(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004642
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】転写方法
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20250107BHJP
H10H 20/85 20250101ALI20250107BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20250107BHJP
G09F 9/33 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G09F9/00 338
H01L33/48
H01L21/52 C
G09F9/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104466
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 憲治
【テーマコード(参考)】
5C094
5F047
5F142
5G435
【Fターム(参考)】
5C094BA25
5C094GB10
5F047AA17
5F047CA08
5F047FA01
5F047FA07
5F047FA57
5F142AA26
5F142FA32
5F142GA02
5G435AA01
5G435BB04
5G435CC09
5G435KK05
5G435KK10
(57)【要約】
【課題】簡単な方法で短時間に色むらが抑制されたLEDディスプレイを製造できる転写方法を提供する。
【解決手段】所定の色を呈する複数の発光素子有するドナーと、発光素子が搭載されるパネルと、ドナーからパネルに発光素子を転写させる転写手段と、ドナーとパネルと転写手段との各々の相対位置を制御する位置制御手段と、ドナー上及びパネルに転写された発光素子の位置情報と各発光素子の発光波長を記憶する記憶手段と、パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために相対位置の順番を算出する算出手段と、を用いて、1つのドナーから複数のパネルに発光素子を転写する転写方法であって、1つのパネルに所定の数の発光素子を転写し終えてから次のパネルに発光素子の転写を行い、最初に転写を行うパネルには、転写に用いることができる発光波長の範囲の中で一部の範囲の発光波長を備えた発光素子を選択して搭載する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色を呈する複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報および各前記発光素子の発光波長を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて前記パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために前記相対位置の順番を算出する算出手段と、を用いて、1つの前記ドナーから複数の前記パネルに、それぞれの前記パネルにおいて前記相対位置を複数回変更して、前記発光素子を転写する転写方法であって、
1つの前記パネルに前記所定の数の前記発光素子を転写し終えてから、次の前記パネルに前記発光素子の転写を行い、
最初に転写を行う前記パネルには、転写に用いることができる発光波長の範囲の中で一部の範囲の発光波長を備えた前記発光素子を選択して搭載することを特徴とする転写方法。
【請求項2】
発光波長の前記一部の範囲には、前記ドナーにおける前記発光素子の発光波長の平均値が含まれる、請求項1に記載の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の液晶ディスプレイに代わるものとしてLEDを使用したディスプレイの開発が進められており、製品化が進みつつある。このようなLEDを使用したディスプレイ(LEDディスプレイ)は、FHD(Full High Definition)パネルであって、赤色LED、緑色LED、青色LEDが1920×1080個、4Kパネルでは3840×2160個、それぞれ格子状の配列にて配線基板に高密度に実装されている。
【0003】
このように配線基板へ高密度に実装される各色LEDとしては、たとえば約50μm×50μmといった微小寸法を有する、いわゆるマイクロLEDが用いられる。このようなマイクロLEDは特許文献1に示すようにサファイアなどの成長基板上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て得られ、基板上で上記寸法のチップ状にダイシングされる。このように形成されたLEDチップは、1回もしくは複数回の転写工程を経て成長基板からディスプレイである配線基板へ転写される。その後、熱圧着などの実装工程を経て、配線基板にLEDチップが固定される。
【0004】
LEDチップをディスプレイパネルである配線基板に転写する方法はいくつかあるが、例えば特許文献2,3に開示されているレーザーアブレーション技術を用いた方法が知られている。
【0005】
特許文献2にはレーザーアブレーション技術を用いた素子(LEDチップ)の転写方法が開示されている。また、1つの成長基板上に形成された複数のLEDチップの発光波長には個体差があるが、特許文献3には、LEDディスプレイを製造した際に発光波長の個体差によって色むらが見る人によって感じられないようにする転写方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-170993号公報
【特許文献2】特開2006-41500号公報
【特許文献3】特開2022-135521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示された発明は、特許文献2に開示された発明を利用しつつLEDディスプレイに色むらが生じないようにするという新たな課題を解決すべく創作されたものである。しかしながら特許文献3に開示された発明では、1つの成長基板(ウェハ)上のそれぞれのLEDチップの発光特性をすべて計測してから、すべてのLEDチップの発光特性を考慮してディスプレイパネルに色むらが生じないようにまずは転写シミュレーションを行って、それから実際に転写するため、転写を行うためのシミュレーションに非常に時間がかかり、実際の転写を行うまでに転写装置が長時間待機せざるをえないという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な方法で短時間に色むらが抑制されたLEDディスプレイを製造できる転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写方法は、所定の色を呈する複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報および各前記発光素子の発光波長を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて前記パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために前記相対位置の順番を算出する算出手段と、を用いて、1つの前記ドナーから複数の前記パネルに、それぞれの前記パネルにおいて前記相対位置を複数回変更して、前記発光素子を転写する転写方法であって、1つの前記パネルに前記所定の数の前記発光素子を転写し終えてから、次の前記パネルに前記発光素子の転写を行い、最初に転写を行う前記パネルには、転写に用いることができる発光波長の範囲の中で一部の範囲の発光波長を備えた前記発光素子を選択して搭載することを特徴とするものである。
【0010】
発光波長の前記一部の範囲には、前記ドナーにおける前記発光素子の発光波長の平均値が含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
1つのドナーから複数のパネルに発光素子を転写する際に、最初のパネルでは、転写に用いることができる発光波長の範囲の中で一部の範囲の発光波長、すなわち狭い波長レンジの発光素子のみを転写に使用することで、色むらが生じないように考慮する必要がなく、転写のシミュレーションを短時間にすることができるため、転写装置の待機時間を短くすることができて製造効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る発光素子の転写装置の模式的な図である。
【
図2】実施形態に係るドナー、転写手段、転写領域、パネルの相対的な位置関係の一例を示す模式的な図である。
【
図3】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す一例である。
【
図4】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す別の例である。
【
図5】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す他の例である。
【
図6】実施形態に係るドナーに存在している緑色を呈する発光素子の発光波長分布を示す図である。
【
図7A】本発明を適用しない転写方法を用いた際の計算時間と転写時間を示す図である。
【
図7B】本発明を適用した転写方法を用いた際の計算時間と転写時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態について説明を行う前に、本願発明者が本願発明に思い至り創作した経緯を説明する。
【0014】
サファイアなどの成長基板(ウェハ)上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て製造されるマイクロLED(発光素子)は、1枚のウェハ上に多数のチップとして存在している。このような成長工程においては、窒化ガリウムの結晶成長を始めとして、どのような加工工程であっても1つのウェハ上のあらゆる位置において均一に加工がなされるようにすることは非常に困難である。そのため、出来上がったチップの特性は1つ1つ少しずつ異なっていてばらつきがある。このような特性のうち、ディスプレイに関しては発光波長が特に重要になる。
【0015】
上述のようなばらつきは、マイクロLEDを製造する製造装置内における温度むらや原材料の供給むらに起因する場合が多く、1つの製造装置で多数のウェハを一度に加工する場合には、ウェハを置く位置によってむらが生じてしまう。そのため例えばウェハの中央部分と周辺部分とで、あるいは右側と左側とで、または縞状に特性値の大きさが変化してむらになる。
【0016】
1つのウェハ上の多数のチップに、上記のように特性値、特に発光波長にむらが生じることを回避するのは非常に困難である。従って、例えば、中央部分の発光素子は発光波長が長めであるのに対して、周辺部分の発光素子は発光波長が短めになるといったむらが生じることがままあるが、そのようなむらが存在することを前提としてパネルを製造することになる。
【0017】
一般に1つのウェハには非常に多数のチップ(発光素子)が存在しており、1つのウェハから複数のパネルに発光素子を供給することができる。通常はウェハよりもパネルの方が面積が大きいが、ウェハ上のチップ間距離よりもパネル上のチップ間距離の方がかなり大きいため、1つのウェハ上の発光素子数が1つのパネルに搭載される発光素子数よりも多いという関係となっている。
【0018】
また、ウェハからパネルに発光素子を転写させる転写装置は、1度に転写することができる領域の面積がウェハ全体やパネル全体の面積に対して小さい。そのため、1つのパネルに必要な発光素子をすべて転写するためには、ウェハ及びパネルを転写領域に対して複数回移動させて転写を行うことが必要である。
【0019】
さらには、パネルの製造コストを低減させるために、移動回数および転写回数を減らすことが重要である。そのためには転写領域内に存在するウェハ上の発光素子であってパネルに転写可能なものはできるだけ多く、可能であれば転写可能な全数を転写することが考えられる。この場合、パネル上の所定の領域にウェハの中央部分から転写可能な限りの発光素子を転写し、その隣の領域にウェハの周辺部分から転写可能な限りの発光素子を転写する、ということが起こりうる。もし上記のように、ウェハの中央部分と周辺部分とで発光素子の発光波長に大きな差があるようなむらがあったとしたら、パネル上の所定の領域は発光波長の長い発光素子が集中的に転写され、その隣の領域には発光波長の短い発光素子が集中的に転写されて、結果として隣接する2つの領域に明確な発光波長の差、即ち色むらが生じることになる。
【0020】
特許文献3に開示された発明はこのような色むらが生じないようにするための発明であるが、1つ1つの発光素子の発光波長を測定・記憶して、それに基づいて色むらが生じないように転写をコントロールしている。色むらが生じないように転写をするために計算する時間と、ウェハとパネルの移動時間と回数、転写の時間と回数が膨大になり、パネルへの発光素子の転写の時間が非常に大きくなってしまう。本願発明者はこのような状況に鑑みて様々な検討を行って本願発明に想到するに至った。
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
(実施形態1)
実施形態1は、多数のマイクロLEDのチップが平面的に隣り合って配列されているドナー(ウェハ)から、転写手段によりチップをディスプレイパネルとなるパネル基板に転写する転写方法に関する。転写手段はレーザーリフトオフ(レーザーアブレーション技術)を用いているが、他の方法を用いても構わない。
【0023】
図1に示すように、ドナー20は複数の発光素子22が平面的に配列されており、保持手段25により保持されてパネル30に向き合っている。パネル30は、発光素子22aが転写された面とは反対側の面を載置部32により吸着把持されており、載置部32は移動ステージ42の上に載せられている。なお、保持手段25はチップをエピタキシャル成長させるベースとなる成長基板やウェハに貼り付けられた中間基板などである。
【0024】
転写手段10はレーザー光源11、ガルバノミラー12、Fθレンズ14を備えている。レーザー光源11は1本のレーザー光13を出射する装置である。用いるレーザーとしてはYAGレーザー、可視光レーザー、紫外線レーザーなどを挙げることができる。ガルバノミラー12は2枚のミラーを有し、これらのミラーの位置および角度を制御することで、入射してきた光線を任意の方向へ出射する。
【0025】
転写は以下のように行われる。レーザー光源11から発せられたパルス状のレーザー光13がガルバノミラー12及びFθレンズ14を経由して保持手段25に照射される。レーザー光13は保持手段25を透過して、保持手段25と発光素子22との界面に到達し、この界面においてレーザーアブレーションを生じさせる。このレーザーアブレーションによって発光素子22は保持手段25から剥離して下側に付勢されて、パネル30に転写される。なお、パネル30に転写済みの発光素子には符号22aを付す。
【0026】
転写手段においては、レーザー光13はガルバノミラー12によって光路が制御されて、保持手段25の様々な位置に照射されるが、ガルバノミラー12の位置および角度の変更範囲は限定されている。そのため、
図2に示すように、転写手段10において、レーザー光13を照射可能な領域である転写領域15はドナー20及びパネル30に比べて小さい面積となっている。
【0027】
なお上述のように、一般的に1枚のドナー(ウェハ)20の全発光素子22数よりも、パネル30に搭載される全発光素子22a数の方が相当少ないため、1枚のドナー20から複数枚のパネル30に発光素子22を転写できる。従って、
図1に示すパネル30に必要な数の発光素子22aが搭載されてもドナー20に十分な数の発光素子22が存在しているときには、載置部32上のパネル30を新たなものに入れ替えて転写を行う。
【0028】
(配置ステップ)
転写領域15がドナー20及びパネル30に比べて小さい面積であるので、パネル30の全面に発光素子22aを必要な数だけ転写させるためには、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置を変更してその都度転写を行う必要がある。転写手段10は大がかりな装置であって固定されているので、保持手段25を把持している把持手段41によりドナー20の位置を制御し、パネル30の位置を移動ステージ42により制御する。把持手段41及び移動ステージ42を備えた位置制御手段によって、パネル30の発光素子22aが転写される面に対して平行にドナー20及びパネル30が移動して、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置が変わっていく。ドナー20とパネル30とは、選択された所定の位置(領域)が転写領域15に対して相対するように、位置制御手段によって移動されて配置される。
【0029】
(ある相対位置における転写の検討)
図3に示すように、(A)では転写領域15に相対するドナー20の領域に複数の発光素子22が隙間(小さな間隔)を介して隣接して並んでいるのに対し、(C)では転写領域15に相対するパネル30の領域に、ドナー20における発光素子22同士の隣接間隔よりも大きな間隔(数倍から数十倍)で発光素子22aが転写されることになる。転写領域15も(B)に示すようにパネル30の転写間隔と同じ間隔で転写可能位置16が設定されている。
【0030】
図3では、ドナー20に抜けなく発光素子22が並んでいるため、転写領域15のすべての転写可能位置16を用いてパネル30へ発光素子22を転写することが可能であり、このようにすることで転写効率を良くすることができるが、このやり方を続けると、パネル30上において色むらがはっきりと現れることがある。
【0031】
上記のようなパネル30の発光時の色むらが生じないようにするため、本願発明者は様々なパラメータを用いて検討を行い、シミュレーションを行った結果、転写手段10による転写可能位置16をすべて使用するのではなく一部のみ使用するように制御を行うことを見出した。
【0032】
具体的には、1つのドナー20に存している所定の色(例えば緑)を呈する発光素子22の転写をパネル30に行う場合、所定の色=緑色を呈する発光素子22の発光波長が535nm~539nmの範囲内であれば、人間の目は全く同じ緑色と感じられるため、この範囲から外れた発光波長を備えた発光素子22が転写可能位置16に位置した場合は当該転写可能位置16を転写に使用しないようにする制御を行う。ただし、このような制御は、ドナー20に発光波長が535nm~539nmの範囲内である発光素子22が十分な数だけ存在していないと行うことができない。従って、本実施形態では、未使用のドナー20を最初のパネル30に対して使用する際にこのような制御を行い、2枚目以降のパネル30に対しては別の制御を行う。
【0033】
(転写ステップ)
図3,4,5では転写領域15における転写可能位置16は9個存在している。パネル30へのすべての発光素子22aの転写が完了するまでは、使用可能な転写可能位置16をすべて使用して転写を行う方が効率よく転写ができて早く転写が完了する。使用可能な転写可能位置16というのは、転写可能位置16に対応するドナー20の位置に発光素子22が存在し、且つ転写可能位置16に対応するパネル30の位置に発光素子22が転写されていない状態のものである。
【0034】
例えば、
図3のような状態ではドナー20の転写を行う領域に多数の発光素子22が存在しており、転写領域15のすべての転写可能位置16を用いてパネル30へ多数(
図3では9個)の発光素子22を転写することが可能であり、このようにすることでその転写における転写効率を良くすることができる。しかしながら上述したように、このような方法で転写を行うとドナー20に存する複数の発光素子22の発光波長のばらつきに起因するパネル30での発光による色むらが顕著に現れてしまうことがある。
【0035】
そこで、発光素子22の発光波長を考慮して、転写領域15における使用可能な転写可能位置16のうち一部を転写に用いない(次回以降の機会に転写する)ようにすることとした。例えば
図4に示すように、発光素子22が対応している9個の転写可能位置16のうち、転写に用いない転写可能位置(非転写部18)を4つにして発光素子22を5個だけ転写したり、逆に
図5に示すように、発光素子22が対応している転写可能位置16が1つしかない場合でも、転写に用いない転写可能位置(非転写部18)を0とすることで転写可能な発光素子22すべて(
図5では1つ)を転写する制御を行う。
【0036】
(最初のパネルへの転写)
1つのドナー20から複数のパネル30に発光素子22を転写して複数のディスプレイパネルを製造する工程では、1つのパネル30に必要なすべての発光素子22を転写してから次のパネル30に発光素子22を転写する。本実施形態では、最初のパネル30への発光素子22の転写の制御方法と、2枚目以降のパネル30への転写の制御方法とを変更している。以下に最初のパネル30への発光素子22の転写の制御方法を説明する。
【0037】
図6は、ドナー20に存している発光素子22の発光波長とその頻度(数)の分布を表示したヒストグラムである。このドナー20には緑色に発光する発光素子22が作成されている。発光素子22の発光波長は535nm~539nmの範囲内になるように条件設定されて製造されているが、実際には
図6に示すように発光波長は530nm~547nmの範囲にばらついている。なお、ドナー20に存しているすべての発光素子22の発光波長の平均は535nm~539nmの範囲に含まれる。2つの発光素子22の発光波長がそれぞれ535nm~539nmの範囲内(符号61から符号62の範囲内、ハッチングを付している)であれば、2つの発光波長が多少異なっていても人は色の違いを認識しない。即ち、発光波長が535nmの光と539nmの光とをそれぞれ見比べても人は同じ色であると認識する。一方、発光波長が530nmの光と539nmの光とを、あるいは535nmの光と547nmの光とを見比べると、人は色が異なっていると感じる場合がある。
【0038】
このようなことから、最初のパネル30への発光素子22の転写は、発光波長が535nm~539nmの範囲内の発光素子22だけを用いて行う。このような転写の制御方法を採用することにより、特定範囲内の発光波長を有する発光素子22をドナー20から選択して、転写シミュレーションを行うことになり、それ以外の要素である、パネル30への転写位置やそれに対応するドナー20内での発光素子22の位置、色むらが生じないように発光波長を考慮した発光素子22の選択などを制御パラメータとして使用することを必要としない。そのため、実際の転写を行う前の、パネル30に搭載が必要なすべての発光素子22の転写シミュレーションの計算時間を、制御パラメータが多い場合(2枚目以降のパネルへの転写シミュレーション)と比較して、短縮することができる。
【0039】
最初のパネル30への転写シミュレーションの計算時間を短縮できれば、ディスプレイパネルの製造時間を短縮することができて製造コストを抑えられる。
【0040】
(2枚目以降のパネルへの転写)
2枚目以降のパネル30への発光素子22の転写では、発光波長が535nm~539nmの範囲内の発光素子22の数が不足する虞があること、及び、発光波長が535nm~539nm以外の発光素子22も使用しないと製造コストが大きくなってしまうこと、という理由で、ドナー20に存している残りのすべての発光素子22を転写に用いる。そのために、以下のような転写シミュレーションを行う。
【0041】
発光波長が535nm~539nmの範囲内(符号61から符号62の範囲内)の発光素子22は、転写位置がパネル30のどこであってもそのまま転写することができる。しかしながら、発光波長が535nm~539nmの範囲以外の発光素子22については、転写することができる位置が制限される。例えば、547nmの発光波長を有する発光素子22(
図6の符号53)が複数個互いに隣接してパネル30に転写されると、その部分は、535nm~539nmの範囲内の発光素子22が転写されている領域とは色が異なって見えるおそれ、即ち色むらがあるように見えるおそれがある。一方、一度視野範囲(所定の距離でディスプレイパネルを観察する観察者の、視野角が1度となるディスプレイパネル上の円)に複数の発光素子22が搭載される(通常は数個から数十個)ことになるが、この一度視野範囲を観察すると、個々の発光素子22の発光波長の違いを識別することができずに、観察者は一度視野範囲に搭載されている発光素子22の平均発光波長による色を観察することになる。
【0042】
従って、一度視野範囲の中に転写される発光素子22の平均発光波長が535nm~539nmの範囲に収まるように転写シミュレーションを行い、それに従って実際の転写を行えばパネル30の全体において色むらが生じないことになる。あるいは、
図6で最も短い発光波長の530nm(符号52)を有する発光素子22と、最も長い発光波長の547nm(符号53)を有する発光素子22とを常に隣接させて転写すれば、これら2つからは両者の平均波長の538.5nm(535nm~539nmの範囲内)の光が発出されていると感じられるので、常に符号52と符号53との発光素子22をペアで隣接させて転写を行ってもよい。
【0043】
このようなペアで転写位置を決める方法では、符号52の530nmと符号53の547nmの発光素子22の転写位置をすべて決定したら、次に符号54の531nmと符号55の546nmの発光波長を備えた発光素子22を用いて同じように隣り合わせになるように転写のシミュレーションを行う。これら2つの発光波長の平均は538.5nmであり、535nmから539nmの範囲(許容範囲)に入る。
【0044】
図6では符号54の531nmの発光波長を備えた発光素子22の方が、符号55の546nmの発光波長を備えた発光素子22よりも多い。そこで、546nmの発光波長を備えた発光素子22をすべて転写し終えた後は、符号57の545nmの発光波長を備えた発光素子22と符号54の531nmの発光波長を備えた発光素子22とを組み合わせて隣同士になるようにシミュレーションを行う。これら2つの発光波長の平均は538nmであり、やはり535nmから539nmの範囲(色むらの許容範囲)に入る。このようにドナー20上の、発光波長が535nm~539nmの範囲以外の発光素子22もすべて転写対象とすることで、発光素子22の歩留まりが高くなり、コストを低減できる。
【0045】
(計算時間と転写時間)
本実施形態に係る転写方法を用いた場合の転写シミュレーションの計算時間と実際の転写を行う転写時間とを
図7Bに示す。
図7Aは比較例に係る転写方法を用いた場合であって、具体的には、最初のパネルへの発光素子22の転写においても、ドナー20上のすべての発光素子22を転写対象として、ディスプレイパネルに色むらが生じないように転写シミュレーションを行った場合の計算時間と転写時間を示したものである。
【0046】
比較例である
図7Aと本実施形態の
図7Bとを比べると、Aの方の最初のパネルへの転写シミュレーションの計算時間71aが、Bの方の最初のパネルへの転写シミュレーションの計算時間71bよりも長く、それらの時間が転写装置の停止時間80a、80bに等しい。そのため、本実施形態の方が比較例よりも転写装置の停止時間が短い分、1つのドナー20から複数のティスプレイパネルを作成する時間を短くすることができる。
【0047】
コンピュータの性能が年々上がってきているので、転写シミュレーションの計算時間よりも、そのシミュレーションにより実際に転写を行う転写時間の方が長くなっている。従って、A、Bのいずれも最初のパネルへの転写時間81a,81bの時間内に2枚目のパネルへの転写シミュレーションの計算時間72a,72bが終了するため、2枚目のパネルへの転写(転写時間はそれぞれ82a,82b)を、転写装置の停止時間を設けることなく行うことができる。なお、シミュレーションの計算は、1つのパネルの計算が終了したらすぐに次のパネルの計算を行うことが可能である。そのため、2枚目のパネルへの転写シミュレーションが終了したら連続して3枚目のパネルへの転写シミュレーション(計算時間はそれぞれ73a,73b)を行うことが可能である。
【0048】
本実施形態の2枚目以降のパネルへの転写においては、上記のように転写シミュレーションの際に発光波長を考慮して計算をおこなうため、最初のパネルへの転写シミュレーションに比較して計算時間が長くなる。ただ、転写シミュレーションの計算にかかる時間と、そのシミュレーションに従って実際に転写を行う時間とを比較した際に、
図7A,Bに示すようにシミュレーションの計算時間の方が実際の転写時間よりも短ければ、最初のパネル30へ発光素子22を実際に転写している間に、2枚目のパネルへの転写シミュレーションの計算が終了するので、2枚目のパネルへの転写シミュレーションの計算時間は製造時間に影響を及ぼさない。一方、最初のパネル30への転写シミュレーションの時間は製造時間にそのまま反映するため、本実施形態のようにドナー20に存する発光素子22の平均発光波長近辺の発光波長を有する発光素子22だけを使用して最初のパネル30に発光素子22転写するシミュレーションを行うことにより、シミュレーションの計算時間が短くなって製造時間を短縮することができ、製造コストを下げることができる。
【0049】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【0050】
最初のパネル30に転写する発光素子22の発光波長の範囲は、当該発光素子22の呈する所定の色や、仕様などによって決定すればよい。
【0051】
実施形態1での最初のパネル30への転写シミュレーションでは発光素子22の発光波長の範囲だけを限定していたが、パネル30への転写位置やそれに対応するドナー20内での発光素子22の位置などをパラメータとして追加して用いてもよい。
【0052】
2枚目のパネル30への転写シミュレーションを行う際に、最初のパネル30への転写に用いた発光波長の範囲の発光素子22の数が十分多く残っていて、2枚目のパネル30への転写に当該発光波長の範囲の発光素子22だけを用いても、3枚目以降のパネル30への転写シミュレーションの計算時間や実際の転写の時間が長くなりすぎることがなければ、2枚目のパネル30への転写にも最初のパネル30への転写に用いた発光波長の範囲の発光素子22のみを用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 転写手段
15 転写領域
16 転写可能位置
20 ドナー
22 発光素子
22a 発光素子(パネル上に転写された)
30 パネル