IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 冨士色素株式会社の特許一覧 ▶ GSアライアンス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004508
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】発電システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/06 20160101AFI20250107BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20250107BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20250107BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20250107BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20250107BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20250107BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20250107BHJP
   B01J 31/34 20060101ALI20250107BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250107BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20250107BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20250107BHJP
   C25B 1/55 20210101ALI20250107BHJP
   C25B 3/21 20210101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M8/06
H01M8/12 101
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/1246
H01M8/0606
B01J35/02 J
B01J31/34 M
B01J31/34 Z
C25B1/04
C25B3/07
C25B3/03
C25B1/55
C25B3/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104236
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【テーマコード(参考)】
4G169
4K021
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4G169AA04
4G169BA08A
4G169BA21A
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA32A
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB09A
4G169BB11A
4G169BB15A
4G169BC29A
4G169BC60B
4G169BC70B
4G169BD01B
4G169BD04B
4G169BD06B
4G169BE16B
4G169CB02
4G169CB62
4G169CB70
4G169CB72
4G169CB74
4G169CC32
4G169DA05
4G169HB06
4G169HB10
4G169HC27
4G169HD03
4G169HE10
4G169HE20
4K021AA01
4K021AC05
4K021AC09
4K021BA02
4K021BA17
4K021DA13
4K021DB18
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG12
5H126GG13
5H126JJ08
5H127AA07
5H127AC15
5H127BA11
5H127BA41
5H127EE12
(57)【要約】
【課題】CO由来の燃料を用いて効率的に発電することができ、また、電池材料の劣化による発電効率の低下を来し難い発電システム及び発電方法を提供すること。
【解決手段】光還元触媒を備える燃料供給部であって、該光還元触媒が金属錯体、金属有機構造体、硫化物半導体、窒化物半導体、炭化物半導体、有機半導体、半導体系量子ドット、及び炭素系量子ドットからなる群より選択される1種以上の素材を含む、燃料供給部、並びに、燃料供給部の後段に配置された固体酸化物形燃料電池部を備える、発電システム。当該発電システムを使用して、水及び/又は二酸化炭素から電気エネルギーを生成する発電方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光還元触媒を備える燃料供給部であって、該光還元触媒が金属錯体、金属有機構造体、硫化物半導体、窒化物半導体、炭化物半導体、有機半導体、半導体系量子ドット、及び炭素系量子ドットからなる群より選択される1種以上の素材を含む、燃料供給部、並びに、
前記燃料供給部の後段に配置された固体酸化物形燃料電池部
を備える発電システム。
【請求項2】
前記光還元触媒が、遷移金属酸化物と前記金属錯体との金属錯体複合酸化物、又は前記金属有機構造体を含む、請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記固体酸化物形燃料電池部が、ジルコニア系、イットリア系、ランタンシリケート系、ランタンガレート系、セリア系、バリウム-ジルコニア複合系、プロトン伝導性のペロブスカイト型酸化物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む電解質を備える、請求項1に記載の発電システム。
【請求項4】
前記燃料供給部と前記固体酸化物形燃料電池部との間に、酸除去装置をさらに備える、請求項1に記載の発電システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電システムを使用する発電方法であって、
前記燃料供給部に水及び/又は二酸化炭素を導入しながら、前記光還元触媒に波長280~980nmの光を照射して電池用燃料を生成する工程、及び
前記電池用燃料を前記固体酸化物形燃料電池部に導入しながら、当該固体酸化物形燃料電池部を500~1000℃の温度に加熱して電気エネルギーを生成する工程
を含む、発電方法。
【請求項6】
前記電池用燃料が、水性溶液及び/又はその気化物として前記固体酸化物形燃料電池部に導入される、請求項5に記載の発電方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電システムに関する。具体的には、特定の光還元触媒を備える燃料供給部と、その後段に配置された固体酸化物形燃料電池部とを備える、発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、太陽光等の光エネルギーを活用して、水や二酸化炭素から水素等の燃料や炭化水素等の有機物を合成する技術、あるいは電気エネルギーを得る技術が検討されている。こうした技術は、エネルギー資源の枯渇や二酸化炭素による地球温暖化等を回避する観点から、近年さらに重要性を増しており、様々な検討結果が報告されている。
【0003】
例えば特許文献1には、太陽電池から供給される電力によって電解槽中の原水を電気分解し、生成した水素を燃料電池の燃料として使用する技術が開示されている。特許文献2には、WOやTiO等の光触媒を備えたアノードに光を照射して水を光分解し、得られた水素をカソードで化学反応させて電力を得る、いわゆる光燃料電池の一種が開示されている。
【0004】
特許文献3には、酸化アルミニウム微粒子の多孔質層に、色素、メチルビオローゲン、及びギ酸脱水素酵素を担持させてなる、水素イオン、電子、及び二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するためのギ酸生成デバイスが開示されている。ギ酸は飼料添加物や肥料原料となる他、水素源として活用し得る有用な化学物質であり、燃料電池等への応用も期待できる。例えば貯蔵したギ酸を使って水素を発生させ、次いで燃料電池部に導入する発電システムに適用することも可能である。
【0005】
非特許文献1には、光電気化学的な二酸化炭素還元によってメタンを合成するための触媒が開示されている。メタンは都市ガス等の燃料として有用な上、水素源としても活用することができる。非特許文献1で開示された触媒反応の幾つかでは、水素が主生成物となるため、汎用の固体高分子型燃料電池等への直接的な適用も期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-197167号公報
【特許文献2】特開2014-123554号公報
【特許文献3】特開2018-117576号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B. Zhou, et al.,PNAS,117(3),2020年,1330~1338頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、光合成のような光触媒反応によって得られた水素やメタン等の化学物質を、燃料電池に使用して発電するシステムが検討されているが、システム全体での発電効率や二酸化炭素(CO)の再資源化の点で、未だ改善の余地がある。例えば特許文献1記載のように水を電気分解して生成する水素を用いる燃料電池システムでは、COをエネルギー資源として用いることができない。また、水の電気分解に電力を使用しており、システム全体での発電効率にも疑問が持たれる。
【0009】
特許文献2記載の発明のようにアノードへの光照射によって水を分解するシステムであれば、発電効率の改善は期待できる。しかし、特許文献1記載の発明と同様、COを資源化できない。一方でCOを原料に用いると、WOやTiO等の光触媒系では反応効率が低くなりがちである。また、CO等が副生し、これが燃料電池の触媒や電解質の劣化原因となるため、汎用の固体高分子形燃料電池には、そのままでは適用できない。
【0010】
特許文献3や非特許文献1記載の技術によれば、COを原料として使用することは可能となる。しかし、ギ酸やメタンから燃料電池用の水素を得ようとすると、一旦取り込んだCOが全て遊離するため、COの資源化には繋がらない。また、これら技術においては、使用する光触媒の種類によってはCOが副生するため、燃料電池の触媒や電解質を被毒するおそれがある。近年はギ酸を直接の燃料とするギ酸燃料電池も開発されているが、ギ酸燃料電池も白金等の貴金属を触媒として使用するため、副生したCOによって劣化を来すおそれがある。このように、光還元触媒の種類と燃料電池のタイプとの組み合わせが不適切だと、COの有効活用ができないだけでなく、発電効率自体も低下してしまうおそれがある。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決すべく、CO由来の燃料を用いて効率的に発電することができ、電池材料の劣化による発電効率の低下を来し難い発電システム、及び発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、光還元触媒として金属錯体を始めとする特定の素材を採用し、燃料電池として固体酸化物形燃料電池を採用して、この両者を組み合わせることにより、CO由来の燃料、例えばギ酸を用いて効率的に発電することができ、しかも電池材料の劣化による発電効率の低下を来し難い発電システム及び発電方法を提供し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、以下の(1)~(6)を提供する。
(1)光還元触媒を備える燃料供給部であって、該光還元触媒が金属錯体、金属有機構造体、硫化物半導体、窒化物半導体、炭化物半導体、有機半導体、半導体系量子ドット、及び炭素系量子ドットからなる群より選択される1種以上の素材を含む、燃料供給部、並びに、
前記燃料供給部の後段に配置された固体酸化物形燃料電池部
を備える発電システム。
(2)前記光還元触媒が、遷移金属酸化物と前記金属錯体との金属錯体複合酸化物、又は前記金属有機構造体を含む、上記(1)の発電システム。
(3)前記固体酸化物形燃料電池部が、ジルコニア系、イットリア系、ランタンシリケート系、ランタンガレート系、セリア系、バリウム-ジルコニア複合系、プロトン伝導性のペロブスカイト型酸化物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む電解質を備える、上記(1)又は(2)の発電システム。
(4)前記燃料供給部と前記固体酸化物形燃料電池部との間に、酸除去装置をさらに備える、上記(1)~(3)のいずれかの発電システム。
(5)上記(1)~(4)のいずれかの発電システムを使用する発電方法であって、
前記燃料供給部に水及び/又は二酸化炭素を導入しながら、前記光還元触媒に波長280~980nmの光を照射して電池用燃料を生成する工程、及び
前記電池用燃料を前記固体酸化物形燃料電池部に導入しながら、当該固体酸化物形燃料電池部を500~1000℃の温度に加熱して電気エネルギーを生成する工程
を含む、発電方法。
(6)前記電池用燃料が、水性溶液及び/又はその気化物として前記固体酸化物形燃料電池部に導入される、上記(5)の発電方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の発電システム及び発電方法によれば、CO由来の燃料を用いて効率的に発電することができる。また、電池材料の劣化も起こり難いため、発電効率の低下を来し難い利点が生じる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明は、光還元触媒を備える燃料供給部であって、該光還元触媒が金属錯体、金属有機構造体、硫化物半導体、窒化物半導体、炭化物半導体、有機半導体、半導体系量子ドット、及び炭素系量子ドットからなる群より選択される1種以上の素材を含む、燃料供給部、並びに、燃料供給部の後段に配置された固体酸化物形燃料電池部を備える発電システムである。
【0017】
本発明はまた、上記の発電システムを使用する発電方法であって、燃料供給部に水及び/又は二酸化炭素を導入しながら、光還元触媒に波長280~980nmの光を照射して電池用燃料を生成する工程、及び当該電池用燃料を固体酸化物形燃料電池部に導入しながら、当該固体酸化物形燃料電池部を500~1000℃の温度に加熱して電気エネルギーを生成する工程を含む、発電方法である。
【0018】
ここで、光還元触媒として金属錯体、金属有機構造体、硫化物半導体、窒化物半導体、炭化物半導体、有機半導体、半導体系量子ドット、及び/又は炭素系量子ドットを;燃料電池として固体酸化物形燃料電池をそれぞれ採用し;両者を組み合わせることが、本発明の重要な要件である。光還元触媒として例えば酸化チタンのような汎用の金属酸化物を単独で用いても、光還元、特に可視光での光還元による燃料の生成効率が低く、システム全体の発電効率を高められない場合がある。また、光還元効率の良い触媒系を選定しても、多くの場合COやギ酸等が生成するため、後段に適切な燃料電池を配置しないと、電池部材の劣化による発電効率の低下を来すおそれがある。
【0019】
例えば一般的な固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池では、電極触媒の白金がCOによって被毒するため、燃料を導入前に改質する必要がある。それ故、燃料供給部の光還元効率が高くても、それをシステム全体の発電効率向上に生かし切れない場合がある。溶融炭酸塩形燃料電池では、COによる悪影響はないものの、電解質のアルカリ金属炭酸塩がギ酸等によって劣化するおそれがある。ギ酸燃料電池等においても、一般に白金系の電極が用いられるため、高効率だがCOが副生し得る触媒系と、改質器なしで組み合わせることはリスクを伴う。一方で固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、メタン等の炭化水素は勿論、COやギ酸等も直接導入できるため、光還元効率の良い触媒系を何ら制限なく組み合わせることが可能で、燃料の改質器も必要としない。SOFC自体が発電効率に優れることと併せ、触媒系の高い光還元効率を生かした高い発電効率を実現し得る。
【0020】
以下では、本発明を実施形態に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0021】
≪発電システム≫
本実施形態の発電システムは、特定の光還元触媒を備える燃料供給部と、その後段に配置された固体酸化物形燃料電池部とを備える。以下では、理解を容易にするため、燃料供給部と固体酸化物形燃料電池部とに分けて説明するが、本発明は燃料供給部と固体酸化物形燃料電池部とのみを別々に備える実施形態に限定されない。例えば、燃料供給部の後段に固体酸化物形燃料電池部が直結し、さらには一体化したような実施形態であってもよく、また、両者の間に酸除去装置や電池用燃料の予備加熱装置等の部材が配置されていてもよい。さらに、酸除去装置以外の他の部材を備える実施形態や、燃料供給部と固体酸化物形燃料電池部のいずれか又は両者を複数備える実施形態とすることもできる。
【0022】
<燃料供給部>
本実施形態の発電システムにおいて、燃料供給部は後段の固体酸化物形燃料電池部に供給する燃料を調製する部材である。当該燃料供給部は、金属錯体、金属有機構造体、硫化物半導体、窒化物半導体、炭化物半導体、有機半導体、半導体系量子ドット、及び炭素系量子ドットからなる群より選択される1種以上の光還元触媒を備える。これらの光還元触媒は、一般に酸化チタン等の金属酸化物系触媒に比べて光還元効率が高いため、燃料電池用の燃料を良好な収率で調製することができる。
【0023】
金属錯体や半導体等の種類に特に制限はなく、ルテニウムの二核ビピリジン錯体やレニウムとビピリジン及びカルボニル等との錯体を始めとする遷移金属ビピリジン錯体、亜鉛やアルミニウムのテトラフェニルポルフィリン錯体等のポルフィリン系金属錯体;各種金属有機構造体;硫化カドミウム、硫化亜鉛、硫化モリブデン等の硫化物半導体;窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化タンタル、タンタルオキシナイトライド等の窒化物半導体;炭化ケイ素等の炭化物半導体;ペンタセン、アントラセン、ルブレン、テトラシアノキノジメタン、ポリアセチレン、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン等の有機半導体;アルミニウムガリウムひ素、インジウムガリウムひ素、硫化鉛、テルル化亜鉛等の半導体系量子ドット;グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー等の炭素系量子ドット、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本実施形態における燃料供給部においては、上記のような光還元触媒が複数種組み合わされていてもよい。また、上記光還元触媒の内でも、金属錯体及び/又は金属有機構造体を含む触媒系、例えば遷移金属酸化物と金属錯体との金属錯体複合酸化物を含む触媒系、金属有機構造体を主体とする触媒系、金属有機構造体と金属錯体又は量子ドットとを含む触媒系が好ましい。これらの触媒は特に光還元効率が高く、発電システム全体としての発電効率を、さらに改善することができる。
【0025】
〔金属錯体複合酸化物〕
金属錯体複合酸化物とは、遷移金属の酸化物と上記したような金属錯体との複合物である。TiO等の遷移金属酸化物を単独で触媒として用いても、COの光還元効率は低いレベルに止まることも多いが、金属錯体との複合物として用いると、高い光還元効率を、従って高い発電効率を示し得る。ここで、遷移金属酸化物と金属錯体との複合の形態に特に制限はなく、遷移金属酸化物粉末や粒子の表面に金属錯体が付着しただけの形態であってもよく、両者が静電的に又は化学的に結合した形態であってもよい。
【0026】
(遷移金属酸化物)
金属錯体複合酸化物を形成する金属酸化物は、遷移金属の酸化物であればどのような化合物であってもよい。尚、「遷移金属」については、広くdブロック元素の金属全てを指す場合や、d軌道が部分的に電子で占められた第3族~第11族元素、あるいはさらに狭く、第3族~第10族元素のみを指す場合があるが、本実施形態では最も広い意味で使用し、例えばTiOやSrTiO、KLaTi10、ZrO、KNb17、BiVO、Ta等の汎用の酸化物半導体も包含する。
【0027】
本実施形態では、好ましくは4d~5dブロック元素の遷移金属又は第6族~第12族の遷移金属の酸化物を使用する。これら金属酸化物は、後記する金属錯体と複合された場合に、特に高い光還元効率を示す傾向がある。より好ましい酸化物として、第6族~第9族の4d~5dブロック元素の酸化物、例えばMoO、MoO、RuO、RuO、Ru、Rh、RhO、WO、WO、W11、W1029、ReO、ReO、Re、Re、OsO、OsO、IrO、Ir、さらにはモリブデン酸やタングステン酸系の化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。酸素と共に、ハロゲン等の他元素が遷移金属原子に結合したものであってもよい。
【0028】
(金属錯体複合酸化物の形成)
上記のような遷移金属酸化物と金属錯体とに基づき、触媒用の金属錯体複合酸化物を形成することができるが、その調製方法に特に制限はない。例えば、遷移金属酸化物の粉末と金属錯体の粉末とをドライブレンドしてもよく、また、遷移金属酸化物粉末の表面に金属錯体の溶液を付与した後、乾燥させてもよい。ここで、遷移金属酸化物は微粉末であることが好ましい。
【0029】
(形成用の金属錯体)
金属錯体複合酸化物の形成には、例えば光還元触媒として例示した遷移金属ビピリジン錯体等の、種々の金属錯体を使用することができる。好ましくは、イソシアネート類、チオシアネート類、ピラジン類、テレフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸類、ジカルボキシビピリジン類、トリカルボキシターピリジン類等の、分子の両側にヘテロ原子を有する配位子を含んだ金属錯体を使用する。具体的にはチオシアネートやターピリジン-トリカルボキシレートとRu、Rh、Os、Irとの錯体等であるが、これらに限定されない。こうした錯体では、配位子の一方のヘテロ原子が金属原子と結合して錯体を形成すると共に、もう一方のヘテロ原子で遷移金属酸化物と結合又は相互作用し得るため、遷移金属酸化物との電子の授受が容易になり得る。その結果、触媒反応における光還元効率をさらに高めることが可能となる。
【0030】
〔金属有機構造体〕
高い光還元効率は、金属有機構造体でも発現し得る。金属有機構造体とは、金属イオンと有機配位子が配位結合形成を介して秩序だって整列し、三次元骨格構造を形成した高分子化合物である。金属錯体の一種ではあるが、高分子錯体であるため、本実施形態ではビピリジン錯体等の一般的な錯体と区別して扱うこととする。金属有機構造体は、金属有機骨格材料、多孔性金属錯体、多孔性配位高分子などとも呼ばれ、metal-organic frameworkやporous coordination polymerの頭文字をとってMOFやPCPとも略記される。本願明細書においても、以下で「MOF」の略称を使用することがある。
【0031】
MOF(PCP)は、典型的には1種以上の金属イオンが、1種以上の連結部分によって連結された1種以上の繰り返し単位(コア)を有する。連結部分は、典型的には二座以上の配位子(多座配位子)であるが、連結クラスターを介して、1個または複数の金属原子と結合する単座及び二座以上の配位子を包含する。ここで、連結クラスターとは、連結部分と金属とを、又は1つの連結部分と他の連結部分とを結合可能な、後記するイミンやカルボキシ基等の反応種である。MOFにおいては、互いに連結された複数のコアによって骨格が規定されるが、これら骨格は均一な繰り返しコア構造と不均一な繰り返しコア構造のいずれを含んでもよい。MOFは、配位子の選択や中心金属の配位形態によってトポロジーを制御することができるので、孔サイズの制御や機能化を精密に行うことのできる次世代材料としても注目されている。
【0032】
MOFは殆ど全ての金属と多座配位子とから形成することができ、例えばテレフタル酸とジルコニウムから形成されるUiO-66等が市販もされている。本実施形態においてもどのような構造のMOFを使用することも可能である。複数種の金属原子が含有されていてもよい。こうしたMOFの内でも、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、レニウム、ルテニウム等の遷移金属、及び/又はアルミニウム、スズ、鉛等の典型金属で形成された錯体が好ましい。これら金属のイオン、例えばAl3+、特にTi4+、Mn4+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Zr4+、Mo4+、Mo6+、W6+、Re5+、Ru3+等の遷移金属のイオンは、安定で光還元効率に優れるMOFを形成し易い。
【0033】
MOFを形成する配位子にも、特に制限はない。例として3-ピリジルトリアジン、4-ピリジルトリアジン、イソシアネート類、イミダゾール類、ビピリジン類、ターピリジントリカルボキシレート等のターピリジン類、ビスターピリジン、トリスターピリジン、ジアザ化合物、ピラジン及びその誘導体、クリプテート類、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸等が挙げられるが、本発明で使用するMOFはこれら配位子から成るものに限定されない。複数種の配位子を有していてもよい。
【0034】
多座配位子と共に、単座配位子、例えばヒドロキシアニオン、シアノアニオン、カルボニル(CO)、ホスフィン等を有していてもよく、アルキル基やフェニル基等の有機基が金属原子に直接結合した、狭義の有機金属錯体であってもよい。より好ましくは、3-ピリジルトリアジン、4-ピリジルトリアジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、アルキルイミダゾール、及び/又はビピリジン、特にメチルイミダゾールを配位子とするMOFを使用する。またゼオライト型イミダゾール骨格材料(ZIF)を、MOFとして使用することもできる。
【0035】
また、上記の連結クラスターとしては、先に挙げた配位子に含まれるイミン系の含窒素基や-COOHの他に、例えば-CSH、-NO、-SOH、-Si(OH)、-Ge(OH)、-Sn(OH)、-Si(SH)、-Ge(SH)、-Sn(SH)、-POH、-AsOH、-AsOH、-P(SH)、-As(SH)、-CH(RSH)、-C(RSH)、-CH(RNH、-C(RNH、-CH(ROH)、-C(ROH)、-CH(RCN)、-C(RCN)、-CH(SH)、-C(SH)、-CH(NH、-C(NH、-CH(OH)、-C(OH)、-CH(CN)、-C(CN) 等(Rはアルキル基又はアリール基である)を挙げることができる。
【0036】
尚、MOFは例えば、特開2007-534896号公報、特開2009-519116号公報、特開2009-528251号公報、特開2011-042881号公報、特開2011-064336号公報、特開2016-102037号公報、特開2016-178005号公報、米国特許第5648508号公報、米国特許第7196210号公報、欧州特許公開EP0790253A2号公報、ドイツ特許公開DE10111230A1号公報、欧州特許公開EP1785428A1号公報等に記載されており、市販もされている。MOFの詳細については、これら公報や市販品のカタログを参照することができる。
【0037】
上記のようなMOFの中でも、Ti、Mn、Ni、Cu、Zr、Re、W、Ru等の金属を含むMOFは、概して光還元効率が高く、本実施形態における光還元触媒として好適である。具体例として、Ru、W、及びチオシアネート等から形成されるMOF;さらにピリジン系の配位子、例えばピリジンカルボン酸、ジカルボキシビピリジン、トリカルボキシターピリジン等から形成されるMOF;Zr、O、OH、カルボン酸類、例えばテレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸等から形成されるMOF;Fe及び/又はCrとカルボン酸等とから形成されるMOF;Pb及びS等から形成されるMOF等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
好適なMOFのより具体的な例としては、例えばZr(OH)(フマレート)(CHCOO):MOF-801、Zr(OH)(ベンゼントリカルボキシレート)(CHCOO):MOF-808、Zr(OH)(テレフタレート):UiO-66、Zr(OH)(ジフェニルジカルボキシレート):UiO-67、Al(ビピリジンジカルボキシレート)(OH):MOF-253、Fe(OH)(テレフタレート):MIL-53(Fe)、Al(OH)(テレフタレート):MIL-53(Al)、FeO(テレフタレート)(HO)(CHCOO):MIL-88(Fe)、CrO(テレフタレート)(HO)(CHCOO):MIL-88(Cr)、FeO(テレフタレート)(HO)X:X=OH、Cl:MIL-101(Fe)、CrO(テレフタレート)(HO)X:X=OH、Cl:MIL-101(Cr)、ZnO(テレフタレート):MOF-5、Mg(ジヒドロキシテレフタレート):MOF-74(Mg)、Zn(ジヒドロキシテレフタレート):MOF-74(Zn)、ZnO(ベンゼントリベンゾエート):MOF-177、Cu(ビフェニルテトラカルボキシレート):MOF-505、ZnO(アミノテレフタレート):IRMOF-3、ZnO(シクロブチルテレフタレート):IRMOF-6、ZnO(テトラヒドロピレンジカルボキシレート):IRMOF-8、ZnO(ターフェニルジカルボキシレート):IRMOF-11、Zn(ベンズイミダゾレート):ZIF-7、Co(ベンズイミダゾレート):ZIF-9、Zn(ベンズイミダゾレート):ZIF-11、Zn(ベンズイミダゾレート)(ニトロイミダゾレート):ZIF-68、Zn(シクロベンズイミダゾレート)(ニトロイミダゾレート):ZIF-69、Zn(イミダゾレート)(ニトロイミダゾレート):ZIF-70、Zn(メチルベンズイミダゾレート)(ニトロイミダゾレート):ZIF-79、Zn(ブロモベンズイミダゾレート)(ニトロイミダゾレート):ZIF-81、Zn(シアノイミダゾレート)(ニトロイミダゾレート):ZIF-82、Zn(イミダゾレートカルボキシアルデヒド):ZIF-90等が挙げられるが、本実施形態で使用し得るMOFは、これらに限定されない。
【0039】
本実施形態においては、上記のようなMOFから、目的に応じた適切なものを選定することができるが、より好ましくは、2種の金属を含有するMOFを光還元触媒として使用するか、あるいは1種もしくは2種以上の金属を含有するMOFと一般的な金属錯体、例えばビピリジン錯体等とを併用する。光還元反応においては、金属錯体、例えばビピリジンやターピリジンのルテニウム錯体等が、MOFの、特にAl等の典型金属を含有するMOFの増感剤の役割を果たす場合がある。尚、MOFと金属錯体とを併用する場合、それぞれが異なる金属を含有することが好ましい。また、少なくとも一方の金属は遷移金属であることが好ましい。このように複数種の金属を含有する触媒系、特に遷移金属を含有する触媒系であれば、光還元効率をさらに高めることが可能となる。他にも、量子ドットがMOFの増感剤の役割を果たす場合もあり、これらを併用することもできる。
【0040】
〔燃料供給部の構成〕
本実施形態における燃料供給部は、上記のような光還元触媒を備えていれば、どのような構造とすることもできる。例えば、光還元触媒が表面に担持された多孔質体や管状物、シート状物、繊維状物、具体的には不織布等で構成されていてもよく、また、光還元触媒が溶解もしくは分散された液状物で構成されていてもよい。特に光還元触媒が比較的安定な金属錯体や金属有機構造体(MOF)等であれば、これらを例えば水に溶解又は分散させ、そこにCOをバブル等して導入することにより、後段のSOFC用の燃料を調製することもできる。光還元反応の主生成物がメタノールやギ酸である場合、これらは水溶性であるため、生成した燃料を水性溶液の形で後段のSOFCに導入してもよい。また、主生成物が水素やメタンの場合は、例えば生成した気体燃料を燃料供給部上部から採取して、固体酸化物形燃料電池部へと導入することも可能である。
【0041】
<固体酸化物形燃料電池部>
本実施形態において、上記燃料供給部の後段には、固体酸化物形燃料電池部が配置される。固体酸化物形燃料電池自体は公知であり、本実施形態においても、慣用のSOFCのどのようなタイプのものをも使用することができる。
【0042】
〔固体酸化物形燃料電池〕
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、固体酸化物からなる電解質と、空気極(カソード)及び燃料極(アノード)とを備える。単セル間を接続する、インターコネクタをさらに備えてもよい。インターコネクタの材料としては、一般にLaCrOやSrTiO等のペロブスカイト型酸化物が使用される。
【0043】
SOFCの空気極には、希土類と3d遷移金属からなるペロブスカイト型酸化物LnMO(Ln=La,Pr,Sm等;M=Mn,Fe,Co等)、NdとBaとCoの複合酸化物、SmとCeの複合酸化物、SmとSrの複合酸化物、SrとCoの複合酸化物、BaとSrとCoとFeの複合酸化物、又はCaとCeとFeの複合酸化物等に基づく材料が;燃料極には、高い水素酸化活性を示すNiに基づく材料、例えば金属ニッケルや酸化ニッケル、それらとジルコニアやセリア等の他の金属酸化物との複合材、又はCeとGdの複合酸化物、YとTiとZrの複合酸化物(YZT)、LaとSrとCrとMnの複合酸化物(LSCM)、AlとMnとZnの複合酸化物(AMZ)、SmとCeの複合酸化物等が用いられる場合が多いが、本実施形態で使用されるSOFCはこれらに限定されない。
【0044】
SOFCは燃料電池の中でも運転温度が高いため、電極反応抵抗が低く、発電効率が良好である。また、白金系触媒を電極に用いる必要がなく、酸化物イオン伝導体を使用するため、燃料の多様化が容易という利点を有する。例えばCOやギ酸を含有する燃料であっても、直接用いることができる。そのため、固体高分子形等の他の燃料電池に比べて改質システムを簡略化もしくは省略し得る。また、材料を全て固体として、セル構造を簡素化し、腐食性液体による劣化を防ぐことも可能で、長寿命の燃料電池とすることもできる。
【0045】
(電解質)
SOFCの電解質として最も一般的な材料は、ジルコニア系酸化物、例えばZrOである。それにイットリアやスカンジアをドープした材料、セリア系材料等も多用される。本実施形態においては、例えばジルコニア系、イットリア系、ランタンシリケート系、ランタンガレート系、セリア系、バリウム-ジルコニア複合系、プロトン伝導性のペロブスカイト型酸化物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む電解質を、固体酸化物形燃料電池部で好適に使用することができる。これら化合物に、さらにマグネシウムやアルミニウム等をドープしてもよい。こうした材質の電解質を備えるSOFCであれば、劣化がさらに抑制され、また、発電効率をさらに高めることが可能となる。特に、マグネシウム等をドープしたランタンシリケート系が好ましい。
【0046】
(セル構造)
SOFCの代表的なセル構造は、平板型と円筒型の2種に大別できる。平板型は、空気極、電解質、燃料極を、さらには燃料や空気のマニホールド、各極の集電体等を平板状に積層した構造である。円筒型はさらに、多孔性絶縁基体管上に多数の小セルを直接に配した円筒横縞型と、軸方向にインターコネクタを配した円筒縦縞型とに分類される。いずれの円筒型SOFCにおいても、菅の内側と外側のどちらか一方に燃料が、もう一方に空気(酸素)が供給される。本実施形態においては、固体酸化物形燃料電池部として、どのタイプのSOFCを使用してもよい。
【0047】
<他部材>
本実施形態においては、上記のような固体酸化物形燃料電池部を、燃料供給部の後段に直結させてもよいが、それ以外の部材を配置することもできる。例えば、燃料供給部と固体酸化物形燃料電池部との間に、燃料浄化用の部材をさらに備えていてもよい。上記のようにSOFCでは燃料の多様化が容易である上、本実施形態では燃料として前段の光還元反応の生成物を使用するため、浄化用の部材は通常は不要である。しかし、ハロゲン系ガス、NO、SO、その他硫黄系化合物を除去するための装置、例えば酸除去装置を、固体酸化物形燃料電池部の前段に配置することも可能である。さらにその他に、脱硫装置等の浄化用部材を、例えば燃料供給部の前段に付してもよい。また、CO等の回収装置を、固体酸化物形燃料電池部の後段に配置することもできる。
【0048】
〔酸除去装置〕
本実施形態の発電システムは、上記のように燃料供給部と固体酸化物形燃料電池部との間に、酸除去装置をさらに備える構成としてもよい。固体酸化物形燃料電池部に導入する燃料中のハロゲン化水素、NO、SO等を酸除去装置によって取り除くことにより、SOFCの劣化抑制が容易となる。燃料がギ酸等のカルボン酸類を含有する場合には、これらを酸除去装置によって例えばカルボン酸塩の形で分離し、飼料や肥料として活用すると共に、酸除去後の水素やメタン等を主成分とする燃料を用いて発電を行い、COをより効率的に活用することも可能である。
【0049】
本実施形態で使用し得る酸除去装置にも、特に制限はない。例えば燃料供給部で調製された燃料を、モレキュラーシーブ、ゼオライト、アルカリ性の粉末や粒状物等を備えたフィルターや管状物に通じる構成であってもよく、燃料ガスをアルカリ性の溶液や懸濁液にバブルする構成であってもよい。ここで、アルカリ性物質として炭酸カルシウム、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、もしくは食品工場から多量に廃棄される卵殻の粉末等を用いると、燃料が気体であっても液状であっても適用が容易で、しかも回収したギ酸カルシウム等をそのまま飼料や肥料として利用することも可能となるため、資源回収効率の観点からも有益となる。
【0050】
≪発電方法≫
上記のような発電システムを使用することにより、二酸化炭素等から電気エネルギーを効率よく生成することができる。本発明はまた、これら発電システムを用いる発電方法を包含する。以下ではこうした発電方法について、好ましい実施形態に基づき説明する。
【0051】
本実施形態の発電方法は、上記の発電システムを使用する発電方法であって、燃料供給部に水及び/又は二酸化炭素を導入しながら、光還元触媒に波長280~980nmの光を照射して電池用燃料を生成する工程、及び、電池用燃料を固体酸化物形燃料電池部に導入しながら、当該固体酸化物形燃料電池部を500~1000℃の温度に加熱して電気エネルギーを生成する工程を含む、発電方法である。
【0052】
〔燃料生成工程〕
電池用燃料を生成する工程では、燃料供給部中の光還元触媒に、水及び/又は二酸化炭素を接触させながら波長280~980nmの光を照射することにより、光還元反応が進行する。例えば燃料供給部に導入された水から水素が、二酸化炭素からメタノール、ギ酸、ホルムアルデヒド、さらにはメタン等の炭化水素類が、触媒反応によって生成する。
【0053】
燃料生成工程においては、目的とする電池用燃料の組成(水素、メタン、ギ酸等のいずれを主成分とするか)や、光還元触媒の種類等に応じて、燃料供給部に導入する水及び/又は二酸化炭素の比率や量を変動させることができる。例えば、水素を主体とする電池用燃料を調製する場合には専ら水を、ギ酸を主体とする電池用燃料を調製する場合には専ら二酸化炭素を、燃料供給部に導入すればよい。また、燃料供給部中の光還元触媒を水等の水性溶媒に分散させ、そこに二酸化炭素を導入することによって、水と二酸化炭素の双方を反応用原料とすることもできる。導入前の水や二酸化炭素を、酸除去装置やモレキュラーシーブ等に通じ、純度を高めてもよい。
【0054】
光還元触媒に照射する光も、波長が280~980nmの範囲内であればどのようなものであってもよい。例えば、太陽光をそのまま、又はレンズや凹面鏡等で集光して照射することができ、あるいはLED等の照射光を用いることもできる。尚、光還元触媒が金属錯体及び/又は金属有機構造体を含む場合、照射光の波長が300~800nm、特に360~540nm程度の範囲内にあると、光還元反応が特に進行し易くなる傾向があり、好ましい。また、反応をさらに促進する上で、光還元触媒周辺の温度を例えば5~90℃、特に20~50℃程度に保持してもよい。
【0055】
〔燃料の導入〕
本実施形態の発電方法においては、上記のようにして調製した電池用燃料を次に固体酸化物形燃料電池部に導入するが、その導入、燃料供給部から固体酸化物形燃料電池部への移送の方法に、特に制限はない。例えば、燃料供給部の後段に固体酸化物形燃料電池部を直結させて、調製直後の液状又は気体状の電池用燃料を後段に移送してもよく、前段と後段の間に酸除去装置等を配置し、処理後の電池用燃料を後段に導入してもよい。前段の燃料供給部で調製した電池用燃料を、一旦別の場所で保管し、所望により濃縮等の任意的な操作を施した後に、後段の固体酸化物形燃料電池部に導入することもできる。
【0056】
特に電池用燃料の主成分がメタノールやギ酸等の場合は、水素のように装置外に漏れるおそれが低く、しかも水溶性であるため、取り扱い易い水性溶液の形で貯蔵又は移送することも好ましい。本実施形態の発電方法では、後段の電気エネルギー生成工程で使用するSOFCが高温で作動するため、調製又は貯蔵した電池用燃料を、水性溶液のまま用いることもできる。本実施形態の一態様においては、電池用燃料が、水性溶液及び/又はその気化物として固体酸化物形燃料電池部に導入される。
【0057】
〔電気エネルギー生成工程〕
後段の固体酸化物形燃料電池部では、導入された電池用燃料から、電気エネルギーが生成される。この電気エネルギー生成工程では、固体酸化物形燃料電池部が500~1000℃の温度に加熱される。SOFCは高温で作動する燃料電池であるため、発電時には500~1000℃程度の温度に加熱することが好ましい。発電効率をさらに高める観点から、加熱温度を600~900℃、特に700~800℃に設定してもよい。
【0058】
本実施形態では、上記のように水及び/又は二酸化炭素を原料として、電気エネルギーを効率よく生成することができる。また、炭酸カルシウム等を含む酸除去装置をさらに使用する実施形態であれば、回収したギ酸カルシウム等を飼料や肥料として活用することも可能である。このように、本発明の発電システム及び発電方法は、環境保全の観点からも有用である。
【実施例0059】
以下、本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
Ru錯体及びWOを含む金属錯体複合酸化物を光還元触媒として使用し、電池用燃料の調製、及び当該燃料に基づく発電を試みた。
【0061】
〔金属錯体複合酸化物の調製〕
100mgのRu Black Dye N749([(2,2”6’,2”-ターピリジン)-4,4’,4”-トリカルボキシレート(3-)-N1,N1’,N1”]トリス(チオシアネート-N)ハイドロゲンルテネート(4-))を、50gのエタノールに溶解させた。この溶液20gを、3gのWOに添加して反応させた。室温で一晩放置した後、沈殿物をろ過、水洗し、室温で乾燥させた。
【0062】
〔電池用燃料の調製〕
上記で得られた金属錯体複合酸化物0.3gを、イオン交換水30gに分散させ、透明な容量100mlのガラス瓶に入れた。これを撹拌し、側面から波長460nmのLED光を照射しながら、COガスを9ml/時間の量にて48時間バブリングした。得られた反応液を濾過し、濾液を電池用燃料として試用した。尚、同濾液をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、ギ酸の濃度が980ppmであった。この他、ガスクロマトグラフィー分析で、少量のメタノール、エタノール、及びホルムアルデヒドが検出された。これら以外に、メタン、水素、及び一酸化炭素(CO)も生成していたと推定される。
【0063】
〔発電試行〕
マグネシウムをドープしたランタンシリケート製の電解質、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)製のカソード、及びNiOと上記電解質との混合物からなるアノードを備えた、直径10mmの円柱状SOFC(Scribner Associates社製のAuto SOFC)を用意した。このSOFCを800℃に加熱し、上記のようにして得られた電池用燃料を0.5g/分の量で90分間導入しながら、Bio-Logic Science Instruments製のSP-150で発電量を測定したところ、最大で7.0mW/cmの出力が得られた。
【0064】
[参考例1]
本参考例は、本検討の初期に実施した、MOFを光還元触媒として用いた簡易的な予備実験の結果をまとめたものである。以下のようにして調製したMOFを使用して、実施例1と同様の操作を、半定量的に行った。
【0065】
〔MOFの調製〕
30mlのジメチルホルムアミド(DMF)中に1.5mmolのZirconium tetracloride(ZrCl)と1.5mmolのBenzene-1,4-dicarboxylic acid(BDC:テレフタル酸)を添加した後、30分間スターラーバーで攪拌した。これらの物質が溶解した後、140℃で24時間熱処理して、ソルボサーマル法でUiO-66(MOF)を合成した。生じた沈殿物をDMF、メタノールで洗浄して、真空中で乾燥した。
【0066】
〔電池用燃料の調製-発電試行〕
上記で得られたMOFとカーボン量子ドット(Carbon Quantum Dots,Merck社)とを複合して光還元触媒として用い、実施例1と同様にして電池用燃料の調製を試行したところ、ギ酸が216μmol/(時間・g触媒)の率で生成した。得られた燃料含有水溶液の一部を、実施例1で用いたのと同様の試験用SOFCに導入したところ、電力が生じたことが確認された。
【0067】
[比較例1]
光還元触媒として、金属錯体複合酸化物の代わりにTiO(アナターゼ型)を0.3g使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた電池用燃料中のギ酸濃度は、8ppmであった。これを導入したSOFCの最大出力は、0.2mW/cmであった。
【0068】
[比較例2]
後段の電池用燃料生成工程において、SOFCの代わりに市販の固体高分子型の実験用燃料電池(日本ニーテック製のPEMFC kit)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。PEFCの最大出力は、0.4mW/cmに止まり、しかも時間と共に発電量が目に見えて低下して行った。ギ酸によって燃料電池部品が劣化してしまったと推定される。
【0069】
以上のように、本発明に従う発電システム及び発電方法によれば、CO由来の燃料と波長460nmの可視光を用いて効率的に発電することができ、また、電池材料の劣化による発電効率の低下を来し難いことが、実証された。