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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004611
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】穀粉含有食品用品質改良組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20250107BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20250107BHJP
   A23L 31/15 20160101ALI20250107BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20250107BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20250107BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20250107BHJP
【FI】
A23L27/10 H
A23L27/00 Z
A23L31/15
A23L7/109 A
A23L7/157
A23L5/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104412
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 恵里
(72)【発明者】
【氏名】土肥 文子
(72)【発明者】
【氏名】山瀬 なりあ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B025
4B035
4B046
4B047
【Fターム(参考)】
4B018LB02
4B018MD81
4B018ME14
4B018MF01
4B025LB07
4B025LG27
4B025LG29
4B025LG52
4B025LG56
4B025LK03
4B025LP01
4B035LC01
4B035LE17
4B035LG27
4B035LG43
4B035LG50
4B035LG57
4B035LP07
4B035LP13
4B035LP43
4B046LB07
4B046LC17
4B046LG02
4B046LG16
4B046LG29
4B046LG49
4B046LP40
4B046LP80
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE07
4B047LF02
4B047LG56
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、穀粉含有食品の品質改良、特に油脂の酸化臭や穀粉に由来する不快なにおいを改良することのできる品質改良組成物を提供すること、および該組成物を用いて穀粉含有食品の品質を改良する方法を提供することである。
【解決手段】所定量のスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を含む酵母エキスを穀粉含有食品に添加することで、油脂の酸化臭や、穀粉に由来する粉っぽさや生臭さと表現される不快なにおいを改善することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を含む酵母エキスを有効成分とする、穀粉含有食品の品質改良組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の品質改良組成物であって、該品質改良組成物10重量%水溶液1mLに、0.1重量%のシクロヘキサノール20μLを添加して、固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ質量分析装置で分析した際のシクロヘキサノールのピーク面積値を1とした場合、前記組成物中に含まれるスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物の合計のピーク面積値が0.45~2である、品質改良組成物。
【請求項3】
前記穀粉含有食品が油ちょう食品である、請求項1または2に記載の品質改良組成物。
【請求項4】
前記穀粉含有食品がノンフライ麺である、請求項1または2に記載の品質改良組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の品質改良組成物を用いた、穀粉含有食品の品質改良方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の品質改良組成物を添加する工程を含む、穀粉含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粉を含有する食品に用いることができる品質改良組成物および穀粉を含有する食品の品質改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀粉は、穀物を挽いて製造されるもので、パンやケーキ、麺類など世界各地で様々な形態の飲食品に用いられている。なかでも麺類は、乾麺や冷凍食品、即席麺等の様々な形態が存在し、広く食されている。このうち、即席麺はフライ(油揚げ)麺やノンフライ麺として流通することが多いが、フライ麺では油脂の酸化臭を含む臭気が発生するという問題があった。この課題を解決するため、トリメチルアミンを含むフライ麺臭のマスキング剤(特許文献1)や、小麦蛋白または/および卵白の酵素分解物とかんすいの加温反応物を含む水溶液と、食用油脂と、W/O型乳化剤とを含むW/O乳化物からなる中華麺様フレーバー(特許文献2)が報告されている。しかしながら、トリメチルアミンは強い臭気を有する物質として知られているほか、生体内で酸化を受けることでTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)へと変換され、心血管系疾患に影響を与える可能性が報告されている(非特許文献1)。また、蛋白酵素分解物とかんすいをあらかじめ加温反応させたのち、加温反応物と食用油脂と乳化剤とを用いて乳化物を調製する場合、工程が煩雑になる等の問題があった。
【0003】
このほか、油で揚げる工程のないノンフライ麺では、穀粉に由来する粉臭さや生臭さといった不快なにおいが問題として挙げられているものの、改良する方法は報告されていない。
【0004】
話は変わるが、酵母エキスは食品に広く用いられる安全性の高い食品である。穀粉を含む食品について、増粘剤および脱苦味処理された酵母を含む麺質改良剤が報告されている(特許文献3)。しかしながら前記麺質改良剤は、麺に粘弾性および硬さを改良するものであり、穀粉含有食品の不快なにおいや臭気を改善するものではない。
以上のことから、より簡便な工程で用いることのできる穀粉含有食品の品質改良剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-176788号公報
【特許文献2】特開2019-134688号公報
【特許文献3】特開2014-121315号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zeneng W. et al, Nature, 472, 57-63. (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、穀粉含有食品の品質、特に油脂の酸化臭や穀粉に由来する不快なにおいを改良することのできる組成物を提供すること、および該組成物を用いて穀粉含有食品の品質を改良する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意検討した結果、所定量のスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物が含まれる酵母エキスを穀粉含有食品に添加することで、油脂の酸化臭や穀粉に由来する不快なにおいを改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の第一~第六に関する。
第一に、スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を含む酵母エキスを有効成分とする、穀粉含有食品の品質改良組成物である。
第二に、第一に記載の品質改良組成物であって、該組成物10重量%水溶液1mLに、0.1重量%のシクロヘキサノール20μLを添加して、固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ質量分析装置で分析した際のシクロヘキサノールのピーク面積値を1とした場合、該組成物中に含まれるスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物の合計のピーク面積値が0.45~2である、品質改良組成物である。
第三に、前記穀粉含有食品が油ちょう食品である、第一または第二に記載の品質改良組成物である。
第四に、前記穀粉含有食品がノンフライ麺である、第一または第二に記載の品質改良組成物である。
第五に、第一または第二に記載の品質改良組成物を用いた、穀粉含有食品の品質改良方法である。
第六に、第一または第二に記載の品質改良組成物を添加する工程を含む、穀粉含有食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を含有する酵母エキスを有効成分とする品質改良組成物を穀粉含有食品に添加することで、穀粉を含有する油ちょう食品の油脂の酸化臭を抑制することができ、香ばしさを付与することができる。また、ノンフライ麺のような非油ちょう食品であれば、穀粉由来の粉臭さや生臭さと言われる不快なにおいが改善された穀粉含有食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における穀粉は、イネ科の穀物を挽いて得られる小麦粉や米粉に加え、豆類、蕎麦、芋類、根菜から得られる緑豆粉や片栗粉、タピオカ粉などの粉類、およびこれらを加工して得られる加工澱粉などの粉類を指すものである。また、本発明における穀粉含有食品は、前記穀粉を原料に含む食品を指すものであり、パン類、フライ麺やノンフライ麺を含む麺類、ケーキ、菓子のほか、衣のついた油ちょう食品等が例示される。
【0012】
本発明の品質改良組成物は、スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を含む酵母エキスを有効成分とするものである。ここで、本発明におけるスルフィド類化合物は、メチオナール、メチルプロペニルジスルフィド、2-メチル-3-(メチルジチオ)フランおよびビス(2-メチル-3-フリル)ジスルフィドを指すものである。また、本発明におけるチオフェン類化合物は、2-メチルチオフェン、3-メチルチオフェン、2,4-ジメチルチオフェン、ジヒドロ-2-メチルチオフェンおよび2-アセチルチオフェンを指すものである。
【0013】
本発明の酵母エキスは、スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を、後述する所望量含むものであれば、その由来は特に制限されず、出芽酵母やトルラ酵母などの食用に用いられる酵母由来のものを用いることができ、加熱処理された酵母エキスを用いてよい。また、酵母エキスに含まれるスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物が、後述する所望の量に満たない場合には、一般に入手可能な酵母エキスに、所望の量になるようスルフィド類化合物またはチオフェン類化合物を添加することができ、スルフィド類化合物またはチオフェン類化合物を液状またはペースト状の酵母エキスに添加して混合し、必要に応じて粉末状や顆粒状にしてもよい。
【0014】
本発明の品質改良組成物に含まれるスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物は、固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ質量分析装置にて分析することができる。この時、所定量の内部標準を添加して分析を行い、スルフィド類化合物の合計の面積値またはチオフェン類化合物の合計の面積値を内部標準のピーク面積値で除することで、組成物中のスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物の含量を知ることができる。より具体的には、本発明の組成物を10重量%の水溶液に調製し、そのうち1mLに対して内部標準として0.1重量%のシクロヘキサノール20μLを添加し、マイクロ固相抽出-ガスクロマトグラフ質量分析装置での分析に供することで、シクロヘキサノールのピーク面積値に対する比率として算出することができる。
【0015】
本発明の品質改良組成物に含まれるスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物は、前記分析方法において得られたシクロヘキサノール(内部標準)のピーク面積を1とした場合に、スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物のピーク面積値の合計が0.45~2であることが望ましく、0.5~1.8であることがより望ましい。また、本発明に含まれるスルフィド類化合物は、前記分析方法にて得られたシクロヘキサノール(内部標準)のピーク面積を1とした場合に、0.4~1であることが好ましく、0.45~0.8であることがさらに好ましい。また、本発明に含まれるチオフェン類化合物は、前記分析方法にて得られたシクロヘキサノール(内部標準)のピーク面積を1とした場合に、組成物中に0.05~1であることが好ましく、0.08~0.8であることがさらに好ましい。さらに、本発明の組成物には、含硫化合物としてチアゾール類化合物を含んでいてもよい。好ましくは、前記分析方法にて得られたシクロヘキサノール(内部標準)のピーク面積を1とした場合に、組成物中に0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
【0016】
また、スルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を所望量含む酵母エキスであれば、一般に入手可能なものを本発明の品質改良組成物として用いることができ、たとえば、「クックアップ ST-MT(三菱商事ライフサイエンス社)」を挙げることができる。
【0017】
本発明の組成物を用いた穀粉含有食品の品質改良方法は、穀粉含有食品の製造時に本発明の組成物を添加することで得ることができる。例えば本発明の組成物を麺類に用いる場合、麺の製造工程で添加し麺に練りこんで使用することができ、穀粉100重量部に対し本発明の組成物を0.01~0.5重量部、好ましくは0.05~0.3重量部添加し、常法に従ってドウを調製したのち、フライ麺やノンフライ麺を製造することで、麺類の品質を改良することができる。また、衣の付いた油ちょう食品の場合、穀粉、鶏卵、牛乳などを水で合わせた流動性のある生地(バッター液)を調製する際に、穀粉100重量部に対して0.1~1重量部、好ましくは0.3~0.8重量部を添加すればよく、該バッター液を用いて常法に従い油ちょう食品を製造することで、油ちょう食品の油脂の酸化臭を抑制し香ばしさを付与して、品質を改良することができる。
【実施例0018】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
以下の分析・試験において、所望量のスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物を含む酵母エキスである、出願人会社の「クックアップ ST-MT」を実施例1の品質改良組成物として用いた。品質改良組成物に含まれるスルフィド類化合物およびチオフェン類化合物は以下の分析手法により定量した。
【0020】
<含まれる化合物の分析方法>
固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ質量分析装置での分析に供する試料は、10重量%の水溶液を調製し、このうち1mLに、内部標準として0.1重量%のシクロヘキサノール20μLを添加し調製した。SPMEファイバー(50/30μm、DVB/CAR/PDMS)を用いてマイクロ固相抽出を行い、ガスクロマトグラフ質量分析装置での分析に供した。なお、ガスクロマトグラフは7890B、質量分析装置は5977B EI Inert Plus Turbo Pump (いずれもAgilent社)を用いた。ガスクロマトグラフ質量分析装置での分析条件は以下のとおりである。検出した化合物は、マススペクトルおよび保持指標を考慮した保持時間を、香気成分に関する化合物のデータベースと照合し同定した。
・注入口モード、温度:スプリットレス、250℃
・分離カラム: DB-WAXカラム 122-7062(0.25mm×60m×0.25μm;Agilent Technologies社)
・キャリアガスおよび流速: ヘリウム、 1.9mL/min
・イオン化方式:EI
・検出: スキャンモード
【0021】
<ST-MTの分析結果>
実施例1の試料を分析したところ、内部標準のピーク面積値を1としたスルフィド類化合物のピーク面積値は0.505であった。また、チオフェン類化合物のピーク面積値は0.144であった。
【0022】
<フライ麺への添加効果の確認試験>
実施例2および比較例1のフライ麺は、表1の処方に従い原材料を混合し、ミキサーで混練したのち、圧延してカットし麺線とした。得られた麺線を99℃で5分間蒸し、ほぐしたのち、型に入れて140℃で2分間揚げ、フライ麺を調製した。容器にフライ麺と市販の粉末状の醤油ラーメンスープを入れて熱湯を注ぎ、3分後に試食した。
その結果、実施例2のフライ麺では、比較例1のフライ麺と比較し、油脂の酸化臭が低減され、香ばしい風味が付与されていた。
また、ラーメンスープ・熱湯を加えず、実施例2および比較例1のフライ麺をそのまま試食したところ、比較例1と比べて、実施例2のフライ麺では、油の酸化臭が低減され、香ばしさや小麦の良い風味が引き立てられていた。これにより、本発明の組成物をスナック麺に用いることができることが示された。
【0023】
【表1】
【0024】
<ノンフライ麺への添加効果の確認試験>
実施例2および比較例1のフライ麺の製造工程のうち、油で揚げる工程の代わりに、70℃で2時間乾燥することで、本発明の組成物を添加した実施例3および本発明の組成物を添加していない比較例2のノンフライ麺を得た。容器に実施例3または比較例2のノンフライ麺と市販の醤油ラーメンスープを入れて熱湯を注ぎ、3分後に試食した。
その結果、実施例3のノンフライ麺では、比較例2のノンフライ麺と比較し、小麦粉の粉臭さが低減し、先味に厚みやうま味が付与された。
【0025】
<バッター液への添加効果の確認試験>
表2の処方に従い、本発明の組成物を添加した実施例4および本発明の組成物を添加していない比較例3のバッター液を調製した。牛挽肉、ポテトフレーク、ソテーオニオン、食塩、黒胡椒等を混ぜ、25g程度に調製したものを成形して1時間程度冷蔵庫で静置したものを、実施例4または比較例3のバッター液にくぐらせてから、パン粉をつけて180℃で3分半揚げて牛肉コロッケを調製した。放冷し、冷凍したものを再加熱して試食した。
その結果、比較例3の牛肉コロッケに比べて実施例4の牛肉コロッケは、より油ちょう感、フライ感が増していながら、油の酸化臭が低減されており、香ばしい風味が引き立っていた。
【0026】
【表2】
【0027】
以上より、本発明は、穀粉含有食品の油脂の酸化臭を抑制することができ、香ばしさを付与することができることが示された。また、ノンフライ麺のような非油ちょう食品において、穀粉由来の粉臭さや生臭さなどの不快なにおいを低減できることが示された。