(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004655
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】化成液、電解コンデンサの製造方法、及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20250107BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20250107BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20250107BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20250107BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H01G9/00 290B
H01G13/00 391A
H01G9/15
H01G9/145
H01G9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104488
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000103220
【氏名又は名称】エルナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】米谷 直樹
【テーマコード(参考)】
5E082
【Fターム(参考)】
5E082AB09
(57)【要約】
【課題】 電解コンデンサの特性を向上することができる化成液、電解コンデンサの製造方法、及び電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 化成液は、電解コンデンサ素子に含まれる陽極箔及び陰極箔の少なくとも一方に形成された酸化アルミニウム膜の修復に用いられる化成液において、リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、前記酸化アルミニウム膜と結合するアルミニウム錯体を形成するキレート剤とを含むことを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解コンデンサ素子に含まれる陽極箔及び陰極箔の少なくとも一方に形成された酸化アルミニウム膜の修復に用いられる化成液において、
リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、
前記酸化アルミニウム膜と結合するアルミニウム錯体を形成するキレート剤とを含むことを特徴とする化成液。
【請求項2】
前記電解コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータを有し、
前記アルミニウム錯体は、前記セパレータに形成される導電性高分子層と結合することを特徴とする請求項1に記載の化成液。
【請求項3】
酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、及びフッ化アルミニウムの中の少なくとも1種類のアルミニウム化合物、またはアルミニウムを含み、
前記キレート剤は、前記少なくとも1種類のアルミニウム化合物、または前記アルミニウムから電離したアルミニウムイオンと結合することを特徴とする請求項1または2に記載の化成液。
【請求項4】
前記少なくとも1種類のアルミニウム化合物、または前記アルミニウムの質量モル濃度は、0.000125~0.00075mol/kgであることを特徴とする請求項3に記載の化成液。
【請求項5】
前記電解コンデンサ素子には、電解液が含浸されることを特徴とする請求項1または2に記載の化成液。
【請求項6】
前記キレート剤の質量モル濃度は、0.0000125~0.000125mol/kgであることを特徴とする請求項4に記載の化成液。
【請求項7】
前記リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つの質量モル濃度は、0.0025~0.025mol/kgであることを特徴とする請求項4に記載の化成液。
【請求項8】
前記キレート剤は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、プロパミンジアミン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸の中の少なくとも1種類を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の化成液。
【請求項9】
少なくとも一方に酸化アルミニウム膜が形成された陽極箔及び陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を形成する工程と、
前記電解コンデンサ素子を形成する工程の後、前記酸化アルミニウム膜を、化成液を用いて修復する工程とを有し、
前記化成液は、
リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、
前記酸化アルミニウム膜と結合するアルミニウム錯体を形成するキレート剤とを含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記酸化アルミニウム膜を修復する工程の後、前記セパレータに導電性高分子層を形成する工程とを有し、
前記アルミニウム錯体は、前記導電性高分子層と結合することを特徴とする請求項9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記導電性高分子層を形成する工程の後、前記電解コンデンサ素子に電解液を含浸させる工程を有することを特徴とする請求項9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
少なくとも一方に酸化アルミニウム膜が形成された陽極箔及び陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を有し、
前記陽極箔、前記陰極箔、及び前記セパレータには、
リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、
キレート剤及び水酸化アルミニウムイオンを1:0.1~1:6のモル比で含有するアルミニウム錯体とが付着していることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項13】
前記セパレータは、導電性高分子層を含み、
前記アルミニウム錯体は、前記酸化アルミニウム膜及び前記導電性高分子層と結合していることを特徴とする請求項12に記載の電解コンデンサ。
【請求項14】
前記電解コンデンサ素子には、前記アルミニウム錯体を含む電解液が含浸されていることを特徴とする請求項12または13に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成液、電解コンデンサの製造方法、及び電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサの製造工程では、例えば陽極箔及び陰極箔がセパレータを介して巻回される。巻回される陽極箔の表面には、誘電体である酸化被膜が形成されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/090241号
【特許文献2】特開2022-59471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化被膜には、上記の巻回の工程などを経て微小な欠陥が生ずるため、化成処理による酸化被膜の修復が行われる。例えば固体電解コンデンサ及びハイブリッドコンデンサの場合、導電性高分子層が形成される前に酸性の化成液を用いて化成処理が行われる。
【0005】
このとき、陽極箔の表面に過剰に多くの酸が供給されると、酸化被膜の修復及び破壊のバランスが崩れ、漏れ電流が増加するおそれがある。また、酸化被膜から溶出したアルミニウムイオンと、酸との化学反応により難溶性のアルミニウム化合物が形成され、酸化被膜と導電性高分子層の間の導電パスを阻害して、ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)が増加するおそれもある。漏れ電流やESRが増加すると電解コンデンサの特性が劣化する。
【0006】
そこで本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電解コンデンサの特性を向上することができる化成液、電解コンデンサの製造方法、及び電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化成液は、電解コンデンサ素子に含まれる陽極箔及び陰極箔の少なくとも一方に形成された酸化アルミニウム膜の修復に用いられる化成液において、リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、前記酸化アルミニウム膜と結合するアルミニウム錯体を形成するキレート剤とを含むことを特徴とする。
【0008】
上記の化成液において、前記電解コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータを有し、前記アルミニウム錯体は、前記セパレータに形成される導電性高分子層と結合してもよい。
【0009】
上記の化成液において、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、及びフッ化アルミニウムの中の少なくとも1種類のアルミニウム化合物、またはアルミニウムを含み、前記キレート剤は、前記少なくとも1種類のアルミニウム化合物、または前記アルミニウムから電離したアルミニウムイオンと結合してもよい。
【0010】
上記の化成液において、前記少なくとも1種類のアルミニウム化合物、または前記アルミニウムの質量モル濃度は、0.000125~0.00075mol/kgであってもよい。
【0011】
上記の化成液において、前記電解コンデンサ素子には、電解液が含浸されてもよい。
【0012】
上記の化成液において、前記キレート剤の質量モル濃度は、0.0000125~0.000125mol/kgであってもよい。
【0013】
上記の化成液において、前記リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つの質量モル濃度は、0.0025~0.025mol/kgであってもよい。
【0014】
上記の化成液において、前記キレート剤は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、プロパミンジアミン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸の中の少なくとも1種類を含有してもよい。
【0015】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、少なくとも一方に酸化アルミニウム膜が形成された陽極箔及び陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を形成する工程と、前記電解コンデンサ素子を形成する工程の後、前記酸化アルミニウム膜を、化成液を用いて修復する工程とを有し、前記化成液は、リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、前記酸化アルミニウム膜と結合するアルミニウム錯体を形成するキレート剤とを含むことを特徴とする。
【0016】
上記の製造方法において、前記酸化アルミニウム膜を修復する工程の後、前記セパレータに導電性高分子層を形成する工程とを有し、前記アルミニウム錯体は、前記導電性高分子層と結合してもよい。
【0017】
上記の製造方法において、前記導電性高分子層を形成する工程の後、前記電解コンデンサ素子に電解液を含浸させる工程を有してもよい。
【0018】
本発明の電解コンデンサは、少なくとも一方に酸化アルミニウム膜が形成された陽極箔及び陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を有し、前記陽極箔、前記陰極箔、及び前記セパレータには、リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、キレート剤及び水酸化アルミニウムイオンを1:0.1~1:6のモル比で含有するアルミニウム錯体とが付着していることを特徴とする。
【0019】
上記の電解コンデンサにおいて、前記セパレータは、導電性高分子層を含み、前記アルミニウム錯体は、前記酸化アルミニウム膜及び前記導電性高分子層と結合してしてもよい。
【0020】
上記の電解コンデンサにおいて、前記電解コンデンサ素子には、前記アルミニウム錯体を含む電解液が含浸されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、電解コンデンサの特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、アルミ電解コンデンサの一例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、電解コンデンサ素子の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。
【
図4】
図4は、アルミ電解コンデンサの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、化成液中の酸に対する緩衝効果の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、キレート剤、水酸化アルミニウム、リン酸、及び水の化学反応を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、酸化アルミニウム膜と導電性高分子層の結合の様子を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、アルミニウムイオンの供給による酸化アルミニウム膜の形成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施形態]
(アルミ電解コンデンサの構成)
図1は、アルミ電解コンデンサ1の一例を示す側面図である。
図1の紙面において、アルミ電解コンデンサ1の中心線Lcを挟んだ右半分には、その内部の断面が示されている。
【0024】
アルミ電解コンデンサ1は電解コンデンサの一例である。本例では、アルミ電解コンデンサ1として導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(以下、ハイブリッドコンデンサと表記)を挙げるが、固体電解コンデンサであってもよい。アルミ電解コンデンサ1は、電子回路基板に実装され、例えばカップリング、デカップリング、及び平滑化などに用いられる。
【0025】
アルミ電解コンデンサ1は、電解コンデンサ素子10、ケース11、封口体12、座板13、一対の羽子板部112、一対の丸棒部111、及び一対のリード部110を有する。羽子板部112、丸棒部111、及びリード部110は電解コンデンサ素子10の引き出し電極であり、丸棒部111は羽子板部112の先端から延び、リード部110は丸棒部111の先端から延びている。なお、
図1には一方の羽子板部112及び丸棒部111のみが示されているが、中心線Lcを挟んだ対称な位置に他方の羽子板部112及び丸棒部111が設けられている。
【0026】
ケース11は、アルミニウムにより形成され、上部の開口が塞がった円筒形状を有する。ケース11は、電解コンデンサ素子10及び封口体12を覆い、アルミ電解コンデンサ1の外装として機能する。なお、ケース11の形状は円筒形状に限定されず、角筒形状であってもよい。
【0027】
封口体12は、例えばブチルゴムなどの弾性部材により形成された略円柱形状の部材である。封口体12は、電解コンデンサ素子10に隣接し、ケース11下部の開口を封口する。
【0028】
電解コンデンサ素子10は、後述するように、陽極箔、陰極箔、及びセパレータ(電解紙)を重ねて巻回した構成を有する。電解コンデンサ素子10の内部には一対の羽子板部112が配置され、電解コンデンサ素子10の底部からは一対の丸棒部111が延びている。
【0029】
羽子板部112、丸棒部111、及びリード部110はアルミニウムなどから形成されている。一対の羽子板部112は、陽極箔及び陰極箔に対し、それぞれカシメ接続されており、アルミ電解コンデンサ1の陽極端子及び陰極端子として機能する。各丸棒部111は、封口体12に形成された一対の貫通孔120にそれぞれ挿通されている。なお、
図1には一方の貫通孔120のみが示されているが、中心線Lを挟んだ対称な位置に他方の貫通孔120が設けられている。
【0030】
リード部110は平板形状を有し、L字形状に屈曲し、その先端側の部分は座板13の板面に沿って延びている。リード部110の丸棒部111側の部分は座板13の貫通孔130に挿通されている。リード部110は、電子回路基板のリフロー工程において、電子回路基板上のパッドにはんだ付けされる。
【0031】
座板13は、樹脂などにより形成された板状部材であり、ケース11及び封口体12の下部に設けられている。座板13は、実装対象の電子回路基板に対してケース11及び封口体12を支持する。座板13には、リード部110の貫通孔130、及びリード部110の屈曲した先端部分を収容する溝部131が設けられている。溝部131は座板13の底面に沿って中央近傍から外側へ延びている。座板13の底面は、電子回路基板に対するアルミ電解コンデンサ1の実装面となるため、板状のリード部110を電子回路基板上のパッドにはんだ付けすることが可能となる。なお、本実施形態では表面実装タイプのアルミ電解コンデンサ1を挙げるが、後述する実施例は、座板13がないリードタイプにも適用することができる。
【0032】
(電解コンデンサ素子の構成)
図2は、電解コンデンサ素子10の一例を示す斜視図である。
図2において、
図1と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、
図2では、リード部110の屈曲前の状態が示されている。電解コンデンサ素子10は、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103,104を巻回した巻回体100と、陽極箔101及び陰極箔102に接続された一対の引き出し電極19a,19bとを有する。引き出し電極19aは陽極側端子であり、引き出し電極19bは陰極側端子である。
【0033】
陽極箔101及び陰極箔102は、例えばアルミニウム及びその合金箔並びに蒸着箔等により形成されている。陽極箔101の表面には、電極面積が増加するようにエッチング処理が施されている。これにより、電解コンデンサ素子10は所定の静電容量を確保する。さらに陽極箔101の表面には、酸化被膜として極薄の酸化アルミニウム膜が形成されている。このため、陽極箔101は、他の部材から絶縁されている。酸化アルミニウム膜が誘電体として機能することで、電解コンデンサ素子10がコンデンサとして機能する。陽極箔101の厚みは、例えば5~200(μm)である。この厚み範囲によると、陽極箔101の強度と容量の発現量の間に適切なバランス関係が実現できるため、好ましい。
【0034】
なお、陰極箔102の表面にもエッチング処理が施されてもよい。また、陰極箔102の表面には、酸化被膜が形成されてもよいし、無機層またはカーボン層が形成されていてもよい。
【0035】
セパレータ103,104は陽極箔101及び陰極箔102の間に挟まれた状態で巻回される。巻回体100は、セパレータ103,104、陽極箔101、及び陰極箔102の層状構造の一例である。セパレータ103,104はセルロース、レーヨン、及びガラス繊維などから選択される少なくとも1種類以上を材料とする。巻回体100は、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103,104を巻回すことにより形成された略円柱状の素子である。本実施形態では、この略円柱形状の高さに沿って電解コンデンサ素子10の高さ方向を規定する。一対の引き出し電極19a,19bは、高さ方向において巻回体100の下方に延びる。高さ方向は、各引き出し電極19a,19bの丸棒部111が延びる方向に実質的に一致する。
【0036】
巻回体100は、アルミ電解コンデンサ1の製造工程において電解液及び導電性高分子の分散液または溶液に浸漬される。これにより、セパレータ103,104には電解液及び導電性高分子層が保持される。なお、固体電解コンデンサの場合、電解液は保持されない。セパレータ103,104の厚みは、例えば1~100(μm)である。この厚み範囲によると、セパレータ103,104の強度、絶縁性、空隙率、及び導電性物質のバランスが良好に保たれるため、好ましい。
【0037】
電解液は、多価アルコール、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、多価アルコールのジエーテル化合物、1価のアルコールなどを含むことができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、の少なくとも一つを含むことが望ましい。ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が200~1000のポリエチレングリコール、平均分子量が200~5000のポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0039】
ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを用いることができる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどを溶媒として含むことができる。特に、エチレングリコール、ポリアルキレングリコール、γ-ブチロラクトン、スルホランを用いることが望ましい。
【0040】
電解液は、溶質を含んでいてもよい。溶質として、酸成分、塩基成分、酸成分および塩基成分からなる塩、ニトロ化合物、フェノール化合物等を用いることができる。
【0041】
酸成分は、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物を用いることができる。有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸などのカルボン酸などを用いることができる。無機酸としては、硼酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、リン酸ジエステルなどを用いることができる。
【0042】
有機酸と無機酸との複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジシュウ酸、ボロジグリコール酸等を用いることができる。
【0043】
塩基成分は、1級~3級アミン、4級アンモニウム、4級化アミジニウム等を用いることができる。1級~3級アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリンなどを用いることができる。4級アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどを用いることができる。4級化アミジニウムとしては、例えば、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどを用いることができる。
【0044】
図3は、
図2のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。セパレータ103は陽極箔101及び陰極箔102の間に挟まれている。陽極箔101は、両側のセパレータ103に隣接する酸化アルミニウム膜31、及び各酸化アルミニウム膜31の間のアルミニウム層30を有する。
【0045】
酸化アルミニウム膜31は、誘電体として機能し、エッチング処理された陽極箔101の表面に形成されている。酸化アルミニウム膜31には、ピットなどと称される多数の小孔がエッチング処理により形成されている。アルミ電解コンデンサ1の製造工程において、電解コンデンサ素子10が電解液に浸漬されると、セパレータ103内だけでなくピット内にも電解液が満たされる。
【0046】
電解液の浸漬より先に、導電性高分子の浸漬処理が行われる。電解コンデンサ素子10が導電性高分子散液に浸漬されることで、セパレータ103には導電性高分子層40が形成される。なお、本実施形態では、陽極箔101に酸化アルミニウム膜31が形成された例を挙げるが、陽極箔101に代えて、あるいは陽極箔101とともに陰極箔102に酸化アルミニウム膜が形成されてもよい。
【0047】
(アルミ電解コンデンサの製造工程)
図4は、アルミ電解コンデンサ1の製造工程の一例を示すフローチャートである。アルミ電解コンデンサ1の製造にあたって、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103などを準備する(ステップSt1)。例えば、陽極箔101の厚みは5~200(μm)であり、セパレータの厚みは1~100(μm)である。陽極箔101及び陰極箔102の各表面には、エッチング処理によりピットが形成される。
【0048】
陽極箔101には化成処理が施され、エッチング処理された表面上に酸化アルミニウム膜31が形成される。また、陽極箔101及び陰極箔102には、一対の引き出し電極19a,19bがそれぞれ接続される。引き出し電極19a,19bを接続手段としては、一例としてかしめが挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
次に陽極箔101、セパレータ103、陰極箔102、及びセパレータ103をこの順に積層して巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体100を生成する(ステップSt2)。これにより、導電性高分子液及び電解液に浸漬する前段階の電解コンデンサ素子10が生成される。このとき、酸化アルミニウム膜31には、陽極箔101に対する引き出し電極19a,19bの取り付け、及び上記の巻回により微小な欠陥が生ずる。なお、本工程は、少なくとも一方に酸化アルミニウム膜31が形成された陽極箔101及び陰極箔102と、陽極箔101及び陰極箔102に挟まれたセパレータ103とを含む電解コンデンサ素子10を形成する工程の一例である。
【0050】
次に巻回体100を化成液に浸漬させて陽極箔101に対して所定電圧を印加しながら再化成処理を行う(ステップSt3)。これにより酸化アルミニウム膜31の微小な欠陥が修復される。また、上下方向における陽極箔101の切り口(端部)の表面に酸化アルミニウム膜が形成される。なお、再化成処理は、酸化アルミニウム膜31を修復する工程の一例である。
【0051】
化成液は、水を溶媒として、少なくとも以下の成分を含む。なお、化成液の詳細な効果については後述する。
・リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つ(以下、酸と表記)
・酸化アルミニウム膜31と結合するアルミニウム錯体を形成するキレート剤
・酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、及びフッ化アルミニウムの中の少なくとも1種類のアルミニウム化合物、またはアルミニウム
【0052】
次に減圧雰囲気中で、導電性高分子の分散液に巻回体100を浸漬し、巻回体100に分散液を含浸させる(ステップSt4)。なお、導電性高分子の分散液に代えて、導電性高分子を含む溶液に巻回体100を浸漬してもよい。
【0053】
次に巻回体100を乾燥させる(ステップSt5)。このとき、巻回体100内のセパレータ103に含浸された導電性高分子液のうち、溶媒である水分は蒸発し、ナノ粒子は導電性高分子層40を形成する。なお、ステップSt4,St5の工程は、セパレータ103,104に導電性高分子層40を形成する工程の一例である。
【0054】
次に減圧雰囲気中で電解液を電解コンデンサ素子10に含浸させる(ステップSt6)。次に電解コンデンサ素子10をケース11に収容して封口体12によって封口する(ステップSt7)。このとき、電解コンデンサ素子10から延びる引き出し電極19a,19bは封口体12の貫通孔120に挿通される。その後、アルミ電解コンデンサ1に定格電圧を印加しながらエージング処理を行なってもよい。このようにしてアルミ電解コンデンサ1の製造工程は行われる。なお、アルミ電解コンデンサ1の製造工程はアルミ電解コンデンサ1の製造方法の一例である。
【0055】
(化成液の効果)
図5は、化成液中の酸に対する緩衝効果の一例を示す図である。
図5は、酸化アルミニウム膜31の無い陽極箔101の表面近傍における化学反応の様子を模式的に示す。なお、本実施形態では、陽極箔101に形成された酸化アルミニウム膜31を修復する例を挙げるが、陽極箔101に代えて、あるいは陽極箔101とともに陰極箔102に形成された酸化アルミニウム膜を修復する場合も、以下に述べる作用効果が得られる。
【0056】
符号G1aに示されるように、化成液中の酸からヒドロニウムイオン(H3O+)が生じ、再化成処理において電圧が印加されると、陽極箔101のアルミニウム(単体)が正電荷を帯びる。このため、ヒドロニウムイオンの非共有電子対はアルミニウムに引き寄せられる。
【0057】
次に符号G1bで示されるように、アルミニウムはヒドロニウムイオンと結合し、H2が陰極箔102側に移動することにより水酸化アルミニウム(Al(OH)3)が生成される。これにより、陽極箔101の最表層がOH基により覆われる。
【0058】
次に符号G1cで示されるように、酸により陽極箔101の表面から溶出したアルミニウムイオン(Al+)が、陽極箔101の最表層がOH基と結合する。これにより、酸化アルミニウム(Al2O3)膜31が形成される。なお、アルミニウムイオンの結合により水素が生成される。
【0059】
次に符号G1dで示されるように、ヒドロニウムイオンが酸化アルミニウム膜31に作用することにより酸化アルミニウム膜31が破壊される。これにより、酸化アルミニウム膜31は水酸化アルミニウムに戻る。
【0060】
このように、酸の作用によって酸化アルミニウム膜31の形成(つまり修復)及び破壊が繰り返される。このとき、陽極箔101の表面に過剰に多くの酸が供給されると、酸化アルミニウム膜31の修復及び破壊のバランスが崩れ、漏れ電流が増加するおそれがある。
【0061】
しかし、化成液中のキレート剤が、酸化アルミニウム膜31と結合するアルミニウム錯体を形成するため、酸に対して緩衝剤として作用する。本実施形態では、キレート剤としてトリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA:TriethyleneTetramine Hexaacetic Acid)を挙げるが、これに限定されない。
【0062】
符号G1eで示されるように、TTHAのアルミニウム錯体が酸化アルミニウム膜31に結合する。これにより、酸化アルミニウム膜31の表面がアルミニウム錯体の被膜32により覆われるため、ヒドロニウムイオンによる酸化アルミニウム膜31の破壊が抑制される。また、TTHAは酸の吸収及び放出を行うため、陽極箔101の表面の酸を適切な量に調整することができる。したがって、キレート剤により酸化アルミニウム膜31の修復及び破壊のバランスを維持して、漏れ電流を低減することが可能である。
【0063】
図6は、キレート剤、水酸化アルミニウム、リン酸、及び水の化学反応を模式的に示す図である。例えば、化成液中に酸としてリン酸(H
3PO
4)が含まれる場合、陽極箔101の表面の水酸化アルミニウムが溶解することにより、難溶性のリン酸アルミニウム(Al
3PO
4)が生成され、アルミニウムのイオン化が阻害される。また、リン酸アルミニウムは結晶化して、酸化アルミニウム膜31に対する導電性高分子層40の付着を妨げるため、導電パスの形成が抑制されてESRが増加する。これは、化成液に、リン酸に代えて、あるいはリン酸とともに、亜リン酸及び次亜リン酸が含有されている場合も同様である。
【0064】
しかし、TTHAは、水酸化アルミニウム、リン酸、及び水と化学反応して、アルミニウム錯体を形成することによりアルミニウムイオンを生成する。このため、化成液の反応性が向上して酸化アルミニウム膜31の形成及び修復が促進される。また、リン酸アルミニウムの生成が抑制されるため、導電性高分子層40の付着性が向上してアルミ電解コンデンサ1のESRが低減される。
【0065】
図7は、酸化アルミニウム膜31と導電性高分子層40の結合の様子を模式的に示す図である。本実施形態の導電性高分子層40にはポリエチレンスルホン酸が含まれる。
【0066】
符号G2aに示されるように、陽極箔101の表面の酸化アルミニウム膜31のOH基が分離して、ポリエチレンスルホン酸のスルホン酸イオンと結合することにより導電パスが形成される。しかし、陽極箔101の表面はエッチング処理により複雑な凸凹形状を有しているため、必ずしも導電パスは安定しているわけではない。また、ハイブリッドコンデンサの場合、セパレータ103,104に含浸された電解液により酸化アルミニウム膜31と導電性高分子層40が分離するおそれもある。
【0067】
TTHAはアルミニウム錯体を形成するため、符号G2bに示されるように、アルミニウム錯体のCOO基が酸化アルミニウム膜31と強固に結合する。これにより、アルミニウム錯体は陽極箔101の表面に付着する。一方、アルミニウム錯体はアルミニウムイオンを介してスルホン酸イオンと結合する。このため、酸化アルミニウム膜31と導電性高分子層40の間がアルミニウム錯体を介して強固に結合される。したがって、導電性高分子層40の付着性が改善されて導電パスの形成が向上するため、アルミ電解コンデンサ1のESRが低減される。
【0068】
図8は、アルミニウムイオンの供給による酸化アルミニウム膜31の形成の一例を模式的に示す図である。化成液は1種類のアルミニウム化合物またはアルミニウムを含有するため、符号G3aで示されるように、TTHAは、リン酸により陽極箔101から溶出したアルミニウムイオンが無い場合でも、アルミニウム化合物またはアルミニウムから電離したアルミニウムイオンと結合してアルミニウム錯体を形成する。
【0069】
次に符号G3bで示されるように、陽極箔101の水酸化アルミニウムのOH基にアルミニウムイオンを供給する。これにより、陽極箔101の表面に酸化アルミニウム膜31が形成される。その後、符号G3cで示されるように、アルミニウム錯体は、陽極箔101の表面にAl-OHを残してTTHAに戻るが、再度アルミニウムイオンと結合して上記の反応を繰り返す。このため、TTHAは触媒として機能することにより酸化アルミニウム膜31を形成することができる。
【0070】
このように化成液中のアルミニウムイオンにより化学反応が能動的に進む。このため、化成液中にアルミニウムイオンが無い場合と比べると、酸化アルミニウム膜31が緻密に形成される。これにより、酸化アルミニウム膜31及び導電性高分子層40が一緒に剥がれることが抑制されるため、アルミ電解コンデンサ1の寿命を延ばすことが可能となる。このように、本実施形態の化成液によりアルミ電解コンデンサ1の特性が向上する。
【0071】
本実施形態では、キレート剤としてTTHAを挙げたが、これに限定されない。キレート剤は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、プロパミンジアミン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸の中の少なくとも1種類を含有すればよい。これにより、単座錯体と比較してアルミニウム錯体を安定に形成することができる。
【0072】
また、化成液中のキレート剤の質量モル濃度は、0.00001~0.000125mol/kgであると、アルミ電解コンデンサ1の特性が好適に向上するため、好ましい。また、化成液中のアルミニウム化合物、またはアルミニウムの質量モル濃度は、0.0000125~0.00075mol/kgとすると、アルミ電解コンデンサ1の特性が好適に向上するため、好ましい。また、化成液中のリン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つの質量モル濃度は、0.0025~0.025mol/kgであると、アルミ電解コンデンサ1の特性が好適に向上するため、好ましい。
【0073】
アルミ電解コンデンサ1の電解コンデンサ素子10には、上記の化成液の残渣が含まれる。陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103には、リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸の少なくとも1つと、キレート剤及び水酸化アルミニウムイオンを1:0.1~1:6のモル比で含有するアルミニウム錯体とが付着している。このモル比によると、酸化アルミニウム膜31の修復及び破壊のバランスを準安定状態とすることができるため、アルミ電解コンデンサ1のESR及び漏れ電流を低減することができる。
【0074】
また、セパレータ103,104は、酸化アルミニウム膜31と結合したアルミニウム錯体を含む。アルミニウム錯体は、酸化アルミニウム膜31及び導電性高分子層40と結合している。これにより、上記の通り、酸化アルミニウム膜31及び導電性高分子層40が強固に結合され、電解液による剥がれが抑制される。また、ハイブリッドコンデンサの場合、電解コンデンサ素子10に含浸される電解液がアルミニウム錯体を含むことにより、アルミニウム錯体が電解コンデンサ素子10内部に好適に行き渡り、上記の作用効果によってアルミ電解コンデンサ1の特性を向上することができる。
【実施例0075】
上記のアルミ電解コンデンサ1のサンプルNo.1~16を作製した。サンプルNo.1~8は固体電解コンデンサであり、サンプルNo.9~16はハイブリッドコンデンサである。サンプルNo.9~16は上記の製造工程に従って作製し、サンプルNo.1~8は、上記の製造工程のうち、ステップSt6以外の工程に従って作製した。サンプルNo.1~16のケース11の直径は10(mm)とし、サンプルNo.1~16の高さ方向のサイズは10(mm)とした。サンプルNo.1~16の定格電圧及び静電容量(公称値)は、それぞれ、80(V)及び47(μF)とした。
【0076】
導電性高分子層40を形成するためのポリマー分散液には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる複合生成物(PEDОT:PSS)の水分散体を用いた。また、電解液には、エチレングリコール系を用いた。
【0077】
【0078】
表1は、サンプルNo.1~16の成分ごとの質量モル濃度(mol/kg)、伝導度(μS/cm)、及び水素イオン指数(pH)を示す。サンプルNo.2,4~8,10,12~16の再化成処理には、水を溶媒として、リン酸、TTHA、水酸化アルミニウム、及びアンモニアを混合した化成液を用いた。サンプルNo.1,9の再化成処理には、比較例として、水を溶媒として、TTHA及び水酸化アルミニウムを含まず、リン酸及びアンモニアを混合した化成液を用いた。サンプルNo.3,11の再化成処理には、水を溶媒として、水酸化アルミニウムを含まず、TTHA、リン酸、及びアンモニアを混合した化成液を用いた。化成処理において、セパレータ103,104を介して陽極箔101及び陰極箔102を巻回した電解コンデンサ素子10を化成液に浸漬した。
【0079】
サンプルNo.2,10のTTHAの質量モル濃度は0.00001mol/kgとし、サンプルNo.3,4,11,12のTTHAの質量モル濃度は0.0000125mol/kgとした。また、サンプルNo.5,6,13,14のTTHAの質量モル濃度は0.000125mol/kgとし、サンプルNo.7,8,15,16のTTHAの質量モル濃度は0.00015mol/kgとした。
【0080】
サンプルNo.1,3,4,9,11,12のリン酸の質量モル濃度は0.0025mol/kgとし、サンプルNo.2,10のリン酸の質量モル濃度は0.002mol/kgとした。また、サンプルNo.5~7,13~15のリン酸の質量モル濃度は0.025mol/kgとし、サンプルNo.8,16のリン酸の質量モル濃度は0.03mol/kgとした。
【0081】
サンプルNo.2,10の水酸化アルミニウムの質量モル濃度は0.00001mol/kgとし、サンプルNo.4,5,12,13の水酸化アルミニウムの質量モル濃度は0.0000125mol/kgとした。また、サンプルNo.6,14の水酸化アルミニウムの質量モル濃度は0.00075mol/kgとし、サンプルNo.7,8,15,16の水酸化アルミニウムの質量モル濃度は0.0009mol/kgとした。
【0082】
サンプルNo.1,3,4,9,11,12のアンモニアの質量モル濃度は0.005mol/kgとし、サンプルNo.2,10のアンモニアの質量モル濃度は0.004mol/kgとした。また、サンプルNo.5~7,13~15のアンモニアの質量モル濃度は0.05mol/kgとし、サンプルNo.8,16のアンモニアの質量モル濃度は0.06mol/kgとした。これにより、各化成液の水素イオン指数をpH7未満に調整した。
【0083】
固体電解コンデンサの化成液の電導度については、サンプルNo.3が最も小さく、サンプルNo.1が2番目に小さかった。また、サンプルNo.8の電導度は最も大きかった。一方、ハイブリッドコンデンサの化成液の電導度については、サンプルNo.11が最も小さく、サンプルNo.9が2番目に小さかった。また、サンプルNo.16の電導度は最も大きかった。
【0084】
【0085】
【0086】
表2は、固体電解コンデンサのサンプルNo.1~8の評価結果を示し、表3は、ハイブリッドコンデンサのサンプルNo.9~16の評価結果を示す。評価では、150℃及び80(V)の印加電圧で負荷試験を行い、20℃の環境でアルミ電解コンデンサ1の初期状態、及び電圧印加の開始から1000時間後の静電容量(μF)、損失角(tanδ)、ESR(Ω)、及び漏れ電流(μA)を測定した。静電容量、損失角、及びESRはLCRメータにより測定し、漏れ電流は、直流電源の+側とサンプルNo.1~16の陽極端子の間に抵抗器を接続後、両端の電圧をデータロガーにて1分間測定して平均電流値に換算して測定した。また、初期状態の静電容量Coに対する1000時間後の静電容量の減少量ΔC(<0)から容量比ΔC/Co(%)を算出した。
【0087】
サンプルNo.1,9はTTHAを含有していない比較例として、他のサンプルNo.2~8,10~16と比較した。表1において、ESR及び漏れ電流がサンプルNo.1より低い場合、「OK」と判定し、サンプルNo.1以上である場合、「NG」と判定した。これと同様に、表2において、ESR及び漏れ電流がサンプルNo.9より低い場合、「OK」と判定し、サンプルNo.9以上である場合、「NG」と判定した。
【0088】
固体電解コンデンサについて、サンプルNo.1は、TTHAを含有する他のサンプルNo.2~8と比べると十分な導電パスが形成されず、酸化アルミニウム膜31の修復が不十分であった。一方、サンプルNo.2~8は、TTHAの作用により十分な導電パスが形成され、酸化アルミニウム膜31を十分に修復することができた。このため、1000時間後のサンプルNo.2~8のESR及び漏れ電流はサンプルNo.1より低くなっている。したがって、サンプルNo.2~8の判定は「OK」とした。また、サンプルNo.2~8の損失角もサンプルNo.1より低減されている。また、サンプルNo.1の容量比(絶対値)は、TTHAが含有されないために十分な誘電率が得られず、サンプルNo.2~8より小さくなった。
【0089】
また、ハイブリッドコンデンサについても、上記と同様の理由により、1000時間後のサンプルNo.10~16のESR及び漏れ電流はサンプルNo.9より低くなっている。したがって、サンプルNo.10~16の判定は「OK」とした。また、サンプルNo.10~16の損失角もサンプルNo.9より低減されている。また、サンプルNo.9の容量比(絶対値)は、TTHAが含有されないために十分な誘電率が得られず、サンプルNo.10~16より小さくなった。
【0090】
1000時間後のサンプルNo.7,8のESR、漏れ電流、及び損失角は、サンプルNo.4~6より大きく、1000時間後のサンプルNo.15,16のESR、漏れ電流、及び損失角は、サンプルNo.12~14より大きい。これは、サンプルNo.7,8,15,16のTTHAの質量モル濃度がサンプルNo.4~6,12~14より大きく、多量のTTHAが導電パスの形成を阻害したためと考えられる。
【0091】
また、1000時間後のサンプルNo.2のESR、漏れ電流、及び損失角は、サンプルNo.4~6より大きく、1000時間後のサンプルNo.10のESR、漏れ電流、及び損失角は、サンプルNo.12~14より大きい。これは、サンプルNo.2,10のTTHAの質量モル濃度がサンプルNo.4~6,12~14より小さく、導電パスが少ない上に、酸化アルミニウム膜31の破壊が進行することで導電パスが切断されるためと考えられる。したがって、TTHAの質量モル濃度は、0.0000125~0.000125mol/kgであると好ましい。
【0092】
また、1000時間後のサンプルNo.4のESR、漏れ電流、及び損失角は、サンプルNo.3より小さく、1000時間後のサンプルNo.12のESR、漏れ電流、及び損失角は、サンプルNo.11より小さい。サンプルNo.4,12に用いた化成液には水酸化アルミニウムが含有されるため、上述したように、水酸化アルミニウムから電離したアルミニウムイオンにより酸化アルミニウム膜31が、サンプルNo.3,11より緻密に形成され、ESR及び損失角が低減されている。
【0093】
サンプルNo.7,8のESRはサンプルNo.4~6のESRより大きく増加し、サンプルNo.15,16のESRはサンプルNo.12~14のESRより大きく増加している。これは、水酸化アルミニウムが多すぎると、酸化アルミニウム膜31の表面に形成されたTTHAの層が厚くなることで導電パスが切断されるためである。
【0094】
また、サンプルNo.2のESRはサンプルNo.4~6のESRより大きく増加し、サンプルNo.10のESRはサンプルNo.12~14のESRより大きく増加している。これは、水酸化アルミニウムが少なすぎると、アルミニウム錯体に付着する導電性高分子量が不十分になるためである。
【0095】
したがって、水酸化アルミニウムの質量モル濃度は、0.000125~0.00075mol/kgであると好ましい。なお、溶解可能なTTHAと水酸化アルミニウムのモル比は1:0.1~1:6であり、この比率によって酸化アルミニウム膜31の破壊及び修復のバランスを準安定状態とすることが可能となる。
【0096】
また、リン酸の少なくとも1つの質量モル濃度が0.0025~0.025mol/kgであると、サンプルNo.4~6,12~14のようにESR、漏れ電流、及び損失角が低減されるため、好ましい。リン酸の質量モル濃度を0.0025mol/kgより小さくすると、陽極箔101の表面にOH基が生成されにくくなり、リン酸の質量モル濃度を0.025mol/kgより大きくすると、酸化アルミニウム膜31に対するリン酸の攻撃が強くなりすぎて化成液の耐圧が低下する。
【0097】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。