(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004292
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】油圧ブレーキの制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 17/02 20060101AFI20250107BHJP
B60T 8/36 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B60T17/02
B60T8/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103879
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】百武 哲也
(72)【発明者】
【氏名】水野 浩明
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D049BB10
3D049BB21
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH20
3D049HH43
3D049QQ06
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA09
3D246GA10
3D246HC05
3D246JB43
3D246LA15Z
3D246LA33Z
3D246LA52Z
3D246LA59Z
(57)【要約】
【課題】より効果的に制振可能な油圧ブレーキの制御方法を提供する。
【解決手段】油圧ブレーキシステム10、ブレーキフルードをブレーキシュー22に供給する油圧ポンプ48と、前記油圧ポンプ48とマスタブレーキシリンダ16との接続状態を切り替える1以上の切替弁36,38と、を有しており、当該油圧ブレーキ装置の制御方法は、非制動期間において、前記油圧ポンプ48が前記マスタシリンダ16に連通するように前記1以上の切替弁36,38を開閉する連通ステップと、前記連通ステップの後に、前記油圧ポンプ48を一時的に駆動するポンプ駆動ステップと、前記ポンプ駆動ステップの後、前記切替弁36,38を開閉して元の状態に戻す回復ステップと、を2回以上、繰り返すことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキフルードをブレーキシューに供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプとマスタシリンダとの接続状態を切り替える1以上の切替弁と、を有する油圧ブレーキシステムの制御方法であって、
非制動期間において、
前記油圧ポンプが前記マスタシリンダに連通するように前記1以上の切替弁を開閉する連通ステップと、
前記連通ステップの後に、前記油圧ポンプを一時的に駆動するポンプ駆動ステップと、
前記ポンプ駆動ステップの後、前記切替弁を開閉して元の状態に戻す回復ステップと、
を2回以上、繰り返すことを特徴とする油圧ブレーキの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、油圧によりブレーキシューを作動させて制動力を発揮する油圧ブレーキの制御方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両等に搭載される油圧ブレーキが広く知られている。油圧ブレーキは、液圧回路に設けられた油圧ポンプを作動させて、ブレーキシューに油圧を伝達する。そして、油圧を受けてブレーキシューが作動することで制動力が発生する。
【0003】
ここで、こうした油圧ブレーキでは、ブレーキフルードの脈動に伴う振動や音が発生する。このような振動や発音は、運転者をはじめとする乗員に対して不快感を与えかねないという問題がある。
【0004】
特許文献1には、油圧ブレーキの振動や音を抑制するために、所定の条件を満たす場合に、ブレーキフルードを気液分離させる気液分離制御を行う技術が開示されている。気液分離制御においては、油圧ポンプの上流側に位置するバルブを閉状態としつつ、油圧ポンプを作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、十分な制振効果が得られなかった。また、特許文献1の技術の場合、気液分離された空気量が大きいと、ブレーキ制動効果が減少するという別の問題を招くおそれがあった。
【0007】
そこで、本明細書では、より効果的に制振可能な油圧ブレーキの制御方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する油圧ブレーキの制御方法は、ブレーキフルードをブレーキシューに供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプとマスタシリンダとの接続状態を切り替える1以上の切替弁と、を有する油圧ブレーキ装置の制御方法であって、非制動期間において、前記油圧ポンプが前記マスタシリンダに連通するように前記1以上の切替弁を開閉する連通ステップと、前記連通ステップの後に、前記油圧ポンプを一時的に駆動するポンプ駆動ステップと、前記ポンプ駆動ステップの後、前記切替弁を開閉して元の状態に戻す回復ステップと、を2回以上、繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
切替弁の開閉と、油圧ポンプの一時駆動と、を繰り返すことで、ブレーキフルードに気泡が発生する。そして、この気泡により、ブレーキフルードの脈動が抑制され、ひいては、車両の振動が効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】油圧ブレーキシステムの構成を示す図である。
【
図2】制振処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して油圧ブレーキシステム10の構成について説明する。
図1は、油圧ブレーキシステム10の構成を示す図である。この油圧ブレーキシステム10は、四輪車両に搭載される。油圧ブレーキシステム10は、ブレーキペダル18と、液圧回路12f,12rと、ブレーキシュー22と、を含む。ユーザは、ブレーキを作動したい場合、ブレーキペダル18を踏み込む。ブレーキペダル18の踏み込み力は、増幅装置20で増幅される。なお、増幅装置20は、マスタブレーキシリンダ16と、ブレーキ液容器14と、を含む。
【0012】
ブレーキシュー22は、四つの車輪100それぞれに対応して設けられている。ブレーキシュー22は、油圧を受けて、車輪100の一部に密着する。そして、これにより、車輪100の回転が抑制され、制動力が発生する。
【0013】
液圧回路12f,12rは、マスタブレーキシリンダ16とブレーキシュー22との間に配置される回路である。本例では、液圧回路12fは、前輪用であり、液圧回路12rは、後輪用である。二つの液圧回路12f,12rは、ほぼ同じ構成であるため、以下では、添え字f,rをとり、「液圧回路12」と呼び、説明する。
【0014】
液圧回路12は、ブレーキペダル18の操作に連動してブレーキシュー22に油圧を伝達するフットブレーキ液圧系統と、ブレーキペダル18の操作によらずブレーキシュー22に油圧を伝達する非フットブレーキ液圧系統と、を含む。フットブレーキ液圧系統は、マスタブレーキシリンダ16に接続された上流第一流路24と、上流第一流路24から分岐した下流第一流路28および下流第二流路30と、で構成される。下流第一流路28は、右側車輪100Rのブレーキシュー22に接続され、下流第二流路30は、左側車輪100Lのブレーキシュー22に接続される。上流第一流路24には、第一切替弁36が配置されている。ブレーキペダル18の操作に連動して制動する場合、第一切替弁36を開放、かつ、後述する第二切替弁38を閉鎖する。これにより、ブレーキペダル18の操作に応じた制動力を車輪100に対して作用させることができる。
【0015】
非フットブレーキ液圧系統は、上流第一流路24と並列接続された上流第二流路26と、下流第一流路28および下流第二流路30と、油圧ポンプ48と、で構成される。上流第二流路26の下流端は、油圧ポンプ48の吸い込み口に接続されている。また、油圧ポンプ48の吐出口は、中継流路56を介して、上流第一流路24に合流している。この合流点は、第一切替弁36より下流側である。第一切替弁36を閉鎖、かつ、第二切替弁38を開放した状態で、油圧ポンプ48を駆動することで、ブレーキペダル18の操作によらず、ブレーキシュー22に油圧が伝達される。
【0016】
下流第一流路28および下流第二流路30には、油圧の伝達する車輪100を切り替え可能な第一入口弁40および第二入口弁42が設けられている。また、上流第二流路26には、逆止弁44を介して、リザーバ46が接続されている。このリザーバ46は、さらに、分岐流路34を介して下流第一流路28および下流第二流路30に接続されている。分岐流路34には、下流第一流路28および下流第二流路30と、リザーバ46と、の連通を切り替える第一出口弁52および第二出口弁54が接続されている。ブレーキシュー22に作用する液圧(ブレーキ圧力)は、第一入口弁40および第二入口弁42が備えている圧力保持機能と、第一出口弁52および第二出口弁54が備えている圧力低下機能との相互作用により適正な圧力に調節される。
【0017】
コントローラ60は、上述した油圧ポンプ48や各種弁36,38,40,42,52,54の駆動を制御する。かかるコントローラ60は、物理的には、プロセッサとメモリとを有するコンピュータである。
【0018】
ところで、こうした油圧ブレーキシステム10では、油圧の脈動等に起因して、振動や音が発生することがある。このような振動や発音は、運転者をはじめとする乗員に対して不快感を与える。そこで、本例では、ブレーキを作動させない非制動期間中に、脈動を抑制するための制振処理を実行する。以下、この制振処理について詳説する。
【0019】
図2は、制振処理の流れを示すフローチャートである。制振処理では、切替弁36,38の開閉と、油圧ポンプ48の一時的な駆動と、を複数回繰り返し、これにより、液圧回路12に流れるブレーキフルード中の気泡を増加させる。気泡が増加することで、当該気泡が一種のダンパのように作用し、液圧回路12を構成する配管の振動が抑制される。そして、配管の振動が抑制されることで、車体に伝達される振動や発音も低減される。
【0020】
より具体的に説明すると、制振処理を行う場合、コントローラ60は、まず、カウンタ(図示せず)をリセットしたうえで、現在、ブレーキ作動中か否か、すなわち、制動中か否かを判断する(S12)。制動中の場合、当該制振処理は、実行されない。一方、制動中でない場合、コントローラ60は、第一切替弁36を閉鎖し、第二切替弁38を開放する(S14)。すなわち、油圧ポンプ48をマスタブレーキシリンダ16に連通させ、非フットブレーキ液圧系統を選択する。
【0021】
そして、コントローラ60は、この状態で、油圧ポンプ48を一時的に駆動させる(S18,20)。このときの油圧ポンプ48の駆動量は、車両の走行状態によって切り替える。具体的には、車両が走行中の場合(S16でYes)、コントローラ60は、ブレーキシュー22が作動しない程度で、油圧ポンプ48の作動を停止する(S18)。一方、車両が停車している場合(S16でNo)、コントローラ60は、ブレーキシュー22が作動するまで、油圧ポンプ48を駆動し、その後、油圧ポンプ48を停止させる(S20)。
【0022】
油圧ポンプ48の駆動が停止すれば、コントローラ60は、第二切替弁38を閉鎖し、第一切替弁36を開放する(S22)。すなわち、切替弁36,38を元の状態に戻す。これにより、ブレーキシュー22への油圧が解除される。
【0023】
その後、コントローラ60は、カウンタをインクリメントするとともに、このカウント値が所定の基準数に達したか否かを確認する(S24,S26)。基準数に達しない場合、ステップS14に戻り、再度、切替弁36,38の開閉と、油圧ポンプ48の一時駆動と、を繰り返す。なお、基準数は、特に限定されないが、例えば、5~500の間で選択可能である。また、基準数は、固定値に限らず、種々の条件に応じて変化する可変値でもよい。例えば、基準数は、外気温や走行状況等によって変化してもよい。
【0024】
いずれにしても、切替弁36,38の開閉、油圧ポンプ48の一時駆動を繰り返し行うことで、ブレーキフルードに気泡が効果的に発生する。そして、気泡が発生することで、配管の振動、ひいては車体の振動や騒音が効果的に抑制される。
【0025】
ステップS12~S24の処理を、基準数繰り返した場合(S26でYes)、コントローラ60は、タイマー(図示せず)をリセットしたうえで(S28)、経過時間の計測を開始する。計測の結果、規定の待機時間が経過すれば、ステップS10に戻り、再度、同様の処理を繰り返す。
【0026】
このように、待機時間経過後に、同様の処理を実行するのは、一定以上の気泡を維持するためである。すなわち、ステップS10~S26の処理により、ブレーキフルードに十分な気泡が発生したとしても、当該気泡は、時間の経過とともに消失する。そして、気泡の多くが消失すると、上述した制振効果が低下する。そこで、本例では、十分に気泡を発生させた後、所定の待機時間が経過した場合には、再度、気泡の発生処理、すなわち、ステップS10~S26の処理を実行する。これにより、制動に起因する振動の発生を、常に、効果的に防止できる。
【0027】
なお、待機時間は、特に限定されないが、例えば、3~30分の範囲で選択されてもよい。また、待機時間は、固定値でもよいし、条件によって変化する可変値でもよい。例えば、待機時間は、外気温や走行状態等によって、変更してもよい。
【0028】
いずれにしても、本明細書で開示する油圧ブレーキシステム10によれば、ブレーキフルードに気泡を発生させるため、振動や騒音を効果的に抑制できる。なお、上述した構成は、一例であり、請求項1に記載の構成を具備するのであれば、適宜、変更されてもよい。例えば、切替弁第36,38の開閉回数は、2回以上であれば、適宜、変更されてもよい。また、車両の走行中は、油圧ポンプ48を駆動せず、切替弁第36,38の開閉だけ行ってもよい。すなわち、
図2において、ステップS16でNoの場合、ステップS18を実行することなく、ステップS22に進んでもよい。この場合でも、切替弁36,38の開閉に伴い、気泡が発生する。
【符号の説明】
【0029】
10 油圧ブレーキシステム、12 液圧回路、14 ブレーキ液容器、16 マスタブレーキシリンダ、18 ブレーキペダル、20 増幅装置、22 ブレーキシュー、24 上流第一流路、26 上流第二流路、28 下流第一流路、30 下流第二流路、34 分岐流路、36 第一切替弁、38 第二切替弁、40 第一入口弁、42 第二入口弁、44 逆止弁、46 リザーバ、48 油圧ポンプ、52 第一出口弁、54 第二出口弁、56 中継流路、60 コントローラ、100 車輪。