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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025043076
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】医療材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20250321BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20250321BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20250321BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20250321BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20250321BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20250321BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20250321BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20250321BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/52
A61L27/58
A61L27/56
A61P19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150392
(22)【出願日】2023-09-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年9月26日にhttps://ap2022termis.org/index.phpにて発表 令和4年10月5日にTERMIS-AP 2022にて発表 令和4年10月13日にバイオジャパンにて発表 令和5年7月5日にアカデミックフォーラムにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 有亮
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081CA171
4C081CA181
4C081CA241
4C081CD011
4C081CD021
4C081CD031
4C081CD041
4C081CD051
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD151
4C081CD18
4C081CF011
4C081CF021
4C081CF031
4C081DC12
4C081EA03
(57)【要約】
【課題】優れた治療効果が得られる骨欠損部へインジェクションするための医療材料を提供する。
【解決手段】平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、ハイドロゲルと、を有することを特徴とする。多孔質ファイバーの平均繊維長は100μm~400μmである。生体吸収性高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、又は、ポリカプロラクトンの何れかである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、
ハイドロゲルと、
を有することを特徴とする、骨欠損部へインジェクションするための医療材料。
【請求項2】
前記多孔質ファイバーの平均繊維長は100μm~400μmであることを特徴とする請求項1に記載の医療材料。
【請求項3】
前記生体吸収性高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、又は、ポリカプロラクトンの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の医療材料。
【請求項4】
前記アパタイト前駆体は、無水リン酸水素カルシウム(DCPA)、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、第四リン酸カルシウム、又は、オクタリン酸カルシウムの何れかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療材料。
【請求項5】
前記ハイドロゲルは、コラーゲン、アガロース、アルギン酸、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、CMC、フィブリノーゲン、トロンビン、セルロース、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、でんぷん、フィブロイン、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド、及び、ポリエチレングリコールからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の医療材料。
【請求項6】
アパタイト前駆体が混合された生体吸収性高分子溶液をエレクトロスピニングにより押し出して生体吸収性高分子の多孔質ファイバーを作製する工程と、
前記多孔質ファイバーを凍結粉砕することで平均繊維長が短い多孔質ファイバーを作製する工程と、
前記繊維長が短い多孔質ファイバーとハイドロゲルとを混合する工程と、
を有することを特徴とする、骨欠損部へのインジェクションするための医療材料の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質ファイバーを作製する工程の後に、作製した多孔質ファイバーを水に浸漬して冷却して凍らせることで前記多孔質ファイバーを氷ブロック内に封入し、前記氷ブロックを凍結粉砕することで平均繊維長が短い多孔質ファイバーを作製することを特徴とする請求項6に記載の医療材料の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質ファイバーの平均繊維長は100μm~400μmであることを特徴とする請求項6に記載の医療材料の製造方法。
【請求項9】
前記生体吸収性高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、又は、ポリカプロラクトンの何れかであることを特徴とする請求項6に記載の医療材料の製造方法。
【請求項10】
前記アパタイト前駆体は、無水リン酸水素カルシウム(DCPA)、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、第四リン酸カルシウム、又は、オクタリン酸カルシウムの何れかであることを特徴とする請求項6に記載の医療材料の製造方法。
【請求項11】
前記ハイドロゲルは、コラーゲン、アガロース、アルギン酸、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、CMC、フィブリノーゲン、トロンビン、セルロース、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、でんぷん、フィブロイン、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド、及び、ポリエチレングリコールからなる群より選ばれることを特徴とする請求項6に記載の医療材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨欠損部へインジェクションするための医療材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、骨に欠損が生じた場合の治療法としてゲルを患部に注入する方法が注目されている。従来の自家骨移植及び人工骨移植などと比較して侵襲性が低いため、感染症のリスクを軽減することや回復時間を短縮することが期待される(非特許文献1,2)。
【0003】
しかし、機械的特性の獲得に時間を要するため、骨形成に時間を要することが懸念される。そのため、骨形成を促進させるために早期に機械的特性を獲得し、かつ細胞の接着、増殖及び分化といった細胞活性を向上させることが可能な足場(スキャホールド)が求められる。
【0004】
例えば、生体吸収性高分子であるポリ乳酸(Poly-L-lactic acid: PLLA)からなる多孔質PLLAファイバーに骨の主成分であるハイドロキシアパタイト(HAp)の前駆体である無水リン酸水素カルシウム(CaHPO4,Dicalcium phosphate anhydrous: DCPA)粒子を添加した多孔質PLLA/DCPAファイバーを作製し、ファイバー表面に早期かつ剥離のないアパタイトを被覆したことが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
また例えばPLLAファイバースキャホールドにアパタイトをコーティングさせた結果、骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)の分化が促進されたことが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yamada, Y., Jae S B , Ozawa R , Nagasaka, T., Okazaki, Y., Hata, K., Ueda, M., Bone regeneration following injection of mesenchymal stem cells and fibrin glue with a biodegradable scaffold, Journal of Cranio-Maxillofacial Surgery, Vol. 23, (2003), pp. 27-33.
【非特許文献2】Qingpu, H., Paul, A., De, B., Kevin, M. S., Injectable scaffolds for tissue regeneration, Journal of Materials Chemistry, Vol. 14, (2004), pp.1915-1923.
【非特許文献3】Matsuo, H., Nakamachi, E., Yamamoto, K., Morita Y., European Society of Biomechanics, (2019), pp. 1-2.
【非特許文献4】Whited, B. M., Whitney J. R., Hofmann M. C., Xu , Y., Rylander M. N., Pre-osteoblast infiltration and differentiation in highly porous apatite-coated PLLA electrospun scaffolds, Biomaterials, Vol. 32, No. 9, (2011), pp. 2294-2304.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述の骨欠損部の治療のための医療材料では機械的強度が十分ではなかった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、優れた治療効果が得られる骨欠損部へインジェクションするための医療材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる医療材料は、平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、ハイドロゲルと、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる医療材料の製造方法は、アパタイト前駆体が混合された生体吸収性高分子溶液をエレクトロスピニングにより押し出して生体吸収性高分子の多孔質ファイバーを作製する工程と、前記多孔質ファイバーを凍結粉砕することで平均繊維長が短い多孔質ファイバーを作製する工程と、前記繊維長が短い多孔質ファイバーとハイドロゲルとを混合する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた治療効果が得られる医療材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】凍結粉砕前において、繊維径5,10及び15 μmの多孔質PLLA/DCPAファイバーのSEM画像図である。
図2】5回粉砕後の粉砕時間ごとによる多孔質PLLAショートマイクロファイバーのSEM画像を示す図であり、そのうち(a)は粉砕時間1秒であり、(b)は粉砕時間3秒であり、(c)は粉砕時間5秒であり、(d)は粉砕時間10秒であり、各図においてBar: 50μmであり、倍率は×500である。
図3】各粉砕回数及び各粉砕時間による多孔質PLLAショートマイクロファイバーの繊維長の結果を示す図であり、そのうち(a)は粉砕時間1秒であり、(b)は粉砕時間3秒であり、(c)は粉砕時間5秒であり、(d)は粉砕時間10秒である。
図4】多孔質PLLA/DCPAファイバーのSEM画像図であり、そのうち(a)は表面であり、(b)は断面であり、各図においてBar: 5μmであり、倍率は×5000である。
図5】多孔質PLLAショートマイクロファイバーのSEM画像を示す図であり、そのうち(a)はSBF浸漬前であり、(b)はSBF浸漬1日後であり、(c)はSBF浸漬3日後であり、(d)はSBF浸漬7日後であり、各図においてBar: 10μmであり、倍率は×1000である。
図6】各繊維径及び粉砕時間による多孔質PLLAショートマイクロファイバーのSEM画像を示す図である。
図7】多孔質PLLAショートマイクロファイバーのSBF浸漬前後の繊維径を示す図である。
図8】SBF浸漬前及び7日後のcontrol及び各条件の多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロースゲルの画像を示す図である。
図9】SBF浸漬1,3及び7日後のcontrol及び多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロースゲルのアリザリン染色画像を示す図である。
図10】SBF浸漬1,3及び7日後の各アガロースゲル内におけるショートマイクロファイバーのSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本発明にかかる医療材料は、骨欠損部へインジェクションするための医療材料である。本発明にかかる医療材料は、平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、ハイドロゲルと、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明においては多孔質ファイバーの平均繊維長は短いので多孔質ファイバーとハイドロゲルとを混合しやすくなり、骨欠損部への医療材料の注入が容易となる。
【0016】
本発明においては、平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、ハイドロゲルと、を有するため、ハイドロゲル内でネットワーク構造が形成される。
【0017】
さらに、アパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバー同士が析出したアパタイトにより結合しネットワーク構造を形成することでより強固な構造を形成し、機械的強度を高める。
【0018】
加えて、析出したアパタイトにより細胞活性の向上に寄与することが期待される。
【0019】
多孔質ファイバーの平均繊維長は短く、特に限定されるものではないが、例えば100μm~400μmである。
【0020】
生体吸収性高分子は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、又は、これらの誘導体が挙げられ、好ましくはポリ乳酸である。
【0021】
ポリ乳酸における高分子を構成するモノマーには、例えばL-乳酸及びD-乳酸があるが特に制限はない。また高分子の光学純度や分子量、L体とD体の組成比、配列には特に制限はなく、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いてもよい。好ましくはL体の多いポリマーであり、L体が100%であることがより好ましい。
【0022】
生体吸収性高分子の分子量としては、特に限定されるものではないが、例えば、1×10~5×10であり、好ましくは1×10~1×10、より好ましくは5×10~5×10である。また、ポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
【0023】
生体吸収性高分子の多孔質ファイバーは、例えば、平均繊維径が0.01~10μm、平均見かけ密度が10~300kg/mである。
【0024】
生体吸収性高分子の多孔質ファイバーは、生体内で吸収される速度を考慮するとポロシティが20~80%であることが好ましい。ポロシティが20%より低いと生着する細胞数が少なく更にはアパタイト被膜が剥がれる虞があるからであり、80%より高いと生着する細胞数は多いものの機械強度が低く足場材料としては好ましくない場合がある。ポロシティは平均見かけ密度とポリマー固有密度より算出することができる。
【0025】
アパタイト前駆体は、無水リン酸水素カルシウム(DCPA)、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、第四リン酸カルシウム、又は、オクタリン酸カルシウムの何れかであり、好ましくは無水リン酸水素カルシウム(DCPA)である。
【0026】
ハイドロゲルは、コラーゲン、アガロース、アルギン酸、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、CMC、フィブリノーゲン、トロンビン、セルロース、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、でんぷん、フィブロイン、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド、及び、ポリエチレングリコールからなる群より選ばれる。
【0027】
本発明の生体吸収性高分子の多孔質ファイバーには、細胞増殖因子を包含させることが可能である。細胞増殖因子は、例えばFGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、TGF-β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、BMP(骨形成因子)等が挙げられる。
【0028】
本発明の生体吸収性高分子の多孔質ファイバーは、例えば、整形外科領域、歯科口腔外科領域における骨欠損修復、開頭、開胸術後の骨欠損修復等に用いることができる。具体的には、整形外科領域においては、骨腫瘍切除後の骨欠損、骨折等外傷により生じた骨欠損に対し、本発明の多孔質体を骨欠損部にインジェクションし、骨再生を促進することができる。また、歯科口腔外科領域においては、歯周病、顎裂部、抜歯窩等により生じた骨欠損に対し、本発明の多孔質体をインジェクションすることにより、短期間で優れた骨再生効果が確認できる。
【0029】
本発明にかかる医療材料の製造方法を説明する。
【0030】
第1工程では、アパタイト前駆体が混合された生体吸収性高分子溶液をエレクトロスピニングにより押し出して生体吸収性高分子の多孔質ファイバーを作製する。
【0031】
即ち、生体吸収性高分子を有機溶剤に溶解させることで溶液を調製した後、ハイドロキシアパタイト前駆体をその溶液に添加し混合する。有機溶剤は特に限定されるものではないが例えば1,3-ジオキソラン,ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ヘキサフルオロアセトンといったハロゲン化溶媒が挙げられる。
【0032】
次にエレクトロスピニング装置を使用して有機溶剤に溶解している高分子を押し出し、生体吸収性高分子の多孔質ファイバーを得る。得られる多孔質ファイバーにはハイドロキシアパタイト前駆体が分散して含有されている。エレクトロスピニング装置は特に限定されるものではないが、例えば、有機溶剤に溶融している高分子を押し出す押出部、溶融した高分子を吐出するノズル部、電圧を印加してナノファイバー化する電圧印加部、得られたナノファイバーを捕集する捕集部とからなる。溶解した高分子をナノファイバー化する方法としては、加熱溶融エレクロトスピニング法、湿式エレクロトスピニング法、ブロースピニング法、フォーススピニング法なども挙げられる。
【0033】
第2工程では、多孔質ファイバーを凍結粉砕することで平均繊維長が短い多孔質ファイバーを作製する。
【0034】
多孔質ファイバーは凍結粉砕されるため、多孔質ファイバーを形成する生体吸収性高分子は、ガラス転移温度Tgが0℃以上であるか、又は、結晶性樹脂であることが好ましい。これらのいずれかの条件を満たすことで、凍結粉砕を行いやすくなるからである。凍結粉砕の方法は、特に限定されるものではないが、作製した多孔質ファイバーを水に浸漬して冷却して凍らせることで多孔質ファイバーを氷ブロック内に封入し、この氷ブロックを凍結粉砕することが好ましい。
凍結させることにより、生体吸収性高分子の多孔質ファイバーの多孔性を維持したまま粉砕することが可能となるからである。
【0035】
第3工程では、繊維長が短い多孔質ファイバーとハイドロゲルとを混合する。即ち、繊維長が短い多孔質ファイバーをPBS等と混合することで懸濁液を作製し、この懸濁液とハイドロゲル溶液とを混合させる。以上により本発明にかかる医療材料を製造することが可能となる。
【0036】
なお、本発明は、平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、ハイドロゲルと、を有することを特徴とする、骨欠損部へインジェクションするための医療材料であるが、平均繊維長が短い生体吸収性高分子の多孔質ファイバーと、ハイドロゲルと、を有する医療材料として構成することも可能である。また、ハイドロゲルを使用せず、平均繊維長が短く且つアパタイト前駆体が分散して含有されている生体吸収性高分子の多孔質ファイバーからなる医療材料として構成することも可能である。
【実施例0037】
(1)多孔質PLLA/DCPAショートファイバーの作製
(1-1)DCPA粒子の調製
無水リン酸水素カルシウム(DCPA)粒子の調製にはCaCl2とNa2HPO4・12H2Oを使用した。DCPAは、酸性から中性域としCa2+とPO4 3-の存在比が1.0となるように混合することで安定して析出する。そこでCa/P比が1.0となるように蒸留水300 mlにCaCl2を6.00 g,Na2HPO4・12H2Oを19.38 gを溶かすことで溶液を調製した。その溶液をスターラーで1時間攪拌させることで反応させた後、副生成物として生成されるNaClを取り除くために蒸留水300 mlで2回洗浄した。洗浄後、生成した粒子を湿式粉砕することでDCPA粒子を調製した。
【0038】
(1-2)紡糸溶液の調整
前述(1-1)で調製したDCPA粒子,ポリ乳酸(poly-L-lactic acid: PLLA,Mn=173,300,LUMINY L 130,Corbion)及びpolyethylene oxide(PEO,Alfa Aesar社)を溶媒と混合することで紡糸溶液を調製した。溶媒には,安定化剤としてTriethylamine(TEA,T0424,東京化成株式会社)を75 μl添加した500 gの1,3-dioxolane(DOL,13643-45,ナカライテスク株式会社)を用いた。まず,DCPA粒子の凝集を抑制するためにDCPA粒子及び溶媒を撹拌・脱泡装置(ARE-310,株式会社シンキ―)を用いて30分間撹拌した。撹拌後,PLLA及びPEOを添加し,30分間撹拌した。なお,溶液濃度を6 w/v%,ファイバーを多孔質化するためにPLLA/PEOの比率を90/10とした。また,DCPAの添加比をPLLAの質量に対して5/1とした。
【0039】
(1-3)エレクトロスピニング法によるファイバーの作製
紡糸に使用したナノファイバーエレクトロスピニングユニットは、NEU-11-TEA-2622型(カトーテック株式会社)であった。前述(1-2)で調製した各溶液を容量20 mLのシリンジ(SS-20ESZ,スリップチップ(横口),φ21.7×123.6 mm,テルモ株式会社)に充填した。ノズルには針先を平らに研磨した18 G注射針(NN-1838R,φ1.2×38 mm,テルモ株式会社)を用いた。ターゲットにはφ9の中空アルミ軸を使用し,ターゲットの回転速度 100 rpm,紡糸間距離200 mm及び紡糸時間8分間とした。また,紡糸中に針先に形成されるTaylor coneを紡糸の目安として,印加電圧を7.5-8.0 kV,吐出量を100 μl/minとした。
【0040】
ファイバーの繊維径及び繊維長の影響を評価するために繊維径5,10及び15 μmの多孔質PLLA/DCPAファイバースキャホールドを準備した。紡糸後、SEMにより形態観察を行った。図1に作製した繊維径5,10及び15 μmの多孔質PLLA/DCPAファイバーのSEM画像を示す。すべての条件においてファイバーの表面及び内部が多孔質構造となっていることを確認した。加えて、多孔質PLLA/DCPAファイバーの表面から内部に至るまでDCPA粒子が包含されていることを確認した。
【0041】
(1-4)凍結粉砕法によるショートマイクロファイバーの作製
前述(1-3)で作製した多孔質PLLAファイバースキャホールドを 10 mm四方に切り抜き,ポリジメチルシロキサン(PDMS)を熱硬化させて作製した鋳型(35×35×6 mm,厚さ2 mm)に設置し,99.5%エタノール(054-00466,富士フイルム和光純薬株式会社)に浸漬させた。なお,PDMSは樹脂SILPOT 184W/C及び硬化剤CATALYST SILPOT 184(ケーワイケーテクノロジーズ社)を10:1の割合で混ぜ,白濁した樹脂を真空脱泡後に使用した。99.5%エタノールを抜き,DW(蒸留水)に浸漬させて凍結させることでファイバースキャホールドを封入した1辺35 mm,厚さ6 mmの氷を得た。さらに,ファイバースキャホールドの粉砕を容易にするために液体窒素を用いて凍らせ,凍結粉砕機(HTPH-01,アズワン株式会社)を用いて粉砕した。条件として,粉砕時間を1,3,5及び10秒,粉砕回数を1~5回とした。なお,粉砕回数が2回以上の場合,1度凍結粉砕したファイバーを氷ごとPDMS製の鋳型に移し,氷を溶解させたうえで-80℃環境下で凍結させてから再び同じ粉砕時間で凍結粉砕した。粉砕後,凍結乾燥機(FDU-1200 型,東京理科機械株式会社)を用いて乾燥させることで多孔質PLLAショートマイクロファイバーを得た。SEMによりショートファイバーの形態を観察した。なお,SEM観察時の加速電圧を8 kV,SS(スポットサイズ)を45とした。また,ショートファイバーの繊維長をImage Jにより測定した。同様に、前述(1-3)で作製した多孔質PLLA/DCPAファイバースキャホールドを粉砕時間10秒,粉砕回数1回の条件で凍結粉砕することで多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバーを作製した。
【0042】
(2-1)アパタイト析出能評価
作製した多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバーの生体内でのアパタイト析出能を評価するために,擬似体液(Simulated Body Fluid: SBF)を用いて浸漬実験を行った。SBFは生体内における人工材料表面のアパタイト析出能を評価する標準液として国際標準化機構に登録されている。SBFの作製は以下の手順によって作製した。Na142 mM,K 5.0 mM,Mg2+ 1.5 mM,Ca2+ 2.5 mM,Cl 148.8 mM,HCO3 4.2 mM,HPO4 2- 1.0 mM及びSO42-0.5 mMとなるようにNaCl (191-01665,富士フイルム和光純薬株式会社),NaHCO3 (199-01301,富士フイルム和光純薬株式会社),KCl (28514-75,ナカライテスク株式会社),K2HPO4・3H2O (28728-85,ナカライテスク株式会社),MgCl2・6H2O (20909-55,ナカライテスク株式会社),CaCl2及びNa2SO4(31916-15,ナカライテスク株式会社)の順に36.5 ±1.5℃の蒸留水に溶解した。溶解後,Tris (hidroxymethyl) aminomethane (T1503,SIGMA-ALDRICH)と1 M-HClを用いて36.5℃及びpH7.40となるようにSBFを作製した。なお,1 M-HClは蒸留水に35%濃塩酸 (HCl,7647-01-0,シグマアルドリッチジャパン株式会社)を溶解し,蒸留水でメスアップすることにより作製した。
【0043】
前述(1-4)で作製した多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバーを2 mlチューブに入れ,1 mlのSBFに37℃環境下で1,3及び7日間浸漬させた。SBFは1日ごとに500 μl交換した。SBF浸漬後,SBFを900 μl除去し,1 mlの蒸留水で2回洗浄することでファイバーの表面に付着した塩を除去した。このとき,誤ってファイバーを吸うことを防ぐために,SBFの交換及び蒸留水による洗浄の際,遠心分離機(テーブルトップ冷却遠心機3500,KUBOTA)を用いて遠心分離し,上清として残ったSBFまたは蒸留水を除去した。なお,条件として回転数13000 rpm及び時間10 minとした。洗浄後,凍結乾燥機を用いて乾燥させ,SEMによりファイバーの形態を観察した。なお,SEM観察時の加速電圧を8 kV,SSを45とした。さらに,浸漬前後のファイバーの繊維径をSigma scan proにより測定した。1本あたり3箇所測定し,その平均値を代表値とした。
【0044】
(2-2)統計処理
SBF浸漬実験において,各浸漬日数ごとの繊維径のデータを用いて正規性の検定を行った。正規性に従う場合,一元配置分散分析を行い,その後の多重比較にはTukey-Kramer testを用いた。一方,正規性に従わない場合,ノンパラメトリック検定であるKruskal-Wallis testを行った。なお,有意水準は5%とした。
【0045】
(2-3)結果
図2及び図3に粉砕回数及び粉砕時間による多孔質PLLAショートマイクロファイバーの繊維長の結果を示す。図2は、5回粉砕後の粉砕時間ごとによる多孔質PLLAショートマイクロファイバーのSEM画像を示す図であり、そのうち(a)は粉砕時間1秒であり、(b)は粉砕時間3秒であり、(c)は粉砕時間5秒であり、(d)は粉砕時間10秒であり、各図においてBar: 50μmであり、倍率は×500である。図3は、各粉砕回数及び各粉砕時間による多孔質PLLAショートマイクロファイバーの繊維長の結果を示す図であり、そのうち(a)は粉砕時間1秒であり、(b)は粉砕時間3秒であり、(c)は粉砕時間5秒であり、(d)は粉砕時間10秒である。粉砕時間1秒において,粉砕回数1~5回の平均繊維長はそれぞれ301,274,269,224及び181 μmとなった。粉砕時間3秒において,粉砕回数1~5回の平均繊維長はそれぞれ282,189,102,122及び105 μmとなった。粉砕時間5秒において,粉砕回数1~5回の平均繊維長はそれぞれ316,225,179,169及び150 μmとなった。粉砕時間10秒において,粉砕回数1~5回の平均繊維長はそれぞれ290,213,165,124及び120 μmとなった。すべての粉砕時間において粉砕回数の増加に伴って繊維長が短くなる傾向がみられた。また,繊維長のばらつきが減少する傾向がみられた。このことから,エレクトロスピニング法により作製した多孔質PLLAファイバーを凍結粉砕することで多孔質PLLAショートマイクロファイバーを得た。また,凍結粉砕する回数や時間といった条件を調節することで数十~数百μmオーダーの繊維長を制御することに成功した。
【0046】
図4に粉砕後の多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバーのSEM画像を示す。ファイバーの両端が潰れることなく,ファイバーの表面及び内部の多孔質構造が維持されていることを確認した。
【0047】
図5に浸漬前後の各繊維径の多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバーのSEM画像を示す。SBF浸漬1日後において析出したアパタイトが粒子状に存在しており,ファイバー表面の大部分がアパタイトにより被覆されていた。SBF浸漬3日後において,SBF浸漬1日後と比較してアパタイトがより析出し,ファイバー表面全体が滑らかなアパタイト被膜で覆われていた。また,アパタイトで被覆されたファイバー同士が接着している様子が確認された。SBF浸漬7日後において,SBF浸漬3日後と比較してファイバー表面のアパタイト被膜の凹凸が減少し,SBF浸漬3日後と同様にアパタイトで被覆されたファイバー同士が接着している様子が確認された。図6に各繊維径及び粉砕時間による多孔質PLLAショートマイクロファイバーの形態を示す。
【0048】
図7にSBF浸漬前後の繊維径の結果を示す。SBF浸漬前,1,3及び7日後においてそれぞれ6.1±0.8,7.9±1.1,8.3±0.9及び9.2±0.8 μmとなった。SBF浸漬日数が増加するに伴って繊維径が太くなる傾向がみられた。
【0049】
(3)骨基質産生評価
(3-1)多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバー混合アガロースゲルの作製
1-4で作製した多孔質PLLA/DCPAショートファイバーをPBSと懸濁することで多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバー懸濁液を作製した。作製した懸濁液と濃度2.0 w/v%のアガロースゲル溶液を1:1で混合することによりアガロースゲル溶液の最終濃度が1.0 w/v%の多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロース溶液を調製した。なお,多孔質PLLA/DCPAショートファイバーの混合量はアガロース溶液量に対して0 (control),0.2,0.4及び0.8 w/v%とした。また,濃度2.0 w/v%のアガロースゲル溶液はPBSにアガロース粉末(A4018-5G,SIGMA-ALDRICH)を溶解させることで作製した。作製した多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロース溶液及びアガロース溶液を自作のポリカーボネート製の型枠に80μl滴下し,カバーガラスで封入させたのち4℃環境下で30分間固化させた。直径6 mmの生検トレパンでくり抜くことで直径6 mm,厚さ2 mmの多孔質PLLA/DCPAショートマイクロファイバー混合アガロースゲルを作製した。
【0050】
(3-2)アパタイト析出能評価
3-1で作製した各ゲルを24 well plateに1 wellあたり1個設置し,1 mlのSBFに37℃環境下で1,3及び7日間浸漬させた。なお,SBFは1日ごとに1 ml交換した。SBF浸漬後,1 mlの蒸留水で2回洗浄することでゲルの表面に付着した塩を除去した。
【0051】
洗浄後,各ゲルをメス刃により半割した。半割したゲルを24 wellプレートに1wellあたり1個設置し,ゲル内のハイドロキシアパタイトの析出によるCa分布 を観察するためにアリザリン染色を行った。染色後,染色試薬を除去し,デジタルカメラを用いて撮影した。
【0052】
0.2,0.4及び0.8 w/v%のゲル内のファイバーの表面をSEMにより観察した。SBF浸漬後,メス刃でゲルを細かく刻み,凍結乾燥した。凍結乾燥したゲルをオスミウムプラズマコーターにより膜厚40 nmのオスミウムコーティングを行い,導電性を付与させた.その後,各ゲルから表出したファイバーの形態をSEMで観察した。
【0053】
図8にSBF浸漬前及び7日後のcontrol及び各条件の多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロースゲルの画像を示す。SBF浸漬前において,0.2,0.4及び0.8 w/v%の多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロースゲル内のファイバーがゲル全体に一様に存在しており,ファイバーの混合量が増加するに伴ってアガロースゲルが白くなる傾向がみられた。一方で,SBF浸漬7日後においてcontrolではアガロースゲルの色は透明であったものの,0.2,0.4及び0.8 w/v%の条件ではアガロースゲル全体が白濁している様子がみられた。また,0.2,0.4及び0.8 w/v%のアガロースゲルの白濁具合にあまり差はみられなかった。図9にSBF浸漬1,3及び7日後のcontrol及び多孔質PLLA/DCPAショートファイバー混合アガロースゲルのアリザリン染色画像を示す。Controlにおいて浸漬日数に関係なくアガロースゲルの色は透明であった。一方で,0.2,0.4及び0.8 w/v%の条件においてSBF浸漬3日後以降のアガロースゲルが全体的に赤く染色されていることよりハイドロキシアパタイトが全体に析出されていることが確認され,SBF浸漬7日後においてファイバーの混合量が増加するに伴ってゲルが濃い赤色に染色されている部分が増加する傾向がみられた。
【0054】
図10にSBF浸漬1,3及び7日後の各アガロースゲル内におけるショートマイクロファイバーのSEM画像を示す。SBF浸漬1日後について,すべての条件においてファイバー表面のアパタイトの析出は確認されなかった。SBF浸漬3日後について,すべての条件においてファイバー表面にアパタイトが析出しており,ファイバー表面の大部分が被覆されていることを確認した。SBF浸漬7日後のすべての条件においてSBF浸漬3日後と比較してファイバー表面がよりアパタイトで被覆されていることを確認した。また,アパタイト被膜を形成したファイバー同士の接着が散見された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
骨欠損部の治療に利用できる。
図1
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図10