(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025043046
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】エンジンのピストン
(51)【国際特許分類】
F02B 23/00 20060101AFI20250321BHJP
F02F 3/28 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
F02B23/00 Y
F02B23/00 T
F02B23/00 W
F02F3/28 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150340
(22)【出願日】2023-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田畑 正和
(72)【発明者】
【氏名】田島 祐太
(72)【発明者】
【氏名】宮本 雅昭
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA01
3G023AD05
3G023AD08
(57)【要約】
【課題】スキッシュ部での火炎伝播性を確保しつつ燃焼速度を確保したエンジンのピストンを提供することを課題とする。
【解決手段】頂面と、前記頂面の外周縁に沿って形成され、燃焼室に吸気を導入する又は前記燃焼室から排気を排出する第1及び第2バルブの一方の先端部を逃がす第1バルブリセス部と、前記頂面の外周縁に沿って形成され、前記第1及び第2バルブの他方の先端部を逃がす第2バルブリセス部と、前記頂面の外周縁と前記第1及び第2バルブリセス部と間に形成されたスキッシュ部と、を備え、前記第1及び第2バルブリセス部は、互いに離間しており、前記第1バルブリセス部は、前記第2バルブリセス部側に向かうにしたがって、前記スキッシュ部側に向けて拡大している、エンジンのピストン。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂面と、
前記頂面の外周縁に沿って形成され、燃焼室に吸気を導入する又は前記燃焼室から排気を排出する第1及び第2バルブの一方の先端部を逃がす第1バルブリセス部と、
前記頂面の外周縁に沿って形成され、前記第1及び第2バルブの他方の先端部を逃がす第2バルブリセス部と、
前記頂面の外周縁と前記第1及び第2バルブリセス部と間に形成されたスキッシュ部と、を備え、
前記第1及び第2バルブリセス部は、互いに離間しており、
前記第1バルブリセス部は、前記第2バルブリセス部側に向かうにしたがって、前記スキッシュ部側に向けて拡大している、エンジンのピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
頂面に形成された2つのバルブリセス部が連結されたエンジンのピストンがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献のように2つのバルブリセスが連結することにより、スキッシュ部での火炎伝播性の悪化が抑制されると考えられる。2つのバルブリセス部が連結していない場合、スキッシュ部に向かう火炎がバルブリセス部に沿って旋回して伝搬することが抑制されるからである。しかしながら2つのバルブリセスを連結することにより、スキッシュ部の面積が縮小する。この結果、燃焼室の容積が増加して圧縮比が低下する。このような圧縮比の低下を補うために、例えば頂面の中央の底部を浅く形成することが考えられる。底部が浅くなると、燃焼室の上下幅が縮小し、圧縮行程終盤でのタンブル流の減衰が促進される恐れがある。この結果、燃焼時の筒内の乱れが低下するため、燃焼速度が低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、スキッシュ部での火炎伝播性を確保しつつ燃焼速度を確保したエンジンのピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、頂面と、前記頂面の外周縁に沿って形成され、燃焼室に吸気を導入する又は前記燃焼室から排気を排出する第1及び第2バルブの一方の先端部を逃がす第1バルブリセス部と、前記頂面の外周縁に沿って形成され、前記第1及び第2バルブの他方の先端部を逃がす第2バルブリセス部と、前記頂面の外周縁と前記第1及び第2バルブリセス部と間に形成されたスキッシュ部と、を備え、前記第1及び第2バルブリセス部は、互いに離間しており、前記第1バルブリセス部は、前記第2バルブリセス部側に向かうにしたがって、前記スキッシュ部側に向けて拡大している、エンジンのピストンによって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スキッシュ部での火炎伝播性を確保しつつ燃焼速度を確保したエンジンのピストンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、比較例のピストンの頂面の説明図である
【
図4】
図4Aは、第3変形例の断面図であり、
図4Bは、第4変形例の断面図であり、
図4Cは、第5変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[比較例]
本実施例のピストンの頂面について説明する前に、比較例のピストン1xの頂面2xについて説明する。
図1は、比較例のピストン1xの頂面2xの説明図である。
図1には、頂面2xの中心を通過し互いに直交するX軸及びY軸を点線で示している。ピストン1xはエンジンに用いられる。
【0010】
頂面2xは、底部3、傾斜部4i及び4e、スキッシュ部5i及び5e、バルブリセス部6ix及び6exが形成されている。底部3は頂面2xの中央に形成されている。傾斜部4i及び4eは、Y軸に対して対称の位置に形成されている。2つのバルブリセス部6ixは、X軸に対してほぼ対称の位置に形成されている。2つのバルブリセス部6exは、X軸に対してほぼ対称の位置に形成されている。バルブリセス部6ix及び6exは、Y軸に対しておおよそ対称の位置に形成されている。スキッシュ部5i及び5eは、Y軸に対して対称の位置に形成されている。スキッシュ部5iは、2つのバルブリセス部6ixと傾斜部4iと頂面2xの吸気バルブ側の外周縁2iとの間に位置している。スキッシュ部5eは、2つのバルブリセス部6exと傾斜部4eと頂面2xの排気バルブ側の外周縁2eとの間に位置している。
【0011】
図1には、2つの吸気バルブ先端部IVと2つの排気バルブ先端部EVとを点線で示している。詳細には、吸気バルブ先端部IVは、燃焼室に吸気を導入する吸気バルブの先端部の外周縁を示している。2つの吸気バルブは、第1及び第2バルブに相当する。排気バルブ先端部EVは、燃焼室から排気を排出する排気バルブの先端部の外周縁を示している。2つの排気バルブは、第1及び第2バルブに相当する。バルブリセス部6ix及び6exは、それぞれ吸気バルブ先端部IV及び排気バルブ先端部EVを逃がすように、凹状に形成されている。ここで吸気バルブ先端部IVの径は、排気バルブ先端部EVの径よりも大きく形成されている。バルブリセス部6ix及び6exは、それぞれ吸気バルブ先端部IV及び排気バルブ先端部EVの外周部の一部を逃がすように円弧状に形成されている。このため、バルブリセス部6ixの径は、バルブリセス部6exの径よりも大きく形成されている。
【0012】
比較例での火炎伝播について説明する。火炎は、燃焼室内の混合気が点火プラグにより点火されると、混合気が燃焼を開始して火炎が発生する。ここで点火プラグは燃焼室内のほぼ中心の位置するようにシリンダヘッドに設けられている。従って点火プラグにより混合気が点火されると、X軸とY軸との交点付近からそれぞれX軸に沿って吸気バルブ側と排気バルブ側とに火炎が伝搬する。吸気バルブ側に伝播した火炎は、X軸に沿ってスキッシュ部5iに進行する。また、X軸に沿ってスキッシュ部5iに向けて進行した火炎の一部は、バルブリセス部6ixに沿って旋回するように伝播する。同様に、排気バルブ側に伝播した火炎は、X軸に沿ってスキッシュ部5eに進行する。また、X軸に沿ってスキッシュ部5eに向けて進行した火炎の一部が、バルブリセス部6exに沿って旋回するように伝播する。
【0013】
このように火炎が伝搬する結果、バルブリセス部6ixと外周縁2iとの間のスキッシュ部5iや、バルブリセス部6exと外周縁2eとの間のスキッシュ部5eに、火炎が伝搬しない火炎未伝播領域Sが発生するおそれがある。火炎未伝播領域Sでは燃料が燃焼せずに残される確率が高くなり、エミッションが悪化するおそれがある。
【0014】
[本実施例]
図2A及び
図2Bは、本実施例のピストン1の頂面2の説明図である。尚、
図2Aには、吸気バルブ先端部IV及び排気バルブ先端部EVは省略してある。
図2Aに示すように、本実施例の1の頂面2のバルブリセス部6i及び6eは、比較例のバルブリセス部6ix及び6exと形状が異なっている。ここで本実施例の2つのバルブリセス部6iは、比較例と同様に、それぞれ2つの吸気バルブ先端部IVを逃がす。このため、2つのバルブリセス部6iは第1及び第2バルブリセス部に相当する。同様に、2つのバルブリセス部6eは、第1及び第2バルブリセス部に相当する。2つのバルブリセス部6iは、2つのバルブリセス部6ixよりも、互いに接近するように延びている。但し、2つのバルブリセス部6iは、互いに離間しており連結はされていない。
【0015】
2つのバルブリセス部6iは、互いに接近する方向に向かうに従ってスキッシュ部5i側に拡大している。換言すれば、X軸に沿ったバルブリセス部6iの幅が拡大している。このようなバルブリセス部6iの形状により、X軸に沿ってスキッシュ部5i側に伝播した火炎がバルブリセス部6iにより分離することが抑制される。この結果、火炎を十分にスキッシュ部5iにまで伝播させることができ、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。なおここでは排気弁の個数を2個としたが、排気弁の個数が1個の場合でも、吸気側のバルブリセス部6iの形状変更により、火炎伝播性を確保することができる。
【0016】
また、2つのバルブリセス部6iは互いに離間している。このため、スキッシュ部5iの面積が確保されている。従って圧縮比を低下させることなく、底部3を深く形成することができる。これにより、タンブル流の減衰を抑制して、燃焼速度を確保することができる。尚、バルブリセス部6e及びスキッシュ部5eについても同様である。
【0017】
図2Bは、
図2AのA-A断面図である。バルブリセス部6iは、リセス底面61及びリセス側面62を含む。リセス底面61は、吸気バルブの先端部の底面と対向する。リセス側面62は、リセス底面61と傾斜部4iやスキッシュ部5iとの間で連続している。
図2Bに示すようにリセス側面62と傾斜部4iとは、直角ではなく、緩やかな角度で連続している。このため、傾斜部4iとリセス側面62との境界付近で乱れが発生することが抑制される。これにより、傾斜部4iに沿ってスキッシュ部5iに向かう火炎がバルブリセス部6iにより分離することが抑制される。この結果、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。尚、バルブリセス部6e及びスキッシュ部5eについても同様である。
【0018】
[変形例]
次に複数の変形例について説明する。
図2Cは、第1変形例の断面図である。
図2Cは
図2Bに対応している。バルブリセス部6iaのリセス側面62aと傾斜部4iaとは、曲面状に形成されている。このような形状により火炎の分離がより抑制され、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。
【0019】
図3A~
図3Cは、第2変形例の説明図である。
図3Aは、
図2Aに対応している。
図3Bは、
図2Bに対応している。
図3Cは、
図3AのB-B断面図である。
図3Aに示すように、ピストン1bの頂面2bに形成された2つのバルブリセス部6iは、互いに接近する方向に向かうに従って外周縁2i側に拡大している。詳細には、X軸に沿ったバルブリセス部6ibの幅がほぼ一定で、他方のバルブリセス部6ib側に延びている。このようなバルブリセス部6ibの形状によっても、火炎を十分にスキッシュ部5iにまで伝播させることができ、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。尚、バルブリセス部6ebについても同様である。
【0020】
図3Bに示すように、バルブリセス部6ibのリセス側面62bと傾斜部4iとは、直角ではなく、緩やかな角度で連続している。これにより、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。
【0021】
図3Cに示すように、リセス側面62bはリセス底面61とスキッシュ部5iと間を滑らかに連続している。詳細には、最下点Pからリセス側面62bは立ち上がるようにしてスキッシュ部5iに連続している。最下点Pは、
図3Cの断面での最も低い地点である。これにより、バルブリセス部6ibからスキッシュ部5iに火炎が案内される。従って、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。尚、バルブリセス部6ebについても同様である。
【0022】
図4Aは、第3変形例の断面図である。
図4Aは、
図3Cに対応している。バルブリセス部6icのリセス底面61とリセス側面62cとの間には平面64が形成されている。平面64の高さ位置は、最下点Pの高さと同じである。これによりリセス側面62cは
図3Cのリセス側面62bよりも急角度でスキッシュ部5i側に位置している。このため、火炎がリセス側面62cに衝突するまで減衰が抑制され、スキッシュ部5iでの火炎伝播性が確保されている。
【0023】
図4Bは、第4変形例の断面図である。
図4Bは、
図3Cに対応している。
図4Cは、第5変形例の断面図である。
図4Aに対応している。スキッシュ部5idは、内側から外側にかけて下るように傾斜している。例えばシリンダヘッドの燃焼室の形状をスキッシュ部5idと対応させることにより、タンブル流の減衰を抑制することができる。このようにスキッシュ部の形状は平面に限定されない。
【0024】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 ピストン
2 頂面
3 底部
5i、5e スキッシュ部
6i、6e バルブリセス部