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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004580
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104352
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】野村 卓司
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA29
5H601FF02
5H601FF10
5H601GA24
5H601GA32
(57)【要約】
【課題】磁石の減磁を抑制できるロータの製造方法を提供する。
【解決手段】磁石収容孔13に樹脂材30が充填される前の軸線方向における磁石20の長さをLmとし、磁石収容孔13に充填された樹脂材30により加熱されて磁石20の長さが短くなったときの軸線方向における閉塞部31の長さをLrとし、軸線方向における磁石20の負の線膨張係数をαとし、樹脂材30の収縮率をβとし、磁石収容孔13に充填された樹脂材30により加熱されて磁石20の長さが短くなったときの磁石20の温度と、樹脂材30が冷却されて固化したときの磁石20の温度との差をΔTとするとき、次の式Lm・α・ΔT≧(Lr・β)/2を満たすように、磁石20の長さLmと閉塞部31の長さLrとを設定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石収容孔を有する筒状のロータコアと、前記磁石収容孔に収容された磁石と、前記磁石収容孔に充填され、前記ロータコアに対して前記磁石を固定する熱可塑性の樹脂材と、を備え、前記磁石は、磁化方向と直交する非磁化方向において負の線膨張係数を有し、前記非磁化方向が前記ロータコアの軸線方向と一致する姿勢で前記磁石収容孔に収容される、ロータの製造方法であって、
前記樹脂材は、前記磁石収容孔の内部において前記軸線方向における前記磁石の一端面を覆うとともに前記磁石収容孔の開口を閉塞する閉塞部を有しており、
前記磁石収容孔に前記樹脂材を射出する金型によって前記磁石収容孔に収容された前記磁石の前記一端面とは反対側の他端面を支持した状態で、当該金型によって前記ロータコアを前記軸線方向の両側から挟み込む型締め工程と、
前記磁石が収容された前記磁石収容孔に溶融した前記樹脂材を充填して固化させることにより、前記ロータコアに対して前記磁石を固定する磁石固定工程と、を備え、
前記磁石収容孔に前記樹脂材が充填される前の前記軸線方向における前記磁石の長さをLmとし、
前記磁石収容孔に充填された前記樹脂材により加熱されて前記磁石の長さが短くなったときの前記軸線方向における前記閉塞部の長さをLrとし、
前記軸線方向における前記磁石の負の線膨張係数をαとし、
前記樹脂材の収縮率をβとし、
前記磁石収容孔に充填された前記樹脂材により加熱されて前記磁石の長さが短くなったときの前記磁石の温度と、前記樹脂材が冷却されて固化したときの前記磁石の温度との差をΔTとするとき、次の式
Lm・α・ΔT≧(Lr・β)/2
を満たすように、前記磁石の長さLmと前記閉塞部の長さLrとを設定する、
ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は筒状のステータと、ステータの内側において回転するロータとを備えている。
特許文献1には、磁石埋込型の回転電機に用いられるロータが開示されている。このロータは、複数の磁石収容孔を有する筒状のロータコアと、磁石収容孔に収容された磁石と、磁石収容孔に充填され、ロータコアに対して磁石を固定する熱可塑性の樹脂材とを備えている。
【0003】
磁石の軸線方向における長さ(以下、単に磁石の長さという)は、ロータコアの軸線方向における長さよりも短い。樹脂材は、磁石の長さ方向の一端面を覆うとともに磁石収容孔の開口を閉塞する閉塞部を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-119766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ロータには、磁石としてネオジム磁石が採用されるものがある。ネオジム磁石は、磁化方向には正の線膨張係数を有する一方、磁化方向と直交する非磁化方向には負の線膨張係数を有する。このため、磁石の長さ方向が非磁化方向となる場合には、磁石収容孔に充填された樹脂材の熱によって磁石の温度が上昇することにより、磁石の長さが短くなる。そして、樹脂材の冷却に伴って磁石の温度が低下することにより、磁石の長さが長くなる。
【0006】
一方、樹脂材は、冷却されることにより磁石収容孔の内部において固化する。このとき、樹脂材が収縮するため、閉塞部の軸線方向における長さ(以下、単に閉塞部の長さという)が短くなる。
【0007】
以上のことから、樹脂材の冷却時には、閉塞部の長さが短くなるとともに磁石の長さが長くなる。このため、軸線方向における閉塞部の変形量が磁石の変形量よりも大きい場合には、磁石と閉塞部との間に隙間が生じることがある。こうした隙間に熱が籠もることで、ロータの使用時における磁石の温度が高くなるおそれがある。この場合、磁石が減磁することによりロータの性能が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのロータの製造方法は、磁石収容孔を有する筒状のロータコアと、前記磁石収容孔に収容された磁石と、前記磁石収容孔に充填され、前記ロータコアに対して前記磁石を固定する熱可塑性の樹脂材と、を備え、前記磁石は、磁化方向と直交する非磁化方向において負の線膨張係数を有し、前記非磁化方向が前記ロータコアの軸線方向と一致する姿勢で前記磁石収容孔に収容される、ロータの製造方法であって、前記樹脂材は、前記磁石収容孔の内部において前記軸線方向における前記磁石の一端面を覆うとともに前記磁石収容孔の開口を閉塞する閉塞部を有しており、前記磁石収容孔に前記樹脂材を射出する金型によって前記磁石収容孔に収容された前記磁石の前記一端面とは反対側の他端面を支持した状態で、当該金型によって前記ロータコアを前記軸線方向の両側から挟み込む型締め工程と、前記磁石が収容された前記磁石収容孔に溶融した前記樹脂材を充填して固化させることにより、前記ロータコアに対して前記磁石を固定する磁石固定工程と、を備え、前記磁石収容孔に前記樹脂材が充填される前の前記軸線方向における前記磁石の長さをLmとし、前記磁石収容孔に充填された前記樹脂材により加熱されて前記磁石の長さが短くなったときの前記軸線方向における前記閉塞部の長さをLrとし、前記軸線方向における前記磁石の負の線膨張係数をαとし、前記樹脂材の収縮率をβとし、前記磁石収容孔に充填された前記樹脂材により加熱されて前記磁石の長さが短くなったときの前記磁石の温度と、前記樹脂材が冷却されて固化したときの前記磁石の温度との差をΔTとするとき、次の式Lm・α・ΔT≧(Lr・β)/2を満たすように、前記磁石の長さLmと前記閉塞部の長さLrとを設定する。
【0009】
上記方法によれば、磁石収容孔に充填された樹脂材の熱によって磁石の温度が上昇することにより、磁石の長さがLmよりも短くなる。このときの軸線方向における磁石の変形量は、Lm・α・ΔTとなる。その後、樹脂材の冷却に伴って磁石の温度が低下することにより、磁石の長さが長くなる。このときの軸線方向における磁石の変形量は、Lm・α・ΔTであるため、磁石の長さは、元の長さLmに戻る。
【0010】
一方、樹脂材の冷却時には、樹脂材が収縮することにより閉塞部の長さがLrよりも短くなる。このときの軸線方向における閉塞部の変形量は、Lr・βとなる。樹脂材は、軸線方向の両側において一様に収縮しようとするため、閉塞部は、磁石に対して(Lr・β)/2の距離だけ離れようとする。
【0011】
上記方法によれば、Lm・α・ΔT≧(Lr・β)/2を満たすように、磁石の長さLmと閉塞部の長さLrとが設定される。これにより、樹脂材の冷却時において、磁石の長さが長くなるときの磁石の変形量が、閉塞部の長さが短くなるときの軸線方向の一方側における変形量以上となる。その結果、磁石と閉塞部との間に隙間が生じることを抑制できる。したがって、磁石の減磁を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態のロータの製造方法によって製造されるロータを示す平面図である。
図2図2は、図1のロータを示す断面図である。
図3図3は、図1のロータを製造するモールド装置を示す断面図である。
図4図4は、ロータコアの磁石収容孔に樹脂材が充填された直後の状態を示す断面図である。
図5図5は、磁石の加熱時に磁石の長さが短くなった状態を示す断面図である。
図6図6は、磁石の冷却時に磁石の長さが長くなった状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1図6を参照して、ロータの製造方法の一実施形態について説明する。
(ロータ10)
図1に示すように、ロータ10は、ロータコア11と、複数の磁石20と、複数の樹脂材30とを備えている。ロータ10は、例えば、磁石埋込型のモータに用いられるロータである。
【0014】
(ロータコア11)
ロータコア11は、略円筒状をなしている。
以降において、ロータコア11の軸線方向を単に軸線方向と称する。また、ロータコア11の径方向を単に径方向と称する。また、ロータコア11の周方向を単に周方向と称する。
【0015】
図2に示すように、ロータコア11は、例えば、電磁鋼板から打ち抜かれた複数の鉄心片が積層されることにより構成されている。
ロータコア11は、軸線方向において互いに反対側に位置する第1端面11aと第2端面11bとを有している。
【0016】
ロータコア11は、図示しないシャフトが挿入される中心孔12と、磁石20が収容される複数の磁石収容孔13とを有している。複数の磁石収容孔13は、周方向に互いに間隔をおいて形成されている。
【0017】
中心孔12及び磁石収容孔13は、軸線方向においてロータコア11を貫通している。すなわち、中心孔12及び磁石収容孔13は、いずれも第1端面11a及び第2端面11bに開口している。
【0018】
図1に示すように、磁石収容孔13の軸線方向に直交する断面形状は、長辺及び短辺を有する略長方形状をなしている。磁石収容孔13の断面形状は、軸線方向の全体にわたって同一である。
【0019】
(磁石20)
磁石20は、1つの磁石収容孔13に対して1つずつ収容されている。磁石20は、磁石収容孔13に充填された樹脂材30を介してロータコア11に対して固定されている。
【0020】
図2に示すように、磁石20は、軸線方向に長い長尺状をなしている。軸線方向における磁石20の長さは、ロータコア11の軸線方向における長さよりも短い。
磁石20の軸線方向における一端面は、例えば、第1端面11aよりも軸線方向の内側に位置している。磁石20の軸線方向における一端面とは反対側の他端面は、例えば、第2端面11bと面一である。
【0021】
磁石20の軸線方向に直交する断面形状は、長辺及び短辺を有する略長方形状をなしている。なお、各図における磁石20の断面形状は、磁石20の長辺に沿った断面を示している。
【0022】
磁石20は、例えば、ネオジム磁石である。磁石20は、磁化方向において正の線膨張係数を有する一方、磁化方向と直交する非磁化方向において負の線膨張係数を有している。磁石20の短辺方向は、磁化方向である。磁石20の長辺方向及び長さ方向は、非磁化方向である。したがって、磁石20は、非磁化方向がロータコア11の軸線方向と一致する姿勢であって、磁化方向が磁石収容孔13の短辺方向と一致する姿勢で磁石収容孔13に収容されている。
【0023】
(樹脂材30)
樹脂材30は、例えば、磁石収容孔13の内面と磁石20の外面との間において、磁石20の全周にわたって充填されている。
【0024】
樹脂材30は、磁石収容孔13の内部において軸線方向における磁石20の一端面を覆うとともに磁石収容孔13の開口を閉塞する閉塞部31を有している。閉塞部31は、ロータコア11の第1端面11aよりも軸線方向の内側に位置している。
【0025】
樹脂材30は、例えば、液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂である。
(モールド装置40)
次に、磁石収容孔13に樹脂材30を充填するモールド装置40について説明する。モールド装置40は、「金型」の一例である。
【0026】
図3に示すように、モールド装置40は、第1型50と第2型60とを備えている。
(第1型50)
第1型50は、第1型本体51と、パレット52とを備えている。
【0027】
第1型本体51は、パレット52の下面を支持する支持面を有している。
パレット52は、ロータコア11を支持した状態で第1型本体51と第2型60との間に搬送される。
【0028】
パレット52は、ベース板53と、ベース板53の中央部から突出するポスト54と、ベース板53の上面に配置されるスペーサ56とを備えている。ポスト54は、スペーサ56を貫通している。
【0029】
ベース板53及びスペーサ56は、それぞれ平板状をなしている。ポスト54は、円筒状をなしている。
ベース板53におけるポスト54の外周側の部分には、複数の貫通孔53aが周方向に互いに間隔をおいて設けられている。貫通孔53aは、スペーサ56により覆われている。
【0030】
ポスト54は、ロータコア11の中心孔12に挿入される。ポスト54の突端には、複数の係合ピン55が周方向に互いに間隔をおいて設けられている。
スペーサ56は、ポスト54が挿入されたロータコア11の第2端面11bを支持する。
【0031】
(第2型60)
第2型60は、第2型本体61と、ゲートプレート63とを備えている。第2型本体61とゲートプレート63とは、例えば、別体に構成されている。
【0032】
第2型本体61は、例えば、第1型本体51に対して進退可能に構成された可動型である。第2型本体61は、図示しない射出装置から射出された樹脂材30が流通するスプルー62を有している。
【0033】
ゲートプレート63は、第2型本体61とロータコア11との間に配置される。ゲートプレート63は、スプルー62に連通するランナー64と、ランナー64から延びる複数のゲート65とを有している。
【0034】
ランナー64は、ゲートプレート63の上面に開口している。ランナー64は、ゲートプレート63の中央部から径方向において放射状に延びている。ゲート65は、ゲートプレート63の下面に開口している。ゲート65は、ランナー64の端部と磁石収容孔13とを連通する。
【0035】
ゲートプレート63の下面には、ポスト54の複数の係合ピン55が係合する複数の係合孔66が設けられている。係合ピン55が係合孔66に係合することによって、パレット52に対してゲートプレート63が位置決めされる。
【0036】
(ロータ10の製造方法)
ロータ10の製造方法は、磁石収容工程、型締め工程、及び磁石固定工程を備えている。磁石収容工程、型締め工程、及び磁石固定工程は、この順で行われる。
【0037】
(磁石収容工程)
図3に示すように、磁石収容工程では、パレット52に支持されたロータコア11の磁石収容孔13に磁石20が収容される。このとき、磁石20の下面は、スペーサ56の上面に接触している。
【0038】
磁石収容工程では、磁石20が常温の状態で磁石収容孔13に収容される。本明細書における「常温」とは、20℃±15℃を指す。
(型締め工程)
型締め工程では、まず、第1型本体51の支持面にロータコア11を支持したパレット52が載置される。次に、ロータコア11の第1端面11aにゲートプレート63が載置される。これにより、ロータコア11の第1端面11aの全体がゲートプレート63により覆われる。その後、第1型50と第2型60とが型締めされることにより、モールド装置40によってロータコア11が軸線方向の両側から挟み込まれる。第1型50と第2型60との型締めは、磁石収容孔13に収容された磁石20の下面が、第1型50を構成するスペーサ56によって支持された状態で行われる。
【0039】
(磁石固定工程)
図4に示すように、磁石固定工程では、まず、図示しない射出装置が、磁石20が収容された磁石収容孔13に樹脂材30を充填する。磁石固定工程では、所定の温度に加熱されて溶融した樹脂材30が、ゲート65を通じて磁石収容孔13に充填される。このとき、樹脂材30は、磁石収容孔13のうち磁石20の上面とゲートプレート63の下面との間に隙間なく充填される。
【0040】
磁石収容孔13に樹脂材30が充填されることにより、樹脂材30の熱によって磁石20が加熱される。これにより、図5に示すように、軸線方向における磁石20の長さ(以下、単に磁石20の長さという)が短くなる。このとき、磁石20の下面はスペーサ56の上面に接触しているため、磁石20の下面の位置は変化しない。一方、図5に二点鎖線で示すように、磁石20の上面の位置は下方に移動する。
【0041】
ここで、磁石20の温度上昇に伴って磁石20の長さが短くなるときの軸線方向における磁石20の変形量は、Lm・α・ΔTと表すことができる。Lmは、磁石収容孔13に樹脂材30が充填される前の軸線方向における磁石20の長さである。αは、軸線方向における磁石20の負の線膨張係数である。ΔTは、磁石20の温度変化量である。なお、このときの温度変化量ΔTは、磁石収容孔13に樹脂材30が充填される直前の磁石20の温度と、樹脂材30により加熱された磁石20の温度との差である。磁石収容孔13に樹脂材30が充填される直前の磁石20の温度は常温であるため、Lmは、磁石20の温度が常温であるときの磁石20の長さということもできる。
【0042】
磁石20の長さが短くなると、磁石収容孔13のうち磁石20の上面よりも上方の領域が増大する。樹脂材30は、磁石20の長さが短くなるにつれて、上記領域を埋めるように磁石収容孔13の内部に流入する。
【0043】
磁石収容孔13に充填された樹脂材30は、冷却されることにより磁石収容孔13の内部において固化する。樹脂材30が固化することにより、磁石20がロータコア11に対して固定される。
【0044】
図6に示すように、樹脂材30の固化時には樹脂材30の温度が低下するため、樹脂材30は収縮する。このため、軸線方向における閉塞部31の長さ(以下、単に閉塞部31の長さという)が短くなる。閉塞部31は、軸線方向の両側において収縮する。このとき、閉塞部31の上面が下方に移動するとともに閉塞部31の下面が上方に移動する。閉塞部31の軸線方向における両側の変形量は、例えば、同一である。
【0045】
ここで、樹脂材30が収縮するときの軸線方向における閉塞部31の変形量は、Lr・βと表すことができる。したがって、閉塞部31の軸線方向における一方側の変形量は、(Lr・β)/2と表すことができる。Lrは、磁石収容孔13に充填された樹脂材30により加熱されて磁石20の長さが短くなったときの軸線方向における閉塞部31の長さである。βは、樹脂材30の収縮率である。Lrは、磁石20の長さがLm-(Lm・α・ΔT)であるときの軸線方向における閉塞部31の長さということもできる。
【0046】
磁石固定工程では、樹脂材30の温度低下に伴って、磁石20の温度が低下する。これにより、磁石20の長さが長くなる。このとき、磁石20の下面はスペーサ56の上面に接触しているため、磁石20の下面の位置は変化しない。一方、図6に二点鎖線で示すように、磁石20の上面の位置は上方に移動する。これにより、磁石20の長さは、磁石20が加熱される前の長さLmに戻る。
【0047】
ここで、磁石20の温度低下に伴って磁石20の長さが長くなるときの軸線方向における磁石20の変形量は、Lm・α・ΔTと表すことができる。このときの温度変化量ΔTは、樹脂材30により加熱された磁石20の温度と、磁石20が冷却されたときの磁石20の温度との差である。樹脂材30によって磁石20が加熱された際の温度変化量ΔTと、磁石20が冷却された際の温度変化量ΔTとは同一であるため、磁石20の長さは、磁石20が加熱される前の長さLmに戻る。
【0048】
ところで、磁石20の温度変化に伴って磁石20の長さが変化するとき、非磁化方向である磁石20の長辺方向における磁石20の幅が変化する。そして、樹脂材30は、磁石20の短辺を構成する外面と磁石収容孔13の内面との間において収縮しようとする。しかしながら、樹脂材30は、磁石20の外面と磁石収容孔13の内面とに強固に結合されているため、樹脂材30と、磁石20の外面または磁石収容孔13の内面との間に隙間が生じにくい。なお、各図において、磁石20の長辺方向における磁石20及び樹脂材30の寸法変化については、図示が省略されている。
【0049】
本実施形態では、磁石20の温度低下に伴って磁石20の長さが長くなるときの軸線方向における磁石20の変形量が、樹脂材30が収縮するときの軸線方向における一方側の閉塞部31の変形量以上になるようにロータ10が製造される。すなわち、本実施形態のロータ10では、式Lm・α・ΔT≧(Lr・β)/2を満たすように、磁石20の長さLmと閉塞部31の長さLrとが設定されている。磁石20の長さLmと閉塞部31の長さLrとの関係が、式Lm・α・ΔT<(Lr・β)/2を満たす場合には、磁石20と閉塞部31との間に隙間が生じることとなる。
【0050】
なお、閉塞部31の長さLrは、軸線方向におけるロータコア11の高さhを用いて、Lr=h-(Lm-Lm・α・ΔT)と表すこともできる。したがって、本実施形態のロータ10では、Lm・α・ΔT≧{h-(Lm-Lm・α・ΔT)}・β/2を満たすように、磁石20の長さLmとロータコア11の高さhとが設定されているということもできる。
【0051】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
磁石収容孔13に充填された樹脂材30の熱によって磁石20の温度が上昇することにより、磁石20の長さがLmよりも短くなる。このときの軸線方向における磁石20の変形量は、Lm・α・ΔTとなる。その後、樹脂材30の冷却に伴って磁石20の温度が低下することにより、磁石20の長さが長くなる。このときの軸線方向における磁石20の変形量は、Lm・α・ΔTであるため、磁石20の長さは、元の長さLmに戻る。
【0052】
一方、樹脂材30の冷却時には、樹脂材30が収縮することにより閉塞部31の長さがLrよりも短くなる。このときの軸線方向における閉塞部31の変形量は、Lr・βとなる。樹脂材30は、軸線方向の両側において一様に収縮しようとするため、閉塞部31は、磁石20に対して(Lr・β)/2の距離だけ離れようとする。
【0053】
本実施形態のロータ10の製造方法によれば、Lm・α・ΔT≧(Lr・β)/2を満たすように、磁石20の長さLmと閉塞部31の長さLrとが設定される。これにより、樹脂材30の冷却時において、磁石20の長さが長くなるときの磁石20の変形量が、閉塞部31の長さが短くなるときの軸線方向の一方側における閉塞部31の変形量以上となる。その結果、磁石20と閉塞部31との間に隙間が生じることを抑制できる。したがって、磁石20の減磁を抑制できる。
【0054】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
・磁石20は、非磁化方向において負の線膨張係数を有するものであれば、ネオジム磁石以外の磁石であってもよい。
・樹脂材30は、液晶ポリマーに限定されず、他に例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、及びPA(ポリアミド)などであってもよい。
【0056】
・磁石収容工程では、例えば、スペーサ56に設けられた支持ピンを用いて磁石20の下面を支持することにより、磁石20の下面をロータコア11の第2端面11bよりも軸線方向の内側に位置させてもよい。この場合、磁石固定工程では、磁石20の下面がロータコア11の第2端面11bよりも軸線方向の内側に位置した状態で樹脂材30が固化する。こうした方法であっても、上記実施形態の効果に準じた効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0057】
α…線膨張係数
β…収縮率
h…ロータコアの高さ
ΔT…磁石の温度変化量
Lm…磁石の長さ
Lr…閉塞部の長さ
10…ロータ
11…ロータコア
11a…第1端面
11b…第2端面
12…中心孔
13…磁石収容孔
20…磁石
30…樹脂材
31…閉塞部
40…モールド装置(金型)
50…第1型
51…第1型本体
52…パレット
53…ベース板
53a…貫通孔
54…ポスト
55…係合ピン
56…スペーサ
60…第2型
61…第2型本体
62…スプルー
63…ゲートプレート
64…ランナー
65…ゲート
66…係合孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6