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特開2025-43945血管透過性抑制剤及びそれを用いた冷え性改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025043945
(43)【公開日】2025-04-01
(54)【発明の名称】血管透過性抑制剤及びそれを用いた冷え性改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20250325BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250325BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20250325BHJP
   A61K 36/61 20060101ALI20250325BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20250325BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20250325BHJP
   A23G 3/36 20060101ALN20250325BHJP
   A23G 4/12 20060101ALN20250325BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20250325BHJP
   A23C 9/13 20060101ALN20250325BHJP
   A23C 9/123 20060101ALN20250325BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P9/00
A61P7/10
A61K36/61
A61K31/7032
A23G3/34 101
A23G3/36
A23G4/12
A23L2/00 F
A23L2/52
A23C9/13
A23C9/123
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151560
(22)【出願日】2023-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】594045089
【氏名又は名称】オリザ油化株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(72)【発明者】
【氏名】森川 敏生
(72)【発明者】
【氏名】米田 朱里
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 賢知
(72)【発明者】
【氏名】下田 博司
(72)【発明者】
【氏名】村井 弘道
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
4B018
4B117
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC06
4B001AC31
4B001EC05
4B014GB07
4B014GB13
4B014GG07
4B014GG18
4B014GK03
4B014GK04
4B014GK05
4B014GK08
4B014GL04
4B014GL06
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD13
4B018MD14
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG01
4B117LK11
4B117LL01
4B117LL02
4B117LL06
4B117LP01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA05
4C086MA01
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA36
4C088AB57
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA06
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA36
(57)【要約】
【課題】 新規な血管透過性抑制剤を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
1. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする血管透過性抑制剤。
2. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物は,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする血管透過性抑制剤。
3. 1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を有効成分とする血管透過性抑制剤。
4. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする冷え性改善剤。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする血管透過性抑制剤。
【請求項2】
イエローストロベリーグアバ果実の抽出物は,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1に記載の血管透過性抑制剤。
【請求項3】
1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を有効成分とする血管透過性抑制剤。
【請求項4】
イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする冷え性改善剤。
【請求項5】
イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする浮腫み改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規な血管透過性抑制剤及びそれを用いた冷え性改善剤に関する。本発明は,食品(健康食品,機能性表示食品,特定保健用食品等をも含む),医薬品,医薬部外品等に広く利用される。
【背景技術】
【0002】
近年,血管の老化や機能低下が,しわや肌荒れ等の皮膚性状に影響することが見出され,血管の正常度が皮膚性状を判断する指標として有効であることが知られている。この血管は,血液を通して全身の臓器に酸素や栄養素を送るだけでなく,組織中からの老廃物を運び体外へ排泄する役割を担っており,人体が生命活動を維持するにあたって重要な組織である。一般的に血管の老化や機能の破綻は,動脈硬化に代表されるような人体の健康に大きな影響があるものから,しわやむくみなど外見的な所見にも繋がる。
【0003】
また,血管の老化によって血管構造が不安定になると,血管から血漿成分などの栄養成分が漏出し,必要な個所に必要な成分が運ばれなくなる。その結果,肌状態の低下など,様々なトラブルが生じることが考えられる。血管内皮細胞を安定化し,血管透過性抑制作用を有し,これにより,そして血管の内皮細胞がしっかりと結びつくことにより肌に栄養が行き渡り,肌のハリやキメの改善,しわ防止などの美容効果を有するものが求められている。さらに,血管やリンパ管の内皮細胞の隙間が塞がれることにより血流が改善し,組織中からの水分や老廃物が回収されて,冷え,肩こり,むくみ,クマなどの諸症状を改善し,予防するものが求められている(特許文献1)。
【特許文献1】再表2017-183581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような背景の下,本発明者は,イエローストロベリーグアバ果実の抽出物及びその含有成分に血管透過性抑制作用を有することを見出し,本発明を完成させた。
すなわち,本発明は新規な血管透過性抑制剤及びそれを用いた冷え性改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
1. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする血管透過性抑制剤。
2. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物は,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする血管透過性抑制剤。
3. 1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を有効成分とする血管透過性抑制剤。
4. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする冷え性改善剤。
5. イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とする浮腫み改善剤。
6.
【発明の効果】
【0006】
本発明は,血管透過性抑制作用を有するため,冷え,肩こり,むくみ,クマなどの諸症状を改善し,予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】イエローストロベリーグアバ由来各種DGDGおよびGlcCerがHUVEC細胞における血管透過性に与える影響を示すグラフである。
図2】イエローストロベリーグアバ由来各種DGDGおよびGlcCerがHUVEC細胞における細胞生存率 (MTT assay法) に与える影響を示すグラフである。
図3】イエローストロベリーグアバ抽出物の冷え性改善効果の評価結果を示す図である。
図4】イエローストロベリーグアバ由来1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0] がVE-Cadherinのタンパク発現に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,本発明を詳細に説明する。
本発明は,イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
イエローストロベリーグアバ(Psidium littorale)は,キバンジロウ(黄蕃石榴)とも呼ばれるフトモモ科の熱帯性の果実である。同属植物のバンジロウ(グアバ)と食用に供される果実は果皮の色を別にすると種間で大きな差がないため,果物市場で単に「グアバ」と云った場合,本種の果実まで含めることが多いがバンジロウ(グアバ)とは別種である。
【0009】
また,上記イエローストロベリーグアバ果実の抽出物は,GlcCer[d18:2(4E,8Z)/16:0], GlcCer [t18:1(8Z)/22:0], GlcCer [t18:1(8Z)/23:0], GlcCer [t18:1(8Z)/24:0], GlcCer [t18:1(8Z)/25:0], GlcCer [t18:1(8Z)/26:0] , 1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,1-palmitoyl-2-linolenoyl-3-digalactosylglycerol,1-palmitoyl-2-linoleoyl-3-digalactosylglycerolから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
上記化合物の化学式は下記のとおりである。
【0010】
【化1】
これらの化合物のうち,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を含有することが好ましい。血管透過性抑制剤の有効成分として有用だからである。
【0011】
イエローストロベリーグアバ果実の抽出物を得るための抽出溶媒としては,水,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,1,3-ブチレングリコール,エチレングリコール,プロピレングリコール,グリセリン,酢酸エチル等の極性溶媒を使用することができる。これらの溶媒を2種以上混合してもよい。
望ましくは,水エタノールまたはこれらの混合物である含水エタノールを抽出溶媒として用いると,有効成分が効率よく抽出される。
【0012】
抽出溶媒として水を用いる場合,水の種類は,特に限定されず,水道水,蒸留水,ミネラル水,アルカリイオン水,深層水等を使用することができる。
【0013】
抽出溶媒としての含水エタノールを用いる場合,エタノールの濃度が特に限定されないが,特にエタノール濃度10~90%(wt/wt),望ましくはエタノール濃度20~80%(wt/wt)であるとよい。エタノール濃度90%(wt/wt)以下としたのは,エタノール濃度が高すぎると,油分が含水エタノール中に溶け出しやすくなるからである。
【0014】
抽出温度としては,20~80℃,望ましくは50~70℃程度で行うとよい。抽出温度が低すぎると,有効成分が抽出されにくくなり,抽出温度が高すぎると,有効成分が分解し,生理活性(健康機能性)が低下するためである。
【0015】
抽出方法としては,撹拌抽出,連続抽出,浸漬抽出,向流抽出,超臨界抽出など任意の方法を採用することができ,室温ないし還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
【0016】
具体的な抽出方法を示すと,抽出溶媒を満たした処理槽に原料イエローストロベリーグアバ果実を投入し,攪拌しながら有効成分を溶出させる。例えば,抽出溶媒として含水エタノールを用いる場合には,抽出原料の2~100倍量程度(重量比)の抽出溶媒を使用し,30分~2時間程度抽出を行う。溶媒中に有効成分を溶出させた後,ろ過して抽出残渣を除くことによって抽出液を得る。
【0017】
その後,常法に従って抽出液に希釈,濃縮,精製,乾燥等の処理を施し,本発明による剤とする。
具体的な抽出方法を示すと,抽出溶媒を満たした処理槽に原料イエローストロベリーグアバの果実を投入し,攪拌しながら有効成分を溶出させる。例えば,抽出溶媒として含水エタノールを用いる場合には,抽出原料の2~100倍量程度(重量比)の抽出溶媒を使用し,30分~2時間程度抽出を行う。溶媒中に有効成分を溶出させた後,ろ過して抽出残渣を除くことによって抽出液を得る。
【0018】
その後,常法に従って抽出液に希釈,濃縮,精製,乾燥等の処理を施し,本発明による剤とする。
精製方法は,合成吸着樹脂,シリカゲル樹脂,ゲル濾過樹脂等に抽出液を通して有効成分を吸着させ,これをメタノール,エタノール等で溶出させて濃縮を行うとよい。
【0019】
また,本発明の血管透過性抑制剤は,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]のうちの少なくとも一方を有効成分とすることを特徴とする。
1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]を得る方法は特に限定されないが,イエローストロベリーグアバ果実の抽出物から単離,精製することができる。さらには,イエローストロベリーグアバ果実の抽出物から単離,精製する方法は特に限定されないが,例えば,下記実施例の方法にて単離,精製することができる。
なお,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]は,単一化合物として用いることもできるが,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]を有効成分として十分含有する植物抽出物,例えば上述したイエローストロベリーグアバ果実の抽出物を用いても良い。
【0020】
本発明の血管透過性抑制剤は,各種飲食品の素材として使用することができる。飲食品としては,例えば,菓子類(ガム,キャンディー,キャラメル,チョコレート,クッキー,スナック,ゼリー,グミ,錠菓等),麺類(そば,うどん,ラーメン等),乳製品(ミルク,アイスクリーム,ヨーグルト等),調味料(味噌,醤油等),スープ類,飲料(ジュース,コーヒー,紅茶,茶,炭酸飲料,スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や,健康食品(錠剤,カプセル等),栄養補助食品(栄養ドリンク等)が挙げられる。これらの飲食品に本発明の剤を適宜配合するとよい。
【0021】
これら飲食品には,その種類に応じて種々の成分を配合することができ,例えば,ブドウ糖,果糖,ショ糖,マルトース,ソルビトール,ステビオサイド,コーンシロップ,乳糖,クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,コハク酸,乳酸,L-アスコルビン酸,dl-α-トコフェロール,エリソルビン酸ナトリウム,グリセリン,プロピレングリコール,グリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,アラビアガム,カラギーナン,カゼイン,ゼラチン,ペクチン,寒天,ビタミンB類,ニコチン酸アミド,パントテン酸カルシウム,アミノ酸類,カルシウム塩類,色素,香料,保存剤,澱粉分解物,微粒二酸化ケイ素の食品素材を使用することができる。
【0022】
具体的な製法としては,本発明の剤を澱粉分解物,グリセリン脂肪酸エステル,微粒二酸化ケイ素とともにスプレードライまたは凍結乾燥し,これを粉末,顆粒,打錠または溶液にすることで容易に飲食品(インスタント食品等)に含有させることができる。また,前記本発明の剤を,例えば,油脂,エタノール,グリセリンあるいはこれらの混合物に溶解して液状にし,飲料に添加するか,固形食品に添加することが可能である。必要に応じてアラビアガム,デキストリン等のバインダーと混合して粉末状あるいは顆粒状にし,飲料に添加するか固形食品に添加することも可能である。
【0023】
本発明の剤を飲食品に適用する場合の添加量としては,病気予防や健康維持が主な目的であるので,飲食品に対して有効成分(イエローストロベリーグアバ果実の抽出物)の含量が合計1~20wt%以下であるのが好ましい。
【0024】
本発明の血管透過性抑制剤は,薬品(医薬品および医薬部外品を含む。)の素材として用いてもよい。薬品製剤用の原料に,本発明の剤を適宜配合して製造することができる。本発明の剤に配合しうる製剤原料としては,例えば,賦形剤(ブドウ糖,乳糖,白糖,塩化ナトリウム,デンプン,炭酸カルシウム,カオリン,結晶セルロース,カカオ脂,硬化植物油,カオリン,タルク等),結合剤(蒸留水,生理食塩水,エタノール水,単シロップ,ブドウ糖液,デンプン液,ゼラチン溶液,カルボキシメチルセルロース,リン酸カリウム,ポリビニルピロリドン等),崩壊剤(アルギン酸ナトリウム,カンテン,炭酸水素ナトリウム,炭酸カルシウム,ラウリル硫酸ナトリウム,ステアリン酸モノグリセリド,デンプン,乳糖,アラビアゴム末,ゼラチン,エタノール等),崩壊抑制剤(白糖,ステアリン,カカオ脂,水素添加油等),吸収促進剤(第四級アンモニウム塩基,ラウリル硫酸ナトリウム等),吸着剤(グリセリン,デンプン,乳糖,カオリン,ベントナイト,硅酸等),滑沢剤(精製タルク,ステアリン酸塩,ポリエチレングリコール等)などが挙げられる。
【0025】
本発明の血管透過性抑制剤の投与方法は,一般的には,錠剤,丸剤,軟・硬カプセル剤,細粒剤,散剤,顆粒剤,液剤等の形態で経口投与することができるが,非経口投与であってもよい。非経口剤として投与する場合は,溶液の状態,または分散剤,懸濁剤,安定剤などを添加した状態で,局所組織内投与,皮内,皮下,筋肉内および静脈内注射などによることができる。また,坐剤などの形態としてもよい。更に,点眼薬として投与することができる。
【0026】
投与量は,投与方法,病状,患者の年齢等によって変化し得るが,大人では,通常,1日当たり有効成分(イエローストロベリーグアバ果実の抽出物)として0.5~5000mg,子供では通常0.5~3000mg程度投与することができる。
血管透過性抑制剤の配合比は,剤型によって適宜変更することが可能であるが,通常,経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.3~15.0wt%,非経口投与による場合は,0.01~10wt%程度にするとよい。なお,投与量は種々の条件で異なるので,前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし,また,範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【実施例0027】
以下,本発明の実施例を説明する。なお,以下に示す実施例は,本発明によって得られる本発明の剤の各種作用・効果等の確認のために説明するもので,本発明の範囲は,これらの製品および製法に限定されるものではない。さらに,本実施例では有効成分を特定するために化合物を単離しているが,主たる有効成分である1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0]を有効成分として必要な濃度含有するイエローストロベリーグアバの果実の抽出物であれば効果を有するものである。
【0028】
実施例: イエローストロベリーグアバの果実の抽出物の調製及び各種DGDGおよびGlcCerの単離・同定
イエローストロベリーグアバ生果実を粉砕後,エタノールで抽出し,本実施例のイエローストロベリーグアバの果実の抽出物とした。更にこの抽出物を濃縮後,アンバーライトTMXADTM4を用いたカラムクロマトグラフィーを行った。水,メタノール,エタノールにて溶出後,エタノール画分を濃縮し,中圧分取液体クロマトグラフィーを行った。分画条件は山善株式会社のユニバーサルシリカゲルカラム Premiumを用いて,ヘキサン:酢酸エチル(9:1→7:3→5:5)→酢酸エチル→クロロホルム:メタノール(9:1→7:3→5:5)→メタノールの条件で順次溶出した。クロロホルム:メタノール(7:3)分画を,逆相HPLC [InertSustain C18, メタノール(DGDG) または,メタノール:テトラヒドロフラン=9:1 (GlcCer)] に供することにより,3種のDGDGおよび6種類のGlcCerを精製した。精製した各種GlcCerおよびDGDGはNMRおよびMSスペクトルを下記文献1~5と比較することにより同定した。
文献
1. Kang S.S. et al., Chem. Pharm. Bull., 49, 321-323 (2001)
2. Luo Y. et al., Lipid, 39(9), 907-914 (2004)
3. Zhang W.K. et al., Chem. Phys. Lipids., 148, 77-83 (2007)
4. Ryu J. et al., Arch. Pharm. Res., 26(2), 138-142 (2003)
5. Xu M.L. et al., Molecules, 28, 1010 (2023).
【0029】
試験例1:HUVEC細胞を用いた血管透過性抑制試験
(1)ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC細胞)の培養方法
ロンザジャパン株式会社より購入したヒト臍帯静脈内皮細胞を培養して実験に供した。培地は,EGMTM-2 BulletKitTM (EBMTM-2 に0.1% (v/v) hEGF, 2% (v/v) FBS, 0.1% (v/v) VEGF, 0.4% (v/v) hFGF-B, 0.04% (v/v) ヒドロコルチゾン, 0.1% (v/v) R3-IGF-1, 0.1% (v/v) アスコルビン酸,0.1% (v/v) GA-1000を添加したもの) を使用した。細胞の培養は,75 cm2 培養フラスコ中で行い,5%CO2存在下37℃にて行った。継代操作は,培養した細胞をPBS (-) で2回洗浄した後,フェノールレッド含有0.25 w/v% Trypsin-1 mM EDTA・4Na溶液でフラスコから剥離し,実験に使用した。
【0030】
(2)HUVEC細胞を用いた血管透過性抑制試験の評価方法
血管透過性抑制試験は,前培養としてHUVEC細胞懸濁液(3.2×105 cells/mL)を上層チャンバー (コラーゲンコーティングしたMillicell(登録商標) Cell Culture Inserts 24-Well Hanging Inserts 0.4 mm PET) に200 μl/well播種し,下層ウェル (24- well plate) にEGMTM-2 BulletKitTMを500 μl/well添加後,7日間培養した。細胞生存率の前培養はHUVEC細胞懸濁液(2.5×105 cells/mL)を96-well plate(100 μL/well)に播種し,1日培養した。前培養後,被験物質 (終濃度 10 μM) を含むEBMTM-2にて培地交換した。尚,被験物質はDMSOで溶解しており,培地中のDMSO終濃度は0.1%(v/v)になるよう調整した。24時間培養後,血管透過性抑制試験およびMTT試験(96-well plate,細胞毒性)を実施した。
【0031】
(3)血管透過性試験測定,算出方法
培養後の上層チャンバーに0.1%Evans Blue (EB) in 0.1%BSA/PBS溶液を200 μL/well添加し,下層ウェルにPBSを500 μL/well添加した。30分間培養後,上層チャンバーより下層ウェルに透過した溶液を 200 μlを96-well plateに移し,O.D.値をマイクロプレートリーダーにて測定した。(測定波長: 620 nm)透過率はサンプルの吸光度をコントロールの吸光度の平均値で割った割合より算出した。その結果を図1に示す。
【0032】
(4)HUVEC細胞を用いたMTT試験方法(細胞生存率の評価)
培養後の96-well plate にMTT溶液 [5 mg/mL in PBS(-)] を10 μL/well添加した。4時間培養後,フォルマザン結晶の生成を確認し,培地を吸引除去した。その後,DMSO溶液(100 μL/well)を添加した。30分程プレートミキサーで撹拌後,O.D.値をマイクロプレートリーダーにて測定した。(測定波長:570 nm,参照波長:660 nm)その結果を図2に示す。
【0033】
試験例2:イエローストロベリーグアバ抽出物の冷え性改善効果の評価
本実施例のイエローストロベリーグアバ抽出物100 mg摂取による冷え性改善作用を社内ボランティアで調べた。最初にプラセボカプセルを摂取し,30分後に4℃の水に手指を1分間つけてもらった直後から皮膚表面温度の変化をサーモグラフィーで調べた。
次に本実施例のイエローストロベリーグアバ抽出物(100 mg)含有カプセルを摂取し,同様の方法でサーモグラフィーによる測定を行った。その結果を図3に示す。
【0034】
試験例3:Vascular endothelial (VE) -Cadherinのタンパク発現量の評価
血管透過性は,血管に特異的に発現する接着分子vascular endothelial (VE)-cadherinを介した内皮細胞間接着によって制御されている。そこで,Vascular endothelial (VE) -Cadherinのタンパク発現量を評価した。
(1)評価方法
前培養としてHUVEC細胞懸濁液(3.2×105 cells/mL, EGMTM-2 BulletKitTM)を6-well plateに2 ml/well播種後,2日間培養した。前培養後,被験物質 (終濃度 10 μM) を含むEBMTM-2にて培地交換した。尚,被験物質はDMSOで溶解しており,培地中のDMSO終濃度は0.1%(v/v)になるよう調整した。24時間培養後,protease phosphatase inhibitor cocktail (0.5 M) およびEDTA (0.5 M) 含有Radioimmunoprecipitation assay (RIPA) バッファーを用いてタンパクを抽出した。タンパク濃度を220 mg/mlに調整し,3分の1量のサンプルバッファー (131.6 mM Tris-HCl, 5% 2-mercaptoethanol, 4.2% SDS, 52.6% glycerolおよび0.02% bromophenol blue) を加え,ヒートブロックで5分間加熱 (95℃) 変性処理したものを電気泳動サンプルとした。10% SDS-PAGEゲルを用いた電気泳動によってタンパク質を分離後,polyvinylidene difluoride (PVDF) メンブレンに転写した。転写後のメンブレンは5%スキムミルク (富士フィルム和光純薬) でブロッキング後,一次抗体反応および二次抗体反応を順次行った。使用した一次抗体および二次抗体は下記表1に示した。抗体反応後,Super Signal West Femto Maximum Sensitivity Substrate (ThermoFisher) またはSuper Signal West Pico Maximum Sensitivity Substrate (ThermoFisher) を化学発光試薬として用い,イメージング解析装置 (LAS500) によってバンドの検出および定量を行った。VE-Cadherinタンパクの発現量はGAPDHのタンパク発現量で補正した。その結果を図4に示す。
【表1】
【0035】
試験例4:イエローストロベリーグアバ果実抽出物のむくみ低減作用の評価(臨床)
(1) 被験者
プラセボ群およびストロベリーグア果実抽出物摂取群,各13名(男性:3名,女性:9名)の年齢は,40.7±13.3歳(男性:57.3±5.5歳,女性:35.7±10.4歳)であった。
(2)試験品
試験品は,イエローストロベリーグア果実抽出物摂取群においてはストロベリーグアバ果実抽出物25 mgと賦形剤を配合したハードカプセルを使用し,プラセボ群においては賦形剤のみを充填したハードカプセルを用いた。
(3)試験方法
試験前は,朝食は食べずに少量の水で過ごした。被験物摂取前に体重,ECW/TBWを測定後,朝食 (サンドイッチ 1つ, 水350 ml),被験物を摂取した。被験物摂取3時間後に,昼食 (おにぎり 2つ, 水350 ml) を摂取し,さらに3時間後に体重,ECW/TBWを測定した。なお,試験中はなるべく座位姿勢で過ごした。
尚,脚のECW/TBWとは,脚の細胞外水分量 (ECW : Extracellular water) と体水分量 (TBW : total body water) の比率のことをいい,この値が大きいほど,浮腫みがあることを示している。これらはInbody S10 を用いて生体電気インピーダンス法で測定した。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
結果及び実施例の効果
(1)各種GlcCerおよびDGDGの構造について
単離・同定された各種GlcCerおよびDGDGの構造を上記化1に示す。スフィンゴイド塩基および脂肪酸長の異なる6種のGlcCerは,HPLCでの溶出順に(1)d18:2(4E,8Z)/16:0, (2)t18:1(8Z)/22:0, (3)t18:1(8Z)/23:0, (4)t18:1(8Z)/24:0, (5)t18:1(8Z)/25:0, (6)t18:1(8Z)/26:0であった。このうち,(1)d18:2(4E,8Z)/16:0,(3)t18:1(8Z)/23:0および(5)t18:1(8Z)/25:0は以前に実施した米由来GlcCerの研究においては単離されていない分子種であった。
一方,脂肪酸種の異なる3種のDGDGは,HPLCでの溶出順に(1)1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,(2)1-palmitoyl-2-linolenoyl-3-digalactosylglycerol,(3)1-palmitoyl-2-linoleoyl-3-digalactosylglycerolであった。これらの分子種は米から単離されたDGDGの分子種 (1,2-dilinoleoyl-3-digalactosylglycerol) とは異なるものであった。
【0038】
(2)血管透過性および細胞毒性の評価結果について
図1に示されるように,イエローストロベリーグアバの果実から単離した1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0],に血管細胞透過性抑制作用が認められた(図1)。また,図2に示されるように,有意差は認められなかったが血管透過性抑制作用が認められなかったGlcCerには細胞毒性が生じるものも観察された (図2)。
以上より,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E, 8Z)/16h:0] にのみ血管細胞透過性抑制作用が認められた。
以上により,イエローストロベリーグアバの果実の抽出物,及びこれに含有する1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E, 8Z)/16:0]は血管透過性抑制剤として有用であるため,血管やリンパ管の内皮細胞の隙間が塞がれることにより血流が改善し,組織中からの水分や老廃物が回収されて,冷え,肩こり,むくみ,クマなどの諸症状を改善し,予防することができる。
【0039】
(3)イエローストロベリーグアバ抽出物の冷え性改善効果について
図3に示されるように,特に被験者B(各画像右側)の画像に示すように(破線と実践で囲んだそれぞれの画像の比較)イエローストロベリーグアバ抽出物摂取後に皮膚表面温度の回復促進が見られた。この結果より,イエローストロベリーグアバエキス摂取による冷えの改善作用を有し,イエローストロベリーグアバ抽出物は冷え性改善剤として有用であることが確認された。
【0040】
(4)VE-Cadherinのタンパク発現量に及ぼす影響について
図4に示されるように,イエローストロベリーグアバから単離した1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0] に血管細胞透過性抑制作用が認められたことから,これらの成分について血管内皮細胞同士の接着因子であるVE-Cadherinのタンパク発現量に及ぼす影響を評価した結果,どちらの成分においても有意なタンパク発現の増加作用が認められた。
以上より,1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E, 8Z)/16h:0] にのみ血管細胞透過性抑制が認められた。
尚,炎症などにより血管内皮細胞間接着の機能が弱まることにより血管のバリア機能が破綻し血液成分の組織への透過性が高まると,むくみの原因になる。この試験の結果から,イエローストロベリーグアバ由来1,2-dilinolenoyl-3-digalactosylglycerol,GlcCer [d18:2(4E,8Z)/16:0] は血管内皮細胞間接着の機能を高めることで,血液成分の組織への透過性を抑制し,これによりむくみを予防する効果があることが確認された。
【0041】
(5)イエローストロベリーグアバの果実の抽出物における浮腫み低減作用の評価について
上記表2では,摂取前と摂取6時間後の脚のECW/TBWを測定した結果を示した。
上記表2に示されるように,両群において有意差は認められなかったが,プラセボ群は摂取前よりも摂取6時間後の脚のECW/TBWが増加していたのに対し,イエローストロベリーグアバ抽出物摂取群においては摂取前よりも摂取6時間後の脚のECW/TBWが減少していた。
これにより,イエローストロベリーグアバの果実の抽出物には脚の浮腫みを低減する作用があることが確認された。
【0042】
本発明の血管透過性抑制剤(イエローストロベリーグアバの果実の抽出物)の配合例を示す。尚,以下の配合例は本発明を限定するものではない。
配合例1:チューインガム
砂糖 53.0wt%
ガムベース 20.0
グルコース 10.0
水飴 16.0
香料 0.5
血管透過性抑制剤 0.5
100.0wt%
【0043】
配合例2:グミ
還元水飴 40.0wt%
グラニュー糖 20.0
ブトウ糖 20.0
ゼラチン 4.7
水 9.68
ユズ果汁 4.0
ユズフレーバー 0.6
色素 0.02
血管透過性抑制剤 1.0
100.0wt%
【0044】
配合例3:キャンディー
砂糖 50.0wt%
水飴 33.0
水 14.4
有機酸 2.0
香料 0.2
血管透過性抑制剤 0.4
100.0wt%
【0045】
配合例4:ヨーグルト(ハード・ソフト)
牛乳 41.5wt%
脱脂粉乳 5.8
砂糖 8.0
寒天 0.15
ゼラチン 0.1
乳酸菌 0.005
血管透過性抑制剤 0.4
香料 微量
水 残余
100.0wt%
【0046】
配合例5:清涼飲料
果糖ブドウ糖液糖 30.0wt%
乳化剤 0.5
血管透過性抑制剤 0.3
香料 適量
精製水 残余
100.0wt%
【0047】
配合例6:錠菓
砂糖 76.4wt%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
血管透過性抑制剤 0.5
精製水 3.9
100.0wt%
【0048】
配合例7:ソフトカプセル
玄米胚芽油 47.0wt%
ユズ種子油 40.0
乳化剤 12.0
血管透過性抑制剤 1.0
100.0wt%
【0049】
配合例8:錠剤
乳糖 54.0wt%
結晶セルロース 30.0
澱粉分解物 10.0
グリセリン脂肪酸エステル 5.0
血管透過性抑制剤 1.0
100.0wt%
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上により,本発明は,新規な血管透過性抑制剤及びそれを用いた冷え性改善剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4