(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004706
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】情報処理方法及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20250107BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20250107BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20250107BHJP
A61B 5/024 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/11 230
A61B5/16 130
A61B5/16 120
A61B5/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104572
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】516259468
【氏名又は名称】一般社団法人ブレインインパクト
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】山川 義徳
(72)【発明者】
【氏名】菅野 圭子
(72)【発明者】
【氏名】倉田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】澤木 俊希
(72)【発明者】
【氏名】高田 和憲
(72)【発明者】
【氏名】難波 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲史
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AA12
4C017AA20
4C017AB02
4C017AC26
4C017BB12
4C017BC11
4C017CC02
4C017CC08
4C017DD17
4C017FF17
4C038PP03
4C038PP05
4C038PQ06
4C038PS00
4C038PS05
4C038PS07
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB31
4C038VC20
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】病院等の検査機関に通うことなく、日常生活等を営みながら簡易にBHQを知ることを可能にする情報処理方法を提供する。
【解決手段】情報処理方法は、コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQを推定する脳健康管理指標推定方法であって、身体に装着される計測器21から複数のバイタルデータを取得する取得ステップS10と、取得した複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップ(分類ステップS11、算出ステップS12、出力ステップS13)とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、
日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する取得ステップと、
取得した前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む、
情報処理方法。
【請求項2】
前記複数のバイタルデータは、安静時のバイタルデータ、睡眠に関するバイタルデータ、及び、運動に関するバイタルデータの少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記複数のバイタルデータは、安静時の心拍数、深い睡眠時間、及び、一定期間における歩数を含む、
請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記推定ステップは、取得した前記複数のバイタルデータから、決定木分析を用いて複数のカテゴリのいずれかに分類する分類ステップを含む、
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記推定ステップは、さらに、前記分類ステップで分類されたカテゴリと人の年齢とから前記BHQを算出する算出ステップを含む、
請求項4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記推定ステップでは、取得した前記複数のバイタルデータの積和演算を行うことで、前記BHQを算出する、
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項7】
コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、
人を撮影した映像データ及び人の声を集音した音データの少なくとも一つを取得する取得ステップと、
取得した前記映像データ及び音データの少なくとも一つから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む、
情報処理方法。
【請求項8】
前記推定ステップでは、前記映像データ及び音データの少なくとも一つに含まれる前記人の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つを用いて、前記BHQを算出する、
請求項7に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記推定ステップでは、前記取得ステップで取得したデータから、推定値としての脳の部位別BHQを算出して出力する、
請求項1又は7に記載の情報処理方法。
【請求項10】
前記推定ステップでは、さらに、前記部位別BHQから、推定値としての全脳BHQを算出する、
請求項9に記載の情報処理方法。
【請求項11】
さらに、前記推定ステップで推定した前記BHQに基づいて、前記人の将来のBHQを予測する予測ステップを含む、
請求項1又は7に記載の情報処理方法。
【請求項12】
さらに、前記推定ステップで算出した前記部位別BHQを用いて、前記人の脳のタイプを分類する分類ステップを含む、
請求項9に記載の情報処理方法。
【請求項13】
請求項1又は7に記載の情報処理方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項14】
人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理装置であって、
日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する入力回路を含む取得部と、
前記取得部で取得された前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力するプロセッサを含む制御部とを備える、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理方法及び情報処理装置に関し、特に、人の脳の健康管理指標であるBHQを推定する情報処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人を理解する上で核となる「脳の健康」が注目され、脳解析情報を扱い易い値に変換し、健康の指標として使用することができる脳情報解析装置及び脳健康管理指標演算装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の技術によれば、MRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像法)が出力する脳画像データを用いて、脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定している。BHQは、より詳しくは、脳の灰白質と呼ばれる領域の“量”と、脳の白質と呼ばれる領域の神経線維のまとまり具合である“質”とを指標化したものであり、2018年に国際標準化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、病院等の専門の検査機関においてMRIによる検査を受けないとBHQが判明しないという不便さがある。
【0006】
そこで、本開示は、病院等の検査機関に通うことなく、日常生活等を営みながら簡易にBHQを知ることを可能にする情報処理方法及び情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る情報処理方法は、コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する取得ステップと、取得した前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る情報処理装置は、人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理装置であって、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する入力回路を含む取得部と、前記取得部で取得された前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力するプロセッサを含む制御部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、病院等の検査機関に通うことなく、日常生活等を営みながら簡易にBHQを知ることを可能にする情報処理方法及び情報処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る脳健康管理指標推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、バイタルデータの具体例を示す図である。
【
図3】
図3は、脳健康管理指標推定装置が決定木分析を用いて推定値としてのBHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の分類ステップで用いられる決定木分析を説明する図である。
【
図5】
図5は、
図4に示される決定木分析によって分類される4つのカテゴリを説明する図である。
【
図6】
図6は、
図4に示される決定木分析を用いて推定したBHQと真値との相関についての実験結果を示す図である。
【
図7】
図7は、脳健康管理指標推定装置が積和演算を用いて推定値としてのBHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、式2及び式3で示される積和演算によって推定したBHQと真値との相関についての実験結果を示す図である。
【
図9】
図9は、脳健康管理指標推定装置が推定値としての脳の部位別BHQ及び全脳BHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、脳の90項目の部位をクラスタ分析した結果を示す図である。
【
図11】
図11は、
図10に示される数種類の機能カテゴリの部位別BHQを用いて被験者のクラスタ分析を実施した実験結果を示す図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2に係る脳健康管理指標推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、脳健康管理指標推定装置が利用者の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つを解析することによって推定値としてのBHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、脳健康管理指標推定装置が表示部及び入力部を介した利用者との対話によって利用者の表情の映像データ及び利用者の音声の音データを取得する処理の具体例を示す図である。
【
図15】
図15は、得られた数種類の表情の映像データを解析することによって推定値としてのBHQを算出する推定部の処理を説明する図である。
【
図16】
図16は、脳健康管理指標推定装置が表示部を介して示される見本に対して、利用者に真似をするように指示した上で、利用者の姿勢及び表情の映像データ並びに利用者の音声の音データを取得して解析する処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明者らが得た知見)
発明者らは、MRIによる脳画像データを用いることなく、日常計測可能なバイタルデータからBHQを推定できないか鋭意検討した。具体的には、複数の被験者について、MRIを用いて得られたBHQと、ウェアラブルデバイス、体組成計等の身近な計測器で得られた日常計測可能な複数のバイタルデータとの間の相関を分析したところ、特定のバイタルデータとBHQとの間に相関が存在することを見出した。つまり、MRIを用いることなく、日常計測可能な特定のバイタルデータからBHQを推定できることを確認した。さらなる研究により、日常計測可能なバイタルデータに代えて、カメラから得られる映像データに含まれる人の表情及び姿勢、あるいは音データに含まれる利用者の音声についてもBHQとの間に特定の関係性が存在し、その関係性を用いることで、カメラから得られる映像データ及び音データの少なくとも一つからBHQを推定できることも確認した。
【0012】
より詳しくは、本開示の第1形態に係る情報処理方法は、コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する取得ステップと、取得した前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む。ここで、「日常計測可能なバイタルデータ」とは、ウェアラブルデバイス等の身体に装着される計測器、スマートフォン等の身体に携行される計測器、及び、体組成計等の家庭に設置される計測器から得られるバイタルデータを意味する。
【0013】
これにより、日常計測可能な複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQが算出されるので、病院等の検査機関に通うことなく、日常生活等を営みながら簡易にBHQを知ることができる。また、利用者にとって、安いコストで気軽に推定値としてのBHQを知ることができる。ひいては、本開示に係る情報処理方法は、認知症予防、健康的な生活を送るための生活習慣改善アプリの開発、脳にいい商品開発や空間の提案、さらに、従業員の健康管理を含む企業の健康経営等にも貢献できると考えられる。
【0014】
また、本開示の第2形態に係る情報処理方法は、前記複数のバイタルデータは、安静時のバイタルデータ、睡眠に関するバイタルデータ、及び、運動に関するバイタルデータの少なくとも一つを含む、第1形態の情報処理方法である。より具体的には、本開示の第3形態に係る情報処理方法は、前記複数のバイタルデータは、安静時の心拍数、深い睡眠時間、及び、一定期間における歩数を含む、第1形態又は第2形態の情報処理方法である。これにより、ある特定の種類のバイタルデータの中から、BHQとの相関性が極めて高いバイタルデータが用いられるので、高い精度でBHQが推定される。
【0015】
また、本開示の第4形態に係る情報処理方法は、前記推定ステップは、取得した前記複数のバイタルデータから、決定木分析を用いて複数のカテゴリのいずれかに分類する分類ステップを含む、第1~第3形態のいずれかの情報処理方法である。これにより、決定木分析を用いて、利用者が複数のカテゴリのいずれかに分類されるので、段階別に区分したBHQの範囲が特定され得る。
【0016】
また、本開示の第5形態に係る情報処理方法は、前記推定ステップは、さらに、前記分類ステップで分類されたカテゴリと人の年齢とから前記BHQを算出する算出ステップを含む、第4形態の情報処理方法である。これにより、人の年齢とBHQとの既知の相関が用いられ、高い精度でBHQが推定される。
【0017】
また、本開示の第6形態に係る情報処理方法は、前記推定ステップでは、取得した前記複数のバイタルデータの積和演算を行うことで、前記BHQを算出する、第1~第5形態のいずれかの情報処理方法である。これにより、複数のバイタルデータの積和演算によって、簡易に、かつ、高い精度でBHQが推定される。
【0018】
また、本開示の第7形態に係る情報処理方法は、コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、人を撮影した映像データ及び人の声を集音した音データの少なくとも一つを取得する取得ステップと、取得した前記映像データ及び音データの少なくとも一つから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む。これにより、身体に計測器を装着等することなく、カメラの前に立つだけで、非接触で、推定値としてのBHQが算出されるので、病院等の検査機関に通うことなく、簡易にBHQを知ることができる。
【0019】
また、本開示の第8形態に係る情報処理方法は、前記推定ステップでは、前記映像データ及び音データの少なくとも一つに含まれる前記人の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つを用いて、前記BHQを算出する、第7形態の情報処理方法である。これにより、人の映像データ及び音データの少なくとも一つの中から、BHQとの相関性が高い人の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つが用いられるので、高い精度でBHQが推定される。
【0020】
また、本開示の第9形態に係る情報処理方法は、前記推定ステップでは、前記取得ステップで取得したデータから、推定値としての脳の部位別BHQを算出して出力する、第1~第8形態のいずれかの情報処理方法である。さらに、本開示の第10形態に係る情報処理方法は、前記推定ステップでは、さらに、前記部位別BHQから、推定値としての全脳BHQを算出する、第9形態の情報処理方法である。これにより、脳の部位別BHQが推定されるので、全脳BHQだけが推定される場合に比べ、より詳細に、脳の健康指標を知ることができる。
【0021】
また、本開示の第11形態に係る情報処理方法は、さらに、前記推定ステップで推定した前記BHQに基づいて、前記人の将来のBHQを予測する予測ステップを含む、第1~第10形態のいずれかの情報処理方法である。これにより、人の将来のBHQが予測され、予め脳の健康指標の悪化に備えることができる。
【0022】
また、本開示の第12形態に係る情報処理方法は、さらに、前記推定ステップで算出した前記部位別BHQを用いて、前記人の脳のタイプを分類する分類ステップを含む、第9形態の情報処理方法である。これにより、人の脳のタイプが分類されるので、タイプに応じた効果的なBHQ向上施策を講じたり、行動変容につながるアドバイスをしたりすることができるようになる。
【0023】
また、本開示の第13形態に係るプログラムは、第1~第12形態のいずれかの情報処理方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラムである。さらに、本開示の第14形態に係る情報処理装置は、人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理装置であって、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する入力回路を含む取得部と、前記取得部で取得された前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力するプロセッサを含む制御部とを備える。
【0024】
これにより、日常計測可能な複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQが算出されるので、病院等の検査機関に通うことなく、日常生活等を営みながら簡易にBHQを知ることができる。また、利用者にとって、安いコストで気軽に推定値としてのBHQを知ることができる。ひいては、本開示に係るプログラム及び情報処理装置は、認知症予防、健康的な生活を送るための生活習慣改善アプリの開発、脳にいい商品開発や空間の提案、さらに、従業員の健康管理を含む企業の健康経営等にも貢献できると考えられる。
【0025】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示す。以下の実施の形態で示される数値、判断基準、表示例、実現形態、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0026】
(実施の形態1)
まず、日常計測可能な身近な計測器を用いて、日常生活等を営みながら簡易にBHQを推定できる実施の形態1に係る脳健康管理指標推定装置について、説明する。
【0027】
図1は、実施の形態1に係る脳健康管理指標推定装置30の構成を示すブロック図である。本実施の形態では、脳健康管理指標推定装置30は、ウェアラブルデバイス10に内蔵される形態で実現されている。なお、脳健康管理指標推定装置30の実現形態は、ウェアラブルデバイス10に内蔵される形態に限られず、スマートフォン等の身体に携行される計測器、又は、体組成計等の家庭に設置される計測器に内蔵されてもよいし、計測器とは接続されないで、スマートフォンのアプリ等として、スタンドアローンの形態で実現されてもよい。
【0028】
本実施の形態において、ウェアラブルデバイス10は、利用者5の身体に装着されるコンピュータデバイス(例えば、スマートウォッチ、スマートグラス等)であり、周辺装置20、脳健康管理指標推定装置30、及び、表示部40を備える。
【0029】
周辺装置20は、脳健康管理指標推定装置30が必要とするバイタルデータ、環境データ、属性データの情報源であり、計測器21、入力部22及び記憶部23を有する。バイタルデータは、利用者5の生体に関する情報であり、
図2に示されるように、運動に関するバイタルデータ(
図2の「アクティビティ」に属するデータ)、睡眠に関するバイタルデータ(
図2の「睡眠」に属するデータ)、安静時のバイタルデータ(
図2の「健康指標」に属するデータ)等の20以上の種類のバイタルデータを含む。環境データは、利用者5の環境に関する情報であり、温度、湿度、照度等を含む。属性データは、利用者5の属性に関する情報であり、年齢、性別等を含む。
【0030】
計測器21は、心拍数センサ、血中酸素濃度センサ、血圧センサ、生体インピーダンスセンサ、3軸加速度センサ、ジャイロセンサ、位置情報センサ、磁気センサ、環境光センサ、温湿度センサ、及び、気圧センサ等のセンサと、センサで得られた信号を処理するA/D変換器及びタイマ等を含む信号処理回路とを有し、利用者5の生体状態を検知してバイタルデータとして記憶部23に格納したり、利用者5の環境を検知して環境データとして記憶部23に格納したりする。
【0031】
入力部22は、利用者5からの利用者5の属性等に関する入力を受け付ける入力デバイス(例えば、タッチパネル、入力ボタン等)であり、受け付けた属性に関する入力を属性データとして記憶部23に格納する。
【0032】
記憶部23は、計測器21で得られたバイタルデータ及び環境データ、並びに、入力部22で得られた属性データを保持するメモリ(例えば、半導体メモリ等)であり、脳健康管理指標推定装置30からの要求に応じて、それらのデータを脳健康管理指標推定装置30に提供する。なお、脳健康管理指標推定装置30は、記憶部23を介さずに、周辺装置20の計測器21及び入力部22から、直接、バイタルデータ、環境データ、及び、属性データを取得してもよい。さらに、脳健康管理指標推定装置30は、周辺装置20と接続されることなく、利用者5から、直接、手入力によって、バイタルデータ、環境データ、及び、属性データを取得してもよい。
【0033】
脳健康管理指標推定装置30は、人の脳の健康管理指標であるBHQを推定する情報処理装置の一例であり、取得部31及び制御部32を備える。
【0034】
取得部31は、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する処理部の一例であり、本実施の形態では、周辺装置20からバイタルデータ、環境データ及び属性データを取得する。取得部31は、例えば、入力回路、通信インタフェース等である。
【0035】
制御部32は、取得部31で取得されたバイタルデータ、環境データ及び属性データを用いて推定値としてのBHQ(以下、「推定BHQ」ともいう)を算出する等の各種情報処理を行い、その結果を、表示部40を含む外部装置に出力する処理部であり、プログラム(つまり、アプリ)等を記憶するメモリ、及び、プログラムを実行するプロセッサを備える。制御部32は、機能的に、推定部33、予測部34、及び、分類部35を有する。なお、外部装置には、メモリ、及び、通信インタフェースで接続される外部機器等が含まれてもよい。
【0036】
推定部33は、取得部31で取得された複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して表示部40に出力する。複数のバイタルデータには、安静時のバイタルデータ、睡眠に関するバイタルデータ、及び、運動に関するバイタルデータの少なくとも一つが含まれる。より詳しくは、複数のバイタルデータには、安静時の心拍数、深い睡眠時間、及び、一定期間における歩数が含まれる。BHQを算出するアルゴリズムとしては、決定木分析を用いる方法と、積和演算を用いる方法とがある。いずれのアルゴリズムを採用するかは、事前に利用者5等によって設定される。また、推定部33は、取得部31で取得された複数のバイタルデータから、推定値としての脳の部位別BHQを算出して表示部40に出力したり、部位別BHQから推定値としての全脳BHQを算出して表示部40に出力したりする機能も有する。なお、本明細書において、単に「BHQ」と記載した場合には、全脳BHQを意味する。
【0037】
予測部34は、取得部31で取得された複数のバイタルデータの一定期間の変化量から、利用者5の将来のBHQの変化方向を予測し、予測した結果を表示部40に出力する予測ステップを実行する。より詳しくは、予測部34は、複数のバイタルデータの一定期間の変化量に対しての重みを加減算する事によって将来のBHQの変化方向を予測する。
【0038】
分類部35は、推定部33で算出した部位別BHQを用いて、人の脳のタイプを分類し、分類した結果を表示部40に出力する。
【0039】
表示部40は、制御部32での情報処理の結果を表示するデバイスであり、例えば、液晶ディスプレイ等である。
【0040】
図2は、バイタルデータの具体例を示す図である。ここでは、運動に関するバイタルデータ(
図2の「アクティビティ」に属するデータ)、睡眠に関するバイタルデータ(
図2の「睡眠」に属するデータ)、安静時のバイタルデータ(
図2の「健康指標」に属するデータ)というように、3つのグループに分類される20以上の種類のバイタルデータの一部が示されている。
【0041】
「アクティビティ」のグループにおいて、「歩数」は、一定期間(例えば、1分)での平均歩数である。「静止時間」は、一定期間(例えば、一日)での平均の静止時間(つまり、体動が所定の閾値を超えなかった時間の合計)である。「ややアクティブ」は、一定期間(例えば、一日)での平均のややアクティブだった時間(つまり、体動が所定の小さい範囲であった時間の合計)である。「かなりアクティブ」は、一定期間(例えば、一日)での平均のかなりアクティブだった時間(つまり、体動が所定の大きい範囲であった時間の合計)である。これらのバイタルデータは、例えば、3軸加速度センサ、位置情報センサ、心拍数センサ及び血圧センサ等を用いて得られる。
【0042】
「睡眠」のグループにおいて、「睡眠時間」は、一日での平均の睡眠時間である。「目覚めた回数」は、一日での平均の目覚めた回数である。「レム睡眠」は、一日での平均のレム睡眠時間である。「浅い睡眠」は、一日での平均の浅い睡眠時間である。「深い睡眠」は、一日での平均の深い睡眠時間である。これらのバイタルデータは、心拍数センサ、血圧センサ及び3軸加速度センサ等を用いて得られる。
【0043】
「健康指標」のグループにおいて、「体重」は、入力部22を介して入力された利用者5の体重である。「BMI」は、入力部22を介して入力された利用者5の身長及び体重から、体重(kg)/(身長(m)×身長(m))で算出される値である。「体脂肪率」は、体脂肪量(kg)/体重(kg)×100で表される値であり、利用者5による入力及び生体インピーダンスセンサ等を用いて得られる。「筋肉量」は、筋肉組織の重さであり、例えば、(体重(kg)-体脂肪量(kg))×50%で算出される値であり、利用者5による入力及び生体インピーダンスセンサ等を用いて得られる。「内臓脂肪」は、内臓脂肪のレベルであり、例えば、入力部22を介して利用者5から入力される。「安静時心拍」は、安静時の心拍数であり、心拍数センサ等で得られる。
【0044】
次に、以上のように構成される脳健康管理指標推定装置30の動作について、説明する。
【0045】
図3は、脳健康管理指標推定装置30が決定木分析を用いて推定値としてのBHQを算出する手順(つまり、情報処理方法)を示すフローチャートである。
【0046】
まず、取得部31は、利用者5の身体に装着される計測器21から複数のバイタルデータを取得する(取得ステップS10)。
【0047】
次に、推定部33は、取得された複数のバイタルデータから、決定木分析を用いて、利用者5を、複数のカテゴリのいずれかに分類する(分類ステップS11)。カテゴリは、推定されるBHQを所定の数値範囲で複数に区分したときの各区分を指す。
【0048】
続いて、推定部33は、分類されたカテゴリと利用者5の年齢とから、推定値としてのBHQを算出する(算出ステップS12)。算出では、カテゴリと年齢とから推定値としてのBHQを導出する所定の関係を用いる。
【0049】
最後に、推定部33は、算出した推定値としてのBHQを表示部40に出力する(出力ステップS13)。なお、上記分類ステップS11、算出ステップS12、及び、出力ステップS13は、取得ステップS10で取得された複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップを構成する。
【0050】
図4は、
図3の分類ステップS11で用いられる決定木分析を説明する図である。ここでは、利用者5から得た4つのバイタルデータ(「安静時心拍」、「深い睡眠」、「かなりアクティブ」、「歩数」)から、その利用者5を、4つのカテゴリ(BHQの高い方から順に、Cat0、Cat1、Cat2、Cat3)のいずれに分類されるかを決定するための決定木が示されている。
【0051】
まず、推定部33は、バイタルデータ「安静時心拍」が所定の閾値(ここでは、72回/分)以下か否かを判断し(S20)、否定的な場合には(S20でNo)、続いて、バイタルデータ「歩数」が所定の閾値(ここでは、11899歩)以下であるか否かを判断し(S23)、肯定的な場合には(S23でYes)、その利用者5をカテゴリCat2に分類し(S26)、一方、否定的な場合には(S23でNo)、その利用者5をカテゴリCat3に分類する(S27)。
【0052】
一方、ステップS20で肯定的な場合には(S20でYes)、続いて、推定部33は、バイタルデータ「深い睡眠」が所定の閾値(ここでは、63分/日)以下か否かを判断し(S22)、否定的な場合には(S22でNo)、その利用者5をカテゴリCat0に分類する(S25)。
【0053】
一方、ステップS22で肯定的な場合には(S22でYes)、続いて、推定部33は、バイタルデータ「深い睡眠」が所定の閾値(ここでは、47分/日)以下か否かを判断し(S24)、肯定的な場合には(S24でYes)、続いて、推定部33は、バイタルデータ「かなりアクティブ」が所定の閾値(ここでは、27分/日)以下か否かを判断し(S28)、肯定的な場合には(S28でYes)、その利用者5をカテゴリCat1に分類し(S30)、一方、否定的な場合には(S28でNo)、その利用者5をカテゴリCat0に分類する(S31)。
【0054】
一方、ステップS24で否定的な場合には(S24でNo)、推定部33は、バイタルデータ「安静時心拍」が所定の閾値(ここでは、67回/分)以下か否かを判断し(S29)、肯定的な場合には(S29でYes)、その利用者5をカテゴリCat2に分類し(S32)、一方、否定的な場合には(S29でNo)、その利用者5をカテゴリCat1に分類する(S33)。
【0055】
このようにして、推定部33は、利用者5から得た4つのバイタルデータ(「安静時心拍」、「深い睡眠」、「かなりアクティブ」、「歩数」)から、決定木分析を用いて、その利用者5を、4つのカテゴリ(Cat0、Cat1、Cat2、Cat3)のいずれかに分類する。
【0056】
図5は、
図4に示される決定木分析によって分類される4つのカテゴリを説明する図である。ここには、年齢(横軸)とBHQ(縦軸)とからなる2次元座標に、予め知られている脳が健康な一般人の年齢と平均的なBHQとの関係(右下下がりの基準線50)、及び、4つのカテゴリCat0~Cat3に対応する領域(右下下がりの矩形領域)が示されている。
【0057】
基準線50は、年齢の増加に伴ってBHQが直線的に下降することを示している。
【0058】
カテゴリCat0は、基準線50と平行に延びる一定幅を有する矩形領域であり、同じ年齢でみれば、基準線50が示す平均的なBHQに対して+2.5~+7.5だけ加算して得られるBHQ(つまり、「高い」BHQ)を示す領域である。
【0059】
カテゴリCat1は、基準線50と平行に延びる一定幅を有する矩形領域であり、同じ年齢でみれば、基準線50が示す平均的なBHQに対して-2.5~+2.5だけ加算して得られるBHQ(つまり、「平均」的なBHQ)を示す領域である。
【0060】
カテゴリCat2は、基準線50と平行に延びる一定幅を有する矩形領域であり、同じ年齢でみれば、基準線50が示す平均的なBHQに対して-7.5~-2.5だけ加算して得られるBHQ(つまり、「低い」BHQ)を示す領域である。
【0061】
カテゴリCat3は、基準線50と平行に延びる一定幅を有する矩形領域であり、同じ年齢でみれば、基準線50が示す平均的なBHQに対して-12.5~-7.5だけ加算して得られるBHQ(つまり、「かなり低い」BHQ)を示す領域である。
【0062】
なお、
図5に示される黒点は、後述する実験の対象となった被験者の年齢及びBHQを示している。
【0063】
図5に示されるように、
図4に示される決定木分析によって分類される4つのカテゴリCat0~3は、同じ年齢の脳が健康な一般人のBHQの平均値から、どの程度のオフセットをもつかを示している。このことを利用して、
図3の算出ステップS12では、推定部33は、決定木分析で分類したカテゴリと利用者5の年齢とから、推定値としてのBHQを算出している。具体的には、推定部33は、利用者5の年齢から、
図5の基準線50における一般時のBHQを算出し、算出したBHQに対して、決定木分析で分類したカテゴリに対応するオフセット(つまり、カテゴリCat0、Cat1、Cat2、Cat3であれば、それぞれ、オフセットとして、+5、0、-5、-10)を加算することで、推定値としてのBHQを算出する。なお、オフセット(つまり、+5、0、-5、-10)は、それぞれ、
図5における各カテゴリにおいて基準線50が示すBHQに加算する値の範囲(つまり、+2.5~+7.5、-2.5~+2.5、-7.5~-2.5、-12.5~-7.5)の中心値である。
【0064】
図6は、
図4に示される決定木分析を用いて推定したBHQと真値との相関についての実験結果を示す図である。カテゴリCat0~3に応じて、プロットの種別を変えている。より詳しくは、本図は、真値としてのBHQが既知である25人の被験者のそれぞれについて、4つのバイタルデータ(「安静時心拍」、「深い睡眠」、「浅い睡眠」、「かなりアクティブ」)を取得し、
図4に示される決定木分析で得られた「推定値」としてのBHQ、及び、「真値」のBHQを、それぞれ、横軸及び縦軸とする2次元座標にプロットしたものである。
【0065】
本図に示されるように、BHQの真値と、
図4に示される決定木分析で得られた推定値とについて、相関係数は0.89であり、平均絶対誤差は1.59であった。これらのことから、
図4に示される決定木分析で得られた推定値としてのBHQは、高い確からしさで、真値を示しているといえる。
【0066】
図7は、脳健康管理指標推定装置30が積和演算を用いて推定値としてのBHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【0067】
まず、取得部31は、利用者5の身体に装着される計測器21から複数のバイタルデータV1、V2、・・、Vnを取得する(取得ステップS40)。
【0068】
次に、推定部33は、取得された複数のバイタルデータを用いて、以下の式1で示される積和演算を行うことで、推定値としてのBHQを算出する(積和演算ステップS41)。
【0069】
推定BHQ=k1・V1+k2・V2+・・+kn・Vn+k(n+1) (式1)
【0070】
最後に、推定部33は、算出した推定値としてのBHQを表示部40に出力する(出力ステップS42)。
【0071】
なお、この積和演算に用いる複数のバイタルデータとして重要なものは、男性の推定BHQの算出のためには、「VO2Max(最大酸素摂取量)」及び「かなりアクティブな運動時間」であり、女性の推定BHQの算出のためには、「ノンレム睡眠時心拍数」、「かなりアクティブな運動時間」、「運動消費量カロリー」、及び、「VO2Max(最大酸素摂取量)」である。
【0072】
よって、積和演算式は、具体的には、以下の式2及び式3のような形となる。
【0073】
男性の推定BHQ=k1・「VO2Max(最大酸素摂取量)」+k2・「かなりアクティブな運動時間」+k3+定数(男性の年齢に対する平均的なBHQ) (式2)
【0074】
ここで、式2において、k1=0.3409、k2=0.1041、k3=-20.3982である。
【0075】
女性の推定BHQ=k1・「ノンレム睡眠時心拍数」+k2・「かなりアクティブな運動時間」+k3・「運動消費量カロリー」+k4・「VO2Max(最大酸素摂取量)」+k5+定数(女性の年齢に対する平均的なBHQ) (式3)
【0076】
ここで、式3において、k1=-0.4510、k2=0.2071、k3=-0.0069、k4=-0.2752、k5=39.4118である。
【0077】
なお、バイタルデータ「VO2Max(最大酸素摂取量)」は、15×最大心拍数/安静時心拍数で算出される値であり、心拍数センサ等で得られる。このとき、最大心拍数は、運動強度を上げていったときに達する最大の心拍数である。また、バイタルデータ「運動消費量カロリー」は、体動センサ等を用いて簡易的に得られたり、あるいは、入力部22を介して利用者5から入力されたりする値である。
【0078】
上記式2及び式3は、55名の被験者について、年齢、性別、BHQ、及び、40種類のバイタルデータ等を用いて、その人の年齢に対する平均的なBHQとの差分を目的変数とし、40種類のバイタルデータ等を説明変数とし、t-SNE(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)による説明変数の次元削減を行った後に、重回帰分析によって上記係数kを決定した。
【0079】
図8は、上記式2及び式3で示される積和演算によって推定したBHQと真値との相関についての実験結果を示す図である。より詳しくは、
図8の(a)は、その人の年齢に対する平均的なBHQとの差分についての推定値(横軸)と真値(縦軸)との関係を示し、
図8の(b)は、BHQについての推定値(横軸)と真値(縦軸)との関係を示す。真値としてのBHQが既知である男性及び女性の被験者(合計55名の被験者)のそれぞれについて、上記式2及び式3で示される積和演算によって推定したBHQと真値との相関がプロットされている。
【0080】
図8の(a)に示される差分についての推定値と真値とでは、相関係数が0.63であり、平均絶対誤差が2.77である。また、
図8の(b)に示されるBHQについての推定値と真値とでは、相関係数が0.83であり、平均絶対誤差が2.77である。
【0081】
これらから分かるように、上記式2及び式3に示される積和演算で得られる推定値としてのBHQは、高い確からしさで、真値を示しているといえる。
【0082】
図9は、脳健康管理指標推定装置30が推定値としての脳の部位別BHQ及び全脳BHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【0083】
まず、取得部31は、利用者5の身体に装着される計測器21から複数のバイタルデータを取得する(取得ステップS50)。
【0084】
次に、推定部33は、取得された複数のバイタルデータを用いて、決定木分析又は積和演算により、推定値としての脳の部位別BHQを算出する(部位別BHQ算出ステップS51)。なお、人の脳は、複数の部位(例えば、90項目)に分類され、各部位ごとに、異なる機能が対応づけられることが知られている。そのような対応関係を利用することで、各部位別BHQの算出に必要な具体的なバイタルデータ及びアルゴリズム(決定木分析又は積和演算式)については、予め準備しておく。
【0085】
続いて、推定部33は、算出した複数の部位別BHQを用いて、所定の関係式に従って演算することで、推定値としての全脳BHQを算出する(全脳BHQ算出ステップS52)。なお、複数の部位別BHQから全脳BHQを導出する関係式は、事前の分析によって、明らかにされている。
【0086】
最後に、推定部33は、算出した複数の部位別BHQ及び全脳BHQを表示部40に出力する(出力ステップS53)。
【0087】
これにより、脳の部位別BHQが推定されるので、全脳BHQだけが推定される場合に比べ、より詳細に、脳の健康指標を知ることができる。
【0088】
次に、脳健康管理指標推定装置30が備える制御部32の分類部35が有する機能を説明する。
【0089】
図10は、脳の90項目の部位をクラスタ分析した結果を示す図である。ここでは、複数の被験者から得られている90項目の部位別BHQについて、部位間での類似性を分析するクラスタ分析(つまり、BHQの高い/低いの傾向が似ている部位をまとめること)によって、部位を10個の機能カテゴリに分析した結果が示されている。横軸は複数の被験者を示し、縦軸は部位を示し、濃淡はBHQの高さ(低いほど濃い)を示している。
【0090】
図10から分かるように、部位別BHQの類似性から、脳の部位を、10個の機能カテゴリ(「やる気」、「記憶力」、「創造力」、「他者理解」、「自己理解」、「認識力」、「物事の理解」、「話す力」、「考える力」、「運動」)に分類できている。
【0091】
図11は、
図10に示される数種類の機能カテゴリの部位別BHQを用いて被験者のクラスタ分析を実施した実験結果を示す図である。つまり、部位別カテゴリの特徴(BHQが高い/低いの傾向)が似ている人をグループ化した結果が示されている。具体的には、脳のタイプとして、6種類のレーダーチャート(
図11の(a)~(f))で示される6タイプに分類された結果が示されている。各レーダーチャートは、
図10に示される10個の機能カテゴリの部位別BHQをタイプごとに基準化した結果である。なお、各レーダーチャートは、脳のパターンで分類されており、BHQの大小の観点は含まれていない。
【0092】
分類された脳の6タイプは、
図11に示されるように、「物事の理解力は高いが、自己理解力が低い」(
図11の(a))、「自己理解力は高いが、記憶力が低い」(
図11の(b))、「やる気はあるが、創造力が低い」(
図11の(c))、「他者理解力は高いが、記憶力が低い」(
図11の(d))、「考える力は高いが、記憶力が低い」(
図11の(e))、話す力はあるが、記憶力が低い」(
図11の(f))である。
【0093】
図11から分かるように、部位別BHQを用いることで、人の脳のタイプを6タイプのいずれかに分類できる。脳健康管理指標推定装置30の分類部35は、推定部33で算出した部位別BHQを用いて、人の脳のタイプを分類し、分類した結果を表示部40に出力する。これにより、人の脳のタイプが分類されるので、タイプに応じた効果的なBHQ向上施策を講じたり、行動変容につながるアドバイスをしたりすることができるようになる。
【0094】
以上のように、実施の形態1に係る情報処理方法は、コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する取得ステップと、取得した前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む。また、実施の形態1に係るプログラムは、情報処理方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラムである。さらに、実施の形態に係る情報処理装置は、人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理装置であって、日常計測可能な複数のバイタルデータを取得する入力回路を含む取得部と、前記取得部で取得された前記複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQを算出して出力するプロセッサを含む制御部とを備える。
【0095】
これにより、日常計測可能な複数のバイタルデータから、推定値としてのBHQが算出されるので、病院等の検査機関に通うことなく、日常生活等を営みながら簡易にBHQを知ることができる。また、利用者にとって、安いコストで気軽に推定値としてのBHQを知ることができる。ひいては、本開示に係る情報処理方法は、認知症予防、健康的な生活を送るための生活習慣改善アプリの開発、脳にいい商品開発や空間の提案、さらに、従業員の健康管理を含む企業の健康経営等にも貢献できると考えられる。
【0096】
(実施の形態2)
次に、オフィス等の現場に設置したカメラを用いて、業務、運動、日常生活等を営みながら、簡易に、かつ、非接触で、BHQを推定できる実施の形態2に係る脳健康管理指標推定装置について、説明する。
【0097】
図12は、実施の形態2に係る脳健康管理指標推定装置30aの構成を示すブロック図である。本実施の形態では、脳健康管理指標推定装置30aは、カメラ25、表示部40a及び入力部40bを含む脳健康管理指標推定システム11を構成する一部の装置として実現されている。
【0098】
カメラ25は、利用者5の顔の表情及び身体の姿勢を撮影し、音声等を集音することで、得られた利用者5の動画(つまり、映像データ及び音データ))を脳健康管理指標推定装置30aに提供する撮像装置であり、例えば、動画撮影が可能なビデオカメラである。
【0099】
表示部40a及び入力部40bは、利用者5と脳健康管理指標推定装置30aとが対話するための入出力デバイスであり、例えば、それぞれ、実施の形態1における表示部40と同様のディスプレイ、及び、タッチパネル等である。
【0100】
脳健康管理指標推定装置30aは、人の脳の健康管理指標であるBHQを推定する情報処理装置の一例であり、取得部31a及び制御部32aを備える。脳健康管理指標推定装置30aは、利用者5の映像データ及び音データの少なくとも一つを用いてBHQを推定する点で、利用者5のバイタルデータ等を用いてBHQを推定する実施の形態1と異なるが、利用者5に推定値としてのBHQを提供するという点で、実施の形態1に係る脳健康管理指標推定装置30と同じ機能を有する。以下、実施の形態1に係る脳健康管理指標推定装置30と異なる点を中心に説明する。
【0101】
取得部31aは、カメラ25から映像データ及び音データの少なくとも一つを取得する処理部であり、例えば、入力回路、通信インタフェース等である。
【0102】
制御部32aは、取得部31aで取得された映像及び音データの少なくとも一つを用いて推定値としてのBHQを算出する等の各種情報処理を行い、その結果を、表示部40aを含む外部装置に出力する処理部であり、プログラム等を記憶するメモリ、及び、プログラムを実行するプロセッサを備える。制御部32aは、機能的に、推定部33a、予測部34a、及び、分類部35aを有する。
【0103】
推定部33aは、取得部31aで取得された映像データ及び音データの少なくとも一つから、推定値としてのBHQを算出して表示部40aに出力する。より詳しくは、推定部33aは、利用者5の映像データを用いて、表情解析によって推定値としてのBHQを算出する機能、姿勢解析によって推定値としてのBHQを算出する機能、あるいは利用者5の音声の音データを用いて音声解析によって推定値としてのBHQを算出する機能を有する。また、推定部33aは、取得部31aで取得された複数のバイタルデータから、推定値としての脳の部位別BHQを算出して表示部40aに出力したり、部位別BHQから推定値としての全脳BHQを算出して表示部40aに出力したりする機能も有する。
【0104】
予測部34aは、推定部33aで推定されたBHQに基づいて、人の将来のBHQを予測し、予測した結果を表示部40aに出力する。
【0105】
分類部35aは、推定部33aで算出した部位別BHQを用いて、人の脳のタイプを分類し、分類した結果を表示部40aに出力する。
【0106】
図13は、脳健康管理指標推定装置30aが利用者5の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つを解析することによって推定値としてのBHQを算出する手順を示すフローチャートである。
【0107】
まず、取得部31aは、表示部40a及び入力部40bを介した利用者5との対話により、利用者5の表情又は姿勢の映像データ及び利用者の音声の音データの少なくとも一つを取得する(取得ステップS60)。なお、「対話」には、脳健康管理指標推定装置30aからの指示に対して、利用者5が何かしら応答するインタラクションが含まれる。
【0108】
次に、推定部33aは、取得された映像データ及び音データの少なくとも一つから、利用者5の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つを解析することで、推定値としてのBHQを算出する(算出ステップS61)。
【0109】
最後に、推定部33aは、算出した推定値としてのBHQを表示部40aに出力する(出力ステップS62)。なお、上記算出ステップS61、及び、出力ステップS62は、取得ステップS60で取得された映像データ及び音データの少なくとも一つから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップを構成する。
【0110】
以下、
図14及び
図15を用いて、推定部33aが利用者5の表情を解析することによって推定値としてのBHQを算出するためのアルゴリズムを説明する。
【0111】
図14は、脳健康管理指標推定装置30aが表示部40a及び入力部40bを介した利用者5との対話によって利用者5の表情の映像データ及び利用者の音声の音データを取得する処理(
図13の取得ステップS60)の具体例を示す図である。ここには、表示部40a及び入力部40bを介した利用者5と取得部31aとの対話の様子が示されている。まず、取得部31aは、表示部40aに「測定方法」と題した案内表示をし、利用者5に対して、「笑顔」、「驚き」、「怒り」、「悲しみ」の4種類の表情を順に作るように促し、「スタート」ボタン(入力部40b)の押下を待つ(
図14の(a))。「スタート」ボタンが押下されると、取得部31aは、4種類の表情を順に表示部40aで指示し、そのときの映像データを確認することで、指示した4種類の表情の映像データを取得できたか否かを表示部40aに表示し(
図14の(b)及び(c))、最終的に、4種類の表情の映像データを取得する。
【0112】
図15は、得られた数種類の表情の映像データを解析することによって推定値としてのBHQを算出する推定部33aの処理を説明する図である。
【0113】
推定部33aは、
図14に示される対話等によって得られる映像データを解析することで、利用者5の基本感情(通常、笑顔、悲しみ、驚き、怒り)、及び、ラッセル円環における位置(快/不快、覚醒/眠気)等を含む基本データを取得する。なお、ラッセル円環とは、全ての感情を快-不快と覚醒-眠気の2次元軸で表すモデルである。
【0114】
そして、推定部33aは、それらの基本データを用いて、
図15に示される3つの推定値としての部位別BHQを算出する。より詳しくは、基本データを用いて、利用者5の「表情の豊かさ」、つまり、「感情可変領域面積」を解析することで、「社会性関連領域」の部位別BHQ(この例では、104.2)を算出し、「認識・反応速度」、つまり、「表情を作るまでの時間」を解析することで、「認知制御関連領域」の部位別BHQ(この例では、96.5)を算出し、「一致率・正解率」、つまり、「正しい表情の度合い」を解析することで、「モニタリング関連領域」の部位別BHQ(この例では、102.4)を算出する。そして、推定部33aは、算出した3つの部位別BHQから、予め判明している関係式を用いて、推定値としての全脳BHQを算出する。
【0115】
以上のように、
図14及び
図15に示される手順によって、推定部33aは、利用者5の表情解析によって推定値としてのBHQ(つまり、全脳BHQ)を算出する。
【0116】
次に、
図16を用いて、推定部33aが利用者5の姿勢を解析することによって推定値としてのBHQを算出するためのアルゴリズムを説明する。
【0117】
図16は、脳健康管理指標推定装置30aが表示部40aを介して示される見本に対して利用者5に真似るように指示した上で利用者5の姿勢及び表情の映像データ並びに利用者の音声の音データを取得して解析する処理(
図13の取得ステップS60及び算出ステップS61)の具体例を示す図である。より詳しくは、
図16の(a)は、表示部40aでの表示例を示し、
図16の(b)は、推定部33aによる処理の概要及び計測環境例を示す。
【0118】
図16の(a)に示されるように、取得部31aは、表示部40aに、お手本となる姿勢及び笑顔とともに、利用者5を撮影した映像も表示する。同時に、推定部33aは、お手本を真似る利用者5の映像データを解析し、利用者5の姿勢及び表情を定量化することで(
図16の(b))、表示部40aに、BHQとの関連指標として、お手本との一致度である「姿勢」のスコア(この例では、44)を表示したり、お手本動作に一致させるまでの時間を表示したり、姿勢がフラフラしない程度である「バランス」のスコア(この例では、100)を表示したり、表情の解析で得られた「笑顔」のスコア(この例では、100)を表示したりする。なお、
図16の(b)の「計測環境」に示されるように、計測環境の一例として、ディスプレイ、カメラ、Kinect、PCを用いて計測し、画面から約2mの距離で利用者5を撮影し、撮影時間として約2分(この時間で、10個のポーズを撮影する)としてもよい。
【0119】
そして、推定部33aは、「笑顔」のスコアから「社会性関連領域」の部位別BHQを算出し、「バランス」のスコアから「認知制御関連領域」の部位別BHQを算出し、お手本との一致度である「姿勢」のスコアから「モニタリング関連領域」の部位別BHQを算出し、それら3つの部位別BHQから、予め判明している関係式を用いて、推定値としての全脳BHQを算出する。
【0120】
以上のように、
図16に示される処理によって、推定部33aは、利用者5の姿勢解析によって推定値としてのBHQ(つまり、全脳BHQ)を算出する。
【0121】
なお、本実施の形態では、表情解析によって推定値としてのBHQを算出する機能と、姿勢解析によって推定値としてのBHQを算出する機能とが選択的に実行されたが、このような実現形態に限られず、表情解析と姿勢解析との両方を行い、両方の解析結果を加味したうえで一つの推定値としての全脳BHQを算出してもよい。
【0122】
以上のように、実施の形態2に係る情報処理方法は、コンピュータが人の脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)を推定する情報処理方法であって、人を撮影した映像データ及び人の声を集音した音データの少なくとも一つを取得する取得ステップと、取得した前記映像データ及び音データの少なくとも一つから、推定値としてのBHQを算出して出力する推定ステップとを含む。これにより、身体に計測器を装着等することなく、カメラの前に立つだけで、あるいは、カメラに向かって発話するだけで、非接触で、推定値としてのBHQが算出されるので、病院等の検査機関に通うことなく、簡易にBHQを知ることができる。
【0123】
より詳しくは、実施の形態2では、前記推定ステップでは、前記映像データ及び音データの少なくとも一つに含まれる前記人の表情、姿勢及び音声の少なくとも一つを用いて、前記BHQを算出する、第7形態の情報処理方法である。これにより、人の映像データ及び音データの少なくとも一つの中から、BHQとの相関性が高い人の表情及、姿勢及び音声の少なくとも一つが用いられるので、高い精度でBHQが推定される。
【0124】
(その他の実施の形態)
以上、本開示に係る脳健康管理指標推定装置及び方法について、実施の形態1及び2に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態1及び2に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態1及び2に施したものや、実施の形態1及び2における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0125】
例えば、実施の形態1では、周辺装置20、脳健康管理指標推定装置30、及び、表示部40は、一つのウェアラブルデバイス10として一体化されていたが、本開示は、このような形態に限られず、周辺装置20、脳健康管理指標推定装置30、及び、表示部40が通信ネットワーク又は通信ケーブルで接続される分散した形態であってもよい。例えば、周辺装置20及び表示部40がウェアラブルデバイスとして一体化され、そのウェアラブルデバイスが無線通信を含む通信ネットワークを介してサーバとして機能する脳健康管理指標推定装置30と接続されてもよい。
【0126】
さらに、脳健康管理指標推定装置30の実現形態は、実施の形態1のように、ウェアラブルデバイス10に内蔵される形態に限られず、スマートフォン等の身体に携行される計測器、又は、体組成計等の家庭に設置される計測器に内蔵されてもよいし、計測器とは接続されないで、スマートフォンのアプリ等として、スタンドアローンの形態で実現されてもよい。
【0127】
また、実施の形態2に係る脳健康管理指標推定システム11では、カメラ25、表示部40a及び入力部40bがスマートフォン等の携帯端末として一体化され、その携帯端末が無線通信を含む通信ネットワークを介してサーバとして機能する脳健康管理指標推定装置30aと接続されてもよい。
【0128】
さらに、実施の形態2に係る脳健康管理指標推定装置30aは、カメラ25、表示部40a及び入力部40bと接続されることなく、スマートフォンのアプリ等として、スタンドアローンの形態で実現されてもよい。
【0129】
また、実施の形態1と実施の形態2とを統合した機能をもつ脳健康管理指標推定装置/脳健康管理指標推定システムとして実現してもよい。例えば、周辺装置は、実施の形態1における計測器21、入力部22及び記憶部23に加えて、実施の形態2におけるカメラ25、表示部40a及び入力部40bを備える。そして、脳健康管理指標推定装置は、実施の形態1における取得部31及び制御部32に加えて、実施の形態2における取得部31a及び制御部32aを備え、実施の形態1によるBHQの推定機能に加えて、実施の形態2におけるBHQの推定機能も併せもってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本開示に係る情報処理方法及び情報処理装置は、人の脳の健康管理指標であるBHQを推定する脳健康管理指標推定装置として、例えば、脳健康管理指標推定装置を内蔵するウェアラブルデバイス及び体組成計、又は、スマートフォンのアプリ等として、利用できる。
【符号の説明】
【0131】
5 利用者
10 ウェアラブルデバイス
11 脳健康管理指標推定システム
20 周辺装置
21 計測器
22 入力部
23 記憶部
25 カメラ
30、30a 脳健康管理指標推定装置
31、31a 取得部
32、32a 制御部
33、33a 推定部
34、34a 予測部
35,35a 分類部
40、40a 表示部
40b 入力部