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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025047802
(43)【公開日】2025-04-03
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/10 20060101AFI20250326BHJP
【FI】
F04B39/10 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156518
(22)【出願日】2023-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 順也
(72)【発明者】
【氏名】士反 正俊
(72)【発明者】
【氏名】金井 涼
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA03
3H003AB07
3H003AC03
3H003CC11
3H003CD02
3H003CD03
(57)【要約】
【課題】冷媒を圧縮する圧縮機において、バルブリテーナに対する吐出弁の貼り付きを抑制する。
【解決手段】斜板式圧縮機は、冷媒が吸入される吸入室と、吸入室の冷媒を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、圧縮機構と吐出室とを連通する吐出孔7Bの出口側に配置されたリードバルブ形式の吐出弁61と、吐出弁61が開弁したときに、吐出弁61が当接してその開度を制限するバルブリテーナ71と、を有している。そして、吐出弁61と当接するバルブリテーナ71の当接面に少なくとも1つの孔部71Cが形成されて、これによって、吐出弁61との当接面積を減らすように構成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が吸入される吸入室と、
前記吸入室の冷媒を圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、
前記圧縮機構と前記吐出室とを連通する吐出孔の出口側に配置されたリードバルブ形式の吐出弁と、
前記吐出弁が開弁したときに、前記吐出弁が当接して当該吐出弁の開度を制限するバルブリテーナと、
を有し、
前記吐出弁と当接する前記バルブリテーナの当接面が、前記吐出弁との当接面積を減らすように構成された、
圧縮機。
【請求項2】
前記バルブリテーナの当接面に少なくとも1つの孔部が形成された、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記バルブリテーナの当接面に少なくとも1つの凹部が形成された、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記バルブリテーナがガスケットと一体化された、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記バルブリテーナの表面がラバーでコーティングされた、
請求項1に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒を圧縮する圧縮機は、特表2005-508480号公報(特許文献1)に記載されるように、圧縮機構の吐出孔を開閉するリードバルブ形式の吐出弁と、吐出弁の開度(たわみ量)を制限するバルブリテーナと、を有している。バルブリテーナは、吐出弁が開弁したときに、吐出弁の全面と当接することでその開度を制限し、例えば、吐出弁が開弁状態から閉弁状態へと変化するときの閉弁特性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005-508480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の圧縮機ではバルブリテーナが吐出弁の全面を受けて開度を制限していたため、何らかの理由によってバルブリテーナに対して吐出弁が貼り付いて、開弁状態から閉弁状態へと変化するのに遅れが発生する可能性がある。開弁状態から閉弁状態へと変化するのに遅れが発生すると、例えば、吐出室から圧縮機構へと冷媒が逆流し、その結果、圧縮機構での再膨張による能力低下をきたす可能性がある。また、圧縮機構の吐出孔と吐出室との圧力差が小さくなってから吐出弁が閉弁することから、例えば、吐出弁が閉じる速度が速くなり、その結果、これが弁座に当接するときの衝突エネルギーが大きくなって弁座の摩耗につながるおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、バルブリテーナに対する吐出弁の貼り付きを抑制した圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圧縮機は、冷媒が吸入される吸入室と、吸入室の冷媒を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、圧縮機構と吐出室とを連通する吐出孔の出口側に配置されたリードバルブ形式の吐出弁と、吐出弁が開弁したときに、吐出弁が当接して吐出弁の開度を制限するバルブリテーナと、を有している。そして、吐出弁と当接するバルブリテーナの当接面が、吐出弁との当接面積を減らすように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、冷媒を圧縮する圧縮機において、バルブリテーナに対する吐出弁の貼り付きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】斜板式圧縮機の一例を示す縦断面図である。
図2】第1実施形態におけるバルブリテーナの一例を示す斜視図である。
図3】第1実施形態におけるバルブリテーナの一例の要部を示す斜視図である。
図4】第1実施形態におけるバルブリテーナの当接面の一例を示す平面図である。
図5】第1実施形態におけるバルブリテーナの他の例を示す斜視図である。
図6】第2実施形態におけるバルブリテーナの一例を示す斜視図である。
図7】第2実施形態におけるバルブリテーナの他の例を示す斜視図である。
図8】第3実施形態におけるバルブリテーナの一例を示す斜視図である。
図9】第3実施形態におけるバルブリテーナの第1変形例を示す斜視図である。
図10】第3実施形態におけるバルブリテーナの第1変形例を示す要部断面図である。
図11】第3実施形態におけるバルブリテーナの第2変形例を示す斜視図である。
図12】第3実施形態におけるバルブリテーナの第2変形例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態が適用可能な圧縮機の一例として挙げられる、斜板式圧縮機1の一例を示している。斜板式圧縮機1は、例えば、図示しない車両の空調システムの冷媒循環回路に組み込まれ、冷媒循環回路の低圧側から冷媒を吸入して圧縮し、冷媒循環回路の高圧側に圧縮した冷媒を吐出する。
【0010】
斜板式圧縮機1は、複数のシリンダボア3Aが形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の軸方向の一端に接合されたフロントハウジング5と、シリンダブロック3の軸方向の他端にバルブプレート7を介して接合されたシリンダヘッド9と、を有している。
【0011】
シリンダブロック3とフロントハウジング5とによってクランク室11が形成され、このクランク室11の内部を軸方向に貫通するように駆動軸13が配置されている。クランク室11の内部には、円板形状の斜板15が配置されている。斜板15の中央部には貫通孔15Aが形成されており、駆動軸13は斜板15の貫通孔15Aを貫通している。また、斜板15は、駆動軸13に一体的に固定された円板形状のロータ17に対して、リンク機構19を介して連結されている。ここで、クランク室11は、内部圧力に応じて、シリンダブロック3のシリンダボア3A、後述するピストン47及び斜板15を含んで構成される圧縮機構の状態を変化させる制御圧室を構成する。
【0012】
リンク機構19は、ロータ17に突設された第1アーム17Aと、斜板15に突設された第2アーム15Bと、第1アーム17Aの先端部と第2アーム15Bの先端部とを連結するリンクアーム21と、を含んでいる。リンクアーム21の一端部は、第1連結ピン23を介して第1アーム17Aに相対回転可能に連結されている。また、リンクアーム21の他端部は、第2連結ピン25を介して第2アーム15Bに相対回転可能に連結されている。従って、斜板15は、リンク機構19によって、駆動軸13と一体的に回転するとともに、駆動軸13の軸線方向に沿って傾斜角が変更可能に構成されている。
【0013】
斜板15の貫通孔15Aは、斜板15が最小傾斜角と最大傾斜角との間の範囲で傾動可能な形状に形成されている。具体的には、貫通孔15Aには、駆動軸13の外周面と当接することによって、傾斜角を小さくする方向への斜板15の傾斜角変位(傾動)を規制する最小傾斜角規制部が形成されている。また、貫通孔15Aには、駆動軸13の外周面と当接することによって、傾斜角を大きくする方向への斜板15の傾動を規制する最大傾斜角規制部が形成されている。従って、斜板15は、駆動軸13の軸方向に対して、最小傾斜角規制部によって規制される最小傾斜角と最大傾斜角規制部によって規制される最大傾斜角との間で、自由に傾動することができる。
【0014】
駆動軸13の斜板15を挟んだ位置には、傾斜角を減少させる方向に斜板15を付勢する傾斜角減少バネ27と、傾斜角を増加させる方向に斜板15を付勢する傾斜角増加バネ29と、がそれぞれ配置されている。具体的には、傾斜角減少バネ27は、斜板15とロータ17との間に配置され、傾斜角増加バネ29は、斜板15と駆動軸13に固定又は形成された円板形状のバネ支持部材31との間に配置されている。
【0015】
ここで、傾斜角増加バネ29の付勢力は、斜板15の傾斜角が最小傾斜角であるときに、傾斜角減少バネ27の付勢力よりも大きくなるように設定されている。従って、駆動軸13が回転していないとき、即ち、斜板式圧縮機1が停止しているときに、斜板15は、傾斜角減少バネ27の付勢力と傾斜角増加バネ29の付勢力とが釣り合う傾斜角(>最小傾斜角)に位置することとなる。傾斜角減少バネ27の付勢力と傾斜角増加バネ29の付勢力とが釣り合う傾斜角は、後述するピストン47による圧縮動作が確保される最小の傾斜角範囲として設定されており、例えば、斜板15が駆動軸13の軸方向に対して直交するときの傾斜角を0度(最小傾斜角)とすると、1~3度の範囲に設定することができる。
【0016】
駆動軸13の一端部は、フロントハウジング5の円筒形状のボス部5Aを貫通してその外方まで延在し、電磁クラッチ33を介して、ボス部5Aの外周面に対して相対回転可能に取り付けられたプーリ35に連結されている。また、駆動軸13及びロータ17は、ラジアル方向について軸受37及び39によって支持され、スラスト方向について軸受41及びスラストプレート43によって支持されている。なお、駆動軸13の他端部とスラストプレート43との間隔は、調整ネジ45によって所定の隙間を有するように調整されている。
【0017】
そして、図示しない電動モータやエンジンからの回転駆動力がプーリ35に伝達されている状態で、電磁クラッチ33を作動させると、プーリ35と駆動軸13とが連結されて駆動軸13が回転駆動される。なお、電磁クラッチ33を停止させると、プーリ35と駆動軸13とが切り離されるので、斜板式圧縮機1を停止させることができる。
【0018】
また、斜板式圧縮機1は、シリンダブロック3に形成された複数のシリンダボア3Aと同数のピストン47を有している。それぞれのピストン47は、シリンダボア3Aに対して軸方向に移動可能に配置されたピストン本体47Aと、ピストン本体47Aからクランク室11の内部に向かって軸方向に延出する延出部47Bと、を有している。
【0019】
ピストン47の延出部47Bには、斜板15の周縁部近傍を挟んで配置された一対のシュー49を収容可能な収容部47Cが形成されている。即ち、ピストン47は、斜板15の周縁部近傍を挟んで配置された一対のシュー49を介して、斜板15に連結されている。従って、ピストン47は、斜板15の回転によって、シリンダブロック3のシリンダボア3Aを往復運動するようになっている。
【0020】
シリンダヘッド9には、中央部に配置された吸入室51と、吸入室51を環状に取り囲むように配置された複数の吐出室53と、がそれぞれ形成されている。吸入室51は、バルブプレート7に形成された吸入孔7A及び吸入弁(図示せず)を介して、シリンダブロック3のそれぞれのシリンダボア3Aと連通している。吐出室53は、バルブプレート7に形成された複数の吐出孔7B、吐出室53を臨むバルブプレート7の背面に取り付けられたリードバルブ形式の吐出弁61を介して、シリンダブロック3のそれぞれのシリンダボア3Aと連通している。また、吐出室53を臨むバルブプレート7の背面には、吐出弁61に加えて、吐出弁61の開度(たわみ量)を制限するバルブリテーナ63が取り付けられている。なお、吐出弁61及びバルブリテーナ63の詳細については後述する。
【0021】
ここで、フロントハウジング5、シリンダブロック3、バルブプレート7、及びシリンダヘッド9などは、必要に応じて各部材の間にガスケット(図示せず)が配置された状態で、複数の通しボルト55によって相互に締結されて、圧縮機ハウジングが形成されている。
【0022】
シリンダヘッド9には、図1には明確に示されていないが、空調システムの冷媒循環回路の低圧側と吸入室51とを連通する吸入通路と、空調システムの冷媒循環回路の高圧側と吐出室53とを連通する吐出通路と、がそれぞれ形成されている。また、シリンダヘッド9には、吐出通路を開閉する逆止弁(図示せず)が配置されている。この逆止弁は、その上流の吐出室53の圧力とその下流の吐出通路の圧力との圧力差に応じて動作し、この圧力差が所定値より小さい場合に吐出通路を閉鎖し、この圧力差が所定値以上の場合に吐出通路を開通させる。
【0023】
シリンダヘッド9の所定箇所には、吐出室53とクランク室11とを連通する圧力供給通路57の開度を調整する、円柱形状の容量制御弁65が取り付けられている。容量制御弁65は、圧力供給通路57の開度を調整することで、吐出室53からクランク室11へと供給される高圧の冷媒の流量を増減し、クランク室11の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する。また、クランク室11の内部に存在する冷媒は、シリンダブロック3に形成された連通路3B及び空間3C、並びにバルブプレート7に形成されたオリフィス(図示せず)によって形成される放圧通路59を介して、吸入室51へと流入するようになっている。従って、容量制御弁65によってクランク室11の内部圧力を変化させることで、斜板15の傾斜角、つまり、ピストン47のストロークを変化させて、斜板式圧縮機1の吐出容量を可変制御できるようになっている。
【0024】
次に、斜板式圧縮機1の作用について説明する。
電動モータやエンジンなどの回転駆動力がプーリ35に伝達されている状態で電磁クラッチ33を作動させると、電磁クラッチ33を介してプーリ35と駆動軸13とが連結されて、駆動軸13が回転し始める。駆動軸13が回転し始めると、これと一体化されているロータ17及びリンク機構19を介して、ロータ17と連結されている斜板15も回転し始める。斜板式圧縮機1の停止中には、上述したように、斜板15がピストン47による圧縮動作が確保される最小の傾斜角範囲にあるので、斜板15に連結されたピストン47がシリンダブロック3のシリンダボア3A内を往復運動する。ピストン47がフロント側(図1における斜板15側)に移動すると、ピストン47、シリンダボア3A及びバルブプレート7によって区画される圧縮室の容積が増加して負圧となり、冷媒循環回路の低圧側から吸入通路を介して低圧の冷媒が吸入室51へと導入される。吸入室51へと導入された低圧の冷媒は、バルブプレート7に形成された吸入孔7A及び吸入弁を通って圧縮室へと吸入される。そして、ピストン47がリヤ側(図1におけるシリンダヘッド9側)に移動すると、圧縮室の容積が減少して正圧となり、圧縮室に存在する高圧の冷媒は、バルブプレート7に形成された吐出孔7B及び吐出弁61を通って吐出室53へと吐出される。
【0025】
吐出室53へと吐出された高圧の冷媒の大部分又は全量は、シリンダヘッド9に取り付けられたオイルセパレータ(図示せず)によって潤滑油と高圧の冷媒とに分離される。オイルセパレータによって分離された高圧の冷媒は、吐出通路を介して冷媒循環回路の高圧側に吐出される。オイルセパレータによって分離された潤滑油は、潤滑油通路(図示せず)を介してクランク室11の下部へと戻される。また、吐出室53へと吐出された高圧の冷媒の一部は、吐出室53とクランク室11とを連通する圧力供給通路57を介して容量制御弁65へと供給される。容量制御弁65へと供給された高圧の冷媒は、容量制御弁65の複数の導入ポートの周囲に配置されたフィルタ(図示せず)を通過することで異物が捕捉された後、複数の導入ポートから容量制御弁65の内部へと流入する。
【0026】
容量制御弁65は、外部からの作動信号に応答して内部の通路の開度を増減することで、複数の導入ポートから流入した高圧の冷媒の流量を調整しつつ、複数の吐出ポートから高圧の冷媒を吐出する。このとき、容量制御弁65は、吸入室51の内部圧力を感知して弁体のリフト量を変化させて、吸入室51の内部圧力が一定になるようにクランク室11の内部圧力を自動的に調整する。そして、複数の吐出ポートから吐出された高圧の冷媒は、複数の吐出ポートの周囲に配置されたフィルタ(図示せず)で異物が捕捉された後、容量制御弁65の下流に位置する圧力供給通路57へと流入してクランク室11へと供給される。
【0027】
クランク室11への高圧の冷媒の供給が遮断されると、クランク室11の内部圧力が減少して斜板15の傾斜角を増加させる。斜板15の傾斜角が増加すると、リンク機構19を介して斜板15に連結されているピストン47のストロークが増加し、圧縮室からの吐出容量も増加する。そして、圧縮室から吐出室53へと吐出される高圧の冷媒の流量が増加する結果、斜板式圧縮機1から冷媒循環回路の高圧側へと吐出される高圧の冷媒の流量も増加する。
【0028】
ところで、上述したように、バルブプレート7に形成された吐出孔7Bを開閉する吐出弁61は、バルブリテーナ63によって開度が制限されている。即ち、圧縮室の内部圧力と吐出室53の内部圧力との圧力差が所定の圧力差より大きくなると、吐出弁61が開弁してその全面がバルブリテーナ63に当接して開度が制限される。そして、圧縮室の内部圧力と吐出室53の内部圧力との圧力差が所定の圧力差以下になると、吐出弁61は、それ自体が有する弾性によって、開度が制限された開弁状態から閉弁状態へと変化する。このとき、何らかの理由によって吐出弁61がバルブリテーナ63に貼り付いていると、圧縮室の内部圧力と吐出室53の内部圧力との圧力差が所定の圧力差以下になっても開弁状態から閉弁状態へとすぐに変化せず、吐出弁61の閉じ遅れが発生してしまう。吐出弁61の閉じ遅れが発生すると、吐出室53から圧縮室へと高圧の冷媒が逆流して性能が低下したり、吐出弁61がバルブプレート7の弁座に着座する際の衝突エネルギーが大きくなって、弁座の摩耗や振動の増加をきたしたりしてしまう。
【0029】
そこで、以下説明する第1実施形態~第3実施形態のように、吐出弁61の開度を制限するバルブリテーナ63の構造を工夫することにより、バルブリテーナ63に対する吐出弁61の貼り付きを抑制する。
【0030】
<<第1実施形態>>
バルブリテーナ63は、図2に示すように、吐出室53を臨むバルブプレート7の背面に対して、図示しないボルトによって同心に固定されている。バルブリテーナ63は、バルブプレート7の背面に固定される円板形状の固定部63Aと、固定部63Aの周縁からバルブプレート7のそれぞれの吐出孔7Bへと向かって延びる複数の延設部63Bと、を含んでいる。それぞれの延設部63Bは、固定部63Aと同じ板厚の部材からなり、その先端部が吐出孔7Bの出口側に配置された吐出弁61の先端部に倣った形状に形成されている。また、それぞれの延設部63Bは、側面視で、バルブプレート7の背面から徐々に離間する湾曲形状に形成されている。ここで、延設部63Bの湾曲形状は、吐出弁61が所定開度まで開弁した状態において、吐出室53を臨む吐出弁61の背面に倣った形状とすることができる。
【0031】
そして、図3に示すように、吐出弁61と当接するバルブリテーナ63の当接面の縁部の少なくとも一部、要するに、吐出弁61を臨む延設部63Bの前面において吐出弁61と当接する当接面の縁部の少なくとも一部に、吐出弁61との当接を避ける非当接部63Cが形成されている。具体的には、非当接部63Cは、バルブリテーナ63の当接面の縁部に位置する角部を切り欠いた形状に形成されている。従って、バルブリテーナ63の延設部63Bは、図4に示すように、吐出弁61の縁部と当接しない非当接部63Cを有することとなる。なお、図4において斜線が付された箇所は、バルブリテーナ63が吐出弁61と当接する範囲を表している。
【0032】
このようにすれば、以下のような効果を発揮することができる。
吐出弁61がバルブリテーナ63に当接した開弁状態においては、特に、バルブリテーナ63に対して吐出弁61の縁部が貼り付き易いと考えられる。そこで、吐出弁61と当接するバルブリテーナ63の当接面の縁部の少なくとも一部に非当接部63Cを形成することで、吐出弁61の縁部との直接的な当接を避け、バルブリテーナ63から吐出弁61が離間し易くなる。従って、バルブリテーナ63に対する吐出弁61の貼り付きを抑制することができる。そして、吐出弁61が開弁状態から閉弁状態へと変化するのに遅れが発生しなくなり、例えば、吐出室53から圧縮機構へと冷媒が逆流して、圧縮機構での再膨張による能力低下を避けることができる。また、圧縮室と吐出室53との圧力差が大きい状態で吐出弁61が閉弁するため、吐出弁61が閉弁状態へと戻ろうとする弾性力が圧縮室の内部圧力によって弱められ、吐出弁61が閉じる速度が必要以上に速くなることが避けられる。このため、吐出弁61が弁座に当接するときの衝突エネルギーが小さくなって、弁座の摩耗が促進したり、振動や騒音が大きくなったりすることも避けられる。
【0033】
バルブリテーナ63は、図5に示すように、バルブプレート7とシリンダヘッド9との間に配置される金属製のガスケット67と一体化されていてもよい。以下の説明では、図2図4に示すバルブリテーナ63との混同を避ける目的で、「バルブリテーナ69」と称することとする(他の実施形態でも同様にバルブリテーナに対して異なる符号を付す)。
【0034】
ガスケット67において、バルブプレート7の背面に配置された吐出弁61を臨む箇所がバルブプレート7から離間する方向に膨出されることで、バルブリテーナ69が一体的に形成されている。吐出弁61を臨むバルブリテーナ69の前面は、吐出弁61が所定開度まで開弁した状態において、吐出室53を臨む吐出弁61の背面に倣った形状とすることができる。また、ガスケット67と一体化されたバルブリテーナ69には、吐出弁61を介してバルブプレート7の吐出孔7Bから吐出された高圧の冷媒を吐出室53へと吐出可能とすべく、高圧の冷媒が通過する少なくとも1つの貫通孔69Aが形成されている。図5に示す一例では、バルブリテーナ69の貫通孔69Aは、吐出弁61の先端部を臨む位置、及び吐出弁61が延びる方向の両側に配置されているが、この限りではない。
【0035】
そして、吐出弁61と当接するバルブリテーナ69の当接面の縁部の少なくとも一部に、吐出弁61との当接を避ける非当接部69Bが形成されている。具体的には、バルブリテーナ69の当接面の縁部であって、吐出弁61が延びる方向に対して垂直な方向の両側に位置する部位が、バルブプレート7から離間する方向に更に膨出されて非当接部69Bが形成されている。非当接部69Bは、吐出弁61の先端部を臨む貫通孔69Aの縁部から始まって少なくとも当接面の基端部まで、吐出弁61の縁部に沿った状態で延びている。このようにすることで、バルブリテーナ69は、吐出弁61の縁部と当接しない非当接部69Bを有することとなる。
【0036】
従って、図2図4に示す第1実施形態と同様に、吐出弁61と当接するバルブリテーナ69の当接面の縁部の少なくとも一部に非当接部69Bを形成することで、吐出弁61の縁部との直接的な当接を避け、バルブリテーナ69から吐出弁61が離間し易くなる。従って、バルブリテーナ69に対する吐出弁61の貼り付きを抑制することができる。なお、他の作用及び効果は、図2図4に示す第1実施形態と同様であるので、その詳細な説明は省略する。必要であれば、第1実施形態の説明を参照されたい(以下同様)。
【0037】
<<第2実施形態>>
バルブリテーナ71は、図6に示すように、図2に示す第1実施形態のバルブリテーナ63と同様に、吐出室53を臨むバルブプレート7の背面に対して、図示しないボルトによって同心に固定されている。バルブリテーナ71は、バルブプレート7の背面に固定される円板形状の固定部71Aと、固定部71Aの周縁からバルブプレート7のそれぞれの吐出孔7Bへと向かって延びる複数の延設部71Bと、を含んでいる。それぞれの延設部71Bは、固定部71Aと同じ板厚の部材からなり、その先端部が吐出孔7Bの出口側に配置された吐出弁61の先端部に倣った形状に形成されている。また、それぞれの延設部71Bは、側面視で、バルブプレート7の背面から徐々に離間する湾曲形状に形成されている。ここで、延設部71Bの湾曲形状は、吐出弁61が所定開度まで開弁した状態において、吐出室53を臨む吐出弁61の背面に倣った形状とすることができる。
【0038】
そして、吐出弁61と当接するバルブリテーナ71の当接面が、吐出弁61との当接面積を減らすように構成されている。具体的には、バルブリテーナ71の延設部71Bの先端部であって、吐出弁61の先端部と当接する部位に、その板面を貫通する少なくとも1つの孔部71Cが形成されている。図示の一例では、延設部71Bの先端部に1つの孔部71Cが形成されているが、その個数は複数であってもよい。従って、バルブリテーナ71の延設部71Bは、その板面を貫通する少なくとも1つの孔部71Cを有することとなる。
【0039】
このようにすれば、吐出弁61と当接するバルブリテーナ71の当接面に少なくとも1つの孔部71Cが形成されることで、バルブリテーナ71に孔部71Cが形成されていないものと比較して、その部位において吐出弁61との当接面積が小さくなって、バルブリテーナ71から吐出弁61が離間し易くなる。従って、バルブリテーナ71に対する吐出弁61の貼り付きを抑制することができる。また、この構成によれば、少なくとも1つの孔部71Cを介して、吐出室53の内部圧力が吐出弁61の背面に作用するので、吐出弁61がバルブリテーナ71から離れるときの弾性力をサポートすることができる。
【0040】
バルブリテーナ71の延設部71Bの先端部には、少なくとも1つの孔部71Cに代えて、吐出弁61を臨む前面から所定寸法だけ凹んだ(貫通しない)、少なくとも1つの凹部(図示せず)が形成されていてもよい。このようにしても、吐出室53の内部圧力が吐出弁61の背面に作用することによる効果を除き、図6に示すバルブリテーナ71と同様な効果を発揮することができる。
【0041】
バルブリテーナ73は、図7に示すように、図5に示す第1実施形態と同様に、バルブプレート7とシリンダヘッド9との間に配置される金属製のガスケット67と一体化されていてもよい。
【0042】
ガスケット67において、バルブプレート7の背面に配置された吐出弁61を臨む箇所がバルブプレート7から離間する方向に膨出されることで、バルブリテーナ73が一体的に形成されている。吐出弁61を臨むバルブリテーナ73の前面は、吐出弁61が所定開度まで開弁した状態において、吐出室53を臨む吐出弁61の背面に倣った形状とすることができる。また、ガスケット67と一体化されたバルブリテーナ73には、吐出弁61を介してバルブプレート7の吐出孔7Bから吐出された高圧の冷媒を吐出室53へと吐出可能とすべく、高圧の冷媒が通過する貫通孔73Aが形成されている。図6に示す一例では、バルブリテーナ73の貫通孔73Aは、吐出弁61の先端部を臨む位置、及び吐出弁61が延びる方向の両側に配置されているが、この限りではない。
【0043】
そして、吐出弁61と当接するバルブリテーナ73の当接面に、吐出弁61との接触面積を減らす少なくとも1つの孔部73Bが形成されている。ここで、バルブリテーナ73の当接面に少なくとも1つの孔部73Bを形成する代わりに、バルブリテーナ71の当接面にバルブプレート7から離間する方向に延びる少なくとも1つの凸部(図示せず)を形成するようにしてもよい。
【0044】
このため、図6に示す第2実施形態と同様に、バルブリテーナ73の少なくとも1つの孔部73B又は凸部が形成された部位において、吐出弁61との当接面積が小さくなって、バルブリテーナ73から吐出弁61が離間し易くなる。従って、バルブリテーナ73に対する吐出弁61の貼り付きを抑制することができる。また、バルブリテーナ73に少なくとも1つの孔部73Bが形成された構成では、この少なくとも1つの孔部73Bを介して、吐出室53の内部圧力が吐出弁61の背面に作用するので、吐出弁61がバルブリテーナ73から離れるときの弾性力をサポートすることができる。なお、他の作用及び効果は、図6に示す第1実施形態と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0045】
なお、第1実施形態及び第2実施形態において、バルブリテーナ63、69、71及び73の前面及び背面にラバーをコーティングするようにしてもよい。このようにすれば、吐出弁61とバルブリテーナとの気密性が向上するとともに、吐出弁61が閉弁するときの衝突エネルギーが吸収されて振動及び騒音を軽減することができる。
【0046】
<<第3実施形態>>
バルブリテーナ75は、図8に示すように、図5に示す第1実施形態のバルブリテーナ69と同様に、バルブプレート7とシリンダヘッド9との間に配置される金属製のガスケット67と一体化されている。ガスケット67において、バルブプレート7の背面に配置された吐出弁61を臨む箇所がバルブプレート7から離間する方向に膨出されることで、バルブリテーナ75が一体的に形成されている。吐出弁61を臨むバルブリテーナ75の前面は、吐出弁61が所定開度まで開弁した状態において、吐出室53を臨む吐出弁61の背面に倣った形状とすることができる。また、ガスケット67と一体化されたバルブリテーナ75には、吐出弁61を介してバルブプレート7の吐出孔7Bから吐出された高圧の冷媒を吐出室53へと吐出可能とすべく、高圧の冷媒が通過する貫通孔75Aが形成されている。図8に示す一例では、バルブリテーナ75の貫通孔75Aは、吐出弁61の先端部を臨む位置、及び吐出弁61が延びる方向の両側に配置されているが、この限りではない。
【0047】
さらに、バルブリテーナ75の前面及び背面には、ラバー77がコーティングされている。バルブリテーナ75の前面にラバー77がコーティングされていると、吐出弁61とバルブリテーナ75との間の気密性が向上するとともに、吐出弁61が閉弁するときの衝突エネルギーが吸収されて振動及び騒音を軽減することができる。
【0048】
そして、バルブリテーナ75において、バルブリテーナ75の前面にコーティングされたラバー77のうち、少なくとも吐出弁61が当接する当接面のラバー77の複数箇所が剥離された剥離部75Bが形成されて、当接面が粗面に形成されている。このようにすれば、図5に示す第2実施形態と同様に、バルブリテーナ75において、吐出弁61との当接面積が小さくなって、バルブリテーナ75から吐出弁61が離間し易くなる。従って、バルブリテーナ75に対する吐出弁61の貼り付きを抑制することができる。
【0049】
バルブリテーナ75にコーティングされたラバー77の当接面を粗面に形成するため、ラバー77の複数箇所を剥離する代わりに、図9に示すように、その複数箇所を円錐形状に凹ませた凹部75Cを形成するようにしてもよい。具体的には、ラバー77がコーティングされたバルブリテーナ75の当接面に対して、例えば、ピン形状の工具を押し付け、0.3mm程度の貫通孔を形成する。この場合、図10に示すように、バルブリテーナ75の板面には、その前面から背面に向かうにつれて徐々に直径が小さくなる凹部75Cが形成される。凹部75Cの内面には、バルブリテーナ75の前面にラバー77がコーティングされていることから、ラバー77で覆われることとなる。この場合、凹部75Cの先端部が開口しているか否かは問わない。なお、このような構成による作用及び効果は、図8に示す第3実施形態と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0050】
また、バルブリテーナ75にコーティングされたラバー77の当接面を粗面に形成するため、図11に示すように、その複数箇所を三角錐形状に凹ませた凹部75Dを形成、要するに、おろし金の目立て形状のような三角錐形状に凹ませた凹部75Dを形成するようにしてもよい。具体的には、ラバー77がコーティングされたバルブリテーナ75の当接面に対して、三角錐形状の工具を押し付けて貫通孔を形成する。この場合、バルブリテーナ75の板面には、その前面から背面に向かうにつれて徐々に断面積が小さくなる三角錐形状の凹部75Dが形成される。凹部75Dの内面には、バルブリテーナ75の前面にラバー77がコーティングされていることから、ラバー77で覆われることとなる。この場合にも、凹部75Dの先端部が開口しているか否かは問わない。このようにしても、図9及び図10に示すバルブリテーナ75と同様な作用及び効果を発揮することができる。
【0051】
第3実施形態では、ガスケット67と一体化されたバルブリテーナ75に限らず、図2に示すような第1実施形態のバルブリテーナ63などに対しても、上記の構成を適用して所要の効果を享受できるようにしてもよい。
【0052】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を相互に適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0053】
その一例を挙げると、圧縮機は、斜板式圧縮機1に限らず、ダイアフラム式圧縮機、スクリュー式圧縮機、スクロール式圧縮機、ロータリ式圧縮機、スライドベーン式圧縮機など、多様な形式の圧縮機であってもよい。また、圧縮機は、電動モータ、及びこれを駆動する駆動回路を更に有していてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…斜板式圧縮機(圧縮機)、3…シリンダブロック(圧縮機構)、3A…シリンダボア(圧縮機構)、7…バルブプレート、7B…吐出孔、15…斜板(圧縮機構)、47…ピストン(圧縮機構)、51…吸入室、53…吐出室、61…吐出弁、67…ガスケット、71…バルブリテーナ、71C…孔部、73…バルブリテーナ、73B…孔部
図1
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