(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025044371
(43)【公開日】2025-04-02
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、その設計方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20250326BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20250326BHJP
H10K 50/13 20230101ALI20250326BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20250326BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20250326BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20250326BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20250326BHJP
H10K 71/00 20230101ALI20250326BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20250326BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20250326BHJP
H10K 101/20 20230101ALN20250326BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20250326BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20250326BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K50/16
H10K50/13
H10K50/17
H10K50/18
H10K50/15
H10K85/60
H10K71/00
H10K59/10
C09K11/06 690
H10K101:20
H10K101:40
H10K101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151901
(22)【出願日】2023-09-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「含BNナノカーボン分子の自在合成と配向制御」委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】シュン タン
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC04
3K107CC22
3K107DD51
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD66
3K107DD68
3K107DD69
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107FF14
3K107FF15
3K107FF19
3K107GG28
(57)【要約】
【課題】遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いる系で生じるクエンチングを抑制して、発光効率が高く、動作安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有しており、発光層が、第1の遅延蛍光材料、前記第1の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが低い第2の遅延蛍光材料、および発光材料を含んでおり、なおかつ、第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより発光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、スペーサー層が、電子輸送材料および第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料と、発光層の発光材料と同じ発光材料とを含んでいる、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、第1の遅延蛍光材料、前記第1の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが低い第2の遅延蛍光材料、および発光材料を含んでおり、なおかつ、前記第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより前記第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、前記第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより前記発光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、
前記電子輸送層が電子輸送材料で構成されており、
前記スペーサー層が、前記電子輸送材料や前記第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料と、前記発光材料とを含んでいる、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層に含まれる前記第1の遅延蛍光材料と前記スペーサー層に含まれる前記ホスト材料のLUMOのエネルギーの差が0~0.3eVの範囲内にある、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第1の遅延蛍光材料と前記ホスト材料が同じ化合物である、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記スペーサー層が前記ホスト材料と前記発光材料のみからなる、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記ホスト材料のLUMOのエネルギーが、前記電子輸送材料のLUMOのエネルギーよりも、その差が0.5eV以下となる範囲内で高い、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層が電子障壁層と接するように形成されており、前記電子障壁層を構成する電子障壁材料のHOMOのエネルギーよりも前記第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーが高い、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記電子障壁材料のHOMOのエネルギーよりも前記第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーが、その差が0.5eV以下となる範囲内で高い、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーとLUMOのエネルギーの差が1.6~4.0eVの範囲内にある、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記スペーサー層の厚みが0μm超0.015μm以下の範囲内である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記発光層における前記第2の遅延蛍光材料の濃度が50重量%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、
[1]以下の条件(1)および(2)を満たす第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料の組み合わせを選択し、これらの材料を用いて発光層を設計する工程と
(1)第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーよりも、第2の遅延蛍光材料のLUM
Oのエネルギーが低い。
(2)第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより第2の遅延蛍光材料の最低励
起一重項エネルギーが低く、第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより
発光材料の最低励起一重項エネルギーが低い。
[2]電子輸送材料と、その電子輸送材料および前記第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料を選択し、前記電子輸送材料を用いて前記電子輸送層を設計し、前記ホスト材料と前記発光材料を用いてスペーサー層を設計する工程と
を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法。
【請求項12】
請求項11に記載の設計方法を実施するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いる有機エレクトロルミネッセンス素子、その設計方法、および、その設計方法を実施するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率や動作安定性を高める研究が盛んに行われている。その中には、発光層の電流励起で生じる励起三重項状態を制御することにより、発光効率や動作安定性を改善しようとする研究も見受けられる。
すなわち、有機エレクトロルミネッセンス素子の電流励起では、スピン統計則に従って励起一重項状態と励起三重項状態が25:75の確率で生じるため、高い発光効率を得るには、励起三重項状態のエネルギーを発光に有効利用する必要がある。しかし、励起三重項状態から基底一重項状態への放射遷移は本来禁制遷移であるため、通常の蛍光材料では、励起三重項状態は寿命が長く、その間に熱を放出して無輻射失活してしまう。そのため、25%相当分の励起一重項エネルギーしか発光に利用されず、発光効率に理論上の限界がある。また、長寿命の励起三重項状態が蓄積して励起子-励起子消滅による損失を起こすことにより、動作が不安定になるという問題もある。こうしたことから、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率と動作安定性を改善するには、励起三重項状態を制御することが重要になる。
このような点から、例えば、非特許文献1には、ホスト材料と遅延蛍光材料と発光材料の3成分を発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子が提案されている。ここで、遅延蛍光材料は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を起こすことが可能であって、ホスト材料と発光材料の中間の最低励起一重項エネルギーを有する有機化合物である。こうした発光層では、遅延蛍光材料で生じた励起三重項状態や、ホスト材料から遅延蛍光材料へのエネルギー移動で生じた励起三重項状態が、遅延蛍光材料での逆項間交差により励起一重項状態へと遷移して発光材料に移動し、発光材料の蛍光発光に有効利用される。また、こうしたプロセスにより励起三重項状態の蓄積も抑えられ、発光効率と動作安定性が共に改善されることになる。このように、ここでの遅延蛍光材料は発光材料の蛍光発光をアシストする役割を担っていることから「アシストドーパント」と称されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Uoyama et al.,Nature 492, 234-238 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いることにより、発光効率と動作安定性を改善した有機エレクトロルミネッセンス素子が提案されている。しかし、本発明者らが、この有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性を詳細に検討したところ、電圧の立ち上がりでクエンチングが生じており、こうしたクエンチングが発光効率と動作安定性を損なう要因になっていることが判明した。
【0005】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いながら、発光効率が高く、動作安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、ホスト用の遅延蛍光材料、アシストドーパント用の遅延蛍光材料および発光材料を発光層の成分として用い、その発光層と電子輸送層の間に、発光材料とホスト材料を含むスペーサー層を配置してホスト材料のLUMO準位を規定することにより、クエンチングが軽減されて、発光効率と動作安定性が向上することを見出した。本発明はこうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0007】
[1] 一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が、第1の遅延蛍光材料、前記第1の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが低い第2の遅延蛍光材料、および発光材料を含んでおり、なおかつ、前記第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより前記第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、前記第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより前記発光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、前記電子輸送層が電子輸送材料で構成されており、前記スペーサー層が、前記電子輸送材料や前記第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料と、前記発光材料と同じ発光材料とを含んでいる、有機エレクトロルミネッセンス素子。
[2] 前記発光層に含まれる前記第1の遅延蛍光材料と前記スペーサー層に含まれる前記ホスト材料のLUMOのエネルギーの差が0~0.3eVの範囲内にある、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記第1の遅延蛍光材料と前記ホスト材料が同じ化合物である、[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[4] 前記スペーサー層が前記ホスト材料と前記発光材料のみからなる、[1]~[3]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記ホスト材料のLUMOのエネルギーが、前記電子輸送材料のLUMOのエネルギーよりも、その差が0.5eV以下となる範囲内で高い、[1]~[4]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] 前記発光層が電子障壁層と接するように形成されており、前記電子障壁層を構成する電子障壁材料のHOMOのエネルギーよりも前記第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーが高い、[1]~[5]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7] 前記電子障壁材料のHOMOのエネルギーよりも前記第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーが、その差が0.5eV以下となる範囲内で高い、[1]~[6]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[8] 前記第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーとLUMOのエネルギーの差が1.6~4.0eVの範囲内にある、[1]~[7]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[9] 前記スペーサー層の厚みが0μm超0.015μm以下の範囲内である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[10] 前記発光層における前記第2の遅延蛍光材料の濃度が50重量%以下である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0008】
[11] 一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、
[1]以下の条件(1)および(2)を満たす第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料の組み合わせを選択し、これらの材料を用いて発光層を設計する工程と
(1)第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーよりも、第2の遅延蛍光材料のLUM
Oのエネルギーが低い。
(2)第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより第2の遅延蛍光材料の最低励
起一重項エネルギーが低く、第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより
発光材料の最低励起一重項エネルギーが低い。
[2]電子輸送材料と、その電子輸送材料および前記第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料を選択し、前記電子輸送材料を用いて前記電子輸送層を設計し、前記ホスト材料と前記発光材料を用いてスペーサー層を設計する工程と
を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法。
【0009】
[12] [11]に記載の設計方法を実施するためのプログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いる系で生じるクエンチングが軽減されて、発光効率が高く、動作安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で作製したEL素子1のエネルギー準位図である。
【
図2】比較例1で作製した比較素子1のエネルギー準位図である。
【
図3】比較例2で作製した比較素子2のエネルギー準位図である。
【
図4】EL素子1にパルス電圧を印加したときの発光強度の時間変化を示すグラフである。
【
図5】比較素子1にパルス電圧を印加したときの発光強度の時間変化を示すグラフである。
【
図6】比較素子2にパルス電圧を印加したときの発光強度の時間変化を示すグラフである。
【
図7】EL素子1および比較素子1の外部量子効率-輝度特性を示すグラフである。
【
図8】EL素子1および比較素子1、2の動作安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。本明細書において「有機化合物」とは、1個以上の炭素原子を含む化合物を意味する。有機化合物には、例えば炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ホウ素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみからなるものを用いることができる。
【0013】
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、発光層が、第1の遅延蛍光材料、第1の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが低い第2の遅延蛍光材料、および発光材料を含んでおり、なおかつ、第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより発光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、電子輸送層が電子輸送材料で構成されており、スペーサー層が、電子輸送材料や第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料と、発光層が含む発光材料と同じ発光材料を含むものである。
すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、最低励起一重項エネルギーとLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギーについて、下記の条件(a)~(d)を満たすものである。
条件(a) ES1(T1) > ES1(T2) > ES1(E)
(上式において、ES1(T1)は第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギー、ES1(T2)は第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギー、ES1(E)は発光材料の最低励起一重項エネルギーを表す。)
条件(b) LUMO(T1) > LUMO(T2)
条件(c) LUMO(SH) > LUMO(T2)
条件(d) LUMO(SH) > LUMO(ET)
(上式において、LUMO(T1)は第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギー、LUMO(T2)は第2の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギー、LUMO(SH)はホスト材料のLUMOのエネルギー、LUMO(ET)は電子輸送材料のLUMOのエネルギーを表す。]
【0014】
本発明における「第1の遅延蛍光材料」および「第2の遅延蛍光材料」の「遅延蛍光材料」とは、有機化合物で構成された材料であって、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を起こす材料であり、逆項間交差が熱エネルギーの吸収に起因して起こる、熱活性化型遅延蛍光材料であることが好ましい。遅延蛍光材料であることは、その遅延蛍光材料からなる薄膜(単独膜)またはその遅延蛍光材料とホスト材料からなる混合膜の発光過渡減衰曲線を20℃で観測したとき、発光寿命が短い蛍光と、発光寿命が長い蛍光(遅延蛍光)の両方が観測されることをもって判定することとする。
本発明における「発光材料」は、蛍光材料や遅延蛍光材料であることが好ましい。ここで「蛍光材料」とは、その蛍光材料からなる薄膜(単独膜)またはその蛍光材料とホスト材料からなる混合膜の発光を20℃で観測したとき、燐光の発光強度よりも蛍光の発光強度の方が高い発光材料である。通常の蛍光(遅延蛍光ではない蛍光)は、発光寿命がnsオーダーであり、燐光は、通常、発光寿命がmsオーダーであるため、蛍光と燐光とは発光寿命により区別することができる。「遅延蛍光材料」の定義については、上記の「第1の遅延蛍光材料」および「第2の遅延蛍光材料」の「遅延蛍光材料」についての定義を参照することができる。
本発明における「ホスト材料」とは、有機化合物の混合膜に含まれる材料であって、混合膜を構成する有機化合物の中で、最低励起一重項エネルギーが最も高い有機化合物のことをいう。以下の説明では、スペーサー層に含まれるホスト材料であって、条件(c)および(d)を満たすホスト材料を、「スペーサー層用ホスト材料」ということがある。
本発明における「電子輸送材料」とは、有機化合物で構成された材料であって、電界により電子を輸送する材料のことをいう。
【0015】
本発明における「LUMOのエネルギー」は、測定対象化合物からなる薄膜(測定対象化合物の単独膜)について測定したイオン化ポテンシャルからバンドギャップを差し引いた値に「-」の符号を付した値である。本明細書中において、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギーは、そのイオン化ポテンシャルに「-」の符号を付した値である。バンドギャップは、長波長側の吸収スペクトル端の波長から見積もることとする。また、イオン化ポテンシャルは光電子分光法で測定することとし、その測定には例えば光電分光装置(理研計器社製:AC-3)を用いることができる。
本発明における「最低励起一重項エネルギー」の説明については、下記の[最低励起一重項エネルギーES1と最低励起三重項エネルギーET1の測定方法]の欄の記載を参照することができる。
【0016】
本発明では、条件(a)を満たすことにより、第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料でのキャリア再結合(電流励起)で直接生じた励起一重項状態のエネルギー、および、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差で生じた励起一重項エネルギーを、発光材料に効率よく移動させて発光材料の発光に有効利用することができる。そのため、高い発光効率を得ることができる。ここで、第1の遅延蛍光材料から第2の遅延蛍光材料への励起一重項エネルギーの移動は生じても生じなくてもよいが、(i)第1の遅延蛍光材料から第2の遅延蛍光材料への励起一重項エネルギーの移動が生じにくく、(ii)第1の遅延蛍光材料から発光材料への励起一重項エネルギーの移動が生じやすく、(iii)第2の遅延蛍光材料から発光材料への励起一重項エネルギーの移動が生じやすくなるように、第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料の組み合わせを選択することが好ましい。これにより、第2の遅延蛍光材料の発光が抑えられて発光材料に由来する発光を高い純度で得ることができる。(i)~(iii)を満たす材料の組合せは、例えば、第1の遅延蛍光材料の発光ピークと第2の遅延蛍光材料の吸収ピークの重なりよりも、第1の遅延蛍光材料の発光ピークと発光材料の吸収ピークの重なり、および、第2の遅延蛍光材料の発光ピークと発光材料の吸収ピークの重なりの方が大きくなるような、材料の組み合わせから選択することができる。(i)~(iii)を満たす第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料材料と発光材料の組み合わせの具体例として、下記のPICTRZ2と4CzIPNとhBNCOの組み合わせを挙げることができる。
【0017】
【0018】
各材料の最低励起三重項エネルギーについては、特に制限されないが、第1の遅延蛍光材料の最低励起三重項エネルギーよりも第2の遅延蛍光材料の最低励起三重項エネルギーが低く、第2の遅延蛍光材料の最低励起三重項エネルギーよりも発光材料の最低励起三重項エネルギーが低いことが好ましい。
【0019】
以上のように、発光層の3成分の中では第1の遅延蛍光材料が、最も、最低励起一重項エネルギーが高い成分である。そのため、第1の遅延蛍光材料には、HOMOのエネルギーとLUMOのエネルギーの差が比較的大きい遅延蛍光材料が用いられる。第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーとLUMOのエネルギーの差は、例えば1.6~4.0eVの範囲内であり、1.6~2.8eVの範囲内であってもよく、例えば2.8~4.0eVの範囲内であってもよい。
一方、第2の遅延蛍光材料は、第1の遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーが低い遅延蛍光材料である。本発明では、第2の遅延蛍光材料として、条件(a)とともに条件(b)を満たす遅延蛍光材料、すなわち、第1の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが低くて、且つ、最低励起一重項エネルギーが低い遅延蛍光材料を使用する。第2の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーは特に制限されないが、第2の遅延蛍光材料におけるHOMOとLUMOのエネルギー差が、第1の遅延蛍光材料におけるHOMOとLUMOのエネルギー差よりも小さくなるようなエネルギー値であることが好ましい。
ここで、仮に、こうした第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料を含む発光層が、電子輸送層に接して設けられている場合、第2の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーが低いことにより、電子輸送層にて輸送されてきた電子の一部が、発光層と電子輸送層の界面で第2の遅延蛍光材料にトラップされて非発光性電子となりクエンチングが生じる。遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いる系では、このことが原因になって、発光効率が低くなり、素子の動作が不安定になると推測される。
これに対して、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光層と電子輸送層の間に、条件(c)および(d)を満たすホスト材料(スペーサー層用ホスト材料)を含むスペーサー層が介在していることにより、電子輸送層にて輸送されてきた電子は、スペーサー層用ホスト材料のLUMOを経由して発光層に達することになる。例えば、実施例の具体的な構成を示した
図1(b)を参照しながら説明すると、電子輸送層(ET)にて輸送されてきた電子は、スペーサー層(SP)のLUMO(上の実線)を経由して発光層(EM)に達する。このとき、スペーサー層用ホスト材料のLUMOを経由してきた電子は、そのLUMOのエネルギーが、第2の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギー(
図1(b)の上の破線)よりも高く、且つ、電子輸送材料のLUMOのエネルギーよりも高いことにより、電子輸送層にて輸送されてきた電子に比べて、エネルギーがより高い第1の遅延蛍光材料のLUMO(
図1(b)の上の実線)に収容され易く、第2の遅延蛍光材料での電子トラップは生じにくい。そのため、上記のようなクエンチングの発生が抑制されて、発光効率と動作安定性が改善される。またスペーサー層には、発光層に含まれる発光材料と同一の発光材料が含まれているため、スペーサー層用ホスト材料でキャリア再結合が起こった場合でも、この発光材料が発光することにより、発光効率を確保することができる。なお、
図1(b)には、第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーとスペーサー層用ホスト材料のLUMOのエネルギーが同じ(エネルギー差が0eV)である場合を示しているが、条件(b)~(d)を満たしている限り、同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
ここで、こうした効果をより確実に得る点から、第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーと、スペーサー層用ホスト材料のLUMOのエネルギーの差は0~0.3eVの範囲内であることが好ましい。すなわち、第1の遅延蛍光材料とスペーサー層用ホスト材料は、下記の条件(e)を満たすことが好ましい。
条件(e) -0.3(eV) ≦ LUMO(T1)-LUMO(SH) ≦ 0.3(eV)
これにより、スペーサー層用ホスト材料のLUMOから第1の遅延蛍光材料のLUMOへ、電子を効率よく移動させることができ、第2の遅延蛍光材料での電子トラップをより確実に抑制することができ、また、駆動電圧を低くすることができる。ここで、第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーと、スペーサー層用ホスト材料のLUMOのエネルギーの差は、例えば0~0.2eVの範囲内や0~0.1eVの範囲内であってもよく、0eVであってもよい。第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーと、スペーサー層用ホスト材料のLUMOのエネルギーの差が0である場合、第1の遅延蛍光材料とスペーサー層用ホスト材料は、同じ化合物であっても異なる化合物であってもよいが、同じ化合物であることが好ましい。
【0021】
また、スペーサー層用ホスト材料のLUMOのエネルギーは、電子輸送材料のLUMOのエネルギーよりも、その差が0.5eV以下となる範囲内で高いことが好ましい。すなわち、スペーサー層用ホスト材料と電子輸送材料は、下記の条件(d1)を満たすことが好ましい。
条件(d1) 0(eV) < LUMO(SH)-LUMO(ET) ≦ 0.5(eV)
これにより、電子輸送層からスペーサー層への電子の注入効率が高くなり、駆動電圧を低くすることができる。スペーサー層用ホスト材料のLUMOのエネルギーと、電子輸送材料のLUMOのエネルギーの差は、例えば0.4eV以下や0.3eV以下であってもよく、0.1eV以上や0.2eV以上であってもよい。
【0022】
[最低励起一重項エネルギーES1と最低励起三重項エネルギーET1の測定方法]
本発明における最低励起一重項エネルギーES1および最低励起三重項エネルギーET1は下記の方法で測定される値であり、本明細書中におけるΔESTは、下記の方法で測定したES1およびET1を用い、ΔEST=ES1-ET1を計算することにより求められる値である。
た。
(1)最低励起一重項エネルギーES1
測定対象化合物とホスト材料とを、測定対象化合物が濃度6重量%となるように共蒸着することでSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。具体的には、励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の蛍光スペクトルを得る。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を検出器には、ストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
(2)最低励起三重項エネルギーET1
最低励起一重項エネルギーES1の測定で用いたものと同じ試料を77[K]に冷却し、励起光を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定する。具体的には、励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の燐光スペクトルを得る。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0023】
[有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有するものである。本発明の一態様では、スペーサー層は発光層および電子輸送層と接している。本発明の一態様では、有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極(一対の電極の一方)、発光層、スペーサー層、電子輸送層および陰極(一対の電極の他方)を順に積層した構造を有する。この場合、陽極と陰極の間に配置する層は、発光層、スペーサー層および電子輸送層のみであってもよいし、発光層と陽極の間や、電子輸送層と陰極の間に、少なくとも1層の有機層を有していてもよい。例えば、発光層と陽極の間に設けられる有機層の例として、電子障壁層を挙げることができる。電子障壁層は、発光層と接するように配置され、発光層中の電子が発光層の外側へ抜け出るのを抑制するための層である。電子障壁層を構成する電子障壁材料には、第1の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高い有機化合物が用いられる。また、HOMOについては、電子障壁材料のHOMOのエネルギーよりも第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーが高いことが好ましく、電子障壁材料のHOMOのエネルギーよりも第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギーの方が、その差が0.5eV以下となる範囲内で高いことが好ましい。すなわち、下記の条件(f)を満たすことが好ましい。
条件(f) 0(eV) < HOMO(T1)-HOMO(EB) ≦ 0.5(eV)
(上式において、HOMO(T1)は第1の遅延蛍光材料のHOMOのエネルギー、HOMO(EB)は電子障壁材料のHOMOのエネルギーを表す。]
これにより、電子障壁層から発光層への正孔注入効率が高くなり、駆動電圧を低くすることができる。なお、電子障壁層は励起子障壁機能を有した電子励起子障壁層であってもよい。、
また、一対の電極間に設けてもよい他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、正孔障壁層、励起子障壁層なども挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層であってもよく、正孔障壁層は励起子障壁機能を有した正孔励起子障壁層であってもよい。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。
ここで、US2020/0168814A1の[0141]~[0169]および[0192]~[0242]に記載される使用例、デバイス、ディスプレイ、スクリーン等の説明は、「発光層」の説明を、下記の「発光層」および「スペーサー層」についての説明に置き換えて、その全体を本明細書の一部としてここに引用し、本発明の説明とする。
【0024】
(発光層)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層は、第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料、および発光材料を含み、上記の条件(a)~(c)を満たす。
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。本発明の好ましい一態様では、素子からの発光の最大成分は発光材料からの発光である。素子からの発光の最大成分が発光材料からの発光であることは、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルにおいて、発光材料由来の発光ピークの面積が全発光ピーク面積の50%超であることをもって確認することができる。第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料は、遅延蛍光を放射しうる材料であるが、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いたときに、第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料に由来する遅延蛍光を放射することは必須とされない。第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料からの発光は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子からの発光の10%未満であることが好ましく、例えば1%未満、0.1%未満、0.01%未満、検出限界以下であってもよい。
【0025】
発光層は、第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料、および発光材料のみから構成されていてもよいし、さらに他の成分が含まれていてもよい。他の成分として、遅延蛍光を放射しないホスト材料を挙げることができる。本発明の好ましい一態様では、発光層は、第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料以外に、電荷やエネルギーの授受を行う化合物や金属元素を含まない。また、発光層は、第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料のみから構成することもできる。さらに発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子、硫黄原子およびフッ素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することもできる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子およびフッ素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。本発明の好ましい実施態様では、発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子、フッ素原子を含み、さらに好ましくはこれら以外の元素を含まない。
【0026】
発光層における第2の遅延蛍光材料の濃度は、発光層を構成する材料の合計量に対して50重量%以下であることが好ましい。これにより、第2の遅延蛍光材料での電子トラップをより確実に抑制できることや、再結合ゾーンの調整が容易になること、第2の遅延蛍光材料のエネルギーがほぼ完全に発光材料へ移動して、第2の遅延蛍光材料の発光による色純度の低下が抑えられるなどの、効果を得ることができる。
また、第1の遅延蛍光材料の濃度は、第2の遅延蛍光材料の濃度よりも高く、発光材料の濃度は、第2の遅延蛍光材料の濃度よりも高いこと、すなわち、「発光材料の濃度 < 第2の遅延蛍光材料の濃度 < 第1の遅延蛍光材料の濃度」の関係を満たすことも好ましい。
具体的には、発光層における第2の遅延蛍光材料の濃度は、第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料の合計量に対して50重量%未満とすることが好ましく、例えば40重量%未満、30重量%未満、20重量%未満、10重量%未満とすることもできる。また、第2の遅延蛍光材料の濃度は、0.1重量%以上とすることが好ましく、例えば1重量%超、3重量%超とすることもできる。
また、発光層における発光材料の濃度は、第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料の合計量に対して0.1重量%以上や1重量%以上とすることもでき、30重量%以下や20重量%以下、10重量%以下とすることもできる。
【0027】
発光層は、少なくとも第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料を含む発光組成物を用いて湿式工程で形成してもよいし、乾式工程で形成してもよい。
湿式工程では、発光組成物を溶解した溶液を面に塗布し、溶媒の除去後に発光層を形成す
る。湿式工程として、スピンコート法、スリットコート法、インクジェット法(スプレー法)、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。湿式工程では、発光組成物を溶解することができる適切な有機溶媒を選択して用いる。ある実施形態では、発光組成物に含まれる化合物に、有機溶媒に対する溶解性を上げる置換基(例えばアルキル基)を導入することができる。
【0028】
乾式工程としては真空蒸着法を好ましく採用することができる。真空蒸着法を採用する場合は、発光層を構成する各化合物を個別の蒸着源から共蒸着させてもよいし、全化合物を混合した単一の蒸着源から共蒸着させてもよい。単一の蒸着源を用いる場合は、全化合物の粉末を混合した混合粉を用いてもよいし、その混合粉を圧縮した圧縮成形体を用いてもよいし、各化合物を加熱溶融して混合した後に冷却した混合物を用いてもよい。ある実施形態では、単一の蒸着源に含まれる複数の化合物の蒸着速度(重量減少速度)が一致ないしほぼ一致する条件で共蒸着を行うことにより、蒸着源に含まれる複数の化合物の組成比に対応する組成比の発光層を形成することができる。形成される発光層の組成比と同じ組成比で複数の化合物を混合して蒸着源とすれば、所望の組成比を有する発光層を簡便に形成することができる。ある実施形態では、共蒸着される各化合物が同じ重量減少率になる温度を特定して、その温度を共蒸着時の温度として採用することができる。発光層を蒸着法により製膜する場合は、第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料のそれぞれの分子量は1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、900以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、例えば200であったり、400であったり、600であったりしてもよい。
【0029】
発光層の厚みは、10~100nmであることが好ましく、20~60nmであることがより好ましく、30~50nmであることがさらに好ましい。
【0030】
(スペーサー層)
スペーサー層は、上記の条件(c)および(d)を満たすホスト材料(スペーサー層用ホスト材料)と、発光層に含まれる発光材料と同一の発光材料を含む。スペーサー層は、発光層と電子輸送層の間に配置されており、発光層における第2の遅延蛍光材料での電子トラップ(クエンチング)を抑制して、素子の発光効率と動作安定性を改善するものである。
スペーサー層は、スペーサー層用ホスト材料と、発光層に含まれる発光材料と同一の発光材料のみから構成されていてもよいし、これらの材料の他に、これらの材料に該当しない材料を含んでいてもよい。スペーサー層を構成しうる化合物の構成元素の好ましい例については、発光層における対応する記載を参照することができる。
例えば、スペーサー層に含まれる発光材料は、発光層に含まれる発光材料と同一の発光材料の他に、これとは異なる発光材料を含んでいてもよいが、発光層に含まれる発光材料と同一の発光材料のみからなることが好ましい。
また、スペーサー層には、発光層に含まれる第2の遅延蛍光材料と同じ遅延蛍光材料が含まれていてもよいが、第2の遅延蛍光材料と同じ遅延蛍光材料のスペーサー層における濃度は、発光層における第2の遅延蛍光材料の濃度よりも低くする。第2の遅延蛍光材料と同じ遅延蛍光材料をスペーサー層に含有させる場合、その遅延蛍光材料の濃度は、スペーサー層中で一様であってもよいが、濃度勾配を持たせてもよい。例えば、電子輸送層側が低くて、発光層側を高くなるような濃度勾配を持たせることで、スペーサー層と電子輸送層との界面で、第2の遅延蛍光材料と同一の遅延蛍光材料に電子がトラップされるのを抑制することができる。
本発明の好ましい一態様では、スペーサー層は、スペーサー層用ホスト材料と、発光層に含まれる発光材料と同一の発光材料のみから構成されている。
【0031】
スペーサー層における発光材料の濃度は、スペーサー層を構成する材料の合計量に対して0.1重量%以上や1重量%以上とすることもでき、30重量%以下や20重量%以下、10重量%以下とすることもできる。
【0032】
スペーサー層の厚みは、0μm超0.015μm以下の範囲内であることが好ましく、例えば0μm超0.008μm以下や0.008μm超0.015μm以下の範囲内であってもい。これにより、素子の発光効率や動作安定性を効果的に改善することができる。
【0033】
(電子輸送層)
本発明における「電子輸送層」は、電子輸送材料で構成されており、電子輸送機能を有する層を意味する。電子輸送層は、電子輸送機能の他に、電子注入機能を有していてもよく、正孔障壁機能や励起子障壁機能を有していてもよい。すなわち、電子輸送層は、電子輸送/電子注入層であってもよいし、電子輸送/正孔障壁層や電子輸送/励起子障壁層、電子輸送/正孔励起子障壁層であってもよい。なお、本明細書中で用いる層の名称において、「電子輸送/」を含むものは、電子輸送機能と「/」の右側の機能を併せ持つ層であることを意味し、「電子輸送層」に分類される層であることとする。また、電子輸送層に該当する層を複数有する有機エレクトロルミネッセンス素子では、スペーサー層に最も近い電子輸送層が、「発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造」における「電子輸送層」であることとする。
【0034】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、電子輸送層(電子輸送層を複数有する場合には、スペーサー層に最も近い電子輸送層)は、上記の条件(d)を満たす電子輸送材料から構成されている。電子輸送層は、条件(d)を満たす電子輸送材料のみから構成されていてもよいし、条件(d)を満たす電子輸送材料の他に、条件(d)を満たさない電子輸送材料が含まれていてもよい。ただし、電子輸送材料が条件(d)を満たさない電子輸送材料を含む場合、条件(d)を満たす電子輸送材料の濃度は、電子輸送層を構成する材料の合計量に対して50重量%以上であることが好ましく、例えば70重量%以上や80重量%以上、90重量%以上とすることができる。本発明の好ましい一態様では、電子輸送層(電子輸送層を複数有する場合には、スペーサー層に最も近い電子輸送層)は、条件(d)を満たす電子輸送材料のみから構成されている。
【0035】
スペーサー層および電子輸送層、さらに必要に応じて設けられる各層は、湿式工程や乾式工程で形成することができる。湿式工程および乾式工程の説明については、上記の(発光層)の欄を参照することができる。
【0036】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料について説明し、その具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0037】
[第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料]
第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料は、最低励起一重項エネルギーと77Kの最低励起三重項エネルギーの差ΔESTが0.3eV以下であることが好ましく、0.25eV以下であることがより好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.15eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.07eV以下であることがさらにより好ましく、0.05eV以下であることがさらにまた好ましく、0.03eV以下であることがさらになお好ましく、0.01eV以下であることが特に好ましい。
ΔESTが小さければ、熱エネルギーの吸収によって励起一重項状態から励起三重項状態に逆項間交差しやすいため、デバイスが発する熱を吸収して励起三重項状態から励起一重項へ比較的容易に逆項間交差し、その励起三重項エネルギーを発光材料の発光に寄与させることができる。
第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料として、例えば、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026、特開2017-222623号公報の段落0012~0025、特開2017-226838号公報の段落0010~0050、特開2018-100411号公報の段落0012~0043、WO2018/047853号公報の段落0016~0044に記載される一般式に包含される化合物、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものを採用することができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
これらの遅延蛍光材料のうち、第1の遅延蛍光材料にはD-A型の遅延蛍光材料を採用することが好ましい。D-A型の遅延蛍光材料とは、ドナー性基(D)とアクセプター性基(A)が、単結合または連結基(例えばベンゼン環等の芳香環基)を介して連結した構造を有する遅延蛍光材料を意味する。ここで、ドナー性基(D)はハメットのσp値が負の値である置換基群から選択することができ、アクセプター性基(A)はハメットのσp値が正の値である置換基群から選択することができる。第1の遅延蛍光材料としてD-A型の遅延蛍光材料を用いると、キャリア再結合領域を発光層の界面から離れた位置に容易に調整することができ、また、駆動電圧が大幅に低下することや、ロールオフ(高電流密度駆動時に発光効率が低下)が緩和すること、素子寿命が改善されることなどの、効果が得られる。
ハメットのσp値に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)を参照することができる。ドナー性基の例として、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は単結合または連結基で互いに結合して環を形成していてもよい)を挙げることができ、例えば置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基、置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基、置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基にインドール環が縮合した構造を有する縮合環基などを挙げることができる。また、アクセプター性基の例として、窒素含有芳香族6員環を含む基を挙げることができ、例えば置換もしくは無置換のピリジル基、置換もしくは無置換のピリミジル基、置換もしくは無置換のトリアジル基などを挙げることができる。置換基の例としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、並びに、炭素数1~20のアルキル基および炭素数6~40のアリール基を2つ以上組み合わせた基を挙げることができる。
【0038】
[発光材料]
発光材料は、蛍光材料や遅延蛍光材料であることが好ましい。中でも、発光帯域幅が狭くて色純度が高いことから、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される1種以上の原子とホウ素原子との間で多重共鳴する多重共鳴型発光材料であることが好ましい。多重共鳴型発光材料として、例えばWO2020/039930号公報の段落[0011]~[0032]に記載される一般式で表される化合物や具体的な化合物、および下記式で表される化合物を発光材料として好ましく用いることができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0039】
【0040】
[ホスト材料(スペーサー層用ホスト材料)]
スペーサー層用ホスト材料としては、第1の遅延蛍光材料と同じ化合物を用いることが好ましい。第1の遅延蛍光材料の好ましい範囲と具体例については、上記の[第1の遅延蛍光材料および第2の遅延蛍光材料]の欄の記載を参照することができる。
また、スペーサー層用ホスト材料は、公知のホスト材料の中から、条件(c)および(d)を満たすものを選択して用いることもできる。スペーサー層用ホスト材料は金属原子を含まないことが好ましく、例えば、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができ、例えば、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができ、例えば、炭素原子、水素原子および窒素原子からなる化合物を選択することができる。具体例として、特開2022-132140号公報の段落0036に記載されるホスト材料を挙げることができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0041】
[その他の材料]
正孔輸送材料として例えば下記の化合物を用いることができる。
【化3】
【0042】
電子障壁材料としては、例えば下記の化合物を用いることができ、下記の化合物の中から条件(f)を満たすものを選択して用いることができる。
【化4】
【0043】
電子輸送材料としては、例えば下記の化合物の中から条件(d)を満たすものを選択して用いることができる。
【化5】
【0044】
正孔注入材料として例えば下記の化合物を用いることができる。
【化6】
【0045】
電子注入材料として例えば下記の化合物を用いることができる。
【化7】
【0046】
さらに、有機エレクトロルミネッセンス素子の各有機層に添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0047】
【化8】
<有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法>
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法は、一対の電極間に、少なくとも発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、
[1]以下の条件(1)および(2)を満たす第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料の組み合わせを選択し、これらの材料を用いて発光層を設計する工程と
(1)第1の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーよりも、第2の遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーが低い。
(2)第1の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーが低く、第2の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーより発光材料の最低励起一重項エネルギーが低い。
[2]電子輸送材料と、その電子輸送材料および工程[1]で選択した第2の遅延蛍光材料よりもLUMOのエネルギーが高いホスト材料(スペーサー層用ホスト材料)を選択し、その電子輸送材料を用いて電子輸送層を設計し、そのスペーサー層用ホスト材料と発光材料を用いてスペーサー層を設計する工程と、を含むことを特徴とする。
工程[1]における条件(1)は、上記の条件(b)に対応し、条件(2)は、上記の条件(a)に対応する。工程(2)における各材料のLUMOのエネルギーの関係は、上記の条件(c)および(d)に対応する。
本発明の設計方法で用いる第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料、発光材料、ホスト材料(スペーサー層用ホスト材料)および電子輸送材料の選択肢と好ましいエネルギー条件、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成については、上記の<有機エレクトロルミネッセンス素子>の欄の対応する記載を参照することができる。
【0048】
<プログラム>
本発明のプログラムは、上記の<有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法>の欄に記載した設計方法を実施するためのプログラムである。
本発明の一態様では、プログラムは、例えば遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーと最低励起一重項エネルギーを蓄積したデータベース、および、発光材料の最低励起一重項エネルギーを蓄積したデータベースを参照して、条件(1)および(2)(条件(a)および(b))を満たす第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料の組み合わせを選択するステップ(S11)と、ステップ(S11)で選択した組み合わせのリストから特定の組み合わせを選択し、その第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料を用いて発光層を設計するステップ(S12)と、ホスト材料のLUMOのエネルギーを蓄積したデータベースを参照して、ステップ(S12)で選択した特定の第2の遅延蛍光材料との関係で、条件(c)を満たすホスト材料を選択するステップ(S13)と、ステップ(S13)で選択したホスト材料のリストと、電子輸送材料のLUMOのエネルギーを蓄積したデータベースを参照して、条件(d)を満たすホスト材料と電子輸送材料の組み合わせを選択するステップ(S14)と、ステップ(S14)で選択した組み合わせのリストから特定の組み合わせを選択し、その電子輸送材料を用いて電子輸送層を設計し、そのホスト材料とステップ(S12)で選択した特定の発光材料を用いてスペーサー層を設計するステップ(S15)を有する。
【0049】
本発明の一態様では、プログラムは、例えば遅延蛍光材料のLUMOのエネルギーと最低励起一重項エネルギーとを蓄積したデータベース、および、発光材料の最低励起一重項エネルギーを蓄積したデータベースを参照して、条件(1)および(2)(条件(a)および(b))を満たす第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料の組み合わせを選択するステップ(S21)と、ステップ(S21)で選択した組み合わせのリストから特定の組み合わせを選択し、その第1の遅延蛍光材料と第2の遅延蛍光材料と発光材料を用いて発光層を設計するステップ(S22)と、電子輸送材料のLUMOのエネルギーを蓄積したデータベースと、ホスト材料のLUMOのエネルギーを蓄積したデータベースを参照して、条件(d)を満たす組み合わせを選択するステップ(S23)と、ステップ(S23)で選択した組み合わせのリストの中から、ステップ(S22)で選択した特定の第2の遅延蛍光材料との関係で条件(c)を満たす組み合わせを選択するステップ(S24)と、ステップ(S24)で選択した組み合わせのリストから特定の組み合わせを選択し、その電子輸送材料を用いて電子輸送層を設計し、そのホスト材料とステップ(S22)で選択した特定の発光材料を用いてスペーサー層を設計するステップを有する。
【0050】
上記のステップ(S11)は、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、第1の遅延蛍光材料、第2の遅延蛍光材料および発光材料の組み合わせを1つ以上想定し(S101)、その各組み合わせについて条件(a)および(b)を満たすか否かを判定する(S102)。その後、さらに他の組み合わせについても判定したい場合は、ステップS11とステップS12を1サイクル以上繰り返す(S103)。判定結果については、条件(a)および(b)を満たす組み合わせのリストとしてディスプレイに表示したり、印刷したりして出力することができる。ステップ(S13)、(S14)、(S21)、(S23)、(S24)についても、組み合わせの材料を対応する材料に変えて、同様のステップで行うことがきる。
その判定結果は、ステップ(S101)とステップ(S102)のサイクルごとに出力してもよいし、すべてのサイクルが終了した後にまとめて出力してもよい。ステップ(S103)では、さらにサイクルを繰り返すか否かの判断をサブプログラムにより行ってもよい。例えば、条件を満たす組み合わせが特定の個数以上見いだされるまでサイクルを繰り返す指令を出すサブプログラムを用いることができる。サイクルを1回以上繰り返す場合、ステップ(S101)では前に想定した組み合わせとは異なる組み合わせを新たに想定する。このとき、ステップ(S11)であれば、第1有機化合物、第2有機化合物および第3有機化合物のいずれか1種だけを変更してもよいし、いずれか2種を変更してもよいし、3種のすべてを変更してもよい。また、候補となる第1 有機化合物、第2 有機化合物および第3 有機化合物をあらかじめ読み込ませておき、それらの候補化合物の組み合わせを順に出力するサブプログラムをステップ(S101)で使用してもよい。その他、当業者に自明な改変を適宜行うことができる。
【実施例0051】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
発光性能の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
本実施例で使用した第1および第2の遅延蛍光材料、発光材料、スペーサー層用ホスト材料、電子輸送材料、電子障壁材料を以下に示す。
【0052】
【化9】
実施例1および比較例1、2で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子のエネルギー準位図を
図1~3に示す。各図において、EBは電子励起子障壁層(電子障壁層)、EMは発光層、SPはスペーサー層、ETは電子輸送/正孔励起子障壁層(電子輸送層)を表し、EMおよびSPにおける上下の実線は、PICTRZ2(第1の遅延蛍光材料)のLUMO準位およびHOMO準位を表し、上下の破線は、4CzIPN(第2の遅延蛍光材料)のLUMO準位およびHOMO準位を表し、上下の点線は、hBNCO(発光材料)のLUMO準位およびHOMO準位を表す。また、
図1(b)は、電子輸送層(ET)からスペーサー層(SP)への電子の注入の様子と、電子障壁層(EB)から発光層(EM)への正孔注入の様子を示す。本実施例では、条件(d1)および(f)を満たしており、駆動電圧が低くなるように設計されたものである。
各材料のLUMOのエネルギー、HOMOのエネルギーおよび最低励起一重項エネルギーを表1にまとめて示す。
【0053】
【0054】
(実施例1)
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度1×10-4Paで積層することにより作製した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに蒸着して正孔注入層を形成し、その上に、TrisPCzを30nmの厚さに蒸着して正孔輸送層を形成した。続いて、mCBPを5nmの厚さに蒸着して電子励起子障壁層を形成した。次に、PICTRZ2と4CzIPNとhBNCOを異なる蒸着源から共蒸着し、20nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzIPNの濃度は6重量%とし、hBNCOの濃度は1重量%とした。その上に、PICTRZ2とhBNCOを異なる蒸着源から共蒸着し、10nmの厚さの層を形成してスペーサー層とした。この時、hBNCOの濃度は1重量%とした。続いて、SF3-TRZを10nmの厚さに蒸着して電子輸送/正孔励起子障壁層を形成し、その上に、SF3-TRZとLiqを異なる蒸着源から共蒸着し、40nmの厚さの層を形成して電子輸送層とした。この時、Liqの濃度は30重量%とした。さらに、Liqを2nmの厚さに蒸着して電子注入層を形成し、その上に、Alを100nmの厚さに蒸着して陰極を形成することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子1)とした。なお、ここでは、「電子輸送/正孔励起子障壁層」が「発光層とスペーサー層と電子輸送層とを順に積層した構造」における「電子輸送層」に相当する。
【0055】
(比較例1)
発光層を30nmの厚さで形成し、スペーサー層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子1)を作製した。
【0056】
(比較例2)
発光層をPICTRZ2とhBNCOの共蒸着で形成したこと以外は、比較例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子2)を作製した。この時、hBNCOの濃度は1重量%とした。
実施例1および比較例1、2で作製した素子の発光層およびスペーサー層の組成と厚さ、スペーサー層の有無を表2にまとめて示す。
【0057】
【0058】
[評価]
EL素子1および比較素子1、2について、パルス電圧を印加して発光強度の時間変化を測定した結果を
図4~6に示し、EL素子1および比較素子1の外部量子効率(EQE)-輝度特性の測定結果を
図7に示し、EL素子1および比較素子1、2の発光寿命の測定結果を
図8に示す。
図8において、L/L
0は初期輝度に対する輝度の相対値を表す。
図4、5に示すように、4CzIPN(第2の遅延蛍光材料)を使用している素子のうち、スペーサー層を有するEL素子1では、発光強度の立ち上がりが急峻であるのに対して、スペーサー層を持たない比較素子1では、発光強度の立ち上がりが鈍くブロードである。これは、SF3TRZ層にて輸送されてきた電子が、層の界面でm4CzIPNにトラップされてクエンチングが生じたためであると推測される。また、
図5および
図6に示すように、EL素子1は比較素子1に比べて外部量子効率が高く、比較素子1および2に比べて輝度の経時劣化が小さくて長寿命であった。これらの結果から、第2の遅延蛍光材料を用いた上で、スペーサー層を設けることにより、クエンチングが軽減されて発光効率と動作安定性が改善されることがわかった。
【0059】
本発明によれば、遅延蛍光材料を発光のアシストドーパントとして用いる系で生じるクエンチングを抑制することができる。そのため、本発明を用いることにより、発光効率が高く、動作安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。