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  • 特開-歯科対象物を露光するための露光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004751
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】歯科対象物を露光するための露光装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/08 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
A61C13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024093372
(22)【出願日】2024-06-08
(31)【優先権主張番号】23181428.6
(32)【優先日】2023-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ニードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ランプフ
(72)【発明者】
【氏名】マルク ディットマー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リッツベルガー
(57)【要約】
【課題】歯科対象物の着色を効率的かつ低い技術コストで実施する。
【解決手段】歯科対象物(101)を露光するための露光装置(100)において、歯科対象物(101)を収容するための洞室(103)と;350nm超の波長および10W/cm超の出力密度で歯科対象物(101)を露光するための放射源(105)とを備えた構成とし、この露光装置を用いて歯科対象物を露光する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科対象物(101)を収容するための洞室(103)と;
350nm超の波長および10W/cm超の出力密度で歯科対象物(101)を露光するための放射源(105)とを備えてなる
歯科対象物(101)を露光するための露光装置(100)。
【請求項2】
500nm超あるいは700nm超の波長で歯科対象物(101)を露光するように放射源(105)を形成してなる請求項1に記載の露光装置(100)。
【請求項3】
1W超の出力を有する放射線を放出するように放射源(105)を構成してなる請求項1または2に記載の露光装置(100)。
【請求項4】
放射源(105)をレーザ、発光ダイオード、または水銀灯によって形成してなる請求項1ないし3のいずれかに記載の露光装置(100)。
【請求項5】
レーザがチタンサファイアレーザまたはNd:YAGレーザである請求項4に記載の露光装置(100)。
【請求項6】
350nmないし1800nm、より好適には350nmないし1500nm、特に好適には350nmないし1100nmの波長範囲の放射線を放射するように放射源(105)を構成してなる請求項1ないし5のいずれかに記載の露光装置(100)。
【請求項7】
露光装置(100)が放射源(105)の放射強度を調節するための強度調節装置(107)を含んでなる請求項1ないし6のいずれかに記載の露光装置(100)。
【請求項8】
放射源(105)の最大および/または平均放射強度が100Wまたは300Wである請求項1ないし7のいずれかに記載の露光装置(100)。
【請求項9】
露光装置(100)が所定の時間領域で放射源(105)を付勢するタイマー装置(109)を含んでなる請求項1ないし8のいずれかに記載の露光装置(100)。
【請求項10】
350nm超の波長および10W/cm超の出力密度を使用して歯科対象物(101)を露光するステップ(S102)を有してなる歯科対象物(101)を露光する方法。
【請求項11】
波長が700nm超である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
放射線の出力が1W超である請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
350nmないし1800nm、より好適には350nmないし1500nm、特に好適には350nmないし1100nmの波長範囲の放射線が放射される請求項10ないし12に記載の方法。
【請求項14】
所与の時間領域で歯科対象物(101)を露光する請求項10ないし13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1ないし9のいずれかに記載の露光装置(100)と、多色彩ガラスおよび/または多色彩ガラスセラミックを含んだ歯科対象物(101)とを有してなる露光システム(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科対象物に照射するための露光装置、ならびに歯科対象物に照射する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば石英ガラス、石英ガラスセラミック、アルミノケイ酸リチウムガラス、アルミノケイ酸リチウムガラスセラミック、ケイ酸リチウムガラス、またはケイ酸リチウムガラスセラミック等の多色彩ガラスおよびガラスセラミックは、熱処理を伴った露光によって着色することができる。この場合露光は、通常UV照射によって実施される。照射完了後の多様な色効果は、主に温度処理によって達成される。
【0003】
しかしながら、UV放射線による露光はガラスセラミック中において浅い進入深度しか達成しない。UVレーザ、UV-LED、およびUV光学機構は技術的に高価であるとともに大きな寸法を有するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、歯科対象物の着色を効率的かつ低い技術コストで実施することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の技術的な課題は、独立請求項の対象によって解決される。技術的に好適な実施形態が、従属請求項、発明の詳細な説明、ならびに添付図面の対象である。
【0006】
第1の態様によれば、歯科対象物を収容するための洞室と;350nm超の波長および10W/cm超の出力密度で歯科対象物を露光するための放射源とを備えてなる、歯科対象物を露光するための露光装置によって前記の技術的な課題が解決される。歯科対象物は、洞室内の所与の位置で350nm超の波長および10W/cm超の出力密度を有する放射線によって露光することができる。出力密度は、100W/cm超あるいは1kW/cm超とすることもできる。そのような出力密度によれば、歯科対象物内部で多重光子プロセスを励起することができる。
【0007】
この露光装置によれば、歯科対象物の着色に際して材料内への放射線のより大きな進入深度が可能になるという技術的な利点が達成される。それによって、歯科対象物の体積全体が露光可能かつ励起可能になる。350nm超の波長を使用する場合、より効率的な装置および光学機構を利用することができ、またより短い露光時間が実現可能になる。
【0008】
この露光装置の技術的に好適な実施形態によれば、700nm超の波長で歯科対象物を露光するように放射源が形成される。それによって例えば、さらに大きな進入深度が可能になるという技術的な利点が達成される。
【0009】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、1W超の出力を有する放射線を放出するように放射源が構成される。レーザによって、例えば10000個の露光点を有する面積を走査することができる。露光点毎の露光時間を0.1秒とすると、合計露光時間は1000秒になる。その場合、レーザの放射出力を1Wとすれば充分であり得る。それによって例えば、歯科対象物を効率的に露光し得るという技術的な利点が達成される。
【0010】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、放射源がレーザ、発光ダイオード、または水銀灯によって形成される。それによって例えば、歯科対象物を露光するための放射線を効率よく発生させ得るという技術的な利点が達成される。
【0011】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、レーザがチタンサファイアレーザまたはNd:YAGレーザである。それによって例えば、簡便な方式で出力密度を生成して、損失を伴わずに歯科対象物に照射し得るという技術的な利点が達成される。
【0012】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、350nmないし1800nm、より好適には350nmないし1500nm、特に好適には350nmないし1100nmの波長範囲の放射線を放射するように放射源が構成される。それによって例えば、歯科対象物の着色を効率的に実行し得るという技術的な利点が達成される。
【0013】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、露光装置が放射源の放射強度を調節するための強度調節装置を含む。それによって例えば、使用される材料に対応して光照射の強度を調節し得るという技術的な利点が達成される。
【0014】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、放射源の最大および/または平均放射強度が100Wまたは300Wである。レーザの場合、複数のレーザパルスにわたって平均放射強度を算定することができる。発光ダイオードあるいは水銀灯の場合は、所定時間にわたって連続的に平均強度を算定することができる。それによって例えば、歯科対象物への過度に強度な照射を防止することができる。
【0015】
この露光装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、露光装置が所定の時間領域で放射源を付勢するタイマー装置を含む。それによって例えば、歯科対象物に対して単位面積当たりで所定のエネルギーを照射することができるという技術的な利点が達成される。
【0016】
第2の態様によれば、350nm超の波長および10W/cm超の出力密度を使用して歯科対象物を露光するステップを有してなる、歯科対象物を露光する方法によって前述の技術的な課題が解決される。この方法によれば、前述した第1の態様に係る露光装置と同様の技術的な利点が達成される。
【0017】
この方法の技術的に好適な実施形態によれば、波長が500あるいは700nm超である。それによっても例えば、さらに大きな進入深度が可能になるという技術的な利点が達成される。
【0018】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、放射線の出力が1W超である。それによっても例えば、歯科対象物を効率的に露光し得るという技術的な利点が達成される。
【0019】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、350nmないし1800nm、より好適には350nmないし1500nm、特に好適には350nmないし1100nmの波長範囲の放射線が放射される。加えて、熱処理によっても着色が達成される。それによって例えば、歯科対象物の着色または露光を効率的に実行し得るという技術的な利点が達成される。
【0020】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、所与の時間領域で歯科対象物を露光する。それによって例えば、歯科対象物に対して単位面積当たりで所定のエネルギーを照射することができるという技術的な利点が達成される。
【0021】
第3の態様によれば、第1の態様に係る露光装置と、多色彩ガラスおよび/または多色彩ガラスセラミックを含んだ歯科対象物とを有してなる露光システムによって前述の技術的な課題が解決される。この露光システムによって、第1の態様に係る露光装置と同様の技術的な利点が達成される。
【0022】
次に、本発明の実施例につき、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】露光装置の概略構成図である。
図2】歯科対象物を露光する方法のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、露光装置100の概略構成図である。露光装置100は、多色彩ガラスあるいは多色彩ガラスセラミックから製造された歯科対象物101を露光および活性化するように機能する。歯科対象物101は、例えばクラウン、ブリッジ、ベニア、アバットメント、インレイ、またはオンレイ等の歯科補綴物である。
【0025】
そのため、多色彩ガラスあるいはガラスセラミックが、例えば酸化可能な成分および還元可能な色成分を含む。酸化可能な成分は、照射によって酸化させることができる、あるいは電子を放出するように励起することができる成分である。酸化可能な成分は、例えばセリウムイオン、ユウロピウムイオン、エルビウムイオン、銅イオン、ならびにそれらの混合物である。還元可能な色成分は、例えば色変化を発生させながら還元させることができる成分である。好適な還元可能な色成分は、例えば銀、金、銅等の金属陽子、あるいはそれらを組み合わせたものである。
【0026】
露光装置100は洞室103を備え、その内部に歯科対象物101を配置して歯科対象物の露光を実行する。露光装置100は、露光する歯科対象物101のための所定の位置111を有し、例えば歯科対象物101のための載置面あるいはホルダ等である。洞室103は、歯科対象物101の場所における放射強度を高めるために、反射性の壁を備えて形成することができる。放射源105は、例えば洞室103の天井に設置する。しかしながら、歯科対象物が所定の出力密度で露光される限り、一般的に他の位置に放射源105を配置することもできる。
【0027】
放射源105は、所定の位置111上で350nm超の波長、および所定の位置111上で10W/cm超の出力密度で歯科対象物101を露光するように機能する。この点に関して、好適な放射源105は、例えばNd:YAGレーザまたはチタンサファイアレーザである。レーザを使用する場合、歯科対象物101に対して放射線を直接的かつ的確に方向設定することができる。
【0028】
放射源105は、適宜な発光ダイオードあるいは水銀灯によって構成することもできる。一般的に、350nm超の波長および10W/cm超の出力密度で放射線を放出することができるものであれば全ての放射源105を使用することができる。
【0029】
露光装置100は、放射源105の放射強度を調節するための強度調節装置107を備える。それによって、放射線の強度を上昇あるいは低下させることができる。強度調節装置107は、例えば放射源105の放射強度を変更することができる電気制御装置を含む。その制御装置に、使用者が放射源105の放射強度を調節することができる手動式のレギュレータを設けることができる。そのレギュレータは、機械的なインタフェースあるいは電子的なインタフェースによって構成することができる。
【0030】
さらに、露光装置100は、放射源105を所与の時間領域で付勢するためのタイマー装置109を備える。タイマー装置109は、放射源を所与の時間領域、例えば60秒で作動させる電気制御装置である。加えて、使用者が時間領域を調節することができる手動式のレギュレータを設けることもできる。そのレギュレータを、機械的なインタフェースあるいは電子的なインタフェースによって構成することができる。
【0031】
露光装置100は、放射源105ならびに露光装置100の他の機能を制御することができる電子制御装置(コントローラ)を備えることができる。制御装置は、多様な制御プログラムを実行することができるマイクロプロセッサを含むことができる。加えて、露光装置100は、歯科対象物101を加熱するための発熱装置、または歯科対象物101を造形するための成形装置を含むこともできる。
【0032】
図2には、歯科対象物101を露光する方法のブロック線図が示されている。ステップS101において、歯科対象物101が露光装置100の洞室103内の所定の位置に配置される。ステップS102において、350nm超の波長および10W/cm超の出力密度で歯科対象物101が露光される。それによって歯科対象物を活性化させ、例えば温度処理を行いながら着色を実行し得るようにする。追加的に、この方法が歯科対象物を製造あるいは造形するステップ、または歯科対象物を熱処理するステップを含むこともできる。
【0033】
350nm超の波長を有する放射線を使用することによって、歯科対象物101の材料の体積中でより大きな進入深度まで露光することが可能になる。加えて、実質的な露光時間が著しく短くなる。熱処理後に体積全体の着色を達成するためのガラスおよびガラスセラミックの露光および活性化を、前記の放射線によってより効率的に実行することができる。露光あるいは活性化を、歯科対象物101の材料体積全体において実行することができる。
【0034】
350nm超の波長を有する放射線を使用することによって、より小型かつ単純な装置ならびに光学機構が使用可能になり、かつより短い着色のための露光時間が実現可能になる。露光装置100は、製造方式(CAM:コンピュータ支援製造)と組み合わせて使用することができる。その場合、露光あるいは活性化を、歯科対象物の切削造形中に実行することができる。露光装置100を、例えば窯内での熱処理と同時に使用することができる。その場合、熱による焼入れ、結晶化、あるいは焼結中に、露光あるいは活性化を実行することができる。
【0035】
本発明の個々の実施形態に関連して説明および図示した全ての特徴を、多様な組み合わせで本発明の対象とすることができ、それによって同時に有効な利点が達成される。
【0036】
全ての方法ステップは、各方法ステップを実行するために適した装置を使用して実行することができる。対象である特徴によって実行される全ての機能は、この方法における方法ステップとすることができる。
【0037】
本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲によって定義され、説明中に記述されたあるいは図示された特徴によって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0038】
100 露光装置
101 歯科対象物
103 洞室
105 放射源
107 強度調節装置
109 タイマー装置
111 位置
図1
図2