(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004643
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水系インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20250107BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250107BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 110
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104467
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】江口 哲也
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4J039AE11
4J039BC07
4J039BC13
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができるインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】顔料とグリコールエーテル(A)とポリエーテル変性シリコーン(B)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)とを含有するインクジェット記録用水系インクであって、グリコールエーテル(A)のHLB値(デイビス法)が、6.0以上7.5以下であり、ポリエーテル変性シリコーン(B)の、ポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]が、3.0以上12.0以下であり、アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比が1.5以下である、インクジェット記録用水系インク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料とグリコールエーテル(A)とポリエーテル変性シリコーン(B)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)とを含有するインクジェット記録用水系インクであって、
グリコールエーテル(A)のデイビス法で算出されるHLB値が、6.0以上7.5以下であり、
ポリエーテル変性シリコーン(B)の、ポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]が、3.0以上12.0以下であり、
アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/アセチレングリコール系界面活性剤(C)]が1.5以下である、インクジェット記録用水系インク。
【請求項2】
ポリエーテル変性シリコーン(B)の25℃における動粘度が、50mm2/s以上1500mm2/s以下である、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項3】
グリコールエーテル(A)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/グリコールエーテル(A)]が0.001以上0.2以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項4】
顔料が、顔料を含有するポリマー粒子の形態である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
更に、グリコールエーテル(A)以外の有機溶剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被印刷物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
近年ではデジタル印刷の普及により、民生用印刷に留まらず、低吸液性のコート紙等を用いた商業印刷、産業印刷への利用が進んでおり、印刷速度の高速化、高画質化、さらには環境負荷低減を目的として水系インクジェットインクの需要がますます高まっている。
このような要望に応えるために吐出安定性や保存安定性という基本的な性能を満たすことを前提として、様々な水系インクが提案されている。
【0003】
特許文献1には、高い画像濃度を示し、保存安定性及び吐出安定性に優れたインクとして、水、顔料、有機溶剤及び界面活性剤を含むインクにおいて、該界面活性剤が、シリコーン系界面活性剤、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩を含み、該有機溶剤がグリコールエーテルを含み、前記インクの動的表面張力を最大泡圧法で23℃において測定したとき、15msecにおける動的表面張力の値と1500msecにおける動的表面張力の値との差が4.0mN/m以下で、且つ15msecにおける動的表面張力の値が31mN/m以下であることを特徴とするインクが開示されている。
また、特許文献2には、特に非吸収性又は低吸収性の記録媒体に対して、ハジキや凝集ムラが少なく、ベタ埋まりが優れた印字品質を得ることが可能であり、かつ、ノズルの目詰まりを低減でき、インクの保存安定性にも優れたインク組成物として、少なくとも、色材と、水溶解性の異なる2種以上のポリシロキサン系界面活性剤と、1気圧下での沸点が180~230℃の範囲内であるアルキルポリオール類と、を含んでなり、1気圧下での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類を実質的に含まず、インク非吸収性又は低吸収性の記録媒体に記録される、インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-78158号公報
【特許文献2】特開2016-41809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ユーザーは所望する色味・質感を実現するために、表面特性が異なる種々の記録媒体を用いる。記録媒体として高画質化・高品位化が強く求められるコート紙には、光沢感に優れるグロスコート紙、つや消し調のマットコート紙が使用されている。
ここで、顔料インクを用いてインクジェット記録を行う場合、用いる記録媒体の表面特性に応じて記録条件を適宜変更するのがよいが、それは生産性に影響を及ぼす。
そこで、グロスコート紙、マットコート紙等の記録媒体の種類を問わず、ほぼ同一画質の記録物が得られる、汎用性の高い水系インクが要望されている。しかしながら、表面状態の異なるコート紙に印刷すると、濡れ性の違いから記録物の見た目が異なってしまうという実情があり、未だ十分な改善がなされていない。
本発明は、表面が平滑でインクが濡れ広がり難いグロスコート紙と、表面に凹凸があり毛管現象でインクが濡れ広がり易いマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができるインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料と、デイビス法によって算出されるHLB値が特定の範囲にあるグリコールエーテル(A)と、特定の構造を有するポリエーテル変性シリコーン(B)と、アセチレングリコール系界面活性剤(C)とを含有し、ポリエーテル変性シリコーン(B)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)が特定の比率で含有されるインクジェット記録用水系インクが、上記課題を解決し得ることを見出した。
本発明は、以下の〔1〕に関する。
〔1〕顔料とグリコールエーテル(A)とポリエーテル変性シリコーン(B)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)とを含有するインクジェット記録用水系インクであって、グリコールエーテル(A)のデイビス法で算出されるHLB値が、6.0以上7.5以下であり、ポリエーテル変性シリコーン(B)の、ポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]が、3.0以上12.0以下であり、アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/アセチレングリコール系界面活性剤(C)]が1.5以下である、インクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面が平滑でインクが濡れ広がり難いグロスコート紙と、表面に凹凸があり毛管現象でインクが濡れ広がり易いマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができるインクジェット記録用水系インクを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インク(以下、「本発明インク」ともいう)は、顔料とグリコールエーテル(A)とポリエーテル変性シリコーン(B)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)とを含有するインクジェット記録用水系インクであって、グリコールエーテル(A)のデイビス法で算出されるHLB値が、6.0以上7.5以下であり、ポリエーテル変性シリコーン(B)の、ポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]が、3.0以上12.0以下であり、アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/アセチレングリコール系界面活性剤(C)]が1.5以下である。
なお、本明細書において、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
【0009】
本発明のインクジェット記録用水系インクによれば、表面が平滑でインクが濡れ広がり難いグロスコート紙と、表面に凹凸があり毛管現象でインクが濡れ広がり易いマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
グロスコート紙上で水系インクが濡れ広がり難い理由としては、グロスコート紙の表面が平滑で、かつ表面自由エネルギーが低いためであると考えられる。一方で、マットコート紙は、表面自由エネルギーが低い点についてはグロスコート紙と同じであるが、表面に凹凸があるため、毛管現象によりこの凹凸に水系インクが入り込むことによって濡れ広がり易いと考えられる。さらに吸液性に着目すると、グロスコート紙よりもマットコート紙の方が有機溶剤を吸収しやすい。
一般的に、表面自由エネルギーの低い記録媒体においてインクを濡れ広がらせるためには、インクの表面張力を下げることが必要である。
本発明インクでは、HLB値が6.0以上7.5以下であるグリコールエーテル(A)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)は疎水的であるため、ヘッドノズルからインクが吐出され、記録媒体に着弾した後、早い段階でインクと記録媒体の界面に配向すると考えられる。これにより該界面付近の表面張力が一気に低下し、表面自由エネルギーの低いグロスコート紙表面を濡らすことができる。更に本発明インクは、アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/アセチレングリコール系界面活性剤(C)]が1.5以下であることにより、グロスコート紙表面を十分に濡らすことができるため、インクのドット径を十分大きくでき、印刷のムラ等を防ぐことができる。
また、本発明インクは、ポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]が3.0以上12.0以下のポリエーテル変性シリコーン(B)を併用することで、マットコート紙での過剰濡れを抑制することができる。その理由は定かではないが、インクが記録媒体に着弾した後、毛管に広がった際に、該ポリエーテル変性シリコーン(B)がインクと記録媒体の界面に配向するため、グリコールエーテル(A)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)によるインクのドット径の拡張を抑制することができると考えられる。
その結果、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができると考えられる。
【0010】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インクにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、有彩色インクにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
前記顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
顔料の好適な形態としては、分散剤なしで分散状態を保つことができる顔料、すなわち自己分散型顔料の形態、顔料を低分子又は高分子の界面活性剤で分散させた顔料粒子の形態、及び顔料を含有するポリマー粒子の形態が挙げられる。これらの中では、顔料の分散安定性及び定着性の観点から、顔料を含有するポリマー粒子の形態が好ましい。また、顔料を含有するポリマー粒子のポリマーは、架橋されてないポリマーでもよく、架橋されたポリマーでもよいが、顔料の分散安定性及び定着性の観点から、架橋されたポリマーであることが好ましい。すなわち、顔料は、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の形態であることがより好ましい。
ここで、「顔料を含有するポリマー粒子」(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)とは、ポリマーが顔料を包含した形態の粒子、ポリマーと顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態の粒子、ポリマーが顔料の一部に吸着している形態の粒子、又はこれらの混合物を意味する。これらの中では、ポリマーが顔料を包含した形態の粒子がより好ましい。
【0012】
〔顔料含有ポリマー粒子〕
顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーa」ともいう)は、少なくとも、水系媒体中に顔料を分散させる顔料分散能を有するポリマーであればよく、水溶性でも水不溶性でもよいが、水不溶性ポリマーであることが好ましい。
ここで、「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、飽和に達するまで25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることをいう。水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0013】
〔ポリマーa〕
ポリマーaとしては、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、本発明インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させる観点から、ビニル単量体の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーは、(a-1)イオン性モノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、更に(a-2)疎水性モノマー及び/又は(a-3)ノニオン性モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。
【0014】
〔(a-1)イオン性モノマー〕
(a-1)イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー等が挙げられ、カルボン酸モノマーがより好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸から選ばれる1種以上が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0015】
〔(a-2)疎水性モノマー〕
(a-2)疎水性モノマーの「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。
(a-2)疎水性モノマーの具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0020〕~〔0022〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、炭素数1以上18以下、特に炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6以上22以下の芳香族基を有する芳香族基含有モノマー、片末端に重合性官能基を有するマクロモノマー等が好ましく、スチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上がより好ましい。
片末端に重合性官能基を有するマクロモノマーは、数平均分子量が500以上10万以下、好ましくは1,000以上1万以下の化合物であり、重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が挙げられる。
マクロモノマーとしては、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーが好ましく、それを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記の芳香族基含有モノマーが挙げられる。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーの具体例としては、東亞合成株式会社製のAS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)等が挙げられる。
【0016】
〔(a-3)ノニオン性モノマー〕
(a-3)ノニオン性モノマーは、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコール鎖を含むモノマーである。
(a-3)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0018〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
上記(a-1)~(a-3)成分は、それぞれ、各成分に含まれるモノマー成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
(ポリマーa中の各構成単位の含有量)
ポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、顔料の分散安定性、本発明インクの保存安定性、及びグロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(a-2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、より更に好ましくは75質量%以下である。
【0018】
(a-3)成分を含有する場合、(a-3)成分の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0019】
[(a-1)成分/(a-2)成分]の質量比は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.35以上、より更に好ましくは0.38以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.8以下である。
本発明においてポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、測定により求めることができるし、ポリマーaの製造時における(a-1)~(a-3)成分を含む原料モノマーの仕込み比率で代用することもできる。
【0020】
(ポリマーaの製造)
ポリマーaは、前記モノマーの混合物を公知の重合法により共重合させて製造することができる。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、低級脂肪族アルコール、メチルエチルケトン等のケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒が好ましい。
重合の際には、アゾ化合物、過硫酸塩等の重合開始剤やメルカプタン類等の重合連鎖移動剤を用いることができる。重合温度は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。
ポリマーaは、後述するようにアルカリ金属化合物で中和することが好ましい。
【0021】
ポリマーaの数平均分子量は、顔料の分散安定性の観点から、好ましくは4,000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、そして、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは80,000以下、よりさらに好ましくは50,000以下、よりさらに好ましくは30,000以下である。
ポリマーaの酸価は、上記と同様の観点から、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは90mgKOH/g以上、更に好ましくは180mgKOH/g以上、より更に好ましくは200mgKOH/g以上、より更に好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは400mgKOH/g以下、より好ましくは320mgKOH/g以下、更に好ましくは300mgKOH/g以下、より更に好ましくは280mgKOH/g以下である。
ポリマーの数平均分子量及び酸価の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0022】
<顔料含有ポリマー粒子の製造>
顔料を含有する架橋ポリマー粒子は、下記工程1及び2を含む方法により効率的に製造することができる。
工程1:ポリマーaのカルボキシ基の少なくとも一部をアルカリ金属化合物で中和して、該ポリマーaの水分散体を得る工程
工程2:工程1で得られたポリマーaの水分散体と顔料とを分散処理して、顔料がポリマーaで分散された顔料を含有するポリマー粒子の顔料水分散体を得る工程
【0023】
また、本発明においては、必要に応じて、更に、工程2で得られた顔料水分散体を、架橋剤で架橋処理することが好ましい。すなわち、本発明において、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の製造は、工程2の後に、更に下記工程3を含むことが好ましい。
工程3:工程2で得られた顔料水分散体に架橋剤を添加し、架橋処理して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の顔料水分散体を得る工程
【0024】
(工程1)
ポリマーaのカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリ金属化合物を用いて中和されていることが好ましい。これにより、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、水系インクにおける顔料粒子の凝集を抑制し、顔料の分散安定性を向上できると考えられる。
工程1における中和は、pHが7以上11以下になるように行うことが好ましい。
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸のアルカリ金属塩等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中では、好ましくはアルカリ金属水酸化物、より好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上、更に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0025】
ポリマーaの中和度は、顔料の分散安定性を確保する観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは100モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
ここで中和度(モル%)は、下記式により算出される。
中和度(モル%)=〔アルカリ金属化合物のモル数/ポリマー(a)のカルボキシ基のモル数〕×100
本発明においては、ポリマー(a)のカルボキシ基のモル数よりもアルカリ金属化合物を過剰に用いた場合は、中和度が100モル%を超える値となることもあり得る。
【0026】
(工程2)
工程2における分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な顔料水分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる分散機としては、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料水分散体中の顔料粒子の平均粒径を調整することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上300MPa以下であり、パス回数は、好ましくは3以上30以下である。
【0027】
(工程3)
工程3はでは、顔料を分散させているポリマーaが架橋剤によって架橋されて架橋ポリマーが形成され、顔料を含有する架橋ポリマーの粒子が水系媒体に分散された形態の顔料水分散体を得ることができる。
【0028】
工程3で用いる架橋剤としては、好ましくはエポキシ化合物であり、より好ましくは分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物である。
分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物は、好ましくは分子内にグリシジルエーテル基を2以上有する化合物、より好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物のエポキシ当量は、水を主体とする媒体中で、より効率的にポリマーaのカルボキシ基と架橋反応させる観点から、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは170以下である。
分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物の具体例としては、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
これらの中では、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。
【0029】
工程3において、架橋処理の温度は、架橋反応の完結と経済性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは92℃以下である。また、架橋処理の時間は、上記と同様の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0030】
顔料を含有する架橋ポリマー粒子を構成するポリマーの酸価は、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましは95mgKOH/g以上、更に好ましくは100mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは200mgKOH/g以下、より好ましくは210mgKOH/g以下、更に好ましくは160mgKOH/g以下である。
【0031】
ポリマーaの架橋率は、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
ここで、工程3において、架橋剤としてエポキシ化合物を用いる場合、架橋率(モル%)は、「(エポキシ化合物のエポキシ基のモル数/ポリマーaのカルボキシ基のモル数)×100」で算出される。
【0032】
得られる顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、分散安定性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
顔料水分散体中の顔料の含有量は、分散安定性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは350nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
水系インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と実質的に同じである。
顔料水分散体の固形分濃度、平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0033】
<顔料を含有しないポリマー粒子>
本発明インクは、本発明インクの記録媒体への定着性を向上させる観点から、必要に応じて、顔料を含有しないポリマー粒子を含有してもよい。
顔料を含有しないポリマー粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーb」ともいう)としては、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これらの中では、本発明インクの隠蔽性及び記録物の耐ブロッキング性を向上させる観点から、(メタ)アクリル系樹脂が好ましく、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
顔料を含有しないポリマー粒子は、それが水中に分散した水分散体として用いることが好ましい。ポリマーbは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
また、ポリマーbは、本発明インクの記録媒体への定着性をより向上させる観点から、架橋剤で架橋された架橋構造を有する、すなわち、顔料を含有しない架橋ポリマー粒子であることが好ましい。この顔料を含有しない架橋ポリマー粒子は、ポリマーb由来の構成成分と、架橋剤由来の構成成分からなる。
【0034】
〔ポリマーb〕
ポリマー(b)としての(メタ)アクリル系樹脂は、(b-1)カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、(b-2)疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有することが好ましい。
(b-1)成分としては、前記(a-1)成分と同様のカルボン酸モノマーが挙げられる。それらの中でも、記録媒体への定着性を向上させ、記録物の画像堅牢性を向上させる観点から、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
(b-2)成分としては、前記(a-2)成分と同様のアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマーが好ましく挙げられる。それらの中でも、スチレン系モノマーが好ましく、スチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる1種以上が好ましく、スチレンがより好ましい。
上記(b-1)及び(b-2)成分は、それぞれ、各成分に含まれるモノマー成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
〔ポリマーb中における各構成単位の含有量〕
ポリマーb中における(b-1)及び(b-2)成分に由来する構成単位の含有量は、記録媒体への定着性を向上させる観点から、次のとおりである。
(b-1)成分の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(b-2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0036】
ポリマーbは、(b-1)成分、(b-2)成分等を含むモノマー混合物を公知の溶液重合法等により共重合させることにより製造できる。
ポリマーbの製造方法、中和方法、架橋処理の方法は、前述したポリマーaの製造方法、中和方法、架橋処理方法と同じであるので、その記載を省略する。
【0037】
ポリマーbの酸価は、記録媒体への定着性を向上させる観点から、好ましくは180mgKOH/g以上、より好ましくは200mgKOH/g以上、更に好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは320mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは280mgKOH/g以下である。
ポリマーbの数平均分子量は、好ましくは4,000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、そして、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下である。
ポリマーbの酸価と数平均分子量の測定は、ポリマーaの場合と同様にして行うことができる。
【0038】
顔料を含有しないポリマー粒子の平均粒径は、記録媒体への定着性を向上させる観点から、好ましくは60nm以上、より好ましくは80nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
本発明インク調製後の本発明インク中の顔料を含有しないポリマー粒子の平均粒径は、水系インク調製前に準備された顔料を含有しないポリマー粒子の平均粒径と実質的に同じである。
【0039】
ポリマーaとポリマーbは、同一でも異なっていてもよい。すなわち、ポリマーa及びbは、異なる組成(構造)であってもよく、また、組成(構造)も含めて同一のポリマーであって、顔料の有無だけが異なるものであってもよい。
ポリマーa及びポリマーbは市販品を使用することもできる。
使用しうるポリマーa及びbの分散体の市販品例としては、DSM Neo Resins社製のNeocryl A1127(アニオン性自己架橋水系アクリル系樹脂)、BASF社製のジョンクリル390等(アクリル系樹脂)、ジョンクリルPDX-7775等(スチレン-アクリル系樹脂)、日信化学工業株式会社製のビニブラン700等(塩化ビニル-アクリル系樹脂)等が挙げられる。
顔料を含有するポリマー粒子、顔料を含有しないポリマー粒子がともに顔料を含有する架橋ポリマー粒子、顔料を含有しない架橋ポリマー粒子である場合、架橋剤は同一であることが好ましい。
また、顔料を含有するポリマー粒子、顔料を含有しないポリマー粒子がともに顔料を含有する架橋ポリマー粒子、顔料を含有しない架橋ポリマー粒子である場合、ポリマーaとポリマーbは同一であり、更に架橋剤も同一であることが好ましい。
【0040】
<グリコールエーテル(A)>
本発明インク含有されるグリコールエーテル(A)のデイビス法で算出されるHLB値は、6.0以上7.5以下である。グリコールエーテル(A)のHLB値が6.0以上7.5以下であることで、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができる。
グリコールエーテル(A)のHLB値は、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは6.2以上、より好ましくは6.8以上であり、そして、好ましくは7.3以下、より好ましくは7.0以下である。
【0041】
本発明において、「HLB値」は、化合物の水及び油への親和性を示す値である。また本発明におけるグリコールエーテルのHLB値は「デイビス法」により、次の計算式から求められる。
HLB値(デイビス法)=7+Σ(親水基の基数)+Σ(親油基の基数)
ここで、「Σ(親水基の基数)」は、化合物の有する親水基の基数の合計であり、「Σ(親油基の基数)」は、化合物の有する親油基の基数の合計を示す。
また、基数とは、官能基(親水基及び親油基)に固有の値であり、主な官能基の基数は、以下の通りである。
(親水基)
-(CH2CH2O)-:+0.330
-OH:+1.900
(親油基)
-CH2-:-0.475
-CH3:-0.475
-(CH2(CH3)CH2O)-:-0.150
【0042】
本発明インクにおいて、グリコールエーテル(A)は、下記式(1)で表されるグリコールエーテルであることが好ましい。
R1O-(R2O)x-R3 (1)
(式中、R1は炭素数が1以上8以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、R2Oは炭素数が2以上6以下の直鎖又は分岐鎖のアルキレンオキシ基を示し、R3は水素原子又は炭素数が1以上3以下のアルキル基を示す。xはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、x個の(R2O)は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0043】
グリコールエーテル(A)としては、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(HLB値=6.9)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(HLB値=7.3)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(HLB値=7.2)、エチレングリコールモノブチルエーテル(HLB値=7.3)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(HLB値=7.3)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(HLB値=6.4)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル(HLB値=6.4)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(HLB値=6.7)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(HLB値=7.0)、及びジエチレングリコールメチルエチルエーテル(HLB値=6.2)から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0044】
<グリコールエーテル(A)以外の有機溶剤(その他の有機溶剤)>
本発明インクは、本発明の効果を阻害しない範囲で、グリコールエーテル(A)以外の有機溶剤(以下、「その他の有機溶剤」ともいう)を含有することが好ましい。
その他の有機溶剤としては、水に任意の割合で混和するものが好ましい。その他の溶剤を含むことで、グリコールエーテル(A)、ポリエーテル変性シリコーン(B)及びアセチレングリコール系界面活性剤(C)の水中での安定性が向上し、吐出するインクのドット径を広げることができる。
その他の有機溶剤の具体例としては多価アルコール、グリコールエーテル(A)以外のグリコールエーテル、含窒素複素環化合物等が挙げられる。
これらの中でも多価アルコール及びグリコールエーテル(A)以外のグリコールエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、多価アルコールがより好ましい。
その他の有機溶剤の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは240℃以下である。
【0045】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール等のジオールが好ましい。これらの中でもプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールから選ばれる1種以上が好ましく、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及び1,2-ブタンジオールから選ばれる1種以上がより好ましく、プロピレングリコールが更に好ましい。
本発明インクがプロピレングリコールを含有すると、プロピレングリコールがグリコールエーテル(A)の蒸発を抑制し、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る効果を高めることができる。
【0046】
グリコールエーテル(A)以外のグリコールエーテルとしては、例えば、HLB値が6.0未満、又は7.5を超えるグリコールエーテルが挙げられる。
グリコールエーテル(A)以外のグリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル(HLB値=8.8)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(HLB値=9.1)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(HLB値=9.4)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(HLB値=7.8)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(HLB値=8.1)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(HLB値=7.7)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(HLB値=8.0)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(HLB値=7.7)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル(HLB値=8.3)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(HLB値=8.1)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(HLB値=8.0)等が挙げられ、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、及びジプロピレングリコールメチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテルがより好ましい。
【0047】
<ポリエーテル変性シリコーン(B)>
本発明インクに含有されるポリエーテル変性シリコーン(B)において、ポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]は、3.0以上12.0以下である。[m/n]が3.0以上だと、界面配向性が大きくなりグリコールエーテル(A)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)による濡れが向上し、また、[m/n]が12以下だと、グリコールエーテル(A)とアセチレングリコール系界面活性剤(C)による濡れが大きく阻害されず、画像にムラが生じることがない。
ポリエーテル変性シリコーン(B)の[m/n]は、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.0以上、更に好ましくは6.0以上であり、より更に好ましくは7.0以上であり、そして、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下であり、より更に好ましくは9.0以下である。
【0048】
ポリエーテル変性シリコーン(B)は、シリコーンオイルの側鎖及び/又は末端の炭化水素基を、ポリエーテル基で置換された構造を有するものである。該ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(PO)がブロック状又はランダムに付加したポリアルキレンオキシ基が好適であり、シリコーン主鎖にポリエーテル基がグラフトした化合物、シリコーンとポリエーテル基がブロック状に結合した化合物等を用いることができる。
【0049】
ポリエーテル変性シリコーン(B)としては、下記式(2)で表される、ポリエーテル変性シリコーンであることが好ましい。
【0050】
【0051】
上記式(2)において、R1は炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシ基を示し、R2は炭素数2以上5以下のアルカンジイル基を示し、R3は水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基又はヒドロキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基、EOはエチレンオキシ基を示す。a、b、m及びnは、各ユニットの平均付加モル数を示し、aは0以上50以下、bは1以上50以下、mは1以上600以下、及びnは1以上50以下である。複数のR1は同一でも異なっていてもよい。
また、上記式(2)において、mは上述のポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数のことを示し、nは上述のポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数を示す。
【0052】
上記式(2)において、R1は、炭素数1以上3以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、R2は、炭素数3又は4のアルカンジイル基が好ましく、トリメチレン基がより好ましい。また、R3は、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基又はブチル基がより好ましい。また、POであるプロピレンオキシ基は、プロパン-1,2-ジイルオキシ基が好ましい。
【0053】
また上記式(1)において、aは、好ましくは0以上50以下、より好ましくは0以上20以下、更に好ましくは0以上10以下、より更に好ましくは0以上7以下である。
また、bは、好ましくは1以上50以下、より好ましくは1以上30以下、更に好ましくは5以上25以下であり、より更に好ましくは10以上18以下である。
また、mは、好ましくは1以上600以下、より好ましくは3~400、更に好ましくは5~300である。
また、nは、好ましくは1以上50以下、より好ましくは1以上30以下である。
【0054】
ポリエーテル変性シリコーン(B)のポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数mと、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数nとの比[m/n]は、1H-NMRの測定結果から、Si元素に直接結合したメチレン基(CH2)のプロトン(H)のピーク面積を2(2H:固定値)と規格化し、下記の計算式により求めることができる。
なお、下記計算式において、「変性Si元素」とは、EO又はPOがアルカンジイル基を介して結合しているSi元素のことを指し、「未変性Si元素」とは、EO又はPOが結合していないSi元素のことを指す。
[m/n]={[δ=0~0.5(ppm)のピーク面積値]-[変性Si元素に直接結合するメチル基のプロトンの面積値(面積値=3)]}/[未変性Si元素に直接結合するメチル基のプロトンの面積値(面積値=6)]
【0055】
1H-NMR測定としては、具体的には、ポリエーテル変性シリコーン(B)100mgを、トリメチルシリルを含有する重クロロホルム2.0mLで希釈した測定試料を、NMR装置(例えば、varian社製、Agilent-NMR-vnmrs400、400MHz)により、下記の測定条件下により測定される。
(測定条件)
パルス幅:45μs(45°パルス)
観測幅:6410Hz
待ち時間:10s
積算回数:8回
測定温度:室温
[m/n]は、より具体的は、実施例に記載の方法により1H-NMR測定を行い、上記計算式により求められる。
【0056】
ポリエーテル変性シリコーン(B)の合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特許第5101598号公報、特許第5032325号公報、特許第5661229号公報等の記載を参照することができる。
具体的には、ポリエーテル(b1)(以下「(b1)成分」ともいう)と、オルガノハイドロジェンシロキサン(b2)(以下「(b2)成分」ともいう)とを、ヒドロシリル化反応させることにより合成することができる。
(b1)成分のポリエーテルは、-(CnH2nO)-(n=2~4)によって表されるポリオキシアルキレンコポリマーを示す。
ポリオキシアルキレンコポリマー単位としては、例えば、オキシエチレン単位-(C2H4O)-、オキシプロピレン単位-(C3H6O)-、オキシブチレン単位-(C4H8O)-、又はそれらの混合単位等が挙げられる。前記オキシアルキレン単位は、どのような方法で配置されていてもよく、ブロック構造及びランダムコポリマー構造のいずれかを形成できるが、ランダムコポリマー基を形成することが好ましい。前記ポリオキシアルキレンは、オキシエチレン単位-(C2H4O)-及びオキシプロピレン単位-(C3H6O)-の両方をランダムコポリマー中に含むことが好ましい。
【0057】
(b2)成分のオルガノハイドロジェンシロキサンは、1分子当たり少なくとも1つの、ケイ素に結合した水素(SiH)を含むオルガノポリシロキサンである。前記オルガノポリシロキサンとしては、例えば、(R3SiO0.5)、(R2SiO)、(RSiO1.5)、(SiO2)(Rは、独立して有機基又は炭化水素基を示す)のシロキシ単位の任意の数あるいは組み合わせ等が挙げられる。
オルガノポリシロキサンの(R3SiO0.5)、(R2SiO)、(RSiO1.5)、(SiO2)のRがメチル基である場合は、前記シロキシ単位は、それぞれM単位、D単位、及びT単位として示される。一方、(SiO2)シロキシ単位はQ単位として示される。
オルガノハイドロジェンシロキサンは類似した構造をもっているが、シロキシ単位上に存在する少なくとも1つのSiHを有する。
オルガノハイドロジェンシロキサン中のメチル系シロキシ単位は、「MH」シロキシ単位(R2HSiO0.5)、「DH」シロキシ単位(RHSiO)、「TH」シロキシ単位(HSiO1.5)を含むものとして表すことができる。
オルガノハイドロジェンシロキサンは、少なくとも1つのシロキシ単位がSiHを含むことを条件として、任意の数のM、MH、D、DH、T、TH、又はQシロキシ単位を含むことができる。
【0058】
(b1)成分及び前記(b2)成分は、ヒドロシリル化反応によって反応させる。ヒドロシリル化反応は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ヒドロシリル化触媒を添加して行うことが好ましい。
ヒドロシリル化触媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、もしくはイリジウム金属、又はそれらの有機金属化合物、あるいはそれらの組み合わせ等が挙げられる。
ヒドロシリル化触媒の含有量は、(b1)成分及び前記(b2)成分の重量を基準にして、0.1ppm~1,000ppmが好ましく、1ppm~100ppmがより好ましい。
【0059】
ヒドロシリル化反応は、希釈なし、あるいは溶媒の存在下で行うことができるが、溶媒の存在下で行うことが好ましい。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、及びn-プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素;ヘプタン、ヘキサン、及びオクタン等の脂肪族炭化水素;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、及びエチレングリコールn-ブチルエーテル等のグリコールエーテル;ジクロロメタン、1,1,1-トリクロロエタン、メチレンクロライド、及びクロロホルム等のハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;アセトニトリル;テトラヒドロフラン;揮発油;ミネラルスピリット;ナフサ等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
ヒドロシリル化反応に用いられる(b1)成分及び前記(b2)成分の量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜調整することができ、(b1)成分中の全不飽和基と、前記(b2)成分のSiH含有量とのモル比で表される。前記オルガノハイドロジェンシロキサンのSiHモル量に対して、20モル%以下のポリエーテル不飽和基量を用いて行うことが好ましく、10モル%以下のポリエーテル不飽和基量を用いて行うことがより好ましい。
ヒドロシリル化反応は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッチ法、半連続法、連続法等が挙げられ、例えば、プラグフロー反応器を用いた連続法で行うことができる。
【0061】
ポリエーテル変性シリコーン(B)の具体例としては、PEG-9ジメチコン、PEG-9PEG-9ジメチコン、PEG-9メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-11メチルエーテルジメチコン、PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン、PEG-32メチルエーテルジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等が挙げられる。
ポリエーテル変性シリコーン(B)の市販品例としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズ、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAGシリーズ、エボニック社製のTEGO WETシリーズ、ダウ・東レ株式会社のDOWSILシリーズ等が挙げられる。
特に動粘度、[m/n]比、及びグロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいてもほぼ同一画質の記録物を得ることができる観点から、信越化学工業株式会社製のKF-352A、KF-353A、KF-355A、KF-615A、KF-642、KF-6011、KF-6012、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG-005、SAG-008、ダウ・東レ株式会社のDOWSIL FZ-2123が特に好ましい。
【0062】
本発明インクにおいて、ポリエーテル変性シリコーン(B)の25℃における動粘度は、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは50mm2/s以上、より好ましくは90mm2/s以上、300mm2/s以上であり、そして、好ましくは1,500mm2/s以下、より好ましくは1,000mm2/s以下、更に好ましくは700mm2/s以下である。
具体的には、好ましくは50mm2/s以上1,500mm2/s以下、より好ましくは90mm2/s以上1,000mm2/s以下、更に好ましくは90mm2/s以上700mm2/s以下、より更に好ましくは300mm2/s以上700mm2/s以下である。
ポリエーテル変性シリコーン(B)の動粘度の測定は、化粧品原料基準第二版注解(p.1461~1463、1984年、薬事日報社)の一般試験法の粘度測定法第1法に記載されているウベローテ型毛細管粘度計を用いて、25℃で測定する方法によって測定される。
【0063】
<アセチレングリコール系界面活性剤(C)>
本発明インクは、アセチレングリコール系界面活性剤(C)を含有する。
アセチレングリコール系界面活性剤(C)は、比較的低分子な界面活性剤であることから、インク着弾後短時間で動的表面張力が低下するため、本発明におけるグリコールエーテル(A)と共に用いることで、表面張力の経時変化を最適化できると考えられる。このため、インクのドット径の拡張を抑制することができると考えられ、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得ることができると考えられる。
【0064】
アセチレングリコール系界面活性剤(C)としては、炭素数8~22のアセチレングリコール及び該アセチレングリコールのエチレン付加物が挙げられ、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、又は3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール、及びそのエチレンオキシド付加物から選ばれる1種以上が好ましく、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及びそのエチレンオキシド付加物から選ばれる1種以上がより好ましく、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールが更に好ましい。
【0065】
アセチレングリコール系界面活性剤(C)のHLB値(グリフィン法)は、水への溶解度を抑え、インク液滴が記録媒体へ着弾後、素早くドット表面に配向して記録媒体上でのインクの濡れ性を向上させる観点から、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下であり、そして、好ましくは1以上、より好ましく2以上、更に好ましくは3以上である。
アセチレングリコール系界面活性剤(C)の市販品例としては、Air Products & Chemicals社製のサーフィノールシリーズ、川研ファインケミカル株式会社製のアセチレノールシリーズ等が挙げられる。
なお、本発明において、アセチレングリコール系界面活性剤(C)のHLB値は、グリフィン法により求められ、次の計算式により求められる。
HLB値(グリフィン法)=20×(親水基の式量の総和)/(分子量)
【0066】
<ワックス>
本発明インクは、ワックスを含有してもよい。ワックスはインクが濡れ広がる中で他の分散体と凝集して記録媒体上に固定され易いため、インク滲みが抑制されると考えられる。
ワックスは天然ワックス及び合成ワックスのいずれであってもよい。
天然ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等の植物系ワックス;ラノリン、みつろう等の動物系ワックス等が挙げられる。
合成ワックスとしては、ポリオレフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等の合成炭化水素系ワックス;シリコーン系ワックス;パラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス等が挙げられる。上記のワックスは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
上記のワックスの中では、パラフィンワックス及びポリオレフィンワックスから選ばれる1種以上が好ましく、分子量が大きく凝集し易いポリオレフィンワックスがより好ましく、エチレンを主成分とするポリエチレンワックスが更に好ましい。
酸化ポリエチレンワックスは、高分子量のポリエチレンを、熱分解等により所望の分子量に調整しながら、分子内に酸素原子等を導入することにより得ることができるものであり、ポリエチレンワックスとして用いることができる。
【0068】
ワックスの融点は、インクの保存安定性、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下である。
ワックスの融点は、実施例に記載の方法により測定される。
【0069】
ワックスは、水系媒体に分散されたワックスエマルションとして用いることが好ましい。ワックスエマルションは、分散性を確保するために、その表面がアニオン、カチオンの電荷を帯びているもの、又はノニオン性であるものが好ましい。これらの中でも、他の分散体への影響を抑制し、また他の分散体からの影響を受け難くして良好なインク性能を発現させる観点から、ノニオン性のワックスエマルションがより好ましい。ノニオン性のワックスエマルションは、例えば、ワックスと、公知のノニオン性界面活性剤を混合して乳化することによって得ることができる。
【0070】
ワックスエマルション中のワックス粒子の平均粒径、特にパラフィンワックス粒子及び/又はポリオレフィンワックス粒子の平均粒径は、ワックスの分散安定性、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは150nm以下であり、そして、好ましくは20nm以上、好ましくは40nm以上である。
ワックス粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定することができ、例えば、実施例記載の方法により、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計UPAを用いて測定することができる。
水系インク中のワックス粒子の平均粒径は、ワックスエマルション中のワックス粒子の平均粒径と実質的に同じである。
【0071】
[本発明インクの製造]
本発明インクは、顔料含有ポリマー粒子を含む前記顔料水分散体と、グリコールエーテル(A)と、ポリエーテル変性シリコーン(B)と、アセチレングリコール系界面活性剤(C)と、必要に応じて、顔料を含有しないポリマー粒子、その他の有機溶剤、ワックス、水及び各種の添加剤とを混合することにより、効率的に製造することができる。上記各成分の混合方法に特に制限はない。
添加剤としては、定着助剤、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等が挙げられる。
定着助剤としては、水不溶性ポリマー粒子を含有するエマルションが挙げられ、水不溶性ポリマー粒子としては、ポリウレタン及びポリエステル等の縮合系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂及びアクリルシリコーン系樹脂等のビニル系樹脂の粒子が挙げられる。
【0072】
本発明インクの各成分の含有量、インク物性は、吐出安定性を向上させる観点、及びグロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、以下のとおりである。
【0073】
(顔料の含有量)
本発明インク中の顔料の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
【0074】
(ポリマーの含有量)
本発明インク中のポリマーの含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
【0075】
(顔料含有ポリマー粒子の含有量)
顔料が顔料を含有するポリマー粒子の形態である場合、本発明インク中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、顔料とポリマーとの合計で、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0076】
本発明インクが顔料を含有しないポリマー粒子を含有する場合、本発明インク中の顔料を含有しないポリマー粒子の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0077】
(グリコールエーテル(A)の含有量)
本発明インク中のグリコールエーテル(A)の含有量は、好ましくは0.5質量%、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下である。
【0078】
(その他の有機溶剤の含有量)
本発明インク中のその他の有機溶剤の含有量は、グリコールエーテル(A)及びポリエーテル変性シリコーン(B)や、アセチレングリコール系界面活性剤(C)をインク中に安定に保持させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0079】
(ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量)
本発明インク中のポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは0.9質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0080】
(アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量)
本発明インク中のアセチレングリコール系界面活性剤(C)は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0081】
(ワックスの含有量)
本発明インクがワックスを含有する場合、本発明インク中のワックスの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0082】
(水の含有量)
本発明インク中の水の含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0083】
(アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比)
本発明インク中のアセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/アセチレングリコール系界面活性剤(C)]は、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.08以上であり、そして、前記と同様の観点から、1.5以下であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0084】
(本発明インク中のグリコールエーテル(A)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比)
本発明インク中のグリコールエーテル(A)の含有量に対する、ポリエーテル変性シリコーン(B)の含有量の質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/グリコールエーテル(A)]は、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.015以上、更に好ましくは0.025以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.05以下である。
【0085】
(グリコールエーテル(A)の含有量に対する、アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量の質量比)
本発明インク中のグリコールエーテル(A)の含有量に対する、アセチレングリコール系界面活性剤(C)の含有量の質量比[アセチレングリコール系界面活性剤(C)/グリコールエーテル(A)]は、グロスコート紙とマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質の記録物を得る観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.5以下、より更に好ましくは0.3以下である。
【0086】
<本発明インクの物性>
本発明インクの32℃の粘度は、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは4mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下である。インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
本発明インクのpHは、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは7以上、より好ましくは7.5以上であり、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは10以下であり、より好ましくは9.5以下である。
【0087】
本発明インクは、公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて、記録画像等を得ることができる。
インクジェット記録装置としては、ピエゾ駆動方式及びサーマル駆動方式があるが、ピエゾ駆動方式のインクジェット記録用水系インクとして用いることがより好ましい。
用いることができる記録媒体としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙、アート紙、及び非吸水性のポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。
本発明インクを使用すれば、特に表面が平滑でインクが濡れ広がり難いグロスコート紙と、表面に凹凸があり毛管現象でインクが濡れ広がり易いマットコート紙のいずれにおいても、ほぼ同一画質のインクジェット記録物を得ることができる。
【実施例0088】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0089】
(1)ポリマーの数平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0090】
(2)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2:1、質量比)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0091】
(3)顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザ粒子解析システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELS-8000)を用いて、動的光散乱法により顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体から、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を測定し、キュムラント法解析により算出した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定試料には、前記ポリマー粒子の水分散体をスクリュー管(マルエム株式会社製No.5)に計量し、固形分濃度が2×10-4質量%になるように水を加えてマグネティックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌したものを用いた。
【0092】
(4)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ:40mm、高さ:30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して混合した後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。
揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0093】
(5)ポリエーテル変性シリコーンの25℃における動粘度の測定
ウベローテ型毛細管粘度計を用い、化粧品原料基準第二版注解(p.1461~1463、1984年、薬事日報社)の一般試験法の粘度測定法第1法に準拠し、25℃における動粘度を測定した。
【0094】
(6)ポリエーテル変性シリコーンの[m/n]の算出
以下の通り、各ポリエーテル変性シリコーンにおいて、NMR測定を行い、該測定結果より、[m/n]を算出した。
【0095】
(6-1)1H-NMR測定
測定試料として、各ポリエーテル変性シリコーン100mgをトリメチルシリル含有重クロロホルムNMR用クロロホルム-d(99.8%、0.05vol%TMS含有、富士フイルム和光純薬株式会社製)2.0mLで希釈し、直径5.0mmの1H-NMR用チューブに充填し、Agilent-NMR-vnmrs400(varian社製、400MHz)により、以下の測定条件下で測定を行った。
(測定条件)
パルス幅:45μs(45°パルス)
観測幅:6410Hz
待ち時間:10s
積算回数:8回
測定温度:室温
【0096】
例えば、後述するシリコーンAの場合、1H-NMR(CDCl3、400MHz)の測定結果は以下のとおりである。
δ(ppm);0~0.5(50H、m)、0.50(2H、m)、1.15(17H、m)、1.55(2H、m)、3.30~3.80(92H、m)。
また、シリコーンAの場合、1H-NMR測定によるケミカルシフト値の帰属は次のとおりである。
δ=0~0.5(ppm);Si元素に直接結合したメチル基(CH3)のプロトン(H)
δ=0.3~0.6(ppm);Si元素に直接結合したメチレン基(CH2)のプロトン(H)
δ=1.5~1.7(ppm);(Si-CH2)に直接結合したメチレン基(CH2)のプロトン(H)
δ=3.0~3.8(ppm);エチレンオキシ基(EO)のメチレン基(CH2)、プロピレンオキシ基(PO)のメチレン基(CH2)及びCH基、並びにEO又はPOの酸素元素に直接結合したプロトン(H)
【0097】
(6-2)[m/n]の算出
δ=0.3~0.6(ppm)のピーク面積値を2(2H:固定値)と規格化した。これにより、EO又はPOが直接結合しているSi元素の分子内比率が1となるため、EO又はPOが直接結合しているSi元素と、EO又はPOが直接結合していないSi元素との比率を求めることができる。
EO又はPOが直接結合しているSi元素は、ポリエーテル基を有するポリオルガノシロキサン単位に対応し、EO又はPOが直接結合していないSi元素はポリエーテル基を有さないポリオルガノシロキサン単位に対応するため、上記比率を求めることで[m/n]が求められる。
EO又はPOが直接結合しているSi元素に直接結合したメチル基(CH3)は、上記式(2)のように一つであるため、該メチル基(CH3)のプロトンの面積値は3となる。一方、EO又はPOが直接結合していないSi元素に直接結合したメチル基(CH3)は、上記式(2)のように2つであるため、該メチル基(CH3)のプロトンの面積値は6となる。
以上より、[m/n]は、以下の計算式より算出した。
[m/n]={[δ=0~0.5(ppm)のピーク面積値]-[変性Si元素に直接結合するメチル基のプロトンの面積値(面積値=3)]}/[未変性Si元素に直接結合するメチル基のプロトンの面積値(面積値=6)]
【0098】
例えば、シリコーンAの場合、上記計算式より、以下の通り、[m/n]を求めた。
[m/n]={[δ=0~0.5(ppm)のピーク面積値]-[変性Si元素に直接結合するメチル基のプロトンの面積値(面積値=3)]}/[未変性Si元素に直接結合するメチル基のプロトンの面積値(面積値=6)]={50.0-3}/6=7.8
【0099】
(7)ワックスの融点の測定
ワックスの融点は、JIS K 0064に準拠した測定装置により行った。具体的には、示差走査熱量計(Q20、ティー・エイ・インスルメント社製)を用いて、試料を200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に、試料を昇温速度10℃/分で昇温し、200℃まで熱量を測定した。観測された融解熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を融解の最大ピーク温度とし、該ピーク温度を融点とした。
【0100】
(8)ワックスエマルション中のワックス粒子の平均粒径の測定
ワックスエマルション中のワックス粒子の平均粒径は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計UPAを用い、レーザ波長780nm、レーザ出力3mWで試料濃度は5×10-3質量%とし、該試料約5mLをセルに注入し、水の屈折率(1.333)を入力し、樹脂の屈折率として1を入力して得られた体積平均粒子径分布の中央値(D50)をワックスエマルション中のワックス粒子の平均粒径とした。
【0101】
製造例1(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
(1)水不溶性ポリマーの製造
アクリル酸31部、スチレン69部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK10部、2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.2部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.13部、MEK30部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65)1.1部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.1部をMEK2部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させた後に減圧乾燥してポリマー(a)(数平均分子量:19000、酸価:240mgKOH/g)を得た。
【0102】
(2)顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造
前記(1)で得られたポリマー33.3部をイオン交換水202部と混合し、更に、5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%)13.3部を加え、ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が40%になるように中和し(中和度40モル%)、温浴を用いて90℃まで加熱し、1時間撹拌を行うことでポリマーを水中に完全に分散させ、ポリマー分散液を得た。
このポリマー分散液にカーボンブラック顔料としてC.I.ピグメント・ブラック7(キャボット社製)100部を加え、顔料混合液を得た。
得られた顔料混合液を、ディスパー翼を用いて7000rpm、20℃の条件下で1時間混合し、得られた分散液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名:M-140K)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理した。
次いで、イオン交換水120部を加え、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で150MPaの圧力で15パス分散処理した。得られた分散液を500mLアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、商品名:himac CR22G、設定温度20℃)を用いて3,660rpmで20分間遠心分離した後、液層部分を回収して5μmのメンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルト)で濾過して顔料水分散体を得た。このとき顔料水分散体の固形分濃度は25%であった。
(3)顔料を含有する架橋ポリマー粒子の顔料水分散体の製造
前記(2)で得られた顔料水分散体100部をねじ口付きガラス瓶に取り、イオン交換水34部を加え、水不溶性架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-321LT、エポキシ当量:140、水溶率27%)2.2部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。このとき、ポリマー中に含まれるカルボキシ基の総数の50%と反応できるエポキシ量の架橋剤量にて架橋処理を行った(架橋率:50モル%)。5時間経過後、分散液を室温(25℃)まで降温し、前記5μmのフィルターを取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の顔料水分散体(酸価:120mgKOH/g、固形分濃度:20%、顔料14.0%、ポリマー6.0%、平均粒径100nm)を得た。
【0103】
製造例2-1(ポリエーテル変性シリコーン(B)の製造(シリコーンAの製造))
下記式(3)で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン993g、平均組成「CH2=CHCH2O(CH2CH2O)11H」で表されるアリル化ポリエーテル835g、エチルアルコール2610g、2%塩化白金酸イソプロパノール溶液0.14g及びpH調整剤として酢酸カリウム0.14gを秤量して、反応温度80℃で攪拌し5時間反応させた。残存SiHはヘキセンを付加することにより除去し、反応液を減圧下でストリップ精製し濾過した。
【0104】
【0105】
濾過後のポリエーテル変性シリコーンに対して10-3規定の塩酸63gを加え90℃で4時間攪拌処理した。減圧ストリップを行った後、精製濾過することによりポリエーテル変性シリコーン(B)として、シリコーンAを得た。シリコーンAの25℃における動粘度を測定したところ425mm2/sであった。
【0106】
製造例2-2~2-9(ポリエーテル変性シリコーン(B)の製造(シリコーンB~Iの製造))
製造例2-1において、メチルハイドロジェンポリシロキサン及びアリル化ポリエーテルの種類及び仕込み量を適宜変更した以外は、製造例2-1と同様にして、ポリエーテル変性シリコーン(B)として、シリコーンB~Iを得た。
【0107】
製造例2-1~2-9で得られたシリコーンA~Iは、以下の通りである。
なお、以下のm、n、R1、R2、R3、a及びbは、上記式(2)におけるm、n、R1、R2、R3、a及びbのことを示す。
・シリコーンA:[m/n]=7.8、25℃における動粘度=425mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=H、a=0、b=11
・シリコーンB:[m/n]=6.8、25℃における動粘度=95mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=CH3、a=0、b=12
・シリコーンC:[m/n]=10.8、25℃における動粘度=172mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=CH3、a=6、b=18
・シリコーンD:[m/n]=3.6、25℃における動粘度=134mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=CH3、a=0、b=16
・シリコーンE:[m/n]=3.0、25℃における動粘度=142mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=CH3、a=0、b=16
・シリコーンF:[m/n]=6.8、25℃における動粘度=950mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=C4H9、a=13、b=34
・シリコーンG:[m/n]=11.2、25℃における動粘度=785mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=H、a=35、b=38
・シリコーンH:[m/n]=2.9、25℃における動粘度=72mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=CH3、a=0、b=12
・シリコーンI:[m/n]=15.3、25℃における動粘度=812mm2/s、R1=CH3、R2=C3H6、R3=CH3、a=0、b=11
【0108】
実施例1(水系インク1の製造)
製造例1で得られた顔料を含有する架橋ポリマー粒子の顔料水分散体37.5部〔固形分:7.5部(顔料:5.25部、ポリマー:2.25部)〕、ポリエーテル変性シリコーンとしてシリコーンA 0.1部、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(日本乳化剤株式会社製、商品名:BFG)3.0部、プロピレングリコール(AGC株式会社製)20.0部、アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製、商品名:サーフィノール104PG50、HLB値(グリフィン法):4(カタログ値)、有効分:50質量%)1.2部、さらに合計量が100部となるようイオン交換水を加えてマグネティックスターラーで30分間攪拌した後、5μmのアセチルセルロース製フィルターを取り付けたシリンジで濾過して、水系インク1〔固形分濃度:8.2%、顔料含有ポリマー粒子7.5%(顔料:5.25%、ポリマー:2.25%)、平均粒径:95nm〕を得た。
【0109】
実施例2~20、比較例1~7(水系インク2~20、C1~C7の製造)
実施例1と同様にして、表1に示す配合により、水系インク2~20、C1~C7を得た。結果を表1に示す。表1中の各成分量は、固形分(有効分)量である。
【0110】
表1中のワックスは、次の通りである。
・ポリエチレンワックス:東邦化学工業株式会社製、商品名:ハイテックE-6500、ノニオン性ポリエチレンワックスエマルション、融点:140℃、平均粒径:60nm、固形分35質量%
【0111】
<ドット径の測定>
FUJIFILM Dimatix社製、ピエゾ駆動方式インクジェットヘッド、商品名:Samba G3Lを備えたインクジェットプリンター(ImageXpert社製、商品名:Jetxpert)に水系インクを充填した。ヘッド電圧30V、周波数20kHz、プッシュプル型駆動波形、インク吐出量2.0pLに調整した後、解像度1200×1200dpiにてグロスコート紙(王子製紙株式会社製、商品名:OKトップコート+)とマットコート紙(GRAFICAS Y FORMULARIOS社製、商品名:Fitnes Matt)に、それぞれ画像濃度が6%になるように印刷した。
得られた印刷物を光学顕微鏡にて観察し、インクドットの直径を測定し、この値をドット径として記録した。
1200dpiの解像度で紙面をむらなく印刷するためには、計算上30μmのドット径が必要となるが、インクジェットヘッド由来の着弾精度もあるため、ドット径が30μmではスジ(白抜け)等の原因になる可能性がある。そのため、ドット径は31μm以上を合格とした。
【0112】
<マットコート紙とグロスコート紙の線幅の差の測定>
上記と同じグロスコート紙とマットコート紙を用意し、京セラ株式会社製、ピエゾ駆動方式インクジェットヘッド、商品名:KJ4B-600を備えたインクジェットプリンター(株式会社トライテック製)に水系インクを充填し、5ドット分の幅の線をグロスコート紙とマットコート紙にそれぞれ印刷した。
得られた印刷物を光学顕微鏡にて観察し、線の幅を測定した。マットコート紙の線幅からグロスコート紙の線幅を引いた値を線幅の差とし、この値が小さいほどグロスコート紙とマットコート紙の画質が同等であるといえる。線幅の差は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、35μm以下が更に好ましい。
【0113】
【0114】
表1から、実施例1~20の水系インクは、ポリエーテル変性シリコーンを含まない比較例1、及びポリエーテル変性シリコーン(B)の[m/n]が3.0未満である比較例4の水系インクに比べて、マットコート紙とグロスコート紙の線幅の差が小さいことが分かる。また、実施例1~20の水系インクは、質量比[ポリエーテル変性シリコーン(B)/アセチレングリコール系界面活性剤(C)]が1.5を超える比較例2、アセチレングリコール系界面活性剤を含まない比較例3、ポリエーテル変性シリコーン(B)の[m/n]が12.0を超える比較例5、及びグリコールエーテル(A)のHLB値が7.5を超える比較例6と比べて、グロスコート紙でのドット径が大きいことが分かる。
また、比較例7のように、グリコールエーテル(A)のHLB値が6.0未満となると、はじき現象が発生し印刷ムラが発生することが分かる。