IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

特開2025-42974捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025042974
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20250321BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20250321BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20250321BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250321BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20250321BHJP
   D06P 5/08 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
B41M5/00 134
C09D11/40
C09D11/322
B41M5/00 114
B41J2/01 501
B41J2/01 123
D06P5/30
D06P5/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150215
(22)【出願日】2023-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 舞
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EE17
2C056FB03
2C056FC01
2H186AB03
2H186AB12
2H186AB22
2H186AB23
2H186AB39
2H186AB44
2H186AB47
2H186AB49
2H186AB56
2H186AB57
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB57
4H157BA15
4H157DA01
4H157GA06
4J039AD08
4J039AD10
4J039AE04
4J039AE11
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA41
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】射出安定性と風合いを維持しつつ、湿摩擦堅牢性の高い捺染用オーバーコート液の提供。
【解決手段】捺染用オーバーコート液は、水分散性のシリコーン樹脂と、水とを含む。前記水分散性のシリコーン樹脂の含有量は、前記捺染用オーバーコート液に対して0.01質量%以上15質量%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捺染用オーバーコート液であって、
水分散性のシリコーン樹脂と、水とを含み、
前記水分散性のシリコーン樹脂の含有量は、前記捺染用オーバーコート液に対して0.01質量%以上15質量%未満である、
捺染用オーバーコート液。
【請求項2】
前記水分散性のシリコーン樹脂のガラス転移温度は20℃未満である、
請求項1に記載の捺染用オーバーコート液。
【請求項3】
前記水分散性のシリコーン樹脂は、ラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサンに由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、及びラジカル重合性基を有するウレタン化合物に由来する構造単位とを含む共重合体である、
請求項1に記載の捺染用オーバーコート液。
【請求項4】
前記水分散性のシリコーン樹脂は、アニオン性のシリコーン樹脂である、
請求項1に記載の捺染用オーバーコート液。
【請求項5】
水溶性有機溶剤をさらに含む、
請求項1に記載の捺染用オーバーコート液。
【請求項6】
顔料と、バインダ樹脂と、水と、水溶性有機溶剤とを含むインクジェットインクと、
請求項1~5のいずれか1項に記載の捺染用オーバーコート液と、
を含む、
インクセット。
【請求項7】
前記水分散性のシリコーン樹脂のガラス転移温度は、前記バインダ樹脂のガラス転移温度と同じかそれよりも高く、
前記水分散性のシリコーン樹脂のガラス転移温度と前記バインダ樹脂のガラス転移温度の差は55℃以下である、
請求項6に記載のインクセット。
【請求項8】
布帛上に、顔料と、バインダ樹脂と、水と、水溶性有機溶剤とを含むインクジェットインクを、インクジェット方式で付与する工程と、
前記布帛に付与されたインクジェットインク上に、請求項1~5のいずれか1項に記載の捺染用オーバーコート液を付与する工程と、
を含む、
画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染方法として、近年では、短時間で染色でき、生産効率が高いこと等から、インクジェット法により布帛への画像形成を行う、インクジェット捺染が広く行われている。
【0003】
インクジェット捺染で使用されるインクとしては、染料インクが主流であったが、溶解又は反応しなかった染料を洗い流す洗浄工程等の後処理を省略可能な顔料インクの使用が検討されている。
【0004】
顔料インクは、布帛の表面に顔料粒子を留まらせることで、高い発色性を示す一方、染料インクと比べて顔料粒子の定着性が低く、摩擦堅牢性が劣る傾向がある。そこで、インク中にバインダ樹脂を添加したり、布帛に付与されたインク上にオーバーコート液を付与したりすることで、顔料粒子の定着性を高め、摩擦堅牢性を高める検討がなされている。
【0005】
インクジェット捺染に使用されるオーバーコート液としては、水分散性樹脂と、所定の水溶性有機溶剤と、架橋性成分と、水とを含むオーバーコート液が開示されている。実施例では、水分散性樹脂として、アニオン性のウレタン樹脂が用いられている(特許文献1参照)。この文献では、アニオン性のウレタン樹脂と架橋性成分とが反応して、インク塗膜上に強固な皮膜を形成することで、摩擦堅牢性を高めることができるとされている。
【0006】
また、摩擦堅牢性を高めるために、インクに水溶性のシリコーン樹脂を含有させることや(特許文献2参照)、シリコーン系界面活性剤を含有させることが検討されている。また、前処理液に、水分散性のシリコーン樹脂を含有させることも検討されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-149812号公報
【特許文献2】特開2013-194161号公報
【特許文献3】特開2021-500437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のようなウレタン樹脂を含有するオーバーコート液を用いた場合、加熱によりインク塗膜上に樹脂皮膜を形成しやすい。樹脂皮膜が形成されると、布帛が硬くなりやすく、風合いが損なれやすいという問題があった。
【0009】
また、インクジェット捺染では、特に湿摩擦堅牢性を高めることが望まれている。これに対し、特許文献2のような水溶性のシリコーン樹脂をインクに含有させたり、特許文献3のような水分散性のシリコーン樹脂を前処理液に含有させたりしても、シリコーン樹脂は最表面には存在しにくいため、湿摩擦堅牢性を十分には高めることができなかった。また、シリコーン系界面活性剤をインクに含有させると、粘度上昇や表面張力の低下が生じやすく、射出安定性が低下しやすかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、射出安定性と風合いを維持しつつ、湿摩擦堅牢性の高い捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法に関する。
【0012】
[1] 捺染用オーバーコート液であって、水分散性のシリコーン樹脂と、水とを含み、前記水分散性のシリコーン樹脂の含有量は、前記捺染用オーバーコート液に対して0.01質量%以上15質量%未満である、捺染用オーバーコート液。
[2] 前記水分散性のシリコーン樹脂のガラス転移温度は20℃未満である、[1]に記載の捺染用オーバーコート液。
[3] 前記水分散性のシリコーン樹脂は、ラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサンに由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、及びラジカル重合性基を有するウレタン化合物に由来する構造単位とを含む共重合体である、[1]又は[2]に記載の捺染用オーバーコート液。
[4] 前記水分散性のシリコーン樹脂は、アニオン性のシリコーン樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の捺染用オーバーコート液
[5] 水溶性有機溶剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の捺染用オーバーコート液。
[6] 顔料と、バインダ樹脂と、水と、水溶性有機溶剤とを含むインクジェットインクと、[1]~[5]のいずれかに記載の捺染用オーバーコート液と、
を含む、インクセット。
[7] 前記水分散性のシリコーン樹脂のガラス転移温度は、前記バインダ樹脂のガラス転移温度と同じかそれよりも高く、前記水分散性のシリコーン樹脂のガラス転移温度と前記バインダ樹脂のガラス転移温度の差は55℃以下である、
[6]に記載のインクセット。
[8] 布帛上に、顔料と、バインダ樹脂と、水と、水溶性有機溶剤とを含むインクジェットインクを、インクジェット方式で付与する工程と、前記布帛に付与されたインクジェットインク上に、[1]~[5]のいずれかに記載の捺染用オーバーコート液を付与する工程と、を含む、画像形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、射出安定性と風合いを維持しつつ、湿摩擦堅牢性の高い捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、水分散性のシリコーン樹脂を含むオーバーコート液を用いることで、射出安定性と風合いを維持しつつ、湿摩擦堅牢性を高めることができることを見出した。
【0015】
即ち、本発明では、水分散性のシリコーン樹脂を、インクではなく、オーバーコート液に含有させるため、インク層上又はインク層の表層付近にシリコーン樹脂を偏在させることができる。それにより、インク層表面の摩擦係数を十分に低減でき、湿摩擦堅牢性を高めることができる。
また、水分散性のシリコーン樹脂は、水溶性のシリコーン化合物(シリコーン系界面活性剤も含む)とは異なり、オーバーコート液の粘度上昇や表面張力の低下が起こりにくい。さらに、インクに水分散性のシリコーン樹脂を含有させる場合、インク表層にシリコーン樹脂を偏在させるためには、シリコーン樹脂の含有量を多くする必要がある。これに対し、オーバーコート液であればシリコーン樹脂の含有量を多くする必要がなく、粘度を低くすることができる。これらのことから、射出安定性及び風合いを高めることができる。
【0016】
さらに、オーバーコート液中のシリコーン樹脂のTgを一定以下としたり、オーバーコート液のシリコーン樹脂とインク中のバインダ樹脂のTgの差を一定以下としたりすることで、湿摩擦堅牢性をより効果的に高めることができる。
【0017】
即ち、湿摩擦堅牢性は、洗濯等で水にぬれた際にも他の布帛に色移りをしないようにするための指標となる。つまり、湿摩擦堅牢性は、湿潤状態で評価されるため、こすられる際の摩擦係数が乾摩擦堅牢性よりもさらに大きい。そのため、湿摩擦堅牢性をより効果的に高めるには、乾摩擦堅牢性よりもさらに高度の堅牢性が求められる。
上記のように、水分散性のシリコーン樹脂として、Tgが一定以下の水分散性のシリコーン樹脂を用いたり、インク中のバインダ樹脂とオーバーコート液のシリコーン樹脂とのTg差を一定以下としたりすることで、摩擦係数を低減させるだけでなく、インク層とオーバーコート層をより一層相溶させやすくし、界面をより一層少なくすることができる。それにより、湿摩擦堅牢性をより効果的に高めることができる。
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る捺染用オーバーコート液の構成について、説明する。
【0019】
1.捺染用オーバーコート液
本発明の一実施形態に係る捺染用オーバーコート液(以下、単に「オーバーコート液」ともいう)は、水分散性のシリコーン樹脂と、水とを含む。
【0020】
1-1.水分散性のシリコーン樹脂
水分散性のシリコーン樹脂は、水性媒体中で樹脂粒子として分散した状態で存在するシリコーン樹脂である。本実施の形態に係るオーバーコート液は、水と、任意の水溶性有機溶剤とを含む水性のオーバーコート液である。そのため、上記シリコーン樹脂は、オーバーコート液中においても、樹脂粒子として含まれる。樹脂粒子として存在しているかどうかは、オーバーコート液の分散粒径(Z平均)を、粒径測定装置(例えばMelvern社製のZataizer Nano S90)で測定した際に、水分散性のシリコーン樹脂に対応するピークがあるかどうかによって確認することができる。
【0021】
上記シリコーン樹脂は、ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位を含む重合体である。当該重合体は、ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位からなる単独重合体であってもよいし、ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位と、それと共重合可能な他の重合性単量体(マクロモノマーを含む)に由来する構造単位とを含む共重合体であってもよい。
【0022】
上記共重合体は、例えば、ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル等(重合性単量体)がグラフト重合したグラフト共重合体であってもよいし、(メタ)アクリル樹脂等の側鎖や末端をポリオルガノシロキサンで変性した共重合体であってもよい。中でも、ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位を含む重合体に、(メタ)アクリル酸エステル等がグラフト重合したグラフト共重合体が好ましい。そのようなグラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサン部分が幹部、(メタ)アクリル酸エステル等が枝部となる構造を有するため、インク層に含まれるバインダ樹脂とより相溶しやすいため、好ましい。なお、共重合の形態は、グラフト共重合に制限されず、ランダム共重合であってもよいし、ブロック共重合であってもよい。
【0023】
また、上記シリコーン樹脂は、イオン性基を有していてもよい。上記シリコーン樹脂が有するイオン性基は、布帛が有するイオン性基(又は布帛に付着した凝集剤のイオン性基)と対をなすイオン性基であってもよい。例えば、凝集剤は、通常、カチオン性基を有することから、上記シリコーン樹脂は、アニオン性基を有するアニオン性のシリコーン樹脂であってもよい。アニオン性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基が含まれる。
【0024】
即ち、上記シリコーン樹脂は、ラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサンに由来する構造単位と、それと共重合可能な他の重合性単量体に由来する構造単位とを含むことが好ましい。
【0025】
ラジカル重合性基を有するポリオルガノシロキサンの例には、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンが含まれる。
【化1】
【0026】
上記式(1)において、
、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基である。
Yは、ビニル基、アリル基、及びγ-(メタ)アクリロキシプロピル基からなる群より選択されるラジカル重合性基である。
及びXは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基又はSiR(R、Rは独立に炭素数1~10の炭化水素基を表し、Rは炭素数1~10の炭化水素基又はビニル基、アリル基及びγ-(メタ)アクリロキシプロピル基からなる群より選択されるラジカル重合性基を表す)で示される基である。
mは、1~10000の整数である。nは、1以上の整数である。シロキサン鎖には、分岐があってもよい。
【0027】
他の重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、ラジカル重合性基を有するウレタン化合物等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、又はこれらの両方を表す。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル又はアルコキシアルキルエステルである。(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステルが含まれる。中でも、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルが好ましい。
【0029】
ラジカル重合性基を有するウレタン化合物としては、例えばポリオール、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基を2つ有するシリコーン化合物及び(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物を反応させた化合物が挙げられる。ポリオールやポリイソシアネートとしては、後述するインクのバインダ樹脂としてのウレタン樹脂を得るためのポリオールやポリイソシアネートと同様のものを用いることができる。
【0030】
上記シリコーン樹脂における、ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位の含有量は、上記シリコーン樹脂を構成する構造単位の総量に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位の含有量が50質量%以上であると、ポリシロキサンに由来する摩擦係数の低減効果がより得られやすく、湿摩擦堅牢性をより高めることができる。ポリオルガノシロキサンに由来する構造単位の含有量が95質量%以下であると、他の化合物と、インク層中のバインダ樹脂との親和性によりインク層とオーバーコート層との密着性がより高まりやすい。
【0031】
上記シリコーン樹脂は、上記以外の他の重合性単量体に由来する構造単位をさらに含んでもよい。上記以外の他の重合性単量体の例には、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸やスチレン類等が含まれる。例えば、上記シリコーン樹脂は、アニオン性を呈する観点では、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0032】
グラフト共重合は、公知の方法により行うことができる。例えば、上記式(1)で表されるようなポリオルガノシロキサンと、(メタ)アクリル酸エステル等の共重合可能な化合物とを水中に乳化分散し、ラジカル重合開始剤の存在下に重合させ、グラフト共重合を行うことができる。
【0033】
シリコーン・(メタ)アクリル共重合体の市販品の例には、シャリーヌ LC190、シャリーヌ R-170、R170S、シャリーヌ FE-230N、FE-502、R-170BX(日信化学工業社製)等が含まれる。シリコーン・ウレタン共重合体の市販品の例には、シャリーヌ RU-911(日信化学工業社製)が含まれる。シリコーン・酢酸ビニル共重合体の市販品の例には、シャリーヌ1827(日信化学工業社製)が含まれる。
【0034】
上記シリコーン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、風合いをより維持しやすくし、湿摩擦堅牢性をより高める観点では、適度に低いことが好ましい。具体的には、上記シリコーン樹脂のTgは20℃未満であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。このように、Tgが低いシリコーン樹脂、特にTgが20℃未満のシリコーン樹脂は、柔らかいため、風合いをより損なわれにくくしうる。さらに、そのようなシリコーン樹脂は、インク層に追随しやすく、インク層とオーバーコート層との界面でのオーバーコート層の剥がれも生じにくいため、湿摩擦堅牢性もより高めることができるためである。上記シリコーン樹脂のTgの下限値は特に制限されないが、湿摩擦堅牢性を向上させる観点では、例えば-60℃以上とすることができる。上記シリコーン樹脂のTgは、示差走査熱量測定法により、JIS K 7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定することができる。
【0035】
オーバーコート液の上記シリコーン樹脂のTg(OC)とインクのバインダ樹脂のTg(IN)との差は小さいことが好ましい。オーバーコート液の樹脂のTgは、インクのバインダ樹脂のTgと同じか、それよりも高く設定されうる。本実施の形態では、上記オーバーコート液の上記シリコーン樹脂のTg(OC)とインクのバインダ樹脂のTg(IN)との差(Tg(OC)-Tg(IN))を小さくすることで、インク層中のバインダ樹脂とオーバーコート層の上記シリコーン樹脂とがより相溶しやすくなり、インク層とオーバーコート層の間に界面がより形成されにくくなる。それにより、画像形成物の表面を擦った際に、インク層とオーバーコート層との界面で剥がれにくくし、湿摩擦堅牢性をより効果的に高めることができる。具体的には、上記Tgの差は、55℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましい。
【0036】
上記シリコーン樹脂のTgは、変性の種類や量、例えば(メタ)アクリル酸エステル等の他の化合物に由来する構造単位の含有量によって調整することができる。当該他の化合物に由来する構造単位の含有量が多いと、Tgは低くなりやすい。
【0037】
オーバーコート液の調製に使用される水分散液の上記シリコーン樹脂の平均粒子径は、特に制限されないが、例えばインクジェットによる射出安定性の観点では、150nm以上300nm以下であることが好ましい。平均粒子径は、一次粒子径の平均値である。平均粒子径は、例えばMelvern社製のZataizer Nano S90における分散粒径(Z平均)として測定することができる。
【0038】
上記シリコーン樹脂の酸価は、特に制限されないが、湿摩擦堅牢性や耐水性をより高める観点では、低いことが好ましい。具体的には、上記シリコーン樹脂の酸価は、インクに含まれるバインダ樹脂の酸価よりも低いことが好ましく、100mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。上記シリコーン樹脂の酸価は、JIS K 0070に従って測定することができる。
【0039】
上記シリコーン樹脂の含有量は、オーバーコート液に対して0.01質量%以上15質量%未満であることが好ましい。上記含有量が0.01質量%以上であると、上記シリコーン樹脂が表面により偏在しやすいため、湿摩擦堅牢性をより高めやすい。上記含有量が15質量%未満であると、シリコーン樹脂の付着量が過剰となることによる風合いの低下や、射出安定性の低下を一層抑制することができる。同様の観点から、上記含有量は、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
1-2.水溶性有機溶剤
上記オーバーコート液は、さらに水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。それにより、インクジェットによる射出安定性をより高めることができる。
【0041】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、その例には、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの3価以上のアルコール類);多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル);1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);およびスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0042】
また、インクジェットによる射出安定性をより高める観点では、水溶性有機溶剤は、沸点が180℃以上、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上の水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。沸点が180℃以上の水溶性有機溶剤の例には、エチレングリコール(沸点197℃)、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。
【0043】
水溶性有機溶剤の含有量は、オーバーコート液に対して例えば10質量%以上65質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
水の含有量は、オーバーコート液に対して30質量%以上85質量%以下であり、好ましくは50質量%以上75質量%以下である。
【0045】
1-3.他の成分
オーバーコート液は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、界面活性剤、防腐剤等が含まれる。
【0046】
界面活性剤は、オーバーコート液の表面張力を低下させて、布帛に対する濡れ性を高めうる。界面活性剤の種類は、特に制限されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等でありうる。
【0047】
防腐剤又は防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)等が含まれる。
【0048】
また、オーバーコート液は、シリコーン樹脂を画像形成物の表面により偏在させやすくする観点では、顔料等の色材を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、オーバーコート液に対して0.1質量%以下、好ましくは0質量%であることをいう。
【0049】
1-4.物性
オーバーコート液の25℃における粘度は、特に限定されないが、例えばインクジェットによる付与する場合、射出安定性を高める観点では、2mPa・s以上11mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上7mPa・s以下であることがより好ましい。オーバーコート液の粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。オーバーコート液の粘度は、上記シリコーン樹脂の含有量や溶剤の組成(例えば多価アルコール類の含有量)によって調整することができる。
【0050】
オーバーコート液の25℃における静的表面張力は、特に限定されないが、例えばインクジェットによる付与する場合、布帛に対する濡れ性をより高める観点では、20mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以上50mN/m以下であることがより好ましい。
【0051】
オーバーコート液の静的表面張力は、25℃において、Wilhelmy法により測定することができる。具体的には、オーバーコート液の静的表面張力は、協和界面科学社製DY-300を用いて、JIS K2241に準拠して測定できる。
【0052】
1-5.用途
上記オーバーコート液は、後述するインクと組み合わせて用いられることが好ましい。即ち、上記オーバーコート液は、後述するインクと組み合わせてインクセットとすることができる。
【0053】
2.インクセット
本発明の一実施形態に係るインクセットは、上記オーバーコート液と、インクとを備える。
【0054】
2-1.インク
上記インクは、顔料と、バインダ樹脂と、水とを含む。
【0055】
2-1-1.顔料
顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料でありうる。
【0056】
橙顔料の例には、C.I.Pigment Orange 31、43が含まれる。
【0057】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0058】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0059】
緑顔料又は黄顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、15、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、128、137、138、139、151、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193、213が含まれる。
【0060】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0061】
白顔料の例には、二酸化チタン等が含まれる。
【0062】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0063】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0064】
親水性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0065】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0066】
顔料の含有量は、特に限定されないが、インクの粘度を上記範囲内に調整しやすく、高濃度の画像を形成可能にする観点では、インクに対して0.3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上6質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有量が下限値以上であると、画像の色が一層鮮やかになりやすい。顔料の含有量が上限値以下であると、インクの粘度が高くなりすぎず、吐出安定性が損なわれにくい。
【0067】
2-1-2.バインダ樹脂
バインダ樹脂は、顔料を布帛に定着させる機能を有することができる。バインダ樹脂は、耐水性を高める観点では、水分散性樹脂であることが好ましい。水分散性樹脂は、上記シリコーン樹脂と同様に、水性媒体を含むインク中において、樹脂粒子として分散している。
【0068】
水分散性樹脂は、上記シリコーン樹脂と同様に、布帛が有するイオン性基(又は布帛に付着した凝集剤のイオン性基)と対をなすイオン性基を有していてもよく、アニオン性基を有してもよい。
【0069】
水分散性樹脂(バインダ樹脂)のTgは、特に制限されないが、低いことが好ましい。画像形成後でも布帛が硬くなりにくく、風合いを維持しやすくするためである。具体的には、水分散性樹脂のTgは、50℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、-35℃以下であることがさらに好ましい。水分散性樹脂のTgの下限値は、特に制限されないが、例えば-70℃以上としうる。水分散性樹脂のTgは、上記シリコーン樹脂のTgと同様の方法で測定することができる。
【0070】
水分散性樹脂のTgは、水分散性樹脂の種類やモノマー組成により調整することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂の場合、アルキルアクリレートに由来する構造単位(a)の含有量を多くすれば、Tgは低くなりやすい。ウレタン樹脂の場合、軟質ユニットの含有量を多くすれば、Tgは低くなりやすい。
【0071】
水分散性樹脂の種類は、Tgが上記範囲を満たすものであれば特に制限されない。水分散性樹脂の例には、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が含まれる。中でも、良好な柔軟性を有し、布帛の風合いを一層維持しやすい観点では、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂が好ましい。
【0072】
((メタ)アクリル樹脂)
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル単量体に由来する構造単位を含む重合体である。
【0073】
(メタ)アクリル単量体は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体であり、その例には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド類等が含まれる。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0074】
即ち、(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(a)を含み、水分散性や凝集性を高める観点等から、アニオン性基を有する不飽和化合物に由来する構造単位(b)をさらに含むことが好ましい。
【0075】
構造単位(a)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する。樹脂のTgを低くする観点では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、例えば1以上20以下であり、好ましくは4以上12以下、より好ましくは4以上8以下である。アクリル酸アルキルエステルの例には、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレート等が含まれ、好ましくはブチルアクリレートである。
【0076】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類だけであってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。例えば、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを併用してもよい。
【0077】
構造単位(a)の含有量は、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して70~96質量%であることが好ましい。上記含有量が70質量%以上であると、樹脂のTgをより低くしやすい。上記含有量が96質量%以下であると、耐摩擦性等が損なわれにくい。同様の観点から、上記含有量は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して80~90質量%であることがより好ましい。
【0078】
構造単位(b)は、アニオン性基を有する不飽和化合物に由来する。カルボキシ基を有する不飽和化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-アクリロイロキシエチルコハク酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が含まれる。スルホン酸基を有する不飽和化合物の例には、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸が含まれる。リン酸基を有する不飽和化合物の例には、ビニルホスホン酸、リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等が含まれる。中でも、エチレン性不飽和カルボン酸が好ましい。
【0079】
構造単位(b)の含有量は、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して3~15質量%であることが好ましい。上記含有量が3質量%以上であると、インク中への水分散性樹脂の分散性や凝集性を一層高めやすい。上記含有量が15質量%以下であると、インクの粘度を増大させにくく、吐出安定性が損なわれにくい。同様の観点から、構造単位(b)の含有量は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して3~10質量%であることがより好ましい。
【0080】
(メタ)アクリル樹脂は、上記以外の他の単量体に由来する構造単位(c)をさらに含んでもよい。他の単量体の例には、エチレン性不飽和カルボン酸(例えばマレイン酸、イタコン酸);スチレン類(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン);飽和脂肪酸ビニル類(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル);ビニル化合物(例えば1,4-ジビニロキシブタン、ジビニルベンゼン等);アリル化合物(例えばジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等);アクリルアミド等の単官能の単量体や;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)等の多官能(メタ)アクリレート)、多官能アクリルアミド等の二官能以上の単量体が挙げられる。
【0081】
(メタ)アクリル樹脂の市販品の例には、EMN-325(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)、EMN-326(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)等が含まれる。
【0082】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂は、熱可塑性ウレタン樹脂である。熱可塑性ウレタン樹脂は、例えば、鎖延長剤としての低分子量ジオール、ポリイソシアネート、及びポリオールの反応生成物でありうる。また、ウレタン樹脂は、自己乳化型のものであることが好ましい。自己乳化型のウレタン樹脂は、例えば、鎖延長剤としての低分子量ジオール、アニオン性基を有するポリイソシアネート、及びポリオールの反応生成物でありうる。
【0083】
低分子量ジオールは、グリコールの二官能性脂肪族オリゴマーである。グリコールの典型的な二官能性脂肪族オリゴマーとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0084】
ポリイソシアネートは、好ましくはジイソシアネートであり、その例には、ジフェニルメタンジイソシアネート、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0085】
ポリオールは、ポリエステルポリオールであってもよいし、ポリエーテルポリオールであってもよい。ポリエステルポリオールの例には、ポリカルボン酸とポリオールの反応生成物でありうる。ポリカルボン酸の例には、マロン酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、フタル酸が含まれる。ポリカルボン酸と反応させるポリオールの例には、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、2-メチルグルコシド、ソルビトール、低分子量ポリオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール及びブロックヘテロポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0086】
熱可塑性ポリウレタンは、分子中に硬質セグメントと軟質セグメントとを含む。硬質セグメントは、主に、ポリイソシアネートと低分子量ジオールとの反応により生成される部分であり;軟質セグメントは、主に、ポリオールの部分でありうる。
【0087】
熱可塑性ポリウレタンのポリマー鎖中の硬質セグメントと軟質セグメントの質量比は、例えば75/25~15/85(質量比)、好ましくは60/40~25/75(質量比)である。Tgを低くする観点では、軟質セグメントの質量比を高くすること、例えば硬質セグメントよりも軟質セグメントの質量比を高くしてもよい。
【0088】
熱可塑性ポリウレタンの市販品の例には、エラストラン1185A(BASF社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、Tg:-41℃)が含まれる。
【0089】
(全般)
水分散性樹脂の酸価は、特に制限されず、15mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることがより好ましい。また、水分散性樹脂の酸価は、上記したオーバーコート液に含まれるシリコーン樹脂の酸価と同様であってもよいし、それよりも高くてもよい。水分散性樹脂の酸価は、JIS K 0070に従って測定することができる。
【0090】
水分散性樹脂の酸価は、構造単位(b)の含有量によって調整することができる。例えば、酸性基を有する不飽和化合物に由来する構造単位(b)の含有量を多くすれば、酸価は高くなる。
【0091】
インクの調製に使用される水分散液の水分散性樹脂の平均粒子径は、例えば100nm以下とすることができる。平均粒子径は上記と同様にして測定することができる。
【0092】
水分散性樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、湿摩擦堅牢性を高める観点では高いことが好ましく、例えば10000以上1000000以下であることが好ましい。一方、風合いをより高めやすくする観点では、水分散性樹脂の重量平均分子量は低いことが好ましく、10000以下であることが好ましい。水分散性樹脂の重量平均分子量は、上記と同様の方法で測定することができる。
【0093】
バインダ樹脂の含有量は、特に制限されないが、インクに対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。バインダ樹脂の含有量が1質量%以上であると、布帛に対するインクの定着性を一層高めやすい。バインダ樹脂の含有量が20質量%以下であると、風合いが一層損なわれにくい。同様の観点から、バインダ樹脂の含有量は、インクに対して5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
水の含有量は、インクに対して例えば20質量%以上70質量%以下であり、好ましくは30質量%以上60質量%以下である。
【0095】
2-1-3.他の成分
インクは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、水溶性有機溶剤、顔料分散剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等が含まれる。
【0096】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤としては、オーバーコート液で使用される水溶性有機溶剤と同様のものを使用することができる。水溶性有機溶剤の含有量は、インクに対して例えば20質量%以上70質量%以下であり、好ましくは30質量%以上60質量%以下である。
【0097】
(顔料分散剤)
顔料分散剤は、インク中で、顔料粒子の表面を取り囲むように存在するか、又は、顔料粒子の表面に吸着されて、顔料分散液を形成し、顔料を良好に分散させる。顔料分散剤は、好ましくは高分子分散剤であり、より好ましくはアニオン性高分子分散剤である。
【0098】
アニオン性高分子分散剤は、カルボン酸基、リン含有基、スルホン酸基等の親水性基を有する高分子分散剤であり、好ましくはカルボン酸基を有する高分子分散剤である。
【0099】
カルボン酸基を有する高分子分散剤は、ポリカルボン酸又はその塩でありうる。ポリカルボン酸の例には、アクリル酸又はその誘導体、マレイン酸又はその誘導体、イタコン酸又はその誘導体、フマル酸又はその誘導体から選ばれるモノマーの(共)重合体及びこれらの塩が含まれる。共重合体を構成する他のモノマーの例には、スチレンやビニルナフタレンが含まれる。
【0100】
アニオン性高分子分散剤のアニオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させる観点では、例えば1.1meq/g以上3.8meq/g以下であることが好ましい。アニオン性基当量が上記範囲内であると、アニオン性高分子分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。アニオン性高分子分散剤のアニオン性基当量は、酸価から求めることができる。酸価は、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0101】
高分子分散剤の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、5000以上30000以下であることが好ましい。高分子分散剤のMwが5000以上であると、顔料粒子を十分に分散させやすく、30000以下であると、インクが増粘しすぎないため、布帛への浸透性が損なわれにくい。高分子分散剤のMwは、上記と同様の方法で測定することができる。
【0102】
高分子分散剤の含有量は、顔料粒子を十分に分散させるとともに、布帛に対する浸透性を損なわない程度の粘度を有する範囲であればよく、特に制限されないが、顔料に対して20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、25質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0103】
(その他添加剤)
インクに含まれ得る界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤は、上記オーバーコート液に含まれ得る界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等と同様のものを使用することができる。
【0104】
2-4.物性
インクの25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましく、4mPa・s以上12mPa・s以下であることがより好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0105】
3.画像形成方法
本発明の一実施形態に係る画像形成方法は、1)布帛上に、インクを、インクジェット方式で付与する工程と、2)布帛に付与されたインク上に、オーバーコート液を付与する工程とを含む。本実施の形態では、インク及びオーバーコート液として、上記したインク及びオーバーコート液をそれぞれ用いる。
【0106】
3-1.インクを付与する工程
布帛上に、インクをインクジェット法にて付与する。
【0107】
布帛を構成する繊維としては、特に制限されないが、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹等の天然繊維;レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテート等の化学繊維、及びこれらの混紡繊維が挙げられる。このうち、布帛を構成する繊維は、綿等の親水性繊維であってもよいし、ポリエステル等の疎水性繊維であってもよいし、これらの混紡繊維であってもよい。また、布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布等、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布であってもよい。
【0108】
布帛には、インク中の顔料等を凝集させるための凝集剤が付着していてもよい。即ち、布帛と、それに付着した凝集剤とを含む処理済み布帛を用いてもよい。それにより、布帛上で、インク中の顔料や水分散性樹脂を凝集させやすくすることができる。
【0109】
次いで、布帛上に付与したインクを、さらに乾燥させてもよいし、乾燥しきらないうちに、後述する後処理工程(いわゆるウェットオンウェットでオーバーコート液を付与する工程)を行ってもよい。オーバーコート液をウェットオンウェットで付与するとは、先に付与したインクの液滴の大部分が乾ききらないうちに、オーバーコート液を付与することをいう。具体的には、記録領域の単位面積当たりにおいて、(オーバーコート液付与時のインクの残存量)/(インクの付着量)が、0.40以上1.0以下、好ましくは0.50以上1.0以下、より好ましくは0.70以上1.0以下、さらに好ましくは0.80以上1.0以下であることをいう。インクの付与量は、例えば15g/m以下、好ましくは15g/mとすることができる。
【0110】
3-2.後処理する工程
次いで、布帛に付与されたインク上に、上記オーバーコート液を付与する。それにより、布帛上の顔料を覆うように上記オーバーコート液のシリコーン樹脂が付着することで、顔料の定着性を高めつつ、表面の摩擦係数を低減し、滑り性を高めることができる。
【0111】
オーバーコート液の付与方法は、特に制限されず、浸漬法、スプレー法、インクジェット法のいずれであってもよいが、好ましくはインクジェット法である。
【0112】
上記オーバーコート液の付与量は、シリコーン樹脂の付着量が、好ましくは0.03g/m以上2.2g/m以下、より好ましくは0.03g/m以上1.2g/m以下となるように設定されうる。当該シリコーン樹脂の付着量が上記範囲内であると、布帛の風合いを一層高めうる。
【0113】
次いで、布帛上に付与した上記オーバーコート液を、さらに乾燥させてもよい。
【0114】
インクやオーバーコート液の乾燥は、布帛に付与された各液に含まれる溶媒等を除去して乾燥させる。乾燥方法は、特に制限されず、常温で行ってもよいし、加熱して行ってもよい。加熱方法は、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラ等を用いた方法であってよく、好ましくは温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面から加熱する方法である。
【0115】
乾燥温度は、インクやオーバーコート液中の水溶性有機溶剤や水を除去できる温度であれば特に制限されず、例えば80℃以上180℃以下としうる。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば1分以上10分以下としうる。
【0116】
3-3.他の工程
本実施形態に係る画像形成方法は、必要に応じて他の工程をさらに含んでもよい。例えば、上記2)の工程の前に、布帛を前処理する工程をさらに行ってもよい。
【0117】
前処理する工程では、例えば布帛を、凝集剤を含む前処理液と接触させた後、乾燥させることにより、凝集剤が付着した布帛を得ることができる。
【0118】
(前処理液)
前処理液は、凝集剤と、水とを含む。凝集剤の種類は、インクに含まれる顔料等を凝集させるものであればよく、pHの変化を利用したものでもよいし、電気的作用を利用したものであってもよい。
【0119】
pHの変化により凝集させる凝集剤としては、有機酸が挙げられる。有機酸は、炭素数が6以下のカルボン酸として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸等の飽和脂肪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ酸等が挙げられる。
【0120】
電気的作用により凝集させる凝集剤としては、多価金属塩、カチオン性基若しくはアニオン性基を有する化合物が含まれる。例えば、インクに含まれる顔料分散剤がアニオン性である場合は、凝集剤は、多価金属塩、又は、カチオン性基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0121】
多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンと、それと結合する陰イオンとを有する、水に可溶な化合物でありうる。多価金属イオンの例には、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+等の二価金属イオン;Al3+、Fe3+、Cr3+等の三価金属イオンが挙げられる。陰イオンの例には、Cl、I、Br、SO 2-、ClO 、NO 、及びHCOO、CHCOOが挙げられる。中でも、カルシウム塩及びマグネシウム塩が好ましく、硝酸カルシウム及び塩化カルシウムが好ましい。
【0122】
カチオン性基を有する化合物におけるカチオン性基としては、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム塩基等が挙げられる。カチオン性基を有する化合物の例には、上記カチオン性ウレタン化合物が含まれる。その他、カチオン性のウレタン樹脂、カチオン性のオレフィン樹脂、カチオン性のアリルアミン樹脂等のカチオン性樹脂を用いてもよい。
【0123】
前処理液は、必要に応じて水溶性有機溶剤、pH調整剤、防腐剤等をさらに含んでもよい。水溶性有機溶剤、pH調整剤、防腐剤等は、上記オーバーコート液で用いられる水溶性有機溶剤、pH調整剤、防腐剤等と同様のものを用いることができる。
【0124】
前処理液と接触させる方法は、上述した方法と同様でありうる。凝集剤の付着量は、特に制限されないが、例えば0.1g/m以上5.0g/m以下としうる。
【0125】
4.画像形成物
本実施形態に係る画像形成物は、布帛と、インク層と、オーバーコート層とを含む。
【0126】
インク層は、上記インクに由来する層である。インク層は、インクに由来する成分、即ち、顔料とバインダ樹脂とを含む。
【0127】
オーバーコート層は、上記オーバーコート液に由来する層である。オーバーコート層は、オーバーコート液に由来する成分、即ち、上記シリコーン樹脂を含む。なお、インク層とオーバーコート層との間には明確な界面がなく、組成が連続的に変化していることが好ましい。インク層とオーバーコート層との間の密着性が高まり、界面剥離をより抑制できるためである。
【0128】
上記の通り、本実施の形態に係るオーバーコート液は、インクジェット法を用いた画像形成に適したものではあるが、インクジェット法を用いた画像形成以外の用途に用いることも可能である。
【実施例0129】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0130】
1.材料
1-1.水分散性樹脂
(1)シリコーン樹脂
シリコーン樹脂1:シャリーヌFE-230N(日信化学工業社製、シリコーン・アクリルグラフト共重合体、アニオン性、Tg=-50℃)
シリコーン樹脂2:シャリーヌFE-502(日信化学工業社製、シリコーン・アクリルグラフト共重合体、アニオン性、Tg=-16℃)
シリコーン樹脂3:シャリーヌRU-911(日信化学工業社製、シリコーン・ウレタングラフト共重合体、アニオン性、Tg=-20℃)
シリコーン樹脂4:シャリーヌE-371(日信化学工業社製、シリコーン・アクリルグラフト共重合体、アニオン性、Tg=105℃)
シリコーン樹脂5:シャリーヌ1827(日信化学工業社製、シリコーン・酢酸ビニルグラフト共重合体、アニオン性、Tg=30℃)
【0131】
(Tg)
上記シリコーン樹脂のTgは、示差走査熱量測定法により、JIS K 7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定した値である。
【0132】
(平均粒子径、酸価の測定)
上記シリコーン樹脂のMelvern社製のZataizer Nano S90により測定される分散粒径(Z平均)は、いずれも100nm以上300nm以下の範囲内であった。また、上記シリコーン樹脂のJIS K 0070に準拠して測定される酸価は、いずれも17.3mgKOH/g以下の範囲内であった。
【0133】
(2)他の樹脂
アクリル樹脂1:EMN-325(日本触媒社製、アクリル樹脂、アニオン性、Tg=-50℃)
アクリル樹脂2:サイマック US-480(東亞合成社製、アクリル・シリコーングラフト共重合体、アニオン性、Tg=0℃)
ウレタン樹脂:タケラック WS-6021(三井化学社製、ウレタン樹脂、アニオン性、Tg=-60℃)
【0134】
なお、上記アクリル樹脂1、アクリル樹脂2、ウレタン樹脂のMelvern社製のZataizer Nano S90により測定される分散粒径(Z平均)は、いずれも100nm以下の範囲内であった。
【0135】
1-2.水溶性有機溶剤
エチレングリコール
グリセリン
【0136】
1-3.他の成分
シリコーン系界面活性剤:KF-351A(信越化学工業製)
シリコーンオイル:ハイソフターK-355(明成化学株式会社製)
オルフィンE1010(日信化学工業社製、界面活性剤)
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、防黴剤)
【0137】
2.オーバーコート液の調製
<オーバーコート液1~20の調製>
表1又は2に示すように各成分を混合して合計100質量部とし、オーバーコート液1~15を調製した。なお、表中の単位は、いずれも「質量部」を示す。
【0138】
オーバーコート液1~10の組成を表1に示し、オーバーコート液11~20の組成を表2に示す。
【0139】
【表1】
【表2】
【0140】
3.インクの調製
3-1.顔料分散液の調製
顔料分散剤として、Cab-0-Jet 400(CABOT社製)13.5質量部をエチレングリコール20質量部、イオン交換水48.5質量部に添加した。この溶液に、ブラック顔料としてPigment Black 7を18.0質量部添加し、プレミックスした。その後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料固形分が18.0質量%のブラック顔料分散液1を調製した。
【0141】
3-2.インクの調製
<インク1~4の調製>
表3に示すように各成分を混合して合計100質量部とし、インク1~4を調製した。なお、表中の単位は、いずれも「質量部」を示す。なお、顔料分散液については、顔料分散液の固形分の合計質量部を示す。
【0142】
インク1~4の組成を表3に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
4.前処理液の調製
表4に示すように各成分を混合して合計100質量部とし、前処理液を調製した。なお、表中の単位は、いずれも「質量部」を示す。
【表4】
【0145】
5.画像形成及び評価
<試験1~23>
5-1.画像形成
画像形成装置として、コニカミノルタ社製KM1024iMHEヘッドを搭載した簡易印画試験機を準備した。当該装置のヘッドに、上記調製したインク、オーバーコート液及び下記の前処理液をそれぞれセットした。
【0146】
(1)前処理
まず、布帛として、綿サテン(綿100%)を準備した。これに、表4に示す組成の前処理液を、上記ヘッドから吐出させて、前処理液の付与量が15g/mとなるように付与した。
【0147】
(2)インクの付与
次いで、前処理した布帛に、上記調製したインクを用いて、画像形成を行った。
具体的には、上記調製したインクを上記ヘッドから吐出させて、ベタ画像を形成した。インクの吐出は、主走査540dpi×副走査720dpiにて行った。なお、dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。インクの付与量は、15g/mとした。
【0148】
(3)オーバーコート液の付与
布帛に形成したインク層が乾ききらないうちに、上記ヘッドから表5に記載のオーバーコート液を吐出させて、ウェットオンウェットでベタ画像上に塗布した。その後、ベルト搬送式乾燥機にて150℃で3分間乾燥させて、画像形成物を得た。オーバーコート液の付与量は15g/mとした。
【0149】
4-2.評価
得られた画像形成物の湿摩擦堅牢性、風合い及びオーバーコート液の射出安定性を、以下の方法で評価した。
【0150】
(1)湿摩擦堅牢性
JIS L 0849に準拠し、クロックメーター(摩擦試験機I型)で乾摩擦堅牢性と湿摩擦堅牢性評価を実施した。評価布を、JIS0805に基づく汚染用グレースケールを用いて級数を判定し、以下の指標で評価した。
◎ 3.5級以上
○ 3級以上3.5級未満
△ 2級以上3級未満
× 2級以下
【0151】
(2)風合い
プリント後の布帛を風合いを手指で触って官能評価を行った。評価基準は以下とした。 ◎ プリント前と変化なし
○ プリント前と比べてわずかに硬くなっている
△ プリント前と比べて硬くなっているが、許容されるレベル
× 顕著に硬くなっている
【0152】
(3)射出安定性
25℃50%RH条件において、固定してあるコニカミノルタ社製KM1024iMHEで、打滴量13pLの吐出条件にてライン方式で、調製したオーバーコート液を吐出した。
充填したオーバーコート液が、吐出開始時に60本の全ノズルから吐出していることを確認した後、そのまま60分間連続で吐出させた。
そして、60分間の連続吐出終了後に、最後まで吐出できていたノズル数(60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数)を数えた。評価基準は以下とした。
◎ 60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が60本
○ 60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が55本以上60本未満
△ 60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が50本以上55本未満
× 60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が50本未満
なお、オーバーコート液を使用しない試験(試験20、21)では、インクの射出安定性について、上記と同様の方法及び基準で評価した。
【0153】
試験1~28の評価結果を表5に示す。
【0154】
【表5】
【0155】
表5に示すように、アクリル樹脂又はウレタン樹脂1を含有するオーバーコート液を用いた試験22、23では、湿摩擦堅牢性が低く、風合いも損なわれることがわかる。また、シリコーン系界面活性剤を含有するオーバーコート液を用いた試験24、水分散性のシリコーン樹脂の含有量が15質量%よりも多い試験25~27では、射出性が低いことがわかる。
【0156】
これに対し、適量の水分散性のシリコーン樹脂を含有するオーバーコート液を用いた試験1~18では、湿摩擦堅牢性が高く、風合い、射出性も良好であった。
【0157】
特に、Tgが20℃未満のシリコーン樹脂を用いることで、湿摩擦堅牢性と風合いをより高めることができることがわかる(試験3、8、9、13、17及び18の対比)。また、Tgの差(ΔTg)が55℃以下を満たすことで、湿摩擦堅牢性と風合いをより高めることができることがわかる(試験3、8、9、13、17及び18の対比)。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によれば、射出安定性と風合いを維持しつつ、湿摩擦堅牢性の高い捺染用オーバーコート液、インクセット及び画像形成方法を提供することができる。