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特開2025-4645標的核酸を特異的に検出するオリゴヌクレオチド及びその用途
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  • 特開-標的核酸を特異的に検出するオリゴヌクレオチド及びその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004645
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】標的核酸を特異的に検出するオリゴヌクレオチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20250107BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALI20250107BHJP
   C12Q 1/6818 20180101ALI20250107BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20250107BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6816 Z ZNA
C12Q1/6818 Z
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104469
(22)【出願日】2023-06-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道渕 真史
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 峻史
(72)【発明者】
【氏名】上倉 佳子
(72)【発明者】
【氏名】松葉 悠真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広道
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 特異的に標的核酸を検出する手法を提供すること。
【解決手段】 本発明の標的核酸を検出する方法は、少なくとも1対のプライマーセットによる標的核酸増幅工程、及び前記標的核酸増幅工程により増幅された標的核酸に特異的に結合する蛍光標識プローブを用いた融解曲線分析による標的核酸検出工程を含み、前記プローブは、標的核酸の塩基配列Aと塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dにおいて標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在する塩基配列を含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸を検出する方法であって、
少なくとも1対のプライマーセットによる標的核酸増幅工程、及び
前記標的核酸増幅工程により増幅された標的核酸に特異的に結合する蛍光標識プローブを用いた融解曲線分析による標的核酸検出工程を含み、
前記プローブは、標的核酸の塩基配列Aと塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dにおいて標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在する塩基配列を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記プローブの5’末端塩基又は3’末端塩基が、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基の位置に対応し、前記5’末端塩基又は3’末端塩基が蛍光標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2個以上の塩基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2~5個の塩基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
標的核酸及び非標的核酸が同じ属の異なる種にそれぞれ由来し、標的核酸を種特異的に検出する方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
標的核酸の塩基配列Cと塩基配列Cに対応する非標的核酸の塩基配列Eとの間の塩基配列同一性が60%以上100%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プローブの長さが15塩基以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プローブの長さが15~25塩基長である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プローブにおける少なくとも1つのミスマッチ塩基が、前記プローブの中央から前後に5塩基以内の領域に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記プローブにおけるミスマッチ塩基の数が1~3個である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記プローブがグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素により標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光消光色素が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記蛍光消光色素が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記プローブは、5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが蛍光消光色素により標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記プローブにおいて標識されている末端塩基がシトシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記標的核酸増幅工程において反応液中に10000コピー以上の非標的核酸が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記標的核酸増幅工程において反応液中に10000コピー以上の標的核酸及び非標的核酸がそれぞれ存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記標的核酸検出工程が検出温度を40~75℃とする融解曲線分析により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
融解曲線分析により標的核酸を特異的に検出するための蛍光標識プローブであって、前記プローブは、標的核酸の塩基配列Aと塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dにおいて標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在する塩基配列を含むことを特徴とする、蛍光標識プローブ。
【請求項20】
前記プローブの5’末端塩基又は3’末端塩基が、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基の位置に対応し、前記5’末端塩基又は3’末端塩基が蛍光標識されている、請求項19に記載の蛍光標識プローブ。
【請求項21】
標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2個以上の塩基を含む、請求項19に記載の蛍光標識プローブ。
【請求項22】
標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2~5個の塩基を含む、請求項19に記載の蛍光標識プローブ。
【請求項23】
請求項19~22のいずれかに記載の蛍光標識プローブを含む、標的核酸を特異的に検出するためのキット。
【請求項24】
前記蛍光標識プローブが結合する領域を含む標的核酸領域を増幅可能なプライマーセットを更に含む、請求項23に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体試料中に含まれる標的核酸を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドに関する。更に、本発明は、前記オリゴヌクレオチドを用いて、検体試料中に含まれる標的核酸を特異的に検出する方法並びにその方法に用いるための試薬及びキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な感染症の中には、臨床症状が酷似しており、その鑑別が容易ではないものも多い。また、臨床症状の酷似に加え、近縁の細菌及びウイルス等においては遺伝情報が似ているものも多く存在する。例えば、生物分類学的に同じ属に属し、種が異なるような近縁種では、しばしば類似した機能及び配列の遺伝子を持つ場合がある。また、これらは同じ検体中に存在することもあり、このような近縁種の正確な鑑別は困難を極める。
【0003】
しかしこれらを正確に鑑別して適切な治療等へと繋げるために、特異的に標的核酸を検出することが臨床上非常に重要である。そこで、PCR法をはじめとする様々な検査法で特異的に鑑別する方法が開発されてきた。
【0004】
PCR法などの遺伝子検査において、標的核酸を特異的に検出することが必要な場面としては、例えば、性感染症のナイセリア・ゴノレアと髄膜炎を引き起こすナイセリア・メニンギティディスがある。これらは咽頭検体等の同一の検体から検出される場合があるが、両細菌の遺伝子情報は一部酷似しており、その鑑別は容易ではない。その他にも、性感染症のクラミジア・トラコマチスとクラミジア・スイス等も、同様の理由で鑑別が容易ではなく、誤判定を引き起こす可能性がある。
【0005】
これらの感染症の誤判定は誤った診断に繋がり、適切な治療を迅速に行うことが妨げられてしまう。その結果、治療が遅れるだけでなく、周囲への感染が広がることも懸念される。このようなときに遺伝情報が酷似している感染症の高度に特異的な鑑別が可能になると早期治療ができるだけでなく、周囲への感染を防ぐことにも繋がる。
【0006】
これまでに、標的感染症を特異的に検出する方法として、標的感染症の原因微生物のみに特有の遺伝子をターゲットにして検出を実施する方法や、BNAクランプ技術を用いて誤反応を防ぐ方法(特許文献1)等が広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6242336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、標的核酸に存在する特定領域の一塩基変異を検出したり、高感度に検出する目的で1ゲノムあたり複数存在する領域を検出する場合など、標的感染症の原因微生物のみに特有の遺伝子をターゲットとすることが難しい場合もある。
【0009】
さらに、特許文献1のようにBNAクランプ技術を用いた場合、分析用試薬調製に時間がかかる他、試薬のコストが上がる等の問題がある。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の主な目的は、標的核酸を特異的に検出する新たな手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究の結果、プローブを用いて融解曲線分析により検出を行う場合に、意外にも、当該プローブに特定のミスマッチ塩基を加えたものを使用することで、標的核酸のみを特異的に検出することが可能となることを見出した。これにより例えば、同じ検体試料中に同じ属の異なる種に由来する非標的核酸が存在する場合等であっても、特異的に標的核酸のみ検出可能になり得る。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねて完成したものである。
【0012】
本発明の代表的な実施態様は以下の通りである。
[項1] 標的核酸を検出する方法であって、
少なくとも1対のプライマーセットによる標的核酸増幅工程、及び
前記標的核酸増幅工程により増幅された標的核酸に特異的に結合する蛍光標識プローブを用いた融解曲線分析による標的核酸検出工程を含み、
前記プローブは、標的核酸の塩基配列Aと塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dにおいて標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸塩基配列Bとの間で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在する塩基配列を含むことを特徴とする、方法。
[項2] 前記プローブの5’末端塩基又は3’末端塩基が、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基の位置に対応し、前記5’末端塩基又は3’末端塩基が蛍光標識されている、項1に記載の方法。
[項3] 標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2個以上の塩基を含む、項1又は2に記載の方法。
[項4] 標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2~5個の塩基を含む、項1~3のいずれかに記載の方法。
[項5] 標的核酸及び非標的核酸が同じ属の異なる種にそれぞれ由来し、標的核酸を種特異的に検出する方法である、項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6] 標的核酸の塩基配列Cと塩基配列Cに対応する非標的核酸の塩基配列Eとの間の塩基配列同一性が60%以上100%未満である、項1~5のいずれかに記載の方法。
[項7] 前記プローブの長さが15塩基以上である、項1~6のいずれかに記載の方法。
[項8] 前記プローブの長さが15~25塩基長である、項1~7のいずれかに記載の方法。
[項9] 前記プローブにおける少なくとも1つのミスマッチ塩基が、前記プローブの中央から前後に5塩基以内の領域に存在する、項1~8のいずれかに記載の方法。
[項10] 前記プローブにおけるミスマッチ塩基の数が1~3個である、項1~9のいずれかに記載の方法。
[項11] 前記プローブがグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素により標識されている、項1~10のいずれかに記載の方法。
[項12] 前記蛍光消光色素が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、項11に記載の方法。
[項13] 前記蛍光消光色素が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、項11又は12に記載の方法。
[項14] 前記プローブは、5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが蛍光消光色素により標識されている、項1~13のいずれかに記載の方法。
[項15] 前記プローブにおいて標識されている末端塩基がシトシンである、項1~14のいずれかに記載の方法。
[項16] 前記標的核酸増幅工程において反応液中に10000コピー以上の非標的核酸が存在する、項1~15のいずれかに記載の方法。
[項17] 前記標的核酸増幅工程において反応液中に10000コピー以上の標的核酸及び非標的核酸がそれぞれ存在する、項1~16のいずれかに記載の方法。
[項18] 前記標的核酸検出工程が検出温度を40~75℃とする融解曲線分析により実施される、項1~17のいずれかに記載の方法。
[項19] 融解曲線分析により標的核酸を特異的に検出するための蛍光標識プローブであって、前記プローブは、標的核酸の塩基配列Aと塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dにおいて標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在する塩基配列を含むことを特徴とする、蛍光標識プローブ。
[項20] 前記プローブの5’末端塩基又は3’末端塩基が、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基の位置に対応し、前記5’末端塩基又は3’末端塩基が蛍光標識されている、項19に記載の蛍光標識プローブ。
[項21] 標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2個以上の塩基を含む、項19又は20に記載の蛍光標識プローブ。
[項22] 標的核酸の塩基配列Cが、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる2~5個の塩基を含む、項19~21のいずれかに記載の蛍光標識プローブ。
[項23] 項19~22のいずれかに記載の蛍光標識プローブを含む、標的核酸を特異的に検出するためのキット。
[項24] 前記蛍光標識プローブが結合する領域を含む標的核酸領域を増幅可能なプライマーセットを更に含む、項23に記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、標的感染症の原因微生物のみに特有の遺伝子をターゲットにすることが難しい場合、例えば、標的核酸を特異的に遺伝子検査で識別することが難しい場合、特に、標的核酸に存在する特定領域の一塩基変異を検出するような場合、又は、高感度に検出する目的で1ゲノムあたり複数存在する領域を検出するような場合であっても、より高度に特異的に標的核酸を検出することが可能となる。また、本発明は、簡便で低コストでありながら、特異的に標的核酸を測定できるという点でも大きな利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で用いた標的核酸(配列番号10)及び非標的核酸(配列番号11)とプライマー又はプローブ(配列番号1~3)との位置関係を示す図である。二重下線で示した塩基は、標的核酸と非標的核酸との間で異なる塩基である。四角で囲んだ塩基は、標的核酸と非標的核酸との間で共通する塩基に対応する位置にミスマッチ塩基を加えた箇所を示す。
図2】実施例1の結果を示す図である。ナイセリア・ゴノレアを標的核酸、ナイセリア・メニンギティディスを非標的核酸とし、ミスマッチ塩基を加えたプローブ(配列番号3)を用いた際の検出を比較した結果を示す。
図3】実施例2で用いた標的核酸(配列番号12)及び非標的核酸(配列番号13)とプライマー又はプローブ(配列番号4~6)との位置関係を示す図である。二重下線で示した塩基は、標的核酸と非標的核酸との間で異なる塩基である。四角で囲んだ塩基は、標的核酸と非標的核酸との間で共通する塩基に対応する位置にミスマッチ塩基を加えた箇所を示す。
図4】実施例2の結果を示す図である。クラミジア・トラコマチスを標的核酸、クラミジア・スイスを非標的核酸とし、ミスマッチ塩基を加えたプローブ(配列番号6)を用いた際の検出を比較した結果を示す。
図5】実施例3で用いた標的核酸(配列番号15)及び非標的核酸(配列番号16)とプライマー又はプローブ(配列番号7~9)との位置関係を示す図である。二重下線で示した塩基は、標的核酸と非標的核酸との間で異なる塩基である。四角で囲んだ塩基は、標的核酸と非標的核酸との間で共通する塩基に対応する位置にミスマッチ塩基を加えた箇所を示す。
図6】実施例3の結果を示す図である。ボルデテラ・パーツシスを標的核酸、ボルデテラ・ブロンキセプティカを非標的核酸とし、ミスマッチ塩基を加えたプローブ(配列番号9)を用いた際の検出を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「及び/又は」は、一部又は全部を意味する。
【0016】
また、本明細書では、核酸プライマーをオリゴヌクレオチドプライマー又は単にプライマーという場合があり、核酸プローブをオリゴヌクレオチドプローブ又は単にプローブという場合があり、これらを総称してオリゴヌクレオチドともいう。
【0017】
本発明は、プローブを用いて融解曲線分析(「融解曲線解析」などともいう)により検出を行う場合に、当該プローブに特定のミスマッチ塩基を加えることで、標的核酸のみを特異的に検出することが可能となることを見出したことに基づく。通常、標的核酸の特異的検出を行う際には、標的核酸の塩基配列と完全に相補的なプローブを使用して検出することが多い。本発明では、全く予想外のことに、あえて特定のミスマッチ塩基をプローブに入れることで、非標的核酸の検出を抑制し、特異的に標的核酸のみを検出可能とすることを一つの特徴とする。
【0018】
一つの実施形態において、本発明の方法は、少なくとも以下の工程を包含する:
少なくとも1対のプライマーセットによる標的核酸増幅工程、及び
前記標的核酸増幅工程により増幅された標的核酸に特異的に結合する蛍光標識プローブを用いた融解曲線分析による標的核酸検出工程であって、(i)前記プローブは、標的核酸の塩基配列Aと塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dをベースとすること、及び(ii)塩基配列Dにおいて標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在する塩基配列を含むことを特徴とする、工程。
【0019】
つまり、本発明の前記方法は、上記(i)及び(ii)の両方の特徴を有するプローブを融解曲線分析において用いることを特徴としている。この2つの特徴を備えたプローブを用いて融解曲線分析を行うことにより、標的核酸と非標的核酸との塩基配列が高い配列同一性を示す場合(例えば、60%以上の塩基配列同一性を示す場合)であっても、標的核酸のみを特異的に検出することが可能となる。従って、本発明の方法によれば、標的核酸を特異的に遺伝子検査で識別することが難しい場合、例えば、標的核酸に存在する特定領域の一塩基変異を検出することが求められるような場合、又は、高感度に検出する目的で1ゲノムあたり複数存在する領域(特に、近縁種で配列が類似しているマルチコピー遺伝子の領域等)を検出する場合などにおいて、簡便に、低コストで、標的核酸と非標的核酸とを識別して検出することができる。
【0020】
(特異的に結合する蛍光標識プローブ)
本発明に用いる特異的に結合する蛍光標識プローブは、(i)標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dに基づき設計される。
【0021】
本明細書において、「標的核酸」とは検出を意図する核酸を意味し、「非標的核酸」とは、標的核酸の検出において検出を望まない核酸を意味する。例えば、標的核酸がある感染性微生物S1に由来する核酸である場合、非標的核酸は、感染性微生物S1と臨床症状が酷似する感染性微生物S2に由来する核酸であって、遺伝情報も類似しており、遺伝子検査において偽陽性を生じさせる恐れがある核酸であり得る。このような非標的核酸としては、例えば、感染性微生物S1と生物分類学的に同じ属に属し、種が異なる感染性微生物S3に由来する核酸等であり得る。更に別の観点から、このような非標的核酸は、例えば、標的核酸と高い配列同一性を示し、偽陽性を生じさせる恐れがある核酸であり得る。例えば、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間の塩基配列同一性、及び/又は、標的核酸の塩基配列Cと塩基配列Cに対応する非標的核酸の塩基配列Eとの間の塩基配列同一性が、例えば60%以上、更には65%以上、更には70%以上となるような関係にある非標的核酸であり得る。この場合の塩基配列同一性の上限値は、100%未満であれば特に限定されないが、例えば90%以下、好ましくは85%以下であり得る。本発明によれば、このように高い配列同一性を示す非標的核酸が存在する場合であっても、標的核酸を特異的に検出することが可能である。
【0022】
特定の好ましい実施形態において、標的核酸と非標的核酸の組合せの具体例としては、例えば、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)のopA遺伝子配列(例えば配列番号10)を標的核酸とし、同じナイセリア属に属するナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)のopA遺伝子配列(例えば配列番号11)を非標的核酸とする組合せ;クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)のompA遺伝子(例えば配列番号12)を標的核酸とし、同じクラミジア属に属するクラミジア・スイス(Chlamydia suis)のompA遺伝子及び/又はクラミジア・ムリダルム(Chlamydia muridarum)のompA遺伝子(例えば配列番号13、配列番号14)を非標的核酸とする組合せ;ボルデテラ・パーツシス(Bordetella pertussis)のIS1002遺伝子(例えば配列番号15)を標的核酸とし、同じボルデテラ属に属するボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)のIS1002遺伝子(例えば配列番号16)を非標的核酸とする組合せ;マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の23S rRNA遺伝子配列(例えば配列番号17)を標的核酸とし、同じマイコプラズマ属に属するマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)の23S rRNA遺伝子配列(例えば配列番号18)を非標的核酸とする組合せ等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、上記の具体例において非標的核酸としているものを標的核酸とする場合には、標的核酸としているものが非標的核酸となり得る。これらの標的核酸及び非標的核酸は、同一検体試料中に存在する場合があり、遺伝子配列情報も類似しているために、標的核酸の検出において誤判定を招きやすい。本発明によれば、簡便な方法で、前記のような遺伝情報が似ている感染性微生物の鑑別が可能になるので、誤った増幅反応よる擬陽性リスク等を低減し、早期の治療、周囲への感染拡大防止にもつながり得る。
【0023】
本発明では、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bをアラインメントし、塩基配列Aと塩基配列Bとの間で異なる1個以上の塩基を含む標的核酸の部分的な塩基配列Cに対して相補的な塩基配列Dに基づきプローブを設計する。標的核酸の塩基配列Aに対応する非標的核酸の塩基配列Bとは、常法に従って標的核酸の塩基配列Aと一次構造比較を行うようにアラインメントしたときの非標的核酸における対応する位置の塩基配列Bをいう。本発明では、標的核酸と非標的核酸との間の塩基配列同一性が高い場合にも標的核酸の特異的検出が可能であるが、標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で少なくとも1つの異なる塩基を有する領域を選び、ここで選択した領域に対応する標的核酸の領域(本明細書では、この領域を、「標的核酸領域」、「プローブ結合領域」等といい、当該領域の塩基配列を塩基配列Cとする)に結合するように(即ち実質的に相補的な塩基配列となるように)プローブを設計する。この標的核酸領域(塩基配列C)において、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基の数は、1個以上であれば特に限定されないが、例えば、2個以上、又は3個以上であることが好ましい。異なる塩基の数の上限値も特に限定されないが、例えば、5個以下、又は4個以下であり得る。異なる塩基の数は、例えば、2~5個の範囲内であり得る。
【0024】
特定の実施形態において、本発明で用いる特異的に結合する蛍光標識プローブは、5’末端塩基又は3’末端塩基が標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基の位置に対応するように設計されており、その異なる塩基の位置に相当する5’末端塩基又は3’末端塩基が蛍光標識されたプローブであり得る(本明細書では、これを「第一の蛍光標識プローブ」ともいう)。第一の蛍光標識プローブでは、プローブ結合領域における標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で異なる塩基の数は少なくてもよく、例えば、1又は2個であってもよく、1個であってもよい。第一の蛍光標識プローブでは、このようにプローブ結合領域における標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で異なる塩基の数が少なくても(つまり、標的核酸の塩基配列Cと非標的核酸の塩基配列Eとの間の塩基配列同一性が非常に高い領域をプローブ結合領域とする場合でも)、標的配列を特異的に検出することができるという利点がある。
【0025】
別の実施形態において、本発明で用いる特異的に結合する蛍光標識プローブは、5’末端塩基又は3’末端塩基が標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で共通する塩基の位置に対応するように設計されており、その共通する塩基の位置に相当する5’末端塩基又は3’末端塩基が蛍光標識されたプローブであり得る(本明細書では、これを「第二の蛍光標識プローブ」ともいう)。第二の蛍光標識プローブのように、標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間で異なる塩基がプローブ結合領域の末端に存在しない場合には、プローブ結合領域における標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で異なる塩基の数は2個以上が好ましく、2~5個がより好ましく、3又は4個がさらに好ましい。第二の蛍光標識プローブの場合は、このように複数の異なる塩基が存在する領域に設計することでより高度に特異的に標的核酸を検出することが可能となる。
【0026】
本発明に用いる特異的に結合する蛍光標識プローブは、上記(i)で選ばれた標的核酸領域(塩基配列D)において、(ii)標的核酸の塩基配列Aと非標的核酸の塩基配列Bとの間(標的核酸の塩基配列Cと非標的核酸の塩基配列Eとの間)で共通する1~5個の塩基に対応する位置においてミスマッチ塩基が存在することを更なる特徴とする。このように、塩基配列Aと塩基配列Bとの間で共通する塩基に対応する位置をあえてミスマッチ塩基とすることにより、高い配列同一性を示す近縁種に由来するような標的核酸及び非標的核酸であっても高度に鑑別することが可能となる。ミスマッチ塩基は、標的核酸と非標的核酸とをアラインメントしたときに共通している塩基に対して相補的な塩基以外であれば特に限定されず、任意の塩基であり得る。一例として、ミスマッチ塩基は、アデニン塩基、シトシン塩基、グアニン塩基、チミン塩基、ユニバーサル塩基(例えば、ヒポキサンチン塩基、ネブラリン塩基、5-ニトロインドール塩基)等であり得る。例えば、標的核酸と非標的核酸とをアラインメントしたときに共通する塩基がアデニン塩基である場合は、アデニン塩基と相補的なチミン塩基以外の塩基(シトシン塩基、グアニン塩基、アデニン塩基、ユニバーサル塩基等)をミスマッチ塩基として使用することができ、標的核酸と非標的核酸とをアラインメントしたときに共通する塩基がチミン塩基である場合は、チミン塩基以外の塩基(チミン塩基、シトシン塩基、グアニン塩基、ユニバーサル塩基等)をミスマッチ塩基として使用することができる。共通する保存塩基が他の塩基である場合も、同様にしてミスマッチ塩基を適宜選択して使用できる。
【0027】
上記少なくとも特異的に結合する蛍光標識プローブにおけるミスマッチ塩基の数は1~5個の範囲内であれば特に限定されないが、標的核酸と非標的核酸との間での特異的検出を可能にし、また、標的核酸が低コピーである場合であっても十分な感度で検出することを可能にするという観点から、1~4個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1又は2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0028】
上記特異的に結合する蛍光標識プローブにおいてミスマッチ塩基を入れる位置は特に限定されず、プローブの中央よりも3’末端側に存在しても、5’末端側に存在しても、中央付近に存在してもよいが、ミスマッチ塩基を2個以上入れる場合は、それらのミスマッチ塩基を連続して入れない(すなわち、ミスマッチ塩基同士の間に少なくとも1つ(例えば2個以上、5個以上、又は10個以上)のマッチ塩基が存在する)方が好ましい。例えば、一つの好ましい実施形態として、1つのミスマッチ塩基がプローブの中央よりも3’末端側に存在し、もう1つのミスマッチ塩基がプローブの中央よりも5’末端側に存在するように設計することができる。より確実に標的核酸と非標的核酸の特異的検出が可能となり易いという観点から、好ましくは、少なくとも1つのミスマッチ塩基はプローブの中央付近に存在することが好ましく、例えば、プローブの中央から前後に7塩基以内、好ましくは前後に6塩基以内、より好ましくは前後に5塩基以内に存在するように設計するのがよい。なお本明細書において、プローブの中央とは、プローブの塩基配列の全長をnとした場合に、nが奇数のときは(n+1)/2の位置をいい、nが偶数のときはn/2の位置をいう。
【0029】
上記特異的に結合する蛍光標識プローブの長さは特に限定されず、PCR等の融解曲線分析検出に通常利用可能な任意の長さであり得る。例えば、プローブの長さは15塩基以上、好ましくは16塩基以上、より好ましくは17塩基以上、更に好ましくは18塩基以上、更により好ましくは19塩基以上であり得る。また、プローブの長さの上限値も特に限定されないが、PCR等の融解曲線分析検出に通常利用可能である長さ、例えば25塩基以下であり得、更には23塩基以下、又は20塩基以下であってもよい。プローブの長さは、例えば15~25塩基であり得る。
【0030】
一つの実施形態では、上記のように設計された特異的に結合する蛍光標識プローブは、標的核酸の塩基配列Cと相補的な塩基配列Dに対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の同一性を示すものであり得る。そして、この特異的に結合する蛍光標識プローブは、塩基配列Cに対応する非標的核酸の塩基配列Eと相補的な塩基配列Fに対して、例えば、90%以下、好ましくは85%以下の同一性を示すものであり得る。塩基配列Fに対して60%以上の同一性を示す塩基配列からなるプローブ、なかでも70%以上の同一性を示す塩基配列からなるプローブの場合は、融解曲線分析において誤検出を招きやすい傾向がある。本発明によれば、このように非標的核酸を検出し易い場合であっても、特定のミスマッチ塩基を入れることにより非標的核酸の検出を抑えて、標的核酸を高度に特異的に検出できる。
【0031】
本発明では、上記のような特異的に結合する蛍光標識プローブを用いて融解曲線分析により検出を行う。本発明では、上記のような特定のミスマッチ塩基を含む蛍光標識プローブを1つだけ使用してもよいし、2つ以上を組み合わせて使用してもよいが、より簡便且つ高感度に検出できるという観点から、1つだけを使用することが好ましい。
【0032】
上記の特異的に検出する蛍光標識プローブは、5’末端及び3’末端を両方標識したものであってもよいが、5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されているものであることが好ましい。一つの実施形態において、本発明の特異的に検出する蛍光標識プローブは、プローブの相補配列に対して例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の同一性を示す塩基配列を含む標的核酸と結合した場合に消光又は蛍光を生じるように標識されていることが好ましく、消光を生じるように標識されていることがより好ましい。標識物質としては特に制限はないが、蛍光色素であることがより好ましい。
【0033】
蛍光色素としては特に標的の核酸増幅産物とハイブリダイズして複合体を形成することにより蛍光を生じる蛍光物質又は消光を生じる蛍光物質のいずれであってもよいが、好ましくは標的の核酸増幅産物とハイブリダイズした際に消光を生じる蛍光物質であり、特に好ましくは、標的の核酸増幅産物とハイブリダイズにおいてグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素(例えば、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素)である。具体的には、フルオロセイン及びその誘導体(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC))、ローダミン及びその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(GR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシローダミン、x-ローダミン、スルホローダミン101酸クロリド)、並びにBODIPY及びその誘導体(例えば、BODIPY-FL、BODIPY-FL/C3、BODIPY-FL/C6、BODIPY-5-FAM、BODIPY-TMR、BODIPY-TR、BODIPY-R6G、BODIPY-564、BODIPY-581、BODIPY-591、BODIPY-630、BODIPY-650、BODIPY-665)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
より具体的には、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素として、例えば、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G(CR6G)、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素を挙げることができ、本発明にはこれらの蛍光消光色素が好適に使用され得る。
【0035】
特定の好ましい実施形態では、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンであるプローブがより好ましい。このようなプローブは、標的の核酸増幅産物にハイブリダイズした際に、核酸増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0036】
特定の好ましい実施形態では、本発明の特異的に検出する蛍光標識プローブを後述する工程(3)の検出工程で用いる。本発明の方法は、後述する工程(3)においてこの特異的に検出する蛍光標識プローブを1種類使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。特定の好ましい実施形態では、本発明の方法は、後述する工程(3)において1種類の特異的に検出する蛍光標識プローブを使用することで、標的核酸を特異的に検出することができる。
【0037】
[標的核酸を特異的に検出する方法]
一つの実施形態において、検体試料中に含まれ得る標的核酸を特異的に検出する方法は、前述のプローブを用いる方法である。当該方法は、検体試料中に標的核酸が存在するか又は存在しないかを判定する方法であってもよい。また、当該方法は、検体試料中に含まれ得る標的核酸を定量する方法であってもよい。特定の実施形態では、後述の少なくとも1対の核酸プライマーセットを用いることで、例えばPCR-融解曲線解析法等において、検体試料中に含まれ得る標的核酸を特異的に高感度に検出することができる。
【0038】
特定の実施形態では、標的核酸を特異的に検出する方法は、少なくとも以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)標的核酸を含み得る検体試料を提供する工程、
(2)工程(1)の検体試料に含まれ得る標的核酸を鋳型として、後述の少なくとも1対のプライマーセットを用いて核酸増幅反応に供する工程、及び
(3)工程(2)の1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の前述の核酸プローブを用いて検出する工程
を含むことが好ましい。当該方法は、工程(2)をPCR反応(RT-PCR反応である場合を含む)により実施し、且つ、工程(3)を融解曲線解析法により実施すること(PCR-融解曲線解析法)が好ましい。工程(1)、(2)、及び(3)は同一の反応液中で行ってもよい。また、工程(1)、(2)、及び(3)のうち2つ以上の工程、例えば、工程(1)と工程(2)を連続して又は同時並行的に行ってもよい。
【0039】
[工程(1)]
工程(1)の検体試料は、標的核酸を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。検体試料の例としては、例えば、ナイセリア・ゴノレア由来の標的核酸等の性感染症の原因微生物を特異的に検出することを意図する場合、例えば、動植物組織、体液、排泄物、細胞等の生体試料;施設の壁面、床面、設備や備品、便器等を拭き取ったもの又はそれらを洗浄した洗浄液等の環境試料等が挙げられる。検体試料の好適な例としては、例えば、被験体(ナイセリア・ゴノレア等の性感染症への感染が疑われる被験体等)から採取した血液、血液培養液、子宮頸管擦過物、尿道擦過物、男性尿道擦過物尿、尿、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰、唾液、口腔内擦過物、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、分離培養コロニー、カテーテル洗浄液等が挙げられるが、これらに限定されない。ナイセリア・ゴノレア等の性感染症の主要な原因菌を標的とする、特定の実施形態において、検体試料として、例えば、組織切片、皮膚、吐瀉物、尿、分離培養コロニー、子宮頸管擦過物、尿道擦過物、男性尿道擦過物尿、尿、咽頭ぬぐい液を用いるのが好ましく、尿を用いるのが更に好ましい。生体試料を測定対象の検体試料とする場合、生体試料の種類等に応じて、特に制限はされないが、希釈又は懸濁、遠心、酵素処理、ろ過、加熱処理、酸処理、アルカリ処理、有機溶媒処理、破砕処理、磨砕処理等の前処理若しくは核酸抽出を行ってもよい。
【0040】
検体試料の採取方法、調製方法等は、特に制限されず、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。特定の好ましい実施形態では、検体試料は、DNAを単離又は精製した試料でなくてもよく、例えば、生体から採取した試料をタンパク質分解酵素(例えば、プロテイナーゼK)処理及び/又は熱処理(例えば、60~100℃で1秒~10分間)によるタンパク分解変性処理をし、試料中に存在しているDNase(DNA分解酵素)を予め分解除去した試料をそのまま用いてもよい。
【0041】
核酸抽出の方法は、特に制限されないが、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。核酸抽出には、例えば、各メーカーから販売されているキット等を使用してもよい。また、自動抽出精製装置を用いて核酸抽出を行ってもよい。
【0042】
特定の好ましい実施形態において、検体試料は、従来の核酸増幅反応において通常は必須と考えられていた核酸精製工程を省略したものであってもよい。核酸精製を行う場合、専用試薬が必要であることに加えて、作業が煩雑で手間と時間がかかるという問題がある。核酸精製工程を省略した検体試料を用いる場合、検体試料の採取から遺伝子検査結果を得るまでの時間を短縮することができ、例えば、検体試料の採取から遺伝子検査結果が得られるまでの時間を1日以内、好ましくは半日以内、より好ましくは6時間以内、更に好ましくは3時間以内、なかでも好ましくは2時間以内(例えば、1時間以内)とすることが可能となる。このように、核酸精製工程を経ていない検体試料を用いて本発明の方法を行う場合、核酸精製の手間を省くことができ、簡便且つ短時間で標的核酸を特異的に検出することができる。
【0043】
一つの好ましい実施形態において、検体試料は、標的核酸よりも非標的核酸を多く含み得るようなもの、又は少なくとも標的核酸を高濃度で(例えば標的核酸及び非標的核酸の両方を高濃度で)含み得るようなものであってもよい。特に、非標的核酸を高コピー含む場合に、増幅を望まない非標的核酸の核酸増幅が生じやすい。本発明によれば、このように非標的核酸の増幅を招きやすい場合であっても、その非標的核酸の増幅を抑えて特異的に標的核酸を増幅できる。この観点から、本発明は例えば、核酸増幅工程に供する反応液中に1000コピー以上、更には2000コピー以上、3000コピー以上、4000コピー以上、又は5000コピー以上の非標的核酸が含まれるような場合に好適であり、例えば、10000コピー以上の非標的核酸が含まれるような場合であっても標的核酸を特異的に検出することが可能である。特定の実施形態では、標的核酸と非標的核酸を共に高コピー含む検体試料を用いることもでき、例えば、核酸増幅工程に供する反応液中に1000コピー以上、更には2000コピー以上、3000コピー以上、4000コピー以上、又は5000コピー以上の標的核酸及び非標的核酸がそれぞれ含まれるような場合であってもよく、例えば、10000コピー以上の標的核酸及び非標的核酸がそれぞれ含まれるような場合であってもよい。
【0044】
[工程(2)]
一つの実施形態において、工程(2)の核酸増幅反応は、核酸増幅法(1又は複数のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと)により実施することが好ましい。核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野においても広く用いられている。そのような核酸増幅法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TRC法等が挙げられる。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて方法を選択することができる。核酸増幅法はPCR法(RT-PCR法を含む)が好ましいが、これに限定されない。
【0045】
(PCR反応)
PCR反応は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応である。PCR反応は、通常、(i)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(ii)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(iii)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことを含む。DNAポリメラーゼとしては、例えば、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT、これらの変異体が挙げられる。本発明では、簡便、迅速、高感度、且つ検体試料による増幅阻害耐性を有するという観点から、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。また、工程(3)を融解曲線解析法により実施する場合には、蛍光消光プローブを用いる観点からも、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0046】
PCR反応の条件は、反応が進行する限り特に限定されない。例えば、最初の工程(i)を80~100℃で0秒~300秒程度(例えば0.5~300秒程度)行ってもよく、2回目以降(繰り返し)の工程(i)を80~100℃で0.5~300秒程度行ってもよく、工程(ii)を35~80℃で1~300秒程度行ってもよく、工程(iii)を35~85℃で1~300秒程度行ってもよい。工程(i)から(iii)までのサイクルは30~70回繰り返すことが好ましい。ここで繰り返し行うサイクルの温度及び時間は、1~3サイクル毎に変化させてもよい。工程(ii)及び工程(iii)の温度を低い温度に設定した場合、非特異増幅が生じ易くなるが、本発明ではこのような場合であっても標的核酸を特異的に検出することができる。
【0047】
(DNAポリメラーゼ)
工程(2)の核酸増幅反応、特にPCR反応に使用し得るDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが好ましいが、これに限定されない。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、特に制限されないが、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼであり、より好ましくは、パイロコッカス(Pyrococcus)属及びサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌に由来するDNAポリメラーゼが挙げられる。また、好適なDNAポリメラーゼには、ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体も含まれる。変異体としては、例えば、野生型のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加した変異体或いは野生型のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列同一性を示す変異体等が挙げられる。具体的には、DNAポリメラーゼの変異体には、ポリメラーゼ活性の増強、エキソヌクレアーゼ活性の欠損、基質特異性の調整等を目的とした変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB-D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。
【0049】
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF-3、Thermococcus sp.9degrees North-7(Thermococcus sp.9doN-7)、Thermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)が、伸長性や熱安定性に優れているという観点から、本発明においてとりわけ好適に用いることができる。
【0050】
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)等が挙げられ、そのいずれもが本発明に用いられ得る。
【0051】
(KOD由来のDNAポリメラーゼ)
本明細書において、KOD由来のDNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼともいう)とは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、天然由来のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸を置換、欠失、挿入及び/又は付加することにより3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)をいう。一つの好ましい実施形態において、工程(2)の核酸増幅反応は、このようなKOD由来のDNAポリメラーゼを使用する。KOD DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaq DNAポリメラーゼに比べて、正確性、増幅効率、伸長性、検体試料由来の阻害物質による増幅阻害耐性に優れている。本発明では、このようなKOD DNAポリメラーゼを使用することが、後述の実施例に示すように、簡便でありながら、迅速、高感度、特異的に標的核酸を検出する点でより好ましい。
【0052】
(プライマーセット)
工程(2)で核酸増幅反応に使用し得るプライマーセットは、前記の蛍光標識プローブが結合し得る標的核酸を増幅し得るものであれば特に限定されない。プライマーセットは、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的であるように設計される。例えば、核酸増幅反応に使用し得るプライマーセットとしては、標的核酸及び非標的核酸の両方の塩基配列に対して完全にマッチする塩基配列からなるプライマーを含むものであってもよいし、標的核酸及び非標的核酸のいずれか一方又は両方に対してミスマッチとなる塩基を例えば1~7個、又は1~5個含む塩基配列からなるプライマーを含むものであってもよいが、好ましくは、標的核酸の塩基配列に対して完全にマッチする塩基配列からなるプライマーで構成された少なくとも1対のプライマーセットを使用するのがよい。
【0053】
[工程(3)]
工程(3)の融解曲線分析は、前述の特定のミスマッチ塩基を含む蛍光標識プローブを使用する限り、その実施態様は特に限定されない。例えば、ナイセリア・ゴノレア等の標的核酸は他の感染性微生物と同様に変異し得る。ここで、プライマー又はプローブの塩基配列と標的核酸のナイセリア・ゴノレア変異株の塩基配列とに意図していないミスマッチが生じると、標的遺伝子又はそれに由来する核酸増幅産物(標的核酸)に対するプライマー又はプローブの結合力は低下することになり得る。とりわけ、リアルタイムPCR法において標的核酸とプローブとの間で意図しないミスマッチが増えた場合は、標的核酸に十分にプローブが結合できなくなるため、見かけ上増幅曲線の立ち上がりが遅れる、或いは全く立ち上がりがなくなる場合があり、このような状況は偽陰性を誘発し得る。融解曲線解析法の場合は、PCRを終えてから工程(3)を行うため、仮にプライマー又はプローブの結合領域に意図しないミスマッチが生じたとしても、最終的に核酸増幅産物が得られていれば検出は可能であるため、リアルタイムPCR法よりも意図しないミスマッチの影響を抑えることできる。また、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することで、より短時間(例えば、核酸増幅反応開始から融解曲線解析完了まで45分以下、好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下)で検出することも可能となり得る。
【0054】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-1)及び(3-2):
(3-1)工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る核酸増幅産物と核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成する工程;及び
(3-2)工程(3-1)の複合体を検出する工程
を含むことが好ましい。本発明では、標的核酸の検出において、特異的に高感度な判定結果を得るために、工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る核酸増幅産物と特異的に反応して複合体を形成し得る前述の特異的に結合する蛍光標識プローブを用いることを特徴とする。
【0055】
工程(3-1)のハイブリダイズは、核酸増幅産物と前記蛍光標識プローブが十分にハイブリダイズする温度条件下で実施されることが好ましい。このような温度条件としては、例えば、核酸プローブのTm値より少なくとも5℃低い温度、より好ましくは少なくとも10℃低い温度を挙げることができるが、これらに限定はされない。このようにTm値よりも低い温度でハイブリダイズさせることにより、非標的核酸の増幅が生じ易い傾向があるが、本発明によれば、このようにTm値よりも低い温度で十分にハイブリダイズさせる場合であっても非特異核酸の融解曲線分析における検出を抑えて、標的核酸を特異的に検出できる。
【0056】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3’)の融解曲線分析法(融解曲線解析法)を含む態様であり得る:
(3’)工程(2)の終了後に、核酸増幅反応の反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度の温度依存性を測定する工程。
【0057】
(工程(3’))
工程(3’)において、蛍光強度の温度依存性を測定するとは、具体的には、反応液の温度を低温から高温に変化させながら、各温度における蛍光強度を測定することであり得る。得られた蛍光強度について温度で一次微分することにより、使用する核酸プローブに固有の融解温度(Tm値)を求めることができる。また、蛍光強度は目的に合わせて蛍光消光率等に変換してもよい。
Tm値を用いた標的核酸の検出、分析等を融解曲線分析という。一般的に、Tm値は、オリゴヌクレオチドがその相補鎖と二本鎖を形成している割合と二本鎖を形成せず一本鎖である割合が等しいときの温度をいう。Tm値は、塩基配列に固有の値であるため、融解曲線分析は標的核酸の塩基配列多型を分析する手法として使用できる。ここでいう塩基配列多型とは、一塩基多型、塩基置換、塩基欠損、塩基挿入等を含む。
【0058】
一例として、融解曲線分析はSNP解析等にも応用されている。プローブに対して標的核酸の塩基配列に変異がある場合、プローブがハイブリダイズした際に塩基がミスマッチしているため、一般的にTm値は低くなる。したがって、Tm値の大きさを比較することで一塩基多型の解析(SNP解析)も行うことができる。
【0059】
本発明では、工程(3’)において融解曲線解析を行い、温度変化に対してプローブが標的配列からの解離に伴い生じる蛍光又は消光シグナルの強度をリアルタイムでモニタリングする。温度の上昇に伴う発光又は消光シグナル強度の変化を温度変化の値で微分した一次微分値をプロットすると、得られる融解曲線(温度-一次微分値曲線)において、融解温度をピークとして表示することができるようになる。本明細書では、所定のプローブを用いて融解曲線解析に行った場合にピークとして表示される融解温度のことを、当該プローブの検出温度という。
【0060】
標的核酸に変異が生じると、PCRを実施することでミスマッチ部分をもつ2本鎖遺伝子を形成する。このようにミスマッチ部分をもつ2本鎖遺伝子は、2本鎖構造の変性(解離)が容易に起き、融解曲線解析の際にミスマッチの無い野生型の遺伝子より検出温度が低くなり得る。従って、標的核酸にプローブ配列と意図しないミスマッチになる変異が生じると、検出温度の変化(低温化)が検出され得る。
【0061】
[標的核酸を特異的に検出するための試薬]
別の実施形態として、本発明は、標的核酸(例えば、例えばナイセリア・ゴノレア、クラミジア・トラコマチス、ボルデテラ・パーツシス等の標的核酸)を特異的に検出するための試薬を提供する。試薬には、前述で説明した特定のミスマッチ塩基を含む特異的に検出する蛍光標識プローブを少なくとも含み、及び必要に応じて核酸プライマーに加えて、核酸増幅反応、及び検出に必要な成分を少なくとも含むことが好ましい。当該必要な成分は、それぞれ公知のものを用いることができる。例えば、本発明の試薬は、PCR等の核酸増幅用プライマーセット、DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、及びマグネシウム塩等の無機塩類を少なくとも含むことが好ましい。核酸増幅用プライマーセット及び検出用蛍光標識プローブは、標的核酸の複数の領域(例えば、ナイセリア・ゴノレアの複数領域)を増幅及び検出するために複数セットを含むことができる。この場合、複数の核酸検出用蛍光標識プローブが前記の特定のミスマッチ塩基を含むように設計されていればよい。各成分の濃度は適宜調整できるが、例えば、蛍光標識プローブの濃度は0.01~1μMが好ましく、0.02~0.5μMがより好ましい。蛍光標識プローブセットを使用する場合は、該プローブセットに含まれる各核酸プローブがそれぞれ上記濃度の範囲内であることが好ましい。プライマーセット中の各プライマーの濃度は0.01~10μMが好ましい。DNAポリメラーゼの濃度は0.01~1U/μLが好ましく、0.02~0.5U/μLがより好ましい。デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)の濃度は0.02~1mMが好ましく、0.1~0.5mMがより好ましい。マグネシウム塩等の無機塩類の濃度は0.1~10mMが好ましく、1~5mMがより好ましい。
【0062】
さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、本発明の試薬は、当該技術分野で知られる添加物等を含んでいてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物としては、例えば、公知の抗DNAポリメラーゼ抗体、リン酸等が挙げられる。反応促進を目的とする添加物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄又は酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、カルニチン、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween20)、ノニデット(登録商標)P40等が挙げられる。また、偽陰性の判定を容易にするために、本発明の試薬は、当該分野で公知のインターナルコントロールを含むことも好ましい。本発明では、これらの添加物を1種類単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0063】
[標的核酸を特異的に検出するための試薬キット]
別の実施形態として、本発明は、標的核酸(例えばナイセリア・ゴノレア、クラミジア・トラコマチス、ボルデテラ・パーツシス等の評定核酸)を特異的に検出するためのキットが提供される。本発明のキットは、前述で説明した特定のミスマッチ塩基を含む蛍光標識プローブを含む、並びに必要に応じて核酸プライマー及び/又は他の添加物などを含む試薬を含み、標的核酸(例えば、ナイセリア・ゴノレア、クラミジア・トラコマチス、ボルデテラ・パーツシス)を検出(鑑別を含む)できるように構成されていれば特に限定されない。例えば、本発明のキットは、被検出対象の存在を検出又は定量することができる試薬、及び/又は、使用方法等を説明する使用説明書等を任意に含むことができる。例えば、本発明のキットは、前記特定のミスマッチ塩基を含む蛍光標識プローブ、及び必要に応じて核酸プライマー、核酸増幅反応に必要な成分、及び核酸増幅産物の検出に必要な成分を同じ容器に封入したもの又は別々の容器に封入したものを、例えば一つの包装体に梱包し、当該キットの使用方法に関する情報を含む態様で提供することができる。また、本発明のキットは、陽性コントロール液及び/又は陰性コントロール液を含めることもできる。
【実施例0064】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0065】
〔試験例1:ナイセリア・ゴノレアの特異的検出評価〕
(1)試料の調製
ナイセリア・ゴノレアを特異的に検出する方法を評価するために、ナイセリア・ゴノレアの全長塩基配列からなるゲノムDNA及びナイセリア・メニンギティディスの全長塩基配列からなるゲノムDNAを粗抽出したDNAを滅菌水で希釈し、10000コピー/テストとなるように調製し、試料とした。
(2)核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりナイセリア・ゴノレア(NG)及びナイセリア・メニンギティディス(NM)の検出を行った。核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。判定は、融解曲線解析にてピークが得られた場合に陽性と判定した。
【0066】
(試薬)
ナイセリア・ゴノレア(標的核酸)及びナイセリア・メニンギティディス(非標的核酸)の塩基配列と、使用したプライマー又はプローブの位置関係を図1に示す(なお、図1では、アラインメントのために配列番号2の塩基配列を順鎖に変換した)。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下の溶液を調製した。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
0.5μM 配列番号1で示されるプライマー
3.0μM 配列番号2で示されるプライマー
0.25μM 配列番号3で示されるプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0067】
(核酸増幅及び融解曲線解析)
94℃・30秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・5秒
68℃・5秒
(以上60サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.4℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0068】
(3)結果
図2は、配列番号3で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってナイセリア・ゴノレアDNA及びナイセリア・メニンギティディスDNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。本試験例で使用したプローブは、末端が標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で異なる塩基の位置に対応するように設計されており(図1において二重下線を付した塩基)、その異なる塩基の位置に相当する末端の塩基を蛍光標識し、そしてプローブの中央付近にミスマッチを入れたプローブである(第一の蛍光標識プローブに相当)。図2に示される通り、前記のようにして設計された特定のミスマッチ塩基を加えたプローブを使用した場合に、特異的なナイセリア・ゴノレアの検出ができることが示された。なお、ミスマッチ塩基を含まない以外は配列番号3と同じように設計した蛍光標識プローブを別途用意して上記と同じ試験を行ったところ、非標的核酸であるナイセリア・メニンギティディスDNAの検出においても蛍光の立ち上がりが見られ、非特異的反応が生じてしまうことが確認された。
【0069】
本試験例で用いたプローブによる測定結果を表1にまとめた。本検討により、ミスマッチ塩基を含む配列番号3の塩基配列で示されるプローブを選択することによって、融解曲線解析において特異的なナイセリア・ゴノレアの検出が可能となった。本試験例では、反応に使用したコピー数が10000と非常に多く、またPCRの熱サイクルにおけるアニーリング・伸長温度が低めに設定されていたことから、非特異反応が生じやすい条件であったにもかかわらず、本発明により標的核酸に特異的な検出が可能となることが明らかとなった。
【0070】
【表1】
【0071】
〔試験例2:クラミジア・トラコマチスの特異的検出評価〕
(1)試料の調製
クラミジア・トラコマチスを特異的に検出する方法を評価するために、クラミジア・トラコマチスの全長塩基配列からなるゲノムDNA及びクラミジア・スイスの全長塩基配列からなるゲノムDNAを粗抽出したDNAを滅菌水で希釈し、10000コピー/テストとなるように調製し、試料とした。
(2)核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりクラミジア・トラコマチス(CT)及びクラミジア・スイス(CS)の検出を行った。核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。判定は、融解曲線解析にてピークが得られた場合に陽性と判定した。
【0072】
(試薬)
クラミジア・トラコマチス(標的核酸)及びクラミジア・スイス(非標的核酸)の塩基配列と、使用したプライマー又はプローブとの位置関係を図3に示す(なお、図3では、アラインメントのために配列番号5及び6の塩基配列を順鎖に変換した)。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下の溶液を調製した。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
3.0μM 配列番号4で示されるプライマー
0.5μM 配列番号5で示されるプライマー
0.25μM 配列番号6で示されるプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0073】
(核酸増幅及び融解曲線解析)
94℃・30秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・5秒
68℃・5秒
(以上60サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.4℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0074】
(3)結果
図4は、配列番号6で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってクラミジア・トラコマチスDNA及びクラミジア・スイスDNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。本試験例で使用したプローブは、末端が標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で共通する塩基の位置に対応するように設計されており(図3において二重下線を付した塩基が標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で異なる塩基の位置に対応する)、プローブの中央付近にミスマッチを入れたプローブである(第二の蛍光標識プローブに相当)。図4に示される通り、前記のようにして設計された特定のミスマッチ塩基を加えたプローブを使用した場合に、特異的なクラミジア・トラコマチスの検出ができることが示された。本試験例についても、ミスマッチ塩基を含まない以外は配列番号6と同じように設計した蛍光標識プローブを別途用意して上記と同じ試験を行ったところ、非標的核酸であるクラミジア・スイスDNAの検出において蛍光の立ち上がりが見られ、非特異的反応が生じてしまうことが確認された。
【0075】
本試験例で用いたプローブによる測定結果を表4にまとめた。本検討により、ミスマッチ塩基を含む配列番号6の塩基配列で示されるプローブを選択することによって、融解曲線分析において特異的なクラミジア・トラコマチスの検出が可能となった。本試験例も、反応に使用したコピー数が10000と非常に多く、またPCRの熱サイクルにおけるアニーリング・伸長温度が低めに設定されていたことから、非特異反応が生じやすい条件であったが、本発明により標的核酸に特異的な検出が可能となることが明らかとなった。
【0076】
【表2】
【0077】
〔試験例3:ボルデテラ・パーツシスの特異的検出評価〕
(1)試料の調製
ボルデテラ・パーチスを特異的に検出する方法を評価するために、ボルデテラ・パーツシスの全長塩基配列からなるゲノムDNA及びボルデテラ・ブロンキセプティカの全長塩基配列からなるゲノムDNAを粗抽出したDNAを滅菌水で希釈し、10000コピー/テストとなるように調製し、試料とした。
(2)核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりボルデテラ・パーツシス及びボルデテラ・ブロンキセプティカの検出を行った。核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。判定は、融解曲線解析にてピークが得られた場合に陽性と判定した。
【0078】
(試薬)
ボルデテラ・パーツシス(標的核酸)及びボルデテラ・ブロンキセプティカ(非標的核酸)の塩基配列と、使用したプライマー又はプローブとの位置関係を図5に示す(なお、図5では、アラインメントのために配列番号8の塩基配列を順鎖に変換した)。なお、本試験例で使用したプローブは、末端が標的核酸と非標的核酸の塩基配列間で共通する塩基の位置に対応する第二の蛍光標識プローブに相当する。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下の溶液を調製した。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
0.5μM 配列番号7で示されるプライマー
3.0μM 配列番号8で示されるプライマー
0.25μM 配列番号9で示されるプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0079】
(核酸増幅及び融解曲線解析)
94℃・30秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・5秒
68℃・5秒
(以上60サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.4℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0080】
(3)結果
試験例1及び試験例2と同様に、蛍光検出プローブに特定のミスマッチ塩基を加えることで、融解曲線分析において特異的なボルデテラ・パーツシスの検出ができることが示された。なお、本試験例でも、ミスマッチ塩基を含まない以外は配列番号9と同じとなるように設計した蛍光標識プローブを別途用意して上記と同じ試験を行ったところ、非標的核酸であるボルデテラ・ブロンキセプティカDNAの検出においても蛍光の立ち上がりが見られ、非特異的な反応が生じてしまうことが確認された。
【0081】
図6は、配列番号9で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってボルデテラ・パーツシスDNA及びボルデテラ・ブロンキセプティカDNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。本試験例で用いたプローブによる測定結果を表3にまとめた。本検討により、ミスマッチ塩基を含む配列番号9の塩基配列で示されるプローブを選択することによって特異的なボルデテラ・パーツシスの検出が可能となった。本試験例も、反応に使用したコピー数が10000と非常に多く、またPCRの熱サイクルにおけるアニーリング・伸長温度が低めに設定されていたことから、非特異反応が生じやすい条件であったが、本発明により標的核酸に特異的な検出が可能となることが明らかとなった。
【0082】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の方法を利用することで、融解曲線解析法において、簡便、高感度、特異的に試料中に含まれ得る標的核酸を検出できる。本発明により、高い信頼性で標的核酸を検出することを可能とし、臨床診断等などにおいて大きく貢献することが期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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