(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004781
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】骨粗鬆症の予防又は治療剤及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07J 1/00 20060101AFI20250107BHJP
A61K 31/661 20060101ALI20250107BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20250107BHJP
A61K 31/565 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
C07J1/00 CSP
A61K31/661
A61P19/10
A61K31/565
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104391
(22)【出願日】2023-06-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2022年7月20日 ウェブサイトのアドレス https://main.spsj.or.jp/tohron/71tohron/ https://main.spsj.or.jp/tohron/71tohron/program.html https://main.spsj.or.jp/tohron/71tohron/oral_ja.pdf (その2) ウェブサイトの掲載日 2022年8月17日 ウェブサイトのアドレス https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2022/ https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2022/index.php?id=2V11&place_num=1 (その3) 開催日 2022年9月6日 (開催期間:2022年9月5日~2022年9月7日) 集会名、開催場所 第71回高分子討論会 国立大学法人北海道大学札幌キャンパス (北海道札幌市北区北17条西8丁目) (その4) 開催日 2023年1月26日 (開催期間:2023年1月26日~2023年1月27日) (研究ポスターの公開期間:2023年1月26日~2023年2月10日) 集会名、開催場所 第27回関西大学先端科学技術シンポジウム (Zoomによるオンライン開催) (その5) ウェブサイトの掲載日 2023年2月13日 ウェブサイトのアドレス http://www.biomaterial-kansai.net/17th/index.html http://www.biomaterial-kansai.net/17th/program.html http://www.biomaterial-kansai.net/17th/dl/research_publication_program_17.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その6) ウェブサイトの掲載日 2023年2月22日 ウェブサイトのアドレス http://www.biomaterial-kansai.net/17th/index.html http://www.biomaterial-kansai.net/17th/program.html http://www.biomaterial-kansai.net/17th/dl/abstract_2022_pw.pdf (その7) 開催日 2023年3月4日 集会名、開催場所 日本バイオマテリアル学会 関西ブロック第17回若手研究発表会 大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス (大阪府堺市中区学園町1-1 B3棟1階) (その8) 発行日 2023年3月1日 刊行物 KU-SMART PROJECT NEWSLETTER No.10 別冊 (研究成果報告書)第22頁 (その9) 発行日 2023年3月1日 刊行物 KU-SMART PROJECT NEWSLETTER No.10 別冊 (研究成果報告書)第25頁 (その10) 発行日 2023年3月1日 刊行物 KU-SMART PROJECT NEWSLETTER No.10 別冊 (研究成果報告書)第30頁
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 隼
【テーマコード(参考)】
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA09
4C086DA34
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZA97
4C091AA01
4C091BB03
4C091BB04
4C091BB05
4C091DD01
4C091EE03
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ01
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4C091LL01
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA02
4C091PA09
4C091QQ01
(57)【要約】
【課題】従来技術にみられる副作用を抑制しつつ、高い骨粗鬆症の予防又は治療効果を発揮する、骨粗鬆症の予防又は治療剤を提供する。
【解決手段】
エストロゲンが担持されたポリリン酸エステル化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストロゲンが担持されたポリリン酸エステル化合物。
【請求項2】
一般式(1):
【化1】
[式中、Eはエストロゲンから1個の水素原子を除いた1価の基を示す。R
1及びR
3は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい有機基又はアルカリ金属イオンを示す。R
2は置換基を有していてもよいアルカンジイル基を示す。nは1以上の整数を示し、nが2以上の整数である場合、2個以上のR
1及び2個以上のR
2は同一でも異なっていてもよい。]
で表される、請求項1に記載のポリリン酸エステル化合物。
【請求項3】
前記エストロゲンがエストロン、エストラジオール、エストリオール又はこれらの誘導体である、請求項2に記載のポリリン酸エステル化合物。
【請求項4】
前記R1及びR3がアルカリ金属イオンである、請求項2に記載のポリリン酸エステル化合物。
【請求項5】
前記R2が置換基を有していてもよい1,2-エタンジイル基である、請求項2に記載のポリリン酸エステル化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリリン酸エステル化合物を有効成分とする、骨粗鬆症の予防又は治療剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリリン酸エステル化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症の予防又は治療剤及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、女性(特に高齢女性)に多く見られる疾患であることが知られており、高齢化社会において、骨粗鬆症の予防又は治療薬の提供は急務である。
【0003】
骨粗鬆症の治療方法としては、更年期障害、頻尿、膣炎等の泌尿生殖器症状を伴う方であれば、ホルモン補充療法が第一選択となる。ホルモン補充療法は、分泌低下した女性ホルモン(具体的には、エストロゲン)を補う薬物療法であるが、副作用として、癌(特に、子宮体癌、乳癌)、血栓症、心筋梗塞等の発生リスクを高めることが指摘されている(非特許文献1~3)。このため、ホルモン補充療法が採用される際には、癌の発生リスクを抑制するために黄体ホルモンを併用する必要がある。
【0004】
上記以外の骨粗鬆症の治療方法として、ビスホスホネート、デノスマブ等の骨吸収抑制剤を用いる薬物療法も知られている。しかしながら、これらの骨吸収抑制剤は、健全な骨リモデリングまで抑制し、骨が脆弱になる結果、非定型大腿骨骨折や顎骨壊死等を引き起こすといった問題を抱えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arch Intern Med. 2006, 166 (9), pp. 1027-1032.
【非特許文献2】The New England Journal of Medicine 2003, 349 (6), pp. 523-534.
【非特許文献3】Best Practice & Research Clinical Obstetrics and Gynaecology 2022, 81, pp. 8-21.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術にみられる副作用を抑制しつつ、高い骨粗鬆症の予防又は治療効果を発揮する、骨粗鬆症の予防又は治療剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、エストロゲンが担持されたポリリン酸エステル化合物を用いた場合に、エストロゲンを単独で使用する際に生じる副作用を回避しつつ、より高い骨粗鬆症の予防又は治療効果を発揮し得ることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0008】
項1.エストロゲンが担持されたポリリン酸エステル化合物。
【0009】
項2.一般式(1):
【0010】
【化1】
[式中、Eはエストロゲンから1個の水素原子を除いた1価の基を示す。R
1及びR
3は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい有機基又はアルカリ金属イオンを示す。R
2は置換基を有していてもよいアルカンジイル基を示す。nは1以上の整数を示し、nが2以上の整数である場合、2個以上のR
1及び2個以上のR
2は同一でも異なっていてもよい。]
で表される、項1に記載のポリリン酸エステル化合物。
【0011】
項3.前記エストロゲンがエストロン、エストラジオール、エストリオール又はこれらの誘導体である、項1又は2に記載のポリリン酸エステル化合物。
【0012】
項4.前記R1及びR3がアルカリ金属イオンである、項2に記載のポリリン酸エステル化合物。
【0013】
項5.前記R2が置換基を有していてもよい1,2-エタンジイル基である、項2又は3に記載のポリリン酸エステル化合物。
【0014】
項6.項1~5のいずれか1項に記載のポリリン酸エステル化合物を有効成分とする、骨粗鬆症の予防又は治療剤。
【0015】
項7.項1~5のいずれか1項に記載のポリリン酸エステル化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、従来技術にみられる副作用を抑制しつつ、高い骨粗鬆症の予防又は治療効果を発揮する、骨粗鬆症の予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】参考例4、実施例7及び実施例8について、(a)fluor488で修飾された各ポリリン酸エステル化合物の蛍光スペクトル(励起波長:500nm)、及び(b)Cy5で修飾された各ポリリン酸エステル化合物の蛍光スペクトル(励起波長:620nm)である。(a)及び(b)のいずれにおいても、蛍光標識されていないポリリン酸エステル化合物(参考例2、実施例3及び実施例4)は蛍光を示さなかった。
【
図3】骨芽細胞分化試験のスキーム(図上部)及びその結果(図下部)である。(a)は、各ポリリン酸エステル化合物とともに破骨細胞分化誘導培地で培養したMC3T3E1細胞について、アリザリンレッドS染色結果を示す明視野観察像である。(b)は、染色後のアリザリンレッドSの定量結果を示すグラフである。
【
図4B】各ポリリン酸エステル化合物とともに破骨細胞分化誘導培地で培養した単球(C57BL/6N,プライマリー)について、アクチン染色、核染色、TRAP染色後の蛍光観察像である。
【
図4C】各ポリリン酸エステル化合物とともに破骨細胞分化誘導培地で培養した単球(C57BL/6N,プライマリー)について、アクチン染色、核染色、TRAP染色後の明視野観察像である。
【
図4D】各ポリリン酸エステル化合物とともに破骨細胞分化誘導培地で培養した単球(C57BL/6N,プライマリー)について、培養後の破骨細胞数(数密度)を示すグラフである。
【
図5A】骨集積性(骨親和性)試験のスキーム(図上部)及びその結果(図下部)である。参考例8(fluor488によって蛍光標識されたP(EP・Na-co-BYP))又は実施例10(fluor488によって蛍光標識されたE
2-P(EP・Na-co-BYP))のポリリン酸エステル化合物を投与したマウスの蛍光イメージングである。
【
図5B】同実験のマウス骨切片の明視野観察像及び蛍光観察像である。蛍光観察像において、緑色はfluor488の位置を、青色は細胞核の位置を示す。
【
図6】各ポリリン酸エステル化合物を投与したマウスの大腿骨遠位部のCT像(図上部;左から順に、卵巣摘出擬似手術(sham)群、卵巣摘出(OVX)群、参考例2(PEP・Na)投与群、実施例4(E
2-PEP・Na)投与群)及び大腿骨遠位部の各骨パラメータ(図下部;左から順に、(a)骨量、(b)骨密度、(c)骨梁数、(d)骨梁間隔)の測定結果を示すグラフである。各グラフにおいて、各バーは、左から順に、sham群(0週間後)、sham群(6週間後;以降の群においても同様。)、OVX群、PEP・Na群、E
2-PEP・Na群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0019】
本明細書において、「A~B」との数値範囲の表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0020】
「エストロゲン」とは、通常、ステロイドホルモン(卵胞ホルモン)として知られる、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)等の化合物を指すが、本明細書においてはこれらに制限されず、卵胞ホルモン様作用を有する、ダイゼイン、ゲニステイン等の植物性エストロゲンを包含する概念である。
【0021】
本明細書において、「ポリリン酸エステル化合物」なる用語は、当業者にとって明らかなように、ポリリン酸ジエステル、ポリリン酸トリエステル又はこれらの共重合体を含む概念である。また、本明細書において、「ポリリン酸エステル化合物」なる用語は、モノリン酸エステル化合物(例えば、モノリン酸ジエステル化合物、モノリン酸トリエステル化合物)を包含する概念である。
【0022】
本明細書において、任意のポリマーが、次式:
【0023】
【化2】
[式中、Y及びZは同一又は異なって、構成単位を示す。p及びqは同一又は異なって、前記構成単位の繰り返し数を示す。]
のように表記される場合、当該ポリマー中において、構成単位Y及びZは、それぞれブロックを形成していてもよく、又は互いにランダムに結合していてもよい。
【0024】
本明細書において、化学式を示す際、便宜上、ポリマー末端に存在する置換基の記載を省略することもあるが、見かけ上ポリマー末端に存在する置換基に限定されるものではない。
【0025】
ポリリン酸エステル化合物
本発明のポリリン酸エステル化合物は、エストロゲンが担持されている。本発明のポリリン酸エステル化合物は、当該特徴を有することにより、エストロゲンを体内の必要としている部位に効率的に送達することができ、したがって、エストロゲンそれ自体を利用する場合と比較して、エストロゲンが有する生理活性をより有効に活用することができる。また、ポリリン酸エステル化合物としては、骨親和性の観点から、ポリリン酸ジエステル、ポリリン酸トリエステル又はこれらの共重合体を含む化合物であることが好ましく、ポリリン酸ジエステル化合物であることがより好ましい。
【0026】
本発明のポリリン酸エステル化合物としては、その中でも、化合物の安定性、及び合成の容易性の観点から、共有結合によりエストロゲンが担持されているものが好ましく、水酸基由来の酸素原子を介した共有結合によりエストロゲンが担持されているものがより好ましく、水酸基由来の酸素原子を介した共有結合によりエストロゲンが担持され、当該共有結合がリン酸ジエステル結合又はリン酸トリエステル結合を構成しているものがさらに好ましい。
【0027】
本発明のポリリン酸エステル化合物としては、例えば、一般式(1):
【0028】
【化3】
[式中、Eはエストロゲンから1個の水素原子を除いた1価の基を示す。R
1及びR
3は同一又は異なって、水素原子、有機基又はアルカリ金属イオンを示す。R
2はアルカンジイル基を示す。nは1以上の整数を示し、nが2以上の整数である場合、2個以上のR
1及び2個以上のR
2は同一でも異なっていてもよい。]
で表される、ポリリン酸エステル化合物が挙げられる。
【0029】
一般式(1)において、エストロゲンとしては、特に制限されず、例えば、上述の卵胞ホルモン及び植物性エストロゲン等を採用することができる。具体的には、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)又はこれらの誘導体(結合型エストロゲン、エチニルエストラジオール等)等の卵胞ホルモン;フラボノイド(フラボノール、フラバノン、フラボン、イソフラボン等)、カルコノイド(カルコン、ジヒドロカルコン等)、フェニルプロパノイド(スチルベン、リグナン等)、クメスタン(クメストロール等)等の植物性エストロゲンが挙げられる。その中でも、一般式(1)において、エストロゲンとしては、骨粗鬆症の予防又は治療の観点から、例えば、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)又はこれらの誘導体が好ましく、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)又はこれらの誘導体がより好ましく、エストラジオール(E2)又はその誘導体がさらに好ましく、エストラジオール吉草酸エステルが特に好ましい。
【0030】
一般式(1)において、Eで示される「エストロゲンから1個の水素原子を除いた1価の基」の具体例としては、例えば、
【0031】
【0032】
一般式(1)において、R1及びR3で示される有機基としては、特に制限されず、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基等の炭化水素基が挙げられる。
【0033】
アルキル基としては、特に制限されず、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~10(特に1~6)の直鎖状アルキル基の他、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10(特に3~6)の分岐鎖状アルキル基、及び、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3~10(特に5~8)の環状アルキル基も挙げられる。
【0034】
アルケニル基としては、特に制限されず、例えば、エテニル基(ビニル基)、2-プロペニル基(アリル基)、2-ブテニル基等の炭素数1~10(特に1~6)の直鎖状アルケニル基の他、例えば、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基等の炭素数3~10(特に3~6)の分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0035】
アルキニル基としては、特に制限されず、例えば、エチニル基、n-プロピニル基、n-ブチニル基等の炭素数1~10(特に1~6)の直鎖状アルケニル基の他、例えば、イソブチニル基、s-ブチニル基、イソペンチニル基等の炭素数3~10(特に3~6)の分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0036】
アリール基としては、特に制限されず、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、インドリル基、イミダゾリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基等の炭素数6~18のアリール基(特に6~14)が挙げられる。
【0037】
ヘテロアリール基としては、特に制限されず、単環ヘテロアリール基及び多環ヘテロアリール基のいずれも採用でき、例えば、ピロリジル基、ピロリル基、テトラヒドロチエニル基、チエニル基、オキソラニル基、フラニル基、イミダゾリル基、N-メチルイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、N,N-ジメチル-4-アミノピリジル基、ピラジル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0038】
一般式(1)において、R1及びR3で示される有機基(炭化水素基)は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、特に制限されず、例えば、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アルキル基、上記アルケニル基、上記アルキニル基、上記アリール基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0039】
本発明のポリリン酸エステル化合物は、エストロゲン以外の薬物及び/又は蛍光分子等の機能分子をさらに有していてもよい。この場合、当該機能分子は、例えば、一般式(1)において、R1及びR3で示される有機基(炭化水素基)又はこれが有していてもよい置換基を介してポリリン酸エステル部位に担持(結合)されることができる。当該機能分子の担持(結合)様式としては、特に制限されず、例えば、クリック反応由来のトリアゾリル結合等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)において、R1及びR3で示されるアルカリ金属イオンとしては、特に制限されず、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン等が挙げられる。R1及びR3で示されるアルカリ金属イオンとしては、その中でも、骨親和性及び骨粗鬆症の予防又は治療の観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましく、ナトリウムイオンがより好ましい。
【0041】
一般式(1)において、R1及びR3で示される基としては、骨親和性及び骨粗鬆症の予防又は治療の観点からは、水素原子及び/又はアルカリ金属イオンが好ましく、アルカリ金属イオンがより好ましい。具体的には、本発明のポリリン酸エステル化合物に含まれるn個のR1及びR3のうち、80%以上の数の基が水素原子及び/又はアルカリ金属イオンであることが好ましく、80%以上の数の基がアルカリ金属イオンであることがより好ましい。
【0042】
一般式(1)において、R2で示されるアルカンジイル基としては、特に制限されず、例えば、メタンジイル基、エタンジイル基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基等が挙げられる。
【0043】
一般式(1)において、R2で示されるアルカンジイル基は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、特に制限されず、例えば、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、上記アルキル基、上記アルケニル基、上記アルキニル基、上記アリール基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合の置換基の数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0044】
一般式(1)において、nは、リン酸エステル結合の繰り返し数を意味する1以上の整数である。nとしては、骨親和性及び取扱い性の観点から、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10以上の整数が好ましく、20~1000の整数がより好ましく、50~100の整数がさらに好ましい。本発明のポリリン酸エステル化合物は、nが1である場合にも骨親和性を有する。
【0045】
本発明のポリリン酸エステル化合物は、そのポリリン酸エステル部位において、一般式(2-a):
【0046】
【化5】
[式中、R
1aは有機基を示す。R
2aはアルカンジイル基を示す。]
で表される構成単位(「構成単位T」と称することもある。)を含み得る。
【0047】
一般式(2-a)において、R1aとしては、上記一般式(1)について定義される有機基を採用することができる。
【0048】
一般式(2-a)において、R2aとしては、上記一般式(1)について定義されるアルカンジイル基を採用することができる。
【0049】
また、本発明のポリリン酸エステル化合物は、そのポリリン酸エステル部位において、一般式(2-b):
【0050】
【化6】
[式中、Xは水素原子又はアルカリ金属イオンを示す。R
2bはアルカンジイル基を示す。]
で表される構成単位(「構成単位D」と称することもある。)を含み得る。
【0051】
一般式(2-b)において、Xとしては、水素原子、又は上記一般式(1)について定義されるアルカリ金属イオンを採用することができる。
【0052】
一般式(2-b)において、R2bとしては、上記一般式(1)について定義されるアルカンジイル基を採用することができる。
【0053】
本発明のポリリン酸エステル化合物が構成単位T及び構成単位Dを含む場合、骨親和性及び骨粗鬆症の予防又は治療の観点からは、ポリリン酸エステル化合物中に含まれる構成単位T及び構成単位Dのモル比率(T:D)は、0.1:99.9~99.9:0.1が好ましく、1:99~50:50がより好ましく、3:97~10:90がさらに好ましい。本発明のポリリン酸エステル化合物は、構成単位Dを多く含むほど、特に、Xがアルカリ金属イオンである構成単位Dを多く含むほど、骨粗鬆症の予防又は治療効果が向上し得る。
【0054】
また、本発明のポリリン酸エステル化合物が構成単位T及び構成単位Dを含む場合、構成単位Tの繰り返し数及び構成単位Dの繰り返し数の総和が、上記nの好ましい範囲にあることが好ましい。
【0055】
本発明のポリリン酸エステル化合物の具体例としては、例えば、
【0056】
【化7】
[式中、E及びnは前記に同じである。mは1以上の整数を示す。]
等が挙げられ、これらに限定されない。
【0057】
本発明のポリリン酸エステル化合物の数平均分子量Mnは、特に制限されず、骨親和性及び骨粗鬆症の予防又は治療の観点からは、1HNMR測定により決定される場合に50000~200000(より好ましくは75000~150000)であることが好ましく、GPC測定により決定される場合に50000~200000(より好ましくは75000~150000)であることが好ましい。
【0058】
本発明のポリリン酸エステル化合物の分散度Mw/Mnは、1超の範囲であれば特に制限されず、骨粗鬆症の予防又は治療の観点からは、できる限り小さいことが好ましい。Mw/Mnは、GPC測定により決定することができる。
【0059】
本発明のポリリン酸エステル化合物には、上記化合物の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物も含まれ得る。
【0060】
薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、フッ酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩等の無機酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、ピルビン酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0061】
溶媒和物を構成する溶媒としては、水、アルコール(メタノール、エタノール、n - プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0062】
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれをすべて包含する。例えば、不斉炭素原子の存在等による光学異性体(R、S体、α、β配置、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、回転異性体、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、すべて本発明に含まれる。また、本発明においては、互変異性体による異性体をもすべて包含する。
【0063】
骨粗鬆症の予防又は治療剤
本発明のポリリン酸エステル化合物は、生体内に投与された場合に骨に選択的にエストロゲンを送達することができ、及び/又は、骨に集積した後に周囲の細胞の骨芽細胞分化を促進することができ、及び/又は、骨に集積した後に周囲の細胞の破骨細胞分化を抑制することができる。本発明のポリリン酸エステル化合物は、これらの生理活性を示すことによって、骨梁や骨密度等の骨パラメータを改善することができ、したがって、従来技術にみられる副作用を抑制しつつ、高い骨粗鬆症の予防又は治療効果を発揮する、骨粗鬆症の予防又は治療剤を提供することができる。
【0064】
本発明のポリリン酸エステル化合物は、リン酸エステル結合を有するため、高い骨親和性(骨集積性)を有し得る。このため、本発明のポリリン酸エステル化合物は、マウスの尾静脈に投与された場合でも、骨選択的に集積し得る。骨親和性は、例えば、光in vivo生体イメージングシステム、免疫組織染色法等により評価することができる。
【0065】
骨芽細胞分化の促進は、特に制限されず、例えば、アリザリンレッドS染色法により骨芽細胞におけるカルシウム沈着量を測定することにより評価することができ、及び/又は、PCR法により骨芽細胞関連遺伝子(Runx2、Osx、Opn、Ocn等)の発現量を測定することにより評価することができる。
【0066】
破骨細胞分化の抑制は、特に制限されず、アクチン染色法によりアクチンリング数を測定することにより評価することができ、及び/又は、TRAP染色法により酒石酸耐性酸性フォスファターゼ活性を測定することにより評価することができ、及び/又は、PCR法により破骨細胞関連遺伝子(RANK、c-Fos、NFATc1、OSCAR等)の発現量を測定することにより評価することができる。
【0067】
骨粗鬆症の予防又は治療効果は、マウスに対して、一定期間、本発明のポリリン酸エステル化合物を一定量投与し、マウス骨切片について、例えば、骨量、骨密度、骨梁数及び骨梁間隔等の骨パラメータを測定することで評価することができる。骨パラメータは、例えば、骨切片のCT像を画像解析することで数値化され得る。ここで、本明細書において、「骨量」とは骨基質と骨塩の量を、「骨密度」とは単位面積あたりの骨量を、「骨梁数」とは海綿骨内部に見られる網目構造を持つ骨質の数を、「骨梁間隔」とは網目構造を持つ骨質の間隔を意味する。当業者にとって明らかなように、骨粗鬆症の予防又は治療効果は、ヒトに対して通常行われるような検査、例えば、二重エネルギーX線吸収法(DXA)、MD法、超音波法、レントゲン法によって評価することもできる。
【0068】
医薬組成物
本発明のポリリン酸エステル化合物を有効成分とする医薬(上記骨粗鬆症の予防又は治療剤を含む)は、その使用目的に合わせて投与方法、剤型、投与量を適宜決定することが可能である。例えば、本発明の化合物を有効成分とする医薬の投与形態は、経口投与でも非経口投与でも良い。剤型としては、例えば錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤、または注射剤、点滴剤、点鼻剤、点眼剤、もしくは坐剤等の非経口投与剤を挙げることができる。これらの製剤は、本発明のポリリン酸エステル化合物と薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物として製造することができる。
【0069】
本発明のポリリン酸エステル化合物を有効成分とする医薬又は医薬組成物の有効量は、通常、成人一日当たり経口投与の場合、0.1mg~1000mg程度、非経口投与の場合0.01~200mg程度が適当であり、これを一日に一回乃至複数回投与する。投与量は種々の条件で変動するので、上記投与量範囲より少ない量で充分な場合もある。
【0070】
ポリリン酸エステル化合物の製造方法
本発明のポリリン酸エステル化合物は、その製造方法について特に制限されず、例えば、アニオン開環重合等の開環重合により製造することができる。
【0071】
開環重合で用いられるモノマーとしては、例えば、一般式(3):
【0072】
【化8】
[式中、R
1及びR
2は前記に同じである。]
で表される環状リン酸エステル化合物等が挙げられる。当該モノマーの具体例としては、特に制限されず、2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン、2-エトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン、2-ブチノキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン等が挙げられる。一般式(3)で表される環状リン酸エステル化合物は、対応するハロゲン化物をエステル交換反応により変換することで得られ得る。
【0073】
開環重合において、開始剤として、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)等のエストロゲンを用いることによって、得られるポリリン酸エステル化合物にエストロゲンを担持させることができる。この方法以外にも、上記モノマーを重合して得られるポリマーに対して、化学的にエストロゲンを付加することによって、本発明のエストロゲンが担持されたポリリン酸エステル化合物を得ることもできる。重合後にエストロゲンを付加する場合には、上記開始剤として、メタノール、エタノール、プロパノール等の脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、サリチルアルコール等の芳香族アルコールを採用してもよい。
【0074】
開環重合に用いられる重合触媒としては、環状ホスホランモノマーを重合する際に用いられる公知の金属触媒又は有機触媒が挙げられる。重合触媒としては、その中でも、重合後の分子量分布、触媒の分離し易さの観点から、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エン(TBD)等の有機触媒が好ましい。
【0075】
開環重合に用いられる停止剤としては、ギ酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0076】
開環重合は、水系及び非水系のいずれでも行われ得るが、その中でも、非水系で行われることが好ましい。非水系溶媒としては、上記試薬(モノマー、開始剤、触媒等)を溶解し得る溶媒であれば特に制限されず、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0077】
当業者にとって明らかなように、モノマーとして、R1が有機基である上記環状リン酸エステル化合物を用いた場合には、重合後のポリマーに上記構成単位Tを含有させることができる。また、モノマーとして、R1が水素原子又はアルカリ金属イオンである上記環状リン酸エステル化合物を用いた場合には、重合後のポリマーに上記構成単位Dを含有させることができる。さらに、R1の種類に応じて選択される公知の化学反応によって、重合後のポリマーに含まれる構成単位Tを構成単位Dに変換してもよく、又は構成単位Dを構成単位Tに変換してもよい。
【0078】
変換の一例として、R1がメチル基である構成単位Tを含むポリリン酸エステル化合物に対して、トリメチルアミン(TMA)を作用させることにより当該メチル基を4級化し、さらにこれを陽イオン交換樹脂に通すことによって、R1を水素原子に変換する方法が挙げることができる。その他の一例として、R1が水素原子である構成単位Dを含むポリリン酸エステル化合物に対して、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩を含む水溶液を作用させ、必要に応じてその後純水で透析することによって、R1をナトリウムイオンに変換する方法が挙げることができる。
【0079】
このように、本製造方法を採用することによって、ポリリン酸エステル化合物の主鎖、側鎖及び/又は末端に種々の官能基を導入することができる。
【0080】
開環重合の反応時間は、重合反応が完了する限りにおいて特に制限されない。その中でも、30分~24時間が好ましく、1時間~12時間がより好ましい。
【0081】
開環重合の反応時間は、重合反応が進行する限りにおいて特に制限されない。その中でも、副反応回避の観点からは、-80℃~60℃が好ましく、-40℃~40℃がより好ましく、-20℃~20℃がさらに好ましい。
【0082】
開環重合は、副反応回避の観点からは、非酸化性雰囲気下、例えば、Ar、N2等の不活性ガス雰囲気下等で行うことが好ましく、また、酸素濃度が十分に低い減圧下で行うことが好ましい。
【0083】
開環重合において、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の開環重合で用いられる添加剤を適宜使用することができる。
【0084】
開環重合後は、必要に応じて、通常の単離及び精製工程を経て、本発明のポリリン酸エステル化合物を高純度且つ高収率で得ることができる。精製工程としては、例えば、再沈殿法、カラムクロマトグラフィー法等が挙げられる。
【実施例0085】
以下、参考例及び実施例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
明細書の記載を簡略化するために、以下に示すような略号を用いることもある。試薬又は溶媒において、略号:意味としては、DBU:1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン、DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、TMA:トリメチルアミン、DMSO:ジメチルスルホキシド、M-CSF:マクロファージコロニー刺激因子、TRAP:酒石酸耐性酸性フォスファターゼ、PBS:リン酸緩衝生理食塩水溶液である。
【0087】
化学式を示す際、便宜上、ポリマー末端に存在する置換基の記載を省略することもあるが、見かけ上ポリマー末端に存在する置換基に限定されるものではない。
【0088】
(NMR測定)
各化合物の1HNMRスペクトルは、JEOL JNM-ECZ400を用いて記録した。化学シフトは、残留溶媒シグナルに対する相対値δ(ppm)で報告した。溶媒としてD2Oを使用した1Hスペクトルは、25℃で記録した。
【0089】
(GPC測定)
得られた各化合物の分子量及び分散度(Mw/Mn)は、ゲルクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。測定条件等を以下に示す。
送液ポンプ:PU-2080
移動相流速:0.75mL/分
カラム:PLgel 5μm MIXED-C(ポリマーラボラトリーズ社製)、Shodex SB803+SB806M(昭和電工株式会社製)又はGS-320/GS-520(ジーエルサイエンス株式会社製)
検出器:RI-2031(日本分光株式会社製)
展開溶媒:クロロホルム(CHCl3)、酢酸緩衝液(pH=7.0)
【0090】
[合成例1:2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(MP)]
【0091】
【0092】
1000mL容量の四つ口フラスコにメタノール(9.38g,0.29mol)、2,6-ルチジン(33mL,0.29mol)及びトルエン500mLを加えた。撹拌機で四つ口フラスコ内の溶液を撹拌(400rpm)しながら、氷浴中で、滴下漏斗を使用して2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(COP;41.2g,0.29mol)100mLを30分かけて滴下した後、氷浴中で1時間撹拌した。ダイアフラムポンプとガラス漏斗(17G4)を用いて、四つ口フラスコ中の反応液を減圧濾過した後、当該濾液をロータリーエバポレーターN-1000(EYELA;90hPa,40℃)により濃縮した。最後に、その濃縮物を減圧蒸留して精製した。なお、減圧蒸留は0.4kPaの圧力下、オイルバスの温度を135℃にして実施した。なお、このとき、内部に挿通した水銀温度計は100℃を示していた。得られた2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(MP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Aに示す。MPのピークが確認されたことから、MPの合成が確認された(収率:83.2%)。
【0093】
[合成例2:2-(3-ブチニロキシ)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(BYP)]
【0094】
【0095】
1000mL容量の四つ口フラスコに2-ブチン-1-オール(14.2mL,0.20mol)、2,6-ルチジン(23mL,0.20mol)及びトルエン400mLを加えた。撹拌機で四つ口フラスコ内の溶液を撹拌(400rpm)しながら、氷浴中で、滴下漏斗を使用してCOP(28.0g,0.20mol)100mLを1時間かけて滴下した後、氷浴中で2時間撹拌した。ダイアフラムポンプとガラス漏斗(17G4)を用いて、四つ口フラスコ中の反応液を減圧濾過した後、当該濾液をロータリーエバポレーター(90hPa,40℃)により濃縮した。最後に、その濃縮物を減圧蒸留して精製した。なお、減圧蒸留は0.4kPaの圧力下、オイルバスの温度を165℃にして実施した。なお、このとき、内部に挿通した水銀温度計は140℃を示していた。得られた2-(3-ブチニロキシ)-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン(BYP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Bに示す。BYPのピークが確認されたことから、BYPの合成が確認された(収率:24.5%)。
【0096】
[参考例1:ポリ(2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(PMP)]
【0097】
【0098】
撹拌子を入れた50mLナスフラスコに三方コックを取り付け、一方のコックをアルゴンガスに、他方のコックをダイアフラムポンプに繋ぎ、減圧下でアルコールランプを用いてナスフラスコを加熱し、アルゴンガスを供給することで脱気した(3回)。次に、10mLプラスチックシリンジを用いてナスフラスコにMP(8.21g,59.5mmol)を加え、30分間減圧した。その後、50μLマイクロシリンジを用いてベンジルアルコール(88.9μL,0.86mmol)をナスフラスコに添加した。これを氷浴に移し、100μLマイクロシリンジを用いてDBU(128μL,0.86mmol)を添加した。氷浴中で10分間撹拌した後、マイクロピペットを用いて酢酸(49.2μL,0.86mmol)を添加し,反応を停止させた。反応混合物を再沈殿(貧溶媒:ジエチルエーテル,良溶媒:メタノール)によって精製した後、デシケータを用いて減圧乾燥した。得られたポリ(2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(PMP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Cに示す。PMPのピークが確認されたことから、PMPの合成が確認された。
【0099】
[実施例1:エストロン-ポリ(2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(E1-PMP)]
【0100】
【0101】
ベンジルアルコール(88.9μL,0.86mmol)をDMF4.5mLに溶解したエストロン(E
1;0.23g,0.86mmol)に代えたこと、及び、再沈殿の際の良溶媒としてDMFを用いたこと以外は、参考例1と同様の操作を行った。得られたエストロン-ポリ(2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(E
1-PMP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Dに示す。E
1-PMPのピークが確認されたことから、E
1-PMPの合成が確認された。
【0102】
[実施例2:エストラジオール-ポリ(2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(E2-PMP)]
【0103】
【0104】
エストロン(E
1)をエストラジオール(E
2;0.31g,0.86mmol)に代えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたエストラジオール-ポリ(2-メトキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(E
2-PMP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Eに示す。E
2-PMPのピークが確認されたことから、E
2-PMPの合成が確認された。
【0105】
【0106】
[参考例2:ポリエチレンホスフェートナトリウム塩(PEP・Na)]
【0107】
【0108】
100mLナスフラスコ内でPMP(5.99g,0.043unit mol)を超純水20mLに溶解し、そこに30%TMA水溶液17.00g(TMA:5.10g,0.086mol)を混合し、室温で一晩撹拌した。混合物に、純水で洗浄したIonexchangerAmberlite(登録商標)50gを添加し、1時間撹拌した。その後、ガラス漏斗(17G4)を用いて吸引濾過し、陽イオン交換樹脂IonexchangerAmberliteを除去した。IonexchangerAmberlite50gを用いて同じ操作を再度繰り返し、IonexchangerAmberlite10gを用いて同じ操作を再度繰り返した。1MNaOH水溶液及び0.1MNaOH水溶液を適宜用いて、得られた溶液のpHを7に調整し、2日間純水で透析した(MWCO:1000)。透析後に得られた溶液をフィルター濾過により濾過し、凍結乾燥後の試料を測定又は試験に用いるまで保存した。得られたポリエチレンホスフェートナトリウム塩(PEP・Na)の
1H-NMRスペクトルを
図1Fに示す。PEP・Naのピークが確認されたことから、PEP・Naの合成が確認された。
【0109】
[実施例3:エストロン-ポリエチレンホスフェートナトリウム塩(E1-PEP・Na)]
【0110】
【0111】
PMPをE
1-PMP(5.99g,0.043unit mol)に代えたこと以外は、参考例2と同様の操作を行った。得られたエストロン-ポリエチレンホスフェートナトリウム塩(E
1-PEP・Na)の
1H-NMRスペクトルを
図1Gに示す。E
1-PEP・Naのピークが確認されたことから、E
1-PEP・Naの合成が確認された。PEP・Naと組み合わせることによって、本来は難水溶性化合物であるエストロンを水に溶解することができた。
【0112】
[実施例4:エストラジオール-ポリエチレンホスフェートナトリウム塩(E2-PEP・Na)]
【0113】
【0114】
PMPをE
2-PMP(6.01g,0.043unit mol)に代えたこと以外は、参考例2と同様の操作を行った。得られたエストラジオール-ポリエチレンホスフェートナトリウム塩(E
2-PEP・Na)の
1H-NMRスペクトルを
図1Hに示す。E
2-PEP・Naのピークが確認されたことから、E
2-PEP・Naの合成が確認された。PEP・Naと組み合わせることによって、本来は難水溶性化合物であるエストラジオールを水に溶解することができた。
【0115】
【0116】
[参考例3:P(MP-co-BYP)]
【0117】
【0118】
MPを、MP(7.45g,54.0mmol)及びBYP(1.06g,6.0mmol)の混合物に代えたこと以外は、参考例1と同様の操作を行った。得られたリン酸ジエステル-リン酸トリエステル共重合体(P(MP-co-BYP))の
1H-NMRスペクトルを
図1Iに示す。P(MP-co-BYP)のピークが確認されたことから、P(MP-co-BYP)の合成が確認された。
【0119】
[実施例5:E1-P(MP-co-BYP)]
【0120】
【0121】
MPを、MP(7.42g,53.7mmol)及びBYP(1.03g,5.9mmol)の混合物に代えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたE
1-P(MP-co-BYP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Jに示す。E
1-P(MP-co-BYP)のピークが確認されたことから、E
1-P(MP-co-BYP)の合成が確認された。
【0122】
[実施例6:E2-P(MP-co-BYP)]
【0123】
【0124】
MPを、MP(7.41g,53.7mmol)及びBYP(1.05g,6.0mmol)の混合物に代えたこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。得られたE
2-P(MP-co-BYP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Kに示す。E
2-P(MP-co-BYP)のピークが確認されたことから、E
2-P(MP-co-BYP)の合成が確認された。
【0125】
【0126】
[参考例4:P(EP・Na-co-BYP)]
【0127】
【0128】
参考例3で得られたP(MP-co-BYP)に対して、参考例2~4と同様の操作を行った。得られたP(EP・Na-co-BYP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Lに示す。P(EP・Na-co-BYP)のピークが確認されたことから、P(EP・Na-co-BYP)の合成が確認された。
【0129】
[実施例7:E1-P(EP・Na-co-BYP)]
【0130】
【0131】
実施例5で得られたE
1-P(MP-co-BYP)に対して、参考例2~4と同様の操作を行った。得られたE
1-P(EP・Na-co-BYP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Mに示す。E
1-P(EP・Na-co-BYP)のピークが確認されたことから、E
1-P(EP・Na-co-BYP)の合成が確認された。
【0132】
[実施例8:E2-P(EP・Na-co-BYP)]
【0133】
【0134】
実施例6で得られたE
2-P(MP-co-BYP)に対して、参考例2~4と同様の操作を行った。得られたE
2-P(EP・Na-co-BYP)の
1H-NMRスペクトルを
図1Mに示す。E
2-P(EP・Na-co-BYP)のピークが確認されたことから、E
2-P(EP・Na-co-BYP)の合成が確認された。
【0135】
【0136】
[参考例5:P(EP・Na-co-BYP)の蛍光修飾]
【0137】
【0138】
5mL褐色スクリュー管瓶内でP(EP・Na-co-BYP)300mgを超純水/DMSO(4/1,v/v)1248μLに溶解した。そこにL(+)-アスコルビン酸ナトリウム水溶液(2.6M,32.1μL)、硫酸銅(II)水溶液(1.6M,5.01μL)、及び、Cy5-azide又はAzide-fluor488溶液(10mg/mL,124.8μL)添加し,室温暗所で15時間撹拌した。その後、5日間純水で透析した(MWCO:1000)。透析後に得られた溶液をフィルター濾過により濾過し、凍結乾燥後の試料を測定又は試験に用いるまで保存した。
【0139】
[実施例9:E1-P(EP・Na-co-BYP)の蛍光修飾]
【0140】
【0141】
P(EP・Na-co-BYP)をE1-P(EP・Na-co-BYP)に代えたこと以外は、参考例5と同様の操作を行った。
【0142】
[実施例10:E2-P(EP・Na-co-BYP)の蛍光修飾]
【0143】
【0144】
P(EP・Na-co-BYP)をE2-P(EP・Na-co-BYP)に代えたこと以外は、参考例5と同様の操作を行った。
【0145】
合成した各種PEP・Na-Cy5およびPEP・Na-fluor 488の蛍光スペクトルを
図2(a)及び(b)に示す。蛍光修飾した各種PEP・Naにピークがみられたことから、各種PEP・Naに蛍光物質を修飾できたことが確認された。また、それぞれの蛍光強度を比較して、大きな差はなかった。
【0146】
(骨芽細胞分化の評価)
図3に示すスキームに従って、骨芽細胞分化への影響を評価した。96ウェルマイクロプレートにおいて、マウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞株MC3T3E1細胞を4×10
4cells/mLで播種し、10%FBS含有αMEM培地を用いて2日間培養した。培養は、37℃で、加湿された5%CO
2雰囲気下で行った。その後、L-アスコルビン酸(50μg/mL)及びβ-グリセロリン酸(10mM)を含有する分化誘導培地を用いて28日間培養した。その際、終濃度が0mg/mL(PBSのみ)、0.005mg/mL、0.05mg/mL又は0.5mg/mLとなるように、参考例2(PEP・Na)、実施例3(E
1-PEP・Na)又は実施例4(E
2-PEP・Na)を培地に添加した。28日後、アリザリンレッドS染色法によって骨芽細胞分化を評価した。染色後の明視野観察像である
図3(a)から明らかなように、エストロゲンを含有する実施例2及び3を用いた場合に石灰化が促進されている。また、染色後のアリザリンレッドSを石灰化結節溶解液で溶解し、溶解後の溶液の波長415nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーを用いて測定した。その結果を
図3(b)に示す。
【0147】
(破骨細胞分化の評価)
図4Aに示すスキームに従って、破骨細胞分化への影響を評価した。C57BL/6Nマウスの骨髄から単球を単離した。96ウェルマイクロプレートにおいて、単離した単球を1×10
4cells/mLで播種し、M-CSF(10ng/mL)及びプロスタグランジンE
2(0.1μM)を含有する培地を用いて3日間培養した。その後、M-CSF(10ng/mL)、プロスタグランジンE
2(0.1μM)及びRANKL(10ng/mL)を含有する分化誘導培地を用いて4日間培養した。その際、終濃度が0mg/mL(PBSのみ)、0.005mg/mL、0.05mg/mL又は0.5mg/mLとなるように、参考例2(PEP・Na)、実施例3(E
1-PEP・Na)又は実施例4(E
2-PEP・Na)を培地に添加した。4日後、アクチン染色法、核染色法、TRAP染色法によって破骨細胞分化を評価した。染色後の蛍光観察像及び明視野観察像をそれぞれ
図4B及び
図4Cに示す。これらの観察像において、アクチンリングを形成している3つ以上の核を有し、且つTRAP陽性である細胞を破骨細胞とみなした。各培養条件下で培養した後の破骨細胞数を
図4Dに示す。エストロゲンを有しない参考例2を用いた場合には破骨細胞数が変化しなかった一方で、エストロゲンを有する実施例3及び4を用いた場合には破骨細胞分化が優位に抑制された。特に、エストラジオール(E
2)を含有する実施例4を用いた場合、より有効に破骨細胞分化が抑制された。
【0148】
(骨集積性(骨親和性)の評価)
図5Aに示すスキームに従って、本発明の骨集積性(骨親和性)を評価した。以降の動物実験では、動物福祉の観点から、ポリリン酸エステル化合物に担持させるエストロゲンとしてエストラジオール(E
2)を用いた。
【0149】
卵巣摘出によってエストロゲンの分泌を欠損させたICRマウス(OVXマウス;8週齢,n=1)を使用した。OVXマウスを作製して1日後、参考例8(fluor488によって蛍光標識されたP(EP・Na-co-BYP))又は実施例10(fluor488によって蛍光標識されたE
2-P(EP・Na-co-BYP))のPBS溶液(10mg/mL)をマウスの尾静脈に1回投与した。対照群にはfluor488のDMSO溶液(1mg/mL)を1回投与した。各マウスに対して、2週間後(10週齢時点)及び4週間後(12週齢時点)にも同じ用量を各1回投与した。投与した各溶液は同程度の発光を示した。2週間後(14週齢時点)、各マウスを屠殺し、心臓、肺、腎臓、肝臓、脾臓、膵臓及び大腿骨背部を採取し、これらのIVIS像を得た(
図5A)。励起/吸光フィルターとして494nm/517nm(Ex/Em)を採用した。IVIS像から明らかなように、実施例10のポリリン酸エステル化合物は、参考例8よりも高い骨親和性を示した。骨切片の蛍光観察像(
図5B)からも明らかなように、本発明のポリリン酸エステル化合物は、高い骨親和性を有することにより、マウス内に投与された後、積極的に骨に吸着する。
【0150】
(骨溶解抑制効果の評価)
本発明の骨溶解抑制効果を評価した。OVXマウス(8週齢,n=4)に対して、参考例2(PEP・Na)又は実施例4(E
2-PEP・Na)のPBS溶液(10mg/mL)を尾静脈に1回投与した。対照群として、卵巣摘出擬似手術(sham)群及びPBS投与群(OVX)を用意した。各マウスに対して、2週間後(10週齢時点)及び4週間後(12週齢時点)にも同じ用量を各1回投与した。2週間後(14週齢時点)、各マウスを屠殺し、大腿骨を採取し、大腿骨遠位部のCT像を取得し(
図6上部)、これを用いて骨パラメータ(骨量、骨密度、骨梁数及び骨梁間隔)を評価した(
図6下部)。その結果、特にPBS投与群(OVX)において顕著であるように、卵巣摘出手術によって、骨量(a)、骨密度(b)及び骨梁数(c)が低下し、骨梁間隔(d)が増大した。すなわち、卵巣摘出手術によって、骨溶解現象が確認された。これに対し、参考例2を投与した群(PEP・Na)では微量に骨溶解が抑制され、実施例4を投与した群(E
2-PEP・Na)では、骨溶解が顕著に抑制され、いずれのパラメータにおいても手術直後の数値と同程度の数値を示した。以上から、本発明のポリリン酸エステル化合物は、有望な骨粗鬆症の予防又は治療剤を提供することが可能である。