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特開2025-4695自律神経分析装置、自律神経分析方法及び自律神経分析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004695
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】自律神経分析装置、自律神経分析方法及び自律神経分析システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/18 20060101AFI20250107BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20250107BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20250107BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20250107BHJP
【FI】
A61B5/18
A61B5/16 130
A61B5/11 110
B60W40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104554
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001106
【氏名又は名称】弁理士法人キュリーズ
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 知昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 優哉
(72)【発明者】
【氏名】山口 若菜
【テーマコード(参考)】
3D241
4C038
【Fターム(参考)】
3D241BA70
3D241CE01
3D241CE02
3D241DA03Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DD04Z
4C038PP05
4C038PQ04
4C038PS07
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB32
4C038VB33
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】車両内における生体情報の判定精度を向上させることが可能である。
【解決手段】車両の車両状態を計測する車両状態計測部110と、車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部310と、車両状態と、生体情報と、に基づいて、人物の自律神経の状態を推定する制御部と、を備え、制御部は、車両状態に基づいて、自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車両状態を計測する車両状態計測部と、
前記車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部と、
前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する
自律神経分析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両状態に基づいて、前記判定指標の比較対象としての第1判定閾値を当該第1判定閾値よりも小さい値の第2判定閾値に変更する
請求項1に記載の自律神経分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両状態として前記車両が走行中であることを示す場合、前記第1判定閾値を前記第2判定閾値に変更する
請求項2に記載の自律神経分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両状態として前記車両が走行中であることを示す場合、前記生体情報から時系列解析により前記人物の心拍間隔のばらつき度合いを求め、前記判定指標としての前記心拍間隔のばらつき度合いと、前記第2判定閾値と、に基づいて前記自律神経の状態を推定する
請求項2に記載の自律神経分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両状態として、前記車両が停車中であることを示し、且つ前記車両のエンジンがオン状態であることを示す場合、前記生体情報から時系列解析により前記人物の心拍間隔のばらつき度合いを求め、前記判定指標としての前記心拍間隔のばらつき度合いと、前記第2判定閾値と、に基づいて前記自律神経の状態を推定する
請求項2に記載の自律神経分析装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記車両状態として、前記車両が停車中であることを示し、且つ前記車両のエンジンがオフ状態であることを示す場合、前記生体情報から周波数解析により前記人物の交感神経の活性度を求め、前記判定指標としての前記人物の交換神経の活性度に基づいて、前記自律神経の状態を推定する
請求項1に記載の自律神経分析装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記生体情報に基づいて、前記自律神経の状態として前記人物の睡眠状態を判定する
請求項6に記載の自律神経分析装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記睡眠状態として前記人物が覚醒中であると判定する場合、前記判定指標の比較対象としての第3判定閾値を第4判定閾値に変更し、
前記第4判定閾値は、前記第3判定閾値よりも大きい値が設定される
請求項7に記載の自律神経分析装置。
【請求項9】
前記センサー部は、ミリ波センサーから構成されている
請求項1に記載の自律神経分析装置。
【請求項10】
前記センサー部は、光学センサーから構成されている
請求項1に記載の自律神経分析装置。
【請求項11】
車両の車両状態を計測するステップと、
前記車両内の人物の生体情報を計測するステップと、
前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定するステップと、
を含み、
前記推定するステップは、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更するステップを含む
自律神経分析方法。
【請求項12】
車両と、前記車両と通信可能なサーバーとを備える自律神経分析システムであって、
前記車両は、
前記車両の車両状態を計測する車両状態計測部と、
前記車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部と、
前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する
自律神経分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律神経分析装置、自律神経分析方法及び自律神経分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心拍、血圧、体温等の生体情報は、人体の生体状態を示す指標としてさまざまなところで利用されており、例えば、車両内の乗員の生体情報を取得し、活用する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、車両内で運転手が安静状態のときに運転手の生体情報を測定し、その測定結果を利用する技術が開示されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、車両の運転手の健康状態をモニタリングするために、運転手の業務状態とその運転手の心拍等の生体情報とに基づいて事故リスクの推定モデルを生成している。特許文献2では、この事故リスクの推定モデルにより運転手が事故に遭遇するリスクを推定することが可能になることが開示されている。
【0004】
なお、生体情報の1つである心拍は、ミリ波レーダーにより測定可能であることも一般的に知られている。例えば、特許文献3には、ミリ波を人体に照射し、人体から反射した反射波を計測することで、測定対象の人体に負担をかけることなく心拍を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5668524号
【特許文献2】特開2022-187790
【特許文献3】特許第6843093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術は、車両内の運転手の安静状態における心拍のみを計測し、活動状態の心拍を計測していない。このため、特許文献1においては、走行中の運転手の生体情報が正確に反映されていない。
【0007】
また、特許文献2に記載された技術において使用される事故リスクの推定モデルは、運転手の業務状態とその運転手の心拍等の生体情報とに基づいて生成されているが、車両が道路を走行中に生じる振動が運転手の心拍等の生体情報の計測に影響を与えることは考慮されていない。よって、特許文献2に記載された技術においては、そのような推定モデルによる運転手の健康状態の判定精度はよくない。
【0008】
また、例えば、特許文献3に記載のような技術により計測された心拍の精度は、車両内等の振動の大きい環境下では、振動の影響により悪化する可能性もある。
【0009】
このように、上述した従来の技術では、車両内等の振動の大きい環境において心拍等の生体情報の判定精度はよくない。このため、車両内等の振動の大きい環境における生体情報の判定精度には改善の余地がある。
【0010】
そこで、本開示は、車両内等の振動の大きい環境における生体情報の判定精度を向上させることが可能な自律神経分析装置、自律神経分析方法及び自律神経分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様に係る自律神経分析装置は、車両の車両状態を計測する車両状態計測部と、前記車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部と、前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する。
【0012】
第2の態様に係る自律神経分析方法は、車両の車両状態を計測するステップと、前記車両内の人物の生体情報を計測するステップと、前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定するステップと、を含み、前記推定するステップは、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更するステップを含む。
【0013】
第3の態様に係る自律神経分析システムは、車両と、前記車両と通信可能なサーバーとを備える自律神経分析システムであって、前記車両は、前記車両の車両状態を計測する車両状態計測部と、前記車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部と、前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、車両内等の振動の大きい環境における生体情報の判定精度を向上させることが可能な自律神経分析装置、自律神経分析方法及び自律神経分析システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1実施形態に係る自律神経分析システムの構成例を示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係る自律神経分析システムの機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態に係る自律神経分析システムの他の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係るサーバーの構成を示すブロック図である。
図5図5は、第1実施形態に係る全体の動作例を示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係る解析判定テーブル例を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る車両状態に応じた自律神経判定テーブル例を示す図である。
図8図8は、第1実施形態に係る車両状態に応じて車両の運転手の眠気を判定する判定指標の比較対象の変更例を示す図である。
図9図9は、第1実施形態に係る心拍精度に応じて変更した判定指標の精度例を示す図である。
図10図10は、第1実施形態に係る全体の他の動作例を示す図である。
図11図11は、第1実施形態に係る車両の運転手の生体情報に基づく睡眠状態判定テーブル例を示す図である。
図12図12は、第1実施形態に係る車両状態に応じた他の自律神経判定テーブル例を示す図である。
図13図13は、第1実施形態に係る車両状態に応じて車両の運転手の疲労感を判定する判定指標の変更例を示す図である。
図14図14は、第1実施形態に係る車両状態に応じて車両の運転手の眠気を判定する判定指標の他の変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図面を参照しながら、実施形態について説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0017】
(自律神経分析システムの構成例)
最初に、自律神経分析システムの構成例について説明する。
【0018】
図1は、第1実施形態に係る自律神経分析システムの構成例を示す図である。図1に示すように、自律神経分析システムは、計測装置100と、サーバー200と、センサー装置300とを備える。図1では、計測装置100及びセンサー装置300が車両内に設けられる一例を示す。計測装置100及びセンサー装置300のそれぞれの電力は、車両のバッテリから供給される。なお、計測装置100及びセンサー装置300のそれぞれの電力は車両のバッテリから供給されるため、計測装置100及びセンサー装置300のそれぞれは、常時オン状態であることを想定するが、電源供給構成は特にこれに限定されない。例えば、計測装置100及びセンサー装置300のそれぞれに内部電池が搭載されている構成であれば、車両のエンジンがオン状態のときには車両のバッテリから電力が供給され、車両のエンジンがオフ状態のときには内部電池から電力が供給されてもよい。
【0019】
第1実施形態に係る自律神経分析システムでは、センサー装置300を利用して、電磁波が車両内の運転手に送信される。以下では、センサー装置300を利用して、電磁波が車両内の運転手に加え不図示の同乗者にも送信され、複数人物の生体情報が混在した混在生体情報を取得する例について説明するが、センサー装置300により電磁波が送信されるのは車両内の運転手のみであってもよく、その場合、車両内の運転手の生体情報のみが取得されてもよい。運転手及び同乗者の各人体の表面において電磁波が反射し、その反射波を、センサー装置300において取得する。各人体では、呼吸によって皮膚が振動し、心臓の脈動によっても皮膚が振動する。呼吸及び脈をバイタルサインと呼ぶ。バイタルサインによる皮膚の振動により、各人体とセンサー装置300との間の距離が時間の経過とともに微小に変化する。センサー装置300では、反射波を、時系列解析及び周波数解析のうち少なくとも一方の解析をすることで、このような微小な変位を検出することができる。センサー装置300では、このような微小な変位を検出することで、呼吸数及び心拍数などのバイタルデータを生体情報として取得することができる。そして、サーバー200では、生体情報に、運転手及び同乗者のような複数人物の生体情報が混在している場合、各人物の生体情報を特定するようにしている。
【0020】
センサー装置300は、複数人物に向けて送信された電磁波の反射波を利用して、混在生体情報を取得する。そのため、センサー装置300では、電磁波を送信する送信部(又は照射部)と、反射波を受信する受信部(又は検出部)とを含んでもよい。センサー装置300が送信する電磁波は、特に限定するものではないが、第1実施形態では、センサー装置300がミリ波(例えば、30GHz~300GHzの電磁波)を測定するミリ波センサーを用いる例として説明する。センサー装置300が送信する電磁波は、マイクロ波(例えば、0.3GHz~30GHzの電磁波)、又は電波(例えば、30Hz~3THzの電磁波)など、ミリ波以外でもよい。
【0021】
なお、「混在生体情報」とは、例えば、複数人物の生体情報が混在した(又は複数人物の生体情報を含む)生体情報のことである。図1の例では、混在生体情報は、運転手の生体情報と、不図示の同乗者の生体情報とが混在した情報となる。一方、複数人物の生体情報が混在していない生体情報のことを、個別生体情報と称する場合がある。混在生体情報と、個別生体情報とを特に区別しない場合、生体情報と称する場合がある。
【0022】
センサー装置300は、取得した生体情報をサーバー200へ送信する。
【0023】
また、センサー装置300は、複数人物に向けて送信された電磁波の反射波を利用して、各人物の位置情報を取得する。具体的には、センサー装置300は、反射波に基づいて、各人物のセンサー装置300からの距離情報と、各人物のセンサー装置300に対する角度情報とを算出する。距離と角度とにより位置が表される。したがって、センサー装置300は、距離情報と角度情報とを位置情報として取得する。位置情報には、各人物の位置情報が含まれる。センサー装置300は、取得した位置情報をサーバー200へ送信する。
【0024】
サーバー200は、各人物の混在生体情報を特定する情報処理装置であってもよい。サーバー200は、位置情報に基づいて、混在生体情報に含まれる各人物の個別生体情報を特定する。
【0025】
なお、図1では、センサー装置300が運転手と対向する位置に設けられ一例について示されるが、特にこれに限定されない。センサー装置300は、例えば、運転手の頭上に設けられてもよい。
【0026】
また、例えば、センサー装置300は、車両内の人物の生体情報を取得できればよいため、車両内の人物の生体情報を取得できる構成であれば特に限定されない。例えば、運転手が装着する機器にセンサー装置の機能が設けられてもよい。具体的には、運転手が脈拍計測機能付きの腕時計を装着している場合、その腕時計が生体情報としての脈情報を取得してもよい。脈拍は、例えば、光学センサーにより計測可能である。具体的には、フォトダイオードから生体に向けて光を照射し、生体内を反射した光を光検出器により計測する。血管を流れる血液内の酸化ヘモグロビンは入射光を吸収する特性を有するため、心臓の脈動により変化する血管の容積が変化するつど、光の吸収量が変化し、その変化を脈波信号として時系列センシングすることで脈を計測可能である。
【0027】
サーバー200は、各種サービスを提供する機能を有する。サーバー200は、計測装置100と通信媒体を介して通信することにより、計測装置100との間で各種信号を送受信する。また、サーバー200は、センサー装置300と通信媒体を介して通信することにより、センサー装置300との間で各種信号を送受信する。図1の一例では、サーバー200は、計測装置100から受信した車両状態を示す車両状態情報と、センサー装置300から受信した生体情報と、に基づいて、運転手の自律神経の状態を推定する。
【0028】
なお、サーバー200はクラウドサーバーとして実現される構成であってもよい。
【0029】
また、通信媒体は、有線通信媒体及び無線通信媒体のいずれであってもよい。図1の一例では、通信媒体として無線通信媒体が使用される。また、無線通信媒体を介した通信における通信方式は、特に限定されるものではなく、例えば、IEEE802.11規格に準拠した無線LAN通信方式が採用される。
【0030】
(自律神経分析システムの機能構成例)
図2は、第1実施形態に係る自律神経分析システムの機能構成を示すブロック図である。
【0031】
計測装置100は、車両状態計測部110と、制御部120とを有する。車両状態計測部110は、速度計111と、加速度センサー112とを有する。速度計111は、車両の速度を検知し、速度情報として出力する。加速度センサー112は、車両の加速度を検知し、加速度情報として出力する。車両のエンジン回転数及び運転状態は、速度計111の検知結果と、加速度センサー112の検知結果とに基づいて、演算により導出されてもよい。
【0032】
なお、車両状態計測部110は、車両内のネットワークに接続され、車両の各種情報を取得可能である。例えば、エンジン回転数は、シャフトに設けられた磁気センサーの検知結果である回転数信号から得ることも可能である。また、車両状態計測部110は、車両内に設けられた各種ECU(Engine Control Unit)からエンジン回転数及び車両の運転状態を示す情報を取得してもよい。
【0033】
制御部120は、CPU121と、メモリー122と、通信モジュール123と、を有する。
【0034】
CPU121は、計測装置100を制御する機能を有する。
【0035】
メモリー122は、CPU121が読み取り可能な非一時的な記録媒体である。メモリー122は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)から構成される。メモリー122は、計測装置100を制御するための各種プログラム、データ等を保持する。
【0036】
通信モジュール123は、通信媒体を介して、外部機器と通信可能な機能を有する。例えば、通信モジュール123は、無線通信媒体を介して、サーバー200と各種信号を送受信する。なお、通信モジュール123は、有線通信媒体を介して、サーバー200と各種信号を送受信してもよい。また、通信モジュール123により、センサー装置300と計測装置100との間でピアツーピア通信が行われてもよい。
【0037】
なお、計測装置100は、デジタルタコグラフとして構成されてもよい。
【0038】
また、図2に示すように、センサー装置300は、センサー部310と、制御部320と、を有する。
【0039】
センサー部310は、シンセサイザ311と、送信アンテナ312と、受信アンテナ313と、ミキサ314と、ADC315と、DSP316と、を有する。シンセサイザ311、送信アンテナ312、受信アンテナ313、及びミキサ314は、RF(Radio Frequency)部として機能する。
【0040】
シンセサイザ311は、周波数変調された送信信号を出力する。送信信号は、例えば、時間の経過とともに周期的に周波数が増加する信号である。送信信号は、例えば、時間の経過とともに周期的に周波数が減少する信号であってもよい。
【0041】
なお、センサー装置300は、時間の経過とともに周期的に周波数が増加する信号と、時間の経過とともに周期的に周波数が減少する信号とのそれぞれにつき、ビート信号を生成し、ドップラーシフトを利用して人物の距離、人物の角度、人物の速度を演算する。ここで、人物の速度とは、呼吸及び心拍による人物の体表面振動に相当する。
【0042】
送信信号の周波数は、例えば、ミリ波として用いられる周波数である。よって、送信信号の周波数は、電磁波の中で、周波数が30GHz~300GHzの電磁波である。シンセサイザ311は、送信信号の周波数をミリ波の周波数帯の周波数まで上昇させる。シンセサイザ311は、周波数が上昇した送信信号を送信アンテナ312及びミキサ314に供給する。
【0043】
なお、送信信号の周波数は、ミリ波の周波数帯に限定されない。
【0044】
送信アンテナ312は、シンセサイザ311から供給された送信信号を送信波として送信する。送信アンテナ312から送信された送信波は人物へ送信される。送信波は、人物によって反射され、反射波としてセンサー装置300へ向かう。
【0045】
受信アンテナ313は、反射波を受信する。受信アンテナ313は、例えば、複数のアンテナを含んで構成される。受信アンテナ313は、受信した反射波を受信信号としてミキサ314に供給する。
【0046】
ミキサ314は、受信アンテナ313から供給された受信信号を、シンセサイザ311から供給された受信信号に混合して掛け合わせることにより、ビート信号を生成する。よって、ビート信号は、送信信号と受信信号とにより生成される。ミキサ314は、ビート信号に周波数変換を行うことにより、ビート信号の周波数を中間周波数まで低下させる。ミキサ314は、中間周波数まで低下させたビート信号をADC315に供給する。
【0047】
ADC315は、ミキサ314から供給されたアナログのビート信号をデジタルのビート信号に変換する。ADC315は、デジタルのビート信号をDSP316に供給する。
【0048】
DSP316は、ADC315から供給されたデジタルのビート信号に基づいて、人物の位置、人物の向き、及び人物の心拍間隔を演算する。
【0049】
具体的には、DSP316は、デジタルのビート信号からIQデータである同相直交信号としてのI/Q信号を生成する。DSP316は、I/Q信号から同相信号としてのI信号と、直交信号としてのQ信号と、を導出する。DSP316は、I信号とQ信号とに基づいて、人物の位置、人物の向き、及び人物の速度を演算する。DSP316は、人物の速度に基づいて、人物の心拍間隔を演算する。人物の位置、人物の向き、及び人物の心拍間隔の演算の一例は、図9図13を用いて後述される。
【0050】
概略的に説明すると、DSP316は、受信信号のレベルが最大値をとる場合における位相成分の角度を測定ターゲットの到来角度、すなわち、センサー装置300に対する人物の角度として推定することができる。
【0051】
また、DSP316は、ドップラーシフトの時間差に基づいて、測定ターゲットの距離、すなわち、センサー装置300に対する人物の距離を推定することができる。
【0052】
測定ターゲットとなる人物の位置及び人物の速度を演算する方法はFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式で得ることができる。人物の位置は、人物の距離と人物の角度とから得られるため、人物の距離及び人物の角度が得られればよい。
【0053】
例えば、人物の距離は、送信信号に対する受信信号の周波数の変化量から得られる。人物の速度は、送信信号の位相と受信信号の位相との位相差から得られる。人物の角度は、複数のアンテナで受信した受信信号の位相差から得られる。
【0054】
なお、距離分解能は帯域幅によって決定される。速度分解能は波長とフレーム時間によって決定される。角度分解能は受信に用いるアンテナの本数によって決定される。
【0055】
なお、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式は一般的な方法であるため、その具体的な説明は省略される。
【0056】
また、DSP316においてデジタルのビート信号からI/Q信号が生成される一例について説明したが、これに限定されない。例えば、DSP316の前工程のADC315において、デジタルのビート信号からI/Q信号が生成され、生成されたアナログのI/Q信号がDSP316に提供されてもよい。
【0057】
制御部320は、CPU321と、メモリー322と、通信モジュール323と、を有する。
【0058】
CPU321は、センサー装置300を制御する機能を有する。
【0059】
メモリー322は、CPU321が読み取り可能な非一時的な記録媒体である。メモリー322は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)から構成される。メモリー322は、センサー装置300を制御するための各種プログラム、データ等を保持する。
【0060】
通信モジュール323は、通信媒体を介して、外部機器と通信可能な機能を有する。例えば、通信モジュール323は、無線通信媒体を介して、サーバー200と各種信号を送受信する。なお、通信モジュール323は、有線通信媒体を介して、サーバー200と各種信号を送受信してもよい。また、通信モジュール323により、センサー装置300と計測装置100との間でピアツーピア通信が行われてもよい。
【0061】
(自律神経分析システムの他の機能構成例)
図3は、第1実施形態に係る自律神経分析システムの他の機能構成を示すブロック図である。図3において、図2との相違点は、図2の制御部120及び制御部320の機能が図3の制御部520として統合され、車両状態計測部510と、センサー部530とで共通して同じ制御機能を使用する点である。
【0062】
制御部520は、CPU521、メモリー522、及び通信モジュール523を有する。CPU521は、図2のCPU121及びCPU321と同一の機能を有する。メモリー522は、図2のメモリー122及びメモリー322と同一の機能を有する。通信モジュール523は、図2の通信モジュール123及び通信モジュール323と同一の機能を有する。
【0063】
なお、速度計511と加速度センサー512とを有する車両状態計測部510と、図2の速度計111と加速度センサー112とを有する車両状態計測部110とは同一の機能構成であるため、それらの説明については省略する。
【0064】
また、シンセサイザ531、送信アンテナ532、受信アンテナ533、ミキサ534、ADC535、及びDSP536を有するセンサー部530は、図2のシンセサイザ331、送信アンテナ332、受信アンテナ333、ミキサ334、ADC335、及びDSP336を有するセンサー部330とは同一の機能構成であるため、それらの説明については省略する。
【0065】
制御部520は、車両状態計測部510から取得した車両状態を示す情報と、センサー部530から取得した生体情報とを集約する。集約された車両状態を示す情報及び生体情報は、制御部520の通信モジュール523によりサーバー200へ送信される。
【0066】
(サーバーの構成例)
図4は、第1実施形態に係るサーバー200の構成を示すブロック図である。図4に示すように、サーバー200は、CPU201と、メモリー202と、通信モジュール203と、を有する。
【0067】
CPU201は、サーバー200を制御する機能を有する。
【0068】
メモリー202は、CPU201が読み取り可能な非一時的な記録媒体である。メモリー202は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)から構成される。メモリー202は、サーバー200を制御するための各種プログラム、データ等を保持する。
【0069】
通信モジュール203は、通信媒体を介して、外部機器と通信可能な機能を有する。例えば、通信モジュール203は、無線通信媒体を介して、計測装置100及びセンサー装置300のそれぞれと各種信号を送受信する。なお、通信モジュール203は、有線通信媒体を介して、計測装置100及びセンサー装置300のそれぞれと各種信号を送受信してもよい。
【0070】
(全体動作例)
図5は、第1実施形態に係る全体の動作例を示す図である。
【0071】
図5に示すように、自律神経分析システムは、処理を開始すると、車両状態を計測する(ステップS11)。具体的には、車両状態計測部110は、車両の車両状態を計測する。車両の車両状態とは、車両の振動の程度を示す情報であり、代表的には、エンジンがオン状態及びオフ状態のいずれであるかを示すエンジン情報、車両の車両速度を示す車速情報、及び運転状態を示す運転状態情報である。車速情報は、車両本体が動いているか否かを示す情報である。よって、エンジン情報は、車速情報と組み合わせることで、車両が、走行中及び停止(駐車)中のいずれを判定可能な情報である。運転状態情報は、車両の運転モードが自動運転モードであるか否かを示す情報である。車両の運転モードが自動運転モードである場合には、後述するように、運転手の状態が仮眠状態であるか否かを判定することが可能となる。
【0072】
次に、自律神経分析システムは、運転手の状態を計測する(ステップS12)。具体的には、センサー部310は、車両内の人物の生体情報を計測する。生体情報は、運転手の在不在を判定するのに利用される情報である。また、生体情報は、車両内の人物の心拍数、呼吸、及び体動の計測結果を示す情報としても利用される情報である。
【0073】
次に、自律神経分析システムは、予め設定された時間が経過したか否かを判定することで(ステップS13)、時系列解析を行うために必要な情報をサーバー200に蓄積させる。
【0074】
次に、自律神経分析システムは、時系列解析が可能であるか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、サーバー200は、エンジン情報、運転状態情報、及び車速情報に基づいて、車両の運転状況、走行中であるか否か、停止(駐車)中であるか否かを判定することで、時系列解析が可能であるか否かを判定する。
【0075】
図6は、第1実施形態に係る解析判定テーブル例を示す図である。図7は、第1実施形態に係る車両状態に応じた自律神経判定テーブル例を示す図である。
【0076】
図6に示すように、サーバー200は、車両のエンジンがオフであれば、車両は停止していると判断する。サーバー200は、車両のエンジンがオンであれば、車両が走行中であるか否かにより、運転状況のロードノイズが除去可能か否かを判定する。車両が停止中であって、車両のエンジンがオンであれば、固定周期のエンジンノイズが発生している。この場合には、固定周期のエンジンノイズであるため、ノイズ除去はしやすくなる。一方、車両が走行中であれば、不定期のロードノイズが発生するため、ノイズ除去は難しくなる。
【0077】
ここで、時系列解析は、例えば、CVRR(co-efficient of variation of RR interval)又はNN50(迷走神経緊張強度の指標)の場合には、数十msec程度(BPM(Beats Per Minute)レベル)の誤差が許容される。よって、サーバー200は、車両が走行中であっても一般道を走行中であれば、時系列解析が可能であると判定し(ステップS14;YES)、時系列解析を行う(ステップS15)。一方、サーバー200は、車両が走行中であり、且つ高速道を走行中であれば、時系列解析が不可能であると判定し(ステップS14;NO)、周波数解析の処理も行わない。
【0078】
なお、NN50とは、迷走神経緊張強度の指標として利用され、連続した隣接する心拍間隔(RR間隔)のうち、差が50msを超える心拍間隔を示す。ここでは、CVRRの一例について具体的に説明する。CVRRとは、心拍の時系列データの標準偏差を平均で割った値である。よって、CVRRの値は、人物の心拍間隔のばらつき度合いを示す。CVRRの値が大きいほど、データのばらつきは大きい。より具体的には、RR intervalとは、心拍間隔としてのR波とR波との間隔のことであり、RRIと称される。R波は、人物の心臓の左心室が動いたときに生じる最も大きな波である。RRIの値は、リラックスしており、自律神経が正常であれば、一定ではない。一方、RRIの値は、ストレスを受け、自律神経が乱れている場合、一定となる。よって、CVRRの値が大きいほど、データのばらつきが大きいため、リラックスしていることを示す。つまり、運転手は眠気有と想定される。一方、CVRRの値が小さいほど、データのばらつきが小さく、ストレスを受けた状態であることを示す。つまり、運転手は眠気無と想定される。
【0079】
ここで、周波数解析は、心拍間隔を精度よく取得する必要があるため、数msecの誤差しか許容されない。よって、時系列解析が可能でなければ、周波数解析は行わない処理としている。つまり、図7に示すように、時系列解析による生体情報としての心拍精度は、停止中且つエンジンがオフ>停止中且つエンジンがオン>走行中の順となっている。また、周波数解析は、停車中且つエンジンがオフの場合にのみ、生体情報としての心拍精度は利用可能な精度となる。
【0080】
次に、サーバー200は、周波数解析が可能か否かを判定し(ステップS16)、周波数解析が可能であると判定した場合(ステップS16;YES)、周波数解析を行う(ステップS17)。
【0081】
具体的には、周波数解析では、サーバー200のCPU201は、心拍間隔の経時的な変化から、呼吸変動に対応する高周波変動成分(HF成分)と、血圧変動であるメイヤー波に対応する低周波成分(LF成分)とを抽出する。ここで、心拍間隔の経時的な変化は、時系列解析により抽出されたものを利用する。また、呼吸変動に対応するHF成分は、副交感神経が活性化している場合にのみ心拍間隔の経時的な変動に出現することが知られている。一方、血圧変動であるメイヤー波に対応するLF成分は、交感神経が活性化しているときだけでなく、副交感神経が活性しているときにも心拍間隔の経時的へ変動に出現することが知られている。
【0082】
よって、LFとHFとの比として、LF/HFを交換神経の活性度とすれば、交感神経及び副交感神経のいずれが優位となっているかを判定することができる。例えば、交感神経が優位にある場合、心拍間隔の経時的な変動にはLF成分が出現するが、HF成分は減少するため、LF/HFの値は大きくなる。一方、副交感神経が優位にある場合、相対的にHF成分がLF成分よりも大きくなるため、LF/HFの値は小さくなる。したがって、交感神経の活性度(LF/HF)は、車両の人物の自律神経の状態を示す情報として利用可能である。
【0083】
一方、サーバー200は、周波数解析が不可能であると判定した場合(ステップS16;NO)、周波数解析を行わない。図6に示すように、車両のエンジンがオフであり、且つ停止(駐車)中である場合、サーバー200は、周波数解析を行う。
【0084】
次に、サーバー200は、車両状態と運転手の状態に応じてメモリー202にデータを格納する(ステップS18)。例えば、サーバー200は、時系列解析により心拍を解析した場合には、解析した心拍を時系列形式データにするととともに、車両が走行中及び駐車中のいずれであるかを示す情報を格納する。この格納結果を用いた心拍を精度よく判定する一例について図8及び図9を用いて説明する。
【0085】
図8は、第1実施形態に係る車両状態に応じて車両の運転手の眠気を判定する判定指標の比較対象の変更例を示す図である。図9は、第1実施形態に係る心拍精度に応じて変更した判定指標の精度例を示す図である。
【0086】
サーバー200の制御部として機能するCPU201は、計測装置100から取得した車両状態を示す情報と、センサー装置300から取得した生体情報とに基づいて、車両内の人物の自律神経の状態を推定する。自律神経の状態の解釈として、例えば、図8に示すように、運転手の眠気の有無を判定する。ただし、解析した心拍間隔の精度は、車両状態、すなわち、車両が走行中である場合と、車両が駐車中である場合とで異なる。そこで、図8に示すように、CPU201は、車両状態に基づいて、自律神経の状態の推定に用いる判定指標の比較対象を変更する。具体的には、車両が走行中である場合、解析した心拍間隔の誤差が大きくなる。よって、運転手の眠気を確実に捉えるために、図8に示すように、CPU201は、車両状態に基づいて、判定指標の比較対象としての第1判定閾値を当該第1判定閾値よりも小さい値の第2判定閾値に変更する。
【0087】
より具体的には、CPU201は、車両状態として車両が走行中であることを示す場合、生体情報から時系列解析により人物の心拍間隔のばらつき度合い(CVRR)を求め、心拍間隔のばらつき度合い(CVRR)と、第2判定閾値と、に基づいて、人物の自律神経の状態を推定する。つまり、CPU201は、車両が走行中であることを示す場合、人物の心拍間隔を求め、求めた心拍間隔に基づいてCVRRを求め、CVRRの値を利用して、車両内の人物の自律神経の状態を推定する。CVRRの値は、大きいほど、車両内の人物がリラックスしていることを示すことが想定される。ただし、CVRRの値の演算で用いた心拍間隔は、センサー装置300から得ている。センサー装置300から得られる心拍間隔は、車両が振動するほど精度が悪化する。
【0088】
具体的には、車両が走行中の場合、車両が駐車中と比べて、センサー装置300から得た心拍間隔の精度は悪くなる。そこで、CPU201は、車両が走行中の場合には、時系列解析により心拍間隔を求め、周波数解析は行わない。一方、CPU201は、車両が停車中であり、且つ車両のエンジンがオン状態であれば時系列解析を行い、車両が停車中であり、且つ車両のエンジンがオフ状態であれば時系列解析だけでなく、周波数解析も行う。周波数解析を用いれば、交感神経及び副交感神経のいずれがより活性化しているかを判定できる。よって、判定指標として、CVRRの値だけでなく、交感神経の活性度(LF/HF)を用いることができるため、自律神経の状態の推定精度をさらに向上させることが可能となる。すなわち、本開示によれば、生体情報の判定精度を向上させることができる。
【0089】
また、停車中にエンジンがオン状態である場合には、心拍データとしての心拍間隔には固定周期のエンジンノイズが含まれているが、固定周期のエンジンノイズは特定の周波数成分のノイズであるため、フィルタ回路等により容易に除去が可能である。よって、固定周期のエンジンノイズを除去後に、CVRRの値を求めることができるので、判定指標としてのCVRRの値の精度を向上させることができる。
【0090】
(他の動作例)
図10は、第1実施形態に係る全体の他の動作例を示す図である。図10のステップS41~ステップS43の処理は、図5のステップS11~ステップS13の処理と同様である。図10のステップS45~ステップS50の処理は、図5のステップS14~ステップS19の処理と同様である。これらの同様の処理についての説明は省略する。図10のステップS44の処理が、図5のステップS13の処理に相当する図10のステップS43の処理と、図5のステップS14の処理に相当する図10のステップS45の処理との間に追加されている。
【0091】
サーバー200は、車両内の人物の睡眠状態を判定する(ステップS44)。ここで、睡眠状態とは、車両内の人物が覚醒及び仮眠のいずれの状態である。睡眠状態の判定に用いる生体情報について、図11を用いて説明する。図11は、第1実施形態に係る車両の運転手の生体情報に基づく睡眠状態判定テーブル例を示す図である。図11に示すように、睡眠状態の判定に用いる生体情報は、心拍数、呼吸数、及び体動である。仮眠の状態と比べ、覚醒の状態の方が、車両内の人物の心拍数、呼吸数、及び体動のそれぞれは多いことが知られている。例えば、覚醒の状態であると判定可能な心拍数、呼吸数、及び体動のそれぞれの覚醒判定閾値を予め導出しておき、各覚醒判定閾値と、生体情報に含まれる心拍数、呼吸数、及び体動のそれぞれとを比較することで、車両内の人物が覚醒の状態であるか否かを判定してもよい。また、仮眠の状態であると判定可能な心拍数、呼吸数、及び体動のそれぞれの仮眠判定閾値を予め導出しておき、各仮眠判定閾値と、生体情報に含まれる心拍数、呼吸数、及び体動のそれぞれとを比較することで、車両内の人物が仮眠の状態であるか否かを判定してもよい。
【0092】
次に、睡眠状態を考慮に入れた上で、判定指標を用いる処理について、図12図14を用いて説明する。
【0093】
図12は、第1実施形態に係る車両状態に応じた他の自律神経判定テーブル例を示す図である。覚醒の状態は、仮眠の状態と比べ、交感神経が副交感神経よりも優位になる。よって、図12に示すように、走行中、停車中、及び駐車中のいずれにおいても、覚醒の状態と、仮眠の状態とで、自律神経判定テーブルを分ける必要がある。
【0094】
図13は、第1実施形態に係る車両状態に応じて車両の運転手の疲労感を判定する判定指標の変更例を示す図である。図13では、交感神経の活性度(LF/HF)が、判定指標として利用される一例が示される。覚醒中、交感神経が副交感神経と比べて優位になるため、LF/HFのうち、LFが相対的に大きくなる。よって、図13に示すように、サーバー200は、覚醒の状態では、判定指標の比較対象としての閾値を、仮眠の状態と比べ、高めに設定する。つまり、サーバー200のCPU201は、睡眠状態として人物が覚醒中であると判定する場合、判定指標(LF/HF)の比較対象としての第3判定閾値を第4判定閾値に変更する。ここで、第4判定閾値は、第3判定閾値よりも大きい値が設定される。例えば、図13では、駐車中且つ覚醒における「疲労」及び「通常」を判定する第4判定閾値のそれぞれが、8、4に設定されている。図13では、駐車中且つ仮眠における「疲労」及び「通常」を判定する第3判定閾値のそれぞれが、5、2に設定されている。このように、交感神経が優位のときには、適宜各閾値を高めに設定することで、誤判定を防ぐことが可能となる。
【0095】
なお、覚醒の状態であっても、走行中は誤差が大きくなる。よって、眠気を確実に捉えるため、閾値を下げる。図14は、第1実施形態に係る車両状態に応じて車両の運転手の眠気を判定する判定指標の他の変更例を示す図である。図14に示すように、車両が走行中且つ車両内の人物が覚醒の状態のときには、車両が駐車中且つ車両内の人物が覚醒の状態のときと比べ、判定指標としてのCVRRの比較対象である閾値を下げる。
【0096】
なお、上述の各動作フローは、別個独立に実施する場合に限らず、2以上の動作フローを組み合わせて実施可能である。例えば、1つの動作フローの一部のステップを他の動作フローに追加してもよいし、1つの動作フローの一部のステップを他の動作フローの一部のステップと置換してもよい。各フローにおいて、必ずしも全てのステップを実行する必要は無く、一部のステップのみを実行してもよい。
【0097】
上述の実施形態に係る動作をコンピュータに実行させるプログラムが提供されてもよい。プログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにプログラムをインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMやDVD-ROM等の記録媒体であってもよい。また、上述の実施形態に係る各装置が行う各処理を実行する回路を集積化し、当該装置の少なくとも一部を半導体集積回路(チップセット、SoC)として構成してもよい。
【0098】
上述の実施形態において、車両の振動の程度を示す情報である車両の車両状態に応じて、センサー装置300又はセンサー部530により取得された対象者の生体情報を用いた自律神経の推定手法を変更する例について説明した。これは、例えば、車両が走行中である場合、エンジンが起動していることにより生じるエンジンノイズや、車両が走行する路面の凹凸により生じるロードノイズが、生体情報に加わるのに対し、車両が停止中かつエンジンが停止している場合には、エンジンノイズやロードノイズは生体情報に加わらないことに起因する。ノイズが加わった生体情報と、ノイズが加わっていない生体情報と、を同一の手法を用いて解析した場合、解析結果として得られる自律神経推定の精度が悪化するため、車両の車両状態にもとづき振動の程度を把握することで、得られた生体情報に加わっているノイズの程度を把握し、ノイズの程度に応じて自律神経の推定手法を変更する。これにより精度の高い自律神経推定の結果を得ることが可能となる。
【0099】
上述の実施形態において、車両の振動の程度を示す情報である車両の車両状態に応じて、センサー装置300又はセンサー部530により取得された対象者の生体情報を用いた自律神経の推定解析する手法を変更する例について説明したが、本開示の適用先は上述のものに限られず、振動環境下で生体情報に基づき自律神経を推定する状況であれば適用可能である。例えば、生体情報が取得される環境における振動の程度を、加速度センサーによる計測結果に基づいて把握し、当該環境における振動の程度に応じて、取得された生体情報を用いた自律神経の推定手法を変更させてもよい。本開示の適用先として、例えば、屋内ジェットコースターなどのアトラクションが考えられる。ジェットコースターに取り付けられた加速度センサーの出力に応じて、ジェットコースターに搭乗する乗客の生体情報に基づく自律神経の推定手法を変更させることで、乗客の自律神経を正確に推定することが可能になる。推定された自律神経に基づき、乗客の興奮度や快適度等を解析することで、ジェットコースターの走行環境に投影する映像等の内容を乗客にとってより適切なものに変更することが可能となる。また、本開示の他の適用先として、例えば、工事現場が考えられる。工事現場に取り付けられた加速度センサーの出力に応じて、工事現場で作業する作業者の生体情報に基づく自律神経の推定手法を変更させることで、作業者の自律神経を正確に推定することが可能になる。推定された自律神経に基づき、作業者の疲労やストレスを解析することで、作業者に対し、より適切なタイミングで休憩を促すことが可能となる。
【0100】
本開示で使用されている「に基づいて(based on)」、「に応じて(depending on/in response to)」という記載は、別段に明記されていない限り、「のみに基づいて」、「のみに応じて」を意味しない。「に基づいて」という記載は、「のみに基づいて」及び「に少なくとも部分的に基づいて」の両方を意味する。同様に、「に応じて」という記載は、「のみに応じて」及び「に少なくとも部分的に応じて」の両方を意味する。「含む(include)」、「備える(comprise)」、及びそれらの変形の用語は、列挙する項目のみを含むことを意味せず、列挙する項目のみを含んでもよいし、列挙する項目に加えてさらなる項目を含んでもよいことを意味する。また、本開示において使用されている用語「又は(or)」は、排他的論理和ではないことが意図される。さらに、本開示で使用されている「第1」、「第2」等の呼称を使用した要素へのいかなる参照も、それらの要素の量又は順序を全般的に限定するものではない。これらの呼称は、2つ以上の要素間を区別する便利な方法として本明細書で使用され得る。したがって、第1及び第2の要素への参照は、2つの要素のみがそこで採用され得ること、又は何らかの形で第1の要素が第2の要素に先行しなければならないことを意味しない。本開示において、例えば、英語でのa,an,及びtheのように、翻訳により冠詞が追加された場合、これらの冠詞は、文脈から明らかにそうではないことが示されていなければ、複数のものを含むものとする。
【0101】
以上、図面を参照して実施形態について詳しく説明したが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0102】
(付記)
上述の実施形態に関する特徴について付記する。
【0103】
(付記1)
車両の車両状態を計測する車両状態計測部(110)と、
前記車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部(310)と、
前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定する制御部(201)と、
を備え、
前記制御部(201)は、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する
自律神経分析装置。
【0104】
(付記2)
前記制御部(201)は、前記車両状態に基づいて、前記判定指標の比較対象としての第1判定閾値を当該第1判定閾値よりも小さい値の第2判定閾値に変更する
付記1に記載の自律神経分析装置。
【0105】
(付記3)
前記制御部(201)は、前記車両状態として前記車両が走行中であることを示す場合、前記第1判定閾値を前記第2判定閾値に変更する
付記2に記載の自律神経分析装置。
【0106】
(付記4)
前記制御部(201)は、前記車両状態として前記車両が走行中であることを示す場合、前記生体情報から時系列解析により前記人物の心拍間隔のばらつき度合い(CVRR)を求め、前記判定指標としての前記心拍間隔のばらつき度合い(CVRR)と、前記第2判定閾値と、に基づいて前記自律神経の状態を推定する
付記2に記載の自律神経分析装置。
【0107】
(付記5)
前記制御部(201)は、前記車両状態として、前記車両が停車中であることを示し、且つ前記車両のエンジンがオン状態であることを示す場合、前記生体情報から時系列解析により前記人物の心拍間隔のばらつき度合い(CVRR)を求め、前記判定指標としての前記心拍間隔のばらつき度合い(CVRR)と、前記第2判定閾値と、に基づいて前記自律神経の状態を推定する
付記2に記載の自律神経分析装置。
【0108】
(付記6)
前記制御部(201)は、前記車両状態として、前記車両が停車中であることを示し、且つ前記車両のエンジンがオフ状態であることを示す場合、前記生体情報から周波数解析により前記人物の交感神経の活性度を求め、前記判定指標としての前記人物の交換神経の活性度(LF/HF)に基づいて、前記自律神経の状態を推定する
付記1に記載の自律神経分析装置。
【0109】
(付記7)
前記制御部(201)は、前記生体情報に基づいて、前記自律神経の状態として前記人物の睡眠状態を判定する
付記6に記載の自律神経分析装置。
【0110】
(付記8)
前記制御部(201)は、前記睡眠状態として前記人物が覚醒中であると判定する場合、前記判定指標の比較対象としての第3判定閾値を第4判定閾値に変更し、
前記第4判定閾値は、前記第3判定閾値よりも大きい値が設定される
付記7に記載の自律神経分析装置。
【0111】
(付記9)
前記センサー部(310)は、ミリ波センサーから構成されている
付記1に記載の自律神経分析装置。
【0112】
(付記10)
前記センサー部(310)は、光学センサーから構成されている
付記1に記載の自律神経分析装置。
【0113】
(付記11)
車両の車両状態を計測するステップと、
前記車両内の人物の生体情報を計測するステップと、
前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定するステップと、
を含み、
前記推定するステップは、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更するステップを含む
自律神経分析方法。
【0114】
(付記12)
車両と、前記車両と通信可能なサーバー(200)とを備える自律神経分析システムであって、
前記車両は、
前記車両の車両状態を計測する車両状態計測部(110)と、
前記車両内の人物の生体情報を計測するセンサー部(310)と、
前記車両状態と、前記生体情報と、に基づいて、前記人物の自律神経の状態を推定する制御部(201)と、
を備え、
前記制御部(201)は、前記車両状態に基づいて、前記自律神経の状態の推定に用いる判定指標を変更する
自律神経分析システム。
【符号の説明】
【0115】
1 自律神経分析システム、100 計測装置、110 車両状態計測部、111 速度計、112 加速度センサー、120 制御部、121 CPU、122 メモリー、123 通信モジュール、200 サーバー、201 CPU、202 メモリー、203 通信モジュール、300 センサー装置、310 センサー部、311 シンセサイザ、312 送信アンテナ、313 受信アンテナ、314 ミキサ、315 ADC、316 DSP、320 制御部、321 CPU、322 メモリー、323 通信モジュール、510 車両状態計測部、511 速度計、512 加速度センサー、520 制御部、521 CPU、522 メモリー、530 センサー部、531 シンセサイザ、532 送信アンテナ、533 受信アンテナ、534 ミキサ、535 ADC、536 DSP
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14