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  • -無励磁作動型電磁ブレーキ 図1
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  • -無励磁作動型電磁ブレーキ 図4
  • -無励磁作動型電磁ブレーキ 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042839
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】無励磁作動型電磁ブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 55/28 20060101AFI20250321BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20250321BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20250321BHJP
   F16D 127/04 20120101ALN20250321BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D65/18
F16D121:22
F16D127:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150003
(22)【出願日】2023-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓太
(72)【発明者】
【氏名】倉石 大悟
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA78
3J058AA88
3J058BA04
3J058BA55
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC72
3J058CC76
3J058CC77
3J058FA34
(57)【要約】
【課題】ブレーキ状態を容易に手動開放可能であって、ブレーキ開放後に人の力で動作可能な程度のブレーキ制動となる無励磁作動型電磁ブレーキを提供する。
【解決手段】人の動作をアシストするまたは介護用のモータに用いられる無励磁作動型電磁ブレーキ10であって、モータとともに回転軸線L回りに回転する被制動部材と、回転軸線Lに沿って移動可能に設けられた制動部材12、13と、制動部材12、13を被制動部材に押し付ける弾性部材5と、通電時に制動部材12、13を被制動部材から離間させる電磁石6と、弾性部材5および電磁石6を収容するハウジングと、ハウジングの弾性部材6を収容する収容部Sの長さを延伸可能な操作部9と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の動作をアシストするまたは介護用のモータに用いられる無励磁作動型電磁ブレーキであって、
前記モータとともに回転軸線回りに回転する被制動部材と、
前記回転軸線に沿って移動可能に設けられた制動部材と、
前記制動部材を前記被制動部材に押し付ける弾性部材と、
通電時に前記制動部材を前記被制動部材から離間させる電磁石と、
前記弾性部材および前記電磁石を収容するハウジングと、
前記ハウジングの前記弾性部材を収容する収容部の長さを延伸可能な操作部と、を備え、
前記電磁ブレーキの作動後に、前記操作部を操作することにより、人の力によって前記被制動部材と前記制動部材とを摺動させられるように前記弾性部材の弾性力が低減される、無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項2】
前記操作部は、前記弾性部材の弾性力が作用する方向と異なる方向に向かって回転操作可能とされている、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項3】
前記操作部は、前記収容部の長さを二段階に変更可能である、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項4】
前記操作部は、人の力によって操作可能である、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項5】
前記操作部は、前記ハウジングの外周に沿って複数設けられている、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【請求項6】
前記操作部は、角形凸部と嵌合する角形凹部から構成されていて、請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無励磁作動型電磁ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
非常時にブレーキが作動して、ブレーキ状態を手動操作で開放できる、無励磁作動型電磁ブレーキが知られている。例えば、特許文献1には、手動開放レバーの操作によりブレーキ状態を開放できる無励磁作動形の電磁ブレーキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-054664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電磁ブレーキが人の動作をアシストする介護用装置や補助装置に用いられる場合には、非常時にブレーキが作動した後に、装置を装着している人や周囲の人がブレーキ状態を容易に手動開放できることが求められる。また手動開放した際には、ブレーキトルクを完全にゼロにするのではなく、装置を安全な状態に移行できるように、手動開放した際にはある程度のブレーキトルクを作用させる状態とすることが好ましい。より具体的には、人の力で装置を動かせる程度のブレーキトルクが作用する状態とすることが好ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電磁ブレーキでは、電磁ブレーキ内の弾性部材の弾性力に抗して手動開放レバーを操作する必要があり、ブレーキ状態を容易に手動開放することが困難である。また、手動開放するとブレーキトルクがゼロになるため、装置を安全な状態に移行することが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、ブレーキ状態を容易に手動開放可能であって、ブレーキ開放後に人の力で動作可能な程度のブレーキ制動となる無励磁作動型電磁ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る一側面に係る無励磁作動型電磁ブレーキは、
人の動作をアシストするまたは介護用のモータに用いられる無励磁作動型電磁ブレーキであって、
前記モータとともに回転軸線回りに回転する被制動部材と、
前記回転軸線に沿って移動可能に設けられた制動部材と、
前記制動部材を前記被制動部材に押し付ける弾性部材と、
通電時に前記制動部材を前記被制動部材から離間させる電磁石と、
前記弾性部材および前記電磁石を収容するハウジングと、
前記ハウジングの前記弾性部材を収容する収容部の長さを延伸可能な操作部と、を備え、
前記電磁ブレーキの作動後に、前記操作部を操作することにより、人の力によって前記被制動部材と前記制動部材とを摺動させられるように前記弾性部材の弾性力が低減される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非常時にブレーキが作動しても、装置を装着している人や周囲の人がブレーキ状態を容易に手動開放できることができる。また、ブレーキ開放後、人の力で装置を動かせる程度のブレーキ制動にすることで、装置を安全な状態に移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】無励磁作動型電磁ブレーキを搭載したモータ駆動式の介護装置の概念図である。
図2】本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ非作動状態の説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ作動状態の説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ手動解除構造の説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキの操作部の回転角度に対するブレーキトルクの大きさを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された部材と同一の参照番号を有する部材については、説明の便宜上、その説明は省略する。また、本図面に示された各部材の寸法は、説明の便宜上、実際の各部材の寸法とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、無励磁作動型電磁ブレーキを搭載したモータ駆動式の介護装置の概念図である。モータ駆動式の介護装置100は、介護用ロボットであり、モータ駆動式のアーム100Aで要介護者Hを抱きかかえて起床をサポートする。介護装置100が要介護者Hを抱きかかえている際に、介護装置100の内蔵バッテリBの故障等によって、アーム100Aを駆動するモータMに搭載された無励磁作動型電磁ブレーキ10が作動した場合、要介護者Hは介護装置100に抱きかかえた状態で身動きが取れなくなる恐れがある。そのため、発明者は、要介護者Hの周囲の人がブレーキ状態を容易に手動開放できるブレーキ構成を検討した。
<無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ作動構造>
【0012】
図2、3を用いて、本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ作動構造について説明する。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ非作動状態の説明図である。図3は、本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ作動状態の説明図である。図2、3に示すように、無励磁作動型電磁ブレーキ10は、回転軸線L回りに回転する回転軸部2と、ハブ3と、摩擦部材4と(以降、ハブ3と摩擦部材4をまとめて被制動部材とも称する)、ハウジング1を備える。
【0014】
回転軸部2は、不図示のモータMの出力軸に接続されていて、モータMにより回転軸線L回りに回転される。回転軸部2は、ハウジング1に対して不図示の軸受により回転可能に支持されている。
【0015】
ハブ3は、回転軸部2の外周に取り付けられている。ハブ3は円筒状の本体部3Mと、本体部3Mから外周に広がるフランジ部3Fとを有している。例えば、本体部3Mの内周面と回転軸部2の外周面とにスプライン溝あるいはキー溝が設けられており、回転軸部2とハブ3は互いに相対回転不能になっている。あるいは単にハブ3が回転軸部2に圧入されて互いに相対回転不能とされていてもよい。
【0016】
摩擦部材4は、中央に回転軸部2およびハブ3が挿通される偏平なリング状の部材である。摩擦部材4は、板状部41と、一対の摩擦部42とを有する。摩擦部42は、ブレーキシューであり高摩擦係数を有する部材である。一対の摩擦部42は、板状部41の回転軸線L方向の一方側と他方側に貼り付けられている。
【0017】
ハウジング1は、アウタープレート12と、インナープレート13と(以降、アウタープレート12とインナープレート13をまとめて制動部材とも称する)、ヨーク14を備え、弾性部材5と電磁石6と操作部9を複数組(例えば4組)、収容している。摩擦部材4は、回転軸線L方向について、アウタープレート12とインナープレート13の間に位置している。インナープレート13は、ヨーク14に対して回転軸線L方向に変位可能である。
【0018】
弾性部材5は、例えばコイルスプリングであって、インナープレート13をヨーク14から離間させる方向に弾性復元力を作用させている。電磁石6は、ヨーク14に固定されていて、通電するとインナープレート13をヨーク14側に引き寄せる方向に電磁力が生じる。図2に示すブレーキ非作動状態においては、電磁石6は通電されていて、インナープレート13は弾性部材5の弾性復元力に抗してヨーク14側に引き寄せられている。そのため、摩擦部材4はインナープレート13およびアウタープレート12に接触しておらず、ブレーキトルクが生じていない。これに対して、図3に示すブレーキ作動状態においては、電磁石6は通電されておらず、弾性部材5の弾性復元力により、インナープレート13がヨーク14から離間させる方向に移動する。そのため、摩擦部材4の摩擦部42がアウタープレート12とインナープレート13に挟まれ、ブレーキトルクが生じている。
<無励磁作動型電磁ブレーキの手動解除構造>
【0019】
図4、5を用いて、本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ手動解除構造について説明する。
【0020】
図4は、本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキのブレーキ手動解除構造の説明図である。なお、図4は説明のために紙面上下方向を回転軸線L方向としている。
【0021】
図4に示す無励磁作動型電磁ブレーキ10は、ブレーキ作動状態であり、電磁石6に通電されておらず、弾性部材5の弾性復元力により、摩擦部材4の摩擦部42がアウタープレート12とインナープレート13に挟まれ、ブレーキトルクが生じている。
【0022】
図4に示すように、ヨーク14は、操作部9を操作するための窓Wを備える。操作部9は、それぞれハウジング1の外周に沿って窓Wに対向する位置に設けられている。また、操作部9は、中心部に六角凹部9aを有する。ヨーク14の外部から、窓Wを通じて六角レンチ等を用いて手動で六角凹部9aを回転操作することで、操作部9が図4に示すA方向(弾性部材4の弾性力が作用する方向と異なる方向)に向かって回転する構成となっている。また、操作部9は、ハウジング1の外周に沿った断面において長径と短径が異なる楕円形状を有し、回転操作によってA方向に回転すると、操作部9の回転軸線L方向の高さHが低くなる。なお、六角凹部9aは六角に限定されるものではない。
【0023】
また、操作部9は、弾性部材5を介してインナープレート13と回転軸線L方向に対向する位置、かつ、回転軸線L方向に垂直な断面で弾性部材5と接触する位置に配置されている。そのため、回転操作によって操作部9がA方向に回転すると、操作部9の回転軸線L方向の高さHが低くなり、高さHの変動分だけ弾性部材5が操作部9に向かって延伸し、弾性復元力が低減される。換言すれば、操作部9は、弾性部材5を収容する収容部Sの長さを延伸する機能を有する。
【0024】
これにより、ブレーキトルクが低下して、人の力によって被制動部材と制動部材とを摺動させることができる。換言すれば、無励磁作動型電磁ブレーキ10のブレーキ作動状態を手動で開放することができる。
【0025】
なお、操作部9は、卵型形状に限定されず、手動操作によって回転軸線L方向の高さHが変化する形状(例えば、直方体形状)であればよい。また、操作部9は、回転操作可能な構成に限定されず、弾性部材5の弾性復元力が作用する方向と交差する方向に操作可能な構成であってもよい。例えば、操作部9は高さHが異なる階段形状を有し、弾性部材5の弾性復元力が作用する方向と交差する方向に操作することで、高さHが低くなり、弾性部材5が操作部9に向かって延伸して、ブレーキトルクが低下する構成であってもよい。この場合、操作部9は、弾性部材5を収容する収容部Sの長さを複数段階に変更可能である。
【0026】
図5は、本発明の実施形態に係る無励磁作動型電磁ブレーキの操作部の回転角度に対するブレーキトルクの大きさを示すグラフである。横軸に操作部9のA方向への回転角度θ(図4を参照)を示し、縦軸にブレーキトルクTの大きさを示す。図5に示すように、回転角度θが大きくなるにしたがって、ブレーキトルクTは小さくなる。具体的には、回転角度θが0°(操作部9の回転操作前の状態)における、弾性部材5の自然長からの収縮長さをx、ブレーキトルクTの大きさをTとして、回転角度θが0°から90°まで操作部9を回転操作したときの、弾性部材5の収縮長さxの変化率(収縮長さxに対する弾性部材5の伸びた長さの割合)を25%、ブレーキトルクTの大きさの変化量をΔTとすると、ΔTはTの約25%となる。つまり、ブレーキトルクTの大きさを約25%低減することができる。このように、無励磁作動型電磁ブレーキ10の手動開放後の制動力を変化させることが可能となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の無励磁作動型電磁ブレーキ10は、ブレーキ状態を容易に手動開放できるブレーキ手動解除構造を備える。これにより、人の力によって被制動部材と制動部材とを摺動させることができる。
したがって、人の動作をアシストするまたは介護用のモータに用いられる無励磁作動型電磁ブレーキが非常時に作動しても、装置を装着している人や周囲の人がブレーキ状態を容易に手動開放できることができる。また、ブレーキ開放後、人の力で装置を動かせる程度のブレーキ制動にすることで、装置を安全な状態に移動できる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。例えば、上述した実施形態では、摩擦部材4がモータの回転軸部2とともに回転する構成を示したが、アウタープレート12、および、インナープレート13に摩擦部材4が設けられる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1:ハウジング
2:回転軸部
3:ハブ
3M:本体部
3F:フランジ部
4:摩擦部材
5:弾性部材
6:電磁石
9:操作部
9a:六角凹部10:無励磁作動型電磁ブレーキ
12:アウタープレート
13:インナープレート
14:ヨーク
41:板状部
42:摩擦部100:介護装置
100A:アーム
S:収容部
W:窓
図1
図2
図3
図4
図5