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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004319
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】生体機能性材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/30 20060101AFI20250107BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20250107BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20250107BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20250107BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20250107BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A61L27/30 100
C23C16/27
C23C16/56
A61M25/00 500
A61M25/00 610
A61L29/02
A61L27/50 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103922
(22)【出願日】2023-06-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(71)【出願人】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(71)【出願人】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(71)【出願人】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 大樹
(72)【発明者】
【氏名】大澤 晋
(72)【発明者】
【氏名】國次 真輔
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕一
【テーマコード(参考)】
4C081
4C267
4K030
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AC08
4C081AC09
4C081BA06
4C081CF162
4C081DA03
4C081DC03
4C081EA15
4C267AA01
4C267BB06
4C267FF01
4C267GG02
4C267HH16
4K030AA10
4K030AA13
4K030AA16
4K030BA28
4K030CA07
4K030CA14
4K030CA17
4K030DA03
4K030DA08
4K030FA01
4K030JA05
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA11
4K030JA17
4K030JA18
(57)【要約】
【課題】親水性が高い生体機能性材料を実現できるようにする。
【解決手段】生体機能性材料は、基材111と、基材111の表面に形成された親水化ダイヤモンドライクカーボン膜112とを備えている。親水化ダイヤモンドライクカーボン膜112は、窒素、炭素及び酸素が、N-C=Oの状態で結合した部分を表面に有し、表面電荷が正の値を示し、水に対する接触角が30°以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成された親水化ダイヤモンドライクカーボン膜とを備え、
前記親水化ダイヤモンドライクカーボン膜は、窒素、炭素及び酸素が、N-C=Oの状態で結合した部分を表面に有し、表面電荷が正の値を示し、水に対する接触角が30°以下である、生体機能性材料。
【請求項2】
前記基材は、樹脂チューブである請求項1に記載の生体機能性材料
【請求項3】
内部圧力を調整可能なチャンバ内に、基材を配置し、炭化水素を含む成膜ガスを供給した状態において、交流高電圧プラズマを発生させて、前記基材の表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程と、
前記ダイヤモンドライクカーボン膜を形成した後で、アンモニアを含む親水化処理ガスを供給した状態において、交流高電圧プラズマを発生させて、前記基材の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜を親水化処理する工程とを備え、
親水化処理された前記ダイヤモンドライクカーボン膜は、窒素原子、炭素原子及び酸素原子が、N-C=Oの状態で結合した部分を表面に有し、表面電荷が正の値を示し、水による接触角が30°以下である、成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体機能性材料に関し、特にダイヤモンドライクカーボン膜を有する生体機能性材料及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、人工血管及びステント等の体内に留置する種々の医療機器が知られている。これらの医療機器には、生体親和性及び体内における耐食性が求められている。生体親和性及び耐食性を向上させる方法として、種々のコーティングが検討されている。
【0003】
医療機器に行うコーティングとしてダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が検討されている。DLC膜は、sp2結合及びsp3結合をした炭素及び水素を主に含む非晶質(アモルファス)膜である。DLC膜は化学的な安定性が高いので、DLC膜を基材にコーティングすることにより、生体親和性及び耐食性の向上が期待できる。このため、DLC膜をコーティングした種々の医療機器が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
生体親和性の1つの指標として、表面の親水性が高く、水に対する接触角が小さいことが挙げられる。しかし、DLC膜をシリコーンやポリウレタン等の樹脂の表面に形成しても、水に対する接触角は、樹脂本体の表面とほとんど変わらない。このため、親水性を向上させるために、DLC膜をコーティングしたあと、その表面にプラズマを照射して水酸基等の親水性の官能基を導入することも検討されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-145478号公報
【特許文献2】特開2021-138987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、DLC膜にプラズマを照射して水酸基等を導入しても、水に対する接触角は若干低下するだけであり、親水性を向上させる効果は極めて限定的である。さらに親水性を高めようとして、プラズマの密度を高くしたり、照射時間を長くしたりすると、DLC膜の劣化が進んでしまう。
【0007】
また、水酸基等を導入した場合には、表面電荷は大きな負の値を示し、正の電荷を有する表面を実現することができない。生体親和性の観点からは、表面電荷を自由に制御できることが好ましい。
【0008】
本開示の課題は、親水性が高い生体機能性材料を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の生体機能性材料の一態様は、基材と、基材の表面に形成された親水化ダイヤモンドライクカーボン膜とを備え、親水化ダイヤモンドライクカーボン膜は、窒素、炭素及び酸素が、N-C=Oの状態で結合した部分を表面に有し、表面電荷が正の値を示し、水に対する接触角が30°以下である。
【0010】
生体機能性材料の一態様において、親水化ダイヤモンドライクカーボン膜は、正の表面電荷と、小さな接触角を有しており、生体への親和性が非常に高い。また、ダイヤモンドライクカーボン膜であるため、劣化が生じにくく高い耐久性を有する。
【0011】
本開示の成膜方法の一態様は、内部圧力を調整可能なチャンバ内に、基材を配置し、炭化水素を含む成膜ガスを供給した状態において、交流高電圧プラズマを発生させて、基材の表面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程と、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成した後で、アンモニアを含む親水化処理ガスを供給した状態において、交流高電圧プラズマを発生させて、基材の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜を親水化処理する工程とを備え、親水化処理されたダイヤモンドライクカーボン膜は、窒素原子、炭素原子及び酸素原子が、N-C=Oの状態で結合した部分を表面に有し、表面電荷が正の値を示し、水による接触角が30°以下である。
【0012】
このような方法により、親水化DLC膜を製膜することが容易にでき、生体への親和性が高く、耐久性に優れた生体機能性材料を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の生体機能性材料によれば、親水性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る生体機能性材料を示す断面図である。
図2】プラズマ処理装置の一例を示す模式図である。
図3】接触角と親水化処理時間との関係を示すグラフである。
図4】表面電位と親水化処理時間との関係を示すグラフである。
図5】実施例1、3及び比較例2のXPS測定のスペクトルデータである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本開示の生体機能性材料は、基材111と、基材111の表面に形成された親水化ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜112とを有している。基材111は、特に限定されず、樹脂製のチューブやフィルム、金属の細線などの種々のものとすることができる。中でも、生体内に留置される医療機器に用いられる材料が好ましい。例えば、カテーテルや人工血管等に用いる、ポリウレタン、塩化ビニル、シリコーン及びポリ四フッ化エチレン等の樹脂材料とすることができる。これらの基材の形状は特に限定されないが、シート状やチューブ状とすることができる。
【0016】
DLC膜は、sp2結合及びsp3結合を形成した炭素(C)及び水素(H)を含む、アモルファス膜である。本実施形態の親水化DLC膜112は、少なくともその表面にC及びHだけでなく、窒素(N)及び酸素(O)を有している。本実施形態の親水化DLC膜112は、C、N及びOが、N-C=Oの状態で結合した部分を表面に有している。また、表面電荷が正の値を示し、好ましくは10mV以上、より好ましくは15mV以上である。また、水に対する接触角が30°以下、好ましくは25°以下、より好ましくは20°以下である。なお、親水化DLC膜112の表面には、N-C、N=C、及びNH2の状態で窒素原子が結合した部分も存在している。
【0017】
親水化DLC膜112の膜厚は、特に限定されないが、基材111に十分な機能性を付与する観点から好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上である。また、剥離等を防止する観点からは好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0018】
親水化DLC膜112は、カテーテルのような両面が血液と接触する可能性がある医療機器の場合には、基材111の内面及び外面の両面に形成されていることが好ましい。但し、医療機器の種類に応じて、内面及び外面の一方にのみ形成されている構成とすることもできる。
【0019】
本実施形態の生体機能性材料は、水に対する接触角が非常に小さい親水性であり、生体に対して高い親和性を有する。このため、カテーテルや人工血管等の、体内に埋め込まれる医療機器とした場合に、血栓等の発生を抑えることができる。また、基材の表面に存在するのは、親水化されたDLC膜であるため、生体内において劣化しにくく、生体内に長期に留置した場合にも、安定して機能させることができる。
【0020】
本実施形態の生体機能性材料は、以下のようにして形成することができる。まず、基材の表面にDLC膜を形成する。次に、真空チャンバ内にアンモニア等の窒素を含む親水化処理ガスを供給してプラズマを発生させて、DLC膜にN-C=Oの状態で結合した構造を導入して親水化する。基材の表面に形成するDLC膜は、酸素原子(O)を含むものが好ましい。このようにすれば、親水化処理ガスに酸素が含まれていなくても、N-C=Oの状態の結合を形成することができる。この場合、DLC膜におけるOのC,H及びOの合計に対する割合は5~15原子%とすることが好ましい。DLC膜におけるOの割合は、実施例において示す、X線光電子分光(XPS)法により測定することができる。
【0021】
DLC膜の形成方法は特に限定されず、どのような方法を用いることもできるが、高圧交流プラズマCVD(化学気相堆積)法を用いることにより、親水化処理を続けて行うことができる。高圧交流プラズマCVDの場合、チャンバ内に炭化水素を含む原料ガスを供給してプラズマを発生させて、DLC膜を形成した後、供給するガスを親水化処理ガスに変えるだけで、親水化処理を行うことができる。
【0022】
また、原料ガスを供給する前に、チャンバ内を所定の圧力まで減圧することにより、チャンバ内に存在する酸素(O2)及び水蒸気(H2O)の量を調整して、酸素原子を含むDLC膜を形成することができる。初期の減圧は、1×10-2Pa~1×10-3Pa程度とすることが好ましい。これにより、チャンバ内に微量に酸素及び水蒸気が残存するので、C,H、Oを含み、OのC,H及びOの合計に対する割合が5~15原子%程度のDLC膜を形成することができる。なお、チャンバ内をさらに高真空に減圧し、チャンバ内のO2及びH2Oをほぼ0とした後、原料ガスにO2及びH2O等のOを含むガスを混合して供給することにより、DLC膜にOを取り込ませることもできる。
【0023】
原料ガスに含まれる炭化水素は、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン等を用いることができ、取り扱いの観点からメタンが好ましい。また、原料ガスには、テトラメチルシラン等の有機ケイ素化合物や、ヘキサメチルジシロキサン等の酸素含有有機ケイ素系化合物を気化させて用いることもできる。原料ガスは、必要に応じてアルゴン、ネオン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈して供給することができ、取り扱いの観点からアルゴンにより希釈することが好ましい。希釈する場合、炭化水素と不活性ガスとの比率は、10:1~10:5程度とすることが好ましい。
【0024】
成膜の際のチャンバ内の圧力は、原料ガスを供給した状態で5Pa~200Pa程度とすることが好ましい。また、原料ガスのフローレートは50sccm~200sccm程度とすることができる。
【0025】
成膜の際に放電電極に印加するバイアス電圧は、1kV~20kV程度とすることができる。放電電極の損傷や温度上昇を避ける観点から10kV以下とすることが好ましい。交流電圧の周波数は、1kHz~50kHz程度とすることが好ましい。交流電圧は、温度上昇を抑える観点から、断続的に加えるパルスバイアスとすることが好ましい。交流をバースト波とする場合には、パルス繰り返し周波数を3pps~50pps程度とすることが好ましい。基材の種類や、成膜時間、交流印加電圧等にもよるが、パルス繰り返し周波数を30pps程度以下とすることにより基材の温度を200℃以下とすることができる。成膜速度を高くしたい場合には、パルス繰り返し周波数を高くし、温度上昇を抑えたい場合はパルス繰り返し周波数を低くすればよい。
【0026】
放電を安定させ、DLC膜の密着性を得るために、放電電極にオフセット負電圧を印加することが好ましい。オフセット電圧は0kV~3kV程度とすることができる。
【0027】
成膜時間は、基材の種類や、必要とするDLC膜の膜厚に応じて調整することができるが、5分~60分程度とすることができる。
【0028】
表面にDLC膜を形成する前に、アルゴン等の不活性ガスのプラズマを発生させ、基材の表面をボバードクリーニングすることもできる。基材の種類によっては、ボンバードクリーニングを行うことにより、DLC膜の密着性が大きく向上する。
【0029】
親水化処理ガスは、窒素源を含むガスとすることができる。窒素源は、アンモニアをはじめとして、一般式がNR123により示される有機アミン類(但し、R1、R2及びR3は水素、-CH3、-C25、-C37又は-C48であり、R1、R2及びR3は互いに同一であっても、異なっていてもよい。)又はベンジルアミン及びその2級、3級アミン等とすることができる。中でもアンモニアは、コスト、取り扱いの容易さから好ましい。親水化処理ガスは、アンモニア等の窒素源を、不活性ガスにより希釈したものとすることも、希釈せずに用いることもできる。
【0030】
親水化処理前のDLC膜を、先に示したようなC及びHだけでなくOを含んでいるものとすることにより、親水化処理の際に使用する親水化処理ガスは酸素を含むものである必要はない。この場合、親水化処理ガスが酸素を含んでいない場合においても、DLC膜に含まれるOの一部が反応し、N-C=Oの結合を形成する。親水化DLC膜の表面領域(表面から2nm~6nmの領域)におけるN-C=Oの結合を形成しているCの割合は、5at%~15at%とすることが好ましい。表面領域におけるN-C=Oの結合を形成しているCの割合は、実施例において示す、X線光電子分光(XPS)法により測定することができる。
【0031】
高圧交流プラズマCVDによりDLC膜を製膜した場合、親水化処理ガスのプラズマは、原料ガスのプラズマと同様の条件により発生させることができる。プラズマの放電による親水化処理の時間は、5秒~100秒程度とすることが好ましい。放電時間をこのような範囲とすることにより、親水性を向上させることができると共に、DLC膜の劣化も抑えることができる。
【0032】
DLC膜を製膜後、親水化処理は直ちに行うことが好ましい。DLC膜を製膜する際に発生したダングリングボンドは、成膜後の環境によって様々な反応を引き起こす可能性がある。DLC膜の成膜後に大気暴露を行うことなく続けて親水化処理を行うことにより、このような不確定要因を排除して再現性良く親水化を行うことができる。但し、基材の表面にDLC膜を製膜後、大気暴露して保管した後、親水化処理を行うこともできる。この場合、DLC膜の成膜と、親水化処理とは異なるチャンバを用いて行うこともできる。
【0033】
基材が、カテーテル等のチューブ状である場合は、図2に示すようなプラズマ装置200を用いることができる。プラズマ装置200は、内部に成膜対象である、チューブ状の基材111を収用するチャンバ201を有している。チャンバ201は、チャンバ内を減圧する真空排気部202と、プラズマ発生部203と、ガスを供給するガス供給部205とを有している。
【0034】
本実施形態において、真空排気部202は、真空ポンプ222とバルブ223とを有している。真空排気部202は、チャンバ内の圧力を所定の値に制御することができればどのような構成であってもよい。本実施形態において、ガス供給部205は、複数のボンベ251と、ボンベ251の切り替えを行う流路切り替え部252と、マスフローコントローラ253とを有している。ガス供給部205は、プラズマ発生部203に必要なガスを供給できればどのような構成であってもよい。
【0035】
プラズマ発生部203は、筒状の発生部本体235と、放電電極231及び対向電極と、電源部233とを有している。放電電極231は、筒状の発生部本体235の第1の端部側に挿入されている。発生部本体235の第1の端部側には、ガス供給部205に接続されたガスノズル236が接続されている。電源部233は、電圧発生器237と増幅器238を有しており、放電電極231と対向電極との間に交流電圧を印加する。対向電極は、接地電極であり、チャンバ201の内壁となっている。
【0036】
プラズマ発生部203の発生部本体235の長さは、特に限定されないが、放電電極231を挿入して内部にプラズマを発生させる観点から、30mm~150mm程度とすることが好ましい。発生部本体235の内径は、特に限定されないが、プラズマを効率良く発生させる観点から4mm~12mm程度が好ましい。発生部本体235の材質は、特に限定されないが、シリコーン樹脂、フッ素樹脂又はポリイミド樹脂等の耐熱温度が高い樹脂が好ましい。
【0037】
放電電極231の外径は、発生部本体235に挿入できるものであればよいが、第1の端部側からのガス供給を可能にするために、発生部本体235の内径よりも外径が1mm~5mm程度小さいものが好ましい。発生部本体235内部においてプラズマを効率良く発生させる観点から、放電電極231は発生部本体235内に5mm~50mm程度挿入されていることが好ましい。放電電極231は、導電性であればよく、例えば金属とすることができる。金属の場合、耐食性等の観点からステンレス鋼が好ましい。放電電極231を金属としても、放電電極から5cm程度以上離れた位置においては、金属汚染はほとんど生じない。金属の影響をさらに避ける観点から、放電電極231を炭素電極とすることもできる。本実施形態の成膜装置の場合、炭素電極も容易に形成することができる。
【0038】
図2において対向電極はチャンバ201の内壁であるが、このような構成に限らず、放電電極231との間に電圧を印加して放電によりプラズマを発生させることができればどのようなものであってもよい。例えば、対向電極は、放電電極231と離間して配置された平板又はメッシュ状の電極とすることができる。
【0039】
チャンバ201内を減圧した状態で、電極に電圧を印加することにより、発生部本体235内において、ガスノズル236から供給されたガスをプラズマ化することができる。プラズマ発生部203において発生させたプラズマは、ガス流に乗って基材111内を通過する。これにより、基材111の内表面がプラズマにより処理される。基材111内を通過したプラズマ化されたガスは、先端部から外へ流出し、チャンバ201内に拡散する。これにより、基材111の外表面もプラズマにより処理することができる。基材111を通過したガスをチャンバ201外へ直接排気するようにすれば、基材の内表面のみをプラズマにより処理することもできる。
【0040】
発生部本体235に少し太いチューブ状の外筒部を接続し、外筒部の中にチューブ状の基材を収容することもできる。このようにすれば、人工血管のような多孔性の基材もプラズマにより処理することができる。また、プラズマ発生部203を設けずに、チューブ状の基材111の基端部に放電電極231を挿入してプラズマを発生させることもできる。
【0041】
ガス供給部205により、炭化水素を含む原料ガスを供給することにより、基材111の表面にDLC膜を形成することができる。DLC膜を製膜した後、バルブを切り換えて親水化ガスを供給することにより、基材111の表面に形成されたDLC膜を親水化することができる。成膜後、親水化処理を行う前に、チャンバ201内を減圧することもできる。このようにすれば、チャンバ201内を原料ガスから親水化ガスにスムーズに切り換えることができる。
【0042】
チューブ状に限らず、中空部分を有する種々の形状の基材についても同様にして、内部にプラズマを発生させ内表面に親水化DLC膜を形成することができる。また、シート状の基材の場合には、並行平板型のプラズマ装置により親水化DLC膜を形成できる。
【0043】
本実施形態の生体機能性材料は、親水性が高く、種々の医療機器に用いることができる。また、医療機器の形に成形した後で、親水化DLC膜を形成することもできる。図2に示すようなプラズマ装置を用いれば、例えば、内径が0.8mm~10mm程度で、長さが50mm~5000mm程度のチューブの内面及び外面に親水化DLC膜を形成することができるので、親水化DLC膜を有するカテーテルや人工血管等のチューブ状の医療機器を容易に実現できる。
【実施例0044】
以下に実施例を用いて、本発明についてさらに具体的に説明する。以下の実施例は、例示であり本発明を限定することを意図しない。
【0045】
<親水化DLC膜の形成>
図2に示す装置の発生部本体235に、内径が8mm、長さが1100mmのシリコーンチューブを接続し、チューブ内に幅が7mm、長さが25mm、厚さが0.15mmのポリウレタンシートを挿入した。チューブ内にメタン(CH4)を流した状態でプラズマを発生させ、ポリウレタンシートの表面にDLC膜を形成した。成膜時に、チャンバ内の圧力を一旦7×10-3Paまで減圧した後、原料ガスを供給してチャンバ内の圧力を39Paとした。原料ガスの流量は96.2ccmとした。放電の条件は、電圧を5kV、周波数を10kHz、パルス繰り返し周波数を10ppsとし、2kVのオフセット電圧を印加した。成膜時間は、20分とした。なお、チャンバを設置した部屋の温度は23℃、湿度は30%~40%に制御した。
【0046】
DLC膜を製膜した後、ガスをアンモニアに切り換え、成膜の際と同じ条件で放電を行い、DLC膜を親水化した。
【0047】
<接触角の測定>
各試料の水に対する接触角測定は、固液界面評価装置(協和界面科学株式会社製、Dropmaster500)を用いて測定した。測定は、蒸留水1.5μLを試料の表面に着滴させ、2秒後に行った。
【0048】
<表面電位の測定>
各試料の表面電位は、ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELSZ-1000)を用いて測定した。平板セル内の異なる点の電気移動度を測定し,「森・岡本の式」を用いた電気浸透流の解析法により評価した。モニター粒子には表面電位がほぼゼロのヒドロキシプロピルセルロース(MW=30000)でコーティングしたポリスチレンラテックス(粒子径約500nm)を用いた。モニター粒子の懸濁液は、10mmol/Lの塩化ナトリウム(NaCl)溶液で2500に倍希釈して用いた。
【0049】
<化学結合状態の測定>
各試料について表面の化学結合状態を、X線光電子分光(XPS)法により測定した。測定には、走査型X線光電子分光分析装置(ULVAC製、PHI500 VersaProbeIII)を用い、X線源は単色化Al-kα(波長:1486.6eV)とし、X線出力は25W、分析径は100μmとした。
【0050】
測定により得られた各ピークは、擬似Voigt関数と呼ばれる下記の式(1)を用いてフィッティングした。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、Aは振幅、μは中心位置、σは半値全幅、αはガウス・ローレンツ成分比である。この擬似Voigt関数のガウス・ローレンツ成分比は、予備フィッティングで最も誤差の少ないもの(α=0.3)を使用した。C1sピークのフィッティングは、Levenberg-Marquardtアルゴリズムによる非線形最小二乗法で行った。フィッティングの解析は、Pythonで自作したプログラムを用いて行った。
【0053】
(実施例1)
親水化処理の時間を5秒とした。接触角は21.2°であった。表面電位は16.4mVであった。XPS測定の結果、C1s、N1s、O1sのピークが認められた。ピーク強度より算出した、C、N、Oの各原子の存在比率は76:15:9であった。各ピークについて解析を行った結果、N=C-O及びNH2の化学結合状態の部分が表面に存在していることが確認された。
【0054】
(実施例2)
親水化処理の時間を10秒とした。接触角は16.7°であった。表面電位は27.2mVであった。
【0055】
(実施例3)
親水化処理の時間を20秒とした。接触角は9.4°であった。表面電位は17.1mVであった。XPS測定の結果、C1s、N1s、O1sのピークが認められた。ピーク強度より算出した、C、N、Oの各原子の存在比率は76:15:9であった。各ピークについて解析を行った結果、N=C-O及びNH2の化学結合状態の部分が表面に存在していることが確認された。
【0056】
表1に、実施例3のXPS測定による化学結合の解析結果を示す。C1sの286.1eVの成分は、C-O及びC-Nの単結合であると考えられるが、O1sには、O-Cの単結合である533.7eVの成分がほとんど認められなかったので、大部分がC-N単結合であると考えられる。これら結果から、XPS測定により測定される親水化DLC膜の表面領域(深さ2nm~6nm程度の領域)におけるCは、約70at%~75at%のDLC(C-C,C-H)成分と、約10at%~15at%のアミド結合(N-C=O)と、約5at%~10at%のカルボニル又はカルボキシル等のC=O結合と、約3at%~5at%のアミノ基(-NH2)として存在していると考えられる。
【0057】
【表1】
【0058】
(実施例4)
親水化処理の時間を30秒とした。接触角は14.6°であった。表面電位は23.1mVであった。
【0059】
(実施例5)
親水化処理の時間を60秒とした。接触角は16.3°であった。表面電位は19.9mVであった。
【0060】
(比較例1)
未処理のポリウレタンシートの接触角は87.3°であり、表面電位は-3.9mVであった。
【0061】
(比較例2)
親水化処理を行っていない場合の接触角は83.3°であり、表面電位は4.2mVであった。XPS測定の結果、C1s、O1sのピークが認められたが、N1sの明確なピークは認められなかった。
【0062】
(比較例3)
親水化処理ガスを酸素ガスとした場合の接触角は、処理時間が2秒の場合に56.4°であった。また、処理時間が10秒の場合の表面電位は-12.4mVであった。
【0063】
各実施例及び比較例について、表2にまとめて示す。また、図3及び図4にそれぞれ、接触角及び表面電位と親水化処理時間との関係を示す。図5には、実施例1、3及び比較例2のXPSワイドスキャンスペクトルを示す。
【0064】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示の生体機能性材料は、親水性が高く、特に医療機器の分野において有用である。
【符号の説明】
【0066】
111 基材
112 親水化DLC膜
200 プラズマ装置
201 チャンバ
202 真空排気部
203 プラズマ発生部
205 ガス供給部
222 真空ポンプ
223 バルブ
231 放電電極
233 電源部
235 発生部本体
236 ガスノズル
237 電圧発生器
238 増幅器
251 ボンベ
252 流路切り替え部
253 マスフローコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5