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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004596
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】撮像素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20250107BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20250107BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20250107BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20250107BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20250107BHJP
   C09B 23/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/26
G02B5/28
G02B3/00
C09B57/00 X
C09B23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104383
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岸本 武久
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】安道 信行
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA17
2H148CA24
2H148FA09
2H148FA12
2H148FA22
2H148FA24
2H148GA14
2H148GA24
2H148GA32
2H148GA61
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でありながら、ゴースト現象等の発生を抑制して画質を向上させた撮像素子を提供する。
【解決手段】少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有することを特徴とする撮像素子。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、
該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、
該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、
該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有する
ことを特徴とする撮像素子。
【請求項2】
前記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、分光透過率曲線において、波長670~850nmの範囲における吸収極大の平行線透過率が1%である場合に、波長450~570nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有しないことを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項3】
前記レンズ素子における前記スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/mであることを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項4】
前記レンズ素子における前記シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/mであることを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項5】
前記スクアリリウム系色素の含有量(X)と前記シアニン系色素の含有量(Y)の質量比(X/Y)が、1/5~5/1であることを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項6】
前記レンズ素子は、熱可塑性樹脂を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【請求項7】
前記レンズ素子のレンズ内の最小厚みと最大厚みの比(最小厚み/最大厚み)が、0.5~1.0であることを特徴とする請求項1に記載の撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子に関する。より詳しくは、簡易な構造で、良好な画質の画像を得ることができる撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体撮像素子を用いたデジタルカメラ等の撮像装置が主流になっている。このような撮像装置に使用されるカメラモジュール(撮像素子)は、パーソナルコンピューターやスマートフォン等の情報通信機器に搭載されるようになり、小型化や省スペース化が求められ、かつ、より良好な画質も求められている。
【0003】
このような撮像素子では、レンズやカメラ本体の中で強い光の反射が起こることによって画像の一部や全体が白っぽくなり、画像の鮮明さが損なわれるフレア現象や、反射した光が不要画像として写るゴースト現象が生じる場合がある。良好な画質の画像を得るためには、これらの現象を極力抑えることが必要である。
【0004】
これまでに、画質を向上させるために様々な方法が検討されている。
例えば、特許文献1には、ゴースト現象の主要な原因として、近赤外光の反射膜を含む近赤外線カットフィルタがCMOS等の受光素子の近傍にあることが記載され、近赤外光反射部と、近赤外光吸収部を別体とするカメラ構造とすることにより、画質を向上させたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/155634号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、ゴースト現象の発生を抑え、画質を向上させたカメラ構造が提案されているが、撮像素子には更なる小型化が求められており、画質が良好で、より小型化が可能な撮像素子を開発する余地があった。本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、簡易な構造でありながら、ゴースト現象等の発生を抑制して画質を向上させた撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、撮像素子の構成について種々検討したところ、特定の2種の近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を含む光学レンズ群と、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有するカバーガラスと、受光素子とを、光入射側から特定の順で備えることにより、近赤外線吸収部を設けない簡易な構造でありながらゴースト現象等の発生を抑制して画質を向上させることができ、更に小型化することも可能な撮像素子となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の態様の発明を提供する。
<1>少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有することを特徴とする撮像素子。
<2>上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、分光透過率曲線において、波長670~850nmの範囲における吸収極大の平行線透過率が1%である場合に、波長450~570nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有しないことを特徴とする上記<1>に記載の撮像素子。
<3>上記レンズ素子における上記スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/mであることを特徴とする上記<1>又は<2>に記載の撮像素子。
<4>上記レンズ素子における前記シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/mであることを特徴とする上記<1>~<3>のいずれかに記載の撮像素子。
<5>上記スクアリリウム系色素の含有量(X)と前記シアニン系色素の含有量(Y)の質量比(X/Y)が、1/5~5/1であることを特徴とする上記<1>~<4>のいずれかに記載の撮像素子。
<6>上記レンズ素子は、熱可塑性樹脂を更に含むことを特徴とする上記<1>~<5>のいずれかに記載の撮像素子。
<7>上記レンズ素子のレンズ内の最小厚みと最大厚みの比(最小厚み/最大厚み)が、0.5~1.0であることを特徴とする上記<1>~<6>のいずれかに記載の撮像素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の撮像素子は、レンズ素子の少なくとも1つが近赤外線吸収部として機能するため、別途近赤外線吸収部を設ける必要がなく、簡易な構造でありながら、ゴースト現象等の発生を抑制して画質を向上させることができ、更に従来品より小型化することも可能である。また、赤外線反射膜の層数低減によって層構成の設計が容易になることにより、品質、歩留まりの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で得られた色素樹脂膜1の分光透過率曲線を示す図である。
図2】実施例で得られた赤外線反射膜が形成されたカバーガラスの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
本明細書において、数値範囲「(最小値)~(最大値)」は、「(最小値)以上(最大値)以下」を意味し、例えば、「5~10」と記載される場合、「5以上10以下」を意味する。
【0012】
本発明は、少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、上記光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、上記近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、上記カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有することを特徴とする撮像素子である。
【0013】
本発明の撮像素子は、上記の構成からなり、簡易な構造でありながら、ゴースト現象等の発生を抑制することができ、更に撮像素子を小型化することが可能である。これは、以下の理由による。
すなわち、本発明の撮像素子は、光学レンズ群が近赤外線を吸収する特定の2種の色素を含むレンズ素子を含む。これにより、可視光の透過性を維持しながら、光学レンズ群の部分で近赤外領域の光を広範囲にわたって吸収することができるため、カバーレンズに設ける赤外線反射膜の積層数を減らすことができる。これにより、撮像素子を薄膜化(小型化)でき、更に製造時の不純物の混入による品質、歩留まりの低下も抑制することができる。また、レンズ素子が上記特定の2種の色素を含むことで近赤外線を吸収する光学フィルターを別途設ける必要がないため、構造が簡易である。更に、光入射側から、赤外線反射膜を有するカバーガラス、光学レンズ群、受光素子の順で構成することにより、赤外線反射膜が、受光素子より光入射側に、かつ、受光素子から離れて位置することになり、ゴースト現象等を良好に抑制することができる。加えて、本発明の撮像素子は近赤外線吸収部がレンズ素子であるため、レンズ素子に含まれる色素の濃度を調整することで光学特性の微調整、強いては撮像の色調も可能である。
【0014】
本発明の撮像素子は、光入射側から、カバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子をこの順に備える。光学レンズ群は、単数又は複数のレンズ素子からなる。レンズ素子の少なくとも1つは、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子である。各構成成分について以下に説明する。
【0015】
<カバーガラス>
本発明の撮像素子におけるカバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有する。カバーガラスが赤外線反射膜を有し、光入射側から、カバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子の順で構成することにより、ゴースト現象やフレア現象を良好に抑制することができる。
【0016】
上記カバーガラスとしては、特に限定されず、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、サファイアガラス等の、透明なガラスからなる公知のカバーガラスが挙げられる。上記ガラスは化学強化ガラス等であってもよい。
【0017】
上記カバーガラスの厚みは、強度や加工性の観点より、好ましくは0.05~2.0mmであり、より好ましくは0.1~0.5mmであり、更に好ましくは0.15~0.3mmである。
【0018】
上記赤外線反射膜としては、波長700~1200nm程度の赤外線を反射しうる膜であれば特に限定されず、無機多層膜や透明導電膜等の公知の赤外線反射膜が挙げられる。なかでも、光学設計が容易である点で、無機多層膜が好ましく、誘電体多層膜が好ましい。
【0019】
上記誘電体多層膜としては、低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜を交互に積層した積層体が挙げられる。
【0020】
低屈折率誘電体膜の材料としては、屈折率が1.1~1.5の低屈折率材料が挙げられ、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、シリカ中空子やエアゾル構造を有する低屈折率ゾルゲルコート等が挙げられる。なかでも、安価である点で、シリカが好ましい。
【0021】
高屈折率誘電体膜の材料としては、屈折率が2.0~2.8の高屈折率材料が挙げられ、例えば、酸化チタン、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化イットリウム等が挙げられる。なかでも、安価である点で、酸化チタンが好ましい。
【0022】
各誘電体膜の積層は、特に限定されず、カバーガラスの少なくとも一方の表面に、直接、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタ法等の公知の方法により、低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜を交互に積層するとよい。
【0023】
各誘電体膜の厚みは、紫外領域、及び、赤外領域の光を遮断する膜構成である点で、好ましくは1~600nmであり、より好ましくは3~350nmであり、更に好ましくは5~200nmである。
【0024】
低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜の総積層数は、30~80層の範囲であることが好ましい。本発明の撮像素子は、2種の特定の近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を含む光学レンズ群を有し、当該レンズ素子により近赤外領域の光を広範囲にわたって光を吸収することができるため、誘電体多層膜の積層数が従来と比べて少ない層数であっても、入射光における近赤外線及び赤外線を、吸収及び/又は反射して遮断することができる。
また、誘電体多層膜の積層数を減らすことができるので、不純物の混入による品質低下や歩留まり低下を抑制することができたり、撮像素子を薄膜化したりすることができる。上記低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜の総積層数は、光学特性の制御が容易である点で、より好ましくは30~80層の範囲であり、更に好ましくは40~70層の範囲である。
【0025】
上記赤外線反射膜の厚みは、割れを防止するという点で、好ましくは2~10μmであり、より好ましくは3~7μmであり、更に好ましくは4~5μmである。
【0026】
<光学レンズ群>
本発明の撮像素子における光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも一つ含む。
上記光学レンズ群は、単数又は複数のレンズ素子からなり、その内の少なくとも一つのレンズ素子が近赤外線吸収色素を含む。光学レンズ群が、複数のレンズ素子からなる場合、光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含まないレンズ素子を含んでいてもよい。
【0027】
上記近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含む。レンズ素子がこのような特定の2種の色素を含むことにより、可視光の透過性を維持しながら、近赤外領域の広範囲にわたって光を吸収することができるため、カバーレンズに設ける赤外線反射膜の積層数を減らすことができ、撮像素子の薄膜化や品質、歩留まりの低下を抑制することができる。また、近赤外線を吸収する光学フィルターを別途設ける必要がないため、撮像素子の構成を簡易にすることができる。更に、色素濃度を調整することで、光学特性及び色調の微調整が可能になる。本明細書においては、光学レンズ群を形成するレンズ素子において、上述した特定の2種の近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を「レンズ素子(A)」とも称する。
【0028】
吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素としては、例えば、特開2016-166320号公報(スクアリリウム骨格に炭素原子を介して窒素含有5員環を結合する場合に、窒素含有5員環とスクアリリウム骨格とを結合するメチン基が環構造になるよう分子設計されたスクアリリウム色素)、特開2014-148567号公報(オキソカーボン系化合物とインドール環などの窒素含有環とを1個の(環構造を形成しない)メチン基を介して結合することにより、窒素含有環とスクアリリウム骨格とを共役させたスクアリリウム色素)、特開2014-059550号公報(オキソカーボン系化合物とベンゼン環とを1個の(環構造を形成しない)メチン基を介さずに結合したスクアリリウム色素)、特開2018-40955号公報、特開2016-74649号公報に記載のスクアリリウム骨格を有するオキソカーボン系化合物等が挙げられる。
【0029】
なかでも、スクアリリウム系色素としては、特開2018-40955号公報の段落[0067]~[0095]に記載されるスクアリリウム化合物が好ましい。具体的には、下記式(1)で表されるスクアリリウム骨格を有する化合物が好ましい。
【0030】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して有機基を表す。)
【0031】
上記式(1)において、RとRの少なくとも一方が、スクアリリウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、又はこれらの環構造を含む縮合環を表すものであることが好ましく、RとRの両方が、スクアリリウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、又はこれらの環構造を含む縮合環を表すものであることがより好ましい。
【0032】
芳香族炭化水素環としては、炭素数6~14のものが挙げられ、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等、特開2018-40955号公報の段落[0070]に記載のものが挙げられる。なかでも、置換基を有していてもよい5員又は6員の芳香族炭化水素環が好ましい。
【0033】
芳香族複素環としては、例えば、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選択される少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環、3~8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選択される少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環等が挙げられ、具体的には、フラン環、チオフェン環等、特開2018-40955号公報の段落[0071]に記載のものが挙げられるが、なかでも、置換基を有していてもよい5員又は6員の芳香族複素環が好ましい。
【0034】
芳香族炭化水素環と芳香族複素環を含む縮合環としては、例えば、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、ベンゾピラン環、アクリジン環、キサンテン環、カルバゾール環等が挙げられる。
【0035】
芳香族炭化水素環、芳香族複素環、又はこれらの環構造を含む縮合環は、スクアリリウム骨格と直接結合していてもよく、π共役系を有する連結基を介してスクアリリウム骨格と結合していてもよい。π共役系を有する連結基としては、例えば、-CRa1=、-(CRa2=CRa3-(式中、Ra1~Ra3は、水素原子又は有機基を表し、Ra2とRa3は互いに繋がって環を形成していてもよく、hは1以上の整数を表す)で表される基が示される。Ra1~Ra3の有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0036】
芳香族炭化水素環、芳香族複素環、又はこれらの環構造を含む縮合環が有していてもよい置換基の種類は特に限定されないが、好ましくは、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子である。置換基の数は1~5個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0037】
上記式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、下記式(2)で表される基を有することも好ましい。
【0038】
【化2】
【0039】
上記式(2)中、環Aは、4~9員の不飽和炭化水素環を表し、環Bは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、又はこれらの環構造を含む縮合環を表し、Rは、水素原子、有機基、又は極性官能基を表し、Rは、有機基、又は極性官能基を表し、*は式(1)中の4員環との結合部位を表す。xは0~6の整数であり、かつy以下(ただし、yは環Aの構成員数から3を引いた値である)であり、xが2以上である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
なお、上記式(1)で表されるスクアリリウム化合物には、これと共鳴関係にある化合物も含まれる。上記スクアリリウム化合物と共鳴関係にある化合物としては、特開2018-40955号公報の段落[0078]~[0079]に記載の化合物が挙げられる。
【0041】
上記式(2)中、環Aは、構成員数が4~9員である不飽和炭化水素環を表す。環Aは、スクアリリウム骨格に結合する炭素原子とピロール環のα位の炭素原子との間に二重結合を有するとともに、ピロール環のα位の炭素とβ位の炭素を含んで構成される不飽和炭化水素環である。環Aは、好ましくは5~8員環であり、より好ましくは6~8員環である。環Aの構造としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルカンモノエンが好ましく挙げられる。
【0042】
上記環Aは、置換基Rを有していてもよい。置換基Rとしては、有機基又は極性官能基が挙げられる。置換基Rの数xは0~6であり、好ましくは0~5の整数であり、より好ましくは0~3の整数であり、更に好ましくは0~2の整数である。置換基Rの数xが2以上であり、Rが複数存在する場合には、各Rは同じであってもよいし異なっていてもよい。xが2以上の場合、複数のRは各々環Aを構成する別の炭素原子に結合していてもよいし、2個のRが1個の炭素原子に結合していてもよい。
【0043】
で表される有機基としては、特開2018-40955号公報の段落[0085]に記載される有機基が挙げられるが、なかでも、溶剤溶解性の観点から、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、アリール基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、アミド基、スルホンアミド基、水酸基が好ましく、アルキル基又は水酸基がより好ましく、メチル基、エチル基、水酸基が更に好ましく挙げられる。
【0044】
環Aの一部を構成するピロール環のβ位の炭素原子には、水素原子、有機基又は極性官能基が結合している(式(2)におけるR)。式(2)中、Rで表される有機基と極性官能基としては、置換基Rで例示した有機基や極性官能基が挙げられる。なかでも、式(2)のRとしては、溶剤溶解性の観点から、水素原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基、アリール基が好ましく、アルキル基、又はアリール基がより好ましい。この場合、アルキル基の炭素数は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であれば1~6が好ましく、より好ましくは1~4であり、脂環式のアルキル基であれば4~7が好ましく、より好ましくは5~6である。アリール基の炭素数は6~10が好ましく、より好ましくは6~8である。Rがアルキル基又はアリール基である場合、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が好ましく挙げられる。
【0045】
式(2)中、環Bは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、又はこれらの環構造を含む縮合環を表す。これらの環構造の具体例は、上記と同じである。
【0046】
環Bは、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、特開2018-40955号公報の段落[0088]に記載の電子供与性基や、電子吸引性基が好ましく挙げられる。なかでも、電子吸引性基がより好ましく、ハロゲノ基が特に好ましい。環Bが置換基を有する場合、その数は好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2であり、更に好ましくは1である。なお、環Bは置換基を有さなくてもよい。
また、環Bは、特開2018-40955号公報の段落[0089]~[0091]に記載のエチレン含有基や、イミン含有基を有していてもよい。
【0047】
吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素としては、例えば、インドリウム系カチオンと対アニオンからなる塩が挙げられる。
【0048】
インドリウム系カチオンとしては、例えば、国際公開第2006/082945号(ポリメチン、及び、該ポリメチンの各末端に窒素を含む芳香環を有するインドリウムカチオン)、国際公開第2001/062853号、国際公開第2012/063964号(シクロペンテン環構造を有するヘプタメチン鎖のメソ位にジフェニルアミノ基が結合するインドリウム系カチオン)、国際公開第2005/007753号(同一分子内において、二価基により連結された複数のシアニン色素骨格を有するインドリウムカチオン)、国際公開第2021/145456号等に記載の構造が挙げられる。具体的には、下記式(a)~(i)で示されるカチオンが好ましく挙げられる。
【0049】
【化3】
【0050】
【化4】
【0051】
【化5】
【0052】
【化6】
【0053】
【化7】
【0054】
【化8】
【0055】
【化9】
【0056】
【化10】
【0057】
【化11】
【0058】
対アニオンとしては、無機のアニオン、有機酸のアニオン、有機金属のアニオン等が挙げられる。
有機酸及び有機金属のアニオンとしては、例えば酢酸、乳酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、マロン酸イオン、オレイン酸イオン、クエン酸イオン又はステアリン酸イオン等の有機カルボン酸のアニオン、メタンスルホン酸イオン(メチル硫酸イオン)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン(エチル硫酸イオン)、プロパンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ナフタレンモノスルホン酸イオン、ナフタレンジスルホン酸イオン、クロロベンゼンスルホン酸イオン、ニトロベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン又はトリフルオロメタンスルホン酸イオン等の有機スルホン酸のアニオン、ベンゼンスルフィン酸イオン、メタンスルフィン酸イオン等の有機スルフィン酸のアニオン、テトラフェニルホウ酸イオン、ブチルトリフェニルホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等の有機ホウ酸のアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドイオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ペンタフルオロエタンスルホントリフルオロメタンスルホンイミドイオン、トリフルオロメタンスルホンヘプタフルオロプロパンスルホンイミドイオン、ノナフルオロブタンスルホントリフルオロメタンスルホンイミドイオン、1,3-ジスルホニルヘキサフルオロプロピレンイミドイオン又はペンタフルオロフェニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン等の含フッ素有機酸のアニオンが挙げられ、好ましいものとして強酸のアニオンであるテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸又はペンタフルオロフェニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸に対応する各アニオンが挙げられる。
【0059】
無機のアニオンとしては、例えばフッ素化物イオン、塩素化物イオン、臭素化物イオン又はヨウ素化物イオン等のハロゲンのアニオン、チオシアン酸、六フッ化アンチモン酸イオン(ヘキサフルオロアンチモン酸イオン)、ペンタクロロスズ酸イオン、過塩素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、クロロスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、バナジン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、一水素二リン酸イオン、二水素一リン酸イオン等のリン酸イオン、ホウ酸イオン、テトラフルオロタンタル酸又はテトラフルオロニオブ酸のアニオン等が挙げられ、好ましいものとしては強酸のアニオンであり、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸又は六フッ化アンチモン酸に対応する各アニオン等が挙げられる。
【0060】
これらのアニオンのうち、六フッ化アンチモン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニ ル)イミド酸、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸又はペンタフルオロフェニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸に対応する各アニオンが特に好ましい。
【0061】
なかでも、シアニン系色素としては、インドリウム系カチオンと、テトラキス( ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンとの塩が好ましい。
【0062】
上記シアニン系色素として、例えば、国際公開第2006/82945号に記載されるように、アメリカンダイソース社製のADS812MI、FEWケミカル社製のS0712、FEWケミカル社製のS0726、アメリカンダイソース社製のADS780MT、FEWケミカル社製のS0006、FEWケミカル社製のS0081、FEWケミカル社製のS0773;等の市販品を用いてもよい。
【0063】
上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、波長450~570nmの範囲に吸収極大を有しないことが好ましい。これらの色素が、波長450~570nmの範囲に吸収極大を有しないことにより、可視光領域の光の透過率を向上させることができ、良好な画質の画像を得ることができる。上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、より好ましくは波長400~600nmの範囲、更に好ましくは波長380~650nmの範囲に吸収極大を有しないことが好ましい。
【0064】
上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、その分光透過率曲線において、近赤外領域(波長670~850nmの範囲)における吸収極大の平行線透過率が1%である場合に、波長450~570nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有しないことが好ましい。これらの色素が、上記のような吸収透過特性を有することにより、可視光領域の光の透過率を向上させることができ、良質な画質の画像を得ることができる。上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、波長430~600nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有しないことがより好ましく、波長400~600nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有しないことが更に好ましい。
【0065】
なお、上記の吸収透過特性は、可溶性溶媒に所定濃度の色素を溶解させ、1cm石英セルを用いて、分光光度計により、可視光領域~近赤外領域における各波長の平行線透過率(分光透過率曲線)を測定する方法において、近赤外領域(670nm~850nm)の吸収極大の平行線透過率が1%となる濃度にて、可視光領域の各波長の平行線透過率(分光透過率曲線)を測定することにより、確認することができる。
【0066】
上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、その分光透過率曲線において、波長670~850nmの範囲における吸収極大の平行線透過率が1%である場合に、波長450~570nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる波長を有しないことがより好ましい。上記スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、更に好ましくは波長430~600nmの範囲、より更に好ましくは波長400~600nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる波長を有しないことが好ましい。
【0067】
上記レンズ素子(A)における上記スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/mであることが好ましい。上記スクアリリウム系色素の含有量が上述の範囲であると、600nm~700nmの透過率調整及び赤色光の色調調整ができる。同様の理由により、上記スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.015~0.25g/mであることがより好ましく、0.02~0.2g/mであることが更に好ましい。
【0068】
上記レンズ素子(A)における上記シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/mであることが好ましい。上記シアニン系色素の含有量が上述の範囲であると、より長波長の有害光のカットができる。同様の理由により、上記シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.015~0.4g/mであることがより好ましく、0.02~0.3g/mであることが更に好ましい。
【0069】
上記スクアリリウム系色素の含有量(X)と上記シアニン系色素の含有量(Y)の質量比(X/Y)は、1/5~5/1であることが好ましい。上記質量比(X/Y)が上述の範囲であると、可視光領域の色調調整が可能である。上記質量比(X/Y)は、より好ましくは1/2~2/1、更に好ましくは1/2~1/1である。
【0070】
上記レンズ素子(A)は、上述したスクアリリウム系色素及びシアニン系色素以外の他の近赤外線吸収色素を更に含んでもよい。上記他の近赤外線吸収色素としては、例えば、有機色素であっても、無機色素であってもよく、例えば、クロコニウム系色素、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、コリン類等)、ピロロピロール系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キサンテン系色素、インドリン系色素、アリールメタン系色素、クアテリレン系色素、ジイモニウム系色素、ペリレン系色素、キナクドリン系色素、オキサジン系色素、ジピロメテン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素(ホスホン酸銅類(リン酸銅類)、リン酸エステル銅錯体類(リン酸モノエステルと銅の複合化物、リン酸ジエステルと銅の複合化物))、ジチオール金属錯体系色素、アゾ系色素、ポリメチン系色素、フタリド系色素、キノン系色素(ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素)、インドフェノール系色素、ピリリウム系色素、チオピリリウム系色素、クロコニウム系色素、テトラデヒドピオコリン系色素、トリフェニルメタン系色素、アルミニウム系色素、ジイモニウム色素、ピラン系色素(ピラン類、ベンゾピラン類、クロモン類、クマリン類、キサンテン類)等が挙げられる。なかでも、耐熱性、耐光性に優れ、可視光領域の吸収が少ない点で、クロコニウム系色素、ピロロピロール系色素、リン酸銅系色素が好ましい。
【0071】
上記レンズ素子(A)は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらは1種のみ使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なかでも、光学特性、耐熱性、成形加工性が良好である点で、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましく、シクロオレフィン系樹脂がより好ましい。
【0072】
上記レンズ素子(A)は、更に、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。上記レンズ素子(A)が紫外線吸収剤を含むことにより、上記レンズ素子(A)の耐光性を向上することが可能となる。また色調再現性に優れる撮像を行うことが可能となる。
【0073】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾオキサジン系、特開2019-14707号公報に記載のエチレン化合物等の有機系のもの、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等の無機系(粒子)のものが挙げられる。なかでも、青色色調の補正が可能である点で、特開2019-14707号公報に記載のエチレン化合物が好ましい。
【0074】
上記レンズ素子(A)における紫外線吸収剤の含有量は、耐光性と青色色調補正の観点より、レンズ素子(A)100質量%中、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.02~1質量%であり、更に好ましくは0.03~0.7質量%である。
【0075】
上記レンズ素子(A)は、上述した成分以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、蛍光増白剤、添着剤等、一般の成形材料に含まれる公知の成分が挙げられる。
【0076】
上記レンズ素子(A)の平均厚みは、成形が容易で、厚みを薄くすることができる点で、好ましくは0.1~2.0mm、より好ましくは0.15~1.5mm、更に好ましくは0.2~1.0mmである。上記平均厚みとは、受光素子に光を通す光路となる部分の平均厚みであり、レンズ断面をSEM(走査電子顕微鏡)により測定して得られる値を平均した数字である。
【0077】
上記レンズ素子(A)のレンズ内の最小厚みと最大厚みの比(最小厚み/最大厚み)は、受光素子に光を通す光路となる部分(撮像可能領域)の最小厚みと最大厚みの比(最小厚み/最大厚み)であり、0.5~1.0であることが好ましい。上記レンズ素子のレンズ内の最小厚みと最大厚みの比が上述の範囲であると、色収差を低減できる。また、特に上記スクアリリウム系色素を含むレンズ素子において、上述した範囲の上記比(最小厚み/最大厚み)を有すると、色収差が良好となる。
上記比(最小厚み/最大厚み)は、色収差をより一層低減できる点で、より好ましくは0.5~0.95であり、更に好ましくは0.6~0.9である。
上記最小厚みと最大厚みは、レンズ断面のSEMによる測定により求めることができる。
【0078】
上記レンズ素子(A)の形状としては、特に限定されず、凸形状、凹形状、非球面等の公知の形状が挙げられる。なかでも、光学特性をより容易に制御可能である点で、非球面であることが好ましい。
【0079】
また、上記光学レンズ群は、複数の上記レンズ素子(A)を含んでいてもよく、その場合、上記スクアリリウム系色素を含むレンズ素子(A1)と、上記シアニン系色素を含むレンズ素子(A2)とが別個に存在してもよい。この場合、レンズ素子(A1)と、レンズ素子(A2)のレンズの厚みは異なっていてもよいが、上記スクアリリウム系色素を含むレンズ素子(A1)は、レンズ内の最小厚みと最大厚みの差が小さい方が好ましく、具体的には、最大厚みと最小厚みの差の絶対値|(最大厚み)-(最小厚み)|が、0~1mmであることが好ましく、0~0.5mmであることがより好ましく、0~0.1mmであることが更に好ましい。
【0080】
上記レンズ素子(A)は、上述した特定の2種の近赤外線吸収色素を含むものであるがその形態として、例えば、レンズと近赤外線吸収色素層を含む形態(a)、及び、レンズ中に近赤外線吸収色素が分散した形態(b)が挙げられる。
【0081】
上記形態(a)としては、レンズ表面に近赤外線吸収色素層が積層された形態が挙げられる。近赤外線吸収色素層は、レンズの一方の表面に積層されていてもよいし、両面に積層されていてもよい。また、レンズの中間層に近赤外線吸収色素層が存在していてもよい。
【0082】
上記近赤外線吸収色素層は、単層であってもよいし、2層であってもよい。上記近赤外線吸収色素層が2層の場合、2層のうちの1層が上記スクアリリウム系色素を含み、別の1層が上記シアニン系色素を含んでいてもよい。
【0083】
また、上記レンズ素子(A)が紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤は、レンズに含まれていてもよいし、近赤外線吸収色素層に含まれていてもよい。
【0084】
上記形態(a)において、近赤外線吸収色素層をレンズ表面に積層する方法としては、近赤外線吸収色素層形成用組成物をレンズ表面に塗布する方法や、上記近赤外線吸収色素をレンズ表面に蒸着する方法が挙げられる。
【0085】
近赤外線吸収色素層形成用組成物としては、例えば、上述した近赤外線吸収色素と、バインダー樹脂、及び、必要に応じて溶媒等を含む樹脂組成物が挙げられる。
【0086】
バインダー樹脂としては、特に限定されず、例えば、無機系バインダー(アルコキシシラン、チタンアルコキシドやこれらの加水分解・縮合物等)、有機系バインダー(熱可塑性樹脂、光/熱硬化性樹脂等)が挙げられる。上記光/熱硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマー等のエチレン性二重結合を有する重合性モノマー、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂として光/熱硬化性樹脂を用いる場合、重合開始剤や硬化触媒等を用いることができ、用いる光/熱硬化性樹脂に応じて重合開始剤や硬化触媒を適宜選択すればよい。
【0087】
上記バインダー樹脂として使用される熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、上述した上記レンズ素子(A)が含んでもよい熱可塑性樹脂と同様の樹脂が好ましく挙げられる。
【0088】
バインダー樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、バインダー樹脂がエマルションの場合は水を用いたり、水溶性樹脂の場合は水(及び極性有機溶媒)を用いたり、溶剤系樹脂の場合はバインダーの溶解性、レンズの溶解性を考慮して適宜選択すればよい。
【0089】
上記近赤外線吸収色素層形成用組成物をレンズ表面に塗布し、必要に応じて乾燥、硬化させることにより、近赤外線吸収色素層を形成することができる。
塗布方法、乾燥方法、硬化方法は、特に限定されず、近赤外線吸収色素層形成用組成物に含まれる成分の種類に応じて、公知の方法から適宜選択するとよい。
【0090】
また、上記近赤外線吸収色素をレンズ表面に蒸着する方法としては、特に限定されず、物理蒸着、化学蒸着等の公知の方法で行うとよい。
【0091】
上記近赤外線吸収色素の含有量は、近赤外線吸収色素層の厚みを考慮して、上述したレンズ表面の単位面積当たりの各色素の含有量の好ましい範囲となるよう適宜調整するとよい。
【0092】
上記レンズは、上述した熱可塑性樹脂を用いて成形することにより得ることができる。
レンズに成形する方法としては、特に限定されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、真空成形等の公知の方法が挙げられる。なかでも、成形品の寸法精度に優れる点で、射出成形、押出成形が好ましい。また、キャスト法や塗布等の方法によって、所望の形状に成形してもよい。成形の条件は、熱可塑性樹脂の種類や成形体の形状、寸法に応じて、適宜選択することができる。
【0093】
上記形態(b)のレンズ素子(A)は、上記熱可塑性樹脂と上記近赤外線吸収色素を含む樹脂組成物を調製し、これを用いてレンズに成形することにより製造することができる。
【0094】
上記樹脂組成物における上記近赤外線吸収色素の含有量は、レンズ素子(A)の厚みを考慮して、上述したレンズ表面の単位面積当たりの各色素の含有量の好ましい範囲となるよう適宜調整するとよい。
【0095】
上記樹脂組成物の調製は、上述した近赤外線吸収色素、熱可塑性樹脂、及び、必要に応じて紫外線吸収剤等を、押出機、ブレンダーやミキサー、ニーダー等の公知の混合機、分散機、混練機等を用いて混合することにより行うことができる。なかでも、各成分を均一に混合することができる点で、押出溶融混練が好ましい。
【0096】
上記樹脂組成物を混練する場合の加熱温度は、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、好ましくは150~330℃であり、より好ましくは155~300℃であり、更に好ましくは160~280℃である。
【0097】
また、上記レンズ素子(A)は、樹脂組成物のペレットを用いて製造してもよい。すなわち、上記樹脂組成物を溶融混練してペレットを一旦調製した後、当該ペレットを用いてレンズを成形してもよい。
【0098】
上記樹脂組成物を用いてペレットを調製する方法としては、特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物を加熱、溶融して、押出機の先端からストランド状(ひも状)に排出し、水槽中等でストランドを冷却した後、切断機(ペレタイザー)に導入して切断することにより、ペレットを得る等の公知の方法が挙げられる。
【0099】
上記ペレットを用いてレンズを成形する方法としては、ペレットを加熱し、溶融して、上述した成形方法でレンズを得る方法が挙げられる。
【0100】
上記光学レンズ群は、他のレンズ素子を含んでいてもよい。他のレンズ素子としては、上記スクアリリウム系色素及び上記シアニン系色素を含有していない点以外は、上述したレンズ素子(A)と同様の成分を含むものが挙げられる。本明細書においては、光学レンズ群を形成するレンズ素子において、上記スクアリリウム系色素及び上記シアニン系色素を含有していないレンズ素子を「レンズ素子(B)」とも称する。レンズ素子(B)は、上記スクアリリウム系色素及び上記シアニン系色素以外の近赤外線吸収色素を含んでいてもよいが、近赤外線吸収色素を含まないことが好ましい。
レンズ素子(B)の形状や厚みとしては、上述したレンズ素子(A)と同じものが挙げられる。
【0101】
上記レンズ素子(A)及び(B)は、少なくとも一方の表面に、反射防止膜を有していてもよい。
反射防止膜は、紫外領域の光を反射し、かつ、可視光領域の光の反射を抑制する。
反射防止膜としては、特に限定されず、誘電体多層膜、モスアイ構造体等の公知のものが挙げられるが、なかでも、取り扱いが容易である点で、誘電体多層膜が好ましい。上記誘電体多層膜としては、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した積層体が挙げられる。
【0102】
上記高屈折率材料層の材料としては、屈折率が1.7以上の材料が挙げられ、通常屈折率が1.7~2.5の材料が用いられる。上記高屈折率材料層の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;上記酸化物又は上記窒化物の混合物や、アルミニウムや銅等の金属や炭素をドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。
【0103】
上記低屈折率材料層の材料としては、屈折率が1.6以下の材料が挙げられ、通常屈折率が1.2~1.6の材料が用いられる。上記低屈折率材料層の材料としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
【0104】
上記反射防止膜は、上述したカバーガラスの項に記載の赤外線反射膜と同様の公知の方法で、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層することで形成することができる。
【0105】
上記高屈折率材料層と低屈折率材料層の総積層数は、コストと性能のバランスの観点から、3~11層の範囲であることが好ましく、3~9層の範囲であることがより好ましく、5~7層の範囲であることが更に好ましい。
【0106】
上記反射防止膜の厚みは、製造時間を短縮できる点で、好ましくは0.05~1μmであり、より好ましくは0.08~0.7μmであり、更に好ましくは0.1~0.5μmである。
【0107】
上記レンズ素子(A)及び(B)は、少なくとも一方の表面に、赤外線反射膜を有していてもよい。赤外線反射膜としては、上述したカバーガラスの項に記載の赤外線反射膜と同じものが挙げられる。
【0108】
上記光学レンズ群は、n個のレンズ素子からなり、上記レンズ素子(A)は光入射側から1~(n-1)個目のレンズの内少なくとも1つであることが好ましい。
【0109】
上記光学レンズ群の可視光領域(430nm~600nm)の平均透過率(平行線透過率の平均)は、70~99%であることが好ましい。上記平均透過率が上述の範囲であると、感度の高い画像を撮影できる。上記平均透過率は、高感度である点で、75~99%であることがより好ましく、80~99%であることが更に好ましい。上記平均透過率は、分光光度計を用いて各波長(例えば1nm毎)の平行線透過率を測定し、その単純平均値を計算することにより求めることができる。近赤外領域(700nm~800nm、670nm~750nm)の平均透過率は、フレア防止、色シェーディング抑制の観点で、それぞれ5%以下が好ましく、3%以下が更に好ましく、1%以下が最も好ましい。
【0110】
<受光素子>
本発明の撮像素子における受光素子としては、受けた光を電気信号に変換する素子が挙げられ、具体的には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサー、COMS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサー等が挙げられる。
【0111】
<他の構成成分>
本発明の撮像素子は、他の構成成分を有していてもよい。
【0112】
本発明の撮像素子は、上述したカバーガラス、光学レンズ群、受光素子、及び、必要に応じて任意の他の構成成分を用いて、少なくとも光入射側から、カバーガラス、光学レンズ群、及び受光素子の順となるように、公知の方法により組み立てるとよい。
【0113】
本発明の撮像素子の好ましい形態の一例として、具体的に、以下が挙げられる。
すなわち、本発明の好ましい一形態は、少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有し、該レンズ素子における該スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/mであり、該レンズ素子における該シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/mであることを特徴とする撮像素子である。
【0114】
また、本発明の好ましい一形態は、少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有し、該スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、分光透過率曲線において、波長670~850nmの範囲における吸収極大の平行線透過率が1%である場合、波長450~570nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有さず、該レンズ素子における該スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/mであり、該レンズ素子における該シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/mであることを特徴とする撮像素子である。
【0115】
また、本発明の好ましい一形態は、少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有し、該レンズ素子における該スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/cmであり、該レンズ素子における該シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/cmであり、該スクアリリウム系色素の含有量(X)と該シアニン系色素の含有量(Y)の質量比(X/Y)が、1/5~5/1であることを特徴とする撮像素子である。
【0116】
また、本発明の好ましい一形態は、少なくともカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子を光入射側から順に備える撮像素子であって、該光学レンズ群は、近赤外線吸収色素を含むレンズ素子を少なくとも1つ含み、該近赤外線吸収色素は、吸収極大波長が670~750nmの範囲にあるスクアリリウム系色素と、吸収極大波長が750~850nmの範囲にあるシアニン系色素とを含み、該カバーガラスは、少なくとも一方の表面に赤外線反射膜を有し、該スクアリリウム系色素及びシアニン系色素は、分光透過率曲線において、波長670~850nmの範囲における吸収極大の平行線透過率が1%である場合、波長450~570nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大を有さず、該レンズ素子における該スクアリリウム系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.3g/cmであり、該レンズ素子における該シアニン系色素の含有量は、光入射側レンズ表面の単位面積当たり0.01~0.5g/cmであり、該スクアリリウム系色素の含有量(X)と該シアニン系色素の含有量(Y)の質量比(X/Y)が、1/5~5/1であることを特徴とする撮像素子である。
【実施例0117】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0118】
(実施例1~2、比較例1~3)
(1)スクアリリウム系色素の合成
(合成例1)近赤外線吸収色素Aの合成
特開2016-74649号公報の実施例1-18に記載の方法に従い、近赤外線吸収色素A(スクアリリウム系色素)を合成した。近赤外線吸収色素Aのトルエン中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は737nmであった。トルエン中の737nmの吸収極大が1%の透過率となる時、波長400~600nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大は存在しなかった。近赤外線吸収色素Aの構造を下記に示す。
【0119】
【化12】
【0120】
(2)シアニン系色素の合成
(合成例2)近赤外線吸収色素Bの合成
国際公開第2006/082945号の実施例12-1に記載の方法に従い、近赤外線吸収色素B(シアニン系色素)を合成した。近赤外線吸収色素Bのメチルエチルケトン(MEK)中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は833nmであった。MEK中の833nmの吸収極大が1%の透過率となる時、波長400~600nmの範囲において平行線透過率が60%以下となる吸収極大は存在しなかった。近赤外線吸収色素Bの構造を下記に示す。
【0121】
【化13】
【0122】
(合成例3)近赤外線吸収色素Cの合成
原料を東京化成社製IR-786Iodideに変更した以外は、合成例2と同様の方法で、近赤外線吸収色素C(シアニン系色素)を合成した。近赤外線吸収色素Cのメチルエチルケトン(MEK)中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は780nmであった。近赤外線吸収色素Cの構造を下記に示す。
【0123】
【化14】
【0124】
(3)色素含有樹脂溶液の調製
ポリカーボネート樹脂(帝人社製、パンライトL-1225WL)0.8質量部をクロロホルム100質量部に溶解させた。その後、表1に示すように、各種近赤外線吸収色素を、ポリカーボネート樹脂に対して10質量部となるように添加し、色素含有樹脂溶液1~5を調製した。
【0125】
(4)色素樹脂膜の製造
色素含有樹脂溶液1~5を用い、ガラス基板(ショット社製、D263Teco、厚み0.21μm)上にディップコートした。60℃で10分間乾燥し、両面に厚み1μm、合計2μmの色素樹脂膜1~5を形成した。得られた色素樹脂膜1~5における各種色素濃度は、表1に示すとおりである。
【0126】
(5)色素樹脂膜の評価
色素樹脂膜1~5の透過率をUVスペクトルメーター(島津社製UV-3100)により前記樹脂付きガラス基板の平均平行線透過率(可視光:430~600nm、近赤外光:700~800nm、670~750nm、750~850nm)を評価した。結果を表1に示す。また、図1に、得られた色素樹脂膜1の分光透過率曲線を示す。
【0127】
【表1】
【0128】
表1より、スクアリリウム系色素とシアニン系色素とを組み合わせた色素樹脂膜1~2は、いずれか一方の色素しか含まない色素樹脂膜3~5と比較して、可視光領域での光の吸収が小さく、近赤外領域の光を広く吸収していることが分かった。
【0129】
(6)撮像素子の製造
カバーガラスとして、サファイアガラス(厚み0.6μm)の一方の面に赤外線反射膜(50層)を形成したものを用意した。赤外線反射膜は、酸化チタン層とシリカ層とを交互にイオンアシスト真空蒸着法により形成した。
図2に、赤外線反射膜が形成されたカバーガラスの分光透過率曲線を示す。図2中、実線は、カバーガラス表面に対し測定光の入射角が0°(カバーガラス表面に対し測定光が垂直に入射)である場合の分光透過率曲線を示し、破線は、カバーガラス表面に対し測定光の入射角が30°(垂直方向に対し30°)である場合の分光透過率曲線を示す。
上記分光透過率曲線は、UVスペクトルメーター(島津社製UV-3100)を用いて各波長における平行線透過率を測定することにより得た。
【0130】
次いで、シクロオレフィン共重合体(cyclo olefin coplymer;COC)樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂を用いて、光学レンズとして、合計5枚の異なる形状の非球面レンズを作製した。
5枚のレンズの内の1枚(COC樹脂製)に、上述した方法と同様の方法で、色素含有樹脂溶液を用いて色素樹脂膜1~5を形成した。色素樹脂膜が形成されたレンズ素子の撮像領域における最小厚みは310μmで、最大厚みは340μmであり、最小厚み/最大厚みの比は0.9であった。
また、色素樹脂膜が形成されたレンズ素子におけるスクアリリウム系色素とシアニン系色素の含有量は、それぞれ、光入射側レンズ表面の単位面積あたり0.1g/mであった。
【0131】
その後、全てのレンズの両面に、イオンアシスト真空蒸着法により、酸化チタン層とシリカ層とを交互に形成した反射防止層(4層)を形成した。そして、上記で得られたカバーガラス、光学レンズ群、及び、受光素子(CMOSセンサー)からなるカメラモジュールを作製した。
【0132】
(7)撮像素子の評価(色シェーディング、ゴーストの評価)
作製したカメラモジュールを用いて、暗室中にてハロゲンランプ下で画像を撮影し、得られた画像において、色シェーディング(画面周辺に色がつく(暗くなる)現象)、ゴースト(円状、花びら状の余剰光の映り込み)の発生具合を目視で観察し、下記の基準に基づいて評価した。結果を表2に示す。
(色シェーディング)
色シェーディングが認められない:◎、色シェーディングが認められるが許容可能なレベル:〇、色目が変化するレベル:×
(ゴーストの発生レベル)
ゴーストの発生が認められない:◎、ゴーストの発生が認められるが許容可能なレベル:〇、ゴーストの発生が多い:×
【0133】
【表2】
【0134】
表2より、実施例のカメラモジュールは、簡易な構造であるが、色シェーディングやゴースト現象の発生を抑制することができ、良好な画質の画像を得ることができた。
図1
図2