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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025043313
(43)【公開日】2025-03-28
(54)【発明の名称】加工工具、及び、加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20250321BHJP
   B24D 7/18 20060101ALI20250321BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20250321BHJP
   B24D 3/34 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
B24D3/00 310C
B24D3/00 320B
B24D3/00 310B
B24D7/18 A
B24D3/06 B
B24D3/06 Z
B24D3/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024157241
(22)【出願日】2024-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2023149854
(32)【優先日】2023-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若林 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】花島 幸司
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB02
3C063AB08
3C063BA02
3C063BB02
3C063BC02
3C063BH07
3C063CC09
3C063CC13
3C063CC16
3C063EE01
3C063EE15
3C063FF23
(57)【要約】
【課題】本発明は、被削材料の切削加工に関して、電着砥石工具の切削部位ごとにダイヤモンド砥粒を最適な間隔配置とすることにより、切削屑の排出性に優れ高精度な加工を可能にする電着砥石を提供することを課題とする。
【解決手段】
上記課題を解決するために、本発明の加工工具は、円柱状の外周部12と、
外周部12から先端に向かって径が小さくなっていく縮径部15と、を備え、外周部12に固定される隣り合う砥粒の間隔が100μm以上であることを特徴とする。
【選択図】図6


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の外周部と、
前記外周部から先端に向かって径が小さくなっていく縮径部と、を備え、
前記外周部に固定される隣り合う砥粒の間隔が100μm以上であることを特徴とする加工工具。
【請求項2】
前記砥粒は、前記加工工具に形成された接着層とめっき層に一部が埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【請求項3】
前記砥粒は、前記円柱状の台金表面に1層のみ固定されていることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【請求項4】
前記砥粒は、ダイヤモンドまたはCBNから形成されていることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【請求項5】
前記接着層は、導電性接着剤であることを特徴とする請求項2に記載の加工工具。
【請求項6】
前記縮径部に固定される隣り合う砥粒の間隔が20μm以上100μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の加工工具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の加工工具を回転させる主軸を備えたことを特徴とする加工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置によって回転され、被加工物を研削する加工工具、及び、加工工具を回転させる加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療或いは歯科技工の際に、歯や歯の被せ物等を研削する加工工具としては、加工部に砥粒をめっき層で固着したものが知られている。特に、砥粒として天然又は人工のダイヤモンド砥粒を用いた電着砥石は、歯質だけでなく、樹脂、金属、セラミックスなど広範囲な歯科材料を研削するために用いられている。
【0003】
ところが、このような電着砥石で、樹脂から成る義歯や補綴物を研削する場合、研削屑が砥粒の間に挟まり、砥粒が埋もれてしまって研削効率が低下する。そのため、加工時間が大幅に延びる問題があった。また、砥粒に巻き付いた研削屑を除去するにも、大変な手間を要していた。
【0004】
これに対し、特許文献1には、円筒状の台金の外周面の長手方向に、砥粒を連続的に固着してなる砥粒列を複数列形成して成る電着砥石が記載されている。そして、ここで、隣り合う砥粒列同士の間隔を、砥粒列の周方向の幅の1倍から10倍とすることで、目詰まりが生じにくくなるとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2004-74356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、個々の砥粒の配置に関しては記載されていない。外周部に砥粒を列状に連続的に固着しても、目詰まりを防ぐ効果が充分ではないことが考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の加工工具は、円柱状の外周部と、前記外周部から先端に向かって径が小さくなっていく縮径部と、を備え、前記外周部に固定される隣り合う砥粒の間隔が100μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研削屑が外周部から容易に除去される加工工具を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の電着砥石を示す概略斜視図。
図2】実施形態の電着砥石の表面構造を説明するための模式的断面図。
図3】実施形態の電着砥石の製造方法を説明するフローチャート。
図4】実施形態の電着砥石の製造方法における砥粒の転写の様子を説明するための図。
図5】ランダム配置された砥粒で加工された場合の焼成ジルコニアの研削屑の粒度分布。
図6】(a)半球部を含んだ工具先端の模式的断面図。(b)傾斜部を含んだ工具先端の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、歯科用治療機器等で用いられる高速切削工具の刃先交換型チップ等、電動工具の一部品として使用される加工工具に適用できる。また、本発明を、ドリル、エンドミル、メタルソー、ダイヤモンドティーソー、歯科用治療機器等で用いられる高速切削工具、骨を切除するための電動カッター等の手術用器具、グラインダーの研磨工具等に用いても良い。以下の実施形態においては、棒状(円柱状)の加工部を有する加工工具に本発明を用いた場合を例に説明する。
【0011】
以下に、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、全ての図面を通して、同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<実施形態>
図1は、本発明の実施形態の電着砥石を示す概略斜視図である。また図2は、本実施形態の電着砥石の表面構造を説明するための模式的断面図である。これらの図において、各部の構成は理解を容易にするために強調して描いており、各部の相対的な大きさ、縮尺等は実際の構成とは異なる。また、図2は後述する加工部の外周面を模式的に平面として描いている。
【0013】
本実施形態において、加工工具1の基材10は、棒状(円柱状)に形成されている。図1に示すように、基材10は、その長手方向にシャンク部11と、シャンク部11の一端に一体に設けられた加工部(外周部)12とを有する。シャンク部11は、加工装置に取り付けられ、主軸の回転軸Rを中心に、矢印Dの方向又はその反対方向に回転される。基材10は、SUS(Stainless Used Steel)等のステンレス鋼を始めとする金属、アルミ合金等の合金、炭素繊維等から形成することができる。
【0014】
<砥粒の配置>
図1に示すように、加工部12における基材10の円周面である外周面には、砥粒20が回転軸Rに平行な方向、及び回転軸Rに垂直な平面内の外周面の周方向に規則的に配置され、固着されている。つまり、回転軸Rに平行な方向のどの位置において回転軸Rに垂直な断面で見ても、基材10の外周面には、規則的に砥粒が配置されている。
【0015】
一般的な電着砥石の製造方法では、砥粒の間隔にバラツキが生じ、砥粒の配置に疎と密の箇所がランダムにできてしまう。このような電着砥石で、研削を行った場合、特に密の箇所に研削屑が局所的に詰まり、被加工物の加工面の仕上がりが低下してしまったり、前述のように加工時間が延びたりしてしまう。一方で、切削屑が隙間に詰まらないように砥粒の間隔を広くしすぎると、切削能力が落ちてしまう。このように、砥粒の配置は切削能力を決定する大切な要素である。本実施形態は、回転軸方向及び外周面の周方向の2方向に砥粒を規則的に配置することにより、被加工物を研削する箇所と、切削屑を逃がす箇所とをコントロールするものである。このことにより、研削屑が挟まり難く、また、たとえ挟まっても研削屑が容易に除去できる加工工具を得ることができる。
【0016】
<砥粒>
砥粒20の種類は、被加工物よりも硬度が高いものであれば特に限定はされず、被加工物の材料によって適宜選択される。例えば、ダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)の超砥粒や、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化鉄、酸化セリウム、ジルコニア、シリカ、アルミナ等の一般的に用いられている砥粒から選択できる。体内の骨や歯を切削する用途として加工工具を使用する場合は、ダイヤモンドやCBNが好ましい。
【0017】
また、砥粒20の粒度は、粒度が大きいほど被加工面が滑らかで、砥粒の寿命が長いが、切削能力が落ちる。逆に粒度が小さいほど切削能力が上がるが、被加工面が粗く、寿命が短くなる。よって被加工物の種類や切削効率、作業内容によって適宜選択される。例えば、ダイヤモンド砥粒としては、粒度#40~800(平均粒径0.02~0.4mm、粒度が大きいほど、平均粒径が小さい)のものが知られている。本実施形態においては、粒度#100~120(平均粒径0.13~0.16mm)のダイヤモンド砥粒を用いている。
【0018】
<固着層>
本実施形態において、砥粒20は、固着層によって基材10に固着されている。このような固着層としては、金属を主材料とするものが多く用いられている。固着層の形成方法としては、電着法及びろう付け法が知られている。電着法とは、電解めっき或いは無電解めっきによって、基材上にめっき層を形成することによって砥粒を固着させる方法である。また、ろう付け法とは、金属を含有するペースト状のろう材で砥粒を被固着面に貼り付けた後、加熱してろう材を溶融させることによって、砥粒を固着させる方法である。本発明は、どちらの方法を用いる場合でも適用可能であるが、本実施形態では、電着法を用いている。
【0019】
図2のように、本実施形態において、砥粒20は、基材10上に形成された接着層40及び接着層40上に形成されためっき層30によって基材10上に固着されている。後述するように、接着層40は、砥粒20を仮固定するためのものである。この接着層40で砥粒20が仮固定された状態で、基材10上にめっき層30を形成することによって、砥粒20が基材10に強固に結合される。
【0020】
めっき層30としては、金属めっき層、特にニッケルめっき層を好適に用いることができる。ニッケルめっき層を用いる場合には、その層中に0.1~15重量%、より好ましくは0.1~10重量%のリン単体又はリン化合物が含有されていることが好ましい。リン化合物が含有されていると、ニッケルとリンが複合化し、めっき層の硬さを向上させることができる。リン化合物の含有量が少なすぎるとめっき層の硬さの向上効果が得られ難く、多すぎるとめっき浴のpH値が下がり、めっき条件の調整が難しくなる。めっき液に添加されるリン化合物としては、例えば亜リン酸、亜リン酸塩エチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸二ナトリウム五水和物、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム-水和物などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
めっき層30の厚さとしては、砥粒20の平均粒径の1/3から1/2であれば、砥粒20が埋まり、充分な強度で砥粒20を固着することができる。本実施形態においては、砥粒の平均粒径が0.13~0.16mmなので、めっき層30の厚さは、0.04~0.08mm(40~80μm)とした。
【0022】
<実施形態の製造方法>
図3のフローチャートに従って、本実施形態の電着砥石の製造方法について説明する。まず、ステップS80において、基材10を加工する。基材10は、SUS等の金属を材料として、切削等の方法によって図1のように、シャンク部11及び加工部12を有する棒状(円柱状)に形成される。
【0023】
続いて、ステップS81において、加工部12の外周面に接着剤を塗布して、接着層40を形成する。本実施形態では、後ほど電解めっきによってめっき層30を形成するため、接着剤として導電性の接着剤を用いている。また、後工程でニッケルめっきを用いるため、体積抵抗率は低い方が良く、0.5×105Ω・m以下が好ましい。更に、後述するように砥粒を仮固定するために、粘度は1Pa・s~30Pa・sの範囲が好ましい。接着剤の塗布には、スプレー塗布、フローコート、ディッピング等、一般的な塗布方法を用いることができる。
【0024】
次に、ステップS82において、接着剤が塗布された加工部12の基材10の外周部に、砥粒20を仮固定する。本実施形態においては、砥粒20を規則的に配置するために、砥粒20を予めパターン配列しておき、基材10の外周部に転写する方法を用いている。図4は、このような砥粒20の転写の様子を説明するための図である。ここで、図4(a)は模式的断面図、図4(b)は平面図を示す。
【0025】
本工程においては、図4(a)に示す治具50の平面上にメッシュシート60を敷き、このメッシュシート60の網目に、繊維と平行な2方向に1粒飛ばしで、互い違いの市松柄のパターンに砥粒20を収容する。これによって、砥粒20をシート面内の互いに直交する2方向に規則的に配置することができる。砥粒20を網目に入れていく方法としては、例えば、メッシュシート60とメッシュサイズの異なるもう一枚のメッシュシートを用いる方法が考えられる。もう一枚のメッシュシートを繊維の方向が45度の角度を為すように、メッシュシート60に重ね合わせ、その上から砥粒20を散布した後、余分な砥粒20を払い落とせば良い。ここで、メッシュシートのメッシュサイズは、網目の中に砥粒20が1個のみ収容されるものとする。先述のように、本実施形態では、平均粒径0.13~0.16mmのダイヤモンド砥粒を用いているため、この砥粒の平均粒径に合わせたメッシュシートを用いている。
【0026】
次に、図4(a)のように、外周部に接着層40が形成された基材10をメッシュシート60の上に横置きし、矢印Eのように周方向に回転させながら、矢印Fの方向に転がしていく。これによって、砥粒20が接着層40に付着し、基材10の外周部に転写される。ここで、治具50と基材10とのギャップGは、メッシュシートの厚みで制限すると良い。この後、接着層40に熱硬化性接着剤を用いている場合には、基材10を熱処理することで、接着剤を硬化させ、砥粒20を仮固定する。
【0027】
続いて、ステップS83において、砥粒20が仮固定された基材10上にめっき層30を形成することによって、砥粒を強固に固着させる(図2参照)。本実施形態においては、電解めっき法によるニッケルめっきを用いている。この際、めっき液は、スルファミン酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等を含む電解液が用いられる。このめっき液には、先に説明したリン化合物の他にも、必要に応じてサッカリン、ブチンジオール等の光沢剤や、界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、例えば、水溶性のカチオン系、非イオン系、めっき液のpH値においてカチオン性を示す両性界面活性剤等が挙げられる。特に、分子中にC-F結合を有するフッ素系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0028】
本実施形態においてめっき層30を形成するための条件は、使用するめっき液の種類などに応じて適宜決定すればよく、一般的なめっき法の場合と同様の液温、pH値、電流値などを適用できる。また、めっき液の攪拌方法も特に限定されず、通常の機械的攪拌手段、例えばスクリュー攪拌、マグネチックスターラーによる攪拌などの方法を採用することができる。また、めっき層30を形成した後、70~300℃の温度で熱処理することによって、めっき層30の表面の硬さをより向上させることができる。
【0029】
このように、ステップS80~S83の工程によって、図1に示す電着砥石1が製造される。本実施形態において、研削屑の除去性を向上させるため、めっき層30に撥水機能を有する化合物粒子を含有させても良い。また、めっき層30を形成した後、このめっき層30上に撥水機能を有する化合物を含む樹脂膜を形成しても良い。撥水機能を有する化合物には、フッ素化合物を好適に用いることができる。フッ素化合物としては、例えばテトラフルオロエチレン重合体、4フッ化エチレン重合体、パーフルオロアルコキシ重合体、6フッ化プロピレン/エチレン共重合体、4フッ化エチレン/エチレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテルの重合体、パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート重合体、パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート重合体、パーフルオロスルフォン酸重合体、フルオロアセチレン重合体、フルオロマレイン酸重合体、フッ化グラファイト、クロロトリフルオロエチレン重合体、フッ化ビニル重合体、フッ化ビニリデン重合体、クロロトリフルオロエチレン重合体、1,4-シクロへキシレンジメチレンテレフタレート重合体などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
<実施形態の切削加工>
本実施形態の電着砥石を用いて、硬度が高い被加工物である例えば焼成ジルコニアブロック(ビッカース硬度1300HV)を加工する場合、切削屑の目詰まり条件として、電着砥石ではダイヤモンド砥粒の平均粒径、ダイヤモンド砥粒同士の間隔、ダイヤモンド砥粒の埋め込み量などの項目が挙げられる。また、加工条件ではスピンドル回転数、送り速度、加工量などが挙げられる。更には、上記の加工条件により排出される切削屑の大きさにも起因する。
【0031】
本実施形態では、切削加工により排出される切削屑の大きさとダイヤモンド砥粒の間隔の関係性について述べる。
【0032】
まず、切削加工で発生する切削屑の大きさについては一定の大きさではなく、数種類の大きさの切削屑が混在している状況である。この切削屑の大きさは被加工物の種類によって異なるため、工具の選択が必要となる。
【0033】
次に、ダイヤモンド砥粒の間隔については、ダイヤモンド砥粒同士の間隔が広ければ広いほど目詰まりはしないが切削能力が落ちてしまう。スピンドル回転数や送り速度の条件により改善は可能であるが装置上の限度や加工時間が延びるなどデメリットもある。従って、砥粒の配置は切削能力を決定する大切な要素である。
【0034】
被加工物の目詰まりを低減するには、被加工物の加工による主な切削屑の大きさよりもダイヤモンド砥粒同士の間隔を広く設けることである。ダイヤモンド砥粒同士の間隔を、被加工物の切削屑の粒度分布の最も大きなピークの外径の大きさの1~1.5倍に配置した場合、1本の電着砥石で切削加工が可能となる時間は1.5倍~5倍に延長される。
【0035】
また、ダイヤモンド砥粒の配置は、回転軸方向及び外周面の周方向の2方向に1粒飛ばしで、互い違いの市松柄のパターンとすることにより、更に切削屑の排出性を向上させることができる。
【0036】
例えば、SUS304から成る材料を用い、図1に示すように先端をφ6mmの円柱状に加工した基材10を作成できる。この後、基材10の表面改質を行うため、プラズマ処理を実施してもよい。続いて、この基材10の加工部12に導電性接着剤を10μmの厚さで塗布し、接着層40を形成すると砥粒を狙った位置に固着させやすい(図2参照)。接着剤としては、バインダーがエポキシ系で導電フィラーが銀系のTB3331D(株式会社スリーボンド製)を用いることができる。
【0037】
次に、図4に示すように、治具50の平面上に等ピッチの網目を有するポリエチレン製のメッシュシート60を敷き、この上から砥粒20を散布することによって、繊維に沿った2方向にそれぞれ1粒飛ばしで、図4に示すように互い違い(千鳥状)の市松柄のパターンに配列することができる。砥粒20としては、平均粒径が150μmのダイヤモンド砥粒を用いるとよい。このとき、ダイヤモンド砥粒と隣り合うダイヤモンド砥粒との間隔は120μmとするとよい。このメッシュシートの上に、接着層40を形成した基材10を横向きに、ギャップGが150μmと成る位置に保持する。そして、このギャップGを維持した状態で基材10を転がし、基材10の外周面に砥粒20を転写する。その後、基材10を80℃で60分加熱することによって、接着層40を硬化させ、砥粒20を仮固定する。
【0038】
続いて、砥粒20を仮固定した基材10をめっき浴に浸漬し、電流密度5A/dm2とした電解めっきによって、厚さ65μmのめっき層30を形成し、砥粒20を固着させる。めっき液としては、下記の配合のものを用い、最終的にpH2.5に合わせ、調整する。
蒸留水1Lに対し、
硫酸ニッケル:125g
ホウ酸:30g
塩化ナトリウム:25g
次亜リン酸ナトリウム:0.08g
サッカリンナトリウム:0.024g
ドデシル硫酸ナトリウム:0.005g
【0039】
この際、めっき層30の膜厚を均一とするため、基材を回転させながら、めっきを行う。めっきの後、基材10を260℃で熱処理を行うことで、ビッカース硬度が617HVとなり、硬さが向上する。
【0040】
ダイヤモンド砥粒同士の間隔を変化させて、後述する条件で研削テストを実施すると、目詰まりの程度を評価することができる。目詰まりしなかった時間を評価してもよい。
【0041】
<研削テスト>
外周部外周部 焼成ジルコニアブロック(ビッカース硬度1300HV)を被加工物とする。この被加工物に対して、外周部のダイヤモンド砥粒同士の間隔が120μmである電着砥石を用いて研削テストを実施する。スピンドル回転数:60000RPM、送り速度:600mm/min.、加工量:0.025mmにて、ジルコニアブロックの1面を20分間往復しながら研削し、目詰まりが発生するまで繰り返す。
【0042】
図5は、焼成ジルコニアブロックを平均粒径150μmのダイヤモンド砥粒をランダムに配置して形成された加工工具で切削した時の切削屑の大きさの分布を分析測定したものである。測定は、マスターサイザー3000(Malvern社製)を用いて行った。平均粒径150μmのダイヤモンド砥粒をランダムに配置して形成された加工工具切削加工を実施した焼成ジルコニアブロックに関しては、切削屑の大きさは110μm/20μm/5μm/1μmの4種類が混在していることがわかる。図5には、最大のピークである110μmをP1、20μmをP2、5μmをP3、1μmをP4でそれぞれ表した。
【0043】
(他の実施例)
図6(a)に、円柱状の外周部12よりも先端側の形状を半球とした形状を示し、図6(b)に、外周部12よりも先端側の形状を傾斜させたあとに平坦な面(台形状)とした形状を示す。半球部13、傾斜部14はともに、先端に向かって径が小さくなっている縮径部15となっている。
【0044】
縮径部の隣り合う砥粒の間隔は、外周部と同等の砥粒密度またはより密としてもよいが、この実施例においては、隣り合う砥粒の間隔を20μm以上100μm未満とした。焼成ジルコニアの粒度分布ピークが20μmにもあることから、2番目に大きなピークの大きさ以上に隣り合う砥粒の間隔を大きくして、砥粒がつまりにくくしている。
【0045】
被加工物として焼成ジルコニアブロック〔ビッカース硬度1300Hv〕を用い、この実施例の電着砥石工具を用いて切削テストを実施する。加工条件は、被加工物の平面を切削する外周部と曲面を切削する縮径部ともに、スピンドル回転数:60,000RPM、送り速度:600mm/min.、加工量(切込み量):0.025mmと同一条件とする。加工手順は、図6に示すように、まず電着砥石工具の外周部を使い、焼結ジルコニアブロックの側面の平面部を深さ0.025mmずつ切り込んでいき、0.1mmまで切削する。次に、電着砥石工具の縮径部を使い、焼結ジルコニアブロックの上面と下面を曲面に加工するためブロックを傾斜させ深さ0.025mmずつ切り込んでいき、0.1mmまで切削する。
【0046】
切削加工の結果、電着砥石工具の外周部と傾斜部(半球部)それぞれにおいて、切削屑がダイヤモンド砥粒の隙間に詰まる現象は見られなかった。
【0047】
この実施例においては、砥粒の密度が高い部分は、加工時に粒子一つに掛かる負荷が少ないため、密度が低い部分に比べて粒子が長持ちするので被削材との接触頻度の高い傾斜部分へ砥粒を集中させることで工具の寿命を最適化することができる。また、傾斜部の砥粒密度を上げることによって、一周当たりの刃数減少の影響を軽く出来るほか、周速低下の影響も部分的に打ち消すことができる。
【0048】
平均粒径150μmのダイヤモンド砥粒をランダムに配置して形成された加工工具では、焼成セラミックスとして焼成ジルコニアブロックを上述した条件で連続して30分程度研削すると目詰まりしてしまう。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限らず、種々の応用、変形が可能である。例えば、先述の実施形態においては、電着砥石は棒状(円柱状)に形成されているが、加工装置によって回転され、被加工物を研削する外周面を有する形状であれば、どのような形状の電着砥石に対しても本発明は適用可能である。また、研削屑をより効率的に除去するため、基材の外周面に溝が形成された電着砥石に本発明を用いても構わない。更に、砥粒の配置に関しても、先の実施形態に限定されず、例えば電着砥石の外周面に砥粒が螺旋状に固着されたものも本発明の技術的範囲内である。本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、このような応用例、変形例を全て包含するものである。
【符号の説明】
【0050】
10 基材
12 外周部
13 半球部
14 傾斜部
15 縮径部
20 砥粒
30 めっき層
40 接着層
50 治具
60 メッシュシート

図1
図2
図3
図4
図5
図6