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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004545
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】剥離剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/62 20060101AFI20250107BHJP
   C11D 3/04 20060101ALI20250107BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20250107BHJP
   C11D 1/835 20060101ALI20250107BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250107BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20250107BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20250107BHJP
   C09D 9/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C11D1/62
C11D3/04
C11D1/72
C11D1/835
C09D7/63
C09D7/61
C09D171/02
C09D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104287
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 理生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武司
【テーマコード(参考)】
4H003
4J038
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003DA12
4H003DB01
4H003DB03
4H003EA21
4H003EB13
4H003EB14
4H003FA04
4H003FA15
4J038DF011
4J038HA176
4J038JB11
4J038KA06
4J038RA04
4J038RA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プラスチック基材上に形成された様々な機能層やインク膜に対する除去性能に優れており、かつ、機能層除去やインキ洗浄によるプラスチック基材の白化等の損傷が発生しにくい剥離剤組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(A):

〔式(A)中、Rは、C数8~22のアルキル基又はC数8~22のアルケニル基、R~Rは、独立にC数1~3のアルキル基又は一般式(B):-(AO)-H
(式(B)中、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、nはAOの特定の繰り返し単位の数を表す。)
で表される基を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは前記一般式(B)で表される基であり、Xm-は対イオンを表し、mは1~3の整数である。〕
で表される化合物と、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物とを含有することを特徴とする剥離剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A):
【化1】
〔一般式(A)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基又は炭素数8~22のアルケニル基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基又は下記一般式(B):
-(AO)-H (B)
(一般式(B)中、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、nはAOの繰り返し単位の数を表し、1~6の整数であり、nが2以上の場合に複数存在するAOは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される基を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは前記一般式(B)で表される基であり、Xm-は対イオンを表し、mは1~3の整数である。〕
で表される化合物と、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物とを含有することを特徴とする剥離剤組成物。
【請求項2】
前記一般式(A)中のR~Rのうちの1つが前記一般式(B)で表される基であり、残りが炭素数1~3のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
【請求項3】
少なくとも無機塩基性化合物を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
【請求項4】
下記一般式(C):
-(AO)-H (C)
〔一般式(C)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基、炭素数8~22のヒドロキシアルキル基、炭素数8~22のアルケニル基、又は炭素数8~22のヒドロキシアルケニル基を表し、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、pは、AOの繰り返し単位の数を表し、1~100の整数であり、pが2以上の場合に複数存在するAOは同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離剤組成物に関し、より詳しくは、機能層を備えるプラスチック材料から機能層を除去するための剥離剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックは、従来、埋め立て、海洋投棄、焼却等の処理がなされていたが、埋め立て場所の確保が困難になりつつあり、海洋投棄はプラスチックが分解しないために環境面で問題があった。また、焼却によって熱として利用することは可能であるが、炭酸ガスの排出により、地球温暖化の原因となるという問題があった。
【0003】
そこで、昨今の環境問題の高まりから、廃プラスチックの再利用、再生等のリサイクルが必要とされており、そのための研究開発が盛んに行われている。また、プラスチックはその多くが化石燃料により生産されており、資源の有効利用の点からも、リサイクル方法の構築が求められている。
【0004】
プラスチックフィルムの一種であるポリエステルフィルムは、基材フィルムとして有用であり、片面又は両面に種々の機能層が積層された、積層フィルムとして使用されることが多い。このような積層フィルムにおける機能層としては、ハードコート層、粘接着層、加飾層、遮光層、偏光層、紫外線遮蔽層等の様々な機能層があり、機能層に応じた材料がポリエステルフィルムに積層されている。
【0005】
従来、このような積層フィルムは、使用後にほとんど再利用されておらず、廃棄、焼却等がなされていた。また、機能層が積層された積層フィルムをそのまま再溶融してリサイクルしようとしても、機能層を構成する材料が溶融ポリマー中に混入するため、押出し時に異臭を発生したり、ポリマーの溶融粘度が低下してフィルム製膜時に破断したりするという問題があった。また、仮に製膜できたとしても得られるフィルムの着色や異物混入等による品質の劣化が避けられないという問題があった。
【0006】
また、仮に機能層を物理的に削り取るなどして剥離除去し、回収したポリマーを溶融押出しした場合も、押出し時の濾過工程で、溶融ポリマー中に残存した機能層によってフィルターが目詰まりを起こし、正常な製膜ができなくなるという問題があった。
【0007】
さらに、白化等の損傷が生じた基材フィルムをリサイクルした場合、押出し時にポリマーの溶融粘度が低下してフィルム製膜時に破断するという問題があった。また、仮に製膜できたとしても得られるフィルムは、透明性等の物性に劣るという問題があった。さらに、白化等の損傷を起こしているロール状フィルムをリサイクルした場合には、機械的強度等のフィルム物性が十分ではないため、ロールトゥロール方式を採用することができないという問題もあった。
【0008】
そこで、特開2022-095599号公報(特許文献1)には、機能層を剥離することができ、基材フィルムを回収するための機能層除去剤として、アルカリ金属水酸化物等のアルカリ性化剤、アルカノールアミン化合物等の相溶化剤、及びアルコール類等の少なくとも1つの水酸基を有する化合物を含有する、ポリエステルフィルム用機能層除去剤が開示されている。
【0009】
また、国際公開第2022/044941号(特許文献2)には、プラスチック基材上に印刷されたインキ膜を容易に剥離することができるインキ洗浄剤として、両性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤、及び水を含有するインキ洗浄剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-095599号公報
【特許文献2】国際公開第2022/044941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の機能層除去剤やインキ洗浄剤においては、プラスチック基材上に形成された様々な機能層やインキ膜に対する除去性能が必ずしも十分ではなく、また、機能層除去やインキ洗浄によりプラスチック基材に白化等の損傷が発生する場合があった。
【0012】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、プラスチック基材上に形成された様々な機能層やインク膜に対する除去性能に優れており、かつ、機能層除去やインキ洗浄によるプラスチック基材の白化等の損傷が発生しにくい剥離剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、末端に水酸基を有するアルキル基又はアルキレンオキシ基を少なくとも1つ有する第四級アンモニウム化合物と、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物とを含有する剥離剤組成物が、プラスチック基材上に形成された様々な機能層(例えば、シリコーン樹脂硬化物からなる離型層や粘着層)やインク膜に対する除去性能に優れており、かつ、プラスチック基材を損傷(例えば、白化)させにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
[1]下記一般式(A):
【0015】
【化1】
【0016】
〔一般式(A)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基又は炭素数8~22のアルケニル基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基又は下記一般式(B):
-(AO)-H (B)
(一般式(B)中、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、nはAOの繰り返し単位の数を表し、1~6の整数であり、nが2以上の場合に複数存在するAOは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される基を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは前記一般式(B)で表される基であり、Xm-は対イオンを表し、mは1~3の整数である。〕
で表される化合物と、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物とを含有する、剥離剤組成物。
[2]前記一般式(A)中のR~Rのうちの1つが前記一般式(B)で表される基であり、残りが炭素数1~3のアルキル基である、[1]に記載の剥離剤組成物。
[3]少なくとも無機塩基性化合物を含有するものである、[1]又は[2]に記載の剥離剤組成物。
[4]下記一般式(C):
-(AO)-H (C)
〔一般式(C)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基、炭素数8~22のヒドロキシアルキル基、炭素数8~22のアルケニル基、又は炭素数8~22のヒドロキシアルケニル基を表し、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、pは、AOの繰り返し単位の数を表し、1~100の整数であり、pが2以上の場合に複数存在するAOは同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物を更に含有する、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の剥離剤組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プラスチック基材上に形成された様々な機能層(例えば、シリコーン樹脂硬化物からなる離型層や粘着層)やインク膜を十分に除去することが可能であり、かつ、機能層除去やインキ洗浄によるプラスチック基材の白化等の損傷を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
本発明の剥離剤組成物は、下記一般式(A):
【0020】
【化2】
【0021】
〔一般式(A)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基又は炭素数8~22のアルケニル基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基又は下記一般式(B):
-(AO)-H (B)
(一般式(B)中、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、nはAOの繰り返し単位の数を表し、1~6の整数であり、nが2以上の場合に複数存在するAOは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される基を表し、R~Rのうちの少なくとも1つは下記一般式(B)で表される基であり、Xm-は対イオンを表し、mは1~3の整数である。〕
で表される化合物と、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物とを含有するものである。
【0022】
また、本発明の剥離剤組成物は、下記一般式(C):
-(AO)-H (C)
〔一般式(C)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基、炭素数8~22のヒドロキシアルキル基、炭素数8~22のアルケニル基、又は炭素数8~22のヒドロキシアルケニル基を表し、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、pは、AOの繰り返し単位の数を表し、1~100の整数であり、pが2以上の場合に複数存在するAOは同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物を更に含有することが好ましい。
【0023】
(一般式(A)で表される化合物)
本発明に用いられる前記一般式(A)で表される化合物は、末端に水酸基を有するアルキル基又はアルキレンオキシ基を少なくとも1つ有する第四級アンモニウム化合物である。
【0024】
前記一般式(A)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基又は炭素数8~22のアルケニル基を表す。これらのうち、機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、炭素数10~18のアルキル基、炭素数10~18のアルケニル基が好ましく、炭素数10~16のアルキル基、炭素数10~16のアルケニル基がより好ましい。また、前記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましく、直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0025】
前記一般式(A)中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基又は前記一般式(B)で表される基を表す。また、R~Rのうちの少なくとも1つは、前記一般式(B)で表される基である。R~Rのうちの少なくとも1つが前記一般式(B)で表される基であることによって、様々な機能層やインク膜に対して優れた除去性能が発現する。さらに、前記一般式(A)においては、インク膜や離型層の除去性能に優れているという観点から、R~Rのうちの1つが前記一般式(B)で表される基であり、残りが炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
【0026】
前記一般式(B)中、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表す。nは、AOの繰り返し単位の数を表し、1~6の整数である。また、nが2以上の場合、複数存在するAOは、同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
前記一般式(A)において、R~Rのうちの1つが前記一般式(B)で表される基である(残りが炭素数1~3のアルキル基である)場合、前記一般式(B)中のnは、1~6の整数であるが、前記一般式(A)で表される化合物の合成のしやすさの観点から、1~3の整数であることが好ましい。
【0028】
また、前記一般式(A)において、R~Rのうちの2つ以上が前記一般式(B)で表される基である場合、2つ以上の前記一般式(B)中のnは、それぞれ独立に、1~6の整数であるが、前記一般式(A)で表される化合物の様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、少なくとも1つの前記一般式(B)中のnが1~3の整数である(残りの前記一般式(B)中のnは1~3の整数であっても4~6の整数であってもよい)ことが好ましく、全ての前記一般式(B)中のnが1~3の整数であることがより好ましい。
【0029】
前記一般式(A)中、Xm-は、対イオンを表し、mは、対イオンの価数である。前記対イオンとしては特に制限はなく、無機アニオンであっても有機アニオンであってもよい。無機アニオンとしては、例えば、硝酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。有機アニオンとしては、例えば、有機カルボン酸イオン、有機スルホン酸イオン、リン酸エステルイオン、アルキルカーボネートイオン、アニオン性ポリマー等が挙げられる。これらの対イオンは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
このような前記一般式(A)で表される化合物の合成方法としては特に制限はなく、所定の炭素数を有するアルキル基又はアルケニル基を含有する第一級~第三級アミン化合物に、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加する、公知の合成方法を採用することができる。
【0031】
例えば、耐圧反応容器に、所定の炭素数を有するアルキル基又はアルケニル基を含有する第一級アミン化合物を仕込み、所定量のアルキレンオキサイドを導入して、70~160℃に加熱して付加反応を行い、中間体化合物として第一級アミン化合物のアルキレンオキサイド2モル付加物を合成する。次いで、この中間体化合物を酸で中和した後、所定量のアルキレンオキサイドを導入して、70~140℃に加熱して付加反応を行うことによって、目的とする化合物(R~Rの全てが前記一般式(B)で表される基である化合物)を得ることができる。
【0032】
また、耐圧反応容器に、所定の炭素数を有するアルキル基又はアルケニル基を含有する第三級アミン化合物を仕込み、この第三級アミン化合物を酸で中和した後、所定量のアルキレンオキサイドを導入して、70~140℃に加熱して付加反応を行うことによって、目的とする化合物(R~Rのうちの1つが前記一般式(B)で表される基であり、残りが炭素数1~3のアルキル基である化合物)を得ることができる。
【0033】
(塩基性化合物)
本発明の剥離剤組成物は、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物を含有するものである。本発明の剥離剤組成物において、無機塩基性化合物及び有機塩基性化合物は、剥離剤組成物をアルカリ性に調整するものであり、いずれか一方を含んでいればよいが、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、少なくとも無機塩基性化合物を含んでいることが好ましく、無機塩基性化合物と有機塩基性化合物の両方を含んでいることがより好ましい。
【0034】
本発明に用いられる無機塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属のケイ酸塩が挙げられる。これらの無機塩基性化合物は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの無機塩基性化合物のうち、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、入手容易性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上や取扱性の観点から、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムとを併用することが特に好ましい。
【0035】
本発明においては、このような無機塩基性化合物として、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム、株式会社トクヤマ製)、苛性カリ(水酸化カリウム、東亞合成株式会社製)、メタ珪酸ソーダ(9水塩)(メタ珪酸ナトリウム、日本化学工業株式会社製)、二りん酸カリウム(ピロリン酸カリウム、米山薬品工業株式会社製)等の市販の無機塩基性化合物を適宜利用することができる。
【0036】
本発明に用いられる有機塩基性化合物としては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミン等の有機アミン化合物が挙げられる。これらの有機アミン化合物は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの有機アミン化合物のうち、入手容易性の観点から、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが好ましく、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、モノエタノールアミンがより好ましい。
【0037】
本発明においては、このような有機塩基性化合物として、モノエタノールアミン(三井化学ファイン株式会社製)、ジエタノールアミン(三井化学ファイン株式会社製)、トリエタノールアミン(三井化学ファイン株式会社製)、モノイソプロパノールアミン(三井化学ファイン株式会社製)等の市販の有機塩基性化合物を適宜利用することができる。
【0038】
(一般式(C)で表される化合物)
本発明に用いられる前記一般式(C)で表される化合物は、水酸基を有していてもよいアルキル基又はアルケニル基に、末端に水酸基を有するアルキル基又はアルキレンオキシ基が結合した化合物であり、非イオン界面活性剤として機能するものである。
【0039】
前記一般式(C)中、Rは、炭素数8~22のアルキル基、炭素数8~22のヒドロキシアルキル基、炭素数8~22のアルケニル基、又は炭素数8~22のヒドロキシアルケニル基を表す。これらのうち、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、炭素数10~18のアルキル基、炭素数10~18のヒドロキシアルキル基、炭素数10~18のアルケニル基、炭素数10~18のヒドロキシアルケニル基が好ましく、炭素数10~16のアルキル基、炭素数10~16のヒドロキシアルキル基、炭素数10~16のアルケニル基、炭素数10~16のヒドロキシアルケニル基がより好ましい。また、前記アルキル基、前記ヒドロキシアルキル基、前記アルケニル基及び前記ヒドロキシアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましく、直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0040】
前記一般式(C)中、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、これらのアルキレンオキシ基のうちの1種からなる鎖であっても2種以上の混合鎖であってもよい。また、AOとしては、消泡性の観点から、エチレンオキシ基(以下、「EO」と略す。)単独又はエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基(以下、「PO」と略す。)との混合鎖(以下、「EO/PO」と略す。)が好ましく、EO/PO混合鎖がより好ましい。EO/PO混合鎖におけるEOとPOのモル比としては、EO/PO=10/90~90/10が好ましく、EO/PO=25/75~75/25がより好ましい。
【0041】
前記一般式(C)中、pは、AOの繰り返し単位の数を表し、1~100の整数であり、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、4~50の整数であることが好ましく、4~20の整数であることがより好ましい。また、pが2以上の場合、複数存在するAOは、同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
このような前記一般式(C)で表される化合物の合成方法としては特に制限はなく、所定の炭素数を有するアルキル基又はアルケニル基を含有する高級アルコールに、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加する、公知の合成方法を採用することができる。例えば、耐圧反応容器に、前記Rを有する高級アルコールとアルカリ触媒とを仕込み、100℃に加熱しながら減圧脱水した後、付加したい当量分のアルキレンオキサイドを導入し、120~150℃に加熱して付加反応を行うことによって、目的とする化合物を得ることができる。
【0043】
〔剥離剤組成物〕
本発明の剥離剤組成物は、前記一般式(A)で表される化合物と、前記無機塩基性化合物及び/又は前記有機塩基性化合物とを含有するものであり、前記一般式(C)で表される化合物を更に含有するものであることが好ましい。
【0044】
また、本発明においては、前記一般式(A)で表される化合物と、前記無機塩基性化合物及び/又は前記有機塩基性化合物と、必要に応じて含まれる前記一般式(C)で表される化合物との混合物を、そのまま、剥離剤組成物として使用することも可能であるが、溶解目的や流動性向上の観点から、水又は有機溶媒を配合して使用してもよい。
【0045】
前記有機溶媒としては特に制限はないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類;3-メチル-3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。
【0046】
本発明の剥離剤組成物において、前記一般式(A)で表される化合物の含有量としては、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上やプラスチック基材の白化等の損傷の抑制の観点から、剥離剤組成物全体に対して、0.001~50質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましく、0.1~20質量%が更に好ましい。
【0047】
また、前記無機塩基性化合物及び/又は前記有機塩基性化合物の含有量としては、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上やプラスチック基材の白化等の損傷の抑制の観点から、前記無機塩基性化合物と前記有機塩基性化合物の合計量が、剥離剤組成物全体に対して、0.05~30質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましく、0.1~15質量%であることが更に好ましい。
【0048】
さらに、前記無機塩基性化合物と前記有機塩基性化合物とを併用する場合、前記無機塩基性化合物と前記有機塩基性化合物との質量比としては、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上やプラスチック基材の白化等の損傷の抑制の観点から、無機塩基性化合物/有機塩基性化合物=1/0.1~1/1が好ましく、無機塩基性化合物/有機塩基性化合物=1/0.2~1/1がより好ましい。
【0049】
また、前記一般式(A)で表される化合物(化合物(A))と前記無機塩基性化合物と前記有機塩基性化合物の合計量との質量比としては、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、化合物(A)/塩基性化合物=5/1~5/100が好ましく、化合物(A)/塩基性化合物=5/1~5/50がより好ましく、化合物(A)/塩基性化合物=5/1~5/20が更に好ましい。
【0050】
さらに、前記一般式(C)で表される化合物の含有量としては、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、剥離剤組成物全体に対して、0.01~30質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましい。
【0051】
(その他の成分)
本発明の剥離剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、プラスチック材料のリサイクル分野で、機能層剥離剤組成物に配合することが可能な公知の成分を配合することができる。このような成分としては特に制限はないが、例えば、キレート剤、酸化防止剤、防錆剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。
【0052】
(キレート剤)
本発明の剥離剤組成物においては、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上や無機異物の除去性能の向上の観点から、キレート剤を配合することが好ましい。このようなキレート剤としては、例えば、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン五酢酸、イミノジコハク酸、アスパラギン酸ジ酢酸、アミノメチルグリシンジ酢酸等のアミノカルボン酸誘導体及びそれらの塩;クエン酸、酒石酸、グルコン酸等有機酸の塩;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸/マレイン酸共重合体、及びそれらの塩等の高分子電解質系化合物;トリポリリン酸塩、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩等のリン酸系化合物;1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、及びそれらの塩等のホスホン酸系化合物;A型ゼオライト、B型ゼオライト等のアルミノケイ酸が挙げられる。これらの中でも、ニトリロトリ酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、トリエチレンテトラミン五酢酸、トリポリリン酸塩、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸及びその塩が好ましい。
【0053】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0054】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、クロム酸塩、モリブデン酸塩、亜硝酸ナトリウム等の無機系防錆剤が挙げられる。
【0055】
(防腐剤)
防腐剤としては、例えば、パラベン系防腐剤、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸塩系防腐剤、デヒドロ酢酸、二酸化硫黄、ピロ亜硫酸ナトリウム系防腐剤等が挙げられる。
【0056】
(粘度調整剤)
粘度調整剤としては、例えば、高分子化合物、層状無機粒子等が挙げられる。
【0057】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、ポリエーテル系化合物、アセチレングリコール系化合物等が挙げられる。
【0058】
(剥離方法)
次に、本発明の剥離剤組成物を用いた機能層やインク膜の除去方法について説明する。
【0059】
本発明の剥離剤組成物を用いた機能層やインク膜の除去方法においては、積層フィルムの機能層やインク膜を、本発明の剥離剤組成物に接触させる。機能層やインク膜を前記剥離剤組成物に接触させる方法としては、溶液状態の剥離剤組成物の入った剥離剤槽に機能層やインク膜を浸漬する方法(浸漬法)、溶液状態の剥離剤組成物を機能層やインク膜の表面に塗布する方法(塗布法)、溶液状態の剥離剤組成物や気化した剥離剤組成物を機能層やインク膜の表面に噴霧する方法(噴霧法)等が挙げられる。また、前記浸漬法においては、剥離剤槽内で超音波処理を施してもよい(超音波処理法)。これらの方法のうち、機能層やインク膜への剥離剤組成物の浸透性の観点から、浸漬法、超音波処理法が好ましい。
【0060】
前記浸漬法において、浸漬時の剥離剤組成物の温度(浸漬温度)としては特に制限はないが、剥離剤組成物の粘度が低く、機能層やインク膜への剥離剤組成物が浸透しやすいという観点から、室温(20℃)以上が好ましく、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上の観点から、40℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましく、70℃以上が特に好ましい。また、剥離剤組成物の蒸発を防止するという観点から、浸漬温度は、剥離剤組成物の沸点以下が好ましい。例えば、溶媒として水を含有する剥離剤組成物においては、浸漬温度が100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。なお、浸漬法以外の方法においても、前記浸漬温度を採用することができる。
【0061】
前記浸漬法において、剥離剤組成物への浸漬時間としては特に制限はないが、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上やプラスチック基材の白化等の損傷の抑制の観点から、1~60分間が好ましく、1~30分間がより好ましく、1~10分間が更に好ましい。
【0062】
(超音波処理法)
前記超音波処理法における超音波の周波数としては特に制限はないが、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上や剥離した機能層の微細化の観点から、5~3000kHzが好ましく、15~500kHzがより好ましく、15~100kHzが更に好ましい。また、超音波の振幅としては特に制限はないが、様々な機能層やインク膜に対する除去性能の向上や剥離した機能層の微細化の観点から、1~100μmが好ましく、5~80μmがより好ましい。なお、前記超音波処理法における浸漬温度及び浸漬時間は、前記浸漬法における浸漬温度及び浸漬時間と同様である。
【0063】
このような超音波処理法に用いられる超音波処理装置としては特に制限はないが、例えば、ホーンタイプ、スイーブタイプ等の装置が挙げられ、広範囲の機能層やインク膜を除去する場合には、スイーブタイプの装置が好ましく、狭い範囲の機能層やインク膜を除去する場合には、ホーンタイプの装置が好ましい。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
〔一般式(A)で表される化合物〕
実施例及び比較例で使用した下記一般式(A)で表される化合物(以下、「化合物(A)」と略す。)は、以下の方法により合成した。また、各合成例で得られた化合物(A1)~(A11)における下記一般式(A)中のR~R及びXm-を表1に示す。
【0066】
【化3】
【0067】
【表1】
【0068】
(合成例A1)
耐圧反応容器に、N,N-ジメチルドデシルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100g、イオン交換水207g、60%硝酸47gを仕込み、85~95℃に加熱した後、耐圧反応容器内を窒素置換した。その後、エチレンオキシド23gを吹き込み、85~95℃で6時間熟成して、目的の化合物(A1)を得た。
【0069】
(合成例A2)
60%硝酸の代わりに、85%リン酸27gを用いた以外は合成例A1と同様にして、目的の化合物(A2)を得た。
【0070】
(合成例A3)
60%硝酸の代わりに、ホウ酸15gを用いた以外は合成例A1と同様にして、目的の化合物(A3)を得た。
【0071】
(合成例A4)
耐圧反応容器に、40℃で溶解したドデシルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを仕込み、耐圧反応容器内を窒素置換した後、120~130℃に加熱した。その後、エチレンオキシド48gを吹き込み、120~130℃で6時間熟成して、ドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物である中間体化合物を得た。この中間体化合物を90℃に冷却した後、イオン交換水207gを添加し、さらに60%硝酸54gを添加して混合し、85~95℃に加熱した後、耐圧反応容器内を窒素置換した。その後、エチレンオキシド26gを吹き込み、85~95℃で6時間熟成して、目的の化合物(A4)を得た。
【0072】
(合成例A5)
エチレンオシドの代わりに、プロピレンオキシド30gを用いた以外は合成例A1と同様にして、目的の化合物(A5)を得た。
【0073】
(合成例A6)
合成例A4と同様にして、ドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物である中間体化合物を得た。この中間体化合物を60℃に冷却した後、反応容器に148g仕込み、85~95℃に加熱しながら硫酸ジメチル114gを滴下した。滴下終了後、85~95℃で6時間熟成し、イオン交換水207gを添加して混合し、目的の化合物(A6)を得た。
【0074】
(合成例A7)
N,N-ジメチルドデシルアミンの代わりにN,N-ジメチル-n-オクチルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを用い、60%硝酸の量を64gに変更し、エチレンオキシドの量を31gに変更した以外は合成例A1と同様にして、目的の化合物(A7)を得た。
【0075】
(合成例A8)
耐圧反応容器に、N,N-ジメチルドデシルアミンの代わりに30℃で溶解したN,N-ジメチル-n-オクタデシルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを仕込み、60%硝酸の量を34gに変更し、エチレンオキシドの量を16gに変更した以外は合成例A1と同様にして、目的の化合物(A8)を得た。
【0076】
(合成例A9)
ドデシルアミンの代わりにオレイルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを用い、エチレンオキシドの量を33gに変更した以外は合成例A4と同様にして、オレイルアミンのエチレンオキシド2モル付加物である中間体化合物を得た。その後、中間体化合物としてドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物の代わりにオレイルアミンのエチレンオキシド2モル付加物を用い、60%硝酸の量を37gに変更し、エチレンオキシドの量を18gに変更した以外は合成例A4と同様にして、目的の化合物(A9)を得た。
【0077】
(合成例A10)
合成例A4と同様にして、ドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物である中間体化合物を得た。この中間体化合物を90℃に冷却した後、触媒として水酸化カリウム0.15gを添加し、耐圧反応容器内を窒素置換した。次に、120℃で1時間減圧脱水した後、120~130℃に加熱した。その後、120~130℃に加熱しながらエチレンオキシド190gを吹き込み、120~130℃で6時間熟成して、ドデシルアミンのエチレンオキシド10モル付加物である中間体化合物を得た。その後、中間体化合物としてドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物の代わりにドデシルアミンのエチレンオキシド10モル付加物を用い、60%硝酸の代わりにp-トルエンスルホン酸163gを用いた以外は合成例A4と同様にして、目的の化合物(A10)を得た。
【0078】
(合成例A11)
エチレンオシド190gの代わりに、プロピレンオキシド63gを用いた以外は合成例A10と同様にして、目的の化合物(A11)を得た。
【0079】
〔一般式(C)で表される化合物〕
実施例及び比較例で使用した下記一般式(C)で表される化合物(以下、「化合物(C)」と略す。)は、以下の方法により合成した。また、各合成例で得られた化合物(C1)~(C5)における下記一般式(C)中のR、AO及びpを表2に示す。
-(AO)-H (C)
【0080】
【表2】
【0081】
(合成例C1)
耐圧反応容器に、デシルアルコール(試薬、東京化成工業株式会社製)100gと水酸化カリウム0.2gを仕込み、耐圧反応容器内を窒素置換した。次に、120℃で1時間減圧脱水した後、120~130℃に加熱した。その後、120~130℃に加熱しながらエチレンンオキシド139gを導入し、同温度で3時間熟成して、目的の化合物(C1)を得た。
【0082】
(合成例C2)
耐圧反応容器に、ドデシルアルコール(試薬、東京化成工業株式会社製)100gと水酸化カリウム0.2gを仕込み、耐圧反応容器内を窒素置換した。次に、120℃で1時間減圧脱水した後、120~130℃に加熱した。その後、120~130℃に加熱しながらプロピレンオキシド94gを導入し、同温度で12時間熟成し、さらに、120~130℃に加熱しながらエチレンンオキシド213gを導入し、同温度で3時間熟成して、目的の化合物(C2)を得た。
【0083】
(合成例C3)
プロピレンオキシドの量を281gに変更し、エチレンンオキシドの量を71gに変更した以外は合成例C2と同様にして、目的の化合物(C3)を得た。
【0084】
(合成例C4)
デシルアルコールの代わりにドデシルアルコール(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを用い、エチレンンオキシドの量を284gに変更した以外は合成例C1と同様にして、目的の化合物(C4)を得た。
【0085】
(合成例C5)
耐熱反応容器に、オクタデシルアルコール(試薬、東京化成工業株式会社製)100gと水酸化カリウム0.2gを仕込み、70℃に昇温した後、耐圧反応容器内を窒素置換した。次に、120℃で1時間減圧脱水した後、120~130℃に加熱した。その後、120~130℃に加熱しながらプロピレンオキシド322gを導入し、同温度にて12時間熟成し、さらに、120~130℃に加熱しながらエチレンンオキシド976gを導入し、同温度にて3時間熟成して、目的の化合物(C5)を得た。
【0086】
〔キレート剤〕
キレート剤として、ジエチレントリアミン5酢酸(試薬、東京化成工業株式会社製)を使用した。
【0087】
〔その他の化合物(a)〕
比較例で使用した前記化合物(A)に類似する化合物(以下、「化合物(a)」と略す。)は、以下の方法により合成した。また、各合成例で得られた化合物(a1)~(a3)及び化合物(a4)における前記一般式(A)中のR~R及びXm-に対応する基及び対イオンを表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
(合成例a1)
反応容器に、N,N-ジメチルドデシルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを仕込み、窒素を通入しながら85~95℃に加熱し、同温度で塩化ベンジル(試薬、富士フイルム和光純薬株式会社製)99gを滴下した。滴下終了後、85~95℃で6時間熟成した後、イオン交換水207g添加して混合し、目的の化合物(a1)を得た。
【0090】
(合成例a2)
合成例A4と同様にして、ドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物である中間体化合物を得た。この中間体化合物を90℃に冷却した後、触媒として水酸化カリウム0.15gを添加し、耐圧反応容器内を窒素置換した。次に、120℃で1時間減圧脱水した後、エチレンオキシド428gを吹き込み、120~130℃で6時間熟成して、ドデシルアミンのエチレンオキシド20モル付加物である中間体化合物を得た。その後、中間体化合物としてドデシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物の代わりにドデシルアミンのエチレンオキシド20モル付加物を用いた以外は合成例A4と同様にして、目的の化合物(a2)を得た。
【0091】
(合成例a3)
ドデシルアミンの代わりにヘキシルアミン(試薬、東京化成工業株式会社製)100gを用い、エチレンオキシドの量を87gに変更した以外は合成例A4と同様にして、ヘキシルアミンのエチレンオキシド2モル付加物である中間体化合物を得た。この中間体化合物を60℃に冷却した後、反応容器に187g仕込み、85~95℃に加熱しながら硫酸ジエチル254gを滴下した。滴下終了後、85~95℃で6時間熟成し、イオン交換水207gを添加して混合し、目的の化合物(a3)を得た。
【0092】
(化合物(a4))
化合物(a4)として、テトラヘキシルアンモニウムクロライド(試薬、Sigma-Aldrich社製)を使用した。
【0093】
(実施例1~28及び比較例1~11)
〔剥離剤組成物の調製〕
表4に示した種類の化合物(A)又は化合物(a)、無機塩基性化合物、有機塩基性化合物、化合物(C)及びキレート剤を、表4に示した濃度となるように、水に溶解して、剥離剤組成物を調製した。
【0094】
〔剥離剤組成物の性能評価〕
1.インク膜除去性能
(印刷フィルムの作製)
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(アズワン株式会社製「ルミラー(R)フィルム」)表面の10cm×10cmの範囲に、手動スクリーン印刷機(辻井染機工業株式会社製)を使用して、ハイブリッドUV硬化インク(東洋インキ株式会社製「F-DK-HS墨」)を約1μmの厚みでベタ展色(印刷)した。展色したポリエチレンテレフタレートフィルムをコンベア式UV装置(アイグラフィックス株式会社製「ECS-4011GX/N」)を使用し、120W/cmのメタルハイドライドランプを用いてUV光を積算光量1000mj/cmとなるように照射してインクを硬化させ、印刷フィルムを作製した。
【0095】
(性能評価試験)
SUS製容器に入れた前記剥離剤組成物100mlに、5cm×5cmにカットした前記印刷フィルムを表4に示した条件で浸漬した後、70℃で30分間乾燥させた。乾燥後の前記印刷フィルムの表面をデジタルカメラ(キヤノン株式会社製「IXY200」)を用いて撮影した。得られた写真を用いて、インク膜面積を画像処理により求め、下記式によりインク除去率を算出して下記基準により評価した。その結果を表5及び表6に示す。
インク除去率[%]=(1-浸漬後のインク膜面積/浸漬前のインク膜面積)×100
A:インク除去率100%。
B:インク除去率75%以上100%未満。
C:インク除去率50%以上75%未満。
D:インク除去率50%未満。
【0096】
2.離型層除去性能
(離型フィルムの作製)
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(アズワン株式会社製「ルミラー(R)フィルム」)の片面に、バーコーター(テスター産業株式会社製「PI―1210 AUTO FILM APPLICATOR」)を用いて、ポリビニルアルコール樹脂(三菱ケミカル株式会社製「GH-17R」)の5重量%水溶液を、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにコーティングした後、オーブン中、120℃で5分間乾燥した。
【0097】
乾燥後の前記フィルムのポリビニルアルコール樹脂層表面に、前記バーコーターを用いて、硬化型シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製「LTC-310」、硬化剤:SRX211)の5質量%トルエン溶液を、乾燥後の厚さが1μmとなるようにコーティングした後、オーブン中、100℃で5分間乾燥して、離型層(シリコーン樹脂硬化物層)を備える離型フィルムを作製した。
【0098】
(性能評価試験)
SUS製容器に入れた前記剥離剤組成物100mlに、5cm×5cmにカットした前記離型フィルムを表4に示した条件で浸漬した後、70℃で30分間乾燥させた。乾燥後の前記離型フィルムのSi元素を、蛍光X線分析装置(XRF、株式会社島津製作所製「EDX-7000」)を用いて定量分析し、下記式によりSi除去率を算出して下記基準により評価した。その結果を表5及び表6に示す。
Si除去率[%]=(1-浸漬後のSi元素量/浸漬前のSi元素量)×100
A:Si除去率90%以上100%以下。
B:Si除去率75%以上90%未満。
C:Si除去率50%以上75%未満。
D:Si除去率50%未満。
【0099】
3.無機異物除去性能
(セラミックグリーンシートの作製)
セラミック粉体(富士フイルム和光純薬株式会社製チタン酸バリウム(試薬))100質量部とアクリル系ポリマー10質量部とを、スラリー粘度が300~500mPa・sとなるようにイソプロピルアルコールに添加して、セラミックススラリーを調製した。このセラミックススラリーを、前記方法により作製した離型フィルムの離型層(シリコーン樹脂硬化物層)表面に乾燥後の厚さが5μmとなるように均一に塗布し、オーブン中、85℃で10分間乾燥して、セラミックグリーンシートを作製した。
【0100】
(性能評価試験)
前記セラミックグリーンシートから前記離型フィルムを剥離し、得られた前記離型フィルムを5cm×5cmにカットして、SUS製容器に入れた前記剥離剤組成物100mlに表4に示した条件で浸漬した後、70℃で30分間乾燥させた。乾燥後の前記離型フィルムの無機異物の個数を数え、下記式により無機異物除去率を算出して下記基準により評価した。その結果を表5及び表6に示す。
無機異物除去率[%]=(1-浸漬後の無機異物個数/浸漬前の無機異物個数)×100
A:無機異物除去率90%以上100%以下。
B:無機異物除去率75%以上90%未満。
C:無機異物除去率50%以上75%未満。
D:無機異物除去率50%未満。
【0101】
4.粘着層除去性能
(性能評価試験)
SUS製容器に入れた前記剥離剤組成物100mlに、5cm×5cmにカットした市販の粘着シート(日榮新化株式会社製「PET75-H-120(10)」、ポリエチレンテレフタレートの厚さ:75μm、アクリル粘着層の厚さ:10μm)を表4に示した条件で浸漬した後、70℃で30分間乾燥させた。乾燥後の前記粘着シートを指触し、下記基準により粘着性を評価した。その結果を表5及び表6に示す。
A:粘着性なし。
B:弱い粘着が認められる。
C:強い粘着が認められる。
【0102】
5.プラスチック基材の損傷
(評価試験)
前記2.離型層除去性能における評価試験後のフィルムを目視により観察し、下記基準により、プラスチック基材の損傷を評価した。
A:白化なし。
B:部分的に曇りあり。
C:全面が白化。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
表5に示したように、前記一般式(A)で表される化合物(A)と、無機塩基性化合物及び/又は有機塩基性化合物とを含有する剥離剤組成物(実施例1~28)は、印刷フィルム、離型フィルム、粘着シートの機能層(インク膜、離型層、粘着層)を十分に剥離したり、セラミックグリーンシートから剥離した離型フィルムから無機異物を十分に除去したりすることができ、また、剥離後のプラスチック基材は、損傷がなく、リサイクル可能であることが確認された。また、実施例5に示したように、剥離剤組成物にキレート剤を配合することによって、無機異物の除去性能が向上することがわかった。
【0107】
一方、表6に示したように、前記一般式(A)で表される化合物(A)を含まない剥離剤組成物(比較例1~9)や、無機塩基性化合物及び有機塩基性化合物を含まない剥離剤組成物(比較例10~11)は、インク膜、離型層、粘着層、無機異物の除去性能に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明によれば、プラスチック基材上に形成された様々な機能層(例えば、シリコーン樹脂硬化物からなる離型層や粘着層)やインク膜を十分に除去することが可能であり、かつ、機能層除去やインキ洗浄によるプラスチック基材の白化等の損傷を抑制することが可能となる。
【0109】
したがって、本発明の剥離剤組成物は、プラスチック基材上に様々な機能層やインク膜が積層された積層フィルムをリサイクルする際に、前記プラスチック基材を損傷させることなく、前記積層フィルムから機能層やインク膜を除去することが可能であるため、プラスチック材料のリサイクル用剥離剤として有用である。