(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004823
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】作業支援方法および作業支援システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20250108BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
H01L21/02 Z
G05B23/02 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104668
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 進二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光和
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA13
3C223BA03
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH15
(57)【要約】
【課題】作業対象となる部位への操作の可否を作業者が容易に認識することができる作業支援方法および作業支援システムを提供する。
【解決手段】基板処理装置の装置状態に関する情報を収集し、その状態情報に基づいて装置内の部位に対する操作が可能であるか否かを判定する。当該部位に対して操作を行うと危険である場合には、当該部位に対する操作は不可であると判定する。スマートグラスの表示部は、それら判定された部位のうち作業者が見えている部位(視認可能部位)に対して判定結果に基づく着色表示を行う。その一方、作業者が見ることのできない部位については着色表示を行わない。作業者は、見ることができない部位についての状況に関わらず、作業対象となる部位への操作の可否を容易かつ明快に認識することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援方法であって、
前記産業機器の装置状態に関する状態情報を収集する情報取得工程と、
前記状態情報に基づいて、前記産業機器の視認可能部位に対する操作が可能であるか否かを判定する判定工程と、
表示部および通信部を備えた携帯端末が前記判定工程での判定結果に基づいて前記視認可能部位に対して注釈表示を行う表示工程と、
を備える作業支援方法。
【請求項2】
請求項1記載の作業支援方法において、
前記表示工程では、前記判定工程にて操作不可であると判定された前記視認可能部位に前記携帯端末が第1の表示色にて着色表示を行う作業支援方法。
【請求項3】
請求項2記載の作業支援方法において、
前記表示工程では、前記判定工程にて操作可能であると判定された前記視認可能部位に前記携帯端末が第2の表示色にて着色表示を行う作業支援方法。
【請求項4】
請求項3記載の作業支援方法において、
前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置であり、
前記基板処理装置が備える処理チャンバーには内カバーおよび外カバーが設けられ、
前記表示工程では、前記処理チャンバーの内部が危険状態である場合に、前記内カバーおよび前記外カバーが閉じられているときには前記外カバーに前記第2の表示色にて着色表示を行うとともに、前記外カバーが開放されたときには前記内カバーに前記第1の表示色にて着色表示を行う作業支援方法。
【請求項5】
請求項4記載の作業支援方法において、
前記基板処理装置は、前記処理チャンバー内にて処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である作業支援方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の作業支援方法において、
前記携帯端末は、スマートグラスである作業支援方法。
【請求項7】
産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援システムであって、
表示部および通信部を備えた携帯端末と、
前記産業機器の装置状態に関する状態情報に基づいて、前記産業機器の視認可能部位に対する操作が可能であるか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記表示部は、前記判定部による判定結果に基づいて前記視認可能部位に対して注釈表示を行う作業支援システム。
【請求項8】
請求項7記載の作業支援システムにおいて、
前記表示部は、前記判定部によって操作不可であると判定された前記視認可能部位に第1の表示色にて着色表示を行う作業支援システム。
【請求項9】
請求項8記載の作業支援システムにおいて、
前記表示部は、前記判定部によって操作可能であると判定された前記視認可能部位に第2の表示色にて着色表示を行う作業支援システム。
【請求項10】
請求項9記載の作業支援システムにおいて、
前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置であり、
前記基板処理装置が備える処理チャンバーには内カバーおよび外カバーが設けられ、
前記表示部は、前記処理チャンバーの内部が危険状態である場合に、前記内カバーおよび前記外カバーが閉じられているときには前記外カバーに前記第2の表示色にて着色表示を行うとともに、前記外カバーが開放されたときには前記内カバーに前記第1の表示色にて着色表示を行う作業支援システム。
【請求項11】
請求項10記載の作業支援システムにおいて、
前記基板処理装置は、前記処理チャンバー内にて処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である作業支援システム。
【請求項12】
請求項7から請求項11のいずれかに記載の作業支援システムにおいて、
前記携帯端末は、スマートグラスである作業支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に所定の処理を行う基板処理装置等の産業機器に対してメンテナンス作業等の所定の作業を行うときの作業支援方法および作業支援システムに関する。基板処理装置によって処理対象となる基板には、例えば、半導体基板、液晶表示装置用基板、flat panel display(FPD)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、または、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体デバイスの製造工程では、半導体基板等の基板に対して種々の処理を行う基板処理装置が用いられている。基板処理装置としては、例えば基板洗浄装置、熱処理装置、検査装置等が使用されている。典型的には、広いクリーンルームに多数の基板処理装置が整然と配置されることが多い。それらの基板処理装置に対しては適宜のタイミングでメンテナンスが行われる。特許文献1には、クリーンルーム内に比較的高い密度で多数の基板処理装置を並べるとともに、基板処理装置のメンテナンスを行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板処理装置のメンテナンスを行う際には、作業者がチャンバーのカバーを開けたり、配管に施工を行うことがある。ところが、チャンバーの内部は危険な状態となっていることがある。例えば、チャンバー内が窒素ガスによってパージされているときには、チャンバー内は酸素がほとんど存在しない危険な状態である。また、フッ酸等の薬液を使用した直後は、チャンバー内に薬液の蒸気が充満している、或いは薬液の液滴が付着している恐れがある。さらには、チャンバーに取り回されている配管内の残圧が高圧となっていることもある。
【0005】
このようにチャンバーの内部が危険な状態であるときに、作業者がカバーを開けると事故に繋がる恐れがある。よって、チャンバーの内部が危険な状態であるときにはカバーを開けてはならないが、上記のような危険状態は人間の目には見えないため、作業者がカバーを開けても良いか否かの判断を行うことは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、作業対象となる部位への操作の可否を作業者が容易に認識することができる作業支援方法および作業支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明の第1の態様は、産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援方法において、前記産業機器の装置状態に関する状態情報を収集する情報取得工程と、前記状態情報に基づいて、前記産業機器の視認可能部位に対する操作が可能であるか否かを判定する判定工程と、表示部および通信部を備えた携帯端末が前記判定工程での判定結果に基づいて前記視認可能部位に対して注釈表示を行う表示工程と、を備える。
【0008】
また、第2の態様は、第1の態様に係る作業支援方法において、前記表示工程では、前記判定工程にて操作不可であると判定された前記視認可能部位に前記携帯端末が第1の表示色にて着色表示を行う。
【0009】
また、第3の態様は、第2の態様に係る作業支援方法において、前記表示工程では、前記判定工程にて操作可能であると判定された前記視認可能部位に前記携帯端末が第2の表示色にて着色表示を行う。
【0010】
また、第4の態様は、第3の態様に係る作業支援方法において、前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置であり、前記基板処理装置が備える処理チャンバーには内カバーおよび外カバーが設けられ、前記表示工程では、前記処理チャンバーの内部が危険状態である場合に、前記内カバーおよび前記外カバーが閉じられているときには前記外カバーに前記第2の表示色にて着色表示を行うとともに、前記外カバーが開放されたときには前記内カバーに前記第1の表示色にて着色表示を行う。
【0011】
また、第5の態様は、第4の態様に係る作業支援方法において、前記基板処理装置は、前記処理チャンバー内にて処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である。
【0012】
また、第6の態様は、第1から第5のいずれかの態様に係る作業支援方法において、前記携帯端末は、スマートグラスである。
【0013】
また、第7の態様は、産業機器に対して所定の作業を行うときの作業支援システムにおいて、表示部および通信部を備えた携帯端末と、前記産業機器の装置状態に関する状態情報に基づいて、前記産業機器の視認可能部位に対する操作が可能であるか否かを判定する判定部と、を備え、前記表示部は、前記判定部による判定結果に基づいて前記視認可能部位に対して注釈表示を行う。
【0014】
また、第8の態様は、第7の態様に係る作業支援システムにおいて、前記表示部は、前記判定部によって操作不可であると判定された前記視認可能部位に第1の表示色にて着色表示を行う。
【0015】
また、第9の態様は、第8の態様に係る作業支援システムにおいて、前記表示部は、前記判定部によって操作可能であると判定された前記視認可能部位に第2の表示色にて着色表示を行う。
【0016】
また、第10の態様は、第9の態様に係る作業支援システムにおいて、前記産業機器は、基板に所定の処理を行う基板処理装置であり、前記基板処理装置が備える処理チャンバーには内カバーおよび外カバーが設けられ、前記表示部は、前記処理チャンバーの内部が危険状態である場合に、前記内カバーおよび前記外カバーが閉じられているときには前記外カバーに前記第2の表示色にて着色表示を行うとともに、前記外カバーが開放されたときには前記内カバーに前記第1の表示色にて着色表示を行う。
【0017】
また、第11の態様は、第10の態様に係る作業支援システムにおいて、前記基板処理装置は、前記処理チャンバー内にて処理ガスおよび処理液を使用する基板洗浄装置である。
【0018】
また、第12の態様は、第7から第11のいずれかの態様に係る作業支援システムにおいて、前記携帯端末は、スマートグラスである。
【発明の効果】
【0019】
第1から第6の態様に係る作業支援方法によれば、収集した状態情報に基づいて産業機器の視認可能部位に対する操作が可能であるか否かを判定し、その判定結果に基づいて視認可能部位に対して注釈表示を行うため、作業者は、見ることができない部位についての状況に関わらず、作業対象となる部位への操作の可否を容易に認識することができる。
【0020】
第7から第12の態様に係る作業支援システムによれば、収集した状態情報に基づいて産業機器の視認可能部位に対する操作が可能であるか否かを判定し、その判定結果に基づいて視認可能部位に対して注釈表示を行うため、作業者は、見ることができない部位についての状況に関わらず、作業対象となる部位への操作の可否を容易に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る作業支援システムの概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】複数の基板処理装置のレイアウトの一例を示す平面図である。
【
図6】スマートグラス、サーバ、作業支援端末および基板処理装置の制御部の機能的構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明に係る作業支援方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】基準位置と基板処理装置の部位との相対位置関係を模式的に示す図である。
【
図10】外カバーに対する着色表示の一例を示す図である。
【
図11】外カバーが開いたときの内カバーに対する着色表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下において、相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば、「一方向に」、「一方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」、「同軸」、など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。また、等しい状態であることを示す表現(例えば、「同一」、「等しい」、「均質」、など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。また、形状を示す表現(例えば、「円形状」、「四角形状」、「円筒形状」、など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲の形状を表すものとし、例えば凹凸または面取りなどを有していてもよい。また、構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、「有する」、といった各表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。また、「A、BおよびCのうちの少なくとも一つ」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「A、BおよびCのうち任意の2つ」、「A、BおよびCの全て」が含まれる。
【0023】
図1は、本発明に係る作業支援システムの概略構成を模式的に示す図である。本発明に係る作業支援システムは、複数の基板処理装置50と、スマートグラス10と、サーバ70と、作業支援端末80と、を備える。スマートグラス10および基板処理装置50のコントローラは無線通信にて情報通信網5(例えば、インターネット)に接続されている。また、作業支援端末80およびサーバ70は有線にて情報通信網5に接続されている。情報通信網5に接続された機器間では相互に情報の送受信が可能であり、例えばスマートグラス10と作業支援端末80との間で情報の授受を行うことができる。なお、各機器と情報通信網5とを無線で接続するか有線で接続するかは上記の例に限定されるものではなく、適宜の形態とすることができる(例えば、作業支援端末80と情報通信網5とを無線で接続しても良い)。
【0024】
図2は、複数の基板処理装置50のレイアウトの一例を示す平面図である。
図2に示すように、クリーンルーム40内に複数の基板処理装置50が一定間隔で規則正しく並んで配置されている。クリーンルーム40は、例えば半導体デバイスの製造工場内に設けられ、一定の空気清浄度が確保されるとともに温度および湿度が管理された部屋である。本実施形態においては、比較的広いクリーンルーム40内に、同種かつ同じ形式の複数の基板処理装置50が配置されている。従って、クリーンルーム40内にて配置されている基板処理装置50を作業者が外観のみから区別することは困難である。
【0025】
図3は、1つの基板処理装置50の構成を示す図である。本実施形態では、基板処理装置50は、例えば基板を1枚ずつ洗浄する枚葉式の基板洗浄装置である。基板処理装置50は、インデクサ51と複数の処理ユニット52とを有する。インデクサ51には、複数の基板を収容したキャリアCが載置される。インデクサ51は、載置されたキャリアCから図示省略のインデクサロボットによって未処理の基板を取り出す。また、インデクサ51は、当該インデクサロボットによって処理済みの基板をキャリアCに収納する。キャリアCは、例えば、基板を密閉空間に収納するFOUP(front opening unified pod)である。
【0026】
本実施形態では、例えば3個の処理ユニット52が積層されて1つの積層体を構成する。図示省略の主搬送ロボットの周囲に例えば4つの積層体が配置される。すなわち、1つの基板処理装置50は、例えば12個(=3×4)の処理ユニット52を含む。
【0027】
4つの積層体の中心に配置された主搬送ロボットは、上記のインデクサロボットから渡された未処理の基板を12個の処理ユニット52のいずれかに搬入する。また、主搬送ロボットは、処理ユニット52から処理済みの基板を搬出してインデクサロボットに渡す。
【0028】
また、基板処理装置50は、制御部55を備える。制御部55は、一般的なコンピュータであり、装置内に設けられた上記のインデクサロボット、主搬送ロボットおよび各処理ユニット52の動作を制御する。制御部55は、装置の壁面に設けられた入出力インターフェイスであるタッチパネルおよび装置外部と通信を行う通信部を有する。
【0029】
図4は、1つの処理ユニット52の概略構成を示す図である。処理ユニット52は、1枚の基板Wに対して処理液を吐出して洗浄処理を行う。処理液とは、各種の薬液および純水を含む概念の用語である。薬液としては、例えば、エッチング処理を行うための液、または、パーティクルを除去するための液などが含まれ、具体的には、SC-1液(水酸化アンモニウムと過酸化水素水と純水との混合溶液)、SC-2液(塩酸と過酸化水素水と純水との混合溶液)、または、フッ酸などが用いられる。
【0030】
処理ユニット52は、処理チャンバー60と、回転保持部61と、処理液ノズル65と、を備える。処理チャンバー60は、中空の筐体である。処理チャンバー60の内側に、回転保持部61および処理液ノズル65等が設けられる。また、処理チャンバー60には図示省略の搬出入口が設けられている。その搬出入口はシャッターによって開閉される。搬出入口が開放されている状態にて、主搬送ロボットによる処理チャンバー60に対する基板Wの搬入および搬出が行われる。基板Wの処理中は搬出入口は閉鎖される。
【0031】
回転保持部61は、スピンチャック62およびスピンモータ63を備える。スピンチャック62は、基板Wを水平姿勢(基板Wの主面の法線が鉛直方向に沿う姿勢)にて保持する基板保持部である。スピンチャック62は、例えば真空吸着式のチャックである。スピンチャック62は、基板Wの直径よりも小さな径の円板形状を有する。スピンチャック62は、基板Wの下面の中央部を吸着保持する。基板Wの下面がスピンチャック62に吸着保持された状態では、基板Wの周縁部が、スピンチャック62の外周端よりも外側にはみ出ている。なお、スピンチャック62は、挟持式のメカニカルチャックなどの他の形態のチャックであってもよい。
【0032】
スピンチャック62は、モータ軸を介してスピンモータ63と連結される。すなわち、スピンモータ63のモータ軸の上端がスピンチャック62の下面中央部に接続される。スピンチャック62に基板Wが吸着保持されている状態にてスピンモータ63がモータ軸を回転させると、鉛直方向に沿った回転軸まわりで水平面内にて基板Wおよびスピンチャック62が回転する。
【0033】
スピンチャック62の周囲を囲むようにカップ64が設けられる。カップ64は、図示省略の昇降機構によって昇降可能とされる。カップ64は円筒形状を有しており、カップ64の上部は上に向かうほどスピンチャック62に近付くように傾斜している。ただし、カップ64の上端部分の内径は基板Wの直径よりも大きい。基板Wの処理時には、カップ64の上端はスピンチャック62に保持された基板Wの高さ位置よりも高い。従って、スピンモータ63によって回転される基板Wから遠心力によって飛散した液体はカップ64によって受け止められて回収される。なお、カップ64は、回収口を目的別に複数設けた多段構造のものであっても良い。
【0034】
処理液ノズル65は、ノズル先端部66、スイングアーム67およびスイングモータ68を備える。処理液ノズル65は、例えば連続流の状態で処理液を吐出するストレートノズルである。ノズル先端部66は、ほぼ水平方向に延びるスイングアーム67の先端に取り付けられている。ノズル先端部66の下端には図示省略の吐出口が形成されており、その吐出口から処理液が吐出される。スイングアーム67はスイングモータ68によって、鉛直方向に沿った軸の周りにて水平面内で揺動される。スイングモータ68は、例えばパルスモータである。
【0035】
スイングモータ68がスイングアーム67を揺動させることにより、ノズル先端部66は回転保持部61に保持された基板Wの上方の処理位置とカップ64よりも外側の待機位置との間で円弧状の軌跡を描いて移動する。ノズル先端部66が処理位置に位置しているときに、処理液ノズル65が回転保持部61に保持された基板Wに薬液を吐出することによって、例えば基板Wの洗浄処理が進行する。また、処理液ノズル65が基板Wに純水を吐出することによって、基板Wの純水リンス処理が進行する。なお、ノズル先端部66の位置を検知するためのエンコーダをスイングモータ68に付設するようにしても良い。
【0036】
また、処理ユニット52は、給気部110、排気部120、排液部130および処理液供給部150を備える。給気部110は、処理チャンバー60の内部に処理ガスを供給する。給気部110は、窒素供給源111、給気バルブ112および配管113を含む。配管113の先端側は処理チャンバー60の天井部に設けられたFFU(ファン・フィルタ・ユニット)69に接続されるとともに、基端側は窒素供給源111に接続される。FFU69は、気流を生じさせるファンおよびその気流に混在しているパーティクルを捕集して除去するフィルタ(例えば、HEPAフィルタまたはULPAフィルタ)を備える。配管113の経路途中に給気バルブ112が設けられる。給気バルブ112が開放されると、窒素供給源111から配管113を経てFFU69に窒素ガス(N2)が送給され、FFU69から処理チャンバー60内に窒素ガスが供給される。FFU69は、処理チャンバー60内に上方から下方へと向かう気体のダウンフローを形成する。
【0037】
排気部120は、処理チャンバー60の内部から雰囲気を排出する。排気部120は、排気装置121、排気バルブ122および配管123を含む。配管123の先端側は処理チャンバー60に設けられた排気ダクト125に接続されるとともに、基端側は排気装置121に接続される。排気装置121は、例えば真空ポンプを含む。配管123の経路途中に排気バルブ122が設けられる。排気装置121を作動させつつ排気バルブ122を開放すると、処理チャンバー60内の気体が排気ダクト125から排出される。
【0038】
排液部130は、カップ64によって回収された使用済みの液体を処理チャンバー60の外部に排出する。排液部130は、排液処理装置131、排液バルブ132および配管133を含む。配管133の先端側はカップ64の底部に接続されるとともに、基端側は排液処理装置131に接続される。配管133の経路途中に排液バルブ132が設けられる。排液バルブ132が開放されていると、カップ64によって回収された液体が配管133を流れて排液処理装置131に排出される。
【0039】
処理液供給部150は、処理液ノズル65に処理液を送給する。処理液供給部150は、純水供給源151、純水バルブ152、薬液供給源153、薬液バルブ154、フィルタ158および配管155を含む。配管155の先端側は処理液ノズル65のノズル先端部66に接続されるとともに、基端側は二叉に分岐されてその一方が純水供給源151に接続され、他方が薬液供給源153に接続される。配管155から分岐された2本の分岐配管のうち純水供給源151に接続されている一方に純水バルブ152が設けられ、薬液供給源153に接続されている他方に薬液バルブ154が設けられる。また、配管155には、フィルタ158が設けられている。純水バルブ152が開放されると、処理液ノズル65から純水が吐出される。また、薬液バルブ154が開放されると、処理液ノズル65から薬液が吐出される。さらに、薬液バルブ154および純水バルブ152の双方を開放することにより、処理液ノズル65から純水によって希釈された薬液を吐出することもできる。フィルタ158は、配管155内を流れる処理液から不純物を除去する。フィルタ158および配管155は、処理チャンバー60に付設された流体ボックス内に纏められて収容されていても良い。
【0040】
また、処理ユニット52の処理チャンバー60には、内カバー92および外カバー95が設けられている。内カバー92は、例えばアクリル板等の透明な板状部材である。内カバー92は、処理チャンバー60の内部空間に面するように設けられている。一方、外カバー95は、例えばステンレススチール等の金属で形成された不透明な板状部材である。外カバー95は、内カバー92の外側に内カバー92を覆うように設けられている。
【0041】
内カバー92および外カバー95はともに開閉可能に設けられている。内カバー92および外カバー95の双方が閉じているときには、作業者は処理チャンバー60の内部を視認することはできない。外カバー95が開放されて内カバー92のみが閉じているときには、作業者は透明な内カバー92を通して処理チャンバー60の内部を目視で視認することができる。外カバー95および内カバー92の双方が開いているときには、処理チャンバー60の内側が開放され、作業者は処理チャンバー60内部のスピンチャック62や処理液ノズル65に対する作業を行うことができる。
【0042】
クリーンルーム40内に配置された複数の基板処理装置50に対して保守点検等の作業を行う作業者はスマートグラス10を装着する。スマートグラス10は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)方式のウェアラブル端末の一種である。スマートグラス10は、AR(Augmented Reality:拡張現実)またはMR(Mixed Reality:複合現実)を実現するためのデバイスでもある。スマートグラス10としては、例えば、マイクロソフト社製の「HoloLens」(登録商標)を用いることができる。
【0043】
図5は、スマートグラス10の外観を示す斜視図である。スマートグラス10は、バイザー11およびヘッドバンド12を備える。作業者はヘッドバンド12を頭に付けることによってスマートグラス10を装着する。作業者は、自らの頭の大きさに合わせてヘッドバンド12の長さを調整することが可能とされている。また、ヘッドバンド12には、電源ボタン、明るさボタンおよびボリュームボタン等が設けられている。
【0044】
バイザー11は、各種センサーとディスプレイとを含む。そのディスプレイは、シースルーホログラフィックレンズである。すなわち、ディスプレイはホログラムによって立体映像を作業者の視野空間に表示することが可能であるとともに、通常の眼鏡レンズと同じように現実の物体からの光を透過する。従って、スマートグラス10を装着した作業者は、ディスプレイを通して現実の物体を視認しつつ表示された立体映像を見ることも可能である。
【0045】
バイザー11のセンサーには、例えば主にバイザー11の前方を撮像する複数の可視光カメラ、作業者の視線を追跡する赤外線カメラ、対象物までの距離を測定する深度センサー、および、慣性測定センサー等が含まれる。赤外線カメラは、スマートグラス10の装着者の眼球の動きを測定して視線を追跡する。深度センサーは、例えば、ToF(Time of Flight)方式によって対象物までの距離を測定する。慣性測定センサーは、加速度計、ジャイロスコープ、磁力計等によって構成される。
【0046】
また、スマートグラス10には、CPUおよびメモリ等を備えたコンピュータが内蔵されている。スマートグラス10には、無線通信機構も設けられており、スマートグラス10のコンピュータはその無線通信機構を使用して情報通信網5に接続する。さらに、スマートグラス10には、マイクロフォン、スピーカーおよびバッテリー等も設けられている。
【0047】
図6は、スマートグラス10、サーバ70、作業支援端末80および基板処理装置50の制御部55の機能的構成を示すブロック図である。スマートグラス10は、撮像部21、通信部22、表示部23および記憶部24を備える。撮像部21は、上述したバイザー11に設けられた可視光カメラを含む。撮像部21は、例えば前方および斜め前方を撮像する4台の可視光カメラを含んでおり、スマートグラス10を装着した作業者の視野範囲を撮像することができる。
【0048】
通信部22は、上述したスマートグラス10の無線通信機構を含む。通信部22は、情報通信網5を介して作業支援端末80およびサーバ70とデータの送受信を行う。また、通信部22は、近距離であれば基板処理装置50の制御部55と直接にデータの送受信を行うことも可能である。すなわち、通信部22は、直接にまたは情報通信網5を介して基板処理装置50の制御部55にデータやコマンドを送信することができる。
【0049】
表示部23は、上述したバイザー11のディスプレイを含む。表示部23はホログラフィック処理装置を有しており、ホログラム技術によって所定の空間位置に立体映像を表示する。なお、表示部23が表示する立体映像は三次元形状のものに限定されず、ドキュメントのような二次元のものであっても良い。
【0050】
記憶部24は、スマートグラス10に搭載されたメモリおよびストレージを含む。スマートグラス10が備えるメモリおよびストレージは、例えばそれぞれDRAM(Dynamic Random Access Memory)およびUFS(Universal Flash Storage)である。記憶部24は、スマートグラス10のコンピュータが使用するアプリケーションやデータを格納する。
【0051】
また、スマートグラス10は、判定部31を備える。判定部31は、スマートグラス10のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。判定部31の処理内容についてはさらに後述する。
【0052】
基板処理装置50の制御部55は、処理液ノズル65等の処理ユニット52に設けられた各種機構の動作を制御する。基板処理装置50の制御部55は、スマートグラス10の通信部22と通信可能であり、スマートグラス10から送信された操作指示のコマンドに従って処理ユニット52に設けられた各種機構の動作を制御することも可能である。
【0053】
また、制御部55には、基板処理装置50に設けられた多数のセンサーからの検出信号が送信される。基板処理装置50の設けられるセンサーには、例えば薬液の濃度計や各バルブの開閉を検知するセンサーが含まれる。
【0054】
作業支援端末80およびサーバ70は、例えば基板処理装置50を製造してその保守点検を請け負うベンダーの工場内に設置されている。作業支援端末80およびサーバ70は、情報通信網5を介してスマートグラス10と通信可能とされている。また、作業支援端末80とサーバ70とは情報通信網5を介して相互に通信可能とされている。
【0055】
作業支援端末80およびサーバ70は、一般的なコンピュータシステムである。すなわち、作業支援端末80およびサーバ70は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM、制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく記憶部(例えば、磁気ディスクまたはSSD)および情報通信網5と通信を行う通信部を備えている。
【0056】
作業支援端末80は、例えばベンダー側の作業支援員がクリーンルーム40内の作業者の作業を支援するためのコンピュータである。作業支援員は、作業支援端末80からクリーンルーム40内の作業者が装着するスマートグラス10に種々の情報を送信することができる。
【0057】
サーバ70は、本発明に係る作業支援システムにおいて、スマートグラス10および作業支援端末80からのリクエストに応じて所定の処理を実行するコンピュータである。サーバ70は、比較的容量の大きな記憶部74を備えている。スマートグラス10および作業支援端末80によって作成された大きなサイズのデータは記憶部74に格納されても良い。なお、サーバ70は必須の要素ではない。
【0058】
次に、上述した構成を有する作業支援システムを用いた作業支援方法について説明する。
図7は、本発明に係る作業支援方法の手順を示すフローチャートである。
図7に示す工程のうちステップS11およびステップS12が事前の準備処理である。
【0059】
まず、基板処理装置50に含まれる部位の位置を登録する(ステップS11)。この処理は、スマートグラス10が備えるVPS(Visual Positioning System)機能を用いて行う。
【0060】
以降の説明において、スマートグラス10の表示部23によって表示された立体映像を用いて作業者が選択や入力等の操作を行うという記述をすることがある。これは、表示部23が表示した立体画像に対して作業者が手のジェスチャーによって選択や入力等の操作を行うと、撮像部21がその手のジェスチャーを撮像して検知し、スマートグラス10のコンピュータがその検知結果から所定の操作が行われたことを認識する意味である。或いは、表示部23が表示した立体画像に対して作業者が視線の動きによって選択や入力等の操作を行うと、スマートグラス10がアイトラッキング機能によってその視線を追跡して検知し、所定の操作が行われたことを認識するようにしても良い。
【0061】
事前の準備処理として、クリーンルーム40内の一部をスマートグラス10によってスキャンして空間メッシュとしておく。この処理は、例えばスマートグラス10を装着した作業者がクリーンルーム40内にてそのスマートグラス10を用いて行う。
【0062】
作業者は、予めスマートグラス10に設定されているスキャンモードをオンにする。作業者は、例えば表示部23によって立体映像として表示されたメニュー画面から手のジェスチャーによってスキャンモードを選択してオンにすることができる。手のジェスチャーは撮像部21によって撮像されて検知され、スマートグラス10のコンピュータはその検知結果からスキャンモードが選択されたことを認識する。或いは、作業者は、スマートグラス10に設けられた所定のボタンを押すことによってスキャンモードをオンにするようにしても良い。
【0063】
スキャンモードがオンになることによって、スマートグラス10はクリーンルーム40内の基板処理装置50を含む空間を深度センサーによってスキャンして空間メッシュを作成する。表示部23は、バイザー11を通して見えている作業者の視野空間にメッシュグラフィックを重ね合わせて表示する。
【0064】
図8は、空間メッシュの一例を示す図である。同図に示すように、スマートグラス10によって作成される空間メッシュは、多数の三角形メッシュによって表される。曲面や平面を含む種々の形状が多数の三角形の連結した集合によって表現される。凹凸を含む複雑な形状は高密度の三角形によって表され、逆に平坦な形状は比較的低い密度の三角形によって表される。
図8に示すように、スマートグラス10によって基板処理装置50を含む空間をスキャンして作成された空間メッシュが実際の基板処理装置50に重ね合わせて表示される。
【0065】
クリーンルーム40内に同種かつ同じ形式の(つまり、同じ外観の)複数の基板処理装置50が配置されている場合であっても、それら複数の基板処理装置50を含む空間をスキャンして空間メッシュを作成したときには、各基板処理装置50の周辺の微妙な相違(例えば、通路の状況の相違)に起因して作成される空間メッシュは異なるものとなる。従って、スマートグラス10は、クリーンルーム40内に配置された複数の基板処理装置50を空間メッシュの相違によって識別することができる。
【0066】
作業者は、スマートグラス10によって基板処理装置50を含む空間をスキャンして空間メッシュを作成した後に、その表示されている空間メッシュ上に仮想オブジェクトを設置する。仮想オブジェクトは、表示部23によって立体映像として表示される仮想のマーカーである。作業者は、例えば、
図8に示すような空間メッシュが表示されている画像内にて手のジェスチャーによって(例えば、手で摘んで)基板処理装置50の周辺の任意の位置に仮想オブジェクトを設置する。さらに、その後、作業者は表示部23によって立体映像として表示されたリモコン画面を用いて仮想オブジェクトの位置を微調整するようにしても良い。仮想オブジェクトの設置位置は、基板処理装置50と重なっていても良い。
【0067】
基板処理装置50の空間メッシュに対して仮想オブジェクトが設置されることにより、スマートグラス10はその仮想オブジェクトの位置を基板処理装置50に対する基準位置として設定する。また、空間メッシュ上に仮想オブジェクトが設置されることにより、スマートグラス10は空間メッシュの特徴部を用いて仮想オブジェクト自体の位置を認識する。空間メッシュの特徴部とは、例えば基板処理装置50の角部のようにスキャン時に特徴的なメッシュ形態となる部分である。
【0068】
次に、仮想オブジェクトを設置することによって設定された基準位置に基づいて基板処理装置50の部位の位置を算定して登録する。作業者は、例えば基板処理装置50のCAD図をバイザー11から見えている基板処理装置50の領域に重ね合わせる。このときには、3DCAD図を基板処理装置50に重ね合わせるのが好ましい。基板処理装置50のCAD図は予め装置設計段階で作成されており、そのデータは例えばサーバ70の記憶部74に格納されている。スマートグラス10は基板処理装置50のCAD図のデータをサーバ70から読み出し、表示部23がそのCAD図を表示する。作業者は、表示されたCAD図を手のジェスチャーによって移動させて基板処理装置50と重ね合わせる。このときにも、作業者は表示部23によって立体映像として表示されたリモコン画面を用いてCAD図の位置を微調整するようにしても良い。
【0069】
バイザー11から見えている基板処理装置50の領域にその基板処理装置50のCAD図が正確に重ね合わされることにより、スマートグラス10は、上記の基準位置(仮想オブジェクトの位置)と基板処理装置50に含まれる部位との相対位置関係を算定して登録する。
図9は、基準位置と基板処理装置50の部位との相対位置関係を模式的に示す図である。仮想オブジェクトSAが設置されることによって、その位置が基準位置RPとして登録されている。また、基板処理装置50に含まれる部位の位置はCADデータに含まれる座標情報から求めることができる。スマートグラス10は、基準位置RPの位置情報および基板処理装置50に重ね合わされたCAD図のデータの座標情報に基づいて、基準位置RPと基板処理装置50のいずれかの部位(例えば、基板処理装置50の角)との相対位置関係を算定して登録する。
【0070】
CAD図のデータには、基板処理装置50に備えられた処理ユニット52およびその処理ユニット52に設けられた部位(例えば、スピンチャック62および処理液ノズル65等)の座標情報も含まれる。従って、スマートグラス10は、基板処理装置50に搭載された複数の処理ユニット52のそれぞれと基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録する。さらにスマートグラス10は、各処理ユニット52に設けられた部位と基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録する。なお、処理液ノズル65のような駆動部位については、CAD図のデータに含まれている座標情報はホームポジションのものであるため、そのホームポジション(処理液ノズル65であれば上述した待機位置)に位置している駆動部位と基準位置RPとの相対位置関係が算定されることとなる。
【0071】
スマートグラス10は、算定した基準位置RPと基板処理装置50の部位との相対位置関係を例えば位置テーブルに書き込むことによって部位の位置登録を行うようにすれば良い。具体的には、スマートグラス10は、仮想オブジェクトの名称、それに対応付けられた基板処理装置50の装置部位、および、当該装置部位の相対位置情報等を相互に関連付けて位置テーブルに登録する。
【0072】
スマートグラス10は、基板処理装置50に含まれる部位の全てについて相対位置関係を算定して登録する必要はなく、必要な部位について相対位置関係を算定すれば良い。基板処理装置50に含まれる部位は、基板処理装置50全体の代表点、当該基板処理装置50に搭載された複数の処理ユニット52、および、各処理ユニット52に設けられた各種機構を含む。例えば、スマートグラス10は、基板処理装置50の処理液ノズル65のみの基準位置RPに対する相対位置関係を算定して登録しても良い。すなわち、スマートグラス10は、基板処理装置50に含まれる少なくとも一つの部位と基準位置RPとの相対位置関係を算定して登録すれば良い。
【0073】
次に、位置登録とは異なる事前の準備処理として、危険基準の設定を行っておく(ステップS12)。具体的には、危険であると判断する基準となる装置状態を設定しておく。例えば、それ以上であれば危険であると判断する処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度を設定しておく。或いは、危険であると判断する各バルブの開閉状態を設定しておく。この作業は、作業者がスマートグラス10を用いて行うようにしても良いし、作業支援員が作業支援端末80から行うようにしても良い。
【0074】
図7のステップS13以降は、作業者がいずれかの基板処理装置50に対してメンテナンスの作業を行うときの事後処理である。基板処理装置50に対しては、定期的にまたは不定期にメンテナンスが行われる。典型的には、不定期にメンテナンスが行われるのは、基板処理装置50に何らかの不具合が生じたときである。本実施形態においては、作業者がスマートグラス10を装着してメンテナンス作業を行う。
【0075】
まず、基板処理装置50の装置状態に関する状態情報を収集する(ステップS13)。具体的には、基板処理装置50には多数のセンサーが設けられており、制御部55が各センサーから状態情報を収集する。例えば、制御部55は、濃度計から処理チャンバー60内における酸素濃度や薬液の蒸気の濃度(例えば、フッ化水素の濃度)を取得する。また、制御部55は、それとは異なる濃度計から処理液ノズル65内に残留している処理液中の薬液濃度を取得する。さらには、制御部55は、各バルブの開閉に関する情報、例えば薬液バルブ154が開かれた後に純水バルブ152は閉じたままであるというような情報を取得する。制御部55が収集した状態情報は例えば制御部55が備える記憶部内に蓄積される。なお、制御部55は、センサーからの情報に加えて、動作履歴や作業履歴(作業ログ)から情報を収集するようにしても良い。
【0076】
次に、ステップS13で収集した状態情報に基づいてスマートグラス10の判定部31が基板処理装置50内の各部位についての危険判定を行う(ステップS14)。ステップS14での判定の対象となる対象部位には処理チャンバー60内のいずれかの空間も含まれる。判定部31は、状態情報に基づいて、基板処理装置50内の危険判定を行うとともに、各部位に対する操作が可能であるか否かを判定する。例えば、ステップS13で収集された処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度がステップS12で設定された基準値以上である場合には、判定部31は、処理チャンバー60の内部が危険状態であると認定するとともに、処理チャンバー60の内部空間に露出している内カバー92の開放は不可であると判定する。その一方、判定部31は、処理チャンバー60の内部空間に直接接していない外カバー95の開放は可能であると判定する。また、例えば、薬液バルブ154が開かれた後に純水バルブ152は閉じたままであるときにも、処理チャンバー60内にてカップ64の内面に薬液が付着したままとなっているため、判定部31は上記と同様の判定を行う。さらには、例えば、配管155内の残圧が基準値以上である場合には、判定部31は、配管155が危険状態であると認定するとともに、フィルタ158に対する操作は不可であると判定する。このような操作の可否の判定を実行するために、ステップS12では装置状態に基づいて各部位に対する操作が可能であるか否かの設定も行っておくのが好ましい。より具体的には、例えば装置状態と各部位に対する操作の可否を対応付けたテーブルを作成しておけば良い。
【0077】
次に、スマートグラス10を装着した作業者が例えばメンテナンス作業のために基板処理装置50に近付いたときに、ステップS14で操作が可能であるか否か判定された部位のうち作業者が見えている部位(視認可能部位)に対して表示部23が着色表示を行う(ステップS15)。例えば、内カバー92および外カバー95の双方が閉じているときには、作業者は外カバー95を見ることはできるが、内カバー92および処理チャンバー60の内部を見ることはできない。すなわち、外カバー95が視認可能部位となる。この場合、スマートグラス10の表示部23は、外カバー95に対して着色表示を行い、内カバー92および処理チャンバー60の内部の部位には着色表示を行わない。
【0078】
より詳細には、スマートグラス10は、ステップS11にて登録された部位の位置情報に基づいて、危険判定のなされた視認可能部位の位置を特定する。そして、スマートグラス10の表示部23は、特定された位置に対して着色表示を行えば良い。本実施形態では、表示部23は、例えば外カバー95の外表面に平面的(2次元的)に色付けを行えば良い。
【0079】
また、表示部23は、操作不可であると判定された部位には第1の表示色にて着色表示を行う。例えば、外カバー95が開放不可であるときには、表示部23は外カバー95に第1の表示色(例えば、赤色)にて着色表示を行う。一方、表示部23は、操作可能であると判定された部位には第1の表示色とは異なる第2の表示色にて着色表示を行う。例えば、外カバー95が開放可能であるときには、表示部23は外カバー95に第2の表示色(例えば、青色)にて着色表示を行う。
【0080】
図10は、外カバー95に対する着色表示の一例を示す図である。上記の例では、処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度が基準値以上であり、処理チャンバー60の内部は危険状態であると認定されており、内カバー92の開放は不可であると判定される一方で外カバー95の開放は可能であると判定されている。この場合、スマートグラス10の表示部23は、外カバー95に対して第2の表示色(青色)にて着色表示を行う。
【0081】
このように、作業者が見えている部位に対して着色表示を行うことにより、作業者は当該部位に対する操作の可否を容易に認識することができる。上記の例では、作業者が視認可能な外カバー95に対して着色表示を行うことにより、作業者は外カバー95を開けることができるか否かを容易に認識することができる。
【0082】
その一方、作業者が直接見ることができない部位(例えば、内カバー92および処理チャンバー60の内部)について操作が可能であるか否かについては表示されない。上記の例であれば、内カバー92が開放不可であることについては表示されない。すなわち、外カバー95に対してのみ着色表示され、内カバー92については何も表示されない。このため、作業者は、見ることができない部位についての状況に関わらず、視認可能部位に対する操作の可否を明快に認識することができる。上記の例であれば、作業者は、内カバー92や処理チャンバー60の内部の状況に関わらず、とりあえず外カバー95については開放可能であることを明快に認識することができる。
【0083】
次に、視認可能部位に対する着色表示の結果を見た作業者がその視認可能部位に対する操作を実行することがある(ステップS16)。例えば、外カバー95に対して第2の表示色(青色)にて着色表示されているのを見た作業者が外カバー95を開けることがある。
【0084】
このような操作が実行されると、ステップS16からステップS17に進み、表示部23が表示を更新する。具体的には、操作が実行された結果として新たに作業者から見えることになった部位に対して表示部23が着色表示を行う。上記の例であれば、外カバー95が開いた結果として新たに作業者から見えることになった内カバー92および処理チャンバー60の内部に対して表示部23が着色表示を行う。
【0085】
図11は、外カバー95が開いたときの内カバー92に対する着色表示の一例を示す図である。上記の例では、処理チャンバー60内における薬液の蒸気の濃度が基準値以上であり、処理チャンバー60の内部は危険状態であると認定されており、内カバー92の開放は不可であると判定されている。従って、スマートグラス10の表示部23は、内カバー92および処理チャンバー60の内部に対して第1の表示色(赤色)にて着色表示を行う。
【0086】
作業者は、青色で表示されていた外カバー95を開けたところ、赤色で表示されている内カバー92を見ることになる。すなわち、作業者は、外カバー95を開けることによって、はじめて内カバー92の状態を確認することができる。作業者は、赤色で表示された内カバー92を見ることにより、内カバー92については開けることが不可であることを容易に認識することができる。その結果、内カバー92を開けることによって作業者が危険に曝されるのを未然に防止することができる。
【0087】
本実施形態においては、収集した状態情報に基づいて装置内の部位に対する操作が可能であるか否かを判定し、その判定された部位のうち作業者が見えている部位(視認可能部位)に対して判定結果に基づく着色表示を行っている。その一方、作業者が見ることのできない部位については表示を行っていない。このため、作業者は、見ることができない部位についての状況に関わらず、作業対象となる部位への操作の可否を容易かつ明快に認識することができる。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、作業者が見えている視認可能部位に着色表示を行っていたが、これに限定されるものではなく、作業者に操作の可否を示すアノテーション表示(注釈表示)を行うようにすれば良い。このようなアノテーション表示としては、例えばスマートグラス10の表示部23がメッセージ(例えば、「カバーオープン不可」)を表示するようにすれば良い。或いは、スマートグラス10のスピーカーから音声を発して作業者に告知するようにしても良い。
【0089】
また、上記実施形態においては、スマートグラス10に設けられた判定部31によって危険判定を行っていたが、これに限定されるものではなく、作業支援端末80またはサーバ70によって危険判定を行うようにしても良い。或いは、基板処理装置50の制御部55が当該基板処理装置50内の危険判定を行うようにしても良い。
【0090】
また、スマートグラス10の表示部23が例えば立体映像として表示したプルダウンによって「通常」または「メンテナンス」を選択できるようにしても良い。「通常」が選択されたときは、スマートグラス10は着色表示を行わない。必要性がないときにまでスマートグラス10が着色表示を行うことを防ぐことができる。一方、スマートグラス10は、「メンテナンス」が選択されたときには、上記実施形態のような着色表示を行うようにすれば良い。
【0091】
また、上記実施形態においては、作業者はスマートグラス10を使用していたが、これに限定されるものではなく、スマートグラス10に代えてタブレット端末やスマートフォン等の携帯端末を用いるようにしても良い。すなわち、表示部および通信部を備えた携帯端末であれば良い。もっとも、タブレット端末等を使用するとそれを持つ作業者の手が塞がることになるため、スマートグラス10等のウェアラブル端末を用いるのが好ましい。
【0092】
また、基板処理装置50は基板洗浄装置に限定されるものではなく、熱処理装置、露光装置、塗布現像装置、計測装置または検査装置等の基板に所定の処理を行う装置であれば良い。基板処理装置50が基板洗浄装置である場合には、基板を1枚ずつ洗浄する枚葉式の洗浄装置であっても良いし、複数の基板を一括して洗浄するバッチ式の洗浄装置であっても良い。もっとも、本発明に係る作業支援技術は、薬液を使用するために不可視の危険状態が生じやすい基板洗浄装置等の液処理装置に好適である。なお、上記実施形態では、処理チャンバー60内にダウンフローを形成して低酸素雰囲気とするために給気部110が供給する処理ガスとして窒素ガスを例示したが、基板Wの近傍を処理に関与する特定の雰囲気とするために遮断板や別のガスノズルから窒素ガスとは異なる処理ガスを供給するようにしても良い。そのような処理ガスとしては、例えば、酸素(O2)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)等が例示される。
【0093】
基板処理装置50が基板に紫外線を照射して有機物等を分解除去するUV照射装置である場合には、UVランプから紫外線が照射されているときには処理チャンバーの内部が危険な状態である。上記実施形態では、処理チャンバー内の危険状態の原因が薬液の雰囲気であったため、内カバー92の開放は不可であるものの、外カバー95の開放は可能であると判定されていた。UV照射装置においては、外カバーを開けただけでも、紫外線が透明な内カバーを透過して装置外に照射されて危険であるため、外カバーに開放も不可であると判定される。このため、スマートグラス10の表示部23は、外カバーに対しても第1の表示色(赤色)にて着色表示を行う。
【0094】
さらに、本発明に係る作業支援技術の対象となるのは、基板処理装置に限定されるものではなく、何らかの不可視の危険状態が生じ得る産業機器であれば良い。このような産業機器としては、例えば、印刷処理装置、成膜装置、医療用装置、および、外観検査装置等が例示される。
【符号の説明】
【0095】
5 情報通信網
10 スマートグラス
21 撮像部
22 通信部
23 表示部
24,74 記憶部
31 判定部
50 基板処理装置
52 処理ユニット
61 回転保持部
62 スピンチャック
65 処理液ノズル
66 ノズル先端部
70 サーバ
80 作業支援端末
92 内カバー
95 外カバー
110 給気部
120 排気部
130 排液部
150 処理液供給部
W 基板