(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025045203
(43)【公開日】2025-04-02
(54)【発明の名称】赤外線撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 13/14 20060101AFI20250326BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
G02B13/14
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023153115
(22)【出願日】2023-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松下 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】堀 信男
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA03
2H087LA01
2H087MA04
2H087NA03
2H087PA03
2H087PA17
2H087PB03
2H087QA12
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA32
2H087QA42
2H087QA45
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA34
2H087RA42
2H087RA44
2H087RA46
2H087UA00
(57)【要約】
【課題】解像度に優れた、望遠レンズを実現する。
【解決手段】赤外線撮像レンズ(1)は、第1レンズ(L1)、第2レンズ(L2)、及び第3レンズ(L3)のそれぞれが、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、全系焦点距離がイメージサークルの径の2倍以上であり、第1レンズ及び第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
7~14μmの範囲内の少なくともいずれかの波長を含む赤外線領域で使用される赤外線撮像レンズであって、
物体側から像面側に向かって順に、第1レンズ、第2レンズ、及び第3レンズが配置され、
前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、
全系焦点距離fLが、イメージサークルの径の2倍以上であり、
前記第1レンズ及び前記第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、前記第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズである、赤外線撮像レンズ。
【請求項2】
7~14μmの範囲内の少なくともいずれかの波長を含む赤外線領域で使用される赤外線撮像レンズであって、
物体側から像面側に向かって順に、第1レンズ、第2レンズ、及び第3レンズが配置され、
前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、
前記第1レンズ及び前記第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、前記第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズであり、
半画角が14°以下である、赤外線撮像レンズ。
【請求項3】
前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、物体側に凸のメニスカス形状である、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項4】
前記第1レンズの物体側の面の有効径を開口絞りとする、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項5】
前記第1レンズまたは前記第2レンズの少なくともいずれかが非球面レンズである、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項6】
前記第1レンズのいずれかの面が回折面である、請求項5に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項7】
前記第1レンズの像面側の面が回折面である、請求項6に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項8】
前記第1レンズの焦点距離f1と、全系焦点距離fLとが、
1.5≦f1/fL≦2.5
の関係式を満たす、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項9】
前記第1レンズの物体側の面から像面までの光軸上の距離である光学全長TTLと、全系焦点距離fLとが、
1.2≦TTL/fL≦2.0
の関係式を満たす、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項10】
バックフォーカスBFLと全系焦点距離fLとが、
0.2≦BFL/fL
の関係式を満たす、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項11】
像面における相対照度が、イメージサークル内において94%以上を満たす、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項12】
空間周波数41.7cycles/mmでの、波長範囲7~14μmの変調伝達関数が、像高2.5mmにおいて0.3以上を満たす、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項13】
全系焦点距離fLが、イメージサークルの径の3~6倍の範囲内である、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項14】
Fナンバーが、0.9~1.1の範囲内である、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項15】
前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が3.0~4.0のカルコゲナイドガラスからなる、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【請求項16】
前記カルコゲナイドガラスは、厚み2mmでの光透過率が20%となる赤外吸収端波長が18μm以上である、請求項1または2に記載の赤外線撮像レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
中遠赤外領域、特に生体検知に適した10μm帯の波長領域の赤外線で被写体を撮影する赤外線カメラが、監視カメラや防犯カメラ、車載用ナイトビジョン等に応用されている。これらの赤外線カメラは、侵入者監視、密漁等の違法行為監視、森林火災火元検知、交通監視、障害物検知など様々な分野に適用可能であり、需要の拡大が期待されている。
【0003】
赤外線カメラに適用される赤外線撮像レンズとして、夜間の遠方監視に代表されるような用途には、像面のイメージサークル径に対して焦点距離の比較的長い、いわゆる望遠レンズが要求される。このような赤外線撮像レンズとして、Fナンバーが小さく明るく、波長程度の画素ピッチを備えた小型のイメージセンサに対応できる、優れた解像度を有する望遠レンズが、本出願人により提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2023/008148号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
赤外線カメラの用途の拡大により、様々な特徴を持った赤外線撮像レンズが求められるようになる。例えば特許文献1の従来技術に対して、明るさや解像度を保ちつつ、ディストーション(歪曲収差)を更に低減させた赤外線撮像レンズを実現することも望まれる。本発明の一態様は、上記課題に着目したものであり、波長程度の画素ピッチを備えたイメージセンサに対応できる、優れた解像度を有し、更にディストーションが低減された、民生用途に利用可能な、望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、7~14μmの範囲内の少なくともいずれかの波長を含む赤外線領域で使用される赤外線撮像レンズであって、物体側から像面側に向かって順に、第1レンズ、第2レンズ、及び第3レンズが配置され、前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、全系焦点距離fLが、イメージサークルの径の2倍以上であり、前記第1レンズ及び前記第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、前記第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズである構成を備える。
【0007】
また上記の課題を解決するために、本発明の別の一態様は、7~14μmの範囲内の少なくともいずれかの波長を含む赤外線領域で使用される赤外線撮像レンズであって、物体側から像面側に向かって順に、第1レンズ、第2レンズ、及び第3レンズが配置され、前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、前記第1レンズ及び前記第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、前記第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズであり、半画角が14°以下である構成を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、波長程度の画素ピッチを備えたイメージセンサに対応できる、優れた解像度を有し、更にディストーションが低減された、民生用途に利用可能な望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る赤外線撮像レンズの、主要部の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の数値実施例1に係る赤外線撮像レンズの、球面収差、非点収差、ディストーションを示す収差図である。
【
図3】本発明の数値実施例1に係る赤外線撮像レンズの、コマ収差を示す収差図である。
【
図4】本発明の数値実施例1に係る赤外線撮像レンズの、相対照度の像高依存性を示すグラフである。
【
図5】本発明の数値実施例1に係る赤外線撮像レンズの、波長範囲7~14μmでのMTFの空間周波数依存性を示すグラフである。
【
図6】本発明の数値実施例1に係る赤外線撮像レンズの、MTFの焦点移動依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態〕
<赤外線撮像レンズの概要>
実施形態に係る赤外線撮像レンズ1は、中遠赤外の波長領域に対応した、イメージセンサ等が配置される像面Sに被写体の像を結像するレンズ系である。本実施形態に係る赤外線撮像レンズ1は、全系焦点距離fLが、イメージサークルの径φsの2倍以上であるような、望遠レンズを対象とする。あるいは、本実施形態に係る赤外線撮像レンズ1は、半画角ω(最大半画角)が14°以下であるような、望遠レンズを対象とする。
【0011】
本願において、イメージサークルとは、撮像レンズの像面Sにおける光学系の有効径の範囲を意図する。つまり、イメージサークルとは、像面Sにおいて像高Yが最大像高までの円形の範囲である。ここでイメージサークルの径φsとは、「レンズ径」等と表現する場合と同様に、このような円形の範囲の直径を表す。すなわちイメージサークルの径φsは、最大像高の2倍に等しい。
【0012】
撮像レンズの分野において知られている通り、撮像レンズの半画角ωは撮像レンズの全系焦点距離fLおよびイメージサークルの径φsと、
ω=arctan[φs/(2fL)]
の関係がある。ここでarctanはアークタンジェント関数である。全系焦点距離fLが、イメージサークルの径φsの2倍以上であること(fL/φs≧2)は、半画角ωが14°以下であることに相当する。
【0013】
全系焦点距離fLが、イメージサークルの径φsの2倍以上であるような撮像レンズ、あるいは半画角ωが14°以下であるような撮像レンズは、35mm版換算とした焦点距離が85mm以上の、一般的に望遠レンズと称される撮像レンズである。なおここで、35mm版換算とするときには、イメージセンサの対角長がイメージサークルの径φsとほぼ一致し、イメージセンサがイメージサークルを有効に利用している場合を前提とする。このように本実施形態は、遠距離の物体を拡大して観察することが可能な撮像装置を実現できるようにする、赤外線撮像レンズを対象とする。
【0014】
図1は、赤外線撮像レンズ1の主要部の構成を示す、光軸に沿った断面図である。赤外線撮像レンズ1は、物体側から像面S側に向かって順に、第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3が配置されて構成される。フォーカシングの際には、第1レンズL1から第3レンズL3までが、一律に光軸方向に移動する。
【0015】
第1レンズL1、第2レンズL2、及び、第3レンズL3は、それぞれが波長10μmにおける屈折率N10が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなる。ここで符号N10は、特に波長10μmにおける屈折率であることを表す。第1レンズL1、第2レンズL2、及び、第3レンズL3のいずれもが同一の硝材であるカルコゲナイドガラスからなっていてもよい。特に、第1レンズL1、第2レンズL2、及び、第3レンズL3は、それぞれが波長10μmにおける屈折率が3.0~4.0、更には3.0~3.7の範囲のカルコゲナイドガラスからなると好ましい。
【0016】
第1レンズL1は、正の屈折力を有し、メニスカス形状を備えている。第2レンズL2は、負の屈折力を有し、メニスカス形状を備えている。第3レンズL3は、正の屈折力を有し、メニスカス形状を備えている。このように各レンズが構成、配置されることで、ペッツバール和を低減でき、優れた解像度を有し、更にディストーションが低減された望遠レンズを実現することができる。特に、第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3とも、物体側に凸のメニスカス形状を備えることが好ましい。
【0017】
図1に示されるように、第3レンズL3と像面Sとの間には、平行平板Pが配置されている。平行平板Pは像面S側にハーメチックシーリングで装荷される光学ウィンドであり、シリコン、低酸素シリコンまたはゲルマニウムが使用される。材質や厚みは、どのようなイメージセンサを採用するかによって決めることができる。
【0018】
図1に記号APで示されているように、第1レンズL1の物体側の面(第1面)の有効径が、赤外線撮像レンズ1の開口絞りに相当する。第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3、及び、平行平板Pの表面には、反射防止(AR:Anti-Reflection)コーティングが施される。このような中遠赤外領域における反射防止コーティングには適宜の公知技術が適用され得る。
【0019】
<各レンズの硝材>
以下に、赤外線撮像レンズ1の各レンズを構成するカルコゲナイドガラスについて説明する。赤外線撮像レンズ1に適用されるカルコゲナイドガラスは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスである。Fナンバー(F値)が1.0程度と明るく、波長7~14μmといった中遠赤外領域の波長に相当するような画素ピッチのイメージセンサに対応できる優れた解像度を備えた赤外線撮像レンズ1を実現する観点からはカルコゲナイドガラスの屈折率が2.5~4.0であるとよい。
【0020】
このような遠赤外領域において屈折率の高いカルコゲナイドガラスは、本出願人によって開発された(国際公開公報WO2020/105719A1参照)。本硝材の波長10μmにおける屈折率N10としては、より具体的には2.74~3.92の範囲が実現されている。また、第1レンズL1、第2レンズL2、及び第3レンズL3を構成するカルコゲナイドガラスの屈折率が低いと、望遠レンズをコンパクトに構成することが難しい。そのため上記カルコゲナイドガラスは、波長10μmにおける屈折率が、3.0~4.0の範囲にあることが特に好ましい。
【0021】
また、カルコゲナイドガラスのアッベ数(ν10)が100以上、120以上、150以上、180以上、特に220以上であることが好ましい。アッベ数(ν10)の定義については後述する。アッベ数が低すぎると、色収差が大きくなりやすい。なお、アッベ数の上限は特に限定されないが、上記カルコゲナイドガラスにおいて、現実的には350以下である。
【0022】
本硝材は、少なくとも波長7~14μmといった、遠赤外領域の広い波長範囲に亘って光吸収が極めて小さい。特に本硝材は、波長10~26μmの遠赤外領域においても光吸収が小さいという特徴を持つ。カルコゲナイドガラスにおいて、遠赤外領域で光透過性が優れていることを示す指標として、「赤外吸収端波長」と「内部透過率」を用いることができる。
【0023】
ここで赤外吸収端波長とは、波長8μm以上の領域における吸収端波長をいい、材料の厚み2mmにおける光透過率が20%となる波長で定義される。なお、内部透過率とは材料内部での透過率をいい、材料表面での反射損失は含まない。各レンズを構成する硝材としてのカルコゲナイドガラスは、赤外吸収端波長が18μm以上である。
【0024】
従って、上記カルコゲナイドガラスは、波長10μmを超えるような赤外線をも透過し、少なくとも波長7~14μmの範囲に亘って透過率が良好である。また上記カルコゲナイドガラスの厚さ2mmでの内部透過率は、波長10μmにおいて90%以上である。こうして本実施形態の赤外線撮像レンズ1では、少なくとも7~14μmもの広い波長範囲に亘って、レンズの硝材による光吸収が小さい撮像レンズを実現することができる。
【0025】
更に上記カルコゲナイドガラスを用いることで、プレス成型によるレンズの大量生産が容易である。またプレス成型により、非球面レンズの大量生産を行うことも可能となる。本明細書において、非球面とは回折面を含む。なお、好ましくは、硝材のガラス転移温度が200℃以下と低く、プレス成型がより容易であるとよい。
【0026】
本実施形態の赤外線撮像レンズ1では、少なくともいずれかのレンズを非球面レンズとすることにより、収差が抑制されている。非球面レンズを適用し得ない場合、収差を抑制するための赤外線撮像レンズ1の構成は、レンズ枚数が増加したものとなり、重量が増大し、大型化してしまう。またそのため高コストとなり民生向けに適さない撮像レンズとなる。なお、本明細書において、非球面とは回折面を含む。
【0027】
また上記カルコゲナイドガラスでは、回折面のような、特に複雑な形状の面を有するレンズをプレス成型することも同様に可能となる。よって、赤外線撮像レンズ1では、上記カルコゲナイドガラスを用いて第1レンズL1の像面側の面(第2面)を回折面とすることで、波長7~14μmの広い範囲に亘って良好に収差を抑制することができるようになる。
【0028】
特に、波長10μmにおける屈折率が3.0~3.7であるカルコゲナイドガラスは、量産性に優れており、本出願人により工業的な生産が進められている。またこのような屈折率が3.0~3.7であるカルコゲナイドガラスは、レンズを形成するときの加工性にも優れている。従って、第1レンズL1、第2レンズL2、及び第3レンズL3を構成するカルコゲナイドガラスは、波長10μmにおける屈折率が3.0~3.7であるカルコゲナイドガラスによって構成されることが特に好ましい。
【0029】
中遠赤外領域を透過し得る材料として用いられている、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)のような結晶系の材料は、ガラスではない。このような結晶系の材料はガラスとは異なり、加熱による軟化を利用したプレス成型が不可能である。そのため、このような結晶系の材料で、複雑な形状を有する非球面レンズを大量生産することが困難である。よって民生用に適用する低コストの非球面レンズをこれら結晶系の材料で実現することは困難である。
【0030】
上記カルコゲナイドガラスは、具体的には、モル%で、テルル(Te)20~90%を含有するカルコゲナイドガラスであることが好ましい。より詳細には、モル%で、Te:20~90%、Ge+Ga:0~50%を含有するカルコゲナイドガラスであることが好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。なお、本明細書において、「A1+A2+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。ただし、当該記載は、該当する各成分からなる群から選択される少なくとも1種以上の成分を含む含有量を意味するものであり、上記群のうち、特定成分を含まない構成としてもよい。例えば、「A1+A2+A3+A4+A5:p~q%が好ましい」構成であるとき、「A1+A2+A3+A4:p~q%(ただしA5は含まない)」という組成を含む。
【0032】
以下、上記カルコゲナイドガラスの好ましい組成について説明する。Teはガラス骨格を形成し、10μm以上の波長域における内部透過率を高めやすい成分である。また、Teは屈折率を高めやすい成分でもある。Teの含有量は、20~90%、30~88%、40~84%、50~82%、特に60~80%であることが好ましい。
【0033】
Teの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。Teの含有量が多すぎると、Te系の結晶が析出しやすくなる。なお、他のカルコゲン元素Se、Sは、Teより10μm以上の波長域における内部透過率が低下しやすい。そのため、Se、Sの含有量は、それぞれ0~10%、0~5%、0~3%、特に0~1%であることが好ましい。
【0034】
上記カルコゲナイドガラスは、Teに加えて、Ge及びGaの少なくともいずれかを含有することが好ましい。すなわち、Ge+Ga(Ge及びGaの合量)が、0~50%、1~40%、3~35%、5~30%、特に10~30%であることが好ましい。これらの成分を含有することにより、ガラス化範囲を広げ、ガラスの熱的安定性(ガラス化の安定性)を高めることができる。なお、Ge及びGaの各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0035】
Geはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱的安定性を高める成分である。Geの含有量は、0~50%、1~40%、3~35%、5~30%、8~25%、特に10~20%であることが好ましい。Geの含有量が多すぎると、Ge系の結晶が析出しやすくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
【0036】
Gaはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱的安定性を高める成分である。Gaの含有量は、0~50%、1~30%、2~20%、3~15%、特に4~10%であることが好ましい。Gaの含有量が多すぎると、Ga系の結晶が析出しやすくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
【0037】
なお、ガラス化の安定性を高める観点からは、Ge、Ga及びTeの含有量の合量が多いことが好ましい。具体的には、Ge+Ga+Teが50%以上、60%以上、70%以上、特に80%以上であることが好ましい。ただし、他成分を導入するために、Ge+Ga+Teの上限値については98%以下、96%以下、95%以下、特に90%以下としてもよい。
【0038】
上記カルコゲナイドガラスは、上記成分以外にも、以下に示す種々の成分を含有させることができる。
【0039】
Agは、ガラスの熱的安定性と屈折率を高める成分である。Agの含有量は0~50%、0超~50%、1~45%、2~40%、3~35%、4~30%、5~25%、特に5~20%であることが好ましい。Agの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0040】
Siは、ガラスの熱的安定性を高める成分である。Siの含有量は0~50%、0超~50%、1~45%、2~40%、3~35%、4~30%、5~25%、特に5~20%であることが好ましい。Siの含有量が多すぎると、Si起因の赤外吸収が発生しやすくなり、赤外線が透過しにくくなる。ただし、Siはアッベ数を小さくしやすい成分であるため、アッベ数を大きくする観点からは、Siの含有量は5%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満であることが好ましい。
【0041】
Al、Ti、Cu、In、Sn、Bi、Cr、Sb、Zn、Mnは赤外線透過特性を低下させることなく、ガラスの熱的安定性を高める成分である。Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Sb+Zn+Mnの含有量(Al、Ti、Cu、In、Sn、Bi、Cr、Sb、Zn及びMnの合量)は0~40%、2~35%、4~30%、特に5~25%であることが好ましい。Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Sb+Zn+Mnの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0042】
なお、Al、Ti、Cu、In、Sn、Bi、Cr、Sb、Zn、Mnの各成分の含有量は、各々0~40%、1~40%、1~30%、1~25%、特に1~20%であることが好ましい。なかでもガラスの熱的安定性を高める効果が特に大きいという点でAl、Cu、及び/又はSnを使用することが好ましい。ただし、Al及びSnはアッベ数を小さくしやすい成分であるため、アッベ数を大きくする観点からは、Al及びSnの含有量は、各々5%以下、1%以下、0.5%、特に0.1%未満であることが好ましい。
【0043】
F、Cl、Br、Iもガラスの熱的安定性を高める成分である。F+Cl+Br+Iの含有量(F、Cl、Br及びIの合量)は0~40%、2~35%、4~30%、特に5~25%であることが好ましい。F+Cl+Br+Iの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなるとともに、耐候性が低下しやすくなる。なお、F、Cl、Br、Iの各成分の含有量は、各々0~40%、1~40%、1~30%、1~25%、特に1~20%であることが好ましい。なかでもIは、元素原料を使用可能であり、ガラスの熱的安定性を高める効果が特に大きいという点で好ましい。
【0044】
なお、環境への負荷を特に低減するという観点からは、Se及びAsを実質的に含有しないことが特に好ましい。本発明において、「実質的に含有しない」とは、その含有量が0.1モル%未満であることを指す。Cd、Tl及びPbは実質的に含有しないことが好ましい。このようにすれば、環境面への影響を最小限に抑えることができる。
【0045】
<各レンズの構成の詳細>
更に、本実施形態の赤外線撮像レンズ1は、各部の詳細を以下のように構成することが可能である。
【0046】
遠距離の物体を拡大して観察することが可能な撮像装置を実現できるようにするために、本実施形態の赤外線撮像レンズ1は、全系焦点距離fLが、イメージサークルの径φsの2倍以上であるように構成される。このことは、半画角ωが14°以下であるとして定義されてもよい。
【0047】
特に本実施形態の赤外線撮像レンズ1では、全系焦点距離fLが、イメージサークルの径φsの3~6倍の範囲内であるように構成されることが好ましい。このことは、半画角ωが5~10°の範囲であるとして定義されてもよい。このような赤外線撮像レンズ1は、35mm版換算とした焦点距離が130~260mmの範囲の望遠レンズと称されてもよい。全系焦点距離fLの絶対値としては、20~50mmであることが好ましい。
【0048】
本実施形態の赤外線撮像レンズ1は、7~14μmの範囲内の波長を含む赤外線領域で使用され得る赤外線撮像レンズである。各レンズの硝材として、上記カルコゲナイドガラスを適用することで、7~14μmの広い波長範囲に亘って優れた特性を得ることができる。
【0049】
本実施形態によれば、このような望遠レンズにおいて、Fナンバーが0.9~1.1の範囲内であるような、明るい撮像レンズが実現可能となる。また、少なくとも7~14μmの広い波長範囲に亘って、レンズの硝材による光吸収が小さい望遠レンズを実現することができる。よって、Fナンバーが1程度と小さいことと相まって、明るい撮像レンズが実現できる。
【0050】
また、各レンズのパワーの絶対値が、大きい順に、第3レンズL3、第1レンズL1、第2レンズL2であると特に好ましい。最も像面側にある第3レンズL3のパワーが最も大きく、このようなパワーの設定の3つのレンズが全て像面S側に凸面を向けたメニスカス形状を有するように赤外線撮像レンズ1が構成されることで、非点収差が軽減される。
【0051】
赤外線撮像レンズ1では、第1レンズの焦点距離f1と、全系焦点距離fLとが、
1.5≦f1/fL≦2.5
の関係式を満たすように構成されることが望ましい。つまり、全系焦点距離fLに対する第1レンズL1の寄与度はそれほど大きくなく、第3レンズL3も全系焦点距離fLに寄与させて構成されることが望ましい。赤外線撮像レンズ1がこのように構成されることで、収差特性を良好に保ちつつ、波長程度の画素ピッチを有するイメージセンサに対応可能な、高い解像度が得られるようになる。
【0052】
また赤外線撮像レンズ1では、第1レンズL1の物体側の面(第1面)から像面Sまでの光軸上の距離である光学全長TTLと、全系焦点距離fLとが、
1.2≦TTL/fL≦2.0
の関係式を満たすように構成されることが望ましい。つまり、光学全長TTLは、全系焦点距離fLに対して若干大きいように構成されることが望ましい。赤外線撮像レンズ1がこのように構成されることで、収差特性を良好に保ちつつ、波長程度の画素ピッチを有するイメージセンサに対応可能な、高い解像度が得られるようになる。
【0053】
赤外線撮像レンズ1では、第1レンズL1の物体側の面(第1面)の有効径を開口絞りとすることが好ましい。このように構成されることで、周辺光束のケラレが軽減し、周辺光量が向上する。特に、最大像高においても94%以上の相対照度を確保することが可能となり、ディストーションが小さいことと相俟って、自然な画像が得られる優れた撮像レンズを構成できる。また、開口絞りをレンズ間に挿入するよりも赤外線撮像レンズ1の外径と体積を小さくすることが可能となる。
【0054】
赤外線撮像レンズ1では、バックフォーカスBFLと全系焦点距離fLとが、
0.2≦BFL/fL
の関係式を満たすように構成されることが望ましい。このように構成されることで、バックフォーカスBFLを確保しつつ、収差特性、解像度に優れた望遠レンズを実現することができる。
【0055】
第1レンズL1または第2レンズL2の少なくともいずれかが非球面レンズであるとよい。このことにより、赤外線撮像レンズ1の球面収差や非点収差を軽減することが可能となる。特に、第1レンズL1及び第2レンズL2の双方が非球面レンズであることが好ましい。第2レンズL2の物体側の面(第3面)は非球面であり、像面側の面(第4面)は球面とすることができる。第3レンズL3は球面レンズであってよい。
【0056】
更には第1レンズL1のいずれかの面が回折面であることが好ましい。これにより、負の分散を発生させて軸上色収差や倍率色収差を低減させることが可能となる。特に、第1レンズL1の像面側の面(第2面)が回折面であることが好ましい。このように凹面側を回折面とすることで、プレス加工による回折面の形成が、より容易になる。
【0057】
赤外線撮像レンズ1では、像面Sの像高2.5mmにおいて、空間周波数41.7cycles/mmでの波長範囲7~14μmの変調伝達関数(MTF:Modulation Transfer Function)が、0.3(30%)以上であるように構成される。ここで、MTFの値は、タンジェンシャル方向とサジタル方向についての単純平均値とする。空間周波数41.7cycles/mm及び像高2.5mmに着目する理由について、以下に説明する。
【0058】
中遠赤外領域のイメージセンサの小型化が進展し、画素ピッチが波長程度の狭ピッチ限界に達するようになった。このように小型化されたイメージセンサは、大面積のものと比較してイメージセンサ自体が低コストで生産可能である。しかも、イメージセンサに適用される撮像レンズもイメージセンサの面積に合せて小口径化することができ、低コスト化できる。
【0059】
よって、このようなイメージセンサ及び撮像レンズを赤外線カメラに適用することで、民生用途に適した低コスト化を実現することができ、赤外線カメラを様々な分野に展開することができるようになる。波長10μm帯の領域のイメージセンサとしては、画素ピッチ12μmのものが市販されるようになっている。空間周波数41.7cycles/mmは画素ピッチ12μmのイメージセンサのナイキスト周波数に対応する。
【0060】
像高2.5mmにおいてMTFが0.3以上であることは、像面Sに配置された画素ピッチ12μm、320×256画素のイメージセンサの全領域においてMTFが0.3以上の十分な解像度が得られることを示す。つまり、赤外線撮像レンズ1は、波長7~14μm程度の波長領域に対応する、小型化されたQVGA(320×240画素)クラスのイメージセンサが適用された赤外線カメラに十分に対応できる望遠レンズである。
【0061】
更に赤外線撮像レンズ1では、像面Sの像高4.1mmにおいて、空間周波数29.4cycles/mmでの波長範囲7~14μmのMTFが、0.45(45%)以上であるように構成される。空間周波数29.4cycles/mmは画素ピッチ17μmのイメージセンサのナイキスト周波数に対応する。
【0062】
また、像高4.1mmにおいて、空間周波数29.4cycles/mmでのMTFが0.45以上であることは、像面Sに配置された画素ピッチ17μm、384×288画素のイメージセンサ全領域においてMTFが0.45以上の良好な解像度が得られることを示す。つまり、赤外線撮像レンズ1は、波長7~14μm程度の波長領域の、画素ピッチ12~17μm程度のイメージセンサが適用された赤外線カメラにも十分に対応できる解像度を備えた望遠レンズである。
【0063】
<数値実施例1>
赤外線撮像レンズ1の実施例を示す。数値実施例1に係る赤外線撮像レンズの断面図は、
図1に示された通りである。数値実施例1において、rは曲率半径、dは光軸上のレンズ厚、または、面間の距離、EDは有効径(直径)を表す。長さの単位は(mm)である。面番号の数字の後の*(アスタリスク)は非球面であることを表し、DOEは回折面であることを表す。以下に、基本レンズデータ、非球面データ、回折面データ、各種データを示す。
【表1】
屈折率及びアッベ数ν10の定義は以下の通りである:
N8:波長8μmにおける屈折率
N10:波長10μmにおける屈折率
N12:波長12μmにおける屈折率
ν10=(N10-1)/(N8-N12)
【表2】
非球面形状の定義は以下の通りである:
【数1】
h:光軸からの高さ
r:頂点における曲率半径
κ:円錐定数
An:n次の非球面係数(n:偶数)
Z:hにおける非球面上の点から非球面頂点の接平面までの距離
【表3】
回折面の定義は以下の通りである:
【数2】
【数3】
【数4】
Φ:位相差関数
P
1,P
2:位相係数
Z
dif:光路関数
Z
DOE:回折面のサグ量
λ:設計中心波長(10μmとする)
【表4】
第1レンズL1、第2レンズL2、第3レンズL3には、波長10μmにおける屈折率N10が、3.465、アッベ数253であるカルコゲナイドガラスを用いている。第1レンズL1の像面側の面(第2面)は、球面上にキノフォーム形状のサグが設けられた回折面である。各々のサグの深さは0から設計中心波長λに相当するまでの範囲である。
【0064】
平行平板Pには、シリコン(Si)を用いている。平行平板Pは像面Sに配置されるイメージセンサに付帯する光学ウィンドであり得る。平行平板Pの位置は表1の値から前後していても赤外線撮像レンズ1の光学特性に影響を及ぼさない。つまり、第6面と第7面の距離(表1においてd6=4.00mm)と、第8面と像面Sの距離(同、d8=2.93mm)は、これらの合計値が同じである状態で変更されてもよい。バックフォーカスBFL=7.93mmは、実距離である。
【0065】
像面Sでの最大像高は、4.1mmであり、よって、イメージサークルの径φsは8.2mmである。従って赤外線撮像レンズ1は、対角長が8.16mmとなる、画素ピッチ17μmの384×288画素といったQVGAクラスのイメージセンサに適用可能である。また赤外線撮像レンズ1は、画素ピッチ17μmのQVGA(320×240画素)、QVGA+(345×240画素)を含む、QVGAクラスのイメージセンサの画素領域をカバーできる。
【0066】
赤外線撮像レンズ1が、320×256画素を含む、画素ピッチ12μmのQVGAクラスのイメージセンサの画素領域をカバーできることは言うまでもない。なお、384×288画素、320×256画素等の構成は、レンズの光軸中心が、仮にイメージセンサの中心に完全一致しなくても、有効画素数がQVGA(320×240画素)を確保することができる。
【0067】
赤外線撮像レンズ1の全系焦点距離fLとイメージサークルの径φsとの比は、
fL/φs=3.41
である。すなわち、赤外線撮像レンズ1は望遠レンズである。また、半画角ωは8.4°であり、望遠レンズといえる14°以下の範囲内である。赤外線撮像レンズ1はこのような画角が狭い望遠レンズでありつつ、Fナンバー1.0と、極めて明るい撮像レンズである。
【0068】
赤外線撮像レンズ1は、第1レンズL1の物体側の面(第1面)から像面Sまでの光学全長TTL(レンズ全長)が38.5mm、光路上の最大有効径が、28.0mmとコンパクトである。このようなコンパクトな構成は、正のパワーを持つ第1レンズL1、負のパワーを持つ第2レンズL2、および、正のパワーを持つ第3レンズL3のそれぞれが像面側に凸のメニスカス形状を有するメニスカスレンズであることにより実現している。
【0069】
また、赤外線撮像レンズ1は、3枚レンズ構成であり軽量にできる。各レンズがプレス成型で製造できることと相まって、赤外線撮像レンズ1は、民生用途に適用し得る低コストで製造できる。更に、赤外線撮像レンズ1が適用された赤外線カメラがコンパクトに構成され得るため様々な場所において設置が容易な赤外線カメラが実現される。
【0070】
第1レンズL1の焦点距離f1は、45.42mmである。よって、第1レンズL1の焦点距離f1と赤外線撮像レンズ1の全系焦点距離fLとの比は、
f1/fL=1.62
である。第2レンズL2の焦点距離f2は、-369.0mmである。第3レンズL3の焦点距離f3は、27.99mmである。よって赤外線撮像レンズ1は、第3レンズL3のパワーの絶対値が最も大きく、次いで、第1レンズL1のパワーの絶対値が大きいように構成されている。
【0071】
赤外線撮像レンズ1の光学全長TTL(レンズ全長)と全系焦点距離fLとの比は、
TTL/fL=1.38
である。バックフォーカスBFLは7.93mm(実距離)であり、十分な距離を確保している。光学全長TTL(レンズ全長)とバックフォーカスBFLとの比は、
TTL/BFL=4.85
である。バックフォーカスBFLと全系焦点距離fLとの比は、
BFL/fL=0.28
であり、0.2≦BFL/fLを満たす。
【0072】
赤外線撮像レンズ1の数値実施例1の諸性能を
図2から
図6に示す。
図2及び
図3は、赤外線撮像レンズ1の収差図である。
図2は、球面収差、非点収差、ディストーションを示す。それぞれにおいて、7~14μmの範囲の各波長に対するグラフが示されている。
図3は、像高0mmから最大像高までの各像高Yにおけるコマ収差を、タンジェンシャル(メリジオナル)方向とサジタル(ラジアル)方向に分けて示す収差図である。
【0073】
図2及び
図3に示されるように、数値実施例1に係る赤外線撮像レンズ1では、7~14μmの広い波長領域に亘って諸収差が良好に補正されている。特に、係る赤外線撮像レンズ1ではディストーションが、7~14μmの範囲の各波長において、イメージサークルの全域に亘って0.37%以下と極めて小さく優れた特性が得られている。
【0074】
図4は、赤外線撮像レンズ1の数値実施例1の、像高Yに対する相対照度を示したグラフである。ここで相対照度とは、像面Sにおいて光軸上領域(像面中央領域)に対する、照度の比をいう。
図4に示されるように、最大像高4.1mmにおいても、相対照度は0.94であり、イメージサークル内においてほぼ均一な光量分布が得られている。
【0075】
図5は、波長範囲7~14μmでのMTFの空間周波数依存性を示したグラフである。画素ピッチ12μm、320×256画素のイメージセンサのナイキスト周波数f
Nは41.7cycles/mmであり、最大像高は2.46mmである。ナイキスト周波数f
N=41.7cycles/mmにおいて、像中央のMTFが0.46であり、当該イメージセンサの領域内においてMTF>0.37(タンジェンシャル方向、サジタル方向の単純平均)が確保されている。
【0076】
また、画素ピッチ17μm、384×288画素のイメージセンサのナイキスト周波数fNは29.4cycles/mmであり、最大像高は4.08mmである。ナイキスト周波数fN=29.4cycles/mmにおいて、像中央のMTFが0.58であり、当該イメージセンサの領域内において、MTF>0.49(タンジェンシャル方向、サジタル方向の単純平均)が確保されている。
【0077】
このように赤外線撮像レンズ1は、画素ピッチ12~17μm程度のQVGAクラスのイメージセンサの領域内で、波長範囲7~14μmの広い波長範囲に亘るMTFで評価しても、良好な解像度を確保している。
【0078】
赤外線撮像レンズ1は、波長範囲7~14μmの範囲内であれば、例えば7~12μm、8~12μm、8~10μmのように任意の波長の範囲内において、良好な特性が得られることは言うまでもない。
図6は、焦点移動に対する波長範囲7~14μmのMTFの変化を示したグラフである。
【0079】
以上のように数値実施例1の赤外線撮像レンズ1は、波長範囲7~14μmをカバーでき、画素ピッチ12~17μm程度のQVGAクラスのイメージセンサに十分対応する良好な解像度を有する。しかも、ディストーションがイメージサークルの全域に亘って0.37%以下と極めて小さい。
【0080】
数値実施例1の赤外線撮像レンズ1は、Fナンバーが1.0と明るく、レンズ全長(光学全長TTL)が38.5mm、レンズの有効径の最大径が28.0mmとコンパクトである。このように本実施形態によれば、従来に無い、コンパクトかつ優れた特性の望遠レンズである赤外線撮像レンズが実現できる。
【0081】
〔まとめ〕
本発明の態様1は、7~14μmの範囲内の少なくともいずれかの波長を含む赤外線領域で使用される赤外線撮像レンズであって、物体側から像面側に向かって順に、第1レンズ、第2レンズ、及び第3レンズが配置され、前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、全系焦点距離fLが、イメージサークルの径の2倍以上であり、前記第1レンズ及び前記第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、前記第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズである。
【0082】
上記構成によれば、波長程度の画素ピッチを備えたイメージセンサに対応できる、優れた解像度を有し、ディストーションが小さい、望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0083】
本発明の態様2は、7~14μmの範囲内の少なくともいずれかの波長を含む赤外線領域で使用される赤外線撮像レンズであって、物体側から像面側に向かって順に、第1レンズ、第2レンズ、及び第3レンズが配置され、前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が2.5~4.0のカルコゲナイドガラスからなり、前記第1レンズ及び前記第3レンズは正のパワーを持つメニスカスレンズであり、前記第2レンズは負のパワーを持つメニスカスレンズであり、半画角が14°以下である。
【0084】
上記構成によれば、波長程度の画素ピッチを備えたイメージセンサに対応できる、優れた解像度を有し、ディストーションが小さい、望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0085】
本発明の態様3に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1または2において、前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、物体側に凸のメニスカス形状である。上記構成によれば、収差特性に優れたコンパクトな望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0086】
本発明の態様4に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記第1レンズの物体側の面の有効径を開口絞りとする。上記構成によれば、周辺光束のケラレが軽減し、周辺光量が向上できるようになる。
【0087】
本発明の態様5に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記第1レンズまたは前記第2レンズの少なくともいずれかが非球面レンズである。上記構成によれば、収差特性が特に優れた赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0088】
本発明の態様6に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記第1レンズのいずれかの面が回折面である。上記構成によれば、軸上色収差や倍率色収差を軽減することが可能となる。
【0089】
本発明の態様7に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から6のいずれかにおいて、前記第1レンズの像面側の面が回折面である。上記構成によれば、回折面の形成が容易であり、これによって軸上色収差や倍率色収差を軽減することができる、赤外線撮像レンズを実現することが可能となる。
【0090】
本発明の態様8に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から7のいずれかにおいて、前記第1レンズの焦点距離f1と、全系焦点距離fLとが、1.5≦f1/fL≦2.5の関係式を満たす。上記構成によれば、収差特性を良好に保ちつつ、波長程度の画素ピッチを有するイメージセンサに対応可能な、高い解像度が得られるようになる。
【0091】
本発明の態様9に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から8のいずれかにおいて、前記第1レンズの物体側の面から像面までの光軸上の距離である光学全長TTLと、全系焦点距離fLとが、1.2≦TTL/fL≦2.0の関係式を満たす。上記構成によれば、収差特性を良好に保ちつつ、波長程度の画素ピッチを有するイメージセンサに対応可能な、高い解像度が得られるようになる。
【0092】
本発明の態様10に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から9のいずれかにおいて、バックフォーカスBFLと全系焦点距離fLとが、0.2≦BFL/fLの関係式を満たす。上記構成によれば、バックフォーカスBFLを確保しつつ、収差特性、解像度に優れた望遠レンズを実現することができる。
【0093】
本発明の態様11に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から10のいずれかにおいて、像面における相対照度が、イメージサークル内において94%以上を満たす。上記構成によれば、周辺光量が十分確保された赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0094】
本発明の態様12に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から11のいずれかにおいて、空間周波数41.7cycles/mmでの、波長範囲7~14μmの変調伝達関数が、像高2.5mmにおいて0.3以上を満たす。上記構成によれば、波長程度の画素ピッチを有するイメージセンサの全領域に亘って良好な解像度を提供できる赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0095】
本発明の態様13に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から12のいずれかにおいて、全系焦点距離fLが、イメージサークルの径の3~6倍の範囲内である。上記構成によれば、収差特性、解像度に優れた望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0096】
本発明の態様14に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から13のいずれかにおいて、Fナンバーが、0.9~1.1の範囲内である。上記構成によれば、収差特性、解像度に優れた望遠レンズである、Fナンバーが小さい明るい赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0097】
本発明の態様15に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から13のいずれかにおいて、前記第1レンズ、前記第2レンズ、及び前記第3レンズのそれぞれは、波長10μmにおける屈折率が3.0~4.0のカルコゲナイドガラスからなる。上記構成によれば、上記構成によれば、波長程度の画素ピッチを備えたイメージセンサに対応できる、優れた解像度を有し、ディストーションが小さい、コンパクトな望遠レンズである赤外線撮像レンズを実現することができる。
【0098】
本発明の態様16に係る赤外線撮像レンズは、上記態様1から14のいずれかにおいて、前記カルコゲナイドガラスは、厚み2mmでの光透過率が20%となる赤外吸収端波長が18μm以上である。上記構成によれば、少なくとも7~14μmの波長の範囲において、光吸収が非常に小さい赤外線撮像レンズを構成できるようになる。
【0099】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、明細書中にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、明細書中にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 赤外線撮像レンズ
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
P 平行平板
S 像面
AP 開口絞り