(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004448
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】予測管理システムおよび予測管理プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/80 20180101AFI20250107BHJP
【FI】
G16H50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104141
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003502
【氏名又は名称】弁理士法人芳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】若原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 亮太郎
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA00
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】感染症の感染者数の増減傾向を予測できる予測管理システムおよび予測管理プログラムを提供すること。
【解決手段】予測管理システムは、下水のサンプルの採取日と、サンプルを分析することにより取得されサンプルに含まれる感染症の病原体に関する病原体データと、を互いに対応付けて記憶する病原体データ記憶装置53と、年月日と、年月日における陽性者数に関する陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶する陽性者数データ記憶装置63、74と、採取日における病原体データを病原体データ記憶装置53から取得するとともに採取日以前の所定期間における陽性者数に関する陽性者数データを陽性者数データ記憶装置63、73から取得し、取得した病原体データと取得した陽性者数データとの比に基づいて採取日以後における増減傾向を予測し、予測した増減傾向に関する情報を送信する予測管理装置21と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症の感染者数の増減傾向を予測する予測管理システムであって、
下水のサンプルの採取日と、前記サンプルを分析することにより取得され前記サンプルに含まれる前記感染症の病原体に関する病原体データと、を互いに対応付けて記憶する病原体データ記憶装置と、
年月日と、前記年月日における前記感染症の陽性者数に関する陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶する陽性者数データ記憶装置と、
前記病原体データ記憶装置および前記陽性者数データ記憶装置と通信可能に接続され、前記採取日における前記病原体データを前記病原体データ記憶装置から取得するとともに前記採取日以前の所定期間における前記陽性者数に関する陽性者数データを前記陽性者数データ記憶装置から取得し、取得した前記病原体データと取得した前記陽性者数データとの比に基づいて前記採取日以後における前記増減傾向を予測し、予測した前記増減傾向に関する情報を送信する予測管理装置と、
を備えたことを特徴とする予測管理システム。
【請求項2】
前記陽性者数データを収集する機関により利用され前記陽性者数データ記憶装置を有する機関端末と、
住民により利用される利用者端末と、
をさらに備え、
前記病原体データ記憶装置は、前記サンプルの採取場所を前記採取日および前記病原体データにさらに対応付けて記憶し、
前記予測管理装置は、前記増減傾向に関する情報を前記機関端末に送信し、
前記機関端末は、前記予測管理装置から受信した前記増減傾向に関する情報に基づいて前記採取場所の近隣の前記住民の前記利用者端末に前記増減傾向を通知することを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項3】
住民により利用される利用者端末と、
をさらに備え、
前記病原体データ記憶装置は、前記サンプルの採取場所を前記採取日および前記病原体データにさらに対応付けて記憶し、
前記予測管理装置は、前記増減傾向に関する情報に基づいて前記採取場所の近隣の前記住民の前記利用者端末に前記増減傾向を通知することを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項4】
前記予測管理装置は、前記比に応じて前記増減傾向を区分し、区分された前記増減傾向に関する情報を送信することを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項5】
前記予測管理装置は、所定日における前記陽性者数データに対して前記所定日の1週間後における前記陽性者数データが増加した確率が所定確率以上となるときの前記比に基づいて、前記増減傾向を予測することを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項6】
前記病原体データは、分流式下水道の汚水管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項7】
前記病原体データは、分流式下水道の汚水管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度に前記下水の流量を乗じて算出した前記病原体の負荷量であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項8】
前記病原体データは、合流式下水道の合流管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項9】
前記病原体データは、合流式下水道の合流管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度に前記下水の流量を乗じて算出した前記病原体の負荷量であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項10】
前記陽性者数データは、前記所定期間における前記陽性者数の合計値または平均値であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項11】
前記陽性者数データは、前記所定期間における前記陽性者数のうちの入院者数の合計値または平均値であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項12】
前記陽性者数データは、前記所定期間における前記陽性者数のうちの死亡者数の合計値または平均値であることを特徴とする請求項1に記載の予測管理システム。
【請求項13】
下水のサンプルの採取日と、前記サンプルを分析することにより取得され前記サンプルに含まれる感染症の病原体に関する病原体データと、を互いに対応付けて記憶する病原体データ記憶装置、および、年月日と、前記年月日における前記感染症の陽性者数に関する陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶する陽性者数データ記憶装置と通信可能に接続され、前記感染症の感染者数の増減傾向を予測する予測管理装置のコンピュータにより実行される予測管理プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記採取日における前記病原体データを前記病原体データ記憶装置から取得する第1取得ステップと、
前記採取日以前の所定期間における前記感染症の陽性者数に関する陽性者数データを前記陽性者数データ記憶装置から第2取得ステップと、
第1取得ステップにおいて取得した前記病原体データと第2取得ステップにおいて取得した前記陽性者数データとの比に基づいて前記採取日以後における前記増減傾向を予測ステップと、
予測した前記増減傾向に関する情報を送信する送信ステップと、
を実行させることを特徴とする予測管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の感染者数の増減傾向を予測する予測管理システムおよび予測管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス等の感染症が拡散することを抑えるために、発熱などの症状が出た人に対してPCR検査や抗原検査などの感染症検査が行われている。そして、感染症検査で陽性反応が出た場合には、陽性者および濃厚接触者を隔離する対策などが行われている。しかし、陽性者の中には無症状の人がいたり、症状が出た場合であっても軽症等を理由として感染症検査を受けない人がいたりするため、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0003】
特許文献1には、採取結果データベースと、分析結果データベースと、滞在者データベースと、各データベースにアクセス可能なコンピュータプログラムと、を備えた感染症管理システムが開示されている。特許文献1に記載されたコンピュータプログラムは、施設から排出される下水が公共の下水管に流入するまでの経路において、採取期間中における下水から採取された試料中における感染性病原体の存在に関する情報が、少なくとも採取期間内における施設の滞在者中に感染性病原体の感染者が存在する可能性があることを示していた場合に、各データベースに記憶されたデータに基づいて、採取期間と滞在者が施設に滞在した期間とが重複する滞在者のリストを抽出するステップを実行可能である。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された感染症管理システムでは、施設の滞在者中に感染性病原体の感染者が存在する可能性を示したり、採取期間と滞在者が施設に滞在した期間とが重複する滞在者のリストを抽出したりすることができる一方で、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。すなわち、下水から採取した試料中における感染性病原体の存在に関する分析結果と、保健行政を通じて集計される陽性者数に関する集計結果と、の間には、結果が判明する時期について差異が生ずるため、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0005】
あるいは、下水から採取した試料中における感染性病原体の存在に関する分析(例えばPCR分析)は、連続分析ではない。すなわち、特許文献1に記載された感染症検査方法では、採取業者が下水から試料を採取して分析受託会社に提出し、分析受託会社が採取業者から提出された試料を分析して、試料中における感染性病原体の存在に関する情報を取得する。そのため、試料中における感染性病原体の存在に関する情報は、時間的に密に連続した情報とはならず、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。このような背景のもと、新型コロナウイルス等の感染症の感染者数の増減傾向を予測することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、感染症の感染者数の増減傾向を予測できる予測管理システムおよび予測管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、感染症の感染者数の増減傾向を予測する予測管理システムであって、下水のサンプルの採取日と、前記サンプルを分析することにより取得され前記サンプルに含まれる前記感染症の病原体に関する病原体データと、を互いに対応付けて記憶する病原体データ記憶装置と、年月日と、前記年月日における前記感染者の陽性者数に関する陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶する陽性者数データ記憶装置と、前記病原体データ記憶装置および前記陽性者数データ記憶装置と通信可能に接続され、前記採取日における前記病原体データを前記病原体データ記憶装置から取得するとともに前記採取日以前の所定期間における前記陽性者数に関する陽性者数データを前記陽性者数データ記憶装置から取得し、取得した前記病原体データと取得した前記陽性者数データとの比に基づいて前記採取日以後における前記増減傾向を予測し、予測した前記増減傾向に関する情報を送信する予測管理装置と、を備えたことを特徴とする予測管理システムである。
【0009】
本発明の第2態様は、下水のサンプルの採取日と、前記サンプルを分析することにより取得され前記サンプルに含まれる感染症の病原体に関する病原体データと、を互いに対応付けて記憶する病原体データ記憶装置、および、年月日と、前記年月日における前記感染症の陽性者数に関する陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶する陽性者数データ記憶装置と通信可能に接続され、前記感染症の感染者数の増減傾向を予測する予測管理装置のコンピュータにより実行される予測管理プログラムであって、前記コンピュータに、前記採取日における前記病原体データを前記病原体データ記憶装置から取得する第1取得ステップと、前記採取日以前の所定期間における前記感染症の陽性者数に関する陽性者数データを前記陽性者数データ記憶装置から第2取得ステップと、第1取得ステップにおいて取得した前記病原体データと第2取得ステップにおいて取得した前記陽性者数データとの比に基づいて前記採取日以後における前記増減傾向を予測ステップと、予測した前記増減傾向に関する情報を送信する送信ステップと、を実行させることを特徴とする予測管理プログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、感染症の感染者数の増減傾向を予測できる予測管理システムおよび予測管理プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る予測管理システムの概要を説明する概要図である。
【
図2】本実施形態に係る予測管理システムのハードウェアの要部構成を表すブロック図である。
【
図3】本実施形態の予測管理装置の要部構成を表すブロック図である。
【
図4】本実施形態の検査会社端末の要部構成を表すブロック図である。
【
図5】本実施形態の行政機関端末および医療機関端末の要部構成を表すブロック図である。
【
図6】本実施形態の利用者端末の要部構成を表すブロック図である。
【
図7】本実施形態のウイルス濃度と陽性者数との関係を説明する模式図である。
【
図8】任意地域における陽性者数とウイルス濃度と7区間移動平均陽性者数との関係の一例を表すグラフである。
【
図9】ウイルスデータと陽性者数データとの比を説明する模式図である。
【
図10】本実施形態に係る予測管理システムの処理手順の第1具体例を表すシーケンスチャートである。
【
図11】本実施形態に係る予測管理システムの処理手順の第2具体例を表すシーケンスチャートである。
【
図12】所定確率(閾値)の算出方法の第1具体例を説明するグラフである。
【
図13】所定確率(閾値)の算出方法の第2具体例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。例えば、以下に説明する実施形態では、病原体の具体例として新型コロナウイルスを挙げているが、病原体は、新型コロナウイルスに限られず、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなど、その他のウイルスであってもよい。さらに、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る予測管理システムの概要を説明する概要図である。
まず、
図1を参照して本実施形態に係る予測管理システムの概要を説明する。本実施形態に係る予測管理システムは、感染症の感染者数の増減傾向を予測するシステムである。本願明細書において「感染者」とは、病原体に感染した者(すなわち病原体が体内に侵入した者)であり、感染症検査で陽性反応を示した者(すなわち陽性者)だけではなく、病原体に感染し感染症検査を受けていない者(すなわち未検査感染者)を含むものとする。また、本願明細書において「予測」の範囲には、事の成り行きや結果などを前もって推し測るという予測の意味だけではなく、物事の起こる前にその事を見通すという予見の意味が含まれるものとする。
図1に表した予測管理システムでは、管理会社2と、採取業者3と、下水処理場4と、検査会社5と、市区町村の役所などの行政機関6と、病院および自治体の保健部局などの医療機関7と、が互いに関係している。
図1に表した二点鎖線の枠のように、検査会社5は、管理会社2に含まれていてもよい。つまり、検査会社5は、管理会社2と同一の会社であってもよい。
【0014】
まず、
図1に表した矢印A1および矢印A2のように、管理会社2は、行政機関6および医療機関7の少なくともいずれかから感染症の感染者数の増減傾向の予測に関する依頼を受ける。本実施形態の行政機関6および医療機関7のそれぞれは、本発明の「機関」の一例である。
【0015】
続いて、
図1に表した矢印A3のように、管理会社2は、下水のサンプルの採取を採取業者3に依頼する。なお、下水のサンプルの採取は、管理会社2より実施されてもよい。本願明細書では、説明の便宜上、下水のサンプルを単に「下水サンプル」とも呼ぶ。
【0016】
続いて、
図1に表した矢印A4のように、採取業者3は、管理会社2から依頼を受けて下水処理場4へ向かい、下水サンプルを採取する。例えば、採取業者3は、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルを採取する。あるいは、例えば、採取業者3は、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルを採取する。あるいは、例えば、採取業者3は、下水処理場4の最初沈殿池の流入流路を流れる下水のサンプルを採取する。続いて、採取業者3は、下水のサンプルを採取した日(すなわち採取日)および場所(すなわち採取場所)とともに採取した下水のサンプルを検査会社5に提供する。
【0017】
続いて、検査会社5は、採取業者3から提供された下水サンプルをPCR検査等により分析し、下水サンプルに含まれる感染症の病原体に関する病原体データを取得する。そして、検査会社5は、取得した病原体データと、下水サンプルの採取日と、下水サンプルの採取場所と、を互いに対応付けて記憶する。病原体データの取得方法は、例えばPCR検査のような時間的に非連続なデータの取得方法であってもよく、例えば抗原抗体反応を利用したセンサによる検査のような時間的に密に連続したデータの取得方法であってもよい。
【0018】
なお、前述したように、検査会社5は、管理会社2に含まれていてもよい。この場合には、管理会社2が、採取業者3から提供された下水サンプルをPCR検査等により分析し、下水サンプルに含まれる感染症の病原体に関する病原体データを取得する。そして、管理会社2が、取得した病原体データと、下水サンプルの採取日と、下水サンプルの採取場所と、を互いに対応付けて記憶する。
【0019】
一方で、行政機関6は、感染症の陽性者数に関するデータを収集し、年月日と、その年月日における陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶する。本願明細書では、説明の便宜上、陽性者数に関するデータを単に「陽性者数データ」または「陽性者数」とも呼ぶ。また、医療機関7が、感染症の陽性者数に関するデータを収集し、年月日と、その年月日における感染症の陽性者数に関する陽性者数データと、を互いに対応付けて記憶してもよい。
【0020】
続いて、
図1に表した矢印A5のように、管理会社2は、下水サンプルの採取日における病原体データを検査会社5から取得する。また、
図1に表した矢印A1および矢印A2のように、管理会社2は、下水サンプルの採取日以前の所定期間における陽性者数に関する陽性者数データを行政機関6および医療機関7の少なくともいずれかから取得する。そして、管理会社2は、検査会社5から取得した病原体データと、行政機関6および医療機関7の少なくともいずれかから取得した陽性者数データと、の比に基づいて、下水サンプルの採取日以後における感染症の感染者数の増減傾向を予測する。増減傾向の予測方法の詳細については、後述する。
【0021】
続いて、
図1に表した矢印A6および矢印A7のように、管理会社2は、予測した感染者数の増減傾向に関する情報を行政機関6および医療機関7の少なくともいずれかに送信(すなわち提供)する。続いて、
図1に表した矢印A8のように、行政機関6は、管理会社2から提供された感染者数の増減傾向に関する情報を医療機関7に提供する。あるいは、
図1に表した矢印A9のように、医療機関7は、管理会社2から提供された感染者数の増減傾向に関する情報を行政機関6に提供する。
【0022】
続いて、
図1に表した矢印A11および矢印A12のように、行政機関6および医療機関7の少なくともいずれかは、管理会社2から受信した感染症の感染者数の増減傾向に関する情報に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に感染者数の増減傾向を通知する。下水サンプルの採取場所の近隣の住民としては、例えば、採取業者3が下水サンプルを採取した公共下水道および下水処理場4の供用区域を含む行政区域に居住する住民などが挙げられる。利用者端末8は、住民(すなわち利用者)によって使用される例えばスマートフォンやタブレットコンピュータや携帯電話などの携帯型の端末装置である。
【0023】
図1に表した矢印A13のように、管理会社2が、管理会社2自身が予測した感染症の感染者数の増減傾向に関する情報に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に感染者数の増減傾向を通知してもよい。
【0024】
次に、本実施形態に係る予測管理システムのハードウェアを、図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る予測管理システムのハードウェアの要部構成を表すブロック図である。
【0025】
予測管理システムは、主として、予測管理装置21と、検査会社端末51と、行政機関端末61および医療機関端末71の少なくともいずれかと、利用者端末8と、を備える。利用者端末8は、1つには限定されず、複数であってもよい。
図2では、1つの利用者端末8が表されている。
【0026】
予測管理装置21は、管理会社2が所有し管理会社2により利用される装置であり、コンピュータ(すなわちサーバコンピュータ)22と、コンピュータ22に接続された記憶装置23と、コンピュータ22に接続された通信部24と、を有する。コンピュータ22は、制御部25(
図3参照)を有し、種々の演算や処理を実行する。本願明細書において、「コンピュータ」とは、パソコンには限定されず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0027】
検査会社端末51は、検査会社5が所有し検査会社5により利用される端末であり、コンピュータ52と、コンピュータ52に接続された記憶装置53と、コンピュータ52に接続された通信部54と、を有する。コンピュータ52は、制御部55(
図4参照)を有し、種々の演算や処理を実行する。前述したように、検査会社5は、管理会社2に含まれていてもよい。この場合には、検査会社端末51は、管理会社2が所有し管理会社2により利用される端末であり、予測管理装置21と一体化されていてもよい。
【0028】
行政機関端末61は、行政機関6が所有し行政機関6により利用される端末であり、コンピュータ62と、コンピュータ62に接続された記憶装置63と、コンピュータ62に接続された通信部64と、を有する。コンピュータ62は、制御部65(
図5参照)を有し、種々の演算や処理を実行する。医療機関端末71は、医療機関7が所有し医療機関7により利用される端末であり、コンピュータ72と、コンピュータ72に接続された記憶装置73と、コンピュータ72に接続された通信部74と、を有する。コンピュータ72は、制御部75(
図5参照)を有し、種々の演算や処理を実行する。行政機関端末61および医療機関端末71のそれぞれは、本発明の「機関端末」の一例である。
【0029】
利用者端末8は、住民(すなわち利用者)によって使用される例えばスマートフォンやタブレットコンピュータや携帯電話などの携帯型の端末装置であり、コンピュータ82と、コンピュータ82に接続された記憶装置83と、コンピュータ82に接続された通信部84と、を有する。コンピュータ82は、制御部85(
図6参照)を有し、種々の演算や処理を実行する。利用者端末8は、例えば利用者の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイを有していてもよい。また、利用者端末8は、利用者の現在位置(利用者端末8の存在位置)を検知する機能を有していてもよい。なお、利用者の現在位置は、例えばGPS(Global Positioning System)などによって検知可能とされている。
【0030】
図2に表したように、予測管理装置21と、検査会社端末51と、行政機関端末61と、医療機関端末71と、利用者端末8と、は、それぞれが有する通信部24、54、64、74、84により例えばインターネットなどのネットワーク9を介して互いに通信可能に接続されている。
【0031】
図3は、本実施形態の予測管理装置の要部構成を表すブロック図である。
図3に表したように、予測管理装置21は、制御部25と、記憶装置23と、通信部24と、を有する。
【0032】
制御部25は、例えばCPU(central processing unit)などであり、記憶装置23に記憶されたプログラム231を読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部25は、予測部251と、送信処理部252と、通知処理部253と、を有する。なお、制御部25は、必ずしも通知処理部253を有していなくともよい。予測部251、送信処理部252および通知処理部253は、記憶装置23に格納されているプログラム231をコンピュータ22(
図2参照)が実行することにより実現される。予測部251、送信処理部252および通知処理部253は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0033】
予測部251は、通信部24およびネットワーク9を介して検査会社端末51の記憶装置53から取得した病原体データ532(
図4参照)と、通信部24およびネットワーク9を介して行政機関6の記憶装置63および医療機関7の記憶装置73の少なくともいずれかから取得した陽性者数データ632、732(
図5参照)と、の比に基づいて、下水サンプルの採取日以後における感染症の感染者数の増減傾向を予測する。そして、予測部251は、予測した増減傾向を増減傾向データ232として記憶装置23に格納する。予測部251が感染症の感染者数の増減傾向を予測する方法の詳細については、後述する。
【0034】
送信処理部252は、予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報、すなわち記憶装置23に格納された増減傾向データ232を、通信部24およびネットワーク9を介して行政機関6および医療機関7の少なくともいずれかに送信する。
【0035】
通知処理部253は、予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報、すなわち記憶装置23に格納された増減傾向データ232に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に通信部24およびネットワーク9を介して感染者数の増減傾向を通知する。
【0036】
記憶装置23は、プログラム231と、増減傾向データ232と、を格納する。増減傾向データ232は、予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報である。記憶装置23としては、予測管理装置21に内蔵された半導体メモリやハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)などが挙げられる。あるいは、記憶装置23は、コンピュータ22に接続された外部の記憶装置であってもよい。
【0037】
プログラム231は、感染症の感染者数の増減傾向を予測するための演算プログラムなどを含む。なお、プログラム231は、記憶装置23に格納されていることには限定されず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に予め格納され頒布されてもよく、あるいはネットワーク9を介して予測管理装置21にダウンロードされてもよい。
【0038】
図4は、本実施形態の検査会社端末の要部構成を表すブロック図である。
図4に表したように、検査会社端末51は、制御部55と、記憶装置53と、通信部54と、表示部56と、を有する。なお、検査会社端末51は、必ずしも表示部56を有していなくともよい。
【0039】
制御部55は、例えばCPUなどであり、記憶装置53に記憶されたプログラム531を読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部55は、PCR検査等により取得した病原体データ532と、下水サンプルの採取日と、下水サンプルの採取場所と、を互いに対応付けて記憶装置53に格納する。
【0040】
記憶装置53は、プログラム531と、病原体データ532と、を格納する。本実施形態の記憶装置53は、本発明の「病原体データ記憶装置」の一例である。記憶装置53としては、検査会社端末51に内蔵された半導体メモリやハードディスクドライブなどが挙げられる。あるいは、記憶装置53は、コンピュータ52に接続された外部の記憶装置であってもよい。プログラム531は、病原体データ532を分析したり処理したりするための演算プログラムなどを含む。
【0041】
病原体データ532は、下水サンプルを分析することにより取得されたデータであって、下水サンプルに含まれる感染症の病原体に関するデータである。病原体データ532は、下水サンプルを分析することにより取得されたデータのままであってもよく、下水サンプルを分析することにより取得されたデータに所定の処理を施したデータであってもよい。
【0042】
記憶装置53に記憶される病原体データ532は、例えば、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得された病原体の濃度である。あるいは、記憶装置53に記憶される病原体データ532は、例えば、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得された病原体の濃度である。
【0043】
前述したように、病原体データ532は、下水サンプルを分析することにより取得されたデータに所定の処理を施したデータであってもよい。記憶装置53に記憶される病原体データ532は、例えば、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得された病原体の濃度に下水の流量を乗じて算出した病原体の負荷量である。あるは、記憶装置53に記憶される病原体データ532は、例えば、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得された病原体の濃度に下水の流量を乗じて算出した病原体の負荷量である。
【0044】
表示部56は、例えば液晶パネルを含むディスプレイである。あるいは、表示部56は、例えば人の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイであってもよい。この場合には、作業者等は、表示部56を操作することにより必要な情報などの各種情報を入力することができる。
【0045】
図5は、本実施形態の行政機関端末および医療機関端末の要部構成を表すブロック図である。
行政機関端末61および医療機関端末71は、互いに類似する。そこで、本実施形態では、行政機関端末61を例に挙げて本発明の「機関端末」を説明する。
【0046】
図5に表したように、行政機関端末61は、制御部65と、記憶装置63と、通信部64と、表示部66と、を有する。なお、行政機関端末61は、必ずしも表示部66を有していなくともよい。
【0047】
制御部65は、例えばCPUなどであり、記憶装置63に記憶されたプログラム631を読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部65は、通知処理部653を有する。通知処理部653は、記憶装置63に格納されているプログラム631をコンピュータ62(
図2参照)が実行することにより実現される。通知処理部653は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0048】
制御部65は、年月日と、その年月日における感染症の陽性者数に関する陽性者数データ632と、を互いに対応付けて記憶装置63に格納する。
通知処理部653は、通信部24およびネットワーク9を介して予測管理装置21から受信した感染症の感染者数の増減傾向に関する情報に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に通信部24およびネットワーク9を介して感染者数の増減傾向を通知する。
【0049】
記憶装置63は、プログラム631と、陽性者数データ632と、を格納する。本実施形態の記憶装置63は、本発明の「陽性者数データ記憶装置」の一例である。記憶装置63としては、行政機関端末61に内蔵された半導体メモリやハードディスクドライブなどが挙げられる。あるいは、記憶装置63は、コンピュータ62に接続された外部の記憶装置であってもよい。プログラム631は、陽性者数データ632を収集したり処理したりするための演算プログラムを含む。
【0050】
陽性者数データ632は、行政機関6により収集された感染症の陽性者数に関するデータである。陽性者数データ632は、収集されたデータのままであってもよく、収集されたデータに所定の処理を施したデータであってもよい。記憶装置63に記憶される陽性者数データ632は、例えば、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数の合計値または平均値である。ここでいう「所定期間」とは、例えば一週間程度である。あるいは、記憶装置63に記憶される陽性者数データ632は、例えば、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数のうちの入院者数の合計値または平均値である。あるいは、記憶装置63に記憶される陽性者数データ632は、例えば、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数のうちの死亡者数の合計値または平均値である。
【0051】
表示部66は、例えば液晶パネルを含むディスプレイである。あるいは、表示部66は、例えば人の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイであってもよい。この場合には、作業者等は、表示部66を操作することにより必要な情報などの各種情報を入力することができる。
【0052】
図5に関して前述した行政機関端末61と同様に、医療機関端末71は、制御部75と、記憶装置73と、通信部74と、表示部76と、を有する。なお、医療機関端末71は、必ずしも表示部76を有していなくともよい。制御部75は、通知処理部753を有する。記憶装置73は、本発明の「陽性者数データ記憶装置」の一例であり、プログラム731と、陽性者数データ732と、を格納する。
【0053】
図6は、本実施形態の利用者端末の要部構成を表すブロック図である。
図6に表したように、利用者端末8は、制御部85と、記憶装置83と、通信部84と、表示部86と、を有する。
【0054】
制御部85は、例えばCPUなどであり、記憶装置83に記憶されたプログラム(図示せず)を読み出して種々の演算や処理を実行する。例えば、制御部85は、感染症の感染者数の増減傾向に関する通知を通信部24およびネットワーク9を介して行政機関端末61、医療機関端末71および予測管理装置21の少なくともいずれかから受信し、感染症の感染者数の増減傾向に関する通知を表示部86に表示させる処理を実行する。
【0055】
表示部86は、例えば液晶パネルを含むディスプレイである。あるいは、表示部86は、例えば人の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイであってもよい。この場合には、利用者等は、表示部86を操作することにより必要な情報などの各種情報を入力することができる。
【0056】
次に、本実施形態の予測管理装置21が感染症の感染者数の増減傾向を予測する方法を、図面を参照して説明する。
以下の説明では、病原体がウイルスである場合を例に挙げる。本願明細書では、説明の便宜上、下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータを単に「ウイルスデータ」とも呼ぶ。ここで、ウイルスデータは、本発明の「病原体データ」の一例であり、合流式下水道の合流管または分流式下水道の汚水管における下水サンプルを分析することにより取得されたウイルスの濃度である。本願明細書では、説明の便宜上、このウイルスの濃度を単に「ウイルス濃度」とも呼ぶ。
【0057】
図7は、本実施形態のウイルス濃度と陽性者数との関係を説明する模式図である。
図8は、任意地域における陽性者数とウイルス濃度と7区間移動平均陽性者数との関係の一例を表すグラフである。
図9は、ウイルスデータと陽性者数データとの比を説明する模式図である。
【0058】
例えば、新型コロナウイルス等の感染症が拡散することを抑えるために、発熱などの症状が出た人に対してPCR検査や抗原検査などの感染症検査が行われている。そして、感染症検査で陽性反応が出た場合には、陽性者および濃厚接触者を隔離する対策などが行われている。しかし、陽性者の中には無症状の人がいたり、症状が出た場合であっても軽症等を理由として感染症検査を受けない人がいたりするため、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0059】
そこで、本発明者は、生活排水のような一般的な下水のサンプルを公共下水道および下水処理場4などから採取し、そのサンプルに含まれるウイルスに関するデータを利用して、その公共下水道および下水処理場4の供用区域を含む行政区域における感染症の感染者数の増減傾向を予測することを試みた。
【0060】
しかし、ある公共下水道および下水処理場4などの下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータ(すなわちウイルスデータ)の結果と、その公共下水道および下水処理場4の供用区域を含む行政区域における保健行政を通じて集計される陽性者数に関するデータの結果と、の間には、結果が判明する時期について差異が生ずる。そのため、ウイルスデータの増減傾向と、陽性者数データの増減傾向と、の間には、時間的差異が生ずる。例えば、
図7に表したように、感染症検査の陽性者(すなわち陽性者数データ)の増減傾向は、下水サンプルに含まれるウイルス濃度(すなわちウイルスデータ)の増減傾向よりも遅れる。
【0061】
図8は、本発明者が、ある行政区域において収集した陽性者数と、この陽性者数に関する直近7区間移動平均陽性者数と、その行政区域に含まれる合流式下水道(1系)のウイルス濃度と、同じくその行政区域に含まれる分流式下水道(2系)のウイルス濃度と、をまとめたグラフである。
図8によれば、陽性者数が増加し始めた1月6日以後のグラフ縦軸のピークは、最初が2月24日の2系のウイルス濃度、続いて3月3日の1系のウイルス濃度、最後が3月5日の7区間移動平均陽性者数となる。その後の5月5日以後の陽性者数の上昇局面においては、グラフ縦軸のピークは、最初が5月12日の1系のウイルス濃度、続いて5月19日の2系のウイルス濃度、最後が5月26日の7区間移動平均陽性者数となる。つまり、グラフ縦軸がピークを迎えるのは、ウイルス濃度については、1系が先になる場合もあれば2系が先になる場合もある。しかし、7区間移動平均陽性者数については、1月6日以後と5月5日以後のいずれにおいても最後になる。このことからも、陽性者数データの増減傾向は、ウイルスデータ(すなわち
図8のウイルス濃度)の増減傾向よりも遅れる、ことが分かる。
【0062】
このように、ウイルスデータの増減傾向と、陽性者数データの増減傾向と、の間には、時間的差異が生ずる。そのため、単に下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータを取得するだけでは、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。例えば、
図7に表したように、下水のサンプルに含まれるウイルスの濃度(すなわちウイルス濃度)のある値Wには、増加傾向の第1時期T1におけるウイルス濃度W1と、減少傾向の第2時期T2におけるウイルス濃度W2と、の2つが存在する。そのため、単に下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータを取得するだけでは、それが増加傾向の時期のものなのか、それとも減少傾向の時期のものなのか、が分からない。そのため、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0063】
さらに、
図8に表したように、例えば下水サンプルをPCR検査等により分析してウイルス濃度を取得する場合、PCR検査等による分析は、連続分析ではない。すなわち、
図8の例では、採取業者3が下水サンプルを公共下水道および下水処理場4などから採取し、検査会社5などの別の場所に配送する。そして、検査会社5が下水サンプルを分析してウイルス濃度を取得する。そのため、取得したウイルス濃度は、時間的に密に連続したデータとはならない。具体的には、ウイルス濃度を取得するための下水サンプルの分析は、合流式下水道(1系)と分流式下水道(2系)とのいずれについても1週間に1回の頻度である。このため、例えば、今日取得したウイルス濃度が、増加傾向にあるのか、それとも減少傾向にあるのかは、1週間後にウイルス濃度を取得するまでは、正確に判断できない。この点、例えば
図8のウイルス濃度(2系)は、2月3日に一旦小さなピークを迎え、その後2月17日まで減少傾向にあったが、その翌週の2月24日に非常に大きなピークを迎えた。この例によれば、ウイルス濃度(2系)は、2月17日現在では、過去の2月3日から減少傾向にあり、もし過去から現在までの増減傾向に基づいて翌週を判断したならば、翌週の2月24日では現在(2月17日)よりも低くなるはずであった。しかし、実際はそうなっておらず、ウイルス濃度(2系)は、非常に高くなった。この例のように連続分析でない場合、感染症の感染者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0064】
そこで、本実施形態の予測管理装置21の予測部251は、ウイルスデータの増減傾向と、陽性者数データの増減傾向と、の間に時間的差異が生ずることを積極的に利用し、ウイルスデータと陽性者数データとの比に基づいて、下水サンプルを採取した日以後における感染症の感染者数の増減傾向を予測する。
図7を参照して具体的に説明すると、第1時期T1におけるウイルス濃度W1と陽性者数C1との比(W1/C1)は、第2時期T2におけるウイルス濃度W2と陽性者数C2との比(W2/C2)よりも大きい。ここで、ウイルス濃度W1は、ウイルス濃度W2に等しい。
なお、本願明細書では、ウイルスデータと陽性者数データとの比を、陽性者数Cに対するウイルス濃度W(すなわちW/C)としているが、これに限定されず、その反対(すなわちC/W)としてもよい。
【0065】
本実施形態の予測管理装置21の予測部251は、このような性質を利用し、
図9に表したように、例えばウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)が相対的に高い第3時期T3には、感染者数が今後増加する可能性がある、あるいは把握できていない感染者の割合が多いと予測する。一方で、本実施形態の予測管理装置21の予測部251は、例えばウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)が相対的に低い第4時期T4には、感染者数が今後減少する可能性がある、あるいは把握できていない感染者の割合は少ないと予測する。あるいは、本実施形態の予測管理装置21の予測部251は、過去の統計値に基づいて、感染者数が増加傾向にある時期と減少傾向にある時期とを区別する比(W/C)の閾値を設定し、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)を閾値と比較することにより、感染者数の増減傾向を予測する。
【0066】
次に、本実施形態に係る予測管理システムの処理手順の具体例を、図面を参照して説明する。
図10は、本実施形態に係る予測管理システムの処理手順の第1具体例を表すシーケンスチャートである。
図11は、本実施形態に係る予測管理システムの処理手順の第2具体例を表すシーケンスチャートである。
図12は、所定確率(閾値)の算出方法の第1具体例を説明するグラフである。
図13は、所定確率(閾値)の算出方法の第2具体例を説明するグラフである。
なお、以下の説明では、本発明の「機関端末」が行政機関端末61である場合を例に挙げる。
【0067】
まず、
図10に表したように、ステップS11において、検査会社端末51は、PCR検査等により取得したウイルスデータ(すなわち病原体データ532)と、下水サンプルの採取日と、下水サンプルの採取場所と、を互いに対応付けて記憶装置53に記憶する。一方で、ステップS12において、行政機関端末61は、感染症の陽性者数に関するデータを収集し、年月日と、その年月日における感染症の陽性者数に関する陽性者数データ632と、を互いに対応付けて記憶装置63に格納する。
【0068】
なお、ステップS11は、ステップS12よりも先に実行されてもよく、ステップS12よりも後に実行されてもよい。また、ステップS11およびステップS12は、互いに並行して実行されてもよい。ステップS11およびステップS12は、互いに独立して実行される。
【0069】
続いて、ステップS13において、予測管理装置21は、下水サンプルの採取日におけるウイルスデータを、通信部24およびネットワーク9を介して検査会社端末51の記憶装置53から取得する。本実施形態のステップS13は、本発明の「第1取得ステップ」の一例である。続いて、ステップS14において、予測管理装置21は、下水サンプルの採取日以前の所定期間における陽性者数に関する陽性者数データ632を、通信部24およびネットワーク9を介して行政機関6の記憶装置63から取得する。本実施形態のステップS14は、本発明の「第2取得ステップ」の一例である。
【0070】
続いて、ステップS15において、予測管理装置21の予測部251は、検査会社端末51の記憶装置53から取得したウイルスデータと、行政機関6の記憶装置63から取得した陽性者数データ632と、に基づいてウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)を算出する。そして、予測管理装置21の予測部251は、算出した比に基づいて、下水のサンプルを採取した日以後における感染者数の増減傾向を予測する。本実施形態のステップS15は、本発明の「予測ステップ」の一例である。例えば、ステップS15において、予測管理装置21の予測部251は、所定日における陽性者数データ632に対して所定日の1週間後における陽性者数データ632が増加した確率が所定確率(閾値)以上となるときの比に基づいて、感染者数の増減傾向を予測する。以下、所定確率(閾値)の算出方法の例を、図面を参照して説明する。
【0071】
図12は、PCR検査の陽性者数(すなわち
図12の横軸に表したPCR陽性者数)の翌週の増加倍率と、ウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(すなわち
図12の左側の縦軸に表したW/C比)と、の関係の一例を表すグラフである。なお、
図12の右側の縦軸に表したW/C比は、ウイルス濃度に下水の流量を乗じて算出したウイルス負荷量Wと陽性者数Cとの比である(後述する
図13も同様)。
図12に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)が「1.00」よりも大きい場合には、所定日における陽性者数に対する所定日の1週間後における陽性者数が増加する。
図12に表した横軸の値が「1.00」よりも小さい場合には、所定日における陽性者数に対する所定日の1週間後における陽性者数が減少する。
【0072】
ここで、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルのウイルス濃度Wと、陽性者数Cと、の比(W/C比;1系濃度)に着目すると、
図12の左側の縦軸に表したW/C比(ウイルス濃度)が400である場合、400以上のW/C比の全データ数(5個)のうち、
図12に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)が「1.00」よりも大きいデータ数は4個であり、
図12に表した横軸の値が「1.00」よりも小さいデータ数は1個である。
【0073】
そこで、ステップS15において、予測管理装置21の予測部251は、例えば、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が80%(=4個/5個×100%)以上となるW/C比の閾値として「400」を設定する。そして、予測管理装置21の予測部251は、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;1系濃度)が400以上である場合に、感染者数が増加傾向にあると予測する。一方で、予測管理装置21の予測部251は、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;1系濃度)が400未満である場合に、感染者数が減少傾向にあると予測する。但し、「400」は、W/C比の閾値の一例であり、W/C比の閾値は、「400」だけに限定されるわけではない。
【0074】
また、
図13は、
図12に関して前述したグラフと同様に、PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率と、ウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比)と、の関係の一例を表すグラフである。
図13に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)は、
図12に関して前述した通りである。
【0075】
ここで、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルのウイルス濃度Wと、陽性者数Cと、の比(W/C比;2系濃度)に着目すると、
図13の左側の縦軸に表したW/C比(ウイルス濃度)が400である場合、400以上のW/C比の全データ数(12個)のうち、
図13に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)が「1.00」よりも大きいデータ数は9個であり、
図13に表した横軸の値が「1.00」よりも小さいデータ数は3個である。
【0076】
そこで、ステップS15において、予測管理装置21の予測部251は、例えば、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が75%(=9個/12個×100%)以上となるW/C比の閾値として「400」を設定する。そして、予測管理装置21の予測部251は、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;2系濃度)が400以上である場合に、感染者数が増加傾向にあると予測する。一方で、予測管理装置21の予測部251は、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;2系濃度)が400未満である場合に、感染者数が減少傾向にあると予測する。但し、
図12に関して前述した通り、「400」は、W/C比の閾値の一例であり、W/C比の閾値は、「400」だけに限定されるわけではない。
【0077】
ステップS15に続くステップS16において、予測管理装置21の送信処理部252は、予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報、すなわち記憶装置23に格納された増減傾向データ232を、通信部24およびネットワーク9を介して行政機関端末61に送信する。本実施形態のステップS16は、本発明の「送信ステップ」の一例である。このとき、予測管理装置21の送信処理部252は、W/C比に応じて感染症の感染者数の増減傾向を区分し、区分された増減傾向に関する情報を行政機関端末61に送信する。
【0078】
例えば、予測管理装置21の送信処理部252は、W/C比に応じて感染症の感染者数の増減傾向を3つに区分し、W/C比が相対的に高い場合に赤色を増減傾向に付した情報を行政機関端末61に送信し、W/C比が相対的に中程度の場合に黄色を増減傾向に付した情報を行政機関端末61に送信し、W/C比が相対的に低い場合に青色を増減傾向に付した情報を行政機関端末61に送信する。但し、予測管理装置21の送信処理部252が感染症の感染者数の増減傾向を区分する数は、3つに限定されず、2つでもよく、4つ以上でもよい。また、予測管理装置21の送信処理部252が感染症の感染者数の増減傾向を区分する形態は、色だけに限定されず、図形および模様などによる区分形態であってもよい。
【0079】
続いて、ステップS17において、行政機関端末61の通知処理部653は、通信部24およびネットワーク9を介して予測管理装置21から受信した感染症の感染者数の増減傾向に関する情報に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に通信部24およびネットワーク9を介して感染者数の増減傾向を通知する。
【0080】
あるいは、
図11に表したステップS27のように、予測管理装置21の通知処理部253が、予測管理装置21の予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報、すなわち記憶装置23に格納された増減傾向データ232に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に通信部24およびネットワーク9を介して感染者数の増減傾向を通知してもよい。なお、
図11に表したステップS12~ステップS26は、
図10に関して前述したステップS11~ステップS16と同様である。
【0081】
続いて、ステップS18において、利用者端末8の制御部85は、感染症の感染者数の増減傾向に関する通知を表示部86に表示させる処理を実行する。
図11に表したステップS28は、
図10に関して前述したステップS18と同様である。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係る予測管理システムおよび予測管理プログラムによれば、予測管理装置21は、下水サンプルの採取日におけるウイルスデータを、通信部24およびネットワーク9を介して検査会社端末51の記憶装置53から取得する。また、予測管理装置21は、下水サンプルの採取日以前の所定期間における陽性者数に関する陽性者数データ632を、通信部24およびネットワーク9を介して行政機関6の記憶装置63から取得する。そして、予測管理装置21の予測部251は、検査会社端末51の記憶装置53から取得したウイルスデータと、行政機関6の記憶装置63から取得した陽性者数データ632と、に基づいてウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)を算出し、算出した比に基づいて、下水のサンプルを採取した日以後における感染者数の増減傾向を予測する。また、予測管理装置21の送信処理部252は、予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報、すなわち記憶装置23に格納された増減傾向データ232を、通信部24およびネットワーク9を介して行政機関端末61に送信する。これにより、本実施形態に係る予測管理システムおよび予測管理プログラムは、感染症の感染者数の増減傾向をより確実に予測できる。
【0083】
また、行政機関端末61の通知処理部653は、通信部24およびネットワーク9を介して予測管理装置21から受信した感染症の感染者数の増減傾向に関する情報に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に通信部24およびネットワーク9を介して感染者数の増減傾向を通知する。あるいは、予測管理装置21の通知処理部253が、予測管理装置21の予測部251により予測された感染症の感染者数の増減傾向に関する情報、すなわち記憶装置23に格納された増減傾向データ232に基づいて、下水サンプルの採取場所の近隣の住民の利用者端末8に通信部24およびネットワーク9を介して感染者数の増減傾向を通知する。これにより、下水サンプルの採取場所の近隣の住民は、利用者端末8に通知された内容を確認することにより、下水サンプルの採取場所の近隣における感染症の感染者数の増減傾向を把握することができる。
【0084】
さらに、感染症の感染者数の増減傾向が区分されて利用者端末8の表示部86に表示される場合には、下水サンプルの採取場所の近隣の住民は、下水サンプルの採取場所の近隣における感染症の感染者数の増減傾向をより容易に把握することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0086】
2:管理会社、 3:採取業者、 4:下水処理場、 5:検査会社、 6:行政機関、 7:医療機関、 8:利用者端末、 9:ネットワーク、 21:予測管理装置、 22:コンピュータ、 23:記憶装置、 24:通信部、 25:制御部、 51:検査会社端末、 52:コンピュータ、 53:記憶装置、 54:通信部、 55:制御部、 56:表示部、 61:行政機関端末、 62:コンピュータ、 63:記憶装置、 64:通信部、 65:制御部、 66:表示部、 71:医療機関端末、 72:コンピュータ、 73:記憶装置、 74:通信部、 75:制御部、 76:表示部、 82:コンピュータ、 83:記憶装置、 84:通信部、 85:制御部、 86:表示部、 231:プログラム、 232:増減傾向データ、 251:予測部、 252:送信処理部、 253:通知処理部、 531:プログラム、 532:病原体データ、 631:プログラム、 632:陽性者数データ、 653:通知処理部、 731:プログラム、 732:陽性者数データ、 753:通知処理部