(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004599
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】透過型砂防堰堤の設計方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104386
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514328975
【氏名又は名称】嶋 丈示
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】國領 ひろし
(72)【発明者】
【氏名】大隅 久
(72)【発明者】
【氏名】嶋 丈示
(57)【要約】
【課題】堰堤本体と、堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤の緩衝部材を適切に選定できる透過型砂防堰堤の設計方法を提供する。
【解決手段】実施形態における透過型砂防堰堤の設計方法は、本体鋼管により構成される堰堤本体と、前記堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤を設計する透過型砂防堰堤の設計方法であって、前記本体鋼管の外径Dを設定し、前記堰堤本体に作用する静荷重に基づいて、前記本体鋼管の板厚t1を設定し、前記堰堤本体に作用する礫の衝突エネルギーEに基づいて、前記本体鋼管の板厚t2を設定する本体鋼管設定工程と、数式(1)~(3)に基づいて、前記緩衝部材を構成する緩衝鋼管の外径D´と板厚t´とを設定する緩衝鋼管設定工程と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体鋼管により構成される堰堤本体と、前記堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤を設計する透過型砂防堰堤の設計方法であって、
前記本体鋼管の外径Dを設定し、
前記堰堤本体に作用する静荷重に基づいて、前記本体鋼管の板厚t1を設定し、
前記堰堤本体に作用する礫の衝突エネルギーEに基づいて、前記本体鋼管の板厚t2を設定する本体鋼管設定工程と、
以下の数式(1)~(3)に基づいて、前記緩衝部材を構成する緩衝鋼管の外径D´と板厚t´とを設定する緩衝鋼管設定工程と、を備えること
を特徴とする透過型砂防堰堤の設計方法。
【数12】
【数13】
【数14】
【請求項2】
前記本体鋼管設定工程は、設定した前記板厚t1と前記板厚t2とに基づき、前記本体鋼管の製造の可否を判定する製造可否判定工程を有し、
前記緩衝鋼管設定工程は、前記製造可否判定工程において前記本体鋼管が製造不可と判定された場合、前記緩衝鋼管の前記外径D´と前記板厚t´とを設定すること
を特徴とする請求項1記載の透過型砂防堰堤の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堰堤本体と、堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤を設計する透過型砂防堰堤の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土砂・流木による災害を防止する透過型砂防堰堤に関する技術として、ダム本体に緩衝部材が取り付けられた特許文献1~3の開示技術が開示されている。
【0003】
特許文献1の透過型砂防ダムは、洪水時の巨礫の衝突エネルギーを吸収するための断面形状が閉断面の緩衝手段がダム本体の上流面に、前記ダム本体に対して着脱自在に取り付けられ、前記緩衝手段には、巨礫の衝突による前記緩衝手段の変形を拘束するための変形拘束手段が設けられ、前記変形拘束手段は、前記緩衝手段の両端に設けられていることを特徴とする。
【0004】
特許文献2の透過型砂防ダムは、洪水時の巨礫の衝突エネルギーを吸収するための緩衝手段がダム本体の上流面に、前記ダム本体に対してブラケットを介して着脱自在に取り付けられ、前記ダム本体は、基礎コンクリート上または地盤上に固定された鋼製支柱と、前記支柱間に固定された鋼製梁材とからなり、前記支柱と前記梁材とは、多面体の鋼製箱型結合エレメントを介して互いに結合され、前記柱材および前記梁材の軸芯は、前記鋼製箱型結合エレメント内の一点に集中していることを特徴とする。
【0005】
特許文献3の透過型砂防ダムは、洪水時の巨礫の衝突エネルギーを吸収するための緩衝手段がダム本体の上流面に、前記ダム本体に対してブラケットを介して着脱自在に取り付けられ、前記ブラケットは、前記緩衝手段の下流面側に面して取り付けられ、上流面側には露出しておらず、前記緩衝手段は、縦方向に複数本に分割されていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3270744号公報
【特許文献2】特許3289827号公報
【特許文献3】特許3946028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3の開示技術では、堰堤本体の上流側に緩衝部材を配置して、礫の衝撃を緩衝させる。しかしながら、緩衝部材を構成する緩衝鋼管の外径と板厚を設計する手法は、現在まで確立されていないのが現状である。このため、適切な緩衝部材が選定されず、礫の衝突によって堰堤本体が損傷を受けるおそれがある。したがって、緩衝鋼管を適切に選定できる透過型砂防堰堤の設計方法が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、堰堤本体と、堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤の緩衝部材を適切に選定できる透過型砂防堰堤の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る透過型砂防堰堤の設計方法は、本体鋼管により構成される堰堤本体と、前記堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤を設計する透過型砂防堰堤の設計方法であって、前記本体鋼管の外径Dを設定し、前記堰堤本体に作用する静荷重に基づいて、前記本体鋼管の板厚t1を設定し、前記堰堤本体に作用する礫の衝突エネルギーEに基づいて、前記本体鋼管の板厚t2を設定する本体鋼管設定工程と、以下の数式(1)~(3)に基づいて、前記緩衝部材を構成する緩衝鋼管の外径D´と板厚t´とを設定する緩衝鋼管設定工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
【0011】
【0012】
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、堰堤本体と、堰堤本体に取り付けられる緩衝部材と、を備えた透過型砂防堰堤の緩衝部材を適切に選定できる透過型砂防堰堤の設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態における透過型砂防堰堤の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態における透過型砂防堰堤の一例を示す側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態における透過型砂防堰堤の一例において、第1本体鋼管の近傍を第1本体鋼管の管軸方向に直交する断面で切った断面図である。
【
図4】
図4は、透過型砂防堰堤の設計方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した透過型砂防堰堤の設計方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、上下方向Zとし、流下物の流下する方向を流下方向Xとし、上下方向Zと流下方向Xに交わる方向を幅方向Yとする。流下方向Xは、上流側X1と、下流側X2と、を有する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る透過型砂防堰堤100の一例を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態における透過型砂防堰堤100の一例を示す側面図である。
【0017】
透過型砂防堰堤100は、礫、土砂等の流下物を捕捉する。透過型砂防堰堤100は、堰堤本体8と、堰堤本体8の上流側X1及び上方側の少なくとも何れかに着脱自在に取り付けられる緩衝部材1と、を備える。
図1の例では、緩衝部材1は、堰堤本体8の上流側X1に着脱自在に取り付けられる。
【0018】
緩衝部材1は、巨大な礫等が衝突した際の衝突エネルギーを吸収し、堰堤本体8に伝達される衝突エネルギーを緩和させるものである。緩衝部材1が堰堤本体8に着脱自在に取り付けられるため、礫が衝突して緩衝部材1が破損した場合であっても、破損した緩衝部材1を新たな緩衝部材1に容易に交換できる。
【0019】
(堰堤本体8)
堰堤本体8は、コンクリート基礎や地盤などの基礎部9に立設される。堰堤本体8は、複数の本体鋼管80を有し、複数の本体鋼管80が組み合わされて構成される。本体鋼管80は、第1本体鋼管81と、第2本体鋼管82と、第3本体鋼管83と、を有する。
【0020】
第1本体鋼管81は、上下方向Zに延び、例えば鉛直方向に延びる。第1本体鋼管81は、堰堤本体8の最も上流側に配置され、下端が基礎部9に埋設固定される。第1本体鋼管81は、幅方向Yに離間して複数配置される。第1本体鋼管81は、幅方向Yに延びる横材89が、上下方向Zに複数設けられてもよい。第1本体鋼管81が横材89を有することにより、捕捉した礫等が堰堤本体8の下流側に流下するのを更に抑制できる。横材89は、例えば鋼管が用いられる。
【0021】
第2本体鋼管82は、第1本体鋼管81よりも流下方向Xの下流側X2に配置される。第2本体鋼管82は、流下方向Xに沿って配置される。第2本体鋼管82は、下流側X2に向かうにつれて下方に傾斜する斜材である。第2本体鋼管82は、上端が第1本体鋼管81に溶接等により連結され、下端が基礎部9に埋設固定される。第2本体鋼管82は、幅方向Yに離間して複数配置される。
【0022】
第3本体鋼管83は、幅方向Yに延びる。第3本体鋼管83は、幅方向Yに離間した複数の第1本体鋼管81同士を連結する。第3本体鋼管83は、第1本体鋼管81に溶接等により連結される。
【0023】
(緩衝部材1)
緩衝部材1は、緩衝鋼管10と、取付機構2と、を有する。
【0024】
図3は、第1実施形態における透過型砂防堰堤100の一例において、第1本体鋼管81の近傍を第1本体鋼管81の管軸方向に直交する断面で切った断面図である。
図3に示すように、取付機構2は、本体鋼管80に緩衝鋼管10を着脱自在に取り付ける。取付機構2は、例えば本体鋼管80に固定される第1取付鋼管21と、緩衝鋼管10に固定される第2取付鋼管22と、を有する。第1取付鋼管21と第2取付鋼管22とは、端部にフランジ部が形成される。第1取付鋼管21と第2取付鋼管22とは、互いのフランジ部同士を接触させ、ボルトナット等の締結金具23により接合される。このほか、取付機構2は、例えばU字ボルトであってもよい。
【0025】
緩衝鋼管10は、本体鋼管80に沿って配置される。緩衝鋼管10は、例えば中空状であることが好ましい。これにより、緩衝鋼管10の吸収エネルギーを更に向上させることができ、本体鋼管80に伝達される支点反力を更に低減できる。
【0026】
緩衝鋼管10の長手方向の長さは、例えば最大で4.0m~6.0m程度であることが好ましい。これにより、緩衝鋼管10の車両での運搬性を向上でき、透過型砂防堰堤100の施工性を向上させることが可能となる。緩衝鋼管10の長手方向の長さは、例えば最小で1.0m程度である。
【0027】
緩衝鋼管10は、第1緩衝鋼管11を有する。第1緩衝鋼管11は、第1本体鋼管81よりも上流側X1に配置される。第1緩衝鋼管11は、下端が基礎部9から離間される。1本の第1緩衝鋼管11には、取付機構2が例えば2箇所に設けられる。第1緩衝鋼管11の外径D´は、第1本体鋼管81の外径D以上である。第1緩衝鋼管11の板厚t´は、第1本体鋼管81の板厚t未満である。なお、緩衝鋼管10は、下端が基礎部9から離間されてもよいし、下端が基礎部9に埋設されてもよい。
【0028】
透過型砂防堰堤100では、第1緩衝鋼管11の板厚t´は、第1本体鋼管81の板厚t未満である。これにより、第1本体鋼管81に先行して第1緩衝鋼管11にへこみ変形を生じさせ、堰堤本体8に作用する土石流の衝突エネルギーを低減できる。すなわち、小さな荷重で大きな吸収エネルギーを得る緩衝効果を向上させることが可能となる。その結果、堰堤本体8の損傷を抑制できる。
【0029】
透過型砂防堰堤100では、第1緩衝鋼管11の外径D´は、例えば第1本体鋼管81の外径D以上である。これにより、2つの第1緩衝鋼管11の外面同士の純間隔L11を、2つの第1本体鋼管81の外面同士の純間隔L81以下にできる。このため、流下方向に礫等が流下したとき、第1緩衝鋼管11により礫等を捕捉し易くなり、第1本体鋼管81に礫等が衝突するのを抑制できる。その結果、堰堤本体8の損傷を抑制できる。
【0030】
透過型砂防堰堤100では、緩衝鋼管10の外径D´は、例えば本体鋼管80の外径Dよりも大きい。これにより、緩衝鋼管10の外径D´が本体鋼管80の外径Dと同じ場合と比べて、緩衝鋼管10の吸収エネルギーを大きくしつつ、本体鋼管80に伝達される支点反力を小さくできる。このため、小さな荷重で大きな吸収エネルギーを得る緩衝効果を更に向上させることが可能となる。その結果、堰堤本体8の損傷を抑制できる。
【0031】
<透過型砂防堰堤の設計方法>
次に、透過型砂防堰堤の設計方法について説明する。透過型砂防堰堤の設計方法は、堰堤本体8と、堰堤本体8に取り付けられる緩衝部材1と、を備えた透過型砂防堰堤100を設計する。
図4に示すように、透過型砂防堰堤の設計方法は、本体鋼管設定工程S11と、緩衝鋼管設定工程S12と、を備える。
【0032】
<本体鋼管設定工程S11>
本体鋼管設定工程S11では、堰堤本体8を構成する本体鋼管80の外径Dと板厚tを設定する。本体鋼管設定工程S11は、静荷重確認工程S111と、礫衝突確認工程S112と、製造可否判定工程S113と、を有する。板厚tは、静荷重に基づいて設定される板厚t1と、礫の衝突エネルギーEに基づいて設定される板厚t2と、を有する。
【0033】
<静荷重確認工程S111>
静荷重確認工程S111は、堰堤本体8に作用する静荷重に基づいて本体鋼管80の板厚t1を設定する。静荷重確認工程S111は、例えば「新編・鋼製砂防構造物設計便覧」(令和3年版 一般財団法人 砂防・地すべり技術センター)p.110~114に基づき、堰堤本体8の静荷重に対する安全性を確認し、堰堤本体8に作用する静荷重に抵抗できる本体鋼管80の板厚t1を設定する。このほか、静荷重確認工程S111は、周知の方法により、静荷重に対する堰堤本体8の安全性を確認し、板厚t1を設定すればよい。
【0034】
静荷重確認工程S111では、例えば以下の表1に示すように、堰堤本体8を構成する本体鋼管80の外径Dと板厚t1として、最も上流側の本体鋼管80の外径Dと板厚t1と、それ以外の本体鋼管80の外径Dと板厚t1と、を設定する。また、静荷重の作用高さとなる堰堤本体8の高さも設定する。
【0035】
【0036】
また、静荷重確認工程S111は、土石流の流体力と、土石流の水深と、土石流の流速と、土石流の単位体積重量と、堆積土の単位体積重量と、を設定する。静荷重確認工程S111では、例えば以下の表2に示すように、土石流の流体力と、土石流の水深と、土石流の流速と、土石流の単位体積重量と、堆積土の単位体積重量と、を設定する。
【0037】
【0038】
そして、静荷重確認工程S111は、例えば上記「新編・鋼製砂防構造物設計便覧」に記載の構造計算法に基づき、本体鋼管80に発生する発生応力度と、許容応力度と、を算出する。静荷重確認工程S111は、本体鋼管80に発生する発生応力度が許容応力度以内の場合、堰堤本体8が静荷重に対して安全であると確認できる。静荷重確認工程S111は、本体鋼管80に発生する発生応力度が許容応力度を超える場合、堰堤本体8が静荷重に対して安全でないと確認できる。
【0039】
静荷重確認工程S111では、堰堤本体8の安全性の確認は、上記「新編・鋼製砂防構造物設計便覧」に基づき、例えば以下の表3に示すように、土石流時と、満砂時と、温度変化時とのそれぞれの場合において、発生応力度が許容応力度以下であれば、静荷重に対する堰堤本体8の安全であるとして、次の礫衝突確認工程S112を行う。
【0040】
【0041】
静荷重確認工程S111により判定した結果が安全でなかった場合、本体鋼管80の外径Dと板厚t1を新たに設定して再度、静荷重確認工程S111を行う。静荷重確認工程S111により判定した結果が安全であった場合、その外径Dと板厚t1とを設定し、次の礫衝突確認工程S112を行う。
【0042】
表1~表3の計算例では、堰堤本体8に作用する静荷重に基づいて、外径Dを600mmとし、板厚t1を22mmとして設定できる。
【0043】
<礫衝突確認工程S112>
礫衝突確認工程S112は、堰堤本体8に作用する礫の衝突エネルギーEに基づき、本体鋼管80の板厚t2を設定する。透過型砂防堰堤100の上流側から大型の礫が流下した場合、礫は透過型砂防堰堤100の最も上流側に衝突する。このため、礫衝突確認工程S112では、堰堤本体8の最も上流部に配置される本体鋼管80に作用する礫の衝突エネルギーEに基づき、最も上流部に配置される本体鋼管80の板厚t2を設定する。
【0044】
礫衝突確認工程S112は、以下の数式(4)に基づき、本体鋼管80の板厚t2を設定する。本体鋼管80の吸収エネルギーEdが礫の衝突エネルギーE以上の場合、堰堤本体8の最も上流側の本体鋼管80が礫の衝突に対して安全であると確認できる。礫衝突確認工程S112は、本体鋼管80の吸収エネルギーEdが礫の衝突エネルギーE未満の場合、堰堤本体8の最も上流側の本体鋼管80が礫の衝突に対して安全でないと確認できる。礫衝突確認工程S112では、本体鋼管80の外径Dは、静荷重確認工程S111で設定したものを用いる。
【0045】
【0046】
ここで、本体鋼管80の吸収エネルギーEdは、「新編・鋼製砂防構造物設計便覧 参考資料」のp17の記載の鋼管の吸収エネルギーに基づくものであり、以下の数式(5)で表される。
【0047】
【0048】
本体鋼管80のへこみ変形量δdは、本体鋼管のへこみ率qとしたとき、以下の数式(6)を満たす。したがって、本体鋼管80のへこみ変形量δdは、本体鋼管80のへこみ率qに基づいて設定することもできる。本体鋼管80の(動的)降伏応力度σydは、鋼管の種類等によって適宜設定する。
【0049】
【0050】
礫の衝突エネルギーEは、例えば以下の数式(7)で表すことができる。なお、ρを礫の単位体積重量とし、gを重力加速度とし、Wを礫の重量とし、礫の半径r=D0/2としたとき、礫の質量m=W/gであり、W=4πr3ρ/3であるから、m=4π(D0/2)3ρ/3gと表すことができる。このため、礫の衝突エネルギーEは、礫の径D0に基づいて設定することもできる。
【0051】
【0052】
礫衝突確認工程S112により判定した結果が安全であった場合、堰堤本体8の最も上流側に配置される本体鋼管80が礫の衝突に耐えられることになるから、次の製造可否判定工程S113を行う。
【0053】
礫衝突確認工程S112により判定した結果が安全でなかった場合、堰堤本体8の最も上流側に配置される本体鋼管80が礫の衝突に耐えられないことになるから、本体鋼管80の板厚t2が更に大きくなるように新たな本体鋼管80の板厚t2を設定して再度、礫衝突確認工程S112を行う。
【0054】
このように、静荷重確認工程S111と礫衝突確認工程S112とを行うことで、緩衝鋼管10が取り付けられる候補とすべき本体鋼管80の外径Dと板厚tを絞り込むことができる。このため、透過型砂防堰堤100の設計をより短時間で行うことができる。
【0055】
礫衝突確認工程S112では、例えば以下の表4に示すように、礫の径D0と、礫の衝突エネルギーEと、土石流の流速と、を設定する。また、礫衝突確認工程S112では、例えば本体鋼管80のへこみ率qを10%と設定する。これにより、数式(4)に基づき、本体鋼管80のへこみ変形量δdを設定できる。
【0056】
【0057】
礫衝突確認工程S112では、例えば以下の表5に示すように、板厚t2を板厚t1と同じ値とした場合、表4の値と、数式(5)に基づいて、本体鋼管80の吸収エネルギーEdを算出する。本体鋼管の(動的)降伏応力度σydとして、315(N/mm2)を用いた。
【0058】
【0059】
板厚t2を板厚t1と同じ値とした場合、表5に示すように、礫衝突確認工程S112では、最も上流側の本体鋼管80の吸収エネルギーEdは37.93kN・mであり、表4に示す礫の衝突エネルギーEである382.86kN・m未満である。このため、礫衝突確認工程S112は、本体鋼管80の吸収エネルギーEdが礫の衝突エネルギーE以上になるように、板厚t2を板厚t1よりも大きくする必要がある。
【0060】
その結果、以下の表6に示すように、板厚t2を70mmとした場合、最も上流側の本体鋼管80の吸収エネルギーEdは383.99kN・mであり、表4に示す礫の衝突エネルギーEである382.86kN・m以上となった。よって、表4~表6の計算例では、堰堤本体8の最も上流側の本体鋼管80に作用する礫の衝突エネルギーEに基づいて板厚t2を70mmと設定する。
【0061】
【0062】
<製造可否判定工程S113>
ところで、礫衝突確認工程S112において本体鋼管80が礫の衝突に対して安全であったとしても、本体鋼管80の外径Dに対して板厚t1や板厚t2が極端に厚過ぎる場合や製造コストが高すぎる場合には、本体鋼管80を実際には製造が困難な場合がある。そこで、製造可否判定工程S113では、設定した板厚t1及び板厚t2に基づき、本体鋼管80の製造の可否を判定する。
【0063】
製造可否判定工程S113では、本体鋼管80の外径Dに対して製造限界を予め設定しておき、製造限界に基づいて、本体鋼管80の製造の可否を判定する。製造限界は、例えば製造限界となる板厚tの最大値である板厚tmaxを設定する。製造限界となる板厚tmaxは、例えば本体鋼管80の外径Dの10%等、鋼管を製造する工場によって適宜設定できる。製造限界は、本体鋼管80の製造の可否の判定指標になるものであればよく、例えば本体鋼管80の外径Dと板厚tの関係や本体鋼管80の製造コストに基づいて、適宜設定してもよい。
【0064】
板厚t1及び板厚t2の少なくとも何れか一方が製造限界となる板厚tmaxを超える場合、実際には本体鋼管80が製造できないことになる。そこで、製造可否判定工程S113において本体鋼管80が製造不可と判定された場合、堰堤本体8の上流側に緩衝鋼管10を設置するための緩衝鋼管設定工程S12を行う。
【0065】
なお、製造可否判定工程S113は、板厚t1が板厚tmax以下であり、かつ、板厚t2が板厚tmax以下の場合には、本体鋼管80の製造可能ということになるから、堰堤本体8の上流側に緩衝鋼管10の設置は不要とし、ここで透過型砂防堰堤の設計方法は終了してもよい。
【0066】
このように、設定した本体鋼管80の外径Dと板厚t1と板厚t2とに対して、製造可否判定工程S113を行うことで、緩衝鋼管10が取り付けられる候補とすべき本体鋼管80の外径Dと板厚tを絞り込むことができる。このため、透過型砂防堰堤100の設計をより短時間で行うことができる。
【0067】
なお、透過型砂防堰堤の設計方法では、製造可否判定工程S113を省略することもできる。
【0068】
例えば、製造可否判定工程S113では、本体鋼管80の外径Dに対して製造限界となる板厚tmaxを外径D:600mmの10%である60mmと予め設定しておく。この場合、静荷重確認工程S111において設定した表1に示す本体鋼管80の板厚t1は22mmであり、板厚tmaxである60mm以下である。一方、礫衝突確認工程S112において設定した表6に示す本体鋼管80の板厚t2は70mmであり、板厚tmaxである60mmを超えることになる。このため、製造可否判定工程S113において、板厚t2が70mmの本体鋼管80は製造不可と判定されることになる。したがって、本体鋼管80の上流側に緩衝鋼管10を設置する必要があるため、次の緩衝鋼管設定工程S12を行う。
【0069】
<緩衝鋼管設定工程S12>
緩衝鋼管設定工程S12は、製造可否判定工程S113において本体鋼管80が製造不可と判定された場合、上記の数式(1)~数式(3)に基づいて緩衝鋼管10の外径D´と板厚t´とを設定する。
【0070】
まず、数式(1)について説明する。数式(1)に示すように、緩衝鋼管10の板厚t´は、静荷重確認工程S111において設定した板厚t1未満となるように設定する。計算例でいえば、緩衝鋼管10の板厚t´は、静荷重確認工程S111において設定した表5に示される板厚t:22mm(板厚t1)未満となるように設定する。
【0071】
次に、数式(2)について説明する。まず、緩衝鋼管10の吸収エネルギーEd´は、「新編・鋼製砂防構造物設計便覧 参考資料」のp17の記載の鋼管の吸収エネルギーに基づくものであり、以下の数式(8)で表される。
【0072】
【0073】
緩衝鋼管10のへこみ変形量δd´は、緩衝鋼管10のへこみ率q´としたとき、以下の数式(9)を満たす。したがって、緩衝鋼管10のへこみ変形量δd´は、緩衝鋼管10のへこみ率q´に基づいて設定することもできる。なお、緩衝鋼管10のへこみ変形量δd´は、本体鋼管80のへこみ変形量δdよりも大きな値とすることが好ましい。これにより、緩衝鋼管10が礫の衝突に対してより大きな変形を許容できる。また、緩衝鋼管10の(動的)降伏応力度σyd´は、鋼管の種類等によって適宜設定できる。
【0074】
【0075】
そして、数式(5)と数式(8)とに基づき、以下の数式(10)が導かれる。
【0076】
【0077】
そして、数式(10)において、本体鋼管80の(動的)降伏応力度σydと、緩衝鋼管10の(動的)降伏応力度σyd´と、が等しいと仮定する。また、係数Kは、礫の径D0と本体鋼管80の外径Dとの関数であり、係数K´は、礫の径D0と緩衝鋼管10の外径D´との関数であるから、(係数K/係数K´)を係数αとする。したがって、数式(10)から数式(2)が導かれる。
【0078】
更に、本体鋼管80の外径Dと緩衝鋼管10の外径D´とが等しい場合には、係数α=1であるから、数式(2)は、以下の数式(11)と表記できる。
【0079】
【0080】
次に、数式(3)について説明する。緩衝鋼管10の吸収エネルギーEd´は、礫の衝突エネルギーE以上であることが求められることから、数式(3)が導かれる。
【0081】
このように、緩衝鋼管設定工程S12では、数式(1)~数式(3)に基づき、緩衝鋼管10の外径D´と板厚t´と設定する。緩衝鋼管設定工程S12では、数式(1)~数式(3)を満たすように、緩衝鋼管10の外径D´と板厚t´と設定する。なお、本体鋼管80としては、少なくとも静荷重に対して抵抗できればよいことから、本体鋼管80の板厚tは、板厚t1を用いればよい。
【0082】
表1~表6を参照しながら、緩衝鋼管設定工程S12を計算例で説明する。表7に示すように、緩衝鋼管設定工程S12において、例えば緩衝鋼管10の外径D´として600mmに設定したとする。また、緩衝鋼管10のへこみ率q´として50%に設定したとする。
【0083】
数式(1)において、緩衝鋼管10の板厚t´は、本体鋼管80の板厚t1である22mm未満である。
【0084】
数式(2)において、緩衝鋼管10の外径D´は、本体鋼管80の外径Dと等しいから、α=1.0である。また、本体鋼管80の板厚t2は、70mmであり、本体鋼管のへこみ変形量δdは、60mmである。緩衝鋼管のへこみ変形量δd´は、300mmである。これらにより、数式(2)から緩衝鋼管10の板厚t´は、16.5mm以上であると算出される。
【0085】
そうすると、数式(1)と数式(2)とに基づき、16.5mm≦板厚t´<22mmが得られる。これにより、例えば市場に広く流通している鋼管として、緩衝鋼管10の板厚t´を19mmと設定する。緩衝鋼管の(動的)降伏応力度σyd´として、315(N/mm2)を用いる。
【0086】
そして、緩衝鋼管の板厚t´を19mmとしたとき、数式(3)の左辺から、緩衝鋼管10の吸収エネルギーは、512.60kN・mと算出される。数式(3)の右辺である礫の衝突エネルギーEは、382.86kN・mである。そうすると、数式(3)を満たす。
【0087】
以上のように、緩衝鋼管設定工程S12では、数式(1)~数式(3)に基づき、外径D´を600mmとし、緩衝鋼管の板厚t´を19mmと設定できる。この場合、本体鋼管80の外径Dは、600mmであり、板厚tは、板厚t1である22mmとすればよい。
【0088】
【0089】
同様に、緩衝鋼管設定工程S12において、例えば緩衝鋼管10の外径D´として700mmと設定した場合の結果を以下の表8に示す。
【0090】
【0091】
本実施形態によれば、数式(1)~(3)に基づいて、緩衝部材1を構成する緩衝鋼管10の外径D´と板厚t´とを設定する緩衝鋼管設定工程S12を備える。これにより、堰堤本体8と、緩衝部材1と、を備えた透過型砂防堰堤100の緩衝部材1の外径D´と板厚t´を適切に選定できる。その結果、透過型砂防堰堤100の設計を効果的かつ経済的にできる。
【0092】
本実施形態によれば、本体鋼管設定工程S11は、本体鋼管80の製造の可否を判定する製造可否判定工程S113を有し、緩衝鋼管設定工程S12は、製造可否判定工程S113において本体鋼管80が製造不可と判定された場合、緩衝鋼管10の外径D´と板厚t´とを設定する。これにより、候補とすべき本体鋼管80の外径Dと板厚tを絞り込むことができる。その結果、透過型砂防堰堤100の設計を更に効果的かつ経済的にできる。
【0093】
以上、この発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、この発明は、上記の実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記の実施形態は、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
100 :透過型砂防堰堤
1 :緩衝部材
2 :取付機構
10 :緩衝鋼管
11 :第1緩衝鋼管
21 :第1取付鋼管
22 :第2取付鋼管
23 :締結金具
8 :堰堤本体
80 :本体鋼管
81 :第1本体鋼管
82 :第2本体鋼管
83 :第3本体鋼管
89 :横材
9 :基礎部
S11 :本体鋼管設定工程
S111 :静荷重確認工程
S112 :礫衝突確認工程
S113 :製造可否判定工程
S12 :緩衝鋼管設定工程
X :流下方向
X1 :上流側
X2 :下流側
Y :幅方向
Z :上下方向