(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025044538
(43)【公開日】2025-04-02
(54)【発明の名称】熱硬化性接着剤組成物、積層フィルム、並びに接続体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20250326BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20250326BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250326BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20250326BHJP
C09J 121/00 20060101ALI20250326BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250326BHJP
C09J 161/06 20060101ALI20250326BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
C09J163/00
H01L21/52 E
H01L21/52 D
H05K1/03 610H
H05K1/03 610R
H05K1/03 670
H05K1/03 650
C09J7/35
C09J121/00
C09J11/06
C09J161/06
C09J11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152161
(22)【出願日】2023-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】早坂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小菅 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】夏川 昌典
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F047
【Fターム(参考)】
4J004AA12
4J004AA13
4J004AA18
4J004AB01
4J004AB05
4J004BA02
4J004BA03
4J004CA06
4J004CB03
4J004DB03
4J004FA05
4J040DF022
4J040EB032
4J040EC061
4J040EC071
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4J040KA16
4J040KA17
4J040KA42
4J040LA01
4J040LA02
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4J040MA04
4J040NA19
4J040NA20
5F047AA17
5F047BA34
5F047BA54
5F047BB05
(57)【要約】
【課題】低温条件で硬化反応が充分に進行し、さらにはずり粘度の経時的上昇を充分に抑制することが可能な熱硬化性接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】熱硬化性接着剤組成物が開示される。当該熱硬化性接着剤組成物は、エポキシ樹脂と、エラストマーと、硬化促進剤とを含有する。硬化促進剤は、加熱によって複素環式アミン化合物を発生させる化合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、エラストマーと、硬化促進剤とを含有し、
前記硬化促進剤が、加熱によって複素環式アミン化合物を発生させる化合物である、
熱硬化性接着剤組成物。
【請求項2】
前記複素環式アミン化合物が芳香族複素環式アミン化合物である、
請求項1に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項3】
前記複素環式アミン化合物がピラゾール環を有する化合物又はイミダゾール環を有する化合物である、
請求項1に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項4】
前記硬化促進剤が、加熱によって保護基が脱保護し、複素環式アミン化合物を発生させる化合物である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項5】
前記保護基が置換アミド基である、
請求項4に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項6】
95℃で3時間にわたって加熱された後の反応率が50%以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項7】
エポキシ樹脂硬化剤をさらに含有し、
前記エポキシ樹脂硬化剤がフェノール樹脂である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項8】
無機フィラーをさらに含有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項9】
95℃におけるずり粘度が100~12000Pa・sである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物。
【請求項10】
基材フィルムと、
前記基材フィルムの表面上に設けられた接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層が請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物によって構成されている、
積層フィルム。
【請求項11】
(A)第一の回路部材と、第二の回路部材と、前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された接着剤層とを備える積層体を準備する工程と、
(B)前記積層体を90~110℃で30~240分にわたって加熱する工程と、
(C)前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とをワイヤボンディングする工程と、
をこの順序で備え、
前記接着剤層が請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物によって構成されている、
接続体の製造方法。
【請求項12】
前記第一の回路部材がプリント回路基板及び半導体チップからなる群から選ばれる1種であり、前記第二の回路部材がフレキシブルプリント回路基板である、
請求項11に記載の接続体の製造方法。
【請求項13】
第一の回路部材と、
第二の回路部材と、
前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層が請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性接着剤組成物の硬化物によって構成されている、
接続体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性接着剤組成物、積層フィルム、並びに接続体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置は以下の工程を経て製造される。まず、ダイシング用粘着シートに半導体ウエハを貼り付けた状態でダイシング工程を実施することによって、半導体ウエハを半導体チップに個片化する。その後、ピックアップ工程、ダイボンディング工程、ワイヤボンディング工程、モールディング工程等が実施される。特許文献1は、ダイシング工程において半導体ウエハを固定する機能と、ダイボンディング工程において半導体チップを基板と接着させる機能とを併せ持つ粘接着シート(ダイボンドダイシングシート)を開示している。特許文献2は、ダイシング工程ではダイシングテープとして作用し、半導体素子と支持部材との接合工程では接続信頼性に優れ、ワイヤボンディングの熱履歴後の充分な流動性を保持する粘接着シートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-288170号公報
【特許文献2】特開2009-209345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、スマートフォンに代表される小型デバイス向け半導体モジュールの進化に伴い、半導体モジュールの製造プロセスも従来のものから著しく変化している。例えば、ダイシング工程及びダイボンディング工程を実施しないプロセスの実用化が進められている。これに伴い、半導体モジュールの製造プロセスで使用される熱硬化性接着剤組成物も従来と異なる性能が求められている。かかる状況に加え、本発明者らは、半導体モジュールに耐熱性が比較的低い材料が使用されることを想定し、100℃以下の低温条件で硬化反応が充分に進行する熱硬化性接着剤組成物の開発を進めた。従来の熱硬化性接着剤組成物であって低温硬化性に優れる組成物をベースにして改良を進めたところ、低温硬化性についての開発目標を達成できたものの、ずり粘度が経時的に上昇し易い傾向があることが見出された。ずり粘度が経時的に上昇すると、調製した後の使用可能な期間が2週間程度に制限されてしまうことから、熱硬化性接着剤組成物の使用可能期間の長期化が求められている。
【0005】
本開示は、低温条件で硬化反応が充分に進行し、さらにはずり粘度の経時的上昇を充分に抑制することが可能な熱硬化性接着剤組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、上記課題を解決すべく、熱硬化性接着剤組成物についての検討を行ったところ、熱硬化性接着剤組成物に所定の硬化促進剤を適用することによって、ずり粘度の経時的上昇を抑制することが可能であることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
本開示は、[1]~[9]に記載の熱硬化性接着剤組成物、[10]に記載の積層フィルム、[11]、[12]に記載の接続体の製造方法、及び[13]に記載の接続体を提供する。
[1]エポキシ樹脂と、エラストマーと、硬化促進剤とを含有し、前記硬化促進剤が、加熱によって複素環式アミン化合物を発生させる化合物である、熱硬化性接着剤組成物。
[2]前記複素環式アミン化合物が芳香族複素環式アミン化合物である、[1]に記載の熱硬化性接着剤組成物。
[3]前記複素環式アミン化合物がピラゾール環を有する化合物又はイミダゾール環を有する化合物である、[1]に記載の熱硬化性接着剤組成物。
[4]前記硬化促進剤が、加熱によって保護基が脱保護し、複素環式アミン化合物を発生させる化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物。
[5]前記保護基が置換アミド基である、[4]に記載の熱硬化性接着剤組成物。
[6]95℃で3時間にわたって加熱された後の反応率が50%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物。
[7]エポキシ樹脂硬化剤をさらに含有し、前記エポキシ樹脂硬化剤がフェノール樹脂である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物。
[8]無機フィラーをさらに含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物。
[9]95℃におけるずり粘度が100~12000Pa・sである、[1]~[8]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物。
[10]基材フィルムと、前記基材フィルムの表面上に設けられた接着剤層とを備え、前記接着剤層が[1]~[9]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物によって構成されている、積層フィルム。
[11](A)第一の回路部材と、第二の回路部材と、前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された接着剤層とを備える積層体を準備する工程と、(B)前記積層体を90~110℃で30~240分にわたって加熱する工程と、(C)前記第一の回路部材と前記第二の回路部材とをワイヤボンディングする工程とをこの順序で備え、前記接着剤層が[1]~[9]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物によって構成されている、接続体の製造方法。
[12]前記第一の回路部材がプリント回路基板及び半導体チップからなる群から選ばれる1種であり、前記第二の回路部材がフレキシブルプリント回路基板である、[11]に記載の接続体の製造方法。
[13]第一の回路部材と、第二の回路部材と、前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された接着剤層とを備え、前記接着剤層が[1]~[9]のいずれかに記載の熱硬化性接着剤組成物の硬化物によって構成されている、接続体。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、低温条件で硬化反応が充分に進行し、さらにはずり粘度の経時的上昇を充分に抑制することが可能な熱硬化性接着剤組成物が提供される。また、本開示によれば、このような熱硬化性接着剤組成物で構成された接着剤層を備える接着フィルムが提供される。また、本開示によれば、このような熱硬化性接着剤組成物を用いた接続体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示に係る積層フィルムの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、半導体モジュールの製造過程の状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、半導体モジュールの製造過程の状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本開示に係る打抜き加工品の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、基材フィルムから接着剤片及びこれを覆うカバーフィルムがピックアップされる様子を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、半導体モジュールの製造過程の状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。各図における構成要素の大きさは概念的なものであり、構成要素間の大きさの相対的な関係は各図に示されたものに限定されない。
【0011】
本開示における数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0012】
本明細書において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、及び、それに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」等の他の類似の表現においても同様である。また、「(ポリ)」とは「ポリ」の接頭語がある場合とない場合の双方を意味する。
【0014】
「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。また、以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
[積層フィルム]
図1は本実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。この図に示す積層フィルム10は、基材フィルム1と、接着剤層3と、カバーフィルム5とをこの順序で備える。積層フィルム10は、例えば、幅が300~500mmであり、全長が10~400mであり、例えば、ロール状に巻き取られて作製される。以下、積層フィルム10の構成について説明する。
【0016】
<基材フィルム>
基材フィルム1は、接着剤層3の製造プロセス及び半導体モジュールの製造プロセスにおいて加わる張力に充分に耐え得るものであれば、特に制限はない。基材フィルム1は、その上に配置される接着剤層3の視認性の観点から、透明であることが好ましい。基材フィルム1としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリビニルアセテートフィルム、ポリ-4-メチルペンテン-1、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等の単独共重合体又は共重合体あるいはこれらの混合物等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。基材フィルム1は単層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0017】
基材フィルム1の厚さは、作業性が損なわれない範囲で適宜選択すればよく、例えば、10~200μmであり、20~100μm又は25~80μmであってもよい。これらの厚さの範囲は、実用的に問題なく、経済的にも有効な範囲である。
【0018】
基材フィルム1に対する接着剤層3の密着力を高めるために、基材フィルム1の表面に、コロナ処理、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的表面処理を施してもよい。基材フィルム1として、フッ素樹脂からなる表面エネルギーの低いフィルムを用いることもできる。このようなフィルムとしては、例えば、東洋紡フィルムソリューション株式会社製のA-63(離型処理剤:変性シリコーン系)、東洋紡フィルムソリューション株式会社製のA-31(離型処理剤:Pt系シリコーン系)等が挙げられる。
【0019】
基材フィルム1に対する接着剤層3の密着力が過度に高くなることを防止するために、基材フィルム1の表面に、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の離型剤から構成される離型層を形成してもよい。
【0020】
基材フィルム1と接着剤層3との間の密着力は、例えば、0.5N/m以上である。この密着力が0.5N/m以上であることで、積層フィルム10を製造する過程において基材フィルム1から接着剤層3が不用意に剥離することを防止し易い。なお、基材フィルム1対する接着剤層3との密着力は、90°ピール強度を意味し、具体的には、基材フィルム1上に接着剤層3とが形成された幅20mmの試料を準備し、この接着剤層を90°の角度でかつ剥離速度50mm/分で基材フィルムから剥離したときに測定されるピール強度を意味する。
【0021】
<接着剤層>
接着剤層3は、回路部材同士の接着に用いられるものであり、例えば、プリント回路基板とFPC基板(フレキシブルプリント回路基板)の先端部との接着、あるいは、半導体チップとFPC基板の先端部との接着に好適に用いられるものである。
図2に示すモジュール50A(接続体)は、半導体チップCと、プリント回路基板12(第一の回路部材)と、接着剤片3cと、FPC基板15(第二の回路部材)とを含む。接着剤片3cがプリント回路基板12とFPC基板15の先端部15aを接着している。接着剤片3cは接着剤片3p(
図4参照)の硬化物によって構成されている。接着剤片3pは
図1に示す接着剤層3を型抜きによって所定の形状に加工したものである。なお、接着剤層16は、プリント回路基板12と半導体チップCを接着している。接着剤層16は、接着剤片3cと同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
【0022】
図3に示すモジュール50Bは、
図2に示すモジュール50Aに対してワイヤボンディングを実施して得られるものである。ワイヤW1が半導体チップCとプリント回路基板12とを電気的に接続し、ワイヤW2がプリント回路基板12とFPC基板15とを電気的に接続している。半導体チップCは、例えば、センサーチップである。プリント回路基板12は半導体チップCからの信号を処理するためのものである。プリント回路基板12からの信号がFPC基板15の先端部15aに伝達される。
【0023】
接着剤片3p(接着剤層)は、熱硬化性接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」という場合がある。)で構成されている。接着剤組成物は、エポキシ樹脂と、エラストマーと、硬化促進剤とを含有する。硬化促進剤は、加熱によって複素環式アミン化合物を発生させる化合物であり、例えば、加熱によって保護基が脱保護し、複素環式アミン化合物を発生させる化合物であってよい。
【0024】
接着剤組成物の95℃におけるずり粘度(溶融粘度)は、100~12000Pa・sであり、200Pa・s以上、300Pa・s以上、400Pa・s以上、又は500Pa・s以上であってもよく、10000Pa・s以下、8000Pa・s以下、6000Pa・s以下、又は4000Pa・s以下であってもよい。95℃におけるずり粘度が上記範囲であることで、FPC基板15の先端部15aが凹凸を有していても、先端部15aと接着対象の部材(プリント回路基板12)との間に隙間なく接着剤組成物を配置することができる傾向がある。
【0025】
接着剤組成物の95℃におけるずり粘度は、例えば、以下の手順で測定することができる。まず、厚さ25μmの接着剤組成物からなるフィルム状接着剤を複数作製する。次いで、フィルム状接着剤を複数積層することによって厚さを約300μmとし、この積層体をφ9mmのパンチで打ち抜いて測定用試料を作製する。動的粘弾性装置に、直径8mmの円形アルミプレート治具を設置し、ここに測定用試料をセットする。続いて、35℃で5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で100℃まで昇温させながら測定し、95℃における粘度を求めることにより、95℃におけるずり粘度を測定することができる。なお、測定において、周波数は1Hzで一定とし、初期荷重は300gに保持し、軸力は100gに保持する。
【0026】
95℃におけるずり粘度を所定の範囲に調整するためには、例えば、以下の手法が考えられる。
・手法1:接着剤組成物に含有される無機フィラーの量を比較的少なくする。
・手法2:接着剤組成物に含有されるエラストマー(例えば、アクリルゴム)の量を比較的少なくする。
・手法3:接着剤組成物に含有される無機フィラーの平均粒径を比較的大きくする。
【0027】
接着剤組成物は、例えば、以下の条件1を満たしていてもよい。
・条件1
95℃で3時間にわたって加熱された後において、95℃における貯蔵弾性率が3MPa以上であること。
【0028】
条件1を満たす接着剤組成物は低温硬化性に優れるということができる。これにより、モジュール50Bを構成する部材として、耐熱性が比較的耐熱性が低いものを採用できるという利点がある。条件1を満たす接着剤組成物を得るには、例えば、エポキシ樹脂として、エポキシ樹脂とともに、エポキシ樹脂硬化剤としてフェノール樹脂を使用することが考えられる。フェノール樹脂が低温硬化性の向上に寄与する理由は、エポキシ樹脂同士の反応性よりも、フェノール樹脂とエポキシ樹脂の反応性の方が高く、フェノール樹脂を使用することで反応が進行し易くなるためである。
【0029】
条件1を満たす接着剤組成物を使用することで、ワイヤボンディング工程における接着剤片3cの揺れを低減することができ、ワイヤボンディングの実施が容易となる。条件1に係る貯蔵弾性率は、上記のとおり、3MPa以上であってよく、5MPa以上又は7MPa以上あってもよい。条件1に係る貯蔵弾性率は、例えば、50MPa以下であってよい。条件1に係る貯蔵弾性率が高いほど、ワイヤボンディングの実施が容易となる傾向がある。
【0030】
接着剤組成物は、例えば、以下の条件2を満たしていてもよい。
・条件2
95℃で3時間にわたって加熱された後において、35℃における貯蔵弾性率が700MPa以下であること。
【0031】
条件2を満たす接着剤組成物を使用することで、接着剤片3cの内部応力が緩和され易く、モジュール50Bの反りを抑制することができる。条件2に係る貯蔵弾性率は、上記のとおり、700MPa以下であってよく、650MPa以下、600MP以下、又は550MP以下であってもよい。条件2に係る貯蔵弾性率は、例えば、50MPa以上、100MPa以上、又は150MPa以上であってよい。
【0032】
条件2を満たす接着剤組成物を得るには、例えば、以下の手法が考えられる。
・手法1:接着剤組成物に含有されるエラストマー(例えば、アクリルゴム)の量を比較的多くする。
・手法2:ガラス転移温度(Tg)が比較的低いエラストマーを使用する。
・手法3:柔軟骨格を有するエポキシ樹脂を使用する。
【0033】
本発明者らの検討によると、手法1、2が手法3よりも効果的である。手法1に関し、当該接着剤組成物の全質量を基準として、エラストマーの含有量は、例えば、20~40質量%であり、22~38質量%又は25~35質量%であってもよい。手法2に関し、エラストマーのTgは、例えば、-50~20℃である。
【0034】
95℃及び35℃における貯蔵弾性率は、例えば、以下の手順で測定することができる。まず、厚さ25μmの接着剤組成物からなるフィルム状接着剤を複数作製する。次いで、フィルム状接着剤を複数積層することによって厚さを約300μmとし、これを幅4mm×33mmのサイズにし、95℃で3時間にわたって加熱することによって測定用試料を作製する。作製した測定用試料を動的粘弾性装置にチャック間距離20mmでセットし、引張荷重をかけて、周波数10Hz及び昇温速度3℃/分の条件で測定し、95℃及び35℃における貯蔵弾性率を測定する。
【0035】
接着剤組成物は、95℃で3時間の加熱処理によって硬化反応がある程度進行していることが好ましい。反応が進行している程度は、示差走査熱量測定によって定量化することができる。すなわち、昇温速度10℃/分の示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線からそれぞれ求められる発熱量C1及び発熱量C2から下記式で算出される反応率は、例えば、50%以上であり、60%以上又は70%以上であってもよい。
反応率(%)=(C1-C2)/C1×100
【0036】
発熱量C1は、当該接着剤組成物を測定対象とする発熱量(単位:J/g)である。発熱量C2は、当該接着剤組成物に対し、95℃で3時間にわたって加熱された後の樹脂組成物を測定対象とする発熱量(単位:J/g)である。なお、示差走査熱量測定の温度範囲は、例えば、30~300℃である。測定によって得られたDSC曲線から発熱量C1及び発熱量C2を求める温度範囲は50~200℃である。反応率が50%以上であることで、製造工程後の経時劣化を抑制することができ、信頼性に優れる傾向がある。
【0037】
積層フィルム10は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、接着剤層3を構成する接着剤組成物を有機溶剤等の溶媒に溶解させてワニス化した塗工液を準備する。この塗工液を基材フィルム1上に塗工した後、溶媒を除去することで接着剤層3を形成する。塗工方法としては、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。次いで、接着剤層3の表面にカバーフィルム5を常温(25℃)~60℃の条件で貼り合わせる。これにより、積層フィルム10を得ることができる。なお、幅の広い基材フィルムに接着剤層3を形成した後、これを覆うようにカバーフィルム5を貼り合わせることによって積層フィルムを作製し、これを所定の幅に切断(スリット)することによって積層フィルム10を得ることもできる。
【0038】
<打抜き加工品>
図4は積層フィルム10から製造された打抜き加工品を模式的に示す斜視図である。
図5は
図4に示すV-V線における断面図である。
図4及び
図5に示す打抜き加工品20は、幅100mm以下の帯状の基材フィルム1と、基材フィルム1上に、その長手方向(
図4に示す矢印Xの方向)に並ぶように配置されている複数の接着剤片3pと、接着剤片3pの上面3fを覆うとともに、接着剤片3pと同じ形状を有するカバーフィルム5pとを備える。
【0039】
接着剤片3pは、回路部材(半導体チップ又はプリント回路基板)とFPC基板の先端部との接着に好適に適用される。接着剤片3pの平面視における面積は、例えば、1~100mm
2であり、3~50mm
2又は5~40mm
2であってもよい。打抜き加工品20によれば、基材フィルム1上に並ぶように配置された複数の接着剤片3pを順次ピックアップし(
図6参照)、その後、各接着剤片3pを回路部材の所定の領域に配置することができ、回路部材とFPC部材との接着を効率的に実施できる。
【0040】
打抜き加工品20は、例えば、以下の工程を経て得ることができる。
(a)積層フィルム10を準備する工程。
(b)積層フィルム10における接着剤層3及びカバーフィルム5を型抜きすることによって、基材フィルム1上に基材フィルム1の長手方向に並ぶように配置された複数の接着剤片3pを得る工程。
【0041】
<熱硬化性接着剤組成物(接着剤組成物)>
接着剤層3及び接着剤片3pを構成する接着剤組成物について説明する。接着剤組成物は、上記のとおり、エポキシ樹脂と、エラストマーと、硬化促進剤とを含有する。接着剤組成物は、例えば、エポキシ樹脂硬化剤、無機フィラー等をさらに含有していてもよい。
【0042】
・エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジリエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジリエーテル化物、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等の二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂等の一般に知られているその他のエポキシ樹脂を適用してもよい。なお、特性を損なわない範囲でエポキシ樹脂以外の成分が不純物として含まれていてもよい。
【0043】
エポキシ樹脂は、例えば、25℃で固形のエポキシ樹脂(以下、「固形エポキシ樹脂」という場合がある。)を含んでいてもよい。すなわち、エポキシ樹脂は、固形エポキシ樹脂と25℃で液状のエポキシ樹脂(以下、「液状エポキシ樹脂」という場合がある。)とから構成されていてもよい。エポキシ樹脂が、固形エポキシ樹脂を含むことにより、製膜時にべたつかず、ロール等の機械への張り付きを抑制することができるとともに、積層フィルムを作製したときの作業性の低下を抑制することができる傾向がある。
【0044】
固形エポキシ樹脂の具体例としては、YDCN-700-10(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、N-500P-10(DIC株式会社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、HP-4710(DIC株式会社製、ナフタレン型エポキシ樹脂)、NC-7000L(日本化薬株式会社製、ナフタレン型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0045】
液状エポキシ樹脂の具体例としては、YDF-8170C(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、EPICLON(登録商標)シリーズ(EXA-830CRP、830、830-S、835等)(DIC株式会社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0046】
・エポキシ樹脂硬化剤
エポキシ樹脂硬化剤は、通常用いられている公知の硬化剤を使用することができる。エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、アミン、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素、フェノール樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂硬化剤は、例えば、フェノール樹脂であってよい。
【0047】
フェノール樹脂は、分子内にフェノール性水酸基を有するものであれば特に限定されない。フェノール樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化ナフタレンジオール、フェノールノボラック、フェノール等のフェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、フェニルアラルキル型フェノール樹脂などが挙げられる。
【0048】
エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤(フェノール樹脂)の合計の含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、例えば、35~70質量%であり、40~65質量%又は45~60質量%であってもよい。エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤(フェノール樹脂)の合計の含有量が上記範囲内であると、接着剤層3の熱硬化に伴う収縮を抑制できるとともに、熱硬化後の優れた密着性を達成し易い傾向がある。
【0049】
エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、例えば、10~40質量%であり、15~35質量%又は20~30質量%であってもよい。エポキシ樹脂の含有量が上記範囲内であると、充分な熱硬化性が得られ、低温でも硬化が進行する傾向がある。
【0050】
エポキシ樹脂の全量に対する固形エポキシ樹脂の含有量は、例えば、10~30質量%であり、12~28質量%又は15~25質量%であってもよい。固形エポキシ樹脂の含有量が上記範囲内であると、製膜時にべたつかず、ロール等の機械への張り付きを抑制することができるとともに、積層フィルムを作製したときの作業性の低下を抑制することができる傾向がある。
【0051】
固形エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、例えば、2~10質量%であり、3~8質量%又は4~6質量%であってもよい。固形エポキシ樹脂の含有量が上記範囲内であると、製膜時にべたつかず、ロール等の機械への張り付きを抑制することができるとともに、積層フィルムを作製したときの作業性の低下を抑制することができる傾向がある。
【0052】
・エラストマー
エラストマーとしては、熱可塑性を有する樹脂、又は、少なくとも未硬化状態において熱可塑性を有し、加熱後に架橋構造を形成する樹脂を用いることができる。エラストマーは、収縮性、耐熱性及び剥離性に優れる観点から、反応性基を有する(メタ)アクリル共重合体(以下、「反応性基含有(メタ)アクリル共重合体」という場合もある)であってよい。
【0053】
エラストマーとして、反応性基含有(メタ)アクリル共重合体を含む場合、接着剤組成物は、エポキシ樹脂を含まない態様であってよい。すなわち、接着剤組成物は、反応性基含有(メタ)アクリル共重合体と、硬化促進剤とを含む態様であってよい。
【0054】
(メタ)アクリル共重合体としては、アクリルガラス、アクリルゴム等の(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル共重合体は、アクリルゴムであってよい。アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とし、(メタ)アクリル酸エステル及びアクリロニトリルから選択されるモノマーの共重合により形成されるものであってよい。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、共重合成分としてブチルアクリレート及びアクリロニトリルを含む共重合体、共重合成分としてエチルアクリレート及びアクリロニトリルを含む共重合体が挙げられる。
【0056】
反応性基含有(メタ)アクリル共重合体は、反応性基を有する(メタ)アクリルモノマーを共重合成分として含む反応性基含有(メタ)アクリル共重合体であってよい。このような反応性基含有(メタ)アクリル共重合体は、反応性基を有する(メタ)アクリルモノマーと、上記のモノマーとが含まれる単量体混合物を共重合することにより得ることができる。
【0057】
反応性基としては、耐熱性向上の観点から、エポキシ基、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、エピスルフィド基等が挙げられる。反応性基は、架橋性の点から、エポキシ基又はカルボキシル基であってよい。
【0058】
本実施形態において、反応性基含有(メタ)アクリル共重合体は、エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーを共重合成分として含むエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体であってよい。この場合、エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。反応性基を有する(メタ)アクリルモノマーは、耐熱性の観点から、グリシジル(メタ)アクリレートであってよい。
【0059】
エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば、-50~20℃であり、-30~15℃であってもよい。エラストマーのTgが-50℃以上であると、接着剤層3が過度に軟らかくなることを抑制し易く、優れた取扱性及び接着性を達成できる。他方、エラストマーのTgが0℃以下であると、接着剤層3の柔軟性を確保し易く、優れた接着強度を達成できる。これに加え、被着体面に凹凸が存在しても、凹凸に接着剤層3が追随し易く、優れた接着性を発現できる。
【0060】
エラストマーのTgは、示差走査熱量測定(DSC)によって得られる中間点ガラス転移温度値である。エラストマーのTgは、具体的には、昇温速度10℃/分、測定温度:-80~80℃の条件で熱量変化を測定し、JIS K7121:1987に準拠した方法によって算出した中間点ガラス転移温度である。なお、エラストマーが市販品である場合、カタログ等に記載の値を採用してもよい。
【0061】
エラストマーの重量平均分子量は、10万~200万であってよい。重量平均分子量が10万以上であると、耐熱性を確保し易くなる。一方、重量平均分子量が200万以下であると、フローの低下及び貼付性の低下を抑制し易い。エラストマーの重量平均分子量は、40万~150万又は50万~120万であってもよい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0062】
エラストマーの含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、例えば、20~40質量%であり、22~38質量%又は25~35質量%であってもよい。エラストマーの含有量が上記範囲内であると、接着剤層3の熱硬化に伴う収縮を抑制できるとともに、熱硬化後の優れた密着性を達成し易い傾向がある。
【0063】
・硬化促進剤
硬化促進剤は、加熱によって複素環式アミン化合物を発生させる化合物である。硬化促進剤としては、例えば、加熱によって保護基が脱保護し、複素環式アミン化合物を発生させる化合物(以下、「第一の化合物」という場合がある。)、加熱によって複素環式アミン化合物を発生させるイオン性化合物(以下、「第二の化合物」という場合がある。)等が挙げられる。第一の化合物は、複素環式アミン化合物の複素環に含まれるアミノ基が保護基によって保護されている化合物ということができる。これらの中でも、硬化促進剤は、第一の化合物であってよい。
【0064】
硬化促進剤として第一の化合物又は第二の化合物を含有する接着剤組成物は、加熱によって硬化促進作用を有する複素環式アミン化合物が発生して、熱硬化性が発現する。そのため、接着剤組成物を調製した後、すぐに使用されず、一定期間保管されたとしても、エポキシ樹脂の硬化反応が進行することを充分に抑制される。すなわち、接着剤組成物のずり粘度の経時的上昇が充分に抑制され、接着剤組成物を調製した後に比較的長期(例えば、2週間超)にわたって、接着剤組成物の使用可能な状態を維持することが可能となり、充分に長いワークライフを実現することが可能となる。これに加え、接着剤組成物は100℃以下の低温条件での熱硬化処理を実現するのにも有用である。すなわち、低温硬化性に優れる熱硬化性樹脂は、硬化促進剤と混合された状態で保管されると硬化反応が進行し易い傾向がある。しかし、上記の硬化促進剤は、使用時の加熱により脱保護されることで機能を発現するものであるため、保管時においてはエポキシ樹脂の硬化反応が抑制される。このような接着剤組成物によれば、長いワークライフと低温硬化性との両方を充分に高いレベルで両立することが可能である。
【0065】
加熱によって複素環式アミン化合物を発生させる化合物から発生する複素環式アミン化合物としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、オキサジン環、キヌクリジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、オキサゾール環、チアゾール環等を有する化合物が挙げられる。これらの環において、環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子の一部は置換基で置換されていてもよい。置換基は、有機化学の分野で一般的に使用される基である。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホン酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、置換アミノ基等が挙げられる。これらの中でも、複素環式アミン化合物は、例えば、芳香族複素環式アミン化合物であってよく、例えば、ピラゾール環を有する化合物又はイミダゾール環を有する化合物であってもよい。
【0066】
第一の化合物における保護基は、複素環式アミン化合物の複素環に含まれるアミノ基を保護する保護基である。保護基は、有機化学の分野でアミノ基の保護基として一般的に使用される基を用いることができる。保護基としては、例えば、トシル基、メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、アリル基、トリイソプロピルシリル基、ベンジル基、メトキシカルボニル基、p-メトキシベンジル基、p-メトキシフェニル基等が挙げられる。
【0067】
第一の化合物における保護基は、一実施形態において、置換アミド基であってよい。置換アミド基は、例えば、-C(O)N(R1)(R2)で表される基(R1は、水素原子、又は、炭素原子に直接結合する水素原子の一部が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10アルキル基を示し、R2は、炭素原子に直接結合する水素原子の一部が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~10アルキル基を示す。)であってよい。
【0068】
炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0069】
第一の化合物の具体例としては、例えば、カレンズMOI-BP(商品名、株式会社レゾナック製、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、「カレンズ」は登録商標)、カレンズAOI-BP(商品名、株式会社レゾナック製、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルアクリレート)等が挙げられる。
【0070】
第二の化合物としては、例えば、ピラゾニウム塩化合物、イミダゾリウム塩化合物等が挙げられる。第二の化合物の具体例としては、EMZ-K(商品名、北興産業株式会社製、2-エチル-4-メチルイミダゾリウム テトラフェニルボレート、「EMZ-K」は登録商標)等が挙げられる。
【0071】
硬化促進剤の含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、例えば、0.1~20質量%であり、1~18質量%、又は3~15質量%であってもよい。硬化促進剤の含有量が上記範囲内であると、本開示の効果が充分に発現し易い傾向がある。
【0072】
・無機フィラー
無機フィラーは、所望する機能に応じて選択することができる。無機フィラーとしては、銀粉、金粉、銅粉等の金属(導電性)フィラー;シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化鉄、セラミック等の非金属(絶縁性)フィラーなどが挙げられる。無機フィラーは、例えば、シリカフィラーであってよい。
【0073】
無機フィラーの表面は有機基を有していてもよい。無機フィラーの表面が有機基によって修飾されていることにより、接着剤層3を形成するためのワニスを調製するときの有機溶剤への分散性を向上させることができる。これに加え、接着剤層3の熱硬化に伴う収縮を抑制できるとともに、接着剤層3の高い弾性率及び優れた剥離性を両立し易い傾向がある。表面に有機基を有する無機フィラーは、例えば、下記式(B-1)で表されるシランカップリング剤と無機フィラーとを混合し、30℃以上の温度で撹拌することにより得ることができる。無機フィラーの表面が有機基によって修飾されていることは、紫外・可視分光測定、赤外吸収分光測定、X線光電子分光測定等で確認することが可能である。
【0074】
【0075】
式(B-1)中、Xは、フェニル基、グリシドキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、及びメタクリロキシ基からなる群より選択される有機基を示し、sは0又は1~10の整数を示し、R11、R12、及びR13は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を示す。
【0076】
炭素数1~10のアルキル基は、上記の置換アミド基で例示した炭素数1~10のアルキル基と同様であってよい。
【0077】
炭素数1~10のアルキル基は、入手容易性の観点から、メチル基、エチル基、及びペンチル基からなる群より選択される基であってよい。Xは、耐熱性の観点から、アミノ基、グリシドキシ基、メルカプト基、及びイソシアネート基からなる群より選択される基であってよく、グリシドキシ基又はメルカプト基であってよい。
【0078】
sは、高熱時のフィルム流動性を抑制し、耐熱性を向上させる観点から、0~5の整数であってよく、0~4の整数であってもよい。
【0079】
無機フィラーの含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、1~25質量%である。無機フィラーの含有量が、接着剤組成物の全量を基準として、25質量%以下であると、樹脂部材等との接着強度が充分となる傾向がある。無機フィラーの含有量が、接着剤組成物の全量を基準として、1質量%以上であると、接着剤組成物の接着強度が高くなり過ぎて、作業性が低下することを抑制することができる傾向がある。無機フィラーの含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は7質量%以上であってもよく、20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下であってもよい。
【0080】
接着剤組成物は、その他の成分をさらに含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、シランカップリング剤等のカップリング剤;カーボン、ゴム系フィラー、シリコーン系微粒子、ポリアミド微粒子、ポリイミド微粒子等の有機フィラーなどが挙げられる。その他の含有量は、接着剤組成物の全量を基準として、0~30質量%であってよい。
【0081】
・有機溶剤
接着剤組成物は、必要に応じて、有機溶剤を用いて希釈してもよく、接着剤ワニスとして用いてもよい。有機溶剤は特に限定されないが、製膜時の揮発性等を沸点から考慮して決めることができる。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等の比較的低沸点の溶剤;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキサノン等の比較的高沸点の溶剤などが挙げられる。比較的低沸点の溶剤は、製膜時にフィルムの硬化が進み難いという利点がある。比較的高沸点の溶剤は、製膜性を向上させるという利点がある。
【0082】
接着剤層3の厚さは、作業性を損なわない範囲で適宜選択すればよく、例えば、1~200μmであり、5~150μm又は10~150μmであってもよい。接着剤層3の厚さが1μm以上であることで充分な接着性を確保し易く、他方、200μm以下であることで接着剤層3を構成する接着剤組成物が基材フィルム1又はカバーフィルム5からはみ出ることを抑制し易い傾向がある。
【0083】
<カバーフィルム>
カバーフィルム5は接着剤層3から容易に剥離し得るものであれば、特に制限はない。カバーフィルム5としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリビニルアセテートフィルム、ポリ-4-メチルペンテン-1、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等の単独共重合体又は共重合体あるいはこれらの混合物等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。カバーフィルム5は単層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0084】
カバーフィルム5が多層構造である場合には、粘着フィルムであってもよく、具体的にはダイシング用粘着フィルム(マクセル株式会社製)であってもよい。粘着フィルムは、粘着層と、基材層とを有していてもよい。この場合、粘着層が接着剤層3と接するように構成されていてもよい。粘着層は、光硬化型の粘着層又は非光硬化型の粘着層を用いることができ、基材層は上記のプラスチックフィルム等を用いることができる。
【0085】
接着剤層3とカバーフィルム5との間の密着力は、例えば、70N/m以下であり、50N/m以下又は20N/m以下であってもよい。特に、接着剤層3が接着剤組成物からなる場合、75℃で1秒の熱処理後において、接着剤層3に対するカバーフィルム5の密着力が上記範囲であることが好ましい。この密着力が70N/m以下であることで、カバーフィルム5で覆われた状態の接着剤層3を75℃で0.5秒の条件で被着体(例えば、基板)に仮圧着させた後、半硬化した接着剤層3からカバーフィルム5を粘着テープ等で容易に剥離することができる。なお、接着剤層3に対するカバーフィルム5の密着力は、90°ピール強度を意味し、具体的には、接着剤層3と同じ組成からなる幅20mmの接着剤層上に同じ幅のカバーフィルムが配置された試料を準備し、このカバーフィルムを90°の角度でかつ剥離速度50mm/分で接着剤層から剥離したときに測定されるピール強度を意味する。密着力は、カバーフィルム5が光硬化型の粘着層を有する粘着フィルムの場合、光照射後の値であってもよい。
【0086】
カバーフィルム5の厚さは、作業性を損なわない範囲で適宜選択すればよく、例えば、10~200μmであり、10~180μm又は15~140μmであってもよい。これらの厚さの範囲は、実用的に問題なく、経済的にも有効な範囲である。
【0087】
[接続体(半導体モジュール)の製造方法]
打抜き加工品20を使用し、
図3に示すモジュール50B(接続体)を作製する方法について説明する。
図6は基材フィルム1から接着剤片3p及びこれを覆うカバーフィルム5pがピックアップされる様子を模式的に示す断面図である。打抜き加工品20に一定の張力を付与した状態で、打抜き加工品20の基材フィルム1側の面をくさび状部材60に当接させながら、打抜き加工品20を
図6に示す矢印の方向に移動させる。これにより、
図6に示すように、接着剤片3p及びカバーフィルム5pの前方が基材フィルム1から浮いた状態となる。この状態のときに、例えば、吸引力を有するピックアップ装置65で接着剤片3p及びカバーフィルム5pをピックアップする。
【0088】
次いで、カバーフィルム5pで覆われた状態の接着剤片3pをプリント回路基板12の表面12aに配置する(
図7参照)。その後、プリント回路基板12に対する接着剤片3pの仮圧着を行う。仮圧着は、例えば、温度60~85℃及び押圧力0.1~2MPaの条件で0.1~10秒にわたって行うことができる。仮圧着によって、接着剤片3pが半硬化することで表面12aに対する接着力が向上する。その後、粘着テープ等を使用してカバーフィルム5pを接着剤片3pから剥離する。これにより、接着剤片3pの表面F1が露出した状態となる。
【0089】
プリント回路基板12に対するFPC基板15の先端部15aの接着は、接着剤片3pに対して先端部15aを圧着するステップと、その後、接着剤片3pを加熱により硬化させるステップとを含む。すなわち、まず、接着剤片3pの上面3fにFPC基板15の先端部15aを配置した後、接着剤片3pに対して先端部15aを圧着する。これにより、プリント回路基板12と、FPC基板15と、接着剤片3pとを含む積層体が得られる((A)工程)。圧着は、例えば、温度60~85℃、押圧力0.1~3MPaの条件で0.1~10秒にわたって行うことができる。
【0090】
次に、接着剤片3pの硬化処理を実施する。硬化処理は、例えば、温度90~110℃で30~240分にわたって行うことができる。これにより、接着剤片3pが、接着剤組成物の硬化物で構成される接着剤片3cとなり、
図2に示すモジュール50Aが得られる((B)工程)。なお、モジュール50Aを構成する部材の耐熱性の観点から、上記条件1、2における加熱条件が95℃で3時間と設定されている。モジュール50Aが加熱される温度を比較的低くすることで、材料の選択肢が広がるという利点がある。
【0091】
モジュール50Aに対してワイヤボンディングを実施する((C)工程)。これにより、
図3に示すモジュール50Bが得られる。その後、モジュール50BのワイヤW1、W2を樹脂材料で保護する加工、接着剤片3cの硬化反応が進行する加熱処理などを経て半導体モジュールが完成する。この接着剤片を使用して接続体を製造する場合、(A)工程、(B)工程、及び(C)工程を順次実施することができる。
【0092】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、型抜きによって接着剤組成物からなる接着剤片3pを予め準備する場合を例示したが、接着剤組成物を含む塗液を準備し、これをプリント回路基板12の表面上に塗工することにより、接着剤層を形成してもよい。
【実施例0093】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
(実施例1~3)
[積層フィルムの作製]
<材料の準備>
実施例の接着剤ワニスを調製するため、以下の材料を準備した。
(1)エポキシ樹脂
・EXA-830CRP(商品名、DIC株式会社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:160g/eq、25℃で液状)
・N-500P-10(商品名、DIC株式会社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂エポキシ当量:204g/eq、25℃で固形)
(2)エポキシ樹脂硬化剤
・MEH-7800-4S(商品名、明和化学株式会社製、キシリレン型フェノール樹脂、水酸基当量:170g/eq)
(3)エラストマー
・HTR-860P-3CSP(商品名、ナガセケムテックス株式会社製、アクリル樹脂、重量平均分子量:80万、Tg:12℃)
(4)硬化促進剤
・カレンズMOI-BP(商品名、株式会社レゾナック製、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、「カレンズ」は登録商標)
(5)無機フィラー
・SC-2050-HLG(商品名、株式会社アドマテックス製、表面処理フィラー)
(6)溶剤
・シクロヘキサノン
【0095】
表1に示す材料と溶剤とを混合するとともに真空脱気することによって接着剤ワニスを得た。この接着剤ワニスを、基材フィルムとしての厚さ38μmの表面離型処理PETフィルム上に塗工した。乾燥工程を経て、上記PETフィルムの一方の面に、厚さ25μmのフィルム状接着剤(接着剤層)を形成し、フィルム状接着剤の表面に、カバーフィルムとしてのダイシング用粘着フィルム(マクセル株式会社製)を貼り付けることによって、基材フィルムと、接着剤層と、カバーフィルムとを備える、実施例1~3の積層フィルムを得た。積層フィルムは複数準備した。
【0096】
[積層フィルムの評価]
<反応率の測定>
フィルム状接着剤の反応率を次の方法で測定した。すなわち、アルミパン(株式会社エポリードサービス製)にフィルム状接着剤を10mg秤量し、アルミ蓋を被せ、クリンパを用いて評価サンプルをサンプルパン内に密閉した。示差走査熱量計(Thermo plus DSC8235E、株式会社リガク製)を使用し、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、測定温度範囲30~300℃でDSCを測定した。発熱量の解析手段としては、部分面積の解析方法を用いた。DSC曲線の50~200℃の温度範囲で解析指示することにより、解析温度範囲のベースライン指定、及び、ピーク面積の積分を行うことで総発熱量(単位:J/g)を算出した。これを初期の発熱量C1とした。
【0097】
次に、フィルム状接着剤(初期サンプル)を95℃に設定したオーブンに入れ、3時間加熱処理した。加熱処理後のサンプルを用い、上記のとおり、加熱処理前と同じ手順で50~200℃の発熱量(単位:J/g)を算出し、これを加熱処理後の発熱量C2とした。得られた2つの発熱量C1及び発熱量C2の値を用いて反応率を下記の式で算出した。結果を表1に示す。
反応率(%)=(C1-C2)/C1×100
【0098】
<ずり粘度(溶融粘度)の測定>
フィルム状接着剤(加熱前のBステージ状態)の95℃におけるずり粘度は次の方法で測定した。すなわち、厚さ25μmのフィルム状接着剤を複数積層することによって厚さ約300μmとし、この積層体をφ9mmのパンチで打ち抜いて、試料を作製した。動的粘弾性装置ARES(TA instruments社製)に直径8mmの円形アルミプレート治具を設置し、さらにここに上記試料をセットした。その後、35℃で5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で100℃まで昇温させながら、95℃におけるずり粘度を測定した。周波数は1Hzで一定とし、初期荷重は300gに保持し、軸力は100gに保持した。結果を表1に示す。
【0099】
<貯蔵弾性率の測定>
フィルム状接着剤を95℃で3時間にわたって加熱された後、フィルム状接着剤の貯蔵弾性率を次の方法で測定した。すなわち、厚さ25μmのフィルム状接着剤を複数積層することによって厚さ約300μmとし、これを幅4mm×33mmのサイズにし、95℃3時間硬化処理することによって測定用の試料を得た。試料を動的粘弾性装置(製品名:Rheogel E-4000、株式会社ユービーエム製)にチャック間距離20mmでセットし、引張荷重をかけて、周波数10Hz、昇温速度3℃/分で測定し、95℃及び35℃における貯蔵弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
<ダイシェア強度の測定>
フィルム状接着剤の硬化後のダイシェア強度を次の方法で測定した。基材フィルム及び粘着層を有するダイシングテープ(株式会社レゾナック製、厚さ110μm)を用意し、作製したフィルム状接着剤(厚さ25μm)を貼り付けて、ダイシングテープと、ダイシングテープの粘着層上に設けられた、フィルム状接着剤からなる接着剤層とを備えるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを作製した。次いで、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの接着剤層側に、ステージ温度70℃で半導体ウエハ(厚さ400μm)をラミネートし、ダイシングサンプルを作製した。
【0101】
フルオートダイサーDFD-6361(株式会社ディスコ製)を用いて、作製したダイシングサンプルを切断した。切断には、2枚のブレードを用いるステップカット方式で行い、ダイシングブレードZH05-SD2000-N1-FF、及びZH05-SD2000-N1-EE(いずれも株式会社ディスコ製)を用いた。切断条件は、ブレード回転数4000rpm、切断速度50mm/秒、チップサイズ5mm×5mmとした。切断は、半導体ウエハが200μm程度残るように1段階目の切断を行い、次いで、ダイシングテープに20μm程度の切り込みが入るように2段階目の切断を行った。
【0102】
次に、ピックアップ用コレットを用いて、半導体ウエハから形成された半導体チップをピックアップした。ピックアップでは、中央の1本のピンを用いて突き上げた。ピックアップ条件は、突き上げ速度を20mm/sとし、突き上げ高さを450μmに設定した。このようにして、接着剤片付き半導体チップを得た。
【0103】
得られた接着剤片付き半導体チップを用いて、硬化後ダイシェア強度を測定した。半導体チップをソルダーレジスト(太陽ホールディングス株式会社、商品名:AUS-308)上に熱圧着した。圧着条件は、温度95℃、時間1秒、圧力0.6MPaとした。続いて、圧着によって得られたサンプルを乾燥機に入れ、95℃、3時間で加熱することによって硬化させた。続いて、硬化させたサンプルにおいて、万能ボンドテスター(ノードソン・アドバンス・テクノロジー株式会社製、商品名:シリーズ4000)によって半導体チップを引っ掛けながら引っ張ることによって、半導体チップとソルダーレジストとの硬化後ダイシェア強度を測定した。測定条件は6.7MPa/秒、ステージ温度を95℃とした。結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
<ずり粘度の経時変化の評価>
実施例1のフィルム状接着剤について、95℃におけるずり粘度を一週間経過する毎に測定した。すなわち、フィルム接着剤から切り出された所定のサイズを有する8枚の試験片を準備した。それらを70℃のホットプレート上でゴムロールを用いて積層して、厚さ300μmの積層体を用意した。この積層体をφ9mmのパンチで打ち抜いて、試料を作製した。試料を、回転式粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名:ARES-RDA)の測定治具に装着した。この時点で試料にかかる荷重が10~15gとなるように測定治具のギャップを調節した。続いて試料の粘弾性を以下の条件で測定した。測定は、2週間経過するまでとし、測定を実施するまで室温(25℃)にて放置した。結果を表2に示す。
測定条件:
ディスクプレート:アルミ製、円形(8mmφ)
測定周波数:1Hz
昇温速度:5℃/分
ひずみ:5%
測定温度:35~100℃
初期荷重:300g
【0106】
【0107】
表1に示すとおり、実施例1~3の接着剤組成物が100℃以下の低温条件で硬化反応が充分に進行することが判明した。また、表2に示すとおり、実施例1の接着剤組成物は、2週間後においても、ずり粘度の上昇が観測されなかった。硬化促進剤の含有量が実施例1よりも少ない実施例2、3の接着剤組成物においても同様の傾向があることが推測される。以上の結果より、本開示の熱硬化性接着剤組成物は、低温条件で硬化反応が充分に進行し、さらにはずり粘度の経時的上昇を充分に抑制することが可能であることが確認された。
1…基材フィルム、3…接着剤層、3c,3p…接着剤片、5,5p…カバーフィルム、10…積層フィルム、12…プリント回路基板、15…FPC基板、15a…先端部、20…打抜き加工品、50A,50B…モジュール(接続体)、C…半導体チップ、W1,W2…ワイヤ。