(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004553
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】路面状態分析システム、方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20250107BHJP
G08G 1/0968 20060101ALI20250107BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
G08G1/0968
G01C21/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104299
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100200229
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】吉村 僚太
(72)【発明者】
【氏名】小西 毅
(72)【発明者】
【氏名】横山 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】信太 奈美
【テーマコード(参考)】
2C032
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2C032HB11
2F129AA02
2F129CC06
2F129DD29
2F129EE02
2F129EE52
2F129EE62
2F129FF02
2F129FF32
2F129FF52
5H181AA05
5H181FF22
(57)【要約】
【課題】 路面を走行する走行者の状況に応じて、路面が走行可能であるか否かを分析する技術を提供することにある。
【解決手段】 路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力部と、前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出部と、二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定部と、前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定部と、乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新部と、を備える路面状態分析システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力部と、
前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出部と、
二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定部と、
前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定部と、
乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新部と、
を備える路面状態分析システム。
【請求項2】
前記動作平面空間情報は、前記走行者の平面上の大きさ情報を含む請求項1に記載の路面状態分析システム。
【請求項3】
前記走行者が車椅子使用者の場合、前記走行者の平面上の大きさ情報は、前記車椅子が回転できる寸法情報である請求項2に記載の路面状態分析システム。
【請求項4】
前記動作平面空間情報は、前記走行者が通過するために必要な幅情報をさらに含む請求項2に記載の路面状態分析システム。
【請求項5】
前記走行者が車椅子使用者の場合、前記走行者が通過するために必要な幅情報は、前記車椅子が通過できる寸法情報である請求項4に記載の路面状態分析システム。
【請求項6】
前記抽出部は、前記走行不可能領域を前記動作平面空間情報の分拡張した形で抽出し、
前記判定部は、
前記走行可能領域と、拡張された前記走行不可能領域との境界線上の所定の点を通る線分を前記境界線上の別の点に達するまで伸ばし、
前記線分の長さが前記段差の奥行以下であるかを判定し、
前記段差の奥行以下の場合、前記線分に沿った前記走行者の通過領域の高さが、前記段差の高さ以下であるかを判定し、
前記段差の高さ以下の場合、前記走行者の通過領域は乗り越え可能であると判定する請求項1に記載の路面状態分析システム。
【請求項7】
路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力ステップと、
前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出する抽出ステップと、
二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定ステップと、
前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定ステップと、
乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新ステップと、
を備える路面状態分析方法。
【請求項8】
路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力ステップと、
前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出する抽出ステップと、
二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定ステップと、
前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定ステップと、
乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新ステップと、
を備えるコンピュータに実行可能な路面状態分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、路面の状態を分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ドローンによる測量で生成した3次元地図などの空間環境の地図データから対象者が走行可能な領域を自動的に抽出する技術は、自動運転などの分野で研究されている。このような技術を活用して、車椅子で走行可能な領域を抽出することができれば、災害時の避難経路などの環境情報として活用できる。一方、車椅子は段差を乗り越える際に特有の難しさがある。例えば、段差を上る際には前向きに、段差を下りる際には後ろ向きになる必要がある。
【0003】
このため、凸部の幅が狭い段差(例えば、車道と歩道を区別する縁石が単体で立っている段差)は、車椅子では乗り越えることができない。一方、凸部の幅が広い段差は、段差を上った後に車椅子が後ろ向きに方向転換できるスペースがあれば、乗り越えることが可能である。
【0004】
特許文献1は、3次元地図データから抽出した走行路情報を自動搬送車の車体情報と照らし合わせて走行できる走行路を判定し、3次元地図にマッピングされた走行経路から、出発地点から終着地点までの最適な経路を設定する技術を開示している。走行路の判定は、通過、回転、段差、及び、登坂の4つの条件について行う。例えば、車体寸法よりも狭いと、通過不可と判定し、車体の最小回転半径よりもカーブがきついと、回転不可と判定し、走破可能な最大段差よりも高いと、乗り越え不可と判定し、さらに、急勾配だと、乗り越え不可と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、乗り越え可能性の判定基準は、障害物の高さや勾配のみであり、車体の最小回転半径を用いていない。このため、段差を上がった後に車椅子が後ろ向きに方向転換できるスペースがあるかを判断しておらず、車椅子で走行可能な路面状態を正確に分析することができないという課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に着目して鋭意研究され完成されたものであり、その目的は、路面を走行する走行者の状況に応じて、路面が走行可能であるか否かを分析する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力部と、前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出部と、二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定部と、前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定部と、乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新部と、を備える路面状態分析システムである。
【0009】
他の本発明は、路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力ステップと、前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出する抽出ステップと、二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定ステップと、前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定ステップと、乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新ステップと、を備える路面状態分析方法である。
【0010】
他の本発明は、路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、前記走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報と、を入力する入力ステップと、前記路面の3次元地図データから、前記動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出する抽出ステップと、二箇所の前記走行可能領域で挟まれた前記走行不可能領域を段差領域と設定する設定ステップと、前記段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、前記走行者が前記段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定ステップと、乗り越え可能であると判定された前記段差領域を、前記走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新ステップと、を備えるコンピュータに実行可能な路面状態分析プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、路面を走行する走行者の状況に応じて、路面が走行可能であるか否かを分析する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る路面状態分析システムの機能ブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る段差乗り越えの例(介助者ありの車椅子)を説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係る走行可能領域の抽出、及び、段差の乗り越え判定を説明するための図である。
【
図4】本実施形態に係る乗り越え可能な段差の判定条件を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る走行可能領域の抽出及び乗り越え可能領域の設定に関するフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係る走行可能領域の抽出例を示す図である。
【
図7】本実施形態に係る乗り越え可能領域の設定例その1を示す図である。
【
図8】本実施形態に係る乗り越え可能領域の設定例その2を示す図である。
【
図9】本実施形態に係る乗り越え可能領域の設定例その3を示す図である。
【
図10】分析対象となる路面環境の例を示す図である。
【
図11】本実施形態に係る路面状態分析システムが走行者毎に路面を分析した結果を示す図である。
【
図12】本実施形態に係る走行者毎の本発明で生成された地図から算出した最短経路の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、走行可能領域は、平坦な路面のうち、走行者の平面上の大きさ分以上の広さがある平坦な領域をいう。また、走行不可能領域とは、路面上にある乗り越え不可能な段差(外観形状の不明瞭な障害物なども含む)をいうが、走行者に応じて、乗り越え可能な段差は異なる。
例えば、車椅子利用者の場合、車椅子の車体の大きさ(車体最小回転直径)分以上の広さがある平坦な領域は走行可能領域に該当し、高さが40cm以上の段差などは走行不可能領域に該当する。
【0014】
(路面状態分析システム)
図1は、本発明の実施形態に係る路面状態分析システムの機能ブロック図である。路面状態分析システム100は、3次元地図データベース200から提供される路面の3次元地図データを用いて、路面を走行する走行者の状況に応じた段差乗り越え可否を判定し、走行可能領域を抽出する。ここで、走行者とは、路面を移動する者であれば誰でもよく、その移動手段に制限は無く、一般的な歩行者や、介助者のいる車椅子利用者などでもよい。
【0015】
3次元地図データベース200は、様々な地域の空間環境に関する3次元地図データを格納している。3次元地図データは、例えばドローンによる航空レーザ測量法によって生成されている。航空レーザ測量法は、例えば、ドローンを高度約50mの上空に上げて、約70m四方の領域をレーザ距離センサで計測し、計測したデータを重ね合わせて地図を生成している。3次元地図データベース200は、路面状態分析システム100に含まれていてもよい。また、路面状態分析システム100は、外部の3次元地図データベース200をインターネット経由で利用してもよい。また、路面状態分析システム100は、走行者に設置されたセンサでリアルタイムに計測した環境の3次元形状データを3次元地図データとして用いてもよい。
【0016】
本実施形態の路面状態分析システム100は、インターネットと送受信可能なコンピュータ上で動作可能な路面状態分析ソフトウェアとして構成されている。路面状態分析システム100は、外部の3次元地図データベース200から、走行者周辺の路面環境に関する3次元地図データをダウンロードし、3次元地図データから、走行者に応じた走行可能領域を抽出する。
【0017】
路面状態分析システム100は、路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報の入力を受け付ける入力部110と、路面の3次元地図データから、動作平面空間情報以上の広さがある走行可能領域、及び、走行不可能領域を複数抽出する抽出部120と、二箇所の走行可能領域で挟まれた走行不可能領域を段差領域と設定する設定部130と、段差の高さ情報及び奥行情報に基づいて、走行者が段差領域を乗り越え可能であるかを判定する判定部140と、乗り越え可能であると判定された段差領域を、走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新する更新部150を備える。このような路面状態分析ソフトウェアの各機能ブロックを、クラウド事業者が提供する仮想サーバ等のコンピュータに実行可能な形態で実装することによって、路面状態分析システム100を実施することが可能になる。
【0018】
(乗り越え可能な段差の判定条件)
本実施形態では、路面を走行する走行者の一例として、介助者ありの車椅子を挙げる(以下、単に車椅子という)。また、介助者は一人であることを前提とする。車椅子が乗り越え可能な段差を判定する条件について説明する。
【0019】
図2を用いて、車椅子が段差乗り越え可能か否かをいくつかのパターンに分けて説明する。ここでは、(1)単純な段差を上がる場合、(2)連続した段差を上がる場合、(3)凸型の段差を乗り越える場合、(4)凹型の段差を移動する場合に分けて説明する。ここで全ての場合において、車椅子が通行できる程度の車幅(約90cm)は確保できていることを前提にする。
【0020】
(1)単純な段差を上がる場合について、段差の高さに分けて説明する。20cm程度の高さの段差の場合、介助者が車椅子後部のハンドルを下に押し下げ、車椅子の前輪を上げた状態で車椅子を前方に移動し、段差の上に前輪を載せる。介助者はハンドルを上に持ち上げ、車椅子の後輪が持ち上がった状態でさらに前に移動し、車椅子の後輪も段差の上に載せる。このようにして車椅子は段差を乗り越えることが可能になる。一方、一つの段差の高さが40cm程度になると、そもそも車椅子の前輪を段差の上に載せることができず、乗り越えることが不可能である。
【0021】
(2)連続した段差を上がる場合について、一段目の広さに分けて説明する。車幅は確保できていることが前提なので、ここでの広さとは奥行のことである。一段目に車椅子全体がとどまるほどの十分な奥行があれば、一つ目の段差(高さ20cm)を乗り越え、さらに、2つ目の段差(高さ20cm)を乗り越えることができる。一方、一段目に車椅子全体がとどまるほどの十分な奥行が無いと、車椅子の前輪のみが一つ目の段差を上がることしかできない。このような状態では、一人の介助者で車椅子が乗り越えることはできない。
【0022】
(3)凸型の段差を乗り越える場合について、凸型上部の広さに分けて説明する。車椅子は段差を上る際には前向きに、段差を下りる際には後ろ向きになる必要がある。このように向きを変える理由は、介助用の車椅子には一般的にシートベルトが無いからである。車椅子が180°回転して、向きを変えるためには直径150cm程度の広さが必要である。
【0023】
凸型上部の広さが直径150cm程度ある場合、車椅子は前向きに凸型段差の上部に上がり、180°回転し、後ろ向きになってから段差を降りることによって、凸型段差を乗り越えることができる。一方、凸型上部の広さが直径150cmに満たず、凸型上部で車椅子を180°回転することができない場合、乗り越えることができない。
【0024】
(4)凹型の段差を乗り越える場合について、凹型下部の広さに分けて説明する。凹型下部の広さが直径150cm程度ある場合、車椅子は段差を下る前に180°回転し、後ろ向きになってから段差を降りる。そして、再び180°回転し、前向きになった状態で段差を乗り越えることができる。一方、凸型下部の広さが直径150cmに満たず、凸型下部で車椅子を180°回転することができない場合、乗り越えることができない。
【0025】
なお、凹型の段差が深い窪みの場合、単に段差の高さのみでは、乗り越え可能な段差を判定することはできない。例えば、窪みの奥行が狭く、車椅子の前輪と後輪の間隔よりも短い場合、まず前輪を上げた状態で窪みを乗り越え、次に前輪を着地してから、後輪を上げた状態で窪みを乗り越えることが可能である。
【0026】
図3を用いて、走行可能領域の抽出、及び、段差の乗り越え判定について説明する。本実施形態では、車体の大きさ分の平坦な路面を走行可能領域と設定し、さらに走行可能領域で段差を分離することによって、段差の乗り越え可否を判定する方法を簡易にすることが可能になる。
【0027】
走行者が車椅子の場合、路面が平坦で有ることに加え、車椅子の車体の大きさを考慮して、走行可能領域を設定する。車椅子の場合、例えば、車体の平面寸法(進行方向の長さ、及び、車幅)を単に有するだけでなく、車椅子が回転できる範囲(直径約150cm)も有する路面は、走行可能領域として設定する。車椅子が回転できる範囲(直径約150cm)は、路面を走行する走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と定義することもできる。
【0028】
同図(a)を用いて、走行可能領域を抽出する方法を説明する。ここでは、2種類の段差を例として挙げる。左側の例には2つの段差があるが、3つの路面全てが車椅子の走行可能領域として抽出される(3つの両矢印線)。一方、右側の例も2つの段差があるが、真ん中の路面は車椅子が走行することができない走行不可能領域として抽出され、一番下と一番上の路面の2つだけが車椅子の走行可能領域として抽出される(2つの両矢印線)。
【0029】
同図(b)を用いて、走行可能領域の間を1つの段差として判定する方法を説明する。左側の場合、2つの段差の高さは共に20cmである。介助者付きの車椅子は上述した通り、高さ20cmの段差を乗り越えることができる。そして、2つの段差は共に、両側の路面が走行可能領域であるため、2つの段差を乗り越えることが可能である。
【0030】
右側の場合も2つの段差の高さは共に20cmである。しかしながら、真ん中の路面が走行不可能領域であり、一番下と一番上の路面が走行可能領域である(2つの両矢印線)。そこで、一番下と一番上の2つの走行可能領域の間(2つの両矢印線の間)を1つの段差として判定する。この場合、各20cmの段差2つは40cmの段差1つであると設定され、介助者付きの車椅子は乗り越えることができないと判定される。このように二箇所の走行可能領域で挟まれた走行不可能領域を段差領域と設定することによって、左側の例は乗り越え可能であるが、右側の例は乗り越え不可能であると簡易に判定することが可能になる。
【0031】
図4は、本実施形態に係る乗り越え可能な段差の判定条件を示す。本実施形態では、以下の(A)から(D)の4つの条件を全て満たせば、段差を乗り越えることが可能であると判定する。ここで、条件の具体的な数値は車椅子の場合を例にしている。なお、段差を雲形の形状で表しているのは、外観形状の不明瞭な障害物なども含めるためであり、また、3次元地図データの画素精度によっては段差の立ち上がりが急峻、又は、なだらかを識別することが困難な場合も想定しているためである。
【0032】
条件(A)は、段差の前後に走行可能領域が存在することである。
図4の両矢印線2つが、段差の前後の走行可能領域に該当する。2つの走行可能領域が共に、半径75cmの円形を含む平坦な路面であることを考慮して、2つの走行可能領域の長さが共に150cm以上であると設定する。
【0033】
条件(B)は、段差の奥行情報が閾値以下であることである。例えば、
図2の凹型の段差が深い窪み等の場合、その段差の奥行情報が閾値以下であることが必要である。ここでは、段差の奥行情報が10cm以下であると設定する。なお、条件(B)は、ドローンが計測したセンサデータのノイズを緩和するためにも設定しており、例えば、垂直に切り上がった段差の場合、段差の奥行情報は0cmになる。
【0034】
条件(C)は、低い方の路面から見た段差の高さ情報が閾値以下であることである。ここでは、介助者が車椅子の前輪と後輪を別々に乗り越えることを考慮して、低い方の路面から見た段差の高さ情報が20cm以下であると設定する。
【0035】
条件(D)は、高い方の路面から見た段差の高さ情報が閾値以下であることである。ここでは、介助用の車椅子には一般的にシートベルトが無いことを考慮して、高い方の路面から見た段差の高さ情報が5cm以下であると設定する。条件(D)も、条件(B)と同様、ドローンが計測したセンサデータのノイズを緩和するためにも設定している。なお以下では、低い方の路面から見た段差の高さ情報、及び、高い方の路面から見た段差の高さ情報を合わせて、単に段差の高さ情報という。なお、
図2の凹型の段差として記載の深い窪みの場合、条件(C)及び(D)の段差高さは0cm未満の数値になる。そのため、深い窪みの場合は条件(C)及び(D)は自動的に満たされることになり、条件(A)及び(B)のみによって乗り越え可能な窪みか否かが判定される。
【0036】
(走行可能領域の抽出、及び、乗り越え可能な段差の判定に関するフローチャート)
図5は、本実施形態に係る走行可能領域の抽出処理及び乗り越え可能領域の設定処理に関するフローチャートである。S110及びS120が走行可能領域の抽出処理に関し、S130からS190が乗り越え可能領域の設定処理に関する。また、
図6から
図9はフローチャートを説明する際の具体例である。
図6は、本実施形態に係る走行可能領域の抽出例を示す。
【0037】
図7から
図9は、本実施形態に係る乗り越え可能領域の設定例(その1からその3)を示す。
図7は、設定例その1を、後述するように3つの角度θの場合に分けて描いており、θ1の場合は(a-i)と、θ2の場合は(b-i)と、θ3の場合は(c-i)と表記する。
図8は、設定その2を、後述するようにθ2とθ3の場合に分けて描いており、θ2の場合は(b-ii)と、θ3の場合は(c-ii)と表記する。
図9は、設定その3を、後述するようにθ2の場合について描いており、(b-iii)と表記する。
【0038】
まず、走行可能領域の抽出処理について説明する。路面状態分析システム100の入力部110は、走行者(ここでは介助者ありの車椅子使用者)が分析を希望する路面の地域情報と、走行者の動作平面空間情報(車椅子の車体の大きさとして直径150cmの円形)と、走行者の乗り越え可能な段差の高さ情報(低い方の路面から見た段差の高さ情報が20cm以下、及び、高い方の路面から見た段差の高さ情報が5cm以下)及び奥行情報(10cm以下)の入力を受け付ける。抽出部120は、路面の地域情報と、動作平面空間情報と、段差の高さ情報及び奥行情報を受取る。抽出部120は、3次元地図データベース200にアクセスし、路面の地域情報に基づいて、分析対象となる路面の3次元地図データを取得する。抽出部120は、取得した3次元地図データを平坦な路面領域とそれ以外(段差、障害物などの領域)に識別する(S110)。
図6(A)はS110の識別処理後の地図データの一部を示す。地図データは画素(ピクセル)データで構成されている。段差、障害物などと、平坦な路面は、実線で識別されている。
図6(A)は図面の表記上、2次元地図データのように見えるが、実際は段差、障害物などの高さ情報を有している点に留意していただきたい。
【0039】
抽出部120は、
図6(A)の地図データから走行可能領域及び走行不可能領域を抽出する(S120)。段差、障害物などの領域を初期の走行不可能領域と設定する。そして、コンピュータの計算量を削減するために、車体の大きさを「一つの点」と表現し、走行可能領域であるか否かを判定する処理を構築する。そこで、初期の走行不可能領域の外縁(実線)を動作平面空間情報の分(車椅子の車体の大きさの半分)拡張している。具体的には、実線を法線方向に150cmの半分である75cmだけ拡張している。
図6(B)は拡張後の地図データであり、点線の外側が走行可能領域であり、内側が拡張された走行不可能領域である。
図6(B)は、コンフィギュレーション空間とも言え、車体を点として表現することができる。
図6は、路面の走行可能領域及び走行不可能領域を1つずつ抽出した例を示しているが、実際の抽出部120は路面の走行可能領域及び走行不可能領域を複数抽出している。
【0040】
次に、乗り越え可能領域の設定処理について説明する。路面状態分析システム100の設定部130、判定部140、及び、更新部150は協働して、S130からS190の乗り越え可能領域の判定処理を実行する。
【0041】
設定部130は、走行可能領域と走行不可能領域の境界線(
図7の点線)上の点Pを地図データの画素単位で選択し(S130)、さらに、走行者が走行不可能領域を乗り越えるための乗り越え角度θを0°以上360°未満で選択する(S140)。
図7は、点Pでの角度θの基準(0°)を紙面の水平線に設定し、3つの角度(θ1、θ2、θ3)を選択した場合を示している。
【0042】
設定部130は、点Pからθ方向に、境界線上の別の点まで線を引く(S150)。判定部140は、引いた線(線分)の長さが、乗り越え可能な段差の奥行情報よりも短いか否かを判定する(S160)。ここでの「乗り越え可能な段差の奥行情報」とは、
図4で示した(B)段差の奥行情報に車体の大きさを加えた距離情報であり、
図4の(A)段差の前後の2つの走行可能領域それぞれの中心間の距離(2つの半径75cmの和に段差奥行を加えたもの)に相当する。車椅子の場合、距離150cmに段差奥行の閾値10cmを加え、160cmになる。
図7の(a-i)、(b-i)、(c-i)にはそれぞれ点Pを中心にして、半径160cmの円が二点鎖線で描かれている。このようにしてS160は、
図4の条件(A)及び(B)を判定することが可能になる。ここで、初期の走行不可能領域の外縁(実線)は、車体の大きさの半分(75cm)の2倍拡張している(点線参照)。したがって、拡張後の地図で段差領域の奥行が「乗り越え可能な段差の奥行情報」以下であることは、もとの地図における「段差奥行」が「段差奥行の閾値(10cm)」以下であることを意味する。
【0043】
Yesの(すなわち短い)場合、次のステップ(S170)へ移る。一方、Noの(すなわち長い)場合は、乗り越え不可と判定され、まだ判定されていない角度θ又は点Pを設定するように、設定部130へ指示する。
【0044】
図7の場合、(a-i)は、点P及び角度θ1の場合を表し、一点鎖線の線分が二点鎖線の円を超えているため、乗り越え不可と判定される。(b-i)は、点P及び角度θ2の場合を表し、一点鎖線の線分が二点鎖線の円を超えていないため、次のステップへ移る。(c-i)は、点P及び角度θ3の場合を表し、一点鎖線の線分が二点鎖線の円を超えていないため、次のステップへ移る。
【0045】
判定部140は、線分に沿って乗り越え時の走行者(車椅子の車体)通過領域を分析する(S170)。ここでの車体通過領域は、四角形で表す(
図8の一点鎖線)。四角形の一方の辺(車体の進行方向)は線分と同じ長さであり、他方の辺(車体の幅方向)の中点は線分と直角に交わる。すなわち、点Pは乗り越え開始時の車体の中心位置に相当する。他方の辺の長さは、車体の幅90cmにしてもよいが、本実施形態では計算処理を簡略化するため、車体の大きさに関連する数値は全て150cmに設定する。
【0046】
図8の場合、(b-ii)は
図7(b-i)の次のステップ(S170)を表し、(c-ii)は
図7(c-i)の次のステップ(S170)を表す。(b-ii)と(c-ii)の両方の場合について、
図4の条件(C)及び(D)の両方を判定する。条件(C)及び(D)の両方を満たすと分析できれば、S170の乗り越え可に該当し、次のステップへ移る。一方、両方を満たさない場合、S170の乗り越え不可と判定される。なお、本実施形態では、S170において、
図4の条件(C)及び(D)をもって乗り越えの可否を判定しているが、それ以外の条件(例えば、段差に対して車椅子が推奨される進入角であるか、より具体的には、急峻な段差に対して車椅子が正面を向いているか)を追加してもよい。
【0047】
図8(b-ii)を、条件(C)及び(D)の両方を満たす場合とすると、S170の乗り越え可に該当し、次のステップへ移る。
図8(c-ii)を、条件(C)及び(D)の両方を満たさない場合(例えば、初期の走行不可能領域の段差が高すぎる等)とすると、乗り越え不可と判定される。
図8の星印は、実線で囲んだ領域(初期の走行不可能領域)内の段差が高すぎる箇所を示す。
図8(b-ii)の車体通過領域は星印の位置から離れている。一方、
図8(c-ii)の車体通過領域は星印の位置を含んでいる。このため、
図8(c-ii)は乗り越え不可と判定される。
【0048】
更新部150は、S170で乗り越え可と判断された場合、該当する線分上の領域を乗り越え可能領域に設定する(S180)。
図9の(b-iii)は
図8(b-ii)の次のステップ(S180)を表す。そして、線分(点Pからθ2方向の線分)上の領域にある地図データを画素単位で乗り越え可能領域に設定する(
図9の点線領域を参照)。
【0049】
更新部150は、全ての点Pの全ての角度θについて段差判定を調べたかについて確認する(S190)。すなわち、走行可能領域と走行不可能領域の境界線(
図9の点線)上の点P全ての場合について、角度θが0°以上360°未満の段差判定を調べる。Noの場合、S130又はS140に戻る。一方、Yesの場合、
図5の処理を終了する。このようにして更新部150は乗り越え可能であると判定された段差領域を、走行不可能領域から乗り越え可能領域に更新することができる。
【0050】
なお、S110で生成された地図(
図6(A))を用いて
図4の条件(A)を判定しようとすると、段差の前後に走行可能領域である「直径150cmの円形を含む平坦な路面」が存在するか否かを、段差、障害物などの領域周辺の全ての乗り越え開始位置、及び乗り越え角度θに対して確認する必要がある。しかしながら、S120で生成された地図(
図6(B))を用いた場合、段差の前後に走行可能領域である「点」が存在するか否かを判定するだけでよい。これは、S120の処理で説明した通り、初期設定された走行不可能領域の外縁(実線)を動作平面空間情報(車椅子の車体の大きさの半分)の分だけ拡張することにより、車体の大きさを考慮することなく走行可能領域であるか否かを判定できるようになるからである(走行可能領域が一点でも存在すれば、そこに「直径150cmの円形を含む平坦な路面」が存在することになる)。実際、上述した通り、条件(A)を判定するステップS150及びS160では、段差の前後に走行可能領域である「点」が存在することだけを確認している。このようにして、乗り越え可能な段差の判定処理の負荷を軽減することが可能になる。
【0051】
路面状態分析システム100は、
図5の処理が終了すると、更新された乗り越え可能領域を含む地図データを出力する。分析者は、外部ディスプレイなどに地図データを表示することによって、走行者の状況に応じて路面が走行可能であるか否かを分析した地図データを閲覧することが可能になる。
【0052】
(災害情報への適用例)
路面状態分析システム100を災害情報へ適用する例を説明する。
図10は、分析対象となる路面環境の例を示し、平坦な路面上に建設された複数の建物を斜め右上から見た図である。同図は、災害が発生し、4つの建物(A、B、C、D)の間に、形の異なる障害物(以下、段差という)が複数置かれている路面環境を表している。紙面手前側のスタート地点(例えば、様々な状況に置かれている方が住んでいる集合住宅)にいる走行者が紙面奥側のゴール地点(例えば、公的な避難所)へ避難を望む例について、路面状態分析システム100が複数の段差の乗り越え可否を走行者に応じて分析する。
【0053】
建物Aと建物Bの間には、高い段差が設けられている。建物Bと建物Cの間には、低い凸型の段差が設けられている。建物Cと建物Dの間には、低い段差が設けられており、この低い段差の上には、車椅子を載せるスペースがある。
【0054】
路面を走行する走行者が、一般的な歩行者、ベビーカー利用者、車椅子利用者(介助者なし)、及び、車椅子利用者(介助者あり)の4つの場合について、段差の乗り越え可否を分析する。路面状態分析システム100では、まず、入力部110が、各走行者が移動するのに必要な動作平面空間情報と、走行者が乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報の入力を受け付ける。
【0055】
車椅子利用者(介助者あり)の場合、
図4を用いて、動作平面空間情報と、乗り越え可能な段差の高さ情報及び奥行情報を説明した。車椅子利用者(介助者なし)の場合、低い方の路面から見た段差の高さ情報は20cmよりもかなり低くなり、例えば、5cm以下になる。一方、建物Cと建物Dの間にある低い段差は10cmと設定する。
【0056】
このように設定した場合、
図5のフローチャートは、建物Cと建物Dの間にある低い段差について、車椅子利用者(介助者なし)、車椅子利用者(介助者あり)共に、S110からS160までの処理結果は同じである。しかしながら、S170での処理結果が異なり、車椅子利用者(介助者あり)は建物Cと建物Dの間にある低い段差を乗り越え可能であると分析されるが、車椅子利用者(介助者なし)は乗り越え不可能であると分析される。
【0057】
ベビーカー利用者は、段差を下りる際に後ろ向きになる必要が無いため、
図4の条件(D)を車椅子利用者よりも高く設定することができる。ここでは、建物Aと建物Bの間にある高い段差の高さと、建物Bと建物Cの間にある低い凸型の段差の高さの間に設定する。これによって、
図5のフローチャートは、ベビーカー利用者が、建物Aと建物Bの間にある高い段差を乗り越えることはできないが、建物Bと建物Cの間にある低い段差を乗り越えることはできると判定する。
【0058】
歩行者は、
図10の全ての段差を乗り越えることが可能である程度に、
図4の全ての条件を設定している。このため、
図5のフローチャートは、歩行者が、
図10の全ての段差を乗り越えることができると判定する。
【0059】
図11は、路面状態分析システム100が走行者毎に路面を分析した結果を示す。路面状態分析システム100は、走行者毎に、
図10の段差を乗り越え可能かを
図5のフローチャートに沿って分析する。
図11では、乗り越え可能な段差は、点線のパターンで塗り、乗り越え不可能な段差は黒色で塗っている。
【0060】
図11(a)は、歩行者が全ての段差を乗り越え可能であることを示している。同図(b)は、ベビーカー利用者が建物AとBの段差以外は乗り越え可能であることを示している。同図(c)は、車椅子利用者(介助者なし)が全ての段差を乗り越え不可能であることを示している。同図(d)は、車椅子利用者(介助者あり)が建物CとDの段差のみを乗り越え可能であることを示している。
【0061】
図12は、本実施形態に係る走行者毎の本発明で生成された地図から算出した最短経路の例を示す。
路面状態分析システム100の分析結果である地図データ(
図11(a)~(d))は、既存の経路探索システムに適用可能である。既存の経路探索システムは、
図11(a)~(d)の地図データを受取り、スタート地点からゴール地点までの最短経路を探索すればよい。
図12(a)~(d)は、走行者毎に、スタート地点からゴール地点までの最短経路を探索した結果を点線矢印で示している。既存の経路探索システムは、
図11(a)~(d)を用いることによって、各走行者にとって最適な経路を探索することが簡単にできる。
【0062】
このため、地方自治体は、災害が発生した直後に撮影した3次元地図データを入手できれば、路面状態分析システム100に走行者毎の地図データ(
図11(a)~(d))を作成させ、さらに既存の経路探索システムを利用することによって、被災市街地用の避難用地図を走行者毎に作成でき、走行者毎の避難経路計画を迅速に立てることが可能になる。
【0063】
(作用効果)
本実施形態の路面状態分析システム100によれば、路面を走行する走行者の状況(例えば、走行者が車椅子利用者の場合、介助者があり、又は、無し)に応じて、路面が走行可能であるか否かを分析することが可能になる。
【0064】
本実施形態では、段差の乗り越えの判定ステップ群の一部であるS130及びS150で、走行可能領域・不可能領域の境界線上の点のみを対象としている。このように境界線上の点に限定せず、走行不可能領域に含まれる全ての点を対象として調査する変形例を説明する。
【0065】
(変形例)
S120で設定された走行不可能領域に含まれる各画素点に対して、以下の手順で段差の乗り越えを判定する。(a)当該点から角度θで両端が走行可能領域に達するまで線を引き、引いた線(線分)の長さを算出する。(b)その長さが所定の閾値以下の場合、当該線分に沿って乗り越える場合の車体通過領域の全ての点の段差の高さを調べる。(c)車体通過領域の全ての点での高さが所定の閾値以下の場合、(a)の線分上の全ての点の画素を乗り越え可能と判定する。(d)当該点について角度θが0°から360°になるまで(a)~(c)の手順を走査する。
【0066】
以上、本発明の実施例(変形例を含む)について説明してきたが、これらのうち、2つ以上の実施例を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、これらのうち、1つの実施例を部分的に実施しても構わない。さらには、これらのうち、2つ以上の実施例を部分的に組み合わせて実施しても構わない。例えば、動作平面空間情報は、走行者の平面上の大きさ情報と定義したが、これに限られず、さらに、走行者が通過するために必要な幅情報を含めてもよい。車椅子利用者の場合、走行者の平面上の大きさ情報は直径150cmであると入力部110に入力し、走行者が通過するために必要な幅情報は90cmと入力してもよい。一方、歩行者の場合、走行者の平面上の大きさ情報と走行者が通過するために必要な幅情報は同じ値(例えば80cm)と入力してもよい。また、「動作平面空間情報」の「平面」とは、狭義の平らな面に限られず、走行者が通常に移動可能な若干の凹凸を含んでもよい。若干の凹凸度合いは走行者の種類による。
【0067】
また、本発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。例えば、走行者の種類は、一般的な歩行者、ベビーカー利用者、車椅子利用者(介助者なし)、及び、車椅子利用者(介助者あり)に限られず、電動カート利用者、歩行補助器具の利用者、パーソナルモビリティや乗用車、装軌車両等の利用者であってもよい。また、3次元地図データの生成方法は、ドローンによる通常の航空写真測量法を用いてもよく、近接写真測量法等を用いてもよい。さらに、3次元地図データは、画素(ピクセル)を並べたラスター(Raster)データに限られず、図形として構成されるベクター(Vector)データであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
100 路面状態分析システム
110 入力部
120 抽出部
130 設定部
140 判定部
150 更新部
200 3次元地図データベース