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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042947
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】静止誘導機器、コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/30 20060101AFI20250321BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20250321BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20250321BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
H01F27/30 160
H01F27/28 M
H01F30/10 C
H01F30/10 J
H01F5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150166
(22)【出願日】2023-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】逵村 祐介
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AA07
5E043FA04
(57)【要約】
【課題】巻膨れを抑制して小型化できるとともに低損失化を図ることができる静止誘導機器、コイルを提供する。
【解決手段】実施形態による静止誘導機器1の内周側コイル4は、軸方向から見た状態において、内周側または外周側が平坦であって脚部2cを挟んで対向配置されている長手側平坦部10と、脚部2cを挟んで対向配置されている短手側平坦部11と、長手側平坦部10と短手側平坦部11との間を接続する複数の角部12とを有している。そして、少なくとも1つの角部12は、長手側平坦部10に沿った向きを垂直方向とし、短手側平坦部11に沿った向きを水平方向とすると、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離と、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離とが異なる異形状に形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、
導体を巻回して全体として環状に形成されていて、前記鉄心に装着されるコイルと、を備え、
前記コイルは、前記鉄心に沿った軸方向から見た状態において、内周側または外周側が平坦であって前記脚部を挟んで対向配置されている長手側平坦部と、前記脚部を挟んで対向配置されている短手側平坦部と、前記長手側平坦部と前記短手側平坦部との間を接続する複数の角部と、を有しており、
少なくとも1つの前記角部は、前記長手側平坦部に沿った向きを垂直方向とし、前記短手側平坦部に沿った向きを水平方向とすると、前記長手側平坦部から前記短手側平坦部の端部までの水平距離と、前記長手側平坦部の端部から前記短手側平坦部までの垂直距離とが異なる異形状に形成されている静止誘導機器。
【請求項2】
前記コイルは、同心状の内周側に配置されている内周側コイルと、前記内周側コイルの外周側に配置されている外周側コイルとを有しており、
前記内周側コイルは、前記角部の外周側が異形状に形成されており、
前記外周側コイルは、前記角部の内周側が異形状に形成されている請求項1記載の静止誘導機器。
【請求項3】
前記外周側コイルは、モールドコイルである請求項2記載の静止誘導機器。
【請求項4】
前記内周側コイルは、仕様に応じて外形が異なる一方、
前記外周側コイルは、外形が異なる前記内周側コイルを配置可能な大きさに形成されている請求項2または3記載の静止誘導機器。
【請求項5】
前記角部は、1つ以上の平面状、1つ以上の曲面状、あるいは、1つ以上の平面状と1つ以上の曲面状との組み合わせによって、異形状に形成されている請求項1記載の静止誘導器。
【請求項6】
前記内周側コイルと前記外周側コイルとの間に配置されるクッション材を備える請求項1記載の静止誘導器。
【請求項7】
静止誘導機器の鉄心に装着されるコイルであって、
前記鉄心に沿った軸方向から見た状態において、内周側または外周側が平坦であって前記脚部を挟んで対向配置されている長手側平坦部と、前記脚部を挟んで対向配置されている短手側平坦部と、前記長手側平坦部と前記短手側平坦部との間を接続している複数の角部と、を有する全体として環状に形成されていて、
少なくとも1つの前記角部が、前記長手側平坦部に沿った向きを垂直方向とし、前記短手側平坦部に沿った向きを水平方向とすると、前記長手側平坦部から前記短手側平坦部の端部までの水平距離と、前記長手側平坦部の端部から前記短手側平坦部までの垂直距離とが異なる異形状に形成されているコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静止誘導機器、コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
静止誘導機器は、例えば特許文献1のように、鉄心と、その鉄心の脚部に装着されるコイルとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-332235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来構成の場合、小型化し難いという問題があった。例えば、静止誘導機器のコイルは導体を巻回して環状に形成されているものの、その導体は、大容量化するためには厚みを増す必要がある。その場合、角部の曲げ半径を小さくしてしまうと導体が密着しない状態で巻回され、いわゆる巻膨れの状態になってしまう。そのため、従来では、曲げ半径を大きくすることによって導体を密着させており、コイルの外形の大型化を招いていた。また、コイルが大型化することにより周長が長くなり、損失の増加を招いていた。
【0005】
そこで、巻膨れを抑制して小型化できるとともに低損失化を図ることができる静止誘導機器、コイルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による静止誘導機器は、鉄心と、導体を巻回して全体として環状に形成されていて、鉄心に装着されるコイルとを備え、コイルは、鉄心に沿った軸方向から見た状態において、内周側または外周側が平坦であって脚部を挟んで対向配置されている長手側平坦部と、脚部を挟んで対向配置されている短手側平坦部と、長手側平坦部と短手側平坦部との間を接続する複数の角部とを有しており、少なくとも1つの角部は、長手側平坦部に沿った向きを垂直方向とし、短手側平坦部に沿った向きを水平方向とすると、長手側平坦部から短手側平坦部の端部までの水平距離と、長手側平坦部の端部から短手側平坦部までの垂直距離とが異なる異形状に形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態による静止誘導機器の構成例を模式的に示す図
図2】内周側コイルの構成例を模式的に示す図
図3】外周側コイルの構成例を模式的に示す図
図4】内周側コイルと従来型コイルとの違いを説明する図
図5】外周側コイルと従来型モールドコイルとの違いを説明する図
図6】外周側コイルの寸法例を模式的に示す図
図7】内周側コイルの他の構成例を模式的に示す図
図8】従来構成との配置態様の違いを説明する図
図9】クッション材を設けた構成例を模式的に示す図
図10】外周側コイルの他の構成例を模式的に示す図
図11】内周側コイルと外周側コイルとの配置態様を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に正面視として示すように、静止誘導機器1は、鉄心2と、鉄心2に装着されたコイル3とを備えている。なお、本実施形態では静止誘導機器1としていわゆるモールド変圧器を想定しているが、説明の簡略化のために、図1では鉄心2やコイル3を支えるための構造物等の図示は省略している。以下、図1の正面視における図示上下の向きを高さ方向とも称し、図示左右の向きを幅方向とも称し、平面視における図示上下の向きを奥行方向とも称して説明する。
【0009】
鉄心2は、環状に形成されていて幅方向に隣り合って配置されている2つの副鉄心2aと、副鉄心2aの外周側に配置されている主鉄心2bとによって構成されている。これら副鉄心2aおよび主鉄心2bは、帯状に形成された例えばケイ素鋼板やアモルファス合金などを巻回することによって形成されている。また、鉄心2は、いわゆる3脚構造のものであり、それぞれの脚部2cにコイル3が装着されている。ただし、ここで示した鉄心2の構成は一例であり、脚部の数が異なっていたり、外形が異なっていたりするものであってもよい。以下、鉄心2の脚部2cに沿った向きを軸方向と称する。
【0010】
各コイル3は、平面視にて示すように、脚部2cを中心とした同心状に配置されていて、内周側に配置されている内周側コイル4と、外周側に配置されている外周側コイル5とにより構成されている。本実施形態の場合、内周側コイル4が相対的に低電圧側の低圧コイルとなり、外周側コイル5が相対的に高電圧側の高圧コイルとなっている。
【0011】
内周側コイル4は、シート状導体を巻回することにより、図2に示すように平面視において全体として概ね環状に形成されている。より具体的には、内周側コイル4は、内周側または外周側が平坦になっていて脚部2cを挟んで対向配置されている2つの長手側平坦部10と、内周側または外周側が平坦になっていて脚部2cを挟んで対向配置されている2つの短手側平坦部11と、長手側平坦部10の端部と短手側平坦部11の端部との間を接続している4つの角部12A、角部12B、角部12Cおよび角部12Dとを有する概ね矩形筒状に形成されている。
【0012】
この内周側コイル4は、本実施形態では左右対称となる形状に形成されており、中央の空間に脚部2cが通される。さらに、内周側コイル4は、短手側平坦部11のシート状導体間に隙間が設けられている。なお、短手側平坦部11も、シート状導体の厚みの合計はD10となっている。
【0013】
本実施形態の場合、図示上方側の短手側平坦部11には1つの隙間が設けられており、図示下方側の短手側平坦部11には2つの隙間が設けられている。また、短手側平坦部11と脚部2cとの間にも隙間が形成されている。これらの隙間は、内周側コイル4を軸方向に貫通しており、空気などの冷媒が流れる流路としても機能する。また、本実施形態では内周側または外周側のいずれか一方が平坦となっている部位を平坦部としているが、外周側および内周側が共に平坦になっている部位を平坦部としてもよいし、平坦な部位の長さが外周側と内周側とで異なる場合には、以下に説明する水平距離や垂直距離の基準となる位置を外周側と内周側とで異ならせることもできる。
【0014】
これらの角部12は、長手側平坦部10に沿った図示上下への向きを垂直方向とし、短手側平坦部11に沿った図示左右への向きを水平方向とすると、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離と、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離とが異なる異形状に形成されている。以下、角部12の形状について説明するが、内周側コイル4は左右対称に形成されているため、角部12Cは角部12Aを左右反転した形状であり、角部12Dは角部12Bを左右反転した形状であることから、角部12Cと角部12Dについては詳細な説明は省略する。
【0015】
角部12Aは、その外周側において、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離(Y10)よりも、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離(X10)のほうが長くなる異形状に形成されている。また、角部12Aは、その内周側において、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離(Y11)よりも、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離(X11)のほうが長くなる異形状に形成されている。また、角部12Aと左右対称になっている角部12Cも同様の形状に形成されている。
【0016】
一方、角部12Bは、その外周側において、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離(Y12)よりも、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離(X12)のほうが長くなる異形状に形成されている。また、角部12Bは、その内周側において、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離(Y13)よりも、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離(X13)のほうが長くなる異形状に形成されている。また、角部12Bと左右対称になっている角部12Dも同様の形状に形成されている。
【0017】
つまり、内周側コイル4の角部12は、少なくとも外周側が異形状に形成されているとともに、本実施形態では内周側も異形状に形成されている。また、本実施形態の場合、各角部12の外周側は、長手側平坦部10に近い側が曲面状に形成され、短手側平坦部11に近い側が平面状に形成されており、内周側は、長手側平坦部10から短手側平坦部11までが概ね平面状に形成されている。ただし、ここで示した角部12の形状は一例であり、他の形状とすることができる。
【0018】
一方、外周側コイル5は、図3に示すように、平面視において全体として概ね環状に形成されている。本実施形態の場合、外周側コイル5は、環状に形成した導体を軸方向に積層して樹脂材料でモールドし、全体として概ね矩形筒状に形成されていたいわゆるモールドコイルである。外周側コイル5は、内周側または外周側が平坦になっていて脚部2cを挟んで対向配置されている2つの長手側平坦部20と、内周側または外周側が平坦になっていて脚部2cを挟んで対向配置されている2つの短手側平坦部21と、長手側平坦部20の端部と短手側平坦部21の端部との間を接続している4つの角部22A、角部22B、角部22Cおよび角部22Dとを有しており、左右対称となる形状に形成されている。
【0019】
長手側平坦部20は、その厚みがD20となるようにモールドされている。そして、長手側平坦部20に沿った図示上下への向きを垂直方向とし、短手側平坦部21に沿った図示左右への向きを水平方向とすると、角部22Aは、その外周側において、長手側平坦部20の端部から短手側平坦部21までの垂直距離(Y20)よりも、長手側平坦部20から短手側平坦部21の端部までの水平距離(X20)のほうが長くなる異形状に形成されている。また、角部22Aは、その内周側において、長手側平坦部20の端部から短手側平坦部21までの垂直距離(Y21)よりも、長手側平坦部20から短手側平坦部21の端部までの水平距離(X21)のほうが短くなる異形状に形成されている。つまり、外周側コイル5の角部22Aは、内周側および外周側の双方が異形状に形成されている。また、角部22Aと左右対称になっている角部22Cも同様の形状に形成されている。
【0020】
一方、角部22Bは、その内周側において、長手側平坦部20の端部から短手側平坦部21までの垂直距離(Y22)よりも、長手側平坦部20から短手側平坦部21の端部までの水平距離(X22)のほうが概ね同等ではあるが若干長くなる異形状に形成されている。また、角部22Bは、図1に示す一次端子やタップ端子などの端子6を備え、その内部に環状導体と接続されている図示しないリード線が埋設されている外部接続部7に繋がっている。そのため、角部22Bの外周側は、長手側平坦部20の端部から短手側平坦部21までの垂直距離(Y23)のほうが、長手側平坦部20から短手側平坦部21の端部までの水平距離(X23)よりも長くなる異形状に形成されている。なお、角部22Bと左右対称となっている角部22Dも同様の形状に形成されている。
【0021】
つまり、外周側コイル5の角部22は、内周側および外周側の双方が異形状に形成されている。また、外周側コイル5の角部22Aおよび角部22Cは、外周側においては、長手側平坦部20に近い側と短手側平坦部21に近い側とがそれぞれ平面状に形成され、それら2つの平面状の部位が繋がった形状に形成されていて、内周側においても、長手側平坦部20に近い側と短手側平坦部21に近い側とがそれぞれ平面状に形成されていて、それら2つの平面状の部位が繋がった形状に形成されている。また、外周側コイル5の角部22Bおよび角部22Dは、外周側および内周側の双方において、長手側平坦部20に近い側と短手側平坦部21に近い側とがそれぞれ平面状に形成されていて、それら2つの平面状の部位が繋がった形状に形成されている。ただし、ここで示した角部22の形状は一例であり、曲面状の部位を含むなど他の形状とすることができる。
【0022】
次に、上記した構成の作用および効果について説明する。
図4に示すように、比較例としての従来型コイル104は、導体を巻回して環状に形成されているものの、大容量化のためには厚みを増す必要がある。ただし、導体の巻回する際に角部112の曲げ半径を小さくしてしまうと導体間に隙間が生じたり導体が撓んだりすることにより、導体が密着しない状態で巻回される巻膨れの状態となるおそれがある。そして、従来では巻膨れを防止するために曲げ半径を大きくしており、その結果、外形の大型化を招くとともに、環状部分における導体1周分の長さである周長が長くなって損失の増加を招いていた。
【0023】
これに対して、対比例として示すように、内周側コイル4の場合には、角部12を異形状にしたことにより、曲げ半径を大きくしなくても導体を密着させることが可能となる。また、短手側平坦部11に導体間の隙間を形成したことにより、巻膨れをより一層抑制することが可能となる。そして、角部12を異形状としたことにより、従来型コイル104と比べて外形を小さくすることができるとともに、周長が短くなることから損失を抑制することができる。
【0024】
また、図5に示すように、比較例としての従来型モールドコイル105は、従来型コイル104の外形に合わせて一定の曲率となる角部22を設けているため外形の大型化を招いていた。これに対して、対比例として示すように、対比例として示すように、外周側コイル5の場合には、内周側コイル4の形状に合わせて角部22を異形状にしたことにより、従来型モールドコイル105と比べて外形を小さくすることができる。また、外部接続部7が設けられている角部22Bおよび角部22D側においても、外部接続部7として必要な大きさを確保しつつ外形を小型化することが可能となっている。
【0025】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
静止誘導機器1は、鉄心2と、導体を巻回して全体として環状に形成されていて、鉄心2に装着されるコイル3と、を備えている。コイル3は、内周側コイル4の場合には、軸方向から見た状態において、内周側または外周側が平坦であって脚部2cを挟んで対向配置されている長手側平坦部10と、脚部2cを挟んで対向配置されている短手側平坦部11と、長手側平坦部10と短手側平坦部11との間を接続する複数の角部12とを有している。そして、少なくとも1つの角部12は、長手側平坦部10に沿った向きを垂直方向とし、短手側平坦部11に沿った向きを水平方向とすると、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離と、長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離とが異なる異形状に形成されている。
【0026】
このような構成とすることにより、導体の曲げ半径を大きくしなくても巻膨れを抑制することが可能となり、小型化することができるとともに、周長を短くすることが可能なことから低損失化を図ることができる。また、共通する主旨で形成された外周側コイル5についても同様の効果を得ることができる。
【0027】
また、軸方向から見た状態において、内周側または外周側が平坦であって脚部2cを挟んで対向配置されている長手側平坦部10と、脚部2cを挟んで対向配置されている短手側平坦部11と、長手側平坦部10と短手側平坦部11との間を接続している複数の角部12と、を有する全体として環状に形成されていて、少なくとも1つの角部12が、長手側平坦部10から短手側平坦部11の端部までの水平距離と長手側平坦部10の端部から短手側平坦部11までの垂直距離とが異なる異形状に形成されているコイル3によっても、上記した静止誘導機器1と同様の効果を得ることができる。また、内周側コイル4あるいは外周側コイル5を単体で見た場合であっても、また、それらを同心状に配置した場合であっても同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、静止誘導機器1では、コイル3は、同心状の内周側に配置されている内周側コイル4と、内周側コイル4の外周側に配置されている外周側コイル5とを有しており、内周側コイル4は、角部12の外周側が異形状に形成されており、外周側コイル5は、角部12の内周側が異形状に形成されている。これにより、内周側コイル4と外周側コイル5とを同心状に配置する場合であっても、コイル3全体として小型化を図ることができる。
【0029】
また、本実施形態のように、角部12や角部22の内周側および外周側の双方を異形状とすることにより、周長をさらに短くすることが可能となり、損失をさらに抑制することができる。また、角部12あるいは角部22を1つ以上の平面状、1つ以上の曲面状、あるいは、1つ以上の平面状と1つ以上の曲面状との組み合わせによって異形状に形成したことにより、コイル3の外縁や内縁あるいは全体の形状設計の自由度を向上させることができる。
【0030】
さて、図6に外周側コイル5の寸法例を示すように、角部22A、角部22B、角部22C、角部22Dの内周面側は、2つの平面状の部位が組み合わされている。図6の場合、角部22Cの内周面は、長手側平坦部20側の内周面22Caと、短手側平坦部21側の内周面22Cbとの組み合わせによって構成されている。また、角部22Dの内周面は、長手側平坦部20側の内周面22Daと、短手側平坦部21側の内周面22Dbとの組み合わせによって構成されている。なお、角部22Aは角部22Cの左右対称の形状となっており、角部22Bは角部22Dの左右対称の形状となっている。
【0031】
また、角部22Cにおいて長手側平坦部20と内周面22Caとの交点をPC1とし、内周面22Caと内周面22Cbとの交点をPC2とし、内周面22Cbと短手側平坦部21との交点をPC3とすると、平面視における交点PC1と交点PC2との垂直距離(ΔL1)を、交点PC1と交点PC2との垂直距離(ΔL2)よりも短く形成することができる。また、交点PC1と交点PC2との水平距離(ΔL3)を、交点PC1と交点PC2との水平距離(ΔL4)よりも短くなる形状に形成することができる。また、内周面22Caの幅(LCa)を、内周面22Cbの幅(LCb)よりも短く形成することができる。
【0032】
また、角部22Dにおいて長手側平坦部20と内周面22Daとの交点をPD1とし、内周面22Daと内周面22Dbとの交点をPD2とし、内周面22Dbと短手側平坦部21との交点をPD3とすると、平面視における交点PD1と交点PD2との垂直距離(ΔL11)を、交点PD1と交点PD2との垂直距離(ΔL12)よりも短く形成することができる。また、交点PD1と交点PD2との水平距離(ΔL13)を、交点PD1と交点PD2との水平距離(ΔL14)よりも短くなる形状に形成することができる。また、内周面22Daの幅(LDa)を、内周面22Dbの幅(LDb)よりも短く形成することができる。
【0033】
このような形状であっても、図示上方側においては、短手側平坦部21とその内周側に配置される内周側コイル4との間に余裕を持たせることができ、後述する図7に示すように、中間口出しを備えることにより、角部の位置はそれほど変化しないものの、図示上方向に長くなっている内周側コイル4Aに対しても、同一形状の外周側コイル5を用いることができる。つまり、内周面の垂直距離を異ならせることにより、内周側コイル4との間の寸法を最適化することが可能となっている。また、図示下方側においては、内周側コイル4の外形に沿った異形状となり、過度な隙間が存在しないことから、静止誘導機器1を全体として小型化、軽量化することができる。
【0034】
また、本実施形態では、内周面22Caおよび内周面22Daを平面状に形成し、内周側コイル4の角部の頂点と平行となるようにしている。さらに、内周面22Caの幅(LCa)および内周面22Daの幅(LDa)は、後述するクッション材8を配置可能な長さに設定されている。なお、図6に示す寸法例は一例であり、これに限定されない。例えば、角部が全体として異形状になっていれば、内周面22Caの幅(LCa)および内周面22Daの幅(LDa)は一致する構成などとすることができる。
【0035】
さて、本実施形態の外周側コイル5は、上記したようにモールドコイルである。このようなモールドコイルは、導体を金型内に配置し、金型内に例えばエポキシ樹脂などのモールド材を充填することによって形成されているため、モールドコイルの外形は金型によって決まることになる。
【0036】
内周側コイル4と外周側コイル5とを有する静止誘導機器1の場合、内周側コイル4の外形が仕様に応じて異なることが想定される。具体的には、図7に一例として示すように、内周側コイル4は、図示上方側の短手側平坦部11に中間口出し用の隙間が設けられている。この隙間はシート状導体間に形成されるため、内周側コイル4の奥行(H1)は、中間口出しを設けていない内周側コイル4の奥行(H2)よりも大きくなっている。なお、中間口出しとは、シート状導体の巻き始め端と巻き終わり端との間からいわゆる中間電位を取り出すための端子である。
【0037】
この場合、内周側コイル4の仕様に応じて個別に金型を用意することは、部品点数の増加や作業工程の増加を招くことから、製造管理の面からも費用の面からも望ましくないと考えられる。そこで、本実施形態では、外周側コイル5を、角部22の少なくとも内周側を異形状とするとともに、外形が異なる内周側コイル4を配置可能な大きさに形成している。
【0038】
図8の比較例その1は、内周側コイル4を従来型モールドコイル105に配置した状態を示しており、比較例その2は、内周側コイル4を、内周側コイル4を収容可能な同一形状の従来型モールドコイル105に配置した状態を示している。また、実施例その1は、内周側コイル4を外周側コイル5に配置した状態を示しており、比較例その2は、内周側コイル4を、内周側コイル4を収容可能な同一形状の外周側コイル5に配置した状態を示している。
【0039】
比較例その1の場合、従来型モールドコイル105が異形状ではないことから、四隅において内周側コイル4との間に必要以上に大きなギャップ(G1~G4)が形成されてしまっている。また、比較例その2の場合には、四隅に加えて、図示上方側の短手側平坦部11おいても従来型モールドコイル105との間に必要以上に大きなギャップ(G5)が形成されてしまっている。
【0040】
これに対して、実施例その1の場合、外周側コイル5を異形状にしていることから、内周側コイル4との間には必要なギャップが形成された状態となっているとともに、実施例その2の場合であっても、内周側コイル4と外周側コイル5との間のギャップ(G10)が過度に大きくなることが抑制されている。また、中間口出しを設ける側に必要な大きさを確保する形状としていることから、実施例その1および実施例その2の双方において、図示下方側の領域(R1)に違いは無い。そのため、脚部2cが通る内周側コイル4の中央開口部分の中心線(CL)が互いに一致することになる。
【0041】
これにより、コイル3ひいては静止誘導機器1が大型化することを抑制できるとともに、鉄心2に対する各コイル3の相対的な位置関係が変化しないことから、また、外周側コイル5が同一形状に形成されていることから、内周側コイル4の仕様が異なっている場合であっても支持構造や支持部材の配置あるいは静止誘導機器1の外形を共通化することができ、製造面からも費用面からも非常に好適なものとなる。
【0042】
また、図9に示すように、内周側コイル4と外周側コイル5との間にクッション材8を設ける構成とすることができる。さらに、短手側平坦部11に形成されている各隙間、および、内周側コイル4と脚部2cとの間などにスペーサ9を配置する構成とすることができる。これにより、組み立て時や輸送時あるいは運転時において内周側コイル4と外周側コイル5とが接触したり、内周側コイル4に形成されている隙間がつぶれてしまったりすることを防止できる。なお、図9に示すクッション材8やスペーサ9の配置や数は一例であり、配置や数を変更することができる。
【0043】
また、外部接続部7は、いわゆる高圧側の端子であり、内周側コイル4との間の沿面距離を確保する必要がある。このとき、外部接続部7の近傍にクッション材8を配置してしまうと、クッション材8が存在することにより沿面距離を確保することが厳しくなる。つまり、外部接続部7側における内周側コイル4と外周側コイル5との間は、絶縁性を確保する上での弱点となっており、その部分にクッション材8を配置しない方が望ましい。
【0044】
しかし、従来構成の場合には、図8の比較例その1、その2に示したように、内周側コイル4と外周側コイル5との間は、角部に平坦な部位が存在しないことから、従来構成において角部にクッション材8を配置するためには、クッション材8の形状を工夫したり加工したりする必要があった。
【0045】
これに対して、外周側コイル5は、内周面22Caおよび内周面22Daを平面状に形成し、内周側コイル4の角部の頂点と平行となるようにしていることから、加工等をすることなく角部にクッション材8を配置することができ、外部接続部7の近傍にクッション材8を配置する必要が無くなることから、絶縁性を確保することができるという、技術的に非常に大きな意義を有するものとなる。
【0046】
さらに、内周側コイル4の平坦部は、いわゆるテンションがかかりにくい部位であることから、巻き膨れが発生して寸法のばらつきが角部に比べて相対的に大きくなる可能性がある。また、巻き膨れが発生した場合には平坦部の幅が変化してしまうこと、さらには、短手側に中間口出しを設けることからその部位の寸法変化も大きくなることから、適切な大きさのクッション材8をその都度個別に用意する必要などが出てくる。
【0047】
これに対して、角部は、テンションがかかる部分であり巻き膨れが発生しないため寸法のばらつきが小さいこと、また、巻き膨れが発生しないため強度が強く、さらには、中間口出しを追加しても寸法変化が小さい部位である。そのため、角部にクッション材8を配置可能とした構成は、クッション材8を配置する上で非常に好適なものとなる。
【0048】
さて、ここまでは外周側コイル5をモールドコイルとした構成について説明したが、モールドコイルとしない構成とすることができる。具体的には、図10に示すように、外周側コイル5Aは、帯状の導体を幅方向に所定の厚み(D30)となるように巻回しつつ、軸方向において必要な高さが得られるように積層したいわゆる多重コイルの構成となっている。なお、軸方向に所定の厚みを有する環状の導体を積層して、必要な高さとなるように形成した構成であってもよい。この外周側コイル5Aは、内周側または外周側が平坦になっていて脚部2cを挟んで対向配置されている2つの長手側平坦部30と、内周側または外周側が平坦になっていて客宇2cを挟んで対向配置されている2つの短手側平坦部31と、長手側平坦部30の端部と短手側平坦部31の端部との間を接続している4つの角部32A、角部32B、角部32Cおよび角部32Dとを有しており、左右対称となる形状に形成されている。
【0049】
このとき、角部32Aは、外周側においては垂直距離(Y30)よりも水平距離(X30)のほうが長くなる異形状に形成されており、内周側においては垂直距離(Y31)よりも水平距離(X31)のほうが長くなる異形状に形成されている。また、角部32Aと左右対称になっている角部32Cも同様の形状に形成されている。また、角部32Bは、内周側においては垂直距離(Y32)よりも水平距離(X32)のほうが長くなる異形状に形成されており、外周側においては垂直距離(Y33)のほうが水平距離(X33)よりも長くなる異形状に形成されている。また、角部32Bと左右対称となっている角部32Dも同様の形状に形成されている。
【0050】
このようにモールドコイルではない外周側コイル5Aを用いることによっても、上記した図4で説明した内周側コイル4のように、外周側コイル5Aの小型化を図ることができるとともに周長を短くすることが可能となり損失を抑制することができるなど実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、実施形態では静止誘導機器1としてモールド変圧器を例示したが、図11に配置例1として示す内周側コイル4と外周側コイル5Aとを配置する構成や、配置例2として示す内周側コイル4Aと外周側コイル5Aとを配置する構成とし、油入変圧器のようなモールドされていないコイル3を備えるものを対象とすることができる。このような構成によっても、4隅や外周側コイル5Aとの間において過度に大きなギャップが形成されることを抑制でき、上記した図8の実施例その1、実施例その2で説明したように、コイル3ひいては静止誘導機器1が大型化することを抑制できるとともに、支持構造や支持部材の配置あるいは静止誘導機器1の外形を共通化することができるなどの実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
実施形態では、角部の内周側および外周側の双方を異形状とする構成などを例示したが、例えば内周側コイル4については外周側だけを異形状とし、外周側コイル5については内周側だけを異形状とする構成などとすることができる。すなわち、少なくとも1つの角部が、長手側平坦部から短手側平坦部の端部までの水平距離と、長手側平坦部の端部から短手側平坦部までの垂直距離とが異なる異形状に形成されている構成とすることができる。このような構成によっても小型化や全体の周長を短くすることができるなど、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるとする。
【符号の説明】
【0054】
図面中、1は静止誘導機器、2は鉄心、3はコイル、4は内周側コイル、5は外周側コイル、8はクッション材、10、20、30は長手側平坦部、11、21、31は短手側平坦部、12、22、32は角部を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11