(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004280
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】OFケーブル漏油補修剤及び漏油補修工法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/12 20060101AFI20250107BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20250107BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20250107BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250107BHJP
F16L 55/168 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C09K3/12
C09K3/10 Z
C08L53/02
C08K3/36
F16L55/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103844
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397042355
【氏名又は名称】株式会社アルファジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】506181472
【氏名又は名称】トキワ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 正和
(72)【発明者】
【氏名】中村 由美
(72)【発明者】
【氏名】上野 辰也
(72)【発明者】
【氏名】青木 望
(72)【発明者】
【氏名】中田 博三
(72)【発明者】
【氏名】木野 裕
【テーマコード(参考)】
3H025
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
3H025EA03
3H025EB01
3H025EB07
3H025EB13
3H025EB15
3H025EC17
3H025ED01
4H017AA03
4H017AB17
4H017AC16
4H017AD06
4H017AE05
4J002BP011
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】効率的に漏油補修を進められるように施工性に優れた漏油補修剤、及びそれを用いる、より簡易な漏油補修工法を提供する。
【解決手段】スチレン系エラストマーの粉末10~25質量部と炭化水素系溶剤100質量部とを含むポリマー溶液を主成分とすることを特徴とするOFケーブルの漏油補修剤、及び、前記漏油補修剤を用いたOFケーブルの漏油補修工法であって、前記ケーブルにおける接続部の鉛工部を覆うように導油袋を被せる工程と、前記導油袋の両端部の補修を行う工程と、前記導油袋の中央部の補修を行う工程と、を有し、前記両端部の補修と、前記中央部の補修を行う工程において、各々、前記漏油補修剤を塗布する工程を有することを特徴とするOFケーブルの漏油補修工法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマーの粉末10~25質量部と、炭化水素系溶剤100質量部とを含むポリマー溶液を主成分とすることを特徴とするOFケーブルの漏油補修剤。
【請求項2】
前記スチレン系エラストマーの粉末が、90質量%以上が16メッシュ篩を通過する粒度である請求項1に記載の漏油補修剤。
【請求項3】
前記スチレン系エラストマーが、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体、及び、スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の漏油補修剤。
【請求項4】
前記スチレン系エラストマーが、水素化スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体を主成分とするものである請求項1に記載の漏油補修剤。
【請求項5】
前記炭化水素系溶剤が、沸点(760mmHg)が78℃~110℃である請求項1に記載の漏油補修剤。
【請求項6】
前記炭化水素系溶剤が、脂肪族炭化水素から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の漏油補修剤。
【請求項7】
さらに、シリカを1~8質量部混合してなる請求項1に記載の漏油補修剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の漏油補修剤を用いたOFケーブルの漏油補修工法であって、
前記ケーブルにおける接続部の鉛工部を覆うように導油袋を被せる工程と、
前記導油袋の両端部の補修を行う工程と、
前記導油袋の中央部の補修を行う工程と、
を有し、
前記両端部の補修と、前記中央部の補修を行う工程において、各々、前記漏油補修剤を塗布する工程
を有することを特徴とするOFケーブルの漏油補修工法。
【請求項9】
前記導油袋は流出口を備え、
前記導油袋を被せる工程において、前記流出口が前記導油袋の下方側に配置される請求項8に記載の漏油補修工法。
【請求項10】
前記中央部の補修を行う工程の後に、さらに、補修箇所の全体を覆うように前記漏油補修剤を塗布する工程を有する請求項8に記載の漏油補修工法。
【請求項11】
前記漏油補修剤を塗布する工程は、塗布毎に乾燥を確認しながら、複数回、重ね塗りを実施する請求項10に記載の漏油補修工法。
【請求項12】
前記両端部の補修を行う工程は、
前記導油袋の両端部周辺を自己融着テープで重ね巻きする工程と、
前記自己融着テープを覆うように布テープを重ね巻きする工程と、
前記布テープ上に前記漏油補修剤を塗布する工程と、
前記漏油補修剤を塗布した後にエポキシ樹脂を塗布する工程と
を有する請求項8に記載の漏油補修工法。
【請求項13】
前記中央部の補修を行う工程は、
前記導油袋の中央部周辺を自己融着テープで重ね巻きする工程と、
前記自己融着テープを覆うように布テープを重ね巻きする工程と、
前記布テープ上に前記漏油補修剤を塗布する工程と、
前記漏油補修剤を塗布した後にエポキシ樹脂を塗布する工程と
を有する請求項8に記載の漏油補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OF(絶縁油入り)ケーブル漏油補修剤及び漏油補修工法に関する。詳細には、OFケーブルの漏油箇所(ケーブル部、接続部、接続箇所におけるフランジ部等)から漏油した油を吸着しゲル化させることで、短時間に漏油を補修できる漏油補修剤、及びOFケーブル漏油補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧油、作動油、絶縁油等を含む金属製の配管は、金属の劣化あるいは収縮等による漏油があり、漏油は引火による火災、事故、環境汚染を引き起こす原因となる。
【0003】
従来、OFケーブルの漏油箇所を補修する補修工法は、再鉛工(補修前に加硫ゴム巻きにより漏油量を抑え、作業用給油系統に切り替え後、既設の鉛工を除去し、真空引きで再鉛工を施し、鉛工完成後に真空引き、真空落ち試験、注油、漏油確認を実施した後、エポキシ補強、防食層形成)が主であった(
図6参照)。そのため、火気使用による火災の危険性、熟練技術者による施工を必要とする等、効率面で課題があるため、無火気での施工、ケーブル停止時間の短縮、熟練性を要しない等、施工面での効率化が求められていた。
【0004】
漏油補修工法としては、弾性及び絶縁油耐性を有する合成ゴムシートを用いる方法(特許文献1)、エポキシ樹脂系シール材を塗布する方法(特許文献2)、スチレン系エラストマーと紫外線硬化性アクリル系樹脂組成物を塗布し、紫外線を照射して固化する方法(特許文献3)等が知られているが、取扱いが難しい上に、油の漏出を完全に止められるものではなかった。一方で、安価に利用できるエポキシ系の2液混合コーキング材もあるが、作業性が悪く、短時間で固化するため作業が難しく、再作業での剥離が困難であった。したがって、これら従来技術は、漏油を完全に止めることが出来ず作業効率が悪いものであった。
【0005】
一方、特許文献4には、ポリスチレンブロック相をポリマーの両末端に持つ、スチレン/ブタジエンコポリマーと、スチレン-エチレン/ブチレンコポリマーを特定の比率で混合した粉末状の油固化剤が、重油及び家庭用灯油の固化に有効であることが開示されているが、前記油固化剤は、油を固めて網で回収することを想定したものであった。
【0006】
さらに、特許文献5には、水添ポリイソブチレンとポリスチレンの混合物と、ポリスチレン/水添ポリイソプレン/ポリブタジエン/ポリスチレンコポリマーとを、石油系炭化水素溶剤と混練しゲル化させたゴム粘土状の油吸着性粘着被覆補修材が開示されている。この油固化剤は、漏油箇所を応急的に補修するための補修材であるが、石油系炭化水素溶剤と混練してゲル化させたゴム粘土状の補修材であるため作業性が悪く、漏油箇所への付着性も悪いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-333674号公報
【特許文献2】特開2012-211652号公報
【特許文献3】特開2019-203111号公報
【特許文献4】特開平9-137185号公報
【特許文献5】特開2020-055794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、効率的に漏油補修を進められるように施工性に優れた漏油補修剤、及びそれを用いる、より簡易な漏油補修工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に対し、本発明者らは、OFケーブル漏油補修剤は、耐油性に優れること、OFケーブルからの漏油時の噴出油圧に耐え噴出を止められる材料であることに加えて、材料の硬化時間が短く、絶縁性及び粘着性(すなわち、金属部材への接着性)があり、硬化後は弾力性を有しゴム状になる性質がある材料を種々検討した。その結果、要求性能に近い特性を有するスチレンとブタジエンのブロック共重合体の改良が最適と考えた。
【0010】
しかし、上記のスチレンとブタジエンのブロック共重合体は、接着面の油に対して親油性のあるゲル状のパテであるが、接着面に油が存在する時のシール性に課題がある。更なる機能向上を図るべく、油を吸着し、接着面に油が存在していてもシール性を有し、かつ作業性が良好で、再施工が容易で、漏油補修が一定期間保持できる材料について鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、スチレン系エラストマーの粉末10~25質量部と、炭化水素系溶剤100質量部とを含むポリマー溶液を主成分とすることを特徴とするOFケーブルの漏油補修剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記OFケーブルの漏油補修剤を用いたOFケーブルの漏油補修工法であって、
前記ケーブルにおける接続部の鉛工部を覆うように導油袋を被せる工程と、
前記導油袋の両端部の補修を行う工程と、
前記導油袋の中央部の補修を行う工程と、
を有し、
前記両端部の補修と、前記中央部の補修を行う工程において、各々、前記漏油補修剤を塗布する工程
を有することを特徴とするOFケーブルの漏油補修工法を提供する。
【0013】
本発明によれば、既設鉛工を取り除き、再度新たに鉛工を施していた煩雑かつ熟練を要する補修作業が不要となるため、従来法(再鉛工)に比べて、ケーブル停止時間の短縮、スキルレス、コストダウンが図れる。火気を使用しないため安全である。
【0014】
本発明の漏油補修剤は、OFケーブルの配管、フランジ、終端接続部、中間接続部等の漏油箇所から漏油した油を吸着する能力が高く、作業性が良好で、再施工が容易であり、漏油補修が一定期間保持可能となる。また、油のベーパー(ガス発生)を抑制し静電気による引火を抑制する効果がある。さらに、漏油補修剤が油を吸着して固化するので、漏油箇所に漏油補修剤を塗布もしくは散布するだけで良いので、従来必須であったゴムパッキングの取替作業が不要となる。
【0015】
なお、鉛工部からの漏油を極力防止するため、導油袋を被せる工程の前には、漏油箇所の周囲を加硫ゴムテープ巻きする工程と、前記加硫ゴムテープ上を自己融着テープ巻きする工程と、を有していても良い。
【0016】
前記漏油補修工法において、前記漏油袋は流出口を備え、
前記導油袋を被せる工程において、前記流出口が前記導油袋の下方側に配置される。
【0017】
導油袋を用いることで、補修作業時における油の流出を誘導することができ、油を系外に効率的に排出することができる。さらに、油を効率的に系外に排出することで、漏油による施工中の圧力上昇を低減することができ、作業性が向上する。
【0018】
また、前記漏油補修工法においては、前記中央部の補修を行う工程の後に、さらに、補修箇所の全体を覆うように前記漏油補修剤を塗布する工程を有することが好ましい。
【0019】
また、前記漏油補修材を塗布する工程は、塗布毎に乾燥を確認しながら、複数回、重ね塗りを実施することが好ましい。
【0020】
漏油補修剤塗布後の硬化層を厚くするには、漏油補修剤を重ね塗りすることが好ましい。漏油補修剤を塗布する際は、層間プライマーを介して塗布することが、OFケーブルとの密着性及び漏油防止性を高めることができる点で好ましい。
【0021】
また、前記両端部の補修を行う工程は、
前記導油袋の両端部周辺を自己融着テープで重ね巻きする工程と、
前記自己融着テープを覆うように布テープを重ね巻きする工程と、
前記布テープ上に前記漏油補修剤を塗布する工程と、
前記漏油補修材を塗布した後にエポキシ樹脂を塗布する工程と
を有することが好ましい。
【0022】
前記中央部の補修を行う工程は、
前記導油袋の中央部周辺を自己融着テープで重ね巻きする工程と、
前記自己融着テープを覆うように布テープを重ね巻きする工程と、
前記布テープ上に前記漏油補修剤を塗布する工程と、
前記漏油補修材を塗布した後にエポキシ樹脂を塗布する工程と
を有することが好ましい。
【0023】
自己融着テープ、布テープの順に重ね巻きした上に漏油補修剤を塗布、乾燥させて硬化層を形成し、該硬化層の上にエポキシ樹脂硬化層を形成することで、2重の硬化層で漏油を完全に抑えることができる。エポキシ樹脂補強はケーブル長手方向、短手方向の順に2段階で行うことが好ましく、こうすることで、油の流出口を確保しながら鉛工部を補強することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、作業者の熟練によることなく、補修を確実に行いつつ、作業効率の向上及びコストの削減を図ることが可能なOFケーブルの漏油補修工法及びそれに最適な漏油補修剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】終端接続部への漏油補修剤の適用例を示す説明図である(補修前)。
【
図1B】終端接続部への漏油補修剤の適用例を示す説明図である(補修後)。
【
図2】漏油補修工法の一実施形態の工程例を示すフローチャートである。
【
図4】(a)導油袋を鉛工部を覆うように取り付けた状態の概要図、(b)導油袋の両端開放部において端部処理を行った状態の概要図、(c)中央部(鉛工部)において同様の補修を行った状態の概要図、である。
【
図5】(a)エポキシ樹脂を塗布している状態の図、(b)層間プライマーを塗布している状態の図、(c)中央部(鉛工部)にエポキシ樹脂を塗布した状態の図、(d)漏油補修が完了した状態の図、である。
【
図6】中間接続部への従来の漏油補修工法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明に係るOFケーブルの漏油補修剤は、スチレン系エラストマーの粉末10~25質量部と、炭化水素系溶剤100質量部と、を含むポリマー溶液を主成分とすることを特徴とするものである。
【0028】
本発明におけるOFケーブルの漏油補修剤は、スチレン系エラストマーの粉末と炭化水素系溶剤とを含むポリマー溶液を主成分としており、流動性がある高粘度溶液状である。粉末状ではなくポリマー溶液状の漏油補修剤とすることで、漏油箇所に塗布し易く、かつ、塗布した漏油補修剤が流れ出すのを防止することができる。
【0029】
漏油補修剤は、BM型粘度計(ローター1、回転数3rpm)で測定したときの粘度が70~2000mPa・sであることが好ましい。70mPa・s未満では、刷毛塗りした漏油補修剤が漏油箇所から流れ出すことで漏油を止めることができなくなる虞がある。また、2000mPa・sを超えると、刷毛塗りが困難になるため作業性が著しく悪化すると共に、漏油箇所に均一塗布することが困難になる場合がある。漏油補修剤の粘度は、より好ましくは90~1500mPa・s、さらに好ましく100~500mPa・s、特に好ましくは100~300mPa・sである。
【0030】
<スチレン系エラストマー>
本発明の漏油補修剤を構成するスチレン系エラストマーの粉末は、スチレン系エラストマーを常法により粉末化したものが用いられる。
【0031】
スチレン系エラストマーの粉末の粒度は、漏油した油を速やかにゲル状化させるためには、16メッシュ(目開き1.00mm)のJIS試験篩いで篩い分けしたときに、粉末の90質量%以上が該篩を通過する粒度であることが好ましい。篩通過分は、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上である。篩を通過する粉末の割合が増えると、粉末の粒子径が小さくなり表面積が増大することで、より多量の油を取り込むことができる。また、スチレン系エラストマーの油による膨潤速度も速くなるため、油を迅速に吸収することで漏油を防止できると共に、作業時間を短縮することができる
【0032】
一方、スチレン系エラストマーの粉末の粒度が細か過ぎる場合、ポリマー溶液が高粘度になることにより、補修箇所への均一塗布が困難になることで、補修作業効率が低下する虞がある。したがって、スチレン系エラストマー粉末の90%以上が、粒度125μm(119メッシュ篩通過)~1.00mmの範囲にあることが特に好ましい。このようにスチレン系エラストマーの粉末の粒度を揃えることにより、漏油補修材が完全に固化する前に絶縁油が溶け出す現象を抑制することができると共に、均一な硬化樹脂層が形成されるため、再施工時における施工部分の除去が容易になる。
【0033】
スチレン系エラストマーとしては、耐熱性及び柔軟性の点から、ブロック共重合体が好ましい。そのなかでも、スチレン単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエンもしくはそれに類するジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体が好ましい。
【0034】
好ましいスチレン系エラストマーの具体例としては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、及び、それらを水素化した水添物等が挙げられる。これらのブロック共重合体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記ブロック共重合体のなかでも、スチレンと共役ジエンとの共重合体を水素化した水添物が特に好ましい。水添物は不飽和結合を有さないため耐熱性及び耐光性が良好である。
【0035】
上記のブロック共重合体は、ポリマー構造の両末端にポリスチレンブロック相をもち、その分子構造は直鎖型ブロック共重合体である、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体を主成分とするものが好ましい。分子構造の両末端がポリスチレンブロック相であることで、油をゲル化させて漏油することに関して顕著な効果を示す。分子構造の末端の全部又は一部がポリブタジエンブロック相あるいはポリイソプレンブロック相の場合は、漏油した油を吸収したゲルが軟弱となるため漏油を完全に止めることが困難になる場合がある。
【0036】
上記のブロック共重合体においては、ポリスチレンブロックの含有率に特に制限はないが、10~50質量%であることが好ましく、20~45質量%であることがより好ましい。特に好ましくは、25~40質量%である。また、ポリブタジエンブロック又はポリイソプレンブロックの含有率は、50~90質量%であることが好ましく、55~80質量%であることがより好ましい。特に好ましくは、60~75質量%である。ポリスチレンブロックの比率が10質量%未満では、吸油したゲルが軟弱となり、50質量%を超えるとゲルが固くなりすぎるため作業性が劣る。ポリブタジエンブロック及びポリイソプレンブロックの水素添加率に特に制限はないが、50モル%以上であることが好ましく、70~100モル%であることがより好ましい。
【0037】
なお、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体となる。スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物は、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体となる。
【0038】
本発明のスチレン系エラストマーは、重量平均分子量が30万以上であることが好ましく、100万以上であることがより好ましい。上限は特にないが、例えば150万以下である。このような高分子量スチレン系エラストマーを含むことにより、低分子量スチレン系エラストマーを用いた場合に比べて、経時劣化(着色)がなく、漏油補修後においては漏油箇所のシール性を長時間維持することができる。
【0039】
本明細書において、スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(標準物質:ポリスチレン、溶離液:テトラヒドロフラン)により測定したポリスチレン(標準物質)換算値である。
【0040】
本発明では、スチレン系エラストマーとして市販品を使用することができ、市販品としては、例えば、クレイトンポリマー株式会社製「クレイトン(登録商標)G」、クラレ株式会社製「セプトン(登録商標)」、旭化成株式会社製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0041】
<炭化水素系溶剤>
本発明の漏油補修剤におけるスチレン系エラストマーの粉末の含有量は、炭化水素溶剤100質量部に対して、10~25質量部である。スチレン系エラストマーの粉末は、10~23質量部であることが好ましく、12~23質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることが特に好ましい。
【0042】
炭化水素系溶剤100質量部に対する、スチレン系エラストマー粉末の比率が低くなると、漏油補修剤が柔らかくなり過ぎることで、漏油箇所に施工した際に液ダレ等の問題が生じるおそれがある。スチレン系エラストマー粉末が10質量部以上であれば、粉末の油吸収能力が極端に低下することがなく、油を吸収して安定ゲルを形成することで、漏油補修性能を発揮できる。また、スチレン系エラストマー粉末が25質量部以下であれば、ポリマー溶液が極端に高粘性にならないため、作業性を著しく害することがない。
【0043】
本発明では、スチレン系エラストマーを粉砕機で粉砕し、粉砕物を篩分けして得られる篩通過分に、所望により添加剤を加えて、ミキサーで均一に混合することによって、スチレン系エラストマー粉末を得ることができる。そして、前記スチレン系エラストマー粉末に、シリカ粉、オレフィンワックス等の添加剤を配合したものを、炭化水素系溶剤に溶解させてポリマー溶液を調製することができる。
【0044】
一方で、本発明の漏油防止剤に配合するスチレン系エラストマーの粉末は、漏油した油の量が多い場合は、漏油箇所に直接粉末を散布することで漏油補修剤として使用することができる。スチレン系エラストマー粉末の絶縁油ゲル化に要する量は、通常、OFケーブル用絶縁油が低粘度であると少なくなり、高粘度になるほど多くなる。常温において、一般的な絶縁油に対して、スチレン系エラストマー粉末を適量適用することにより、漏油をゲル化させることができる。絶縁油1質量部に対するスチレン系エラストマー粉末の適用量は、特に限定されず、1~20質量部程度が好ましい。該スチレン系エラストマーの粉末は、シリカ粉、オレフィンワックス等の添加剤を配合したものでも良い。
【0045】
本発明の漏油補修剤において、炭化水素系溶剤は、スチレン系エラストマーの粉末を高粘度のポリマー溶液とする際に用いられる。ポリマー溶液は、漏油箇所に適用された際に油を吸収する。そして、油を吸収したポリマーは、経時(通常、24~48時間程度)で硬化(固化)する。
【0046】
炭化水素系溶剤としては、沸点(760mmHg)が78℃~110℃である炭化水素系溶剤が好ましい。沸点が78℃以上であれば、漏油補修作業時における溶剤の揮発を抑制できるため作業環境上好ましく、かつOFケーブルから漏油した油の硬化速度が低下するのを防止することができる。また、沸点が110℃以下であればポリマーの固化速度が著しく遅延することがない。
【0047】
炭化水素系溶剤の具体例としては、例えば、へプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素、鉱油(パラフィン系、ナフテン系)、アルキルベンゼン、ポリブテン、アルキルナフタレン、脱芳香族炭化水素類等を挙げることができる。作業の安全性確保の面より、炭化水素系溶剤は、絶縁耐力が大きく、粘度が低く、引火点が高く、電気的・化学的安定性が高いことが望ましい。これらの溶剤は1種単独または2種以上組合せて用いることができる。
【0048】
上記炭化水素系溶剤のなかでも、入手容易性及び経済性の点より、鉱油、アルキルベンゼン、ポリブテン、アルキルナフタレン、脱芳香族炭化水素等が好ましい。
【0049】
<添加剤>
本発明の漏油補修剤は、さらにシリカ、オレフィンワックス等を含むことができる。シリカの配合により、ブロッキング防止性、漏油補修剤の長期保存安定性を向上させることができる。シリカとしては、特に限定されるものではなく、公知の親水性シリカや疎水性シリカを1種単独で、または2種以上を併用することができる。オレフィンワックスの配合により漏油補修剤の親油性を向上させることができる。
【0050】
シリカとしては、その一次粒子の平均粒子径が150μm(100メッシュ)以下のものが好ましい。
【0051】
シリカの配合量は、スチレン系エラストマー100質量部に対して、1~10質量部が好ましい。1質量部以上配合することで増粘効果が発揮され、また、10質量部以下であれば漏油防止剤の長期保存安定性が著しく損なわれることがない。より好ましい配合量は2~8質量部、さらに好ましくは3~7質量部である。シリカの配合量を調整することで、漏油補修剤を漏油箇所に適用した際に形成される硬化物の硬さを調整することができる。
【0052】
本発明の漏油補修剤は、本発明による効果を著しく阻害しない範囲で、シリカやオレフィンワックス以外の他の公知の添加剤を、公知の量範囲で、配合することができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤等が挙げられる。
【0053】
本発明において、粉末状のスチレン系エラストマーと、炭化水素系溶剤と、その他の成分(例えば、シリカ等)とを併用する場合には、例えば、粉末状のスチレン系エラストマーとその他の成分との混合物を、該エラストマーのゲル化点以下の温度で、炭化水素系溶剤と混合し、得られた混合物を、ゲル化点以上の温度(30℃~150℃)で加熱撹拌(又は混練)することによってゾルを生成させた後、ゾル形成物質のゲル化点以下の温度に冷却することにより漏油補修剤を得ることができる。
【0054】
<漏油補修工法>
次に、本発明の漏油補修材を用いた適用例の一つとして、OFケーブル漏油補修工法を説明する。OF(Oil Field)ケーブルは、絶縁材として内部に絶縁油が満たされたケーブルである。経年により、ケーブル部からも漏油が発生することがあるが、特に、施工者による現地作業が実施される接続部(中間接続部、終端接続部)において漏油によるトラブルが散見される。
【0055】
本発明の漏油補修工法では、先ず、漏油箇所及び周辺を清掃する。すなわち、漏油箇所及びその周辺の付着物を取り除くことが好ましい。
【0056】
<終端接続部>
終端接続部における漏油補修工法について説明する。OFケーブル終端接続部の外観写真の一例を
図1Aに示す。終端接続部における漏油は、フランジ部のパッキン周辺部から発生することが多い。そのため、終端接続部の漏油補修工法では、
図1Bに示すように、本発明の漏油補修剤を漏油箇所及び周辺のフランジ部全体に塗布することが望ましい。漏油補修剤を塗布する場合は、スチレン系エラストマー及び漏油補修剤の金属面への接着性を高めるため、あらかじめ金属面をプライマーで処理しておいても良い。
【0057】
塗布後、自然乾燥あるいは加熱して炭化水素系溶剤を揮発させることで、漏油箇所及びその周辺のフランジ部全体の金属面に、本発明のスチレン系エラストマーの被覆層を形成する。こうすることで、一時的もしくは短期的に漏油を防止することができる。
【0058】
<中間接続部またはケーブル部>
次に、中間接続部またはケーブル部における漏油補修工法について説明する。中間接続部またはケーブル部においては、作業員の施工箇所である中間接続部の鉛工部周辺から漏油が発生することが多い。そのため、一例として、中間接続部の鉛工部周辺の漏油補修工法について説明する。
図2は、漏油補修工法の一連の工程例を示すフローチャートである。
【0059】
本実施形態では、前述の通り、最初に漏油箇所及び周辺の清掃を実施する。清掃実施後は、適度な張力で加硫ゴムテープ巻きを行い、加硫ゴムテープの張力で漏油箇所周辺を押え付けることが好ましい。さらに自己融着テープによるテープ巻きを実施してもよい。
【0060】
次いで、漏油箇所から他の箇所への油の拡散と、作業への影響を防止するため、導油袋(外部から見易い、透明ないし半透明の樹脂製の袋等)を、鉛工部を中心に、鉛工部を覆うように被せる。
【0061】
図3は、本発明で用いる導油袋の概要図である。導油袋30の上部は開放されており、下部は、熱圧着シール部33と油の流出口34が設けられている。導油袋の左右一方の端部は、鉛工部を中心として、向かってケーブル部側に配置される。そのため、導油袋の左右一方の端部である内径31は、ケーブル外径に基づき設計される。他方、導油袋の左右逆側の端部は、鉛工部を中心として、向かって中間接続部側に配置される。そのため、導油袋の他方側の端部である内径32は、中間接続部端部14の外径に基づき設計される。
【0062】
図4(a)は、導油袋30を、鉛工部31を覆うように取り付けた状態の概要図である。流出口が前記導油袋の下方側に配置されるように、導油袋を鉛工部の下側から取り付ける。導油袋30の下端部においては、熱圧着シール部は閉塞されているため、流出口34のみが開放された状態となる。下方側に流出口を設けることで、油の自重により、流出口を介して油を効果的に系外に排出することができる。
【0063】
次に、導油袋30の両端部から、導油袋の内部の油が漏洩しないように両端開放部の端部処理を行う。
図4(b)は、導油袋の両端開放部において、端部処理を行った状態の概要図である。端部処理は、一例として、導油袋の両端部を自己融着テープによるテープ巻きを行い、さらに、その上を透明なビニール製等のフィルムによるラップ巻きを行うのが好ましい。さらに、ラップ巻きの上に、布テープ巻き等を実施してもよい。さらに、布テープ上及びその周辺に、層間プライマー41を塗布するのが望ましく、塗布後、ドライヤー等で十分乾燥させる。層間プライマー41としては、溶剤系ポリウレタン樹脂や溶剤系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0064】
次いで、層間プライマー上に、本発明の漏油補修剤を塗布し、漏油補修剤42を乾燥させて硬化層を形成する。漏油補修材の塗布は、塗布毎に乾燥を確認しながら複数回、重ね塗り(例えば、20回程度)を実施することが好ましい。
【0065】
さらに、漏油補修剤(硬化層)の全面にエポキシ樹脂43を塗布し、経時(約30~40分)でエポキシ樹脂の硬化層(例えば、厚さ5mm以上)を形成する。必要に応じて、ドライヤー等で加熱しても良い。エポキシ樹脂は、特に限定されるものではなく、主剤の他に、硬化剤、硬化促進剤、ガラス繊維チョップ等を含ものが好ましい。
図5(a)は、エポキシ樹脂を塗布している状態の図である。
【0066】
導油袋30の両端開放部の端部処理後は、中央部(鉛工部)周辺について漏油補修を実施する。
図4(c)は、中央部(鉛工部)周辺においても、同様に補修を行った状態の概要図である。
【0067】
導油袋30の流出口の処理として、流出口34を織り込み、中央部(鉛工部)を覆うように巻き付ける。その後、流出口34から油が流出しないよう、導油袋の上にラップ巻きを複数回行う。さらに、ラップを抑え込むように、布テープを複数回巻き付けるのが好ましい。
【0068】
次に、布テープ上に層間プライマーを塗布し、よく乾燥させる。
図5(b)は、層間プライマー41を塗布している状態の図である。
層間プライマーを塗布した箇所に、本発明の漏油補修剤を塗布し、乾燥させて硬化させる。漏油補修剤の塗布は、塗布毎に乾燥を確認しながら、複数回、重ね塗りを実施するのが好ましい。
【0069】
次に、漏油補修剤(硬化層)の上にエポキシ樹脂を塗布し、エポキシ樹脂の硬化層(例えば、厚さ5mm以上)を形成させる。
図5(c)は、中央部(鉛工部)に、エポキシ樹脂43を塗布した状態の図である。
【0070】
最後に、これまでの作業で形成されたエポキシ樹脂硬化層の全体を覆うように、全体的に漏油補修剤42を塗布する。漏油補修剤の塗布は、塗布毎に乾燥を確認しながら、複数回、重ね塗りを実施するのが好ましい。
図5(d)は、漏油補修が完了した状態の図である。
【0071】
本発明のOFケーブルの漏油補修工法によれば、上記の一連の工程によって、漏油箇所を確実に封止し、漏油箇所封止構造を簡略に得ることができる。また、導油袋により、補修作業時における油の流出を誘導することができる。これにより、油を効果的に系外に排出することができ、漏れた油によって漏油補修剤等の乾燥(硬化)が遅延するのを防止することができる。さらに、油を効果的に系外に排出することで、漏油による施工中の圧力上昇を低減することができ、作業性が向上する。すなわち、施工難度を低減することができ、各材料の硬化時間等も確保しやすくなるため、施工品質を向上させることもできる。
【0072】
なお、上記実施形態は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
重量平均分子量が100万以上である、下表に示すブロック共重合体の粉末3種類(いずれも、16メッシュ篩通過分97%以上、株式会社アルファジャパン製))を、夫々、75g、90g、100g、及び、脱芳香族化炭化水素(安藤パラケミー株式会社製、EXXSOL DSP80/100)各500gを混合し、室温で20分間撹拌することにより漏油補修剤A~C(表1参照)を調製した。
【0075】
【0076】
(1)粘度測定、刷毛塗り性試験
調製したポリマー溶液の粘度を測定した。測定条件は、BM型粘度計を使用し、ローター1、回転数3rpmで実施した(測定温度;23℃)。また、調製から1日後、2日後の粘度を測定した。ポリマー溶液を均一にするため、粘度測定前に20分~45分間撹拌した。測定結果を表2に示す。
【0077】
刷毛塗り適性を評価するため、調製から2日後の各ポリマー溶液について、低温での粘度測定を実施した。測定結果を表2に併せて示す。
なお、刷毛塗り性は、以下の評価基準で評価した。
塗り易い:◎、塗ることができる:○、塗ることが困難:×
【0078】
【0079】
表1より、ポリマー溶液の粘度は、経時で増粘する傾向が認められた。なかでも、ブロック共重合体A及びBは、経時による粘度上昇が大きく、低温になるほど粘度が上昇した。ポリマー溶液粘度が150mPa・sを超えると、刷毛塗り性が徐々に低下する傾向があり、温度が10℃以下になるとポリマー溶液の粘度上昇が著しかった。
【0080】
(2)せん断引張試験
ブロック共重合体A、B、Cの粉末を、夫々、75g、90g、100gと、脱芳香族化炭化水素(EXXSOL DSP80/100)500gを混合し、室温で20分間撹拌することにより漏油補修剤を調製した後、得られた漏油補修剤A~Cを被着体(24.8×100×1.5t(mm)のアルミニウム板:A1050、接着面は#600で研磨)に塗布し、貼り合わせた後、荷重370gを架けて33℃の恒温槽に22時間保管して試験片を作製した。せん断引張試験は、オートグラフAG-X plus、島津製作所製を用い、引張速度:50mm/minで実施した。
せん断引張試験を3回実施し平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0081】
【0082】
(3)耐油性試験
漏油補修剤A~Cを室温で放置することによって得た漏油補修剤の固まりを、絶縁油約1000mL中に48時間浸漬し耐油試験を実施した。その結果、いずれも、漏油補修剤の外観形態に変化がない(溶け出しが無い)ことを確認した。
【0083】
(4)耐圧試験
直径約5mmの孔を開けたペットボトルに前記の絶縁油を充填した後、孔をポリマー溶液で塞ぎ、0.8MPaの耐圧試験を48時間実施し、絶縁油漏れが無いことを確認した。また、直径約5mmの孔にガラス繊維テープ(格子状)を載せ、その上に漏油補修剤を載せて孔を塞ぎ、0.9MPaの耐圧試験を48時間実施した。いずれも、空気漏れが無いことを確認した。
【0084】
(5)硬化時間
ステンレス製バットに、ブロック共重合体Aの粉末を脱芳香族化炭化水素に溶解させたポリマー溶液を0.5mm厚で塗布した後、状態を経過観察した。時間とともにポリマー溶液は堅くなり、5分後には、硬化物の表面を指で約10秒間押してできた凹みが、指を離すと元に戻る堅さとなった。当該堅さになる時間(5分)を硬化時間とした。
【0085】
[実施例2]
実施例1で用いたブロック共重合体A単品(未粉砕品)、ブロック共重合体A(粉末)と脱芳香族炭化水素の混合品、の2種を用いて弾力性試験及び粘着性試験を実施した。
(1)弾力性試験は、大人の男性の手で、試験体(塊)にドライバーの先端を押し込み、原形に戻るか否かで評価した。
(2)粘着性試験は、直径20mm(面積314mm2)の鉄製の治具2個を、前記ブロック共重合体単体で接着させた後、70℃で24時間熱処理を行い、接着させた治具を、引張試験機を用いて接着力を測定した。
【0086】
表4に示すように、ブロック共重合体A単体よりも、ブロック共重合体Aと炭化水素系溶剤の混合品の方が粘着性に優れていた。
【0087】
【0088】
[実施例3]
実施例2で用いたブロック共重合体A・単体(粉末)100gと、前記粉末の5倍質量の脱芳香族炭化水素とを混練して作製した漏油補修剤(本発明品)を用いて、抵抗試験を実施した。装置は日置電機株式会社製 抵抗計3541を用いた。試験サンプルは、ゲル作製直後品とゲル作製後日数経過品(室温、30日)の2種類を用いた。
試験結果を表5に示す。いずれの場合も本実験で使用した装置の最大レンジ(110MΩ)を示し、試験品全てが110MΩ以上であることを確認した。
【0089】
【0090】
[実施例4]
OFケーブル模擬品として直径100mmの塩化ビニール管を用い、該塩化ビニール管2本のつなぎ目に、実施例2で調製したブロック共重合体A(粉末)と脱芳香族炭化水素からなるポリマー溶液(漏油補修剤)を塗布し、20℃で2日放置したところ市販の消しゴムの硬さとなった。その後、片端の開口を閉じた状態で、もう一方の開口から、圧力0.9MPaで管内に空気を送り出したが、空気漏れは確認されなかった。
【0091】
[比較例1]
OFケーブルの中間接続部に対する従来の漏油補修工法を示した(
図6参照)。
【0092】
従来の工法では、既設鉛工を取り除くために火気を使用する必要がある等、資機材の準備等を含め、作業が煩雑となる。また、マンホールや洞道内等の作業環境は、酸素欠乏への配慮等、必ずしも良好とは言いにくい環境下での作業となるため、火気の使用は、施工者の安全性という観点でも懸念があった。また、既設鉛工を取り除いた後、再度新たに鉛工を施す必要があり、当該作業には施工者の高い熟練度が要求される。
【0093】
上記の通り、本発明の漏油補修剤を用いた工法は、火気等の特別な道具を使用することなく、簡易に、施工を実施することができる。そのため、従来の工法に比べ、スキルレス、コストダウンや、ケーブルの送電停止が不要で、さらには安全性という観点でも向上することができる。
本発明の漏油補修剤及び漏油補修方法は、OFケーブルの中間接続部及び終端接続部に適用する場合の他、油が流通するパイプ間の接続箇所や油入機器等における漏油の恐れのある変電設備、水力設備、一般設備のフランジ部等の各接続箇所に、油面の除去、ケレン等の施工前加工をすることなく簡単、かつ、容易に適用することができる。特に、設備を停止して漏油箇所の油を抜き取る作業を行うことが難しい設備においては、設備を停止せずに簡易的に補修を行うこともでき、設備を停止するための関係各所との調整が必要なく効果が高い。