(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004714
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】難燃性防振ゴム成型体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20250107BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20250107BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20250107BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F16F15/02 K
F16F15/08 D
F16F15/04 P
F16F7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104583
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畦地 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶典
(72)【発明者】
【氏名】坂口 直紀
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA03
3J048BA08
3J048BB03
3J048BB10
3J048BD04
3J048BD07
3J048DA02
3J048EA16
3J066AA08
3J066AA22
3J066BA01
3J066BB01
3J066BC01
3J066BE06
(57)【要約】
【課題】難燃性、耐寒性及び耐久性に優れる難燃性防振ゴム成型体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】難燃性防振ゴム成型体10は、弾性部7と、弾性部7を覆う被覆層8と、を備える。弾性部7は、天然ゴムを主成分として含む。被覆層8は、弾性部7よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成される。ゴム組成物は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性部と、前記弾性部の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、
前記弾性部は、天然ゴムを主成分として含み、
前記被覆層は、前記弾性部よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成される難燃性防振ゴム成型体。
【請求項2】
前記弾性部は、均質な塊状である
請求項1に記載の難燃性防振ゴム成型体。
【請求項3】
前記弾性部は、軟質層と硬質層とを、鉛直方向に交互に積層した積層構造である
請求項1に記載の難燃性防振ゴム成型体。
【請求項4】
前記ゴム組成物は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含む
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難燃性防振ゴム成型体。
【請求項5】
前記弾性部の降伏点伸びと前記被覆層の降伏点伸びとの比と、前記弾性部の切断時伸びと前記被覆層の切断時伸びとの比とのうち、少なくともいずれか一方が、0.8以上1.2以下である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難燃性防振ゴム成型体。
【請求項6】
前記弾性部を中子とする金型成形により前記弾性部の外周面に前記被覆層を形成する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難燃性防振ゴム成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性防振ゴム成型体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道車両においては、レール上を走行する台車枠と車軸側部材との間に防振ゴムが介装されている。また、台車枠と車体部との間に設けられた空気ばねの変位補助として、当該空気ばねと台車枠との間にストッパとしての防振ゴムが介装されている。防振ゴムは、弾性部を含んで構成される。この防振ゴムにより鉄道車両の蛇行動や上下動時の衝撃が吸収緩和される。
【0003】
近年では、火災の発生等を考慮し、防振ゴムの難燃性を向上させることが求められている。難燃性を向上させる方法として、弾性部のゴム材料を難燃化配合とする方法がある。例えば、天然ゴム(NR)に対し、臭素系等の有機系難燃剤又は金属酸化物等の難燃剤を配合する。しかし、有機系難燃剤は環境への負荷の問題から採用されにくいものとなっており、金属酸化物等の難燃剤は機械的特性である引張強度又は耐久性が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献1の防振ゴムは、NR系を主成分とする従来のゴム材料から構成された弾性部の表面に、クロロプレンゴム(CR)系を主成分とする防火層を設けることで、難燃性が付与されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0267260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の防振ゴムは、防火層により難燃性を付与しているが、耐寒性と耐久性とが損なわれている。すなわち、特許文献1では、防火層の主成分としてガラス転移温度(Tg)が-20℃~-30℃であるCR系のゴムが用いられ、弾性部の主成分としてTgが-45℃~-50℃であるNR系のゴムが用いられているので、低温環境で使用されると、防火層と弾性部とで硬さの違いが生じ、防火層と弾性部とが剥がれ易くなるという問題があった。また、特許文献1では、NR系を主成分とする弾性部とCR系を主成分とする防火層とを接着させるために、防火層の主成分となるCR系のゴムにトリアリルイソシアヌレート(TAIC)又はジクミルパーオキサイド(DCP)を添加する必要があり、配合上の制約があるものであった。
【0007】
そこで、本発明は、難燃性、耐寒性及び耐久性に優れる難燃性防振ゴム成型体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る難燃性防振ゴム成型体は、弾性部と、前記弾性部の少なくとも一部を覆う被覆層と、を備え、前記弾性部は、天然ゴムを主成分として含み、前記被覆層は、前記弾性部よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成される。
【0009】
本発明に係る難燃性防振ゴム成型体の製造方法は、前記弾性部を中子とする金型成形により前記弾性部の外周面に前記被覆層を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、天然ゴム(NR)系を主成分とする弾性部が、NR系よりも高い難燃性を有するイソプレンゴム(IR)系を主成分とする被覆層により覆われている。弾性部の主成分と被覆層の主成分とが同種のゴム成分で構成されているので、弾性部と被覆層とが密接に結合されているとともに、低温環境において弾性部と被覆層との硬さの違いが生じにくい。したがって、本発明によれば、難燃性、耐寒性及び耐久性に優れる難燃性防振ゴム成型体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体を示す縦断面図である。
【
図2】天然ゴムとクロロプレンゴムの温度と硬度との関係を示すグラフである。
【
図3】第2実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、軸心Pが延びる方向(
図1における紙面の縦方向)を上下方向(鉛直方向)とする。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10を示す縦断面図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10は、例えば、図示しない鉄道車両の台車枠と車軸側部材との間、台車枠と空気ばね100との間等に介装される。空気ばね100は、例えば、車体に取り付けられる上面板1と、その下方に配置される下面板2と、上面板1及び下面板2の間に介装される筒状の可撓部材3(ダイアフラム)と、を含んでいる。難燃性防振ゴム成型体10は、例えば、空気ばね100における下面板2と車輪の支持フレーム4との間に介装される。
【0014】
難燃性防振ゴム成型体10(半砂時計ストッパともいう。)は、
図1に示すように、肉厚の椀(ボウル)を伏せたような形状(球体の上半分のような形状、半砂時計型の形状)である。難燃性防振ゴム成型体10は、側方に膨出する湾曲した側表面を有している。難燃性防振ゴム成型体10は、概ね、
図1に示す断面上にある、空気ばね100の中心を通る軸心Pに、中心が配置されるように設けられている。
【0015】
難燃性防振ゴム成型体10は、頂部と底部とにそれぞれ取り付けられる頂板5及び底板6を備えている。
【0016】
ここで、難燃性防振ゴム成型体10は、弾性部7と、弾性部7を覆う被覆層8と、を備えている。弾性部7と被覆層8とは、加硫接着されて一体化されている。
【0017】
弾性部7は、天然ゴムを主成分として含んでいる。弾性部7は、例えば、公知の防振ゴムに用いられるゴム配合物で形成されている。弾性部7は、均質な材質であり、塊状である。
【0018】
被覆層8は、弾性部7の側表面に加硫接着されて一体化されている。被覆層8は、弾性部7の少なくとも一部を覆っている。被覆層8は、弾性部7の側表面を覆っている。これにより、難燃性防振ゴム成型体10に難燃性を付与できる。被覆層8は、少なくとも、弾性部7における軸心Pから最も離れた側表面の部分を覆っていることが好ましい。これにより、難燃性防振ゴム成型体10に難燃性を効果的に付与できる。被覆層8は、弾性部7の側表面の全面を覆っていることが好ましい。これにより、難燃性防振ゴム成型体10に難燃性をより効果的に付与できる。
【0019】
被覆層8は、例えば、2.0mm以上の厚さであることが好ましい。これにより、難燃性防振ゴム成型体10を鉄道車両に用いる場合のように、高い難燃性を要求される場合であっても、要求を満たすことができる。
【0020】
被覆層8は、イソプレンゴム(IR)を主成分とし、弾性部7よりも高い難燃性を有する。被覆層8は、鉄道車両で使用される材料と部品の燃焼挙動に対する要求を規定した欧州規格EN45545-2をクリアするものであり、具体的にはISO5660-1に準じた発熱試験においても、優れた難燃性を示すものである。すなわち、被覆層8は、弾性部7と比べて、ISO5660-1に準じた発熱試験において優れた難燃性を示す。被覆層8は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含むゴム組成物から構成されることが好ましい。被覆層8を構成するゴム組成物の配合としては、特開2020-070306号公報に記載されている配合を用いることができる。
【0021】
(製造方法)
難燃性防振ゴム成型体10の製造方法の一例を以下に説明する。
まず、弾性部7の成形に用いる弾性部金型内へNR系の未加硫ゴムを供給し、加熱及び加硫し、弾性部7を成形する。
【0022】
これとは別に、特開2020-070306号公報に記載されている配合処方に従ってIR系のゴム組成物を調製する。そして、成形された弾性部7を中子として、被覆層8の成形に用いる外型となる被覆層金型内に配置し、被覆層金型が所定温度となった後に、被覆層8となる、調製したIR系のゴム組成物である未加硫ゴムを、弾性部7と被覆層金型との間に流し込んで充填し、加熱及び加硫する。ここで、充填された未加硫ゴムと既に成形されている弾性部7との界面では、同種のゴム成分同士の加硫反応が促進される。弾性部7を成形する際に加硫剤が消費されているので、弾性部7中の加硫剤の濃度は、未加硫ゴム中の加硫剤の濃度よりも低くなっている。未加硫ゴムと弾性部7とでは加硫剤の濃度の傾斜が大きいので、加硫成形を行うことによって、濃度が高い未加硫ゴムから濃度が低い弾性部7へ加硫剤が流れて融合して強固に接着される。以上のように、難燃性防振ゴム成型体の製造方法は、弾性部7を中子とする金型成形により弾性部7の外周面に被覆層8を形成するものである。これにより、弾性部7と被覆層8とが密接に結合された耐久性の高い難燃性防振ゴム成型体10を製造できる。
【0023】
(作用及び効果)
難燃性防振ゴム成型体10は、NR系を主成分とする弾性部7が、NR系よりも高い難燃性を有するIR系を主成分とする被覆層8により覆われているので、難燃性に優れている。また、弾性部7の主成分と被覆層8の主成分とが同種のゴム成分で構成されているので、加硫工程における弾性部7と被覆層8との界面の馴染み易さが向上し、弾性部7と被覆層8とが密接に結合されており、耐久性に優れている。さらに、弾性部7の主成分であるNRと被覆層8の主成分であるIRのガラス転移温度(Tg)は-45℃~-50℃であり、弾性部7と被覆層8との硬さの違いが生じにくいので、耐寒性に優れている。
【0024】
ここで、
図2は、天然ゴム(NR)とクロロプレンゴム(CR)の温度と硬度との関係を示すグラフである。
図2には図示されていないが、イソプレンゴム(IR)もNRと同様のグラフとなる。硬度は、日本工業規格JIS K6253に準拠したタイプAデュロメーターで測定される。
図2に示すように、TgがNR(IR)よりも低い-20℃~-30℃であるCRと比較すると、NR(IR)は、より低温まで硬さの上昇が小さく、柔軟性が維持されている。例えば特許文献1に記載されているようなCRを主成分として被覆層を構成した場合、温度が低下するほど、被覆層の柔軟性が損なわれ、弾性部と被覆層とで硬さの違いが生じる。弾性部と被覆層とで硬さの違いが生じると、弾性部と被覆層との界面にかかる負荷が増大し、被覆層が弾性部から剥がれ易くなる。これに対し、難燃性防振ゴム成型体10は、弾性部7の主成分と被覆層8の主成分とが同種のゴム成分で構成されており、使用される温度が低下しても弾性部7と被覆層8とが同等の柔軟性を有するので、弾性部7と被覆層8との界面にかかる負荷を抑えることができる。
【0025】
難燃性防振ゴム成型体10は、被覆層8により難燃性が付与されているので、弾性部7への難燃剤の添加を不要とし、弾性部7の機械的特性の低下を抑制することができる。なお、難燃性が充分となる程度まで弾性部7に難燃剤を多量に添加して難燃性防振ゴム成型体を製造すると、機械的特性である引張強度又は耐久性が低下する。
【0026】
被覆層8は、共架橋剤又は有機過酸化物の架橋剤を含まなくてもよい。共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、トリメタリルイソシアヌレート等である。有機過酸化物の架橋剤は、ジクミルパーオキサイド(DCP)、α,α’-(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日本油脂株式会社製ペロキシモンF-40)等である。例えば、CR系のゴムを主成分として被覆層を構成する場合は、NR系の弾性部とCR系の被覆層との界面が馴染まず、CR系の被覆層がNR系の弾性部から剥がれ易くなる。このため、上述の共架橋剤又は有機過酸化物の架橋剤を使用し、被覆層と弾性部との接着性を向上させる必要がある(特許文献1参照)。これに対し、難燃性防振ゴム成型体10は、弾性部7と被覆層8とが密接に結合されるので、被覆層8において共架橋剤又は有機過酸化物の架橋剤を含まない配合とすることができる。また、弾性部7が臭素系等の有機系難燃剤を含まないので、環境への負荷を抑えることができる。
【0027】
難燃性防振ゴム成型体10は、天然ゴムを主成分として含む弾性部と、弾性部の外表面に設けられ、弾性部よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている被覆層とを備えるゴム部材の一例である。このゴム部材の弾性部及び被覆層は、難燃性防振ゴム成型体10の弾性部7及び被覆層8と同様の特徴を有する。このため、ゴム部材は、難燃性、耐寒性、耐久性に優れているという、難燃性防振ゴム成型体10と同様の作用及び効果を有する。当該ゴム部材の被覆層を構成するゴム組成物は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、このゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含むことが好ましい。ゴム部材は、車両(特に鉄道車両)に好適である。
【0028】
弾性部7の伸びと被覆層8の伸びとの比(以下、伸び比という場合がある。)は、0.8以上1.2以下であることが好ましい。すなわち、弾性部7の伸びをXとし、被覆層8の伸びをYとすると、0.8≦X/Y≦1.2が成り立つ。弾性部7の伸びXと被覆層8の伸びYとの比は、X/Yである。ここで、伸びは、JIS K 6251:2017で規定される降伏点伸び又は切断時伸びであってよい。すなわち、弾性部7の降伏点伸びと被覆層8の降伏点伸びとの比は、0.8以上1.2以下であることが好ましい。弾性部7の切断時伸びと被覆層8の切断時伸びとの比は、0.8以上1.2以下であることが好ましい。弾性部7の降伏点伸びと被覆層8の降伏点伸びとの比は、0.8以上1.2以下であり、弾性部7の切断時伸びと被覆層8の切断時伸びとの比は、0.8以上1.2以下であることがより好ましい。このように、弾性部7の伸びと被覆層8の伸びとの比が、概ね1.0になるように、すなわち、弾性部7の伸びと被覆層8の伸びとがほとんど同じになるように、弾性部7と被覆層8とが一体的に成形されている。これにより、難燃性防振ゴム成型体10の変形時において弾性部7と被覆層8との境界に生じる伸びの差(歪の差)を小さくできる。よって、弾性部7から被覆層8が剥がれ難くできる。
【0029】
弾性部7の伸びと被覆層8の伸び(降伏点伸び又は切断時伸び)との比は、0.9以上1.1以下であることがより好ましい。これにより、難燃性防振ゴム成型体10の変形時において弾性部7と被覆層8との境界に生じる伸びの差(歪の差)をより小さくできる。よって、弾性部7から被覆層8がより剥がれ難くできる。
【0030】
弾性部7の伸び(降伏点伸び又は切断時伸び)は、390%以上590%以下が好ましく、470%以上540%以下がより好ましい。被覆層8の伸びは、390%以上590%以下が好ましく、470%以上540%以下がより好ましい。
【0031】
(実施例)
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0032】
(ゴム組成物の調製)
表1は、ゴム組成物A,B,C,D及びEのそれぞれの配合処方並びに破断伸び及び引張強さを含む機械的特性を示す。ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従って各成分を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練して5種のゴム組成物A,B,C,D及びEを調製した。表1に記載の各成分を以下に示す。なお、表1に記載の各成分の配合量の単位は相対的な「質量部」であり、表中の「-」は、その成分を配合していないことを示す。
【0033】
ゴム成分(天然ゴム):RSS#3を主成分とするゴム成分
ゴム成分(イソプレンゴム):商品名「JSR IR2200」(シス-1,4結合量95%以上のイソプレンゴムが98%以上)(JSR株式会社製)を50質量%以上含むゴム成分
カーボンブラックA:商品名「シーストV」、東海カーボン株式会社製
カーボンブラックB:商品名「シースト3」、東海カーボン株式会社製
酸化亜鉛:商品名「亜鉛華3号」、三井金属鉱業株式会社
老化防止剤:商品名「アンチゲン6C」、住友化学株式会社製
水酸化マグネシウム:商品名「キスマ5A」、協和化学工業株式会社製
水酸化アルミニウム:商品名「ハイジライトH-32」、昭和電工株式会社製
硫黄:油処理150メッシュ粉末硫黄、鶴見化学工業株式会社製
加硫促進剤:商品名「サンセラー22-C」、三新化学工業株式会社製
【0034】
【0035】
(ゴムの作製)
5種のゴム組成物A,B,C,D及びEを用いて、実施例1~4及び比較例1~3の加硫ゴム(試験片)を作製した。実施例1は、まず、ゴム組成物Bを金型に流し込み、150℃にて20分加熱及び加硫し、弾性部を成形した。弾性部を成形した後、金型に弾性部が入っている状態でゴム組成物Aを流し込み、150℃にて20分加熱及び加硫し、加硫ゴムを作製した。実施例1は、硬度が低いゴム組成物Bからなる弾性部の表面に、難燃性を有するゴム組成物Aからなる被覆層が設けられた加硫ゴムである。ゴム組成物Aを金型に流し込む量は、被覆層の厚さが2mmとなるように調整した。ゴム組成物Bを金型に流し込む量は、軟質層の厚さが23mmとなるように調整した。したがって、実施例1の加硫ゴムの厚さは25mmである。実施例2は、ゴム組成物Bの代わりに、ゴム組成物Bよりも硬度が高いゴム組成物Cを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。すなわち、実施例2は、硬度が高いゴム組成物Cからなる弾性部の表面に、難燃性を有するゴム組成物Aからなる被覆層が設けられた加硫ゴムである。ゴム組成物Cを金型に流し込む量は、軟質層の厚さが23mmとなるように調整した。したがって、実施例2の加硫ゴムの厚さは25mmである。
【0036】
実施例3は、ゴム組成物Bの代わりに、ゴム組成物Bよりも硬度が高いゴム組成物Dを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。すなわち、実施例3は、硬度がゴム組成物Bより更に高いゴム組成物Dからなる弾性部の表面に、難燃性を有するゴム組成物Aからなる被覆層が設けられた加硫ゴムである。ゴム組成物Dを金型に流し込む量は、軟質層の厚さが23mmとなるように調整した。したがって、実施例3の加硫ゴムの厚さは25mmである。実施例4は、ゴム組成物Bの代わりに、ゴム組成物Bに配合したカーボンブラックAの代わりにカーボンブラックBを配合したゴム組成物Eを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。すなわち、実施例4は、カーボンブラックBを配合したゴム組成物Eからなる弾性部の表面に、難燃性を有するゴム組成物Aからなる被覆層が設けられた加硫ゴムである。ゴム組成物Eを金型に流し込む量は、軟質層の厚さが23mmとなるように調整した。したがって、実施例4の加硫ゴムの厚さは25mmである。
【0037】
比較例1は、ゴム組成物Bを金型に流し込み、150℃にて20分加熱及び加硫して加硫ゴムを作製した。比較例1は、ゴム組成物Bのみからなる加硫ゴムである。ゴム組成物Bを金型に流し込む量は、加硫ゴムの厚さが25mmとなるように調整した。比較例2は、ゴム組成物Bの代わりにゴム組成物Cを用いたこと以外は、上記の比較例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。比較例2は、ゴム組成物Cのみからなる加硫ゴムである。比較例3は、ゴム組成物Bの代わりにゴム組成物Aを用いたこと以外は、上記の比較例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。比較例3は、ゴム組成物Aのみからなる加硫ゴムである。比較例1~3の各加硫ゴムの厚さは25mmである。
【0038】
表1に示すゴム組成物を組み合わせて構成された加硫ゴム(試験片)である実施例1から4及び比較例1から3について、性能評価を行った。表2は、実施例1から4及び比較例1から3のぞれぞれの加硫ゴム(試験片)を構成するゴム組成物の組み合わせ、伸び比(X/Y)、製品での被覆層の耐久性の評価及びMARHE値を示す。
【0039】
【0040】
<耐久性>
表2に示すように、被覆層にゴム組成物Aを用いて弾性部にゴム組成物B,C又はDを用いた製品(実施例1から3)の耐久性は、いずれも良好(表2において記号「〇」で示されている。)であった。被覆層にゴム組成物Aを用いて弾性部にゴム組成物Eを用いた製品(実施例4)の耐久性は、問題なし(表2において記号「△」で示されている。)であったが、弾性部の伸びと被覆層の伸びとの比(X/Y)が小さいので、剥がれ等が発生する限界と考えられる。
【0041】
<燃焼性能>
EN45545-2では、鉄道車両に用いられる主要ゴム部材の難燃性の評価は、ISO 5660-1に準じてコーンカロリーメータ法による発熱試験によって行うことが規定されており、この方法で測定されたMARHEの値が、所定値以下であることが要求される。具体的に、ハザードレベル(HL)1及び2では、MARHE値が90以下、HL3では、MARHE値が60以下であることが要求される。そこで、実施例及び比較例で得られた加硫ゴムについて、ISO 5660-1に準拠し、100mm×100mm×25mmのサンプルを作製した。試験時間20分間、測定間隔2秒毎、輻射量25kW/m2の測定条件で上記サンプルの発熱速度を測定し、得られた測定結果を下記式(1)に代入してARHE(average rate of heat emission)を求め、その最大値をMARHE(maximum average rate of heat emission)とした。なお、2秒毎に積算値を算出し、ARHEの最大値をMARHEとする。MARHE値により燃焼性能の評価を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【数1】
t
n:測定時間
t
n-1:t
n秒から2秒前の測定時間
t
1:測定開始時間(t
1=0)
q
n:t
n秒時の発熱速度
q
n-1:t
n-1秒時の発熱速度
【0043】
表2に示すように、実施例1,実施例2,比較例1,比較例2及び比較例3のMARHE値は、それぞれ、62,52,241,188及び30であった。実施例3及び実施例4のMARHE値は、いずれも、90未満であった。
【0044】
表2より、実施例1,2と比較例1,2とを比べると、弾性部の表面に難燃性の被覆層を設けた実施例1,2は、被覆層を有しない弾性部のみからなる比較例1,2よりもMARHE値が低いことが確認できた。実施例1,実施例2,実施例3及び実施例4は、いずれもMARHE値が90未満であり、HL1及び2の要求を満たす、優れた難燃性を有する。実施例1と実施例2とを比べると、弾性部がゴム組成物Cである実施例2は、弾性部がゴム組成物Bである実施例1よりもMARHE値が低く、HL3の要求を満たしていることが確認できた。ゴム組成物Bよりも硬度が高いゴム組成物Cを弾性部の材料として用いることで、より優れた難燃性を発現することが分かる。なお、難燃性を有するゴム組成物Aからなる比較例3は、難燃性の点では優れているが、機械的特性である引張強度又は耐久性が低下するものとなっている。
【0045】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体20について説明する。なお、以下、難燃性防振ゴム成型体20と第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10とで共通する事項については説明を省略する場合がある。
図3は、第2実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体20を示す断面図である。
図3に示すように、第2実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体20は、第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10と同様に、例えば、図示しない鉄道車両の台車枠と車軸側部材との間、台車枠と空気ばね100との間等に介装される。
【0046】
難燃性防振ゴム成型体20は、弾性部27と、弾性部27を覆う被覆層28と、を備えている。
【0047】
弾性部27は、第1実施形態の弾性部7とは異なり、交互に重なる軟質層271と、硬質層272と、を有する。弾性部27は、複数(例えば、4個)の軟質層271と、複数(例えば、3個)の硬質層272と、を含んでいてよい。弾性部27は、軟質層271と硬質層272とを、軸心Pに沿う方向、すなわち、鉛直方向に交互に積層した積層構造である。
【0048】
軟質層271は、天然ゴム(NR)を主成分として含む。軟質層271のゴム材料としては、例えば、公知の防振ゴムとして使用されているゴム配合物を使用することができる。軟質層271は、所定の厚さを有する環状である。複数の軟質層271は、同形状であってよい。
【0049】
硬質層272は、軟質層271より高い硬度を有している。硬質層272は、軟質層271より高い弾性率又は剛性を有していてよい。硬質層272は、金属製であってよい。硬質層272は、天然ゴム(NR)を主成分として含んでもよい。硬質層272は、所定の厚さを有する環状である。複数の硬質層272は、同形状であってよい。
【0050】
弾性部27の軟質層271と被覆層28とは、加硫接着されて一体化されている。被覆層28は、弾性部27における軟質層271の側表面に加硫接着されて一体化されている。被覆層28は、弾性部27の少なくとも一部を覆っている。被覆層28は、弾性部27の側表面を覆っている。被覆層28は、少なくとも、軟質層271の側表面を覆っている。被覆層28は、弾性部27の側表面の全面を覆っていることが好ましい。被覆層28は、少なくとも、弾性部27の軟質層271における軸心Pから最も離れた側表面の部分を覆っていることが好ましい。これにより、難燃性防振ゴム成型体20に難燃性を効果的に付与できる。
【0051】
難燃性防振ゴム成型体20は、天然ゴムを主成分として含む軟質層271と、当該軟質層271の表面に設けられ、軟質層271よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている被覆層28とを備えるゴム部材の一例である。当該ゴム部材の軟質層271及び被覆層28は、難燃性防振ゴム成型体20の軟質層271及び被覆層28と同様の構成を有する。このため、ゴム部材は、難燃性、耐寒性及び耐久性に優れているという、難燃性防振ゴム成型体20と同様の作用及び効果を有する。当該ゴム部材の被覆層28を構成するゴム組成物は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含むことが好ましい。ゴム部材は、車両(特に鉄道車両)に好適である。
【0052】
第2実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体20の製造方法は、第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10の製造方法と同様に、弾性部27を中子とする金型成形により弾性部27の外周面に被覆層28を形成するものである。これにより、弾性部27と被覆層28とが密接に結合された耐久性の高い難燃性防振ゴム成型体20を製造できる。
【0053】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0054】
本実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10,20は、弾性部7,27と、弾性部7,27の少なくとも一部を覆う被覆層8,28と、を備えている。弾性部7,27は、天然ゴムを主成分として含んでいる。被覆層8,28は、弾性部7,27よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている。これにより、難燃性、耐寒性及び耐久性に優れる難燃性防振ゴム成型体を提供することができる。
【0055】
本発明に係る難燃性防振ゴム成型体10,20の製造方法は、弾性部7,27を中子とする金型成形により弾性部7,27の外周面に被覆層8,28を形成する。これにより、難燃性、耐寒性及び耐久性に優れる難燃性防振ゴム成型体を提供することができる。
【0056】
より具体的には、第1実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体10の製造方法は、(i)天然ゴムを主成分として含んだ弾性部7を用意する弾性部準備工程と、(ii)調整したIR系のゴム組成物を用意するゴム組成物準備工程と、(iii)弾性部7を中子として、被覆層8の成形に用いる外型となる被覆層金型内に配置し、被覆層金型が所定温度となった後に、被覆層8となる、調製したIR系のゴム組成物である未加硫ゴムを、弾性部7と被覆層金型との間に流し込んで充填し、加熱及び加硫することで弾性部7の外周面に被覆層8を形成する被覆層形成工程と、を備える。
【0057】
上述した弾性部準備工程では、適宜、弾性部7中の加硫剤の濃度が、未加硫ゴム中の加硫剤の濃度よりも低くなっている弾性部7を用意する。また、上述した被覆層形成工程では、充填された未加硫ゴムと既に成形されている弾性部7との界面で、同種のゴム成分同士の加硫反応が促進され、加硫成形を行うことによって、濃度が高い未加硫ゴムから濃度が低い弾性部7へ加硫剤が流れて融合して強固に接着され、弾性部7を中子とする金型成形により弾性部7の外周面に被覆層8を形成する。
【0058】
弾性部準備工程は、弾性部7の成形に用いる弾性部金型内へNR系の未加硫ゴムを供給して、加熱及び加硫し、弾性部7を成形する成形工程を備える。この成形工程では、弾性部7を成形する際に加硫剤を消費させて、弾性部7中の加硫剤の濃度を、未加硫ゴム中の加硫剤の濃度よりも低くする。
【0059】
第2実施形態に係る難燃性防振ゴム成型体20の製造方法は、天然ゴム(NR)を主成分として含んだ軟質層271を少なくとも備え、軟質層271と硬質層272とを鉛直方向に交互に積層した積層構造の弾性部27を用意する弾性部準備工程を備える。その他の工程は、第1実施形態と同様であり、上述したゴム組成物準備工程と被覆層形成工程とを備える。これにより、第1実施形態及び第2実施形態の製造方法によって、難燃性、耐寒性及び耐久性に優れる難燃性防振ゴム成型体10,20を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
100 空気ばね
10,20 難燃性防振ゴム成型体
1 上面板
2 下面板
3 可撓部材
4 支持フレーム
5 頂板
6 底板
7 弾性部
8 被覆層
P 軸心