(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004617
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】MEMS共振器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/24 20060101AFI20250107BHJP
H03H 3/007 20060101ALI20250107BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20250107BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20250107BHJP
H10D 48/50 20250101ALI20250107BHJP
【FI】
H03H9/24 Z
H03H3/007 M
B81B3/00
B81C1/00
H01L29/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104422
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 有真
(72)【発明者】
【氏名】ヘラー,マーティン ウィルフリード
(72)【発明者】
【氏名】紙西 大祐
【テーマコード(参考)】
3C081
4M112
5J108
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA22
3C081BA30
3C081BA44
3C081BA48
3C081BA53
3C081CA03
3C081CA14
3C081CA15
3C081CA20
3C081DA03
3C081DA45
3C081EA03
3C081EA04
3C081EA22
4M112AA02
4M112AA06
4M112BA07
4M112BA08
4M112CA21
4M112CA22
4M112CA23
4M112CA33
4M112CA59
4M112DA03
4M112DA04
4M112EA04
4M112FA06
5J108BB01
5J108EE03
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】製造コストが安価でかつ振動の長期安定性を確保できるMEMS共振器をする。
【解決手段】MEMS共振器が、基板と、基板に設けられたキャビティと、キャビティ内に保持されたMEMS構造体であって、第1端部と第2端部を有し、第1端部が基板に接続されたアンカーと、アンカーの第2端部に接続されて中空に保持された振動子と、振動子の周囲に配置された電極とを含み、振動子と電極とが静電容量型振動子を形成するMEMS構造体と、基板の上に形成され、MEMS構造体を内部に封止するキャップ層と、を含み、アンカーは、第1端部と第2端部との間を電気的に絶縁するように配置された絶縁性のアイソレーションジョイントを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の共振周波数で振動するMEMS共振器であって、
基板と、
前記基板に設けられたキャビティと、
前記キャビティ内に保持されたMEMS構造体であって、
第1端部と第2端部を有し、前記第1端部が前記基板に接続されたアンカーと、
前記アンカーの前記第2端部に接続されて中空に保持された振動子と、
前記振動子の周囲に配置された電極と、を含み、前記振動子と前記電極とが静電容量型振動子を形成する前記MEMS構造体と、
前記基板の上に形成され、前記MEMS構造体を内部に封止するキャップ層と、を含み、
前記アンカーは、前記第1端部と前記第2端部との間を電気的に絶縁するように配置された絶縁性のアイソレーションジョイントを備えるMEMS共振器。
【請求項2】
前記電極と前記基板との間も、アイソレーションジョイントで絶縁されている請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項3】
前記キャップ層は、多結晶シリコンからなる請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項4】
前記アンカーは、前記振動子の両側に接続され、1軸上に延在した1対のアンカーであり、前記振動子は、前記1軸上の点に対して点対称な形状である請求項1に記載のMEMS共振器。
【請求項5】
基板を準備する工程と、
前記基板をエッチングして、下部キャビティと前記下部キャブティ内に中空に保持されたMEMS構造体とを作製するMEMS構造体作製工程と、
前記基板の上に犠牲酸化膜を堆積する工程と、
前記犠牲酸化膜の一部をエッチングして上部キャビティを作製し、前記下部キャビティと前記上部キャビティから、前記MEMS構造体が内部に保持されるキャビティを作製する工程と、
前記基板の上に多結晶シリコンからなるキャップ層を堆積して前記MEMS構造体を封止する封止工程と、を含むMEMS共振器の製造方法。
【請求項6】
前記MEMS構造体作製工程は、前記基板を異方性エッチングして前記MEMS構造体の側面を形成する工程と、前記側面を酸化膜で保護した状態で前記基板を等方性エッチングして、前記MEMS構造体の底面を形成する工程と、を含む請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記基板にトレンチを形成した後に、前記トレンチに絶縁性の酸化物を充填する工程を含み、その後に、前記MEMS構造体作製工程は、前記酸化物の側面および底面を露出させて、前記MEMS構造体を部分的に絶縁するアイソレーションジョイントとする工程を含む請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記封止工程は、前記犠牲酸化膜の上に多結晶シリコン膜を形成し、その上に前記キャップ層をエピタキシャル成長する工程である請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記エピタキシャル成長は、800℃以上、900℃以下の温度で行なわれる請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMEMS共振器およびその製造方法に関し、特にアイソレーションジョイントを用いたMEMS共振器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS共振器では、安定した材料特性(例えば、ヤング率、剛性率、ポアソン比等)を有する材料を使用することが重要であり、例えば単結晶のシリコンが使用される。この場合、シリコン基板をエッチングしてMEMS構造の電極を作製するが、この電極とシリコン基板との間は電気的に絶縁する必要がある。このため、通常、SOI(Silicon on Insulator)基板が用いられ、絶縁層の上のシリコン層に電極が作製される。
【0003】
また、MEMS共振器では、シリコン層にMEMS構造を作製した後に、別途シリコン基板を準備し、SOI基板上にシリコン基板をガラスフリット接合で接合することにより、2つの基板の間でMEMS構造を封止する。このガラスフリット接合には、例えば450℃のような比較的低い温度が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
[概要]
しかしながら、SOI基板は、通常のシリコン単結晶基板に比較して高価であり、製造コストが高くなるという問題があった。また、MEMS共振器では、振動の長期安定性を確保するための、MEMS構造の表面に付着した有機物等の不純物を高温で除去することが重要であるが、比較的低い温度が用いられるガラスフリット接合では、このような不純物の除去が不十分で、振動の長期安定性を保証できないという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、製造コストが安価で、かつ振動の長期安定性を確保できるMEMS共振器の提供を目的とする。
【0007】
本発明の一つの形態は、
本開示は、所定の共振周波数で振動するMEMS共振器であって、
基板と、
基板に設けられたキャビティと、
キャビティ内に保持されたMEMS構造体であって、
第1端部と第2端部を有し、第1端部が基板に接続されたアンカーと、
アンカーの第2端部に接続されて中空に保持された振動子と、
振動子の周囲に配置された電極と、を含み、振動子と電極とが静電容量型振動子を形成するMEMS構造体と、
基板の上に形成され、MEMS構造体を内部に封止するキャップ層と、を含み、
アンカーは、第1端部と第2端部との間を電気的に絶縁するように配置された絶縁性のアイソレーションジョイントを備えるMEMS共振器である。
【0008】
本発明の他の態様は、
基板を準備する工程と、
基板をエッチングして、下部キャビティと下部キャブティ内に中空に保持されたMEMS構造体とを作製するMEMS構造体作製工程と、
基板の上に犠牲酸化膜を堆積する工程と、
犠牲酸化膜の一部をエッチングして上部キャビティを作製し、下部キャビティと上部キャビティから、MEMS構造体が内部に保持されるキャビティを作製する工程と、
基板の上に多結晶シリコンからなるキャップ層を堆積してMEMS構造体を封止する封止工程と、を含むMEMS共振器の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の概略を表す平面図である。
【
図2】
図1のMEMS共振器のA-Aにおける断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図11】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図12】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図13】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図14】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図15】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図16】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図17】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図18】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図19】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図20】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図21】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【
図22】本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程の断面図である。
【0010】
[詳細な説明]
図1は、全体が100で表される、本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の概略を表す平面図である。ここでは説明を容易にするために、キャップ層や電極パッド等は省略されている。また、
図2は、
図1のMEMS共振器のA-Aにおける断面図である。
図1は概略図であるため、寸法等は
図2と必ずしも整合するものではない。
【0011】
MEMS共振器100は、例えば単結晶シリコンからなる基板10を含む。基板10の一部に下部キャビティ20が設けられている。下部キャビティ20の上には、X軸方向に延在し、中空に保持された1対のアンカー40が設けられている。アンカー40は基板10をエッチングして作製したMEMS構造体で、キャビティの20の対向する側面にそれぞれ接続されている。アンカーの40の途中には、例えば酸化シリコンからアイソレーションジョイント(IJ)15が設けられている。また、
図1のアンカー40では、一部を楕円構造にして変形しやすくしているが、楕円構造な無くても良い。
【0012】
MEMS共振器100は、さらに、1対のアンカー40により下部キャビティ20の上に保持された振動子50を含む。振動子50も、基板10をエッチングして作製したMEMS構造体であり、アンカー40が延在するX軸を含むXY平面に対して、鏡面対称(あるいは点対称)な構造となっている。
図1で8の字形状となっているが、他の鏡面対称な形状でも構わない。
【0013】
振動子50の周囲の四隅には、4つの対向電極61~64が設けられている。対向電極61~64も、基板10をエッチングして作製したMEMS構造体からなり、途中にアイソレーションジョイント(IJ)が設けられて、基板10から電気的に絶縁されている。
【0014】
基板10の上には、例えば多結晶シリコンからなる配線層70~74と電極80~84が設けられている。配線層70は、電極80からIJの上を通ってアンカー40、さらには振動子50と電気的に接続されている。配線層72~74は、電極81~84と対向電極61~64とを、それぞれ電気的に接続する。配線層70~74、電極80~84からIJの上を通って、それぞれの対向電極61~64に接続されている。
【0015】
図2から分かるように、基板10の上には、酸化シリコンからなる酸化膜12が設けられており、配線層72~74と基板10との間を電気的に絶縁している。また、基板10の上はキャップ層95で覆われて、振動子50を内部に封止している。
【0016】
続いて、MEMS共振器100の動作について説明する。MEMS共振器100では、4つの対向電極61~64と振動子50が対向して配置されて、静電容量型振動子を形成している。振動子50は、キャビティ20、27の中に、1対のアンカー40で中空に支持され、アンカー40を中心に、両端部(
図1では上下端部)がZ軸方向に、シーソーのように移動する構造となっている。
【0017】
静電容量型振動子は、対向電極61~64と振動子50との間に印加される電位により発生した静電引力により駆動する。具体的には、振動子50に接続した電極80を一定電圧(参照電圧)にし、電極81、84に交互に正電圧を印加する。これによって、対向電極61と振動子50の間、および対向電極64と振動子50の間に交互に静電引力が働いて、振動子50がアンカー40を中心に、シーソーのように振動する。
【0018】
ここで、対向電極61、64と振動子50との間に静電引力を発生させた場合、この静電引力は振動中心(アンカー40の中央)に対して非対称のため、所望の振動モードが得られなかったり、不要な振動モードが発生することがある。そこで、対向電極61または対向電極64に正電圧が印加された場合に、これらの対向電極61、64と対称に配置された対向電極62、63に負電圧を印加して、振動子50を振動中心に対して対称な方向にも引っ張る。これにより、非対称な振動が防止され、所望の振動を得ることが可能となる。具体的には、電極80に2.5Vの一定電圧、電極81、84と電極82、83は、5Vと0Vの電圧が交互に印加される。
【0019】
このように、電極81、84と電極82、83に、電極80に対して、大きさが同じで符号の異なる電圧を交互に印加することで、所望の振動数の共振器として、発振回路やフィルタに使用できる。また、振動後に、電極間の電圧を測定して共振周波数の変化を測定することで、温度センサ等としても使用できる。
【0020】
次に、
図3~22を用いて、MEMS共振器100の製造方法について説明する。製造方法は、以下の工程1~工程21を含む。
図3~22中、
図1、2と同一符号は、同一または相当箇所を示す。
【0021】
工程1:
図3に示すように、例えば単結晶シリコンからなる基板10を準備する。
【0022】
工程2:
図4に示すように、例えば酸化シリコンからなる酸化膜12を熱酸化で形成する。
【0023】
工程3:
図5に示すように、レジストマスク(図示せず)を用いて酸化膜12をパターニングした後、酸化膜12をハードマスクに用いて基板10にトレンチ14を形成する。トレンチ14の深さは、例えば30μmである。
【0024】
工程4:
図6に示すように、トレンチ14の内壁を熱酸化して、トレンチ14の内部を酸化膜12で埋める。
【0025】
工程5:
図7に示すように、レジストマスク(図示せず)を用いて基板10の表面の酸化膜12をエッチングし、開口部16を形成する。開口部16の底部には、基板10の表面が露出している。
【0026】
工程6:
図8に示すように、酸化膜15の上に、熱CVDで、例えば膜厚が0.5μmの多結晶シリコン膜を形成し、続いてレジストマスク(図示せず)を用いてエッチングして配線層70、73を形成する。多結晶シリコンには不純物がドープされ、導電性となっている。配線層70、73は、開口部16の中で基板10に接続され、コンタクトを形成する。
【0027】
工程7:
図9に示すように、レジストマスク(図示せず)を用いて酸化膜12および基板10をDRIEでエッチングして、MEMS構造体となる領域の周囲に開口部18を形成する(ストラクチュアエッチ)。開口部18の深さは例えば28μm、幅は例えば1~3μmである。
【0028】
工程8:
図10に示すように、プラズマCVDにより全面に、例えば酸化シリコンからなる酸化膜22を形成する。この工程8で、開口部18の側面および底面の上にも酸化膜22が形成される。
【0029】
工程9:
図11に示すように、例えばRIEを用いて、開口部18の底面上の酸化膜22を除去して、基板10の表面を露出させる。この場合、開口部18の側面は、酸化膜22で覆われたままである。
【0030】
工程10:
図12に示すように、SF
6ガスを用いて、開口部18を介して基板10をエッチングして、下部キャビティ20を形成する。下部キャビティ20の深さは、例えば15μmである。この工程では、開口部18の側壁は酸化膜22で覆われているためエッチングされず、下部キャビティ20上に中空に保持されるMEMS構造体が形成される(ストラクチュアリリース)。また、トレンチ14に埋め込まれた酸化膜12は、下端が露出し、アイソレーションジョイント(IJ)15となる。
【0031】
工程11:
図13に示すように、例えばフッ化水素酸の蒸気を用いて、酸化膜22を除去しても良い。なお、次の工程12に先だって、例えばAl
2O
3等のALD膜を堆積して、フッ化水素酸からアイソレーションジョイント(IJ)15を保護しても良い。
【0032】
工程12:
図14に示すように、プラズマCVDを用いて、全面に酸化シリコンからなる犠牲酸化膜25を形成する。犠牲酸化膜25の膜厚は、例えば3~5μmである。
【0033】
工程13:
図15に示すように、RIEを用いたエッチバックやCMPなどを行い、犠牲酸化膜25の表面を平坦化する。
【0034】
工程14:
図16に示すように、レジストマスク(図示せず)を用いて犠牲酸化膜25(工程12に先だってALD膜を堆積した場合は犠牲酸化膜25およびALD膜)をエッチングして、開口部29を形成する。開口部29の底部には、配線層70、73の一部が露出し、この露出部分は
図1の電極80、83に相当する。
【0035】
工程15:
図17に示すように、熱CVDで、例えば膜厚が1μmの多結晶シリコン膜90を全面に形成する。
【0036】
工程16:
図18に示すように、レジストマスク(図示せず)を用いて、多結晶シリコン膜90に、複数のリリース開口部93を形成する。リリース開口部93の直径は、例えば0.1μmである。
【0037】
工程17:
図19に示すように、フッ化水素酸の蒸気を用いて、犠牲酸化膜25をエッチングして、下部キャビティ20の上方の犠牲酸化膜25を部分的に除去して上部キャビティ27を形成する。これにより、アンカー40、振動子50、対向電極61~64等のMEMS構造体は、下部キャビティ20と上部キャビティ27と間で中空に保持される。
【0038】
工程18:
図20に示すように、エピタキシャル成長を用いて、多結晶シリコンからなるキャップ層95を全面に形成する。エピタキシャル成長を用いることで、リリース開口部93を塞ぐように、多結晶シリコン膜90の上にキャップ層95が形成される。キャップ層95を形成することで、MEMS構造体は内部に封止される。また、エピタキシャル成長は600℃~1400℃程度の高温で行われるため、MEMS構造体の表面に付着した有機物等の不純物を除去することができる。
【0039】
工程19:
図21に示すように、CMPを用いてキャップ層95の表面を平坦化する。
【0040】
工程20:
図22に示すように、キャップ層95の上に、例えばアルミニウムのような金属膜を蒸着で形成した後、パターニングして電極パッド30、33を形成する。
【0041】
工程21:電極パッド30、33の周囲のキャップ層95および多結晶シリコン膜90をエッチングすることにより、電極パッド30、33と電極80、83とをそれぞれ電気的に接続する。以上の工程で、
図2に示すMEMS共振器100が完成する。
【0042】
以上のように、本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器では、共鳴振動の安定性したMEMS共振器を安価に提供できる。
【0043】
即ち、本発明の実施の形態にかかるMEMS共振器の製造工程では、アイソレーションジョイント(IJ)15を用いてMEMS構造体を基板10から絶縁する。このため、SOI基板のような高価な基板を使用する必要がなく、製造コストの低減が可能となる。
【0044】
また、キャップ層95のピタキシャル成長時の温度(600~1400℃程度)によりMEMS構造体の表面に付着した有機物等の不純物を除去することができ、不純物からの脱ガス等のない安定性した振動子を得ることができる。
【0045】
<付記>
本開示は、所定の共振周波数で振動するMEMS共振器であって、
基板と、
基板に設けられたキャビティと、
キャビティ内に保持されたMEMS構造体であって、
第1端部と第2端部を有し、第1端部が基板に接続されたアンカーと、
アンカーの第2端部に接続されて中空に保持された振動子と、
振動子の周囲に配置された電極と、を含み、振動子と電極とが静電容量型振動子を形成するMEMS構造体と、
基板の上に形成され、MEMS構造体を内部に封止するキャップ層と、を含み、
アンカーは、第1端部と第2端部との間を電気的に絶縁するように配置された絶縁性のアイソレーションジョイントを備えるMEMS共振器である。
SOI基板でなくアイソレーションジョイントを用いて絶縁することで、MEMS共振器を安価に提供できる。
【0046】
本開示では、電極と基板との間も、アイソレーションジョイントで絶縁されている。
MEMS共振器の製造コストの低減が可能となる。
【0047】
本開示では、キャップ層は、多結晶シリコンからなる。
比較的高温でキャップ層を作製するため、MEMS構造体の表面に付着した有機物等の不純物を除去することができ、不純物からの脱ガス等のない安定性したMEMS共振器を得ることができる。
【0048】
本開示では、アンカーは、振動子の両側に接続され、1軸上に延在した1対のアンカーであり、振動子は、1軸上の点に対して点対称な形状である。
かかる対称構造を用いることにより、安定した共振を得ることができる。
【0049】
本開示は、
基板を準備する工程と、
基板をエッチングして、下部キャビティと下部キャブティ内に中空に保持されたMEMS構造体とを作製するMEMS構造体作製工程と、
基板の上に犠牲酸化膜を堆積する工程と、
犠牲酸化膜の一部をエッチングして上部キャビティを作製し、下部キャビティと上部キャビティから、MEMS構造体が内部に保持されるキャビティを作製する工程と、
基板の上に多結晶シリコンからなるキャップ層を堆積してMEMS構造体を封止する封止工程と、を含むMEMS共振器の製造方法である。
ガラスフリット接合で基板を貼り合わせるのではなく、比較的高温で多結晶シリコンからなるキャップ層を作製するため、この工程でMEMS構造体の表面に付着した有機物等の不純物を除去することができ、不純物からの脱ガス等のない安定性したMEMS共振器を得ることができる。
【0050】
本開示では、MEMS構造体作製工程は、基板を異方性エッチングしてMEMS構造体の側面を形成する工程と、側面を酸化膜で保護した状態で基板を等方性エッチングして、MEMS構造体の底面を形成する工程と、を含む。
ストラクチャルエッチとストラクチャルリリースを用いることで、MEMS構造体を容易に作製できる。
【0051】
本開示では、さらに、基板にトレンチを形成した後に、トレンチに絶縁性の酸化物を充填する工程を含み、その後に、MEMS構造体作製工程は、酸化物の側面および底面を露出させて、MEMS構造体を部分的に絶縁するアイソレーションジョイントとする工程を含む。
アイソレーションジョイントを用いることで、製造コストの低減が可能となる。
【0052】
本開示では、封止工程は、犠牲酸化膜の上に多結晶シリコン膜を形成し、その上にキャップ層をエピタキシャル成長する工程である。
多結晶シリコン膜の上からキャップ層を選択的にエピタキシャル成長することができる。
【0053】
本開示では、エピタキシャル成長は、800℃以上、900℃以下の温度で行なわれる。
かかる温度を使用することで、MEMS構造体の表面に付着した有機物等の不純物を除去することができ、不純物からの脱ガス等のない安定性したMEMS共振器を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にかかるMEMS共振器は、共振周波数を利用した発振回路やフィルタ、共振周波数がシフトすることを利用した温度センサ、圧力センサ、質量センサ等に適用できる。
【符号の説明】
【0055】
10 基板
15 アイソレーションジョイント(IJ)
20 下部キャビティ
25 犠牲酸化膜
27 上部キャビティ
40 アンカー
50 振動子
61~64 対向電極
70~74 配線層
80~84 電極
95 キャップ層
100 MEMS共振器