度制御装置4と共に被測定物2に対して相対移動をして、温度制御装置4により加熱された被測定物2を撮影するものとしても良い。
【0029】
ここで、図1(c)の工程説明図を用いて、板厚変化計測システム1で撮影できる熱画像6の推移による板厚変化計測方法の一例について説明する。本実施形態の板厚変化計測方法では、被測定物2の表面温度を変化させる温度制御装置4を被測定物2に対して相対移動させる移動ステップと、被測定物2の表面温度を変化させることで発生する被測定物2の表面温度変化を、被測定物2の表面温度を撮影する熱画像撮影装置5で熱画像6として撮影する撮影ステップと、熱画像6において被測定物2の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置7として検知する検知ステップとを順次行う。
【0030】
具体的には、図1(c)(1)において、温度制御装置4が、被測定物2に対して相対移動(図中上から下方向)をして、被測定物2を加熱する。熱画像撮影装置5が、加熱された被測定物2を熱画像6として撮影する。温度制御装置4が通過した領域に板厚変化部3が存在しない場合、熱画像6において被測定物2における温度の相違は検知されない。
【0031】
一方で、図1(c)(2)に示すように温度制御装置4が通過した領域に板厚変化部3が存在する場合、板厚変化部3により被測定物2の温度特性に変化が生じていることから、熱画像6において周囲と異なる温度を示す板厚変化推定位置7が検知される。
【0032】
また、図1(c)(3)に示すように温度制御装置4が通過した後も被測定物2の温度変化は持続する為、熱画像6において板厚変化推定位置7では周囲と異なる温度推移が見られる。
【0033】
本実施形態の板厚変化計測システム1によれば、被測定物2の表面温度を変化させる温度制御装置4と、被測定物2の表面温度を撮影する熱画像撮影装置5を用いて、温度制御装置4を被測定物2に対して相対移動をさせることで発生する被測定物2の表面温度変化を、熱画像撮影装置5を用いて熱画像6として撮影し、熱画像6を基に周囲と異なる温度分布又は温度勾配を示す位置を板厚変化推定位置7として減肉や材質変化等の板厚変化部3を検知することができる。
【0034】
結果として、従来の板状構造物の検査では、検査員が目視点検により板状構造物の減肉や材質変化等の有無を判別していたが、本実施形態の板状構造物の検査では、板状構造物の板厚計測を自動で広範囲又は多量に実施できることから、板状構造物の減肉や材質変化等の有無を短時間で検知することができる。また、検査員の力量でなく自動で検査することから、検査基準の統一化を図ることができる。
【0035】
(第二の実施形態)
以下図2を用いて、第二の実施形態に係る板厚変化計測システム10について説明をする。図2は、板厚変化計測システム10の一例を示す概略図であり、(a)は、板厚変化計測システム10の一例を示す構成図、(b)は、板厚変化計測システム10で撮影できる熱画像の一例を示す説明図、(c)は、板厚変化計測システム10で撮影できる熱画像の推移による板厚変化計測方法の一例を示す工程説明図である。なお、以下第一の実施形態と異なる箇所につき説明をし、それ以外の箇所については、第一の実施形態と同様であるとして同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0036】
図2(a)の板厚変化計測システム10は、温度制御装置4と、熱画像撮影装置5と、広域温度制御装置11と、を用いる。即ち、第二の実施形態では、広域温度制御装置11を更に用いる点が第一の実施形態と異なる。
【0037】
広域温度制御装置11は、被測定物2に対して温度制御装置4と対向する位置に配置される。ここでいう被測定物2に対して温度制御装置4と対向する位置とは、被測定物2の内面又は外面から、温度制御装置4が接触又は接近する箇所を含む被測定物2全体の温度変化を制御できる位置を指す。広域温度制御装置11は、被測定物2全体を温度変化させる装置又は物質であり、温度制御装置4と共に用いられる。ここでいう温度制御装置4と共に用いられるとは、温度制御装置4に被測定物2を周囲から加熱する装置又は物質が用いられる場合は、広域温度制御装置11に被測定物2全体を冷却する装置又は物質が用いられ、温度制御装置4に被測定物2を周囲から冷却する装置又は物質が用いられる場合は、広域温度制御装置11に被測定物2全体を加熱する装置又は物質が用いられるという関係を指す。
【0038】
例えば、広域温度制御装置11には、被測定物2の内面に貼られる保温テープや、被測定物2内部を流れる蒸気等の高温流体、氷、低温ガス等の低温流体等の広域温度制御体も挙げられるが、併せて広域温度制御装置11と呼ぶこととする。
【0039】
なお、本実施形態の板厚変化計測システム10では、広域温度制御装置11は被測定物2の内面側に配置されるものとして例示しているが、広域温度制御装置11は少なくとも被測定物2全体の温度を変化させることができれば良く、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、例えば、広域温度制御装置11にホットプレート、太陽光や照射等の光、マイクロウェーブ等を用いて外面側から被測定物2全体を加熱しても良く、広域温度制御装置11に冷蔵庫、冷凍庫、ファン等による送風等を用いて外面側から被測定物2全体を冷却しても良い。
【0040】
なお、広域温度制御装置11は、制御装置(図示省略)による制御を受けて、被測定物2全体を温度変化させるものとしても良い。
【0041】
ここで、図2(c)の工程説明図を用いて、板厚変化計測システム10で撮影できる熱画像12の推移による板厚変化計測方法の一例について説明する。本実施形態の板厚変化計測方法では、被測定物2に対して温度制御装置4と対向する位置から広域温度制御装置11で被測定物2全体を温度変化させる全体温度制御ステップと、被測定物2の表面温度を変化させる温度制御装置4を被測定物2に対して相対移動させる移動ステップと、被測定物2の表面温度を変化させることで発生する被測定物2の表面温度変化を、被測定物2の表面温度を撮影する熱画像撮影装置5で熱画像12として撮影する撮影ステップと、熱画像12において被測定物2の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置13として検知する検知ステップとを順次行う。
【0042】
具体的には、図2(c)(1)において、広域温度制御装置11が、被測定物2に対して温度制御装置4と対向する位置から被測定物2全体を冷却する。温度制御装置4が、被測定物2周囲を相対移動(図中上から下方向)して被測定物2を加熱する。熱画像撮影装置5が、加熱された被測定物2を熱画像12として撮影する。温度制御装置4が通過した領域に板厚変化部3が存在しない場合、熱画像12において温度分布の相違は検知されない。
【0043】
一方で、図2(c)(2)に示すように温度制御装置4が通過した領域に板厚変化部3が存在する場合、板厚変化部3により被測定物2の温度特性に変化が生じていることから、熱画像12において板厚変化部3の位置で周囲と異なる温度を示す板厚変化推定位置13が検知される。このとき、広域温度制御装置11が被測定物2内面側から被測定物2全体を冷却していることから、温度制御装置4が被測定物2を周囲から加熱した際の被測定物2の温度変化が、図1の板厚変化計測システム1の場合と比較して大きくなる。即ち、周囲と板厚変化推定位置13との温度差が、図1の板厚変化計測システム1の場合と比較して大きくなる。
【0044】
その後、図2(c)(3)に示すように温度制御装置4が通過した後も被測定物2の温度変化は持続する為、熱画像12において板厚変化推定位置13では周囲と異なる温度推移が見られる。このとき、上述した同様な理由から、板厚変化推定位置13が周囲と異なる温度推移となることが、図1の板厚変化計測システム1の場合と比較して更に明確となる。
【0045】
本実施形態の板厚変化計測システム10によれば、被測定物2の表面温度を変化させる温度制御装置4と、被測定物2の表面温度を撮影する熱画像撮影装置5に加えて、被測定物2全体の温度を変化させる広域温度制御装置11を更に用いる。これにより、広域温度制御装置11が被測定物2全体を冷却していることから、温度制御装置4が被測定物2を加熱し表面温度変化を与えた場合に、熱画像撮影装置5で撮影した熱画像12において、周囲と板厚変化推定位置13との温度差が板厚変化計測システム1の場合と比較して大きくなる。
【0046】
結果として、第一の実施形態と同様な効果を奏するとともに、温度制御装置4単体では実現不可能であった温度変化量を被測定物2全体に対して付与できることから、温度変化が乏しい材質や板厚である板状構造物に生じる減肉や材質変化等の板厚変化を検知することができる。
【0047】
(第三の実施形態)
以下図3を用いて、第三の実施形態に係る板厚変化計測システム20について説明をする。図3は、板厚変化計測システム20の一例を示す概略図であり、(a)は、板厚変化計測方法20の一例を示す構成図、(b)は、板厚変化計測方法20で撮影できる熱画像の一例を示す説明図であり、(c)は、板厚変化計測方法20で撮影できる熱画像の推移による板厚変化計測方法の一例を示す工程説明図である。以下、第一の実施形態と異なる箇所につき説明をし、それ以外の箇所については、第一の実施形態と同様であるとして同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0048】
図3(a)の板厚変化計測システム20は、温度制御装置4と、熱画像撮影装置5と、板厚計測装置21と、学習装置22と、を用いる。即ち、第三の実施形態では、板厚計測装置21と、学習装置22と、を更に用いる点が第一の実施形態と異なる。なお、第三の実施形態に係る板厚変化計測システム20では、第一の実施形態の変形例として広域温度制御装置11がないものとして例示をしているが、広域温度制御装置11を用いた第二の実施形態の変形例としても良い。
【0049】
板厚計測装置21は、被測定物2の板厚を計測して数値として出力する。例えば、板厚計測装置21には、超音波探傷装置が挙げられる。超音波探傷装置では、超音波を用いることで、被測定物2内部の割れや傷の検査、剥離検査、厚さ測定等をすることができる。なお、板厚計測装置21は、少なくとも被測定物2の板厚を計測することができれば良く、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、断面の実計測や打音検査等をすることで板厚を計測しても良い。
【0050】
なお、板厚計測装置21は、制御装置(図示省略)による制御を受けて、被測定物2の板厚変化部3の位置の板厚を計測するものとしても良い。
【0051】
学習装置22は、板厚計測装置21で計測した板厚計測値と板厚設計値とを対応付けることで、熱画像撮影装置5で撮影した熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25を表示する。ここでいう板厚変化推定値とは、板厚計測値が板厚設計値に対して減少した値を指す。また、学習装置22は、熱画像撮影装置5で撮影した熱画像と板厚計測装置21で計測した板厚計測値とを対応付けた統合データを蓄積する。
【0052】
これにより、学習装置22は、蓄積した統合データを教師データとして、熱画像撮影装置5で熱画像を撮影するだけで、教師データを用いた板厚解析をする。その後、学習装置22は、板厚計測装置21で板厚を計測せずとも被測定物2の板厚の値を推測して、熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25を表示する。なお、本実施例においては板厚の減少値を示す例で説明したが、併せて板厚計測値、板厚設計値を示すようにしても良いのは勿論である。
【0053】
なお、学習装置22は、少なくとも板厚計測装置21で計測した計測値を設計値と対応付けることができれば良く、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、例えば、熱画像を画像データとして扱い、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)等による学習モデルを構築しても良く、熱画像における各位置の温度を別途数値出力することで各位置における温度と板厚を対応付けて処理し、回帰分析等により温度に応じた予測値を算出しても良い。
【0054】
なお、学習装置22は、制御装置(図示省略)による制御を受けて、板厚計測装置21から受信した板厚計測値と板厚設計値とを対応付けることで、熱画像撮影装置5から受信した熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25を表示するものとしても良い。また、学習装置22は、制御装置(図示省略)による制御を受けて、熱画像撮影装置5から受信した熱画像と板厚計測装置21から受信した板厚計測値とを対応付けた統合データを蓄積し、この統合データを教師データとして用いて板厚解析を行い、板厚計測装置21で板厚を計測せずとも被測定物2の板厚の値を推測し、熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25を表示するものとしても良い。
【0055】
ここで、図3(c)の工程説明図を用いて、板厚変化計測システム20で撮影できる熱画像23の推移による板厚変化計測方法の一例について説明する。本実施形態の板厚変化計測方法では、被測定物2の表面温度を変化させる温度制御装置4を被測定物2に対して相対移動させる移動ステップと、被測定物2の表面温度を変化させることで発生する被測定物2の表面温度変化を、被測定物2の表面温度を撮影する熱画像撮影装置5で熱画像23として撮影する撮影ステップと、熱画像23において被測定物2の温度分布又は温度勾配の相違を計測し、この相違を示す位置を板厚変化推定位置24として検知する検知ステップと、被測定物2の板厚変化推定位置24の板厚を板厚計測装置21で計測する計測ステップと、板厚計測装置21で計測した板厚変化推定位置24の板厚計測値と、板厚設計値とを対応付け、熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25を学習装置22で表示する学習ステップとを順次行う。
【0056】
具体的には、図3(c)(1)に示すように温度制御装置4が、被測定物2に対して相対移動をして、被測定物2を加熱する。熱画像撮影装置5が、加熱された被測定物2を熱画像23として撮影する。温度制御装置4が通過した領域に板厚変化部3が存在しない場合、熱画像23において温度の相違は検知されない。
【0057】
一方で、図3(c)(2)に示すように温度制御装置4が通過した領域に板厚変化部3が存在する場合、板厚変化部3により被測定物2の温度特性に変化が生じていることから、熱画像23において板厚変化部3の位置で周囲と異なる温度を示す板厚変化推定位置24が検知される。
【0058】
その後、図3(c)(3)に示されるように板厚変化推定位置24が検知されると、板厚計測装置21で板厚変化推定位置24の板厚を計測し、学習装置22で板厚計測値と板厚設計値とを対応付けることで、熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25が表示される。または、板厚変化推定位置24が検知されると、学習装置22に蓄積された教師データを用いた板厚解析により、被測定物2の板厚の値を熱画像23から推測をして、熱画像23の板厚変化推定位置24に板厚変化推定値25が表示される。
【0059】
本実施形態の板厚変化計測システム20によれば、被測定物2の表面温度を変化させる温度制御装置4と、被測定物2の表面温度を撮影する熱画像撮影装置5に加えて、被測定物2の板厚を計測する板厚計測装置21と、板厚計測装置21が計測した板厚計測値と板厚設計値とを対応付ける学習装置22を更に用いる。
【0060】
これにより、温度制御装置4で被測定物2を加熱し表面温度変化を与え、熱画像撮影装置5で撮影した熱画像23を基に周囲と異なる温度分布又は温度勾配を示す位置を板厚変化推定位置24として減肉や材質変化等の板厚変化部3を検知する。その後、板厚計測装置21で板厚変化推定位置24の板厚を計測し、学習装置22で板厚計測値と板厚設計値とを対応付けることで、熱画像23に板厚変化推定値25を表示する。または、学習装置22は、熱画像と板厚計測値とを対応付けた統合データを蓄積するため、蓄積した教師データを用いて板厚解析を行い、被測定物2の板厚の値を撮影した熱画像から推測し、熱画像23に板厚変化推定値25を表示する。
【0061】
結果として、第一の実施形態と同様な効果を奏するとともに、広域又は多量の板状構造物に対して、板厚の計測が必要な箇所のみを抽出した効率の良い板厚計測をすることができる。また、現場で熱画像撮影装置を用いて熱画像を撮影するのみで板厚の値を推測することができ、即座に板厚計測が必要であるか否かを判断することができる。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1…板厚変化計測システム、2…被測定物、3…板厚変化部、4…温度制御装置、5…熱画像撮影装置5、6…熱画像、7…板厚変化推定位置、10…板厚変化計測システム、11…広域温度制御装置、12…熱画像、13…板厚変化推定位置、20…板厚変化計測システム、21…板厚計測装置、22…学習装置、23…熱画像、24…板厚変化推定位置、25…板厚変化推定値。
図1
図2
図3