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特開2025-4507熱可塑性ポリイミド樹脂および熱可塑性ポリイミド前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004507
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリイミド樹脂および熱可塑性ポリイミド前駆体
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104235
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】戸澤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA02
4J043PA19
4J043RA05
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA032
4J043UA042
4J043UA052
4J043UA082
4J043UA092
4J043UA131
4J043UA151
4J043UB021
4J043UB121
4J043UB301
4J043VA011
4J043VA021
4J043VA041
4J043VA051
4J043XA03
4J043XA16
4J043YA06
4J043YA23
4J043ZA05
4J043ZA12
4J043ZA52
4J043ZB21
(57)【要約】
【課題】耐熱性および加工性に優れる熱可塑性ポリイミド樹脂を提供する。
【解決手段】本発明のポリイミド樹脂は、脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるジアミン(B)に由来する構造単位とを有する。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるジアミン(B)に由来する構造単位とを有する、熱可塑性ポリイミド樹脂。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【請求項2】
ガラス転移温度は200℃以上である請求項1に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
【請求項3】
粉体である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物(A)は環状酸無水物構造を有し、前記脂環構造と少なくとも1つの前記環状酸無水物構造とは単結合または連結基を介して結合している、請求項1または2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
【請求項5】
前記脂環構造は3~6員環の単環構造である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
【請求項6】
前記式(1)中のR1は2個の芳香族炭化水素環がジメチルメチレン基を介して結合した二価の基である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
【請求項7】
脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)と、下記式(1)で表されるジアミン(B)との縮重合体であり繊維状である熱可塑性ポリイミド前駆体。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【請求項8】
テトラカルボン酸二無水物(A)は環状酸無水物構造を有し、前記脂環構造と少なくとも1つの前記環状酸無水物構造とは単結合または連結基を介して結合している、請求項7に記載の熱可塑性ポリイミド前駆体。
【請求項9】
前記脂環構造は3~6員環の単環構造である請求項7または8に記載の熱可塑性ポリイミド前駆体。
【請求項10】
前記式(1)中のR1は2個の芳香族炭化水素環がジメチルメチレン基を介して結合した二価の基である請求項7または8に記載の熱可塑性ポリイミド前駆体。
【請求項11】
請求項7または8に記載の熱可塑性ポリイミド前駆体を含み、硬化促進剤を実質的に含まない、組成物。
【請求項12】
請求項1または2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂の成形物。
【請求項13】
請求項12に記載の成形物を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性ポリイミド樹脂および熱可塑性ポリイミド前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第4世代通信システム(4G)から5Gへの移行等、情報通信技術の発展に伴い、データセンターで取り扱う情報の通信速度向上および通信量増大に対応すべく、光トランシーバ等の光学機器の性能向上が求められている。例えば、光トランシーバは、筐体内に光モジュール(受光素子、発光素子)が実装されており、フレキシブル基板を介して光モジュールと回路基板(駆動回路を有するボード)との電気的接続が行われている。
【0003】
このような光学機器の構成部品にはポリイミド樹脂が用いられることがある。上記ポリイミド樹脂としては、例えば、特許文献1および2に開示のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1983/000442号
【特許文献2】特開2002-293930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学機器の性能向上にあたり、光学機器に使用され得るポリイミド樹脂にはこれまで以上の耐熱性が求められる。しかしながら、特許文献1,2に開示のポリイミド樹脂は耐熱性が不充分であったり、成形温度が高く加工性に劣る場合があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、耐熱性および加工性に優れる熱可塑性ポリイミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるジアミン(B)に由来する構造単位とを有する、熱可塑性ポリイミド樹脂を提供する。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【0008】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移温度は200℃以上であることが好ましい。
【0009】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は粉体であることが好ましい。
【0010】
テトラカルボン酸二無水物(A)は環状酸無水物構造を有し、上記脂環構造と少なくとも1つの上記環状酸無水物構造とは単結合または連結基を介して結合していることが好ましい。
【0011】
上記脂環構造は3~6員環の単環構造であることが好ましい。
【0012】
上記式(1)中のR1は2個の芳香族炭化水素環がジメチルメチレン基を介して結合した二価の基であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)と、下記式(1)で表されるジアミン(B)との縮重合体であり繊維状である熱可塑性ポリイミド前駆体を提供する。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【0014】
テトラカルボン酸二無水物(A)は環状酸無水物構造を有し、上記脂環構造と少なくとも1つの上記環状酸無水物構造とは単結合または連結基を介して結合していることが好ましい。
【0015】
上記脂環構造は3~6員環の単環構造であることが好ましい。
【0016】
上記式(1)中のR1は2個の芳香族炭化水素環がジメチルメチレン基を介して結合した二価の基であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記熱可塑性ポリイミド前駆体を含み、硬化促進剤を実質的に含まない、組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、上記熱可塑性ポリイミド樹脂の成形物を提供する。
【0019】
また、本発明は、上記成形物を備える光学機器を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱可塑性ポリイミド樹脂は、耐熱性および加工性に優れる。このため、耐熱性に優れるポリイミド樹脂の成形品を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例2の成形体の光透過率測定で得られたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[熱可塑性ポリイミド樹脂]
本発明の熱可塑性ポリイミド樹脂は、脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるジアミン(B)に由来する構造単位とを有する。本明細書において、脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)に由来する構造単位を「構造単位(A)」、下記式(1)で表されるジアミン(B)に由来する構造単位を「構造単位(B)」とそれぞれ称する場合がある。本発明の熱可塑性ポリイミド樹脂は、構造単位(A)および構造単位(B)をそれぞれ一種のみ有していてもよいし、二種以上有していてもよい。
【0023】
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【0024】
(テトラカルボン酸二無水物(A))
テトラカルボン酸二無水物(A)は脂環構造および2個のカルボン酸無水物骨格を有する化合物である。上記脂環構造は、単環構造として有していてもよく、複数の脂環で構成された縮合環構造として有していてもよい。なお、上記脂環構造が芳香族環構造等の脂環構造以外の環構造と縮合環を構成している場合は、上記脂環構造は単環構造に該当するものとする。但し、上記縮合環が芳香族性を有する場合、上記脂環構造は脂環に該当しないものとする。また、上記脂環構造を構成する脂環は、飽和脂肪族炭化水素環および不飽和脂肪族炭化水素環のいずれであってもよい。
【0025】
テトラカルボン酸二無水物(A)が有する脂環構造の数は、1以上であり、1~5が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1である。なお、縮合環構造については当該縮合環構造を構成する単環の数を脂環構造の数として計算する。例えば、ノルボルナン構造の脂環構造は2つである。脂環構造を2以上有する場合、それぞれの脂環構造は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
上記単環構造における単環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロヘキセン環などが挙げられる。上記単環は、3~8員環が好ましく、より好ましくは3~6員環、さらに好ましくは5~6員環である。
【0027】
上記縮合環構造における縮合環としては、二環式の脂肪族炭化水素環や三環以上の脂肪族炭化水素環などの橋かけ式炭化水素環が挙げられる。二環式炭化水素環としては、ピナン環、ピネン環、ボルナン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環などが挙げられる。三環以上の脂肪族炭化水素環(三環以上の橋かけ式炭化水素環)としては、例えば、ジシクロペンタン環、ジシクロペンテン環、アダマンタン環、トリシクロペンタン環、トリシクロペンテン環などが挙げられる。上記縮合環構造を構成する原子数は、6~12が好ましく、より好ましくは7~10である。
【0028】
上記脂環構造は置換基を有していてもよい。上記置換基としては、炭素数1~4の炭化水素基などが挙げられる。
【0029】
テトラカルボン酸二無水物(A)は芳香族環構造を有することが好ましい。芳香族環構造を有すると、上記熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移温度が高くなり、耐熱性が向上する傾向がある。上記芳香族環構造における芳香族環は、芳香族炭化水素環であってもよく、芳香族複素環であってもよい。上記芳香族環構造は上記脂環構造と縮合環を形成していてもよい。
【0030】
上記芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオレン環などが挙げられる。上記芳香族複素環としては、フラン環、ピリジン環などが挙げられる。
【0031】
テトラカルボン酸二無水物(A)が芳香族環構造を有する場合、その芳香族環構造の数は、1以上が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。上記芳香族環構造が3以下であると、上記熱可塑性ポリイミド樹脂の加工性により優れる。また、成形物の光透過性により優れる。なお、縮合環構造については当該縮合環構造を構成する単環の数を芳香族環構造の数として計算する。例えば、ナフタレン構造の芳香族環構造は2つである。芳香族環構造を2以上有する場合、それぞれの芳香族環構造は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
テトラカルボン酸二無水物(A)は、カルボン酸無水物骨格として環状酸無水物構造を有する。上記脂環構造は、少なくとも1つの上記環状酸無水物構造と、単結合または連結基を介して結合していることが好ましい。この場合、テトラカルボン酸二無水物(A)の分子の剛直さが緩和されると推測され、熱可塑性ポリイミド樹脂の加工性がより優れる。上記連結基は、二価の基であれば特に限定されず、二価の有機基やエーテル結合、エステル結合、カルボニル結合等が挙げられる。また、上記脂環構造は、少なくとも1つの上記環状酸無水物構造と縮合環を形成していてもよい。
【0033】
上記二価の有機基としては、置換基を有していてもよい二価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、これらの2個以上が結合した二価の基、およびこれらの2個以上が他の連結基(エーテル結合、エステル結合、カルボニル結合等)を介して結合した二価の基が挙げられる。
【0034】
二価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等の炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状アルキレン基;ビニレン、1-メチルビニレン、プロペニレン、1-ブテニレン、2-ブテニレン、1-ペンテニレン、2-ペンテニレン基等の炭素数2~10の直鎖状または分岐鎖状アルケニレン基;エチニレン、プロピニレン、3-メチル-1-プロピニレン、ブチニレン、1、3-ブタジイニレン、2-ペンチニレン、2,4-ペンタジイニレン、2-ヘキシニレン、3-ヘプチニレン、4-オクチニレン基等の炭素数2~10の直鎖状または分岐鎖状アルキニレン基が挙げられる。
【0035】
二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の炭素数3~18のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)などが挙げられる。
【0036】
二価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン(例えば、o-フェニレン、m-フェニレン、p-フェニレン)、フェニレンビス(メチレン)(例えば、1,2-フェニレンビス(メチレン)、1,3-フェニレンビス(メチレン)、1,4-フェニレンビス(メチレン))、ビフェニレン、ナフチレン、ビナフチレン、アントラセニレン、フェナントリレン、フルオレン基等のC6-14アリーレン基などが挙げられる。これらの基に含まれるベンゼン環には、芳香族性または非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0037】
テトラカルボン酸二無水物(A)は、加工性により優れる観点から、スピロ炭素原子を有しないことが好ましい。
【0038】
テトラカルボン酸二無水物(A)の分子量は、例えば200~1000である。分子量の下限値は、好ましくは250である。分子量の上限値は、好ましくは900、より好ましくは800、さらに好ましくは600、特に好ましくは500である。
【0039】
テトラカルボン酸二無水物(A)としては、熱可塑性ポリイミド樹脂の耐熱性および加工性により優れ、成形物の光透過性により優れる観点から、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【化2】
【0040】
[式(2)中、X2は単結合または二価の基を示し、R2は同一または異なって水素原子または置換基を示し、複数のR2は互いに結合して環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す]
【0041】
式(2)中のシクロヘキサン環の破線が付された炭素-炭素結合は、単結合および二重結合のいずれかであることを示す。
【0042】
2における二価の基としては、二価の有機基、エーテル結合、カルボニル結合、エステル結合などが挙げられる。上記二価の有機基としては、上述の二価の有機基が挙げられる。上記二価の有機基は、置換基を有していてもよい直鎖または分岐鎖状の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4の炭化水素基)が好ましい。
【0043】
2としての置換基としては、炭素数1~4の炭化水素基が挙げられる。また、複数のR2が結合して形成される環としては、上記単環構造が縮合環を形成し得る環として説明された脂環、芳香族環、および複素環が挙げられる。上記複数のR2が結合して形成される環は、3~8員環が好ましく、より好ましくは3~6員環、さらに好ましくは5~6員環である。
【0044】
テトラカルボン酸二無水物(A)としては、具体的には、商品名「リカシッド TDA-100」(1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、新日本理化株式会社製)、商品名「エネハイド」(グレード「CpODA」、「BzDA」、「BNBDA」等)(ENEOS株式会社製)などが挙げられる。
【0045】
(ジアミン(B))
ジアミン(B)は下記式(1)で表される化合物である。
【0046】
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
【0047】
1における二価の有機基としては、R2における二価の有機基として例示および説明されたものが挙げられ、置換基を有していてもよい二価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、これらの2個以上が結合した二価の基、およびこれらの2個以上が連結基を介して結合した二価の基が挙げられる。上記連結基としては、エーテル結合、エステル結合、カルボニル結合、スルホニル基などが挙げられる。
【0048】
1は、熱可塑性ポリイミド樹脂の耐熱性により優れる観点から、置換または無置換の二価の芳香族炭化水素基を含むことが好ましく、2個以上の置換または無置換の二価の芳香族炭化水素基が置換または無置換の二価の脂肪族炭化水素基または上記連結基を介して結合した二価の基が好ましい。中でも、2個の芳香族炭化水素基が二価の脂肪族炭化水素基または上記連結基を介して結合した二価の基が特に好ましい。上記二価の脂肪族炭化水素基は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数1~4の脂肪族炭化水素、さらに好ましくはジメチルメチレン基である。
【0049】
1としては、熱可塑性ポリイミド樹脂の耐熱性および加工性により優れる観点から、下記式(1-1)~(1-6)で表される基が好ましく、下記式(1-5)~(1-6)で表される基がより好ましく、加工性に特に優れる観点から、式(1-5)で表される基が特に好ましい。なお、式(1-1)~(1-6)において波線に延びる2本の結合のそれぞれのベンゼン環への結合位置は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、波線に延びる上記結合は、フェニル基がX1に結合する位置に対して、メタ位またはパラ位に結合していることが好ましい。メタ位に結合している場合、得られる熱可塑性ポリイミド樹脂の対称性が低く、加工性により優れる傾向がある。パラ位に結合している場合、加工性に優れつつ、耐熱性により優れ、また原料が比較的入手容易であり熱可塑性ポリイミド樹脂をより簡便に製造することができる。
【0050】
【化3】
【0051】
式(1)中、X1は、中でも、エーテル結合が好ましい。
【0052】
式(1)中、mは0以上であり、加工性により優れる観点から、好ましくは1~3、より好ましくは1である。
【0053】
式(1)において、2つのアミノ基は、フェニル基を構成する炭素原子のいずれかに結合する。2つのアミノ基の結合位置は、各フェニル基に対してそれぞれ同じ位置であってもよいし、異なる位置であってもよい。アミノ基の結合位置は、熱可塑性ポリイミド樹脂の加工性や耐熱性により優れる観点から、X1に対してメタ位またはパラ位が好ましい。
【0054】
ジアミン(B)の分子量は、例えば200~600であり、好ましくは250~600、より好ましくは300~550、さらに好ましくは350~500、特に好ましくは350~450である。
【0055】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は、構造単位(A)以外のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位や、構造単位(B)以外のジアミンに由来する構造単位を有していてもよい。上記熱可塑性ポリイミド樹脂中の構造単位(A)の割合は、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の総量(100モル%)に対して、60モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、95モル%以上、99モル%以上であってもよい。また、上記熱可塑性ポリイミド樹脂中の構造単位(B)の割合は、ジアミンに由来する構造単位の総量(100モル%)に対して、60モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、95モル%以上、99モル%以上であってもよい。
【0056】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は、ジカルボン酸またはその無水物に由来する構造単位(「構造単位(C)」と称する場合がある)を有していてもよい。構造単位(C)は、上記熱可塑性ポリイミド樹脂において未反応のアミノ基を封止(キャップ)することで上記熱可塑性ポリイミド樹脂の反応性を低くして保存安定性を高くすることができる。
【0057】
上記ジカルボン酸またはその無水物としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロへキセン-1,2-ジカルボン酸などが挙げられる。中でも、フタル酸、無水フタル酸が好ましい。
【0058】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂中の構造単位(C)の量は、未反応のアミノ基を充分にキャップすることができる観点から、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の総量(100モル)に対して、0.01~4モルが好ましく、より好ましくは0.1~2モルである。
【0059】
構造単位(A)および構造単位(B)のモル比[(A)/(B)]は、例えば0.7~1.3であり、好ましくは0.8~1.2、より好ましくは0.9~1.1である。また、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンのモル比は上記範囲内であることが好ましい。
【0060】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は粉体であることが好ましい。粉体であることで、流通性に優れ、また熱可塑性を発揮してフィルム状などに加工することが容易である。上記粉体の熱可塑性ポリイミド樹脂は、ペレット化されていてもよい。また、例えばキャスト法なで得られたポリイミドフィルムを積層して加熱下押圧することで成形体を得て、成形体を裁断することによりペレットを作製することができるが、得られるペレットは気泡が発生しやすく、また成形性に劣る傾向にある。一方、本発明の熱可塑性ポリイミド樹脂によれば、熱可塑性を有することでこのような問題を発生させずにペレットや成形物を得ることができる。
【0061】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、200℃以上が好ましく、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは230℃以上、特に好ましくは240℃以上である。Tgが高いほど耐熱性に優れる。上記Tgの上限は、特に限定されないが、例えば1000℃である。上記Tgは、例えば粉体の熱可塑性ポリイミド樹脂についてDSC分析により測定することができる。
【0062】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は、融点(Tm)を有していてもよく、有していなくてもよい。上記熱可塑性ポリイミド樹脂がTmを有する場合、上記Tmは、450℃以下が好ましく、より好ましくは350℃以下である。上記Tmが450℃以下(特に350℃以下)であると、加工性により優れる。上記Tmの下限は、安定的に粉体を維持することができる観点から、例えば80℃以上であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。上記Tmは、例えば粉体の熱可塑性ポリイミド樹脂についてDSC分析により測定することができる。
【0063】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂の10%重量減少温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上である。上記10%重量減少温度が高いほど耐熱性に優れる傾向がある。上記10%重量減少温度の上限は、例えば600℃である。
【0064】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂のメルトフローレート(MFR)は、10g/10min以上が好ましく、より好ましくは15g/10min以上である。上記MFRが10g/10min以上であると、加工性により優れる。また、上記MFRは、100g/10min以下が好ましく、より好ましくは80g/10min以下、さらに好ましくは50g/10min以下である。上記MFRが100g/10min以下(特に、80g/10min以下)であると、取り扱い性に優れ、加工性により優れる。上記MFRは、熱可塑性ポリイミド樹脂の粉体やペレットを用いて、温度337℃、荷重6.6kgfの条件で測定される値である。
【0065】
[熱可塑性ポリイミド樹脂の製造方法]
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを重縮合反応させることで製造することができる。上記重縮合反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。上記溶媒としては、熱可塑性ポリイミド前駆体が可溶な溶媒を使用することが好ましい。上記溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルカプロラクタム、メチルトリグライム、メチルジグライム等の非プロトン性極性溶媒;γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒などが挙げられる。上記溶媒は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0066】
上記溶媒の使用量は、不揮発分濃度が、例えば5~50質量%、好ましくは、10~40質量%となる範囲が好ましい。
【0067】
上記縮重合反応は、耐熱性および加工性に優れ、光透過性に優れる熱可塑性のポリイミド樹脂が得られやすい観点から、触媒や脱水剤等の硬化促進剤を実質的に存在しない系で行うことが好ましい。なお、本明細書において、実質的に存在しないとは、積極的に添加しないことをいい、不可避に存在する場合を除く。上記硬化促進剤の使用量は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの総量100質量部に対して、0.0001質量部以下が好ましく、特に好ましくは0質量部である。上記触媒としては、例えば、ジアミン以外のアミン類が挙げられる。また、上記脱水剤としては、例えば、無水酢酸や無水安息香酸等のモノカルボン酸無水物が挙げられる。
【0068】
反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などのいずれであってもよい。
【0069】
反応温度は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの種類により適宜選択され、例えば40~300℃であり、好ましくは50~230℃であり、溶媒の還流下で行ってもよい。反応時間は、例えば0.5~12時間、好ましくは1~6時間である。
【0070】
上記第一段階の縮重合反応により、上記熱可塑性ポリイミド樹脂および/または熱可塑性ポリイミド前駆体(=ポリアミック酸)が得られる。上記熱可塑性ポリイミド樹脂および上記熱可塑性ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物(A)とジアミン(B)との縮重合体である。上記熱可塑性ポリイミド前駆体は、アミノ基および/またはカルボキシ基を有する。上記重縮合反応により得られる反応液は、熱可塑性ポリイミド前駆体を含む組成物であり、さらに熱可塑性ポリイミド樹脂を含んでいてもよい。上記組成物は、上記硬化促進剤を実質的に含まないことが好ましい。上記組成物中の上記硬化促進剤の含有量は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの総量100質量部に対して、0.0001質量部以下が好ましく、特に好ましくは0質量部である。
【0071】
本発明の熱可塑性ポリイミド樹脂は、各種溶媒に不溶のためゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)での測定ができず、また上記熱可塑性ポリイミド樹脂は上記熱可塑性ポリイミド前駆体を脱水して得られるものであり脱水した水の分子量は得られる樹脂の分子量に対して限定的であるため、以降ではポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)を疑似的に熱可塑性ポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)とみなすこととする。上記熱可塑性ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)は、5000~100000が好ましく、より好ましくは8000~70000、さらに好ましくは10000~50000である。Mwが上記範囲内であると、熱可塑性ポリイミド樹脂の耐熱性および加工性がより良好となる。
【0072】
上記熱可塑性ポリイミド前駆体は、繊維状の固形物であることが好ましい。上記熱可塑性ポリイミド前駆体の性状は、構成する原料(テトラカルボン酸二無水物(A)やジアミン(B)など)や分子量などによって調整できる。例えば、重縮合反応の反応温度を高くするなどして、重量平均分子量を上記範囲内の中でも高い値とすることで、繊維束の熱可塑性ポリイミド前駆体を得ることができる。
【0073】
重縮合反応の終了後は、熟成工程を設けてもよい。熟成工程を設ける場合、熟成温度は例えば30~60℃程度、熟成時間は例えば1~5時間程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などのいずれの方法でも行うことができる。
【0074】
上記重縮合反応の終了後、末端封止剤を添加して反応性基を封止する封止反応を行ってもよい。上記末端封止剤としては、上記ジカルボン酸またはその無水物が挙げられる。ジカルボン酸またはその無水物を添加することで熱可塑性ポリイミド樹脂や熱可塑性ポリイミド前駆体が有し得るアミノ基を封止することができる。
【0075】
上記封止反応は、上記重縮合反応で得られた反応生成物を、一般的な、沈殿・洗浄・濾過・乾燥等により分離精製した後に行ってもよいし、精製を行わずに上記反応液に上記末端封止剤を添加して行ってもよい。
【0076】
上記封止反応は、上記溶媒の存在下で行うことができる。また、上記封止反応は、硬化促進剤が実質的に存在しない系で行うことが好ましい。上記硬化促進剤の使用量は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの総量100質量部に対して、0.0001質量部以下が好ましく、特に好ましくは0質量部である。
【0077】
上記末端封止剤の添加量は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの総量100モルに対して、0.01~4モルが好ましく、より好ましくは0.1~2モルである。
【0078】
反応温度は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの種類により適宜選択され、例えば100℃以上であり、溶媒の還流下で行ってもよい。反応時間は、例えば0.5~12時間、好ましくは1~6時間である。反応終了後は、熟成工程を設けてもよい。熟成工程を設ける場合、熟成温度は例えば30~60℃程度、熟成時間は例えば1~5時間程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などのいずれの方法でも行うことができる。
【0079】
上記重縮合反応の終了後(必要に応じて上記封止反応を経た後)、上記熱可塑性ポリイミド前駆体を加熱して脱水してイミド環を形成させる熱イミド化反応を行うことが好ましい。上記熱イミド化反応により、硬化促進剤を使用せずにポリイミド樹脂を粉体として得られ、また得られたポリイミド樹脂は熱可塑性を有しやすい。また、耐熱性および加工性に優れ、成形体の光透過性に優れる。熱可塑性のポリイミド樹脂が得られやすい。
【0080】
上記熱イミド化反応は、得られるポリイミド樹脂に熱可塑性を付与し、耐熱性および加工性をより優れたものとするため、溶媒を実質的に存在しない系で行うことが好ましい。上記重縮合反応を溶媒の存在下で行った場合、上記重縮合反応の後に溶媒を揮発させて除去した後に、上記熱イミド化反応を行うことが好ましい。上記熱イミド化反応における溶媒の使用量は、不揮発分濃度が、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上となる範囲が好ましい。例えば、上記重縮合反応の後に溶媒を除去し、残存モノマー成分等をTHF等の適当な溶媒でリンスし、次いでメタノール等の貧溶媒を添加して上記熱可塑性ポリイミド前駆体を再沈殿等により析出させ、乾燥させ、そして得られた固体の上記熱可塑性ポリイミド前駆体について上記熱イミド化反応を行うことが好ましい。上記乾燥を充分に行うことで、イミド環形成をより充分に進行させることができる(熱可塑性ポリイミド樹脂の閉環率100%)。上記乾燥はリンス溶媒や貧溶媒を揮発させやすくするため、撹拌や塊を崩しながら行ってもよい。
【0081】
上記熱イミド化反応は、耐熱性および加工性に優れ、光透過性に優れる熱可塑性のポリイミド樹脂が得られやすい観点から、上記硬化促進剤を実質的に存在しない系で行うことが好ましい。上記硬化促進剤の使用量は、上記熱可塑性ポリイミド前駆体の総量100質量部に対して、0.0001質量部以下が好ましく、特に好ましくは0質量部である。
【0082】
反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などのいずれであってもよい。
【0083】
上記反応圧力・反応温度は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの種類により適宜選択され、例えば減圧下(好ましくは真空条件下)で、温度が例えば150~300℃、好ましくは180~230℃であり、溶媒の還流下で行ってもよい。反応時間は、例えば1~12時間、好ましくは3~7時間である。
【0084】
上記熱イミド化反応後は、熟成工程を設けてもよい。熟成工程を設ける場合、熟成温度は例えば30~60℃程度、熟成時間は例えば1~5時間程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などのいずれの方法でも行うことができる。このようにして、上記熱可塑性ポリイミド樹脂の粉体を得ることができる。
【0085】
上記熱可塑性ポリイミド樹脂は、後述の成形物とする用途の他、接着剤、耐熱改質用充填剤、摺動改質用充填剤、繊維含浸用樹脂材料、織物含浸用樹脂材料、3Dプリンター用樹脂材料、圧縮成形用材料などに使用することもできる。
【0086】
[成形物]
上記熱可塑性ポリイミド樹脂を用いて成形物を作製することができる。上記熱可塑性ポリイミド樹脂は熱可塑性を有し加工性に優れるため、熱成形方法により成形することが好ましい。上記熱成形方法としては、射出成形、押出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、溶接、溶着などが挙げられる。また、成形物の割れを抑制し、光透過性に優れる成形物が得られやすい観点から、加熱後は緩やかな条件で冷却することが好ましい。
【0087】
上記成形物は、波長850nm、1310nm、および1550nmのうちの1つ以上の光透過率(特に、少なくとも波長1310nmの光透過率、より好ましくは3つの波長の光透過率)が、70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。上記光透過率は、厚さ1mmの成形物について測定した値である。
【0088】
上記成形物としては、例えば、角板、フィルム、シート、ストランド、ペレット、繊維、丸棒、角棒、球状、パイプ、チューブ、シームレスベルトなどが挙げられる。また、上記ペレットを用いて他の成形物を作製してもよい。
【0089】
上記成形物は、光透過性に優れる場合、光学機器に使用されることが好ましい。上記光学機器としては、光トランシーバ(光送受信器)等の光モジュールなどが挙げられる。上記成形物は、中でも、上記光学機器に使用されるレンズモジュールに使用されることが好ましい。
【実施例0090】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0091】
実施例1
2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(ジアミンb1)(分子量:410.52)51.61g(0.125mol)を、窒素気流下、NMP210g(不揮発分濃度が30質量%となる量に相当)中で60℃で溶解し、テトラカルボン酸二無水物a1(商品名「エネハイド CpODA」、ENEOS株式会社製)(分子量:294.22)38.02g(0.125mol)を加えた後、還流(NMPの沸点が202℃)で3時間反応を行った。末端アミンをキャップするために、無水フタル酸(分子量148.12)0.37g(0.0025mol)加え、さらに1時間撹拌し、室温まで下げた。この反応終了後の溶液を後述のゲルパーミエーションクロマトグラフ測定に用いた。反応終了後の溶液に、420gのテトラヒドロフラン(THF)を加え、希釈し、メタノール溶媒で再沈殿した。濾別し、THFで溶解させ、再度メタノールで再沈殿させた。濾別し、溶媒を飛ばしながらさらなるイミド化を行うために、200℃5時間の条件で乾燥させ、ポリイミド樹脂を得た。
【0092】
実施例2
ジアミンb1(分子量:410.52)51.68g(0.125mol)を、窒素気流下、NMP210g(不揮発分濃度が30質量%となる量に相当)中で60℃で溶解し、テトラカルボン酸二無水物a2(商品名「リカシッド TDA-100」、新日本理化株式会社製)(分子量:300.27)37.95g(0.125mol)を加えた後、100℃で3時間、さらに還流(NMPの沸点が202℃)で2時間反応を行った。末端アミンをキャップするために、無水フタル酸(分子量148.12)0.37g(0.0025mol)加え、さらに10分撹拌し、室温まで下げた。この反応終了後の溶液を後述のゲルパーミエーションクロマトグラフ測定に用いた。反応終了後の溶液に、420gのTHFを加え、希釈し、メタノール溶媒で再沈殿した。濾別し、THFで溶解させ、再度メタノールで再沈殿させた。濾別し、溶媒を飛ばしながらさらなるイミド化を行うために、200℃5時間の条件で乾燥させ、ポリイミド樹脂粉体を得た。
【0093】
実施例3
テトラカルボン酸二無水物として表1に示すテトラカルボン酸二無水物a3を0.125molで使用したこと以外は実施例2と同様にしてポリイミド樹脂粉体を作製した。
【0094】
なお、実施例1~3で得られた反応終了後の溶液について、再度のメタノールによる再沈殿させたものを乾燥させて溶剤を揮発させ、固形のポリイミド前駆体を回収した。得られたポリイミド前駆体は熱可塑性を有することが確認された。また、上記ポリイミド前駆体を引っ張ったところ、簡単に手で裂くことができ、上記ポリイミド前駆体は繊維状であり、複数の繊維が束となった繊維束であることが確認された。
【0095】
実施例4~6、比較例1~6
テトラカルボン酸二無水物およびジアミンとして表1に示す化合物をそれぞれ0.125molで使用したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂粉体を作製した。
【0096】
なお、表に示す各成分の詳細は以下の通りである。
(テトラカルボン酸二無水物)
a1:商品名「エネハイド CpODA」、ENEOS株式会社製、下記式で表される化合物
【化4】
a2:商品名「リカシッドTDA-100」、新日本理化株式会社製、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン
a3:5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物
a4:商品名「リカシッドTMGE-100」、新日本理化株式会社製、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートおよびトリメリット酸無水物の混合物
a5:p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)
a6:下記式で表される化合物
【化5】
a7:下記式で表される化合物
【化6】
a8:商品名「TBIS-RXN」、田岡化学工業株式会社製、下記式で表される化合物
【化7】
【0097】
(ジアミン)
b1:2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)
b2:3,4’-ジアミノジフェニルエーテル
b3:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
b4:ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン
b5:m-フェニレンジアミン
【0098】
<評価>
実施例および比較例で得られたポリイミド樹脂について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0099】
(1)DSC測定(Tg、Tm)
ポリイミド樹脂粉体を5mg測り取り、示差走査熱量計(型番「DSC 3+」、METTLER TOLEDO社製)を用いて、下記の温度条件にてDSC測定を行い、TgおよびTmを測定した。なお、表1中、「-」はTmのピークが現れなかったことを示す。
温度条件:30度で数分間保持し、
30℃/minにて350℃まで昇温
-30℃/minにて30℃まで下げ、
30℃/minにて350℃まで昇温、
-30℃/minにて30℃まで下げ、
30℃/minにて350℃まで昇温
【0100】
(2)10%重量減少温度
ポリイミド樹脂粉体を5mg測り取り、示差熱熱重量同時測定装置(型番「STA7200RV」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、下記温度条件にて、スタート時の重量から重量が10%減少した時の温度(10%重量減少温度)を測定した。
温度条件:30度で数分間保持し、10℃/minにて900℃まで昇温し、その後、数分間保持
【0101】
(3)イミド閉環率
ポリイミド樹脂のイミド閉環率は、下記方法により算出した。
得られた乾燥後のポリイミド樹脂粉体を、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet iS50)を使用して、赤外吸光スペクトルを測定して芳香族環由来吸光ピークA(1500cm-1)の吸光度、およびイミド結合由来吸光ピークB(1780cm-1)の吸光度を読み取った。その結果、芳香族環由来吸光ピークAが消失しており、イミド結合由来吸光ピークBが確認され、完全にイミド化されていること(イミド閉環率100%)を確認した。
【0102】
(4)ペレット成形性
上記ポリイミド樹脂粉体を用いて、下記条件で卓上混練機による溶融混練を行い、ペレット化してペレットの作製を試みた。その際のペレット成形性について、下記の評価基準で評価した。
卓上混練機:循環式卓上二軸混練機(型番「Xplore MC15HT」、Xplore Instrument社製)
混錬条件:混練温度300℃、スクリュ回転数100rpm
混錬時間:素通し
供給方法:ホッパより供給
事前乾燥:150℃、8時間程度
[評価基準]
〇:ペレットが作製できた
×:溶融せずペレットが作製できなかった
【0103】
(5)試験片の成形性
下記装置を用いて下記条件で、上記ペレット成形性の評価で得られたペレットをプレス成形に付して試験片(100×100×1mm)の作製を試みた。その際の試験片の成形性について、下記の評価基準で評価した。
装置:20t手動油圧加熱プレス(型番「ICM-4552-4」、井本製作所製)
条件:仕込み15g、設定温度300℃、余熱時間2分、加熱時荷重20kN、加圧時間10s、冷却時荷重20kN、冷却時間120秒または5時間、離型剤使用
[評価基準]
〇:冷却時間120秒の条件で試験片に割れが確認されなかった
△:冷却時間120秒の条件で試験片に割れが確認されるが、冷却時間5時間の条件は試験片に割れが確認されなかった
×:冷却時間5時間の条件で試験片に割れが確認された
【0104】
(6)MFR測定
上記ペレット成形性の評価で得られたペレットについて、160℃で2時間乾燥し、型番「メルトインデクサー120FWP」(株式会社安田精機製作所製)を用いて、下記測定条件でMFR測定を行った。
測定条件:温度337℃、荷重6.6kgf、仕込み量6g
【0105】
(7)GPC測定
上記反応時の反応終了後の溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定に付し、重量平均分子量(Mw)の測定を行った。標準ポリスチレン換算の重量平均分子量の値である。GPC測定の条件は下記の通りである。
カラム:ShodexLF-804、LF-804を直列に接続
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出:RID-6A
試料:20mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解させたサンプル
【0106】
(8)光透過率
上記試験片の成形性の評価で得られた試験片について、型番「UV-3600i」(株式会社島津製作所製)を用いて波長400~2600nmの範囲の光透過率を測定した。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示されるように、実施例のポリイミド樹脂粉体は、Tgが高く耐熱性に優れていると評価された。また、いずれの実施例のポリイミド樹脂粉体も、加熱によりペレット化が可能であり、熱可塑性を有することが確認され、加工性に優れると評価された。中でも、実施例2,3の試験片の成形性は実施例1よりも優れており、より加工性に優れると評価された。また、実施例1~3の試験片の光透過率測定で得られた、波長と光透過率の関係を示すグラフを図1に示す。図1に示すように、実施例2,3の試験片は、波長850nm、1310nm、および1550nmの光透過率が80%以上であり、特に光透過性に優れると評価された。
【0109】
一方、エステル基の間にアルキル鎖やベンゼン環を含み、ベンゼン環が3個以下であるテトラカルボン酸二無水物を用いた場合(比較例1,2)、Tgが低く耐熱性が劣ると評価された。また、脂環構造を有さずベンゼン環を4個以上有するテトラカルボン酸二無水物を用いた場合(比較例3~5)、および、ジアミンとして式(2)で表される化合物に該当しないものを使用した場合(比較例6)、450℃以下で溶解せずペレット化が困難であり、加工性に劣ると評価された。比較例3~6のポリイミド樹脂は、450℃以下で溶解せず熱可塑性を有しない可能性があると評価された。
【0110】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるジアミン(B)に由来する構造単位とを有する、熱可塑性ポリイミド樹脂。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
[付記2]ガラス転移温度は200℃以上である付記1に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
[付記3]粉体である付記1または2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
[付記4]テトラカルボン酸二無水物(A)は環状酸無水物構造を有し、前記脂環構造と少なくとも1つの前記環状酸無水物構造とは単結合または連結基を介して結合している、付記1~3のいずれか1つに記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
[付記5]前記脂環構造は3~6員環の単環構造である付記1~4のいずれか1つに記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
[付記6]前記式(1)中のR1は2個の芳香族炭化水素環がジメチルメチレン基を介して結合した二価の基である付記1~5のいずれか1つに記載の熱可塑性ポリイミド樹脂。
[付記7]脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物(A)と、下記式(1)で表されるジアミン(B)との縮重合体であり繊維状である熱可塑性ポリイミド前駆体。
【化1】
[式(1)中、X1は単結合、エーテル結合、カルボニル結合、またはエステル結合を示し、R1は二価の有機基を示し、mは0以上の整数を示す]
[付記8]テトラカルボン酸二無水物(A)は環状酸無水物構造を有し、前記脂環構造と少なくとも1つの前記環状酸無水物構造とは単結合または連結基を介して結合している、付記7に記載の熱可塑性ポリイミド前駆体。
[付記9]前記脂環構造は3~6員環の単環構造である付記7または8に記載の熱可塑性ポリイミド前駆体。
[付記10]前記式(1)中のR1は2個の芳香族炭化水素環がジメチルメチレン基を介して結合した二価の基である付記7~9のいずれか1つに記載の熱可塑性ポリイミド前駆体。
[付記11]付記7~10のいずれか1つに記載の熱可塑性ポリイミド前駆体を含み、硬化促進剤を実質的に含まない、組成物。
[付記12]付記1~6のいずれか1つに記載の熱可塑性ポリイミド樹脂の成形物。
[付記13]付記12に記載の成形物を備える光学機器。
図1