(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004816
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】電池保護用成形体および電池の保護方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250108BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20250108BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20250108BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20250108BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20250108BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20250108BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20250108BHJP
H01M 50/227 20210101ALI20250108BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20250108BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20250108BHJP
H01M 50/233 20210101ALI20250108BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20250108BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20250108BHJP
H01M 50/202 20210101ALI20250108BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L67/02
C08L57/00
C08K5/16
C08L27/18
C08L33/12
C08K5/3492
H01M50/227
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/233
H01M10/658
H01M50/204 401F
H01M50/202 401F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104657
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】江波 翔太
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
5H011
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB032
4J002BB052
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC032
4J002BC072
4J002BD122
4J002BD152
4J002BG042
4J002BG052
4J002CB001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF161
4J002CG001
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4J002DH037
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4J002EP016
4J002ER006
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4J002EU136
4J002EU186
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4J002FD206
4J002GG01
4J002GQ00
5H011AA13
5H011CC02
5H011KK00
5H011KK02
5H011KK04
5H031KK02
5H040AA37
5H040NN00
(57)【要約】
【課題】
本発明は、電池の熱暴走を抑制し、安全化を図るため、優れた圧縮クリープ性を有し、高温時に厚み方向に膨張することにより熱の伝搬を抑制できる電池保護用成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】
熱可塑性樹脂組成物からなる電池保護用成形体であって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ガラス転移点または融点のいずれか高い方が150℃以上300℃以下の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、膨張剤(B)0.01重量部以上30重量部以下を配合してなる電池保護用成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物からなる電池保護用成形体であって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ガラス転移点または融点のいずれか高い方が150℃以上300℃以下の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、膨張剤(B)0.01重量部以上30重量部以下を配合してなる電池保護用成形体。
【請求項2】
380℃の高温環境下で5分加熱処理した時の厚み方向の膨張率が1.3以上である請求項1に記載の電池保護用成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、前記膨張剤(B)がエチレン、フルオロエチレン、スチレン、およびアクリルから選ばれる少なくとも1つの単量体に由来する構成単位を含む重合体からなる溶融張力付与剤(B1)である請求項1または2に記載の電池保護用成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、前記膨張剤(B)が脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環化合物、シアン化合物、脂肪族アミド化合物、芳香族アミド化合物、尿素およびチオ尿素から選択される少なくともいずれかである窒素系発泡剤(B2)である請求項1または2に記載の電池保護用成形体。
【請求項5】
前記膨張剤(B)がポリテトラフルオロエチレンまたはその共重合体である請求項1または2に記載の電池保護用成形体。
【請求項6】
前記膨張剤(B)がポリメタクリル酸メチルまたはその共重合体である請求項1または2に記載の電池保護用成形体。
【請求項7】
前記膨張剤(B)がメラミンシアヌレートである請求項1または2に記載の電池保護用成形体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物が前記熱可塑性樹脂(A)100重量部に対してさらに熱安定剤(C)0.01~1重量部を配合してなる請求項1または2に記載の電池保護用成形体。
【請求項9】
請求項1または2に記載の電池保護用成形体を電池の周囲に配置し、200℃以上400℃以下の高温環境下において成形体の厚みが1.3~10倍に膨張することで熱の伝搬を抑制する、電池の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池保護用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される各種電池は、内部短絡等が原因により電池が熱暴走し、発火や発煙等の不具合を生じることがある。近年、自動車用電池や家庭用蓄電池などでは高性能化に伴いより複数のバッテリーを高密度に搭載させ、高容量化や高出力化させる傾向にあり、それに伴い電池への負荷が高まり、電池の熱暴走の危険性が高まっており、安全対策の重要性が増している。
【0003】
電池の熱暴走に対する安全対策の具体例として、所定の温度で発泡する発泡層を有する絶縁層が、電池の異常発熱時に厚みを増大することにより、接触している接続板が切り離され、該電池と外部機器との間で流れる電流を遮断するように設けられる電流遮断機(特許文献1)や、電池用の包装材料において樹脂と特定の吸熱剤を含有させ、吸熱剤樹脂組成物全体の吸熱量を所定値以上とし、吸熱することで熱暴走を抑制し、また、熱暴走が起こっても容器の表面温度が上昇しにくい包装材料(特許文献2)、異常が生じた電池から発生した熱による隣接した電池の劣化を抑制するために、樹脂の母材にフィラーを含有する樹脂材料により構成され、吸熱量に基づいてフィラーの含有率の下限を規定した樹脂材料からなる電池ホルダーを備えた電池モジュール(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-197260号公報
【特許文献2】特開2020-158159号公報
【特許文献3】国際公開第2017/125985号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された発明にて提案されている電流遮断機では、遮断温度が100℃程度と低く、また圧縮クリープ性も低いため、高出力化した電池の安全対策としては信頼性が不足していた。
【0006】
また特許文献2に開示される発明にて提案されている包装材料は、電池の運搬用の部材であり、製品に直接組み込む保護部品としては、圧縮クリープ性が低く、熱伝搬防止性も不十分であるという課題があった。
【0007】
また特許文献3に開示された発明にて提案されている電池ホルダーでは、配合するフィラーにより樹脂材料の熱伝導率が上がってしまうため、熱伝搬防止性が不十分であり、また熱硬化樹脂を母材とし成形時に硬化処理が必要なため生産性が低いという課題があった。
【0008】
本発明は、電池の熱暴走を抑制するため、優れた圧縮クリープ性を有し、さらに高温時に膨張することで優れた熱伝搬防止性を発現する電池保護用成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、特定の熱可塑性樹脂に特定の膨張剤を配合した成形体を電池保護部品とし、特定の温度環境でその成形体の厚みを増加させることによって、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1]熱可塑性樹脂組成物からなる電池保護用成形体であって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ガラス転移点または融点のいずれか高い方が150℃以上300℃以下の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、膨張剤(B)0.01重量部以上30重量部以下を配合してなる電池保護用成形体。
[2]380℃の高温環境下で5分加熱処理した時の厚み方向の膨張率が1.3以上である[1]に記載の電池保護用成形体。
[3]前記熱可塑性樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、前記膨張剤(B)がエチレン、フルオロエチレン、スチレン、およびアクリルから選ばれる少なくとも1つの単量体に由来する構成単位を含む重合体からなる溶融張力付与剤(B1)である[1]または[2]に記載の電池保護用成形体。
[4]前記熱可塑性樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、前記膨張剤(B)が脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環化合物、シアン化合物、脂肪族アミド化合物、芳香族アミド化合物、尿素およびチオ尿素から選択される少なくともいずれかである窒素系発泡剤(B2)である[1]~[3]のいずれかに記載の電池保護用成形体。
[5]前記膨張剤(B)がポリテトラフルオロエチレンまたはその共重合体である[1]~[3]のいずれかに記載の電池保護用成形体。
[6]前記膨張剤(B)がポリメタクリル酸メチルまたはその共重合体である[1]~[3]のいずれかに記載の電池保護用成形体。
[7]前記膨張剤(B)がメラミンシアヌレートである[1]、[2]、または[4]のいずれかに記載の電池保護用成形体。
[8]前記熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)100重量部に対してさらに熱安定剤(C)0.01~1重量部を配合してなる[1]~[7]のいずれかに記載の電池保護用成形体。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の電池保護用成形体を電池の周囲に配置し、200℃以上400℃以下の高温環境下において成形体の厚みが1.3~10倍に膨張することで熱の伝搬を抑制する、電池の保護方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた圧縮クリープ性を有し、高温時に厚み方向に膨張することにより熱の伝搬を抑制できる電池保護用成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電池保護用成形体について詳細に説明する。以下説明する電池保護用成形体は、複数の電池を集積して使用する際に、各電池の周囲に配置することで、電池の熱暴走時に隣接する電池へ熱の伝搬を抑制し、安全化を図る技術に関する。
【0012】
電池の熱暴走のメカニズムは、電池内の温度が上昇するにしたがって、電解液と電極の反応や、セパレータのメルトダウンが起き、さらに負荷がかかり続け、200℃以上まで高まると正極の熱分解が起き、200~400℃の範囲で温度が急上昇し、最終的に電池容器のアルミ部材の融解温度(600℃付近)に達して発火に至る現象であり、さらに隣接する電池へ熱が伝搬することで、連鎖的に熱暴走が伝搬する機構が考えられている。
【0013】
そこで、200℃付近まで安定に電池を保持しつつも、200~400℃の特定の温度帯において膨張する特定の熱可塑性樹脂組成物からなる電池保護用成形体を電池周囲に配置することで、電池の熱暴走時に電池間の空間を確保することができ、熱の伝搬を抑制し、電池の安全化を図れることが分かった。
【0014】
本発明の電池保護用成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物に関して、詳細に説明する。
【0015】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、ガラス転移点または融点のいずれか高い方が150℃以上300℃以下の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、膨張剤(B)0.01重量部以上30重量部以下を配合してなる熱可塑性樹脂組成物である。
【0016】
本発明に用いるガラス転移点または融点のいずれか高い方が150℃以上の熱可塑性樹脂(A)(以下、「熱可塑性樹脂(A)」または「(A)成分」ということがある)は、ガラス転移点または融点以上で可塑化し、溶融が可能な非晶性熱可塑性樹脂または結晶性熱可塑性樹脂のいずれでもよい。(A)成分のガラス転移点または融点は、150℃以上であれば、成形体の圧縮クリープ性が優れ、高温環境でも電池を保護できる。180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。前記熱可塑性樹脂(A)のガラス転移点または融点は、成形安定性の点から300℃以下であり、250℃以下がより好ましい。ガラス転移点または融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した値であり、ガラス転移点はベースラインシフトの中間点であり、融点は吸熱ピークの頂点である。
【0017】
前記非晶性熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂などが挙げられる。
【0018】
前記結晶性熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などが挙げられる。
【0019】
本発明に用いる(A)成分は耐久性に優れる点で、結晶性熱可塑性樹脂であることが好ましく、中でも成形安定性と膨張性に優れる点でポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0020】
本発明に用いる膨張剤(B)(以下、「(B)成分」ということがある)は、溶融張力付与剤(B1)または窒素系発泡剤(B2)が挙げられ、これらを2種配合してもよい。(A)成分に(B)成分を配合させることで、200℃以上400℃以下の高温環境下において、発泡により成形体の厚みを増加させることができる。
【0021】
溶融張力付与剤(B1)(以下、「(B1)成分」ということがある)は、エチレン、フルオロエチレン、スチレン、およびアクリルから選ばれる少なくとも1つの単量体に由来する構成単位を含む重合体であり、エチレン、フルオロエチレン、スチレン、およびアクリルから選ばれる少なくとも1つの単量体を単独で重合した重合体でもよいし、複数の単量体を同時又は多段的に共重合した共重合体でもよく、これらを2種以上配合してもよい。(B1)成分を(A)成分に配合することで溶融張力を高めることができ、溶融張力により高温環境下で成形体を厚み方向に膨張させることができる。溶融張力を高める観点で、(A)成分より粘度の高い重合体であることが好ましい。
【0022】
(B1)成分の具体例として、ポリエチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン/ブテン共重合体、ポリエチレン/オクテン共重合体、ポリメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体、ポリメタクリル酸メチル/スチレン共重合体、ポリスチレン/フルオロエチレン共重合体、ポリスチレン/アクリロニトリル/フルオロエチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル/フルオロエチレン共重合体、ポリメタクリル酸ブチル/フルオロエチレン共重合体などが挙げられる。中でも、高温環境下で特に強い溶融張力を発生させることができるポリメタクリル酸メチルやその共重合体、ポリテトラフルオロエチレンやその共重合体であることが好ましい。ポリメタクリル酸メチルやその共重合体の市販品としては、(株)カネカ製「KANEACE(登録商標)PA-40」などが挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンやその共重合体の市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル(株)製「テフロン(登録商標)6J」、三菱化学(株)製「メタブレン(登録商標)A3800」などが挙げられる。
【0023】
窒素系発泡剤(B2)(以下、「(B2)成分」ということがある)は、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環化合物、シアン化合物、脂肪族アミド化合物、芳香族アミド化合物、尿素およびチオ尿素から選択される少なくともいずれかであり、これらを2種以上配合してもよい。(B2)成分を(A)成分に配合することで、高温環境下で分解し、窒素などを含むガスを発生させることで、成形体を厚み方向に膨張させることができる。
【0024】
前記の脂肪族アミン化合物としては、エチルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロオクタンなどを挙げることができる。
【0025】
前記の芳香族アミン化合物としては、アニリン、フェニレンジアミンなどを挙げることができる。
【0026】
前記の含窒素複素環化合物としては、尿酸、アデニン、グアニン、2,6-ジアミノプリン、2,4,6-トリアミノピリジン、トリアジン化合物などを挙げることができる。
【0027】
前記のシアン化合物としては、ジシアンジアミドなどを挙げることができる。
【0028】
前記の脂肪族アミド化合物や芳香族アミド化合物としては、N,N-ジメチルアセトアミドやN,N-ジフェニルアセトアミドなどを挙げることができる。
【0029】
前記の含窒素複素環化合物において例示したトリアジン化合物は、トリアジン骨格を有する化合物である。例えば、トリアジン、メラミン、ベンゾグアナミン、メチルグアナミン、シアヌール酸、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレート、トリメチルトリアジン、トリフェニルトリアジン、アメリン、アメリド、チオシアヌール酸、ジアミノメルカプトトリアジン、ジアミノメチルトリアジン、ジアミノフェニルトリアジン、ジアミノイソプロポキシトリアジンおよびポリリン酸メラミンなどを挙げることができ、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレート、ポリリン酸メラミンが好ましく用いられる。
【0030】
前記のメラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートとしては、シアヌール酸またはイソシアヌール酸とトリアジン化合物との付加物が好ましく、通常は1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の組成を有する付加物を挙げることができる。これらは公知の方法で製造されるが、例えば、メラミンとシアヌール酸またはイソシアヌール酸の混合物を水スラリーとし、よく混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥することにより、一般には粉末状で得られる。また、上記の塩は完全に純粋である必要は無く、多少未反応のメラミン、シアヌール酸、またはイソシアヌール酸が残存していてもよい。また、分散性が悪い場合には、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤やポリビニルアルコールおよびシリカなどの金属酸化物などの公知の表面処理剤などを併用してもよい。また、メラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートの樹脂に配合される前後の平均粒径は、いずれも、成形品の難燃性、機械強度、表面平滑性の点から0.1~100μmが好ましい。ここで、平均粒径はレーザーミクロンサイザー法による累積分布50%粒子径で測定される平均粒径である。メラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートの市販品としては、日産化学(株)製MC-4000、MC-4500およびMC-6000などが好ましく用いられる。
【0031】
(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、膨張性の点から0.01重量部以上30重量部以下である。(B)成分の配合量の下限としては、膨張性の点から、(B1)成分を使用する場合は、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましい。一方で(B2)成分を使用する場合は、1重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましい。(B)成分の配合量の上限としては、成形性の点で、(B1)成分を使用する場合は、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、1重量部以下が特に好ましい。一方で(B2)成分を使用する場合は、15重量部以下が好ましく、13重量部以下がより好ましく、10重量部以下が特に好ましい。また、(B1)成分と(B2)成分を併用することで、高温環境下での発泡を安定化し、より膨張させることができるため、併用することが好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂組成物は、さらに熱安定剤(C)(以下、(C)成分ということがある)を配合することで、高温環境下での(A)成分の分解を抑制でき、膨張性を高めることができる。
【0033】
本発明における(C)成分としては、(A)成分の高温環境下での熱分解時に生成するラジカルを捕捉するために、フェノール基やリン原子、硫黄原子を含む化合物であり、その具体例としては、ヒンダードフェノール化合物、ホスファイト化合物、次亜リン酸塩化合物、チオエーテル化合物が挙げられ、それらを2種以上配合することができる。より膨張性に優れる点で、ホスファイト化合物、次亜リン酸塩化合物が好ましく、次亜リン酸塩化合物の中でも次亜リン酸ナトリウム塩が特に好ましい。
【0034】
(C)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下が好ましい。(C)成分の配合量の下限としては、膨張性の点で、0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上が特に好ましい。(C)成分の配合量の上限としては、耐久性の点で、0.5重量部以下がより好ましく、0.3重量部以下が特に好ましい。
【0035】
本発明における熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、顔料、染料および帯電防止剤などの任意の添加剤を配合することができる。
【0036】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、例えば、前記(A)成分および(B)成分、ならびに(C)成分および必要に応じてその他の成分を溶融混練することにより、得ることができる。
【0037】
溶融混練の方法としては、例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分、および各種添加剤などを予備混合して、押出機などに供給して十分溶融混練する方法、あるいは、重量フィーダーなどの定量フィーダーを用いて各成分を所定量押出機などに供給して十分溶融混練する方法などが挙げられる。
【0038】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、繊維状強化材などの無機充填材は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0039】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット化の方法として、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いて、ストランド状に吐出され、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0040】
本発明の電池保護用成形体は、熱可塑性樹脂組成物を溶融成形することにより得ることができ、溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0041】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0042】
本発明の電池保護用成形体は、電池に接して配置するように設計された成形体であり、成形体の厚みは0.1mm以上3mm以下が好ましく、角柱形状、円柱形状、円筒形状など任意の形状でよい。なお、本発明における厚みとは、成形体の寸法において、電池に接触する面に対して垂直成分の寸法である。
【0043】
本発明の電池保護用成形体は、高温環境下での厚み方向の膨張率は1.3以上であることが好ましく、電池の安全性を高める点で、1.5以上がより好ましく、1.8以上がさらに好ましく、2.0以上が特に好ましい。膨張率の上限は10である。なお高温環境下としては電池の熱暴走が引き起こされる200℃以上から400℃以下の環境であり、この温度環境下において膨張することで熱の伝搬を効率的に抑制することができる。本発明における膨張率は、380℃の温度で加熱処理する前後での厚みの比(加熱処理後の厚み/加熱処理前の厚み)から求める。
【0044】
本発明の電池保護用成形体の膨張率を上記の値とするための方法としては、そのような成形体を得られる限り限定はされないが、たとえば(A)成分100重量部に対して(B)成分を0.1重量部以上30重量以下配合した熱可塑性樹脂組成物を成形することで得ることができる。
【0045】
本発明の電池保護用成形体の用途として、車載用電池や定置用の円筒形電池、パウチ型電池などの電池を保護する電池用部材に好適に用いられる。中でも、より高密度で高出力が求められる車載用電池の電池用部材により好適に用いられる。電池用部材の具体例としては電池用保持部材、電池用絶縁キャップ、電池用ケース、電池用端子ホルダー、タブリードなどが挙げられる。
【0046】
本発明の電池保護用成形体を、電池の周囲に配置し、200℃以上400℃以下の高温環境下において成形体の厚みが1.3~10倍に膨張することで熱の伝搬を抑制することができ、係る方法により熱暴走から電池を保護することができる。
【実施例0047】
次に、実施例により本発明の電池保護用成形体について具体的に説明する。ただし、本発明はここに挙げた例に限定して解釈されるものではない。ここで%および部とは、それぞれ、重量%および重量部を表す。
【0048】
[各特性の測定方法]
各実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0049】
1.膨張性
試料の樹脂組成物を、日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機と0.8mmtフィルムゲートおよび幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtキャビティからなる金型を用いて、成形温度を280℃、金型温度80℃の温度条件、50mm/sの射出速度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtの成形体を成形した。高温環境として、380℃に設定したアズワン社製高温熱プレス機H400の下部プレス盤上に50μm厚みのアルミシートを敷き、その上に成形体を置き、5分間加熱処理した。5分後に取り出し、室温まで下がったのちに、マイクロメーターで厚みを測定し、加熱処理の前後での厚みの比(加熱処理後の厚み/加熱処理前の厚み)を膨張率として算出した。膨張率は1.3以上で膨張性に優れていると判断し、1.5以上でより優れ、1.8以上でさらに優れ、2.0以上で特に優れると判断した。
【0050】
また、日本アビオニクス社製サーモグラフィ(G100EX)を用い、加熱処理時の成形体の表面温度を測定した熱の伝搬の指標として、前記加熱処理5分後の表面温度を評価した(熱伝搬防止性)。表面温度は、280℃以下だと熱伝搬防止性に優れると判断し、260℃以下がより優れていると判断し、240℃以下が特に優れていると判断した。
【0051】
2.圧縮クリープ性
試料の樹脂組成物を、上記1項と同一の条件で成形し、幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtの成形体を得た。得られた成形体を(株)島津製作所製恒温槽TCR-1内で75℃の温度に調整した環境下に静置し、(株)島津製作所製万能試験機オートグラフAG-50kNXを用い、直径10mmの円柱圧縮治具を押し当て、ストローク速度1mm/分で圧縮ストローク0.4mmまで圧縮し、初期応力F1(N)を求め、さらにその状態を維持し、20分後の後期応力F2(N)を求めた。初期応力F1に対する後期応力F2の百分率(F2/F1×100(%))として圧縮応力保持率を算出した。圧縮応力保持率が50%以上だと、圧縮クリープ性に優れると判断し、60%以上だとより優れ、70%以上だと特に優れると判断した。
【0052】
3.成形安定性
試料の樹脂組成物を、上記1項と同一の条件で成形し、幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtの成形体を50ショット成形した。その際に、充填が不十分となるショートショットの発生数を求めた。ショートショットの発生数が少ないほど、成形安定性に優れると判断した。
【0053】
実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。
熱可塑性樹脂(A)
(A-1)ポリプロピレン樹脂、融点160℃、(株)プライムポリマー製J105G、MFR9.0g/10min(測定条件:230℃、2.16kg荷重)
(A-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂:融点225℃、IV値0.86、末端カルボキシ基量21eq/t
(A-3)ポリカーボネート樹脂、ガラス転移点150℃、“レキサン”101、GEPlastics製、4-α-クミルフェノキシ基で末端が封鎖されたものを用いた。
熱可塑性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(A’)
(A’-1)ポリエチレン樹脂(HDPE)、融点130℃、(株)プライムポリマー製、2200J、MFR5.2g/min(測定条件:230℃、2.16kg荷重)
膨張剤(B):溶融張力付与剤(B1)
(B1-1)ポリテトラフルオロエチレン、三井・デュポンフロロケミカル(株)製、“テフロン”(登録商標)6J
(B1-2)ポリメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体、カネカ(株)製、“KANEACE”(登録商標)PA-40
膨張剤(B):窒素系発泡剤(B2)
(B2-1)メラミンシアヌレート、日産化学(株)製、MC-4000
膨張剤(B)以外の化合物(B’)
(B’-1)水酸化マグネシウム、富士フイルム和光純薬(株)製
熱安定剤(C)
(C-1)ヒンダードフェノール化合物、ペンタエリスリチルーテトラキス[3ー(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]:BASF社製Irganox(商標)1010
(C-2)ホスファイト化合物、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:(株)ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)PEP36
(C-3)次亜リン酸ナトリウム、東京化成工業(株)製。
【0054】
[実施例1~13、比較例1~6]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、(A)成分、(B)成分、(C)成分およびその他添加剤を表1に示した組成で混合した後、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、ガラス繊維は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0055】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1にその結果を示した。
【0056】
【0057】
【0058】
実施例1~9と比較例1~5の比較より、ガラス転移点または融点のいずれか高い方が150℃以上の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、膨張剤(B)0.01重量部以上30重量部以下を配合してなる熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、圧縮クリープ特性に優れ、さらに膨張率が1.3以上となり、熱伝搬防止性に優れるため、電池保護用成形体として好適であることが分かった。
【0059】
実施例10と実施例2、6の比較より、溶融張力付与剤(B1)と窒素系発泡剤(B2)を併用することで、より膨張性に優れ、熱伝搬防止性に優れることが分かった。
【0060】
実施例11~13と実施例10の比較より、さらに熱安定剤(C)を特定量配合した熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、より成形安定性および膨張性に優れ、さらに熱伝搬防止性に優れることが分かった。
【0061】
実施例2、6と比較例6の比較より、水酸化マグネシウムのような吸熱材を使用した場合、成形安定性が低下し、さらに熱可塑性樹脂の分解が促進されるため、高温環境下では膨張性が低下し、熱伝搬防止性が得られないことが分かった。