(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004475
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20250107BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20250107BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G01N27/00 B
G01N27/30 B
G01N27/416 371H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104188
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】森本 賢周
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AC01
2G060AF13
2G060AG03
2G060AG15
2G060FA03
2G060JA03
2G060KA05
(57)【要約】
【課題】電力を消費することなく、水分を検出できるセンサを提供する。
【解決手段】検出対象空間の内部に、イオン化傾向が異なる金属からなる一対の検出電極5,6と、水分を吸収して第1,第2電解質溶液となる第1,第2潮解性物質11,12とが、設置され、第1潮解性物質11は、正極となる一方の検出電極5を覆うように配置され、第1電解質溶液は、一方の検出電極5側に析出可能な金属のイオンを含み、第2潮解性物質12は、負極となる他方の検出電極6及び第1潮解性物質11を覆うように配置され、一対の検出電極5,6間に発生する起電力に基づいて、検出対象空間への水分の浸入を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象空間の水分を検出するセンサであって、
前記検出対象空間の内部に、イオン化傾向が異なる金属からなる一対の検出電極と、水分を吸収して第1電解質溶液となる第1潮解性物質と、水分を吸収して第2電解質溶液となる第2潮解性物質とが、設置され、
前記第1潮解性物質は、前記一対の検出電極の内の正極となる一方の検出電極を覆うように配置され、
前記第1電解質溶液は、前記一方の検出電極側に析出可能な金属のイオンを含み、
前記第2潮解性物質は、前記一対の検出電極の内の負極となる他方の検出電極及び前記第1潮解性物質を覆うように配置され、
前記一対の検出電極間に発生する起電力に基づいて、前記検出対象空間への水分の浸入を検出する、
ことを特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記検出対象空間が、不活性ガス又は乾燥空気で気密封止されたパッケージの内部空間である、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記第2潮解性物質は、塩化カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸、又は、炭酸カリウムのいずれかである、
請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記一対の検出電極の内の前記正極となる前記一方の検出電極が、金、又は、白金のいずれかの金属からなり、前記負極となる前記他方の検出電極が、亜鉛、鉄、又は、ニッケルのいずれかの金属からなる、
請求項2に記載のセンサ。
【請求項5】
前記一方の検出電極側に析出可能な前記金属が、銅である、
請求項2に記載のセンサ。
【請求項6】
前記一方の検出電極を構成する金属を第1金属M1とし、前記他方の検出電極を構成する金属を第2金属M2とし、前記一方の検出電極側に析出可能な前記金属を第3金属M3とし、前記第1金属M1、前記第2金属M2、前記第3金属M3のイオン化傾向を、それぞれ、IM1、IM2、IM3とし、水素のイオン化傾向IHとしたときに、イオン化傾向IM1、IM2、IM3、IHが、下記の大小関係を満足する、
IM2>IH>IM3>IM1
請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項7】
前記一対の検出電極が形成された絶縁性の基体が、前記検出対象空間の内部に設置され、
前記基体は、外周部に比べて中央部が下方へ窪んだ凹部となっており、前記凹部内に、前記第1潮解性物質及び前記第2潮解性物質が配置される、
請求項2に記載のセンサ。
【請求項8】
前記基体が、水晶又はガラスからなる、
請求項7に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関し、更に詳しくは、例えば、気密封止されたパッケージの内部空間に浸入した水分の検出に好適なセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
水分を検出するセンサ、例えば、湿度センサには、2つの電極間に、感湿膜を介在させ、湿度による前記2つの電極間の容量値またはインピーダンスの変化に基づいて、湿度を検出するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように2つの電極間の容量値やインピーダンスの変化を検出するセンサでは、2つの電極間に常時電流を流しておく必要があり、電力を消費するという課題がある。
【0005】
本発明は、上記のような点に鑑みて為されたものであって、電力を消費することなく、水分を検出できるセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0007】
(1)本発明に係るセンサは、検出対象空間の水分を検出するセンサであって、前記検出対象空間の内部に、イオン化傾向が異なる金属からなる一対の検出電極と、水分を吸収して第1電解質溶液となる第1潮解性物質と、水分を吸収して第2電解質溶液となる第2潮解性物質とが、設置され、前記第1潮解性物質は、前記一対の検出電極の内の正極となる一方の検出電極を覆うように配置され、前記第1電解質溶液は、前記一方の検出電極側に析出可能な金属のイオンを含み、前記第2潮解性物質は、前記一対の検出電極の内の負極となる他方の検出電極及び前記第1潮解性物質を覆うように配置され、前記一対の検出電極間に発生する起電力に基づいて、前記検出対象空間への水分の浸入を検出する。
【0008】
本発明に係るセンサによると、検出対象空間に、水分を含む大気が浸入すると、第1,第2潮解性物質が水分を吸収して、第1,第2電解質溶液となり、イオン化傾向が大きい他方の検出電極の金属が、第2電解質溶液に溶け出して金属イオンになると共に、電子を放出し、他方の検出電極が負極となる。負極で放出された電子が、正極となる一方の検出電極へ流れ込んで、第1電解質溶液中のイオン化傾向が小さい金属イオンと結合して金属が析出する。すなわち、検出対象空間に、水分を含む大気が浸入すると、化学電池が構成されて一対の検出電極間に起電力が発生するので、この起電力に基づいて、水分を含む大気の浸入を検出することができる。
【0009】
このように本発明に係るセンサでは、2つの電極間の容量値やインピーダンスの変化を検出する従来のセンサのように、2つの電極間に電流を流しておく必要がないので、電力消費がなく、いわゆる、省エネを図ることができる。
【0010】
また、単純な構成の化学電池を構成して水分を検出するので、当該センサの構成を簡素化することができ、小型化が容易である。
【0011】
また、正極となる一方の検出電極では、第1電解質溶液に含まれる金属イオンが金属として析出され、ボルタ電池のように、正極に水素が発生することはない。これによって、ボルタ電池のように、発生した水素が正極を覆ってしまい、その後の反応を阻害して起電力が急激に低下する分極を防止することができる。
【0012】
(2)本発明の好ましい実施態様では、前記検出対象空間が、不活性ガス又は乾燥空気で気密封止されたパッケージの内部空間である。
【0013】
この実施態様によると、不活性ガス又は乾燥空気で気密封止されたパッケージの内部空間を検出対象空間とするので、例えば、浸入した水分によって劣化して特性が低下するような各種の素子が収容された電子デバイスのパッケージの内部空間を検出対象空間とし、その気密状態の監視を簡便な構成で行うことができる。
【0014】
(3)本発明の他の実施態様では、前記第2潮解性物質は、塩化カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸、又は、炭酸カリウムのいずれかである。
【0015】
この実施態様によると、潮解性が高く、水分を吸収して電解質溶液になり易い、塩化カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸、及び、炭酸カリウムを、潮解性物質として好適に使用することができる。
【0016】
(4)本発明の更に他の実施態様では、前記一対の検出電極の内の前記正極となる前記一方の検出電極が、金、又は、白金のいずれかの金属からなり、前記負極となる前記他方の検出電極が、亜鉛、鉄、又は、ニッケルのいずれかの金属からなる。
【0017】
この実施態様によると、イオン化傾向が小さく劣化しにくい金、又は、白金によって、電子を受け取る正極側となる一方の検出電極を構成し、イオン化傾向の大きい亜鉛、鉄、又は、ニッケルによって、電子を放出する負極側となる他方の検出電極を構成することができる。
【0018】
(5)本発明の一実施態様では、前記一方の検出電極側に析出可能な前記金属が、銅である。
【0019】
この実施態様によると、正極となる一方の検出電極側には、第1電解質溶液に含まれる金属イオンである銅イオンが電子と結合して銅が析出する。このため、正極に水素が発生して正極を覆って反応を阻害し、起電力が急激に低下する分極を生じるボルタ電池に比べて、発生した起電力を長い時間持続できる。
【0020】
(6)本発明の他の実施態様では、前記一方の検出電極を構成する金属を第1金属M1とし、前記他方の検出電極を構成する金属を第2金属M2とし、前記一方の検出電極側に析出可能な前記金属を第3金属M3とし、前記第1金属M1、前記第2金属M2、前記第3金属M3のイオン化傾向を、それぞれ、IM1、IM2、IM3とし、水素のイオン化傾向IHとしたときに、イオン化傾向IM1、IM2、IM3、IHが、下記の大小関係を満足する。
【0021】
IM2>IH>IM3>IM1
この実施態様によると、第1,第2潮解性物質が水分を吸収して第1,第2電解質溶液になると、イオン化傾向の大きい他方の検出電極を構成する第2金属M2が、第2電解質溶液に溶け出す。このとき、負極となる他方の検出電極で放出された電子が、正極となる一方の検出電極へ流れ、この流れてきた電子を、第1電解質溶液に含まれる第3金属イオンが受け取って、一方の検出電極に第3金属M3が析出するという、ダニエル電池と類似した化学電池が構成される。
【0022】
(7)本発明の更に他の実施態様では、前記一対の検出電極が形成された絶縁性の基体が、前記検出対象空間の内部に設置され、前記基体は、外周部に比べて中央部が下方へ窪んだ凹部となっており、前記凹部内に、前記第1潮解性物質及び前記第2潮解性物質が配置される。
【0023】
この実施態様によると、一対の検出電極が形成された絶縁性の基体は、その中央部が下方へ窪んだ凹部となっており、この凹部内に、第1,第2潮解性物質が配置されるので、第1,第2潮解性物質が水分を吸収して生成された第1,第2電解質溶液を、凹部内に安定して保持することができる。
【0024】
(8)本発明の一実施態様では、前記基体が、水晶又はガラスからなる。
【0025】
この実施態様によると、基体の材料として、凹部を形成する際に使用する薬液等に対して耐性を有し、加工し易い水晶又はガラスを使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、検出対象空間に、水分を含む大気が浸入すると、化学電池が構成されて起電力が発生するので、この起電力に基づいて、検出対象空間への水分を含む大気の浸入を検出することができる。
【0027】
このように本発明に係るセンサでは、単純な構成の化学電池を構成して水分を検出するので、電力消費がなく、省エネを図ることができると共に、当該センサの構成を簡素化して、小型化を図ることができる。
【0028】
また、正極となる一方の検出電極では、第1電解質溶液に含まれる金属イオンが金属として析出され、ボルタ電池のように、正極に水素が発生することはない。これによって、発生した水素が正極を覆ってしまい、その後の反応を阻害して起電力が急激に低下する分極を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係るセンサの概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は
図1のセンサ本体の概略構成を示す摸式的な平面図である。
【
図3】
図3は潮解性物質が水分を吸収した状態の
図1に対応する摸式的な断面図である。
【
図4】
図4は本発明の他の実施形態のセンサ本体の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図5は本発明の他の実施形態のセンサ本体の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図6】
図6は本発明の他の実施形態のセンサ本体の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図7】
図7は本発明の他の実施形態のセンサ本体の概略構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサの概略構成を示す模式的な断面図であり、
図2は、
図1のセンサ本体2の概略構成を示す摸式的な平面図である。
【0032】
この実施形態のセンサ1は、検出対象空間に浸入した水分を検出するものであり、浸入した水分によって起電力を発生するセンサ本体2と、センサ本体2で発生する起電力に基づいて、水分の浸入の有無を判定する判定部3とを備えている。
【0033】
センサ本体2は、凹部8を有する平面視の外形が矩形の基体4と、この基体4の上面に形成された一対の検出電極5,6と、一方の検出電極5上に配置された第1潮解性物質11と、他方の検出電極6及び第1潮解性物質11の一部の上に配置された第2潮解性物質12とを備えている。
【0034】
センサ本体2は、浸入した水分を検出する検出対象空間内に設置される。検出対象空間は、例えば、浸入した水分によって劣化し、特性が変動するような各種の素子が収容されたパッケージの内部空間等である。
【0035】
このパッケージは、例えば、光トランシーバ等の各種の電子デバイスのパッケージであって、窒素ガス等の不活性ガスや乾燥空気で気密封止されたパッケージである。
【0036】
このような電子デバイスのパッケージ内に設置されるセンサ本体2は小型である。この実施形態では、平面視の外形が矩形の基体4のサイズは、例えば、3mm×2mmである。センサ本体2の外形サイズは、特に限定されず、当該センサ本体2が設置される検出対象空間のサイズなどに応じて適宜選択される。
【0037】
基体4は、絶縁性材料、例えば、水晶、ガラス、セラミック、あるいは、ガラスエポキシ等からなる。この実施形態では、基体4は水晶からなり、矩形板状である。この基体4には、エッチングによって、その中央部に、外周部に比べて下方へ窪んだ平面視矩形の前記凹部8が形成されている。この基体4は、平面視矩形の底壁部4aと、この底壁部4aの外周部に連なる平面視矩形環状の周壁部4bとを備えており、底壁部4aと周壁部4bとによって凹部8が構成される。
【0038】
平面視矩形の凹部8の内底面には、長辺方向(
図1、
図2の左右方向)の中央部から、互いに間隔をあけて、対向する各短辺へ向けてそれぞれ延びる平面視矩形の前記一対の検出電極5,6が形成されている。各検出電極5,6は、前記各短辺へ向けて延び、更に、各短辺に連なる周壁部4bの内面及び上面までそれぞれ延びている。各検出電極5,6の延出端である各周壁部4bの上面には、導電性のワイヤ-9,10が電気的に接続されており、各検出電極5,6は、各ワイヤ-9,10を介して判定部3に電気的に接続されている。
【0039】
平面視矩形の各検出電極5,6は、平面視矩形の凹部8の短辺方向(
図2の上下方向)に沿う幅よりもやや狭い幅となっている。
【0040】
各検出電極5,6は、イオン化傾向が異なる金属でそれぞれ構成されている。各検出電極5,6は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、めっき法によって形成されている。
【0041】
第1,第2潮解性物質11,12は、水分を吸収し、吸収した水分に溶解して電解質溶液となる。
【0042】
第1潮解性物質11は、基体4の凹部8内に、一方の検出電極5を覆うように配置されている。この第1潮解性物質11は、他方の検出電極6に接触しないように、他方の検出電極6とは間隔をあけて配置されている。
【0043】
このように第1潮解性物質11を、他方の検出電極6から離して配置するのは、水分を吸収して生成される第1電解質溶液が、他方の検出電極6へ到達するまでの時間を確保するためである。水分を吸収して生成される第1電解質溶液が、他方の検出電極6へ到達するまでは、後述のように、他方の検出電極6から判定部3を介して一方の検出電極5へ電子が流れる。しかし、第1電解質溶液が、他方の検出電極6へ到達すると、第1電解質溶液に含まれる金属イオンが、他方の検出電極6で電子を直接受け取ってしまい、外部回路である判定部3へ電子が流れなくなるからである。
【0044】
第2潮解性物質12は、基体4の凹部8内に、他方の検出電極6を覆うと共に、第1潮解性物質11の一部を覆うように配置されている。この第2潮解性物質12は、第1潮解性物質11と他方の検出電極6との間を埋めるように配置されている。
【0045】
第1,第2潮解性物質11,12は、基体4の窪んだ凹部8内に収容されているので、水分を吸収して第1,第2電解質溶液となったときには、凹部8内に止まり、第1,第2電解質溶液が、検出電極5,6の外側へ流出するのを防止することができる。
【0046】
第1潮解性物質11は、水分を吸収し、吸収した水分に溶解して第1電解質溶液となって、一方の検出電極5上に広がる。第2潮解性物質12は、水分を吸収し、吸収した水分に溶解して第2電解質溶液となって、他方の検出電極6上に広がると共に、第1潮解性物質11上に広がる。
【0047】
水分を吸収した第1,第2潮解性物質11,12が、第1,第2電解質溶液として、検出電極5,6上に円滑に広がるように、第1,第2潮解性物質11,12を配置する前に、検出電極5,6の表面を、予めアッシングやUV照射によって清浄化して濡れ性を向上させてもよい。
【0048】
水分を吸収して第1電解質溶液となる第1潮解性物質11としては、例えば、塩化銅(CuCl2)が好ましい。
【0049】
水分を吸収して第2電解質溶液となる第2潮解性物質12としては、潮解性が高く、水分を吸収して電解質溶液になり易い、例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩化マグネシウム(MgCl2)、クエン酸(C6H8O7)、炭酸カリウム(K2O3)のいずれかであるのが好ましい。この実施形態の第2潮解性物質12は、潮解性が高く、安価な塩化カルシウムである。
【0050】
第1,第2潮解性物質11,12の凹部8内への収容は、次のようにして行うことができる。すなわち、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気、又は、乾燥空気雰囲気の下で、固体状態の第1潮解性物質11を、一方の検出電極5を覆うように凹部8内に収容する。次に、固体状態の第2潮解性物質12を、他方の検出電極6を覆うと共に、第1潮解性物質11の一部を覆うように凹部8内に収容する。
【0051】
窒素ガス等の不活性ガス雰囲気、又は、乾燥空気雰囲気の下で作業できない場合には、各検出電極5,6と判定部3との接続を遮断して電子の移動を禁止した状態で、次のようにして行う。すなわち、水分を含む大気の下で、先ず、第1潮解性物質11を水に溶かした第1電解質溶液を、一方の検出電極5上に、塗布し、センサ本体2を加熱して第1電解質溶液の水分を蒸発させて固体状態の第1潮解性物質11とする。その後、第2潮解性物質12を水に溶かした第2電解質溶液を、他方の検出電極6上及び第1潮解性物質11の一部に重なるように塗布し、センサ本体2を加熱して第2電解質溶液の水分を蒸発させて固体状態の第2潮解性物質12とする。この加熱によって、第2電解質溶液を塗布する際に、第1潮解性物質11の一部が第1電解質溶液となっていても、水分が蒸発して元の固体状態に戻る。
【0052】
このように水分を含む大気の下では、第1,第2潮解性物質11,12を、溶液状態の第1,第2電解質溶液として取り扱い、最後に、不活性ガス雰囲気、又は、乾燥空気雰囲気の下で、加熱して第1,第2電解質溶液の水分を蒸発させて固体状態の潮解性物質11,12とし、各検出電極5,6を、判定部3に接続する。
【0053】
一対の検出電極5,6の内の一方の検出電極5は、金(Au)や白金(Pt)等の貴金属、この実施形態では、金からなる。この一方の検出電極5は、金(Au)等に代えて、銅(Cu)で構成してもよい。他方の検出電極6は、イオン化傾向の大きい亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の卑金属、この実施形態では、亜鉛からなる。
【0054】
水晶からなる基体4と、各検出電極5,6を構成する金属との密着性を高めるために、基体4上に、クロム(Cr)等の下地金属膜を形成し、下地金属膜上に、各検出電極5,6を構成する金属を形成するのが好ましい。
【0055】
この実施形態のセンサ1は、電子デバイスのパッケージの内部空間に組み込まれ、各検出電極5,6に接続された各ワイヤ-9,10を、例えば、電子デバイスに設けられた判定部3に接続して気密に封止される。なお、判定部3は、一対の検出電極5,6間に起電力が生じたか否かを判定できればよく、電子デバイスのパッケージ内に収容されてもよいし、パッケージ外に設置してもよい。
【0056】
センサ1を、電子デバイスのパッケージの内部空間へ組み込む作業は、不活性ガス雰囲気、又は、乾燥空気雰囲気の下で行う。水分を含む大気の下で組み込み作業を行う場合には、上記のように、第1,第2潮解性物質11,12を、溶液状態の第1,第2電解質溶液として取り扱い、最後に、不活性ガス雰囲気、又は、乾燥空気雰囲気の下で、加熱して第1,第2電解質溶液の水分を蒸発させて固体状態の潮解性物質11,12とし、各検出電極5,6を、判定部3に接続すればよい。
【0057】
この実施形態では、検出対象空間に水分を含む大気が浸入すると、センサ本体2は、後述のように化学電池を構成する。このとき、正極となる一方の検出電極5と、負極となる他方の検出電極6との間に起電力、例えば、1.5V程度の起電力が発生する。この起電力によって、電子デバイスに設けられた判定部3によって、水分が浸入したことを検出することができるので、適宜の報知部、例えば、発光素子(LED)を点灯させて、水分が浸入したことを報知することが可能である。
【0058】
この実施形態では、一方の検出電極5を構成する金属を第1金属M1とし、そのイオン化傾向をIM1、他方の検出電極6を構成する金属を第2金属M2とし、そのイオン化傾向をIM2、第1電解質溶液に含まれて、一方の検出電極5側に析出する金属を第3金属M3とし、そのイオン化傾向をIM3とし、水素のイオン化傾向をIHとすると、イオン化傾向IM1、IM2、IM3、IHの大小関係は次のようになる。なお、水素イオンは、水分を吸収して生じる電解質溶液に含まれる。
【0059】
IM2>IH>IM3>IM1
上記のように、一方の検出電極5を構成する第1金属M1は、金(Au)であり、他方の検出電極6を構成する第2金属M2は、亜鉛(Zn)であり、第1電解質溶液に含まれて、一方の検出電極5側に析出する第3金属M3は、銅(Cu)であるので、イオン化傾向IAu、IZn、ICuは下記で示される。
【0060】
IZn>IH>ICu>IAu
この実施形態では、検出対象空間に水分を含む大気が浸入すると、第1潮解性物質11である塩化銅と第2潮解性物質12である塩化カルシウムとが、水分を吸収し、吸収した水分に溶解して第1,第2電解質溶液となって、各検出電極5,6上に広がる。
【0061】
一対の検出電極5,6の内、イオン化傾向が大きい他方の検出電極6の亜鉛Znが、第2電解質溶液に溶け出す。
【0062】
このとき、亜鉛Znが酸化されて亜鉛イオンZn2+になり、電子e-を放出する。すなわち、他方の検出電極6は、電子e-を放出する負極となる。
【0063】
負極では、次の反応が生じる。
【0064】
Zn→Zn2++2e-
他方の検出電極6で発生した電子e-が、ワイヤ-10、判定部3、及び、ワイヤ-9を介して一方の検出電極5へ流れ込む。
【0065】
このとき、電子e-が判定部3を通過することで、水分の浸入が検出される。
【0066】
一方の検出電極5では、流れ込んできた電子e-を受け取り、第1電解質溶液中のイオン化傾向が小さい陽イオンである銅イオンCu2+が電子e-と結合し、還元されて銅(Cu)が析出する。すなわち、金からなる一方の検出電極5は、電子e-を受け取る正極となる。
【0067】
正極では、次の反応が生じる。
【0068】
Cu2++2e-→Cu
以上のように、本実施形態では、検出対象空間に水分が浸入すると、下記の電池式で示されるダニエル電池に類似した化学電池が構成される。
【0069】
(-)Zn|CaCl2(aq)|CuCl2(aq)|Au(+)
このとき、正極となる一方の検出電極5と、負極となる他方の検出電極6との間に起電力が発生し、その起電力によって判定部3は、水分を検出したと判定する。
【0070】
第1,第2潮解性物質11,12が水分を吸収して生成される第1,第2電解質溶液が混合されて
図3に示すような混合された電解質溶液25になると、あるいは、第1潮解性物質11が水分を吸収して生成される第1電解質溶液が他方の検出電極6に到達すると、混合した電解質溶液25、あるいは、第1電解質溶液に含まれる銅イオンCu
2+は、他方の検出電極6から直接電子e
-を受け取ることになる。したがって、一対の検出電極5,6間で本来の起電力が得られなくなるが、本実施形態のセンサ1では、水分を検出して報知できればよく、一般的な化学電池のように電力を長時間に亘って発生させる必要はないので、センサとしての機能上問題はない。
【0071】
なお、
図1では、固体状態の第1,第2潮解性物質11,12の表面は、平面状であり、
図3では、水分を吸収し、吸収した水分に溶解した第1,第2電解質溶液が完全に混合した電解質溶液25の表面は、丸味を帯びた曲面状となっている。これは誇張して例示したものであって、第1,第2潮解性物質11,12の量によっては、固体状態あるいは溶液状態によらず、その表面は、平面状、曲面状、あるいは、凹凸状となる場合がある。
【0072】
検出対象空間を、電子デバイスの不活性ガス又は乾燥空気で気密封止されたパッケージの内部空間とし、長期間が経過した後に、本実施形態のセンサ1によって、パッケージの内部空間への水分を含む大気の浸入を検出した場合には、電子デバイスの経年劣化によって水分を含む大気がパッケージ内に浸入し、電子デバイスの寿命であると判断することができる。
【0073】
また、水分を含む空気の浸入を早期に検出した場合には、電子デバイスのパッケージの気密封止が不完全であると判断することができる。
【0074】
このようにして、電子デバイスの気密封止されたパッケージ内への水分を含む大気の浸入を監視することができる。
【0075】
従来の湿度センサでは、2つの電極間の容量値やインピーダンスの変化を検出するので、常に2つの電極間に電圧を印加しなければならず、電力消費が生じる。
【0076】
これに対して、本実施形態のセンサ1では、電力を消費することなく、検出対象空間へ浸入した水分を検出することができ、電源を必要としない。
【0077】
また、センサ本体2は、基体4上の一対の検出電極5,6を覆うように、第1,第2電解質溶液となる第1,第2潮解性物質11,12を配置するという簡単な構成であるので、小型化が容易であると共に、安価である。
【0078】
更に、ダニエル電池に類似した化学電池を構成し、正極である一方の検出電極5では、銅が析出し、ボルタ電池のように、正極で水素H2が発生することはない。したがって、本実施形態では、ボルタ電池のように、正極で発生した水素が、正極の周りに溜まって電子の受け渡しを困難にし、起電力が急激に低下する分極が生じることはない。
【0079】
[第2実施形態]
図4は、本発明の他の実施形態のセンサ本体2
1の概略構成を示す模式的な断面図であり、
図1に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0080】
この実施形態のセンサ本体21は、基体4の凹部8内に収容された第1,第2潮解性物質11,12を覆うように、透湿性を有する蓋体13が、例えば、接着剤によって基体4の周壁部4bの上面に接合されている。
【0081】
この蓋体13は、透湿性を有する樹脂、例えば、熱可塑性樹脂から構成されるのが好ましい。蓋体13を構成する樹脂としては、例えば、ポリイミド、セロファン、ポリエチレン、アクリルなどであるのが好ましく、この実施形態では、蓋体13は、ポリイミドからなる。
【0082】
【0083】
このように基体4の凹部8内の第1,第2潮解性物質11,12は、透湿性を有する蓋体13によって覆われているので、当該センサ本体21を電子デバイスのパッケージ内に収容する作業を、不活性ガス雰囲気、又は、乾燥空気雰囲気の下で行えないような場合であっても、その作業を行う比較的短い時間、例えば、数時間内に、大気中の水分が蓋体13を透過して基体4の凹部8内に浸入することはない。
【0084】
一方、電子デバイスのパッケージが経年劣化して、パッケージ内に浸入した大気に含まれる水分を検出するような用途では、パッケージ内に水分を含む大気が浸入したら直ちに検出して報知する必要はなく、水分が、透湿性を有する蓋体13を透過する程度の時間遅れが生じても差支えない。
【0085】
したがって、不活性ガス雰囲気や乾燥空気雰囲気ではなく、大気中でセンサ本体21を、電子デバイスのパッケージの内部空間に組込む作業が必要な場合などに好適である。
【0086】
蓋体13の材質や厚さ等を選択することによって、電子デバイスのパッケージ内に浸入した水分が、蓋体13を透過するのに要する時間を変えることができる。
【0087】
また、蓋体13によって、凹部8内の第1,第2潮解性物質11,12を物理的に保護することができ、取扱い易いものとなる。
【0088】
なお、蓋体13に、水分を含む大気が流通可能な微小な貫通孔を多数形成し、水分を含む大気の浸入を迅速に検出できるようにしてもよい。
【0089】
[第3実施形態]
図5は、本発明の更に他の実施形態のセンサ本体2
2の概略構成を示す模式的な断面図であり、上記
図4に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0090】
上記各実施形態では、一対の検出電極5,6は、導電性のワイヤ-9,10を介して判定部3にそれぞれ電気的に接続されている。
【0091】
この実施形態では、基体42の上面の各検出電極5,6は、底壁部4a2を貫通する内部導体14,15によって、基体42の外底面の各外部接続端子16,17にそれぞれ導通接続されている。
【0092】
すなわち、この実施形態では、センサ本体22は、例えば、電子デバイスの検出対象空間であるパッケージ内の基板に、各外部接続端子16,17が接合されて、電子デバイスに設けられた判定部3に電気的に接続される。
【0093】
【0094】
[第4実施形態]
上記の各実施形態では、中央部が下方へ窪んだ凹部8を有する基体4,42の周壁部4bの上面に、凹部8に収容された第1,第2潮解性物質11,12を覆うように、平板状の蓋体13を装着した。
【0095】
この実施形態では、
図6に示すように、一対の検出電極5,6が形成された基体4
3は、平板状であり、この基体4
3の上面に、検出電極5,6上に配置された第1,第2潮解性物質11,12を覆うように、蓋体20が装着される。
【0096】
この実施形態の蓋体20は、平板状の基板部20aと、この基板部20aの周縁部から下方へ延びる側板部20bとを備えている。この蓋体20は、基板部20aと側板部20bとによって、凹部18が形成されるキャップ状の蓋体である。
【0097】
この実施形態では、平板状の基体43の上面に、キャップ状の蓋体20が、透湿性の低い接着剤等によって接合される。このようにキャップ状の蓋体20を、平板状の基体43に接合するので、第1,第2潮解性物質11,12が水分を吸収して生成される第1,第2電解質溶液が蓋体20の外側へ漏れるのを防止することができる。
【0098】
【0099】
[第5実施形態]
図7は、本発明の更に他の実施形態のセンサ本体2
4の概略構成を示す模式的な断面図であり、
図6に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0100】
この実施形態では、平板状の基体44には、キャップ状の蓋体20の側板部20bの下端部が嵌合する浅い嵌合溝が形成されている。
【0101】
キャップ状の蓋体20は、その側板部20bの下端部が、平板状の基体44の嵌合溝に嵌合されて接着剤等で接合される。
【0102】
これによって、第1,第2潮解性物質11,12が水分を吸収して生成される第1,第2電解質溶液が、蓋体20の外側へ漏れるのを確実に防止することができる。
【0103】
【符号の説明】
【0104】
1 センサ
2,21~24 センサ本体
3 判定部
4,42~44 基体
5 検出電極(一方)
6 検出電極(他方)
11,12 第1,第2潮解性物質
25 電解質溶液
8,18 凹部
9,10 ワイヤ-
13,20 蓋体