(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004681
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】自動追尾機能を使用した測定方法および自動追尾測量システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20250107BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G01C15/00 103A
G01C15/06 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104526
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】503295448
【氏名又は名称】計測ネットサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 卓
(57)【要約】 (修正有)
【課題】測量器の死角にある被測定対象物の座標を高精度かつ簡易的に測定することが可能な自動追尾測量システムを提供する。
【解決手段】ロッド21の先端にプリズム1を取り付ける。プリズム1の中心からロッド固定点Pに到るプリズム迄の距離Lが常に一定となり、且つロッド固定点Pを「ロッド21の揺動に対し位置が変動しない」不動点となるようにする。そして、ロッド21を鉛直軸に対し傾斜させた状態で鉛直軸の回りに回転させながら、測量器10の自動追尾モードを使用してプリズム1の座標を測定する。取得したプリズム1の測点群からランダムに抽出した3つの測点pC1,pC2,pC3について、その測点を球面の中心とし且つプリズム迄の距離Lを半径に持つ3つの球面の交点の座標をロッド固定点Pの座標とする。残測点数が3未満に達する迄、ロッド固定点Pの座標を求め、その算術平均から被測定対象物50の座標を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象物(50)が測量器(10)の死角に位置する場合に前記測量器(10)の自動追尾機能を使用して前記被測定対象物(50)の座標を測定する自動追尾機能を使用した測定方法であって、
前記測量器(10)がターゲットとするプリズム(1)を棒状体(21)の一端に取り付け、且つ前記棒状体(21)の他端を「前記棒状体(21)の揺動に対し位置が変動しない」固定点(P)として、
前記固定点(P)を中心として前記棒状体(21)をランダムに揺動させながら前記測量器(10)の自動追尾機能を使用して前記プリズム(1)の座標を測定する
ことを特徴とする自動追尾機能を使用した測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測量器の自動追尾機能を使用した測定方法において、
自動追尾機能で取得した前記プリズム(1)についての測点群({p1,p2,・・・,pN})からランダムに3個の測点(pC1、pC2、pC3)を抽出し、抽出した前記3個の測点(pC1、pC2、pC3)を中心とし且つ前記プリズム(1)の中心から前記固定点(P)に到る距離(L)を半径とする球面の方程式(sp1、sp2、sp3)を作成し、前記球面の方程式(sp1、sp2、sp3)の交点として前記固定点(P)の座標を算出する
ことを特徴とする自動追尾測量方法。
【請求項3】
請求項2に記載の測量器の自動追尾機能を使用した測定方法において、
抽出した前記3個の測点を前記測点群({p1,p2,・・・,pN})から除外し、前記除外した測点群({p1,p2,・・・,pN})の測点数が3個未満になるまで、前記固定点(P)の座標を繰り返し算出・新規保存し、算出・新規保存した全ての座標を各成分毎に算術平均し、前記固定点(P)の座標の算術平均を基にして前記被測定対象物(50)の座標を算出する
ことを特徴とする自動追尾測量方法。
【請求項4】
請求項1に記載の測量器の自動追尾機能を使用した測定方法において、
前記棒状体(21)を鉛直軸に関し傾斜させた状態で前記固定点(P)を中心として鉛直軸の回りに回転させながら前記測量器(10)の自動追尾機能を使用して前記プリズム(1)の座標を測定する
ことを特徴とする自動追尾測量方法。
【請求項5】
測量器(10)の自動追尾機能によって前記測量器(10)の死角に位置する被測定対象物(50)の座標を測定する自動追尾測量システムであって、
前記測量器(10)がターゲットとするプリズム(1)は、棒状体(21)の一端に取り付けられ、前記棒状体(21)の固定点(P)が「前記棒状体(21)の揺動に対し位置が変動しない」不動点となり、且つ
前記プリズム(1)の中心から前記固定点(P)に到る距離(L)が常に一定である
ことを特徴とする自動追尾測量システム。
【請求項6】
請求項5に記載の自動追尾測量システムにおいて、
前記棒状体(21)は、回転軸(22b)を有する回転台(22)に固定具(23)によって固定され、前記棒状体(21)の仮想中心線(CL1)と前記固定具(23)の仮想中心線(CL2)が交わる交点(P)は前記回転軸(22b)と同軸上に位置している
ことを特徴とする自動追尾測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動追尾機能を使用した測定方法および自動追尾測量システムに関し、より詳細には測量器の死角にある被測定対象物の座標を高精度かつ簡易的に測定することが可能な自動追尾機能を使用した測定方法および自動追尾測量システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トータルステーションは、光波(レーザー光)による測距機能とエンコーダによる測角機能を有する測量器である。また、トータルステーションは、座標の分かっている既知点(基準点)を2つ視準することにより、前回と同じ座標体系を構築することができる。トータルステーションの中には、自動的にターゲット(プリズム)を探索・視準してターゲットの座標値を測定する自動視準機能、ならびにターゲットが移動する場合に自動的にターゲットを追尾しながらターゲットの座標値を測定する自動追尾機能を有する機種も存在する。
【0003】
このように、トータルステーションはプリズムに対しレーザー光を照射してその反射光を受光してプリズムを設置した測点の座標を測定するものである。そのため、トータルステーションとプリズムとの間にレーザー光を遮るような障害物がある場合、即ち、測点がトータルステーションの死角に位置する場合、トータルステーションは測点の座標を測定することができなくなる。
【0004】
従来、トータルステーションとプリズムとの間にレーザー光を遮るような障害物がある場合、レーザー光を遮るような障害物が無い位置へトータルステーションを据え変えて、プリズムの座標を計測し直していた。
【0005】
また、ターゲットの主軸と同軸に2つの反射鏡を上下スライド可能に取り付け、トータルステーションが第1反射鏡を視準する際は第2反射鏡を遮蔽するようにし、その逆にトータルステーションが第2反射鏡を視準する際は第1反射鏡を遮蔽するようにした測量用ターゲット及びトータルステーション測量方法に係る発明が知られている(例えば、特許文献1の
図4を参照。)。
【0006】
上記特許文献1に記載のトータルステーション測量方法では、先ずトータルステーションが第1反射鏡を視準して第1反射鏡の中心座標を求める。次に同様の手順で第2反射鏡の中心座標を求める。これら2つの中心座標から主軸の方程式が既知となる。そして第2反射鏡から主軸先端までの距離と主軸の方程式より、主軸先端の座標を算出することとしている(例えば、特許文献1の[0036]を参照。)。
【0007】
また、位置が既知の第1測量装置と位置が未知の第2測量装置との間に丘、山、森、建物等があり、第1測量装置から第2測量装置が見通せない場合に、プリズムが取り付けられたドローンを使用して第2測量装置の位置を算出することとする測量データ処理装置に係る発明が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0008】
上記特許文献2に記載の測量データ処理装置では、第1測量装置と第2測量装置が同時にドローンのプリズムを複数回測位することにより得られる第1測量装置とドローンのプリズムとの間の相対位置と、第2測量装置とドローンのプリズムとの間の相対位置とに基づいて第2測量装置の位置を算出することとしている(例えば、特許文献2の[0078]~[0080]を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-152139号公報
【特許文献2】特開2023-41316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
測量器は設置された位置と方角に依存した座標系を持っている。そのため、上述したように測量器を据え変えると、前記座標系を据え変え後の位置で再現しなければならなくなる。そのためには、据え変え後の測量器からレーザー光を直接照射できる位置に座標が既知の基準点が2つ以上必要となる。即ち、基準点が用意できなければ測量器の据え変え自体が成立しない。また、仮に基準点を用意できたとしても、測量器を据え変えるのが手間であったり、そもそも測量器は動かせないことが前提である事も少なくない。
従って、測量器を最初の位置から動かすことなく障害物の死角になっているプリズムの座標を測定する技術が必要である。
【0011】
一方、上記特許文献1に記載の測量用ターゲットの場合、計測用ターゲットとして2つのプリズムを必要とし、各プリズムについて座標を算出する必要があるため、作業時間が増大するという問題がある。
【0012】
また、上記特許文献2に記載の測量データ処理装置の場合、2台の測量器と1台のドローンが必要となるため、作業コストが増大するという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、測量器の死角に位置する被測定対象物の座標を高精度かつ簡易的に測定することが可能な自動追尾機能を使用した測定方法および自動追尾測量システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る自動追尾機能を使用した測定方法は、被測定対象物(50)が測量器(10)の死角に位置する場合に前記測量器(10)の自動追尾機能を使用して前記被測定対象物(50)の座標を測定する自動追尾機能を使用した測定方法であって、前記測量器(10)がターゲットとするプリズム(1)を棒状体(21)の一端に取り付け、且つ前記棒状体(21)の他端を「前記棒状体(21)の揺動に対し位置が変動しない」固定点(P)として、前記固定点(P)を中心として前記棒状体(21)をランダムに揺動させながら前記測量器(10)の自動追尾機能を使用して前記プリズム(1)の座標を測定することを特徴とする。
【0015】
上記構成では、棒状体(21)の固定点(P)からプリズム(1)の中心に到るプリズム迄の距離(L)が常に一定となる。また、固定点(P)は位置が変わらない点(不動点)であるから、棒状体(21)の固定点(P)はプリズム(1)を中心とし半径がプリズム迄の距離(L)に等しい球面上の一点、或いはプリズム(1)を球面上の一点とする半径がプリズム迄の距離(L)に等しい球面の中心点と見なすことができる。
【0016】
従って、測量器(10)の自動追尾機能により取得したプリズム(1)の測点群({p1,p2,・・・,pN})から任意の3点(pC1、pC2、pC2)を抽出する場合、上記3球面の交点、或いは3測点を通る球面の中心点と見なし、固定点(P)の座標(x、y、z)は算出することが可能となる。従って、棒状体(21)の固定点(P)と被測定対象物(50)との相対位置関係が既知の場合、算出した「固定点(P)の座標(x、y、z)」と「固定点(P)と被測定対象物(50)との相対位置関係」に基づいて被測定対象物(50)の座標を算出することが可能となる。
【0017】
本発明に係る自動追尾機能を使用した測定方法の第2の特徴は、自動追尾機能で取得した前記プリズム(1)についての測点群({p1,p2,・・・,pN})からランダムに3個の測点(pC1、pC2、pC3)を抽出し、抽出した前記3個の測点(pC1、pC2、pC3)を中心とし且つ前記プリズム(1)の中心から前記固定点(P)に到る距離(L)を半径とする球面の方程式(sp1、sp2、sp3)を作成し、前記球面の方程式(sp1、sp2、sp3)の交点として前記固定点(P)の座標を算出することである。
【0018】
上記構成では、棒状体(21)の固定点(P)の座標は、3つの球面(sp1、sp2、sp3)が共通に交わる交点の座標として算出されることになる。
【0019】
本発明に係る自動追尾機能を使用した測定方法の第3の特徴は、抽出した前記3個の測点を前記測点群({p1,p2,・・・,pN})から除外し、前記除外した測点群({p1,p2,・・・,pN})の測点数が3個未満になるまで、前記固定点(P)の座標を繰り返し算出・新規保存し、算出・新規保存した全ての座標を各成分毎に算術平均し、前記固定点(P)の座標の算術平均を基にして前記被測定対象物(50)の座標を算出することである。
【0020】
上記構成では、測量器(10)の自動追尾機能により取得したプリズム(1)の座標値に含まれる誤差が、算出した全ての前記固定点(P)の座標を算術平均することにより互いに打ち消し合う。これにより、算術平均した前記固定点(P)の座標は真値に極めて近い値に収束することになる。
【0021】
本発明に係る自動追尾機能を使用した測定方法の第4の特徴は、前記棒状体(21)を鉛直軸に関し傾斜させた状態で前記固定点(P)を中心として鉛直軸の回りに回転させながら前記測量器(10)の自動追尾機能を使用して前記プリズム(1)の座標を測定することである。
【0022】
上記構成では、棒状体(21)の操作が容易となる。
【0023】
上記目的を達成するための本発明に係る自動追尾測量システムは、測量器(10)の自動追尾機能によって前記測量器(10)の死角に位置する被測定対象物(50)の座標を測定する自動追尾測量システムであって、前記測量器(10)がターゲットとするプリズム(1)は、棒状体(21)の一端に取り付けられ、前記棒状体(21)の固定点(P)が「前記棒状体(21)の揺動に対し位置が変動しない」不動点となり、且つ前記プリズム(1)の中心から前記固定点(P)に到る距離(L)が常に一定であることを特徴とする。
【0024】
上記構成では、上記自動追尾機能を使用した測定方法を好適に実施することができる。
【0025】
本発明に係る自動追尾測量システムの第2の特徴は、前記棒状体(21)は、回転軸(22b)を有する回転台(22)に固定具(23)によって固定され、前記棒状体(21)の仮想中心線(CL1)と前記固定具(23)の仮想中心線(CL2)が交わる交点(P)は前記回転軸(22b)と同軸上に位置していることである。
【0026】
上記構成では、棒状体(21)の固定点(P)を前記棒状体(21)の揺動に依存しない不動点とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る自動追尾機能を使用した測定方法および自動追尾測量システムによれば、測量器の死角にある被測定対象物の座標を高精度かつ簡易的に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動追尾測量システムを示す説明図である。
【
図2】本発明に係るプリズム支持台を示す説明図である。
【
図3】被測定対象物が測量器の死角にある場合に被測定対象物の座標を高精度かつ簡易的に算出する方法を示すフロー図である。
【
図4】抽出した3つの測点を球面中心に持ち且つプリズム迄の距離を半径に持つ3つの球面の交点として棒状体の固定点の座標を算出するケースを示す説明図である。
【
図5】本発明に係るプリズム支持台の他の実施例を示す説明図である。
【
図6】抽出した3つの測点を通りプリズム迄の距離を半径に持つ球面の中心として棒状体の固定点の座標を算出するケースを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動追尾測量システム100を示す説明図である。
図2は本発明に係るプリズム支持台20を示す説明図である。
図3は自動追尾測量システム100を使用した被測定対象物50に対する測定方法を示す説明図である。
【0031】
この自動追尾測量システム100は、測量器10と被測定対象物50との間に障害物があり測量器10が被測定対象物50を視準することができない場合に、被測定対象物50の座標を高精度かつ簡易的に測定することができる測量システムである。
【0032】
そのための構成として、この自動追尾測量システム100は、プリズム1の座標を測定する測量器10と、プリズム1を所望の鉛直角度θを保持したまま鉛直軸Zの回りに回転可能に支持するプリズム支持台20と、測量器10によって取得されたプリズム1についての座標点群に基づいて被測定対象物50の座標を算出するコンピュータ30とを具備して構成されている。以下、各構成について更に説明する。
【0033】
プリズム1は、360°プリズム又は1素子プリズムを使用することが可能である。また、プリズム1はロッド21の先端にねじ込まれ硬く固定されるようになっている。
【0034】
測量器10は、エンコーダによる測角機能と、プリズム1と計測光による測距機能を有している。これらの機能に加えて、プリズム1を自動的に探索して視準する自動視準機能と、プリズム1が移動する場合に、プリズム1を自動的に追尾しながら視準する自動追尾機能を有している。また、測量器10はWi-Fi(登録商標)又はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信機能を有し、測定した座標点群についてはコンピュータ30に無線を介して送信することができるように構成されている。
【0035】
プリズム支持台20は、測量器10がプリズム1を視準することができる高さH1でプリズム1を支持している。プリズム1の中心からロッド21のロッド固定点Pに到るプリズム迄の距離Lが常に一定となる。また、詳細については
図2を参照しながら後述するがロッド21は鉛直軸Zの回りに回転可能であり、鉛直軸Zに直交する水平軸の回りに回転可能に構成されている。
【0036】
また、ロッド固定点Pは、ロッド21が回転または揺動する場合であっても位置が変動することがない不動点となっている。
【0037】
コンピュータ30は、パーソナルコンピュータ、タブレット又はスマートフォン等の携帯端末機器、あるいはPLC(Programable Logic Controller)等の制御装置によって構成されている。また、コンピュータ30は、Wi-Fi(登録商標)又はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信、あるいは携帯電話会社が提供するSIMカードを介した無線通信回線(いわゆる4G又は5G)によってインターネット回線に接続し、インターネット上に構築された自社サーバー又はクラウドサーバーにアクセスしてプログラム又はデータを送受信することができるように構成されている。また、計測された被測定対象物50についての座標点群は、例えばコンピュータ30の内部記憶領域、インターネット上の自社サーバー又はクラウドサーバー、或いはUSBメモリ等の可搬型記憶媒体に保存されるようになっている。
【0038】
図2は、本発明に係るプリズム支持台20を示す説明図である。
図2(a)はプリズム支持台20の正面図を表している。
図2(b)は
図2(a)の右側面図である。また、説明の都合上、ロッド21の先端にはプリズム1が取り付けられている。
【0039】
図2(a)に示されるように、このプリズム支持台20は、一端でプリズム1を固定し他端でボルト23及びナット24によって固定されるロッド21と、ロッド21の端部が係止し回転軸22bを有する回転台22と、ロッド21の端部を回転台22のL形部材22aに固定するボルト23及びナット24と、回転軸22bを軸方向に関し回転可能に支持するスラスト軸受25と、回転軸22bを径方向に関し回転可能に支持するラジアル軸受26と、ラジアル軸受26の抜けを防止するストッパー27と、回転台22を支持するベース28とから構成されている。以下、各構成について更に説明する。
【0040】
ロッド21は、断面が円形の長軸棒である。ロッド21の端部は扁平部となっており、扁平部にはボルト23を通すための貫通穴(図示せず)が形成されている。ロッド21は変形し難い高剛性の素材、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、並びに鉄系金属、チタン系金属、又はアルミ系金属で作られている。従って、
図2(b)に示されるように、ロッド21の仮想中心線CL1とボルト23の仮想中心線CL2との交点をロッド固定点Pとする場合、プリズム1の中心からロッド固定点Pに到る距離Lは常に不変となる。
【0041】
この場合、ロッド固定点Pは不動点となり、ロッド固定点Pと被測定対象物50との間の高さ方向の差分H2は一定値となる。また、ロッド固定点PのXYZ座標の内で、Z座標をH2だけ減じた座標が被測定対象物50の座標に等しくなる。従って、ロッド固定点Pの座標を求めることと被測定対象物50の座標を求めることは等価となる。
【0042】
回転台22はL形部材22aに円筒形の回転軸22bが組み合わされた形状を成している。L形部材22aと回転軸22bは一体であっても別体であっても良い。L形部材22aはボルト23を通す貫通穴を有している。
【0043】
また、回転軸22bはスラスト軸受25及びラジアル軸受26を介してベース28の穴28aに挿入されている。これにより、ロッド21は機械的ガタがなくスムーズに回転するようになる。これにより、ロッド21が回転する場合であっても、ロッド21の仮想中心線CL1とボルト23の仮想中心線CL2が交わるロッド固定点Pの座標が変動することはなくなる。
【0044】
ベース28は、中央部に回転軸22bが挿入される円筒形の穴28aが形成されている。穴28aの入口部は、スラスト軸受25を嵌め込むために拡径されている。
【0045】
図3は、被測定対象物50が測量器10の死角にある場合に被測定対象物50の座標を高精度かつ簡易的に算出する方法を示すフロー図である。
先ずステップS1として、被測定対象物50の真上にベース28を配置する。この場合、回転台22の回転軸22bの延長上に被測定対象物50が位置するようにベース28を配置する。
【0046】
次にステップS2として、ロッド21を鉛直軸Zに対し傾斜させた状態で、ボルト23及びナット24によって回転台22に固定する。傾斜角度θについては測量器10がプリズム1を視準することができる傾斜角度であれば良い。
【0047】
次にステップS3として、測量器10の自動追尾モードを使用してプリズム1を視準する。
【0048】
次にステップS4として、回転台22をベース28に対し回転させる。
【0049】
次にステップS5として、自動追尾モードで取得したプリズム1についての測点群{p1,p2,・・・,pN}からランダムに3個の測点pC1,pC2,pC3を抽出する。
【0050】
次にステップS6として、抽出した3個の測点pC1,pC2,pC3を中心とした半径Lの球面の方程式を作成し、ロッド固定点Pの座標を算出する。先ず、各球面の方程式は下記式1、式2、式3のように表される。
(式1):(X-x1)2+(Y-y1)2+(Z-z1)2=L2、但しpC1=(x1、y1、z1)
(式2):(X-x2)2+(Y-y2)2+(Z-z2)2=L2、但しpC2=(x2、y2、z2)
(式3):(X-x3)2+(Y-y3)2+(Z-z3)2=L2、但しpC2=(x3、y3、z3)
【0051】
次に、球面の方程式を解いてロッド固定点Pの座標を求める。上記式1、式2、式3は3変数の二次方程式であるため、解は2つ存在する。「ロッド21のロッド仮想中心線CL1とボルト23のボルト仮想中心線CL2の交点である」ロッド固定点Pはプリズム1の下方に位置しているため、2つの解の内でZ座標が小さい方が、ロッド固定点Pの座標となる。なお、ロッド固定点Pがプリズム1の上方に位置している場合は、2つの解の内でZ座標が大きい方が、ロッド固定点Pの座標となる。
【0052】
なお、測量器10を自動追尾モードに設定すると、単回測距に比べて精度が落ちるのが一般的である。単回測距の精度が1mmであるような測量器10だと、自動追尾では精度が標準偏差で3mm程度まで落ちることが多いので、対策が必要となる。幸い測量器10の計測誤差は一般的に正規分布に従うことが知られているため、ステップS5で取得したプリズム1についての測点群の測点数Nが十分な値になるまでプリズム1を動かし続ければ、この問題は解消できる。具体的には、以下のようにする。
【0053】
次にステップS7として、算出したロッド固定点Pの座標を、Pk=(xPk、yPk、zPk)(k=1,・・・)として新規保存すると共に、測点数Nから3を減じる。
【0054】
次にステップS8として、残測点数が3未満か否かを判定する。残測点数が3未満の場合(YES)は、ステップS9を実行する。一方、残測点数が3以上の場合(NO)はステップS5を再度実行する。
【0055】
ステップS9として、算出・保存した全てのロッド固定点Pの座標の算術平均を求め、被測定対象物50の座標を算出する。算術平均は、以下に示す通りx、y、zの成分毎に行う。
ロッド固定点Pの算術平均=((ΣxPk)/m、(ΣyPk)/m、(ΣzPk)/m)、但しmは、算出・保存したロッド固定点Pの総数。
【0056】
従って、被測定対象物50の座標は、
ロッド固定点Pと被測定対象物50との間に高さ方向の差H2がある場合、ロッド固定点Pのz座標から高さH2を除した((ΣxPk)/m、(ΣyPk)/m、ΣzPk)/m-H2)として求められる。なお、高さ方向の差H2が無い場合は、ロッド固定点Pの座標は被測定対象物50の座標に等しくなる。
【0057】
ここでNが十分に大きな値になっていれば,測量誤差が正規分布に従う事から、ステップS9で求めたロッド固定点Pの座標の算術平均値は、真値と極めて近い値に収束する。例えば、95%の確率で1mmの測量精度を本算出方法において得たい場合、自動追尾の精度が3mmであれば、N≒35である。一般に、測点数Nは既知の統計計算によって下記の式4のように求められる。
(式4):N=(2×1.96/(T×2))2×E2
【0058】
図4は、本発明に係るプリズム支持台20を用いた被測定対象物50の座標の算出方法を示す説明図である。
点線はプリズ1の回転軌跡Trを表している。因みにプリズム1の回転軌跡Trは、半径=L×(sinθ)の円形となる。
また、上記式1は第1球面sp1の球面の方程式を表している。同様に上記式2は第2球面sp2の方程式を表している。同様に上記式3は第3球面sp3の方程式を表している。
【0059】
第1球面sp1と第2球面sp2との交線は円形であり、それを第1交円C1とすると、第1交円C1はロッド固定点Pを通る。同様に第2球面sp2と第3球面sp3との交線は円形であり、それを第2交円C2とすると、第2交円C2はロッド固定点Pを通る。第1交円C1と第2交円C2は2点で交わるため、2つの交点を持つ。2つの交点の内でZ座標の小さい方がロッド固定点Pの座標に相当する。
【0060】
第2交円C2と第3交円C3の関係、或いは第3交円C3と第1交円C1の関係は、第1交円C1と第2交円C2の関係と同値関係になる。従って、ロッド固定点Pの座標を、第2交円C2と第3交円C3の関係、或いは第3交円C3と第1交円C1の関係から求めることも可能である。
【0061】
このように、プリズム支持台20を用いた被測定対象物50の座標の算出方法は、プリズム1の中心からロッド固定点Pに到る距離Lが常に一定であること、ロッド固定点Pがロッド21の揺動に対し位置が変動しない不動点であることが特徴である。
【0062】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の自動追尾測量システム100について説明してきたが、本発明は上記だけに限定されることはない。すなわち、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において種々の修正・変更・追加等を行うことが可能である。例えば、ロッド21は角棒タイプであっても良い。また、
図5に示されるように、ボルト23及びナット24に代えて、水平軸モータ23’の回転軸とロッド21の端部を直結するようにしても良い。また回転軸22bに鉛直軸モータ24’の回転軸を直結するようにしても良い。
【0063】
また、
図6に示されるように、ロッド固定点Pの座標は、抽出した3個の測点pC1,pC2,pC3を通る半径Lの球面の方程式の中心座標として算出しても良い。
【0064】
また、上記実施形態ではロッド21を鉛直軸に関し傾斜角度θで傾斜させた状態で鉛直軸の回りに回転させながら、測量器10の自動追尾モードを使用してプリズム1の座標を測定している。しかし、傾斜角度は固定する必要は全くなく、例えば前後または左右にロッド21をランダムに揺動させながらプリズム1の座標を測定するようにしても良い。すなわち、本発明は、自動追尾モードで取得したプリズム1についての測点群{p1,p2,・・・,pN}からランダムに抽出した3つのプリズム1の測点を球面中心に持ち且つプリズム迄の距離Lを半径に持つ3つの球面の交点としてロッド21の固定点Pの座標、ひいては被測定対象物50の座標を算出するものである。そのため、本発明は、自動追尾モードでプリズム1についての測点群{p1,p2,・・・,pN}を取得できれば問題無く実行することが可能であり、ロッド21の揺動状態およびプリズム1の移動経路に依存することはない。
【符号の説明】
【0065】
1 プリズム
10 測量器
20 プリズム支持台
21 ロッド(棒状体)
22 回転台
22a L形部材
22b 回転軸
23 ボルト(固定具)
24 ナット
25 スラスト軸受
26 ラジアル軸受
27 ストッパー
28 ベース
28a 穴
30 コンピュータ
50 被測定対象物
100 自動追尾測量システム
CL1 ロッド仮想中心線
CL2 ボルト仮想中心線
P ロッド固定点(固定点)