(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004490
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】固定子、及び回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/47 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
H02K3/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104209
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 滉人
(72)【発明者】
【氏名】河上 哲哉
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC04
5H604CC12
5H604DA20
5H604DB01
5H604DB15
5H604PB02
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】製造作業性を向上できる固定子、及び回転電機を提供する。
【解決手段】複数の相のコイルが巻回されるボビンと、ボビンに巻回されたコイルの異相間を絶縁する絶縁部材と、を備え、ボビンは、ボビンの周面に沿って互いに間隔をあけて設けられ、径方向において互いに隣接する異相のコイルの間に隙間が形成されるように各相のコイルをそれぞれ収容可能な複数の溝部を有し、絶縁部材は、隙間の全周に連続して設けられる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相のコイルが巻回されるボビンと、
前記ボビンに巻回された前記コイルの異相間を絶縁する絶縁部材と、を備え、
前記ボビンは、前記ボビンの周面に沿って互いに間隔をあけて設けられ、径方向において互いに隣接する異相の前記コイルの間に隙間が形成されるように各相の前記コイルをそれぞれ収容可能な複数の溝部を有し、
前記絶縁部材は、前記隙間の全周に連続して設けられる、
固定子。
【請求項2】
前記絶縁部材は、前記隙間に挿入される側の端部が開口し、前記隙間に挿入される側と反対側の端部が閉塞する容器状に形成されている、
請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固定子と、
前記固定子の内側に設けられる回転子と、を備える、
回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固定子、及び回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電機子巻線を略非磁性巻型上に巻線パターンで巻き付けることにより空心電機子を形成することが知られている。電機子巻線は、1層で複数の相を有して構成されており、各相の巻線には、円周方向に掛かり、複数の相と重なり、電機子エアギャップの外に配置される座巻も含まれる。従来構成の各相の巻線つまりコイルは、略非磁性巻型における径方向の同一の位置に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来構成の空心電機子において、各相のコイルの端部に位置する座巻つまりコイルエンドには、異相間のコイルの絶縁性を確保するために例えば相間絶縁紙が設けられる場合がある。しかしながら、従来構成では、コイルエンドの立ち上がり位置が複数の相同士で重なっているため、相間絶縁紙を設ける作業は煩雑なものであり、製造作業性に改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、製造作業性を向上できる固定子、及び回転電機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の固定子は、複数の相のコイルが巻回されるボビンと、前記ボビンに巻回された前記コイルの異相間を絶縁する絶縁部材と、を備え、前記ボビンは、前記ボビンの周面に沿って互いに間隔をあけて設けられ、径方向において互いに隣接する異相の前記コイルの間に隙間が形成されるように各相の前記コイルをそれぞれ収容可能な複数の溝部を有し、前記絶縁部材は、前記隙間の全周に連続して設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による回転電機の一例を概略的に示す正面図
【
図2】第1実施形態による固定子について、ボビンにコイルが巻き付けられた状態の一例を示す斜視図
【
図3】第1実施形態による固定子について、各溝部に各相のコイルが収容された状態の一例を示す正面図
【
図4】第1実施形態による固定子について、各溝部の周辺の構成を拡大して示す断面図
【
図5】第1実施形態による固定子について、各相のコイル間に絶縁部材が設けられた状態の一例を示す正面図
【
図6】第2実施形態による固定子について、容器状に形成された絶縁部材の構成の一例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図では、説明の便宜上、必要に応じて各構成の寸法を適宜拡大している場合があり、各構成同士の寸法比は実際と同一であるとは限らない。
【0009】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。
図1に示す実施形態の回転電機1は、例えばコアレス型の回転電機で構成されている。回転電機1は、
図1に示すように、フレーム10、回転子20、及び固定子30を含んで構成されている。なお、以下の説明において、回転子20の回転中心軸Оに対して平行な方向を軸方向と称する。回転中心軸Oを中心に回転子20を回転させたとき、回転子20の外周面が回転する方向を周方向と称する。回転中心軸Oに対して直交する方向を径方向と称する。
【0010】
フレーム10は、回転電機1の外殻を構成している。フレーム10は、例えば円筒状に形成されている。フレーム10は、例えば放熱用の図示しないフィンを複数有している。複数のフィンは、フレーム10の外周面に径方向に突出して形成されている。
【0011】
回転子20は、フレーム10の内部に配置される。回転子20は、全体として中心軸Oを中心とした例えば円柱状に形成されている。回転子20は、例えば固定子30の内側に設けられ、固定子30に対して隙間を介して回転可能に設けられている。つまり、回転電機1は、例えばインナーロータ型の回転電機として構成されている。
【0012】
回転子20は、図示しない永久磁石を有している。永久磁石は、回転子20の外周面に沿って周方向に間隔をあけて複数配置されている。また、回転子20は、シャフト21と一体的に回転中心軸O周りに回転可能に構成されている。シャフト21の回転中心軸は、回転子20の回転中心軸Oと一致している。
【0013】
固定子30は、フレーム10の内側に固定されている。固定子30は、例えば全体として略円筒状に形成されている。固定子30の内径寸法は、回転子20の外形寸法よりもやや大きく設定されている。固定子30は、ボビン31、コイル32、バックヨーク33、及び絶縁部材34を有している。ボビン31は、例えば絶縁性を有する合成樹脂製であって、円筒状に形成されている。ボビン31は、外周に複数の相のコイル32が巻回される。なお、コイル32は、ボビン31の内周に巻回される構成としても良い。コイル32は、例えば丸線で形成された巻線によって構成されている。巻線の種類は、丸線に限らず、平角線やリッツ線等の他の形状で構成しても良い。
【0014】
コイル32は、
図2に示すように、例えばボビン31に対して波状に配置されるいわゆる波巻で構成されている。コイル32の巻き方は、波巻に限らず、同心巻や重ね巻等の他の巻き方であっても良い。コイル32は、例えば三相各相のコイルつまり第1コイルとしてのU相コイル321、第2コイルとしてのV相コイル322、及び第3コイルとしてのW相コイル323、によって構成されている。
【0015】
各相のコイル321、322、323の外径は、略同一に設定されている。各相のコイル321、322、323は、1本又は複数本の巻線によって構成されている。本実施形態では、各相のコイル321、322、323は、同一の巻線数で構成されており、それぞれ複数本例えば5本を1組の巻線として構成されている。また、各相のコイル321、322、323は、それぞれ接続端子に接続されている。
【0016】
各相のコイル321、322、323は、例えばボビン31に対して1層で巻回される。この場合、まずW相コイル323がボビン31の外周に全周に亘って巻かれ、その後、V相コイル322及びU相コイル321が順次ボビン31の外周に全周に亘って巻かれることで、全体として円筒状のコイル32が形成される。なお、各相のコイル321、322、323のボビン31に対する巻順は、任意に設定できる。
【0017】
バックヨーク33は、例えば電磁鋼板等の磁性材であって、円筒状に形成されている。バックヨーク33の内面には、コイル32が巻き付けられたボビン31が例えば嵌め込まれて固定される。そして、ボビン31と一体にされたバックヨーク33は、フレーム10に対して固定される。
【0018】
ボビン31は、
図3及び
図4に示すように、本体部311及び溝部312を有している。本体部311は、円筒状に形成され、ボビン31の主体を構成している。溝部312は、本体部311の周面この場合外周面に沿って互いに間隔をあけて設けられている。なお、ボビン31の内周側にコイル32が巻かれる場合、溝部312は、本体部311の内周面に沿って互いに間隔をあけて設けられる。溝部312同士の間隔は、例えば等間隔に設定されている。溝部312同士の間隔は、不等間隔であっても良い。
【0019】
溝部312は、各相のコイル321、322、323をそれぞれ収容可能に複数設けられている。この場合、溝部312は、U相コイル321を収容する第1溝部としてのU相用溝部312a、V相コイル322を収容する第2溝部としてのV相用溝部312b、及びW相コイル323を収容する第3溝部としてのW相用溝部312c、を有している。なお、
図3等において、図面を見やすくするために、各溝部312a、312b、312cの符号は一部のみ付しており、その他の溝部312a、312b、312cの符号は省略している。
【0020】
ここで、各相のコイルを収容する各溝部の径方向の寸法が同一である場合、各相のコイルの各溝部からの立ち上がり位置が同一となり、異相のコイル同士が相互に重なり合って配置される。このため、固定子の作製時に、各相のコイルの軸方向の両端部に位置するいわゆるコイルエンドの成形作業が必要となる。当該コイルエンドの成形作業によって、例えば巻線が傷つくおそれがあり、また、成形作業による作業手間が生じる。
【0021】
そこで、本実施形態では、各相のコイル321、322、323に対応した各溝部312a、312b、312cの径方向の寸法つまりボビン31の周面から各溝部312a、312b、312cの底面までの寸法は、それぞれ異なっている。このため、複数の溝部312a、312b、312cに段差を設けることができる。よって、複数の溝部312a、312b、312cに収容された各相のコイル321、322、323同士の周方向における干渉を抑制することができるため、コイルエンドの成形作業を不要にすることができる。結果として、コイル32の品質を向上するとともに作業性を向上できる。
【0022】
図4に示すように、溝部312aの溝深さH1、溝部312bの溝深さH2、及び溝部312cの溝深さH3、の関係は、H3>H2>H1の関係が成り立っている。各溝部312a、312b、312cの溝深さの最大寸法H3は、コイル32の外径の3倍以上に設定されている。本実施形態では、互いに隣接する溝部312a、312b、312cの溝深さHの寸法差ΔHは、コイル32の外径寸法より大きく設定されている。このため、各相のコイル321、322、323は、ボビン31の周方向において重ならないように各溝部312a、312b、312cに収容される。
図3に示すように、固定子30の径方向において隣接する各相のコイル321、322、323間には、隙間324が形成される。隙間324は、ボビン31の周方向に沿って全周にわたって形成される。
【0023】
本実施形態では、隙間324は、外側隙間324a及び内側隙間324bを含んで構成される。外側隙間324aは、U相コイル321とV相コイル322との間に位置している。内側隙間324bは、V相コイル322とW相コイル323との間に位置している。外側隙間324aは、内側隙間324bよりも径方向の外側に位置している。換言すれば、内側隙間324bは、外側隙間324aよりも径方向の内側に位置している。外側隙間324aと内側隙間324bとの径方向の寸法は、略同一に設定されている。外側隙間324aと内側隙間324bとの径方向の寸法は、略同一に限らず、異なっていても良い。
【0024】
絶縁部材34は、径方向において隣接する異相のコイル321、322、323の間に設けられ、コイル321、322、323の異相間を絶縁する。絶縁部材34は、例えばアラミド紙等で構成された絶縁紙又は絶縁性能を有する樹脂によって構成されている。絶縁部材34は、隙間324に設けられる。絶縁部材34は、例えば環状に形成されている。つまり、絶縁部材34は、隙間324の全周に連続して設けられている。
【0025】
絶縁部材34は、
図5に示すように、外側絶縁部材341及び内側絶縁部材342を含んで構成される。外側絶縁部材341は、外側隙間324aに対応して設けられ、内側絶縁部材342は、内側隙間324bに対応して設けられる。外側隙間324aと内側隙間324bとの間には、V相コイル322が配置される。ボビン31に対して各相のコイル321、322、323が巻かれた状態で、外側隙間324aに外側絶縁部材341挿入されかつ内側隙間324bに内側絶縁部材342が挿入されることで、コイル321、322、323間の高い絶縁性が確保される。よって、巻線の被膜だけでは満足できない例えば400V以上の電源電圧にも対応可能となる。
【0026】
以上説明した実施形態によれば、固定子30は、ボビン31と、絶縁部材34と、を備える。ボビン31は、複数の相のコイル321、322、323が巻回される。絶縁部材34は、ボビン31に巻回されたコイル321、322、323の異相間を絶縁する。ボビン31は、複数の溝部312a、312b、312cを有している。複数の溝部312a、312b、312cは、ボビン31の周面に沿って互いに間隔をあけて設けられ、径方向において互いに隣接する異相のコイル312a、312b、312cの間に隙間324が形成されるように各相のコイル312a、312b、312cをそれぞれ収容可能である。そして、絶縁部材34は、隙間324の全周に連続して設けられる。
【0027】
これによれば、径方向で隣接する異相のコイル321、322、323間の隙間324を利用することで、絶縁部材34を挿入しやすくできる。これにより、固定子30の製造性の向上を図ることができる。また、絶縁部材34を隙間324に挿入するといった簡易な作業にすることで、コイル制作の自動化にも対応しやすくなる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図6を参照して説明する。この第2実施形態では、絶縁部材34の形状が上記第1実施形態と異なる。具体的には、上記第1実施形態では、絶縁部材34は、環状に形成されていたのに対し、この第2実施形態では、絶縁部材34は、容器状に形成されている。この場合、絶縁部材34は、隙間324に挿入される側の端部が開口し、隙間324に挿入される側と反対側の端部が閉塞して形成される。絶縁部材34を容器状にすることで、軸方向における隙間324に対する絶縁部材34の挿入位置等を管理しやすくできる。これにより、固定子30の製造性の向上を図りつつ、信頼性を向上できる。
【0029】
絶縁部材34は、
図6に示すように、蓋体343を有している。蓋体343は、例えば円形状に形成されており、外側絶縁部材341及び内側絶縁部材342の隙間324a、324bに挿入される側の端部と反対側の端部に取り付けられている。つまり、外側絶縁部材341及び内側絶縁部材342は、隙間324a、324bに挿入される側の端部と反対側の端部が蓋体343を介して一体的に構成されている。
【0030】
これにより、外側絶縁部材341と内側絶縁部材342とを、各隙間324a、324bにそれぞれ挿入する必要がなくなるため、固定子30の製造作業性をより一層向上できる。
【0031】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
図面中、1は回転電機、20は回転子、30は固定子、31はボビン、321、322、323はコイル、312a、312b、312cは溝部、324aは外側隙間(隙間)、24bは内側隙間(隙間)、341は外側絶縁部材(絶縁部材)、342は内側絶縁部材(絶縁部材)を示す。