(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004369
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】電気駆動車両の冷却装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20250107BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20250107BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20250107BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20250107BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20250107BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20250107BHJP
H01M 10/663 20140101ALI20250107BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F25B1/00 361Q
F25B1/00 381D
F25B1/00 371F
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6556
H01M10/6568
H01M10/633
H01M10/663
H05K7/20 J
H05K7/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104014
(22)【出願日】2023-06-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森島 千菜美
(72)【発明者】
【氏名】山口 寛一
(72)【発明者】
【氏名】谷中 克年
【テーマコード(参考)】
5E322
5H031
【Fターム(参考)】
5E322BA04
5E322BB05
5E322DB12
5E322EA10
5E322EA11
5E322FA01
5H031AA09
5H031HH06
5H031KK08
(57)【要約】
【課題】冷却能力の低下を出来る限り抑制しつつ冷却時の騒音を抑制する。
【解決手段】冷却装置1は、設定コンプレッサ回転数が所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限コンプレッサ回転数以下であるという第1条件と、設定ファン回転数が所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限ファン回転数以下であるという第2条件との少なくとも一方が満たされないときには、コンプレッサ3及びファン41を作動させたときの騒音が所定の騒音規制値以下となるように、修正コンプレッサ回転数を設定しかつ修正コンプレッサ回転数に基づいて修正ファン回転数を設定する。冷却装置1は、修正コンプレッサ回転数が高いほど、修正ファン回転数を低い値に設定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を利用して車両に搭載された電駆部品を冷却する電気駆動車両の冷却装置であって、
前記冷媒を加圧する加圧器と、
前記加圧器で加圧された前記冷媒を冷却して凝縮させる凝縮器に対して外気を引き込むためのファンと、
前記電駆部品の温度を検出する電駆部品温度検出部と、
前記加圧器で圧縮された冷媒の圧力を検出する冷媒圧力検出部と、
前記加圧器及び前記ファンを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
少なくとも前記電駆部品温度検出部の検出結果に基づいて要求冷却能力を算出し、
前記要求冷却能力に基づく前記加圧器の回転数である設定加圧器回転数を算出し、
前記冷媒圧力検出部の検出結果に基づく前記ファンの回転数である設定ファン回転数を算出し、
前記設定加圧器回転数が所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限加圧器回転数以下であるという第1条件と、前記設定ファン回転数が前記所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限ファン回転数以下であるという第2条件との両方が満たされたときには、前記設定加圧器回転数及び前記設定ファン回転数で前記加圧器及び前記ファンをそれぞれ作動させる一方、前記第1条件及び前記第2条件の少なくとも一方が満たされないときには、前記加圧器及び前記ファンを作動させたときの騒音が前記所定の騒音規制値以下となるように、修正加圧器回転数を設定しかつ該修正加圧器回転数に基づいて修正ファン回転数を設定して、前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数で前記加圧器及び前記ファンをそれぞれ作動させ、
前記修正加圧器回転数が高いほど、前記修正ファン回転数を低い値に設定することを特徴とする電気駆動車両の冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気駆動車両の冷却装置において、
前記外気温を検出する外気温検出部を更に備え、
前記コントローラは、前記外気温を更に考慮して、前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数をそれぞれ設定することを特徴とする電気駆動車両の冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気駆動車両の冷却装置において、
前記コントローラは、発生する騒音が前記騒音規制値となるように、前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数を設定することを特徴とする電気駆動車両の冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電気駆動車両の冷却装置において、
前記コントローラは、発生する騒音が前記騒音規制値となる、前記加圧器の回転数と前記ファンの回転数との複数の組み合わせに対して、冷却能力をそれぞれ求めて、前記各組み合わせのうち冷却能力が前記要求冷却能力に最も近い組み合わせを前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数にそれぞれ設定することを特徴とする電気駆動車両の冷却装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電気駆動車両の冷却装置において、
前記コントローラは、冷却能力が前記要求冷却能力に最も近い前記組み合わせが複数あるときには、当該各組み合わせのうち前記加圧器の回転数が最も低い組み合わせを前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数にそれぞれ設定することを特徴とする電気駆動車両の冷却装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電気駆動車両の冷却装置において、
前記コントローラは、
前記制限加圧器回転数に対して回転数が一定数高い第1加圧器回転数候補と、該第1加圧器回転数候補に基づく第1ファン回転数候補とを算出し、
前記制限加圧器回転数に対して回転数が一定数低い第2加圧器回転数候補と、前記第2加圧器回転数候補に基づく第2ファン回転数候補とを算出し、
前記制限加圧器回転数と前記制限ファン回転数との組み合わせ、前記第1加圧器回転数候補と前記第1ファン回転数候補との組み合わせ、並びに前記第2加圧器回転数候補と前記第2ファン回転数候補との組み合わせに対して、冷却能力をそれぞれ求めて、前記各組み合わせのうち冷却能力が前記要求冷却能力に最も近い組み合わせを前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数にそれぞれ設定することを特徴とする電気駆動車両の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、電気駆動車両の冷却装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載された冷却装置において、冷媒を冷却する際に発生する騒音を抑制する工夫が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、空調装置の現在の冷媒圧力に基づいて冷媒圧基準ファン回転数を設定し、要求吹出口温度に対応したファンの上限ガード回転数を設定し、車両が現在停止状態でありかつ現在のエンジン回転数がアイドル回転数でありかつ冷媒圧基準ファン回転数が上限ガード回転数より大きい場合はファン回転数を上限ガード回転数に設定し、それ以外の場合はファン回転数を冷媒圧基準ファン回転数に設定する、冷却ファン制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、騒音は、加圧器の回転数が高いほど、またファンの回転数が高いほど大きくなる。加圧器の回転数及びファンの回転数は、基本的には要求される冷却能力が高いほど高く設定される。冷却装置に高い冷却能力が要求されるシーンとしては、車両の停車中に電池を急速充電するシーンや、登板走行やトーイング走行などの高負荷走行するシーンなどがある。したがって、このようなシーンでは、騒音が大きくなってしまう。特に、車両が駆動モータを主な駆動源として走行する電気駆動車両であるときには、エンジン音が発生しないため、走行中であっても、冷却装置から発生する騒音が車両の周囲の人間だけでなく、車両の乗員にも煩わしさを与えてしまうおそれがある。
【0006】
特許文献1に記載の冷却ファン制御装置では、ファン回転数を上限ガード回転数に下げることで騒音を抑制することが期待される一方で、冷却能力が低下してしまう。このため、高い冷却能力と騒音の抑制とを両立させるには改善の余地がある。
【0007】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、冷却能力の低下を出来る限り抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様では、冷媒を利用して車両に搭載された電駆部品冷却する、電気駆動車両の冷却装置を対象として、前記冷媒を加圧する加圧器と、前記加圧器で加圧された前記冷媒を冷却して凝縮させる凝縮器に対して外気を引き込むためのファンと、前記電駆部品の温度を検出する電駆部品温度検出部と、前記加圧器で圧縮された冷媒の圧力を検出する冷媒圧力検出部と、前記加圧器及び前記ファンを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、少なくとも前記電駆部品温度検出部の検出結果に基づいて要求冷却能力を算出し、前記要求冷却能力に基づく前記加圧器の回転数である設定加圧器回転数を算出し、前記冷媒圧力検出部の検出結果に基づく前記ファンの回転数である設定ファン回転数を算出し、前記設定加圧器回転数が所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限加圧器回転数以下であるという第1条件と、前記設定ファン回転数が前記所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限ファン回転数以下であるという第2条件との両方が満たされたときには、前記設定加圧器回転数及び前記設定ファン回転数で前記加圧器及び前記ファンをそれぞれ作動させる一方、前記第1条件及び前記第2条件の少なくとも一方が満たされないときには、前記加圧器及び前記ファンを作動させたときの騒音が前記所定の騒音規制値以下となるように、修正加圧器回転数を設定しかつ該修正加圧器回転数に基づいて修正ファン回転数を設定して、前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数で前記加圧器及び前記ファンをそれぞれ作動させ、前記修正加圧器回転数が高いほど、前記修正ファン回転数を低い値に設定する、という構成とした。
【0009】
すなわち、冷媒圧力に基づいてファンの回転数を設定する場合、加圧器の回転数が高いほど、ファンの回転数は高く設定される。このため、通常の制御では高い冷却能力が必要なときには、騒音が騒音規制値よりも高くなりやすい。そこで、騒音が騒音規制値よりも高くなりそうなときには、ファンの回転数を冷媒圧力ではなく、加圧器の回転数に基づいて設定する。特に、加圧器の回転数が高いほど、ファンの回転数が低くなるように設定する。
【0010】
冷却能力は、加圧器の回転数が高いほど、またファンの回転数が高いほど高くなる。このため、加圧器の回転数及びファンの回転数の一方を高くして他方を低くすれば、冷却能力の低下を抑制することができる。これにより、修正加圧器回転数と修正ファン回転数との組み合わせを、騒音が騒音規制値以下になる範囲で、冷却能力の低下を出来る限り抑える組み合わせに設定することができる。この結果、冷却能力の低下を出来る限り抑制しつつ冷却時の騒音を抑制する。
【0011】
ここに開示された技術の第2の態様では、前記第1の態様において、前記外気温を検出する外気温検出部を更に備え、前記コントローラは、前記外気温を更に考慮して、前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数をそれぞれ設定する。
【0012】
この構成によると、外気温はファンにより取り込まれる空気の温度に相当するため、外気温を考慮することで、冷却能力の低下を出来る限り抑制する修正ファン回転数をより適切に設定することができる。これにより、冷却能力の低下をより効果的に抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができる。
【0013】
ここに開示された技術の第3の態様では、前記第1又は第2の態様において、前記コントローラは、発生する騒音が前記騒音規制値となるように、前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数を設定する。
【0014】
この構成によると、修正加圧器回転数及び修正ファン回転数を出来る限り高い値に設定することができる。このため、冷却能力の低下をより効果的に抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができる。
【0015】
ここに開示された技術の第4の態様では、前記第3の態様において、前記コントローラは、発生する騒音が前記騒音規制値となる、前記加圧器の回転数と前記ファンの回転数との複数の組み合わせに対して、冷却能力をそれぞれ求めて、前記各組み合わせのうち冷却能力が前記要求冷却能力に最も近い組み合わせを前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数にそれぞれ設定する。
【0016】
この構成によると、騒音を抑制できる範囲で、適切な修正加圧器回転数及び修正ファン回転数を設定することができる。これにより、冷却能力の低下をより効果的に抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができる。
【0017】
また、冷却能力が要求冷却能力に最も近い加圧器の回転数とファンの回転数との組み合わせを選択することで、過剰な冷却能力が発揮されるのを抑制することができる。これにより、消費電力を出来る限り抑えることができる。
【0018】
ここに開示された技術の第5の態様では、前記第4の態様において、前記コントローラは、冷却能力が前記要求冷却能力に最も近い前記組み合わせが複数あるときには、当該各組み合わせのうち前記加圧器の回転数が最も低い組み合わせを前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数にそれぞれ設定する。
【0019】
この構成によると、加圧器の回転数を出来る限り低くすることができる。加圧器の回転数が低い方が、冷却すべき冷媒の量が少なくなるため、効率的に冷媒を冷却することができる。このため、冷却効率を向上させることができる。
【0020】
ここに開示された技術の第6の態様では、前記第3の態様において、前記コントローラは、前記制限加圧器回転数に対して回転数が一定数高い第1加圧器回転数候補と、該第1加圧器回転数候補に基づく第1ファン回転数候補とを算出し、前記制限加圧器回転数に対して回転数が一定数低い第2加圧器回転数候補と、前記第2加圧器回転数候補に基づく第2ファン回転数候補とを算出し、前記制限加圧器回転数と前記制限ファン回転数との組み合わせ、前記第1加圧器回転数候補と前記第1ファン回転数候補との組み合わせ、並びに前記第2加圧器回転数候補と前記第2ファン回転数候補との組み合わせに対して、冷却能力をそれぞれ求めて、前記各組み合わせのうち冷却能力が前記要求冷却能力に最も近い組み合わせを前記修正加圧器回転数及び前記修正ファン回転数にそれぞれ設定する。
【0021】
この構成によると、コントローラの演算量を出来る限り小さくすることができる。これにより、冷却能力の低下をより効果的に抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができ、さらに消費電力を出来る限り抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、電気駆動車両の冷却装置において、冷却能力の低下を出来る限り抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る車両の構成図である。
【
図3】
図3は、冷却装置の制御系を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、コンプレッサの回転数及びファンの回転数と冷却能力との関係を示すマップであって、外気温が相対的に低いときを示す。
【
図5】
図5は、コンプレッサの回転数及びファンの回転数と冷却能力との関係を示すマップであって、外気温が相対的に高いときを示す。
【
図6】
図6は、騒音規制値と冷却能力との関係を示す図であって、上図は冷却能力マップにおける騒音規制ラインを示し、下図は騒音規制ライン上における作動点と冷却能力との関係を示す。
【
図7】
図7は、冷却系ECMの処理動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態2に係る冷却装置において、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数の算出方法を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態2に係る冷却装置の冷却系ECMの処理動作を示すフローチャートの一部である。
【
図10】
図10は、実施形態2に係る冷却装置の冷却系ECMの処理動作を示すフローチャートの残部である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
〈車両の全体構成〉
図1は、本実施形態1に係る冷却装置1を有する車両100を示す。車両100は、電力によって回転する駆動モータ102を主体に走行可能な電気駆動車両である。車両100は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車の車両である。
【0026】
車両100は、駆動モータ102を有する。駆動モータ102の回転は、4つの車輪101のうち、前側に位置する2輪にシャフトを介して伝達される。これにより、車両1は移動(走行)する。駆動モータ102は、モータジェネレータであって、車両100の減速時(回生時)には発電機として動作する。
【0027】
駆動モータ102は、インバータ103、及びコンバータ104を介して電池モジュール70と接続されている。
【0028】
電池モジュール70は、矩形箱状の電池セル(図示省略)が複数積層されて構成されている。電池モジュール70は、車両100のフロアパネルの下側に配置されている。前記電池セルは、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池で構成されている。
【0029】
インバータ103は、直流電力と交流電力との変換を行う。インバータ103は、車両100の走行時には、コンバータ104を介して供給された直流電力を位相が異なる3相の交流電流に変換して駆動モータ102に供給する。インバータ103は、車両100の回生時には、駆動モータ102で発電された交流電力を直流電力に変換して、コンバータ104に供給する。
【0030】
コンバータ104は、車両100の走行時には、電池モジュール70から出力される直流電力を駆動モータ102の駆動電圧に降圧して、インバータ103に供給する。コンバータ104は、車両100の回生時には、インバータ103からの直流電力を昇圧して、電池モジュール70に充電する。
【0031】
駆動モータ102、インバータ103、コンバータ104、及び電池モジュール70は、車両100に搭載された電駆部品の一例である。
【0032】
〈冷却装置の全体構成〉
図2は、車両100に搭載された冷却装置1を示す。冷却装置1は、電駆部品を冷却することができる。冷却装置1は、例えば、液体の冷媒を気体へと相変化させる際の吸熱反応により電池モジュール70を直接的に冷却することができる。冷却装置1は、後述する冷却水冷却機構21を介して、駆動用モータ102を冷媒によって間接的に冷却することができる。冷媒は、例えばHFO(ハイドロフルオロオレフィン)系冷媒であって、具体的にはR1234yfである。
【0033】
冷却装置1は、冷媒と電池モジュール70とを熱交換させる電池用熱交換器2と、電池用熱交換器2から流出した冷媒を加圧するコンプレッサ3と、コンプレッサ3で加圧された冷媒を冷却して凝縮させるコンデンサ4と、を有する。冷却装置1は、駆動用モータ102を冷却する冷却水を冷却するための冷却水冷却機構21と、車室内の空調に利用される空調装置22とを有する。冷却装置1は、コンデンサ4から電池用熱交換器2に向かう冷媒経路であるメイン流入経路11と、メイン流入経路11から分岐して冷却水冷却機構21に向かう第1分岐流入経路11aと、メイン流入経路11から分岐して空調装置22に向かう第2分岐流入経路11bとを有する。冷却装置1は、電池用熱交換器2からコンプレッサ3に向かう冷媒経路であるメイン流出経路12と、冷却水冷却機構21からメイン流出経路12に向かう第1分岐流出経路12aと、空調装置22からメイン流出経路12に向かう第2分岐流出経路12bと、を有する。また、冷却装置1は、メイン流入経路11に設けられ、コンデンサ4で凝縮された冷媒の圧力を低下させる膨張弁5を有する。
【0034】
コンプレッサ3は、電池モジュール70と熱交換した後の冷媒を加圧する。コンプレッサ3は、例えばスクロール式のコンプレッサであって、回転数を調整することで流出する冷媒の圧力を調整することができる。具体的には、コンプレッサ3から流出される冷媒の圧力は、コンプレッサ回転数が高いほど高くなる。言い換えると、コンプレッサ回転数が高いほど、コンプレッサ3から流出される冷媒の量が多くなる。コンプレッサ3で冷媒が加圧されるときには、断熱圧縮によって、冷媒の温度が上昇する。
【0035】
コンデンサ4は、車両100の前側部分に配置されている。コンデンサ4の車両後側には、ファン41が設けられている。コンデンサ4は、車両100の走行時には、走行風又は走行風とファン41の回転により引き込まれた空気との組み合わせにより冷媒を冷却する一方で、車両100の停車時には、ファン41の回転により引き込まれた空気により冷媒を冷却する。コンデンサ4では、冷媒は、圧力が低下することなく、温度が低下することで凝縮して液化する。
【0036】
本実施形態1では、ファン41は電動式である。ファン41は、小型の電動モータ(図示省略)を有しており、該電動モータの回転により回転する。ファン41は、回転数が高いほど多くの空気を引き込む。具体的には、ファン41の風量は、ファンの回転数に正比例する。
【0037】
コンデンサ4の下流側には、レシーバタンク42が設けられている。レシーバタンク42は、コンデンサ4により液化した冷媒を一時的に貯留する。レシーバタンク42は、メイン流入経路11と接続されている。コンデンサ4により液化した冷媒がレシーバタンク42に流入すると、流入した冷媒の量に相当するだけの量の冷媒が、レシーバタンク42からメイン流入経路11に流出する。
【0038】
膨張弁5は、メイン流入経路11の冷媒の圧力を低下させて、該冷媒を電池用熱交換器2に流入させる。膨張弁5を通過した冷媒は、断熱膨張により温度が低下する。また、膨張弁5により圧力が低下することで、飽和温度(沸点に相当)が低下する。また、膨張弁5により圧力が低下することで、熱交換器2内での冷媒の流れが緩やかになるため、熱交換器2内の冷媒が電池モジュール70と万遍なく熱交換する。
【0039】
膨張弁5はまた、電池用熱交換器2に流入させる冷媒の流量を調整するためにも利用される。具体的には、膨張弁5の開度が大きいほど電池用熱交換器2に流入する冷媒の流量が大きくなる一方で、膨張弁5の開度が小さいほど電池用熱交換器2に流入する冷媒の流量が小さくなる。
【0040】
冷却水冷却機構21は、膨張弁と熱交換器とを有する。該膨張弁は第1分岐流入経路11aに設けられている。
【0041】
空調装置22は、膨張弁と、熱交換器と、ファンとを有する。該膨張弁は第2分岐流入経路11bに設けられている。ファンの回転数は車室内の目標温度に基づいて設定される。
【0042】
〈冷却装置の制御システム〉
次に、冷却装置1の制御システムについて説明する。
【0043】
図3に示すように、車両100は、主に冷却装置1の制御を行うコントローラである冷却系ECM(Electric Control Module)80を有する。冷却系ECM80は、CPUを有する1つ以上のプロセッサ80aと、ROMやRAMを有しかつ各種プログラムを記憶するメモリ80bと、を備える。メモリ80bは、例えば不揮発性メモリである。冷却系ECM80が実行する制御に関するプログラムは、メモリ80bにそれぞれ記憶されている。冷却系ECM80は、メモリ80bに記憶されたプログラムをプロセッサ80aが読み込むことで実行される。
【0044】
冷却系ECM80は、電池セルの温度を検出する電池温度センサSW1、コンプレッサ3に流入する冷媒の圧力を検出する第1冷媒圧力センサSW2、コンプレッサ3で加圧されかつコンデンサ4に流入する前の冷媒の圧力を検出する第2冷媒圧力センサSW3、外気温を検出する外気温センサSW4、駆動モータ102の冷却水の水温を検出するモータ水温センサSW5、車室内の温度を検出する車室内温度センサSW6、並びに、車室内の空調を制御するための空調制御パネルSW7の信号が入力される。また、冷却系ECM80は、車両100の動力系統全体の制御を行うコントローラであるPCM(Powertrain Control Module)81からの信号、及び電池モジュール70の充放電制御を行うコントローラであるBECM(Battery Energy Control Module)82からの信号が入力される。PCM81には、車速センサSW8からの信号が入力される。図示は省略しているが、PCM81及びBECM82は、それぞれプロセッサとメモリとを有している。
【0045】
電池温度センサSW1は、例えば、電池モジュール70における冷媒の流出口の近傍に配置されている。第1冷媒圧力センサSW2は、メイン流出経路12におけるコンプレッサ3よりも上流の位置に配置されている。第2冷媒圧力センサSW3は、コンプレッサ3よりも下流でかつコンデンサ4よりも上流の位置に配置されている。外気温センサSW4は、コンデンサ4の車両前側に配置されている。外気温センサSW4で検出される外気温は、ファン41により引き込まれる空気の温度に相当する。モータ水温センサSW5は、駆動モータ102の冷却水通路に臨んでいる。モータ水温センサSW5で検出される水温は、駆動モータ102の温度とみなされる。空調制御パネルSW7は、車両100の乗員により操作されるパネルであって、空調のオン及びオフを制御するスイッチ、空気の風量を設定するスイッチ、車室内の目標温度を設定するスイッチ等が設けられている。尚、電池温度センサSW1は、複数設けられていてもよく、例えば、電池モジュール70における冷媒の流出口の近傍に加えて、平面視で電池モジュール70の中央にも配置されていてもよい。電池温度センサSW1及びモータ水温センサSW5は、電駆部品温度検出部の一例である。
【0046】
冷却系ECM80は、各センサSW1~SW7からの信号、PCM81から信号、及びBECM82からの信号に基づいて、ファン41、コンプレッサ3、膨張弁5、冷却水冷却機構21、及び空調装置22を制御する。具体的には、冷却系ECM80は、PCM81から車速に関する情報を取得し、BECM82から冷却対象(駆動用モータ102や電池モジュール70)の目標温度に関する情報を取得し、空調制御パネルSW7から車室内の目標温度に関する情報を取得する。冷却系ECM80は、電池温度センサSW1、モータ水温センサSW5、及び車室内温度センサSW6の検出結果と、各目標温度とを比較して、冷却装置1の要求冷却能力Qrを算出する。冷却系ECM80は、要求冷却能力Qrに基づいて、コンプレッサ回転数を設定する。冷却系ECM80は、第2冷媒圧力センサSW3の検出結果に基づいて、コンデンサ4に供給すべき風量を算出して、該風量に基づいてファン回転数を設定する。そして、冷却系ECM80は、それぞれ設定した回転数でコンプレッサ3及びファン41を回転させるとともに、必要な流量の冷媒が流入するように、膨張弁5、冷却水冷却機構21の膨張弁、及び空調装置22の膨張弁のそれぞれの開度を調整する。また、車室内の目標温度に応じて空調装置22のファンの回転数を調整する。尚、冷却能力は、例えば、冷媒が単位時間当たりに吸熱できる熱量等である。
【0047】
また、冷却系ECM80は、PCM81から取得した車速に関する情報に基づいて走行風の風量を算出する。冷却系ECM80は、ファン回転数を設定する際に、走行風の風量を考慮する。具体的には、冷却系ECM80は、コンデンサ4に供給すべき量から走行風により得られる分の風量を差し引いて、残りの風量をファン41により得るようにファン回転数を設定する。冷却系ECM80は、コンデンサ4に供給すべき空気の風量が全て走行風により得られるときには、ファン回転数を0に設定して、ファン41が回転しないようにしてもよい。
【0048】
〈冷却能力マップ〉
次に、冷却装置1の冷却能力について説明する。
【0049】
前述したように、コンデンサ4は、走行風及びファン41により引き込まれる空気の少なくとも一方を利用して、冷媒を冷却する。つまり、コンデンサ4は、外気を利用して冷媒を冷却する。このため、冷却装置1の冷却能力は、外気温に依存する。
【0050】
図4及び
図5は、冷却装置1の冷却能力マップを示す。
図4は、外気温が相対的低いときの低温冷却能力マップ300であり、
図5は、外気温が相対的に高いときの高温冷却能力マップ400である。低温及び高温冷却能力マップ300,400は、それぞれメモリ80bに保存されている。ここでは、2つの冷却能力マップのみを例示しているが、実際には、外気温毎に3つ以上の冷却能力マップがメモリ80bに保存されている。
【0051】
低温及び高温冷却能力マップ300,400において、横軸はコンプレッサ回転数であり、縦軸はファン回転数である。領域Z1~Z8は、それぞれ冷却能力が近い領域であり、領域Z1は冷却能力が最も低く、領域Z8は冷却能力が最も高く、領域Z2~Z7は、領域Z8に近いほど冷却能力が高い。各領域Z1~Z8の間の境界線は冷却能力が等しい線である。冷却能力は、基本的に、コンプレッサ回転数が高いほど、またファン回転数が高いほど大きいため、各領域Z1~Z8では、それぞれ低い側の境界線に対して右上側に離れるほど冷却能力が高い。
【0052】
低温冷却能力マップ300と高温冷却能力マップ400とを比較すると、低温冷却能力マップ300の方が、高温冷却能力マップ400よりも領域Z8が大きく広がっていることが分かる。これは、外気温が低い方が、冷却効率が高いこと意味している。すなわち、コンプレッサ3やファン41は、チョーキングなどの異常動作や後述する騒音に関する制約から、回転数が制限される。冷却能力が高い領域が大きく広がっているということは、制限された回転数でも高い冷却能力を発揮できるということであり、冷却効率を高くすることができることを意味しているといえる。
【0053】
〈騒音抑制制御〉
ここで、冷却装置1を稼働させると、騒音が発生する。騒音は、主にコンプレッサ3とファン41の動作により発生する。騒音は、コンプレッサ回転数が高いほど、またファン回転数が高いほど大きくなる。前述したように、冷却装置1の冷却能力は、コンプレッサ3及びファン41の各回転数が高いほど大きくなるため、高い冷却能力を発揮しようとすると、騒音が大きくなってしまう。つまり、冷却能力と騒音とはトレードオフの関係にある。
【0054】
冷却装置1に高い冷却能力が要求されるシーンとしては、車両100の停車中に電池モジュール70を急速充電するシーンや、登板走行やトーイング走行などの高負荷走行のシーンなどがある。したがって、このようなシーンでは、騒音が大きくなってしまう。特に、本実施形態1のように、車両100が駆動モータ102を主な駆動源として走行可能な電気駆動車両であるときには、エンジン音が発生しないため、走行中であっても冷却装置1から発生する騒音が車両100の周囲の人間だけでなく、車両100の乗員にも煩わしさを与えてしまうおそれがある。
【0055】
これに対して、従来は、所定の騒音規制値に基づいて、制限コンプレッサ回転数NCLと制限ファン回転数NFLとを予め設定して、要求冷却能力に基づいて設定された、コンプレッサ回転数及びファン回転数である設定コンプレッサ回転数及び設定ファン回転数の少なくとも一方が、制限コンプレッサ回転数NCL及び制限ファン回転数NFLよりも大きいときには、制限コンプレッサ回転数NCL及び制限ファン回転数NFLで、コンプレッサ3及びファン41を作動させていた。例えば、
図6の上図に示すように、設定コンプレッサ回転数と設定ファン回転数との組み合わせ(以下、要求作動点P0という)が、制限コンプレッサ回転数NCLと制限ファン回転数NFLとの組み合わせ(以下、制限作動点PLという)よりも右上に位置していたとする。従来の制御では、要求作動点P0を制限作動点PLに修正して、制限コンプレッサ回転数NCL及び制限ファン回転数NFLでコンプレッサ3及びファン41を作動させていた。
【0056】
しかしながら、
図6の上図に示すように、従来の制御では、作動点が領域Z7から領域Z6に移動しており、冷却能力が低下してしまう。冷却能力が低下してしまうと、電池モジュール70の充電効率が悪化したり、駆動モータ102の劣化が促進されたり、空調による車室内の冷却効率が悪化したりしてしまう。
【0057】
そこで、本実施形態1では、騒音の大きさを示す騒音レベルが、制限作動点PLの騒音レベル(つまり、騒音規制値)以下になりかつ冷却能力の低下を抑制できる作動点を算出するようにした。具体的には、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数が制限コンプレッサ回転数NCL以下であるという第1条件と、設定ファン回転数が制限ファン回転数NFL以下であるという第2条件との少なくとも一方が満たされないときには、騒音レベルが前記騒音規制値以下となるように、修正コンプレッサ回転数を設定しかつ該修正コンプレッサ回転数に基づいて修正ファン回転数を設定する騒音抑制制御を実行するようにした。特に、騒音抑制制御では、修正コンプレッサ回転数が高いほど、修正ファン回転数が低くなるようにした。
【0058】
前述したように、ファン回転数は、基本的には第2冷媒圧力センサSW3の検出結果に基づいて設定される。当該検出結果(冷媒圧力)はコンプレッサ回転数が高いほど高くなるため、ファン回転数は、基本的にはコンプレッサ回転数が高いほど高く設定される。つまり、通常の制御では、
図6の上図に破線で示すように、冷却能力マップの左下から右上に向かう範囲で、コンプレッサ回転数とファン回転数との組み合わせが設定される。しかしながら、
図4、
図5、及び
図6の上図に示すように、実際には冷却能力が同程度になるような組み合わせは、通常の制御の範囲外にも存在する。このため、ファン回転数を冷媒圧力に依存せずに設定すれば、高い冷却能力を維持しつつ騒音レベルを抑えるような作動点を設定することができる。
【0059】
本実施形態1では、特に、冷却系ECM80は、騒音レベルが前記騒音規制値となる、コンプレッサ回転数とファン回転数との組み合わせ(以下、候補作動点という)に対して、各候補作動点でコンプレッサ3及びファン41を作動させたときの冷却能力をそれぞれ求めて、各候補作動点のうち冷却能力が要求冷却能力に最も近い候補作動点を修正作動点に選択して、選択した修正作動点のコンプレッサ回転数及びファン回転数を、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数にそれぞれ設定する。騒音レベルが前記騒音規制値となるように修正作動点を選択すれば、コンプレッサ回転数及びファン回転数をそれぞれ出来る限り高く設定することができる。このため、高い冷却能力を維持しやすくなる。尚、候補作動点及び各候補作動点の冷却能力は、冷却系ECM80が計算してそれぞれ算出してもよいし、冷却能力マップ毎にメモリ80bに後述するマップ500のような形で予め記憶されていて、冷却系ECM80が外気温に基づいて適切なマップを読み込んで算出するようにしてもよい。また、「冷却能力が要求冷却能力に最も近い」とは、冷却能力が要求冷却能力と同じである場合を含み、冷却能力が要求冷却能力と同じである候補作動点があるときには、当該候補作動点が、冷却能力が要求冷却能力に最も近い候補作動点となる。
【0060】
騒音レベルは、コンプレッサ回転数が高いほど、またファン回転数が高いほど大きくなる。このため、
図6の上図に示すように、騒音レベルが前記騒音規制値となる作動点は、コンプレッサ回転数が高いほどファン回転数が低くなる右下がりの直線(以下、騒音規制ラインSLという)上に位置する。この騒音規制ラインSLは、冷媒圧力ではなく、騒音レベルが前記騒音規制値となるように、コンプレッサ回転数に基づいてファン回転数が設定されたものである。
図6の上図では、騒音規制ラインSLは、左上の部分と右下の部分とが途切れているが、これは主にコンプレッサ3の作動限界によるものである。コンプレッサ回転数の上限値は、コンプレッサ3の運転上限圧力に基づいて設定されており、コンプレッサ回転数の下限値は、チョーキング等の異常動作が発生しない回転数に基づいて設定されている。尚、騒音規制ラインSLは、前記騒音規制値に基づいて設定される。例えば、騒音規制値が20デシベルであれば、騒音レベルが20デシベルになる騒音規制ラインが設定される。この騒音規制値は任意に設定することができる。
【0061】
図6の下図は、騒音規制ラインSLにおける冷却能力を示すマップ500である。マップ500において、横軸が作動点の位置示し、縦軸が冷却能力を示している。横軸は、左側ほどコンプレッサ回転数が低くかつファン回転数が高い作動点であり、右側ほどコンプレッサ回転数が高くかつファン回転数が低い作動点である。制限作動点PL、候補作動点P1、及び候補作動点P2は、それぞれ
図6の上図のPL,P1,及びP2に対応している。
【0062】
マップ500に示すように、騒音規制ラインSL上では、候補作動点P1において冷却能力が要求冷却能力(
図6下図のQr)と同じになる。また、騒音規制ラインSL上では、候補作動点P2において冷却能力が最大冷却能力(
図6下図のQm)となる。冷却系ECM80は、冷却能力が要求冷却能力と同じになる候補作動点があるときには、当該候補作動点を修正作動点に設定する。ここでは、冷却系ECM80は、候補作動点P1を修正作動点として設定して、候補作動点P1のコンプレッサ回転数及びファン回転数を、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数にそれぞれ設定する。冷却能力としては、候補作動点P2の方が高いが、要求冷却能力以上の冷却能力となる作動点を選択すると、冷却効率を悪化させるおそれがあるためである。
【0063】
冷却系ECM80は、要求冷却能力が最大冷却能力よりも大きく、冷却能力が要求冷却能力と同じになる候補作動点がないときには、冷却能力が要求冷却能力に最も近い候補作動点、すなわち最大冷却能力となる候補作動点(ここでは候補作動点P2)を修正作動点に設定する。また、冷却系ECM80は、冷却能力が要求冷却能力となる修正作動点が複数あるときには、コンプレッサ回転数が低い方の候補作動点を修正作動点として選択する。冷却効率の観点からすると、コンプレッサ回転数が出来る限り低くかつファン回転数が出来る限り高い方が、冷却効率が高いためである。
【0064】
図7は、騒音抑制制御を実行する際の冷却系ECM80の処理動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定の周期毎に実行される。
【0065】
まず、ステップS101において、冷却系ECM80は、各種センサSW1~SW7、PCM81、及びBECM82からの信号を受信して読み込む。
【0066】
次に、ステップS102において、冷却系ECM80は、要求冷却能力を算出する。
【0067】
次いで、ステップS103において、冷却系ECM80は、要求冷却能力に基づいて設定コンプレッサ回転数NCを算出する。
次に、ステップS104において、冷却系ECM80は、第2冷媒圧力センサSW3の検出結果に基づいて、設定ファン回転数NFを算出する。
【0068】
次いで、ステップS105において、冷却系ECM80は、車速が所定車速未満であるか否かを判定する。車速が高いときには、ロードノイズが大きいため、冷却装置1から騒音規制値以上の大きさの騒音が発生したとしても、車両100の乗員が煩わしさを感じにくい。このため、冷却系ECM80は、車速が高いときには、騒音抑制制御を実行しない。冷却系ECM80は、車速が所定車速未満であるYESのときには、ステップS106に進む。一方で、冷却系ECM80は、車速が所定車速以上であるNOのときには、ステップS111に進む。尚、所定車速は、騒音規制値以上の大きさのロードノイズが発生する速度であって、例えば20km/hに設定してもよい。
【0069】
次いで、ステップS106において、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数NCが、制限コンプレッサ回転数NCLよりも大きいか否かを判定する。冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数NCが制限コンプレッサ回転数NCLよりも大きいYESのときには、ステップS108に進む。一方で、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数NCが、制限コンプレッサ回転数NCL以下であるNOのときには、ステップS107に進む。
【0070】
前記ステップS107では、冷却系ECM80は、設定ファン回転数NFが、制限ファン回転数NFLよりも大きいか否かを判定する。冷却系ECM80は、設定ファン回転数NFが制限ファン回転数NFLよりも大きいYESのときには、ステップS108に進む。一方で、冷却系ECM80は、設定ファン回転数NFが、制限ファン回転数NFL以下であるNOのときには、ステップS111に進む。
【0071】
前記ステップS108では、冷却系ECM80は、騒音規制ラインSL上の各候補作動点における冷却能力を求める。
【0072】
次に、ステップS109において、冷却系ECM80は、冷却能力が、要求冷却能力に最も近い候補作動点を修正作動点に設定して、該修正作動点のコンプレッサ回転数及びファン回転数を、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数に設定する。冷却系ECM80は、冷却能力が要求冷却能力と同じになる候補作動点があるときには、当該候補作動点を修正作動点として設定する。また、冷却系ECM80は、冷却能力が要求冷却能力に最も近い候補作動点が複数あるときには、コンプレッサ回転数が最も低い候補作動点を修正作動点として設定する。
【0073】
次いで、ステップS110において、冷却系ECM80は、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数で冷却装置1を作動させる。ステップS110の後はリターンする。
【0074】
一方で、前記ステップS111では、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数及び設定ファン回転数で冷却装置1を作動させる。ステップS111の後はリターンする。
【0075】
〈実施形態1の効果〉
したがって、本実施形態1では、冷媒を加圧するコンプレッサ3と、コンプレッサ3で加圧された冷媒を冷却して凝縮させるコンデンサ4に対して外気を引き込むためのファン41と、電池モジュール70の温度を検出する電池温度センサSW1と、駆動モータ102の温度を検出するモータ水温センサSW5と、コンプレッサ3で圧縮された冷媒の圧力を検出する第2冷媒圧力センサSW3と、コンプレッサ3及びファン41を制御する冷却系ECM80と、を備え、冷却系ECM80は、少なくとも電池温度センサSW1及びモータ水温センサSW5の検出結果に基づいて要求冷却能力を算出し、要求冷却能力に基づくコンプレッサ3の回転数である設定コンプレッサ回転数を算出し、第2冷媒圧力センサSW3の検出結果に基づくファン41の回転数である設定ファン回転数を算出し、設定コンプレッサ回転数が所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限コンプレッサ回転数NCL以下であるという第1条件と、設定ファン回転数が所定の騒音規制値に基づいて予め設定された制限ファン回転数NFL以下であるという第2条件との両方が満たされたときには、設定コンプレッサ回転数及び設定ファン回転数でコンプレッサ3及びファン41をそれぞれ作動させる一方、第1条件及び第2条件の少なくとも一方が満たされないときには、コンプレッサ3及びファン41を作動させたときの騒音が所定の騒音規制値以下となるように、修正コンプレッサ回転数を設定しかつ該修正コンプレッサ回転数に基づいて修正ファン回転数を設定して、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数でコンプレッサ3及びファン41をそれぞれ作動させ、修正コンプレッサ回転数が高いほど、修正ファン回転数を低い値に設定する。このように、ファン回転数を、冷媒圧力ではなくコンプレッサ回転数に基づいて、コンプレッサ回転数が高いほどファン回転数が低くなるように設定することで、冷却能力の低下を出来る限り抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態1では、外気温を検出する外気温センサSW4を更に備え、冷却系ECM80は、外気温を更に考慮して、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数をそれぞれ設定する。これにより、ファンにより取り込まれる空気の温度を考慮することができるため、冷却能力の低下を出来る限り抑制する修正ファン回転数をより適切に設定することができる。これにより、冷却能力の低下をより効果的に抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態1では、冷却系ECM80は、発生する騒音が騒音規制値となるように、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数を設定する。これにより、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数を出来る限り高い値に設定することができる。このため、冷却能力の低下をより効果的に抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態1では、冷却系ECM80は、発生する騒音が騒音規制値となる、コンプレッサ回転数とファン回転数との複数の組み合わせに対して、冷却能力をそれぞれ求めて、冷却能力が要求冷却能力に最も近い組み合わせを修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数にそれぞれ設定する。これにより、騒音を抑制できる範囲で、適切な修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数を設定することができる。これにより、冷却能力の低下をより効果的に抑制しつつ冷却時の騒音を抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態1では、冷却系ECM80は、冷却能力が要求冷却能力と同じ又は該要求冷却能力に最も近い組み合わせが複数あるときには、コンプレッサ回転数が最も低い組み合わせを修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数にそれぞれ設定する。これにより、コンプレッサ回転数を出来る限り低くすることができる。コンプレッサ回転数が低い方が、冷却すべき冷媒の量が少なくなるため、効率的に冷媒を冷却することができる。このため、冷却効率を向上させることができる。
【0080】
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0081】
図8は、本実施形態2に係る冷却装置における修正作動点の算出方法を概略的に示す。本実施形態2では、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数が制限コンプレッサ回転数NCL以下であるという第1条件と、設定ファン回転数が制限ファン回転数NFL以下であるという第2条件との少なくとも一方が満たされないときには、制限コンプレッサ回転数NCLに対して回転数が一定数高い第1コンプレッサ回転数候補と、第1コンプレッサ回転数候補に基づく第1ファン回転数候補と、制限コンプレッサ回転数NCLに対して回転数が一定数低い第2コンプレッサ回転数候補と、第2コンプレッサ回転数候補に基づく第2ファン回転数候補と、を算出する。次に、冷却系ECM80は、制限コンプレッサ回転数NCLと制限ファン回転数NFLとの組み合わせである制限作動点PL、第1コンプレッサ回転数候補と第1ファン回転数候補との組み合わせである第1候補作動点P4、並びに第2コンプレッサ回転数候補と第2ファン回転数候補との組み合わせである第2候補作動点P5に対して、各作動点でコンプレッサ3及びファン41を作動させたときの冷却能力をそれぞれ求める。そして、冷却系ECM80は、各作動点のうち冷却能力が要求冷却能力に最も近い作動点を修正作動点として選択して、修正作動点のコンプレッサ回転数及びファン回転数を修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数にそれぞれ設定する。つまり、制限作動点PLも候補作動点の1つである。
【0082】
図8に示すように、本実施形態2では、冷却系ECM80は、第1候補作動点P4及び第2候補作動点P5を騒音規制ラインSL上から算出する。つまり、第1ファン回転数候補は、制限ファン回転数NFLよりも低く、第2ファン回転数候補は、制限ファン回転数NFLよりも高い。また、第1コンプレッサ回転数候補と制限コンプレッサ回転数NCLとの差の絶対値と、第2コンプレッサ回転数候補と制限コンプレッサ回転数NCLとの差の絶対値とは前記一定数で同じであるため、第1ファン回転数候補と制限ファン回転数NFLとの差の絶対値と、第2ファン回転数候補と制限ファン回転数NFLとの差の絶対値とは同じである。尚、前記一定数は、予め設定されている。
【0083】
この
図8に示す例では、第1候補作動点P4の冷却能力が要求冷却能力に最も近いため、第1候補作動点P4が修正作動点として選択される。尚、冷却系ECM80は、冷却能力が要求冷却能力に最も近い候補作動点が2点あり、かつ一方の候補作動点の冷却能力が要求冷却能力よりも低く、かつ他方の候補作動点の冷却能力が要求冷却能力よりも高いときには、冷却能力が要求冷却能力よりも高い方の候補作動点を修正作動点として選択する。
【0084】
図9及び
図10は、本実施形態2に係る騒音抑制制御を実行する際の冷却系ECM80の処理動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定の周期毎に実行される。
【0085】
まず、ステップS201において、冷却系ECM80は、各種センサSW1~SW7、PCM81、及びBECM82からの信号を受信して読み込む。
【0086】
次に、ステップS202において、冷却系ECM80は、要求冷却能力を算出する。
【0087】
次いで、ステップS203において、冷却系ECM80は、要求冷却能力に基づいて設定コンプレッサ回転数NCを算出する。
【0088】
次に、ステップS204において、冷却系ECM80は、第2冷媒圧力センサSW3の検出結果に基づいて、設定ファン回転数NFを算出する。
【0089】
次いで、ステップS205において、冷却系ECM80は、車速が所定車速未満であるか否かを判定する。冷却系ECM80は、車速が所定車速未満であるYESのときには、ステップS206に進む。一方で、冷却系ECM80は、車速が所定車速以上であるNOのときには、ステップS215に進む。
【0090】
次いで、ステップS206において、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数NCが、制限コンプレッサ回転数NCLよりも大きいか否かを判定する。冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数NCが制限コンプレッサ回転数NCLよりも大きいYESのときには、ステップS208に進む。一方で、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数NCが、制限コンプレッサ回転数NCL以下であるNOのときには、ステップS207に進む。
【0091】
前記ステップS207では、冷却系ECM80は、設定ファン回転数NFが、制限ファン回転数NFLよりも大きいか否かを判定する。冷却系ECM80は、設定ファン回転数NFが制限ファン回転数NFLよりも大きいYESのときには、ステップS208に進む。一方で、冷却系ECM80は、設定ファン回転数NFが、制限ファン回転数NFL以下であるNOのときには、ステップS215に進む。
【0092】
前記ステップS208では、冷却系ECM80は、第1コンプレッサ回転数候補を算出する。
【0093】
次に、ステップS209において、冷却系ECM80は、第1コンプレッサ回転数候補に基づいて、第1ファン回転数候補を算出する。
【0094】
次いで、ステップS210において、冷却系ECM80は、第2コンプレッサ回転数候補を算出する。
【0095】
次に、ステップS211において、冷却系ECM80は、第2コンプレッサ回転数候補に基づいて、第2ファン回転数候補を算出する。
【0096】
次いで、ステップS212において、冷却系ECM80は、制限作動点PL、第1候補作動点P4、及び第2候補作動点P5における冷却能力をそれぞれ算出する。
【0097】
次に、ステップS213において、冷却系ECM80は、要求冷却能力に最も近い作動点を修正作動点に設定して、該作動点のコンプレッサ回転数及びファン回転数を、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数に設定する。
【0098】
次いで、ステップS214において、冷却系ECM80は、修正コンプレッサ回転数及び修正ファン回転数で冷却装置1を作動させる。ステップS214の後はリターンする。
【0099】
一方で、前記ステップS215では、冷却系ECM80は、設定コンプレッサ回転数及び設定ファン回転数で冷却装置1を作動させる。ステップS215の後はリターンする。
【0100】
この実施形態2の構成でも、ファン回転数をコンプレッサ回転数に基づいて設定することで、冷却能力の低下を出来る限り抑制しつつ騒音を抑制することができる。また、冷却系ECM80の演算量を出来る限り小さくすることができる。これにより、消費電力を出来る限り抑えることができる。
【0101】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0102】
例えば、前述の実施形態1及び2では、騒音規制ラインSL上から修正作動点が設定される構成であった。これに限らず、冷却能力マップにおける騒音規制ラインSLよりも下側の領域であれば、騒音規制ラインSL上でなくとも修正作動点を設定してよい。
【0103】
また、前述の実施形態1及び2では、前記第1条件及び前記第2条件の少なくとも一方が満たされないときには、修正作動点が選択されるまでは、コンプレッサ回転数及びファン回転数は、それぞれ設定コンプレッサ回転数及び設定ファン回転数に設定されていた。これに限らず、前記第1条件及び前記第2条件の少なくとも一方が満たされないときには、修正作動点が選択されるまで、コンプレッサ回転数及びファン回転数を、一時的に、それぞれ制限コンプレッサ回転数NCL及び制限ファン回転数NFLに設定してもよい。
【0104】
また、前述の実施形態2では、候補作動点を、制限作動点PLを含めて3点だけ算出していた。これに限らず、候補作動点の数は4点以上であってもよい。
【0105】
また、前述の実施形態1及び2においては、冷却装置1は電池モジュール70を熱交換器2に冷媒を流通させることで冷却していた。これに限らず、冷却装置1は、熱交換器2に冷媒と熱交換した冷却水を流通させるための熱交換器(チラー)さらに有してもよい。
【0106】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
ここに開示された技術は、冷媒を利用して車両に搭載された電駆部品を冷却する、電気駆動車両の冷却装置として有用である。
【符号の説明】
【0108】
1 冷却装置
2 熱交換器
3 コンプレッサ(加圧器)
4 コンデンサ(凝縮器)
41 ファン
70 電池モジュール(電駆部品)
80 冷却系ECM(コントローラ)
100 車両
102 駆動モータ(電駆部品)
103 インバータ(電駆部品)
104 コンバータ(電駆部品)
SW1 電池温度センサ(電駆部品温度検出部)
SW3 第2冷媒圧力センサ(冷媒圧力検出部)
SW4 外気温センサ(外気温検出部)
SW5 モータ水温センサ(電駆部品温度検出部)