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特開2025-4328二次電池、二次電池用電極及び二次電池用電解質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004328
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】二次電池、二次電池用電極及び二次電池用電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/46 20060101AFI20250107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M4/46
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103939
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】521172376
【氏名又は名称】合同会社Technology On Demand
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆彦
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050CB12
(57)【要約】
【課題】カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係る二次電池1は、少なくとも1ヶ所の二次電池構成部材3がLPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する。二次電池は、LiB(リチウムイオン電池)であることが好ましい。また、二次電池構成部材が電極5及び/又は電解質7であることが好ましい。Mg系合金は、Mg-Li合金であることが好ましく、また、Mg系合金は、遷移金属元素及び希土類元素を含有することが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1ヶ所の二次電池構成部材がLPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する二次電池。
【請求項2】
前記二次電池がLiB(リチウムイオン電池)である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記二次電池構成部材が電極及び/又は電解質である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記Mg系合金がMg-Li合金である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記Mg系合金が遷移金属元素及び希土類元素を含有する、請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記Mg系合金が前記LPSO構造を少なくとも組織の一部に含むMg系ハイエントロピー合金及び/又はMg-Li系ハイエントロピー合金を含有する、請求項1から5に記載の二次電池。
【請求項7】
LPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する二次電池用電極。
【請求項8】
LPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する二次電池用電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、二次電池用電極及び二次電池用電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を用いて電気エネルギーを取り出す装置として、一次電池(primary battery)、二次電池(secondary battery、rechargeable battery)及び燃料電池(fuel cell)が知られている。電池は、酸化剤と還元剤を電子とイオンを仲立ちとして反応させ、そのときに放出されるギブズ(Gibbs)の自由エネルギーを直接電気エネルギーに変換するシステムである。
【0003】
一次電池は、電池には使い切ってしまうと再充電できない若しくは再充電の効率が低いため廃棄され、二次電池は、放電した後充電して再放電が可能となる。電池の放電では、正極で酸化剤が電子を受け取ることで還元され、負極で還元剤が電子を放出して酸化される。
【0004】
しかしながら、二次電池の場合、放電と充電を繰り返すと、負極に金属元素が樹脂状(デンドライト)に析出し、充電効率、信頼性及び安全性の点で致命的な問題となっている。
【0005】
これに対し、特許文献1には、リチウム(金属)の吸蔵―放出が可能な炭素及び黒鉛を負極材料とするリチウムイオン電池に係る発明が開示されている。
【0006】
一方、近年のポータブル機器及び電気自動車の普及に伴い、小型化及び軽量化を可能とする二次電池の需要が高まっている。
【0007】
電池の性能の中でも電池の高エネルギー密度化は重要である。電池のエネルギー密度の示し方は大きく分けて二つある。一つは体積エネルギー密度(Wh/l)である。これは電池の小型化の指標として用いられる。もう一つは重量エネルギー密度(Wh/kg)である。これは電池の軽量化の指標として用いられる。
【0008】
電池のエネルギー密度は、主として発電要素を構成する正極や負極の電池活物質により
決定される。また、電解質やセパレータも重要な要素である。更に、発電要素を収納する金属ケースの小型化、軽量化も重要な要素として見直されている。特許文献2には、金属ケースをMg-Li系合金として軽量化し、全体として電池の重量エネルギー密度を向上させるリチウムイオン電池に係る発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-142089号公報
【特許文献2】特開2001-283796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、国内外で様々な気象災害が発生している。個々の気象災害と気候変動問題との関係を明らかにすることは容易ではないが、気候変動に伴い、今後、豪雨や猛暑のリスクが更に高まることが予想されている。気候変動の原因となっている温室効果ガスは、経済活動・日常生活に伴い排出されていると言われている。
【0011】
これに対し、日本国政府は、2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。カーボンニュートラルとは、COの排出量を、カーボンネガティブ要素(森林等によるCOの吸収)とのキャンセルによりゼロにすることである。カーボンニュートラルの実現に向けて、誰もが無関係ではなく、あらゆる主体が取り組むことが求められている。
【0012】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された発明は、いずれも負極に炭素及び黒鉛を用いることを前提としている。二次電池の製造・廃棄時の温室効果ガス排出量による規制(カーボンフットプリント規制)やリサイクルに関する規制等を踏まえつつ政府が定める目標を実現することを考慮すると、負極に炭素及び黒鉛を用いることとは別のアプローチで二次電池を提供可能にすることが望ましい。
【0013】
本発明は、カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、二次電池の電池構成部材にLPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を用いることで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0015】
第1の特徴に係る発明は、少なくとも1ヶ所の二次電池構成部材がLPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する二次電池を提供する。
【0016】
第1の特徴に係る発明によれば、軽量なMgベースの合金マトリクスを使用しており、カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池を提供できる。
【0017】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、LiB(リチウムイオン電池)である二次電池を提供する。
【0018】
第2の特徴に係る発明によれば、小型で軽量な二次電池を提供することができる。
【0019】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記二次電池構成部材が電極及び/又は電解質である二次電池を提供する。
【0020】
第3の特徴に係る発明によると、LPSO構造を有する組織(以下、「LPSO組織」ともいう。)は、Mgの層とLPSOの多重層から構成され、Liイオンのインターカレーションのサイトとして利用可能である。なお、従来の有機質高分子系の電解質は発火のリスクを有するが、電解質がLPSO組織を有するMg-Li合金であると、固体電解質であることから発火の恐れがない。
【0021】
以下、LPSO組織がLiイオンのインターカレーションのサイトとして利用可能であることを詳しく説明する。
【0022】
まず、フルインターカレーション型LiB(リチウムイオン電池)の正極活物質として用いられるマンガン酸リチウムの結晶構造とリチウムのイオン半径とを比較する。
【0023】
スピネル型酸化物であるLiMn(0≦x≦1)は、リチウムイオンの拡散チャンネルとリチウムイオンを収納するサイトとを持ち、格子構造を保持したままリチウムイオンを格子位置に出し入れする。その際、マンガンイオンの価数は、電荷補償のため、x=1のときの+3.5からx=0のときの+4の間で変化する。
【0024】
+4価のマンガンイオンとリチウム空格子(空孔)からなるx=0の酸化 Mn(Mnの前におけるスペースは、リチウムイオンを収納するサイトが空孔であることを意味する。)はλMnOと呼ばれ、リチウムイオン二次電池の電極材料として使われている。
【0025】
また、LiMn及びLiMnからLiを除いた結晶(λMnO)は、いずれもスピネル型結晶構造を有する。スピネル型酸化マンガンλMnOのイオン交換容量の指標としての水酸基密度について、非特許文献1は、格子定数の変化がLiMnの調製方法により若干のばらつきがあるものの、おおよそ次のような類似の値をとることを開示している。
調製方法1)LiMn:0.8226nm→λMnO2:0.8038nm
調製方法2)LiMn:0.8251nm→λMnO2:0.8028nm
【0026】
一方、Liのイオン半径は0.145nm、直径は0.29nmと評価され、λMnOの格子定数0.80nmに対し、Liイオンの直径はλMnOの格子定数の約36%である。すなわち、Liイオンの直径より大きな格子定数を有する骨格構造の結晶であれば、フルインターカレーション可能である。
【0027】
次に、LPSO組織の格子間隔と、Liイオンの直径を比較する。
【0028】
LPSO組織は、元のhcp構造(六方最密充填構造)に周期的な積層欠陥が導入されることにより、積層秩序が形成される結果得られる組織である。例えば、24R(斜方晶結晶構造)周期構造を含む積層秩序の1層間隔(格子間隔は1層間隔の2倍)は0.27nmであり、c軸の格子間隔は約0.54nmと見積もられる。c軸の格子間隔0.54nmとLiイオンの直径0.29nmのサイズ比は、約54%と見積もられる。すなわち、Liイオンは、格子間隔とイオン直径の比較から、LPSO組織の結晶格子内を十分インターカレーション可能である。
【0029】
以上から、第3の特徴に係る発明によると、LPSO組織は、Mgの層とLPSOの多重層から構成され、Liイオンのインターカレーションのサイトとして利用可能である。
【0030】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれかの特徴に係る発明であって、前記Mg系合金がMg-Li合金である二次電池を提供する。
【0031】
第4の特徴に係る発明によれば、軽量なα―Mg(hcp構造:六方最密充填構造又は稠密六方格子構造)とβ―Mg(Mg-Li合金:bcc構造:体心立方格子構造)の結晶粒を囲むようにLPSO構造を有する組織が析出し、β―Mgは、変形吸収サイトになる。
【0032】
第5の特徴に係る発明は、第1から第4のいずれかの特徴に係る発明であって、前記Mg系合金が遷移金属元素及び希土類元素を含有する二次電池を提供する。
【0033】
第5の特徴に係る発明によれば、LPSOの層間距離は、Mg又はMg-Li合金に添加する遷移金属元素又は/及び希土類元素の種類と量により制御可能な二次電池を提供できる。
【0034】
例えば、Mg結晶中に形成された亜鉛(Zn)及びイットリウム(Y)が濃化した相の中には、電池反応に寄与するイオンが滞在できる隙間があると見積もられ、イオン伝導の担い手となる格子欠陥が存在する。すなわち、欠陥生成の観点からも、LPSO中のイオン伝導が可能である。
【0035】
第6の特徴に係る発明は、第1から第5のいずれかの特徴に係る発明であって、前記Mg系合金が前記LPSO構造を少なくとも組織の一部に含むMg系ハイエントロピー合金及び/又はMg-Li系ハイエントロピー合金を含有する二次電池を提供する。
【0036】
第6の特徴に係る発明によると、高温での使用に好適な強度特性を有する二次電池を提供できる。
【0037】
第7の特徴に係る発明は、LPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する二次電池用電極を提供する。
【0038】
第8の特徴に係る発明は、LPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する二次電池用電解質を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明によると、カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る二次電池(リチウムイオン電池,LiB)を断面において見たときの概略を示す概略模式図である。
図2図2(A)は、Mg-Li合金の結晶粒の状態の模式図であり、図2(B)は、LPSO組織のSTEM-HAADF(走査透過型電子顕微鏡-高角散乱環状暗視野法)像である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るMg-Li-Y-Z合金を走査透過型電子顕微鏡(STEM)により組織観察したときの結果を示す図である。Yは遷移金属元素を、Zは希土類元素を示す。
図4図4は、当該Mg-Li-Y-Z合金に含まれるLPSO組織について、Mg、Y及びZのエネルギー分散型X線分光法による元素マッピング(EDS Mapping)を示す図である。(c)は希土類元素Y(イットリウム)を、(d)は遷移金属元素Cu(銅)を示す。
図5図5は、本発明の第1実施形態に係る78.5%Mg-18.0%Li-1.5%Cu-2.0%Y(イットリウム)合金(%は原子パーセントを示す)を鋳造して得られるLPSO構造のSTEM-HAADF像である。
図6図6は、図5の一部を拡大した図である。
図7図7は、本発明の第1実施形態に係る78.5%Mg-18.0%Li-1.5%Ni-2.0%Y(イットリウム)合金(%は原子パーセントを示す)を鋳造して得られるLPSO構造のSTEM-HAADF像である。
図8図8は、本発明の第1実施形態に係る78.6%Mg-18.0%Li-0.7%Cu-0.7%Ni-2.0%Y(イットリウム)合金(%は原子パーセントを示す)に対して400℃、100時間の熱処理を行って得られるLPSO構造のSTEM-HAADF像である。
図9図9は、フルインターカレーション型LiB(リチウムイオン電池)の正極活物質として用いられるマンガン酸リチウムの結晶骨格構造とイオンサイズとを比較したときの模式図である。
図10図10は、本発明の第1実施形態である、固体リチウムイオン電池の負極にLPSO構造を有するMg-Li-Y-Z合金を適用した場合の電池特性を示す図である。Yは遷移金属元素を、Zは希土類元素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための好適な形態の例について、図を参照しながら説明する。より詳しくは、小型で軽量な二次電池の代表例として、二次電池がリチウムイオン電池である場合について説明する。なお、これらはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。例えば、二次電池がリチウムイオン電池であることに限定されるものではないし、二次電池を構成する各部材についても、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0042】
〔二次電池1〕
図1は、二次電池(リチウムイオン電池)1を正面から見たときの概略を示す概略模式図である。二次電池1は、少なくとも、筐体2と、電池構成部材3とを備える。電池構成部材3は、少なくとも、正極4と、負極5と、セパレータ6と、電解質7とを有する。
【0043】
本図は液系の電解質を用いた場合の二次電池であるが、固体電解質を用いた場合は、セパレータ6は不要である。固体電解質を用いた実施形態も本発明に係る二次電池である。
【0044】
リチウムイオン電池は、外部の充電電極(不図示)により、電流の移動に伴って正極4の結晶構造からリチウムイオンが電解質7中に抜け出し、負極5の結晶層間に挿入される(充電反応)。一方、負極5の結晶層間からリチウムイオンが電解質7に抜け出し、正極4の結晶構造に挿入されることで、外部回路(不図示)に電流が取り出せ、負荷(不図示)に仕事をさせる(放電反応)。
【0045】
リチウムイオン電池の一般的な反応式は、以下の通りである。
正極 : Li(1-x)MO + xLi + xe ←→ LiMO
(Mは、金属元素(例:Ni、Mn、Co)である。)
負極 : LiC ←→ C + xLi + xe
電池全体:Li(1-x)MO + LiC ←→ LiMO + C
【0046】
[筐体2]
筐体2は、電池構成部材3(例えば、正極4、負極5、セパレータ6、及び電解質7)を所定の位置関係において収容する。筐体2は、特に限定されず、従来技術の二次電池用の筐体2で良い。筐体2を備えることにより、各種の電池構成部材3を二次電池1が好適に動作する所定の位置関係において収容することができる。なお、筐体2がMg合金であれば、軽量であり、二次電池1を小型で軽量とすることが可能であるため、好ましい。
【0047】
[電池構成部材3]
電池構成部材3は、少なくとも、正極4と、負極5と、セパレータ6と、電解質7とを有する。
【0048】
(正極4)
正極4は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する。正極4は、充電の際には電流の移動に伴って正極4の結晶構造からリチウムイオンが電解質7中に抜け出し、また、放電の際にはリチウムイオンが正極4の結晶構造に挿入されれば良い。
【0049】
例えば、リチウム遷移金属複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、チタン酸リチウム(LiTiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)であっても良い。
【0050】
(セパレータ6)
負極5に先立ち、セパレータ6について説明する。セパレータ6は、正極4と負極5との間に挿入され、正極4と負極5とを絶縁する目的で使用される。また、同時に、リチウムイオンがこのセパレータ6を通して移動することで電池が機能することから、短期的な出力特性のみならず、長期的な寿命で透過性を担保することが必要となる。セパレータ6は、絶縁特性と透過性を担保できれば良く、特に限定されず、従来技術の二次電池用のセパレータ6、例えば、ポリエチレン製微多孔膜であっても良い。
【0051】
(負極5及び電解質7)
負極5及び電解質7のいずれか一方は、LPSO構造(長周期積層規則構造:Long Period Stacking Ordered Structure)を有するMg系合金を含有する。
【0052】
負極5が当該Mg系合金を含有する場合、負極5は、軽量なMgベースの合金マトリクスを使用しているため、カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池1を提供できる。
【0053】
電解質7は、正極4と負極5との間にあって、電荷キャリアとなるイオンを含む。電解質7には、少なくとも一部がリチウムイオンとして存在し、リチウムイオンが両極間を可逆的に移動する。負極5が当該Mg系合金を含有する場合、電解質7は、従来技術の二次電池用の電解質7、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)であっても良い。
【0054】
ここで、電解質7は、少なくとも一部が媒質に溶解又は分散してリチウムイオンとする媒質(溶媒等)が必要である。媒質としては、有機質高分子系の媒質、例えば、エチレンカーボネート(EC)含有溶媒が使用される。ただし、有機質高分子系の媒質を用いるリチウムイオン電池は、発火のリスクがある。よって、電解質7は、固体電解質、例えば、LPSO構造を有するMg-Li-Y-Z合金であれば、好ましい。ここで、Yは遷移金属元素を、Zは希土類元素を示す。
【0055】
他方、電解質7が当該Mg系合金を含有する場合、負極5は、炭素及び黒鉛とは異なる材料であれば、特に限定されない。負極5の種類として、酸化物(LiTi12等)、合金(Si-(SiO)、Sn-(SnO)、Al-(Al)等)、Li金属等が挙げられる。これにより、カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池1を提供できる。
【0056】
以下、負極5が当該Mg系合金を含有する場合の具体例の一つを説明するが、これに限るものではない。負極5を構成するMg系合金は、Mg-Li合金であることが好ましく、また、Mg系合金は、遷移金属元素及び希土類元素を含むことが好ましい。好適なMg系合金の例として、Mg78.5Li18.01.52.0(ここで、Yは遷移金属元素、Zは希土類元素を表す)や、Mg78.5Li18.0Ni1.5Y(イットリウム)2.0、Mg78.6Li18.0Cu0.7Ni0.7Y(イットリウム)2.9等が挙げられる。
【0057】
本実施形態において、Mg系合金が遷移金属元素及び希土類元素を含むか否かは、STEM-HAADF(走査透過型電子顕微鏡-高角散乱環状暗視野法)像及び元素マッピング(EDS Mapping)を用いて確認するものとする。
【0058】
Mg系合金がMg-Li合金であることで、軽量なα―Mg(hcp構造)とβ―Mg(Mg-Li合金:bcc構造)の結晶粒を囲むようにLPSO構造を有する組織が析出し、β―Mgは、変形吸収サイトになる。また、Mg系合金が遷移金属元素及び希土類元素を含むことで、LPSOの層間距離を、Mg又はMg-Li合金に添加する遷移金属元素又は/及び希土類元素の種類と量により制御可能となる。
【0059】
図2(A)は、Mg-Li合金の結晶粒の状態の模式図である。Mg-Li合金の組成(モル比)は、表1に記載のとおりである。ここで、Yは遷移金属元素(Cu:銅)、Zは希土類元素(Y:イットリウム)を示す。また、at%は、原子パーセントで表した組成比で、モル比に相当する。
【表1】
【0060】
Mg-Li合金は、図2(A)に模式的に示したように軽量なα―Mg(hcp構造)とβ―Mg(Mg-Li合金:bcc構造)の結晶粒を囲むようにLPSO組織が析出する。このとき、β―Mgは変形吸収サイトとなる。
【0061】
図2(B)は、LPSO組織のSTEM-HAADF(走査透過型電子顕微鏡-高角散乱環状暗視野法)像である。HAADF像において、Y(遷移金属元素)、Z(希土類元素)の濃化相は、白色の層として観察される。
【0062】
図3は、表1の組成をもつMg-Li-Y(遷移金属元素)-Z(希土類元素)合金のSTEM組織観察結果を示す図であり、図4は、当該Mg-Li-Y-Z合金について、エネルギー分散型X線分光法によるLPSO組織におけるMg(マグネシウム(b))、希土類元素Y(イットリウム(c))及び遷移金属元素Cu(銅(d))の元素マッピング(EDS Mapping)を示す図である。該EDS Mappingによれば、LPSO組織が、希土類元素Y及び遷移金属元素CuをMg中に濃縮した組成を有していることが示されている。
【0063】
図5は、表1の組成をもつMg-Li-Y-Z合金を鋳造して得られるLPSO構造のSTEM-HAADF像を示す図であり、図6は、図5の一部を拡大した図である。図6によれば、Mg-Li-Y-Z合金は、周期的にY(遷移金属元素Cu)及びZ(希土類元素Y(イットリウム))の濃化相が出現し、24R型のLPSO相と判断される。
【0064】
また、図7は、表2の組成(モル比)をもつMg-Li-Ni-Y(イットリウム)合金を鋳造して得られるLPSO構造のSTEM-HAADF像を示す図である。at%は、原子パーセントで表した組成比で、モル比に相当する。
【表2】
【0065】
図8は、表3の組成(モル比)をもつMg-Li-Cu-Ni-Y(イットリウム)合金に対して400℃、100時間の熱処理を行って得られるLPSO構造のSTEM-HAADF像を示す図である。at%は、原子パーセントで表した組成比で、モル比に相当する。
【表3】
【0066】
図5から図8によると、Mg系合金からLPSO構造を得る手法、及び元となるMg系合金の組成は、いずれも特に限定されず、Mg系合金に由来するLPSO構造であればよいことが実験的に裏付けられる。
【0067】
図9は、フルインターカレーション型LiB(リチウムイオン電池)の正極活物質として用いられるマンガン酸リチウムの結晶骨格構造とイオンサイズとを比較したときの模式図である。
【0068】
スピネル型酸化物であるLiMn(0≦x≦1)は、リチウムイオンの拡散チャンネルとリチウムイオンを収納するサイトとを持ち、格子構造を保持したままリチウムイオンを格子位置に出し入れする。その際、マンガンイオンの価数は、電荷補償のため、x=1のときの+3.5からx=0のときの+4の間で変化する。
【0069】
+4価のマンガンイオンとリチウム空格子(空孔)からなるx=0の酸化物 Mn(Mnの前におけるスペースは、リチウムイオンを収納するサイトが空孔であることを意味する。)はλMnOと呼ばれ、リチウムイオン二次電池の電極材料として使われている。
【0070】
また、LiMn及びLiMnからLiを除いた結晶(λMnO)は、いずれもスピネル型結晶構造を有する。「スピネル型に酸化マンガンλMnOのイオン交換容量の指標としての水酸基密度」について、非特許文献1は、それらの格子定数の変化がLiMnの調製方法により若干のばらつきがあるものの、おおよそ次のような類似の値をとることを開示している。
調製方法1)LiMn:0.8226nm→λMnO:0.8038nm
調製方法2)LiMn:0.8251nm→λMnO:0.8028nm
【0071】
一方、表4に、非特許文献2~6により開示されたLiイオン半径(単位:nm)の値を示す。
【表4】

原子半径:非特許文献2参照
イオン半径:非特許文献3参照
共有結合半径:非特許文献4参照
ファンデルワールス半径:非特許文献5参照
結晶半径:非特許文献6参照
【0072】
Liのイオン半径は0.145nm、直径は0.29nmと評価され、λMnOの格子定数0.80nmに対し、Liイオンの直径はλMnOの格子定数の約36%である。すなわち、Liイオンの直径より大きな格子定数を有する骨格構造の結晶であれば、フルインターカレーション可能である。
【0073】
また、Mg系合金は、LPSO構造を少なくとも組織の一部に含むMg系ハイエントロピー合金及び/又はMg-Li系ハイエントロピー合金を含有してもよい。
【0074】
Mgと、遷移金属元素及び希土類元素から選ばれる少なくとも4種類以上の、合計5種類以上の元素から構成される混合エントロピーΔSmixが1.5R(R:気体状数)以上となる、Mg系ハイエントロピー合金も、LPSO構造を有し、高温での使用に好適な強度特性を示す。
【0075】
さらに、上記Mg系ハイエントロピー合金に、Liを、Mgを置換するように12wt%(又は30at%)以上加えることにより、該Mg系ハイエントロピー合金の熱加工性を向上させることができる。これらのLPSO構造を少なくとも組織の一部に含むMg系ハイエントロピー合金及びMg-Li系ハイエントロピー合金は、本実施形態に記載の発明の合金であり、二次電池の構成部材に用いるにより好適である。
【0076】
[電池特性]
図10は、第1の実施形態に係るリチウムイオン電池、具体的には、LPSO構造を有し、表1に記載の組成(モル比)を有するMg-Li-Y-Z合金をリチウムイオン電池の負極5とした場合の電池特性を示す図である。
【0077】
ここで、充放電を繰り返した場合における各充放電回数(サイクル)ごとの電池容量の変化を、電池特性という。この電池特性は、二次電池1の寿命に相当し、電池容量の低下が少ないほど、寿命が長い電池と言える。図10に示すように、第1の実施形態に係るリチウムイオン電池は、3000回充放電を繰り返した場合であっても、放電容量は漸減するものの、顕著な低下は見られない。また、第1の実施形態に係るリチウムイオン電池は、4000回充放電を繰り返した場合であっても、約75%の放電容量を有する。すなわち、第1の実施形態に係るリチウムイオン電池は、十分な実用性を有する。
【0078】
本実施形態では、少なくとも1ヶ所の二次電池構成部材がLPSO構造を有するMg系合金を含有する二次電池がリチウムイオン電池であるものとして説明したが、これに限るものではない。例えば、二次電池が、リチウムイオンポリマー電池、ナトリウムイオン電池、フッ化物イオンシャトル電池(フッ化物電池)等であってもよい。
【0079】
<非特許文献>
〔非特許文献1〕田中ら,Electrochemistry, vol. 67, No. 10(1999), 974-978
〔非特許文献2〕B.K.Vainshtein et al.,Structure of Crystals(3rd Edition),(1995) Springer Verlag, Berlin
〔非特許文献3〕J.C.Slater, Journal of Chemical Physics, 39(1964) 3199
〔非特許文献4〕Mark Winter, Web Elements, http://www.webelements.com/
〔非特許文献5〕A.Bondi, Journal of Physical Chemistry, 68(1964) 441
〔非特許文献6〕R. D. Shannon and C. T. Prewitt, Acta Cryst. B25(1969)925-946
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明であれば、カーボンニュートラルの実現に適した、炭素及び黒鉛を用いない小型で軽量な二次電池1を提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 二次電池
2 筐体
3 電池構成部材
4 正極
5 負極
6 セパレータ
7 電解質

図1
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図10