(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004778
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】注射針、針組立体、投与デバイス、及び皮内投与方法
(51)【国際特許分類】
A61D 7/00 20060101AFI20250108BHJP
A61M 5/162 20060101ALI20250108BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20250108BHJP
A61M 5/46 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
A61D7/00 A
A61M5/162 500H
A61M5/162 500F
A61M5/32 530
A61M5/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195928
(22)【出願日】2021-12-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 3年11月24日 第25回日本ワクチン学会学術集会のプログラム・抄録集にて発表 令和 3年11月 5日 第25回日本ワクチン学会開催案内のウェブサイト(https://jsvac25.jp/program.html)にて電気通信回線(インターネット)を通じて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英里子
(72)【発明者】
【氏名】田中 領
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE14
4C066FF05
4C066GG20
4C066KK03
4C066KK04
(57)【要約】
【課題】垂直穿刺による非ヒト型小型動物の皮内投与を円滑かつより確実に実施することを可能にする注射針、針組立体、投与デバイス、及び皮内投与方法を提供する。
【解決手段】注射針110は、針先112に刃面113が形成された針管111を備える注射針であって、針管111の外径D1は0.1mm以上0.2mm以下あり、針管111の突出長L1は0.1mm以上0.6mm以下であり、針管111の延在方向に沿う刃面113の長さL2は0.3mm未満であり、垂直穿刺で非ヒト小型動物に皮内投与するするために用いられる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針先に刃面が形成された針管を備える注射針であって、
前記針管の外径は0.1mm以上0.2mm以下あり、
前記針管の突出長は0.1mm以上0.6mm以下であり、
前記針管の延在方向に沿う前記刃面の長さは0.3mm未満であり、
垂直穿刺で非ヒト小型動物に皮内投与するために用いられる、注射針。
【請求項2】
針胴長が0.05mm以上0.5mm以下である、請求項1に記載の注射針。
【請求項3】
前記針管の肉厚は0.01mm以上0.06mm以下である、請求項1又は請求項2に記載の注射針。
【請求項4】
前記刃面は、前記針管の基端側に位置する第1刃面と、前記第1刃面よりも針先側に位置する境目で稜線を成す第2刃面及び第3刃面と、を有し、
前記刃面の全長に対して前記第2刃面の刃面長及び前記第3刃面の刃面長が占める割合は40%以上60%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の注射針。
【請求項5】
前記針管の中心軸線と前記第1刃面とが成す第1刃面角が10°以上65°以下であり、
前記中心軸線と前記第2刃面及び前記第3刃面の各々が成す第2刃面角及び第3刃面角が20°以上85°以下であり、
前記中心軸線と前記稜線とが成す稜線角が15°以上70°以下である、請求項4に記載の注射針。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載された注射針と、
前記注射針を保持する針ハブと、を備える針組立体であって、
前記針ハブは、
前記針管の針先から基端側に向かう一定の範囲を露出させることにより、前記針管の突出長を調整する調整部と、
前記調整部及び前記針管において前記調整部から露出した部分の周囲を囲むとともに、前記調整部及び前記針管との間に空間を空けて配置されたガイド部と、を有する針組立体。
【請求項7】
請求項6に記載された針組立体と、
前記針ハブに接続されたシリンジと、を備える投与デバイスであって、
前記シリンジは、前記針ハブの基端側に配置される第1筒部と、前記第1筒部の基端側に配置され、前記第1筒部よりも大きな外径を備える第2筒部と、を有する、投与デバイス。
【請求項8】
非ヒト小型動物への薬剤の皮内投与方法であって、前記非ヒト小型動物の前記薬剤を投与すべき部位の下に垂直穿刺を安定化させるための支持部材を置き、前記部位を平坦になるように伸ばして投与部位を作製し、注射針が保持された針ハブが備えるガイド部を前記投与部位に押し付けた後、前記投与部位から前記ガイド部を所定の距離だけ離間させた状態で、前記注射針を介して、前記薬剤を前記投与部位に垂直穿刺で皮内投与することを有する、皮内投与方法。
【請求項9】
0.5mmのシリコーンゴムシートに10mm/分で穿刺した際の穿刺抵抗が荷重変動曲線の最大値で0.15N以下である前記注射針を介して、前記薬剤を前記投与部位に皮内投与する、請求項8に記載の皮内投与方法。
【請求項10】
5~20Nの圧力で、前記薬剤を前記投与部位に皮内投与する、請求項8又は請求項9に記載の皮内投与方法。
【請求項11】
前記薬剤を投与すべき部位(非伸長状態)は、厚さが1.0mm以下の真皮層を有する皮膚上層部である、請求項8又は請求項9に記載の皮内投与方法。
【請求項12】
前記非ヒト小型動物の皮膚上層部の厚さに対する、前記注射針の突出長の割合が、1.25以下である、請求項11に記載の皮内投与方法。
【請求項13】
前記非ヒト小型動物の皮膚上層部の厚さに対する、前記注射針の刃面長の割合が、0.60未満である、請求項11又は請求項12に記載の皮内投与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針、針組立体、投与デバイス、及び皮内投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヒトへワクチン等の薬剤を投与する方法として、免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部を標的部位とする、いわゆる「皮内投与」が知られている。皮内投与を実施することにより、薬剤の投与量を減らすことが検討されている。投与対象がヒトである場合、上記の皮内投与は、皮膚表面から50μm~200μm厚の「表皮層」、表皮層から続く0.5~3.5mm厚の「真皮層」、真皮層より深部の「皮下組織層」で構成される皮膚のうち、真皮層への投与を目的とすることが一般的である。
【0003】
皮内投与を実施するにあたり、次のような点が課題とされている。一般的に、ヒトの表皮層は薄く、かつヒトの表皮層の厚みは投与対象者の年齢差、男女差、個人差、病歴・治療歴のばらつき等に依存する。そのため、従来の皮下投与に使用される注射針を備える薬剤投与デバイスを使用して皮内投与を試みる場合、真皮層内の表皮寄りの投与部位の深さを一義的に定めることができず、注射針の針先の位置を真皮層内に適切に位置決めすることが容易ではない。
【0004】
また、表皮層及び真皮層内を含む皮膚上層部は、エラスチンやコラーゲン等の弾性繊維状組織が多く含まれていることから、皮下組織よりも固い。従って、皮膚上層部への投与は、薬剤を注入する際に皮膚上層部で高い背圧が発生するため、皮下組織への投与に比べて、高い注入圧力が必要となる。上記のようにヒトへの皮内投与を実現するためには各種の課題が存在することが知られている。また、ヒト以外の動物、特に小動物においてはヒトよりも皮膚の厚みがより薄いため、皮内投与の技術はさらに困難である。
【0005】
そこで、下記特許文献1に記載されているように、上記課題の解決を図り得る垂直穿刺用の薬剤投与デバイスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の薬剤投与デバイスは、注射針が接続された針ハブを備える。針ハブは、針ハブからの注射針の突出長(露出長)を調整する調整部と、調整部の周囲を囲むように配置された安定部と、を備える。注射針を表皮層に対して垂直穿刺する際、調整部が表皮層に接触し、表皮層を注射針の周囲に押し広げる。この際、表皮層は、調整部と安定部の間に設けられた空間内で平坦をなすように押し広げられる。このように表皮層を押し広げた状態で、所定の突出長を保つように配置された注射針を表皮層側から刺入することにより、患者ごとの表皮層の状態のばらつきに依存することなく、注射針の針先を適切に真皮層内に案内することができる。
【0008】
また、特許文献1の注射針は、薬剤の注入圧力が過度に大きくなることのないよう、注射針の外径や突出長等の各部の寸法が設計されている。そのため、特許文献1に記載の注射針の針先を真皮層内に配置した状態で薬剤投与デバイスの押し子を前進させることにより、皮内投与を確実かつ円滑に実施することができる。
【0009】
上述したように、ヒトに対する皮内投与を実現するためのデバイスや方法等については、これまでも多くの研究がなされてきた。ただし、ヒト以外の非ヒト動物、特に動物実験などで使用されることの多い非ヒト小型動物の皮内投与に関しては、十分な検討がなされていない。
【0010】
非ヒト小型動物に皮内投与を実施する場合、注射針を斜め方向に穿刺するマントー法等を採用することが考えられる。ただし、非ヒト小型動物の投与に使用される一般的な注射針は約0.4mm(27G)の外径で構成されており、一般的なヒト用の注射針よりも外径が大きい。また、非ヒト小型動物はヒトよりも表皮層及び真皮層の厚さが薄い。そのため、非ヒト小型動物の皮内投与にマントー法を採用した場合、注射針を真皮層内に精度よく配置することが難しく、真皮層を突き抜けて皮下組織層まで針先を穿刺してしまう可能性がある。
【0011】
例えば、非ヒト小型動物の皮内投与においても特許文献1に記載された垂直穿刺用の投与デバイスを使用すれば、ヒトと同様に皮内投与を簡単かつ円滑に実施することが可能になるとも考えられる。
【0012】
しかしながら、上述したように非ヒト小型動物はヒトよりも表皮層及び真皮層の厚さが薄い。そのため、ヒト用に開発された垂直穿刺用の注射針や薬剤投与デバイスを転用した場合、針先が真皮層を突き抜けて皮下組織まで到達してしまう可能性が高くなる。また、上記のように針先が真皮層を突き抜けることを防止するために、注射針の針先の刃面長を単に短く構成した場合、皮膚表面に対して針先を垂直に押し付けた際に、針先を表皮層内に円滑に刺入することが難しくなる。
【0013】
本発明の発明者等は、上記のような非ヒト小型動物の垂直穿刺での皮内投与を実現するための特有の課題を見出し、鋭意検討した結果、その課題の解決を図り得る注射針、針組立体、投与デバイス、及び皮内投与方法を発明するに至った。
【0014】
本発明は、垂直穿刺による非ヒト型小型動物の皮内投与を円滑かつより確実に実施することを可能にする注射針、針組立体、投与デバイス、及び皮内投与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一の形態に係る注射針は、針先に刃面が形成された針管を備える注射針であって、前記針管の外径は0.1mm以上0.2mm以下あり、前記針管の突出長は0.1mm以上0.6mm以下であり、前記針管の延在方向に沿う前記刃面の長さは0.3mm未満であり、垂直穿刺で非ヒト小型動物に皮内投与するために用いられる。
【0016】
また、本発明の他の形態に係る皮内投与方法は、非ヒト小型動物への薬剤の皮内投与方法であって、前記非ヒト小型動物の前記薬剤を投与すべき部位の下に垂直穿刺を安定化させるための支持部材を置き、前記部位を平坦になるように伸ばして投与部位を作製し、注射針が保持された針ハブが備えるガイド部を前記投与部位に押し付けた後、前記投与部位から前記ガイド部を所定の距離だけ離間させた状態で、前記注射針を介して、前記薬剤を前記投与部位に垂直穿刺で皮内投与することを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の注射針、針組立体、投与デバイス、及び投与方法によれば、垂直穿刺による非ヒト型小型動物の皮内投与を円滑かつより確実に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る投与デバイスの斜視図である。
【
図3】実施形態に係る針ハブ及びシリンジの部分断面図である。
【
図6】実施形態に係る注射針の刃面の拡大平面図である。
【
図7】実施形態に係る注射針の刃面の拡大斜視図である。
【
図8】
図8(A)は
図6に示す矢印8A方向から見た注射針の刃面の側面図であり、
図8(B)は
図7に示す矢印8B方向から見た注射針の刃面の斜視側面図である。
【
図9】
図8(A)は
図6に示す矢印9A方向から見た注射針の刃面の側面図であり、
図8(B)は
図7に示す矢印9B方向から見た注射針の刃面の斜視側面図である。
【
図10】投与デバイスの使用例を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図10に示す破線部11Aを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る注射針110、針組立体100、投与デバイス10、及び皮内投与方法を図面を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0020】
[投与デバイス]
図1は、投与デバイス10の全体構成を概略的に示す斜視図である。
【0021】
投与デバイス10は、
図10及び
図11に示すように、非ヒト小型動物の真皮層s2に薬剤を投与するために使用することができる。
【0022】
図10及び
図11には、薬剤の投与対象となる非ヒト小型動物の表皮層s1、真皮層s2、皮下組織層s3を模式的な断面図で示している。本明細書では、表皮層s1及び真皮層s2を合わせて皮膚上層部s4とする。
【0023】
図1に示すように、投与デバイス10は、注射針110が保持された針ハブ120を備える針組立体100と、針組立体100と接続可能なシリンジ200と、を備える。
【0024】
図3に示すように、シリンジ200の内部には、薬剤(薬液)を収容可能な液室240が設けられている。シリンジ200の液室240には、液室240から注射針110の針管111の内腔111aに薬剤を送液する押し子が挿入されている。
【0025】
本実施形態では、注射針110の延在方向及びシリンジ200の延在方向を「軸方向」とも称する。注射針110の針先112側を「先端側」とし、先端側の反対の端部側を「基端側」とする。
【0026】
術者等を含む医療従事者(以下、「使用者」とする)は、注射針110の針先112を真皮層s2内に配置した状態で押子をシリンジ200の先端側へ向けて移動させることにより、針先112に形成された先端開口部112aを介して薬剤を非ヒト小型動物に皮内投与することができる(
図11を参照)。
【0027】
投与デバイス10は、例えば、皮内投与に際して液室240内に薬剤を充填し、充填した薬液を投与するごとに廃棄するディスポーザル型のデバイスとして構成することができる。なお、投与デバイス10は、皮内投与に先立って液室240内に薬剤が予め充填されたプレフィルド型のデバイスとして構成することも可能である。また、液室240に収容される薬剤(皮内投与される薬剤)の具体的な種類等について特に制限はない。
【0028】
図1に示すように、シリンジ200は、針ハブ120を接続可能なロック機構205(
図3を参照)が先端側に配置された第1筒部210と、第1筒部210の基端側に配置された第2筒部220と、を備える。
【0029】
第1筒部210及び第2筒部220は、略円筒形状の外形を有する。第1筒部210の基端側に配置された第2筒部220は、第1筒部210よりも大きな外径を有する。
【0030】
使用者は、投与デバイス10を使用した皮内投与を実施する際、シリンジ200の基端側に位置する第2筒部220を把持することができる。第2筒部220は第1筒部210よりも大径であるため、使用者は第2筒部220を把持し易く、また把持した際のグリップ力も高められる。そのため、使用者が投与デバイス10を使用して皮内投与を実施する際、投与デバイス10の先端側へ突出した注射針110の針先112を表皮層s1に対してしっかりと刺入させることが可能になる。
【0031】
図3に示すロック機構205は、例えば、内面にネジ溝が設けられた部材で構成することができる。本実施形態では、針ハブ120の第2部材127の基端部には、ロック機構205のネジ溝に螺合可能な接続部128を設けている。使用者は、ロック機構205の内側に針ハブ120の基端部を挿入した状態で、針ハブ120を回転させて螺合させることにより、シリンジ200に対して針ハブ120を着脱可能に接続することができる。
【0032】
例えば、ロック機構205に設けられるネジ溝は雌ネジで構成することができ、針ハブ120に設けられる接続部128は雄ネジで構成することができる。ただし、ロック機構205側のネジ溝を雄ネジで構成し、接続部128側のネジ溝を雌ネジで構成してもよい。また、針ハブ120とシリンジ200を接続するための具体的な機構について特に制限はなく、例えば、針ハブ120の基端部の内側にシリンジ200の先端部を挿入して両者を嵌合させるような機構を採用することも可能である。また、針ハブ120は、接着剤等を使用してシリンジ200に対して分離できないように固定されていてもよい。
【0033】
図3に示すように、シリンジ200の液室240は、針ハブ120とシリンジ200を接続した状態において、注射針110の内腔111a(
図6を参照)に連通される。後述するように、注射針110は、接着剤126により針ハブ120の内部に固定されている。
【0034】
[針組立体]
図1、
図2、
図3に示すように、針組立体100は、注射針110と、注射針110が保持された針ハブ120と、を有する。
【0035】
【0036】
針ハブ120は、
図3に示すように、針ハブ120の先端側に配置される第1部材121と、第1部材121の基端側に配置される第2部材127と、を有する。
【0037】
注射針110は、第1部材121の内部に充填された接着剤126により、第1部材121に対して固定されている。第1部材121の基端部と第2部材127の先端部の間には弾性部材125が配置されている。注射針110は、注射針110の基端部115が液室240の先端に位置合わせされた状態で、針ハブ120の内部に配置されている。
【0038】
図3、
図4、
図5に示すように、針ハブ120の第1部材121は、注射針110の針管111の針先112から基端側に向かう一定の範囲を露出させることにより、針管111の突出長L1を調整する調整部122と、調整部122及び針管111において調整部122から露出した部分の周囲を囲むとともに、調整部122及び針管111との間に空間122aを空けて配置されたガイド部123と、を有する。
【0039】
調整部122は、針ハブ120の面方向の略中心位置に設けられている。調整部122は、注射針110の針先112側の一部を露出させる中空状の部分で構成されている。注射針110は、
図5に示すように、針先112側の一部が調整部122から先端側に向けて所定の長さL1で露出した状態で前述した接着剤126により針ハブ120に対して固定されている。したがって、針ハブ120は、投与デバイス10を使用した皮内投与を実施する際に注射針110の針先112が非ヒト小型動物の表皮層s1に押し付けられるのに伴って注射針110が基端側へ移動して突出長L1が変化することを防止できる。
【0040】
ガイド部123は、調整部122と同心円状に配置されている。そのため、
図4に示すように、調整部122の周囲には、調整部122を中心にした円状の空間122aが形成されている。
【0041】
図3、
図4に示すように、ガイド部123のさらに外周側の位置には、平面状に延びるフランジ部124が配置されている。フランジ部124は、ガイド部123と同様に、調整部122と同心円状に配置されている。フランジ部124は、ガイド部123の基端付近から外周方向へ延びている。
【0042】
注射針110の基端部115付近に配置された弾性部材125は、シリンジ200の液室240と針ハブ120の接続部における液密性を高める。これにより、液室240から注射針110の内腔111aへ薬剤を送液した際に、注射針110の基端部付近で薬剤が漏洩することを防止できる。
【0043】
投与デバイス10は、
図2に示すキャップ部材130を備えていてもよい。キャップ部材130は、針ハブ120の第1部材121に接続可能に構成される。キャップ部材130は、針ハブ120に接続された状態において、針ハブ120の先端側から注射針110の針先112を覆うように配置される。使用者は、針ハブ120にキャップ部材130を取り付けることにより、注射針110の針先112が誤穿刺されることを防止できる。
【0044】
図5に示す針ハブ120の各部は、例えば、下記の寸法例で形成することができる。ただし、下記に示す寸法例に限定されることはない。
【0045】
調整部122の外周縁からガイド部123の内周縁までの距離T1(空間122aの水平方向の幅に相当)は、例えば、4.9mm以上5.3mm以下に形成することができる。
【0046】
ガイド部123の外周縁からフランジ部124の外周縁までの距離T2は、例えば、2.9mm以上3.1mm以下に形成することができる。
【0047】
注射針110の突出方向における調整部122とガイド部123との間の寸法差Hgは、例えば、0.2mm以上0.4mm以下に形成することができる。
【0048】
針ハブ120及びシリンジ200の各部は、例えば、公知の樹脂材料や公知の金属材料で構成することができる。一例として、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂や、ステンレス、アルミ等の金属を用いることができる。
【0049】
図10、
図11には、注射針110で非ヒト型動物に対して皮内投与を実施する際の模式的な断面図を示している。
【0050】
図10に示すように、注射針110を表皮層s1に対して垂直穿刺する際、調整部122が表皮層s1に接触し、表皮層s1を注射針110の周囲に押し広げる。この際、表皮層s1は、調整部122とガイド部123の間に設けられた空間122a内で平坦をなすように押し広げられる。使用者は、フランジ部124が表皮層s1に接触するまで調整部122を押し付けることにより、調整部122及び針管111が表皮層s1を押圧する力を所定値以上に確保することができる。使用者は、調整部122及びフランジ部124を表皮層s1に押し付けた状態で、所定の突出長L1を保つように配置された注射針110を表皮層s1側から刺入することにより、非ヒト型動物の表皮層s1の状態のばらつきに依存することなく、注射針110の針先112を適切に真皮層s2内に案内することができる。
【0051】
なお、本実施形態に係る投与デバイス10及び注射針110を使用した皮内投与方法の具体的な手順は、後述する実施例を通じてより詳細に説明する。
【0052】
[注射針]
図6~
図9には、本実施形態に係る注射針110の先端側(刃面113側)の一部を拡大して示している。
【0053】
図6は注射針110の先端開口部112aを正面に見た平面図であり、
図7は注射針110の斜視図である。
図8(A)は、
図6に示す矢印8A方向から注射針の側面図(左側面図)、
図8(B)は、
図7に示す矢印8B方向から見た注射針110の斜視側面図である。
図9(A)は、
図6に示す矢印9A方向から注射針の側面図(右側面図)、
図9(B)は、
図7に示す矢印9B方向から見た注射針110の斜視側面図である。
【0054】
図6に示すように、本実施形態に係る注射針110は、針先112に刃面113が形成された針管111を備える。
【0055】
図6~
図9に示す直線O1は、注射針110(針管111)の延在方向に沿う中心軸線を示す。
【0056】
針管111の内部には、皮内投与される薬剤が流通可能な内腔111aが形成されている。針先112の最先端には内腔111aに連通する先端開口部112aが形成されている。
【0057】
前述した投与デバイス10において、注射針110は、注射針110の基端側の一定の範囲が針ハブ120の内部(第1部材121及び第2部材127の内部)に収容された状態で配置される。注射針110の先端側の一部は、針ハブ120の調整部122よりも先端側に突出するように配置される。
【0058】
注射針110の刃面113が形成された部分よりも針管111の基端側の部分であって、調整部122から露出した部分は、針胴部114を構成する。
【0059】
注射針110は、例えば、後述する実施例で説明される「ランセット針」や「セミランセット針」で構成することができる。ただし、注射針110の具体的な形状や構造については特に制限はない。例えば、注射針110は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパ状となっているテーパ針で構成したり、針管111の径方向の断面形状が三角形等の多角形で構成されていてもよい。
【0060】
注射針110は、例えば、金属を構成材料とする金属針で構成することができる。注射針110を構成する金属としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。
【0061】
図6、
図7に示すように、刃面113は、針管111の基端側に位置する第1刃面113aと、第1刃面113aよりも針先112側(先端側)に位置する境目116で稜線をなす第2刃面113b及び第3刃面113cと、を有する。
【0062】
第2刃面113bと第3刃面113cは、
図6に示す平面図において、境目116を基準にして左右対称に形成されている。そのため、後述する第2刃面角θ2と第3刃面角θ3は略同一であり、第2刃面113bの刃面長L22と第3刃面113cの刃面長L23も略同一である。なお、第2刃面113bと第3刃面113cは互いに異なる形状(例えば、第2刃面角θ2と第3刃面角θ3及び/又は第2刃面113bの刃面長L22と第3刃面113cの刃面長L23が異なる形状)で形成されていてもよい。
【0063】
図8(A)及び
図9(A)に示す第1刃面角θ1は、針管111の中心軸線O1と第1刃面113aとが成す角度である。
図8(A)及び
図8(B)に示す直線H1は、第1刃面113aに沿う仮想直線である。つまり、第1刃面角θ1は、中心軸線O1と直線H1が成す角度である。
【0064】
図9(B)に示す第2刃面角θ2は、針管111の中心軸線O1と第2刃面113bとが成す角度である。
図9(B)に示す直線H2は、第2刃面113bに沿う仮想直線である。つまり、第2刃面角θ2は、中心軸線O1と直線H2が成す角度である。
【0065】
図8(B)に示す第3刃面角θ3は、針管111の中心軸線O1と第3刃面113cとが成す角度である。
図8(B)に示す直線H3は、第3刃面113cに沿う仮想直線である。つまり、第3刃面角θ3は、中心軸線O1と直線H3が成す角度である。
【0066】
図8(A)及び
図9(A)に示す稜線角α1は、中心軸線O1と境目116に形成された稜線とが成す角度である。
図8(A)及び
図8(B)に示す直線B1は、稜線に沿う仮想直線である。つまり、稜線角α1は、中心軸線O1と直線B1が成す角度である。
【0067】
第1刃面角θ1及び稜線角α1は、例えば、鋭角に形成することができる。また、第1刃面角θ1は、稜線角α1に比べて、鋭角の度合いが大きくなるように形成することができる。なお、「鋭角の度合いが大きい」とは、鋭角の範囲において、角度がより小さいことを意味する。
【0068】
第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3は、例えば、鋭角に形成することができる。また、第1刃面角θ1は、第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3の各々と比べて、鋭角の度合いが大きくなるように形成することができる。
【0069】
注射針110は、上記のように各刃面角θ1、θ2、θ3及び稜線角α1の関係が規定されることにより、比較的短い刃面長L2で形成される場合においても、針先112の表皮層s1に対する刺入性が向上したものとなる。
【0070】
次に、
図6~
図9を参照して、本実施形態に係る注射針110の各部の好適な寸法例について説明する。下記に例示する各寸法例を採用した場合の効果等については、後述する実施例を通じて詳述する。
【0071】
図6に示す針管111の外径D1は、0.1mm以上0.2mm以下で形成することができる。また、針管111の外径D1は、非ヒト小型動物の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、0.130mm以上0.1845mm以下であることがより好ましい。
【0072】
図6に示す針管111の内径Φ1は、0.07mm以上0.1mm以下で形成することができる。
【0073】
図6に示す針管111の突出長L1は、0.1mm以上0.6mm以下で形成することができる。また、針管111の突出長L1は、非ヒト小型動物の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、0.45mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。
【0074】
図6に示す針管111の延在方向(中心軸線O1と平行な方向)に沿う刃面113の長さ(刃面長)L2は、0.3mm未満で形成することができる。また、刃面113の長さL2は、非ヒト小型動物の表皮層s1の貫通性を高める観点より、0.15mm以上0.2mm以下であることがより好ましい。
【0075】
なお、刃面長L2は、第1刃面113aの刃面長L21と第2刃面113bの刃面長L22の合計値、もしくは第1刃面113aの刃面長L21と第3刃面113cの刃面長L23の合計値である。
【0076】
図6に示す針胴長L3は、0.05mm以上0.5mm以下で形成することができる。針胴長L3は、非ヒト小型動物の皮内投与をより確実かつ簡単に実施可能とする観点より、0.3mm以上0.35mm以下であることがより好ましい。
【0077】
図6に示す針管111の肉厚t1は、0.01mm以上0.06mm以下で形成することができる。針管111の肉厚t1は、針管111の外径D1及び針管111の内径Φ1との兼ね合いで注射針110による薬剤の注入圧を適切な値とする観点より、0.0215mm以上0.0505mm以下であることがより好ましい。
【0078】
図6に示す刃面113の全長L2に対して第2刃面113bの刃面長L22及び第3刃面113cの刃面長L23が占める割合(L2/L22及びL2/L23)は40%以上60%以下に形成することができる。上記割合は、非ヒト小型動物の表皮層s1の刺入性を高める観点より、47%以上56%以下であることがより好ましい。
【0079】
なお、刃面長L2を0.15mm以上0.2mm以下で形成する場合において、上記割合を47%以上56%以下とする場合、第2刃面113bの刃面長L22及び第3刃面113cの刃面長L23は、例えば、0.05mm以上0.09mm以下で形成することができる。この場合、第1刃面113aの刃面長L21は、例えば、0.09mm以上0.17mm以下で形成することができる。
【0080】
図8(A)及び
図9(A)に示す第1刃面角θ1は、10°以上65°以下に形成することができる。第1刃面角θ1は、針先112の表皮層s1に対する刺入性を高める観点より、23°以上40°以下であることがより好ましい。
【0081】
図9(A)及び
図9(B)に示す第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3は、20°以上85°以下に形成することができる。第2刃面角θ2及び第3刃面角θ3は、針先112の表皮層s1に対する刺入性を高める観点より、21°以上45°以下であることがより好ましい。
【0082】
図8(A)及び
図9(A)に示す稜線角α1は、15°以上70°以下に形成することができる。稜線角α1は、針先112の表皮層s1に対する刺入性を高める観点より、28°以上44°以下であることがより好ましい。
【0083】
[皮内投与方法]
次に、本実施形態に係る皮内投与方法を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0084】
前述したように、本実施形態に係る注射針110及び投与デバイス10は、非ヒト小型動物への皮内投与に好適な構成を有する。
【0085】
したがって、本実施形態は、非ヒト小型動物への薬剤の皮内投与方法であって、前記非ヒト小型動物の前記薬剤を投与すべき部位の下に垂直穿刺を安定化させるための支持部材を置き、前記部位を平坦になるように伸ばして投与部位を作製し、注射針が保持された針ハブのガイド部を前記投与部位に押し付けた後、前記投与部位から前記ガイド部を所定の距離だけ離間させた状態で、前記注射針を介して、前記薬剤を前記投与部位に垂直穿刺で皮内投与することを有する、非ヒト小型動物への皮内投与方法が提供される。
【0086】
本明細書において、「小型動物」とは、皮膚が薄い動物を意味する。具体的には、非伸長状態での非ヒト小型動物の薬剤を投与すべき部位の厚さは1.0mm以下である。
【0087】
本発明の一実施形態では、投与部位は、厚さが1.0mm以下の真皮層s2を有する皮膚上層部s4である。また、本実施形態において、投与部位の厚さは、超音波画像診断装置によって測定される。
【0088】
また、皮内投与に使用される注射針110の突出長L1は、非ヒト小型動物の皮膚上層部s4の厚さに対する当該注射針110の突出長L1の割合が、1.25以下であることが好ましく、1.00未満であることがより好ましく、0.90未満であることが特に好ましい。これにより、針管111をより確実に皮膚上層部s4に配置でき、皮内投与成功率をさらに向上できる。
【0089】
上記に代えて、又は上記に加えて、皮内注射を実施する際、注射針110の刃面113全体が非ヒト小型動物の皮膚上層部s4に埋まることが好ましい。これにより、針管111から薬剤が漏れることを抑制できる。
【0090】
具体的には、刃面長L2は、非ヒト小型動物の皮膚上層部s4の厚さよりも小さく、かつ、非ヒト小型動物の皮膚上層部s4の厚さに対する注射針110の刃面長L2の割合が、0.60未満であることが好ましく、0.56未満であることがより好ましく、0.50未満であることがさらに好ましく、0.35未満であることが特に好ましい。これにより、薬剤全量をより確実に皮膚上層部s4に注入でき、皮内投与成功率をさらに向上できる。
【0091】
本実施形態に係る投与方法で使用できる非ヒト小型動物(特に、非ヒト小型実験動物)は、好ましくは温血動物である。用いられる温血動物としては、例えば、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ジャコウネズミ、スナネズミ、ウサギ、ナキウサギ、モルモット、ハムスター)や鳥類(例えば、ニワトリ、ハト、ウズラなど)が挙げられる。なかでも、哺乳動物がより好ましく、齧歯動物(ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスターなど)がさらに好ましく、ラット、マウス、ウサギが特に好ましく、ラットが最も好ましい。なお、トランスジェニック動物などの遺伝子改変動物や疾患モデル動物が非ヒト小型動物として使用されてもよい。
【0092】
皮内投与方法では、まず非ヒト小型動物の投与部位の下側(注射針110の刺入方向と反対側に位置する表皮層側)に、垂直穿刺を安定化させるための支持部材(以下、単に「支持部材」とも称する)を配置する。ここで、支持部材は、シリコーン樹脂などから形成されるされることが好ましい。このような支持部材は適度な硬度を有するため、投与部位を安定して固定できる。非ヒト小型動物の皮膚上層部s4は非常に薄い。このため、支持部材を使用せずに針先112を垂直穿刺しようとしても、針管111を投与部位に適切に穿刺することが困難であったり、又は穿刺することができないことが懸念される。つまり、皮内投与成功率が大きく下がってしまう可能性がある。
【0093】
次に、非ヒト小型動物の皮膚上層部s4の任意の部位を平坦になるように伸ばして、投与部位を作製する。この際、針ハブ120が備えるガイド部123を投与部位に押し付けた後、この投与部位からガイド部123を所定の距離だけ離間させる(表皮層s1から持ち上げる方向に移動させる)。これにより、薬剤(薬液)の注入圧が下がり、良好に皮内投与を行うことができる。
【0094】
なお、ガイド部123と投与部位とを離間させずに垂直穿刺により皮内投与すると、薬液の注入圧が高くなりすぎて、針管111を介して薬剤を投与部位に適切に注入することが困難になる可能性がある。この理由は下記のように推測される。なお、下記は推測であり、上記推測によって本発明は何ら限定されない。
【0095】
非ヒト小型動物(特にラット等の齧歯動物)には、「皮筋」という組織が存在する。皮筋は、皮下組織と皮内との間に存在する膜のような組織であり、ヒトには存在しない。ガイド部を離間させずにラットに押し付けたままの状態では、この皮筋が針管111の先端開口部112a(
図6を参照)を塞いでしまい、薬剤の注入圧を増加させてしまうことが考えられる。
【0096】
ここで、ガイド部123の離間距離は、薬剤の注入圧を十分下げる程度であることが好ましい。具体的には、投与時の注入圧力が5~20Nとなるような距離であることが好ましく、投与時の注入圧力が10~15Nとなるような距離であることがより好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、5~20Nの圧力で、薬剤を投与部位に皮内投与する。
【0097】
なお、本明細書において、注入圧力は、下記方法によって測定される。すなわち、注入圧力は、非ヒト小型動物に投与した際の手の感覚をもとにして、同程度の力でデジタルフォースゲージを押したときの圧力を測定し、この圧力を注入圧力とするによって、測定される。
【0098】
また、手技の観点から、注射針110の穿刺抵抗が低いことが好ましい。具体的には、注射針は、0.5mmのシリコーンゴムシートに10mm/分で穿刺した際の穿刺抵抗が荷重変動曲線の最大値で0.15N以下であることが、好ましい。なお、上記穿刺抵抗を達成するために、注射針の外周にシリコーンオイルのような油滑剤を塗布していてもよい。この際使用できるシリコーンオイルとしては、例えばJIS T3209に準拠したシリコーンオイル、より具体的には縮合した架橋反応したシリコーンオイルや、付加した架橋反応したシリコーンオイルのような架橋反応型シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0099】
すなわち、本発明の好ましい実施形態では、0.5mmのシリコーンゴムシートに10mm/分で穿刺した際の穿刺抵抗が荷重変動曲線の最大値で0.15N以下である注射針110を介して、薬剤を投与部位に皮内投与する。
【0100】
本発明のより好ましい実施形態では、薬剤を投与部位に皮内投与する。さらに、ガイド部123と投与部位とを離間させた状態で、0.5mmのシリコーンゴムシートに10mm/分で穿刺した際の穿刺抵抗が荷重変動曲線の最大値で0.15N以下である注射針110を介して、薬剤を投与部位に垂直穿刺により皮内投与する。
【0101】
上記皮内投与方法および注射針の穿刺抵抗により、薬剤を確実にかつ正確に非ヒト小型動物の皮内(皮膚上層部s4)に送達することができる。
【0102】
従来、非ヒト小型動物の真皮層s2内への薬剤の投与方法としては、マントー法がよく知られている。マントー法は、真皮層s2を有する皮膚上層部s4に対して斜め方向に注射針110を穿刺する方法である。
【0103】
皮膚は、前述したように、表皮層s1及び真皮層s2からなる皮膚上層部s4、ならびに皮下組織層s3から構成される。ヒト三角筋の皮膚上層部の厚さは、一般的に約2mmであるのに対して、ラットやマウス背部の皮膚上層部s4の厚さは1mm未満であり、ヒトと比較するとその厚さが薄い。このため、皮膚上層部s4への皮内投与方法は難しく、手技や使用する注射針径によっては皮下組織層s3中や皮膚表面に薬剤が漏れる可能性がある。また、皮内投与が成功するか否かは注射を行う術者の技量によりバラツキが生じうる。これに対して、本実施形態に係る皮内投与方法によると、垂直穿刺によるため、手技が容易であり、また、術者によるバラツキを抑えることができる。また、薬剤の漏れを抑制できる。ゆえに、本実施形態の皮内投与方法によれば、所定量の薬剤を確実にかつ正確に非ヒト小型動物の皮内に送達することができる。また、従来より少ない量の薬剤であっても、投与薬剤による効果を発揮することができる。ゆえに、本実施形態に係る皮内投与方法は、薬効を調べるために多数の個体が必要とされる非ヒト小型実験動物に対して特に有効である。
【実施例0104】
本発明の効果を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。
【0105】
<実施例1~3、比較例1~2>
下記表1に示される構造の注射針1~5を備えた
図3に示す針組立体100(ガイド部123の外径=13.1mm)及び
図1に示す投与デバイス10を作製した。針組立体100にシリンジ200を接続した。針管111を介して生理食塩水(pH 4.5~8.0)をシリンジ200内に注入した。
【0106】
雌性ラット(slc:Wistar、8~9週齢、日本エスエルシーより購入)49匹に対し、5~7日間の検疫・馴化期間を設け、全個体健康状態に異常がなく体重減少を認めないことを確認して、試験に供した。ラットには、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌及び水を自由摂取させた。下記実験はテルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
【0107】
各ラットの皮膚上層部s4の厚さを測定し、その平均を算出した。結果を下記表1中に皮膚厚として示す。また、皮膚上層部s4の厚さに対する注射針110の突出長L1の割合及び皮膚上層部s4の厚さに対する注射針110の刃面長L2の割合を、それぞれ、「突出長/皮膚厚」及び「刃面長/皮膚厚」として併記した。
【0108】
次に、下記表1に示されるように、ラットを下記5群に分けた:第1群;注射針1(10匹)(実施例1)、第2群;注射針2(9匹)(実施例2)、第3群;注射針3(10匹)(実施例3)、第4群;注射針4(10匹)(比較例1)、及び第5群;注射針5(10匹)(比較例2)。なお、比較例1及び比較例2では、刃面長L2が0.3mmとなっている。
【0109】
次に、各群のラットの背部を毛狩りした後、横臥させ、ラットを支持部材としてのシリコーン板(大きさ:10cm×6cm、厚さ:0.5cm)の上に載せた。毛狩りした部分を平坦になるように伸ばして、投与部位を作製した。この投与部位に、ガイド部123を押し付けた後、ガイド部123が動く程度にガイド部123と投与部位との間を1mmほど離間させた状態で、各注射針1~5を介して生理食塩水 50μLを垂直穿刺により皮内投与したが、この際、各注射針1~5を抵抗なく容易に穿刺できた。
【0110】
この際の注入圧力を測定したところ、10~15Nであり、生理食塩水を円滑に注入できた。また、ガイド部123と投与部位とを離間させずに垂直穿刺により皮内投与した際には、注入圧力が大きすぎて、やはり生理食塩水を皮内投与することができなかった。これらの結果から、シリコーン板を投与部位下に配置し、ガイド部123と投与部位とを離間させることにより、生理食塩水を確実にかつ容易に皮内投与できると、考察される。
【0111】
皮内投与した各ラットの投与部位に形成された膨疹を目視により確認し、膨疹径(直径)が3mm以上でありかつ膨疹の色が周囲の皮膚より白いものを「皮内投与成功」と判断し、皮内投与成功率(%)を算出した。なお、膨疹径(直径)に関しては、米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)ガイドラインによると、ヒトの場合、100μLの薬液を投与した際に6mm以上の径の膨疹が形成された場合に「皮内投与成功」と判断しており、本例でのラットの場合は投与液量が半量の50μLであることから、膨疹径が3mm以上の場合に皮内投与成功とした。また、膨疹の色に関しては、ラットの場合皮膚がヒトより柔らかいため皮下投与の場合も膨疹のようなものが見られる場合があることから、皮下投与と区別するために基準に加えた。結果を下記表1に示す。
【0112】
【表1】
表1の結果から、注射針110の刃面長L2を0.3mm未満とすることによって、皮内投与成功率が有意に向上できることがわかる。
【0113】
<実施例4>
リン酸緩衝食塩水(D-PBS(-))50μL中に、オボアルブミン(シグマアドリッチ社製)500μg及びアラムアジュバント(水酸化アルミニウム)(サーモサイエンティフィック社製)2.5μgを添加・混合して、投与物を調製した。
【0114】
シリンジ200に18Gの注射針(テルモ株式会社製)(吸引針)を接続し、上記にて調製した投与物をシリンジに吸引した。次に、18Gの注射針(吸引針)を取り外した後、前述した実施例1~3と同様にして、実施例2の注射針110を有する針組立体100をシリンジ200に接続し、投与デバイス10を作製した。上記にて調製した投与物を、注射針110を介してシリンジ200内に注入した。
【0115】
雌性ラット(slc:Wistar、9週齢、日本エスエルシーより購入)5匹に対し、6日間の検疫・馴化期間を設け、全個体健康状態に異常がなく体重減少を認めないことを確認して、試験に供した。ラットには、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌及び水を自由摂取させた。下記実験はテルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
【0116】
次に、各ラットの背部を毛狩りした後横臥させ、ラットを支持部材としてのシリコーン板(大きさ:10cm×6cm、厚さ:0.5cm)の上に載せた。毛狩りした部分を平坦になるように伸ばして、投与部位を作製した。
【0117】
この投与部位にガイド部123を押し付けた後、ガイド部123が動く程度にガイド部123と投与部位との間を1mmほど離間させた状態で、注射針110を介して投与物50μLを垂直穿刺により皮内投与した(0日;初回皮内投与)。初回皮内投与してから22日目に、上記と同様にして、投与物を再度ラットに皮内投与した(22日;2回目皮内投与)。初回皮内投与してから35日目に、ラットから採血し、血漿を分離した。
【0118】
得られた血漿中のIgG濃度(U/mL)を、下記ELISA法によって測定した。
【0119】
まず、100倍希釈に調製したRat IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody(Bethyl Laboratories社製、商品名:Rat IgG Heavy and Light Chain Cross-Adsorbed Antibody, A110-322A)50μLを、96ウェルプレートの各ウェルに添加し、4℃でオーバーナイト静置することにより、固相化させた。各ウェルをPBS Tween 20 Bufferで4回洗浄し、Blocking One(ナカライテスク社製)でブロッキングを行った。次に、上記にて分離した100倍希釈した血漿50μLを各ウェルに添加して、抗体と37℃で1時間反応させた後、PBS Tween 20 Bufferで4回洗浄した。2.5μg/mLに調製したビオチン化オボアルブミン(NANOCS社製)50μLを各ウェルに添加し、37℃にて1時間インキュベートして、ビオチン化オボアルブミンを結合させた後、各ウェルをPBS Tween 20 Bufferで4回洗浄した。さらに、1000倍希釈に調製したストレプトアビジン-HRP(BD Pharmingen社製)50μLを各ウェルに添加し、37℃にて1時間インキュベートして、ストレプトアビジン-HRPを結合させた後、各ウェルをPBS Tween 20 Bufferで6回洗浄した。さらに、TMB(3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine)ペルオキシダーゼ基質(SeraCare Life Sciences社製)を各ウェルに50μLずつ添加し、暗室にて室温で25分間静置して発色させた。2N(1モル/L)硫酸を各ウェルに50μLずつ加えて反応を停止し、450nm及び550nmでの吸光度を測定し、これらの吸光度の差[=(450nmでの吸光度)-(550nmでの吸光度)]を算出した。既知量の投与物を腹腔内投与した個体の血漿を使用して検量線を作成し、この検量線に基づいて血中IgG濃度を定量したところ、平均=7466.2(U/mL)であった。なお、血中IgG濃度が検出限界以下であるサンプルについては、血中IgG濃度を抗体濃度の検量線の最低値である1371.7(U/mL)とした。
【0120】
<比較例3>
リン酸緩衝食塩水(D-PBS(-))250μL中に、オボアルブミン(シグマアドリッチ社製)500μg及びアラムアジュバント(水酸化アルミニウム)(サーモサイエンティフィック社製)2.5μgを添加・混合して、投与物を調製した。
【0121】
筋肉注射用に、26G注射針(テルモ株式会社社製、商品名:テルモ注射針、針管外径=0.45mm、針管突出長=13mm)を準備した。この注射針に1mLシリンジをつけ、上記にて調製した投与物を、注射針を介してシリンジ内に注入した。これを比較用の投与デバイスとした。
【0122】
雌性ラット(slc:Wistar、9週齢、日本エスエルシーより購入)4匹に対し、6日間の検疫・馴化期間を設け、全個体健康状態に異常がなく体重減少を認めないことを確認して、試験に供した。ラットには、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌及び水を自由摂取させた。下記実験はテルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
【0123】
次に、各ラットの背部を毛狩りした後横臥させ、投与部位を作製した。比較用の投与デバイスを使用して、投与部位に投与物250μLを筋肉内投与した(0日;初回筋肉内投与)。初回筋肉内投与してから22日目に、上記と同様にして、投与物を再度ラットに筋肉内投与した(22日;2回目筋肉内投与)。初回筋肉内投与してから35日目に、ラットから採血し、血漿を分離した。
【0124】
得られた血漿中のIgG濃度を、実施例4に記載の方法と同様にして、測定したところ、平均=2825.2(U/mL)であった。なお、血中IgG濃度が検出限界以下であるサンプルについては、血中IgG濃度を抗体濃度の検量線の最低値である1371.7(U/mL)とした。
【0125】
実施例4及び比較例3の結果から、本願発明に係る注射針を用いて皮内投与することにより、筋肉内投与に比して、血中IgG濃度が約2.6倍高くなることがわかる。この結果から、本願発明に係る注射針によれば、より少ない投与量で免疫を誘導できることが期待できる。
【0126】
以上、本発明を実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は、本明細書内において説明された内容に限定されず、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜改変を加えることが可能である。
【0127】
10 投与デバイス
100 針組立体
110 注射針
111 針管
111a 針管の内腔
112 針先
112a 先端開口部
113 刃面
113a 第1刃面
113b 第2刃面
113c 第3刃面
114 針胴部
115 基端部
116 境目
120 針ハブ
121 第1部材
122 調整部
122a 空間
123 ガイド部
124 フランジ部
127 第2部材
130 キャップ部材
200 シリンジ
210 第1筒部
220 第2筒部
240 液室
D1 針管の外径
Hg 調整部とガイド部の突出方向の寸法差
L1 針管の突出長
L2 刃面の全長
L21 第1刃面の刃面長
L22 第2刃面の刃面長
L23 第3刃面の刃面長
L3 針胴長
O1 針管の中心軸線
T1 調整部とガイド部との間の距離
T2 ガイド部とフランジ部との間の距離
s1 表皮層
s2 真皮層
s3 皮下組織層
s4 皮膚上層部
t1 針管の肉厚
Φ1 針管の内径
α1 稜線角
θ1 第1刃面角
θ2 第2刃面角
θ3 第3刃面角