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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025047366
(43)【公開日】2025-04-03
(54)【発明の名称】溶融炉及びガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/04 20060101AFI20250326BHJP
   C03B 5/42 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
C03B5/04
C03B5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155821
(22)【出願日】2023-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】天山 和幸
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AE00
(57)【要約】
【課題】アーチ状の天井壁を長期間にわたって安定して支持する。
【解決手段】ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスGmを生成する溶融炉1が、アーチ状の天井壁3cと、天井壁3cの端面3caを支持する天井受け煉瓦3dと、天井受け煉瓦3dを保持する保持具5と、保持具5を支持する支柱4と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融炉であって、
アーチ状の天井壁と、前記天井壁の端面を支持する天井受け煉瓦と、前記天井受け煉瓦を保持する保持具と、前記保持具を支持する支柱と、を備えることを特徴とする溶融炉。
【請求項2】
前記保持具は、前記天井受け煉瓦を下方から支持する下方支持部と、前記天井受け煉瓦を側方から支持する側方支持部とを有し、
前記天井壁の端面は、前記天井受け煉瓦の受け面に当接し、前記端面における前記受け面との当接面は、前記受け面と同じ角度だけ傾斜する傾斜面とされ、
前記保持具が、前記下方支持部と前記側方支持部との角部に対応する前記天井受け煉瓦の角部を中心部として前記天井受け煉瓦が下方に回転する力を受けるように構成されることを特徴とする請求項1に記載の溶融炉。
【請求項3】
前記保持具は、上下動可能に前記支柱に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の溶融炉。
【請求項4】
前記保持具は、少なくとも当該溶融炉の稼働時に、上下動可能に前記支柱に支持され、且つ、前記天井受け煉瓦の下方に配置された壁部を取り除く時に、前記支柱に固定されることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の溶融炉。
【請求項5】
前記天井受け煉瓦は、前記天井壁側の第一煉瓦と、前記保持具側の第二煉瓦とを備えると共に、前記第一煉瓦が前記溶融炉内に露出し且つ前記第二煉瓦が前記溶融炉内に露出していないことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の溶融炉。
【請求項6】
前記第一煉瓦は、前記第二煉瓦よりも、耐熱性及び/又は耐食性に優れていることを特徴とする請求項5に記載の溶融炉。
【請求項7】
前記第二煉瓦は、前記第一煉瓦よりも保温性に優れていることを特徴とする請求項5に記載の溶融炉。
【請求項8】
前記第一煉瓦と前記第二煉瓦とのそれぞれの当接面同士は、ずれ防止構造を用いて当接していることを特徴とする請求項5に記載の溶融炉。
【請求項9】
前記天井受け煉瓦は、前記支柱側に突出する凸部を有することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の溶融炉。
【請求項10】
前記保持具は、前記凸部を受け入れる凹部を有することを特徴とする請求項9に記載の溶融炉。
【請求項11】
請求項1~3の何れかに記載の溶融炉を用いて溶融ガラスを生成する工程を備えることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉及びこれを用いてガラス物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板、ガラス管及びガラス繊維等に代表されるガラス物品は、溶融炉でガラス原料を加熱溶融して生成された溶融ガラスを所定の形状に成形することにより製造される。
【0003】
溶融炉は、大別すると、溶融ガラスを生成して貯留する溶融槽と、溶融槽の上部空間を覆う上部構造物とを備える。
【0004】
溶融炉の上部構造物としては、例えば特許文献1に開示されているように、アーチ状の天井壁を備える場合がある。
【0005】
そして、同文献には、アーチ状の天井壁(1a)の端部(両端部)を、支柱(3a)に取り付けたL字型の保持具(8)によって保持することが開示されている(同文献の図1参照)。
【0006】
また、同文献には、この保持具(8)を鉄鋼SS400などの材料で形成することも開示されている(同文献の段落0039参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-1538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示のように、耐火煉瓦等の耐火性部材で形成されたアーチ状の天井壁の端部が、鋼材等の金属で形成された保持具によって直接保持されていると、天井壁の端部が破損し易くなる。そのため、天井壁を長期間にわたって安定して支持できなくなるという問題が生じる。
【0009】
以上の観点から、本発明は、アーチ状の天井壁を長期間にわたって安定して支持することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 上記課題を解決するために創案された本発明の第一の側面は、ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融炉であって、アーチ状の天井壁と、天井壁の端面を支持する天井受け煉瓦と、天井受け煉瓦を保持する保持具と、保持具を支持する支柱と、を備えることに特徴づけられる。
【0011】
このような構成によれば、アーチ状の天井壁の端面が天井受け煉瓦により支持され、且つ、天井受け煉瓦が支柱に支持された保持具により保持されているため、天井壁の端部が破損し難くなる。これにより、アーチ状の天井壁を長期間にわたって安定して支持することが可能となる。
【0012】
(2) 上記(1)の構成において、保持具は、天井受け煉瓦を下方から支持する下方支持部と、天井受け煉瓦を側方から支持する側方支持部とを有し、天井壁の端面は、天井受け煉瓦の受け面に当接し、端面における受け面との当接面は、受け面と同じ角度だけ傾斜する傾斜面とされ、保持具が、下方支持部と側方支持部との角部に対応する天井受け煉瓦の角部を中心部として天井受け煉瓦が下方に回転する力を受けるように構成されていてもよい。
【0013】
このようにすれば、例えば溶融炉の修理点検時等に、天井受け煉瓦の下方に配置された壁部を取り除いても、天井受け煉瓦には上記角部を中心部として下方に回転しない。そのため、上記壁部を取り除く時に、後述するように保持具が支柱に固定される構成としておけば、天井壁は、天井受け煉瓦及び保持具によってそのまま支持された状態になる。これにより、天井壁の崩落が生じなくなる。その結果、溶融炉の修理点検等の後に溶融炉を再稼働する際には、天井壁をそのまま再利用することができる。
【0014】
(3) 上記(1)の構成において、保持具は、上下動可能に支柱に支持されていてもよい。
【0015】
このようにすれば、天井受け煉瓦の下方に配置される壁部が熱の影響により上下方向に膨張又は収縮しても、これに追随して保持具が上下動することで、天井受け煉瓦を常時適切に保持しておくことができる。
【0016】
(4) 上記(1)~(3)の何れかの構成において、保持具は、少なくとも当該溶融炉の稼働時に、上下動可能に支柱に支持され、且つ、天井受け煉瓦の下方に配置された壁部を取り除く時に、支柱に固定されてもよい。
【0017】
このようにすれば、保持具は、溶融炉の稼働時と、上記壁部を取り除く時との何れにおいても、天井壁を適切に保持できる。
【0018】
(5) 上記(1)~(4)の何れかの構成において、天井受け煉瓦は、天井壁側の第一煉瓦と、保持具側の第二煉瓦とを備えると共に、第一煉瓦が溶融炉内に露出し且つ第二煉瓦が溶融炉内に露出していなくてもよい。
【0019】
このようにすれば、第二煉瓦が溶融炉内からの熱の影響を受け難くなると共に、天井受け煉瓦から保持具及び支柱への熱伝導が抑制され、支柱及び保持具による天井受け煉瓦の保持を長期にわたって適切化できる。
【0020】
(6) 上記(5)の構成において、第一煉瓦は、第二煉瓦よりも、耐熱性及び/又は耐食性に優れていてもよい。
【0021】
このようにすれば、天井壁を直接支持する第一煉瓦の早期劣化を抑制できるため、長期にわって天井壁を適切に支持できる。
【0022】
(7) 上記(5)又は(6)の構成において、第二煉瓦は、第一煉瓦よりも保温性に優れていてもよい。
【0023】
このようにすれば、溶融炉内の熱が外部に逃げ難くなるため、溶融炉の稼働時におけるエネルギー効率を向上させることができる。
【0024】
(8) 上記(5)~(7)の何れかの構成において、第一煉瓦と第二煉瓦とのそれぞれの当接面同士は、ずれ防止構造を用いて当接していてもよい。
【0025】
このようにすれば、第二煉瓦からの第一煉瓦の滑りによる崩落、及びこれに伴う天井壁の崩落を防止できる。
【0026】
(9) 上記(1)~(8)の何れかの構成において、天井受け煉瓦は、支柱側に突出する凸部を有していてもよい。
【0027】
このようにすれば、天井受け煉瓦を保持具を介して支柱で支持するために凸部を有効利用することができる。
【0028】
(10) 上記(9)の構成において、保持具は、凸部を受け入れる凹部を有していてもよい。
【0029】
このようにすれば、保持具の上下方向寸法を短くして軽量化やコンパクト化を図ることが可能になると共に、天井受け煉瓦の上下動に追従して保持具を確実に移動させることができる。
【0030】
(11) 上記課題を解決するために創案された本発明の第二の側面は、ガラス物品の製造方法であって、上記(1)~(10)の何れかの構成を有する溶融炉を用いて溶融ガラスを生成する工程を備えることに特徴づけられる。
【0031】
この製造方法によっても、上記(1)~(10)の何れかの構成を有する溶融炉と実質的に同一の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、アーチ状の天井壁を長期間にわたって安定して支持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の第一実施形態に係る溶融炉の全体構成を示す縦断側面図である。
図2図1に示す溶融炉をA-A線に従って切断した縦断正面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る溶融炉の上部の主要部を示す拡大縦断正面図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る溶融炉の上部構造の主要部を示す拡大縦断正面図である。
図5】本発明の第三実施形態に係る溶融炉の上部構造の主要部を示す拡大縦断正面図である。
図6】本発明の第四実施形態に係る溶融炉の上部構造の主要部を示す拡大縦断正面図である。
図7】本発明の第一の変形例に係る溶融炉の上部構造の主要部を示す拡大縦断正面図である。
図8】本発明の第二の変形例に係る溶融炉の上部構造の主要部を示す拡大縦断正面図である。
図9】本発明の第三の変形例に係る溶融炉の上部構造の主要部を示す拡大縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る溶融炉及びこれを用いたガラス物品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0035】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る溶融炉1を示す縦断側面図(側面方向からの断面図)であり、図2は、図1に示す溶融炉1をA-A線に従って切断した縦断正面図(正面方向からの断面図)である。これら各図に示すように、溶融炉1は、大別すると、溶融ガラスGmを生成して貯留する溶融槽2と、溶融槽2の上部空間Kを覆う上部構造物3と、を備える。以下の説明では、図1における流れ方向(後述のガラス原料の供給側から溶融ガラスの排出側に向かう方向)を示す矢印Fの始点側を「前側」とし、終点側を「後側」とする。また、図2における矢印B方向側を「右側」とし、矢印C方向側を「左側」とする(図3図9も同様)。
【0036】
溶融槽2は、炉底部を構成する底壁2aと、炉側部を構成する四つの基側壁2bと、を備える。四つの基側壁2bは、平面視で矩形状をなすように配置され、それぞれ前側、後側、右側及び左側に位置する。底壁2aは、複数の耐火煉瓦で形成されている。基側壁2bは、上下方向に長尺な耐火ブロックを横方向に並べて配置することで構成できるが、複数の耐火煉瓦を上下方向及び横方向に並べて配置することで構成してもよい。底壁2aには、溶融ガラスGmに浸漬された状態で溶融ガラスGmを加熱する電極(図示なし)が設けられてもよい。底壁2aの電極に替えて、或いは、底壁2aの電極に加えて、右側及び左側の基側壁2bに電極を設けてもよい。後側の基側壁2bには、溶融ガラスGmを排出する流出路1xが設けられる。
【0037】
上部構造物3は、四つの基側壁2bの上方にそれぞれ配置された中間受け煉瓦3aと、それら四つの中間受け煉瓦3aの上方にそれぞれ配置された上部側壁3bと、を備える。また、上部構造物3の上端には、アーチ状の天井壁3cが配置されている。四つの中間受け煉瓦3aは、複数の耐火煉瓦を横方向に並べて配置することで構成できる。また、四つの上部側壁3bは、それぞれ上下方向に長尺な耐火ブロックを横方向に並べて配置することで構成できるが、複数の耐火煉瓦を上下方向及び横方向に並べて配置することで構成してもよい。前側に位置する上部側壁3bには、溶融炉1内にガラス原料を供給するための供給機(図示なし)が設けられる。天井壁3cは、複数の耐火煉瓦をアーチ状に並べて形成されている。
【0038】
溶融槽2及び上部構造物3の外側には、上下方向に延びる複数本の支柱4が配置され、図1及び図2ではそのうちの四本の支柱4を図示している。この四本の支柱4は、図2に示すように、各一対の支柱4がそれぞれ溶融槽2及び上部構造物3の左右両側の外方に配置され、且つ、図1に示すように、各々の一対の支柱4が何れも対向して配置されている。支柱4は、例えばH形鋼といった形鋼で構成できる。
【0039】
図2に示すように、右側及び左側の上部側壁3bの上方にはそれぞれ天井受け煉瓦3dが配置され、各天井受け煉瓦3dによって天井壁3cが支持されている。各天井受け煉瓦3dは、それぞれ各保持具5によって保持されている。各保持具5は、それぞれ各支柱4によって支持されている。
【0040】
詳述すると、各保持具5は、普通鋼やステンレス鋼、耐熱鋼等の金属製である。また、図1に示すように、各保持具5は、上部構造物3の流れ方向全長にわたって延びている。さらに、同図に示すように、各保持具5は、それぞれ2本の支柱4によって支持されている。
【0041】
図2を参照して、天井受け煉瓦3dは、複数個が流れ方向に配列され、複数個の天井受け煉瓦3dは、それぞれ対応する保持具5によって保持されている。また、複数個の天井受け煉瓦3dは、それぞれ対応する上部側壁3bによって下方から支持されている。
【0042】
本実施形態に係る溶融炉1は、右側と左側とで構成が同一であって左右対称の関係にある。そこで、以下においては、溶融炉1の右側の構成要素についてのみ説明する。
【0043】
図3は、溶融炉1の上部構造の主要部を拡大して示す縦断正面図である。同図に示すように、天井壁3cの端面3caは、天井受け煉瓦3dの受け面3daに当接している。この場合、上記端面3caにおける上記受け面3daとの当接面3cbは、受け面3daと同じ角度だけ傾斜する傾斜面とされている。この当接面3cbの水平面に対する傾斜角度αは、45°超で且つ70°以下とされている。この傾斜角度αの下限値は、50°超であることが好ましく、55°超であることがより好ましい。また、この傾斜角度αの上限値は、65°以下であることが好ましい。
【0044】
天井受け煉瓦3dは、支柱4側に突出する凸部3eを備えている。詳しくは、天井受け煉瓦3dは、本体部3fと、本体部3fの右端面3faから支柱4側に向かって突出する凸部3eとを備えている。本体部3fの右端面3faは、鉛直面である。また、凸部3eは、流れ方向Fに平行な直線を含む鉛直面における断面形状が矩形状をなしている。凸部3eの右端面3eaは、鉛直面である。
【0045】
天井受け煉瓦3dの本体部3fの下端面3fbは、右側の上部側壁3bの上端面(受け面)3baに当接している。この受け面3baは、水平面である。天井受け煉瓦3dの凸部3eの下端面3ebは、本体部3fの下端面3fbよりも第一所定寸法L1だけ上方に位置しているが、本体部3fの下端面3fbと同じ高さに位置してもよい。天井受け煉瓦3dの凸部3eの上端面3ecは、本体部3fの上端面3fcよりも第二所定寸法L2だけ下方に位置している。第二所定寸法L2は、第一所定寸法L1よりも長くなっている。本実施形態では、第二所定寸法L2は、第一所定寸法L1の2倍以上の長さになっている。本体部3fの上端面3fcは、水平面である。本体部3fの上下方向寸法L3は、凸部3eの上下方向寸法L4の1.1倍~2.5倍である。本体部3fの水平方向寸法L5は、凸部3eの水平方向寸法L6の1.5倍~5倍である。
【0046】
保持具5は、天井受け煉瓦3dを下方から支持する下方支持部5aと、天井受け煉瓦3dを側方から支持する側方支持部5bとを有する。下方支持部5aと側方支持部5bとは一体的に形成されている。本実施形態では、保持具5は、天井受け煉瓦3dを上方から支持する上方支持部5cを有している。上方支持部5cと側方支持部5bとは一体的に形成されている。側方支持部5bは、鉛直な板状部である。上方支持部5c及び下方支持部5aは、何れも、水平な板状部である。本実施形態では、上方支持部5c及び下方支持部5aの内面は、水平面であるが、テーパー面であってもよい。
【0047】
保持具5は、天井受け煉瓦3dの凸部3eのみを支持している。したがって、下方支持部5aは、凸部3eの下端面3ebに当接し、側方支持部5bは、凸部3eの右端面3eaに当接している。図例では、上方支持部5cは、凸部3eの上端面3ecに当接しているが、当接していなくてもよい。下方支持部5a及び上方支持部5cは、何れも、天井受け煉瓦3dの本体部3fの右端面3faから離反している。保持具5は、上部側壁3bと干渉していない。
【0048】
保持具5の側方支持部5bの右端面5baは、支柱4の左端面4aに当接している。この場合、少なくとも溶融炉1の稼働時には、保持具5の側方支持部5bの右端面5baが支柱4の左端面4aに接触しているだけである。したがって、この時は、保持具5は、支柱4に上下動可能に支持されている。一方、溶融炉1の非稼働時、例えば溶融炉1の修理点検時等に、上部側壁3bを取り除く場合には、保持具5は、支柱4に固定される。
【0049】
以上の構成の下で、保持具5が、保持具5の下方支持部5aと側方支持部5bとの角部5xに対応する天井受け煉瓦3dの角部3exを中心部として矢印Dで示すような天井受け煉瓦3dが下方に回転する力を受けるように構成されている。ここで、天井受け煉瓦3dの角部3exは、凸部3eに存在し且つ凸部3eの下方支持部5aへの当接部位を含んでいる。加えて、天井受け煉瓦3dの受け面3daが天井壁3cから受ける力の方向を示す仮想直線Lxは、保持具5の側方支持部5bと交差するように構成されている。図例では、仮想直線Lxは、側方支持部5bの下部で交差しているが、側方支持部5bの下端部から上端部までの範囲内で交差していればよい。
【0050】
次に、上記構成を備えた溶融炉1の主たる作用効果を説明する。
【0051】
溶融炉1は、アーチ状の天井壁3cの端面3ca(当接面3cb)が天井受け煉瓦3dにより支持され、且つ、天井受け煉瓦3dが支柱4に支持された保持具5により保持されているため、天井壁3cの端部(当接面3cbの周辺部)が破損し難くなる。これにより、アーチ状の天井壁3cを長期間にわたって安定して支持することが可能となる。
【0052】
保持具5の下方支持部5aと側方支持部5bとの角部5xに対応する天井受け煉瓦3dの角部3exを中心部として天井受け煉瓦3dが下方に回転する力を保持具5が受けるように、天井壁3c、天井受け煉瓦3d及び保持具5が構成される。そのため、例えば溶融炉1の修理点検時等に、天井受け煉瓦3dの下方に配置されている上部側壁3b或いは基側壁2bなどを取り除いても、天井受け煉瓦3dは、上記角部3exを中心部として下方に回転しない。しかも、この時点では、保持具5が支柱4に固定されている。これらによって、天井受け煉瓦3dの角部3exを中心部として天井受け煉瓦3dが下方に回転するのを防止でき、天井壁3cは、天井受け煉瓦3d、保持具5及び支柱4によってそのまま支持(挟持)された状態になる。したがって、天井壁3cの崩落は生じなくなる。その結果、溶融炉1の修理点検等の後に溶融炉1を再稼働する際には、天井壁3cをそのまま再利用することができる。
【0053】
天井受け煉瓦3dの角部3exを中心部として天井受け煉瓦3dに下方に回転する力を保持具5が受ける構成とするためには、仮想直線Lxが、保持具5の側方支持部5bと交差するようにすればよい。ここで、仮想直線Lxは、天井受け煉瓦3dの受け面3daが天井壁3cから受ける力の方向を示す。このように、仮想直線Lxが、保持具5の側方支持部5bと交差している場合には、天井受け煉瓦3dが上記角部3exを中心部として下方に回転する力を保持具5が受けることができる。仮想直線Lxの方向や、天井受け煉瓦3dの寸法L1~L6を調整することで、天井受け煉瓦3dの仮想直線Lxを保持具5の側方支持部5bと交差させることができる。なお、仮想直線Lxの方向は、傾斜角度αを変更することで調整できる。
【0054】
保持具5は、上下動可能に支柱4に支持されているため、天井受け煉瓦3dの下方に配置される上部側壁3b、中間受け煉瓦3a、及び基側壁2bなどが熱の影響により上下方向に膨張又は収縮しても、これに追随して保持具5が上下動することで、天井受け煉瓦3dを常時適切に保持しておくことができる。
【0055】
保持具5は、少なくとも溶融炉1の稼働時には、上下動可能に支柱4に支持され、且つ、天井受け煉瓦3dの下方に配置された上部側壁3bを取り除く時には、支柱4に固定されるため、上記何れの時であっても、天井受け煉瓦3dを適切に保持できる。
【0056】
保持具5は、天井受け煉瓦3dの凸部3eを受け入れる凹部を有する。この保持具5の凹部は、上方支持部5c、側方支持部5b及び下方支持部5aにより構成される。このため、保持具5の上下方向寸法を短くして軽量化やコンパクト化を図ることが可能になると共に、天井受け煉瓦3dの上下動に追従して保持具5を確実に移動させることができる。
【0057】
[第二実施形態]
図4は、第二実施形態に係る溶融炉1の上部構造の主要部を示す縦断正面図である。同図に示すように、この第二実施形態が上述の第一実施形態と相違する点は、天井受け煉瓦3dが、第一煉瓦3d1と第二煉瓦3d2とに分割されているところにある。第一煉瓦3d1は、溶融炉1内(上部空間K)に露出し、第二煉瓦3d2は溶融炉1内に露出することなく、第一煉瓦3d1に覆われる。これにより、第二煉瓦3d2は第一煉瓦3d1に比して溶融炉1内からの熱の影響を受け難くなり、これに伴って第二煉瓦3d2から保持具5及び支柱4への熱伝導が抑制される。その結果、支柱4及び保持具5による天井受け煉瓦3dの保持を長期にわたって適切化できる。第一煉瓦3d1及び第二煉瓦3d2の当接面3d1a、3d2aは、何れも、天井受け煉瓦3dの受け面3daと同方向に同角度αだけ傾斜する傾斜面である。ここで、第一煉瓦3d1は、第二煉瓦3d2よりも耐熱性及び/又は耐食性に優れている。これにより、天井壁3cの端面3caに当接する第一煉瓦3d1の早期劣化を抑制できるため、長期にわって天井壁3cを適切に支持できる。また、第二煉瓦3d2は、第一煉瓦よりも保温性に優れている。これにより、溶融炉1内の熱が外部に逃げ難くなるため、溶融炉1の稼働時におけるエネルギー効率を向上させることができる。以上の要請を満たすために、例えば、第一煉瓦3d1として電鋳煉瓦を使用し、且つ、第二煉瓦3d2としてムライト系煉瓦を使用することが好ましい。また、他の例として、第一煉瓦3d1としてアルミナジルコン煉瓦を使用し、且つ、第二煉瓦3d2としてムライト系煉瓦を使用することが好ましい。その他の構成及び作用効果は、上述の第一実施形態と同一であるため、両実施形態に共通の主要な構成要素については、図4に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
[第三実施形態]
図5は、第三実施形態に係る溶融炉1の上部構造の主要部を示す縦断正面図である。同図に示すように、この第三実施形態が上述の第二実施形態と相違する点は、第一煉瓦3d1及び第二煉瓦3d2のそれぞれの当接面3d1a、3d2a同士が、ズレ防止構造6を用いて当接しているところにある。ズレ防止構造6は、第一煉瓦3d1の当接面3d1aに保持具5側に突出する第一段部6xを形成すると共に、第二煉瓦3d2の当接面3d2aに天井壁3c側に突出する第二段部6yを形成し、且つ、第一段部6xと第二段部6yとを接合させたものである。このようなズレ防止構造6を備えることにより、第二煉瓦3d2からの第一煉瓦3d1の滑りによる崩落、及びこれに伴う天井壁3cの崩落を防止できる。その他の構成及び作用効果は、上述の第二実施形態と同一であるため、両実施形態に共通の構成要素については、図5に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
[第四実施形態]
図6は、第四実施形態に係る溶融炉1の上部構造の主要部を示す縦断正面図である。同図に示すように、この第四実施形態が上述の第三実施形態と相違する点は、ズレ防止構造6として、第一煉瓦3d1及び第二煉瓦3d2のそれぞれの当接面3d1a、3d2aの水平面に対する傾斜角度βを、上述の傾斜角度αよりも小さくしたところにある。このズレ防止構造6によれば、くさび作用によって、第二煉瓦3d2からの第一煉瓦3d1の滑りによる崩落、及びこれに伴う天井壁3cの崩落を防止できる。その他の構成及び作用効果は、上述の第三実施形態と同一であるため、両実施形態に共通の構成要素については、図6に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
次に、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について説明する。
【0061】
本製造方法は、溶融ガラス生成工程と、移送工程と、成形工程と、を備える。
【0062】
溶融ガラス生成工程は、既述の構成を備えた溶融炉1でガラス原料を加熱溶融することにより溶融ガラスGmを生成する工程である。
【0063】
移送工程は、溶融ガラス生成工程で生成された溶融ガラスGmを溶融炉1の流出路1x(図1参照)から成形装置まで移送する工程である。移送工程は、必要に応じて、移送経路上に設けられた清澄槽で溶融ガラスGmから気泡を除去する清澄工程や、撹拌槽で溶融ガラスGmを攪拌する撹拌工程、溶融ガラスGmを成形に適した粘度に調整したり、流量を調整したりする状態調整工程を備えてもよい。
【0064】
成形工程は、移送工程で移送された溶融ガラスGmから成形装置によりガラス物品を成形する工程である。この成形工程では、ガラス物品として、ガラス板、ガラス管、ガラス繊維などが成形される。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0066】
例えば、上記実施形態では、天井受け煉瓦3dに凸部3eを形成して、この凸部3eを保持具5で支持するようにしたが、図7に示すように、天井受け煉瓦3dに凸部3eを形成せずに、当該天井受け煉瓦3dを保持具5によって支持するようにしてもよい。このようにする場合も、上述の第二~第四実施形態と同様の態様で天井受け煉瓦3dを第一煉瓦3d1と第二煉瓦3d2とに分割してもよい。
【0067】
上記実施形態では、天井受け煉瓦3dの凸部3eのみを保持具5で支持するようにしたが、図8に示すように、天井受け煉瓦3dの凸部3eに加えて本体部3fも保持具5で支持するようにしてもよい。このようにする場合も、上述の第二~第四実施形態と同様の態様で天井受け煉瓦3dを第一煉瓦3d1と第二煉瓦3d2とに分割してもよい。
【0068】
上記実施形態では、保持具5の側方支持部5bを支柱4に接触させたが、図9に示すように、支柱4に天井受け煉瓦3d側に延びる連結部材7を取り付け、この連結部材7によって保持具5を支持させるようにしてもよい。このようにする場合も、上述の第二~第四実施形態と同様の態様で天井受け煉瓦3dを第一煉瓦3d1と第二煉瓦3d2とに分割してもよい。
【0069】
上記実施形態では、保持具5が、下方支持部5aと側方支持部5bと上方支持部5cとを備えているが、上方支持部5cは備えていなくてもよい。
【0070】
上記実施形態では、支柱4の本数を4本としたが、支柱4の本数は5本以上であってもよい。
【0071】
上記実施形態では、天井壁3cの端面3caの全域が、当接面3cbと同一平面とされているが、端面3caの当接面3cb以外の領域は、当接面3cbと同一平面でなくてもよい。
【0072】
上記実施形態では、保持具5の上下動を案内する部材を備えていないが、保持具5の上下動を案内するガイドレールなどを支柱4に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 溶融炉
2 溶融槽
3 上部構造物
3b 上部側壁
3c 天井壁
3ca 天井壁の端面
3cb 天井壁の当接面
3d 天井受け煉瓦
3d1 第一煉瓦
3d1a 第一煉瓦の当接面
3d2 第二煉瓦
3d2a 第二煉瓦の当接面
3da 天井受け煉瓦の受け面
3e 天井受け煉瓦の凸部
3ex 天井受け煉瓦の角部
4 支柱
5 保持具
5a 保持具の下方支持部
5b 保持具の側方支持部
5x 下方支持部と側方支持部との角部
6 ズレ防止構造
Gm 溶融ガラス
Lx 仮想直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9