(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025043896
(43)【公開日】2025-04-01
(54)【発明の名称】受診促進プログラム、受診促進装置及び受診促進方法
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20250325BHJP
【FI】
G16H20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151464
(22)【出願日】2023-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩行
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】患者と患者の家族の精神疾患への対応を早期に行う。
【解決手段】コンピュータを、被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、テキストデータの分析結果に基づいて、被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段として機能させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、
前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段として機能させる受診促進プログラム。
【請求項2】
前記精神状態分析手段は、
自然言語処理により、前記テキストにネガティブな感情を表す言葉が含まれているか否かを分析する、請求項1に記載の受診促進プログラム。
【請求項3】
前記アラート通知判定手段は、
前記被験者の分析結果と、実際に精神疾患を罹患した患者の分析結果とを比較し、両者の類似度に基づいて前記通知を行うか否かを判定する、請求項1に記載の受診促進プログラム。
【請求項4】
前記被験者は、特定の疾患の患者とその家族を含む、請求項1に記載の受診促進プログラム。
【請求項5】
前記特定の疾患の患者の疾患情報、患者の背景情報、治療状況に関する情報、心理的情報の少なくとも1つに基づいて精神疾患のリスクをスコア化する精神疾患リスク算出手段を備え、
前記アラート通知判定手段は、
前記テキストデータの分析結果およびスコア化された前記精神疾患のリスクの少なくとも一方に基づいて、前記通知を行うか否かを判定する、請求項4に記載の受診促進プログラム。
【請求項6】
被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、
前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段とを備えた受診促進装置。
【請求項7】
コンピュータが、被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する工程と、
コンピュータが、前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定する工程とを有する受診促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受診促進プログラム、受診促進装置及び受診促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精神疾患の代表例であるうつ病において、音声や動画データから取得されるスペクトルデータを用いてうつ症状の特徴を定義し、被験者のうつ病のレベルを自動的に検出する装置が知られている(例えば、特許文献1)。また、対象者が装着したウェアラブル・デバイスから瞬間的な気分を評価するスコアを受信し、その評価に基づいてうつ病の危険性があるか否かを診断する装置(例えば、特許文献2)や、測定対象者に関するセンサ情報に基づいて、測定対象者のストレスの度合いを表す状態値を算出する測定装置が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第11266338号公報
【特許文献2】韓国特許第2302071号公報
【特許文献3】特許第7006597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳がん患者の場合、セクシュアリティやボディイメージなどの観点で心理的重要性を持つ乳房の切除の可能性があることなどから、乳がん患者特有のストレスを抱える可能性が高く、適応障害を発症する患者も少なからず存在する。また、家族への負担を気にしてこのような精神状態を伝えられない患者も多く、精神疾患を見過ごされることが多くなっている。精神疾患を自覚する頃には中等度・重度のうつ症状となっていることも多いため、早期の対処が重要となる。一方、患者の家族にも、看病や生活面でのサポートによる精神的負荷があるが、家族の精神疾患に対する対策は十分ではなかった。
【0005】
また、特許文献1~3に記載された方法は、いずれも被験者が専用の装置を装着したり、診断のために音声や動画のデータを取得したりするなど、あらかじめうつ病の可能性があることを考慮した上で実施される。したがって、潜在的にうつ病の可能性がありながら、診察やヘルステックなどの健康管理を受ける機会が限定的な患者家族の精神疾患を早期に発見する方法は存在しなかった。
【0006】
そこで、本発明は、患者と患者の家族の精神疾患への対応を早期に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る受診促進プログラムは、コンピュータを、被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段として機能させるものである。
【0008】
本発明の他の一実施形態に係る受診促進装置は、被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段とを備えたものである。
【0009】
本発明の他の一実施形態に係る受診促進方法は、コンピュータが、被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する工程と、コンピュータが、前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者と患者の家族の精神疾患への対応を早期に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態による、受診促進システム1の構成を示すブロック図。
【
図2】本発明の実施の形態による、受診促進システム1による患者への心療内科受診促進サービスの流れを示すフローチャート
【
図3】本発明の実施の形態による、受診促進システム1による患者家族への心療内科受診促進サービスの流れを示すフローチャート
【
図4】本発明の実施の形態による、受診促進システム1によるアラート通知判定を説明する図。
【
図5】本発明の実施の形態による、サーバ装置10をコンピュータにより実現する場合のハードウェア構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態による受診促進システム1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、受診促進システム1は、サーバ装置(情報処理装置)10、患者端末20、家族端末30、医療従事者端末40、医療機関データベース50を備えている。サーバ装置10は、患者端末20、家族端末30、医療従事者端末40、医療機関データベース50と通信ネットワークNを介して接続されている。通信ネットワークNは、例えば、インターネット、LAN、専用線、電話回線、企業内ネットワーク、移動体通信網、ブルートゥース(登録商標)、WiFi(Wireless Fidelity)、その他の通信回線、それらの組み合わせ等のいずれであってもよく、有線であるか無線であるかを問わない。
【0013】
受診促進システム1は、例えば乳がんの患者とその患者家族に対し、患者と家族の精神疾患の予兆を検知し、心療内科の受診を促進するサービスを提供するシステムである。具体的には、サーバ装置10と患者および患者家族の端末に実装された専用アプリが連携することにより、患者と家族の精神疾患の予兆を検知し、必要に応じてアラートを通知するサービスが実現される。患者は、自身の端末にて専用アプリの利用登録(ユーザ登録)を行うことにより、患者端末20を介してサービスを利用することができる。患者家族は、専用アプリへの利用登録を行っている患者の家族であり、患者からの招待/承認を経て利用登録を行うことができるようにしてもよい。患者および家族が患者端末20および家族端末30を介して利用する専用アプリは同じものであってよく、患者本人とその家族は、アプリを介して情報交換等のコミュニケーションを行うことができる。また、心療内科の医師や看護師は、医療従事者端末40を介して、患者または家族の精神疾患の予兆に関する情報を参照することができる。
【0014】
サーバ装置10は、心療内科の受診促進サービスを提供する企業等に設置され、制御部(プロセッサ)11、記憶部12、および通信インタフェース13を備えた汎用的なコンピュータである。サーバ装置10は、それぞれ1台のコンピュータで構成されていてもよいし、通信ネットワークN上に分散する複数のコンピュータから構成されてもよい。また、サーバ装置10はクラウド上に構築されていてもよい。
【0015】
患者端末20、家族端末30、および医療従事者端末40は、それぞれ患者と患者家族が利用する端末である。患者端末20、家族端末30、および医療従事者端末40は、パーソナルコンピュータ(PC)、ノートPC、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話機、携帯情報端末(PDA)など、通信ネットワークNを介してサーバ装置10とデータの授受が可能なあらゆる端末装置を利用することができる。患者端末20、家族端末30、および医療従事者端末40は、ハードウェアとしてプロセッサと記憶装置を備えている。
【0016】
乳がん等の患者は、患者端末20を使用して、同病の他の患者とチャットなどでコミュニケーションを取ることができる。
【0017】
患者の家族は、家族端末30を使用して、当該患者や同病の患者がいる他の家族とチャットなどでコミュニケーションを取ることができる。
【0018】
心療内科の医師や看護師などの医療従事者は、医療従事者端末40を使用して、受診促進システム1による患者と患者家族の精神状態の分析結果を参照することができる。なお、医療従事者端末40は、医師や看護師が個別に所持するスマートフォン等の携帯端末でもよいし、医療機関に設置され、当該医療機関の従事者が共同で使用するパーソナルコンピュータ等の端末であってもよい。
【0019】
医療機関データベース50は、乳がん等の患者が通院・入院している医療機関等が管理するデータベースであり、各患者の疾患情報が記録されている。疾患情報には、乳がんタイプ(HER2陽性、ホルモン受容体陽性、トリプルネガティブ、遺伝性)、診断時の状況(初発/再発)、ステージ(ステージ1,2,3,4)等の情報が含まれる。
【0020】
図1において、サーバ装置10が備える患者精神状態分析手段101、患者精神疾患リスク算出手段102、家族精神状態分析手段103、家族精神疾患リスク算出手段104、およびアラート通知手段105は、記憶部12に格納されたプログラムが制御部11によって実行されることで実現される機能モジュールを示している。
【0021】
患者精神状態分析手段101は、患者が患者端末20を介して入力したチャットの内容や、インターネット上のコミュニティサイトに投稿した文章の内容を取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する。
【0022】
患者精神疾患リスク算出手段102は、特定の疾患の患者の疾患情報、患者の背景情報、治療状況に関する情報、心理的情報の少なくとも1つに基づいて精神疾患のリスクをスコア化する。
【0023】
家族精神状態分析手段103は、患者の家族が家族端末30を介して入力したチャットの内容や、インターネット上のコミュニティサイトに投稿した文章の内容を取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する。
【0024】
家族精神疾患リスク算出手段104は、特定の疾患の患者の疾患情報、患者の背景情報、治療状況に関する情報、心理的情報、患者・家族関係性情報の少なくとも1つに基づいて精神疾患のリスクをスコア化する。
【0025】
アラート通知判定手段105は、患者精神状態分析手段101および家族精神状態分析手段103による分析結果と、患者精神疾患リスク算出手段102および家族精神疾患リスク算出手段104によりスコア化された精神疾患リスクを、実際に精神疾患を罹患した患者についての分析結果およびスコアの蓄積データと比較し、過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度に基づいて、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定する。
【0026】
また、サーバ装置10は、記憶部12に実装された患者データベースDB1を備えている。なお、患者データベースDB1は、クラウド上など外部の記憶装置に実装されていてもよい。患者データベースDB1には、患者ごとに、以下の情報を含むレコードが記憶されている。
(1)患者背景情報
患者の年齢や家族構成など
(2)治療状況情報
治療歴(手術、化学療法・ホルモン療法、食事療法、カウンセリング等)、補助治療歴(乳房再建、運動療法、食事療法、カウンセリング等)、乳がん治療スケジュール(受診、入退院、手術、検査、薬物治療等)等
(3)心理的情報
患者の性格や生活上の悩みなど
(4)患者・家族関係性情報
患者本人と家族のそれぞれについて、性格、治療への希望、生活上の関心事項、悩み(治療面、金銭面、生活面、就労面等)等
【0027】
次に、受診促進システム1による患者へのサービスの流れについて
図2のフローチャートを用いて説明する。まず、患者精神状態分析手段101は、乳がんなどの患者が、患者端末20を介して同病の他の患者と行ったチャットの内容や、インターネット上の患者コミュニティサイトに投稿した文章の内容を取得する(ステップS101)。
【0028】
次に、患者精神状態分析手段101は、取得したチャットの内容や投稿内容を学習済みの精神状態分析モデルに入力し、当該患者の精神状態の分析を実行する(ステップS102)。精神状態分析モデルは、チャット内容や投稿内容のテキストデータを自然言語処理によって分析し、テキストにおいてネガティブな感情(恐れ、悲しみ、嫌悪、怒り等)の高まりがみられるか否かを判定する。例えば、ネガティブな感情を表す言葉の出現回数などに基づいて判定してよい。
【0029】
次に、患者精神疾患リスク算出手段102は、患者情報項目を取得し、患者情報項目毎に当該患者の精神疾患リスクを示すスコアを一定基準により算出する(ステップS103)。患者情報項目は、例えば以下の(1)~(4)である。
(1)疾患情報(医療機関データベース50から取得)
(2)患者背景情報(患者データベースDB1から取得)
(3)治療状況情報(患者データベースDB1から取得)
(4)心理的情報(患者データベースDB1から取得)
【0030】
次に、アラート通知判定手段105は、患者精神状態分析手段101による分析結果と、患者精神疾患リスク算出手段102によりスコア化された精神疾患リスクを、実際に精神疾患を罹患した患者についての分析結果およびスコアの蓄積データと比較し、過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度が一定値以上高いか否かを判定する(ステップS104)。
【0031】
過去の罹患者の事例との類似度が高いと判断された場合には(YES)、専用アプリの通知機能により、当該患者の患者端末20に、主治医への相談や心療内科受診を勧めるアラートを通知する(ステップS105)。
【0032】
なお、上記の実施例では、患者精神状態分析手段101による分析結果と、患者精神疾患リスク算出手段102によりスコア化された精神疾患リスクを用いて過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度が高いか否かを判定しているが、精神状態の分析結果またはスコア化された精神疾患リスクのいずれか一方を用いて過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度が高いか否かを判定してもよい。
【0033】
次に、受診促進システム1による患者の家族へのサービスの流れについて
図3のフローチャートを用いて説明する。まず、家族精神状態分析手段103は、乳がんなどの患者の家族が、家族端末30を介して同病の他の患者と行ったチャットの内容や、インターネット上の患者コミュニティサイトに投稿した文章の内容を取得する(ステップS201)。
【0034】
次に、家族精神状態分析手段103は、取得したチャットの内容や投稿内容を学習済みの精神状態分析モデルに入力し、患者家族の精神状態の分析を実行する(ステップS202)。精神状態分析モデルは、チャット内容や投稿内容のテキストデータを自然言語処理によって分析し、テキストにおいてネガティブな感情(恐れ、悲しみ、嫌悪、怒り等)の高まりがみられるか否かを判定する。例えば、ネガティブな感情を表す言葉の出現回数などに基づいて判定してよい。
【0035】
次に、家族精神疾患リスク算出手段104は、患者情報項目を取得し、患者情報項目毎に患者家族の精神疾患リスクを示すスコアを一定基準により算出する(ステップS203)。患者情報項目は、例えば以下の(1)~(5)である。
(1)患者の疾患情報(医療機関データベース50から取得)
(2)患者背景情報(患者データベースDB1から取得)
(3)治療状況情報(患者データベースDB1から取得)
(4)心理的情報(患者データベースDB1から取得)
(5)患者・家族関係性情報(患者データベースDB1から取得)
【0036】
次に、アラート通知判定手段105は、家族精神状態分析手段103による分析結果と、家族精神疾患リスク算出手段104によりスコア化された精神疾患リスクを、実際に精神疾患を罹患した患者についての分析結果およびスコアの蓄積データと比較し、過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度が一定値以上高いか否かを判定する(ステップS204)。
【0037】
過去の罹患者の事例との類似度が高いと判断された場合には(YES)、専用アプリの通知機能により、当該患者家族の家族端末30に、患者の看病を休んで休息を取ることを勧めるメッセージや心療内科の早期受診を勧めるアラートを通知する(ステップS205)。
【0038】
なお、上記の実施例では、家族精神状態分析手段103による分析結果と、家族精神疾患リスク算出手段104によりスコア化された精神疾患リスクを用いて過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度が高いか否かを判定しているが、精神状態の分析結果またはスコア化された精神疾患リスクのいずれか一方を用いて過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度が高いか否かを判定してもよい。
【0039】
本発明は、患者と家族の両方に対して分析を行うことにより、患者を含めた家族へ向けたサービスとして有効に活用することができる。
図4は、アラート通知判定手段105によるアラート通知判定を説明する図である。
図4の例では、過去の精神疾患の罹患者の事例との類似度に基づく患者および家族の精神状態を0点~50点までのスコアで表している。それぞれ点数が高いほど精神状態が健康であることを表しており、10点以下の場合には「危険」、10点~30点は「要注意」、30点以上は「健康」と判断される。例えば、患者のスコアが35点、家族のスコアが15点の場合には、患者は「健康」であるが家族が「要注意」であるため、この家族は
図4に示すように「家族要注意」エリアに属すると判定される。「家族要注意」エリアに属する家族に対しては、家族に対して患者との接し方に関するウェブ記事などを勧めるようにしてもよい。このように、患者と家族の両方に対して分析を行うことにより、心療内科の受診を勧めるアラートだけでなく、それぞれの家族に適した情報を提供するなどのサービスも可能になる。
【0040】
なお、患者または患者家族についての、精神状態の分析結果とスコア化した精神疾患リスクをまとめたレポートを、患者データベースDB1に患者に紐づけて登録するようにしてもよい。心療内科の医療従事者が患者や家族の診察をする際には、医療従事者端末40を介して患者データベースDB1にアクセスし、診察対象者の精神状態の分析結果とスコア化した精神疾患リスクのレポートを参照できるようにしてもよい。
【0041】
また、医療従事者が、診察対象者のレポートの内容と実際に診察した時の結果が一致していたか否かのフィードバック情報を、医療従事者端末40を介して登録できるようにしてもよい。また、フィードバックされた情報を学習データとして精神状態分析モデルのさらなる学習を実施してもよい。これにより、精神状態分析モデルの判定精度を向上させることができる。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、患者や家族が書き込んだテキストデータを自然言語処理で分析することにより、装置による測定や診察等を行わなくても、普段どおりの生活のなかで被験者が精神疾患を罹患する予兆を検知することができる。このため、患者や家族が抱える精神的ストレスを煩雑な手間なく早期に検知することができるので、適応障害やうつ病などの精神疾患が重篤化しないうちに対策を取ることが可能となる。また、分析結果に基づいて、心療内科の早期受診を勧めるアラートを通知したり、患者家族に対して看病の休息を勧めたりといった被験者の状況に適したリコメンドを行うことができる。
【0043】
また、分析結果は、心療内科の受診時に、担当する医師等が閲覧することもできるので、担当する医師は予め受診者の情報を得ることができる。また、実際に診察した心療内科の医師が、分析結果へのフィードバックを行うことにより、分析モデルの精度をさらに向上させることができる。
【0044】
なお、上記の実施形態では、乳がんの患者とその家族を対象としたサービスとして説明しているが、乳がん以外のがん患者とその家族に対しても、有効である。例えば、肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、前立腺がん、肝臓がん、食道がん、子宮頸がんなどの他の種類のがんであってもよい。また、疾患の種類はがんに限定されず、治療期間が長い病気や、治療に関する情報が少ない病気など、重篤な疾患を有する患者とその家族にも同様のサービスを提供することができる。
【0045】
また、がんなどの患者とその家族に限らず、普通の健常者に対しても本発明は有効である。例えば、ストレスの多い環境にいる人など、精神疾患に罹患するリスクが高い状況にある人に対し、チャットでのやり取りやインターネット上の書き込みなどの内容を分析して、必要に応じて心療内科の受診を勧めるシステムとして利用することができる。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。このため、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。例えば、上述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、または並列に実行することができる。
【0047】
(ハードウェア構成)
図5を参照して、サーバ装置10をコンピュータ70により実現する場合のハードウェア構成の一例を説明する。なお、それぞれの装置の機能は、複数台の装置に分けて実現することもできる。
【0048】
図5に示すように、コンピュータ70は、プロセッサ700と、記憶装置702と、入力I/F704と、データI/F706と、通信I/F708、及び表示装置710を含む。
【0049】
プロセッサ700は、記憶装置702に記憶されているプログラムを実行することによりコンピュータ70における様々な処理を制御する。例えば、サーバ装置10、患者端末20A,20B、および家族端末30A,30Bが備える各機能部等は、記憶装置702に記憶されたプログラムを、プロセッサ700が実行することにより実現可能である。
【0050】
記憶装置702は、例えばRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。RAMは、プロセッサ700によって実行されるプログラムのプログラムコードや、プログラムの実行時に必要となるデータを一時的に記憶する。
【0051】
記憶装置702は、他にも、例えばハードディスクドライブ(HDD)やフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶媒体である。記憶装置702は、オペレーティングシステムや、上記各構成を実現するための各種プログラムを記憶する。当該各種プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。この他、記憶装置702は、各種情報を登録するテーブルと、当該テーブルを管理するDBを記憶することも可能である。このようなプログラムやデータは、必要に応じて記憶装置702にロードされることにより、プロセッサ700から参照される。
【0052】
入力I/F704は、ユーザからの入力を受け付けるためのデバイスである。入力I/F704の具体例としては、カメラ、ボタン、マイク、キーボード、マウス、タッチパネル、各種センサ、ウェアラブル・デバイスなどが挙げられる。入力I/F704は、例えばUSB(Universal Serial Bus)などのインタフェースを介してコンピュータ70に接続されてもよい。
【0053】
データI/F706は、コンピュータ70の外部からデータを入力するためのデバイスである。データI/F706の具体例としては、各種記憶媒体に記憶されているデータを読み取るためのドライブ装置などがある。データI/F706は、コンピュータ70の外部に設けられることも考えられる。その場合、データI/F706は、例えばUSBなどのインタフェースを介してコンピュータ70へと接続される。
【0054】
通信I/F708は、コンピュータ70の外部の装置と有線または無線により、通信ネットワーク5を介したデータ通信を行うためのデバイスである。通信I/F708は、コンピュータ70の外部に設けられることも考えられる。その場合、通信I/F708は、例えばUSBなどのインタフェースを介してコンピュータ70に接続される。
【0055】
表示装置710は、各種情報を表示するためのデバイスである。表示装置710の具体例としては、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、ウェアラブル・デバイスのディスプレイなどが挙げられる。表示装置710は、コンピュータ70の外部に設けられてもよい。その場合、表示装置710は、例えばディスプレイケーブルなどを介してコンピュータ70に接続される。また、入力I/F704としてタッチパネルが採用される場合には、表示装置710は、入力I/F704と一体化して構成することが可能である。
【0056】
また、上記実施形態で記載されたサーバ装置10、患者端末20A,20B、および家族端末30A,30Bが備える構成要素は、記憶装置702に格納されたプログラムがプロセッサ700によって実行されることで、定められた処理が他のハードウェアと協働して実現されるものとする。また、言い換えれば、これらの構成要素は、ソフトウェアまたはファームウェアとしても、それと対応するハードウェアとしても想定され、その双方の概念において、「機能」、「手段」、「部」、「処理回路」、「ユニット」、または「モジュール」などとも記載され、またそれぞれに読み替えることができる。
【0057】
なお、本発明の実施形態は、以下の付記のようにも記載することができる。
(付記1)
コンピュータを、
被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、
前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段として機能させる受診促進プログラム。
【0058】
(付記2)
前記精神状態分析手段は、
自然言語処理により、前記テキストにネガティブな感情を表す言葉が含まれているか否かを分析する、付記1に記載の受診促進プログラム。
【0059】
(付記3)
前記アラート通知判定手段は、
前記被験者の分析結果と、実際に精神疾患を罹患した患者の分析結果とを比較し、両者の類似度に基づいて前記通知を行うか否かを判定する、付記1または2に記載の受診促進プログラム。
【0060】
(付記4)
前記被験者は、特定の疾患の患者とその家族を含む、付記1から3のいずれか1項に記載の受診促進プログラム。
【0061】
(付記5)
前記特定の疾患の患者の疾患情報、患者の背景情報、治療状況に関する情報、心理的情報の少なくとも1つに基づいて精神疾患のリスクをスコア化する精神疾患リスク算出手段を備え、
前記アラート通知判定手段は、
前記テキストデータの分析結果およびスコア化された前記精神疾患のリスクの少なくとも一方に基づいて、前記通知を行うか否かを判定する、付記4に記載の受診促進プログラム。
【0062】
(付記6)
被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する精神状態分析手段と、
前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定するアラート通知判定手段とを備えた受診促進装置。
【0063】
(付記7)
コンピュータが、被験者が端末を介して他者とのコミュニケーションを行う際に入力したテキストデータを取得し、当該テキストに精神疾患の予兆が現れているか否かを分析する工程と、
コンピュータが、前記テキストデータの分析結果に基づいて、前記被験者に対し、医療機関の受診を勧めるアラートを含む通知を行うか否かを判定する工程とを有する受診促進方法。
【符号の説明】
【0064】
1…情報処理システム
10…サーバ装置
11…制御部
12…記憶部
13…通信インタフェース
20…患者端末
30…家族端末
40…医療従事者端末
50…医療機関データベース
70…コンピュータ
101…患者精神状態分析手段
102…患者精神疾患リスク算出手段
103…家族精神状態分析手段
104…家族精神疾患リスク算出手段
105…アラート通知判定手段
700…プロセッサ
702…記憶装置
704…入力I/F
706…データI/F
708…通信I/F
710…表示装置